説明

像ブレ補正装置および光学機器

【課題】撮影状態に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う像ブレ補正装置において、撮影状態の検出精度を向上させた像ブレ補正装置を提供する。
【解決手段】像ブレ補正装置は、角速度信号に基づいて第一の撮影状態および第二の撮影状態のいずれの撮影状態であるかを判定する撮影状態判定手段と、撮影状態判定手段の判定結果に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う制御手段とを有し、撮影状態判定手段は、角速度信号が第一の閾値を超え、かつ、第一の閾値を超えてから所定の時間内に第一の閾値と逆符号である第二の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が開始したと判定し、撮影状態が第一の撮影状態である際に、角速度信号が第一の閾値よりも小さい第三の閾値を超え、かつ、第三の閾値を超えてから所定の時間内に第三の閾値と逆符号であり第二の閾値よりも小さい第四の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が継続していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影状態に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う像ブレ補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の像ブレ補正装置は、撮像素子への入射光の光路中に光軸変位が可能なプリズムやレンズ部材を配置し、手ブレに応じて光軸変位を行うことで像ブレ補正を行う。このような像ブレ補正装置において、補正レンズによる光軸の補正可能角度は、ズーム位置がテレ側にある場合よりもワイド側にある場合に大きい。また、補正レンズによる補正量が等しい場合、テレ側よりもワイド側において補正レンズによる補正角度が大きい。
【0003】
特許文献1には、振動検出を行ってその検出信号を出力する振動検出部を備え、その検出信号が所定レベルよりも大きい場合にレンズ駆動範囲の制限を解除してレンズ駆動範囲を拡大する振れ補正装置が開示されている。特許文献1の振動検出部は、検出信号がある閾値を超えた比率や、検出信号が単位時間内である閾値を超えた回数を用いて、その検出信号が所定レベルよりも大きいと判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−139694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、手ブレは常に一定の大きさでなく、また、撮影者によりブレの特性も様々である。特に歩行中に撮影する歩行撮影状態の場合、撮影者は撮影画像を確認しながら撮影することが多い。このとき、撮影者によっては歩行撮影状態がしばらく続くと無意識に手でブレを吸収するような動作を行い、その動作によって一時的にブレが小さくなることがある。このため、ブレの大きさだけを用いて判定を行うと、歩行撮影中であるにも関わらず歩行撮影中の像ブレ補正を止めてしまう場合があり、高精度な像ブレ補正が困難である。
【0006】
そこで本発明は、撮影状態に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う像ブレ補正装置において、撮影状態の検出精度を向上させた像ブレ補正装置を提供する。また、そのような像ブレ補正装置を有する光学機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての像ブレ補正装置は、角速度信号に基づいて第一の撮影状態および第二の撮影状態のいずれの撮影状態であるかを判定する撮影状態判定手段と、前記撮影状態判定手段の判定結果に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う制御手段とを有し、前記撮影状態判定手段は、前記角速度信号が第一の閾値を超え、かつ、該第一の閾値を超えてから所定の時間内に該第一の閾値と逆符号である第二の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が開始したと判定し、前記撮影状態が前記第一の撮影状態である際に、前記角速度信号が前記第一の閾値よりも小さい第三の閾値を超え、かつ、該第三の閾値を超えてから前記所定の時間内に該第三の閾値と逆符号であり前記第二の閾値よりも小さい第四の閾値を超えた場合、該第一の撮影状態が継続していると判定し、前記撮影状態が前記第一の撮影状態である際に、前記角速度信号が前記第三の閾値を超えないか、または、該第三の閾値を超えてから前記所定の時間内に前記第四の閾値を超えない場合、該第一の撮影状態が終了したと判定する。
【0008】
本発明の他の側面としての像ブレ補正装置は、像ブレ検出手段から得られる角速度信号に基づいて第一の撮影状態および第二の撮影状態のいずれの撮影状態であるかを判定する撮影状態判定手段と、前記撮影状態判定手段の判定結果に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う制御手段とを有し、前記撮影状態判定手段は、前記角速度信号が第一の閾値を超え、かつ、該第一の閾値を超えてから第一の時間内に該第一の閾値と逆符号である第二の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が開始したと判定し、前記撮影状態が前記第一の撮影状態である際に、前記角速度信号が第三の閾値を超え、かつ、該第三の閾値を超えてから前記第一の時間よりも長い第二の時間内に該第三の閾値と逆符号である第四の閾値を超えた場合、該第一の撮影状態が継続していると判定し、前記撮影状態が前記第一の撮影状態である際に、前記角速度信号が前記第三の閾値を超えないか、または、該第三の閾値を超えてから前記第二の時間内に前記第四の閾値を超えない場合、該第一の撮影状態が終了したと判定する。
【0009】
本発明の他の側面としての光学機器は、前記像ブレ補正装置を備える。
【0010】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、撮影状態に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う像ブレ補正装置において、撮影状態の検出精度を向上させた像ブレ補正装置を提供することができる。また、そのような像ブレ補正装置を備えた光学機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態における像ブレ補正装置を備えた撮像装置(光学機器)のブロック図である。
【図2】本実施形態における像ブレ補正装置の積分特性を示す図である。
【図3】本実施形態における撮影状態判定部の動作を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態における歩行撮影開始判定のフローチャートである。
【図5】第1実施形態における歩行撮影終了判定のフローチャートである。
【図6】第1実施形態に対する比較例としてのブレ検出結果である。
【図7】第1実施形態によるブレ検出結果である。
【図8】第2実施形態における歩行撮影開始判定のフローチャートである。
【図9】第2実施形態における歩行撮影終了判定のフローチャートである。
【図10】第2実施形態によるブレ検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態における像ブレ補正装置の構成について説明する。図1は、本実施形態における像ブレ補正装置13を備えた撮像装置100(カメラやビデオカメラなどの光学機器)のブロック図である。撮像装置100は、手ブレ補正用のシフトレンズを光軸OAに直交する方向(光軸直交方向)に移動させることで像ブレ補正が可能である。
【0014】
10は、インナーフォーカスタイプの構造を有するレンズ群(レンズ鏡筒)である。レンズ群10は、ズームレンズ101、絞り102、シフトレンズ103、および、フォーカスレンズ104を備えて構成されている。レンズ群10を通過した光は、CCDやCMOS等の撮像素子11に結像される。なお、レンズ群10はインナーフォーカスタイプの構造を有するが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、リアフォーカスタイプの構造を有するレンズ群にも適用可能である。また本実施形態は、撮像装置100がレンズ群10と撮像装置本体(カメラ本体)とが一体的に構成されている場合、および、レンズ群10が撮像装置本体に対して交換可能に構成されている場合のいずれにも適用可能である。
【0015】
12は、撮像装置100の角速度信号(像ブレ)を検出するジャイロセンサ(像ブレ検出手段)である。ジャイロセンサ12は、ヨー方向の角速度信号を検出するヨー方向ジャイロセンサ121およびピッチ方向の角速度信号を検出するピッチ方向ジャイロセンサ122を備えて構成されている。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではなく、2軸方向または3軸方向の角速度信号を検出可能な1つのジャイロセンサを用いてもよい。
【0016】
13は、像ブレ補正装置である。像ブレ補正装置13は、A/Dコンバータ131、ハイパスフィルタ132(HPF)、積分フィルタ133、レンズ制御部134(制御手段)、および、積分特性切替部135を備えて構成される。像ブレ補正装置13は、ジャイロセンサ12により検出された角速度信号に対して所定の処理を行い、シフトレンズ103を光軸直交方向に駆動するための信号を生成する。なお本実施形態において、像ブレ補正装置13はシフトレンズ103を駆動するが、これに限定されるものではなく、撮像素子11を光軸直交方向に駆動するように構成することもできる。
【0017】
14は、スイッチ部である。スイッチ部14を操作することにより、像ブレ補正を行うか否か(防振機能のオン/オフ)を選択することができる。なおスイッチ部14は、像ブレ補正を行うか否かを選択するものに限定されるものではなく、スイッチ部14の切替によって像ブレ補正の制御を変更するように構成してもよい。
【0018】
次に、像ブレ補正装置13で行われる信号処理の流れについて説明する。まず、ジャイロセンサ12により得られた角速度信号(アナログ信号)は、A/Dコンバータ131により、デジタル信号に変換される。続いて、デジタル信号化した角速度信号は、ハイパスフィルタ132を通過することにより、DC成分(低周波成分)がカットされた角速度信号が得られる。
【0019】
積分特性切替部135は、撮影状態判定部135a(撮影状態判定手段)、積分特性決定部135b、および、積分特性データ群135cを備えて構成されている。撮影状態判定部135aは、ハイパスフィルタ132を通過した角速度信号に基づいて、ブレの振幅や周波数などを把握することにより、現在の撮影状態を判定する。本実施形態において、撮影状態判定部135aは、歩行撮影状態(第一の撮影状態)および静止撮影状態(第二の撮影状態)のいずれの撮影状態であるかを判定するが、これに限定されるものではない。例えば、車上撮影状態を第一の撮影状態として設定してもよく、また、他の撮影状態を任意に追加することもできる。
【0020】
積分特性決定部135bは、撮影状態判定部135aの判定結果に応じて、積分フィルタ133に適用される積分特性を決定する。積分特性切替部135には、複数の積分特性(積分特性1、2、…n)を有する積分特性データ群135cが記憶されており、積分特性データ群135cの積分特性の中から特定の積分特性が選択される。
【0021】
積分特性切替部135により現在の撮影状態に適した積分特性が選択されると、角速度信号はその積分特性を適用した積分フィルタ133を通過し、角変位信号に変更される。レンズ制御部134は、積分フィルタ133を通過して得られた角変位信号を用いて、撮像装置100のブレによる移動方向とは逆方向に、シフトレンズ103を光軸直交方向であるヨー方向およびピッチ方向に移動させる。すなわち、レンズ制御部134は、撮影状態判定部135aで得られる判定結果に応じた特性(積分特性)を用いて像ブレ補正を行う。このように、本実施形態の像ブレ補正装置13は、積分特性切替部135を備えているため、現在の撮影状態を判定し、その撮影状態に適した像ブレ補正制御を行うことができる。
【0022】
次に、積分特性の相違によりシフトレンズ103の駆動がどのように変化するかについて説明する。図2は、本実施形態における像ブレ補正装置13の積分特性を示す図であり、図2(a)は第一の積分特性(歩行撮影状態)、図2(b)は第二の積分特性(静止撮影状態)をそれぞれ示している。
【0023】
第一の積分特性および第二の積分特性はともに、最小カットオフ周波数がfc1、最大カットオフ周波数がfc2の積分特性である。第一の積分特性では、ブレの大きさを表すブレ角変位がD3のときからカットオフ周波数が徐々に高くなり、ブレ角変位がD4のときに最大カットオフ周波数fc2に達する。一方、第二の積分特性では、ブレ角変位がD1のときからカットオフ周波数が徐々に高くなり、ブレ角変位がD2のときに最大カットオフ周波数fc2に達する。すなわち、第二の積分特性は、ブレ角変位D2のような小さなブレに対してもレンズ向心力を大きくする(像ブレ補正範囲を狭くする)積分特性である。一方、第一の積分特性は、小さなブレに対してはレンズ向心力を小さくする(像ブレ補正範囲を広くする)積分特性である。
【0024】
ここでレンズ向心力は、ブレに対してシフトレンズ103を光軸中心に向かわせようとする力である。すなわち、メカストローク上のレンズ駆動限界範囲が一定のとき、レンズ向心力が小さいほどレンズ駆動範囲(像ブレ補正範囲)は広くなる。図2に示されるように、第二の積分特性は、小さなブレ角変位からカットオフ周波数(レンズ向心力)が高い(強い)。すなわち、レンズ駆動範囲が狭い積分特性である。一方、第一の積分特性は、ブレ角変位が大きくなるまでカットオフ周波数(レンズ向心力)が低い(弱い)。すなわち、レンズ駆動範囲が広く、大きな像ブレも補正可能な積分特性である。
【0025】
このように本実施形態では、複数の異なる積分特性を予め記憶し、撮影状態に応じて積分特性を切り替える(第二の撮影状態よりも第一の撮影状態において像ブレ補正の範囲が広くなるように切り替える)ことで、レンズ駆動範囲を変更することができる。例えば、現在の撮影状態が歩行撮影状態(第一の撮影状態)であると判定された場合、図2(a)の第一の積分特性を選択するように積分特性切替部135を設定する。また、現在の撮影状態が静止撮影状態(第二の撮影状態)であると判定された場合、図2(b)の第二の積分特性を選択するように積分特性切替部135を設定する。このような構成により、歩行撮影中は静止撮影中よりレンズ駆動範囲(像ブレ補正範囲)が大きくなり、歩行撮影中に生じる大きな像ブレも補正することができる。この結果、現在の撮影状態に適した像ブレ補正が可能となる。
【0026】
なお本実施形態では、撮影状態に応じて異なる積分特性を設定し、レンズ駆動範囲を変更する像ブレ補正制御について説明したが、像ブレ補正制御は積分特性を変更するものに限定されるものではない。例えば、現在の撮影状態がパンニング/チルティング中であると判定された場合、レンズを光軸中心位置で固定するなど、積分特性に依らない制御を行うように変更してもよい。
【0027】
次に、図3を参照して、本実施形態における撮影状態判定部135aの動作について説明する。図3は、本実施形態における撮影状態判定部135aの動作を示すフローチャートである。撮影状態判定部135aは、ハイパスフィルタ132を通過して得られた角速度信号を用いて撮影状態を判定する。ハイパスフィルタ132を通過した後の角速度信号を用いるのは、手ブレによる(DC成分に近い)オフセット成分を除去するためである。このような構成により、より精度の高い撮影状態判定を行うことができる。
【0028】
図3中のステップS301で撮影状態判定部135aにより撮影状態判定が開始されると、まずステップS302で歩行撮影が開始されたか否かの判定が行われる。撮影状態判定部135aは、現在の撮影状態が歩行撮影状態であると判定すると、ステップS303で第一の積分特性を選択し、レンズ駆動範囲を拡大する。その後、歩行撮影状態と判定されている間はレンズ変位範囲を拡大した状態(第一の積分特性を選択している状態)を継続する。そしてステップS304において、撮影状態判定部135aは、歩行撮影状態が終了しているか否かを判定する。ステップS304で歩行撮影状態が終了したと判断されると、ステップS302に戻り、歩行撮影開始判定を行う。
【0029】
ステップS302で歩行撮影が開始されてないと判定された場合、ステップS305に進む。ステップS305において、撮影状態判定部135aはパンニング中であるか否かを判定する。パンニング中であると判定された場合にはステップS306に進み、パンニング制御が行われる。一方、撮影状態判定部135aは、ステップS305でパンニング中でないと判定した場合、ステップS307に進み、現在の撮影状態が静止撮影状態であると判定する。このとき、第二の積分特性が選択され、狭いレンズ駆動範囲で像ブレ補正を行う。
【0030】
次に、図4を参照して、本実施形態における歩行撮影開始判定について詳述する。図4は、本実施形態における歩行撮影開始判定のフローチャートである。図4に示される歩行撮影開始判定は、図3のステップS302に相当し、撮影状態判定部135aにより実行される。
【0031】
ステップS401で歩行撮影開始判定が開始されると、ステップS402で角速度信号が第一の閾値(絶対値)を超えたか否かを判定する。この判定処理は、角速度信号が第一の閾値を超えるまで繰り返される。角速度信号が第一の閾値を超えたと判定すると、ステップS403でカウントリセット、S404でカウントアップを行う。続いて、ステップS405でカウントが所定のカウント閾値内(第一の閾値を超えてから所定の時間内)であるか否かが判定される。カウントが所定のカウント閾値内である場合、ステップS406に進む。
【0032】
ステップS406では、角速度信号が第一の閾値とは逆符号の第二の閾値(絶対値)を超えたか否かを判定する。第一の閾値と第二の閾値の絶対値は等しいものでも異なってもよい。ステップS406で角速度信号が第二の閾値(絶対値)を超えていない場合、ステップS404、S405、S406のループを繰り返す。一方、ステップS406で角速度信号が第二の閾値を超えた場合、ステップS407で現在の撮影状態が歩行撮影中であると判定される。また、ステップS404〜S406のループ中に(ステップS405で)カウントが所定のカウント閾値を超えた場合、ステップS402に戻る。
【0033】
次に、図5を参照して、本実施形態における歩行撮影終了判定について詳述する。図5は、本実施形態における歩行撮影終了判定のフローチャートである。図5に示される歩行撮影終了判定は、図3のステップS304に相当し、撮影状態判定部135aにより実行される。
【0034】
歩行撮影状態の際に、ステップS501で歩行撮影終了判定が開始されると、ステップS502で角速度信号が第三の閾値を超えたか否かを判定する。本実施形態において、第三の閾値(絶対値)は、歩行撮影開始判定で用いられる第一の閾値(絶対値)よりも小さい値に設定される。この判定処理は、角速度信号が第三の閾値を超えるまで繰り返される。一方、ステップS502で角速度信号が第三の閾値を超えた場合、ステップS503でカウントリセット、S504でカウントアップを行う。
続いて、ステップS505でカウントが所定のカウント閾値以上(第三の閾値を超えてから所定の時間以上)であるか否かを判定する。
【0035】
ステップS505でカウントが所定のカウント閾値内(第三の閾値を超えてから所定の時間内)である場合、ステップS507、S504、S505のループを繰り返す。一方、ステップS505でカウントが所定のカウント閾値以上である場合、ステップS506に進み、歩行撮影が終了したと判定される。また、ステップS507、S504、S505のループ中に、ステップS507で角速度信号が第三の閾値とは逆符号の第四の閾値(絶対値)を超えたと判定された場合、ステップS502に戻る。本実施形態において、第四の閾値(絶対値)は第二の閾値(絶対値)よりも小さい値に設定される。また、第三の閾値と第四の閾値の絶対値は等しいものでも異なってもよい。
【0036】
以上、図4および図5を参照して説明したフローを用いれば、歩行撮影開始と歩行撮影終了を高精度に判定することができる。また本実施形態は、歩行撮影終了の判定基準を歩行撮影開始の判定基準よりも厳しく設定している。このため、歩行撮影中に撮影者が無意識に手ブレを吸収するような動作を行った場合でも歩行撮影中という判定から抜けにくく、高精度の制御が可能である。
【0037】
次に、図6を参照して、歩行撮影開始および歩行撮影終了判定に用いる角速度信号の閾値を等しい値に設定した場合のブレ検出結果について説明する。図6は、本実施形態に対する比較例としてのブレ検出結果である。この比較例は、撮影者が無意識で行う手ブレを吸収する動きをケアしない場合(本実施形態を適用しない場合)の検出結果である。図6に示される波形は、静止撮影(通常の手ブレ)から、歩行撮影に移り、再び静止撮影に戻る場合の角速度信号について示す波形である。角速度信号の第一の閾値をV1、第二の閾値を−V1、時間閾値(所定の時間)をΔTとして示し、波形の下に判定された撮影状態を示している。
【0038】
波形を時間の流れに従って見ると、まず時間T1で第一の閾値V1以上のブレが検出され、時間T2で第二の閾値−V1以下(第二の閾値の絶対値以上)のブレが検出されている。時間T1から時間T2までの時間が時間閾値ΔT以内であるため、歩行撮影中であると判定される。しかし、撮影者が無意識に手ブレを吸収するような動作をしているため、その後一時的にブレの振幅が小さくなる。そのため、時間T3で第二の閾値−V1以下(第二の閾値の絶対値以上)のブレを検出後、時間閾値ΔT以内の時間T4までで第一の閾値V1以上のブレを検出できず、歩行撮影中であるにも関わらず静止撮影中であると誤判定している。その後、時間T5で歩行撮影開始判定の条件を満たし再度歩行撮影中と判定されているが、時間T4から時間T5までの間は歩行撮影中の像ブレ補正制御がされない。このため、画面上で大きなブレが生じる可能性が高い。
【0039】
次に図7を参照して、歩行撮影開始判定に用いる角速度信号の閾値(第一の閾値、第二の閾値)よりも歩行撮影終了判定に用いる角速度信号の閾値(第三の閾値、第四の閾値)を小さくした場合のブレ検出結果について説明する。図7は、本実施形態によるブレ検出結果である。図7に示される波形は、図6に示される波形と同じである。歩行撮影開始判定に用いられる第一の閾値、第二の閾値をV1、−V1、歩行撮影終了判定に用いられる第三の閾値、第四の閾値をV2、−V2、時間閾値(所定の時間)をΔTとする。また図7において、波形の下に判定された撮影状態が示されている。
【0040】
まず、時間T1で第一の閾値V1以上のブレが検出され、時間T2で逆符号の第二の閾値−V1以下(第二の閾値の絶対値以上)のブレが検出されている。時間T1から時間T2までの時間が時間閾値ΔT以内であるため、歩行撮影中であると判定される。その後、図6を参照して説明したとおり、撮影者の無意識な動作によってブレの振幅が一時的に小さくなる。しかし、本実施形態では、第三の閾値V2を第一の閾値V1よりも小さな値に設定している。このため、時間T6で第三の閾値V2以上のブレを検出することができ、ブレが小さくなっても継続して歩行撮影中と判定される。このように、本実施形態の判定方法によれば、撮影者が無意識に手ブレを吸収するような動作を行っても、高精度に歩行撮影中の像ブレ補正制御を継続することが可能である。
【0041】
本実施形態では、撮影状態判定部135aは、角速度信号が第一の閾値を超え、かつ、第一の閾値を超えてから所定の時間内に第一の閾値と逆符号である第二の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が開始したと判定する。撮影状態が第一の撮影状態である際に、角速度信号が第一の閾値よりも小さい第三の閾値を超え、かつ、第三の閾値を超えてから所定の時間内に第三の閾値と逆符号であり第二の閾値よりも小さい第四の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が継続していると判定する。一方、撮影状態が第一の撮影状態である際に、角速度信号が第三の閾値を超えないか、または、第三の閾値を超えてから所定の時間内に第四の閾値を超えない場合、第一の撮影状態が終了したと判定する。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、高精度に撮影状態を認識することができ、それぞれの撮影状態に最適な像ブレ補正制御を行うことができる。特に、歩行撮影中に撮影者が無意識で手ブレを吸収するような動作を行っても、高精度に歩行撮影開始および歩行終了判定を継続することが可能である。
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態における像ブレ補正装置について説明する。本実施形態は、撮影状態判定部135aによる歩行撮影開始および歩行撮影終了判定方法のみが第1実施形態とは異なる。本実施形態の他の構成は実施形態1と同様であるため、それらの説明は省略する。
【0043】
まず、図8を参照して、本実施形態おける歩行撮影開始を判定するフローについて詳述する。図8は、本実施形態における歩行撮影開始判定のフローチャートである。図8に示される歩行撮影開始判定は、図3のS302に相当し、撮影状態判定部135aにより実行される。
【0044】
ステップS801で歩行撮影開始判定が開始されると、ステップS802で角速度信号が第一の閾値(絶対値)を超えたか否かを判定する。この判定処理は、角速度信号が第一の閾値を超えるまで繰り返される。角速度信号が第一の閾値を超えたと判定すると、ステップS803でカウントリセット、S804でカウントアップを行う。続いて、ステップS805でカウントが第一のカウント閾値内(角速度信号が第一の閾値を超えてから第一の時間内)であるか否かが判定される。カウントが第一のカウント閾値内である場合、ステップS806に進む。
【0045】
ステップS806では、角速度信号が第一の閾値とは逆符号の第二の閾値(絶対値)を超えたか否かを判定する。第一の閾値と第二の閾値の絶対値は等しいものでも異なってもよい。ステップS806で角速度信号が第二の閾値(絶対値)を超えていない場合、ステップS804、S805、S806のループを繰り返す。一方、ステップS806で角速度信号が第二の閾値を超えた場合、ステップS807で現在の撮影状態が歩行撮影中であると判定される。また、ステップS804〜S806のループ中に(ステップS805で)カウントが第一のカウント閾値を超えた場合、ステップS802に戻る。
【0046】
次に、図9を参照して、本実施形態における歩行撮影終了を判定するフローについて詳述する。図9は、本実施形態における歩行撮影終了判定のフローチャートである。図9に示される歩行撮影終了判定は図3のステップS304に相当し、撮影状態判定部135aにより実行される。
【0047】
歩行撮影状態の際に、ステップS901で歩行撮影終了判定が開始されると、ステップS902で角速度信号が第三の閾値を超えたか否かを判定する。本実施形態において、第三の閾値(絶対値)は、歩行撮影開始判定で用いられる第一の閾値(絶対値)と等しい値であるが、第三の閾値を第一の閾値よりも小さい値に設定してもよい。この判定処理は、角速度信号が第三の閾値を超えるまで繰り返される。一方、ステップS902で角速度信号が第三の閾値を超えた場合、ステップS903でカウントリセット、S904でカウントアップを行う。続いて、ステップS905でカウントが第二のカウント閾値以上(第三の閾値を超えてから第二の時間以上)であるか否かを判定する。本実施形態において、第二の時間は、第一の時間よりも長い時間に設定される。
【0048】
ステップS905でカウントが第二のカウント閾値内(第三の閾値を超えてから第二の時間内)である場合、ステップS907、S904、S905のループを繰り返す。一方、ステップS905でカウントが第二のカウント閾値以上である場合、ステップS906に進み、歩行撮影が終了したと判定される。また、ステップS907、S904、S905のループ中に、ステップS907で角速度信号が第三の閾値とは逆符号の第四の閾値(絶対値)を超えたと判定された場合、ステップS502に戻る。本実施形態において、第四の閾値は第二の閾値と等しい値に設定されているが、これに限定されるものではなく、第四の閾値を第二の閾値よりも小さい値に設定してもよい。また、第三の閾値と第四の閾値の絶対値は等しいものでも異なってもよい。
【0049】
以上、図8および図9を参照して説明したフローを用いれば、歩行撮影開始および歩行撮影終了を高精度に判定することができる。また本実施形態は、歩行撮影終了の判定基準を歩行撮影開始の判定基準よりも厳しく設定している。このため、歩行撮影中に撮影者が無意識に手ブレを吸収するような動作を行った場合でも歩行撮影中という判定から抜けにくく、高精度の制御が可能である。
【0050】
次に、図10を参照して、本実施形態における歩行撮影開始判定に用いる時間閾値より歩行撮影終了判定に用いる時間閾値を長く設定した場合のブレ検出結果について説明する。図10は、本実施形態によるブレ検出結果である。図10において、第二のカウント閾値(第二の時間)を第一のカウント閾値(第一の時間)の2倍に設定している。ただし本実施形態はこれに限定されるものではなく、第二のカウント閾値が第一のカウント閾値よりも大きく(第二の時間が第一の時間よりも長く)設定されていればよい。なお、図10に示される波形は、図6および図7の波形と同じである。
【0051】
まず、時間T1で角速度信号の第一の閾値V1以上のブレが検出され、時間T2で第二の閾値−V1以下(第二の閾値の絶対値以上)のブレが検出される。その後、撮影者の無意識な動作によってブレの振幅は小さくなり、時間T3で第三の閾値−V1以下(第三の閾値の絶対値以上)のブレを検出後、しばらくの間、第四の閾値V1以上のブレは検出されない。しかし本実施形態では、歩行撮影終了判定で用いられる第二の時間閾値2ΔT(第二の時間)を歩行撮影開始判定で用いられる第一の時間閾値ΔT(第一の時間)より長く設定している。このため、時間T3から第二の時間閾値2ΔT内の時間T7で第四の閾値V1以上のブレを検出でき、ブレが小さくなっても歩行撮影中と判定され続けている。すなわち、本実施形態の検出方法を採用すれば、撮影者が無意識に手ブレを吸収するような動作を行っても、歩行撮影中の像ブレ補正制御を継続することが可能である。
【0052】
本実施形態では、撮影状態判定部135aは、角速度信号が第一の閾値を超え、かつ、第一の閾値を超えてから第一の時間内に第一の閾値と逆符号である第二の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が開始したと判定する。撮影状態が第一の撮影状態である際に、角速度信号が第三の閾値を超え、かつ、第三の閾値を超えてから第一の時間よりも長い第二の時間内に第三の閾値と逆符号である第四の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が継続していると判定する。一方、撮影状態が前記第一の撮影状態である際に、角速度信号が前記第三の閾値を超えないか、または、第三の閾値を超えてから第二の時間内に第四の閾値を超えない場合、第一の撮影状態が終了したと判定する。
【0053】
以上のとおり、本実施形態によれば、高精度に撮影状態を認識することができ、それぞれの撮影状態に最適な像ブレ補正制御を行うことができる。特に、歩行撮影中に撮影者が無意識で手ブレを吸収するような動作を行っても、高精度に歩行撮影開始および歩行撮影終了判定を継続することが可能である。
【0054】
上記各実施形態では、第一の撮影状態を歩行撮影状態であるとして説明しているが、これに限定されるものではない。第一の撮影状態として、例えば車上で撮影する車上撮影状態の場合にも、上記各実施形態を適用可能である。また上記各実施形態における歩行撮影状態の開始および終了判定は、角速度信号の閾値を複数回超えたときから所定の時間内に逆符号の閾値を超えるまでの時間を用いてもよい。また、このような判定の際には、角速度信号のピーク時から逆符号の角速度信号のピーク時までの時間を用いることもできる。
【0055】
また、歩行撮影中の場合にレンズ駆動範囲を拡大する積分特性を用いることで、歩行撮影中の大きなブレも十分な補正が可能になり、更に、歩行撮影中以外はレンズ駆動範囲を拡大しないため、光学性能劣化や制御切替時の違和感を低減することができる。
【0056】
また、撮影状態判定にはハイパスフィルタ通過後の角速度信号を用いているが、これに限定されるものではなく、ブレの特徴を表す信号であれば他の信号を用いてもよい。例えば、ハイパスフィルタを通過する前の角速度情報や、積分フィルタを通過した後の角変位情報を撮影状態判定に用いてもよい。
【0057】
また、歩行撮影開始判定および歩行撮影終了判定について、第1実施形態では角速度信号の閾値、第2実施形態では時間閾値を異ならせているが、これらを組み合わせて判定すれば、判定精度をより高めることができる。
【0058】
また本実施形態では、補正範囲を拡大するために変更する特性(撮影状態判定部の判定結果に応じた特性)として、積分フィルタの積分特性が用いられているが、これに限定されるものではない。例えば、このような特性として、角度信号(角速度信号)の最大値を用いてもよい。また、角度信号から生成される、実際にレンズを駆動する移動量信号の最大値を用いることもできる。
【0059】
以上のとおり本実施形態では、歩行撮影開始と判定するために用いられる閾値を、歩行撮影終了と判定するために用いる閾値よりも大きくなるように設定している。このため、歩行撮影開始の判定条件よりも歩行撮影終了の判定条件のほうが厳しい。したがって上記各実施形態によれば、撮影状態に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う像ブレ補正装置において、撮影状態の検出精度を向上させた像ブレ補正装置を提供することができる。また、そのような像ブレ補正装置を有する光学機器を提供することができる。
【0060】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
13 像ブレ補正部
134 補正レンズ制御部
135a 撮影状態判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角速度信号に基づいて第一の撮影状態および第二の撮影状態のいずれの撮影状態であるかを判定する撮影状態判定手段と、
前記撮影状態判定手段の判定結果に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う制御手段と、を有し、
前記撮影状態判定手段は、
前記角速度信号が第一の閾値を超え、かつ、該第一の閾値を超えてから所定の時間内に該第一の閾値と逆符号である第二の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が開始したと判定し、
前記撮影状態が前記第一の撮影状態である際に、前記角速度信号が前記第一の閾値よりも小さい第三の閾値を超え、かつ、該第三の閾値を超えてから前記所定の時間内に該第三の閾値と逆符号であり前記第二の閾値よりも小さい第四の閾値を超えた場合、該第一の撮影状態が継続していると判定し、
前記撮影状態が前記第一の撮影状態である際に、前記角速度信号が前記第三の閾値を超えないか、または、該第三の閾値を超えてから前記所定の時間内に前記第四の閾値を超えない場合、該第一の撮影状態が終了したと判定する、
ことを特徴とする像ブレ補正装置。
【請求項2】
角速度信号に基づいて第一の撮影状態および第二の撮影状態のいずれの撮影状態であるかを判定する撮影状態判定手段と、
前記撮影状態判定手段の判定結果に応じた特性を用いて像ブレ補正を行う制御手段と、を有し、
前記撮影状態判定手段は、
前記角速度信号が第一の閾値を超え、かつ、該第一の閾値を超えてから第一の時間内に該第一の閾値と逆符号である第二の閾値を超えた場合、第一の撮影状態が開始したと判定し、
前記撮影状態が前記第一の撮影状態である際に、前記角速度信号が第三の閾値を超え、かつ、該第三の閾値を超えてから前記第一の時間よりも長い第二の時間内に該第三の閾値と逆符号である第四の閾値を超えた場合、該第一の撮影状態が継続していると判定し、
前記撮影状態が前記第一の撮影状態である際に、前記角速度信号が前記第三の閾値を超えないか、または、該第三の閾値を超えてから前記第二の時間内に前記第四の閾値を超えない場合、該第一の撮影状態が終了したと判定する、
ことを特徴とする像ブレ補正装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第一の撮影状態が終了したと判定された場合、前記第二の撮影状態における前記特性を用いて前記像ブレ補正を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の像ブレ補正装置。
【請求項4】
前記角速度信号を角変位信号に変換する積分フィルタを更に有し、
前記特性は、前記積分フィルタの積分特性であり、
前記積分特性は、前記第二の撮影状態よりも前記第一の撮影状態において前記像ブレ補正の範囲が広くなるように切り替えられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の像ブレ補正装置。
【請求項5】
前記第一の撮影状態は歩行撮影状態であり、前記第二の撮影状態は静止撮影状態であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の像ブレ補正装置。
【請求項6】
前記第一の撮影状態は車上撮影状態であり、前記第二の撮影状態は静止撮影状態であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の像ブレ補正装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の像ブレ補正装置を有することを特徴とする光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−88437(P2013−88437A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225422(P2011−225422)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】