説明

像加熱装置及び画像形成装置

【課題】待機状態から使用状態への復帰時間を短縮できると共に、加圧ローラ側への熱移動による待機中の消費電力を抑制できるようにした像加熱装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】定着装置16は、定着ベルト21と加圧ローラ25との間の加圧力を変更可能な偏心カム32及び加圧レバー33等の加圧力変更手段を備えている。さらに、定着ニップ部Nを記録材が通過しない待機状態では、加圧力変更手段を制御して、定着ベルト21と加圧ローラ25との間の加圧力を、定着ニップ部Nを通過する記録材上のトナー像を定着ベルト21で加熱する加熱処理時の加圧力よりも小さくしつつ、誘導加熱ユニット23及び定着モータ9を制御することで定着ベルト21を加熱状態で回転させる制御部8を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材上に形成されたトナー像を加熱する定着装置などの像加熱装置、及び、このような像加熱装置を備えた、プリンタや複写機、ファクシミリ、これらの複合機などの画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式の複写機やプリンタ等の画像形成装置に搭載する定着装置として、熱伝達効率が高く、装置の立ち上がりが速いオンデマンド方式を用い、熱容量の小さい定着ベルトを介して加熱するベルト加熱方式のベルト定着装置が提案されている。
【0003】
このベルト定着装置では、以下のようなものが知られている(特許文献1参照)。この特許文献1記載の定着装置は、固定支持された加熱体としてのセラミックヒータ(以下、ヒータと記す)と、このヒータに対して摺動する伝熱部材としての耐熱性樹脂ベルト(以下、定着ベルトと記す)とを有する。さらに、この定着装置は、定着ベルトを介して上記ヒータに圧接してトナー像加熱定着領域としての定着ニップ部を形成する弾性加圧ローラを有する。この定着装置では、定着ニップ部の定着ベルトと加圧ローラとの間で未定着トナー像を担持した記録材を挟持搬送して、定着ベルトを介した上記ヒータからの熱により、未定着トナー像を記録材上に加熱溶融定着させる。
【0004】
また、定着ベルトの加熱に誘導加熱を用いた構成の定着装置が知られている(特許文献2参照)。この特許文献2記載の定着装置は、導電性層を有する加熱部材に、この加熱部材の外部に配置した磁界発生手段によって発生する磁界を作用させ、電磁誘導作用によって加熱回転体の加熱を行う構成を備えている。この定着装置では、加熱回転体として薄肉のベルトを用いることで、熱容量を小さくすることができ、熱応答性に優れるという利点を有する。
【0005】
以上のようなベルト定着装置を搭載したプリンタ、複写機等の画像形成装置は、定着装置の加熱効率や立ち上がり速度が高いことで、待機中の予備加熱の不要化、待ち時間の短縮化等、従来の熱ローラ等による定着装置を用いた場合よりも多くの利点を有する。しかし、このような従来方法によってプリント動作を行う場合には、以下のような問題もあった。例えば、画像形成装置内の画素情報変換部(ビデオコントローラ)で画像展開を行った後、画像形成装置制御部(エンジンコントローラ)にプリント信号を出してからエンジンの立ち上げを行い、プリント動作を開始するための使用時の待ち時間が長かった。
【0006】
すなわち、使用者が外部情報機器においてプリント開始の指示を出してから、プリント動作が実際に開始するまでには、画像展開時間と装置立ち上げ時間とに分けられる待ち時間が存在する。ここで、立ち上げ開始を指示するプリント信号をエンジンコントローラが受け取るのは、ビデオコントローラで画像展開が終了した後であるため、画像展開が行われている間は、エンジンは一切の動作を行っていないことになる。
【0007】
上記のような問題点を改善するには、画像展開に多くの時間を要するような場合でも、その時間中に画像形成装置のエンジン部を立ち上げておくことが必要になる。これにより、いつでもプリント動作が可能な状態にしておけば、画像展開が終了しプリント信号を受けると同時に、プリント動作を開始することができる。そのため、これまで立ち上げに要していた時間を短縮することが可能となり、使用者がこれまで待ち時間に対して感じていたストレスを、少しでも軽減できるようになる。
【0008】
ここで、定着装置のエンジン部を予め立ち上げておき、画像展開終了と同時にプリント動作を開始できるように構成した画像形成装置が知られている(特許文献3参照)。この特許文献3記載の画像形成装置では、ビデオコントローラが、画像展開を終了する以前に、画像形成装置のエンジンコントローラに対して定着装置の加熱ヒータを立ち上げる信号を発信する。すると、エンジンコントローラは、画像展開を終了するまでは加熱ヒータを目標定着温度よりも低い温度で待機させ、画像展開終了後に目標定着温度まで再加熱するように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−268414号公報
【特許文献2】特開2000−181258号公報
【特許文献3】特開2002−91230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、以上説明した従来の定着装置や画像形成装置では、以下のような課題を有していた。第1の課題として、上述したベルト加熱方式の定着装置(像加熱装置)では、待機時に目標定着温度よりも低い温度で維持されているため、画像展開終了後に定着ベルトを再加熱するのに比較的多くの時間を要する。
【0011】
また、第2の課題として、待機時の消費電力が大きくなってしまうという問題があった。具体的には、加圧ローラ駆動による定着ベルト従動式の定着装置では、プリント動作以外の待機時には加圧ローラと定着ベルトが定着可能な圧力で互いに接触保持された状態で待機しているものが一般的である。
【0012】
第2の課題の説明に際して、まず定着ベルトと加圧ローラの熱容量の関係について説明する。つまり、定着ベルト従動式の定着装置における定着ベルトと加圧ローラの熱容量の大小を比較すると、圧倒的に加圧ローラの熱容量が大きくなっている。また、熱源であるヒータから定着ベルトを介して加圧ローラとの接触部(ニップ部)で加圧ローラ側に熱の移動が発生し、加圧ローラ側に移動した熱は放熱されてしまう。
【0013】
この加圧ローラ側に熱移動する現象では、定着ベルトと加圧ローラの接触部(ニップ部)が広ければ広いほど移動する熱量は多くなる。移動する熱量が多いと、当然のことながら、熱源であるヒータの点灯時間が長くなる。このことは、消費電力を抑えるために定着温度よりも低い温度で維持する構成としていたとしても、待機時における電力消費が大きくなってしまうという課題につながる。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑み、待機状態から使用状態への復帰時間を短縮することができると共に、加圧ローラ側への熱移動による待機中の消費電力を抑制できるようにした像加熱装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、加熱手段と、前記加熱手段により加熱される回転可能な加熱回転体と、前記加熱回転体を圧してニップ部を形成する回転可能な加圧回転体と、前記加熱回転体への回転力を発生させる駆動手段と、を備え、前記ニップ部を通過する記録材上のトナー像を前記加熱回転体により加熱する像加熱装置において、前記加熱回転体と前記加圧回転体との間の加圧力を変更可能な加圧力変更手段と、前記ニップ部を記録材が通過しない待機状態では、前記加圧力変更手段を制御して、前記加熱回転体と前記加圧回転体との間の加圧力を、前記ニップ部を通過する記録材上のトナー像を前記加熱回転体で加熱する加熱処理時の加圧力よりも小さくしつつ、前記加熱手段及び前記駆動手段を制御することで前記加熱回転体を加熱状態で回転させる制御手段と、を備えたことを特徴とする像加熱装置にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コピー動作待機時などの待機状態にて、加熱回転体の熱がニップ部を介して加圧回転体側に多く逃げていく現象を抑制し、待機状態から使用状態への復帰時間を短縮でき、加圧回転体側への熱移動による待機中の消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の加圧モード時とスタンバイモード時での定着ニップについて説明するための模式図。
【図2】第1の実施形態における定着装置の一例を示す断面図。
【図3】(a)は第1の実施形態における定着装置を示す斜視図、(b)は定着装置の一部を示す斜視図。
【図4】第1の実施形態における定着ベルトの層構成を拡大して示す説明図。
【図5】(a),(b)は偏心カムの構成について説明するための図。
【図6】第1の実施形態における定着装置の加圧モード、スタンバイモード、加圧解除モードでの状態の違いを説明するための図。
【図7】定着装置のスタンバイモード移行時の動作を示すフローチャート。
【図8】本発明に係る第2の実施形態における定着装置を模式的に示す断面図。
【図9】本発明に係る画像形成装置の一例を模式的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る実施の形態について図1乃至図9を参照して説明する。なお、以下の実施形態では、未定着トナー像を記録材に定着させる定着装置について説明するが、本発明は、定着済み画像又は半定着画像を担持した記録材を加熱加圧して画像の表面性状を調整する加熱処理装置としても実施することができる。
【0019】
<第1の実施形態>
図9は、本発明を適用した定着装置16を搭載した画像形成装置10の一例を示す側面図である。この画像形成装置10は、電子写真方式を用いたカラー画像形成装置である。定着装置16は、定着ニップ部N(図2参照)を通過する記録材上のトナー像tを定着ベルト21により加熱する像加熱装置を構成している。
【0020】
画像形成装置10内において下から上に順に配列されたY、C、M、Kは、それぞれイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色のトナー画像を形成する4つの画像形成部を示している。記録材上にトナー像を形成する画像形成部Y、C、M、Kは、それぞれ感光体ドラム39、帯電装置12、現像装置13、クリーニング装置14等を有している。
【0021】
イエローの画像形成部Yの現像装置13にはイエロートナーを、シアンの画像形成部Cの現像装置13にはシアントナーを、それぞれ収容している。マゼンタの画像形成部Mの現像装置13にはマゼンタトナーを、ブラックの画像形成部Kの現像装置13にはブラックトナーを、それぞれ収容している。
【0022】
各感光体ドラム39にそれぞれ露光を行うことで静電潜像を形成する、レーザー走査露光光学系等の光学系15が、画像形成部Y、C、M、Kにそれぞれ設けられている。各画像形成部Y、C、M、Kにおいて、帯電装置12により一様に帯電された感光体ドラム39に対し画像データに基づいた走査露光が光学系15によってなされることで、走査露光画像パターンに対応した静電潜像が感光体ドラム39表面に形成される。
【0023】
各感光体ドラム39上の静電潜像が、対応する現像装置13によってトナー画像として現像される。即ち、イエローの画像形成部Yの感光体ドラム39にはイエロートナー画像が、シアンの画像形成部Cの感光体ドラム39にはシアントナー画像が、それぞれに形成される。さらに、マゼンタの画像形成部Mの感光体ドラム39にはマゼンタトナー画像が、ブラックの画像形成部Kの感光体ドラム39にはブラックトナー画像が、それぞれに形成される。
【0024】
各画像形成部Y、C、M、Kの感光体ドラム39上に形成された上記色トナー画像は、各感光体ドラム39の回転と同期して、略等速で回転する中間転写体29上へ所定の位置合わせ状態で順に重畳されて一次転写される。これにより、中間転写体29上に未定着のフルカラートナー画像が合成形成される。
【0025】
本実施形態では、中間転写体29としてエンドレスの中間転写ベルトを用いている。この中間転写体29は、駆動ローラ40、二次転写ローラ対向ローラ28及びテンションローラ38の3本のローラに巻きかけて張架され、駆動ローラ40によって駆動される。
【0026】
各画像形成部Y、C、M、Kの感光体ドラム39上から中間転写体29上にトナー画像を一次転写する一次転写手段として、一次転写ローラ30を用いている。一次転写ローラ30に対し、トナーと逆極性の一次転写バイアスがバイアス電源(不図示)から印加される。これにより、各画像形成部Y、C、M、Kの感光体ドラム39上から、中間転写体29に対してトナー画像が一次転写される。各画像形成部Y、C、M、Kにおいて感光体ドラム39上から中間転写体29に一次転写された後、感光体ドラム39上に転写残として残留したトナーは、クリーニング装置14によって除去される。
【0027】
上記工程を中間転写体29の回転に同調して、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色に関して行い、中間転写体29上に、各色の一次転写トナー画像を順次重ねて形成していく。なお、単色のみの画像形成(単色モード)時には、上記工程は、目的の色についてのみ行われる。
【0028】
画像形成装置10内の最下部には、給紙カセット41が脱着可能に配置されており、給紙カセット41内に収容されたシート状の記録材Pは、給送ローラ42によって一枚が分離給送される。そして、この記録材Pは、所定のタイミングでレジストローラ43によって、二次転写ローラ対向ローラ28に巻き掛けられた中間転写体29の一部分と二次転写ローラ44との圧接部である転写定着ニップ部に搬送される。
【0029】
中間転写体29上に形成された一次転写合成トナー画像は、二次転写ローラ44にバイアス電源(不図示)より印加されるトナーと逆極性のバイアスによって、記録材P上に一括転写される。二次転写後に中間転写体29上に残留した二次転写残トナーは、中間転写体クリーニング装置45により除去される。
【0030】
そして、記録材P上に二次転写されたトナー画像は、像加熱装置である定着装置16によって記録材P上に溶融混色定着され、フルカラープリントとして排紙パス46を経由して排紙トレイ37に送り出される。定着装置16は、画像形成部Y、C、M、Kにより記録材P上に形成されたトナー像tを記録材Pに定着させる。
【0031】
次に、本実施形態における定着装置16について詳細に説明する。なお、以下の説明において、定着装置16及びこの定着装置16を構成する部材に関し、長手方向とは、記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向(図2の手前−奥方向)を意味する。短手方向とは、記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向(図2の左右方向)を意味する。また、長さとは長手方向の寸法を意味し、幅とは短手方向の寸法を意味する。
【0032】
本実施形態では、定着装置16として、電磁誘導加熱方式のベルト定着装置を例に挙げて説明する。図2は定着装置16の一例を示す断面図、図3(a)は定着装置16の全体を示す斜視図、図3(b)は定着装置16の一部を拡大して示す斜視図、図4は定着ベルト21の層構成を詳細に示す説明図である。
【0033】
本実施形態の定着装置16は、加熱源として電磁誘導発熱体を用いた電磁誘導加熱方式のベルト定着装置として構成されている。即ち、定着装置16は、図2及び図3に示すように、加熱手段としての誘導加熱ユニット23と、定着ベルトユニット20と、加圧ローラ25とを有している。定着装置16の上部は、画像形成装置10の装置本体側の支持部47に支持されている。加圧ローラ25は、定着ベルト21を圧して定着ニップ部(ニップ部)Nを形成する回転可能な加圧回転体を構成している。
【0034】
誘導加熱ユニット(加熱手段)23は、定着ベルト21をその外側から電磁誘導加熱するように構成されている。誘導加熱ユニット23では、電磁誘導発熱体に磁場発生手段により磁場を作用させると、電磁誘導発熱体に渦電流が発生し、さらに渦電流に起因してジュール熱が発生する。電磁誘導加熱方式のベルト定着装置である定着装置16は、そのジュール熱によって被加熱材としての記録材Pに熱を付与し、記録材表面に担持されている未定着のトナー像を記録材表面に加熱定着する。
【0035】
即ち、誘導加熱ユニット23は、定着ベルト21の外周面(表面)と所定のギャップ(間隙)を保持した状態で定着ベルト21の外側に設置されている。誘導加熱ユニット23は、円筒状の定着ベルト21の長手方向(図2の手前−奥方向)に延在するホルダ部材23cと、ホルダ部材23cの内方に配置された励磁コイル23a(以下、コイルと称す)及び磁性体コア23b(以下、コアと称す)とを有している。定着ベルト21は、誘導加熱ユニット(加熱手段)23により加熱される回転可能な加熱回転体を構成している。
【0036】
ホルダ部材23cは、定着ベルト21の長手方向に長い箱型の部材であり、両端部が定着フランジ22(図3(a)参照)に保持されている。ホルダ部材23cの下面側(即ち定着ベルト21の上面側)は、定着ベルト21の上面に沿うようなドーム型の凹部として形成され、定着ベルト21表面と上記ギャップを介在した状態で対向配置されている。
【0037】
コイル23aは、定着ベルト21の長手方向に長いドーム型の楕円形状をしており、定着ベルト21表面に沿うようにホルダ部材23cの内部に配置されている。コイル23aの芯線としては、φ0.1〜0.3mmの細線を略80〜160本程度束ねたリッツ線が用いられている。細線には、絶縁被覆電線を用いている。また、磁性体コア23bを周回するように8〜12回巻き回して、コイル23aを構成したものが用いられている。コイル23aには励磁回路(不図示)が接続されており、この励磁回路からコイル23aに交番電流が供給されるようになっている。
【0038】
磁性体コア23bは強磁性体からなり、コイル23aの巻き中心部とコイル23aの周囲とを囲むように構成されている。磁性体コア23bは、コイル23aより発生した交流磁束を効率よく定着ベルト21の導電層21bに導く役目をする。即ち、磁性体コア23bは、コイル23aと導電層21bとで形成される磁気回路の効率を上げる機能と磁気遮蔽機能とを得るために用いられている。磁性体コア23bの材料としては、フェライト等の高透磁率残留磁束密度の低いものを用いることが好ましい。
【0039】
コイル23aより発生した交流磁束を効率良く定着ベルト21の導電層21bに与えるために、定着ベルト21に対して磁性体コア23bの反対側である定着ベルト21の内部にも、強磁性体からなる磁性体コア23bが配設されている。この磁性体コア23bは、ステー24bと定着ベルト21内周面(内面)との間に配置されている。
【0040】
定着ベルトユニット20は、円筒状の可撓性部材である定着ベルト(加熱回転体)21と、定着ベルト21の内方に配置された圧接部材24a及びステー24bからなる加圧補助部材24とを有している。さらに、定着ベルトユニット20は、ステー24bの上部に配置された磁性体コア23bと、定着フランジ22とを有している。
【0041】
定着ベルト21は、耐熱性及び可撓性を有するエンドレスの円筒状の部材であり、保持部材としての一対の定着フランジ22(図3(a))に支持されている。この定着ベルト21は、図4に示すように、内周面側から外周面側に向かって内層21aと、導電層(電磁誘導発熱体)21bと、弾性層21cと、表面離型層21dとをこの順に有する複合層ベルトとして構成されている。
【0042】
導電層21bは、誘導加熱ユニット23によって生じる磁界(磁束)の電磁誘導作用により誘導発熱する層である。導電層21bとして、鉄、コバルト、ニッケル、銅、クロム等の金属材料を用いて1〜50μm程度の厚みに形成した円筒状の可撓性金属層(以下、金属層と記す)を用いることができる。弾性層21cは、定着ベルト21の弾性層として好適な所定の材料を用いて導電層21bの外周面上に設けられている。
【0043】
表面離型層21dは、記録材Pが担持する未定着のトナー像tと直接接する層であるため、表面離型層21dの材料として離型性の良い材料を使用する必要がある。表面離型層21dの材料としては、例えば、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコン共重合体、またはこれらの複合層等を挙げることができる。
【0044】
表面離型層21dは、これらの材料のうちから適宜選択されたものを、1〜50μmの厚さで弾性層21cの外周面上に設けたものである。表面離型層21dの厚さは、薄すぎると、耐磨耗性の面で耐久性が弱く、定着ベルト21の耐久寿命が短くなってしまう。逆に、厚すぎると、定着ベルト21の熱容量が大きくなってしまい、ウォームアップが長くなってしまうため、望ましくない。
【0045】
本実施形態では、耐磨耗性と、弾性層21cの熱容量のバランスとを考慮して、定着ベルト21の表面離型層21dとして、厚さ30μmのテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体(PFA)が使用されている。
【0046】
加圧補助部材24は、耐熱性を有する部材からなり、図2に示すように、誘導加熱ユニット23の反対側で定着ベルト21の内周面(内面)と接触する平板状の圧接部材24aと、圧接部材24a上に設けられた横断面逆U字形状のステー24bとを有している。圧接部材24aは、記録材搬送方向と直交する方向(図2の手前−奥方向)に延在するように配設され、ステー24bは、圧接部材24aの短手方向の中央部に位置するように配設されている。なお、図2における符号48は、定着ベルト21の温度を検知するサーミスタ等の温度検知手段である。
【0047】
定着フランジ22は、図3(a),(b)に示すように、定着ベルト21の長手方向両端部に配置され、定着装置フレームの側板19に保持されており、定着ベルト21の長手方向端面と対向する壁面22aを有している。定着フランジ22は、嵌合凹部(不図示)を有し、この嵌合凹部に加圧補助部材24の長手方向端部を係合させることにより加圧補助部材24を保持している。
【0048】
定着フランジ22は、定着ベルト21側に向けて突出するベルト保持部22cを有しており、加圧ローラ25と反対の上側に突出する被加圧部22bを有している。ベルト保持部22cは、定着ベルト21の長手方向端部の内側にルーズに内嵌されて定着ベルト21を回転自在に保持する。つまり、一対の定着フランジ22は、定着ベルト21の長手方向両端部にて定着ベルト21を内側から支持し、定着ベルト21の円筒形状をガイドする。壁面22aは、定着ベルト21が長手方向に移動した際に定着ベルト21の長手方向端面と接触することにより、定着ベルト21の移動を規制する規制面として構成される。
【0049】
定着フランジ22の被加圧部22bは、後述する加圧レバー33によって加圧されている。加圧レバー33の加圧力は、定着フランジ22から加圧補助部材24のステー24bを介して圧接部材24aに作用する。加圧レバー33の加圧力を受けた圧接部材24aは、定着ベルト21を内面から押圧し、定着ベルト21の表面を加圧ローラ25の表面に押し当てる。
【0050】
これにより、定着ベルト21が圧接部材24aの面形状に倣って変形すると共に、加圧ローラ25の弾性層25bも圧接部材24aの面形状に倣って弾性変形する。このため、定着ベルト21表面と加圧ローラ25表面との間に、所定幅の定着ニップ部N(図2参照)が形成される。なお、偏心カム32、加圧レバー33、バネ付きビス34、加圧バネ34a及び定着フランジ22等により、定着ベルト21と加圧ローラ25との間の加圧力を変更可能な加圧力変更手段が構成されている。
【0051】
加圧ローラ(加圧回転体)25は、耐熱性を有し、丸軸状の芯金25aと、芯金25aの外周面上にローラ状に設けられている弾性層25bとを有している。弾性層25bの材料として、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱ゴム、或いはシリコーンゴムの発泡体などを用いることができる。加圧ローラ25は、定着ベルト21を挟んだ誘導加熱ユニット23の反対側にて、定着ベルト21と平行に延在するように配設されている。芯金25aの長手方向両端部は、定着装置フレームの下側板19に軸受を介して回転自在に保持されている。
【0052】
次に、定着装置16の加熱定着動作について、図2を参照して説明する。この定着装置16は、駆動源としての定着モータ9(図6参照)をプリント信号に応じて回転駆動させ、定着モータ9の回転を切り替えることで、加圧ローラ25の長手方向端部に設けた駆動ギヤ(不図示)を所定方向へ回転させ、また偏心カム32を回転させる。定着モータ9は、定着ベルト21への回転力を発生させる駆動手段を構成している。
【0053】
これにより、加圧ローラ25は、図2の矢印A方向に所定の周速度で回転させられる。その加圧ローラ25の回転は、定着ニップ部Nにおける加圧ローラ25表面と定着ベルト21表面との摩擦力により定着ベルト21表面に伝達される。これにより、定着ベルト21は、定着ベルト21の内面が圧接部材24aに摺動しながら加圧ローラ25の回転に追従して回転する。圧接部材24aと定着ベルト21内面との間には、グリスなどの潤滑剤が介在されており、これによってステー24bと定着ベルト21内面との間の摩擦力低減が図られている。
【0054】
また、プリント信号に応じて励磁回路が誘導加熱ユニット23のコイル23aに交流電流を供給する。これにより、コイル23aは交番磁束を発生し、交番磁束は磁性体コア23bに導かれ定着ベルト21に渦電流を発生させる。その渦電流は、定着ベルト21の固有抵抗に基づいてジュール熱を発生させる。
【0055】
すなわち、コイル23aに交流電流を供給することで、定着ベルト21が電磁誘導発熱状態になる。その定着ベルト21の温度は、サーミスタ等の温度検知手段48によって検知される。そして、温度検知手段48からの出力信号(定着ベルト21の温度検知信号)が、電源制御回路(不図示)に取り込まれる。これにより電源制御回路は、出力信号に基づいて、定着ベルト21の温度が所定の定着温度(目標温度)を維持するように励磁回路をオン・オフする制御を行なう。
【0056】
そして、加圧ローラ25及び定着ベルト21が図2の矢印A、Bの方向に夫々回転し、かつ定着ベルト21の温度が所定の定着温度に維持された状態で、未定着のトナー像tを担持した状態で搬送される記録材Pは、定着ニップ部Nに導入される。このため、記録材Pは、定着ニップ部Nで定着ベルト21表面と加圧ローラ25表面とにより挟持搬送される。そしてその搬送過程において、定着ベルト21の熱と定着ニップ部Nの圧力とを受けることで、トナー像tは記録材P上に加熱定着される。そして、定着ニップ部Nを図2の左方に出された記録材Pは、定着ベルト21の表面から分離され、定着ニップ部Nから排出される。
【0057】
次に、本実施形態における加圧・圧解除機構について、図1、図3(a),(b)、図5(a),(b)、及び図6(a),(b),(c)を参照して説明する。なお、図1は本実施形態の加圧モード時とスタンバイモード時での定着ニップについて説明するための模式図、図3(a),(b)は本実施形態における定着装置を示す図である。また、図5(a),(b)は偏心カム32の2つのピーク形状を示す図であり、図6(a),(b),(c)は偏心カム32の回転時における定着ベルトユニット20の位置を示す図である。
【0058】
すなわち、加圧・圧解除手段としての加圧・圧解除機構は、回転部材としての回転駆動軸31と、加圧部材としての加圧レバー33と、加圧手段として一対のバネ付きビス34とを有している。回転駆動軸31は、長手方向両端部に配置されている装置フレームの一対の側板19に回転自在に支持されている。回転駆動軸31の長手方向両端部には、圧解除部材としての偏心カム32がそれぞれ設けられている。また、回転駆動軸31の長手方向片側端部(図3(a)の手前側)には、圧解除ギヤ35が配置されている。
【0059】
定着装置16に搭載された図6に示す制御部8が、所定の信号に応じて定着モータ9を回転させると、この回転が不図示の駆動伝達ギヤを介して圧解除ギヤ35を所定の方向へ所定量回転させる。すると、圧解除ギヤ35の回転に応じ、回転駆動軸31が回転し、これに伴って偏心カム32が回転することになる。
【0060】
制御部(制御手段)8は、定着ニップ部Nを記録材Pが通過しないスタンバイモードでは、上記加圧力変更手段、定着ベルト21及び定着モータ9を、以下のように制御する。即ち、上記加圧力変更手段を制御して、定着ベルト21と加圧ローラ25との間の加圧力を、定着ニップ部Nを通過する記録材上のトナー像tを定着ベルト21で加熱する加熱処理時の加圧力よりも小さくする。これと同時に、定着ベルト21及び定着モータ9を制御することで、定着ベルト21を加熱状態で回転させる。また、制御部8は、温度検知手段48からの検知信号を受けつつ誘導加熱ユニット23を制御する加熱温度調節制御を実行する。
【0061】
加圧レバー33は、やや長尺に形成され、その長さ方向の後端部が支持軸17によって側板19に回動自在に支持されている。加圧レバー33は、支持軸17と反対側の先端部に設けられたバネ付きビス34の加圧バネ34aによって定着フランジ22側に付勢されて加圧されている。つまり、加圧レバー33は、支持軸17を支点として定着フランジ22の被加圧部22bを圧接する方向もしくは被加圧部22bから離間する方向に進退動作できるように構成されている。
【0062】
ここで図5及び図6を参照して、本実施形態の定着装置16における偏心カム32の回転状況と定着ベルトユニット20の位置との関係について説明する。
【0063】
制御部8は、上記加圧力変更手段及び定着モータ9を制御することで、加熱処理時の加圧力とする加圧モードと、加熱処理時の加圧力よりも小さくするスタンバイモードと、定着ベルト21と加圧ローラ25間の加圧力を無くする加圧解除モードとを設定する。制御部8は、上記加圧力変更手段及び定着モータ9を制御することで、加圧解除モードに対応する上記加圧力変更手段の作動位置を検知する加圧検知手段の検知信号に基づき、次のように制御する。つまり、制御部8は、加圧解除モードに対応する作動位置をホームポジションとして、加圧解除モード、加圧モード、及びスタンバイモードをこの順に循環させるように制御する。なお、上記加圧検知手段は、後述の加圧センサフラグ35a及び受光部から構成されている。また、加圧センサフラグ35aと上記受光部とにより、前述した加圧力変更手段の作動位置を検知する加圧検知手段が構成されている。
【0064】
図6(a)の[加圧モード]において偏心カム32が所定の方向(同図の時計回り方向)に徐々に回転し始めると、加圧レバー33の先端部に接触していなかった偏心カム32が、次第に加圧レバー33の下面に接触し始める。そして、加圧レバー33を1つ目のピークの位置(ピーク1)まで押し上げる。これにより、加圧レバー33の定着フランジ22への加圧力が半減し、定着ベルトユニット20の位置がΔY1だけ上方に移動する。そして、定着ベルト21の加圧ローラ25に対する圧接力が[加圧モード]時に比して低減し、図6(b)の[スタンバイモード(待機モード)]に移行する。
【0065】
そして、この[スタンバイモード]の状態から、同方向に回転する偏心カム32が、最も高い2つ目のピークの位置(ピーク2)まで加圧レバー33を押し上げると、定着ベルトユニット20は更にΔY2だけ上方に移動する。これにより、定着ベルト21の加圧ローラ25に対する圧接力が無効になり、定着ベルト21と加圧ローラ25とが離間した図6(c)の[加圧解除モード]に移行する。
【0066】
ここで、上記したスタンバイモードについて詳細に説明する。すなわち、コピー動作が終了し、定着ベルト21への加熱が止まると、定着ベルト21及び加圧ローラ25の温度が低下する。特に、低熱容量である定着ベルト21の温度は、急速に低下する。そのため、次のコピー動作が再開するときには、定着ベルト21を再度所定の温度まで加熱する必要があり、その加熱時間だけユーザを待たせることになってしまう。これは、本実施形態の構造で例えると最大30秒要することになる。
【0067】
次なるコピー動作までの時間を短縮するためには、定着ベルト21及び加圧ローラ25をより高い温度に維持する必要があるが、通常の加圧モードで定着ベルト21及び加圧ローラ25を加熱していると、電力を浪費してしまうおそれがある。なぜなら、定着ベルト21の熱が定着ニップ部Nを介して加圧ローラ25側に奪われてしまうからである。
【0068】
そこで本実施形態では、定着フランジ22への加圧力を半減させた状態で次なるコピー動作まで維持することで、定着ベルト21と加圧ローラ25上面との間に形成される定着ニップ部Nを狭くして、定着ベルト21の熱を加圧ローラ25側に奪われ難くする。この点は、図1において、[加圧モード]での定着ニップ部N1が、[スタンバイモード]での、定着ニップ部N1よりも狭い定着ニップ部N2に移行する状況から理解することができる。
【0069】
つまり、上記スタンバイモードの状態で、次なる作動までの時間を待機することにより、電力を節約することができ、復帰時間も短縮することができる。また、本実施形態では、制御部(制御手段)8は、スタンバイモードでの定着ベルト21の回転速度を、加熱処理時の定着ベルト21の回転速度よりも遅く設定する。即ち、スタンバイモードでの加圧ローラ25及び定着ベルト21の回転速度を、コピー動作のときの回転速度よりも遅く(例えば50mm/s)するように構成されている。このように、回転速度を遅くすることにより、定着ベルト21と加圧ローラ25との摺擦頻度が減り、従って、定着ベルト21及び加圧ローラ25の寿命を延ばすことができる。
【0070】
ここで、スタンバイモード時の加圧力について説明する。すなわち、スタンバイモード時に、定着ベルト21から加圧ローラ25に移行する熱を最小限に抑えるため、スタンバイモードでの加圧力を最小限にする必要がある。しかし、定着ベルト21は、熱源から局所的に温められると破壊されてしまうため、温められている間は回転していなくてはならない。
【0071】
ここで、加圧補助部材24の圧接部材24aと定着ベルト21との摩擦係数をμとし、定着ベルト21が回転するときの摩擦力をFとし、加圧力をPとすると、以下の式(1)が成り立つ。
F=μ・P ……(1)
【0072】
次に、定着ベルト21と加圧ローラ25との摩擦について説明する。前述したように、加圧ローラ25はその外周面に、ローラ状に設けられた弾性層25bを有している。弾性層25bの材料としては、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱ゴム、或いはシリコーンゴムの発泡体などを用いることができる。剛体である定着ベルト21とゴム製の弾性層25bとの間には、粘着摩擦力とエネルギー損失摩擦力とが生じる。
【0073】
ここで、定着ベルト21と加圧ローラ25との摩擦力をFr、粘着摩擦力をFadh、エネルギー損失摩擦力をFhysとすると、以下の式(2)が成り立つ。
Fr=Fadh+Fhys ……(2)
この摩擦力Frは、加圧ローラ25が定着ベルト21を回転させる力となる。ここで、ゴムの変形量、速度がかなり大きくない限り、Fhysは無視することができる。
【0074】
また、Fadhは接触面積に比例し、ゴムと剛体の真実接触面積Aに比例して大きくなり、以下の式(3)が成り立つ。
Fadh=K1・A ……(3)
ここで、K1は真実の単位接触面積当たりの粘着摩擦力に相当し、接触物の材質に依存する。即ち、K1は、ゴムと剛体(定着ベルト21)の分子レベルの結合の剪断破壊力を示す。
【0075】
ゴムは弾性体であるため、加圧力Pにより、真実接触面積が非線型の変化を示し、以下の式(4)が成り立つ。
A=K2P(n=1〜2/3) ……(4)
K2は変形のし易さを示す定数であり、nは材質、形状により決まる定数である。
【0076】
従って、上記の式(2)、式(3)、式(4)より、以下の式(5)が成り立つ。
Fr=Fadh=K1・K2P ……(5)
ただし、Frは上記したように、真実の接触面積Aに依存する。そして、接触面積Aは(4)式より垂直荷重P、接触物の形状、接触物の変形のし易さに関係する。
【0077】
定着ベルト21が回転するためには、Fr>Fでなければならない。つまり、以下の式(6)が成立しなければならない。
K1・K2P>μ・P ……(6)
【0078】
この関係式を加圧力Pについて整理すると、以下の式(7)
P>(μ/K1・K2)(n−1) ……(7)
となり、次式(8)のとき、最も小さい力で定着ベルト21が回転する。
加圧力P=(μ/K1・K2)(n−1) ……(8)
そして、このとき最も加圧ローラ25に熱を奪われ難く、スタンバイモード中の電力を抑えることができる。
【0079】
近年、複写機の低コスト化が求められているため、偏心カム32の回転方向を切り替えるような構成をとることや、定着装置16が定着ベルトユニット20の加圧状態を検知する加圧検知手段を複数個設けることが困難になっている。そこで本実施形態では、前述したように、加圧ローラ25の駆動と定着ベルト21の圧解除動作とを同一の定着モータ9を用いて行っている。
【0080】
ここで、本実施形態のように、定着ベルトユニット20の加圧状態を検知する加圧検知手段が1つのみの場合、定着装置16(定着器)の良好な作動性、復帰時間の短縮等の観点から、以下のように構成することが好ましい。
【0081】
定着ベルトユニット20の加圧状態は、前述のように、加圧モード、スタンバイモード、加圧解除モードの計3つのモードが準備されている。定着ベルトユニット20の加圧状態を検知するためには、いずれかのモードをホームポジションとして設定することが必要である。各加圧モードに移行する際には、上記ホームポジションからの定着モータ9の回転時間で管理する。
【0082】
ここで、加圧モード及びスタンバイモードでは定着ベルト21を加熱するが、加圧解除モードでは定着ベルト21を加熱することは許されない。従って、加圧モード及びスタンバイモードと、加圧解除モードとを、上記加圧センサフラグ35a及び受光部等からなる1つの加圧検知手段によって判別しなければならない。その結果、定着ベルトユニット20の加圧状態を検知する加圧検知手段を1つのみとする場合、本実施形態のように、定着ベルトユニット20のホームポジションを加圧解除モードに設定することが望ましい。
【0083】
本実施形態では、前述のように、定着ベルトユニット20の加圧状態を検知するため、圧解除ギヤ35の軸方向外方に突出するように加圧センサフラグ35aを形成している(図3(a)参照)。定着モータ9を回転駆動し、不図示の駆動伝達ギヤを介して圧解除ギヤ35を所定の方向へ所定量回転させると、加圧センサフラグ35aも圧解除ギヤ35と同方向に一体的に回転する。加圧センサフラグ35aが加圧検知手段の受光部(不図示)を遮るとき(フォト・インタラプタ)、定着ベルトユニット20がホームポジションの加圧解除モードに位置することを検知する。
【0084】
定着装置16の復帰時間を短縮するためには、スタンバイモードから加圧モードまでの移行時間を短縮しなければならない。また、定着ベルトユニット20の良好な作動性の観点から、各モードへの移行には、毎回ホームポジション(つまり加圧解除モード)を経由することが望ましい。ここで、加圧モード、スタンバイモード及び加圧解除モードの順番として、以下の2パターンが考えられる。
順番1:加圧モード、加圧解除モード、スタンバイモード、加圧モード、…(この順番においては、この順番用の形の異なるカムを使用する)。
順番2:加圧モード、スタンバイモード、加圧解除モード、加圧モード、…(本実施形態は、この順番の形態である)。
【0085】
順番1の場合、スタンバイモードから加圧モードに移行する場合に、ホームポジションである加圧解除モードを一旦経由することになるため、圧解除部材である偏心カム32を1回転以上回転させなくてはならない。これに対し、順番2の場合には、スタンバイモードと加圧モードとの間に加圧解除モードが位置しているため、順番1に比してスタンバイモードから加圧モードへの移行時間が少なくて足りる。従って、順番2の方が順番1よりも、スタンバイモードからの復帰時間を短縮させることができる。
【0086】
モードの移行手順において、必ず以下のことを遵守しなければならない。なぜなら、定着ベルト21を加熱した状態でその回転を止めてしまうと、定着ベルト21が局所的に温められてしまい、定着ベルト21の破損につながることになる。そこで、加圧ローラ25及び定着ベルト21を回転させるモータと、定着ベルトユニット20を圧解除させるモータとが同一の定着モータ9からなるので、加圧力を変える際には、加圧ローラ25及び定着ベルト21の回転を一旦止めなければならない。
(ア)温度調節を切ってから定着ベルト21の回転を止める。
(イ)定着ベルト21の回転を止めてから加圧力を変える(モード移行)。
(ウ)加圧力を変えてから定着ベルト21の回転を開始させる。
(エ)定着ベルト21の回転を開始してから温度調節を始める。
【0087】
ここで、各モードへの移行手順について、図7を参照して説明する。図7は、各モードへの移行手順を示したフローチャートである。
【0088】
まず、ジョブがスタートすると、図6(b)のスタンバイモードにある定着装置16を、図6(c)の加圧解除モードを経て図6(a)の加圧モードに移行させる(ステップS1)。そして、制御部8の制御で、定着モータ9を駆動して加圧ローラ25の空回転をスタートさせ(S2)、温度検知手段48の検知信号に基づいて誘導加熱ユニット23を駆動して加熱温度調節制御をスタートさせる(S3)。
【0089】
そしてステップS4にて、制御部8は、加熱温度調節制御により定着ベルト21の温度が適温に到達したか否かを判定し、温度調節が適温に到達していない場合には、定着ベルト21を加熱しながら空回転させる制御を継続する(S6)。一方、温度調節が適温に到達していると判定した場合には、定着ベルト21と加圧ローラ25間の定着ニップ部Nに記録材Pを搬送する通紙をスタートさせる(S5)。
【0090】
そして、通紙が終了した時点で、次なるジョブ(連続ジョブ)の有無を判定し(S7)、連続ジョブがある場合には、次のジョブに対応した温度調節へ移行させる(S9)。一方、連続ジョブが無い場合には、ステップS8に進んで、誘導加熱ユニット23による加熱を停止させる。
【0091】
そして、制御部8は、前述した加圧力変更手段を制御して、図6(a)の加圧モードにある定着装置16をスタンバイ圧となるように制御して、図6(b)のスタンバイモードに移行させる(S10)。さらに、制御部8の制御で、定着モータ9を駆動して加圧ローラ25の空回転をスタートさせ(S11)、温度検知手段48の検知信号に基づいて誘導加熱ユニット23を駆動して加熱温度調節制御をスタートさせる(S12)。
【0092】
引き続き、ステップS13にて、次なるジョブ(連続ジョブ)の有無を判定し、連続ジョブがある場合には、一旦加熱を停止させ(S15)、ステップS1からの処理を繰り返す。一方、ステップS13にて、連続ジョブが無い場合には、定着ベルト21を加熱しながら空回転させる制御を継続させる(S14)。
【0093】
本実施形態では、圧解除ギヤ35及び偏心カム32は、例えば1.39秒で1回転する構成を採用している。この場合、1°あたり3.87msの速度で回転することになる。
【0094】
ここで、偏心カム32による各モード間の角度を図5(b)に示している。スタンバイモードの位置から加圧モードの位置までは、
126°+111°=237°
ある。いま、1°あたり3.87msの回転速度で偏心カム32が回転しているので、スタンバイモードから加圧モードまでに移行する時間は、
3.87×237≒0.92
となる。
【0095】
以上説明した本実施形態によると、制御部8が、上記加圧力変更手段による加圧解除モードに対応する作動位置をホームポジションとして加圧解除モード、加圧モード及びスタンバイモードをこの順に循環させるように制御する。また、制御部8が、スタンバイモード(待機状態)では、定着ベルト21と加圧ローラ25間の加圧力を、定着ニップ部Nを通過する記録材上のトナー像を定着ベルト21で加熱する加熱処理時の加圧力よりも小さくする。そして、誘導加熱ユニット23及び定着モータ9を制御することで定着ベルト21を加熱状態で回転させるように制御する。このため、コピー動作待機時などの待機状態において、定着ベルト21の熱が定着ニップ部Nを介して加圧ローラ25側に多く逃げていく現象を抑制することができる。これにより、待機状態から使用状態への復帰時間を短縮でき、加圧ローラ25側への熱移動による待機中の消費電力を低減することができる。
【0096】
<第2の実施形態>
次に、本発明に係る第2の実施形態について、図8を参照して説明する。図8は、本実施形態における定着装置18を模式的に示す断面図である。本実施形態における定着装置18も、前述した定着装置16と同様に、本発明の像加熱装置を適用することができる。なお、本実施形態において、第1の実施形態と共通の構成及び部材については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0097】
図8に示すように、本実施形態の定着装置18では、図2で説明した定着装置16とは異なり、誘導加熱ユニット23が外部から加熱するのではなく、定着ベルトユニット20内に加熱手段としてのセラミックヒータ36を有している。定着ベルト21内には、定着ベルト21の温度を検知する温度検知手段としてのサーミスタ27が配置されている。
【0098】
セラミックヒータ36は、細長薄板状のセラミック基板と、この基板面に具備させた通電発熱抵抗体層とを基本構成とするもので、通電発熱抵抗体層に対する通電により全体に急峻な立ち上がり特性で昇温する、低熱容量のヒータである。このセラミックヒータ36は、圧接部材26の底面に長手方向に沿って設けられた嵌め込み溝26a内に嵌め込まれて支持される。
【0099】
本実施形態の定着ベルト21は、第1の実施形態と同様、記録材Pに熱を伝達する加圧回転体としての円筒状で耐熱性の定着ベルトであり、圧接部材26の両端部のベルト保持部(不図示)にルーズに内嵌されて回転自在に保持される。
【0100】
定着ベルト21には、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させるために、次のような複合層ベルトを使用することができる。この複合層ベルトでは、ベルト膜厚が100μm以下、好ましくは50μm以下で20μm以上の耐熱性を有するPTFE、PFA、FEPの単層、或いはポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS等の外周表面を有する。そしてこの外周表面に、PTFE、PFA、FEP等をコーティングしている。或いは、定着ベルト21を金属製として構成することも可能である。
【0101】
以上の構成を備えた本実施形態によっても、先の第1の実施形態と同様の効果を得ることができるのは勿論である。
【0102】
なお、以上の第1及び第2の実施形態では、加熱回転体として定着ベルト21を用いたが、これに代えて、加圧ローラ25と同様のローラ状の加熱ローラを用いて構成しても良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0103】
8…制御手段(制御部)、9…駆動手段(定着モータ)、10…画像形成装置、16,18…像加熱装置(定着装置)、21…加熱回転体(定着ベルト)、22,32,33,34,34a…加圧力変更手段(定着フランジ,偏心カム,加圧レバー,バネ付きビス,加圧バネ)、23…加熱手段(誘導加熱ユニット)、25…加圧回転体(加圧ローラ)、35a…加圧検知手段(加圧センサフラグ)、C,K,M,Y…画像形成部、N…ニップ部(定着ニップ部)、P…記録材、t…トナー像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段と、
前記加熱手段により加熱される回転可能な加熱回転体と、
前記加熱回転体を圧してニップ部を形成する回転可能な加圧回転体と、
前記加熱回転体への回転力を発生させる駆動手段と、を備え、
前記ニップ部を通過する記録材上のトナー像を前記加熱回転体により加熱する像加熱装置において、
前記加熱回転体と前記加圧回転体との間の加圧力を変更可能な加圧力変更手段と、
前記ニップ部を記録材が通過しない待機状態では、前記加圧力変更手段を制御して、前記加熱回転体と前記加圧回転体との間の加圧力を、前記ニップ部を通過する記録材上のトナー像を前記加熱回転体で加熱する加熱処理時の加圧力よりも小さくしつつ、前記加熱手段及び前記駆動手段を制御することで前記加熱回転体を加熱状態で回転させる制御手段と、を備えた、
ことを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記待機状態での前記加熱回転体の回転速度を、前記加熱処理時の前記加熱回転体の回転速度よりも遅く設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記加圧力変更手段及び前記駆動手段を制御することにより、少なくとも、前記加熱処理時の加圧力とする加圧モードと、前記加熱処理時の加圧力よりも小さくするスタンバイモードと、を設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の像加熱装置。
【請求項4】
前記加圧力変更手段の作動位置を検知する加圧検知手段を備え、
前記制御手段は、
前記加圧力変更手段及び前記駆動手段を制御することで、前記加熱回転体と前記加圧回転体との間の加圧力を無くする加圧解除モードを更に設定し、前記加圧解除モードに対応する前記加圧力変更手段の作動位置を検知する前記加圧検知手段の検知信号に基づき、前記加圧解除モードに対応する前記作動位置をホームポジションとして前記加圧解除モード、前記加圧モード及び前記スタンバイモードをこの順に循環させるように制御する、
ことを特徴とする請求項3に記載の像加熱装置。
【請求項5】
記録材上にトナー像を形成する画像形成部と、前記画像形成部により記録材上に形成されたトナー像を記録材に定着させる定着装置と、を備えた画像形成装置において、
前記定着装置は、請求項1ないし4のうちの何れか1項に記載の像加熱装置である、
ことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−113932(P2013−113932A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258143(P2011−258143)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】