説明

像加熱装置

【課題】商用電源の異なる電圧に応じて加熱体の第1の発熱抵抗体と第2の発熱抵抗体を直列接続或いは並列接続に切り替える像加熱装置において、直列接続或いは並列接続で同等の良好な画像品質を得られるようにした像加熱装置を提供すること。
【解決手段】商用電源20の異なる電圧に応じて加熱体300の基板105上に設けられている第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2を直列接続或いは並列接続に切り替える像加熱装置において、前記基板の記録材搬送方向上流側にある前記第1の発熱抵抗体の抵抗値より、前記基板の記録材搬送方向下流側にある前記第2の発熱抵抗体の抵抗値の方が小さいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタ等の画像形成装置に搭載する定着装置(定着器)として好適の用いられる像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式の複写機やプリンタに搭載される定着装置(定着器)として、フィルム加熱方式の定着装置が知られている。このフィルム加熱方式の定着装置は、セラミックス製の基板上に通電により発熱する抵抗発熱体を有するヒータと、ヒータと接触しつつ移動する筒状の定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータとニップ部を形成する加圧ローラと、を有している。未定着トナー画像を担持する記録材はニップ部で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上の画像は記録材に加熱定着される。
【0003】
この定着装置は、ヒータへの通電を開始し定着可能温度まで昇温するのに要する時間が短いというメリットがある。従ってこの定着装置を搭載するプリンタは、プリント指令の入力後、1枚目の画像を出力するまでの時間(FPOT:First Print Out Time)が短くできる。またこのタイプの定着装置は、プリント指令を待つ待機中の消費電力が少ないというメリットもある。
【0004】
上記フィルム加熱方式の定着装置では、商用電源の電圧が100V系と200V系の地域において、同じ抵抗値のヒータを用いる場合がある。この場合、ヒータに供給される電力は電圧の二乗に比例するため、ヒータに供給可能な最大電力は200V系の地域では100V系の4倍になる。ヒータに供給可能な最大電力が大きくなると、ヒータの電力制御で生じる高調波電流やフリッカ等が低下するので、100V系と200V系の商用電源電圧に応じて異なる抵抗値のヒータを有する定着装置を用いる場合が多い。
【0005】
100V系と200V系の地域で共用できる定着装置を実現する手段としては、リレーなどスイッチ手段を用いて、ヒータの抵抗値を切り替える方法が提案されている。特許文献1に記載の定着装置では、ヒータは記録材搬送方向上流側に長手方向に沿って設けられた第1の抵抗発熱体と、同記録材搬送方向下流側に長手方向に沿って設けられた第2の抵抗発熱体を有している。そして第1の抵抗発熱体と第2の抵抗発熱体を直列に接続して通電する第1の動作状態と、第1の抵抗発熱体と第2の抵抗発熱体を並列に接続して通電する第2の動作状態で、ヒータの抵抗値を切り替える方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−329982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
商用電源電圧に合わせて抵抗発熱体を直列或いは並列に接続してヒータ抵抗値を切り換える方式の定着装置においては、接続方法の違いによってヒータの記録材搬送方向上流側の抵抗発熱体と記録材搬送方向下流側の抵抗発熱体の発熱分布に差が生じることがある。
【0008】
即ち、フィルム加熱方式の定着装置は、定着フィルムの回転によって記録材搬送方向下流側に熱が運ばれるため、定着フィルムの回転動作時のヒータの記録材搬送方向下流側の温度は記録材搬送方向上流側より高くなる傾向にある。
定着装置の構成や、定着フィルムの回転速度によって違いはあるものの、ヒータの記録材搬送方向上流側に配置した抵抗発熱体と記録材搬送方向下流側に配置した抵抗発熱体の温度差は100℃程度にもなる。このため、発熱抵抗体のTCR(温度抵抗係数)の影響で温度によって抵抗値が異なるため、直列接続、並列接続の接続方法により、ヒータの記録材搬送方向上流側に配置した抵抗発熱体と記録材搬送方向下流側に配置した抵抗発熱体の発熱分布も異なってくる。以下、説明の都合上、記録材搬送方向上流側に配置した抵抗発熱体を上流側抵抗発熱体と記し、記録材搬送方向下流側に配置した抵抗発熱体を下流側抵抗発熱体と記す。
【0009】
この理由としては、次のように考えられる。直列接続の場合、上流側抵抗発熱体と下流側抵抗発熱体に流れる電流は同じである。このため、温度が高く抵抗値も高い下流側発熱抵抗体の方が、上流側発熱抵抗体より発熱量も大きく、ヒータの上流側抵抗発熱体と下流側抵抗発熱体の温度差は大きくなる。一方、並列接続の場合、ヒータの上流側抵抗発熱体と下流側抵抗発熱体に印加される電圧が同じである。このため、温度が低く抵抗値も低い上流側抵抗発熱体の方が、電流が多く流れ、発熱量が下流側抵抗発熱体より大きくなる。これにより、ヒータの上流側抵抗発熱体と下流側抵抗発熱体の温度差は解消される方に働く。
【0010】
このように、直列或いは並列の接続方法によりヒータの上流側抵抗発熱体と下流側抵抗発熱体の温度分布が異なると、ヒータへの投入電力が同じであっても、ニップ部に通紙された記録材に与えられる熱量も異なる。これは、発熱抵抗体と記録材の温度差が大きいほど記録材に移動する熱量は多くなるためである。これにより、ヒータの上流側抵抗発熱体と下流側抵抗発熱体の温度差が大きい直列接続の方が、記録材がニップ部を通過する間、発熱抵抗体と記録材の温度差を大きく保つためと考えられる。
【0011】
このため、直列接続或いは並列接続の接続方法により定着性、オフセットなどの画像品質に影響する場合があった。つまり、直列或いは並列の接続方法の違いによってヒータの上流側抵抗発熱体と下流側抵抗発熱体の発熱分布に差が生じ、記録材上の定着画像品質に差異を生ずる場合があった。
【0012】
また、ヒータの所定の定着温度を超える温度上昇は、ヒータと接触する部材やヒータを支持する部材の熱劣化などの観点から好ましいものではない。特に、TCR(温度抵抗係数)の大きい発熱抵抗体を用いる場合は、ヒータの上流側抵抗発熱体と下流側抵抗発熱体の温度差による抵抗値差が大きくなり、発熱量差も大きくなるので、上記の温度差は顕著である。
【0013】
本発明の目的は、商用電源の異なる電圧に応じて加熱体の第1の発熱抵抗体と第2の発熱抵抗体を直列接続或いは並列接続に切り替える像加熱装置において、直列接続或いは並列接続で同等の良好な画像品質を得られるようにした像加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る像加熱装置の構成は、基板と前記基板の上に商用電源から供給される電力によって発熱する第1の発熱抵抗体と第2の発熱抵抗体とを有する加熱体と、前記加熱体と接触しつつ移動する筒状の可撓性部材と、前記可撓性部材を介して前記加熱体と共にニップ部を形成するバックアップ部材と、前記商用電源の電圧に応じて前記第1の発熱抵抗体と前記第2の発熱抵抗体を直列接続或いは並列接続に切り替える切替え手段と、を有し、前記ニップ部で画像を担持する記録材を挟持搬送しつつ画像を加熱する像加熱装置において、前記基板の記録材搬送方向上流側にある前記第1の発熱抵抗体の抵抗値より、前記基板の記録材搬送方向下流側にある前記第2の発熱抵抗体の抵抗値の方が小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、商用電源の異なる電圧に応じて加熱体の第1の発熱抵抗体と第2の発熱抵抗体を直列接続或いは並列接続に切り替える像加熱装置において、直列接続或いは並列接続で同等の良好な画像品質を得られるようにした像加熱装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1に係る定着装置の横断側面構成模式図
【図2】実施例1に係る定着装置のヒータ、及びヒータの通電制御系の構成模式図
【図3】(a)はヒータの第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2の直列接続(200V系)を表す説明図、(b)は同ヒータの第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2の並列接続(100V系)を表す説明図図2に示すヒータ及びヒータの通電制御系の説明図
【図4】図2に示すヒータの発熱分布を表す模式図
【図5】図2に示すヒータのプリント開始から発熱体抵抗値変化を示す図
【図6】画像評価結果を示す図
【図7】(a)は実施例2のヒータの基板表面側からの概略構成模式図、(b)は比較例2のヒータの基板表面側からの概略構成模式図
【図8】(a)は実施例3のヒータの基板表面側からの概略構成模式図、(b)は比較例3のヒータの基板表面側からの概略構成模式図
【図9】(a)は実施例4のヒータの基板表面側からの概略構成模式図、(b)は比較例4のヒータの基板表面側からの概略構成模式図
【図10】画像形成装置の一例の概略構成模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施例1]
(1)画像形成装置例
図10は本発明に係る像加熱装置を定着装置(定着器)として搭載した画像形成装置の一例の概略構成模式図である。この画像形成装置は電子写真式のレーザビームプリンタである。この画像形成装置の記録材の搬送基準は、定着装置の後述する定着フィルムの長手方向の中心と記録材の幅方向の中心を一致させて記録材を搬送する中央搬送基準である。
【0018】
本実施例に示す画像形成装置は、像担持体としてのドラム型の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)1を有している。感光ドラム1は、OPC・アモルファスSe・アモルファスSi等の感光材料層を、アルミニウムやニッケル等の金属材料により形成されたシリンダ(ドラム)状の導電性基体の外周面に形成した構成から成る。
【0019】
感光ドラム1は、ホストコンピュータやネットワーク上の端末機等の外部装置から出力されるプリント指令に応じて矢印方向に所定の周速度(プロセススピード)にて回転される。そしてこの回転過程で感光ドラム1の外周面(表面)が帯電手段としての帯電ローラ2により所定の極性・電位に一様に帯電処理される。
【0020】
この感光ドラム1表面の一様帯電面は、走査露光装置としてのレーザービームスキャナ3から出力される、外部装置からの画像情報に応じて変調制御(ON/OFF制御)されたレーザービームLBによって走査露光がなされる。これにより感光ドラム1表面に目的の画像情報に応じた静電潜像(静電像)が形成される。
【0021】
この感光ドラム1表面の潜像に現像手段としての現像装置4でトナー(現像剤)TOを付着させ、感光ドラム1表面の潜像をトナー画像(現像像)として現像する。現像方法としては、ジャンピング現像法、2成分現像法、FEED現像法などが用いられ、イメージ露光と反転現像との組み合わせで用いられることが多い。
【0022】
一方、給送ローラ8の回転により給送カセット9内に積載収納されている記録材Pが一枚ずつ繰り出されガイド10を有するシートパスを通ってレジストローラ11に搬送される。レジストローラ11は、この記録材Pを感光ドラム1表面と転写ローラ5の外周面(表面)との間の転写ニップ部に所定の制御タイミングにて給送する。この記録材Pは転写ニップ部で挟持搬送され、この搬送過程において転写ローラ5に印加される転写バイアスによって感光ドラム1表面のトナー画像が順次に記録材上に転写されていく。これによって記録材Pは未定着のトナー画像を担持する。
【0023】
未定着のトナー画像(未定着画像)を担持した記録材Pは感光ドラム1表面から順次に分離して転写ニップ部から排出され、搬送ガイド12を通じて定着装置(定着器)6のニップ部Nに導入される。そしてこの記録材Pがニップ部Nを通過することによってトナー画像は記録材Pの面上に加熱定着される。定着装置6を出た記録材Pは搬送ローラ13とガイド14と排出ローラ15とを有するシートパスを通って排出トレイ16にプリントアウトされる。
【0024】
記録材P分離後の感光ドラム1表面はクリーニング手段としてのクリーニング装置7により転写残りトナー等の付着汚染物の除去処理を受けて清浄面化され、感光ドラム1は次の画像形成に供される。
【0025】
(2)定着装置(像加熱装置)6
以下の説明において、定着装置及びこの定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向をいう。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向でいう。長さとは長手方向の寸法をいう。幅とは短手方向の寸法をいう。記録材に関し、幅方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向をいう。幅とは幅方向の寸法をいう。
【0026】
図1は定着装置6の横断側面構成模式図である。この定着装置6はフィルム加熱方式の定着装置である。
【0027】
本実施例に示す定着装置6は、可撓性及び耐熱性を有する筒状の可撓性部材としての定着フィルム(エンドレスフィルム)102と、加熱体としてのヒータ300と、支持部材としてのヒータホルダ101を有している。また定着装置6は、剛性部材としての剛性ステー104と、バックアップ部材としての加圧ローラ108などを有している。定着フィルム102と、ヒータ300と、ヒータホルダ101と、剛性ステー104と、加圧ローラ108は、何れも長手方向に長い部材である。
【0028】
定着フィルム102は、ポリイミド、ポリアミド、PEEK等の耐熱樹脂、またはステンレス等の金属からなる厚さ30〜70μmの筒状の基層(不図示)を有している。そしてこの基層の外周面上に、PFA、PTFE等のフッ素樹脂からなる厚さ5〜30μmの離型層(不図示)を設けている。
【0029】
本実施例では、定着フィルム102として、厚さ60μmのポリイミドからなる筒状の基層の外周面上に厚さ15μmのPFA樹脂からなる離型層を設けたφ24、長さ220mmの定着フィルムを用いている。
【0030】
ヒータホルダ101は、LCP(液晶ポリマ)等の耐熱樹脂材料により横断面略凹字形状に形成されている。このヒータホルダ101は、ヒータホルダ101の短手方向の下面中央で長手方向に沿って設けられた溝101bによりヒータ300を後述の表面保護層107が下向きになるように支持している。このヒータホルダ101の短手方向の上面中央にはヒータホルダ101の変形を防止するための剛性ステー104が配設されている。この剛性ステー104は所定の金属材料により横断面略逆U字形状に形成してある。
【0031】
ヒータ300と剛性ステー104を備えた上記ヒータホルダ101の外周には定着フィルム102がルーズに外嵌されている。そしてヒータホルダ101及び剛性ステー104の長手方向両端部を定着装置6の長手方向両側の支持フレーム(不図示)に支持固定させている。定着フィルム102を外嵌させたヒータホルダ101は、ヒータホルダ101の短手方向両側で定着フィルム102の内周面(内面)に沿うように設けられた弧状突部101aの外面により回転中(移動中)の定着フィルム102をガイドするようになっている。
【0032】
図2にヒータ300、及びヒータ300の通電制御系の構成模式図を示す。ヒータ300は、幅5〜12mm、厚さ0.5〜1mmで長さ240mmに形成されたアルミナ等からなるセラミック製のヒータ基板(以下、基板と記す)105を有している。
【0033】
この基板105の定着ニップ部(ニップ部)Nが形成される側の基板表面上(基板上)には、例えばAg/Pd(銀パラジウム)等からなる2つの発熱抵抗体H1,H2がパターン印刷により形成してある。2つの発熱抵抗体H1,H2のうち、発熱抵抗体H1は記録材搬送方向上流側端部の内側で基板105の長手方向に沿って形成され、発熱抵抗体H2は基板105の記録材搬送方向下流側端部の内側で基板105の長手方向に沿って形成されている。
【0034】
本実施例では、ヒータとして、発熱抵抗体H1の抵抗値が20.2Ω、発熱抵抗体H2の抵抗値が19.8Ω、各々の発熱抵抗体H1,H2のTCR(温度抵抗係数)が1000ppm/℃のものを用いた。発熱抵抗体H1,H2において、発熱抵抗体の材料は同一のものを用いた。そしてヒータ300の短手方向において、発熱抵抗体H1の幅を19.8mm、発熱抵抗体H2の幅を20.2mmとすることで、抵抗値を変えた。上記2つの発熱抵抗体H1,H2を区別するために、発熱抵抗体H1を第1の発熱抵抗体H1と記し、発熱抵抗体H2を第2の発熱抵抗体H2と記す。
【0035】
第1の発熱抵抗体H1は、基板105の同基板面上において、長手方向一端部の内側に設けられた給電用電極(以下、電極と記す)303a、及び長手方向他端部の内側に設けられた給電用共通電極(以下、共通電極と記す)303cと電気的に接続されている。第2の発熱抵抗体H2は、基板105の同基板面上において、長手方向一端部の内側に設けられた給電用電極(以下、電極と記す)303b、及び共通電極303cと電気的に接続されている。そして第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2は基板105の同基板面上に設けられた厚さ0.05〜0.1mmの絶縁性(本実施例ではガラス)の表面保護層107によって覆われている。
【0036】
通電制御系は、CPUとRAMやROMなどのメモリからなる制御部(制御手段)100と、第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2への供給電力を制御するトライアック(電力制御手段)21を有している。また通電制御系は、商用電源20から印加される電圧を検知する電圧検知回路などを備える電源電圧検知部(電源電圧検知手段)401とを有している。また通電制御系は、2つの通電切替スイッチとしての通電制御リレー401a,401bなどを備える切替え部(切替え手段)402などを有している。更に通電制御系は、温度検知素子112と、通電遮断手段としてのサーモスイッチ113を有している。
【0037】
切替え部402の2つの通電制御リレー402a,402bのうち、第1の通電制御リレー402aは可動接点mと接点aを有している。第2の通電制御リレー402bは共通接点cと2つの接点a1,a2を有している。第1の通電制御リレー402aにおいて、可動接点mは第1の抵抗発熱体H1の共通電極303cと電気的に接続され、接点aは商用電源22と電気的に接続されている。第2の通電制御リレー402aにおいて、共通接点cは第2の抵抗発熱体H2の電極303bと電気的に接続され、接点a1は商用電源22と電気的に接続され、接点a2はトライアック21と共に第1の抵抗発熱体H1の電極303aと電気的に接続されている。
【0038】
温度検知素子112と、サーモスイッチ113は、それぞれ、ヒータ300の基板105の定着ニップ部Nが形成される側とは反対側の基板裏面上(基板上)に設けられている。
【0039】
温度検知素子112は、ヒータ300の長手方向において記録材Pが通過する領域(通紙領域)の略中央に配設され、ヒータ300の基板105の温度を検知して温度検知信号を制御部100に出力するものである。
【0040】
サーモスイッチ113は、ヒータ300の長手方向において記録材Pの通紙領域の所定位置において第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2に接触させて配設してある。このサーモスイッチ113は、何等かの事情でヒータ300の温度が所定の設定温度に達した場合に動作して第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2への通電を遮断するように構成されている。本実施例では、サーモスイッチ113の設定温度を250℃に設定した。
【0041】
この通電制御系は、電源電圧検知部401で商用電源20の電圧を検知し、その電圧に基づいて制御部100が第1の通電制御リレー402aと第2の通電制御リレー402bを制御するようになっている。
【0042】
加圧ローラ108は、鉄やアルミニウム等からなる丸軸状の芯金109と、芯金109の長手方向両側の被支持部(不図示)間で芯金109の外周面上に設けられたシリコーンゴム等からなる厚さ2〜4mmの弾性層110などを有している。
【0043】
この加圧ローラ108は、定着フィルム102内側でヒータホルダ101が支持するヒータ300と定着フィルム102を介して対向するように配設されている。そして芯金109の長手方向両側の被支持部が定着装置6の上記支持フレームに軸受(不図示)を介して回転可能に支持されている。そしてこの芯金109の長手方向両側の軸受を加圧ばねなどの加圧手段(不図示)により総圧98〜294N(総圧10〜30kgf)の圧力で定着フィルム102側に付勢している。
【0044】
上記加圧手段の圧力により加圧ローラ108の外周面(表面)が定着フィルム102の外周面(表面)に加圧状態に接触する。これにより加圧ローラ108の弾性層110がヒータ300の長手方向全域に渡って弾性変形して加圧ローラ108表面と定着フィルム102表面とで幅5〜11mmの定着ニップ部(ニップ部)Nを形成している。
【0045】
本実施例では、加圧ローラ108として、アルミニウムからなる芯金109の外周面上にシリコーンゴムからなる弾性層110を設け、弾性層110の外周面上にPFAからなる離型層111を設けた加圧ローラを用いている。芯金109はφ18、弾性層110は厚さ3mm、離型層111は厚さ50μm、加圧ローラはφ24、長さ220mmである。そしてこの加圧ローラ108を総圧147N(総圧15kgf)の圧力で定着フィルム102側に付勢して幅7mmの定着ニップ部Nを形成した。
【0046】
(3)定着装置6のトナー画像tの加熱定着動作
本実施例の定着装置6は、プリント指令に応じて回転駆動されるモータM(図1参照)の回転により加圧ローラ108が所定の周速度(プロセススピード)で矢印にて示す方向(図1参照)へ回転される。本実施例では記録材Pの搬送速度が300mm/secとなるように加圧ローラ108を回転している。加圧ローラ108の回転は定着ニップ部Nで加圧ローラ表面と定着フィルム102表面との摩擦力により定着フィルム102に伝わる。これにより定着フィルム102は、定着フィルム102内面がヒータ300の表面保護層107と接触した状態で加圧ローラ108の回転に追従して矢印にて示す方向(図1参照)へ回転(移動)する。
【0047】
ここで、ヒータ300の第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2を直列接続或いは並列接続に切り替える切替え部402の動作を説明する。
【0048】
図3の(a)はヒータ300の第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2の直列接続(200V系)を表す説明図、(b)は同ヒータ300の第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2の並列接続(100V系)を表す説明図である。
【0049】
画像形成装置の主電源スイッチがオン(ON)されると、商用電源22から電源電圧検知部401に電圧が印加される。電源電圧検知部401は、商用電源20から印加される電圧実効値の範囲が100V系(ex.100V〜127V)か200V系(ex.200V〜240V)のどちらかを判断する。そして100V系と判断した場合に100V系を意味する電圧検知信号を出力し、200V系と判断した場合に200V系を意味する電圧検知信号を出力する。
【0050】
制御部100は、電源電圧検知部401から200V系を意味する電圧検知信号を取り込む。すると制御部100は、第2の通電制御リレー402bを制御して共通接点cを接点a1に接触させる(図3(a)参照)。
【0051】
これにより、商用電源20と、トライアック21と、サーモスイッチ113と、電極303aと、第1の発熱抵抗体H1と、共通電極303cと、第2の発熱抵抗体H2と、電極303bと、第2の通電制御リレー402bと、商用電源とで閉回路が構成される。即ち、第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2が直列接続された第1の導通経路が構成される。
【0052】
次に制御部100は、トライアック21をオン(ON)すると共に、トライアック21を制御してヒータ300の第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2との総抵抗値が40Ωとなるようにする。トライアック21がオンされることで商用電源20からトライアック21に電力が印加され、トライアック21から上記総抵抗値に応じた電力がヒータ300の第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2に供給される。これにより第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2に通電されて第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2が発熱する。
【0053】
この第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2の発熱により表面保護層107を介して定着フィルム102が加熱される。そして制御部100は、温度検知素子112から出力される温度検知信号を取り込み、この温度検知信号に基づいて温度検知素子がトナー画像tを記録材上に加熱定着するために必要な所定の定着温度(目標温度)を維持するようにトライアック21を制御する。本実施例では、定着温度(以下、制御目標温度とも記す)を185℃に設定した。
【0054】
制御部100は、電源電圧検知部401から100V系を意味する電圧検知信号を取り込む。すると制御部100は、第1の通電制御リレー402aを制御して可動接点mを接点aに接触させ、第2の通電制御リレー402bを制御して共通接点cを接点a2に接触させる(図3(b)参照)。
【0055】
これにより、商用電源20と、トライアック21と、サーモスイッチ113と、第2の通電制御リレー402bと、電極303bと、第2の抵抗発熱体H2と、共通電極303cと、第1の通電制御リレー402aと、商用電源20とで1つの閉回路が構成される。また、商用電源20と、トライアック21と、サーモスイッチ113と、電極303aと、第1の抵抗発熱体H1と、共通電極303cと、第1の通電制御リレー402aと、商用電源20とで他の1つの閉回路が構成される。即ち、第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2が並列接続された第2の導通経路が構成される。
【0056】
次に制御部100は、トライアック21をオン(ON)すると共に、トライアック21を制御してヒータ300の第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2との総抵抗値が10Ωとなるようにする。トライアック21がオンされることで商用電源20からトライアック21に電力が印加され、トライアック21から上記総抵抗値に応じた電力がヒータ300の第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2に供給される。これにより第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2に通電されて第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2が発熱する。
【0057】
この第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2の発熱により表面保護層107を介して定着フィルム102が加熱される。そして制御部100は、温度検知素子112から出力される温度検知信号を取り込み、この温度検知信号に基づいて温度検知素子112が上記定着温度を維持するようにトライアック21を制御する。
【0058】
加圧ローラ108を回転させ、かつ温度検知素子112の温度が所定の定着温度に維持された状態でトナー画像tを担持した記録材Pがトナー画像担持面を上向きにして定着ニップ部Nに導入(通紙)される。そして定着ニップ部Nにおいて記録材Pは定着フィルム102表面と加圧ローラ108表面とで挟持されその状態に搬送(挟持搬送)される。この搬送過程においてトナー画像に熱と圧力が印加され、これによりトナー画像tは記録材上に加熱定着される。定着ニップ部Nを通った記録材Pは定着フィルム102表面から分離されて定着ニップ部Nから排出される。
【0059】
本実施例の定着装置6では、電源電圧検知部401による判断に基づいて、ヒータ300の第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2の接続を直列接続或いは並列接続に切り替えている。
【0060】
即ち、電源電圧検知部401が200V系と判断した場合、第2の通電制御リレー401bによって第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2は直列に接続され、ヒータ300の総抵抗値が40Ωとなるようにする。一方、電源電圧検知部401が100V系と判断した場合は、第1の通電制御リレー401aと第2の通電制御リレー402bによって第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2は並列に接続され、ヒータ300の総抵抗値が10Ωとなるようにする。このように100V系と200V系で総抵抗値を切り替えることで、100V系と200V系で投入される最大電力を同等とすることができる。
【0061】
以下、図4、図5を用いて、本実施例のヒータ300を備えた定着装置6を搭載する画像形成装置と、比較例1のヒータを備えた定着装置(不図示)を搭載する画像形成装置を用いて、プリントを行ったときの、各々のヒータの発熱について説明する。
【0062】
比較例1のヒータは、常温での直列接続時と並列接続時の総抵抗値が本実施例のヒータ300と同じとなる、発熱抵抗体H1、H2の抵抗値を各々20Ω、またTCRが1000ppm/℃のものを用いた点を除き、本実施例のヒータ300と同じ構成としてある。比較例1のヒータを備えた定着装置は、上記のようにヒータの構成が異なる点を除き、本実施例の定着装置6と同じ構成としてある。また、比較例1のヒータを備えた定着装置では、定着温度を本実施例の定着装置と同じ185℃に設定した。
【0063】
図4は、本実施例のヒータ300を備えた定着装置6を搭載する画像形成装置と、比較例1のヒータを備えた定着装置を搭載する画像形成装置に、それぞれ、記録材を20枚通紙(導入)した際に、ヒータ300の短手方向の基板裏面の温度分布を示した図である。実線は発熱抵抗体H1,H2を直列接続した場合であり、点線は発熱抵抗体H1,H2を並列接続した場合である。
【0064】
本実施例のヒータ300を備えた定着装置6を搭載する画像形成装置では、ヒータ300の発熱抵抗体H1,H2を直列接続した場合および並列接続した場合の温度分布はほぼ同じであり、温度分布の差は3℃以内であった。
【0065】
一方、比較例1のヒータを備えた定着装置を搭載する画像形成装置では、ヒータにおいて特に温度が高くなる記録材搬送方向下流側で、発熱抵抗体H1,H2を直列接続した場合は293℃、並列接続した場合は288℃であった。よって本実施例よりも温度分布の差は5℃と大きくなっていることが分かる。
【0066】
このように比較例1のヒータを備えた定着装置を搭載する画像形成装置で、発熱抵抗体H1,H2を直列接続した場合と並列接続した場合とで発熱量、温度分布に差異が生じた理由として、以下のように考えられる。
【0067】
画像形成装置の電源投入直後や、プリント終了からの経過時間が長い場合など、定着装置6が冷えた状態でプリントを開始した直後は、発熱抵抗体H1,H2の抵抗値に応じた発熱量を示す。本実施例では、発熱抵抗体H1の抵抗値が発熱抵抗体H2の抵抗値より大きいので、直列接続の場合はヒータ300の短手方向上流側、並列接続の場合はヒータ300の短手方向下流側の発熱量が大きい。一方、比較例1では、発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2の抵抗値は同じであるので、直列接続と並列接続とも、ヒータ300の短手方向上流側と短手方向下流側の発熱量は同じとなる。
【0068】
しかし、プリント開始とともに定着フィルム102が回転すると、発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2で発生した熱の一部は、定着フィルム102の回転によってヒータ300の記録材搬送方向下流側に熱が運ばれる。すると、ヒータ300の記録材搬送方向下流側の温度は記録材搬送方向上流側より高くなる。そのため、ヒータ300の記録材搬送方向上流部にある発熱抵抗体H1より、ヒータ300の記録材搬送方向下流部にある発熱抵抗体H2の方が、抵抗上昇が大きくなる。
【0069】
図5は、プリント開始からの経過時間(sec)による発熱体抵抗H1と発熱体抵抗H2の抵抗値変化を示した図である。
【0070】
先ず図5(a)の比較例1の直列時(直列接続)の場合、プリント開始直後は、発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2の抵抗値は同じ20Ωである。プリント開始後、前述の通りヒータ300の記録材搬送方向下流側の温度は記録材搬送方向上流側より上昇するため、ヒータ300の記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の抵抗値の上昇が、記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1より大きくなる。さらに、発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2に流れる電流は同じであるので、温度上昇により抵抗値が大きいヒータ300の記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の方が、記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1より発熱量が多い。
【0071】
よって、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2との温度差はさらに拡がっていく。結果、定常状態で発熱抵抗体H1の抵抗値は24.2Ω、発熱抵抗体H2の抵抗値は25.4Ωとなる。ここで、定常状態とはヒータ300内で温度変化がほぼ無くなる状態をいう。
【0072】
一方、図5(b)の比較例1の並列時(並列接続)の場合、プリント開始後、前述の通りヒータ300の記録材搬送方向下流側の温度は記録材搬送方向上流側より上昇する。そのため、ヒータ300の記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の抵抗値の上昇が、記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1より大きくなる。しかし、発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2に印加される電圧は同じであるので、温度上昇の差により抵抗値が小さい発熱抵抗体H1に流れる電流の方が大きくなる。このため、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1の方が、記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2より発熱量は多くなる。
【0073】
これにより、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2との温度差を解消する方に作用する。結果、定常状態で発熱抵抗体H1の抵抗値は24.6Ω、発熱抵抗体H2の抵抗値は24.9Ωとなる。
【0074】
上記説明した理由から、比較例1では直列時と並列時で、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2との温度分布に差が生じることになる。
【0075】
図5(c)の本実施例の場合、直列時(直列接続)と並列時(並列接続)で定常時の発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2の抵抗値が同じとなるように、温度とTCRを考慮しつつ、発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2の抵抗値を設定している。ここで、定常時とはヒータ300の温度変化が小さい状態をいう(記録材が連続通紙されている状況)。
【0076】
具体的には、先ず発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2の抵抗値を変えたヒータ300を試作し、直列時と並列時とも発熱体抵抗体H1と発熱抵抗体H2に流れる電流を測定できるようにした。そして、プリント中に直列時と並列時の電流が同じとなるような発熱体抵抗値の組み合わせを探した。本実施例では、発熱抵抗体H1の抵抗値を20.2Ω、H2の抵抗値を19.8Ωに設定した。
【0077】
このように本実施例では、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1の抵抗体値を記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2よりも大きく設定している。そのため、直列時はヒータ300の短手方向上流側の発熱量も多く、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2との温度差が解消するように作用する。やがて、ヒータ300内で温度変化がほぼ無くなる定常状態となったとき、発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2の抵抗値が概ね同じとなる。並列時は、プリントを開始した直後は、ヒータ300の記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の方が記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1より抵抗値が小さいので、発熱抵抗体H2の方が発熱抵抗体H1より発熱量が大きい。
【0078】
しかし、定着フィルム102の回転によってヒータ300の記録材搬送方向下流側に熱が運ばれるため、ヒータ300の記録材搬送方向下流側の温度は記録材搬送方向上流側より高くなっていく。これにより、ヒータ300記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1より、記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の抵抗上昇が大きくなる。やがて、ヒータ300内で温度変化が概ね無くなる定常状態となったとき、発熱抵抗体H1と発熱抵抗体H2の抵抗値がほぼ同じ24.8Ωとなる。上記説明した理由から、直列時と並列時での定常状態で発熱抵抗体H1とH2の抵抗値が概ね同じとなり、結果、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2との温度分布に差が無くなる。

図6は、本実施例の効果を確認するため、実際の画像形成装置を用い、200V系/100V系(直列時/並列時)で画出し評価を行ったときの記録材の温度、画像評価(定着性試験、オフセット評価)結果を示したものである。
【0079】
ここで定着性とは、定着装置が冷えた状態から、ハーフトーン画像を印字したラフ紙を連続20枚、定着ニップ部へ搬送する。そして、ハーフトーン画像を定着処理済の記録材Pについて擦り試験をおこない、ある一定条件下で擦り試験前後での光学式濃度差を測定する。即ち記録材の画像形成面上に紙を介して所定重量(200g)のおもりを載せ、前記重量をかけつつ介在させた紙で画像形成面を摺擦し、その摺擦の前後で画像の濃度低下率を求める。20枚通紙した中で、濃度低下率が20%以上ある場合、市場にて許容できないレベルと判断し×、濃度低下率が20%未満の場合は市場にて許容できるレベルと判断し、○と表記している。
【0080】
またオフセット評価は、定着装置が冷えた状態から、ハーフトーン画像、文字画像を織り交ぜた画像を連続50枚、定着フィルムの約1周分印字した平滑紙を定着ニップ部へ搬送する。オフセットが低い場合、記録材上にある未定着トナーの一部は、定着分より過剰な熱を受け、定着フィルム表面に付着する。そして、定着フィルム表面上のトナーは、定着フィルム1周後に、記録材に転移する。このため定着フィルム1周後に、オフセットした画像が現れることになる。オフセット評価では、この部分に着目し主観評価を行い、市場にて許容できるレベルと判断した際は○、市場にて許容できないレベルと判断した際は×とした。
【0081】
本実施例(実施例1)においては制御目標温度を185℃に設定した。また、比較例1においては、温度検知素子111の検知温度誤差が概ね6℃あることを考慮し、制御目標温度を195℃、185℃、175℃に設定した。
【0082】
結果は、本実施例では直列時、並列時とも、定着性、オフセットを満足している。一方、比較例1については同じ制御目標温度で、直列時のオフセットと並列時の定着性を満足することができなかった。これは、本実施例においては直列時と並列時ともに紙温度が同じとなっており、温度差などによる画像不良の発生を抑制して、良好な画像品質が得られたためと考えられる。
【0083】
一方、比較例1で制御目標温度を185℃とした場合、直列時は紙温度が並列時に比べ高くなり、ホットオフセットが低下したと考えられる。また逆に、並列時は紙温度が直列時に比べ低くなり、定着性が低下したと考えられる。制御目標温度を195℃に上げた場合は、紙温度が上がるので、並列時の定着性が良化するものの、直列時のオフセットが低下する。また、制御目標温度を175℃に下げた場合は紙温度が下がるので、直列時のオフセット良化するものの、並列時の定着性は低下する。
【0084】
以上説明したように、ヒータの記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1の抵抗値を、記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の抵抗値より大きくした場合は、直列と並列の接続状態に係らず、同じ制御目標温度で定着性、オフセットを両立することが可能となる。
【0085】
また別の効果として、本実施例では、直列時、並列時ともヒータ300の基板裏面の最大温度を抑えることが可能となり、ヒータホルダ101の熱劣化を抑制することができる。
【0086】
[実施例2]
実施例1のヒータ300に代えて用いられるヒータ300の他の例を説明する。図7の(a)は本実施例のヒータ300の基板表面側からの概略構成模式図、(b)は比較例2のヒータ300の基板表面側からの概略構成模式図である。
【0087】
本実施例に示すヒータ300は、第1の発熱抵抗体H1における基板105の長手方向の単位長さあたりの抵抗値が、第1の発熱抵抗体H1の一部が第1の発熱抵抗体H1の一部を除く他の箇所と比較して大きいことを特徴としている。
【0088】
図7の(a)に示すように、サーモスイッチ113は、ヒータ300の基板裏面上で第1の抵抗発熱体H1と第2の抵抗発熱体H2に接触させて配設してあるため、ヒータ300から熱を奪うことになる。すると、記録材Pに伝わる熱量が他の箇所よりも少なくなり、光沢のムラ、定着性の低下などの画像不良が発生する可能性がある。そこで、損失される熱量を補うように、発熱量を増やす必要がある。
【0089】
本実施例では、図7の(a)のように、サーモスイッチ113が接触する箇所で、長手方向に8mm発熱抵抗体H1の幅を19.8mmから18.8mmに狭めた。これにより発熱抵抗体H1の長手方向の単位長さあたりの抵抗値を5%大きくし、サーモスイッチ113箇所で発生した光沢ムラを改善するようにした。
【0090】
本実施例のヒータ300は、発熱抵抗体H1,H2の長手方向において発熱抵抗体H1,H2のそれぞれにサーモスイッチ113が接触する一部の箇所の抵抗値を高くする際、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1の方の抵抗値を高くしている。これにより、前述したように、直列時と並列時で、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の温度分布の差を小さくすることができ、同じ温調制御温度で定着性とオフセットを両立することが可能となる。
【0091】
さらには、以下のような効果もある。ヒータ300の基板裏面の温度は、前述のように記録材搬送方向上流側よりも記録材搬送方向下流側の方が高くなる。このため、図7の(b)に示す比較例2のヒータ300のように、ヒータ300の記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の抵抗値をサーモスイッチ113が接触する箇所で、長手方向に8mm発熱抵抗体H2の幅を20.2mmから19.2mmに狭める。このように発熱抵抗体H2の長手方向の単位長さあたりの抵抗値を5%大きくすると、サーモスイッチ113を配置した箇所でのヒータ300の基板裏面の記録材搬送方向下流側の温度は、さらに高くなる。
【0092】
このように比較例2のヒータ300では、ヒータ300の基板裏面の最大温度が高くなると、サーモスイッチ113、耐熱樹脂製のヒータホルダ101の熱劣化や、耐熱性を向上させるため、部品コストの増加、設計自由度の低下などが発生して好ましくない。
【0093】
以上説明したように、サーモスイッチ113で奪われる熱量を補うため、発熱抵抗体H1,H2の一部で抵抗値を大きくする場合、サーモスイッチ113が接触する箇所で、発熱抵抗体H2より発熱抵抗体H1の抵抗を大きくしている。ここで、第1の発熱抵抗体H1の抵抗が大きい他の箇所は、第1の発熱抵抗体H1と第2の発熱抵抗体H2への通電を遮断するサーモスイッチ113と接触する箇所である。
【0094】
これにより、直列時と並列時で、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の温度分布の差を小さくし、特別な制御を不要とすることが可能となる。更に直列時のヒータ300の記録材搬送方向下流側での温度上昇を抑えられ、サーモスイッチ113などの熱劣化を抑制することが可能となる。
【0095】
[実施例3]
実施例1のヒータ300に代えて用いられるヒータ300の他の例を説明する。図8の(a)は本実施例のヒータ300の基板表面側からの概略構成模式図、(b)は比較例3のヒータ300の基板表面側からの概略構成模式図である。
【0096】
本実施例に示すヒータ300も、第1の発熱抵抗体H1における基板105の長手方向の単位長さあたりの抵抗値が、第1の発熱抵抗体H1の一部が第1の発熱抵抗体H1の一部を除く他の箇所と比較して大きいことを特徴としている。
【0097】
本実施例のヒータ300は、ヒータ300の長手方向両端部から熱の流出量が多く、ヒータ300の長手方向両端部の発熱量を高くしたい場合に用いて好適なものである。具体的には、ヒータ300の発熱抵抗体H1,H2の長手方向の単位長さあたりの抵抗値を、記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H1より記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H2の方を大きくすることを特徴とする。つまり、ヒータ300の長手方向両端部の温度低下を抑えるための構成で、記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1の長手方向両端部の幅を狭め、長手方向の単位長さあたりの抵抗値を大きくし、長手方向両端部の発熱量を大きくしている。
【0098】
ヒータ300の長手方向両端部の温度が低下する理由としては、定着フィルム102、加圧ローラ108、ヒータホルダ101などに伝わる熱損失や、対流、輻射による熱損失が、より温度差のある定着装置の長手方向両端部で大きくなることに起因する。
【0099】
本実施例のヒータ300では、図8(a)のように、発熱抵抗体H1の長手方向両端部の6mmの箇所を、発熱抵抗体H1の幅を19.8mmから18.8mmに狭めた。これにより、発熱抵抗体H1の長手方向の単位長さあたりの抵抗値を5%大きくし、ヒータ300の長手方向両端部での定着性を向上した。
【0100】
このように、発熱抵抗体H1,H2の長手方向においてヒータ300の長手方向両端部の抵抗値を高くする際、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1の方の抵抗値を高くしている。これにより、前述したように、直列時と並列時で、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の温度分布の差を小さくすることができ、同じ温調制御温度で定着性とオフセットを両立することが可能となる。
【0101】
さらには、以下のような効果もある。ヒータ300の基板裏面の温度は、前述のように記録材搬送方向上流側よりも記録材搬送方向下流側の方が高くなる。このため、図8の(b)に示す比較例3のヒータ300のように、発熱抵抗体H2の長手方向両端部の6mmの箇所を、発熱抵抗体H2の幅を20.2mmから19.2mmに狭めることで、長手方向の単位長さあたりの抵抗値を5%大きくする。すると、ヒータ300の記録材搬送方向下流側での発熱量がさらに大きくなる。これに加え、ヒータ300の長手端部での温度も発熱量も記録材搬送方向下流側で増やしているため、その箇所のヒータ300の基板裏面の記録材搬送方向下流側の温度は、さらに高くなる。
【0102】
このように比較例3のヒータ300では、ヒータ300の基板裏面の最大温度が高くなり、耐熱樹脂製のヒータホルダ101の熱劣化や、耐熱性を向上させるため、部品コストの増加、設計自由度の低下などが発生して好ましくない。
【0103】
本実施例のヒータ300は、ヒータ300の発熱抵抗体H1,H2の長手方向の単位長さあたりの抵抗値を、記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H1より記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H2の方を大きくしている。
【0104】
これにより、直列時と並列時で、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の温度分布の差を小さくし、特別な制御を不要とすることが可能となる。更に直列時のヒータ300の記録材搬送方向下流側での温度上昇を抑えられ、ヒータホルダ101の熱劣化を抑制することが可能となる。
【0105】
[実施例4]
実施例1のヒータ300に代えて用いられるヒータ300の他の例を説明する。図9の(a)は本実施例のヒータ300の基板表面側からの概略構成模式図、(b)は比較例4のヒータ300の基板表面側からの概略構成模式図である。
【0106】
本実施例に示すヒータ300は、ヒータ300の第2の発熱抵抗体H2における基板105の長手方向の単位長さあたりの抵抗値が、第1の発熱抵抗体H1の一部が第1の発熱抵抗体H1の一部を除く他の箇所と比較して小さい。そして第2の発熱抵抗体H2の抵抗値が小さい他の箇所は、基板105の長手方向において第2の発熱抵抗体H2の端部であることを特徴としている。
【0107】
本実施例のヒータ300は、ヒータ300の長手方向両端部の昇温を抑える場合に用いて好適なものである。具体的には、ヒータ300端部の温度上昇を抑えるための構成で、発熱抵抗体H2の長手方向両端部の幅を大きくし、長手方向の単位長さあたりの抵抗値を小さくし、結果ヒータ300の長手方向両端部の発熱量を小さくしている。
【0108】
ヒータ300の長手方向両端部の温度上昇を抑える理由としては、次のとおりである。記録材の幅に係らずヒータ300の長手方向の発熱量は変わらない。そのため、幅の狭い記録材が定着ニップ部Nに通紙された場合、本来記録材に伝わり失われる熱量が、ヒータ300、定着フィルム102、加圧ローラ108、ヒータホルダ101などの部材に蓄積される。このため、ヒータ300の長手方向両端部の温度が上がってしまい、各部材の耐久性、熱劣化などの観点からも好ましくない。一般的には、A4サイズ幅の210mmとLTRサイズ幅の216mmの両方に対応できるよう、発熱抵抗体H1,H2の長手方向両端部の形状が決定される。
【0109】
本実施例では、図9の(a)のように、発熱抵抗体H2の長手方向両端部の6mmの箇所を、発熱抵抗体H2の幅を20.2mmから21.2mmに太くした。これにより、発熱抵抗体H2の長手方向の単位長さあたりの抵抗値を5%小さくし、A4サイズとLTRサイズが通紙された場合においても、記録材の幅方向両端部の定着性と、ヒータ300の長手方向両端部の昇温抑制を両立できるようにした。
【0110】
このように、発熱抵抗体H1,H2の長手方向においてヒータ300の長手方向端部の箇所の抵抗値を小さくする際、ヒータ300の記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の方の抵抗値を小さくしている。これにより、前述したように、直列時と並列時で、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の温度分布の差が小さくすることができ、同じ温調制御温度で定着性とオフセットを両立することが可能となる。
【0111】
さらには、以下のような効果もある。ヒータ300の基板裏面の温度は、前述のように記録材搬送方向上流側よりも記録材搬送方向下流側の方が高くなる。このため、図9の(b)に示す比較例4のヒータ300のように、発熱抵抗体H1の長手方向両端部の6mmの箇所を、発熱抵抗体H1の幅を19.8mmから20.8mmに太めることで、長手方向の単位長さあたりの抵抗値を5%小さくする。この比較例4のヒータ300と本実施例のヒータ300では、本実施例のヒータ300方が、ヒータ300の長手方向両端部が昇温し、ヒータ300温度が最も高くなる記録材搬送方向下流側での発熱を抑えることができる。
【0112】
よって、本実施例のヒータ300の方がヒータ300の長手方向両端部の昇温を抑えることが可能となり、耐熱樹脂製のヒータホルダ101の熱劣化や、耐熱性を向上させるため、部品コストの増加、設計自由度の低下を抑制できる。
【0113】
本実施例のヒータ300は、ヒータ300の発熱抵抗体H1,H2の長手方向の単位長さあたりの抵抗値を、発熱抵抗体の長手方向両端部において記録材搬送方向下流側より記録材搬送方向上流側の方を大きくしている。
【0114】
これにより、直列時と並列時で、ヒータ300の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体H1と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体H2の温度分布の差を小さくし、特別な制御を不要とすることが可能となる。更に直列時のヒータ300の記録材搬送方向下流側での温度上昇を抑えられ、ヒータホルダ101の熱劣化を抑制することが可能となる。
【0115】
[他の実施例]
実施例1乃至実施例4に示す定着装置は未定着トナー画像を記録材に加熱定着する定着装置としての使用に限られない。例えば未定着トナー画像を加熱して記録材に仮定着する像加熱装置、或いは記録材に加熱定着されたトナー画像を加熱してトナー画像表面の光沢を増大させる像加熱装置としても使用することができる。
【符号の説明】
【0116】
6‥‥像加熱装置、20‥‥商用電源、102‥‥定着フィルム、105‥‥基板、108‥‥加圧ローラ、300‥‥ヒータ、402‥‥切替え部、H1‥‥第1の発熱抵抗体、H2‥‥第2の発熱抵抗体、P‥‥記録材、t‥‥未定着トナー画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と前記基板の上に商用電源から供給される電力によって発熱する第1の発熱抵抗体と第2の発熱抵抗体とを有する加熱体と、前記加熱体と接触しつつ移動する筒状の可撓性部材と、前記可撓性部材を介して前記加熱体と共にニップ部を形成するバックアップ部材と、前記商用電源の電圧に応じて前記第1の発熱抵抗体と前記第2の発熱抵抗体を直列接続或いは並列接続に切り替える切替え手段と、を有し、前記ニップ部で画像を担持する記録材を挟持搬送しつつ画像を加熱する像加熱装置において、
前記基板の記録材搬送方向上流側にある前記第1の発熱抵抗体の抵抗値より、前記基板の記録材搬送方向下流側にある前記第2の発熱抵抗体の抵抗値の方が小さいことを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記第1の発熱抵抗体における前記基板の記録材搬送方向と直交する長手方向の単位長さあたりの抵抗値は、前記第1の発熱抵抗体の一部が前記第1の発熱抵抗体の前記一部を除く他の箇所と比較して大きいことを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記第1の発熱抵抗体の抵抗が大きい他の箇所は、前記第1の発熱抵抗体と前記第2の発熱抵抗体への通電を遮断する通電遮断手段と接触する箇所であることを特徴とする請求項2に記載の像加熱装置。
【請求項4】
前記第1の発熱抵抗体の抵抗が大きい他の箇所は、前記基板の記録材搬送方向と直交する長手方向において前記第1の発熱抵抗体の端部であることを特徴とする請求項2に記載の像加熱装置。
【請求項5】
前記第2の発熱抵抗体における前記基板の記録材搬送方向と直交する長手方向の単位長さあたりの抵抗値は、前記第1の発熱抵抗体の一部が前記第1の発熱抵抗体の前記一部を除く他の箇所と比較して小さく、前記第2の発熱抵抗体の抵抗値が小さい他の箇所は、前記基板の記録材搬送方向と直交する長手方向において前記第2の発熱抵抗体の端部であることを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−37065(P2013−37065A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170957(P2011−170957)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】