説明

優れた熱安定性を有するクチナーゼ変異体

【課題】エステル分解酵素であるクチナーゼの突然変異体であって優れた熱安定性を有するクチナーゼ及びそれをコードする遺伝子、並びに、当該変異体クチナーゼを用いてプラスチックを分解する方法等を提供すること。
【解決手段】a) 親クチナーゼのアミノ末端に11残基以下のアミノ酸からなる付加ペプチドが結合したクチナーゼの変異体、及び/又は、
b) アスペルギルス・オリゼ株RIB-40のクチナーゼのアミノ酸配列における以下のアミノ酸残基:L2、G4,L8,P27,G28,A51、G54、K90,又はA177に対応する少なくとも1つ以上のアミノ酸残基の置換又は欠失を含む親クチナーゼの変異体であって、親クチナーゼよりも優れた熱安定性を有する該変異体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親クチナーゼ変異体、特に改良された熱安定性を有するクチナーゼの変異体、該変異体をコードするDNA配列、DNA配列を含むベクター、該DNA配列又はベクターを有する形質転換体、変異体を生産する方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クチナーゼ[EC 3.1.1.74]は、クチンを加水分解することができるエステル分解酵素である。クチナーゼは、多くの微生物から見いだされている(http://www.brenda.uni-koeln.de/php4、http://www.chem.qmw.ac.uk/iubmb/enzyme/)。
【0003】
クチナーゼは、アスペルギルス・オリゼからも見いだされ、そのコードする塩基配列および塩基配列より推定されるアミノ酸配列が、報告されている(Genome structure and nucleotide sequence of a lipolytic enzyme gene of Aspergillus oryzae. K. Ohnishi, J. Toida, H. Nakazawa, J. Sekiguchi, FEMS Microbiol Lett. 126, 126145-126150(1995)、WO 2004038016)。
【0004】
真菌のクチナーゼは、繊維産業において、ポリエステル布帛あるいはポリエステル繊維の精錬に用いられている。特許文献1には、本発明者らにより糸状菌クチナーゼを用いた生分解性プラスチック分解の方法が開発されている。又、特許文献2及び特許文献3には、より熱安定性であるクチナーゼ特異体に関する発明が記載されているが、実際に具体的な開示があるのは、フミコラ又はフザリウム属、特に、フミコラ・インソランスの特定の株由来のクチナーゼ変異体である。
【特許文献1】WO 2004/038016 A1
【特許文献2】特表2003−520016号公報
【特許文献3】特表2003−534797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、生分解性プラスチックを含むポリエステルの分解を効率的に行うためには、その酵素反応機構から、より高い温度が効率的であり、触媒効率の向上によりポリエステル分子の分解速度が上昇し、加水分解を容易にする。このため、高い熱安定性を持つクチナーゼが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究の結果、熱安定性が改良されたクチナーゼの特定の変異体を見いだし、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は以下の各態様に係る。
[1] a) 親クチナーゼのアミノ末端に11残基以下のアミノ酸からなる付加ペプチドが結合したクチナーゼの変異体、及び/又は、
b) アスペルギルス・オリゼ株RIB-40のクチナーゼのアミノ酸配列における以下のアミノ酸残基:L2、G4,L8,P27,G28,A51、G54、K90,又はA177に対応する少なくとも1つ以上のアミノ酸残基の置換又は欠失を含む親クチナーゼの変異体であって、親クチナーゼよりも優れた熱安定性を有する該変異体。
[2] 親クチナーゼがアスペルギルス、マグナポルサ、ペニシリウム、トリコデルマ、リゾプス、メタリチウム、モナスカス、アクレモニウム、又は、ムコール属に属する真菌由来である、上記1記載の変異体。
[3]アスペルギルス属に属する菌株が、アスペルギルス・ オリゼ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・ソヤエ、及びアスペルギルス・ニドランスから成る群から選択されるか、又は、マグナポルサ属に属する菌株がマグナポルサ・グリセアである、上記2記載の変異体。
[4]アスペルギルス属に属する菌株が、アスペルギルス・ オリゼ株RIB40である上記3記載の変異体。
[5]親クチナーゼのアミノ酸配列が、配列番号1、配列番号2、又は配列番号3のいずれかに示される、上記4記載の変異体。
[6]親クチナーゼのアミノ酸配列がアスペルギルス・オリゼ株RIB40 のクチナーゼのアミノ酸配列と少なくとも50%の相同性を有する、上記1記載の変異体。
[7]親クチナーゼのアミノ酸配列がアスペルギルス・オリゼ株RIB40 のクチナーゼのアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有する、上記6記載の変異体。
[8]親クチナーゼのアミノ酸配列がアスペルギルス・オリゼ株RIB40 のクチナーゼのアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性を有する、請求7記載の変異体。
[9]アミノ酸残基の置換が、L2K/R、G4D/E/S/T/V、L8D、P27D、G28D、A51D/E/N/Q/R/S/T、G54C/D/N/Q/S、K90E、及びT177Aからなる群から選択された少なくとも一つを含む、上記1〜8のいずれか一項に記載の変異体。
[10]アミノ酸残基の置換が、G4D, G54S, 又はK90Eである、上記9記載の変異体。
[11]付加ペプチドがASTDPVDLQDT又はSTDPVDLQDR(アミノ酸一文字表記)、又はその一部のアミノ酸配列を有する、上記1〜10のいずれか一項に記載の変異体。
[12]40℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.1倍以上増加している、及び/又は、50℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.1倍以上増加しているような熱安定性を有する上記1〜11のいずれか一項に記載の変異体。
[13]40℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.15倍以上増加している、及び/又は、50℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.18倍以上増加しているような熱安定性を有する上記12記載の変異体。
[14]生分解性プラスチックに対する加水分解活性を有する、上記1〜13のいずれか一項に記載の変異体。
[15]生分解性プラスチックが、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート-コ-アジペート、ポリヒドロキシブチレート、及び、ポリカプロラクトンから成る群から選択される、上記14記載の変異体。
[16]上記1〜15のいずれか一項に記載の親クチナーゼの変異体をコードするDNA。
[17]親クチナーゼをコードするDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、上記165記載のDNA。
[18]上記16又は17記載のDNA配列を含む発現ベクター。
[19]上記16若しくは17記載のDNA配列又は上記18記載のベクターを有する、形質転換細胞。
[20]上記1ないし15のいずれか一項に記載の変異体を生産する方法であって、上記19に記載の形質転換細胞を培養し、該変異体を発現させ、該変異体を回収することから成る、前記方法。
[21]発現させた変異体を細胞外に分泌させ、培地中から変異体を回収する、上記20記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、熱安定性が改良されたクチナーゼ変異体が提供される。該変異体は
の熱安定性を向上させることができる。従って、本発明のクチナーゼ変異体を用いることで、プラスチック分解過程の処理温度を上昇させることにより、単位時間あたりのプラスチックの分解効率を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の親クチナーゼの変異体において、「アスペルギルス・オリゼ株RIB-40のクチナーゼのアミノ酸配列における以下のアミノ酸残基:L2、G4,L8,P27,G28,A51、G54、K90,又はA177に対応するアミノ酸残基」とは、アスペルギルス・オリゼ株RIB-40とそれ以外の親クチナーゼとをGENETYXを用いて、アラインメント(整列化)としたときに、アスペルギルス・オリゼ株RIB-40のアミノ酸配列における上記アミノ酸残基の各位置に対応又は相当する、それ以外の親クチナーゼのアミノ酸配列上でのアミノ酸残基を意味する。従って、ぞれぞれの親クチナーゼのアミノ酸配列の間で対応するアミノ酸残基の番号は必ずしも一致するものではない。
【0010】
尚、本明細書において、上記のアミノ酸配列における変異の位置を示すアミノ酸の番号は、各変異体において、配列番号1に示されるアスペルギルス・オリゼ株RIB-40由来のクチナーゼの成熟体における1番目のアミノ酸に対応するアミノ酸を「1」として付したものである。
【0011】
本発明の親クチナーゼの変異体において、親クチナーゼよりも優れた熱安定性とは、親クチナーゼ、即ち、本発明のクチナーゼ変異体における各アミノ酸変異がない元のクチナーゼの有する熱安定性と較べて、有意又は実質的に増加した熱に対する安定性を意味し、より具体的には、下記の測定方法において、40℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.1倍以上、好ましくは1.15倍以上増加している、及び/又は、50℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.1倍以上、好ましくは1.18倍以上、更に好ましくは2倍以上増加していることを意味する。
【0012】
このような本発明の親クチナーゼの変異体の熱安定性は、具体的には以下のように測定する。
即ち、精製酵素 5 μl に 100 μl の 0.1 M Tris-HCl 緩衝液(pH 8.0)を加え、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃で30分間処理した後、室温に冷却し、0.5 mM p-nitrophenyl-butyrate (pNP-butyrate) を含む 0.1 M Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)100μlを加え、その残存活性を測定する。
【0013】
尚、活性は室温で410 nm の吸光度の上昇を測定することで、遊離する p-nitrophnol (pNP)量を測定し、エステラーゼ活性とした。
【0014】
本発明の親クチナーゼは、酵素命名法に従って [EC 3.1.1.74] として分類されるものである。親クチナーゼは、いずれの生物由来のものであっても構わないが、例えば真菌類であるアスペルギルス又は、マグナポルサ、ペニシリウム、トリコデルマ、リゾプス、メタリチウム、モナスカス、アクレモニウム、ムコール属に属する菌株、好ましくは、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・ソヤエ、アスペルギルス・ニドランス、又は、マグナポルサ・グリセアに属する菌株、より好ましくは、アスペルギルス・オリゼ株RIB40に由来するものである。
【0015】
アスペルギルス・オリゼ株RIB40に由来する親クチナーゼのアミノ酸配列の例として、配列番号1、配列番号2、又は配列番号3のいずれかに示されるものを挙げることができる。
【0016】
配列番号1に示されたクチナーゼは、アスペルギルス属に属する菌の好適例であるアスペルギルス・ オリゼ株RIB40株(FERM P−18273)由来のクチナーゼ成熟体のアミノ酸配列である。該RIB40株は、独立行政法人酒類総合研究所:東広島市鏡山三丁目7番1号、において同番号にて保存され、分譲可能であり、又、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1)に平成13年3月28日付けで寄託され、受託番号(FERM P−18273)を付されている。
【0017】
配列番号2は、上記特許文献1の表8においてPBS分解酵素類似体遺伝子「Homologue1」(配列番号4)として記載されている遺伝子にコードされたクチナーゼ成熟体のアミノ酸配列である。又、配列番号3は、上記特許文献1の表8においてPBS分解酵素類似体遺伝子「Homologue2」(配列番号5)として記載されている遺伝子にコードされたクチナーゼの成熟体のアミノ酸配列である。尚、これら各クチナーゼの間のアミノ酸配列における同一性(相同性)は、配列番号1及び配列番号2の間で54%、配列番号1及び配列番号3の間で78%である。
【0018】
或いは、本発明の変異体において、親クチナーゼのアミノ酸配列がアスペルギルス・オリゼ株RIB40 のクチナーゼのアミノ酸配列と少なくとも50%、好ましくは70%、より好ましくは80%の相同性を有しているものである。特に、アスペルギルス・オリゼ株 RIB-40クチナーゼとともにアライメントが可能であるものが好ましい。
【0019】
本発明のクチナーゼ変異体は、a) 親クチナーゼのアミノ末端に11残基以下のアミノ酸からなる付加ペプチドが結合したクチナーゼの変異体、及び/又は、b) アスペルギルス・オリゼ株RIB-40のクチナーゼにおける以下のアミノ酸配列番号:L2、G4,L8,P27,G28,A51、G54、K90,又はA177に対応する少なくとも1つ以上のアミノ酸残基の置換又は欠失を含むクチナーゼの変異体である。
【0020】
11残基以下のアミノ酸からなる付加ペプチドの例としては、ASTDPVDLQDT又はSTDPVDLQDR(アミノ酸一文字表記)、又はその一部のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列を有するペプチドが好ましい。又、アミノ酸残基の置換の具体例として、L2K/R、G4D/E/S/T/V、L8D、P27D、G28D、A51D/E/N/Q/R/S/T、G54C/D/N/Q/S、K90E、及びT177Aを挙げることが出来る。特に、G4D, G54S, 又はK90Eの置換が好ましい。尚、本発明のクチナーゼ変異体の熱安定性に実質的な悪影響を与えない限り、前述の置換に加えて、必要に応じて、1ないし数個の他のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は、挿入を含むことができる。
【0021】
本発明において、アミノ酸残基の置換を定義するために用いる命名法は、置換前のアミノ酸及びその位置、並びに、置換後のアミノ酸によって同定される。すなわち 「G4D」 は、4番目のグリシンがアスパラギンに置換されたことを示し、スラッシュで区切られた置換後のアミノ酸は、そのいずれのアミノ酸に置換されたものを示す。すなわち「G4D/S」は、4番目のグリシンがアスパラギン酸あるいはセリンに置換された変異を示す。
【0022】
本発明のクチナーゼ変異体は、ポリエステル及びポリアミド等の各種プラスチック、例えば、生分解性プラスチックに対する加水分解活性を有しており、これらの酵素的加水分解のために使用することができる。ここで、「生分解性プラスチック」とは、「使用状態ではその使用目的において必要とされる充分な機能を保ち、廃棄されたときには土中又は水中の微生物の働きによって、より単純な分子レベルにまで分解されるプラスチック」ともいうべき物質である。分解の程度に基づいて、「完全分解型生分解性プラスチック」と「部分分解(崩壊)型生分解性プラスチック」とに分けられ、更に、材料及び製造方法からは、「微生物生産系」、「天然高分子系」及び「化学合成系」に大きく分けることが出来る。本発明方法では、これらのいずれの種類の生分解性プラスチックも使用することが出来る。
【0023】
特に、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート−コ−アジペート、ポリヒドロキシブチレート、及び/又は、ポリカプロラクトンを含む生分解性プラスチックを本発明のクチナーゼ変異体で処理することによって、これらの生分解性プラスチックを効率よく分解することができる。
【0024】
より具体的には、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート−コ−アジペート、ポリヒドロキシブチレート、及び/又は、ポリカプロラクトンを含む生分解性プラスチックをクチナーゼ変異体で処理することにより、これらのポリエステルを加水分解し、可溶化した構成成分モノマー若しくはそれらが複数個重合したオリゴマー、又は、それらの塩を回収することができる。ここで、構成成分モノマーとは、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート−コ−アジペート、ポリヒドロキシブチレート、及び/又は、ポリカプロラクトンを重縮合、共重合、開環重合等により合成する際の原料となるモノマーのことであり、脂肪族カルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、環状エステル等が含まれる。
【0025】
更に、本発明のクチナーゼ変異体を用いる全ての方法において、分解の対象となるプラスチックは乳化液状及び固形ペレット等の、夫々の反応系に応じた任意の形態をとることが出来る。或いは、所謂「複合材料」の一構成要素として含まれているものでもよい。ここで、「複合材料」とは一般的に2種類以上の異なる物質から構成されている材料であり、例えば、プラスチックと各種金属及びその他の無機物質から構成されているものがある。このような複合材料は各種産業素材として多方面で各種の目的に利用されている。
【0026】
従って、上記の方法によって、プラスチックを含む複合材料から、プラスチック部分を選択的に分解して、プラスチックをモノマー又はオリゴマーとして回収し、一方で、プラスチックを実質的に含まない金属等のその他の部分を回収することが出来る。
【0027】
上記方法において、本発明のクチナーゼ変異体を用いるプラスチックの分解反応は、目的・規模などに応じて、当業者に公知の任意の反応系(例えば、水溶系及び固相系)及び反応条件を適宜選択して実施することが出来る。例えば、溶媒としては、水、緩衝液、有機溶媒と水、あるいは、有機溶媒と緩衝液の混合物が挙げられる。これらの溶媒には、必要に応じ、界面活性剤、有機物、無機物等を添加することができる。これらの分解反応系に本発明のクチナーゼ変異体を添加することにより、プラスチックを分解することが出来る。更に、特許文献1に開示されているように、当業者に公知の適当なバイオサーファクタントを適宜反応系に添加し、該バイオサーファクタントの存在下でプラスチックを分解させることも出来る。各物質の添加の量及び割合・添加の時期等の諸条件は当業者が適宜選択することが出来る。
【0028】
溶媒には、pHを安定させ加水分解効率を向上させるために、緩衝剤を添加することが好ましい。溶媒のpHは、好ましくは5-12、より好ましくは5-9、更に好ましくは5-8である。
【0029】
或いは、上記の分解方法において、本発明の形質転換体(細胞)の培養系に分解したいプラスチックを共存させ、形質転換体を該物質に接触させることによってプラスチックを分解することが可能である。この方法は、例えば、プラスチック乳化液を含む液体培養系及びプラスチック固型ペレット又はプラスチック粉体等を使用する固体培養系等の当業者に公知の任意の培養系において行うことが出来る。
【0030】
尚、上記培養系において、上記のプラスチックが分解された可溶化した構成成分モノマー若しくはそれらが複数個重合したオリゴマー等の物質自体が形質転換体の唯一の栄養源(炭素源・窒素源)として消費されることもある。或いは、他の炭素源、窒素源を別途、培養系に添加することも出来る。例えば、炭素源としてはグルコース等の各種糖類、窒素源としては有機窒素源、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーン・スチープ・リカー等、無機窒素源、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等を含有することができる。更に所望により、培地中には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオンと硫酸イオン、塩素イオン、リン酸イオン等の陰イオンとからなる無機塩類を含まれていてもよい。さらに、ビタミン類、核酸類等の微量要素を含有されることもできる。
【0031】
上記培養系における、形質転換体の培養条件(培地、温度及びpHなど)は、当業者に公知の条件から宿主の種類等に応じて適宜選択することが出来る。更に、上記国際公開公報に開示されているような、当業者に公知の任意の界面活性物質若しくはバイオサーファクタントを、例えば外部より添加することによって反応系に共存させ、それらの存在下で高分子物質の分解を更に促進することも可能である。尚、これらの物質は必ずしも同時に添加する必要はなく、方法の各段階で逐次的に添加することも可能である。
【0032】
更に、本発明のクチナーゼ変異体は、リパーゼ及びクチナーゼの他の既知の用途、例えば、ポリエステルを含む繊維、布帛の精錬(WO 97/27237)、製パン産業(WO 94/04035、およびEP 585988)、製紙産業(EP 374700)、及び皮革、羊毛に関する産業において、またグリース及び脂肪の除去等に用いることができる。さらに、有機合成の触媒としても用いることができる。
【0033】
本発明のクチナーゼ変異体は、当該技術分野において公知の任意の方法(例えば、特許文献1に記載の方法)によって製造することができる。以下、本発明のクチナーゼ変異体をコードするDNAを調製(クローニング)方法、及びクチナーゼ変異株の取得方法等を述べる。
【0034】
クチナーゼをコードするDNA配列の取得
親クチナーゼをコードするDNA(遺伝子)の代表的な例として、アスペルギルス・オリゼ株RIB40に由来するクチナーゼのアミノ酸配列をコードする、配列番号1、配列番号2、又は配列番号3のいずれかに示される塩基配列を有するDNAを挙げることができる。これらのDNAは、例えば、WO 2004/038016 A1に記載の方法等の当該分野において公知で任意の方法を使用して当該クチナーゼを生産する任意の細胞又は微生物から容易に単離・クローニングすることが出来る。或は、本明細書に記載された本発明DNAの塩基配列又はアミノ酸産配列の情報に基づき、当業者に周知の化学合成、又は、本発明のプライマーを使用したPCRにより増幅して調製することも出来る。従って、本発明のDNAは、ゲノムDNA,cDNA及び合成DNA等の当業者に公知の任意の種類であり得る。
【0035】
クチナーゼ変異体遺伝子の構築
クチナーゼ変異体は、選択された位置における領域特異的変異導入、領域特異的アミノ酸挿入、部位特異的変異導入、部位特異的アミノ酸挿入、又は、局在的ランダム突然変異導入、すなわち親クチナーゼの選択された位置または領域の中にランダムにアミノ酸の置換を導入する等の当業者に公知の任意の方法により作成することができる。例えば、ストラタジーン社製のQuikChange II Site-Directed Mutagenesis Kits 等を用いて行うことができる。
【0036】
従って、こうして調製される本発明のクチナーゼ変異体をコードするDNAは、親クチナーゼをコードするDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであり得る。
【0037】
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、各塩基配列間の相同性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度150〜900mM、好ましくは600〜900 mM、pH 6〜8であるような条件を挙げることが出来る。
【0038】
ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0039】
得られたクチナーゼ変異体をコードするDNAを、プラスミド、pET12b、pET15b及びpNGA142等の適当なベクターに挿入し、発現ベクターを構築することが出来る。
【0040】
クチナーゼ変異体をコードする遺伝子は、いわゆる発現ベクターを用いて、成熟型タンパク質、あるいは前駆体タンパク質(プレプロ体)として生産することができる。本発明のクチナーゼ変異体をコードするDNA配列を有する組換え発現ベクターは、組換えDNA手法によって取り扱うことが可能な、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、及び各種の混成ベクター等の任意のベクターである。こうして得られた発現ベクターを用いて各種の細胞を形質転換することができる。この組換え用DNAは、組換えDNA手法によって取り扱うことが可能な任意のベクターである。これらのベクターは、その導入すべき宿主細胞に依存して適当に選択することが出来る。該ベクターは、宿主細胞の中に導入する際に、宿主細胞のゲノムの中にその全体あるいはその一部がゲノム中の1箇所以上に組込まれることができる。このようなベクターの一例として大腸菌宿主用のpET-12BbやpAUR101などを挙げることができる。
【0041】
本発明の発現ベクターには、典型的には、当業者に公知の、各種プロモーター等の各種調節配列、リボソーム結合部位、シグナル配列、および翻訳開始配列等の各種要素ならびにその他の外来性あるいは内在性タンパク質をコードする遺伝子、各種薬剤耐性遺伝子、栄養要求性を相補する遺伝子等を任意に含むことができる。
【0042】
本発明のクチナーゼ変異体を発現させるに必要なプロモーターは、形質転換によって得られた宿主細胞に依存するが、選択した宿主細胞において、転写活性を有し、かつ宿主細胞に対して相同的または異種的であるタンパク質をコードする遺伝子に由来することができる任意のDNA配列であることができる。
【0043】
例えば、原核微生物を宿主とする本発明のクチナーゼ変異体をコードする遺伝子の転写を調節する適当なプロモーターの例として、大腸菌エシェリシア・コリのlac プロモーター、バシルス・リケニフォルミスのα‐アミラーゼ遺伝子(amyL)のプロモーター、バシルス・アミロリクファシエンスのα‐アミラーゼ遺伝子(amyQ)のプロモーターを挙げることができる。
【0044】
また、真核微生物を宿主とした際に用いることのできるプロモーターの例として、サッカロミセス・セリビシエのガラクトシダーゼ遺伝子、アスペルギルス・オリゼのタカアミラーゼ遺伝子、エノラーゼ遺伝子、キシラナーゼ遺伝子、ホスホグルコキナーゼ遺伝子、グルコアミラーゼ遺伝子、リゾムコール・ミエハイのアスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子、アスペルギルス・ニガーのグルコアミラーゼ遺伝子、リゾムコール・ミエハイのリパーゼ遺伝子などのプロモーターを挙げることができる。
【0045】
得られたクチナーゼ変異体遺伝子をコードするDNA配列を含む発現ベクターは、例えば、塩化カルシウム法、プロトプラスト‐PEG法、エレクトロポレーション法、Tiプラスミド法、パーティクルガン法、バキュロウィルス法などの公知の任意の方法によって宿主細胞へと導入でき、形質転換体を作成することができる。更に、複数種の組換えDNAを用いるコトランスフェクション法によっても可能である。
【0046】
本発明においてクチナーゼ変異体をコードするDNA配列を含む発現ベクターによって形質転換される宿主細胞として、原核微生物、真核微生物、植物細胞、昆虫細胞、卵を含む鳥類細胞、哺乳類細胞等を用いることができる。たとえば、原核微生物の例としてはエシェリヒア属、バチルス属、又はストレプトマイセス属のストレプトマイセス・グリセウスまたはストレプトコッカス・セリカラー等を宿主とすることができる。真核生物としては、サッカロミセス属およびピヒア属等の酵母、およびアスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾプス属、メタリチウム属、モナスカス属、アクレモニウム属、ムコール属等の糸状菌、トリコデルマ属等の担子菌などから選択することができる。昆虫細胞としてはキイロショウジョウバエ、カイコ等の細胞を用いることができる。
【0047】
尚、本発明にかかる形質転換体は、上記ベクターのほかに、任意の外来性あるいは内在性タンパク質をコードする遺伝子を含む別の1つまたはそれ以上の組換え用DNAによって形質転換されることができる。
【0048】
上記発現ベクターの代わりに、PCR増幅等により取得されるクチナーゼ変異体をコードする遺伝子を含む適当なDNA断片自体を用いて本発明の形質転換細胞を得ることも可能である。そのような場合には、かかるDNA断片に加えてさらに適当な緩衝液及びその他の助剤を任意に含む溶液等の組成物として形質転換に使用することができる。
【0049】
クチナーゼ変異体の生産
本発明は、本発明におけるクチナーゼ変異株の生産に関わる方法に関し、変異体遺伝子を含む形質転換された宿主細胞を変異体生産に好ましい条件で培養し、該変異体を発現させ、好ましくは、発現させた変異体を細胞外に分泌させ、その宿主細胞および/または培地から変異体を回収する方法を含んでいる。宿主細胞の培養に用いる培地は、形質転換された宿主細胞を増殖させ、本発明のクチナーゼ変異体を発現させるための当業者に公知である任意の培地であることができる。
【0050】
宿主細胞から分泌されたクチナーゼ変異体は、当業者に公知の任意の手段の適当な組み合わせ、例えば、遠心または濾過による培地と細胞の分離、および硫酸アンモニウムの様な塩による培地のタンパク質成分の沈殿、及びこれに続く疎水クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、又はその他のクロマトグラフィーの使用により培地から回収することができる。
【0051】
以下に実施例に即して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、実施例における各種遺伝子操作は、Current Protocols in Molecular Biology (edited by Frederic M. Ausbel, et al., 1987) に記載されている方法に従った。
【実施例】
【0052】
突然クチナーゼ変異体ライブラリーの作成
クチナーゼをコードするcDNA を取得するために、0.5 ×106 個/ mlとなるようにアスペルギルス・オリゼRIB-40の分性子を500 ml容三角フラスコ内の100 ml の 1 (v/v) % PBS 乳化液(昭和高分子)を含み、唯一の炭素源とした Czapek-Dox 培地(34 μg/ml クロラムフェニコール)(Nakajima, K., et al (2000) Curr. Genet., 37, 322-327)に添加した。添加後 30℃、125 rpm、5日間培養した。菌糸体を MIRACLOTH(CALBIOCHEM(登録商標))にて濾別・回収した。得られた菌糸体の湿重量を計測した後、乳鉢中で液体窒素を注ぎながらパウダー状になるまで磨砕した。湿重量の4倍量のSepasol-RNA I Super を入れた50 ml 容チューブにパウダー上の菌体を移し、激しく攪拌した後、室温にて 5 分間静置した。Sepasol-RNA I Super の 1/5 量のクロロホルムを加え、よく攪拌した後、室温で3分放置した。10,000×g、4℃、15分間遠心した後、水層を 15 ml 容チューブに移し同量の水飽和酸性フェノール・クロロホルム(フェノール/クロロホルム=1/1)を加え混合後、12,000×g、4℃、10分間遠心し、上清を捨て、10 ml の 70% エタノールでリンスした。風乾後、適量の DEPC (diethylpirocarbonate)処理水に溶解させこれをトータル RNA 溶液とした。
【0053】
次にトータル RNA から mRNA の精製を Message Maker (Gibco BRL) を用いて行った。精製操作は、Message Maker に添付のマニュアルに従った。以下トータル RNA 量が 1 mg の際の手順を示した。1 mg のトータル RNA を 15 ml 容チューブ内でDEPC 処理水を用いて 1.8 ml にフィルアップ(終濃度 0.55 mg/ml)し、65度、5 分間インキュウベートした後、氷上で急冷し、200 μl の 5 M NaCl を加え、よく攪拌した後 oligo (dT) Cellulose Suspension を 1 ml 添加し、よく混合した後、37℃で10 分間インキュベートした。サンプルをシリンジに入れプランジャーで押し切った後、ディスポーザブルカップに入れた 3 ml の Wash buffer 1 をシリンジで吸った。シリンジ中の液をよく懸濁し、液をプランジャーで押し切った。同様の操作を 3 ml のWash buffer 2 で行った。次いで、65度に予温しておいたDEPC 処理水 1 ml をシリンジで吸い上げ、よく懸濁した後 15 ml チューブに押し出した。再度、DEPC処理水で同様の操作を行った後、2度の操作で得られた溶出液をあわせ、12,000×g、4℃で3分間遠心し、oligo(dT) Cellulose suspension を取り除いた。この上清約 2 ml に対し、 20 μl の 5 mg/ml のグリコーゲン溶液と 200 ml の7.5 M 酢酸アンモニウム(pH 5.2)を加えて混合し、1.5 ml 容チューブ5本に分注し2倍量の氷冷エタノールを加え、-20℃で一晩放置した。その後12,000×g、4度で30分間遠心した後、上清を捨て、75% エタノールでリンスした。風乾後、適量のDEPC処理水に溶解させ、これを mRNA 溶液とした。
【0054】
次に、得られた mRNA を鋳型として逆転写反応を行った。1.5 ml 容チューブに 5 μl のmRNA(92 ng/μl)、1 μl のoligo (dT) primer (0.5 μg/μl)、4 μl の dNTP mix (各dNTP とも 2.5 mM)、2μlの DEPC 処理水を加え、70℃で10分間インキュベートした後、氷上で1分間以上放置し、mRNA に oligo (dT) primer をアニールさせた。次にこの反応液に 4 μl の 5×First Strand Buffer(250 mM Tris-HCl、pH 8.3、375 mM KCl、15 mM MgCl2)2 ml の DTT を加え、42度で5分間インキュベートした後、1 μl の逆転写酵素SuperScript II RT (200 U/μl) を加え、ピペッティングによる攪拌後、42℃で50分間インキュベート、さらに1 ml のSuperScript II RT (200 U/μl) を加え、ピペッティングによる攪拌後、42℃で50分間インキュベートし、逆転写反応を行った。この溶液を70℃で15 分間インキュベートし逆転写酵素を失活させた。さらに1μlのRNaseH (10 U/μl) を加え、37℃で 20 分間インキュベートし、未反応の mRNA を分解した。この逆転写反応で得られた溶液を cDNA ライブラリー溶液とした。
【0055】
次に、すでに明らかとなっているアスペルギルス・オリゼのクチナーゼ(Ohnishi, K., et al. (1995) FEMS Microbiol. Lett., 126 (2), 145-150)をコードする塩基配列を元にオリゴヌクレオチド5’-GCGTCGACGGATCCGGTGGACC-3’(配列番号4)及び5’-GTTAGCAGCCGGATCCCGAAAATTTATCCCAGC-3’(配列番号5)を合成した。この1組のプライマーセットを用い、cDNAライブラリーを鋳型としてPCR を行い、クチナーゼをコードする cDNA を増幅した。PCR 装置は、PCR Thermal Cycler Personal (宝酒造)を用いた。cDNA ライブラリーは、上記のcDNA ライブラリー溶液を 1 ml 用い DNA ポリメラーゼは、Ex Taq DNA polymerase (タカラバイオ)を用いた。増幅反応は、95℃、3 分間で鋳型 DNA を変性し、95℃、1 分間、60℃、1分間、72℃、1分間保持するサイクルを30サイクル行った後、72度、12分間で完全伸張させ4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロース電気泳動に供したところ、約626塩基対からなる断片の増幅が確認された。
【0056】
得られたPCR増幅断片を制限酵素BamHIで消化しアガロース電気泳動に供して、エチジウムブロミドで染色後、UV照射下で約608塩基対からなるDNA断片を切り出した。ゲル中より SUPREC-01(タカラバイオ)を用いてDNA を抽出しこれを挿入DNA断片とした。次に塩基配列中に T7 プロモーター配列とシグナル配列(OmpT-leader sequence)を有する pET12b プラスミド DNA 5μg をシグナル配列の直後にある制限酵素 BamHI 認識部位の位置で BamHI(タカラバイオ)で消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理を行った後、アルカリホスファターゼ(タカラバイオ)により5’ 末端のリン酸基を除去した。この反応液を定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理を行った後 TE に溶解したものをベクターDNA とした。次いで、1 μg のベクターDNA と1.5μgの挿入断片DNAをT4 DNA ligase(タカラバイオ)によって連結させ、連結DNAを得た。
【0057】
この連結 DNA 溶液 2 μl と 10μl の10×KCM(1 M KCl、0.3 M CaCl2、0.5 M MgCl2)、7 μl の30% (w/v) PEG#6000、81 μl の滅菌水を混合し、100 μl の形質転換可能な大腸菌DH5α(タカラバイオ)を加え、氷中に20分間、室温に10分間放置し、形質転換大腸菌懸濁液を得た。次に 50 μg/ml のアンピシリンを含むLB 寒天培地上に形質転換大腸菌懸濁液をまき、37℃で16時間培養した。培地上の単コロニーを拾い、50 μg/ml のアンピシリンを含むLB 液体培地に移植し、37℃にて16時間培養した。培養液1.5 ml を1.5 ml 容のチューブに移し、15,000×g、1分間遠心し菌体を沈殿させた。培地を取り除いた後、菌体を100 μl のTGE(25 mM Tris-HCl 緩衝液 (pH 8.0)、10 mM EDTA、50 mM グルコース)で懸濁し、これに200μlの1%(w/v)SDSを含む 0.2 N NaOH を加え穏やかに混合し、氷中に5分間放置した。次いで、150 μl の 3M 酢酸ナトリウム pH 5.2 を加え穏やかに混合し、15,000×g、4℃、10分間遠心分離し、上清を新しい1.5 ml 容マイクロチューブに移した。これに 600μl の2-プロパノールを加え、よく混合した後 15,000 ×g、4℃、10分間遠心し、上清を除いた。70%(v/v)エタノールで沈殿を洗浄し、15,000 ×g、4℃、10分間遠心し、上清を完全に除き沈殿を得た。沈殿を 0.1 ml のTE に溶解し、これをプラスミド DNA 溶液とし、本発明の発現ベクターの一つである、大腸菌形質転換用プラスミド DNA(pETCUTL1)を得た。このプラスミド DNA 中の挿入 cDNA 断片、T7プロモーター配列シグナル配列を含む塩基配列を ABI PRISMTM 377 DNA sequencer Long Read (PE Bioxystem) のプロトコールに従い、ABI PRISMTM 377 DNA sequencing system (PE BIOsystem) にて解析した(配列番号6)。
【0058】
この配列番号6においては、アスペルギルス・オリゼ由来のクチナーゼをコードする塩基配列より、そのシグナル配列をコードする塩基配列を除き、pET12bが持つ OmpT シグナル配列の下流に挿入したため、タンパク質に翻訳されるとアスペルギルス・オリゼのクチナーゼ遺伝子がコードするシグナル配列の変わりに OmpTシグナル配列‐付加ペプチド‐成熟体クチナーゼ配列となる(配列番号6)。そのため、この配列においては、シグナル配列の切断が生じた後の成熟体酵素のアミノ末端アミノ酸配列は、STDPVDとなる。
【0059】
先に述べた方法で獲得したクチナーゼをコードする遺伝子を持つプラスミドDNA (pETCUTL1)を鋳型として5’-GATAAATTTCTCGAGCCGGCTGCTAAC-3’(配列番号8)ならびに5’-GTTAGCAGCCGGCTCGAGAAAATTTATC-3’(配列番号9)を用いて Staragene 社製 QuikChangeTM Site-directed Mutagenesis kit によりクチナーゼ遺伝子の 3’ 側に存在する BamHI 切断部位をXhoI 切断部位へと変換したプラスミドDNA を作成した(pETCUTL1-X)。新たに作成したプラスミド DNA (pETCUTL1-X)より制限酵素 BamHI および XhoI を用いて切り出した約 600 bp のフラグメント 10 μg を50 μl の 0.8 M ヒドロキシルアミンおよび1 mM EDTA を含む 0.1 M リン酸緩衝液(pH 6.0)に溶解し、65℃、2時間インキュベートした。インキュベート終了後、定法によりエタノール沈殿を行い 50 μl のTE に溶解しクチナーゼ変異体遺伝子ライブラリーとした。クチナーゼ変異体遺伝子ライブラリーは、制限酵素BamHI および XhoI で切断し、アルカリホスファターゼで処理したプラスミド DNA (pETCUTL1-X)をアガロース電気泳動に供し、回収した 約 4,657 bp のベクターDNA にT4 DNA ligase (タカラバイオ)を用いて連結し、連結 DNA を得た。この連結 DNA 溶液 2 μl と 10μl の10×KCM(1 M KCl、0.3 M CaCl2、0.5 M MgCl2)、7 Mμl の30% (w/v) PEG#6000、81 μl の滅菌水を混合し、100 μl の形質転換可能な大腸菌DH5α(タカラバイオ)を加え、氷中に20分間、室温に10分間放置し、1 ml の LB 液体培地を加え、37℃で1時間振盪培養した後、この培養液のうち 100 μl を 3 ml の 50μg/ml のアンピシリンナトリウムを含む LB w/o NaCl 液体培地に加え、37℃、16時間、振盪培養した。培養液1.5 ml を1.5 ml 容のチューブに移し、15,000×g、1分間遠心し、菌体を沈殿させた。培地を取り除いた後、菌体を100 μl のTGE(25 mM Tris-HCl 緩衝液 (pH 8.0)、10 mM EDTA、50 mM グルコース)で懸濁し、これに200 μl の1%(w/v)SDSを含む 0.2 N NaOH を加え穏やかに混合し、氷中に5分間放置した。次いで、150 μl の 3M 酢酸ナトリウム pH 5.2 を加え穏やかに混合し、15,000×g、4℃、10分間遠心分離し、上清を新しい1.5 ml 容マイクロチューブに移した。これに 600 μl の2-プロパノールを加え、よく混合した後 15,000 ×g、4℃、10分間遠心し、上清を除いた。70%(v/v)エタノールで沈殿を洗浄し、15,000 ×g、4℃、10分間遠心し、上清を完全に除き沈殿を得た。沈殿を 0.1 ml のTE に溶解し、これを増幅クチナーゼ変異体遺伝子ライブラリー溶液とした。この増幅クチナーゼ変異体遺伝子ライブラリーを用いて大腸菌BL21-SI 株(Invitrogen)を形質転換し、LB w/o NaCl 寒天培地上に多数の単コロニーを得た。
【0060】
クチナーゼ変異体の選抜
爪楊枝を用いてこれらの単コロニーを 50 μg/ml のアンピシリンナトリウムを含む LB w/o NaCl 固体培地および 200 μl の 50 μg/ml のアンピシリンナトリウムを含む LB 液体培地に植菌し各々 37℃、36時間振盪培養した。液体培養終了後、3,000×g、15分間遠心分離して培養上清を得た。得られた培養上清10μl に100 μl 0.1 M Tris-HCl 緩衝液 pH 8.0 を加え、70℃で30分間処理した後に室温に冷却し、0.50 mM pNP-butyrateを含む 0.1 M Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)100μl のを加え、その残存する活性を測定した。尚、コントロールとしては、変異を加えていないクチナーゼ遺伝子を持つ形質転換大腸菌の培養上清を用いた。
【0061】
その結果、約9000個のコロニーから上記の方法で耐熱性を持つクチナーゼをコードする遺伝子を持つ株を取得した。表1にこれらの株の培養上清中の酵素の耐熱性を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
DNA 分析
上記方法で得たクチナーゼ変異体A-Cをコードする遺伝子の塩基配列を決定するために定法に従って、変異耐酵素遺伝子を持つ株を50 μg/ml のアンピシリンナトリウムを含む LB w/o NaCl 液体培地に植菌し、37℃、16時間振盪培養した。培養終了後、先に示した方法により大腸菌培養液からプラスミド DNA を回収した。回収したプラスミド DNA は、先に述べた方法でその塩基配列を決定した。クチナーゼ変異体A-Cをコードする遺伝子は、夫々、配列番号10、11、及び12に示す塩基配列の DNA を含んでおり変異導入前の配列番号6とその異同を調べたところ第101番目の塩基であるGがAに変異しその変異によってG4D、第250番目の塩基であるG がA に置換されておりその変異によって G54S、第358番目の塩基であるA がGに置換されておりその変異によってK90Eの置換が生じていることがわかった(これらの塩基配列番号は、配列番号6に示した、大腸菌発現系におけるクチナーゼの塩基配列による)。
【0064】
クチナーゼ変異体の精製
上記クチナーゼ変異体遺伝子が挿入されたプラスミド DNAを用いて形質転換された大腸菌形質転換株のコロニーをガーゼにて拾い、50 μg/ml のアンピシリンナトリウムを含む3 ml のLB w/o NaCl液体培地で37℃、16時間培養し、前培養液を得た。得られた前培養液を 5000 ml 容三角フラスコ内の50 μg/ml のアンピシリンナトリウムを含む1000 ml のLB 液体培地に添加した。添加後30℃、24-48時間振盪培養し、目的の酵素タンパク質を培養上清中に誘導・発現させた。培養液を500 ml 容遠沈管に分注し、8,000×g、4℃、30分間遠心分離し、培養上清を得、これを粗酵素液とした。粗酵素液に対して 20% 飽和となるように硫酸アンモニウムを加え、これを20% 飽和硫酸アンモニウムを含む10 mM Trsi-HCl pH 8.0 で平衡化した Octyl-Cellulofine (生化学工業)に供し、吸着したタンパク質を 20-0% 硫酸アンモニウムによる直線濃度勾配で溶出した。回収された活性画分を10 mM Tris-HCl pH 8.0 に対して充分透析した後、10 mM Tris-HCl pH 8.0 で平衡化したDEAE-Toyopearl 650 M に供した。吸着したタンパク質を 0-0.5 M NaCl 直線濃度勾配によって溶出した。得られた活性画分を再び 10 mM Tris-HCl pH 8.0 で透析した後、10 mM Tris-HCl pH 8.0 にて平衡化した Hitrap Q (Amersham-Pharmacia) に供し、吸着した活性画分を0-0.5 M NaCl 直線濃度勾配で溶出した。
【0065】
クチナーゼ変異体の性質
上記の方法によって得られた各クチナーゼ変異体と対照のアミノ酸置換のないクチナーゼの熱安定性を上記の測定法を用いて調べた。得られた結果を図1に示す。その結果、アミノ酸置換を有する各クチナーゼ変異体は、コントロールと比較して、優れた熱安定性を有することが確認された。具体的には、40℃で30分間処理した後に測定した残存活性がコントロール(親クチナーゼ)に対して1.1倍以上増加していた。又、50℃で30分間処理した後に測定した残存活性もコントロール(親クチナーゼ)に対して1.1倍以上増加していた。
【0066】
クチナーゼ変異体の麹菌アスペルギルス・オリゼを宿主とした発現系の構築
上記において示された大腸菌における変異酵素は全て麹菌においてネイティブである酵素のアミノ末端に10個のアミノ酸配列: STDPVDLQDRが付加したものとなっている。そこで、このような付加を含まない麹菌ネイティブの酵素に上記アミノ酸変異を導入したクチナーゼ変異体を作成した。
【0067】
特許文献1において記載されているアスペルギルス・オリゼ由来クチナーゼのアスペルギルス・オリゼを宿主とした発現系におけるアスペルギルス・オリゼ発現用プラスミド DNA pNG-cutを鋳型として 5’-CAATTGACTGATGGGGATGAGCTCCGGGATGGC-3’(配列番号13)及び5’-GCCATCCCGGAGCTCATCCCCATCAGTCAATTG-3’(配列番号14) を一組とするプライマーセット、5’-GGCGATGTTGCATGCAGAGTGTCGGACCC-3’(配列番号15) 及び 5’-GGGTCCGACACTCTGCATGCAACATCGCC-3(配列番号16)を一組とするプライマーセット、5’-CAAGCTGTTTCCGAGTGTCCGGATACGCAGATCG-3’(配列番号17)及び5’-GGGTCCGACACTCTGCATGCAACATCGCC-3(配列番号18)を一組とするプライマーセットを用いて Staragene 社製 QuikChangeTM Site-directed Mutagenesis kit により、上記の大腸菌を用いて調製した変異ライブラリーより得られたアミノ酸の変異位置に相当する位置に変異を導入して G4D、G54S、K90E 変異体を作成し、それぞれの変異を持つクチナーゼ変異体遺伝子を持つ麹菌発現用プラスミドを各々pNG-PcutG4D、pNG-PcutG54S、pNG-PcutK90Eとした。
【0068】
さらに、大腸菌発現系においては、OmpT タンパク質のシグナルペプチドをコードする塩基配列の下流に麹菌での予想されたシグナル配列を除いたアミノ酸配列をコードする塩基配列が接続されたため、付加ペプチドであるSPVDL配列が挿入されていた。アスペルギルス・オリゼを宿主とした際もアミノ末端に付加ペプチドを結合させるために、5'-CTGCAGTGGCAGCAGCAGCTAGCACGGATCCGGTGGACC-3'(配列番号19) 及び5'-GGTCCACCGGATCCGTGCTAGCTGCTGCTGCCACTGCAG-3'(配列番号20)を作成し、大腸菌を宿主とした際に発現したクチナーゼのアミノ末端にさらにAlaが付加し、付加したペプチドの末端のArgをThrに置換した ASTDPVDLQDT 配列を上記と同様 Staragene 社製 QuikChangeTM Site-directed Mutagenesis kit により変異を導入し、この変異を持つクチナーゼ変異体遺伝子を持つ麹菌発現用プラスミドをpNG-PcutNTとした。
【0069】
作成したプラスミド DNA は、前述の方法で、定法により塩基配列の確認を行ない、アスペルギルス・オリゼの形質転換に用いた。この時のpNG-PcutG4D、pNG-PcutG54S、pNG-PcutK90E及びpNG-PcutNTの各麹菌発現用プラスミドに含まれる、クチナーゼ変異体の塩基配列を、夫々、配列番号 21、22、23、及び24 に示す。アスペルギルス・オリゼの形質転換については、特許文献1に記載されている方法に従った。尚、同時にコントロールとして変異を導入していない pNG-Pcut で形質転換したアスペルギルス・オリゼをコントロールとした。
【0070】
尚、プラスミド DNA(pNG-cut)で形質転換された生分解性プラスチック分解酵素クチナーゼ遺伝子の高発現麹菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1)に平成14年10月4日付けで寄託され、受託番号:FERM P−19054を付与されている。
【0071】
すなわち、アスペルギルス・オリゼ niaD300株の胞子懸濁液を YPD 液体培地に添加し30℃で12時間振盪培養した。培養液より菌糸体を MIRACLOTH(CALBIOCHEM(登録商標))にて濾別・回収した。集めた菌糸体を50 ml 容の遠心チューブに移した後、10 ml のプロトプラスト化溶液(0.6 M KCl、5 mg/ml Lysing enzyme(Sigma Chemical)、10 mg/ml Cellulase Onozuka R-10(ヤクルト)10 mg/ml Yatalase(タカラバイオ)を含む 0.2 M りん酸緩衝液 pH 6.5)を加えて懸濁した。懸濁液を30℃、90 rpm/minで3時間振盪しながら反応させた。反応終了後、MIRACLOTHで濾過し、4℃、5000×g、5分間遠心しプロトプラストを回収した。50 ml 容プラスティックチューブに1.2 M ソルビトール、50 mM CaCl2 を含む 10 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 7.5)で 1×109/ml となるように調製したプロトプラスト懸濁液 0.1 ml に 制限酵素 MluI で切断した1 μl の 1 mg/ml クチナーゼ変異体遺伝子を持つ各プラスミド DNA(pNG-PcutG4D、pNG-PcutG54S、pNG-PcutK90E、pNG-PcutNTのいずれか)と 12.5 μl の50% (w/v) PEG#4000、50 mM CaCl2 を含む 10 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 7.5)を加え、氷中で30分間放置した。その後、1 mlの50% (w/v) PEG#4000、50 mM CaCl2 を含む 10 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 7.5)を加え、よく混合した。さらに、 2 ml の1.2 M ソルビトール、50 mM CaCl2 を含む 10 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 7.5)を加え、よく混合した。55℃に予温しておいた10 ml のCzapek-Dox軟寒天培地を加え、手早く形質転換用寒天培地に重層し、30℃で分性子を形成するまで静置培養した。
【0072】
分性子形成後、アーゼにて分生子柄を掻き採り、0.01%(v/v) Tween80 に懸濁し、この懸濁液を希釈し、Czapek-Dox寒天培地に広げ、30℃で培養することを繰り返し単胞子分離を行った。単胞子分離の確認は Hondl法(胞子PCR法)を改変して行った。アーゼにて200 μl のYPD培地が入った1.5 ml 容マイクロチューブに分性子を添加し、30℃で40時間培養した。培養菌体を新しい 1.5 ml 容マイクロチューブに移し、50 μl のプロトプラスト化溶液(0.8 M KClおよび 2.5 mg/ml Lysing enzyme (Sigma Chemical Co.)、2.5 mg/ml Yatalase (タカラバイオ)を含む10 mMクエン酸緩衝液 pH 6.5)を加えて懸濁し、37℃で1時間放置した後、5分以上氷上に静置し菌体を沈殿させた。この上清 5 μl を鋳型DNA溶液としてPCR の反応系に用いた。胞子 PCR 用のプライマーとして2種のオリゴヌクレオチド(5’-TGCAGTGGCGGATCCGGTGGAC-3’および5’-GTAGAATCACGAATGGAGCCTTTGACGACC-3’)を合成した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONL (宝酒造)を用いた。ポジティブコントロールとしてアスペルギルス・オリゼの形質転換に用いたプラスミド DNA を鋳型とした同様の操作を行った。ポリメラーゼは Ex Taq polymerase (タカラバイオ)を用いた増幅反応は94℃、3分間、鋳型 DNA を変性し、94℃、1分間、55℃、1分間、72℃、1分30秒保持するサイクルを30回繰り返した後、72℃、95秒間で完全伸張させ、その後4℃で保持した。得られた PCR 増幅 DNA 断片をアガロースゲル電気泳動に供した。その結果ポジティブコントロールと同じサイズの位置に PCR 増幅 DNA 断片が出現し、染色体 DNA 上にグルコアミラーゼ・プロモーター配列の下流にクチナーゼ変異体遺伝子を連結した配列が挿入されたこと、ならびにそのキメラ遺伝子を持つアスペルギルス・オリゼ形質転換株の取得が確認された。
【0073】
0.5×106 個胞子/ml 形質となるように形質転換したアスペルギルス・オリゼの胞子を YPM 培地(1% (w/v) 酵母エキス、2%(w/v) ペプトン、2%(w/v) マルトース)に添加し、30℃、125 rpm、16時間振盪培養した。培養物をMIRACLOTH(CALBIOCHEM(登録商標))にて濾過し、培養上清を濾液として回収した。この濾液を8000×g、4℃、20分間遠心分離し得られた上清画分を粗酵素液とした。粗酵素液に対して 20% 飽和となるように硫酸アンモニウムを加え、これを20% 飽和硫酸アンモニウムを含む10 mM Trsi-HCl pH 8.0 で平衡化した Octyl-cCellulofine (生化学工業)に供し、吸着したタンパク質を 20-0% 硫酸アンモニウムによる直線濃度勾配で溶出した。回収された活性画分を10 mM Tris-HCl pH 8.0 に対して充分透析した後、10 mM Tris-HCl pH 8.0 で平衡化したDEAE-Toyopearl 650 M に供した。吸着したタンパク質を 0-0.5 M NaCl 直線濃度勾配によって溶出した。得られた活性画分を10 mM MES 緩衝液 pH 5.5 に対して透析し、同緩衝液にて平衡化した HiTrap SP カラム(アマシャムファルマシア バイオテク)に供し、吸着した活性画分を0-0.3 M NaCl の直線濃度勾配によって溶出させ、精製酵素を得た。
【0074】
クチナーゼ変異体のアミノ末端配列
上記の方法によって得られた各クチナーゼ変異体のアミノ末端のアミノ案配列を決定した。すなわち、pNG-PcutNT で形質転換されたアスペルギルス・オリゼ形質転換株の培養上清より精製した酵素1 μgを 常法に従いSDS-ポリアクリルアミド電気泳動に供した後、ゲルを蒸留水で洗浄し、あらかじめ10% メタノールを含む10 mM MES緩衝液(pH 11)で平衡化させたPVDF 膜(Bio-Rad 社)にTrans-Blot SD semi-dry transfer cell (Bio-Rad 社)を用いて転写した。転写された精製酵素は、コマジー ブリリアント ブルー R-250で染色し、50%メタノール溶液で脱色を行い、染色されたバンドを切り出し、ペプチドシーケンシングシステム 490 Procise (アプライドバイオシステム)によってアミノ末端のアミノ酸配列を決定した。これによりpNG-PcutNT で形質転換されたアスペルギルス・オリゼ形質転換株の培養上清より精製した酵素は、ASPDV--配列を持つことが明らかになった。一方、pNG-PcutG4D、pNG-PcutG54S、pNG-PcutK90E のいずれかによって形質転換されたアスペルギルス・オリゼ形質転換株の培養上清より精製した酵素及びコントロールとした麹菌においてネイティブである酵素 1μg を上記の方法でPVDF 膜に転写した後、タンパク質の転写された部分を切り出し 60% メタノール及び90% メタノールで膜を洗浄し、0.5% のポリビニルピロリドン-K30 を含む0.1 M 酢酸緩衝液で37℃、30分インキュベートした後、膜を蒸留水で10回以上洗浄した。洗浄後、膜をメタノールに浸し、5 ml Pfu pyroglutamate aminopeptidase (2 mU)、100 ml 0.1 M リン酸緩衝液(pH 7.0)、20 ml 0.1 M DTT、75 ml 蒸留水を加え50℃、5 時間処理した。処理後、膜を蒸留水で3回洗浄し、ペプチドシーケンシングシステム 490 Procise (アプライドバイオシステム)を用いてアミノ末端のアミノ酸配列を決定した。その結果、いずれの酵素もQLTGG--配列を持ち、一残基目のグルタミンがピログルタミル化されていることが示された。これにより、アスペルギルス・オリゼを宿主として発現したクチナーゼ変異体は配列番号25、26、27、及び28のアミノ酸配列を持つことが示された。こうして確認された、配列番号21に示されたクチナーゼ変異体をそのアミノ酸配列番号に従ってG4D、配列番号22に示されたクチナーゼ変異体をG54S、配列番号23に示されたクチナーゼ変異体をK90E、配列番号24に示されたクチナーゼ変異体をペプチド付加クチナーゼとする。
【0075】
アスペルギルス・オリゼを宿主として発現させたクチナーゼ変異体の性質
アスペルギルス・オリゼを宿主として発現させたクチナーゼ変異体と対照のアミノ酸置換のないクチナーゼを用いて耐熱性を活性測定法に準じて調べた。得られた結果を図2に示す。その結果、アミノ酸置換を有する各クチナーゼ変異体は、コントロールと比較して、優れた熱安定性を有することが確認された。具体的には、40℃で30分間処理した後に測定した残存活性がコントロール(親クチナーゼ)に対して1.1倍以上増加していた。又、50℃で30分間処理した後に測定した残存活性もコントロール(親クチナーゼ)に対して1.1倍以上増加していた。
【0076】
クチナーゼ変異体を用いたPBSA の分解
上記のように精製した、クチナーゼ変異体及び対照となるアスペルギルス・オリゼにおいてネイティブであるクチナーゼを5 μg/ml となるように0.1 M トリス-塩酸緩衝液を用いて調製した。PBSA乳化液(ビオノーレ#3001、昭和高分子)を同緩衝液で2%となるように希釈した。酵素液5 μl に対して100 μl の同緩衝液ならびに100 μl の稀釈PBSA 溶液を加え50℃で6時間反応させた。その後、630 nm で濁度の低下を測定した。その結果、変異酵素の活性が対照となるアスペルギルス・オリゼにおいてネイティブである酵素に比べていずれも10%以上高い活性を示したことから、本変異体がより高温でPBSA を効率的に分解することが明らかとなった。
【0077】
クチナーゼ変異体を持つ麹菌アスペルギルス・オリゼを用いたPBSA の加水分解方法
先に示した方法で形質転換したクチナーゼ変異体遺伝子を持つアスペルギルス・オリゼ形質転換株を用いてPBSA の分解を行った。
即ち、クチナーゼ変異体高発現株の胞子を1×106個/mlとなるように2% PBSA 乳化液を含むYPM培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、4%マルトース)に植菌した。30℃、24時間培養した後、培養液に1/10容量の1 M トリス緩衝液(pH 6.0)を添加し、攪拌しながら60℃で48時間インキュベートした。同時にアスペルギルス・オリゼにおいてネイティブであるクチナーゼの高発現株も比較のために同様の操作に処した。反応液をミラクロースで分離し、反応液の濁度を630 nm の波長で吸光度として測定し PBSA の分解率を算定した。その結果、クチナーゼ変異体を高発現させたアスペルギルス・オリゼを用いて分解した場合は、ネイティブな酵素を高発現させた株に比べ約10% 以上分解率が上昇していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明により、エステル結合を加水分解することのできるクチナーゼの熱安定性を向上させることができる。従って、このようなクチナーゼ変異体は、既に記載した各種産業分野、特に、高温でのさまざまな生物工程、医薬、化粧品、食料産業及びリサイクル産業等で有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の大腸菌発現系にて調製された耐熱性を有するクチナーゼの突然変異体の熱安定性を示すグラフである。尚、図1中に示した、G14D、G64S、及びK100Eは、夫々、本発明の変異体であるG4D、G54S、及びK90Eに相当する。
【図2】本発明のアスペルギルス・オリゼを宿主とした発現系にて調製されたクチナーゼ突然変異体が有する、より優れた熱安定性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 親クチナーゼのアミノ末端に11残基以下のアミノ酸からなる付加ペプチドが結合したクチナーゼの変異体、及び/又は、
b) アスペルギルス・オリゼ株RIB-40のクチナーゼのアミノ酸配列における以下のアミノ酸残基:L2、G4,L8,P27,G28,A51、G54、K90,又はA177に対応する少なくとも1つ以上のアミノ酸残基の置換又は欠失を含む親クチナーゼの変異体であって、親クチナーゼよりも優れた熱安定性を有する該変異体。
【請求項2】
親クチナーゼがアスペルギルス、マグナポルサ、ペニシリウム、トリコデルマ、リゾプス、メタリチウム、モナスカス、アクレモニウム、又は、ムコール属に属する真菌由来である、請求項1記載の変異体。
【請求項3】
アスペルギルス属に属する菌株が、アスペルギルス・ オリゼ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・ソヤエ、及びアスペルギルス・ニドランスから成る群から選択されるか、又は、マグナポルサ属に属する菌株がマグナポルサ・グリセアである、請求項2記載の変異体。
【請求項4】
アスペルギルス属に属する菌株が、アスペルギルス・ オリゼ株RIB40である請求項3記載の変異体。
【請求項5】
親クチナーゼのアミノ酸配列が、配列番号1、配列番号2、又は配列番号3のいずれかに示される、請求項4記載の変異体。
【請求項6】
親クチナーゼのアミノ酸配列がアスペルギルス・オリゼ株RIB40 のクチナーゼのアミノ酸配列と少なくとも50%の相同性を有する、請求項1記載の変異体。
【請求項7】
親クチナーゼのアミノ酸配列がアスペルギルス・オリゼ株RIB40 のクチナーゼのアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有する、請求項6記載の変異体。
【請求項8】
親クチナーゼのアミノ酸配列がアスペルギルス・オリゼ株RIB40 のクチナーゼのアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性を有する、請求7記載の変異体。
【請求項9】
アミノ酸残基の置換が、L2K/R、G4D/E/S/T/V、L8D、P27D、G28D、A51D/E/N/Q/R/S/T、G54C/D/N/Q/S、K90E、及びT177Aからなる群から選択された少なくとも一つを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の変異体。
【請求項10】
アミノ酸残基の置換が、G4D, G54S, 又はK90Eである、請求項9記載の変異体。
【請求項11】
付加ペプチドがASTDPVDLQDT又はSTDPVDLQDR(アミノ酸一文字表記)、又はその一部のアミノ酸配列を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の変異体。
【請求項12】
40℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.1倍以上増加している、及び/又は、50℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.1倍以上増加しているような熱安定性を有する請求項1〜11のいずれか一項に記載の変異体。
【請求項13】
40℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.15倍以上増加している、及び/又は、50℃で30分間処理した後に測定した残存活性が親クチナーゼに対して1.18倍以上増加しているような熱安定性を有する請求項12記載の変異体。
【請求項14】
生分解性プラスチックに対する加水分解活性を有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の変異体。
【請求項15】
生分解性プラスチックが、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート-コ-アジペート、ポリヒドロキシブチレート、及び、ポリカプロラクトンから成る群から選択される、請求項14記載の変異体。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の親クチナーゼの変異体をコードするDNA。
【請求項17】
親クチナーゼをコードするDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、請求項165記載のDNA。
【請求項18】
請求項16又は17記載のDNA配列を含む発現ベクター。
【請求項19】
請求項16若しくは17記載のDNA配列又は請求項18記載のベクターを有する、形質転換細胞。
【請求項20】
請求項1ないし15のいずれか一項に記載の変異体を生産する方法であって、請求項19に記載の形質転換細胞を培養し、該変異体を発現させ、該変異体を回収することから成る、前記方法。
【請求項21】
発現させた変異体を細胞外に分泌させ、培地中から変異体を回収する、請求項20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−116994(P2007−116994A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313960(P2005−313960)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】