説明

充填剤含有プラスチックの製造方法

【課題】
本発明は、充填剤含有プラスチックの製造方法を提供する。
【解決手段】
充填剤の反応前駆体をポリマー前駆体と混合し、充填剤の反応前駆体は充填剤となりポリマー前駆体は重合してプラスチックとなる。生成した充填剤は、ナノメートル単位の粒子サイズを有し、ポリマー前駆体中及び最終産物のプラスチック中において均一に分布する。これにより、プラスチックの外観、例えば最終産物であるプラスチックの透明性に影響を与えることを避けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填剤含有プラスチックの製造方法に関し、特に、充填剤を含有した透明な成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機充填剤は、例えばポリマーやプラスチックの可燃性を減少させるような機械的、化学的特性を変化させたり適合させたりするのに使用される。無機充填剤によってもかろうじてではあるがプラスチックが不透明になることなしに、透明プラスチックを成形できるばあいがある。しかし、直径300nm以上の無機物の粒子またはより小さい粒子の集合体は、プラスチックが不透明となる原因である光散乱を引き起こす。プラスチック中で互いに凝集せずに存在している小さな無機物の粒子(300nm以下の粒子、ナノ粒子)は、散乱をわずかに引き起こすだけであるため、プラスチックの透明性は維持される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、広く使用でき、無機ナノ粒子を混合したプラスチックの製造を可能とする方法を開発することである。本方法では、マイクロエマルジョン中において原位置でプラスチックが生成し、プラスチック製造に必要なモノマーがマイクロエマルジョンの油相を形成する。
【0004】
無機充填剤は、長い間プラスチックの物理的化学的特性を変えるのに使用されてきた。特に近年、プラスチック材料中にナノ粒子充填剤を添加させることについてますます研究されている。これには、以下に示す二つの方法がある。
【0005】
第1は、ナノ粒子を製造、単離し、その後ナノ粒子をプラスチックへ添加する方法である。この場合、製造と添加は平行しては行われない。第2は、ポリマーを修飾することによりポリマーマトリックス内でナノ粒子を生成させる方法である。つまり、粒子とポリマーを同時に生成させることができる。
【0006】
上記第1の方法の利点は、アエロジル(Aerosil)法、ゾル−ゲルテクニック(sol-geltechnique)またはマイクロエマルション法(microemulsion method)のようなナノ粒子の製造方法として公知のものを利用できることである。しかし、ナノ粒子をプラスチックに添加するためには、粒子表面を修飾しなければならず、もし、例えば粒子表面の修飾に官能基で修飾したシラン(functionalized silanes)を使用する場合には、コストが上昇する場合がある。さらには、まず粒子を単離しなければならないことも欠点である。
【0007】
また、アエロジル法(Aerosil method)またはマイクロエマルション法(microemulsion method)でも無機ナノ粒子を製造できる。しかし、マイクロエマルション法の場合には、乾燥処理及び熱処理といったその後の単離工程において、粒子相互間の集合または焼結が起こるため、有機物のマトリックス中における粒子の分散を困難にするか、または不可能にさえする。
【0008】
第2の方法では、例えば、ポリマーと結合させるかまたはゾル−ゲル反応(sol-gel reaction)による重合化の間にさらに反応するPOSS(ポリヘドラル オリゴメリック シルセスキオキサン(polyhedral oligomeric silsesquioxane))といった修飾モノマー(functionalizedmonomers)またはブロックグループ(block groups)が使用され、修飾モノマー(functionalized monomers)の分散により無機相の均一な分布が実現する。POSSのような前もって形成された分子グループ(groups)はマトリックス中に維持されるが、非常に高価であり無機粒子のサイズが少しばらついている。
【0009】
本発明の目的は、この課題を解決することにあり、POSSグループ(POSS groups)はナノ粒子ではなく、分子構造グループ(molecular structural groups)である。修飾した構造グループ(functionalized structural groups)のさらなる反応またはゾル−ゲル法(sol-gel process)と重合の組み合わせは、無機構造グループ(inorganic structural groups)の均一な分散につながるが、ナノ粒子のサイズをコントロールするのは難しい。この方法では、分子レベルでの無機成分の偏りまたは無機相の制御不能な架橋が生じ、ナノ粒子が大きな塊となって相分離に至る原因となる。無機成分が均一に分布することにより、透明なプラスチックとなるが、この無機成分は無機ナノ粒子を特徴付ける物理的特徴を有していない。従って、この無機成分では、例えば半導体の場合における発光のような基本的機能すら得ることができない。これは大半の無機相またはナノ粒子の特徴である。一方で、制御できない集合体または相分離の形態はプラスチックを不透明にするため、透明プラスチックを得ることができなくなる。
【0010】
本発明は、充填剤含有プラスチックの製造方法を提供することを目的としており、上記のような不利な点を有しない。特に、本発明の方法により、透明プラスチックの製造が可能となる。本発明によるプラスチックの透明性は、充填剤を添加しない純粋なプラスチックと比較してもほとんど変わらない。従って、本発明は、充填剤を含むプラスチックの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
製造方法は、
充填剤の反応前駆体(reactive precursor)をポリマー前駆体(polymer precursor)と混合する工程と、
充填剤の反応前駆体(reactive precursor)を充填剤に変化させる工程と、
ポリマー前駆体(polymer precursor)をプラスチックとするために重合させる工程と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の方法では、まず、充填剤が、原位置(in situ)において好ましくはW/O型マイクロエマルション(W/O microemulsion)またはミニエマルション(miniemulsion)の水相で形成される。形成された充填剤は、ナノ単位の粒径であり、ポリマー前駆体の中で均等に分散する。それゆえに、プラスチック中においても均一に分散する。最終的に得られるプラスチックは、例えば透明性について、比較的層が厚い場合であっても損なわれることはない。
【0013】
ポリマー前駆体がミニエマルションまたはマイクロエマルションに存在することが、本発明の好ましい実施態様である。ミセルは通常最大約100nmの直径を有するが、直径は最大50nmが好ましく、より好ましくは最大20nmの直径である。光散乱の影響が生じるので、大きいミセルを有するエマルションであるほど好ましくない実施態様となる。この実施態様では、モノマーは油相を形成し、この相に存在する。このエマルションは、逆相乳化(inverse emulsion)ということもできる。なぜなら、このエマルションの場合、主な相は油相により形成され、水相により形成されてはいないからである。
【0014】
この実施形態では、充填剤の反応前駆体を、水溶性ポリマー前駆体のW/O型マイクロエマルション(W/O microemulsion)若しくはミニエマルション(miniemulsion)またはポリマー前駆体溶液と混合する。充填剤の反応前駆体は水相に存在し、例えば加水分解のように水と反応するか、または塩のような化合物と沈殿反応するのが好ましい。これにより、充填剤の反応前駆体は充填剤となって水相に存在するかまたは水相に供給されることになる。充填剤の反応前駆体がモノマー中で均一に分散し、それにより最終産物中でも均一に分散することが、この実施形態の利点である。
【0015】
本発明では、ポリマー前駆体とは、重合反応によって最終的なポリマーに変化できる液体のまたは可溶性の重合可能なモノマー、オリゴマーまたはポリマーを意味する。共重合体の製造のためには、モノマー、オリゴマーまたはモノマー及び/若しくはオリゴマーの混合物を使用するのが好ましい。特に好ましい重合前駆体は、最終産物を透明にするものである。好適なモノマーの例としては、アクリル酸(acrylic acid)、その誘導体及びその塩、メタクリル酸(methacrylic acid)及びその塩、スチレン(styrene)並びにアルケン(alkenes)、好適なポリマーとしては、ポリカーボネート(polycarbonates)のポリエステル(polyesters)及びポリエステル(polyesters)前駆体、ポリエポキシド(polyepoxides)、エチレン−ノルボルネン(ethylene-norbornene)共重合体並びに上記モノマーの任意の共重合体がある。
【0016】
充填剤は無機化合物から選択されるのが好ましい。特に、水酸化物(hydroxides)、酸化物(oxides)、硫化物(sulfides)、リン酸塩(phosphates)、炭酸塩(carbonates)及びフッ化物(fluorides)からなる群から選択された少なくとも1つの無機化合物がより好ましく、さらに好ましくは、Mg(OH)2、Mg6Al2(OH)16(CO3)、SiO2、TiO2、ZrO2、BaTiO3、PbZrO3、LiNbO3、ゼオライト(zeolite)、MgO、CaO、ZnO、Fe34、ZnS、CdS、CaCO3、BaCO3、CaSO4、CaF2及びBaF2からなる群から選択された少なくとも1つの無機化合物が好ましい。しかし、上述したBaF2、ZnO、ZnS、及びZnSe、CdSまたはY23、YVO4、Zn2SiO4、CaWO4、MgSiO3、SrAl2O4、Gd23S、La22S、BaFCl、LaOBr、Ca10(PO46(F,Cl)2、BaMg2Al627、CeMgAl1119などのような発光化合物を使用することも可能である。
【0017】
本発明の方法を使用することで、無機化合物を広範に変えることができる。粒子は、ナノメーター単位の粒子サイズであることが好ましい。透明プラスチックの透明性を維持するために及び充填剤に起因した光散乱の影響をできるだけ小さくするために、充填剤の粒子サイズは300nm以下が好ましいが、できるだけ小さく、より好ましくは5〜50nmで粒子サイズの偏差が小さい粒子が好適である。
【0018】
この態様の方法を実施するために、最初に、マイクロエマルションまたはミニエマルションを、ポリマー前駆体、水及び界面活性剤から公知の方法で作成する。好適な界面活性剤としてはエトキシル化した脂肪アルコール(ethoxylated fatty alcohols)のような非イオン性界面活性剤(nonionic surfactants)、イオン性界面活性剤(ionic surfactants)、両親媒性ブロック共重合物(amphiphilicblock copolymers)がある。充填剤粒子をポリマーにより好適に組み込むために、重合可能な界面活性剤を使用することもできる。
【0019】
本方法は一般的な性質のため広く使用することができる。本方法では特定のモノマーに限定されない。異なった界面活性剤またはブロック共重合物(block copolymers)を使用することで多くの極性及び非極性ポリマー前駆体を本発明に使用できる。
【0020】
その後充填剤の反応前駆体をポリマー前駆体に添加する。
【0021】
本発明の更なる実施態様として、充填剤の反応前駆体を、ポリマー前駆体または有機溶媒中のポリマー前駆体溶液と混合する。
【0022】
例えば、一般にM(OR)s(MはAl,Si,Ti,Zr,Znなど)と表されるアルコキシド(alkoxides)は、マイクロエマルションの水相での粒子形成につながり、例えば加水分解と凝縮によって、無機固形粒子を作成するために使用される。もし、ポリマー前駆体と充填剤の反応前駆体の混合物がエマルションとして存在していなければ、例えば水といった対応する反応成分を、充填剤への変化に使用できる。反応前駆体であって異なる化合物の混合物も使用できる。例えばSi(OR)4、Ti(OR)4などのような異なるアルコキシドも使用することができる。
【0023】
本発明の方法では、やや溶けにくい塩との沈殿反応により得られる充填剤を組み込むこともできる。上記塩には、例えば、液体のポリマー前駆体にH2Sを通気することにより生成するZnSやCdS、液体のポリマー前駆体にCO2を通気することにより生成するカーボネート(carbonate)、可溶性リン酸塩(soluble phosphates)またはリン酸(phosphoric acid)との沈殿反応により生成するリン酸塩(phosphates)、例えばNH4Fとの沈殿反応により生成するフッ化物(fluorides)及び上記方法で得ることができるその他の塩がある。調製した塩の陽イオンまたは陰イオンのうちの一方を、反対のイオンまたはイオン性界面活性剤として使用することもできる。塩の調製のために二エマルションテクニック(two-emulsion technique)を使用することもできる。おのおのの場合、充填剤の沈殿のために必要な試薬成分は、油相がモノマーからなるW/O型マイクロエマルションの水相に溶解する。上記成分は、エマルションを混ぜ合わせることにより反応する。
【0024】
ガスまたは第2のマイクロエマルションとの反応で逆相ミセル(inverse micelles)内に沈殿を生成させる塩でも、エマルションの水相に溶解することができる。
【0025】
特にエマルション中においては、粒子サイズは、水/界面活性剤の比及び界面活性剤を選択することによりコントロールできる。このことは、粒子サイズの定量化を通じて発光性といった物理的特性をコントロールするのに重要であり、発光プラスチックガラス(luminescent plastic glass)の色彩調整が可能となる。無機成分の生成後にモノマー相が重合し、ミセル中で相互に離れて存在する充填剤の粒子はマトリックス中に組み入れられる。
【0026】
次の工程で、原位置(in situ)で生成した充填剤の存在下、ポリマー前駆体を公知の方法にて重合する。重合した混合物がW/O型エマルションとして存在する場合には、重合は塊状重合(mass polymerization)が可能となる。塊状重合は、比較的厚い層を有する物の製造及び複合構造を持った製品の製造に適している。
【0027】
例えば、フィルムの製造では、重合は、適当な溶媒にて油相のポリマー前駆体を希釈してから重合する、いわゆる溶液重合(solution polymerization) でも行うことができる。溶媒を除去した後、充填剤含有プラスチックが透明フィルムとして生成する。
【0028】
選択したポリマー前駆体に応じて、任意の充填剤含有プラスチックを製造することができる。本発明は、特に、無機ナノ粒子を含む透明プラスチックガラスの製造に適している。
【0029】
本発明のさらなる態様として、充填剤粒子の生成後に得られた混合物を鋳型に入れて鋳型の中で重合させることもできる。
【0030】
例えば透明な円板やシートの表面を覆うコーティング材の製造ために、充填剤粒子の生成後に得られる混合物を、被覆すべき表面に塗布してから重合してもよい。
【実施例】
【0031】
マイクロエマルションの調製のために、まず、メタクリル酸メチル(methyl methacrylate)6.5mlと蒸留水0.48mlを混合した。エマルションが透明になるまで攪拌しながら、界面活性剤ルテンゾールA011(Lutensol A011)(2.03g)を添加した。次に、遊離基(free radical)を重合させるために、0.2%のAIBN(azobisisobutyronitrile)(0.018g)を添加した。透明なマイクロエマルションは、さらに10分間攪拌することで均質化された。
【0032】
マイクロエマルション中での無機ナノ粒子の生成とポリマー前駆体の重合のために、次に、50%のオルトケイ酸テトラエチル(tetraethyl orthosilicate)と50%のメタクリル酸メチル(methyl methacrylate)の混合物2.7mlを攪拌しながら滴下して添加した。透明なエマルジョンをガラスのアンプル(d=10mm)に入れ、脱気するためにアルゴンガスで気ばくし、わずかな真空度のもとで密封した。重合は45℃に自動調節をした水槽にて8時間保持することで行った。サンプルはさらに90℃にて3時間保持した。この結果、数ナノメートルの範囲のごくわずかな粒子サイズの偏差しかないSiO2粒子の均一な分布を有するMMAを含んだ透明なポリマーが生成した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】マイクロトーム(microtome)により作成した実施例記載の無機(SiO2)ナノ粒子含有プラスチックガラス薄切片の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤の反応前駆体とポリマー前駆体を混合する工程と、
前記充填剤の反応前駆体を充填剤に変化させる工程と、
前記ポリマー前駆体をプラスチックとするために重合させる工程と、
を備えることを特徴とする充填剤含有プラスチックの製造方法。
【請求項2】
前記充填剤が、粒径300nm以下の無機化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記充填剤が、粒径5〜50nmであり、粒子サイズの偏差が小さい無機化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記充填剤が、酸化物、硫化物、リン酸塩、炭酸塩及びフッ化物からなる群から選択された少なくとも1つの無機化合物であることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記充填剤が、Mg(OH)2、Mg6Al2(OH)16(CO3)、SiO2、TiO2、ZrO2、BaTiO3、PbZrO3、LiNbO3、ゼオライト、MgO、CaO、ZnO、Fe34、ZnS、CdS、CaCO3、BaCO3、CaSO4、CaF2及びBaF2からなる群から選択された少なくとも1つの無機化合物であることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー前駆体が、W/O型エマルションの油相に存在することを特徴とする、請求項1ないし5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記充填剤の反応前駆体が、水と反応または水相中で反応し、前記充填剤として前記エマルションに存在することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマー前駆体の重合が、塊状重合であることを特徴とする、請求項1ないし7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記プラスチックが、透明プラスチックであることを特徴とする、請求項1ないし8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記透明プラスチックが、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸塩、ポリスチレン、ポリオレフィン及びこれらの任意の共重合体からなる群から選択された少なくとも1つのポリマーに基づくことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
透明な成形品の製造のための請求項1ないし10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
表面に被覆する透明なコーティングの製造のための請求項1ないし11の何れか1項に記載の方法。


【図1】
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【公表番号】特表2007−523222(P2007−523222A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535942(P2006−535942)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【国際出願番号】PCT/DE2004/002348
【国際公開番号】WO2005/040251
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(591091515)シュトゥディエンゲゼルシャフト・コーレ・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (18)
【氏名又は名称原語表記】STUDIENGESELLSCHAFT KOHLE MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】