説明

充填材の配向解析方法

【課題】簡易に機械的強度等の解析に利用でき、さらにガラス短繊維の含有量が多い場合にも好適に採用できる繊維配向解析方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形品のスライス画像を二値化し、この二値化画像に対してフーリエ変換を施すことで得られるパワースペクトル画像を用いて、樹脂成形品内の一部における充填材の配向状態の傾向を解析する。本発明の解析方法に含まれる配向状態解析工程が、各パワースペクトル画像における、充填材の配向度及び/又は配向角を解析する工程であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品に含まれる充填材の配向を解析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂製品(樹脂成形品)の設計期間短縮や試作費用の低減を目的として、各種樹脂製品の機械的強度試験等を数値解析法によって代用する試みが、様々な樹脂製品の設計現場において取り入れられている。
【0003】
上記数値解析法を用いない場合の問題点としては、上記機械的強度試験が樹脂製品やその試作品の破壊を伴う試験の場合、試験回数分の試作品を用意する必要があることや、樹脂製品の設計の時間的な制約により、試験のやり直しがきかない場合があること等が挙げられる。このため、樹脂製品の設計現場においては、樹脂製品の機械的強度試験等を数値解析法によって代用することが重要な課題となっている。
【0004】
特に、繊維状充填材等の充填材が含まれる樹脂組成物を用いて作製した樹脂製品では、繊維状充填材等の充填材の配向を考慮する必要がある。このため、数値解析による予測は非常に困難である。この充填材の配向を考慮するための方法としては、特許文献1、2等に記載されているような、樹脂製品内の解析要素の繊維配向状態を射出成形プロセスシミュレーションにて解析する方法がある。
【0005】
特許文献1、2に記載された方法の問題点は、第一に個々の要素の繊維配向状態を個別に解析する際に流動解析ソフトが必要となり計算費用が多大になること、第二に個々の要素の繊維配向状態を個別に解析するため、非常に手間がかかることが挙げられる。
【0006】
そして、繊維状充填材の含有量が多い場合、充填材が樹脂製品内で複雑に重なり合い、相互に大きく干渉しあうため、繊維状充填材一本一本の配向状態を精度良く解析し、解析結果を重ね合わせることで配向状態を解析することは事実上不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−272928号公報
【特許文献2】特開2005−283539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
簡易に且つ実用的な精度で、充填材の配向を解析できれば、容易に機械的強度等を予測できる。また、この簡易且つ実用的な精度で、充填材の配向を解析する方法は、ガラス繊維の含有量が多い場合にも採用できる必要がある。
【0009】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、簡易で、且つ実用的な精度で、充填材の配向を解析でき、さらに繊維状充填材の含有量が多い場合にも採用可能な充填材の配向を解析する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、一本一本の充填材の配向状態を高い精度で解析しなくても、樹脂成形品内における充填材の配向の傾向を、画像データを解析処理することにより求めることで、実用的な精度で充填材の配向を解析できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 充填材を所定の割合で含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向にスライス画像を取得するスライス画像取得工程と、前記スライス画像から一又は二以上のスライス画像を選択し、該選択したスライス画像において二値化画像に変換する画像変換工程と、前記二値化画像に対して、フーリエ変換を施すことによりパワースペクトル画像を取得するパワースペクトル画像取得工程と、前記パワースペクトル画像に基づいて、各パワースペクトル画像における充填材の配向状態を解析し数値化する配向状態解析工程と、を備える充填材の配向状態を解析する方法。
【0012】
(2) 前記配向状態解析工程が、各パワースペクトル画像における、充填材の配向度及び/又は配向角を解析する(1)に記載の充填材の配向状態を解析する方法。
【0013】
(3) 前記配向度及び前記配向角の解析が、各パワースペクトル画像を楕円近似する楕円近似工程を含む(2)に記載の充填材の配向状態を解析する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂成形品内における充填材の配向の傾向を、画像データを解析処理することにより求めることで、実用的な精度で充填材の配向を解析できる。その結果、容易に機械的強度等の物性を予測することができる。
【0015】
本発明によれば、樹脂成形品内における所定の一部での、充填材の配向状態の傾向も適切に解析できる。その結果、必要な部分でのみ充填材の配向を解析することで、全体像を得ることなく物性予測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ファウンテンフローを示す図である。
【図2】X線CT装置の模式図である。
【図3】(a)は、X線CT装置により撮影されたスライス画像を示す図である。(b)は、二値化したスライス画像を示す図である。(c)は、(b)に示す二値化画像データに対してフーリエ変換を施すことで得たパワースペクトルである。(d)は、パワースペクトルを極座標解析した図である。(e)は、(d)に示すパワースペクトルパターンを楕円でフィッティングした図である。
【図4】(a)は繊維配向の主軸の方向を説明する図であり、(b)は配向角を説明する図である。
【図5】(a)は実施例に用いた樹脂成形品の形状を示す図であり、(b)は解析箇所を示す図である。
【図6】位置Cでの解析過程を示す図である。
【図7】位置Bでの解析過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下に記載される発明に限定されない。
【0018】
<樹脂成形品>
本発明は、樹脂成形品内部の充填材の配向状態を解析する方法である。先ずは、解析する対象となる樹脂成形品について説明する。樹脂成形品には、樹脂部分と充填材部分とが含まれ、樹脂成形品は、樹脂材料と充填材とを含む樹脂組成物を成形してなる。以下、樹脂部分に含まれる樹脂材料、充填材について説明する。
【0019】
[樹脂材料]
本発明の充填材の配向状態を解析する方法では、従来公知の様々な樹脂材料用いて、解析対象となる樹脂成形品を作製することができる。また、複数の樹脂をブレンドした樹脂混合物も上記樹脂材料に含まれる。
【0020】
[充填材]
上記の通り、樹脂成形品は充填材を所定の割合で含む。充填材の種類は、樹脂と充填材の境界がはっきりと判り易くX線透過率が低い無機系の充填材が好ましい。従来公知の無機充填材として、繊維状充填材、粉粒状充填材、板状充填材等が挙げられる。
好ましい繊維状充填材として、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。
また、粉粒状充填材としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
また、板状充填材としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、繊維状充填材を含む樹脂成形品は、充填材の配向状態により物性等の異方性が大きい。その結果、より高い精度で充填材の配向を解析しなければ、解析結果を物性の評価に用いることができない。このため、従来の方法では、繊維状充填材を含む樹脂成形品を解析対象とする場合、解析精度を高めるためにより時間と手間がかかっている。一方、本発明は、繊維状充填材を含む樹脂成形品を対象としても、解析精度を高めるための手間等をかけることなく、適切に充填材の配向状態の傾向を解析できるため、繊維状充填材を含む成形体を対象としても、その解析結果を物性の予測に使用することができる。即ち、本発明によれば、繊維状充填材を含む樹脂成形品の物性も容易に予測できる。
上記繊維状充填材の中でもガラス繊維を含む場合は、特に充填材の配向状態を高い精度で解析しなければ、解析結果を物性の予測に使用することはできない。本発明はガラス繊維を含む樹脂成形品を対象としても、解析精度を高めるための手間等をかけることなく、適切に充填材の配向状態の傾向を解析できる。即ち、本発明によれば、ガラス繊維を含む樹脂成形品の物性も容易に予測できる。
【0022】
また、充填材の含有量が多い場合、充填材が樹脂製品内で複雑に重なり合い、相互に大きく干渉し合う結果、従来の一本一本の充填材の配向状態を解析する方法では、解析精度が大きく低下してしまい、解析結果を物性の予測に使用することができない。一方、本発明は、充填材の含有量が多くても、容易且つ適切に充填材の配向状態の傾向を解析できるため、充填材の含有量が多い樹脂成形品を対象としても、解析結果を物性の予測に使用することができる。
【0023】
[その他の成分]
上記樹脂組成物には、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した樹脂組成物も含まれる。
【0024】
[樹脂成形品の製造方法]
上記樹脂成形品は、従来公知の成形方法で得ることができる。従来公知の成形方法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。
【0025】
<配向状態を解析する方法>
本発明の方法は、スライス画像取得工程と、画像変換工程と、パワースペクトル画像取得工程と、配向状態解析工程とを備える。以下、本発明の配向状態を解析する方法の各工程について、さらに詳細に説明する。
【0026】
[スライス画像取得工程]
本工程は、充填材を所定の割合で含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向に所定の間隔で一以上のスライス画像を取得する工程である。
【0027】
樹脂成形品の少なくとも一部について、所定の方向に所定の間隔で一以上のスライス画像を取得する。「少なくとも一部」とは、得られた樹脂成形品全体を充填材の配向状態を解析する対象としてもよいし、樹脂成形品の一部を充填材の配向状態を解析する対象としてもよいことを指す。例えば、樹脂成形品内の配向状態が一様な場合には、一部のみ配向状態を解析すれば、他の部分もその解析した一部と同様の配向状態であるとみなすことができる。また、ウエルド部等の脆弱部が予め分かっており、その部分のみの物性を評価したい場合には、その部分のスライス画像を一以上取得することで、全体のスライス画像を取得しなくても目的を達成できる。本発明の配向状態解析方法によれば、高い精度で樹脂成形品内の充填材の配向状態の傾向を容易に解析することができる結果、樹脂成形品の物性を容易に予測することができる。
【0028】
また、本発明の方法によれば、従来、CAE流動解析での解析が難しいとされていた樹脂成形品の非ファウンテンフロー領域の配向状態の傾向も高い精度で解析することができる。「ファウンテンフロー領域」とは、図1に示すように、金型内で溶融樹脂が金型面との滑りによって流れるのではなく、流れの中心から金型面へ噴出するように溶融樹脂が流れる部分を指す。「非ファウンテンフロー領域」とは、金型内で溶融樹脂が、上記のように流れない部分を指し、例えば、流動する溶融樹脂が合流することで形成されるウエルド部が挙げられる。従来の一本一本の充填材の配向状態を解析する方法では、ウエルド部分等の配向状態を解析すること困難であったが、本発明では容易且つ適切に充填材の配向状態の傾向を解析できるため、ウエルド部等の物性であっても、実用的な精度で容易に解析することができる。
【0029】
また、測定したい箇所が予め判明している等、必要がある場合には、スライス画像を取得する対象となる樹脂成形品から必要に応じて樹脂成形品を切り出し、スライス画像を取得するための樹脂試験片を作製する。なお、必要が無ければ、樹脂成形品から試験片を切り出す操作を行わず、樹脂成形品全体を、後述する樹脂試験片として用いてもよい。
【0030】
スライス画像の取得方法は特に限定されないが、図2に示すようなX線CT装置1を用いて取得することができる。X線CT装置1は、樹脂試験片2にX線を照射するためのX線照射部11と、樹脂試験片2を透過したX線を投影データとして検出するX線検出部12と、樹脂試験片2を保持する試料台13と、試料台13を上下移動(図2中の矢印方向の移動)及び回転移動(図2中の白抜き矢印方向の移動)させるための回転駆動部14と、複数の角度方向の投影データをスライス画像として再構成する画像処理部15とを備える。
【0031】
X線照射部11は、樹脂試験片2にX線を照射させるための部位である。X線を照射できるものであれば特に限定されず、従来公知のX線照射装置を使用することができる。例えば、X線管等が挙げられる。X線照射部11では、樹脂試験片2に照射するX線の照射条件を調整することができる。X線の照射条件としては、例えば、管電流、X線照射時間等がある。本発明の方法では、X線の照射条件は特に限定されず、対象となる樹脂試験片の形状、含まれる樹脂の種類等に応じて適宜変更できる。
【0032】
X線検出部12は、樹脂試験片2を透過したX線を電気信号に変換した後、投影データとして検出する部位である。X線検出部12は、樹脂試験片2を間に挟んでX線照射部11に対向するように配置される。
【0033】
試料台13は、樹脂試験片2にX線が照射されるように樹脂試験片2を保持するための部位である。試料台13はX線照射部11とX線検出部12との間に配置される。
【0034】
回転駆動部14は、試料台13を上下移動及び回転移動させて、樹脂試験片2に複数の角度方向からX線を照射させるための部位である。回転駆動部14は、試料台13に接続されている。回転駆動部14により、樹脂試験片2内の様々な位置に対して複数の方向からX線を照射できる。その結果、様々な角度から樹脂試験片2を透過したX線について、それぞれの投影データを得ることができる。
【0035】
画像処理部15は、複数の角度方向の投影データをスライス画像として再構成する部位である。画像処理部15はX線検出部12に接続されている。X線検出部12で検出された投影データが画像処理部15に送られ、従来公知の画像処理を行うことでスライス画像が得られる。従来公知の画像処理方法とは、例えば、各方向の投影データを一次元フーリエ変換し、これらを合成して二次元フーリエ変換像を作成してこれを逆フーリエ変換して再構成画像を得る方法が挙げられる。
【0036】
上記のような方法で得られたスライス画像は、樹脂成形品内での所定の方向における所定の間隔でのスライス画像である。「所定の間隔」とは、スライス画像を得る際に濃淡を平均化する範囲である。スライス画像の間隔は特に限定されず、測定対象等によって適宜変更して実施することができるが、繊維系充填材を含む樹脂成形品内の充填材の配向状態を適切に解析するためには、スライス画像の間隔は充填材の平均直径以下、平均直径が不明な場合には20μm以下であることが好ましい。また、「所定の方向」はスライス画像の画像面に垂直な方向であり、所定の方向は所望の方向に設定することができる。
【0037】
上記のようにして得られるスライス画像の一例を図3(a)に示す。図3(a)にはモノトーンのスライス画像が示されている。より黒い部分は樹脂成形品内でX線を透過しやすい部分であり、より白い部分は樹脂成形品内でX線を透過し難い部分である。スライス画像には樹脂部分と充填材部分とが含まれている。通常、樹脂部分は充填材部分と比較してX線を透過しやすい。したがって、図3(a)では、黒色部分が樹脂を表す傾向にあり、白色部分が充填材を表す傾向にある。なお、下記の通り、スライス画像にはノイズパターンも含まれることから、単純に黒色で表される部分が樹脂部分、白色で表される部分が充填材部分であるとはいえない。
【0038】
樹脂部分と充填材部分とはX線吸収率が異なるため、濃淡のある画像が得られる。さらに、このようにX線吸収率の異なる複数の材料から構成されている樹脂試験片2のスライス画像を得る場合、樹脂部分と充填材部分との境界を挟んでX線吸収率が不連続的に変化する。このため、X線検出部12で得られる投影データにも不連続的(急峻)な変化が現れる。その結果、その一次元フーリエ変換像には不連続的な変化に起因する高周波成分が大きく現れる。この高周波成分に起因する数値計算誤差により、画像処理部15から得られる再構成画像にはアーチファクトと呼ばれる虚像(ノイズパターン)が出現する。このノイズパターンもスライス画像に含まれる。このノイズパターンはスライス画像を用いて充填材の配向状態を、従来の方法を用いて解析する上で大きな障害となっている。従来の方法は一本一本の充填材の配向状態を解析する方法だからである。一方、本発明の方法は、スライス画像全体を後述するパワースペクトル画像に変換してから、一画像あたり一つの解析結果を得る。即ち、本発明はスライス画像内の繊維一本一本の配向状態を解析することはせずに、スライス画像毎に配向状態の傾向を解析する。上記のようなノイズパターンは、スライス画像全体から得られる上記解析結果に影響をほとんど与えないため、本発明の方法であれば、配向状態の傾向を正確に捉えることができる結果、容易且つ正確に樹脂成形品の機械的強度等の物性を予測することができる。
【0039】
[画像変換工程]
図3(a)には、256階調のモノトーンのスライス画像が示されている。
スライス画像は、上記の通り図3(a)に示されるような画像であり、白色の部分、黒色の部分、灰色の部分が含まれている。それぞれの画素について、画素の画像濃度が適宜設定した画像濃度閾値以上の場合には白色を、画素の画像濃度が画像濃度閾値未満の場合には黒色を表示した二値化画像を図3(b)に示した。図3(b)に示す二値化画像は樹脂部分が白色、充填材部分が黒色で表されている。
【0040】
[パワースペクトル画像取得工程]
パワースペクトル画像取得工程とは、上記二値化画像に対して、フーリエ変換を施すことによりパワースペクトル画像を取得する工程である。
【0041】
パワースペクトルの一例を図3(c)に示す。図3(c)に示すパワースペクトルは、図3(b)に示す二値化画像に対してフーリエ変換を施すことで得たパワースペクトルである。以下、パワースペクトルの好ましい取得方法について説明するが、パワースペクトルの取得方法は以下の方法に限定されない。
【0042】
図3(c)に示すグレースケール表示されたパワースペクトルを図3(d)に示すようなパワースペクトルに描きなおすために、ある濃度の点をドットで表す。全方位における平均明度を算出するという方法で、濃度を決定する。
【0043】
図3(d)に示すパワースペクトルを作製した後、図3(d)に示すドットで表される軌跡を、最小二乗法により計算した楕円で近似する。近似した楕円を図3(e)に示した。楕円に近似することで、充填材(特にガラス繊維等の繊維状充填材)の配向状態の傾向を適切に解析することができる。
【0044】
[配向状態解析工程]
配向状態解析工程とは、上記パワースペクトル画像に基づいて、各パワースペクトル画像における充填材の配向状態を解析する工程である。本発明によれば、二値化画像毎に配向状態の傾向を解析するため、画像毎の全体的な配向状態の傾向を正確に捉えることでできる。
【0045】
配向状態の傾向を解析するにあたっては、充填材の配向度、配向角を解析により予測することが好ましい。配向度、配向角を解析により予測することで、成形品の物性評価を適切に行うことができ、また、CAE流動解析で得られる繊維配向解析結果の精度検証を適切に行うことができる。以下、配向角、配向度を例に配向状態の解析方法について説明する。
【0046】
先ず、配向角の導出方法の一例について説明する。
充填材の配向状態の傾向は、図3(e)に示されるようなパワースペクトルの場合、パワースペクトルを表す楕円に直交する方向に表れる。具体的には、図4(a)に示す矢印の方向が繊維配向の主軸の方向となる。なお、図4(a)の点線Aはパワースペクトルを表す楕円であり(図3(e)と同じもの)、実線Bで表される楕円が、点線Aで表される楕円を90°回転させた楕円である。
配向角とは、図3(d)、(e)に示すy軸と主軸方向とが成す角であり、繊維配向の主軸の方向が図4(a)に示すような方向の場合には、配向角は図4(b)に示す通り、αとなる。
【0047】
次いで、配向度の導出方法の一例について説明する。
配向度は、楕円の長径と短径との比で表すことができる。例えば、図3(e)に示す楕円の長径がa、短径がbの場合、配向度はa/bとなる。なお、配向度は配向関数で表現してもよい。配向関数の導出方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
[スライス画像取得工程]
実施例に用いた樹脂成形品の形状は図5(a)に示すような平板である。この樹脂成形品は射出成形にて作製した。樹脂成形品の形状及び射出成形の際の成形条件を以下に示す。
形状 :縦80mm、横80mm、厚さ2mmt
樹脂 :ガラス繊維30質量%含有ポリブチレンテレフタレート樹脂
金型温度:60℃
樹脂温度:260℃
充填率 :17.3cm/s
保圧 :49MPa,5sec
冷却時間:7sec
【0050】
次に、上記樹脂成形品の半分について(図5(a)の破線で囲む部分)、図5(b)に示す位置A〜Cにて、1.5mm×1.5mm、厚み6μmの部分のスライス画像を取得した。スライス画像の取得は、幅3mm長さ10mmに切り出した厚み2mmの樹脂試験片を作製し、X線CT装置による撮影を行い、樹脂試験片のスライス画像の取得を行った。撮影装置には市販のX線CT装置(株式会社 日鉄エレックス製 ELE SCAN mini)を用いた。撮影条件を以下に示す。なお、得られたスライス画像を図3(a)、図6(a1)、図7(b1)に示した。図3(a)は位置Aのスライス画像であり、図6(a1)は位置Cのスライス画像であり、図7(b1)は位置Bのスライス画像である。なお、位置A、位置Bは表層から0.2mm、Cは表層から1mmのスライス画像である。
電圧 :32kV
管電流:130mA
【0051】
[画像変換工程]
X線CT装置にて得られた画像を二値化するために、画像を構成する各画素に対し、設定した画像濃度閾値以上の明度を持つ場合を1、それ未満を0とした。画像濃度閾値以上(「1」で表したもの)を白色、画像濃度閾値未満(「0」で表したもの)を黒色とし、二値化画像を作製した。作製した二値化画像を図3(b)、図6(a2)、図7(b2)に示した。図3(b)は位置Aでの二値化画像であり、図6(a2)は位置Cでの二値化画像であり、図7(b2)は位置Bでの二値化画像である。なお、画像濃度閾値の判断は目視により決定した。
【0052】
[パワースペクトル画像取得工程]
パワースペクトル画像は、数値計算ソフト(Image J)を用いて、二値化画像に対して、フーリエ変換を施すことにより作製した。作製したパワースペクトル画像を図3(c)、図6(a3)、図7(b3)に示した。図3(c)は位置Aでのパワースペクトル画像であり、図6(a3)は位置Cでのパワースペクトル画像であり、図7(a3)は位置Bでのパワースペクトル画像である。
【0053】
上記のパワースペクトル画像のパワースペクトルから全方位における平均明度を算出しプロットした後、最小二乗法を用いてドットの軌跡を楕円に近似した。ドットで表したパワースペクトルを図3(d)、図6(a4)、図7(b4)に示した。図3(d)は位置Aでのドットで表したパワースペクトルであり、図6(a4)は位置Cでのドットで表したパワースペクトルであり、図7(b4)は位置Bでのドットで表したパワースペクトルである。楕円で表したパワースペクトルを図3(e)、図6(a5)、図7(b5)に示した。図3(e)は位置Aでのパワースペクトルを表す楕円であり、図6(a5)は位置Cでのパワースペクトルを表す楕円であり、図7(b5)は位置Bでのパワースペクトルを表す楕円である。
【0054】
[配向状態解析工程]
楕円から配向角及び配向度を求めた。位置Aでは配向角が40.9°、配向度が2.1、位置Bでは配向角が14.5°、配向度が2.5、位置Cでは配向角が−15.5°、配向度が4.1であった。位置Aの配向度及び配向角を従来のガラス繊維配向を画像から読み取る方法で実測すると、位置Aでは配向角が39°、配向度が1.9、位置Bでは配向角が15°、配向度が3.2、位置Cでは配向角が−14°、配向度が4であった。本発明の方法によれば、充填材の配向状態の傾向を非常に正確に解析できることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材を所定の割合で含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向に所定の間隔で一以上のスライス画像を取得するスライス画像取得工程と、
前記スライス画像を各画素の画像濃度に基づいて二値化画像に変換する画像変換工程と、
前記二値化画像に対して、フーリエ変換を施すことによりパワースペクトル画像を取得するパワースペクトル画像取得工程と、
前記パワースペクトル画像に基づいて、各パワースペクトル画像における充填材の配向状態を解析する配向状態解析工程と、を備える充填材の配向状態を解析する方法。
【請求項2】
前記配向状態解析工程が、各パワースペクトル画像における、充填材の配向度及び/又は配向角を解析する請求項1に記載の充填材の配向状態解析方法。
【請求項3】
前記配向度及び前記配向角の解析が、各パワースペクトル画像を楕円近似する楕円近似工程を含む請求項2に記載の充填材の配向状態解析方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−2547(P2012−2547A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135460(P2010−135460)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】