説明

充填材

【課題】空洞等の空隙部を充填するために用いる充填材の付着性を低減することでその取り扱い性を向上する。
【解決手段】空洞等の空隙部を充填するために用いる充填材を、水と、セメントと、フライアッシュと、不燃性の軽量骨材と、増粘材とから構成する。かかる構成において、増粘材には2液性のビスコトップ(登録商標)を使用する。成分組成のパーライトはビスコトップ(登録商標)とイオン結合を起こし易いので、パーライトを除いた組成成分にビスコトップ(登録商標)を加えて練り混ぜた後に、パーライトを加えて混練することで所要の粘度を獲得し、且つ付着性を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空洞等の空隙部の充填技術に関し、特に、トンネルの背面空洞の充填に適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの掘削施工では、地山を構成する岩盤に孔をあけて掘削を行っている。かかる孔の内周面側では、小規模な崩落により空洞が発生しやすく、かかる空洞部を充填材のグラウトで埋めて地山の安定化を図っている。
【0003】
また、シールド掘削機等を用いてトンネルの掘削を行う場合には、孔の掘削に併せてセグメント等の覆工体を設けている。かかる覆工体の外周面と孔の内周面との空隙部に、グラウト材を注入している。
【0004】
このように、山岳トンネル工法で施工された鉄道、道路、水路トンネル等の背面空洞は、トンネルが塑性圧や偏圧を受けた場合、覆工背面より十分な地盤反力が期待できないため構造的に不利な状態となる他、地山の緩みを生じさせる原因にもなるため、背面側の空隙部に充填材を充填するようにしている。
【0005】
かかる充填方法としては、例えば、可塑性グラウト工法が知られている。可塑性(注入材料自体には流動性がないが、加圧により容易に流動する性質)を有するセメント系材料を、背面空洞に注入するものである。かかる可塑性グラウト工法は、地山中の亀裂、覆工面の所定外の空洞への逸脱等が少なく、限定注入が可能である。
【0006】
かかる可塑性グラウト工法に用いられる材料としては、例えば、特許文献1に、水と、水硬性セメントと、軽量骨材としてのパーライトと、ポリカルボン酸系減水剤と、増粘材とを有する組成の充填材が提案されている。かかる提案の充填材は、軽量性と共に、注入性、取り扱い性、施工コストの低減性に優れていると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−163526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
確かに、上記充填材にポリカルボン酸系減衰剤を使用することで注入性、取り扱い性は向上したが、本発明者は施工的観点からは、さらなる注入性、取り扱い性の向上が必要と考えた。
【0009】
かかる注入性をも含めた取り扱い性の向上という観点からは、本発明者は、充填材の粘度調整に際しての付着性に着目した。これまでの充填材は、増粘材を加えて粘度を所定粘度に調整すると、併せて器壁等への充填材の付着性も上がる。そのため、できた充填材は、製造あるいは充填に際して使用する機材の器壁に付着し、その取り扱い性が悪くなるのが、一般的傾向であった。
【0010】
そこで、本発明者は、充填材としての所定粘度は確保できると共に、付着性はそれ程上がらない充填材の構成が必要と考えた。
【0011】
本発明の目的は、空洞等の空隙部を充填するために用いる充填材の付着性を低減することでその取り扱い性を向上することにある。
【0012】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0014】
すなわち、本発明は空洞等の空隙部を充填するために用いる充填材であって、前記充填材は、水と、セメントと、フライアッシュと、軽量骨材と、増粘材とを有し、水硬性セメントとパーライトとポリカルボン酸系減水剤とを有するポリカルボン酸系減水剤含有充填材より、付着性が小さいことを特徴とする。あるいは、前記充填材の成分であるセメントは、その粒子が添加する増粘材に被包されていることを特徴とする。あるいは、前記充填材は、水と、セメントと、フライアッシュと、不燃性の軽量骨材と、増粘材とを有し、前記水は、339重量部以上、412重量部以下、前記セメントは、214重量部以上、236重量部以下、前記フライアッシュは、641重量部以上、709重量部以下、前記軽量骨材は、14重量部以上、16重量部以下、前記増粘材は、7.6重量部以上、8.4重量部以下であることを特徴とする。かかる構成において、前記軽量骨材には、粒径0.6mm以上、2.5mm以下で、吸水率が15%以下のパーライトが使用されていることを特徴とする。
【0015】
上記いずれかの構成において、前記充填材の比重は、1.1以上、1.5以下であり、前記充填材の流動性は、静置時のフロー値が80mm以上、150mm以下で、60分後のフロー値が100mm以下であり、打撃時のフロー値が130mm以上、205mm以下で、60分後のフロー値が170mm以下であることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記増粘材には、2液性のビスコトップ(登録商標)が使用されていることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記充填材は、施工後の使用されているトンネルの補修工事に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0017】
本発明では、空洞等の空隙部を充填するために用いる充填材の所望の粘度を確保すると共に、付着性を低減することでより取り扱い性等を向上させることができる。
【0018】
本発明では、充填材の成分のパーライトを、増粘材との混合後に添加することで、パーライトと増粘材との結合を抑制して、所望の粘度確保を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の充填材の製造方法の一例を示すフロー図である。
【図2】これまでの充填材の製造方法の一例を示すフロー図である。
【図3】本発明の充填材の製造方法の一例を示すフロー図である。
【図4】本発明の充填材の組成を表形式で示す説明図である。
【図5】(a)は本発明の充填材を用いて使用中の片側のトンネル背面空洞部に充填材を充填している充填システムを模式的に示す説明図であり、(b)はその様子をトンネル内の上面からを見た様子を模式的に示す説明図である。
【図6】本発明の一実施例に示す充填材のフロー値を、表形式で示す説明図である。
【図7】日本道路公団の道路トンネルにおける充填材のフロー値の規格を表形式で示す説明図である。
【図8】本発明に係る充填材を用いた充填システムを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
本発明は、空洞等の空隙部を充填するために用いる充填材に関する技術である。本発明の充填材は、基本的には、広くはどのようなものであれ空隙部の充填に使用することができるが、特に山岳トンネルの背面に形成される空洞部等の充填に適している。すなわち、使用中のトンネルの補修工事等に、適用して有効なものである。
【0022】
かかる本発明の充填材は、水と、セメントと、フライアッシュと、軽量骨材と、増粘材とをその成分として有するものである。特に、山岳トンネル等のトンネルへの適用に際しては、必要に応じて軽量骨材をパーライト等の不燃性のものにすればよい。
【0023】
本発明では、充填材の取り扱い性等をより向上させるために、充填材を所定粘度に調整する増粘材を加えても、製造あるいは充填作業等において使用する機器等の器壁等への付着性を抑制させることができる性質を有する増粘材を選択して使用するものである。
【0024】
かかる増粘材としては、例えば、花王株式会社製のビスコトップ(登録商標)を使用することができる。アルキルアリルスルフォン酸塩であるビスコトップ(登録商標)Aと、アルキルアンモニウム塩であるビスコトップ(登録商標)Bとを用いた2液性の増粘材を使用すればよい。
【0025】
かかる充填材では、不燃性軽量骨材としてパーライトを使用する場合には、パーライト自体が上記ビスコトップ(登録商標)とイオン結合を形成するため、特段の混合手順を採用することが必要である。かかる混合手順を採用することなく製造した場合には、充填材に所望の粘度を発生させることができないことが今回明らかとなった。
【0026】
パーライトは、軽量で且つ不燃性であるため、以前に幾つかの大きな火災事故が発生したトンネルにおいては、火災対策としてその使用が求められている。
【0027】
本発明者は、先の出願で、軽量性、注入性、取り扱い性、施工コストの低減性等に優れた充填材として、水硬性セメントとパーライトとポリカルボン酸系減水剤とを有するポリカルボン酸系減水剤含有充填材を提案した。かかる充填材は、例えば、信越化学工業社製のメトローズ等の増粘材を使用しても構わないものであった。
【0028】
しかし、その取り扱い性は確かに改善されてはいるものの、施工性を考えた場合には、前記の如く、よりその取り扱い性の向上が必要と考えた。そこで、付着性に着目し、増粘材の選定を行った。所望の粘度は付与できるが、付着性は抑制し得る増粘材を探した。種々の市販の増粘材を試してみた。
【0029】
かかる中、今回、上記ビスコトップ(登録商標)A、Bが、付着性を抑制しつつ、増粘効果が得られるものとして着目した。しかし、種々の軽量骨材を試す中、パーライトを用いた場合には十分な粘度が発生しないことに気づいた。幾つかある軽量骨材の中では、パーライトは不燃性の優れた軽量の骨材として是非とも使用したい骨材であった。
【0030】
そこで、本発明者は、かかるパーライトを用いた場合には、何故、所望の粘度が発生しにくいのかその原因を探った。その結果、パーライトがビスコトップ(登録商標)Bと反応し易いため、ビスコトップ(登録商標)A、Bの反応が起きにくいことを見出した。
【0031】
すなわち、ビスコトップ(登録商標)A、Bは、イオン結合によりその反応が起きるが、パーライトは粒子表面に+電荷を持つため、陰イオン性のビスコトップ(登録商標)Bとイオン結合を形成することが判明した。そのため、ビスコトップ(登録商標)Bは、ビスコトップ(登録商標)Aと反応しにくくなり、結果として所望の粘度が得られないことが明らかとなったのである。
【0032】
かかるパーライトとビスコトップ(登録商標)Bとの結合性は、パーライトの比表面積が大きくなる程、表面積の電荷が増えるので、パーライトが混合に際して微粉になる程ビスコトップ(登録商標)Bと結合し易くなるのである。そのため、パーライトとビスコトップ(登録商標)Bとを混合すると、混合に際してパーライトが破砕し細かくなるに従い、よりビスコトップ(登録商標)Bと反応し易くなることが今回初めて確認された。
【0033】
そこで、ビスコトップ(登録商標)Bとの反応を抑制させるためには、ビスコトップ(登録商標)Aとビスコトップ(登録商標)Bとを十分に反応させた後で、パーライトを混合することが好ましいことに気づいた。
【0034】
さらに、使用するパーライトは、例えば、粒径を0.6mm以上、2.5mm以下に設定しておけば、より好ましいことも判明した。粒径が0.6mm未満の場合には、微粉末であるために増粘材Bに吸着される不都合が発生し、また粒径が2.5mmより大きい場合には覆工中のひび割れに入っていけず充填がうまく行えなくなる不都合が発生する場合がある。そのため、粒径が0.6mm以上、2.5mm以下であることが好ましいのである。
【0035】
図1には、本発明の製造方法のフロー図を示した。すなわち、ステップS10で、水と、セメントと、フライアッシュと、増粘材Bとしてのビスコトップ(登録商標)Bとを、グラウトミキサーで一斉に練り混ぜる。その後、ステップS20で、増粘材Aとしてのビスコトップ(登録商標)Aを加えて練り混ぜる。最後に、ステップS30で、所定量のパーライトを加えて、練り混ぜを行う。かかるステップS20、S30の工程は、モルタルミキサーにて行えばよい。
【0036】
図1に示すように、本発明の製造方法では、ビスコトップ(登録商標)A、Bを加えて混練した後で、パーライトを加えて練り混ぜることで、パーライトとビスコトップ(登録商標)Bとの反応を十分に抑制している。このようにすることで、抑制された付着性と共に、所望の増粘効果が得られるのである。
【0037】
因に、ステップS10では3分の練り混ぜ、ステップS20では2分の練り混ぜ、ステップS30では30秒間の練り混ぜを行えばよい。パーライトは、このように増粘材と他の組成成分とを練り混ぜた後の最終段階で加えて、短い時間で軽く混合するようにすればよい。
【0038】
一方、本発明者が試した図2に示す製造方法では、ステップS1で、水と、セメントと、フライアッシュと、増粘材Bとしてのビスコトップ(登録商標)Bと、パーライトとを、グラウトミキサーで一斉に練り混ぜる。その後、生コン車等に移しかえて、増粘剤Aとしてのビスコトップ(登録商標)Aを加えて、生コン車で3分練り混ぜる。
【0039】
かかる方法では、グラウトミキサーの高速回転でパーライトが粉砕され、粉砕されたパーライトの微粉末がビスコトップ(登録商標)Bと反応してイオン結合を形成してしまう。そのため、ビスコトップ(登録商標)Bは、ビスコトップ(登録商標)Aとは反応しにくくなり、結果として、所望の増粘効果が発揮できないのである。
【0040】
本発明者は、上記の図1に示すフロー図のように、ビスコトップ(登録商標)A、Bの混入、混練後に、パーライトを添加することで、パーライトとビスコトップ(登録商標)Bとの反応を十分に抑制できる製造方法を見出したのである。
【0041】
また、本発明者は、前記図1に示すステップS10の工程をさらに見直すことで、混練時間の短縮が図れることを見出した。すなわち、図3に示すように、ステップS101で、水と増粘材Bとしてのビスコトップ(登録商標)Bとを、例えば10秒間の練り混ぜを行う。その後、ステップS102でフライアッシュを加えて、1分間の練り混ぜを行う。その後、ステップS103で、さらにセメントを加えて30秒間練り混ぜを行う。
【0042】
このように、一括混練していた図1のステップS10を、図3のステップS101、S102、S103のように分けることにより、混練に要する時間をわずか1分40秒に短縮することができた。
【0043】
ステップS103の後は、ステップS20、S30と、図1に示す方法と同様に、パーライトを増粘材Aとしてのビスコトップ(登録商標)Aの添加、混練後に、加えて練り混ぜればよい。
【0044】
また、本発明で使用するパーライトは、上記図1、3に示すように、混練時に破砕することは期待できないので、予め、所定の粒径に設定しておくのが好ましく、例えば、粒径を0.6mm以上、2.5mm以下に設定しておけばよい。
【0045】
図1、3に示す構成では、不燃性軽量骨材であるパーライトを増粘材としてのビスコトップ(登録商標)A、Bの反応後に加えるようにしたが、しかし、パーライト以外の軽量骨材を使用することで、増粘材との反応が抑制できる場合には、図1、3に示すような製造方法をとる必要はない。
【0046】
軽量骨材としてパーライトを使用し、増粘材ビスコトップ(登録商標)を使用した場合には、上記充填材の組成は次のようにすることできる。すなわち、充填材の組成は、水と、セメントと、フライアッシュと、不燃性軽量骨材としてのパーライトと、増粘材としてのビスコトップ(登録商標)とから構成すればよい。
【0047】
かかる充填材の組成では、水(Wと略記する場合あり)は339重量部以上412重量部以下で、セメント(Cと略記する場合あり)は214重量部以上236重量部以下で、フライアッシュ(Fと略記する場合あり)は641重量部以上709重量部以下で、パーライト(Pと略記する場合あり)は14重量部以上16重量部以下で、増粘材(Zと略記する場合あり)のビスコトップ(登録商標)は7.6重量部以上8.4重量部以下であれば好ましいことが実験により確認された。かかる軽量骨材として使用するパーライトの粒径は、例えば、0.6mm以上、2.5mm以下に設定されていればよい。
【0048】
上記組成比を外れる場合には、得られる充填材の比重、流動性が、下記に示す規定外となる場合がある。
【0049】
また、結合材(Bと略記する場合あり)=C+F+Pとすると、水(W)の使用量は、結合材比(W/(C+F+P))で、37重量%以上、45重量%以下で、最も好ましいのは43重量%であった。増粘材の使用量は、水の重量に対して2重量%以上、3重量%以下(Z/W)とするのが好ましいことが確認された。
【0050】
なお、練混ぜ直後の比重については、増粘材が添加されるため充填材に若干の空気(5.0%程度)が混入し、練りあがり直後の比重は概ね1.289となり軽量化される。練り混ぜ時のバラツキを考えても1.2±0.1の範囲に収まるものであることが確認された。
【0051】
かかる組成の充填材は、上記組成成分を各成分組成の組成範囲内で混合することにより、比重を1.1以上1.5以下に、流動性を静置時のフロー値が80mm以上150mm以下で、60分後のフロー値を100mm以下にし、且つ打撃時のフロー値を130mm以上205mm以下で、60分後のフロー値を170mm以下にすることができる。
【0052】
上記組成の範囲内で、かかる比重と、流動性を持たせることができるため、例えば、使用充填材の性状値の規格が設定されている道路公団の共用トンネルの空洞部等の充填補修工事にも、使用することができる。
【0053】
本発明者は、前記の如く、充填材の取り扱い性等の向上のために、粘度を所定の範囲に調節できるが、付着性はそれ程大きくならない増粘剤を探し、市販の多数の増粘材を種々試す中で、花王株式会社製のビスコトップ(登録商標)を見出した。
【0054】
かかるビスコトップ(登録商標)を使用した場合には、成分のセメント粒子が、ビスコトップ(登録商標)A、Bが反応してイオン結合した物質で周囲が囲まれている様子を確認した。かかる構成が発生することで、充填材としては上記静置時のフロー値、打撃時のフロー値で示す流動性を指標とした所定の粘度が得られる反面、付着性は少なくとも前記のポリカルボン酸系減水剤含有充填材より抑制されているものと推察される。
【0055】
因に、例えば、水硬性セメントと、軽量骨材としてパーライトと、ポリカルボン酸系減水剤、増粘材(信越化学工業社製のメトローズ)とを有する先に提案したこれまでの充填材の山岳トンネル背面空洞充填材に比べて、流動性を指標とした粘度が上記範囲では、本発明の充填材は付着性が明らかに低く、先の出願に関わる充填材は本発明の充填材の場合よりも明らかに高いことがわかる。
【0056】
かかる付着性の大小の比較は、例えばJHSのフロー試験において、本願発明に係る充填材(増粘材にビスコトップ(登録商標)を使用)の方がφ80mmの円筒形容器からスムーズに抜け落ちるが、上記ポリカルボン酸系減水剤含有充填材(増粘材にメトローズを使用)ではφ80mmの円筒形容器の内面に付着し、ゆっくり上げないと抜け落ちないことから確認できる。簡易ではあるが、このようにフロー試験で抜け落ちに要した時間、抜け落ちた静置の状態を見比べれば、容易に確認できるのである。
【0057】
本発明の充填材では、所望の粘度確保ができる上に、このように付着性を低く抑えることができるため、製造時、充填時等で使用する機器、容器等にやたらに付着することがなく、作業性等の取り扱い性が極めて良好である。
【実施例】
【0058】
本実施例では、上記実施の形態に説明の本発明の充填材及びその製造方法について、具体例を挙げて説明する。
【0059】
本発明に係る充填材で使用する材料は、前記の如く、水と、セメントと、フライアッシュと、パーライトと、増粘材とである。
【0060】
かかる材料のうち、セメントとしては、JIS R5201で定められた普通ポルトランドセメントを使用した。また、フライアッシュには、JIS規格のII種でブレーン比表面積は、2500cm2/g以上、比重が1.95以上のものを使用した。不燃性の軽量骨材としては、パーライトを使用した。かかるパーライトは、比重が0.26g/cm3以下、かつ吸水率は15%以下のもので、かつ粒径は0.6〜2.5mmのものを用いた。最も好ましいのは1.2〜2.5mmである。
【0061】
かかる組成成分は、図4にその組成比を示すように、水が390重量部に対して、セメントが225重量部、フライアッシュが675重量部、パーライトが15重量部、増粘材のビスコトップ(登録商標)A、Bが合わせて8重量部であった。
【0062】
かかる組成では、水の使用量は、結合材比で、42.6重量%であった。また、練混ぜ時の比重は、直後の比重については、増粘材が添加されるため充填材に若干の空気(5.0%程度)が混入し、練りあがり直後の比重は1.283となり軽量化されていることが確認された。
【0063】
また、かかる充填材は、まずグラウトミキサーにて図4の配合組成で、前記図3のフロー図に示すように、ステップS101で水と2液性の増粘材の内のビスコトップ(登録商標)Bを投入し10秒程度練混ぜ泡立てる。次に、ステップS102で、フライアッシュを投入して1分程度練混ぜる。そして、ステップS103でセメントを投入し30秒程度練混ぜる。
【0064】
かかる状況を、例えば、道路トンネルのトンネル背面の空洞部の充填補修に用いる場合を想定して、図5(a)に充填システムを模式的に示した。上記ステップS101〜ステップS103までは、図5(a)に示すように、実際の施工現場とは離れた箇所に設置したグラウトミキサー10で行えばよい。
【0065】
その後、グラウトミキサー10で練り混ぜたものを、アジテータ槽20に落下させて、攪拌し、必要量をモルタルポンプ30で生コン車40に投入する。
【0066】
生コン車40は、実際に注入を行う現場トンネル100まで移動して、モルタルミキサー50に混合した所定量の材料を投入する。そして、増粘材としての残りのビスコトップ(登録商標)Aをその所定量の材料に見合う分投入し、2分程度練混ぜる。その後、粒径1.2〜2.5mmで吸水率は15%以下のパーライトをその所定量の材料に見合う分投入し、30秒程度練混ぜることで本発明の充填材(裏込材とも言う)を製造する。
【0067】
このようにして製造された充填材の流動性は、図6に示すようになった。直径80mm高さ80mmのシリンダーを用いたJHS A313-1992のフロー試験では、図6に示すように、経過時間が0分時の静置フローが108mmで、打撃時のフローが179mmで、60分経過後の静置時のフロー値が93mmで、打撃時のフロー値が165mmであった。
【0068】
このように本発明に係る充填材では、練り混ぜ後の60分間でのフローダウンが小さいため、ポンプで圧送する際には、高い注入性が保持できる。また、かかる充填材は、比重が1.2±0.1と軽量であり、且つ取り扱い性が良好とのことで開発された前記ポリカルボン酸系減水剤を用いた場合よりも付着性が小さく、その取り扱い性が極めて優れている。さらに、混練に際しては、図3に示すフローに沿って行えば、施工時間も短く抑えられ、製造コストの低減も可能である。
【0069】
かかる充填材は、上記の如き流動性を有しており、図7に示す日本道路公団「矢板工法トンネルの背面空洞注入材工法設計施工指針、2002.10」に記されている背面空洞充填材の品質規格の流動性についての規格値を満足するものであることが分かる。図7に示す規定は、日本道路公団の道路トンネル補修用の充填材の規格値であるが、かかるトンネルの空洞部の充填材用の規格は一般に作成されておらず、現時点では最も厳しい規格値であり、かかる規格値を満足すれば、その他のトンネル等への適用も可能と思われる。
【0070】
このようにしてモルタルミキサー50で製造されたかかる性状の充填材は、例えば、ホッパー60、グラウトポンプ70を介して圧送チューブ71に送られる。高所作業車80で、圧送チューブ71の充填ノズルをトンネル背面の空洞部200内に向けて、充填材を注入すればよい。
【0071】
かかる充填システムは、図5(b)に示すように、2車線以上の道路トンネルにおいて片側規制で作業時間が昼間で8時間以上確保でき、大量(30m3/日)に注入する場合に有効に採用できるシステムである。大量の充填材を生コン工場で製造し、生コン車を用いて現場トンネルに運搬し、現地に設置したホッパー60で受けてグラウトポンプ70で圧送し所定のトンネル背面の空洞部200に注入充填すればよい。すなわち、大量に充填材を製造し、尚且つ製造が充填現場でできない場合に有効なシステムと言える。
【0072】
一方、充填材の使用量が少量の場合には、図8に模式的に示すような充填システムで充填を行えばよい。例えば、図8に示すように、鉄道単線トンネルで作業時間が夜間の3時間程度しか確保できず、注入量が1m3/日程度の少量注入の場合には、本発明に係る充填材を現地のトンネル坑口付近の広場にて製造して処理すればよい。
【0073】
図8に示すように、トンネル坑口付近に、小型の全自動に構成した混練り用のプラントを設置し、併せて発電機、給水車、水槽、材料等を準備する。かかる小型全自動プラントで、前記図4に示すステップS101、S102、S103の順で所要の材料を自動投入して、所要時間で練り混ぜる。練り混ぜたものは、図8に示すように、軌陸車90のタンク91内に入れ、トンネル内の充填現場まで搬送する。
【0074】
現場では、軌陸車90のタンク91内からポンプ92で内容物を別の軌陸車90に備えたモルタルミキサー50に移す。さらに、ビスコトップ(登録商標)Aを投入し所定時間練り混ぜ、その後パーライトを投入して所定時間練り混ぜ充填材を製造する。かかる充填材を、別の軌陸車90に備えたホッパー60、グラウトポンプ70を介して圧送チューブ71に送り、ローリングタワー81で、圧送チューブ71の充填ノズルをトンネル背面の空洞部200内に向けて、充填材を注入すればよい。
【0075】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0076】
前記実施の形態、実施例では、増粘材として2液性のビスコトップ(登録商標)を例に挙げて説明したが、使用する増粘材としてはビスコトップ(登録商標)の他にも、ポリカルボン酸系減水剤含有充填材より付着性が低く、且つ前記規格の流動性を指標とした粘度が得られるものであれば使用できることは言うまでもない。
【0077】
さらに、かかる増粘材で、パーライトと、増粘材の成分が反応する場合には、本発明の製造方法を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、山岳トンネル等の空洞等の空隙部を充填する土木分野等で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
10 グラウトミキサー
20 アジテータ槽
30 モルタルポンプ
40 生コン車
50 モルタルミキサー
60 ホッパー
70 グラウトポンプ
71 圧送チューブ
80 高所作業車
81 ローリングタワー
90 軌陸車
91 タンク
92 ポンプ
100 トンネル
200 空洞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞等の空隙部を充填するために用いる充填材であって、
前記充填材は、水と、セメントと、フライアッシュと、軽量骨材と、増粘材とを有し、
水硬性セメントとパーライトとポリカルボン酸系減水剤とを有するポリカルボン酸系減水剤含有充填材より、付着性が小さいことを特徴とする充填材。
【請求項2】
空洞等の空隙部を充填するために用いる充填材であって、
前記充填材の成分であるセメントは、その粒子が添加する増粘材に被包されていることを特徴とする充填材。
【請求項3】
空洞等の空隙部を充填するために用いる充填材であって、
前記充填材は、水と、セメントと、フライアッシュと、不燃性の軽量骨材と、増粘材とを有し、
前記水は、339重量部以上、412重量部以下、
前記セメントは、214重量部以上、236重量部以下、
前記フライアッシュは、641重量部以上、709重量部以下、
前記軽量骨材は、14重量部以上、16重量部以下
前記増粘材は、7.6重量部以上、8.4重量部以下であることを特徴とする充填材。
【請求項4】
請求項3記載の充填材において、
前記軽量骨材には、粒径0.6mm以上、2.5mm以下で、吸水率が15%以下のパーライトが使用されていることを特徴とする充填材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の充填材において、
前記充填材の比重は、1.1以上、1.5以下であり、
前記充填材の流動性は、静置時のフロー値が80mm以上、150mm以下で、60分後のフロー値が100mm以下であり、打撃時のフロー値が130mm以上、205mm以下で、60分後のフロー値が170mm以下であることを特徴とする充填材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の充填材において、
前記増粘材には、2液性のビスコトップ(登録商標)が使用されていることを特徴とする充填材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の充填材において、
前記充填材は、施工後の使用されているトンネルの補修工事に用いられることを特徴とする充填材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−241679(P2011−241679A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170629(P2011−170629)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【分割の表示】特願2006−336677(P2006−336677)の分割
【原出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】