説明

充放電システム

【課題】余剰の運動エネルギーを装置容積や重量に大きな制約を受けることなく貯蔵することができ、また可逆的に貯蔵エネルギーを運動エネルギーに変換することができる充放電システムを提供する。
【解決手段】外部からの駆動力によりモータ20が発電するときは、発電電力を用いて水13から電解水素イオンを生成し、燃料電池のイオン交換膜を透過させて、水素イオン貯蔵物質12と反応させて水素イオン供給物質11が再生される充放電可能な燃料電池10とモータ20からなる充放電システム。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池による充放電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の水素化物である有機ハイドライドの脱水素反応または水素化反応を用いて、燃料電池用の水素の供給または貯蔵を行う技術は、特開2001−110437号公報、特開2001−198469号公報、特開2002−134141号公報、特開2002−184436号公報、特開2002−187702号公報、特開2002−274801号公報、特開2002−274802号公報、特開2002−274803号公報、特開2002−274804号公報に開示されている。
【0003】
燃料電池への水素供給源として有機ハイドライドを利用する方法の優れている点としては、有機ハイドライドの脱水素反応により生成される脱水素化合物が、触媒反応により容易に水素化して有機ハイドライドに再生できる点にあり、有機ハイドライドを利用する水素貯蔵・供給システムの確立により、多様な水素源(余剰電力による電気分解水素を含む)と燃料電池システムを結んだ循環型供給システムを構築することができる。
【0004】
現在、有機ハイドライドの脱水素反応又は水素化反応のプロセスを内部化して組み込む技術が、特願2003−45449号公報、特願2004−192834号公報、特願2004−247080号公報において開示されている。これは、燃料電池の負極側に有機ハイドライドを供給又は保持して、脱水素化して、連続的に該水素を水素イオン化するものであり、脱水素触媒と水素イオン化触媒を一体化させることで極めて簡素な構成による有機ハイドライド直接型燃料電池システムを実現するものである。
【0005】
発明者らは、上記の発明に関連して実証的な研究開発に取り組んできたが、上記技術によれば、有機ハイドライドの連続的な水素イオン供給物質の脱水素による燃料電池発電だけでなく、外部からの電力を用いて水素を生成し水素イオン貯蔵物質と水素化反応させて水素貯蔵物質を再生することができるため、充電装置としての活用できることが確認された。
【0006】
従来、自動車や自転車等の移動装置においては、減速時の運動エネルギーをモータを発電装置として、電気エネルギーとしてバッテリー蓄電器に貯蔵する方法が取られてきたが、同方法では蓄電器のエネルギー貯蔵効率が低いこと、貯蔵容量が蓄電器の容積規模や重量により限定的であったことなどから、余剰運動エネルギーを十分に貯蔵することが困難であった。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、このような従来技術の有利性を活かして、主には移動装置分野における余剰の運動エネルギーを装置容積や重量に大きな制約を受けることなく貯蔵することができ、また可逆的に貯蔵エネルギーを運動エネルギーに変換することができる充放電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記課題の解決のために鋭意研究開発を行い、有機ハイドライド等を水素イオン供給物質として利用した直接型燃料電池と、電気エネルギーと運動エネルギーを双方向に変換するモータとを組み合わせることで、運動エネルギーと化学エネルギーとを可逆的に変換できる充放電システムを発明するにいたった。
【0009】
すなわち、本願請求項1の発明は、水素イオン供給物質11の脱水素反応と、水素イオン貯蔵物質12の水素化反応を用いた充放電可能な燃料電池10とモータ20からなる充放電システムであって、放電時には、水素イオン供給物質11の脱水素反応により生成する水素が燃料となって燃料電池10が発電し、水13が生成されるとともに、モータ20に電力が供給されて駆動し、外部からの駆動力によりモータ20が発電するときは、発電電力を用いて水13から電解水素イオンを生成し、燃料電池のイオン交換膜を透過させて、水素イオン貯蔵物質12と反応させて水素イオン供給物質11が再生されることを特徴とする、充放電システムを提供する。
【0010】
本願請求項2の発明は、燃料電池10とモータ20とは、直流/直流又は直流/交流の変換器及び変圧器を介して電気的に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の充放電システムを提供する。
【0011】
本願請求項3の発明は、燃料電池10とモータ20とは、蓄電装置と並列的に接続されて、余剰の電力の蓄電又は不足する電力の放電を蓄電装置が行うことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の充放電システムを提供する。
【0012】
本願請求項4の発明は、請求項1から請求項3に記載の充放電システムを具備する電動移動装置であって、放電時のモータ20の駆動力を動力源として用いるとともに、制動時の運動エネルギーは駆動エネルギーとしてモータ20に供給され、水素イオン供給物質11が再生されることを特徴とする、充放電システムを具備する電動移動装置を提供する。
【0013】
本願請求項5の発明は、さらに、内燃動力機関を具備し、内燃動力機関の動力は、減速器と動力伝達器を介してモータ20に供給されて、駆動力を補完及び/又は発電し、内燃動力機関の廃熱は、水素イオン供給物質11の脱水素反応の反応熱として供給されることを特徴とする、請求項4に記載の充放電システムを具備する電動移動装置を提供する。
【0014】
本願請求項6の発明は、前記水素イオン供給物質11は、二級アルコール類、水素化芳香族化合物、水素化金属錯体化合物、のいずれかを主成分とするものであることを特徴とした、請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の燃料電池を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、本願発明の基本構成を示す。本発明は、水素イオン供給物質11の脱水素反応と、水素イオン貯蔵物質12の水素化反応を用いた充放電可能な燃料電池10とモータ20とが回路により連結された構成をもつ。
【0016】
燃料電池10は、本願請求項6の発明の水素イオン供給物質11を用いた直接型燃料電池であって、発電時には、水素イオン供給物質11が供給され、燃料電池の燃料極内での脱水素反応により水素イオンが生成されるとともに、化学反応により水素化することができる脱水素有機化合物等(本願では、「水素イオン貯蔵物質(12)」という。)が生成される。同時に、酸素極側では水素イオンと酸素イオンが反応して水13が生成される。逆に、燃料電池に外部より電力が与えられたときは、水13が電解され水素イオンが生成し、同時に燃料極側で水素イオン貯蔵物質12が供給されて、イオン交換膜を透過した水素イオンと水素イオン貯蔵物質12とが触媒反応により水素イオン供給物質11に再生されるようになっている。
【0017】
燃料電池10の燃料極側に挿置される触媒は、触媒金族として、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、鉄、レニウム、バナジウム、クロム、タングステン、モリブデン、または銅から構成される群から選定された少なくとも1つ、またはそれらの化合物を含有するもののいずれかを選択でき、活性炭素繊維、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、ゼオライト、メソ多孔質材、ナノカーボン素材、パラジウム多孔材などの多孔質基材を触媒担体として選択できる。
【0018】
イオン交換膜は、水素イオンを選択的に透過するものであれば任意のものを選択することができ、実用的には固体高分子膜が利用される。ただし、固体高分子膜の耐熱性が、高いものでも200℃前後であるため、より高温の作動温度に耐える金属製やセラミックス製のイオン交換膜を利用することも可能である。
【0019】
水素イオン供給物質は、本願請求項6の発明のように、二級アルコール類、水素化芳香族化合物、水素化金属錯体化合物、のいずれかを主成分とするものであるが、技術開発の進展により水素イオンを化学的に放出・吸収する可逆的物質が見出されたときは、当然にその物質を用いることができる。
【0020】
燃料電池10の反応により発生する電気は、モータ20に供給されモータ20を駆動して運動エネルギーを得ることができる。一方、モータ20が機械的に連結した運動機構に余剰の運動エネルギーがあるときは、モータ20が発電機となって電気が発生し、燃料電池10に供給されることで、先述の水素イオン供給物質を再生することができるようになっている。当然に、余剰の運動エネルギーの有無は、運動機構或いはモータ20において機械的或いは電気的に検知されて、モータ20の発電電力を燃料電池10に供給する電気的切替が回路に含まれている(図示せず。)。
【0021】
水素イオン供給物質11の脱水素反応は吸熱反応となるため、直接型燃料電池として、燃料電池10内部には脱水素反応に熱を供給することができる加熱手段が内蔵されている。これは、本願請求項5の発明のように、モータ20と連結された運動機構が排熱を発生するときは、この外部の排熱を活用した加熱手段であることが望ましいが、電気ヒータや燃焼ガスヒータを選択することもできる。
【0022】
本願発明の充放電システムは、本願請求項4の発明のように電動移動装置の動力機構に複合化することができ、電動移動装置の制動時の慣性運動エネルギーを化学エネルギーとして貯蔵することができ、貯蔵された余剰運動エネルギーは、燃料電池反応により運動エネルギーとして再利用することが可能となる。
【0023】
また、本願請求項5の発明のように、電動移動装置が内燃動力機関を具備する、いわゆるハイブリッド型移動装置であるときは、内燃動力機関の排熱を脱水素反応の反応エネルギーとして供給することができる。当然に、内燃動力機関による移動装置に本願発明の充放電システムを組合わせて動力補助、余剰動力貯蔵させることもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、主には移動装置分野における余剰の運動エネルギーを装置容積や重量に大きな制約を受けることなく貯蔵することができ、また可逆的に貯蔵エネルギーを運動エネルギーに変換することができる充放電システムを提供することを提供することができる。
【0025】
本発明は、上記の説明に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】 本願発明の充放電システムの基本構成を示した図。
【符号の説明】
【0027】
10 燃料電池
11 水素イオン供給物質
12 水素イオン貯蔵物質
13 水
20 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオン供給物質(11)の脱水素反応と、水素イオン貯蔵物質(12)の水素化反応を用いた充放電可能な燃料電池(10)とモータ(20)からなる充放電システムであって、
放電時には、水素イオン供給物質(11)の脱水素反応により生成する水素が燃料となって燃料電池(10)が発電し、水(13)が生成されるとともに、モータ(20)に電力が供給されて駆動し、
外部からの駆動力によりモータ(20)が発電するときは、発電電力を用いて水(13)から電解水素イオンを生成し、燃料電池のイオン交換膜を透過させて、水素イオン貯蔵物質(12)と反応させて水素イオン供給物質(11)が再生されることを特徴とする、
充放電システム
【請求項2】
燃料電池(10)とモータ(20)とは、直流/直流又は直流/交流の変換器及び変圧器を介して電気的に接続されていることを特徴とする、
請求項1に記載の充放電システム
【請求項3】
燃料電池(10)とモータ(20)とは、蓄電装置と並列的に接続されて、余剰の電力の蓄電又は不足する電力の放電を蓄電装置が行うことを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載の充放電システム
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載の充放電システムを具備する電動移動装置であって、
放電時のモータ(20)の駆動力を動力源として用いるとともに、制動時の運動エネルギーは駆動エネルギーとしてモータ(20)に供給され、水素イオン供給物質(11)が再生されることを特徴とする、
充放電システムを具備する電動移動装置
【請求項5】
さらに、内燃動力機関を具備し、
内燃動力機関の動力は、減速器と動力伝達器を介してモータ(20)に供給されて、駆動力を補完及び/又は発電し、
内燃動力機関の廃熱は、水素イオン供給物質(11)の脱水素反応の反応熱として供給されることを特徴とする、
請求項4に記載の充放電システムを具備する電動移動装置
【請求項6】
前記水素イオン供給物質(11)は、二級アルコール類、水素化芳香族化合物、水素化金属錯体化合物、のいずれかを主成分とするものであることを特徴とした、
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2006−108061(P2006−108061A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314769(P2004−314769)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301035851)株式会社フレイン・エナジー (11)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100091971
【弁理士】
【氏名又は名称】米澤 明
【Fターム(参考)】