説明

先端偏向操作可能カテーテル

【課題】板バネを有しない機構でありながら、カテーテルの先端部分の形状を同一平面上で変化させることができる先端偏向操作可能カテーテルを提供すること。
【解決手段】先端可撓部分10Aを有するシャフト10を備え、先端可撓部分10Aは、中央ルーメン11Cと、周囲に配列されたサブルーメン111〜118とを有するマルチルーメン構造体であり、カテーテルシャフト10の中心軸を挟んで対向配置されたサブルーメン111,115に操作用ワイヤ31,32が挿通され、カテーテルシャフト10の中心軸Oおよび操作用ワイヤ31,32が挿通されたサブルーメン111,115の中心軸を含む第1仮想平面P1に対して直交する第2仮想平面P2上に中心軸を有し、カテーテルシャフト10の中心軸Oを挟んで対向配置されたサブルーメン113,117の各々が、高弾性率樹脂チューブ13により区画されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は先端偏向操作可能カテーテルに関し、更に詳しくは、体外に配置した操作部を操作することにより、体腔内に挿入されているカテーテルの先端部分を撓ませて、その先端の向きを変化させることができる先端偏向操作可能カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、動脈血管を通して心臓の内部まで挿入される電極カテーテルなどでは、心臓内に挿入されたカテーテルの先端(遠位端)の向きを、体外に配置されるカテーテルの後端(近位端または手元側)に装着された操作部を操作して変化(偏向)させる必要性がある。
【0003】
カテーテルの先端を手元側で操作して偏向させるための機構として、下記の特許文献1に示す機構が知られている。特許文献1に示す機構では、カテーテルの先端部分の内部にスプリング力のある板バネを配置し、この板バネの片面または両面に操作用ワイヤの先端を接続固定している。そして、操作用ワイヤの後端を引張操作することによって板バネを撓ませ、カテーテルの先端部分を板バネの平面と垂直方向に曲げて、カテーテルの先端の向きを変化させる。
このように、カテーテルの先端部分の内部に板バネを配置することにより、操作用ワイヤを引張操作すると、同一平面上でその形状を変化させる(板バネの平面と垂直方向に曲げる)ことができる。
【0004】
然るに、特許文献1に示す機構では、カテーテルのルーメンが、板バネなどの偏向操作機構で占拠されてルーメンの断面積が狭められ、ルーメンの内部に、電極のリード線などを挿通するスペースを十分に確保することができないという問題がある。
【0005】
このような問題に対して、本出願人は、軸方向に沿って延びるルーメンを有するカテーテルシャフトと、前記ルーメンの内部に収容され、長手方向に沿って延びる凸条が形成してある板バネとを有する先端偏向操作可能カテーテルを提案している(特許文献2参照)。このような先端偏向操作可能カテーテルによれば、板バネの幅を狭くすることができ、ルーメンの断面空間をある程度有効に利用することが可能になった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3232308号公報
【特許文献2】特開2008−245766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、凸条を形成したとしても板バネの幅を狭くするのには限界があるために、特許文献2に示す機構によってもルーメンの断面空間を十分有効に利用するには至っていない。
ところで、アブレーションカテーテルなどの電極カテーテルにおいて、先端電極の中心軸上に配置した熱電対のリード線などをカテーテルのルーメンに挿通させる際に、これらのリード線が屈曲してキンクすることなどを防止する観点から、当該リード線をカテーテルシャフトの中心軸に沿って挿通することが望ましい。
【0008】
また、マルチルーメン構造のカテーテルシャフトにおいても、リード線などを挿通することのできる中央にルーメンを形成することが望ましい。
シャフトの中央にルーメンを形成することにより、上記の熱電対のリード線を屈曲させることなく、この中央ルーメンに挿通することができるので、当該リード線のキンクなどを防止することができる。また、シャフトの中央にルーメンを形成することにより、シャフト内部における外周の近傍に複数のルーメンを設ける場合よりも、シャフト断面を有効に利用すること(広いルーメン空間を確保すること)ができ、これによって、リード線などの収容能力の拡大を図ることができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に示す機構ではカテーテルシャフトの中心軸に沿って板バネが配置されているので、熱電対のリード線などをシャフトの中心軸に沿って挿通することはできず、これらのリード線は、板バネとの干渉を避けるために外周方向に屈曲させた後に、シャフト内部(外周の近傍)に挿通させなければならない。
【0010】
また、マルチルーメン構造のカテーテルシャフトを採用する場合においても、特許文献1に示す機構では、カテーテルシャフトの中心軸に沿って板バネが配置されているので、シャフトの中央にルーメンを形成することができない。
なお、特許文献2に示す機構では、板バネの幅を狭くすることにより、シャフトの中央にルーメンを形成することは可能であるが、形成された中央ルーメンは板バネの収容空間となるため、リード線などを挿通させる余地は残っていない(特許文献2の図6および図7参照)。
【0011】
一方、従来の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、シャフトの中央にルーメンを形成するために板バネを配置しないこととすれば、偏向操作時にカテーテルの先端部分の形状を同一平面上で変化させる(形状変化の平面性を確保する)ことができない。
【0012】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の第1の目的は、板バネを有しない機構でありながら、操作用ワイヤの引張操作によって、カテーテルの先端部分の形状を同一平面上で変化させることができる先端偏向操作可能カテーテルを提供することにある。
本発明の第2の目的は、シャフトの中央にルーメンを有するものでありながら、操作用ワイヤの引張操作によって、カテーテルの先端部分の形状を同一平面上で変化させることができる先端偏向操作可能カテーテルを提供することにある。
本発明の第3の目的は、シャフトの断面を有効に利用することができ、リード線などの収容能力の拡大などを図ることができる先端偏向操作可能カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の先端偏向操作可能カテーテルは、先端に可撓部分(以下、「先端可撓部分」という。)を有するカテーテルシャフトと、このカテーテルシャフトの先端に固定された先端電極と、前記カテーテルシャフトの先端可撓部分を撓ませるために、当該カテーテルシャフトの内部に延在し、その先端が前記先端電極または前記カテーテルシャフトの先端部に接続固定され、その後端を引張操作できる操作用ワイヤとを有し、
前記カテーテルシャフトの少なくとも先端可撓部分は、中央ルーメンと、この中央ルーメンの周囲に等角度間隔で配列された複数のサブルーメンとを有するマルチルーメン構造体であり、
前記複数のサブルーメンのうちの1つ、または前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンに前記操作用ワイヤが挿通され、
前記カテーテルシャフトの中心軸および前記操作用ワイヤが挿通されたサブルーメンの中心軸を含む第1仮想平面に対して90°±20°の角度で交差する第2仮想平面(1つまたは2つ以上の第2仮想平面)上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された少なくとも2つのサブルーメンの各々が、曲げ弾性率が1,500〜19,000MPaである高弾性率樹脂からなるチューブ(以下、「高弾性率樹脂チューブ」ともいう。)により区画されていることを特徴とする。
【0014】
このような構成を有する先端偏向操作可能カテーテルによれば、第2仮想平面上に中心軸を有し、カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された少なくとも2つのサブルーメンの各々が高弾性率樹脂チューブによって区画されていることにより、第2仮想平面上に板バネが存在しているのと近似した状態となり、カテーテルシャフトの先端可撓部分が、第2仮想平面と垂直方向に曲がりやすくなる。この結果、カテーテルシャフトの先端可撓部分の内部に板バネを配置しなくても、第2仮想平面と一定の角度(90°±20°)で交差する第1仮想平面に沿って当該先端可撓部分を曲げること(同一平面上でその形状を変化させること)ができる。
また、カテーテルシャフトの少なくとも先端可撓部分に中央ルーメンが形成されているので、シャフトの断面(内部)を有効に利用することができる。
【0015】
(2)本発明の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記複数のサブルーメンのうち、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンの各々に前記操作用ワイヤが挿通され、
前記カテーテルシャフトの中心軸および前記操作用ワイヤが挿通されたサブルーメンの中心軸を含む第1仮想平面に対して90°±20°の角度で交差する第2仮想平面(1つまたは2つ以上の第2仮想平面)上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された少なくとも2つのサブルーメンの各々が高弾性率樹脂チューブにより区画されていることが好ましい。
【0016】
このような構成を有する先端偏向操作可能カテーテルによれば、カテーテルシャフトの先端可撓部分の内部に板バネを配置しなくても、第2仮想平面と一定の角度(90°±20°)で交差する第1仮想平面に沿って、当該先端可撓部分を両方向に曲げること(同一平面上でその形状を変化させること)ができる。
【0017】
(3)上記(2)の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記複数のサブルーメンのうち、第1仮想平面に対して直交する第2仮想平面上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンの各々が高弾性率樹脂チューブにより区画されていることが好ましい。
【0018】
このような構成を有する先端偏向操作可能カテーテルによれば、第2仮想平面上に中心軸を有し、カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンの各々各々が高弾性率樹脂チューブによって区画されていることにより、第2仮想平面上に板バネが存在しているのと近似した状態となり、カテーテルシャフトの先端可撓部分が、第2仮想平面と垂直方向に曲がりやすくなる。この結果、カテーテルシャフトの先端可撓部分の内部に板バネを配置しなくても、第2仮想平面と直交する第1仮想平面に沿って、当該先端可撓部分を曲げること(同一平面上でその形状を変化させること)ができる。
【0019】
(4)上記(2)の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記複数のサブルーメンのうち、第1仮想平面に対して70〜80°の角度(θ1 )で交差する第2仮想平面上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンの各々と、第1仮想平面に対して100〜110°の角度(θ2 )で交差する第2仮想平面上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンの各々とが前記高弾性率樹脂チューブにより区画されていることが好ましい。
【0020】
このような構成を有する先端偏向操作可能カテーテルによれば、一方の操作用ワイヤの側にある2つの高弾性率樹脂チューブと、他方の操作用ワイヤの側にある2つの高弾性率樹脂チューブとにより挟まれた平面(2つの第2仮想平面の交差角度を二等分する仮想平面)上に板バネが存在しているのと近似した状態となる。この結果、カテーテルシャフトの先端可撓部分の内部に板バネを配置しなくても、前記平面と直交する第1仮想平面に沿って先端可撓部分を曲げること(同一平面上でその形状を変化させること)ができる。
【0021】
(5)本発明の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記高弾性率樹脂チューブを構成する高弾性率樹脂がエンジニアリングプラスチックからなることが好ましい。
【0022】
(6)上記(5)の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記高弾性率樹脂がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなることが好ましい。
【0023】
(7)本発明の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記高弾性率樹脂チューブにより区画されているサブルーメン以外のサブルーメンおよび前記中央ルーメンは、曲げ弾性率が15〜1,000MPaである低弾性率樹脂からなるチューブ(以下、「低弾性率樹脂チューブ」ともいう。)により区画されていることが好ましい。
【0024】
(8)上記(7)の先端偏向操作可能カテーテルにおいて、前記低弾性率樹脂がフッ素樹脂からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の先端偏向操作可能カテーテルによれば、カテーテルシャフトの先端可撓部分の内部に板バネを配置していないにも関わらず、操作用ワイヤの引張操作により、第1仮想平面に沿って当該先端可撓部分を曲げることができ、カテーテルシャフトの先端可撓部分の形状を同一平面上で変化させること(形状変化の平面性を確保すること)ができる。
また、本発明の先端偏向操作可能カテーテルは、偏向機構として板バネを配置していないこと、カテーテルシャフトの先端可撓部分に中央ルーメンが形成されていることにより、シャフトの断面を有効に利用することができ、リード線などの収容能力の拡大、イリゲーションにおける流量の拡大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る電極カテーテルの概略正面図である。
【図2】図1に示した電極カテーテルの先端部分を示す縦断面図(II−II断面図)である。
【図3】図2の III−III 断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る電極カテーテルの先端部分を示す縦断面図である。
【図5】図4のV−V断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
本発明の一実施形態に係る先端偏向操作可能カテーテルとしての電極カテーテル100は、例えば、心臓における不整脈の診断または治療に用いられるものである。
図1〜図3に示す本実施形態の電極カテーテル100は、先端可撓部分10Aを有するカテーテルシャフト10と、このカテーテルシャフト10の先端に固定された先端電極20と、カテーテルシャフト10の先端可撓部分に装着されたリング状電極22と、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aを第1方向(図1および図3において、矢印Aで示す方向)に撓ませるために、カテーテルシャフト10の内部に延在し、その先端が先端電極20に接続固定され、その後端を引張操作できる第1操作用ワイヤ31と、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aを第2方向(図1および図3において、矢印Bで示す方向)に撓ませるために、カテーテルシャフト10の内部に延在し、その先端が先端電極20に接続固定され、その後端を引張操作できる第2操作用ワイヤ32と、カテーテルシャフト10の後端に装着された制御ハンドル70とを有し;カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aは、中央ルーメン11Cと、その周囲に45°間隔で配列された8つのサブルーメン111〜118とを有するマルチルーメン構造体であり;カテーテルシャフト10の中心軸(O)を挟んで対向配置されたサブルーメン111およびサブルーメン115には、それぞれ、第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32が挿通され;第1操作用ワイヤ31が挿通されたサブルーメン111の中心軸、カテーテルシャフト10の中心軸(O)、第2操作用ワイヤ32が挿通されたサブルーメン115の中心軸を含む第1仮想平面P1に対して直交する第2仮想平面上P2に中心軸を有し、カテーテルシャフト10の中心軸(O)を挟んで対向配置されたサブルーメン113およびサブルーメン117の各々が高弾性率樹脂チューブ13によって区画され、それ以外の6つのサブルーメン(サブルーメン111、112、114、115、116、118)の各々が低弾性率樹脂チューブ12により区画されるとともに、中央ルーメン11Cが低弾性率樹脂チューブ12Cによって区画されている。
【0028】
図1に示すように、電極カテーテル100は、カテーテルシャフト10と、その先端に固定された先端電極20と、カテーテルシャフト10の先端可撓部分に装着されたリング状電極22と、カテーテルシャフト10の後端に装着された制御ハンドル70とを備えている。
【0029】
カテーテルシャフト10の先端領域は先端可撓部分10Aとなっている。ここに、「先端可撓部分」とは、操作用ワイヤ(第1操作用ワイヤ31または第2操作用ワイヤ32)を引張操作することによって撓む(曲がる)ことのできるカテーテルシャフトの先端部分をいう。
【0030】
カテーテルシャフト10の外径は、通常0.6〜3mmとされ、好ましくは1.3〜2.4mmとされる。
カテーテルシャフト10の長さは、通常400〜1500mmとされ、好ましくは700〜1200mmとされる。
先端可撓部分10Aの長さは、例えば30〜300mmとされ、好ましくは50〜250mmとされる。
【0031】
カテーテルシャフト10の後端には制御ハンドル70が装着されている。制御ハンドル70内には、複数の端子を備えたコネクタ(図示省略)が設けられ、このコネクタの端子には、先端電極20およびリング状電極22の各々に接続された導線(図示省略)が接続される。
また、制御ハンドル70には、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aを曲げる操作を行うための摘み75が装着してある。
【0032】
カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aはマルチルーメン構造体からなる。
図2および図3に示すように、先端可撓部分10A(マルチルーメン構造体)は、中央ルーメン11Cおよびサブルーメン111〜118が形成されたインナー(コア)部と、インナー部を被覆するアウター(シェル)部19とからなる。
【0033】
中央ルーメン11Cの径は、通常0.2〜2.0mmとされ、好ましくは0.4〜1.0mmとされる。
また、サブルーメン111〜118の径は、通常0.15〜0.75mmとされ、好ましくは0.25〜0.40mmとされる。
【0034】
先端可撓部分10Aに形成されたサブルーメン111には第1操作用ワイヤ31が挿通され、サブルーメン115には第2操作用ワイヤ32が挿通されている。
図3において、P1は、サブルーメン111の中心軸、カテーテルシャフト10の中心軸(O)、およびサブルーメン115の中心軸を含む第1仮想平面である。
【0035】
先端可撓部分10Aのインナー部は、中央ルーメン11Cおよびサブルーメン111〜118の各々を区画するチューブがバインダ樹脂14により結着固定されてなる。
インナー部を構成するバインダ樹脂14としては、低硬度(例えば、デュロメータ(Dタイプ)による硬度(以下、「D硬度」と略記する。)で25)で、曲げ弾性率の低い(例えば15MPa程度)のナイロンエラストマーを例示することができる。
【0036】
先端可撓部分10Aの中央ルーメン11Cは低弾性率樹脂チューブ12Cにより区画され、サブルーメン111、112、114、115、116および118の各々は、低弾性率樹脂チューブ12により区画されている。
【0037】
低弾性率樹脂チューブ12Cおよび低弾性率樹脂チューブ12を構成する「低弾性率樹脂」の曲げ弾性率としては、通常15〜1,000MPaとされ、好ましくは100〜800MPa、更に好ましくは350〜600MPaとされる。低弾性率樹脂のD硬度は64以下であることが好ましい。
本発明において、「曲げ弾性率」は、JIS K 7171に準拠して測定される。
低弾性率樹脂としては、上記の条件を具備するものであって、チューブ状に成形可能なものであれば特に限定されるものではないが、チューブ内(ルーメン)の潤滑性(操作用ワイヤなどの挿通される部材の移動容易性)に優れている観点からフッ素樹脂からなるものが好ましい。低弾性率樹脂チューブを構成するフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などを例示することができる。
低弾性率樹脂チューブ12Cの肉厚としては、通常30〜100μmとされ、好ましくは50〜70μmとされる。
また、低弾性率樹脂チューブ12の肉厚としては、通常10〜50μmとされ、好ましくは20〜30μmとされる。
【0038】
先端可撓部分10Aのサブルーメン113およびサブルーメン117は、それぞれ、高弾性率樹脂チューブ13によって区画されている。
図3において、P2は、サブルーメン113の中心軸、カテーテルシャフト10の中心軸(O)、およびサブルーメン117の中心軸を含む第2仮想平面であり、高弾性率樹脂チューブ13によって区画された2つのサブルーメンの中心軸を含む仮想平面である。同図に示したように、第2仮想平面P2と、仮想平面P1とは直交している。
【0039】
高弾性率樹脂チューブ13を構成する「高弾性率樹脂」の曲げ弾性率としては、通常1,500〜19,000MPaとされ、好ましくは2,000〜7,000MPa、更に好ましくは3,500〜4,200MPaとされる。高弾性率樹脂のD硬度は72以上であることが好ましい。
サブルーメン113およびサブルーメン117の各々を区画するチューブとして、このような範囲の曲げ弾性率を有する樹脂からなる高弾性率樹脂チューブ13を配置することにより、これらの中心軸を含む第2仮想平面P2上に板バネが存在しているのと近似した状態となり、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aが、第2仮想平面P2と垂直方向に曲がりやすくなる。この結果、カテーテルシャフトの先端可撓部分の内部に板バネを配置しなくても、第2仮想平面と直交する第1仮想平面P1に沿って(第2仮想平面と垂直方向に)先端可撓部分10Aを曲げること、すなわち、同一平面上でその形状を変化させることができる。
【0040】
この曲げ弾性率が1,500MPa未満である場合には、カテーテルシャフトの先端可撓部分を第1仮想平面P1に沿って曲げることが困難となり、形状変化の平面性を確保することが困難となる。
【0041】
高弾性率樹脂チューブ13を構成する高弾性率樹脂としては、上記の条件を具備するものであって、チューブ状に成形可能なものであれば特に限定されるものではなく、金属代替樹脂材料として公知のエンジニアリングプラスチックなどを好適に使用することができる。具体的には、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミドなどを例示することができ、これらのうち、バインダ樹脂14(ナイロンエラストマー)に対する密着性が良好なチューブを形成できるなどの観点からPEEKが好ましい。
【0042】
本実施形態(本発明)において、サブルーメン113およびサブルーメン117を区画するチューブ材料として、金属材料や金属編材料でなく高強度樹脂を使用していることにより、バインダ樹脂14に対するチューブ(高弾性率樹脂チューブ13)の密着性を、金属(編組)材料からなるチューブと比較して格段に優れたものとすることができる。
この結果、先端偏向操作時に両者間(接着面)に繰り返し作用する剪断力等によっても、高弾性率樹脂チューブ13とバインダ樹脂14との密着状態を確実に維持することができる。これに対して、金属(編組)材料からなるチューブを使用する場合には、先端偏向操作時に、このチューブがバインダ樹脂から剥離して、カテーテルの先端から突出したり、先端偏向操作性を損ねたりすることがある。
【0043】
高弾性率樹脂チューブ13の肉厚としては、通常10〜50μmとされ、好ましくは20〜30μmとされる。
【0044】
中央ルーメン11Cのまわりにサブルーメン111〜118を等角度間隔(45°間隔)で配列させるために、サブルーメン111〜118の各々を区画するチューブ(低弾性率樹脂チューブ12および高弾性率樹脂チューブ13)の外径はすべて等しくなっている。
【0045】
低弾性率樹脂チューブ12および高弾性率樹脂チューブ13の外径(サブルーメンの径+チューブの肉厚×2)としては、通常0.17〜0.85mmとされ、好ましくは0.29〜0.46mmとされる。
【0046】
先端可撓部分10Aのアウター部19は、インナー部(バインダ樹脂14により結着された低弾性率樹脂チューブ12C、低弾性率樹脂チューブ12および高弾性率樹脂チューブ13)を被覆する樹脂材料からなる。
【0047】
図2に示すように、このアウター部19は、先端可撓部分10Aを構成するとともに、先端可撓部分10Aの後端側において、カテーテルシャフト10(チューブ部材)を構成している。
【0048】
アウター部19は、軸方向に沿って同じ物性のチューブで構成してもよいが、後端側に向かって段階的に剛性(硬度)が高くなっていることが好ましい。
アウター部19(先端可撓部分10Aの後端側においてカテーテルシャフト10を構成するチューブ材)における硬度の変化の具体的な一例を示せば、全長1100mm、先端可撓部分10Aの長さが70mmであるカテーテルシャフト10において、先端から0〜50mmのD硬度が40(当該部分を構成する樹脂の曲げ弾性率は84MPa)、先端から50〜60mmのD硬度が55(当該部分を構成する樹脂の曲げ弾性率は160MPa)、先端から60〜65mmのD硬度が63(当該部分を構成する樹脂の曲げ弾性率は290MPa)、先端から65〜1100mmのD硬度が72(当該部分を構成する樹脂の曲げ弾性率は730MPa)である。
【0049】
アウター部19の肉厚としては、カテーテルシャフト10の外径の3〜15%程度であることが好ましい。
【0050】
カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aより後端側部分は、中空のチューブ部材(アウター部19に相当するチューブ部材によるシングルルーメン構造体)で構成されている。
図2に示すように、先端可撓部分10Aより後端側の部分の内部にはコイルチューブ54が装着されている。
このコイルチューブ54は、断面平角または円形の線材をコイル状に巻回してチューブを構成してあり、第1操作用ワイヤ31または第2操作用ワイヤ32に作用する引張力の反力を受けるようになっている。
これにより、第1操作用ワイヤ31または第2操作用ワイヤ32に引張力を作用させたときに、当該コイルチューブ54が装着されているカテーテルシャフト10の部分(先端可撓部分10Aより後端側の部分)が撓むことを抑制することができる。
【0051】
カテーテルシャフト10の先端(遠位端)には先端電極20が固定されている。また、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aにはリング状電極22が装着されている。先端電極20およびリング状電極22の固定方法としては特に限定されるものではなく、例えば接着などの方法を挙げることができる。
【0052】
先端電極20およびリング状電極22は、例えばアルミニウム、銅、ステンレス、金、白金など、電気伝導性の良好な金属で構成される。なお、X線に対する造影性を良好に持たせるためには、白金などで構成されることが好ましい。
先端電極20およびリング状電極22の外径としては特に限定されないが、カテーテルシャフト10の外径と同程度であることが好ましい。
【0053】
本実施形態の電極カテーテル100は、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aを第1方向(矢印Aで示す方向)に撓ませるための第1操作用ワイヤ31と、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aを第2方向(矢印Bで示す方向)に撓ませるための第2操作用ワイヤ32を備えている。
【0054】
電極カテーテル100を構成する第1操作用ワイヤ31は、カテーテルシャフト10の内部(先端可撓部分10Aにおいてはサブルーメン111)において管軸方向に移動可能に挿通されている。
第1操作用ワイヤ31の先端は、先端電極20の内部空間に充填されたハンダ60によって先端電極20に接続固定されている。
また、第1操作用ワイヤ31の後端は、制御ハンドル70の摘み75に接続されることによって引張操作可能になっている。
【0055】
一方、電極カテーテル100を構成する第2操作用ワイヤ32は、カテーテルシャフト10の内部(先端可撓部分10Aにおいてはサブルーメン115)において管軸方向に移動可能に挿通されている。
第2操作用ワイヤ32の先端は、第1操作用ワイヤ31と同様に、ハンダ60によって先端電極20に接続固定されている。
また、第2操作用ワイヤ32の後端は、制御ハンドル70の摘み75に接続されることによって引張操作可能になっている。
【0056】
第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の構成材料としては、例えばステンレスやNi−Ti系超弾性合金などの金属を挙げることができる。
第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の外径としては特に限定されるものではないが、0.10〜0.30mmであることが好ましく、更に好ましくは0.21〜0.28mm、好適な一例を示せば0.26mmである。
【0057】
また、第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32の各々を先端電極20に接続固定するためのハンダ60の材質としては特に限定されるものではなく、例えば、Sn−Pbが一般的に用いられるが、Sn−Pb−AgやSn−Pb−Cuが用いられてよく、更にPbフリーのSn−Ag−Cu、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−Ag−Cu−Biなどを用いることができる。
【0058】
この実施形態の電極カテーテル100によれば、第1仮想平面P1と直交する第2仮想平面P2上に中心軸を有し、カテーテルシャフト10の中心軸(O)を挟んで対向配置されたサブルーメン113およびサブルーメン117の各々が、高弾性率樹脂チューブ13によって区画されていることにより、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aを第2仮想平面P2に沿って曲げようとするときの抵抗力(曲げ応力)が、この先端可撓部分10Aを第2仮想平面P2の垂直方向に沿って曲げようとするときの抵抗力より大きくなって、第2仮想平面P2上に板バネが存在しているのと近似した状態となる。
この結果、カテーテルシャフト10の先端可撓部分10Aの内部に板バネが配置されていなくても、第2仮想平面P2と直交する第1仮想平面P1に沿って(第2仮想平面P2の垂直方向に)先端可撓部分10Aを曲げること(第1仮想平面P1上でその形状を変化させること)ができる。
【0059】
これにより、制御ハンドル70の摘み75を図1に示すA1方向に回転させると、第1操作用ワイヤ31が引っ張られてサブルーメン111の後端側に移動し、先端可撓部分10Aが、第1仮想平面P1に沿って、第1方向(第2仮想平面P2に垂直な矢印Aで示す方向)に撓んで、その形状を連続的に変化させることができる。
一方、制御ハンドル70の摘み75を図1に示すB1方向に回転させると、第2操作用ワイヤ32が引っ張られてサブルーメン115の後端側に移動し、先端可撓部分10Aが、第1仮想平面P1に沿って、第2方向(第2仮想平面P2に垂直な矢印Bで示す方向)に撓んで、その形状を連続的に変化させることができる。
そして、制御ハンドル70を軸回りに回転させれば、体腔内に挿入された状態で、カテーテル100に対する第1方向および第2方向の向きを自由に設定することができる。
【0060】
また、本実施形態の電極カテーテル100によれば、先端可撓部分10Aの形状変化の平面性を、板バネを配置することなく確保することができるために、従来のカテーテルにおいて板バネが配置されていた位置に中央ルーメン11Cを形成することができるので、カテーテルシャフト10の断面を有効に利用すること(カテーテルシャフト10の内部に広い空間を確保すること)ができ、これにより、リード線などの収容能力を拡大することができる。
また、電極カテーテル100にイリゲーション機構を搭載させる場合において、カテーテルシャフト10内の液体の流量(延いては噴射する液体の量)を増加することができる。
更に、先端電極20の中心軸上に熱電対などを配置した場合において、そのリード線をカテーテルシャフト10の中央ルーメン11Cに挿通させることにより、リード線が屈曲してキンクすることなどを確実に防止することができる。
【0061】
<第2実施形態>
本発明の他の実施形態に係る先端偏向操作可能カテーテルとしての電極カテーテル150は、第1実施形態の電極カテーテル100と同様に、心臓における不整脈の診断または治療に用いられるものである。
図4〜図5に示す本実施形態の電極カテーテル150は、先端可撓部分15Aを有するカテーテルシャフト15と、その先端に固定された先端電極20と、カテーテルシャフト15の先端可撓部分に装着されたリング状電極22と、カテーテルシャフト15の先端可撓部分15Aを第1方向(図5において、矢印Aで示す方向)に撓ませるために、カテーテルシャフト15の内部に延在し、その先端が先端電極20に接続固定され、その後端を引張操作できる第1操作用ワイヤ31と、カテーテルシャフト15の先端可撓部分15Aを第2方向(図5において、矢印Bで示す方向)に撓ませるために、カテーテルシャフト15の内部に延在し、その先端が先端電極20に接続固定され、その後端を引張操作できる第2操作用ワイヤ32とを有する。
なお、電極カテーテル150の全体の外観形状は、図1に示した第1実施形態に係る電極カテーテル100の外観と同様である。
また、図4および図5において、第1実施形態と同一または対応する構成要素には同一の符号を用いている。
【0062】
図5に示すように、カテーテルシャフト15の先端可撓部分15Aは、中央ルーメン16Cと、その周囲に36°間隔で配列されている10個のサブルーメン160〜169とを有するマルチルーメン構造体であり;カテーテルシャフト15の中心軸(O)を挟んで対向配置されたサブルーメン161およびサブルーメン166には、それぞれ、第1操作用ワイヤ31および第2操作用ワイヤ32が挿通され;第1操作用ワイヤ31が挿通されたサブルーメン161の中心軸、カテーテルシャフト15の中心軸(O)、第2操作用ワイヤ32が挿通されたサブルーメン166の中心軸を含む第1仮想平面P1に対して角度(θ1 =72°)で交差する第2仮想平面上P21に中心軸を有し、カテーテルシャフト15の中心軸(O)を挟んで対向配置されたサブルーメン163およびサブルーメン168の各々と、第1仮想平面P1に対して角度(θ2 =108°)で交差する第2仮想平面上P22に中心軸を有し、カテーテルシャフト15の中心軸(O)を挟んで対向配置されたサブルーメン164およびサブルーメン169の各々とが高弾性率樹脂チューブ13によって区画され、それ以外の6つのサブルーメン(サブルーメン160、161、162、165、166、167)の各々が低弾性率樹脂チューブ17により区画され、中央ルーメン16Cが低弾性率樹脂チューブ17Cによって区画されている。
【0063】
カテーテルシャフト15の先端可撓部分15A(マルチルーメン構造体)は、中央ルーメン16Cおよびサブルーメン160〜169が形成されたインナー(コア)部と、インナー部を被覆するアウター(シェル)部19とからなる。
【0064】
中央ルーメン16Cの径は、通常0.2〜2.0mmとされ、好ましくは0.4〜1.0mmとされる。また、サブルーメン160〜169の径は、通常0.1〜0.5mmとされ、好ましくは0.20〜0.40mmとされる。
【0065】
先端可撓部分15Aに形成されたサブルーメン161には第1操作用ワイヤ31が挿通され、サブルーメン166には第2操作用ワイヤ32が挿通されている。
図5において、P1は、サブルーメン161の中心軸、カテーテルシャフト15の中心軸(O)、およびサブルーメン166の中心軸を含む第1仮想平面である。
【0066】
先端可撓部分15Aのインナー部は、中央ルーメン16Cおよびサブルーメン160〜169の各々を区画するチューブがバインダ樹脂14により結着固定されてなる。
ここに、先端可撓部分15Aの中央ルーメン16Cは低弾性率樹脂チューブ17Cにより区画され、サブルーメン160、161、162、165、166および167の各々は、低弾性率樹脂チューブ17により区画されている。
【0067】
低弾性率樹脂チューブ17Cおよび低弾性率樹脂チューブ17を構成する「低弾性率樹脂」は、第1実施形態における低弾性率樹脂チューブ12Cおよび低弾性率樹脂チューブ12を構成するものと同様である。
低弾性率樹脂チューブ17Cの肉厚としては、通常30〜100μmとされ、好ましくは50〜70μmとされる。
また、低弾性率樹脂チューブ17の肉厚としては、通常10〜50μmとされ、好ましくは20〜30μmとされる。
【0068】
先端可撓部分15Aのサブルーメン163、サブルーメン164、サブルーメン168およびサブルーメン169は高弾性率樹脂チューブ18によって区画されている。
図5において、P21は、サブルーメン163の中心軸、カテーテルシャフト15の中心軸(O)、およびサブルーメン168の中心軸を含む第2仮想平面であり、高弾性率樹脂チューブ18によって区画された2つのサブルーメンの中心軸を含む仮想平面である。同図に示したように、この第2仮想平面P21と、第1仮想平面P1との交差角度(θ1 )は72°である。
また、P22は、サブルーメン164の中心軸、カテーテルシャフト15の中心軸(O)、およびサブルーメン169の中心軸を含む第2仮想平面であり、高弾性率樹脂チューブ18によって区画された2つのサブルーメンの中心軸を含む仮想平面である。この第2仮想平面P22と、第1仮想平面P1との交差角度(θ2 )は108°である。
【0069】
高弾性率樹脂チューブ18を構成する「高弾性率樹脂」は、第1実施形態における高弾性率樹脂チューブ13を構成するものと同様である。
サブルーメン163、サブルーメン164、サブルーメン168およびサブルーメン169の各々を区画するチューブとして、高弾性率樹脂チューブ18を配置することにより、サブルーメン163およびサブルーメン169を区画する2つの高弾性率樹脂チューブ18と、サブルーメン164およびサブルーメン168を区画する2つの高弾性率樹脂チューブ18とにより挟まれた平面(第2仮想平面P21と第2仮想平面P22とが交差する角度を二等分する仮想平面)上に板バネが存在しているのと近似した状態となる。この結果、先端可撓部分15Aの内部に板バネを配置しなくても、前記平面と直交する第1仮想平面P1に沿って先端可撓部分15Aを曲げること(同一平面上でその形状を変化させること)ができる。
【0070】
高弾性率樹脂チューブ18の肉厚としては、通常10〜50μmとされ、好ましくは20〜30μmとされる。
【0071】
中央ルーメン16Cのまわりにサブルーメン160〜169を等角度間隔(36°間隔)で配列させるために、サブルーメン160〜169の各々を区画するチューブ(低弾性率樹脂チューブ17および高弾性率樹脂チューブ18)の外径はすべて等しくなっている。
【0072】
サブルーメンを区画するチューブ(低弾性率樹脂チューブ17および高弾性率樹脂チューブ18)の外径としては、通常0.12〜0.60mmとされ、好ましくは0.24〜0.46mmとされる。
【0073】
先端可撓部分15Aのアウター部19は、インナー部(バインダ樹脂14により結着された低弾性率樹脂チューブ17C、低弾性率樹脂チューブ17および高弾性率樹脂チューブ18)を被覆する樹脂材料からなる。
【0074】
本実施形態の電極カテーテル150は、カテーテルシャフト15の先端可撓部分15Aを第1方向(矢印Aで示す方向)に撓ませるための第1操作用ワイヤ31と、カテーテルシャフト15の先端可撓部分15Aを第2方向(矢印Bで示す方向)に撓ませるための第2操作用ワイヤ32を備えている。
【0075】
第1操作用ワイヤ31は、カテーテルシャフト15の内部(先端可撓部分15Aにおいてはサブルーメン161)において管軸方向に移動可能に挿通されている。
第1操作用ワイヤ31の先端は、先端電極20の内部空間に充填されたハンダ60によって先端電極20に接続固定されている。
また、第1操作用ワイヤ31の後端は、制御ハンドル70の摘み75に接続されることによって引張操作可能になっている。
【0076】
一方、第2操作用ワイヤ32は、カテーテルシャフト10の内部(先端可撓部分15Aにおいてはサブルーメン166)において管軸方向に移動可能に挿通されている。
第2操作用ワイヤ32の先端は、第1操作用ワイヤ31と同様に、ハンダ60によって先端電極20に接続固定されている。
また、第2操作用ワイヤ32の後端は、制御ハンドル70の摘み75に接続されることによって引張操作可能になっている。
【0077】
本実施形態の電極カテーテル150によれば、カテーテルシャフト10の先端可撓部分15Aにおいて、中央ルーメン16Cのまわりに等角度間隔に配列された10個のサブルーメンのうち、第1仮想平面P1に対して72°の角度(θ1 )で交差する第2仮想平面P21上に中心軸を有し、カテーテルシャフト15の中心軸(O)を挟んで対向配置された2つのサブルーメン(サブルーメン163およびサブルーメン168)の各々と、第1仮想平面P1に対して108°の角度(θ2 )で交差する第2仮想平面P22上に中心軸を有し、カテーテルシャフト15の中心軸(O)を挟んで対向配置された2つのサブルーメン(サブルーメン164およびサブルーメン169)の各々とが高弾性率樹脂チューブ18により区画されているとともに、残りの6つのサブルーメン(サブルーメン160、161、162、165、166および167)の各々が低弾性率樹脂チューブ17によって区画されていることにより、操作用ワイヤ31が配置されている側(図5の上側)にある2つの高弾性率樹脂チューブ(サブルーメン163およびサブルーメン169を区画する高弾性率樹脂チューブ18)と、操作用ワイヤ32が配置されている側(図5の下側)にある2つの高弾性率樹脂チューブ(サブルーメン164およびサブルーメン168を区画する高弾性率樹脂チューブ18)とにより挟まれた平面(第2仮想平面P21と第2仮想平面P22との交差角度を二等分する仮想平面)上に板バネが存在しているのと近似した状態となる。この結果、先端可撓部分15Aの内部に板バネを配置しなくても、高弾性率樹脂チューブ18により挟まれた前記平面と直交する第1仮想平面P1に沿って先端可撓部分15Aを曲げること(同一平面上でその形状を変化させること)ができる。
【0078】
これにより、第1操作用ワイヤ31の引張操作に伴い、第1操作用ワイヤ31がサブルーメン161の後端側に移動し、先端可撓部分15Aが、第1仮想平面P1に沿って第1方向(図1および図5において矢印Aで示す方向)に撓み、その形状を連続的に変化させることができる。
一方、第2操作用ワイヤ32の引張操作に伴い、第2操作用ワイヤ32がサブルーメン166の後端側に移動し、先端可撓部分15Aが、第1仮想平面P1に沿って第2方向(図1および図5において矢印Bで示す方向)に撓み、その形状を連続的に変化させることができる。
そして、制御ハンドル70を軸回りに回転させれば、体腔内に挿入された状態で、カテーテル150に対する第1方向および第2方向の向きを自由に設定することができる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、サブルーメンの数は8個(第1実施形態)や10個(第2実施形態)でなく、4〜16個のサブルーメンが形成されていてもよい。
また、第2仮想平面の数は1つ(第1実施形態)や2つ(第2実施形態)でなく、3つ以上であってもよい。すなわち、高弾性率樹脂チューブの本数は2本(第1実施形態)や4本(第2実施形態)でなく、6本以上であってもよい。
また、操作用ワイヤの数は1本(シングルディレクションタイプ)であってもよい。
【符号の説明】
【0080】
100 電極カテーテル
10 カテーテルシャフト
10A 先端可撓部分
11C 中央ルーメン
111〜118 サブルーメン
12 低弾性率樹脂チューブ
12C 低弾性率樹脂チューブ
13 高弾性率樹脂チューブ
14 バインダ樹脂
19 アウター(シェル)部
15 カテーテルシャフト
15A 先端可撓部分
16C 中央ルーメン
160〜169 サブルーメン
17 低弾性率樹脂チューブ
17C 低弾性率樹脂チューブ
18 高弾性率樹脂チューブ
20 先端電極
22 リング状電極
31 第1操作用ワイヤ
32 第2操作用ワイヤ
60 ハンダ
70 制御ハンドル
75 摘み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に可撓部分を有するカテーテルシャフトと、このカテーテルシャフトの先端に固定された先端電極と、前記カテーテルシャフトの可撓部分を撓ませるために、当該カテーテルシャフトの内部に延在し、その先端が前記先端電極または前記カテーテルシャフトの先端部に接続固定され、その後端を引張操作できる操作用ワイヤとを有し、
前記カテーテルシャフトの少なくとも可撓部分は、中央ルーメンと、この中央ルーメンの周囲に等角度間隔で配列された複数のサブルーメンとを有するマルチルーメン構造体であり、
前記複数のサブルーメンのうちの1つ、または前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンに前記操作用ワイヤが挿通され、
前記カテーテルシャフトの中心軸および前記操作用ワイヤが挿通されたサブルーメンの中心軸を含む第1仮想平面に対して90°±20°の角度で交差する第2仮想平面上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された少なくとも2つのサブルーメンの各々が、曲げ弾性率が1,500〜19,000MPaである高弾性率樹脂からなるチューブにより区画されていることを特徴とする先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項2】
前記複数のサブルーメンのうち、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンの各々に前記操作用ワイヤが挿通され、
前記カテーテルシャフトの中心軸および前記操作用ワイヤが挿通されたサブルーメンの中心軸を含む第1仮想平面に対して90°±20°の角度で交差する第2仮想平面上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された少なくとも2つのサブルーメンの各々が前記高弾性率樹脂からなるチューブにより区画されていることを特徴とする請求項1に記載の先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項3】
前記複数のサブルーメンのうち、第1仮想平面に対して直交する第2仮想平面上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンの各々が前記高弾性率樹脂からなるチューブにより区画されていることを特徴とする請求項2に記載の先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項4】
前記複数のサブルーメンのうち、第1仮想平面に対して70〜80°の角度で交差する第2仮想平面上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンの各々と、第1仮想平面に対して100〜110°の角度で交差する第2仮想平面上に中心軸を有し、前記カテーテルシャフトの中心軸を挟んで対向配置された2つのサブルーメンの各々とが前記高弾性率樹脂からなるチューブにより区画されていることを特徴とする請求項2に記載の先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項5】
前記高弾性率樹脂がエンジニアリングプラスチックからなることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項6】
前記高弾性率樹脂がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなることを特徴とする請求項5に記載の先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項7】
前記高弾性率樹脂からなるチューブにより区画されているサブルーメン以外のサブルーメンおよび前記中央ルーメンは、曲げ弾性率が15〜1,000MPaである低弾性率樹脂からなるチューブにより区画されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の先端偏向操作可能カテーテル。
【請求項8】
前記低弾性率樹脂がフッ素樹脂からなることを特徴とする請求項7に記載の先端偏向操作可能カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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