光アイソレータ
【課題】反射型偏光子を適用した光アイソレータにおけるアイソレーションの劣化が抑制された光アイソレータを提供すること。
【解決手段】この光アイソレータは、レーザー発振部側に配置された反射型偏光子2、ファラデー回転子4および吸収型偏光子1を備え、かつ、反射型偏光子2は断面略楔型形状を有するガラス基板3の一方の光透過面に形成されて反射型偏光子2の偏光子面がファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の光透過面に対して傾斜角θ1(0.12〜0.29度)に設定され、反射型偏光子2の偏光子面が吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の光透過面に対して傾斜角θ2(0.12〜0.29度)に設定されていることを特徴とする。
【解決手段】この光アイソレータは、レーザー発振部側に配置された反射型偏光子2、ファラデー回転子4および吸収型偏光子1を備え、かつ、反射型偏光子2は断面略楔型形状を有するガラス基板3の一方の光透過面に形成されて反射型偏光子2の偏光子面がファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の光透過面に対して傾斜角θ1(0.12〜0.29度)に設定され、反射型偏光子2の偏光子面が吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の光透過面に対して傾斜角θ2(0.12〜0.29度)に設定されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信に用いられる半導体レーザーの戻り光対策に利用される光アイソレータに係り、特に、反射型偏光子が適用された光アイソレータにおけるアイソレーションの劣化を抑制した光アイソレータの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる光モジュールとしては、光信号を送信するためのレーザーダイオード(LD)モジュールや、光信号を受信するためのフォトダイオード(PD)モジュールが知られており、電気信号は光信号に変換されてLDモジュールから発せられ、光ファイバを通ってPDモジュールで受信され、電気信号に変換される。
【0003】
ところで、大容量の光信号を長距離伝送する場合、LDとしては分布帰還型半導体(DFB)レーザーが使用される。このDFBレーザーは、発振スペクトル幅が狭く分散特性に優れているという特徴を有するが、反射光による戻り光に対し敏感で、光ファイバへの結合端面やその他不連続界面からの反射光がレーザー発振部に戻ると、特性が不安定になるという欠点がある。そこで、反射光がレーザー発振部に戻ることを防ぐために上記光アイソレータが用いられる。
【0004】
この光アイソレータに対して要求される項目はいくつかあるが、その中で低コストという要求が最近では強くなっている。光アイソレータは、光学素子として2枚の偏光子とファラデー回転子とで構成されるが、DFBレーザーに適用される偏波依存型光アイソレータでは、偏光子として電界吸収型偏光子(以後、単に吸収型偏光子と記す)が専ら用いられる。
【0005】
しかしながら、近年、大型のガラス基板上にも作製が可能で、低コストでかつ均一な品質が期待できる反射型偏光子が実用化されつつある。そして、このような反射型偏光子としては、フォトニック結晶からなる偏光子やワイヤーグリッド型偏光子があり、これ等の反射型偏光子を用いた光アイソレータも提案されている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2000−241762号公報
【特許文献2】特開2008−003189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記反射型偏光子を光アイソレータに使用する場合、特許文献1および2に記載されているように、一般には吸収型偏光子と組み合わせて使用される。
【0007】
以下、反射型偏光子を使用した光アイソレータが、戻り光を遮断してレーザー発振部に戻ることを防止する原理について説明する。
【0008】
まず、反射型偏光子2がレーザー発振部側に配置された図2に示す光アイソレータの遮断原理について説明する。図2に示すように、戻り光7は吸収型偏光子1を通り抜けることによって吸収型偏光子1の透過軸に対し平行な偏波面の偏光となるが、この光は、ファラデー回転子4で偏光の偏波面が45度回転して反射型偏光子2に入射する。反射型偏光子2に入射する光は、反射型偏光子2の透過軸に対し垂直な偏波面の偏光であるため、反射型偏光子2で反射され、再度、ファラデー回転子4に入射する。ファラデー回転子4に入射した光は、その偏波面が更に45度回転した後、吸収型偏光子1に入射するが、吸収型偏光子1の透過軸に対し垂直な偏波面の偏光であるため、吸収型偏光子1で吸収され、光アイソレータとして機能する。尚、図2において、丸中に図示された矢印は、偏波面の方向を示している。
【0009】
同様に、吸収型偏光子1がレーザー発振部側に配置された図3に示す光アイソレータの遮断原理について説明する。まず、図3に示すように、戻り光7は反射型偏光子2を通り抜けることによって反射型偏光子2の透過軸に対し平行な偏波面の偏光となるが、この光は、ファラデー回転子4で偏光の偏波面が45度回転して吸収型偏光子1に入射する。そして、吸収型偏光子1に入射する光は、吸収型偏光子1の透過軸に対し垂直な偏波面の偏光であるため吸収型偏光子1で吸収され、図2の光アイソレータと同様、光アイソレータとして機能する。尚、図3において、丸中に図示された矢印も、偏波面の方向を示している。
【0010】
このように図2、図3に示す光アイソレータの作用により、戻り光がレーザー発振部に戻ることを阻止することは原理的に可能となる。しかしながら、実際には種々の要因により、僅かながら光アイソレータを通り抜けてしまう戻り光が発生する。
【0011】
まず、ファラデー回転子4を作製した際のファラデー回転角の設計値からのズレや、ファラデー回転角の温度依存性、波長依存性に起因するズレ等により、図2に示す光アイソレータの反射型偏光子2に入射する戻り光7には、図4に示すように反射型偏光子2の透過軸と平行な偏波面を有する成分の光(図4中、破線にて示す)が存在し、この光は光アイソレータを通り抜けてしまう。この光を第一透過光8と呼ぶことにする。同様に、図5に示す光アイソレータの吸収型偏光子1に入射する戻り光7にも、吸収型偏光子1の透過軸と平行な偏波面を有する成分の光(図5中、破線にて示す)が存在し、この光も光アイソレータを通り抜けてしまう。この光も第一透過光8と呼ぶことにする。
【0012】
また、ファラデー回転子4や吸収型偏光子1等の光学素子には、通常、反射防止膜が施されているが、光の反射を反射防止膜により100%防止することはできないため、ファラデー回転子4や吸収型偏光子1の反射防止膜から僅かながら反射光が発生する。そして、図2に示す光アイソレータにおいて、反射型偏光子2で反射され、ファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の反射防止膜で発生した反射光は、図4に示すように、再度、ファラデー回転子4を通過するため、偏光の偏波面が45度回転し、これにより反射型偏光子2の透過軸と平行な偏波面を有する成分(図4中、破線にて示す)の光となって光アイソレータを通り抜けてくる。この光を第二透過光9と呼ぶことにする。同様に、図3に示す光アイソレータにおいても、吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の反射防止膜で発生した僅かな反射光が、図5に示すように反射型偏光子2で反射されて、再度、ファラデー回転子4を通過するため、偏光の偏波面が45度回転し、これにより吸収型偏光子1の透過軸と平行な偏波面を有する成分(図5中、破線にて示す)の光となって光アイソレータを通り抜けてくる。この光も第二透過光9と呼ぶことにする。
【0013】
これ等第二透過光9の光量は、場合によっては戻り光7に対して−30dBよりも大きな値となる。尚、図4に示す光アイソレータにおいて、図示していないが、反射型偏光子2で反射され、吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の反射防止膜で生じた反射光についても、再度、ファラデー回転子4を通過することになるため光アイソレータを通り抜けてくる。同様に、図5に示す光アイソレータにおいて、ファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の反射防止膜で生じた僅かな反射光についても、再度、ファラデー回転子4を通過することになるため光アイソレータを通り抜けてくる。
【0014】
そして、反射型偏光子が適用された図2、図3の光アイソレータをコリメートレンズ間に配置した場合、戻り光がコリメート光として光アイソレータに入射するため、第二透過光はLDのレーザー発振部に戻り、アイソレーションを劣化させる要因になっていた。
【0015】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、反射型偏光子を用いた光アイソレータにおいて、アイソレーションの劣化を抑制した光アイソレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本発明者が上記第一透過光と第二透過光のアイソレーションに及ぼす影響について鋭意研究した結果、第一透過光はアイソレーションピークから外れた領域、つまりファラデー回転角の温度依存性や波長依存性によりファラデー回転角が45度から外れた領域で増加し、アイソレーションを低下させるが、第二透過光はファラデー回転角のズレに因らず、概ね戻り光に対して−30dB程度であり、光アイソレータを使用する温度域、波長域の全域に亘ってアイソレーションを低下させていることが分かった。
【0017】
本発明はこのような技術的知見に基づき完成されたものである。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明は、
光路上に配置されるファラデー回転子における一方の光透過面側に反射型偏光子を備え、他方の光透過面側に吸収型偏光子を備えると共に、レーザーダイオードモジュールに組み込まれる光アイソレータにおいて、
上記反射型偏光子の偏光子面が、ファラデー回転子における吸収型偏光子側の光透過面および吸収型偏光子におけるファラデー回転子側の光透過面に対して、0.12〜0.29度傾斜していることを特徴とする。
【0019】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
上記反射型偏光子が、ワイヤーグリッド型偏光子により構成されていることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
上記反射型偏光子が、フォトニック結晶から成る偏光子により構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
次に、請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
上記ファラデー回転子における一方の光透過面に反射型偏光子が接着剤により貼り合わされ、他方の光透過面に吸収型偏光子が接着剤により貼り合わされていることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項4に記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
反射型偏光子とファラデー回転子間、および、吸収型偏光子とファラデー回転子間の接着剤層の厚みが3μm以下であることを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
一方の光透過面が他方の光透過面に対して0.14〜0.29度傾斜している断面略楔型形状を有するガラス基板の一方の光透過面に形成された反射型偏光子により上記反射型偏光子が構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
ファラデー回転子と反射型偏光子および吸収型偏光子を備える本発明の光アイソレータは、上記反射型偏光子の偏光子面が、ファラデー回転子における吸収型偏光子側の光透過面および吸収型偏光子におけるファラデー回転子側の光透過面に対して0.12〜0.29度傾斜していることを特徴とする。
【0022】
そして、上記反射型偏光子の偏光子面が僅かに傾斜することで、ファラデー回転子や吸収型偏光子等の光透過面で生ずる反射光に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第二透過光の進行方向と、ファラデー回転角の温度依存性や波長依存性等に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第一透過光の進行方向が平行でなくなることから、本発明の光アイソレータをコリメートレンズ間に配置しても上記第二透過光がLDのレーザー発振部に戻らなくなるため、反射型偏光子が適用された光アイソレータにおけるアイソレーションの劣化を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
上述したようにファラデー回転子と反射型偏光子および吸収型偏光子を備える本発明の光アイソレータは、反射型偏光子の偏光子面がファラデー回転子における吸収型偏光子側の光透過面および吸収型偏光子におけるファラデー回転子側の光透過面に対して0.12〜0.29度傾斜していることを特徴とする。
【0025】
図1は、反射型偏光子がレーザー発振部側に配置された本発明の光アイソレータの概略構成を示している。
【0026】
すなわち、この光アイソレータは、図1に示すように、レーザー発振部側に配置された反射型偏光子2、ファラデー回転子4および吸収型偏光子1を備えており、かつ、上記反射型偏光子2は断面略楔型形状を有するガラス基板3の一方の光透過面に形成されて、反射型偏光子2の偏光子面が、ファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の光透過面に対して傾斜角θ1(0.12〜0.29度)に設定され、また、反射型偏光子2の偏光子面が、吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の光透過面に対して傾斜角θ2(0.12〜0.29度)に設定されている。
【0027】
そして、図1に示す本発明の光アイソレータにおいては、反射型偏光子2の偏光子面が僅かに傾斜することで、ファラデー回転子4や吸収型偏光子1等の光透過面で生ずる反射光(戻り光7の一部)に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第二透過光9の進行方向と、ファラデー回転角の温度依存性や波長依存性等に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第一透過光8の進行方向が平行でなくなることから、この光アイソレータをコリメートレンズ間に配置しても上記第二透過光9がLDのレーザー発振部に戻らなくなるため、反射型偏光子2が適用された光アイソレータにおけるアイソレーションの劣化を防止することが可能となる。
【0028】
また、図6は、吸収型偏光子がレーザー発振部側に配置された本発明の光アイソレータの概略構成を示している。
【0029】
すなわち、この光アイソレータは、図6に示すように、レーザー発振部側に配置された吸収型偏光子1、ファラデー回転子4および反射型偏光子2を備えており、かつ、上記反射型偏光子2は断面略楔型形状を有するガラス基板3の一方の光透過面に形成されて、反射型偏光子2の偏光子面が、ファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の光透過面に対して0.12〜0.29度に設定され、また、反射型偏光子2の偏光子面が、吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の光透過面に対して0.12〜0.29度に設定されている。
【0030】
そして、図6に示す本発明の光アイソレータにおいても、反射型偏光子2の偏光子面が僅かに傾斜することで、ファラデー回転子4や吸収型偏光子1等の光透過面で生ずる反射光(戻り光7の一部)に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第二透過光9の進行方向と、ファラデー回転角の温度依存性や波長依存性等に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第一透過光8の進行方向が平行でなくなることから、この光アイソレータをコリメートレンズ間に配置しても上記第二透過光9がLDのレーザー発振部に戻らなくなるため、反射型偏光子2が適用された光アイソレータにおけるアイソレーションの劣化を防止することが可能となる。
【0031】
以下、反射型偏光子2がレーザー発振部側に配置されかつファラデー回転子4の各光透過面に接着剤を用いて上記反射型偏光子2と吸収型偏光子1を貼り合わせた構造を有する図7の光アイソレータを、図8に示すコリメートレンズ12、13間に配置した場合を例に挙げて本発明を具体的に説明する。
【0032】
まず、図8に示す光ファイバー10から出射された光を上記レンズ12で一旦平行光とし、この平行光を上記レンズ13で集光し、光ファイバー11に入射させるコリメートビーム光学系において、コリメートレンズ間の平行光部分に光アイソレータを配置し、アイソレーションを評価した結果について説明する。尚、光ファイバー11はLDの代用であり、光ファイバー11に入射する光量が多いほど、アイソレーションが悪いことを意味する。
【0033】
また、上記反射型偏光子2は、一方の光透過面が他方の光透過面に対し傾斜角θ傾斜している断面略楔型形状を有するガラス基板3の一方の光透過面に形成されている。
【0034】
そして、図7に示す光アイソレータは、上述したようにファラデー回転子4と吸収型偏光子1が接着剤で貼り合わされているため、ファラデー回転子4と吸収型偏光子1間の間隔およびファラデー回転子4と反射型偏光子2のガラス基板3間の間隔が平行となるように作製できれば、ガラス基板3の上記傾斜角θそのものが傾斜角θ1、θ2と同一となる。
【0035】
図9に上記傾斜角θが0.10度であった光アイソレータにおけるアイソレーションの波長依存性を一例として示す。図7、図8に示すように第一透過光8と第二透過光9は略同じ光路を通るため、第一透過光8と第二透過光9で干渉を起こし、アイソレーションの波長依存性を調べると、図9に示すように干渉によるアイソレーションの振動現象を引き起こす。光ファイバー11へ入射する第二透過光の光量が多くなる程この振動現象の振動幅が大きくなる。
【0036】
上記傾斜角θが異なる光アイソレータを複数準備し、アイソレーションの振動幅を評価した結果を図10に示す。図10のグラフ図から、傾斜角θが0.12度以上であると振動幅が小さくなり、第二透過光9が光ファイバー11に結合しないようにするためには、傾斜角θが0.12度以上であることが必要であることがわかった。
【0037】
また、通常、光アイソレータを構成する偏光子やファラデー回転子は、11mm角程度の大きさの偏光子やファラデー回転子を、個別にあるいは接着剤で貼り合わせた後に、1mm角以下に切断して使用する。上記傾斜角θが大きいほど第二透過光9が光ファイバー11に結合しなくなるが、傾斜角θが大きいほど、反射型偏光子2の厚みの個体差が大きくなる。反射型偏光子2の厚みが個々に異なると、光アイソレータを組み立てる際に、寸法が異なることに起因する不具合が出るばかりでなく、実効光路長が光アイソレータ間で異なるため、このような光アイソレータを組み込んだ光モジュールを組み立てる際にも不具合が発生してくる。このため、上記傾斜角θは0.29度以下を要する。
【0038】
また、反射型偏光子をファラデー回転子に接着して使用する場合には、平板状基板の一方の表面が他方の表面に対して傾斜している楔型略断面形状を有するガラス基板(すなわち、一方の光透過面が他方の光透過面に対して傾斜している断面略楔型形状を有するガラス基板)のファラデー回転子と反対側の表面に、反射型偏光子が形成されたものを用いる必要があるが、このときのガラス基板の傾斜角は0.14〜0.29度であることが好ましい。ガラス基板の傾斜角の下限が偏光子面の傾斜角(0.12〜0.29度)より大きくなるのは、接着剤層の厚みのバラツキにより、実効的な傾斜角が0.12度を下回らないようにするためである。
【0039】
尚、接着剤の厚みが大きい場合には、接着剤層の厚みのバラツキにより実効的な傾斜角が変動し易いため、反射型偏光子とファラデー回転子間および吸収型偏光子とファラデー回転子間の接着剤層の厚みは3μm以下にすることが望ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0041】
まず、反射型偏光子として光学ガラス(BK7)からなるガラス基板にワイヤーグリッド型偏光子が形成されたナノヌーボ社製の反射型偏光子を用意し、上記偏光子が形成されている面とは反対側の面を研磨することにより、傾斜角θを0.17度とした。
【0042】
また、ファラデー回転子には一般的なビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶からなるファラデー回転子を適用し、吸収型偏光子としてはコーニング社製のガラス偏光子であるポーラコア(登録商標)を用意した。尚、上記反射型偏光子、ファラデー回転子、吸収型偏光子共に11mm角のものを用意した。
【0043】
そして、上記ファラデー回転子の両面にエポキシ系の光学接着剤を用いて反射型偏光子と吸収型偏光子を接着した後、ダイシングソーにより光透過面が1mm角になるよう切断して光アイソレータ用の光学素子を得た。切断面の顕微鏡観察により、反射型偏光子とファラデー回転子間および吸収型偏光子とファラデー回転子間の接着剤層の厚みを観察したところ、接着剤層はどちらも2.5μmであり、3μm以下であった。
【0044】
次に、光アイソレータ用の上記光学素子の両側にビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶(ファラデー回転子)を磁気的に飽和させるSmCo磁石(図7の符号5、6参照)を組み込んで光アイソレータとし、かつ、図8に示す光学系によりアイソレーションを評価した。この評価結果を図11に示す。
【0045】
図11のグラフ図から、アイソレーションのピークは38dBであり、アイソレーションの振動現象も無い良好な特性が得られた。
【0046】
この実施例と同様にして、傾斜角θが、0.14度、0.22度、0.29度である光アイソレータを作製し、アイソレーションの評価を行ったが、いずれも上記実施例と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る光アイソレータは、安価な反射型偏光子が使用されているにも拘わらずアイソレーションの劣化が防止されるため、レーザーダイオードモジュールに組み込んで利用される産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】反射型偏光子がレーザー発振部側に配置される本発明に係る光アイソレータの概略構成説明図。
【図2】反射型偏光子がレーザー発振部側に配置された従来の光アイソレータにおける戻り光の遮断原理を示す説明図。
【図3】吸収型偏光子がレーザー発振部側に配置された従来の光アイソレータにおける戻り光の遮断原理を示す説明図。
【図4】反射型偏光子がレーザー発振部側に配置された従来の光アイソレータにおける戻り光の漏れを示す説明図。
【図5】吸収型偏光子がレーザー発振部側に配置された従来の光アイソレータにおける戻り光の漏れを示す説明図。
【図6】吸収型偏光子がレーザー発振部側に配置される本発明に係る光アイソレータの概略構成説明図。
【図7】反射型偏光子がレーザー発振部側に配置されかつファラデー回転子の各光透過面に接着剤を用いて反射型偏光子と吸収型偏光子を貼り合わせた構造を有する本発明に係る光アイソレータの概略構成説明図。
【図8】図7に示された本発明に係る光アイソレータがコリメートレンズ間に配置されたアイソレーション測定光学系の構成説明図。
【図9】反射型偏光子を用いた本発明に係る光アイソレータにおけるアイソレーションの波長依存性を示すグラフ図。
【図10】本発明に係る光アイソレータの反射型偏光子における偏光子面の傾斜角とアイソレーションの振動幅との関係を示すグラフ図。
【図11】本発明の実施例に係る光アイソレータの波長とアイソレーションとの関係を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0049】
1 吸収型偏光子
2 反射型偏光子
3 ガラス基板
4 ファラデー回転子
5 磁石
6 磁石
7 戻り光
8 第一透過光
9 第二透過光
10 光ファイバー
11 光ファイバー
12 レンズ
13 レンズ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信に用いられる半導体レーザーの戻り光対策に利用される光アイソレータに係り、特に、反射型偏光子が適用された光アイソレータにおけるアイソレーションの劣化を抑制した光アイソレータの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる光モジュールとしては、光信号を送信するためのレーザーダイオード(LD)モジュールや、光信号を受信するためのフォトダイオード(PD)モジュールが知られており、電気信号は光信号に変換されてLDモジュールから発せられ、光ファイバを通ってPDモジュールで受信され、電気信号に変換される。
【0003】
ところで、大容量の光信号を長距離伝送する場合、LDとしては分布帰還型半導体(DFB)レーザーが使用される。このDFBレーザーは、発振スペクトル幅が狭く分散特性に優れているという特徴を有するが、反射光による戻り光に対し敏感で、光ファイバへの結合端面やその他不連続界面からの反射光がレーザー発振部に戻ると、特性が不安定になるという欠点がある。そこで、反射光がレーザー発振部に戻ることを防ぐために上記光アイソレータが用いられる。
【0004】
この光アイソレータに対して要求される項目はいくつかあるが、その中で低コストという要求が最近では強くなっている。光アイソレータは、光学素子として2枚の偏光子とファラデー回転子とで構成されるが、DFBレーザーに適用される偏波依存型光アイソレータでは、偏光子として電界吸収型偏光子(以後、単に吸収型偏光子と記す)が専ら用いられる。
【0005】
しかしながら、近年、大型のガラス基板上にも作製が可能で、低コストでかつ均一な品質が期待できる反射型偏光子が実用化されつつある。そして、このような反射型偏光子としては、フォトニック結晶からなる偏光子やワイヤーグリッド型偏光子があり、これ等の反射型偏光子を用いた光アイソレータも提案されている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2000−241762号公報
【特許文献2】特開2008−003189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記反射型偏光子を光アイソレータに使用する場合、特許文献1および2に記載されているように、一般には吸収型偏光子と組み合わせて使用される。
【0007】
以下、反射型偏光子を使用した光アイソレータが、戻り光を遮断してレーザー発振部に戻ることを防止する原理について説明する。
【0008】
まず、反射型偏光子2がレーザー発振部側に配置された図2に示す光アイソレータの遮断原理について説明する。図2に示すように、戻り光7は吸収型偏光子1を通り抜けることによって吸収型偏光子1の透過軸に対し平行な偏波面の偏光となるが、この光は、ファラデー回転子4で偏光の偏波面が45度回転して反射型偏光子2に入射する。反射型偏光子2に入射する光は、反射型偏光子2の透過軸に対し垂直な偏波面の偏光であるため、反射型偏光子2で反射され、再度、ファラデー回転子4に入射する。ファラデー回転子4に入射した光は、その偏波面が更に45度回転した後、吸収型偏光子1に入射するが、吸収型偏光子1の透過軸に対し垂直な偏波面の偏光であるため、吸収型偏光子1で吸収され、光アイソレータとして機能する。尚、図2において、丸中に図示された矢印は、偏波面の方向を示している。
【0009】
同様に、吸収型偏光子1がレーザー発振部側に配置された図3に示す光アイソレータの遮断原理について説明する。まず、図3に示すように、戻り光7は反射型偏光子2を通り抜けることによって反射型偏光子2の透過軸に対し平行な偏波面の偏光となるが、この光は、ファラデー回転子4で偏光の偏波面が45度回転して吸収型偏光子1に入射する。そして、吸収型偏光子1に入射する光は、吸収型偏光子1の透過軸に対し垂直な偏波面の偏光であるため吸収型偏光子1で吸収され、図2の光アイソレータと同様、光アイソレータとして機能する。尚、図3において、丸中に図示された矢印も、偏波面の方向を示している。
【0010】
このように図2、図3に示す光アイソレータの作用により、戻り光がレーザー発振部に戻ることを阻止することは原理的に可能となる。しかしながら、実際には種々の要因により、僅かながら光アイソレータを通り抜けてしまう戻り光が発生する。
【0011】
まず、ファラデー回転子4を作製した際のファラデー回転角の設計値からのズレや、ファラデー回転角の温度依存性、波長依存性に起因するズレ等により、図2に示す光アイソレータの反射型偏光子2に入射する戻り光7には、図4に示すように反射型偏光子2の透過軸と平行な偏波面を有する成分の光(図4中、破線にて示す)が存在し、この光は光アイソレータを通り抜けてしまう。この光を第一透過光8と呼ぶことにする。同様に、図5に示す光アイソレータの吸収型偏光子1に入射する戻り光7にも、吸収型偏光子1の透過軸と平行な偏波面を有する成分の光(図5中、破線にて示す)が存在し、この光も光アイソレータを通り抜けてしまう。この光も第一透過光8と呼ぶことにする。
【0012】
また、ファラデー回転子4や吸収型偏光子1等の光学素子には、通常、反射防止膜が施されているが、光の反射を反射防止膜により100%防止することはできないため、ファラデー回転子4や吸収型偏光子1の反射防止膜から僅かながら反射光が発生する。そして、図2に示す光アイソレータにおいて、反射型偏光子2で反射され、ファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の反射防止膜で発生した反射光は、図4に示すように、再度、ファラデー回転子4を通過するため、偏光の偏波面が45度回転し、これにより反射型偏光子2の透過軸と平行な偏波面を有する成分(図4中、破線にて示す)の光となって光アイソレータを通り抜けてくる。この光を第二透過光9と呼ぶことにする。同様に、図3に示す光アイソレータにおいても、吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の反射防止膜で発生した僅かな反射光が、図5に示すように反射型偏光子2で反射されて、再度、ファラデー回転子4を通過するため、偏光の偏波面が45度回転し、これにより吸収型偏光子1の透過軸と平行な偏波面を有する成分(図5中、破線にて示す)の光となって光アイソレータを通り抜けてくる。この光も第二透過光9と呼ぶことにする。
【0013】
これ等第二透過光9の光量は、場合によっては戻り光7に対して−30dBよりも大きな値となる。尚、図4に示す光アイソレータにおいて、図示していないが、反射型偏光子2で反射され、吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の反射防止膜で生じた反射光についても、再度、ファラデー回転子4を通過することになるため光アイソレータを通り抜けてくる。同様に、図5に示す光アイソレータにおいて、ファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の反射防止膜で生じた僅かな反射光についても、再度、ファラデー回転子4を通過することになるため光アイソレータを通り抜けてくる。
【0014】
そして、反射型偏光子が適用された図2、図3の光アイソレータをコリメートレンズ間に配置した場合、戻り光がコリメート光として光アイソレータに入射するため、第二透過光はLDのレーザー発振部に戻り、アイソレーションを劣化させる要因になっていた。
【0015】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、反射型偏光子を用いた光アイソレータにおいて、アイソレーションの劣化を抑制した光アイソレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本発明者が上記第一透過光と第二透過光のアイソレーションに及ぼす影響について鋭意研究した結果、第一透過光はアイソレーションピークから外れた領域、つまりファラデー回転角の温度依存性や波長依存性によりファラデー回転角が45度から外れた領域で増加し、アイソレーションを低下させるが、第二透過光はファラデー回転角のズレに因らず、概ね戻り光に対して−30dB程度であり、光アイソレータを使用する温度域、波長域の全域に亘ってアイソレーションを低下させていることが分かった。
【0017】
本発明はこのような技術的知見に基づき完成されたものである。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明は、
光路上に配置されるファラデー回転子における一方の光透過面側に反射型偏光子を備え、他方の光透過面側に吸収型偏光子を備えると共に、レーザーダイオードモジュールに組み込まれる光アイソレータにおいて、
上記反射型偏光子の偏光子面が、ファラデー回転子における吸収型偏光子側の光透過面および吸収型偏光子におけるファラデー回転子側の光透過面に対して、0.12〜0.29度傾斜していることを特徴とする。
【0019】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
上記反射型偏光子が、ワイヤーグリッド型偏光子により構成されていることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
上記反射型偏光子が、フォトニック結晶から成る偏光子により構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
次に、請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
上記ファラデー回転子における一方の光透過面に反射型偏光子が接着剤により貼り合わされ、他方の光透過面に吸収型偏光子が接着剤により貼り合わされていることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項4に記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
反射型偏光子とファラデー回転子間、および、吸収型偏光子とファラデー回転子間の接着剤層の厚みが3μm以下であることを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の発明に係る光アイソレータにおいて、
一方の光透過面が他方の光透過面に対して0.14〜0.29度傾斜している断面略楔型形状を有するガラス基板の一方の光透過面に形成された反射型偏光子により上記反射型偏光子が構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
ファラデー回転子と反射型偏光子および吸収型偏光子を備える本発明の光アイソレータは、上記反射型偏光子の偏光子面が、ファラデー回転子における吸収型偏光子側の光透過面および吸収型偏光子におけるファラデー回転子側の光透過面に対して0.12〜0.29度傾斜していることを特徴とする。
【0022】
そして、上記反射型偏光子の偏光子面が僅かに傾斜することで、ファラデー回転子や吸収型偏光子等の光透過面で生ずる反射光に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第二透過光の進行方向と、ファラデー回転角の温度依存性や波長依存性等に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第一透過光の進行方向が平行でなくなることから、本発明の光アイソレータをコリメートレンズ間に配置しても上記第二透過光がLDのレーザー発振部に戻らなくなるため、反射型偏光子が適用された光アイソレータにおけるアイソレーションの劣化を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
上述したようにファラデー回転子と反射型偏光子および吸収型偏光子を備える本発明の光アイソレータは、反射型偏光子の偏光子面がファラデー回転子における吸収型偏光子側の光透過面および吸収型偏光子におけるファラデー回転子側の光透過面に対して0.12〜0.29度傾斜していることを特徴とする。
【0025】
図1は、反射型偏光子がレーザー発振部側に配置された本発明の光アイソレータの概略構成を示している。
【0026】
すなわち、この光アイソレータは、図1に示すように、レーザー発振部側に配置された反射型偏光子2、ファラデー回転子4および吸収型偏光子1を備えており、かつ、上記反射型偏光子2は断面略楔型形状を有するガラス基板3の一方の光透過面に形成されて、反射型偏光子2の偏光子面が、ファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の光透過面に対して傾斜角θ1(0.12〜0.29度)に設定され、また、反射型偏光子2の偏光子面が、吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の光透過面に対して傾斜角θ2(0.12〜0.29度)に設定されている。
【0027】
そして、図1に示す本発明の光アイソレータにおいては、反射型偏光子2の偏光子面が僅かに傾斜することで、ファラデー回転子4や吸収型偏光子1等の光透過面で生ずる反射光(戻り光7の一部)に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第二透過光9の進行方向と、ファラデー回転角の温度依存性や波長依存性等に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第一透過光8の進行方向が平行でなくなることから、この光アイソレータをコリメートレンズ間に配置しても上記第二透過光9がLDのレーザー発振部に戻らなくなるため、反射型偏光子2が適用された光アイソレータにおけるアイソレーションの劣化を防止することが可能となる。
【0028】
また、図6は、吸収型偏光子がレーザー発振部側に配置された本発明の光アイソレータの概略構成を示している。
【0029】
すなわち、この光アイソレータは、図6に示すように、レーザー発振部側に配置された吸収型偏光子1、ファラデー回転子4および反射型偏光子2を備えており、かつ、上記反射型偏光子2は断面略楔型形状を有するガラス基板3の一方の光透過面に形成されて、反射型偏光子2の偏光子面が、ファラデー回転子4における吸収型偏光子1側の光透過面に対して0.12〜0.29度に設定され、また、反射型偏光子2の偏光子面が、吸収型偏光子1におけるファラデー回転子4側の光透過面に対して0.12〜0.29度に設定されている。
【0030】
そして、図6に示す本発明の光アイソレータにおいても、反射型偏光子2の偏光子面が僅かに傾斜することで、ファラデー回転子4や吸収型偏光子1等の光透過面で生ずる反射光(戻り光7の一部)に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第二透過光9の進行方向と、ファラデー回転角の温度依存性や波長依存性等に起因しレーザー発振部側に戻ってくる第一透過光8の進行方向が平行でなくなることから、この光アイソレータをコリメートレンズ間に配置しても上記第二透過光9がLDのレーザー発振部に戻らなくなるため、反射型偏光子2が適用された光アイソレータにおけるアイソレーションの劣化を防止することが可能となる。
【0031】
以下、反射型偏光子2がレーザー発振部側に配置されかつファラデー回転子4の各光透過面に接着剤を用いて上記反射型偏光子2と吸収型偏光子1を貼り合わせた構造を有する図7の光アイソレータを、図8に示すコリメートレンズ12、13間に配置した場合を例に挙げて本発明を具体的に説明する。
【0032】
まず、図8に示す光ファイバー10から出射された光を上記レンズ12で一旦平行光とし、この平行光を上記レンズ13で集光し、光ファイバー11に入射させるコリメートビーム光学系において、コリメートレンズ間の平行光部分に光アイソレータを配置し、アイソレーションを評価した結果について説明する。尚、光ファイバー11はLDの代用であり、光ファイバー11に入射する光量が多いほど、アイソレーションが悪いことを意味する。
【0033】
また、上記反射型偏光子2は、一方の光透過面が他方の光透過面に対し傾斜角θ傾斜している断面略楔型形状を有するガラス基板3の一方の光透過面に形成されている。
【0034】
そして、図7に示す光アイソレータは、上述したようにファラデー回転子4と吸収型偏光子1が接着剤で貼り合わされているため、ファラデー回転子4と吸収型偏光子1間の間隔およびファラデー回転子4と反射型偏光子2のガラス基板3間の間隔が平行となるように作製できれば、ガラス基板3の上記傾斜角θそのものが傾斜角θ1、θ2と同一となる。
【0035】
図9に上記傾斜角θが0.10度であった光アイソレータにおけるアイソレーションの波長依存性を一例として示す。図7、図8に示すように第一透過光8と第二透過光9は略同じ光路を通るため、第一透過光8と第二透過光9で干渉を起こし、アイソレーションの波長依存性を調べると、図9に示すように干渉によるアイソレーションの振動現象を引き起こす。光ファイバー11へ入射する第二透過光の光量が多くなる程この振動現象の振動幅が大きくなる。
【0036】
上記傾斜角θが異なる光アイソレータを複数準備し、アイソレーションの振動幅を評価した結果を図10に示す。図10のグラフ図から、傾斜角θが0.12度以上であると振動幅が小さくなり、第二透過光9が光ファイバー11に結合しないようにするためには、傾斜角θが0.12度以上であることが必要であることがわかった。
【0037】
また、通常、光アイソレータを構成する偏光子やファラデー回転子は、11mm角程度の大きさの偏光子やファラデー回転子を、個別にあるいは接着剤で貼り合わせた後に、1mm角以下に切断して使用する。上記傾斜角θが大きいほど第二透過光9が光ファイバー11に結合しなくなるが、傾斜角θが大きいほど、反射型偏光子2の厚みの個体差が大きくなる。反射型偏光子2の厚みが個々に異なると、光アイソレータを組み立てる際に、寸法が異なることに起因する不具合が出るばかりでなく、実効光路長が光アイソレータ間で異なるため、このような光アイソレータを組み込んだ光モジュールを組み立てる際にも不具合が発生してくる。このため、上記傾斜角θは0.29度以下を要する。
【0038】
また、反射型偏光子をファラデー回転子に接着して使用する場合には、平板状基板の一方の表面が他方の表面に対して傾斜している楔型略断面形状を有するガラス基板(すなわち、一方の光透過面が他方の光透過面に対して傾斜している断面略楔型形状を有するガラス基板)のファラデー回転子と反対側の表面に、反射型偏光子が形成されたものを用いる必要があるが、このときのガラス基板の傾斜角は0.14〜0.29度であることが好ましい。ガラス基板の傾斜角の下限が偏光子面の傾斜角(0.12〜0.29度)より大きくなるのは、接着剤層の厚みのバラツキにより、実効的な傾斜角が0.12度を下回らないようにするためである。
【0039】
尚、接着剤の厚みが大きい場合には、接着剤層の厚みのバラツキにより実効的な傾斜角が変動し易いため、反射型偏光子とファラデー回転子間および吸収型偏光子とファラデー回転子間の接着剤層の厚みは3μm以下にすることが望ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0041】
まず、反射型偏光子として光学ガラス(BK7)からなるガラス基板にワイヤーグリッド型偏光子が形成されたナノヌーボ社製の反射型偏光子を用意し、上記偏光子が形成されている面とは反対側の面を研磨することにより、傾斜角θを0.17度とした。
【0042】
また、ファラデー回転子には一般的なビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶からなるファラデー回転子を適用し、吸収型偏光子としてはコーニング社製のガラス偏光子であるポーラコア(登録商標)を用意した。尚、上記反射型偏光子、ファラデー回転子、吸収型偏光子共に11mm角のものを用意した。
【0043】
そして、上記ファラデー回転子の両面にエポキシ系の光学接着剤を用いて反射型偏光子と吸収型偏光子を接着した後、ダイシングソーにより光透過面が1mm角になるよう切断して光アイソレータ用の光学素子を得た。切断面の顕微鏡観察により、反射型偏光子とファラデー回転子間および吸収型偏光子とファラデー回転子間の接着剤層の厚みを観察したところ、接着剤層はどちらも2.5μmであり、3μm以下であった。
【0044】
次に、光アイソレータ用の上記光学素子の両側にビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶(ファラデー回転子)を磁気的に飽和させるSmCo磁石(図7の符号5、6参照)を組み込んで光アイソレータとし、かつ、図8に示す光学系によりアイソレーションを評価した。この評価結果を図11に示す。
【0045】
図11のグラフ図から、アイソレーションのピークは38dBであり、アイソレーションの振動現象も無い良好な特性が得られた。
【0046】
この実施例と同様にして、傾斜角θが、0.14度、0.22度、0.29度である光アイソレータを作製し、アイソレーションの評価を行ったが、いずれも上記実施例と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る光アイソレータは、安価な反射型偏光子が使用されているにも拘わらずアイソレーションの劣化が防止されるため、レーザーダイオードモジュールに組み込んで利用される産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】反射型偏光子がレーザー発振部側に配置される本発明に係る光アイソレータの概略構成説明図。
【図2】反射型偏光子がレーザー発振部側に配置された従来の光アイソレータにおける戻り光の遮断原理を示す説明図。
【図3】吸収型偏光子がレーザー発振部側に配置された従来の光アイソレータにおける戻り光の遮断原理を示す説明図。
【図4】反射型偏光子がレーザー発振部側に配置された従来の光アイソレータにおける戻り光の漏れを示す説明図。
【図5】吸収型偏光子がレーザー発振部側に配置された従来の光アイソレータにおける戻り光の漏れを示す説明図。
【図6】吸収型偏光子がレーザー発振部側に配置される本発明に係る光アイソレータの概略構成説明図。
【図7】反射型偏光子がレーザー発振部側に配置されかつファラデー回転子の各光透過面に接着剤を用いて反射型偏光子と吸収型偏光子を貼り合わせた構造を有する本発明に係る光アイソレータの概略構成説明図。
【図8】図7に示された本発明に係る光アイソレータがコリメートレンズ間に配置されたアイソレーション測定光学系の構成説明図。
【図9】反射型偏光子を用いた本発明に係る光アイソレータにおけるアイソレーションの波長依存性を示すグラフ図。
【図10】本発明に係る光アイソレータの反射型偏光子における偏光子面の傾斜角とアイソレーションの振動幅との関係を示すグラフ図。
【図11】本発明の実施例に係る光アイソレータの波長とアイソレーションとの関係を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0049】
1 吸収型偏光子
2 反射型偏光子
3 ガラス基板
4 ファラデー回転子
5 磁石
6 磁石
7 戻り光
8 第一透過光
9 第二透過光
10 光ファイバー
11 光ファイバー
12 レンズ
13 レンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路上に配置されるファラデー回転子における一方の光透過面側に反射型偏光子を備え、他方の光透過面側に吸収型偏光子を備えると共に、レーザーダイオードモジュールに組み込まれる光アイソレータにおいて、
上記反射型偏光子の偏光子面が、ファラデー回転子における吸収型偏光子側の光透過面および吸収型偏光子におけるファラデー回転子側の光透過面に対して、0.12〜0.29度傾斜していることを特徴とする光アイソレータ。
【請求項2】
上記反射型偏光子が、ワイヤーグリッド型偏光子により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ。
【請求項3】
上記反射型偏光子が、フォトニック結晶から成る偏光子により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ。
【請求項4】
上記ファラデー回転子における一方の光透過面に反射型偏光子が接着剤により貼り合わされ、他方の光透過面に吸収型偏光子が接着剤により貼り合わされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光アイソレータ。
【請求項5】
反射型偏光子とファラデー回転子間、および、吸収型偏光子とファラデー回転子間の接着剤層の厚みが3μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の光アイソレータ。
【請求項6】
一方の光透過面が他方の光透過面に対して0.14〜0.29度傾斜している断面略楔型形状を有するガラス基板の一方の光透過面に形成された反射型偏光子により上記反射型偏光子が構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光アイソレータ。
【請求項1】
光路上に配置されるファラデー回転子における一方の光透過面側に反射型偏光子を備え、他方の光透過面側に吸収型偏光子を備えると共に、レーザーダイオードモジュールに組み込まれる光アイソレータにおいて、
上記反射型偏光子の偏光子面が、ファラデー回転子における吸収型偏光子側の光透過面および吸収型偏光子におけるファラデー回転子側の光透過面に対して、0.12〜0.29度傾斜していることを特徴とする光アイソレータ。
【請求項2】
上記反射型偏光子が、ワイヤーグリッド型偏光子により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ。
【請求項3】
上記反射型偏光子が、フォトニック結晶から成る偏光子により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ。
【請求項4】
上記ファラデー回転子における一方の光透過面に反射型偏光子が接着剤により貼り合わされ、他方の光透過面に吸収型偏光子が接着剤により貼り合わされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光アイソレータ。
【請求項5】
反射型偏光子とファラデー回転子間、および、吸収型偏光子とファラデー回転子間の接着剤層の厚みが3μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の光アイソレータ。
【請求項6】
一方の光透過面が他方の光透過面に対して0.14〜0.29度傾斜している断面略楔型形状を有するガラス基板の一方の光透過面に形成された反射型偏光子により上記反射型偏光子が構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光アイソレータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−151903(P2010−151903A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327233(P2008−327233)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(508377532)株式会社エス・エム・エムプレシジョン (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(508377532)株式会社エス・エム・エムプレシジョン (6)
【Fターム(参考)】
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