説明

光ディスク及びその製造方法

【課題】ホットメルト接着を用いずに貼り合わされた光ディスク及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による光ディスクにおいては、それぞれ厚みが0.3mm以下の、反射膜及び記録層を有する2枚の薄型フレキシブル光ディスクが、接着層を介して貼り合わされており、しかも、反射膜の厚さが10〜75nm(より好ましくは、35nm以上75nm以下)となっている。そして、2つのディスクにおいては、反射膜及び記録層が設けられている面同士が接着層を介して貼り合わされる。接着層は、UV硬化樹脂で構成されるのが好ましい。また、それぞれの薄型フレキシブル光ディスクの基材は、プラスチックシートで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク及びその製造方法に関し、特に、例えば、厚さ0.3mm以下の薄型フレキシブル光ディスクを貼り合わせてなる光ディスク及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクの高容量化を図る様々な試みがなされており、中でも効率的な方法として、光ディスク基板の厚みを薄くして体積当たりの容量を増やすことが注目されている。その中で、厚さ0.3mm(300μm)以下の薄型光ディスクに確実かつ安定して記録再生する光情報記録再生システムを実現する為に、薄型光ディスクをターンテーブルで保持する方法が考えられている。
【0003】
また、薄型光ディスクを貼り合わせて、大記録容量を確保しつつ、ディスク剛性を向上することが模索されている。そして、この貼り合わせ技術として、特許文献1に示されているようなホットメルト接着法がある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−150383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されているホットメルト接着法を用いると、熱により基板に変形を生じさせてしまう。特に、基板の厚さが薄い薄型光ディスクの場合、この熱の影響は大きく熱によって基板が変形しやすいため、ディスクの製造過程においては、なるべく基板に対して熱をかけないことが重要である。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、ホットメルト接着を用いずに貼り合わされた光ディスク及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明による光ディスクはにおいては、それぞれ厚みが0.3mm以下の、反射膜及び記録層を有する2枚の薄型フレキシブル光ディスクが、接着層を介して貼り合わされており、しかも、反射膜の厚さが10〜75nm(より好ましくは、35nm以上75nm以下)となっている。そして、2つのディスクにおいては、反射膜及び記録層が設けられている面同士が接着層を介して貼り合わされる。接着層は、UV硬化樹脂で構成されるのが好ましい。また、それぞれの薄型フレキシブル光ディスクの基材は、プラスチックシートで構成される。
【0008】
さらに、本発明は上述の構成を有する光ディスクの製造方法も提供する。本発明による光ディスク製造方法は、それぞれ厚みが0.3mm以下のディスクであり、10nm〜75nm(より好ましくは、35nm以上75nm以下)の厚さの反射膜、及び記録層を有する第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクを形成する第1の工程と、第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクの、反射膜及び記録層が形成された面に接着剤を塗布して貼り合わせる第2の工程と、を備える。好ましくは、接着剤はUV硬化樹脂であり、この場合には、上記製造方法は、さらに、第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクの一方の面からUV光を照射して、UV硬化樹脂を硬化させる第3の工程を備える。なお、第1の工程において、第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクは、ナノインプリント法を用いて形成される。
【0009】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホットメルト接着を用いずに貼り合わされた光ディスク及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0012】
本発明においては、貼り合わせ光ディスクを作製するために従来のホットメルト接着法の代わりに、UV硬化樹脂を用いて2枚の薄型光ディスクを接着するようにしている。また、本発明では、より大容量化を達成するために、2枚の薄型ディスクとも記録層及び反射膜を備えている。従って、反射膜が厚すぎると、一方の面から照射されるUV光が反射膜を透過しないのでUV硬化樹脂が硬化せず接着剤としての作用を呈しない。一方、反射膜の厚さが薄すぎると、貼り合わせ光ディスクを再生するときに、再生対象ではない他方の記録層上の反射膜からの信号が雑音となってしまう。
【0013】
そこで、本発明は、UV硬化樹脂が硬化し、かつ再生信号に悪影響を与えないような反射膜の厚さを規定する。以下、本発明の光ディスクの構造及び光ディスクの製造方法について説明し、さらに反射膜の厚さの上限と下限について述べる。
【0014】
<光ディスクの製造工程について>
図1は、本発明の実施形態による光ディスクの製造工程を示す図である。図1において、まず、厚さ100μmのポリカーボネートフィルムにホットエンボス加工を用いてトラックピッチ0.74μmの溝(凹凸)形状を転写し(ステップS101)、色素記録層、銀を主成分とする金属反射膜60nmを積層(ステップS102)した光記録再生可能な薄型フレキシブル光ディスク1を作製する。このディスクの外径をφ120mm、内径をφ15mmのドーナツ板とし、重さを1gに調整した。なお、反射膜は銀を主成分としているため、Ag(銀)を95wt%以上含むことが望ましい。
【0015】
また、同様の工程により薄型フレキシブル光ディスク2を作製する(ステップS103及びS104)。その後、薄型フレキシブル光ディスク1(ディスク2でもよい)の金属反射膜にUV硬化樹脂をスピンコータで塗布し(ステップS105)、その上に同構成の薄型フレキシブル光ディスク2を金属反射膜が向き合うように載せる(ステップS106)。そして、ディスク1及び2のどちらか一方の面から金属反射膜越しにUV光を、高圧水銀ランプ(λ=365nmを主とする)を用いて照度20mW/cmで5秒間照射して(つまり、照射条件は100mJ/cm)UV樹脂を硬化し(ステップS107)、厚さ10μmの接着層を形成して2枚のディスクを貼り合せる(ステップS108)。以上の工程によって本発明による貼り合わせ光ディスク100が完成する(図2参照)。なお、接着層(UV硬化樹脂)を硬化するためのUV光の照射条件は、波長365nmにおける積算光量が20mJ/cm以上1000mJ/cm以下であることが望ましい。20mJ/cmより小さい値では、あまりにもUV照射量が少ないため、UV樹脂を硬化させることができない。また、1000mJ/cmより大きい値では、あまりにもUV照射量が多いため熱により薄型ディスクが変形してしまうからである。
【0016】
<情報記録の検証実験について>
図3は、上述の工程によって作製された光ディスク100に対して情報を記録再生するための光記録再生装置の概略構成を示す図である。図3の光記録再生装置において、ターンテーブル110として、厚さ500μmのソーダガラス板で内径が15.0mmφで、外径をφ125mmとしたものを用いている。また、SUS304製で外径26mmφ、内径15.0mmφ、厚さ0.2mmのスペーサー120を用いる。そして、ターンテーブル110をスピンドル130に装着し、光ディスク(フレキシブルディスク)100とスペーサー120を、それぞれ同芯に固定する。なお、この際薄型フレキシブル光ディスク1の方をターンテーブル110に向かい合うようにし、波長659nm、NA0.60のピックアップヘッド140よりレーザー光をターンテーブル110側より入射させ、スピンドル130を線速14m/s(CLV)で回転(DVDだと4倍速に相当)させる。そして、DVDのマークパターンを、半径40〜41mmの位置において記録パワー15mWで記録する。その後、貼り合わせたディスク100を裏返して薄型フレキシブル光ディスク2の方に、薄型フレキシブル光ディスク1に行ったのと同様の記録を行う。そして、薄型フレキシブル光ディスク2に記録したマークのエラーとジッター評価を行ったところ、エラー(PIsum8)は85、ジッターは7.7%となり、DVD規格値(PIsum8最大値280以下、ジッター8.0%以下)を満たすことが判った。
【0017】
<反射膜厚の上限についての考察>
上述の製造工程では、反射膜の厚さを60nmとしているが、この厚さであればUV光を透過し、UV硬化樹脂を硬化させ、2枚の薄型フレキシブル光ディスク1及び2を貼り合わせることができると判っている。
【0018】
そこで、反射膜の厚さの上限として、どの位の厚さまで許容されるか、つまりUV照射光がどの位の厚さまで反射膜を透過してUV硬化樹脂を硬化させることができるかについて検証した。
【0019】
実験では、金属反射膜を65nm、70nm、75nm、80nm、85nm、90nmとし、それ以外の部分は上述の製造方法と同様にし、薄型フレキシブル光ディスク2枚の貼り合せを試みたところ、80nm、85nm、90nmでは、UV光が反射膜を十分透過せず、UV樹脂を硬化させることが出来なかった。
【0020】
よって、反射膜の厚さの上限は、75nmまでは許容されると理解できる。
【0021】
<反射膜厚の下限についての考察>
上述のように、反射膜が薄すぎると再生時にジッター及び、再生エラーを生じさせてしまう。そこで、ここでは、ジッターやエラーが許容される範囲に収まるときの反射膜の厚さ(下限)について実験を通して考察する。
【0022】
厚さ100μmのポリカーボネートフィルムにホットエンボス加工を用いてDVD−ROMのピットパターンを転写し、金属反射層を7nm、10nm、12nm、18nm、24nm、35nm、60nm、75nm積層した光再生可能なフレキシブルディスク(外径、内径、重さは実施例1と同じ)を各2枚ずつ準備した。その後、上述の製造方法と同様にして金属反射膜厚が同じディスクを2枚貼り合わせた。そして、上述の記録再生装置において、ターンテーブル110と、それぞれの厚さの反射膜を有する光ディスク100と、スペーサー120をスピンドル130に同芯に固定する。その後、波長659nm、NA0.60のピックアップヘッドよりレーザー光を半径40mmにターンテーブル側より入射し、シートに転写したDVDのピットパターンを再生してエラーとジッター評価を行った。
【0023】
図4は、それぞれの厚さの反射膜とジッター(%)及びエラー(PIsum8)の関係を示す図である。図4の結果より、反射膜厚が35nmより薄くなると、接着層を挟んだ逆側のピットパターンからのクロストークの影響でエラーが悪くなる傾向が見られ、7nmではPIsum8最大値が308となり、DVD規格値(280以下)を満たさないことが判った。また、ジッターも同様にクロストークの影響で、悪くなる傾向が見られ、24nmになるとジッター9.5%になり、DVD規格値(8.0%以下)を満たさなくなった。よって、反射膜厚は10nm(DVD規格値を満たす限界)以上、望ましくは35nmより厚いほうが良いことが判る。
【0024】
<比較実験>
反射膜厚の下限についての考察で使用したものと同様な各種金属反射膜を積層したフレキシブルディスクを各1枚ずつ準備した。また、溝転写や膜を積層しないダミーのフレキシブルディスクを上述の製造方法と同様の手段で貼り合わせた。そして、上述の記録再生装置において、ターンテーブル110と、片面が反射膜を有しないダミー基板である光ディスク100と、スペーサー120をスピンドル130に同芯に固定した。その際、光ディスク100においてDVD−ROMのピットパターンが転写された面とターンテーブル110が向き合うようにした。波長659nm、NA0.60のピックアップヘッドよりレーザー光を半径40mmにターンテーブル側より入射し、シートに転写したDVDのピットパターンを再生してエラーとジッター評価を行った。図4の結果より、クロストークの影響が無い為、反射膜厚が35nmより薄くなっても、エラーとジッターに大きな変化は見られなかった。
【0025】
<まとめ>
以上の実施形態及び比較実験により、両面貼り合わせフレキシブルディスクの反射膜厚を10〜75nmにすることにより、記録マークやピットの再生信号特性を確保し、かつUV照射によるフレキシブルディスクの接着が可能となることが判った。
【0026】
つまり、本発明による実施形態では、貼り合せるフレキシブルディスクの金属反射膜厚を10〜75nm積層し、その反射膜を透してUV照射により接着層を硬化する。反射膜厚が75nmよりも厚い場合、UV光が接着層に十分照射されず、UV硬化による貼り合せが出来ない。また、反射膜厚が10nmよりも薄い場合、その反射膜が積層された記録層の記録マーク、もしくはフレキシブルディスク表面に形成されたピットからの再生信号を得る際、再生時に用いるレーザー光が反射膜を透過し、透過した先にある記録マークやピットからのクロストークの影響が大きくなってしまう。図4からも分かるように、より好ましくは、反射膜の厚さを35nm以上とすれば、貼り合わせディスクの一方をダミー基板とした場合と同等のパフォーマンスが得られる。
【0027】
また、本実施形態で提供される光ディスクは、次のような工程によって作製される。つまり、それぞれ厚みが0.3mm以下のディスクであり、10nm〜75nm(より好ましくは、35nm以上75nm以下)の厚さの反射膜、及び記録層を有する第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクを形成(用意)し、第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクの、反射膜及び記録層が形成された面に接着剤を塗布して貼り合わせるようにすることによって作製される。好ましくは、接着剤はUV硬化樹脂であり、この場合には、さらに、第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクの一方の面からUV光を照射して、UV硬化樹脂を硬化させる工程が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る光ディスクの製造方法を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光ディスクの断面を示す図である。
【図3】本発明の光ディスクに情報を記録し、或いは記録された情報を再生するための光記録再生装置の概略構成を示す図である。
【図4】本発明のエラー、ジッター評価の結果を示した図である。
【符号の説明】
【0029】
100 光ディスク
110 ターンテーブル
120 スペーサー
130 スピンドル
140 ピックアップヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ厚みが0.3mm以下のディスクであり、反射膜及び記録層を有する第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクの、前記反射膜及び前記記録層が形成された面が接着層を介して貼り合わされており、前記反射膜の厚さが10〜75nmであることを特徴とする光ディスク。
【請求項2】
前記接着層は、UV硬化樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ディスク。
【請求項3】
前記第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクの基材がプラスチックシートで構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ディスク。
【請求項4】
前記反射膜の厚さが、35nm以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の光ディスク。
【請求項5】
前記反射膜は、Ag(銀)を95wt%以上含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の光ディスク。
【請求項6】
それぞれ厚みが0.3mm以下のディスクであり、10nm〜75nmの厚さの反射膜、及び記録層を有する第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクを形成する第1の工程と、
前記第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクの、前記反射膜及び前記記録層が形成された面に接着剤を塗布して貼り合わせる第2の工程と、
を備えることを特徴とする光ディスク製造方法。
【請求項7】
前記接着剤はUV硬化樹脂であり、
さらに、前記第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクの一方の面からUV光を照射して、前記UV硬化樹脂を硬化させる第3の工程を備えることを特徴とする請求項6に記載の光ディスク製造方法。
【請求項8】
前記第3の工程における前記UV硬化樹脂を硬化させるためのUV光は、波長365nmにおける積算光量が20mJ/cm以上1000mJ/cm以下の紫外線を用いることを特徴とする請求項7に記載の光ディスク製造方法。
【請求項9】
前記第1の工程において、前記第1及び第2の薄型フレキシブル光ディスクは、ナノインプリント法を用いて形成されることを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の光ディスク製造方法。
【請求項10】
前記第1の工程において、前記反射膜の厚さは35nm以上に設定されることを特徴とする請求項6乃至9の何れか1項に記載の光ディスク製造方法。
【請求項11】
前記反射膜は、Ag(銀)を95wt%以上含むことを特徴とする請求項6乃至10の何れか1項に記載の光ディスク製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−198260(P2008−198260A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30037(P2007−30037)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】