説明

光バッファ装置

【課題】信号光としての光パルスを、光パルスごとに光記憶素子に書き込み又は読み出す。
【解決手段】光を保持可能な複数の光記憶素子20と、光遅延素子30とを備える光バッファ装置10が提供される。複数の光記憶素子は、信号光及び制御光が互いに逆方向に伝播する光路上に並べて配置されている。また、光遅延素子は、隣接する光記憶素子の間にそれぞれ設けられている。各光遅延素子は、信号光と制御光に異なる遅延を与える。この光バッファ装置の好適実施形態によれば、光記憶素子は、信号光及び制御光が伝播する光導波路と、この光導波路と近接して設けられた光共振器とを備え、制御光の入力の有無に応じて、光導波路及び光共振器の間のカップリングの生成又は解除がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、信号光を保持可能な光バッファ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システム網を構成する各ノードは、信号光を所望のノードに対して送信を行うための回線切換を行うルータを備えている。
【0003】
現在、光通信システム網で用いられる各ノードでは、受信した光信号を一度電気信号に変換して、回線切換に必要な処理を行っている。その後、各ノードは、電気信号を光信号に変換して、他のノードに送信する。
【0004】
この回線切換の処理を、電気信号に変換することなく光信号の状態で行う、いわゆる光ルータの研究がこれまで行われてきている。光ルータに用いられる技術の中で、空間的に光の進行方向を切換える光スイッチは、比較的容易に実現可能である。これに対し、光信号を保持する光バッファとしては、単に光を遅延させる光ファイバ以外には良いものが知られていない。例えば、光双安定素子が光バッファ装置として使用可能であるが、光双安定素子は、光の持っている物理的情報の中で、強度以外を記憶することができない。
【0005】
最近、光バッファ装置に適用可能な技術として、光の群速度を制御することにより、光を停止させる技術が注目を集めている。この光の群速度の制御には、フォトニック結晶と共振器を用いるもの(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)や、原子準位を利用した電磁誘導透明化(EIT)材料を用いるもの(例えば、非特許文献2参照)が知られている。
【特許文献1】特開2006−234964号公報
【非特許文献1】M.F. Yanik et al., “Stopping Light in a Waveguide with an All-Optical Analog of Electromagnetically Induced Transparency”, Phys. Rev. Lett. Vol.93, (2004) 233903
【非特許文献2】“Dark-State Polaritons in Electromagnetically Induced Transparency”(M.Fleischhauer and M.D.Lukin, Phys.Rev.Lett. vol.84(2000) 5094)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の、光の群速度の制御による光を停止させる技術については、これまで原理的な研究が主である。従って、この技術を光通信に使用する具体的構成についての提案は、ほとんどされていない。
【0007】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、複数の光記憶素子を備えて、信号光としての光パルスを、光パルスごとに光記憶素子に書き込み又は読み出すことができる光バッファ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、この発明の要旨によれば、光を保持可能な複数の光記憶素子と、光遅延素子とを備える光バッファ装置が提供される。複数の光記憶素子は、信号光及び制御光が互いに逆方向に伝播する光路上に並べて配置されている。また、光遅延素子は、隣接する光記憶素子の間にそれぞれ設けられている。各光遅延素子は、信号光と制御光に異なる遅延を与える。
【0009】
この光バッファ装置の好適実施形態によれば、光記憶素子は、信号光及び制御光が伝播する光導波路と、この光導波路と近接して設けられた光共振器とを備えて構成される。この場合、制御光の入力の有無に応じて、光導波路及び光共振器の間のカップリングの生成又は解除がなされる。
【0010】
また、この光バッファ装置の他の好適実施形態によれば、光記憶素子は、電磁誘導透明化材料を用いて構成される。この場合、制御光の入力の有無に応じて、電磁誘導透明化材料が透明又は不透明になる。
【0011】
この発明の光バッファ装置の実施にあたり、好ましくは、光遅延素子を、フォトニック結晶を用いて構成するのが良い。また、光遅延素子は、第1波長フィルタと、第2波長フィルタと、第1波長フィルタと第2波長フィルタの間に、光路長が異なる第1光路及び第2光路とを備えて、信号光が第1光路を伝播し、及び、制御光が第2光路を伝播する構成にしても良い。
【発明の効果】
【0012】
この発明の光バッファ装置によれば、信号光と制御光が伝播する光路上に複数の光記憶素子を備えて構成されていて、これらの光記憶素子には、信号光及び制御光が、一方に対し他方が所定の遅延を受けて入力される。これらの光記憶素子を、光共振器又は電磁誘導透明化材料を用いて構成すると、制御光の入力の有無により、光記憶素子に光を保持するか否かの制御が可能になる。
【0013】
この結果、信号光が有する光パルスを、光パルスごとに光記憶素子に書き込み又は読み出すことができる。このとき、光記憶素子をn個並列に設けていれば、n個の光記憶素子はそれぞれ異なる光パルスを保持できるので、nビットの情報を保持できる。また、例えば、制御光が入力されているときに、光記憶素子が光パルスを保持し、制御光が入力されていないときは、光パルスを保持しない構成にすれば、制御光の持続時間に応じた任意の遅延量を与えることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0015】
(光バッファ装置の構成)
図1を参照して、この発明の光バッファ装置について説明する。図1は、この発明の光バッファ装置の模式図である。
【0016】
光バッファ装置10には、信号光(図中、矢印S101で示す。)が入力される。光バッファ装置10は、この信号光S101が伝播する光路15上に並べて配置された、複数の光記憶素子20を備えている。光記憶素子20は、少なくとも、光バッファ装置10でのバッファリングに要求されるビット数分だけ用意される。
【0017】
光バッファ装置10に入力された信号光S101は、光路15上の複数の光記憶素子20を経て、光バッファ装置10から出力される。また、この光路15上を制御光(図中、矢印S103で示す。)も伝播する。このとき、制御光S103は、光バッファ装置10に、信号光S101の出力側から入力される。つまり、制御光S103は、信号光S101と同じ光路15を信号光S101と逆方向に伝播する。制御光S103は、光路15上の複数の光記憶素子20を経て、光バッファ装置10の信号光S101が入力される側から出力される。なお、信号光S101と制御光S103とは波長が異なっている。
【0018】
光記憶素子20として、特許文献1に記載されている従来技術と同様の光共振器を用いることができる。図2を参照して、光記憶素子について説明する。図2は、光共振器を用いた光記憶素子の模式図である。
【0019】
光記憶素子20は、例えば、光共振器24と、この光共振器24に隣接して設けられた光導波路22とを備えて構成される。光導波路22及び光共振器24は、カー効果により屈折率が変化する非線形光学材料で形成することができる。この非線形光学材料としては、例えば、化合物半導体やカルコゲナイドガラスなどがある。
【0020】
ここでは、光共振器24は、信号光S101の波長に対して共鳴する、寸法及び屈折率に設計されているものとする。一方、制御光S103の波長に対しては、光共振器24は共鳴しない。
【0021】
光共振器24に信号光S101のみが入力され、制御光S103が入力されていない状態では、光導波路22と光共振器24との間のカップリングが生成されている。このため、信号光S101は、光記憶素子20に到達すると、光共振器24を励起しながら、光記憶素子20を通過する。
【0022】
この信号光S101が光共振器24を励起している状態で、光記憶素子20に制御光S103が入力されると、カー効果により光導波路22の屈折率が変化する。この結果、光導波路22と光共振器24の間のカップリングが解除される。この場合、光共振器24が励起された状態でカップリングが解除されるため、光記憶素子20に信号光S101が保持されている状態になる。
【0023】
その後、制御光S103が非入力の状態になると、再び、光導波路22と光共振器24との間のカップリングが生成される。この結果、光記憶素子20に保持されていた信号光S101が出力される。
【0024】
このように構成すると、制御光S103が入力されている間は、光共振器24に信号光S101が保持されている状態になるので、制御光S103の持続時間に応じた任意の遅延量を、光遅延素子20に与えることが可能になる。
【0025】
なお、制御光S103の入力の有無と、光導波路22と光共振器24との間のカップリングの生成及び解除との関係は、上述の例に限定されない。すなわち、制御光が入力されている間は、カップリングが生成され、制御光が入力されていない間は、カップリングが解除される形成にしてもよい。このように構成すると、制御光S103が入力されていない間は、光共振器に信号光が保持されている状態になる。
【0026】
このように構成すると、光共振器24に信号光S101と制御光S103が入力されている状態では、カー効果により光導波路22の屈折率が変化して、光導波路22と光共振器24との間のカップリングが生成される。このため、信号光S101は、光記憶素子に到達すると、光共振器を励起しながら、光記憶素子から出力される。
【0027】
この状態で、光記憶素子20への制御光S103の入力が停止すると、カー効果により光導波路22の屈折率の変化が元の状態に戻る。この結果、光導波路22と光共振器24の間のカップリングが解除される。この場合、光共振器24が励起された状態が保たれるため、光記憶素子20に信号光が保持されている状態になる。
【0028】
制御光S103の波長に対して光共振器24は共鳴する寸法及び屈曲率に設計されていても良い。その後、再び制御光S103が入力されると、光導波路22と光共振器24との間のカップリングが生成される。この結果、光記憶素子20に保持されていた信号光が出力される。
【0029】
また、光記憶素子20を、電磁誘導透明化(EIT:Electromagnetially Induced Transparency)材料を用いて構成しても良い。EIT材料としては、Rbガスやアレキサンドライト(金緑石)などが知られている。EIT材料は、連続光である制御光が入力されていると、パルス光である信号光に対し透明になる。一方、制御光が入力されていない状態では、信号光に対し不透明になる。この不透明な状態では、EIT材料の内部の信号光はそのまま保持され、EIT材料の外部からの信号光は入力されない。
【0030】
図3は、EIT材料における群速度制御のシミュレーション結果を示す図である。図3では、横軸に、波数kと伝播距離zの積を取って示し、縦軸に強度を取って示している。
【0031】
このシミュレーションは、以下の式(1)及び式(2)を用いて行われる。
【0032】
【数1】

【0033】
【数2】

【0034】
これらの式は、例えば非特許文献2に示されているように、原子準位と光の相互作用を示す式から、得ることができる。なお、非特許文献2も含めて通常は、前進方向での解析が行われている。
【0035】
しかし、本実施形態では、信号光と制御光の進行方向が逆になっているので、前進及び反射の双方向の解析を行える式を用いている。式(1)及び式(2)で、ωは光の中心周波数、kは光波数、zは伝播距離、Nは原子密度、dbaは準位bと準位aの間の遷移双極子モーメント、εは真空中の誘電率、Ωは制御光の強度をそれぞれ示している。ここでは、光を停止させるため、θ=π/2の条件を成立させるΩの値を用いている。
【0036】
図3は、EIT材料中に、制御光と信号光とが逆方向から入力した状態のシミュレーションの結果を示している。この結果から、入力された信号光が一定の場所(図3中、kz=75の付近)に保持されていることがわかる。EIT材料中では、制御光の立ち上がり部分で信号光が停止される。
【0037】
EIT材料の制御光の立ち上がり部分が通り過ぎた部分では、信号光はEIT材料に進入できず、反射されることがシミュレーションから見出されている。従って、信号光の光パルスをEIT材料中に保持した後は、他の光パルスはそのEIT材料中に進入することはできない。
【0038】
このEIT材料では、原子準位を用いて光の保持を行うので、光記憶素子20としてEIT材料を用いると、光共振器を用いる場合よりも、光の保持時間を長くできる。
【0039】
光バッファ装置10は、隣接する光記憶素子20の間に、それぞれ光遅延素子30を備えている。光遅延素子30は、信号光と制御光に互いに異なる遅延を与える。例えば、信号光に比べて、制御光の速度を遅くする。
【0040】
光遅延素子30として、例えば、フォトニック結晶導波路を用いることができる。フォトニック結晶導波路は、例えば、“Low-group velocity and low-dispersion slow light in photonic crystal waveguides”(S.Kubo et al.,Optics Letters vol.32 (2007) 2981)に示されているように、波長に応じて、群速度が変化し、この結果、波長に応じて異なる遅延を与えることができる。
【0041】
フォトニック結晶導波路は、小型化に優れており、例えば光記憶素子をEIT材料で構成する場合など、各構成要素を光バッファ装置内で空間結合する構成に適している。
【0042】
また、光遅延素子として、光路長が異なる第1光路及び第2光路を備えて、光路長の違いにより異なる遅延を与える構成にすることもできる。
【0043】
図4を参照して、光遅延素子の構成例について説明する。図4は、光遅延素子の構成例を説明するための模式図である。
【0044】
光遅延素子30は、第1波長フィルタ32と、第2波長フィルタ38と、第1波長フィルタ32及び第2波長フィルタ38の間に、光路長が異なる第1光路34及び第2光路36とを備えて構成できる。第1波長フィルタ32及び第2波長フィルタ38により、例えば信号光が第1光路34を伝播し、制御光が第2光路36を伝播するように設定される。
【0045】
この光遅延素子は、導波路型の素子であるので、光記憶素子20を、図2を参照して説明したように光共振器を用いて構成する場合には、光記憶素子と光遅延素子とを同一の基板上に形成することもできる。
【0046】
(光バッファ装置の動作)
図5〜7を参照して、光バッファ装置の動作について説明する。図5〜7は、光バッファ装置の動作について説明するための模式図である。
【0047】
ここでは、光バッファ装置が4つの光記憶素子、すなわち、第1〜4光記憶素子20a〜20dを有する、4ビットのバッファとして動作する場合を例にとって説明する。なお、光記憶素子の個数は4に限定されるものではなく、光バッファ装置に要求されるビット数に応じて個数を定めれば良い。また、図5〜7では、光バッファ装置として、第1〜4光記憶素子20a〜20dを示し、光遅延素子など他の構成要素の図示を省略する。
【0048】
信号光S101を光パルスとする。光パルスは、空間的にはある程度の幅を有している。例えば、パルス光の周期τを1[ps]とすると、各光パルスは、空気中で300[μm]程度の幅がある。なお、素子中では、屈折率が高いため、パルス幅は狭くなる。ここでは、光バッファ装置を4ビットの光バッファとして構成した場合を例に取っている。信号光S101が有する各光パルスが、それぞれ1ビットの情報を示している。ここでは、4ビットの信号光が、第1〜4の光パルスS101a〜S101dを有するものとする。
【0049】
また、制御光を連続光として説明する。ここでは、信号光S101は、通常の光速度で伝播し、制御光S103は、信号光S101よりも遅い速度で伝播するものとする。
【0050】
先ず、光バッファ装置の全長が、光パルスの幅に比べて十分小さい場合を例にとって説明する。従って、この例では、光バッファ装置に1つの光パルスが入力されると、4つの記憶素子の全てに光パルスが入力されていて、それぞれ光共振器を励起している。
【0051】
隣接する光記憶素子20間の距離をLとし、制御光の伝播速度をVとする。この場合、1つの光記憶素子に入力された制御光が、隣の光記憶素子に入力されるまでの時間は、L/Vで与えられる。ここで、Vは、2つの光記憶素子の間を、光遅延素子(図5〜7では図示を省略する。)を経て伝播する際の平均速度である。
【0052】
なお、1つの光記憶素子20に入力された制御光S103が、隣の光記憶素子20に入力されるまでの時間(L/V)を、信号光の光パルスS101−1〜4の周期(τ)に等しくする。
【0053】
ここでは、光記憶素子は、信号光の出力側から入力側に向かって、順に、第1光記憶素子20a、第2光記憶素子20b、第3光記憶素子20c及び第4光記憶素子20dと配置する。また、第1〜4光パルスS101a〜S101dは、この順に光バッファ装置に入力される(図5(A))。
【0054】
第1光パルスS101aが光バッファ装置に到達すると、第1光パルスS101aは、第1〜4光記憶素子20a〜20dを同時に励起する。この第1光パルスS101aが各光記憶素子を励起している状態で、制御信号S103が第1光記憶素子20aに到達する。制御信号S103が第1光記憶素子20aに到達すると、第1記憶素子20aでは、光共振器と光導波路のカップリングが解除されて第1光パルスS111aが第1記憶素子20aに保持される(図5(B))。
【0055】
第1光パルスS101aに続いて、第2光パルスS101bが光バッファ装置10に入力される。第2光パルスS101bは、第2〜4光記憶素子20b〜20dを励起する。このとき、第1記憶素子20aは、制御光S103の存在によりカップリングが解除されているため、第2光パルスS101bでは励起されない。
【0056】
1つの光記憶素子に入力された制御光S103が、隣の光記憶素子に入力されるまでの時間が、信号光の光パルスの周期τに等しい(L/V=τ)ので、第2光パルスS101bが第2〜4記憶素子20b〜20dを励起している状態で、制御信号S103が第2光記憶素子20bに到達する。制御信号S103が、第2記憶素子20bに到達すると、第2記憶素子では、光共振器24と光導波路22のカップリングが解除されて第2光パルスS101bが第2記憶素子20bに保持される(図6(A))。
【0057】
同様に、第3記憶素子20cには、第3光パルスS101cが保持され、第4記憶素子20dには、第4光パルスS101dが保持される。
【0058】
この結果、第1〜4記憶素子20a〜20dにそれぞれ第1〜4光パルスS111a〜S111dが保持されることになる(図6(B))。
【0059】
その後、制御光S103がなくなると、各光記憶素子20a〜20dでは、それぞれ光共振器と光導波路とのカップリングが生成され、保持されていた光パルスが順に出力される。
【0060】
先ず、第1光記憶素子20aにおいて、制御光S103がなくなると、第1光記憶素子20aで、カップリングが生成され、第1光パルスS112aが出力される(図7(A))。
【0061】
次に、時刻τ(=L/V)が経過すると、第2光記憶素子20bにおいて、制御光S103がなくなる。すると、第2光記憶素子20bで、カップリングが生成され、第2光パルスS112bが出力される(図7(B))。
【0062】
同様に、第3光記憶素子20c及び第4光記憶素子20dで制御光がなくなると、第3光記憶素子20c及び第4光記憶素子20dでカップリングが生成され、第3光パルス及び第4光パルスが出力される。
【0063】
この各光記憶素子から出力された光パルスは、光バッファ装置10に入力される前の信号光の光パルスと、同じ周期τであり、制御信号S103の持続時間だけ遅延して光バッファ装置から出力される。
【0064】
次に、図8を参照して、光バッファ装置の全長が、光パルスの幅に比べて無視できない場合を例にとって説明する。図8は、光バッファ装置の動作について説明するための模式図である。
【0065】
ここでは、光バッファ装置が備える光記憶素子20の個数をN個として、信号光が有するN個の光パルスS101−1〜Nが入力されるものとする。
【0066】
この例では、各光パルスは、N個の記憶素子を順次に伝播して、それぞれ光共振器を励起していく。ここでは、信号光の出力側から入力側に向かって、第1〜N光記憶素子20−1〜Nが順次に並んでいるものとする。すなわち、光バッファ装置に入力された信号光は、第N光記憶素子20−N、第N−1光記憶素子20−(N−1)、…、第2光記憶素子20−2及び第1光記憶素子20−1をこの順に通過して、光バッファ装置から出力される。
【0067】
光路15に沿ってX軸をとり、信号光S101の伝播方向を正の方向とする。第1〜N光記憶素子20が設けられるX軸上の位置を、それぞれS(1)〜S(N)とする。なお、第N光記憶素子20−Nの位置を、X軸の原点とする。すなわちS(N)=0とする。
【0068】
初期状態(時刻t=0)では、第1光パルスS101−1がX軸の原点にあり、第2〜N光パルスS101−2〜Nは、X軸の負の方向に向かってそれぞれSの間隔で順次に並んでいるものとする。また、制御光S103の先頭はS(0)にあるものとする。
【0069】
光バッファ装置の外部での信号光S101及び制御光S103の速度を、それぞれVs0及びVc0とする。また、光バッファ装置の内部での信号光S101及び制御光S103の速度をそれぞれV及びVとする。
【0070】
制御光S103が第J記憶素子20−Jに到達する時間t(J)は、以下の式(3)で与えられる。
【0071】
【数3】

【0072】
一方、第J光パルスS101−Jが第J記憶素子20−Jに到達する時間t(J)は、以下の式(4)で与えられる。
【0073】
【数4】

【0074】
第J光パルスS101−Jと制御光S103が同時に第J記憶素子20−Jに到達すると、すなわち、t(J)とt(J)が一致すると、第J光パルスS101−Jは第J記憶素子20−Jに保持される。そこで、t(J)=t(J)を用いて、式(3)と式(4)を変形すると、以下の式(5)が得られる。なお、ここで、S(N)=0としている。
【0075】
【数5】

【0076】
この式(5)でJ=1とすると、以下の式(6)が得られる。
【0077】
【数6】

【0078】
従って、式(5)及び式(6)から、以下の、式(7)が得られる。
【0079】
【数7】

【0080】
次に、式(7)について、J=Nとすると、S(N)=0なので、以下の式(8)が得られる。
【0081】
【数8】

【0082】
従って、式(7)及び式(8)から、第J記憶素子20−JのX座標S(J)は、以下の式(9)で与えられる。
【0083】
【数9】

【0084】
式(9)から、各光記憶素子の配置は、光路15に沿って、等間隔L(=S/Vs0/(1/V+1/V))で良いことがわかる。ここで、信号光の伝播時間をτ(=L/V)、制御光の伝播時間をτ(=L/V)とすると、式(9)は以下の式(10)で表すことができる。
【0085】
【数10】

【0086】
制御光S103の速度Vが、信号光の速度Vよりも十分小さければ(V<<V)、式(9)から、S(J)=(N−J)×τVとなる。従って、素子全長は、制御光の速度が小さいほど、短くできる。
【0087】
逆に、信号光S101の速度Vが、制御光S103の速度Vよりも十分小さい場合(V<<V)であっても、式(9)から、S(J)=(N−J)×τVとなるので、素子全長は、信号光S101の速度が小さいほど、短くできる。
【0088】
第J記憶素子20−Jに到達する時間は、第J光パルスはt=(J−1)τ+(N−J)τであり、制御光S103はτ=τc0+(J−1)τである。ここで、τは素子外での光パルスの間隔、τは信号光に対する記憶素子間の伝播時間、τは制御光の伝播時間である。
【0089】
この両式について、J=1及びJ=Nの場合をそれぞれ計算すると、(N−J)τ=τc0と、τ=τc0+τが得られる。信号光に対して、素子全長が無視できる場合は、τ=0と近似できるので、この場合、τ=tが近似的に成立する。
【0090】
書き出し時には、τの間隔で信号光パルスが生成されるので、元のパルス間隔τを素子内で生成するときは、両者をできるだけ近づける必要がある。素子終端で再生信号が出力されるのは、時刻tが以下の式(11)で与えられるときである。
【0091】
【数11】

【0092】
従って、素子終端では元のパルス間隔τで光信号が再生できる。
【0093】
上述したように、この発明の光バッファ装置によれば、信号光と制御光が伝播する光路上に複数の光記憶素子を備えて構成されていて、これらの光記憶素子には、信号光と制御光とが逆方向から入力される。これらの光記憶素子として、光共振器又は電磁誘導透明化材料を用いると、制御光の入力の有無により、光記憶素子に光を保持するか否かの制御が可能になる。
【0094】
この結果、信号光としての光パルスを、光パルスごとに光記憶素子に書き込み又は読み出すことができる。このとき、光記憶素子をn個並列に設けていれば、n個の光記憶素子はそれぞれ異なる光パルスを保持できるので、nビットの情報を保持できる。また、例えば、制御光が入力されているときに、光記憶素子が光パルスを保持し、制御光が入力されていないときは、光パルスを保持しない構成にすれば、制御光の持続時間に応じた任意の遅延量を与えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】この発明の光バッファ装置の模式図である。
【図2】光共振器を用いた光記憶素子の模式図である。
【図3】EIT材料における群速度制御のシミュレーション結果を示す図である。
【図4】光遅延素子の構成例を説明するための模式図である。
【図5】光バッファ装置の動作について説明するための模式図(1)である。
【図6】光バッファ装置の動作について説明するための模式図(2)である。
【図7】光バッファ装置の動作について説明するための模式図(3)である。
【図8】光バッファ装置の動作について説明するための模式図(4)である。
【符号の説明】
【0096】
10 光バッファ装置
20 光記憶素子
22 光導波路
24 光共振器
30 光遅延素子
32 第1波長フィルタ
34 第1光路
36 第2光路
38 第2波長フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光及び制御光が互いに逆方向に伝播する光路上に並べて配置された、光を保持可能な複数の光記憶素子と、
隣接する前記光記憶素子の間にそれぞれ設けられ、前記信号光と前記制御光に異なる遅延を与える光遅延素子と
を備えることを特徴とする光バッファ装置。
【請求項2】
前記光記憶素子は、
前記信号光及び前記制御光が伝播する光導波路と、
該光導波路と近接して設けられた光共振器と
を備え、
前記制御光の入力の有無に応じて、前記光導波路及び前記光共振器の間のカップリングの生成又は解除がなされる
ことを特徴とする請求項1に記載の光バッファ装置。
【請求項3】
前記光記憶素子は、電磁誘導透明化材料を用いて構成され、
前記制御光の入力の有無に応じて、電磁誘導透明化材料が透明又は不透明になる
ことを特徴とする請求項1に記載の光バッファ装置。
【請求項4】
前記光遅延素子を、フォトニック結晶を用いて構成する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光バッファ装置。
【請求項5】
前記光遅延素子は、
第1波長フィルタと、第2波長フィルタと、前記第1波長フィルタと前記第2波長フィルタの間に、光路長が異なる第1光路及び第2光路とを備え、
前記信号光が前記第1光路を伝播し、及び、前記制御光が前記第2光路を伝播する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光バッファ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−198897(P2009−198897A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41708(P2008−41708)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】