説明

光ビーム走査装置およびそれを用いた画像表示装置

【課題】反射ミラー面の反復偏向手段によって光ビームを2次元的に走査することで投射スクリーン上に2次元画像を投影表示する機能を備えた走査型画像表示装置において、反射ミラー面の2次元反復偏向駆動に起因する大きな画像歪を良好に補正する。
【解決手段】光ビーム走査用偏向ミラー装置9と投射スクリーン20の間の反射光ビーム光路中に、光ビーム入射側の光学面11と光ビーム出射側の光学面12との相対傾き角がδとして規定されたくさび型プリズム10を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ビーム走査装置およびそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、所定の光源から発せられた光ビームを所定のスクリーン上に投射させ、かつ所定の偏向手段によって前記光ビームを2次元的に偏向することで前記投射スクリーン上において前記光ビームを2次元的に走査させ、その残像効果によって前記スクリーン上に2次元画像を投影表示する機能を備えた光ビーム走査装置または走査型画像表示装置が種々提案されている。
【0003】
このような走査型画像表示装置において、前記光源から出射した光ビームを2次元的に偏向する偏向手段としては、ガルバノミラーや、特に近年技術的な進歩が目覚しく注目を集めているMEMS(MicroElectro-MechanicalSystems)技術を用いたMEMSミラーデバイスなどに代表される反射型光ビーム偏向走査素子または装置が広く用いられている。
【0004】
しかしながら一方で、このような反射型光ビーム偏向走査素子または装置を用いて光ビームを2次元的に走査した場合、水平方向の偏向角と垂直方向の偏向角の組み合わせにより、投影スクリーン上において理想的な走査線に対して偏差が生じ、その結果スクリーン上に投射される2次元画像に大きな画像歪みが生じてしまうという問題がある。
【0005】
すなわち、前記のような光ビーム走査装置あるいは走査型画像表示装置において2次元画像を高品位に表示するためには、前記のような光ビームの走査に伴う画像歪みを良好に除去あるいは補正するための手段が必須となる。
【0006】
このような画像歪みの補正手段あるいは装置としては、例えば特許文献1で開示されている『第1走査方向において正弦波駆動する偏向器を有し、該走査光学系を構成する1つの光学面は、第1走査方向の中心から周辺部へ向かうに連れて第1走査方向の2階微分値が偏向光束を発散させる方向に変化する形状で、該形状が該第2走向に連なっていることを特徴とする光走査装置』等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−178346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記公知例で開示されているような従来の画像歪み補正技術は、前記画像歪みの削減に関してはある程度の効果は期待できるものの、歪み補正用の光学系として自由曲面形状を備えた3枚の光学反射面もしくはレンズ面を必要とし、その大型化、複雑化が免れない。
【0009】
以上のような状況に鑑み、本発明では、ごく簡単な光学系構成によって前記画像歪み補正を実現した光ビーム走査装置およびそれを用いた画像表示装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的は、特許請求の範囲に記載の発明によって達成できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型かつごく簡略な光学素子を用いることで、前記のような画像歪みを良好に補正できる光ビーム走査装置およびそれを用いた画像表示装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光ビーム走査型画像表示装置に関する第1の実施例を示す概略側面図
【図2】従来の光ビーム走査型画像表示装置で投影される画像の一例を示した平面図
【図3】偏向ミラーからの初期反射光軸の仰角と歪み率RMS値Dおよび画像歪み補正プリズムの最適頂角δの関係の一例を示した線図
【図4】本発明の画像歪み補正プリズムを搭載した光ビーム走査型画像表示装置で投影される画像の一例を示した平面図
【図5】偏向ミラー入射光軸の初期入射角度と偏向ミラー初期反射光軸の最適仰角および画像歪み補正プリズムの最適頂角δの関係の一例を示した線図
【図6】本発明の画像歪み補正プリズムに関する第2の実施例を示した概略側面図
【図7】本発明の光ビーム走査型画像表示装置に関する第3の実施例を示す概略側面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施例について以下各図を用いて説明する。なお当然のことながら、本発明は以下で説明する実施例の構成にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明における光ビーム走査装置およびそれを用いた画像表示装置に関する第1の実施例を示した概略側面図である。なお図中の一点鎖線は、光ビームの光軸を表す。
【0015】
本実施例における光ビーム走査装置は、画像表示用の光ビームを生成、出射する光源ユニット100と、この光ビームを2次元に偏向走査する偏向ミラー装置9と、後述するような画像歪み補正用のくさび形プリズム10を主要光学部品として構成されている。
【0016】
まず光源ユニット100の構成について簡単に説明する。光源ユニット100内には、互いに波長が異なる3個のレーザ光源1,2および3が配置されている。
【0017】
1は例えば波長520nm帯の緑色光ビームを出射する半導体レーザ光源である。この半導体レーザ光源1を出射した緑色光ビームは、コリメートレンズ4にて略平行な光ビームに変換されたのち平板ミラー7に入射する。
【0018】
2は例えば波長640nm帯の赤色光ビームを出射する半導体レーザ光源である。この半導体レーザ光源2を出射した赤色光ビームも、前記の半導体レーザ光源1から出射した緑色光ビームと同様、コリメートレンズ5にて略平行な光ビームに変換されたのち平板ミラー7に入射する。
【0019】
平板ミラー7は、前記半導体レーザ光源1から出射した緑色光ビームを所定の透過率で透過させ、かつ前記半導体レーザ光源2から出射した赤色光ビームを所定の反射率で反射する機能を備えた第1の波長選択性ミラーであり、この平板ミラー7を透過または反射した前記各光ビームは、略同一の光路を進行して平板ミラー8に入射する。
【0020】
一方、3は例えば波長440nm帯の青色光ビームを出射する半導体レーザ光源である。この半導体レーザ光源3を出射した青色光ビームは、コリメートレンズ6にて略平行な光ビームに変換されたのち平板ミラー8に入射する。
【0021】
平板ミラー8は、前記の緑色光ビームおよび赤色光ビームを所定の透過率で透過させ、前記青色光ビームを所定の反射率で反射する機能を備えた第2の波長選択性ミラーである。
【0022】
そして、この第2の波長選択性ミラー8をそれぞれ透過あるいは反射した前記緑色、赤色および青色の各光ビームは、各々の光束断面が互いに重なり合って略同一の光ビームとして進行するよう各光軸の傾きと位置が厳密に調整された状態で前記光源ユニット100を出射し、光ビーム走査用の偏向ミラー装置9に入射する。
【0023】
なお、この光源ユニット100については、当然ながら前記の構成に限定されるものではなく、偏向走査により画像を投射表示するための光ビームを出射する機能を備えた光源ユニットならばどのような構成であっても構わない。
【0024】
次に光ビーム走査用の偏向ミラー装置9は、該装置内に配置された所定の反射ミラーに入射した光ビームを反射させて、その反射光ビームを該偏向ミラー装置9から所定距離離れた投射スクリーン20上に投射するとともに、該反射ミラー面自体が紙面に略垂直すなわち図中のY軸に略平行な所定の回転軸91、および紙面に平行すなわち図中のX−Z軸で形成される平面に略平行な所定の回転軸92の回りに、それぞれ所定角度だけ周期的な反復偏向駆動を高速に行う機能を備えている。
【0025】
そしてその結果、投射スクリーン20上に投射された反射光ビームは前記投射スクリーン20面上において、水平方向(図中のY軸方向)および垂直方向(図中のZ軸方向)の2次元に高速走査される。
【0026】
この際、投射スクリーン20上における反射光ビームの走査位置に同期して前記各レーザ光源1、2および3の光出力をそれぞれに独立に変調させることで、人間の眼の残像現象を利用して2次元のカラー画像を投射スクリーン20上に投射表示させるのである。
【0027】
ところで、本実施例では前記したように、光ビーム走査用の偏向ミラー装置9は互いに垂直な回転軸30および31の回りに高速反復偏向駆動する1個の反射ミラーから構成されている。このような構成の偏向ミラー装置9を一般に2軸1面型の偏向ミラー装置と称する。
【0028】
このような2軸1面型の偏向ミラー装置を用いることは、走査型画像表示装置の小型化あるいは光学部品点数の削減の観点から極めて有利であり、今後広く用いられる可能性があるが、本発明はこのような2軸1面型の偏向ミラー装置を用いた走査型画像表示装置に限定されるものではなく、例えば、それぞれ互いに略垂直な1個の回転軸の回りに高速反復偏向駆動する独立した2面の偏向ミラーを備え、入射した光ビームを該2面の偏向ミラーに順次反射させる構成を備えた一般に1軸2面型の偏向ミラー装置と呼ばれる装置など他の偏向形式、構成の光ビーム走査用偏向ミラー装置を用いた光ビーム走査装置およびそれを用いた画像表示装置にも本発明を適用することができる。
【0029】
なお、上記のような光ビーム走査用偏向ミラー装置9におけるミラー駆動部の構成例としては、例えばMicro Electro Mechanical Systems(略称MEMS)や、電磁駆動のガルバノミラー等があるが、本発明はこれらに限定されるものではなく、またこれら偏向ミラー装置駆動部の具体的な構成についての詳細な説明は省略する。
【0030】
ところで図1に示した本発明の第1の実施例では、光ビーム走査用偏向ミラー装置9と投射スクリーン20の間の反射光ビーム光路中に、くさび型プリズム10が配置されているが、このくさび型プリズム10は画像歪み補正用の光学プリズムである。
【0031】
なお本実施例では、設置されている画像歪み補正用のくさび型プリズム10は、図中に示すように光ビーム入射側の光学面11と光ビーム出射側の光学面12との相対傾き角がプリズム頂角δとして規定されており、かつ光ビーム出射側光学面12が垂直方向(図中のZ軸方向)に略平行になるよう配置されている。
【0032】
以下では、この画像歪み補正用プリズムの具体的構成とその画像歪み補正効果について説明する。
【0033】
まず初めに、本発明のような画像歪み補正手段を何も設けていない従来の光ビーム走査型画像表示装置における画像歪み問題について説明する。
【0034】
例えば図2は、水平方向に±14度、垂直方向に±7度の偏向角で反射ミラーが高速反復偏向する機能を備えた光ビーム走査用偏向ミラー装置9を用い、この偏向ミラー装置9から1m離れた位置において垂直方向に平行なスクリーン面を備えた投射スクリーン20上に単純な長方形枠を表示させた場合に、実際に描かれる画像を計算機シミュレーションで再現したものである。
【0035】
なお計算機シミュレーションにより画像を再現表示するに当たっては、前記偏向ミラー装置9に入射する光ビームが水平方向(図1のX軸方向)に平行で、かつ初期状態すなわち前記偏向ミラー装置9内の反射ミラーが中立状態にある場合の該反射ミラー面への入射光ビームの入射角(図1におけるβ)を15度としてシミュレーションをおこなった。この場合は必然的に、前記偏向ミラー装置9を反射し投射スクリーン20の原点Oに向かう初期反射光ビーム50の水平方向(図1のX軸方向)からの仰角(図1におけるα)は30度になっている。
【0036】
また従来の光ビーム走査型画像表示装置の性能を再現するため、本図は画像歪みを補正するための手段は一切設けていない場合の画像を示している。
【0037】
本図において、横軸は水平方向(図1におけるY軸方向に相当)の画像寸法、縦軸は垂直方向(図1におけるZ軸方向に相当)の画像寸法を表す。
【0038】
また図中の実線が実際に表示される長方形枠の画像を示しており、破線は本来表示されるべき理想的な長方形枠の画像を示している。
【0039】
本図から明らかなように、偏向ミラー装置9により光ビームを2次元に走査させて表示された長方形枠の画像は、例えば上辺と下辺の長さが異なるために台形状になってしまっており、かつ本来真っ直ぐな直線で描かれるべき各辺が円弧状の曲線になってしまっている。
【0040】
その結果表示画像に大きな歪みが生じ、表示された長方形枠の4隅頂点C1,C2,C3,C4の表示位置が理想的な表示位置、すなわち破線で表される理想的な長方形枠画像の4隅頂点位置から大きくずれてしまっている。
【0041】
このような大きな画像歪みがあると、当然その表示画像の形状が正しく表示されないことになりその画像品質が大きく損なわれる。したがってこのような画像歪みは極力削除もしくは補正することが望ましい。
【0042】
そこでまず初めに、このような画像歪みの大きさを定量的に把握するための評価指標を以下のように定義する。
【0043】
すなわち図中に示すように、前記した長方形枠画像の4隅頂点C1,C2,C3,C4各々の理想表示位置からのずれ量のうち、水平方向のずれ成分をそれぞれHc1、Hc2、Hc3、Hc4で、垂直方向のずれ成分をそれぞれVc1、Vc2、Vc3、Vc4で表す。その上で前記各ずれ成分を理想的な長方形枠画像の水平幅Lhまたは垂直幅Lvで割り、前記各ずれ成分を理想長方形枠の表示幅に対する比率で表す。その上でこれら各ずれ成分比率の2乗平均平行根(Root Mean Square略してRMS値と表示)Dを定義する。すなわち、
【0044】
(数1)
D=SQRT[(Hc1/Lh)+(Hc2/Lh)+(Hc3/Lh)
+(Hc4/Lh)+(Vc1/Lv)+(Vc2/Lv)
+(Vc3/Lv)+(Vc4/Lv)
上記(数1)で表される歪み率RMS値Dを用いることで、発生する画像歪みの大きさを定量的に把握することができる。すなわち、この歪み率RMS値Dの値が大きいほどその画像は画像歪みが大きく、逆にDの値がゼロに近いほど表示画像は画像歪みが小さく理想的な表示画像に近くなる。例えば図2で表される従来の画像表示装置での表示画像は、歪み率RMS値Dが約8.4%である。
【0045】
本発明では、この歪み率RMS値Dを大幅に低減し表示画像の画像歪みを良好に削減あるいは補正する光学的手段として、図1に示すように、光ビーム走査用偏向ミラー装置9と投射スクリーン20の間の反射光ビーム光路中に画像歪み補正用のくさび型プリズム10(以下、簡単のため歪み補正プリズムと記す。)を配置する。
【0046】
図3は、図1において偏向ミラー装置9から出射した反射光ビームの初期光軸50の水平方向(図1のX軸方向)からの仰角αと、前記歪み率RMS値Dとの関係を、本発明のように歪み補正プリズム10が配置された場合と、従来のように画像歪み補正手段が一切配置されていない場合についてプロットしたグラフである。図中の線図501が本発明の歪み補正プリズム10を配置した場合、線図502が画像歪み補正手段が一切配置されていない場合を示している。
【0047】
なお歪み補正プリズム10を配置した場合については、歪み率RMS値Dが最小値Dminをとる歪み補正プリズム10の最適プリズム頂角δを探索し、そのDminをプロットすると共に、前記最適プリズム頂角δの値も同じグラフ内に線図503としてプロットしている。
【0048】
なお本図において、偏向ミラー装置9内の反射ミラーに入射する光ビームの初期入射角度βは、図2の場合と同じく15度と仮定している。
【0049】
また図3で用いる歪み補正プリズム10は、一例として一般的な光学部品用硝材であるBK−7(屈折率nd=1.51633)で構成されているものと仮定している。
【0050】
本図から明らかなように、歪み率RMS値Dは歪み補正プリズム10の有無に関わらず、偏向ミラー装置9から出射した反射光ビームの初期仰角αに依存して変化しそれぞれ所定の仰角で最小値をとる。
【0051】
例えば歪み補正プリズム10が配置されていない従来構成の場合、線図502内のA点すなわち前記仰角α=0度でDの値が最小値5.4%となる。
【0052】
一方、歪み補正プリズム10を設置した場合、線図501が示すように設置していない従来構成に比べて明らかにD値が低くなる。さらにこの場合、図中のB点すなわち前記初期仰角α=22度付近でD値が最小値となり、その値は約1.5%となる。
【0053】
つまり、図1の実施例に示すように歪み補正プリズム10を配置し、かつ前記仰角を最適角度に設定することで、歪み率RMS値Dを従来比の約3割程度にまで大幅に低減することができるわけである。
【0054】
なお前記D値が最小値約1.5%をとるための歪み補正プリズム10の最適頂角δは約14度である。また計算機シミュレーションによる検討の結果、この歪み補正プリズム10の頂角δが14度±3度の範囲内であれば、歪み率RMS値Dが2.0%以下となり、画像歪みが十分に削減されることがわかっている。
【0055】
図4は、上記のようなプリズム頂角δ=14度の歪み補正プリズム10を偏向ミラー装置9からの反射光路中に配置し、かつ前記初期仰角αを22度に設定した場合に、投射スクリーン20上に描かれる長方形枠画像を計算機シミュレーションで再現したものである。なお上記した各パラメータ以外の諸条件は図2と同一とした。
【0056】
本図と図2を比較すると明らかなように、反射光路中に歪み補正プリズム10を設置し、該プリズムに入射する反射光ビーム光軸50の初期仰角αおよびプリズム頂角δを最適設計することにより、発生する画像歪みを大幅に低減することができ、理想的表示画像とほぼ同等の画像品質を得ることできる。
【0057】
ところで、歪み率RMS値Dを最小にする前記反射光ビーム光軸50の初期仰角αの最適値や歪み補正プリズム10の最適頂角δは、偏向ミラー装置9内の反射ミラーに入射する光ビームの初期入射角βに依存して変化する。
【0058】
図5は、前記入射光ビームの初期入射角βと歪み率RMS値Dを最小にする前記反射光ビーム初期仰角αの最適値、および歪み補正プリズム10の最適頂角δとの関係をプロットしたグラフである。図の横軸が前記初期入射角βであり、縦軸が前記初期仰角αの最適値および歪み補正プリズムの最適頂角δを表している。なお上記以外の諸条件は、図1乃至図4で設定された条件と同一である。
【0059】
図中の線図601が前記初期入射角βと前記初期仰角αの最適値との関係を示しており、線図602が前記初期入射角βと歪み補正プリズムの最適頂角δとの関係を示している。
【0060】
どちらの線図もほぼ直線であり、前記βとαおよびβとδがほぼ比例関係にあることを示している。また夫々の直線を表す式を図中に記載している。
【0061】
すなわち図1乃至図4の実施例では、いずれも前記初期入射角βが15度の場合について記述しているが、当然ながら初期入射角βが15度以外の場合でも本発明を適用することは可能であり、その際の前記反射光ビーム初期仰角αの最適値や歪み補正プリズム10の最適頂角δは、例えば図5に示す結果を用いて容易に算出することができる。
【0062】
また図1乃至図5の実施例では、いずれも歪み補正プリズム10を構成する硝材として、一般的な光学部品用硝材であるBK−7を用いることを想定しているが、もちろんこれ以外の硝材を用いてプリズムを構成しても一向に構わない。
【0063】
一般に、硝材の屈折率は入射する光ビームの波長に応じて微妙に変化する。その波長変化の大きさを示す指標として、屈折率分散値あるいはアッベ数と呼ばれる指標がある。アッベ数が大きい硝材ほど屈折率分散値が小さく、入射する光ビームの波長に対する屈折率の変化の割合が小さい。その結果、入射光ビームがプリズムで屈折する際、その入射光ビームの波長に応じて生じる屈折率の違いにより発生する屈折角の変化も小さく抑えることができる。
【0064】
そこで例えば前記BK−7よりもアッベ数が大きく、したがって屈折率分散値が小さい硝材で歪み補正プリズム10を構成することで、赤色、緑色、青色各々の画像表示用光ビームが歪み補正プリズムに入射、屈折する際の屈折角の相対ずれを小さくし、その結果、投射スクリーン上での前記3原色の相対的な画素ずれ(色ずれ)を極力小さく抑えることができる。
【0065】
なおこの場合、新たに用いられる硝材の屈折率は、当然前記BK−7の屈折率(nd=1.51633)とは異なる屈折率を有しているので、それに伴い前記の反射光ビーム光軸の初期仰角αの最適値や歪み補正プリズム10の最適頂角δの値もBK−7を用いて構成された歪み補正プリズムとは異なる値になる。
【0066】
また図1乃至図5の実施例では、歪み補正プリズム10は所定の頂角δを備えたくさび型プリズムであって、かつ該プリズムをその光ビーム出射側光学面(図1における面12)が垂直方向(図中のZ軸方向)に略平行になるような向きに配置した例に限定して説明してきたが、勿論このような形状、配置のプリズムに限定されるものではなく、光ビーム入射側光学面(図1における面11に相当)と光ビーム出射側光学面(図1における面12に相当)間に所定の傾斜角δを備えた光学プリズムであればどのような形状、配置のプリズムであっても一向に構わない。
【0067】
以下の実施例2で、歪み補正プリズム10の別の構成例を説明する。
【実施例2】
【0068】
図6は、本発明の歪み補正プリズム10に関する第2の実施例を示したプリズム本体の概略側面図である。なお本実施例における光ビーム走査装置およびそれを用いた画像表示装置は、歪み補正プリズム10以外の構成部品は図1の実施例と同様であるので、図および詳細な説明は省略する。
【0069】
本実施例における歪み補正プリズム10は、互いに異なる屈折率または屈折率分散値あるいはアッベ数が異なる少なくとも2種類の硝材から構成され、かつそれぞれ所定の頂角δ1およびδ2を有する第1のくさび形プリズム10aおよび第2のくさび型プリズム10bを図に示すように互いに貼りあわせた複合プリズムになっている。
【0070】
このように異なる硝材からなる複数のプリズムを貼りあわせた構成にすることにより、個々のプリズムにおいてその屈折率分散特性により発生する赤色、緑色、青色各画像表示用光ビームの屈折角の相対ずれを、プリズム間で互いに補償しあうよう設定することができる。そしてその結果、良好な画像歪み補正を実現すると共に、単一のプリズムでは完全には除去できなかった投射スクリーン20上での前記3原色の相対的な画素ずれ(色ずれ)を性能上ほぼ問題ない程度にまで低減することができる。
【0071】
例えば、図4に示すような長方形枠を表示させた場合、本発明の第1の実施例で示したような硝材BK−7でのみ構成された単一のくさび形プリズムを歪み補正プリズム10して配置した場合、表示図形の4隅で前記赤色、緑色、青色の3原色の相対画素ずれ(色ずれ)が最大約1mm程度も発生してしまう。
【0072】
一方、例えばこの歪み補正プリズム10を、硝材BK−7(nd=1.51633、アッベ数νd=64.1)からなる頂角δ1=20度の第1プリズム10aと、高屈折率&高分散硝材L−LAH83(nd=1.864、アッベ数νd=40.6)からなる頂角δ2=14.5度の第2プリズム10bとを図6に示すように貼りあわせた複合プリズムで前記歪み補正プリズム10を構成することにより、前記した3原色の相対画素ずれ(色ずれ)を最大でも0.2mm以下にまで低減できる。
【0073】
なお、前記のような複合プリズム構成により、いわゆる色ずれを良好に低減した複合プリズムを一般に色消しプリズムと称するが、勿論このような色消し効果を備えた本発明の歪み補正プリズムは、前記したような硝材BK−7とL−LAH83の組み合わせに限定されるものではなく、他の硝材の組み合わせでも実現することができる。
【0074】
ただし他の硝材の組み合わせの場合、当然のことながら各々の硝材の屈折率やその組み合わせにより、画像歪み補正効果が最良となる最適プリズム頂角の組み合わせは変わるので、例えば本発明で開示した設計手法を用いて最適設計しなければならない。
【0075】
なお以上説明してきた画像歪み補正プリズムを、例えば光ビーム走査装置およびそれを用いた画像表示装置の光ビーム出射開口部に配置し、装置内に塵や埃が侵入しないようこのプリズムで前記開口部を封止することで、この画像歪み補正プリズムを防塵用透明窓部材と兼用させることも可能である。
【実施例3】
【0076】
図7は本発明における光ビーム走査装置およびそれを用いた画像表示装置に関する別の一実施例を示した概略側面図である。なお図中の一点鎖線は、光ビームの光軸を表す。また本図において、図1に示した本発明の第1の実施例と同じ構成部品には同じ番号を附している。
【0077】
本実施例は、以下に示すような図1に示した本発明の第1の実施例とは異なる構成上の特徴を有している。
【0078】
まず第1の特徴は、図6で示した屈折率または屈折率分散値が互いに異なる所定の硝材からなる2個のくさび型プリズムを貼りあわせた複合型のプリズムを、画像歪み補正用のプリズムとして用いている点である。
【0079】
その硝材および形状に関する具体的な例を挙げると、図中の複合型歪み補正プリズム10を構成する第1のプリズム10aは、硝材として硝材名BK−7(屈折率nd=1.51633、アッベ数vd=64.1)で構成され、その頂角δ1の角度は20度になっている。
【0080】
一方、前記複合型歪み補正プリズム10を構成する第2のプリズム10bは、硝材として硝材名N−F2(屈折率nd=1.62004、アッベ数vd=36.3)で構成され、その頂角δ2の角度は10度になっている。
【0081】
次に本実施例の第2の特長は、光源ユニット100を出射して光ビーム走査用の偏向ミラー装置9に入射する往路光ビームと、該偏向ミラー装置9を反射して投射スクリーン20に向かう復路光ビームが、共に前記複合型歪み補正プリズム10を透過するよう該複合型歪み補正プリズム10を前記偏向ミラー装置9の直前に配置している点である。
【0082】
その配置に関する具体的な例を挙げると、光源ユニット100を出射した往路光ビームの中心光軸48は、ほぼ水平方向(図中のX軸に略平行方向)に進行し、まず複合型歪み補正プリズム10内の入射面12に略直角方向すなわち入射角が略0度の方向から入射する。そしてこの複合型歪み補正プリズム10を構成するプリズム10bおよび10aをこの順番で逐次透過し面11から出射する。
【0083】
次に複合型歪み補正プリズム10を出射した往路光ビーム49は光ビーム走査用の偏向ミラー装置9に入射し、この偏向ミラー装置9内の反射ミラーを反射したのち、復路光ビームとなって再び前記複合型歪み補正プリズム10に面11側から入射する。この際、前記偏向ミラー装置9が初期状態(中立状態)にある時に前記復路光ビームの中心光軸50の入射面11に対する入射角(面11の面法線と前記復路光ビームの中心光軸50がなす角度)αが約27度になるよう、前記偏向ミラー装置9内の反射ミラーが所定の設置角度で設置されている。
【0084】
そして、入射面11から再び前記複合型歪み補正プリズム10に入射した前記復路光ビームは、該複合型歪み補正プリズム10を構成するプリズム10aおよび10bをこの順番で逐次透過し再び面12から出射したのち、復路光ビーム51として投影スクリーン20に向けて進行する。
【0085】
本実施例のように、歪み補正用のプリズム10を複合型のプリズムとし、かつ往路光ビームと復路光ビームが共にかつ互いに略逆方向から前記歪み補正プリズム10に入射させる構成にすると、画像歪みおよび投射スクリーン20上でのRGB3原色の波長に違いに伴う相対的な画素ずれ(色ずれ)を共に良好に補償できる上、前記歪み補正プリズム10を光ビーム走査用の偏向ミラー装置9の直前に配置することができるので、結果的に本発明の光ビーム走査装置またはそれを用いた画像表示装置を大幅に小型化できる。
【0086】
なお当然のことながら、前記したような本発明の[実施例3]における歪み補正プリズム10の構成や形状、あるいはその配置に関する具体的なパラメータは、単にその一例を示したものに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0087】
異なる硝材で構成される複数のプリズムからなる複合型の歪み補正プリズムを用い、光源ユニットを出射し偏向ミラー装置に入射する往路光ビームと、この偏向ミラー装置を反射して投影スクリーンに向かう復路光ビームが、共に前記歪み補正プリズムを透過するように該歪み補正プリズムを配置した光ビーム走査装置またはそれを用いた画像表示装置であれば、どのような構成のものでも構わない。
【符号の説明】
【0088】
1,2,3…半導体レーザ光源、4,5,6…コリメートレンズ、7,8…波長選択性ミラー、9…光ビーム走査用偏向ミラー装置、10…画像歪み補正用プリズム、20…投射スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、互いに略直交した2方向に反復偏向駆動する所定の光学反射面とを備え、
前記光源を発し前記光学反射面を反射した光ビームを第1の走査方向およびそれに略直交する第2の走査方向に偏向走査する機能を備えた光ビーム走査装置において、
前記光学反射面を反射した光ビームの光路中に、所定の屈折率を有する透明な光学ガラスまたは光学部品用プラスチックからなりかつ所定の頂角を備えたくさび型もしくは台形型の光学プリズムを配置したことを特長とする光ビーム走査装置。
【請求項2】
前記くさび型もしくは台形型の光学プリズムの頂角は、14°±3°の範囲にあることを特長とする請求項1記載の光ビーム走査装置。
【請求項3】
光源と、互いに略直交した2方向に反復偏向駆動する所定の光学反射面とを備え、
前記光源を発し前記光学反射面を反射した光ビームを第1の走査方向およびそれに略直交する第2の走査方向に偏向走査する機能を備えた光ビーム走査装置において、
前記光学反射面を反射した光ビームの光路中に、
所定の屈折率および所定のアッベ数を有する透明な光学ガラスまたは光学部品用プラスチックからなり所定の頂角を備えたくさび型もしくは台形型の第1の光学プリズムと、少なくとも前記第1の光学プリズムとは互いに異なる所定のアッベ数を有する光学ガラスまたは光学部品用プラスチックからなり、かつ所定の頂角を備えた第2の光学プリズムとを互いに貼りあわせた複合型プリズムと、を配置したことを特長とする光ビーム走査装置。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の前記くさび形もしくは台形型プリズムまたは前記複合型プリズムを、前記ビーム走査装置またはそれを用いた画像表示装置の光ビーム出射開口部に配置し該プリズムで前記開口部を封止することで、前記プリズムを防塵用透明窓部材と兼用させたことを特長とする光ビーム走査装置。
【請求項5】
光源と、互いに略直交した2方向に反復偏向駆動する所定の光学反射面とを備え、
前記光源を発し前記光学反射面を反射した光ビームを第1の走査方向およびそれに略直交する第2の走査方向に偏向走査する機能を備えた光ビーム走査装置において、
所定の屈折率および所定のアッベ数を有する透明な光学ガラスまたは光学部品用プラスチックからなり所定の頂角を備えたくさび型もしくは台形型の第1の光学プリズムと、少なくとも前記第1の光学プリズムとは互いに異なる所定のアッベ数を有する光学ガラスまたは光学部品用プラスチックからなり、かつ所定の頂角を備えた第2の光学プリズムとを互いに貼りあわせた複合型プリズムを、
前記光源を発し前記光学反射面に入射する往路光ビームと前記光学反射面を反射した復路光ビームとが共に、かつ互いに略逆方向から入射する位置に配置したことを特長とする光ビーム走査装置。
【請求項6】
請求項1乃至5記載の光ビーム走査装置を備えた画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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