説明

光ピックアップ装置

【課題】光ピックアップ装置において、傾斜を持つ光ディスクの記録/再生時に発生するスキューを簡単に軽減し、読み取り性能を向上する。
【解決手段】光ピックアップ装置1は、対物レンズ3を保持するレンズホルダ2と、レンズホルダ2に一端を固定され、光ディスク10と略平行な方向に伸びたレンズホルダ2の外周側面2aと内周側面2bに固定される有効長が長い外周側ワイヤ4a及び短い内周側ワイヤ4bと、ワイヤ4a、4bの他端を支持してレンズホルダ2を片持ち支持するサスペンションホルダ5と、レンズホルダ2をフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路6とを備える。これにより、対物レンズ3をフォーカス方向に動作させたときに、対物レンズ3にDCチルトを発生させ、光ディスク10のチルト補正を簡単に行え、スキューを軽減できるのでジッタ等を低減でき、読み取り性能を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクドライブ装置に搭載される光ピックアップ装置に関し、特に光ディスクの反りに対するチルト補正機能を有する光ピックアップ装置。
【背景技術】
【0002】
従来、DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスクは、光ディスクドライブ装置内に移動自在に設けた光ピックアップ装置により光ディスクの記録トラックを高速にアクセスできることから記録メディアとして多用されている。このような光ピックアップ装置は、光ディスクに光ビームを照射する対物レンズを記録トラックに対して光軸方向及び径方向にそれぞれフオーカス制御及びトラッキング制御している。
【0003】
このような光ピックアップ装置におけるフォーカス動作においては、光ディスクの信号記録面に光スポットを追従させるため、対物レンズは、通常、光ディスクに傾斜がないものとして信号記録面に対して略直角に移動する。このため、光ディスクに傾斜(チルト)をもたらす反り(面ブレという)があるとディスクの信号記録面と対物レンズの中心軸に直交する面とが平行とならない傾き(チルト)、即ち光ピックアップ装置側から見た光ディスク面との傾斜(スキューという)が発生する。このため、例えば、最外周にて面ブレが±0.5mm発生した場合は、発生する半径方向のスキュー(Raスキューという)は約±25min(分)となる。また、図9(a)に示すように、光ディスク101に面ブレのない正常状態Bの場合は、光ディスク101の信号記録面と対物レンズ100の中心軸とは略直角になるが、光ディスク101の外周側が高くなる面ブレ状態A、及び光ディスク101の外周側が低くなる面ブレ状態Cの場合では、対物レンズ100と光ディスク101の間にチルト(又はスキュー)が発生する。
【0004】
上記各状態A、B、Cにおけるディスクチルト(θ1)、レンズチルト(θ2)、及びそれらの相対チルトを表1に示す。
【0005】
【表1】

ディスクチルトは、その傾斜角θが状態Bの0min(分)に対して、状態A及び状態Cでは、それぞれ−20min、+20minの角度を持つ。従って、対物レンズ100にチルトがない場合は、ディスクチルトがそのままRaスキューとなり、状態A、B及びCでは、Raスキューは、それぞれ−20min、0min、+20minとなる。このために光スポットが円形にならずに楕円形に広がることになり、記録済みの信号記録面から情報信号を確実に読み取ることができず、また、未記録の信号記録面に情報信号を確実に記録することができないことがある。さらに、対物レンズ自身のチルト特性にバラツキ(例えば、±20min)が存在すると、図9(b)に示すように、状態A及び状態Cにおいては、面ブレの傾きと対物レンズの傾きが互いに反対方向になる最悪の場合は、チルトのずれが最大となり、ディスクチルト(θ1)の±20minのずれにレンズチルトの±20minが加わって、相対チルトは最大±40minのずれとなる。このため、ますます光スポットが円形からずれることになり、さらにジッタが悪化し、読み取り不可能となることがある。
【0006】
ところで、特許文献1に示されるように、光ディスクの反りに対して、対物レンズを保持するレンズホルダと、このレンズホルダを支持するサスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)と、このワイヤの他端を支持するワイヤホルダと、レンズホルダをフォーカス方向とトラッキング方向に駆動する磁気回路とを備え、ワイヤを長手方向に駆動させて、チルト補正を行う対物レンズ補正装置が知られている。しかしながら、この装置においては、光ディスクの信号記録面に対する対物レンズ光軸のチルト補正において、ワイヤを長手方向に駆動させるためのチルト補正機構を付加するために、別途マグネットとコイル、駆動電源等を必要とし、構成が複雑でコスト高となる。
【0007】
また、特許文献2に示されるように、レンズホルダとサスペンションベースにおける光ディスクの外周側と内周側のそれぞれ上下に設けられた4つのワイヤ支持部を備え、4箇所のワイヤ支持部上下間隔のうち少なくとも1箇所以上のワイヤ支持部の上下間隔の値を他と異なる値に設定すると共に、少なくとも1本のワイヤを他に対して非平行に支持した光学ピックアップ装置が知られている。しかしながら、この装置では、4箇所のワイヤ支持部の配置を非対称に、また4本のワイヤのうち、1本を非平行にするなど、ワイヤの配置が複雑化して製作し難い。
【0008】
また、特許文献3に示されるように、トラッキング駆動方向に沿ってレンズ保持体を挟んで2列以上配置された弾性支持体を備え、これら弾性支持体のレンズから遠い方向が他の列にあるものより駆動方向に曲がり難くなるように形成されたレンズ駆動装置が知られている。
【0009】
また、特許文献4に示されるように、対物レンズを保持するレンズホルダの両側に3本のワイヤを設け、光ディスクに最も近い上ワイヤと最も遠い下ワイヤとの両者間に設けた中ワイヤのうち、少なくとも1つのワイヤのバネ定数を異ならせた対物レンズ駆動装置が知られている。
【0010】
しかしながら、上記特許文献3及び特許文献4に示された装置では、いずれも対物レンズをフォーカス方向に動作させたときに、対物レンズを傾斜させるようなDCチルトを発生しないため、光ディスクの面ブレを補正することはできない。
【特許文献1】特開2004−178775号公報
【特許文献2】特開2003−308621号公報
【特許文献3】特開2005−107145号公報
【特許文献4】特開2005−18837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、傾きを持つ光ディスクの録画/再生において、光ディスクと対物レンズとの間のスキューを容易に軽減し、読み取り性能を向上できる光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、光ディスクの信号記録面と対面した位置に対物レンズを保持するレンズホルダと、前記レンズホルダに一端を固定されると共に、前記光ディスクと略平行な方向に伸びたサスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)と、前記ワイヤの他端を支持することにより、レンズホルダを片持ち支持するサスペンションホルダと、前記レンズホルダをフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路と、を備えた光ピックアップ装置において、前記ワイヤは、前記光ディスクの半径方向において前記レンズホルダの外周側面と内周側面にそれぞれ固定される有効長が互いに異なる外周側ワイヤと内周側ワイヤとを有し、前記外周側ワイヤの有効長は、前記内周側ワイヤのそれよりも長く、前記外周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから遠い位置とされ、前記内周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから近い位置とされ、前記対物レンズをフォーカス方向に動作させたときに、この対物レンズに前記光ディスクの半径方向に対して所定のDCチルトを発生させるものである。
【0013】
請求項2の発明は、光ディスクの信号記録面と対面した位置に対物レンズを保持するレンズホルダと、前記レンズホルダに一端を固定されると共に、前記光ディスクと略平行な方向に伸びたサスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)と、前記ワイヤの他端を支持することにより、レンズホルダを片持ち支持するサスペンションホルダと、前記レンズホルダをフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路と、を備えた光ピックアップ装置において、前記ワイヤは、前記光ディスクの半径方向において前記レンズホルダの外周側面と内周側面にそれぞれ固定される外周側ワイヤと内周側ワイヤとを有し、前記外周側ワイヤと内周側ワイヤとの長さを異ならせ、前記対物レンズをフォーカス方向に動作させたときに、この対物レンズに前記光ディスクの半径方向に対して所定のDCチルトを発生させるものである。
【0014】
請求項3の発明は、請求項2に記載の光ピックアップ装置において、前記外周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから遠い位置とされ、前記内周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから近い位置とされているものである。
【0015】
請求項4の発明は、光ディスクの信号記録面と対面した位置に対物レンズを保持するレンズホルダと、前記レンズホルダに一端を固定されると共に、前記光ディスクと略平行な方向に伸びたサスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)と、前記ワイヤの他端を支持することにより、レンズホルダを片持ち支持するサスペンションホルダと、前記レンズホルダをフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路と、を備えた光ピックアップ装置において、前記ワイヤは、前記光ディスクの半径方向において前記レンズホルダの外周側面と内周側面にそれぞれ固定される有効長が互いに略等しい外周側ワイヤと内周側ワイヤとを有し、前記外周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端と前記内周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから略等距離の位置とされ、前記外周側ワイヤと前記内周側ワイヤとを異なる材質で形成すると共に、前記外周側ワイヤの硬さを前記内周側ワイヤのそれより軟らかくし、前記対物レンズをフォーカス方向に移動させたときに、この対物レンズに前記光ディスクの半径方向に対して所定のDCチルトを発生させるものである。
【0016】
請求項5の発明は、光ディスクの信号記録面と対面した位置に対物レンズを保持するレンズホルダと、前記レンズホルダに一端を固定されると共に、前記光ディスクと略平行な方向に伸びたサスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)と、前記ワイヤの他端を支持することにより、レンズホルダを片持ち支持するサスペンションホルダと、前記レンズホルダをフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路と、を備えた光ピックアップ装置において、前記ワイヤは、前記光ディスクの半径方向において前記レンズホルダの外周側面と内周側面にそれぞれ固定される外周側ワイヤと内周側ワイヤとを有し、前記外周側ワイヤと内周側ワイヤとの材質を異ならせ、前記対物レンズをフォーカス方向に動作させたときに、この対物レンズに前記光ディスクの半径方向に対して所定のDCチルトを発生させるものである。
【0017】
請求項6の発明は、請求項5に記載の光ピックアップ装置において、前記外周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端と前記内周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから略等距離の位置とされているものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、対物レンズのフォーカス方向へ動作させたときに、外周側ワイヤを内周側ワイヤよりその長さを大きく変動させることができるので、対物レンズに光ディスクの半径方向に所定のDCチルトを外周側で大きくなるように発生させることができる。これにより、光ディスクが半径方向の外周側で傾き(チルト)を持つ場合に、フォーカス移動に連動して、この傾斜に合わすように対物レンズのDCチルトを簡単な構成で発生することができ、スキューを軽減して光ディスクのチルト補正を容易に行うことができる。この結果、対物レンズからのレーザ光を常に光ディスクの信号記録面に略垂直に照射することができるので、ジッタを低減し、読み取り性能を向上させ、良好な画像を再生することが可能となる。
【0019】
請求項2の発明によれば、対物レンズをフォーカス方向への動作させたときに、このフォーカス移動に追従して対物レンズに所定のDCチルトを発生せることができるので、光ディスクの傾きに合わせて対物レンズのDCチルトの大きさを変えることにより、スキューを軽減して光ディスクの半径方向の傾斜に対するチルト補正を可能にする。
【0020】
請求項3の発明によれば、外周側ワイヤを内周側ワイヤより長くできるので、対物レンズをフォーカス方向へ動作させたときに、外周側ワイヤの伸びを大きくでき、対物レンズに所定のDCチルトを外周側で大きく発生させることができ、外周側に傾斜を持つ光ディスクのチルト補正を確実に行うことができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、対物レンズのフォーカス方向への動作させたときに、ワイヤのサイズ変更無しに、フォーカス動作に連動して対物レンズに外周側で大きくなる所定のDCチルトを発生させることができるので、光ディスクが半径方向の外周側で傾き(チルト)を持つ場合に、簡単にスキューの軽減ができ、読み取り性能を向上させることができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、対物レンズのフォーカス方向への動作させたときに、フォーカス動作に連動して、対物レンズに所定のDCチルトを発生することができるので、光ディスクが半径方向の外周側で傾き(チルト)を持つ光ディスクのチルト補正を簡単に行うことが可能となる。
【0023】
請求項6の発明によれば、外周側ワイヤと内周側ワイヤの有効長の長さを略等しくできるので、対物レンズのフォーカス方向への動作させたときに、対物レンズを光ディスクの面に対してバランスよく回転移動できるので、光ディスク面に対する対物レンズのチルト面の平行性を保ち易くでき、光ディスクのチルト補正を良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の第1の実施形態に係る光ピックアップ装置について図面を参照して説明する。図1(a)は本実施形態における光ピックアップ装置1が搭載される光ディスクドライブ装置30を示し、図1(b)は光ピックアップ装置1と光ディスク10との位置関係を示す。図2は本実施形態の光ピックアップ装置1を、図3は光ピックアップ装置1のレンズホルダ2の支持構造を示す。光ディスクドライブ装置30は、装填された光ディスク10をシャーシ32に取り付けられたターンテーブル31によって保持し回転させると共に、光ピックアップ装置1を光ディスクの半径方向(X軸方向、矢印は外周方向を示す)に摺動させ、光ピックアップ装置1は、2本の摺動軸33によって軸支され、スクリューシャフト34によって摺動駆動される。データの記録/再生は、光ピックアップ装置1により、光ディスク10の信号記録面10aにフォーカスコイル7及びトラッキングコイル8を搭載するレンズホルダ2に保持された対物レンズ3からレーザ光を照射することにより成される。
【0025】
光ピックアップ装置1は、レーザダイオードから出射されたレーザ光を所定の光路上に配置された各種光学部品を経由して光記録媒体の信号記録面上に導くことにより、情報の記録、再生を行う手段であり、レンズホルダ2と、サスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)から成る外周側ワイヤ4a及び内周側ワイヤ4bと、サスペンションホルダ5と、磁気回路6と、を備えている。レンズホルダ2は光ディスク10の信号記録面10aと対面した位置に対物レンズ3を保持し、外周側ワイヤ4aと内周側ワイヤ4bは光ディスク10と略平行な方向に伸びた左右(光ディスクの外周側、内周側)でそれぞれ対を成すと共に、フォーカスコイル7及びトラッキングコイル8への通電手段を兼ねており、それぞれ2本のワイヤ41、42と、ワイヤ43、44を有している。これら4a、4bの各一端は、レンズホルダ2に固定されている。サスペンションホルダ5はこれら外周側ワイヤ4a及び内周側ワイヤ4bの他端を支持することによりレンズホルダ2を片持ち支持する。磁気回路6は、レンズホルダ2をフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動し、レンズホルダ2側に搭載されたフォーカスコイル7、トラッキングコイル8と、レンズホルダ2のX軸方向と直交するY軸方向の両側でベース9上に固定されたマグネット11及びヨーク12と、を備えている。また、サスペンションホルダ5もベース9上に固定され、ベース9は、光学部品等を収容したハウジング13上に固定され、ハウジング13は、光ディスクドライブ装置30側に固定された摺動軸33に沿って光ディスク10の半径方向(X軸方向)へ進退可能に支持されている。フォーカスコイル7は、レンズホルダ2の内側の外周部位に沿ってその巻き中心を対物レンズ3の光軸と平行になるようにして固着され、フォーカス動作に連動してレンズホルダ2と共に光ディスク10に向かってX軸、Y軸と直交するZ軸方向に移動すると共に、後述のようにY軸に関してR方向又はその逆方向に僅かに(例えば、±20min程度)回転する。また、トラッキングコイルは、レンズホルダ2のトラッキング方向(Y軸方向)における外側の両面に固着されている。
【0026】
外周側ワイヤ4a及び内周側ワイヤ4bによるレンズホルダ2の支持形態について説明する。これらワイヤ4a及びワイヤ4bにおけるワイヤ41、42及びワイヤ43、44は、各一端がレンズホルダ2の固定端21、22及び固定端23、24においてそれぞれ固定されている。固定端23、24は、内周側面2bの略中央にあり、固定端21、22は、外周側面2aの略中央からサスペンションホルダ5に対して離れた位置にある。また、これらワイヤ4a及びワイヤ4bのワイヤ41、42及びワイヤ43、44の各他端は、サスペンションホルダ5のレンズホルダ対向面56からサスペンションホルダ5を貫通して外側面51上の各固定端52、53及び各固定端54、55に固定される。また、これら固定端52〜55は、外側面51上に設けられた配線板に半田付けするなどの固定手段(図示なし)により、電気的に互いに絶縁されて固定される。
【0027】
更に、外周側ワイヤ4a及び内周側ワイヤ4bの長さ関係を説明する。図4は、これらのワイヤ4a、4bの有効長を説明するための図2の概略平面を示す。図5(a)、(b)、(c)は、それぞれ外周部位で上方に面ブレがある状態A、面ブレがない状態B、及び外周部位で下方に面ブレがある状態Cにおいて、フォーカス制御時のレンズホルダ2と対物レンズ3の移動状態を示す。図6は、状態A、B及びCにおける光ディスク10と対物レンズ3との相対的位置関係を示し、各状態におけるディスクチルト角θ1(min)、レンズチルト角θ2(min)及びそれらの相対チルトを示す。なお、図3以下の各図においては、レンズホルダ2の形状を単純化して図示し、フォーカスコイル7、トラッキングコイル8は図示を省略している。
【0028】
上記外周側ワイヤ4a及び内周側ワイヤ4bは、レンズホルダ2の外周側面2aと内周側面2bに固定されるそれぞれのワイヤの有効長L1及びL2が互いに異なる。これらのワイヤ4a、ワイヤ4bにおいて、外周側ワイヤ4aの有効長L1は、内周側ワイヤ4bの有効長L2よりも長くし、外周側ワイヤ4aのワイヤ41、42のレンズホルダ2への固定端21、22は、サスペンションホルダ5から遠い位置とされ、内周側ワイヤ4bのワイヤ43、44のレンズホルダ2への固定端23、24は、サスペンションホルダ5から近い位置とされている。
【0029】
ここで、ワイヤの有効長とは、実質的に外周側ワイヤ4a及び内周側ワイヤ4bがレンズホルダ2とサスペンションホルダ5で固定されている固定端間のワイヤの長さを言い、これらワイヤ4a、4bにおける弾性変形動作が可能な部位の長さとする。従って、サスペンションホルダ5における実質的固定端は、ワイヤ4a、4bがサスペンションホルダ5に入る内側面56に存在するので、図4に示すように、外周側ワイヤ4aの有効長L1は、サスペンションホルダ5の内側面56と固定端21、22間の間隔となり、内周側ワイヤ4bの有効長L2は、内側面56と固定端23、24との間隔となる。
【0030】
上記のように構成された光ピックアップ装置1において、外周側にチルトを持つ光ディスク10を再生又は記録するときの対物レンズ3の動きについて説明する。本実施形態の光ピックアップ装置1は、外周側ワイヤ4aと内周側ワイヤ4bの各有効長を不均一にして、レンズホルダ2を支持しているので、これら外周側ワイヤ4aと内周側ワイヤ4bとの間に、対物レンズ3のフォーカス方向の移動力に対する長さの変化の感度差が発生する。これにより、対物レンズ3にDCチルトを付加することができるようになる。なお、ここで言うDCチルトとは、フォーカス方向に対物レンズ3を動作させたときに対物レンズ3に発生するチルト量であり、ここでは、光ディスク10の半径方向のチルトとする。
【0031】
図5(b)に示すように、光ディスク10に面ブレがない状態Bにおいては、光ディスク10の信号記録面10aと対物レンズ3の中心軸とは略垂直に直交するので光ビームのフォーカス時においては、ビームスポットは略円形を成し、ジッタの少ない良好な画像を記録/再生することができる。このとき、レンズホルダ2の高さ方向(紙面上方)の中間における略水平をなす中間ラインSと光ディスク10とは略平行になっている。一方、図5(a)に示す面ブレ状態Aにおいては、光ディスク10の外周側が高く(紙面で上方)なる面ブレがあり、対物レンズ3はフォーカスコイル7により光ディスク10の信号記録面10aに近づくように中間ラインSから上方に移動する。このとき、外周側ワイヤ4aの有効長L1が内周側ワイヤ4bの有効長L2より長いので、対物レンズ3の上昇に連れて、有効長L1は対物レンズ3の上方への移動力により長さが長い分、内周側の有効長L2に比べて弾性変形量が大きくなる。このため、レンズホルダ2が内周側に比べて外周側でより大きく上昇するようになり、Y軸に関してR方向に僅かに右回転した傾きを生じる。これにより、フォーカス時に予め決まった方向にDCチルトを発生させるように、有効長L1、L2を好適に選ぶことにより、所定のチルトを形成して、対物レンズ3のDCチルトの角度θ1を、光ディスク10のチルトの角度θ2に略等しくなるように設定することができる。
【0032】
他方、図5(c)に示す状態Cにおいては、光ディスク10に面ブレが外周側に低く(紙面で下方)なると、対物レンズ3はフォーカスコイル7により光ディスク10に面に近づくように中間ラインSから下方に移動する。このとき、前記状態Aと同様に、外周側ワイヤ4aの有効長L1が内周側ワイヤ4bの有効長L2より長いので、対物レンズ3の上昇に連れて、レンズホルダ2の内周側に比べて外周側でより大きく下降するようになり、Y軸に関して左方向に回転した傾きを生じる。これにより、DCチルトを前記状態Aとは反対方向に発生することができ、対物レンズ3のDCチルトの角度θ1を、光ディスク10のチルトの角度θ2に略等しくなるように設定することができる。
【0033】
この結果、状態A及び状態Cのいずれの場合も、光ディスク10の面と対物レンズ3間のチルト差をほぼ無くすことができ、対物レンズ3の光軸を光ディスク10の信号記録面10aに略直角に合わせることができる。従って、面ブレの光ディスクの再生時に発生するスキューを容易に軽減でき、ジッタを少なくして光ディスク10からの読み取り性能を向上することができ、良好な画像を記録/再生することができる。
【0034】
下記表2に、図6に示した状態A、B及びCにおけるディスクチルト(θ1)と対物レンズのレンズチルト(θ2)と、このレンズチルトにより補正される相対チルトを示す。ディスクチルトの角度θ1は、状態Cと状態Aにおいて、±20min(分)(規定による最大値)であるとした場合、これに対応して、対物レンズ3のレンズチルトの角度θ2を状態Cと状態Aにおいて同様に、それぞれ±20min(分)とすると、ディスクチルトとレンズチルトとの相対チルトの角度はいずれも0minとすることができ、ディスクチルトを補正することができる。
【0035】
【表2】

【0036】
このように本実施形態の光ピックアップ装置1によれば、外周側ワイヤ4aの有効長L1を内周側ワイヤ4bの有効長L2より長くして両者間に長さの差を設けたことにより、対物レンズ3のフォーカス方向の移動に連動して、対物レンズ3を光ディスク10の半径方向(Y軸方向)に垂直なY軸方向の周りで左右に回転させることができる。これにより、対物レンズ3に所定のDCチルトを外周側で大きく発生させて、このDCチルトによりディスクチルトを自動的に補正することができる。また、固定端21、22を外周側面2aの略中央からサスペンションホルダ5から離れる方向に配置し、固定端23、24を内周側面2bの略中央に配置しことにより、フォーカス移動に対する対物レンズ3のチルト回転感度を大きくすると共に、対物レンズ3のチルト回転をできるだけ、半径方向を通り光ディスク10面に垂直な平面内で行われるようにでき、チルト補正の感度と精度を高めることができる。このように、光ディスクに傾きがあった場合でも、簡単な構成で対物レンズからの光を自動的に光ディスクの信号記録面に略垂直に照射することができ、スキューを軽減でき、ジッタの少なくして読み取り性能を向上でき、良好に画像を記録/再生することが可能となる。なお、本実施形態は、光ディスク10の面ブレの周期がチルトの共振周波数(f0)以下の場合(DVD記録及び/又は再生装置を4倍速未満で使用時)において、特に有効である。
【0037】
また、光ピックアップ装置では、発生するスキューの方向は、通常ほぼ一定方向を示すので、予め設計段階でスキューの方向を把握することにより、最適にDCチルトを発生させ、精度良いチルト補正を行うことができる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施形態に係る光ピックアップ装置について図7、図8を参照して説明する。本実施形態の光ピックアップ装置1は、光ディスク10の半径方向において、レンズホルダ2の外周側面2aと内周側面2bにそれぞれ固定される有効長L1.L2が互いに略等しい外周側ワイヤ4aと内周側ワイヤ4bとを有し、外周側ワイヤ4aのレンズホルダ2への固定端21、22と内周側ワイヤ4bのレンズホルダ2への固定端23、24は、サスペンションホルダ5から略等距離の位置にあり、外周側ワイヤ4aと内周側ワイヤ4bとを異なる材質で形成すると共に、外周側ワイヤ4aの硬さを内周側ワイヤ4bのそれより軟らかくしたものである。
【0039】
上記のように構成された光ピックアップ装置1において、有効長L1と有効長L2を略等しくし、外周側ワイヤ4aが内周側ワイヤ4bより軟らかいので、対物レンズ3をフォーカス方向に動作させたときに、有効長L1は伸び易く、有効長L2は伸び難い。このため、前記実施形態と同様に、光ディスク10のチルトに対応して、対物レンズをフォーカス方向に動作させたときに、対物レンズ3が上昇する場合又は下降する場合のいずれにおいても、レンズホルダ2の外周側が内周側に比べて大きく変動するようになる。これにより、対物レンズ3は、光ディスク10のチルトに合わせて、Y軸に関して左右のいずれにも回転でき、対物レンズ3のDCチルトを光ディスク10のディスクチルトと同じ方向に発生させることができる。従って、有効長L1、L2を好適に選ぶことにより、所定のチルトを形成し、前述の図5、図6に示すように、対物レンズ3のDCチルトと光ディスク10のチルトを略等しくして相対チルトが略ゼロになるようにでき、光ディスク10の面と対物レンズ3の中心軸を略直交させることができる。
【0040】
上記実施形態の光ピックアップ装置1によれば、外周側ワイヤ4aを内周側ワイヤ4bより軟らかくすることにより、DCチルトを発生できるのできるので、ワイヤの材質の変更だけでサイズの変更を伴わない簡単な構成で光ディスク10のチルト補正を自動的にすることができる。従って、従来の装置においても、簡単に適用することが可能となり汎用性は大きい。また、有効長L1と有効長L2を略同じ長さとしたことにより、バランス良く対物レンズ3をチルト回転させることが可能となり、光ディスク面に対する対物レンズのチルト面の平行性を保ち易くでき、スキューを軽減し、ジッタを低減して読み取り性能を向上することが可能となる。
【0041】
なお、本発明は各種の実施形態により実現されるが、これらに限られることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意に変更することができる。例えば、外周側ワイヤと内周側ワイヤの長さが異なるようにすると共に、材質も異なるようにすることにより、DCチルトの感度をさらに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る光ピックアップ装置を搭載する光ディスクドライブ装置の斜視図、(b)は同装置における光ピックアップ装置と光ディスクの配置関係を説明する図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る光ピックアップ装置の斜視図。
【図3】上記光ピックアップ装置の発明の原理を説明する概略構成図。
【図4】上記光ピックアップ装置の概略平面図。
【図5】上記光ピックアップ装置の対物レンズのDCチルトを説明する図。
【図6】上記光ピックアップ装置の対物レンズと光ディスクと対物レンズの相対チルトを説明する図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る光ピックアップ装置の概略構成図。
【図8】上記光ピックアップ装置の概略平面図。
【図9】(a)は従来の光ピックアップ装置における光ディスクと対物レンズとの相対チルトを説明する図、(b)は(a)における相対チルトのバラツキを説明する図。
【符号の説明】
【0043】
1 光ピックアップ装置
2 レンズホルダ
2a 外周側面
2b 内周側面
3 対物レンズ
4a 外周側ワイヤ(サスペンションワイヤ)
4b 内周側ワイヤ(サスペンションワイヤ)
5 サスペンションホルダ
6 磁気回路
10 光ディスク
10a 信号記録面
21、22、23、24 固定端
L1、L2 有効長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクの信号記録面と対面した位置に対物レンズを保持するレンズホルダと、
前記レンズホルダに一端を固定されると共に、前記光ディスクと略平行な方向に伸びたサスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)と、
前記ワイヤの他端を支持することにより、レンズホルダを片持ち支持するサスペンションホルダと、
前記レンズホルダをフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路と、
を備えた光ピックアップ装置において、
前記ワイヤは、前記光ディスクの半径方向において前記レンズホルダの外周側面と内周側面にそれぞれ固定される有効長が互いに異なる外周側ワイヤと内周側ワイヤとを有し、
前記外周側ワイヤの有効長は、前記内周側ワイヤのそれよりも長く、前記外周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから遠い位置とされ、前記内周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから近い位置とされ、
前記対物レンズをフォーカス方向に動作させたときに、この対物レンズに前記光ディスクの半径方向に対して所定のDCチルトを発生させることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】
光ディスクの信号記録面と対面した位置に対物レンズを保持するレンズホルダと、
前記レンズホルダに一端を固定されると共に、前記光ディスクと略平行な方向に伸びたサスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)と、
前記ワイヤの他端を支持することにより、レンズホルダを片持ち支持するサスペンションホルダと、
前記レンズホルダをフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路と、
を備えた光ピックアップ装置において、
前記ワイヤは、前記光ディスクの半径方向において前記レンズホルダの外周側面と内周側面にそれぞれ固定される外周側ワイヤと内周側ワイヤとを有し、
前記外周側ワイヤと内周側ワイヤとの長さを異ならせ、前記対物レンズをフォーカス方向に動作させたときに、この対物レンズに前記光ディスクの半径方向に対して所定のDCチルトを発生させることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項3】
前記外周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから遠い位置とされ、前記内周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから近い位置とされていることを特徴とする請求項2に記載の光ピックアップ装置。
【請求項4】
光ディスクの信号記録面と対面した位置に対物レンズを保持するレンズホルダと、
前記レンズホルダに一端を固定されると共に、前記光ディスクと略平行な方向に伸びたサスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)と、
前記ワイヤの他端を支持することにより、レンズホルダを片持ち支持するサスペンションホルダと、
前記レンズホルダをフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路と、
を備えた光ピックアップ装置において、
前記ワイヤは、前記光ディスクの半径方向において前記レンズホルダの外周側面と内周側面にそれぞれ固定される有効長が互いに略等しい外周側ワイヤと内周側ワイヤとを有し、
前記外周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端と前記内周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから略等距離の位置とされ、
前記外周側ワイヤと前記内周側ワイヤとを異なる材質で形成すると共に、前記外周側ワイヤの硬さを前記内周側ワイヤのそれより軟らかくし、
前記対物レンズをフォーカス方向に移動させたときに、この対物レンズに前記光ディスクの半径方向に対して所定のDCチルトを発生させることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項5】
光ディスクの信号記録面と対面した位置に対物レンズを保持するレンズホルダと、
前記レンズホルダに一端を固定されると共に、前記光ディスクと略平行な方向に伸びたサスペンションワイヤ(以下、ワイヤという)と、
前記ワイヤの他端を支持することにより、レンズホルダを片持ち支持するサスペンションホルダと、
前記レンズホルダをフォーカス方向及びトラッキング方向に駆動する磁気回路と、
を備えた光ピックアップ装置において、
前記ワイヤは、前記光ディスクの半径方向において前記レンズホルダの外周側面と内周側面にそれぞれ固定される外周側ワイヤと内周側ワイヤとを有し、
前記外周側ワイヤと内周側ワイヤとの材質を異ならせ、前記対物レンズをフォーカス方向に動作させたときに、この対物レンズに前記光ディスクの半径方向に対して所定のDCチルトを発生させることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項6】
前記外周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端と前記内周側ワイヤの前記レンズホルダへの固定端は、前記サスペンションホルダから略等距離の位置とされていることを特徴とする請求項5に記載の光ピックアップ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−84431(P2008−84431A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262802(P2006−262802)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】