説明

光ファイバの紡糸装置および光ファイバの製造方法

【課題】光ファイバの伝送損失を低減し、かつ光ファイバの外径の均一性を向上でき、さらにはメンテナンス費用を低減できる光ファイバの紡糸装置およびそれを用いた光ファイバの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂供給口と、樹脂供給口から流入された溶融樹脂の流路となる溶融樹脂流路と、前記溶融樹脂流路を通過した溶融樹脂を吐出する吐出口とを有した紡糸ヘッドを備えた光ファイバの紡糸装置であって、少なくとも前記溶融樹脂流路の一部がNi−Mo系合金、Ni−Cr−Mo系合金、Ni−Cr系合金、Ni−Cr−Mo−Fe系合金のうち、いずれか一種以上で形成されることを特徴とする光ファイバの紡糸装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの紡糸装置および光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用途に広く用いられているプラスチック光ファイバ(POF)は、通常、2層以上の層からなり、中心の層を芯、2層目以上の層を鞘と呼ぶ。
POFは、例えば、特許文献1に示す溶融紡糸法によって製造される。まず、芯および鞘の原料である熱可塑性樹脂を溶融させて、芯になる溶解樹脂(以下、芯材と称する。)および鞘になる溶解樹脂(以下、鞘材と称する。)を得る。次いで、芯材および鞘材を、定量ポンプを用いて紡糸ヘッドに供給する。紡糸ヘッドに供給された芯材および鞘材は、それぞれ紡糸ヘッド内に設けられた溶融樹脂流路を通過した後、紡糸ヘッド下部に設けられた吐出口近傍の合流部で合流する。合流部では、芯材の溶融樹脂流路の周囲に、鞘材の溶融樹脂流路が配されており、ここで合流した芯材および鞘材は、芯材の外面を鞘材が覆った状態で吐出口から吐出される。なお、紡糸ヘッド内の溶融樹脂流路には、200〜300℃の熱に耐えうる耐熱性、加工性、剛性、耐蝕性などを有したSUS316などのステンレス素材が広く用いられてきた。
【特許文献1】特開2002−69739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、紡糸ヘッドを長時間連続運転すると、溶融樹脂流路を構成する金属が次第に腐蝕してくる。これは、溶融樹脂中に含まれる熱分解生成物が、溶融樹脂流路を構成する金属を腐蝕するためである。特に、鞘材として多用されるフッ化ビニリデン系重合体などのフッ素樹脂組成物は、融点以上の高温に熱せられると、僅かながらフッ化水素(HF)を発生し、その強力な腐蝕作用によって、一般に耐蝕性を有するといわれているSUS316系ステンレスであっても腐蝕してしまう。
溶融樹脂流路を形成する金属は、腐蝕によって溶融樹脂流路から遊離し、溶融樹脂中に混入する。このように、金属異物が混入したPOFは、POFの伝送損失を増大させ、さらには、外径の均一性を低下させる要因となり、その結果、POFの品質が低下する。また、溶融樹脂流路が腐蝕すると、その腐蝕表面に鞘材が滞留し、鞘材の炭化が生じやすくなる。POFにこのような炭化鞘材が混入すると、金属異物と同様に、POFの品質低下を生ずる。
POFの品質を維持するには、これらの異物混入を避ける必要がある。しかしながら、従来は、腐蝕した溶融樹脂流路の清掃や部品の交換を頻繁に行うことでしか対処できず、メンテナンス費用の高騰を招いていた。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、光ファイバの伝送損失を低減し、かつ光ファイバの外径の均一性を向上することができ、さらにはメンテナンス費用を低減できる光ファイバの紡糸装置およびそれを用いた光ファイバの製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]樹脂供給口と、樹脂供給口から流入された溶融樹脂の流路となる溶融樹脂流路と、前記溶融樹脂流路を通過した溶融樹脂を吐出する吐出口とを有した紡糸ヘッドを備えた光ファイバの紡糸装置であって、
少なくとも前記溶融樹脂流路の一部がNi−Mo系合金、Ni−Cr−Mo系合金、Ni−Cr系合金、Ni−Cr−Mo−Fe系合金のうち、いずれか一種以上で形成されることを特徴とする光ファイバの紡糸装置。
[2]前記Ni−Cr−Mo系合金にTaが含まれることを特徴とする[1]に記載の光ファイバの紡糸装置。
[3][1]または[2]に記載の光ファイバの紡糸装置を用いた光ファイバの製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の紡糸装置およびそれを用いた光ファイバの製造方法によると、伝送損失を低減し、かつ外径の均一性を向上させた光ファイバを製造でき、さらにはメンテナンス費用を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に係るPOFの紡糸装置について、図1〜5を参照しながら具体的に説明する。本実施形態例では、芯の周囲に2層の鞘を有する3層構造からなるPOFを同時に複数本紡糸できるPOFの紡糸装置を例示する。なお、2層構造からなるPOF、或いは3層以上からなるPOFを製造する場合であっても、鞘材の層数に応じて鞘材の溶融樹脂流路数を増減すればよく、基本構造は本実施形態例と同様である。
【0007】
図1に示すように、本実施形態例におけるPOFの製造装置1は、芯の原料である熱可塑性樹脂を溶融して溶融樹脂(芯材)とし、これを押し出す押出機2と、第一の鞘の原料である熱可塑性樹脂を溶融して溶融樹脂(第一の鞘材)とし、これを押し出す押出機3と、第二の鞘の原料である熱可塑性樹脂を溶融して溶融樹脂(第二の鞘材)とし、これを押し出す押出機4とを備えている。
また、これらの溶融樹脂を定速で紡糸ヘッド9に供給する定量ポンプ5、6、7と、POF8を紡糸する紡糸ヘッド9を備えている。さらに、紡糸ヘッド9により紡糸されたPOF8を延伸処理する延伸処理装置10と、延伸されたPOF8を巻き取る巻き取り装置11とを備えている。なお、本実施形態例のPOFの製造装置1の構成要素におけるPOFの紡糸装置12は、押出機2、3、4と、定量ポンプ5、6、7と、紡糸ヘッド9とから概略構成されたものである。
【0008】
図2に示すように、紡糸ヘッド9には、側面を支持するケース20と、ケース20に設けられ、芯材を紡糸ヘッド9内に取り込む溶融樹脂供給口21と、ケース20に設けられ、第一の鞘材を紡糸ヘッド9内に取り込む溶融樹脂供給口22と、第二の鞘材を紡糸ヘッド9内に取り込む溶融樹脂供給口23が設けられている。
ケース20内には、芯材が流れる溶融樹脂主流路24と、第一の鞘材が流れる溶融樹脂主流路25と、第二の鞘材が流れる溶融樹脂主流路26とが設けられている。さらに、ケース20には、溶融樹脂主流路24から芯材が分岐して流れる溶融樹脂従流路27と、溶融樹脂主流路25から第一の鞘材が分岐して流れる溶融樹脂従流路28と、溶融樹脂主流路26から第二の鞘材が分岐して流れる溶融樹脂従流路29とが設けられている。
ケース20の側面には、溶融樹脂従流路27に流れる芯材の流量を制御するギアポンプ30と、溶融樹脂従流路28に流れる第一の鞘材の流量を制御するギアポンプ31と、溶融樹脂従流路29に流れる第二の鞘材の流量を制御するギアポンプ32とが設けられている。溶融樹脂従流路27、28、29は、これらギアポンプ30、31、32をそれぞれ介して、さらに蓋体33内へと伸び、さらにノズルパック34へと伸びている。
また、紡糸ヘッド9には、溶融樹脂主流路24を流れてきた芯材を排出する溶融樹脂排出口61と、溶融樹脂主流路25を流れてきた第一の鞘材を排出する溶融樹脂排出口62と、溶融樹脂主流路26を流れてきた第二の鞘材を排出する溶融樹脂排出口63とが設けられている。なお、図2では、ノズルパック34内での溶融樹脂従流路27、28、29の分岐および合流は省略し、それらは後述する図3の説明にゆだねる。
【0009】
図3は紡糸ヘッド9の概略断面図である。紡糸ヘッド9の下部には、底面カバー41が設けられ、ケース20とノズルパック34との間には、ノズルパック34を保持するためのパックケース42が設けられている。
蓋体33内に形成された溶融樹脂従流路27、28、29は、さらにノズルパック34内まで伸びており、ここで複数の溶融樹脂分岐流路35、36、37にそれぞれ分岐している。
なお、この実施形態例において、溶融樹脂従流路27、28、29は、それぞれ4つの溶融樹脂分岐流路35、36、37に放射状に分岐しているが、図3では、紙面鉛直方向に分岐した2つの溶融樹脂分岐流路35、36、37は省略し、4つのうち紙面と水平方向に分岐した2つの溶融樹脂分岐流路35、36、37のみ表記している。
それぞれ4つに分岐した溶融樹脂分岐流路35は、放射状に水平方向に伸びた後、それぞれ紡糸ヘッド9の下側に向けて鉛直に屈曲し、図面下側に向けて伸びている。溶融樹脂分岐流路35は、途中で溶融樹脂分岐流路36と合流部38で合流し、さらに溶融樹脂分岐流路37と合流部39で合流した後、ノズルパック34の下端部に設けられた吐出口40へとつながっている。
溶融樹脂分岐流路35、36、37の断面形状は特に限定されないが、加工のしやすさ、および溶融樹脂の流れやすさなどから、円形が好ましい。また、吐出口40の開口形状は、製造するPOF8の断面形状に合わせた形状を有しており、基本的には円形である。
このような構造によって、紡糸ヘッド9は、溶融樹脂供給口21、22、23から供給された溶融樹脂を複数の吐出口40から吐出し、同時に複数の糸状のPOF8を紡糸できるようになっている。
【0010】
図4に示すように、4つの吐出口40は、紡糸されるPOF8が互いに接触するのを防止するために、ノズルパック34の下面に所定の間隔をあけて同心円状に配置されるのが好ましい。この実施形態例では、4つの吐出口40を備えた紡糸ヘッドを例示したが、吐出口40の数、およびそれにつながる各分岐流路の分岐数は適宜変更可能であり、3つ以下、または5つ以上でもよい。なお、図4において、図3と同じ構成要素に関しては、同じ符号を付して説明を省略する。
【0011】
図4以外にも、例えば、図5の紡糸ヘッド80に示すように、ノズルパック34の下面が矩形状に露出し、その面に吐出口40が直線状に配置されていても構わない。なお、図示しないが、このような吐出口40の配置の場合は、ノズルパック34内の溶融樹脂分岐流路35、36、37も吐出口40の位置に合わせて適宜配置される。また、この紡糸ヘッド80においても、溶融樹脂分岐流路35、36、37の分岐数、および吐出口40の配置数は特に限定されない。
【0012】
次に、本発明の紡糸ヘッドの溶融樹脂流路に用いられる耐蝕性を有した合金について説明する。
本発明では、紡糸ヘッド9の溶融樹脂流路の少なくとも一部が、Ni−Mo系合金、Ni−Cr−Mo系合金、Ni−Cr系合金、Ni−Cr−Mo−Fe合金系のうち、いずれか一種以上で形成されることを特徴とする。Ni(ニッケル)を含むこれらの合金は、Ni基合金と呼ばれ、ハステロイ(登録商標)という名称で知られている。
【0013】
本発明では、前記のNi基合金の中でも、好ましくはNi−Cr−Mo系合金からなる合金が用いられる。Ni−Cr−Mo系合金は、ハステロイC系合金とも呼ばれる。Ni−Cr−Mo系合金は、Ni基合金の中でも、酸化性酸、還元性酸の両環境で優れた耐蝕性を有するため、フッ化水素などの酸化性酸に対して特に優れた耐蝕性を示す。
【0014】
本発明では、Ni−Cr−Mo系合金にTa(タンタル)が含まれることが特に好ましい。第四元素としてTaを含むNi−Cr−Mo系合金は、酸化皮膜の形成が早く、かつ酸化皮膜の安定性が極めて高い。Taを含むNi−Cr−Mo系合金は、ハステロイC系合金の一種であり、MAT−21という合金名で呼ばれる。MAT−21は、酸化性、還元性のいずれの環境に対しても優れた耐蝕性を有しており、特に、還元性環境での耐蝕性に優れている。また、耐局部腐蝕性は、Ni−Cr−Mo系合金中で最も優れている。Taを含むNi−Cr−Mo系合金は、熱的な安定性にも優れており、機械的強度および伸びも良好である。
なお、MAT−21の公称化学組成は、Crが19質量%、Moが19質量%、Taが1.8質量%、Feが1質量%未満、Cが0.015質量%未満、Siが0.08質量%未満で、残りをNiが占める。
【0015】
Ni基合金の必須成分であるNiは、その腐蝕生成物がFeに比べて緻密である。Ni基合金は、Niの腐蝕生成物からなる不動態皮膜(酸化皮膜ともいう)が金属表面を覆うことで、優れた耐蝕性を発揮する。また、Niは不動態化特性(不動態皮膜の安定度)が優れていることから、大部分の環境で、Feに比べて長期間にわたる耐蝕性を発揮する。さらに、Niは、Co、Cu、Feなどと全率固溶体(同種金属のように均一に混合し合った形成物)を形成できる。Niは、特にMo、Crなどに対して30%以上の固溶度を有し、これらの金属と安定した合金を形成する。Ni基合金には、このような各種元素の配合割合などにより、耐酸性、耐局部腐蝕性、高温での耐酸化性、機械的特性などを強化した多様なバリエーションが知られている。
【0016】
Ni基合金は、樹脂などから発生する腐蝕性ガスに対し、他の金属では得られない優れた耐蝕性を発揮する。その耐蝕性はステンレスをはるかに凌ぎ、強度はステンレスの1.5倍と高く、伸びはステンレスと同等である。したがって、Ni基合金を用いれば、良好な耐蝕性と併せて、装置の薄肉化も図ることができる。また、Ni基合金は、オーステナイトス系テンレスと同等の溶接性も備えているので、特別の技術、設備を必要とせず溶接できる。また、Ni基合金は、工業的に多用されているFe基合金との溶接性も高いため、耐蝕性を有しながらも溶接しにくいTi合金、Ta合金、Pt合金などに比べて利便性が高い。
Ni基合金に好ましく含まれるCr、Mo、Feなどの各添加元素の耐蝕性への作用は次のとおりである。まず、Crは、Cr不動態皮膜(CrCOOH)を形成し、これにより酸化性環境での耐蝕性を発揮する。Moは、その高い水素過電圧によって、還元性環境での耐蝕性が向上し、耐局部腐蝕性を発揮する。Feは、主にコストダウンの目的で添加されるが、Cr不動態皮膜の形成を促進する作用があるとも云われている。
【0017】
本発明では、このようなNi基合金を紡糸ヘッド9内の溶融樹脂流路の少なくとも一部に用いているため、溶融樹脂流路の腐蝕を大幅に低減できる。これにより、溶融樹脂流路の腐蝕による金属異物の混入を大幅に低減することができ、以ってPOFの長さ方向の外径の均一性の向上、外径の均一性の向上、および伝送損失の低減を図ることができる。また、各溶融樹脂流路の腐蝕が低減されることで、腐蝕表面での鞘材の滞留による炭化が発生しにくく、炭化鞘材の混入を大幅に低減することができ、以ってPOFの外径の均一性の向上、および伝送損失の低減を図ることができる。さらには、溶融樹脂流路の腐蝕が低減されることで、溶融樹脂流路の清掃、および溶融樹脂流路を有する部品の交換の頻度が低減され、以ってPOFの紡糸装置のメンテナンス費用を低減できる。
【0018】
次に、紡糸ヘッド9内における、Ni基合金が用いられる溶融樹脂流路について、図3を参照しながら説明する。
紡糸ヘッド9において、溶融樹脂流路が形成されている構成要素は、ケース20、ギアポンプ30、31、32、蓋体33、およびノズルパック34である。本発明では、これらの構成要素全てにNi基合金を用いてもよく、一部にだけ用いてもよい。Ni基合金の加工性を考慮すると、直線流路を主体とした溶融樹脂流路を有する構成要素にNi基合金を用いるのが好ましい。具体的には、ケース20、蓋体33がNi基合金で形成されるのが好ましい。Ni基合金は、機械的強度が高い反面、切削加工性が必ずしもよいわけではない。そこで、直線流路が主体の蓋体33およびケース20であれば、曲線流路を有する他の構成要素と比べて加工がやりやすく、加工コストを低減できる。ノズルパック34もNi基合金で形成されるのが理想的ではあるが、ノズルパック34内の溶融樹脂流路は、分岐および合流が複雑なため、これらの流路を形成するための加工は難しく、加工コストが高くなる。したがって、ノズルパック34はSUS316などを用いるのが、加工コストの点から好ましい。
【0019】
次に、紡糸ヘッド9に好ましく設けられる構成要素について説明する。
図6に示すように、紡糸ヘッド9内には、温度制御手段43が備えられていることが好ましい。図6の紡糸ヘッド9において、図3と同じ構成要素に関しては、同じ符号を付して説明を省略する。
温度制御手段43を用いれば、溶融樹脂分岐流路35を流れる芯材を加熱または冷却して温度制御でき、芯材の流動性を制御することができる。すなわち、芯材を加熱すれば、粘度が低下するために流動性が高くなり、冷却すれば、芯材の粘度が上昇するために、流動性が低下する。このように、温度制御手段43を用いて芯材の流動性を制御すれば、吐出口40から吐出される芯材の流量を加減することができる。そして、その加減を厳密に制御することによって、POF8の外径の均一性の向上を図ることができる。温度制御手段43としては、例えば、温度計付のヒータなどを用いることができる。
なお、この実施形態例では、少なくとも温度制御手段43の一部が、溶融樹脂分岐流路内32aに挿通されている。すなわち、温度制御手段43が、溶融樹脂分岐流路35を流れる溶融樹脂に直接接触するように配置されているため、溶融樹脂の温度変化をより早く、かつ高精度に制御できる。
【0020】
複数の溶融樹脂分岐流路35に挿通された複数の温度制御手段43は、好ましくはそれぞれ個別に温度制御される。複数の吐出口40から吐出されるPOF8の流量を個別に制御することにより、複数の吐出口40から吐出されるPOF8の外径を微調整でき、各吐出口40の微妙な差異によるPOF8の外径のばらつきを低減することができる。温度制御手段43は、例えば、外部より温度制御信号線47を介して温度制御される。
この実施形態例では、芯材が流れる溶融樹脂分岐流路35にのみ温度制御手段43が接するように設けたが、さらには、第一の鞘材、第二の鞘材に対しても温度制御手段43を設けて温度制御できるように構成してもよい。
【0021】
図7に、温度制御手段43を備えた紡糸ヘッド9によるPOFの製造装置90の模式図を示す。紡糸ヘッド9と延伸処理装置10との間には、紡糸されたPOF8の外径を測定する外径測定装置44が設けられている。そして、外径測定装置44と紡糸ヘッド9内の温度制御手段43とが、外径データ信号線45、外径変動制御装置46、および温度制御信号線47とを介して接続されている。なお、図7において、図1と同じ構成要素には同一の番号を付してその説明を省略する。
紡糸ヘッド9により紡糸されたPOF8の外径は、外径測定装置44によって連続的または断続的に測定される。外径測定装置44で測定された外径の測定値は信号化され、外径データ信号線45を介して外径変動制御装置46に送られる。外径変動制御装置46は、測定された外径の結果と、あらかじめ設定された外径目標値とを比較し、その比較結果に基づいた制御信号を、温度制御信号線47を介して温度制御手段43に送る。温度制御手段43は、温度制御信号に応じて、芯材への加熱冷却を行い、芯材の粘度を変化させ、これによりPOF8の外径を変化させる。なお、外径測定装置44としては、例えば、レーザ、LEDなどによって外径を測定する装置を用いることができる。
【0022】
例えば、紡糸されたPOF8の外径が、設定された外径目標値よりも小さかった場合、外径変動制御装置46は、温度上昇を指示する制御信号を温度制御手段43に送り、溶融樹脂を加熱する。加熱された溶融樹脂は、粘度が低下して流動性が高くなるため、吐出速度が増大し、その結果、POF8の外径が大きくなる。一方、POF8の外径が設定された外径目標値よりも大きかった場合、外径変動制御装置46は、温度下降を指示する制御信号を温度制御手段43に送り、溶融樹脂の加熱の停止、または溶融樹脂の冷却を行う。これにより、溶融樹脂の粘度が増加して流動性が低くなるため、溶融樹脂の吐出速度が低下し、その結果、POF8の外径が小さくなる。このようにして、POF8の外径を制御することができる。
【0023】
また、複数本のPOFを同時に紡糸する紡糸ヘッド9においては、吐出口40から吐出されるPOF8の外径を個別にモニターするのが好ましい。各吐出口40から吐出されるPOF8の外径が、外径目標値と同じとなるように複数の溶融樹脂分岐流路35を流れる芯材の温度を個別に温度調節することで、各吐出口40から吐出される複数のPOF8の外径のばらつきが低減される。
このようにして、POF8の外径の均一性を高めることができれば、加熱延伸処理後における直径の変動幅も小さく抑えられ、外径の設定値に対する外径変動率が±3%以内のPOF8を製造することができる。ここで、POF8の外径変動率は下式により示される。
直径変動率(%)=((糸長1000mあたりの変動直径/平均直径)−1)×100
【0024】
次に、紡糸ヘッド9内への温度制御手段43の取り付け位置に関して、さらなる例示を用いて説明する。
温度制御手段43は、例えば図8、9のように、パックケース42内に設けられていてもよい。ここで、図9は図8の実施形態例を下側から見た底面図である。なお、図8、9において、図6と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
図8、9に示す実施形態例の場合、ノズルパック34の中心軸50を中心として、同心円状に4つの吐出口40がノズルパック34の下面に設けられている。同じく、ノズルパック34の中心軸50を中心として、底面カバー41を貫通するように4つの温度制御手段43が同心円状に配置されている。
この実施形態例のように、パックケース42内に温度制御手段43を設ける場合には、ノズルパック34、パックケース42などの温度制御手段43から溶融樹脂分岐流路35との間に存在する構成要素は、良好な伝導性を有する金属材から構成されることが好ましい。
【0025】
図8,9の実施形態例において、温度制御手段43によって発生した熱は、パックケース42およびノズルパック34を介して、4つの溶融樹脂分岐流路35に伝達される。これらの実施形態例は、温度制御手段43が溶融樹脂分岐流路35に挿通されている図6の実施形態例と比較して、芯材の温度変化をより早く、かつ精度良く制御できるという効果は得られないものの、溶融樹脂分岐流路35内での流動状態の乱れや滞留が生じる恐れがない。したがって、流動状態の乱れや滞留によるPOF8の外径の均一性の低下を防止できるという利点がある。さらには、温度制御手段43がパックケース42に備えられているため、温度制御手段43を外すことなくノズルパック34を取り外すことができ、ノズルパック34のメンテナンス作業や交換作業が容易になる。また、図6の実施形態例では、温度制御手段43が、蓋体33内に設けられた各溶融樹脂流路と交差しないように配置しなければならないが、図8,9の実施形態例では、パックケース42内に溶融樹脂流路は存在しないため、温度制御手段43をパックケース42内部の好ましい位置に適宜配置することができ、さらには、温度制御手段43の配置数を適宜増減できるという利点がある。
【0026】
次に、図8、9の実施形態例の発展形態として、温度制御手段43の配置例を表した平面図を図10〜14に示す。これらの実施形態例では、紡糸ヘッド9に吐出口40が8つ設けられているが、吐出口40の数はこれに限らず、7つ以下、或いは9つ以上であってもよい。なお、図7〜11では、図9と同一の構成要素に同一の符号を付して説明を省略する。また、図7〜11では、説明の便宜上、図6におけるギアポンプ30、31、32、温度制御信号線47を省略する。
図10の配置例では、中心軸50を中心として、ノズルパック34下面に同心円状に吐出口40が8つ配置され、さらに、中心軸50から各吐出口40に向けて直線を引いたとき、その延長線上の底面カバー41に、温度制御手段43が配置されている。
図11の配置例では、図10で示した温度制御手段43が、中心軸50を中心に22.5度の角度でずらされて配置されている。
【0027】
図12の配置例では、中心軸50から各吐出口40に向けて直線を引いたとき、その直線に隣接した底面カバー41に各2つの温度制御手段43が配置されている。
図13の配置例では、図12における温度制御手段43が、中心軸50を中心に22.5℃ずらされて配置されている。
図14の配置例では、計16つの温度制御手段43が、互いに隣接する温度制御手段43間の距離が等間隔になるように配置されている。
【0028】
図10の配置例は、図11の配置例に比べて、温度制御手段43が吐出口40により近い距離にある。すなわち、ノズルパック34内の溶融樹脂分岐流路35により近い距離にある。したがって、図10の配置例は、図11の配置例に比べて溶融樹脂の流量をより迅速に制御できる。
図12、13、14の配置例は、図10、11の配置例に比べて、温度制御手段43の数が倍なので、吐出口40周辺の温度のムラ(温度斑)を低減できる。吐出口40周辺の温度斑が少ないほど、より外径の均一性の高いPOFを得られる。また、1つの溶融樹脂分岐流路35に対して、温度制御手段43を2つ1セットとして用いれば、個々の温度制御手段43を小型化することもでき、小型化により温度制御手段43のレイアウトの自由度が向上し、かつ、メンテナンスなどの作業性も向上する。さらには、2つ1セットの温度制御手段43のいずれか1つが故障した際にも、残りの1つが稼動していれば、POFの品質低下を最小限に抑えることができる。なお、図12の温度制御手段43と吐出口40との配置関係を採用した紡糸ヘッド9によると、溶融樹脂温度200〜250℃に対して±10℃程度の設定で、芯の中心径を5μm程度可変できる。
ただし、図10の配置例のように、各吐出口40とそれに対応する温度制御手段43が1対1で、かつ、各吐出口40とそれに対応する温度制御手段43との距離が短い場合は、各温度制御手段43に対応する吐出口40の温度制御を、他の吐出口40にできるだけ及ぼすことなく行え、POF8の外径の制御をより精度よく行えるという利点がある。そのため、必ずしも1つの吐出口40に対しての温度制御手段43の本数を増やすことが、POFの外径の均一性の向上に有利であるとは限らない。よって、どの実施形態例を採用するかは、上述した利点などを考慮した上で適宜選択される。
【0029】
次に、図15、16を参照しながら、紡糸ヘッドのその他の形態について説明する。
本発明では、図15に示すように、溶融樹脂従流路27、28、29およびノズルパック34が複数セット備えられた紡糸ヘッド60を用いてもよい。紡糸ヘッド60から排出される芯材の溶融樹脂排出流路64には、圧力制御用背圧弁65を備え、紡糸ヘッド60から排出される溶融樹脂の流量を制御してもよい。溶融樹脂排出流路64を流れる芯材の流量を圧力制御用背圧弁65で制御することで、紡糸ヘッド60に供給される芯材の供給量、および複数のギアポンプ30にかかる溶融樹脂の背圧をより細かく制御することができる。図示しないが、鞘材の排出流路に関しても、同様の構成要素が備えられていてもよい。また、溶融樹脂排出流路64の下流には、排出された芯材を回収する回収槽などを設けるのが好ましい。なお、図15では、6つのギアポンプ30を有する紡糸ヘッド9(ノズルパック34を6つ有する)としているが、この数は特に限定されない。図15おいて、図2と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
図16に、紡糸ヘッド60の溶融樹脂主流路24の好ましい形態を表した部分模式図を示す。図16は、溶融樹脂主流路24の断面積が、芯材の進行方向に向けて、段階的に細くなっていることを表している。
溶融樹脂主流路24を流れる芯材は、その少なくとも一部が溶融樹脂従流路27に引き込まれ、ギアポンプ30によって流量が制御された上で、ノズルパック34に送り込まれる。このように、複数の溶融樹脂従流路27によって芯材が引き込まれる毎に、溶融樹脂主流路24の芯材の流量は減少するため、後段にあるギアポンプ30にかかる芯材の背圧は、前段のギアポンプ30にかかる背圧に比べて低くなる。このように、前段と後段でのギアポンプ30の背圧に差が生じると、それぞれの溶融樹脂従流路27に引き込まれる芯材の流量に差が生じやすくなる。個々の溶融樹脂従流路27内を流れる芯材の流量に差が生じると、複数のノズルパック34から吐出される複数のPOF8の外径にばらつきが生じやすくなる。
各ギアポンプ30にかかる背圧のばらつきを極力少なくするためには、溶融樹脂主流路24内の断面積を芯材の流れ方向に行くにしたがって細めるような流路を設けることが好ましい。これにより、複数のノズルパック34から得られるPOF8の外径にばらつきが生じにくくなり、外径の均一性の揃ったPOF8を得ることができる。溶融樹脂主流路24内の断面積の細める率は、材料、生産規模などを鑑みて適宜決定される。また、図16では、芯材に関する流路を示したが、鞘材に関しても同様の構成をとることが好ましい。
【0031】
次に、POFの製造方法について図7、8を参照して説明する。本発明で好ましく用いられるPOFの製造方法では、まず、図7に示すように、紡糸工程において、芯の原料となる樹脂を押出機2によって溶融し芯材を得る。同じく第一および第二の鞘の原料となる樹脂を押出機3、4によって溶融し、第一の鞘材と第二の鞘材とを得る。次いで、芯材、第一の鞘材、第二の鞘材を、それぞれ定量ポンプ5、6、7を用いて紡糸ヘッド9に一定の速度で供給する。
図8に示すように、紡糸ヘッド9に送り込まれた芯材、第一の鞘材、および第二の鞘材は、溶融樹脂主流路24、25、26から溶融樹脂従流路27、28、29に流れ込み、ギアポンプ30、31、32によって流量を制御された上で、ノズルパック34に送り込まれる。
芯材、第一の鞘材、および第二の鞘材は、ノズルパック34内で、複数の溶融樹脂分岐流路35、36、37に分岐して流れる。そして、溶融樹脂分岐流路35を流れる芯材は、第一の鞘材が流れる溶融樹脂分岐流路36と合流部38で合流し、芯材の周囲を第一の鞘材が覆った状態で2層構造の溶融樹脂となり、吐出口40に向けて流下する。次いで、溶融樹脂分岐流路37を流れる第二の鞘材が合流部39にて合流する。芯材の周囲を第一の鞘材で覆われた溶融樹脂は、さらにその外周に第二の鞘材を有した3層構造の状態となる。そして、この3層構造を有した溶融樹脂が、吐出口40から連続的に吐出されることにより、POF8が紡糸される。
この後、POF8は、図7に示すように、延伸処理装置10による延伸処理などが施されてから、巻き取り装置11によって巻き取られる。
【0032】
POF8の材料としては、熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、芯材にはアクリル系樹脂などの透明性の高い樹脂が好ましく用いられる。鞘材にはフッ化ビニリデン系重合体などのフッ素樹脂組成物が挙げられる。
【0033】
本発明のPOFの製造方法においては、各溶融樹脂流路の少なくとも一部にNi基合金を用いた耐蝕性に優れた紡糸ヘッドを用いているため、溶融樹脂流路の腐蝕を大幅に低減できる。したがって、溶融樹脂流路の腐蝕による金属異物の混入を大幅に低減することができ、以ってPOF8の長さ方向、および複数の吐出口40から吐出されるPOF8同士の外径の均一性の向上と、POF8の伝送損失の低減を図ることができる。また、各溶融樹脂流路の腐蝕が低減されることで、腐蝕表面での鞘材の滞留による炭化が発生しにくく、炭化鞘材の混入を大幅に低減することができ、以ってPOF8の長さ方向、および複数の吐出口40から吐出されるPOF8同士の外径の均一性の向上と、POF8の伝送損失を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の光ファイバの紡糸装置およびそれを用いた光ファイバの製造方法によると、伝送損失を低減し、かつ外径の均一性を向上させた光ファイバを製造でき、さらにはメンテナンス費用を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態例のPOFの製造装置の全体構造を示す模式図。
【図2】本発明の実施形態例の紡糸ヘッドを上面から見たときの、溶融樹脂の流れを示す模式図。
【図3】本発明の実施形態例の紡糸ヘッドを示す概略縦断面図。
【図4】本発明の実施形態例の紡糸ヘッドを下側から見た底面図。
【図5】本発明の他の実施形態例の紡糸ヘッドを下側から見た底面図。
【図6】本発明の他の実施形態例の紡糸ヘッドを示す概略縦断面図。
【図7】本発明の他の実施形態例のPOFの製造装置の全体構造を示す模式図。
【図8】本発明の他の実施形態例の紡糸ヘッドを示す概略縦断面図。
【図9】本発明の他の実施形態例の紡糸ヘッドを下側から見た底面図。
【図10】本発明の実施形態例の紡糸ヘッドの温度制御手段の配置例を示す平面図。
【図11】本発明の実施形態例の紡糸ヘッドの温度制御手段の配置例を示す平面図。
【図12】本発明の実施形態例の紡糸ヘッドの温度制御手段の配置例を示す平面図。
【図13】本発明の実施形態例の紡糸ヘッドの温度制御手段の配置例を示す平面図。
【図14】本発明の実施形態例の紡糸ヘッドの温度制御手段の配置例を示す平面図。
【図15】本発明の他の実施形態例の紡糸ヘッドを上面から見たときの、溶融樹脂の流れを示す模式図。
【図16】本発明の他の実施形態例における溶融樹脂主流路の一形態例を示す模式図。
【符号の説明】
【0036】
1、90 POFの製造装置
2、3、4 押出機
5、6、7 定量ポンプ
8 POF(光ファイバ)
9、60、80 紡糸ヘッド
12 POFの紡糸装置
20 ケース
21、22、23 溶融樹脂供給口
24、25、26 溶融樹脂主流路
27、28、29 溶融樹脂従流路
30、31、32 ギアポンプ
33 蓋体
34 ノズルパック
35、36、37 溶融樹脂分岐流路
38、39 合流部
40 吐出口
41 底面カバー
42 パックケース
43 温度制御手段
44 外径測定装置
45 外径データ信号線
46 外径変動制御装置
47 温度制御信号線




【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂供給口と、樹脂供給口から流入された溶融樹脂の流路となる溶融樹脂流路と、前記溶融樹脂流路を通過した溶融樹脂を吐出する吐出口とを有した紡糸ヘッドを備えた光ファイバの紡糸装置であって、
少なくとも前記溶融樹脂流路の一部がNi−Mo系合金、Ni−Cr−Mo系合金、Ni−Cr系合金、Ni−Cr−Mo−Fe系合金のうち、いずれか一種以上で形成されることを特徴とする光ファイバの紡糸装置。
【請求項2】
前記Ni−Cr−Mo系合金にTaが含まれることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの紡糸装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光ファイバの紡糸装置を用いた光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−13533(P2009−13533A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177326(P2007−177326)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】