説明

光ファイバの線引装置および線引方法

【課題】光ファイバの線引速度に対し、炉心管内の圧力を所定値以上の陽圧に維持して外気の巻き込みを抑制する光ファイバの線引装置と線引方法を提供する。
【解決手段】ファイバ導出口の下方にシャッター管部19を設け、ガラスファイバ12の外径を2r、シャッター管19の内径を2r、ガラスファイバ12の線引速度をV、炉心管13の下方に流れてくる不活性ガスの流量をQとしたとき、
【数1】


を満足するようにされている。なお、シャッター管の内径は5mm〜15mm、シャッター管部の長さは30mm以上500mm以下とするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用のガラス母材を加熱溶融して、光ファイバを線引きする光ファイバの線引装置および線引方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、専用の線引炉を用いて光ファイバ用ガラス母材(以下、ガラス母材という)を加熱溶融してガラスファイバを線引きし、その外面に保護被覆を施して製造される。ガラスファイバの線引きに際しては、ガラス母材が挿入される炉心管に耐熱性のあるカーボンが用いられるが、このカーボンは、高温の酸素含有雰囲気中では、酸化して消耗する。これを防止するために、炉心管内には、アルゴンガスやヘリウムガス等の希ガスや窒素ガス(以下、不活性ガス等という)が送り込まれる。
【0003】
炉心管内に送り込まれた不活性ガスの多くは、炉心管の上方から下方に向かって流れ、ガラス母材の下端から垂下して線引きされたガラスファイバと共に、ファイバ導出口から外部に放出される。この場合、ファイバ導出口が大きく開いていると外気が炉心管内に入りやすく、炉心管等カーボン部品の劣化につながる。炉心管内への外気の浸入を抑制するには多くの不活性ガスを流す必要があるが、線引炉に用いる不活性ガス等は製造コストに影響するため、できるだけその使用を抑制することが要望されている。
【0004】
このため、例えば、特許文献1には、ファイバ導出口にシャッターを設けること、また、ガラス母材の下端から垂下して線引きされた軟化状態にあるガラスファイバが、線引炉の外に出るまではある程度温度を下げて硬化された状態とするために、炉心管下端に円筒状の隔壁(下煙突とも言う)を設け、この隔壁の下端にシャッターを設けることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ガラス母材の下端の軟化形状(ネックダウン形状)に沿うように、炉心管の形状をテーパ状に縮径して、ガラス母材の下端部の不活性ガスの流れを安定させ、ガラスファイバの外径変動を抑制すると共に、テーパ状の延長筒(下煙突とも言う)のファイバ導出口に、さらに細径の口金を設けることが開示されている。
また、特許文献3には、ファイバ導出口のシャッターとして、小径の口径と該口径の10倍以上の長さを有する管状のノズルを設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2787983号公報
【特許文献2】特開平8−91862号公報
【特許文献3】特開平2−92838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
線引炉に用いる不活性ガスの使用を抑制する方法として、上記の特許文献1〜3に示すように、ファイバ導出口を細くしてガスの流出を抑制することは有効であるが、単にファイバ導出口を細めると、線引きされたガラスファイバが接触して断線するおそれがある。また、光ファイバの製造線速が高速化すると、光ファイバの導出口の内圧、光ファイバの線速等の条件によっては、外気の巻き込みが生じることがある。
【0008】
なお、特許文献2,3には、光ファイバの導出口に細径の管体を設けることが提案されているが、光ファイバの線引速度、外部に放出されるガス量との関係が明らかでなく、管体のファイバ導出口部分で、外気の巻き込みが発生するおそれがある。
【0009】
本発明は、上述した実状に鑑みてなされたもので、光ファイバの線引速度に対し、炉心管内の圧力を所定値以上の陽圧に維持して外気の巻き込みを抑制する光ファイバの線引装置と線引方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光ファイバ線引装置および線引方法は、光ファイバ用ガラス母材が挿入される炉心管と、炉心管を外部から加熱するヒータを収納する炉筐体を備え、炉心管内に不活性ガスを上方から下方に向けて流し、炉心管の下部のファイバ導出口から線引きされたガラスファイバを外部に導出すると共に、不活性ガスを外部に放出する光ファイバの線引装置および線引方法である。
そして、ファイバ導出口の下方にシャッター管部を設け、ガラスファイバの外径を2r、シャッター管の内径を2r、ガラスファイバの線引速度をV、炉心管の下方に流れてくる不活性ガスの流量をQとしたとき、
【数1】

を満足することを特徴とする。
なお、シャッター管部の内径が5mm〜15mmであり、シャッター管部の長さは、30mm以上500mm以下とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記の本発明によれば、光ファイバの線引速度が大きい場合でも、炉心管内の圧力を所定値以上の陽圧に維持して外気の巻き込みを抑制しながら、光ファイバを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で用いる光ファイバ線引炉の実施形態の一例を説明する図である。
【図2】図1の実施形態の他の例を説明する図である。
【図3】シャッター管内のガス流量と圧損を説明するための図である。
【図4】ガス流量ごとによるシャッター管の内径と圧損勾配との関係を示す図である。
【図5】シャッター管の長さごとによるガス流量と圧損との関係を示す図である。
【図6】シャッター管の内径ごとによるガス流量と圧損勾配との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1,2により本発明の光ファイバ線引装置の概略を説明する。図において、10は光ファイバ線引炉、11は光ファイバ用ガラス母材(ガラス母材)、11aはガラス母材の下端部、12はガラスファイバ、13は炉心管、14は炉筐体、15はヒータ、16は断熱材、17は延長管(下煙突)、18は炉心管受け部材、19,20はシャッター管、20aは太径部、20bはテーパ部、20cは細径部を示す。
【0014】
光ファイバの線引きは、図1に示すように、吊下げ支持されるガラス母材11の下部を加熱し、溶融された下端部11aからガラスファイバ12を溶融垂下させて所定の外径となるように線引きして行われる。このための光ファイバ線引炉10は、ガラス母材11が挿入供給される炉心管13を囲むようにして、加熱用のヒータ15を配し、このヒータ15の熱が外部に放散されないように断熱材16で囲い、その外側全体を炉筐体14で囲って構成される。
【0015】
ガラス母材11は、母材吊り機構(図示省略)により吊り下げ支持され、光ファイバの線引き進行にしたがって下方に順次移動制御される。炉筐体14は、ステンレス等の耐食性に優れた金属で形成され、中心部に高純度のカーボンで形成された円筒状の炉心管13が配される。炉心管13の酸化・劣化を防ぐために、炉心管13内には窒素、アルゴン、ヘリウム等の希ガスや窒素ガスが導入される。この不活性ガス等は、ガラス母材と炉心管13の隙間を通って、その大部分は炉心管13の下方から延長管17を経て外部に放出される。
【0016】
また、炉筐体14にも、カーボン製のヒータ15や断熱材16の酸化・劣化を防ぐために、同様に窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス等が流し込まれる。炉筐体14に流し込まれるガスは、炉心管13内に流し込まれるガスと別に制御されるが、通常、同じガスが用いられる。なお、炉筐体14の下方には、延長管(下煙突とも言う)17が、炉心管13の下端に連結される。
【0017】
延長管17は、加熱軟化しているガラスファイバ12の急冷を緩和すると同時に、ある程度冷却硬化させて外径変動を抑える機能を有している。この延長管17は、メンテナンス等の面から炉心管13とは分割可能に形成され、炉心管13と連通するように炉筐体14の下壁14aに取外し可能に取付けられる。炉心管13と延長管17との接合部は、石英等の耐熱電気絶縁材からなる炉心管受け部材18を介して炉筐体14の下壁14a上に載置する形で支持され、炉心管13と炉筐体14を電気的に絶縁し、大きな短絡事故に至らないようにしている。しかし、炉心管受け部材18は、石英に限らずカーボンを使用したり、炉心管受け部材18を用いることなく炉心管13と延長管17とを直接接合する場合もある。
【0018】
本発明は、延長管17の下端に板状のシャッター部材を設ける代わりに、図1のような形状の管であるシャッター管19を用いることを特徴としている。シャッター管19は、例えば、耐食性に優れた金属で形成することができ、後述するように内径が5mm〜15mmで均一径の管で、長さ(Ls)が30mm以上で形成される。延長管17は、このシャッター管19の内径にスムーズに連通するように、テーパ部を設けるようにしてもよいが、テーパ部を有しない形状であってもよい。
【0019】
図2は、他の実施形態を示す図で、図1の実施形態と比べて、シャッター管にテーパ部を有している点が異なる。
なお、図1、図2の炉心管13は、ガラス母材11の下端部11aの形状に沿うように縮径部13aを設けることで、下方に流れてくる不活性ガスの流れを安定にすることの他に、ヒータ15による加熱効率を高めることができる。すなわち、ガラス母材11の下端部11aより下方の炉心管を縮径することで、下方に放射される熱を遮断して省エネ化を図ることができる。
【0020】
また、縮径部13aの下方を炉心管13の上方部の径より細くした縮径管部13bとすることで、不活性ガスの流れを安定にすることができる。そして、図1の例と同様に縮径管部13bの下端に、さらに延長管17を連結する場合は、この延長管17の内径は縮径管部13bの内径と異ならせてもよいが、同じ内径とするのが好ましい。
縮径管部13bの下端または延長管17の下端には、図1の場合と同様にシャッター管が設けられるが、このシャッター管20はテーパ部を有する形状のものである。
【0021】
このテーパ部を有するシャッター管20は、例えば、太径部20a、テーパ部20b、細径部20cの3つのa,b,c部分に分け、それぞれの長さを、シャッター管の全長(Ls)の1/3ずつとする。シャッター管の内径等については、後述するように、太径部20a(内径2r’)を15mm以下、細径部20c(内径2r’’)を5mm以上とし、長さ(Ls)が30mm以上で形成される。なお、太径側が15mm以下、細径側が5mm以上の範囲であれば、均一径の太径部20a、細径部20cは無くてもよい。また、テーパ部20bの長さは全長の1/3より短くても良く、テーパ角θは、テーパ部20bの長さに応じて、0°(直管の場合)を超え90°未満とすることができる。なお、テーパ角が90°以上になると、ガスの流れが不安定になるため、90°未満とすることが望ましい。
【0022】
なお、図1,2において、シャッター管19,20は、延長管17を介して連結する例で説明したが、延長管17を用いることなく、炉心管13の下端に直接連結する構成であってもよい。また、シャッター管19,20は、延長管17と一体構造で形成されていてもよく、管形状以外に厚板を筒状にくり抜いた形状のものであってもよい。
【0023】
図3は、上述したシャッター管19,20内の不活性ガス等の流れを解析するための模式図である。図において、ガラスファイバ12は、ファイバ径が2rで、Z方向に走行速度(線速)Vで走行しているものとする。シャッター管19,20は、内径が2rで、管内には、流量Qで粘性係数μの不活性ガスが上方から下方へ流れているとする。
【0024】
そして、上記のシャッター管内で、光ファイバの移動でハーゲン・ポアズイユ流れが生じていると仮定すると、下記の理論式を用いることができる。なお、式中のPは圧力、VはZ方向の速度、rは径方向距離を示す。
【数2】

【0025】
ここで、半径rの光ファイバ表面の流体速度をV、半径rのシャッター管内径面の流体速度をゼロとすると、
【数3】

が得られる。
【0026】
シャッター管内の全体流量をQ(m/s)とすると、
【数4】

が得られる。
【0027】
これに、上記のA,Bを代入して、dP/dzで纏めると、
【数5】

となり、圧力損失(圧損)の評価式を得ることができる。
【0028】
上記の圧損評価式から、
【数6】

が得られる。この式により、圧力勾配(dP/dz)が、ゼロとなる点(クロスポイント)を求めることができる。
【0029】
このクロスポイントは、ガスの種類によらず、光ファイバの線速Vとシャッター管の内径rのみに依存し、後述する図5に示すように横軸をガス流量、縦軸を圧損とし、異なるシャッター管の長さごとに示したグラフで、管の長さに係らず一点で交わる交点Kで示される。このクロスポイントKにおけるガス流量が、シャッター管に外気が入り込まないようにする必要最低限のガス流量となる。すなわち、ガス流量をこのクロスポイントKにおけるQの値以上にすることによって、シャッター管に外気が入り込まないようにすることができる。
【0030】
一方、ガス流量Qが一定である場合、シャッター管の内径2rを小さくすることにより圧損を高め、所定の陽圧を確保することができる。図4は、横軸をシャッター管内径(mm)、縦軸を圧損勾配(Pa/m)とし、管内のガス流量を各々10,20,30(L/min)としたときのグラフである。なお、前記したように、ガス流量が少ないほどコスト的には有利であり、ガス流量を30L/min以下にすることが望ましい。図4(A)は、シャッター管内径を30mm以下で計算した例であり、図4(B)は、図(A)の領域Pの部分を拡大した図である。
【0031】
この図からシャッター管内径が15mm以下でないと、有効な圧損勾配は得られないことが判明した。また、シャッター管内の陽圧は、大気圧に対して、少なくとも5Pa以上とするのが好ましく、この陽圧確保の観点からもシャッター管内径が15mm以下とするのが望ましい。しかし、シャッター管内径は、小さいほど大きな圧損勾配を得られるが、あまり小さいと光ファイバと接触するおそれがあり、最小のシャッター管内径は、経験的に5mm以上とするのが望ましい。
【0032】
図5は、横軸をガス流量(L/min)、縦軸を圧損(Pa)とし、シャッター管の内径10mmを一定とし、長さ(Ls)を各々0,30,50,100,200,500(mm)としたときのグラフである。
この図から、シャッター管の内径が一定で、長さも一定なら、ガス流量を増加させることで圧損を大きくすることができることがわかる。一方、シャッター管の内径が一定で、ガス流量が一定なら、シャッター管の長さを増加させることで、圧損を大きくすることができる。そして、例えば、圧損10Paを得るのに、シャッター管無し(Ls=0)の場合は、ガス流量を24L/min必要とするのに対し、シャッター管有り(Ls=500mm)の場合は、ガス流量が7L/minでよいことになる。すなわち、この場合、シャッター管を付けることにより、17L/minのガス流量を減らすことが可能となる。
【0033】
シャッター管の長さLsは、例え短くても、全く付けない場合(Ls=0mm)よりは、圧損の増加を期待することができる。例えば、炉心管内の陽圧を、大気圧に対して+5Pa以上を確保するには、図5のグラフからシャッター管の長さLs=30mm程度であれば、ガス流量12L/min以上流せばよく、これにより、Ls=0mmのガス流量に比べてガス流量を1/3程度削減することが期待される。したがって、シャッター管の長さLsは、少なくとも30mm以上とすることが好ましい。
【0034】
一方、シャッター管をあまり長くすると、設備や光ファイバに振動(例えば地震)などが生じた場合に、シャッター管と光ファイバとが接触するおそれがある。また、長いシャッター管は線引装置の高さ方向の距離を必要とするため、設備的な面から制約を受ける。このため、シャッター管の長さは、経験的には500mm以下とするのが望ましい。
【0035】
図6は、横軸をガス流量(L/min)、縦軸を圧損勾配(Pa/m)とし、シャッター管の内径(2r)を各々5,10,15(mm)としたときのグラフである。
図6は、図4において、望ましいシャッター管の内径を5mm〜15mmとしたので、これの圧損勾配とガス流量の関係を示したものであり、シャッター管の内径を一定とすると、圧損勾配はガス流量に比例して増加する。
なお、図2に示したテーパ部を有するシャッター管においては、例えば、テーパの細径側の内径を10mm、太径側の内径を15mmとし、テーパ部の長さが全長の1/3とした場合、内径10mm管と15mm管の中間付近を通るグラフを、テーパ管の圧損勾配とすることができる。
【符号の説明】
【0036】
10…光ファイバ線引炉、11…ガラス母材、11a…ガラス母材の下端部、12…ガラスファイバ、13…炉心管、13a…縮径部、13b…縮径管部、14…炉筐体、15…ヒータ、16…断熱材、17…延長管、18…炉心管受け部材、19,20…シャッター管、20a…太径部、20b…テーパ部、20c…細径部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ用ガラス母材が挿入される炉心管と、前記炉心管を外側から加熱するヒータを収納する炉筐体とを備え、前記炉心管内に不活性ガスを上方から下方に向けて流し、前記炉心管の下部のファイバ導出口から線引きされたガラスファイバを外部に導出すると共に、前記不活性ガスを外部に放出する光ファイバの線引装置であって、
前記ファイバ導出口の下方にシャッター管部を設け、
前記ガラスファイバの外径を2r、前記シャッター管の内径を2r、前記ガラスファイバの線引速度をV、前記炉心管の下方に流れてくる不活性ガスの流量をQとしたとき、
【数1】

を満足することを特徴とする光ファイバの線引装置。
【請求項2】
前記シャッター管部の内径が5mm〜15mmであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの線引装置。
【請求項3】
前記シャッター管部の長さが30mm以上500mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバの線引装置。
【請求項4】
光ファイバ用ガラス母材が挿入される炉心管と、前記炉心管を外側から加熱するヒータを収納する炉筐体とを備え、前記炉心管内に不活性ガスを上方から下方に向けて流し、前記炉心管の下部のファイバ導出口から線引きされたガラスファイバを外部に導出すると共に、前記不活性ガスを外部に放出する光ファイバの線引方法であって、
前記ファイバ導出口の下方にシャッター管部を設け、
前記ガラスファイバの外径を2r、前記シャッター管の内径を2r、前記ガラスファイバの線引速度をV、前記炉心管の下方に流れてくる不活性ガスの流量をQとしたとき、
【数1】

を満足することを特徴とする光ファイバの線引方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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