光ファイバを用いた振動センサ
【課題】広い帯域、特に低周波側の帯域をカバーしうる振動センサを提供する。
【解決手段】光ファイバ1は、入力端11と、周回部12と、出力端13とを備える。入力端11には、コヒーレントな光が入力される。周回部12は、入力端11と出力端13との間に配置される。周回部12は、光ファイバ1を積層して周回することで構成される。周回部12には、入力端11から入力された光が通過する。出力端13からは、周回部12を通過した光が出力される。検出部2は、入力端11に入力された光と、出力端13から出力された光との間における、光としての周波数変化を検出する。これにより、周回部12に加えられた振動を検出することができる。光ファイバ1としては、ホーリーファイバが用いられている。
【解決手段】光ファイバ1は、入力端11と、周回部12と、出力端13とを備える。入力端11には、コヒーレントな光が入力される。周回部12は、入力端11と出力端13との間に配置される。周回部12は、光ファイバ1を積層して周回することで構成される。周回部12には、入力端11から入力された光が通過する。出力端13からは、周回部12を通過した光が出力される。検出部2は、入力端11に入力された光と、出力端13から出力された光との間における、光としての周波数変化を検出する。これにより、周回部12に加えられた振動を検出することができる。光ファイバ1としては、ホーリーファイバが用いられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを通過する光の波長変化を用いて振動を検出できるセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、光ファイバを用いた振動測定装置が記載されている。この装置においては、光ファイバを湾曲させることで、この光ファイバに湾曲部を形成している。この湾曲部を被測定部位に取り付けた後、光ファイバの入力端にコヒーレント光を入力する。光ファイバへの入力光は、湾曲部を通って光ファイバの出力端から出力される。湾曲部を通る光の周波数(光としての周波数)は、湾曲部に加わる振動に対応して変化する。そこで、入力光と出力光との間の周波数変化を検出することにより、湾曲部に加えられた振動を測定することができる。この方法によれば、微少な振動を、広い周波数帯域にわたって測定することができるという利点がある。また、この方法では、湾曲部の長さを長くすることにより、振動計測におけるS/N比を向上させることもできる。
【0003】
このような原理を用いた振動計測の応用例として、地中における岩盤の振動計測がある。岩盤における微少振動を計測することにより、岩盤の変位や異常を検知することが可能になる。このような技術は、例えば、岩盤中に構築されたLPG(Liquefied Petroleum Gas)用貯蔵槽の建設時における空洞安定性の評価や、操業中の保全や、監視のために応用できると考えられる。
【0004】
この場合は、ボーリングで形成した孔を用いて、湾曲部を岩盤中に埋設し、湾曲部に加わる振動を計測する。このような応用例では、地中の微少振動を計測するために、高いS/N比が求められる。また、ボーリング孔の径が小さいために、湾曲部を小型にする必要がある。
【特許文献1】WO2003/2956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、岩盤での微少振動として検出されるべき周波数の帯域は、花崗岩における空洞掘削時において、およそ、30kHz〜120kHzであるといったデータが得られている。岩盤中での微少振動は、変位や微小亀裂の発生・進展などの要因によって部分的に破壊された岩盤から、破壊音として発生するものであると考えられる。この破壊音の帯域が、前記した範囲にあると考えられている。
【0006】
しかしながら、従来の、光ファイバを用いた振動計測装置では、前記帯域をカバーすることが難しいという問題があった。
【0007】
また、一般の光通信などに用いられている光ファイバでは、光ファイバにおけるコア/クラッドの比屈折率差が小さい。このため、曲げ半径10mmで光ファイバを曲げると、光透過損失値が1ターンで約1dB増加する。よって、従来の光ファイバを用いた場合は、振動センサの大きさを小さくすることが困難であった。
【0008】
光ファイバの曲げ損失値を小さくするためには、光ファイバにおけるコア/クラッドの比屈折率差を大きくすることは有効である。しかしながら、このような構造を持つ光ファイバを、一般の光通信に用いられている光ファイバと接続する場合は、接続損失値が大きくなり、振動センサで検出した出力光信号が小さくなるという問題があった。
【0009】
本発明は、前記のような状況に鑑みてなされたものである。本発明は、岩盤の振動計測に必要な帯域をカバーしうる振動センサを提供しようとするものである。
【0010】
また、本発明における他の目的は、小型でかつ光損失値の小さい振動センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の項目に記載の内容としてそれぞれ表現できる。
【0012】
(項目1)
光ファイバと、検出部とを備えており、
前記光ファイバは、入力端と、周回部と、出力端とを備えており、
前記入力端には、コヒーレントな光が入力される構成となっており、
前記周回部は、前記入力端と前記出力端との間に配置されており、
かつ、前記周回部は、前記光ファイバを積層して周回することで構成されており、
さらに、前記周回部には、前記入力端から入力された光が通過するように構成されており、
前記出力端からは、前記周回部を通過した前記光が出力される構成となっており、
前記検出部は、前記入力端に入力された光と、前記出力端から出力された光との間における、光としての周波数変化を検出することにより、前記周回部に加えられた振動を検出する構成となっており、
前記周回部を構成する光ファイバとして、ホーリーファイバが用いられている
ことを特徴とする振動センサ。
【0013】
ここで、ホーリーファイバとは、コアと、クラッドと、コアの周囲に形成された空孔と、クラッドの外側に設けられた被覆層とを備えたものである。
【0014】
このような構成を備えたことにより、計測可能な振動の周波数帯域を広げることができる。
【0015】
(項目2)
前記光ファイバにおける前記入力端に入力される光は、コヒーレント光である、項目1に記載の振動センサ。
【0016】
コヒーレント光とは、位相が実質的にそろった光のことであり、例えばレーザ光源から放出される。光の波長は、特に限定されないが、光の伝送距離を延ばすためには、1300nm〜1600nmの範囲とすることが好ましい。
【0017】
(項目3)
前記周回部が、略円柱状に形成されている、項目1又は2に記載の振動センサ。
【0018】
(項目4)
前記周回部の軸心近傍が中空とされている、項目3に記載の振動センサ。
【0019】
(項目5)
項目1〜4のいずれか1項に記載の振動センサを用いて振動を検出する、振動検出方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、広い帯域での振動計測が可能な振動センサを提供することが可能となる。
【0021】
また、ホーリーファイバを用いているので、振動センサを小さくすることが可能であり、さらには、光損失値の小さい振動センサを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る振動センサの一実施形態を説明する。
【0023】
(実施形態に係る振動センサの構成)
本実施形態の振動センサは、光ファイバ1と、検出部2とを備えている(図1参照)。この基本的な構成は、前記した特許文献1に記載の技術と同様である。
【0024】
光ファイバ1は、入力端11と、周回部12と、出力端13とを備えている。入力端11には、検出部2から、コヒーレントな光が入力される構成となっている。ここでコヒーレントな光とは、振動計測に必要な程度に位相が揃っている光をいう。コヒーレントな光は、例えばレーザー光源から放出することができる。
【0025】
周回部12は、入力端11と出力端13との間に配置されている(図1参照)。また、周回部12は、光ファイバ1を、周回部12の厚さ方向(図3において上下方向)に積層して周回することで構成されている(図2〜図4参照)。ここで、周回部12の厚さ方向とは、周回部12の軸方向という意味である。周回部12を形成することにより、光ファイバ1に、湾曲した部分(湾曲部)が形成される。周回部12は、入力端11から入力された光が通過するようになっている。また、周回部12の周囲には、周回状態を保持できるように、接着剤(例えばエポキシ系の接着剤)が塗布されている。
【0026】
また、本実施形態の周回部12は、略円柱状に形成されている。さらに、周回部12の軸心近傍は、中空とされている。光ファイバ1における中空部分の内径は、好ましくは約10mmである。これ以下の内径であると、光ファイバ1の機械的強度(曲げに対する強度)に鑑みて、光伝送が難しくなる可能性がある。また、周回部12を小さくするためには、中空部分の内径を小さくすることが望まれる。したがって、中空部分の内径は、光伝送に支障の無い範囲で、できるだけ小さくすることが好ましいと考えられる。
【0027】
光ファイバ1の出力端13からは、周回部12を通過した光が出力される構成となっている。
【0028】
検出部2は、光ファイバ1の入力端11に入力された光と、出力端13から出力された光との間における、光としての周波数変化を検出する。検出部2は、これにより、周回部12に加えられた振動を検出する構成となっている。この検出の原理は、前記した特許文献1に記載された技術と同様である。
【0029】
また、本実施形態に係る光ファイバ1としては、ホーリーファイバが用いられている(図5参照)。これにより、本実施形態では、周回部12がホーリーファイバにより構成されている。
【0030】
ホーリーファイバは、いわゆる空孔アシスト構造を有している。本実施形態の光ファイバ1は、コア15と、クラッド16と、コア15の周囲に形成された複数の空孔17と、クラッドの外側に設けられた被覆層18とを備えている。コア15は、クラッド16よりも高い屈折率を有している。また、空孔17は、の部分の屈折率はほぼ1となっている。
【0031】
一般的な光ファイバでは、コア部分の屈折率と、クラッド部分の屈折率差によって光伝送特性が得られる。一方、ホーリーファイバの場合、空孔17の存在によって、コア15の周囲におけるクラッド16の実効屈折率が、クラッド16の材料自体の屈折率よりも小さくなる。このため、コア/クラッドの比屈折率差が大きくなり、ファイバの曲げによっても光損失が増加しない構造を得ることができる。
【0032】
また、ホーリーファイバにおけるコア/クラッドの構造寸法は、一般的な光ファイバのコア/クラッド構造と同等の寸法とすることができる。このため、この実施形態によれば、光ファイバどうしを接続しても、その接続損失値を小さくすることができる。
【0033】
被覆層18の材質としては、この実施形態では、紫外線硬化アクリル樹脂が用いられている。
【0034】
なお、前記の例では、光ファイバ1の全体をホーリーファイバで構成したが、周回部12のみをホーリーファイバで構成し、他の部分を通常の光ファイバで構成することも可能である。光ファイバどうしを接続する手段は既によく知られているので、説明を省略する。
【0035】
(振動センサの動作)
本実施形態の振動センサの使用に際しては、周回部12を、振動計測すべき箇所に配置する。このとき、振動計測部位から周回部12に振動が伝達するように、両者を適宜な固定手段(例えば接着剤,接着テープ,グリース等)で固定することが好ましい。この状態で、光ファイバ1の入力端11から光を入力すると、この光は、周回部12を、光ファイバ1の周回に従って周回しながら通過する。その後、この光は、光ファイバ1の出力端13から出力される。
【0036】
周回部12に振動が伝達されると、周回部12を通過する光の周波数(あるいは波長)は、振動に対応して変化する。この周波数の変化を検出部2で検出することにより、周回部12に加えられた振動を計測することができる。
【0037】
この計測においては、光の周波数変動を用いているので、光ファイバを通過する光の強度変化を用いた振動センサに比べて、微少な振動を精度良く計測することができるという利点がある。また、ピエゾ素子を用いた振動センサに比較すると、本実施形態の振動センサには、広帯域での高精度の振動計測が可能になるという利点がある。
【0038】
また、本実施形態では、周回部12を構成する光ファイバ1としてホーリーファイバを用いたので、計測可能な振動の周波数帯域(特に低周波側の帯域)を広げることができるという利点がある。具体的な実施例は後述する。
【0039】
(振動センサ用の保護ケースの構成例)
つぎに、本実施形態の振動センサにおける周回部12を収納する保護ケース3について説明する。この保護ケースは、本体31と、蓋32と、保護管33とを備えている(図6及び図7参照)。
【0040】
本体31には、周回部12を内部に収納する凹部311が形成されている。また、本体31の側面には、周回部12から入力端11及び出力端13への光ファイバ1を通過させる穴312が形成されている。
【0041】
蓋32は、凹部311の開口面をふさぐように構成されている。蓋32と本体31とは、例えばボルトなどの適宜な固定手段で固定されるようになっている。蓋32と本体31との間は、Oリングなどのシール部材でシールされることが好ましい。
【0042】
保護管33は、本体31の穴312に接続されており、穴312から外部に延びる光ファイバ1を内部に収納するようになっている。
【0043】
凹部311の内面に周回部12を取り付けるには、両者を接着剤などの固定手段で固定することが好ましい。保護ケース3を用いた場合には、保護ケース3によって周回部12に伝達された振動を計測することができる。
【0044】
(実験例)
次に、本実施形態に係る振動センサを用いた実験例を説明する。
【0045】
まず、実験装置を図8に基づいて説明する。ここでは、試験片4として、鉄製のブロック(大きさ:80cm×80cm×40cm)を用いている。試験片4には、前記実施形態で説明した周回部12を取り付ける。取付状態としては、周回部12の端面が試験片4の表面と平行になるように取り付ける。取付の方法としては、接着剤による接着が好ましいが、特に限定されない。検出部2で検出された振動は、デジタルオシログラフ5で表示できるようになっている。
【0046】
試験片4には、発振器6により、予め設定した振動が加えられるようになっている。発振器6から加えた振動もデジタルオシログラフ5で表示できる。
【0047】
また、この実験例では、検証のため、ピエゾ素子(PZT)7を試験片4に取り付けて振動計測を行った。ピエゾ素子7の出力は、アンプ8を介してデジタルオシログラフ5に送られる。このピエゾ素子7は、ほぼ30kHzに共振点を持つものである。
【0048】
さらに、比較例として、従来の光ファイバを用いた振動センサを用いて振動計測を行った。比較例の詳細は後述する。
【0049】
結果を図9に示す。このグラフの横軸は振動の周波数(kHz)、縦軸は受波電圧感度(dB)を表している。このグラフにおける線の意味は以下の通りである。
・実線に■の印:ピエゾ素子(PZT)を用いたAEセンサで取得した、振動の発振強度、
・破線:比較例の振動センサによる感度(dB)、
・実線:本実施形態を用いた実験例の振動センサによる感度(dB)。
【0050】
ここで、比較例及び実験例の構成は以下の通りである。
【0051】
(比較例の構成)
光ファイバ:ホーリーファイバではない通常のファイバを使用、
ファイバ用の被覆:ポリイミド樹脂、
ファイバ長:65m、
被覆部の外径150μm、
周回部の形状:内径8mm、外径19.2mm、厚さ6mm、
比較例における他の構成は実験例と同様とした。
【0052】
(実験例の構成)
光ファイバ:ホーリーファイバを使用、
ファイバ用の被覆:紫外線硬化アクリル樹脂、
ファイバ長:80m、
被覆部の外径210μm、
周回部の形状:内径10mm、外径28.9mm、厚さ6mm。
【0053】
図9に示す結果から判るように、実験例の振動センサ(図中において実線)を用いた場合には、比較例に比べて、特に30kHz〜80kHzの帯域において、感度が大幅に向上している。
【0054】
また、本実施形態の振動センサでは、ホーリーファイバを用いているので、周回部12における曲げ損失が少ないという利点もある。
【0055】
さらに、本実施形態の振動センサでは、ホーリーファイバを用いているので、広い帯域で低損失の光伝送が可能になるという利点もある。
【0056】
なお、本発明に係る振動センサは、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0057】
例えば、前記実施形態では、周回部12を保護ケース3に収納するものとしたが、これに限るものではなく、用途によっては、保護ケース3を省略することができる。例えば、周回部12を計測部位に直接取り付けてもよい。
【0058】
また、前記実施形態では、地中の振動を計測する例を説明したが、機械部品や橋梁の振動を計測するなど、地中以外の振動を計測することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態における振動センサの全体的な構成を示す説明図である。
【図2】図1に示す周回部の拡大平面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】図2に示す周回部の斜視図である。
【図5】図1に示す光ファイバの拡大横断面図である。
【図6】保護ケースの一例を示す概略的な要部断面図であって、蓋を開いた状態の図である。
【図7】図6の概略的な平面図であって、蓋を省略した状態の図である。
【図8】実験例で用いた実験装置を説明するためのブロック図である。
【図9】実験例で得られた結果を示すグラフであって、横軸は振動の周波数(kHz)、縦軸は受波電圧感度(dB)を示している。
【符号の説明】
【0060】
1 光ファイバ
11 入力端
12 周回部
13 出力端
15 コア
16 クラッド
17 空孔
18 被覆層
2 検出部
3 保護ケース
31 本体
311 凹部
312 穴
32 蓋
33 保護管
4 試験片
5 デジタルオシログラフ
6 発振器
7 ピエゾ素子
8 アンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを通過する光の波長変化を用いて振動を検出できるセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、光ファイバを用いた振動測定装置が記載されている。この装置においては、光ファイバを湾曲させることで、この光ファイバに湾曲部を形成している。この湾曲部を被測定部位に取り付けた後、光ファイバの入力端にコヒーレント光を入力する。光ファイバへの入力光は、湾曲部を通って光ファイバの出力端から出力される。湾曲部を通る光の周波数(光としての周波数)は、湾曲部に加わる振動に対応して変化する。そこで、入力光と出力光との間の周波数変化を検出することにより、湾曲部に加えられた振動を測定することができる。この方法によれば、微少な振動を、広い周波数帯域にわたって測定することができるという利点がある。また、この方法では、湾曲部の長さを長くすることにより、振動計測におけるS/N比を向上させることもできる。
【0003】
このような原理を用いた振動計測の応用例として、地中における岩盤の振動計測がある。岩盤における微少振動を計測することにより、岩盤の変位や異常を検知することが可能になる。このような技術は、例えば、岩盤中に構築されたLPG(Liquefied Petroleum Gas)用貯蔵槽の建設時における空洞安定性の評価や、操業中の保全や、監視のために応用できると考えられる。
【0004】
この場合は、ボーリングで形成した孔を用いて、湾曲部を岩盤中に埋設し、湾曲部に加わる振動を計測する。このような応用例では、地中の微少振動を計測するために、高いS/N比が求められる。また、ボーリング孔の径が小さいために、湾曲部を小型にする必要がある。
【特許文献1】WO2003/2956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、岩盤での微少振動として検出されるべき周波数の帯域は、花崗岩における空洞掘削時において、およそ、30kHz〜120kHzであるといったデータが得られている。岩盤中での微少振動は、変位や微小亀裂の発生・進展などの要因によって部分的に破壊された岩盤から、破壊音として発生するものであると考えられる。この破壊音の帯域が、前記した範囲にあると考えられている。
【0006】
しかしながら、従来の、光ファイバを用いた振動計測装置では、前記帯域をカバーすることが難しいという問題があった。
【0007】
また、一般の光通信などに用いられている光ファイバでは、光ファイバにおけるコア/クラッドの比屈折率差が小さい。このため、曲げ半径10mmで光ファイバを曲げると、光透過損失値が1ターンで約1dB増加する。よって、従来の光ファイバを用いた場合は、振動センサの大きさを小さくすることが困難であった。
【0008】
光ファイバの曲げ損失値を小さくするためには、光ファイバにおけるコア/クラッドの比屈折率差を大きくすることは有効である。しかしながら、このような構造を持つ光ファイバを、一般の光通信に用いられている光ファイバと接続する場合は、接続損失値が大きくなり、振動センサで検出した出力光信号が小さくなるという問題があった。
【0009】
本発明は、前記のような状況に鑑みてなされたものである。本発明は、岩盤の振動計測に必要な帯域をカバーしうる振動センサを提供しようとするものである。
【0010】
また、本発明における他の目的は、小型でかつ光損失値の小さい振動センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の項目に記載の内容としてそれぞれ表現できる。
【0012】
(項目1)
光ファイバと、検出部とを備えており、
前記光ファイバは、入力端と、周回部と、出力端とを備えており、
前記入力端には、コヒーレントな光が入力される構成となっており、
前記周回部は、前記入力端と前記出力端との間に配置されており、
かつ、前記周回部は、前記光ファイバを積層して周回することで構成されており、
さらに、前記周回部には、前記入力端から入力された光が通過するように構成されており、
前記出力端からは、前記周回部を通過した前記光が出力される構成となっており、
前記検出部は、前記入力端に入力された光と、前記出力端から出力された光との間における、光としての周波数変化を検出することにより、前記周回部に加えられた振動を検出する構成となっており、
前記周回部を構成する光ファイバとして、ホーリーファイバが用いられている
ことを特徴とする振動センサ。
【0013】
ここで、ホーリーファイバとは、コアと、クラッドと、コアの周囲に形成された空孔と、クラッドの外側に設けられた被覆層とを備えたものである。
【0014】
このような構成を備えたことにより、計測可能な振動の周波数帯域を広げることができる。
【0015】
(項目2)
前記光ファイバにおける前記入力端に入力される光は、コヒーレント光である、項目1に記載の振動センサ。
【0016】
コヒーレント光とは、位相が実質的にそろった光のことであり、例えばレーザ光源から放出される。光の波長は、特に限定されないが、光の伝送距離を延ばすためには、1300nm〜1600nmの範囲とすることが好ましい。
【0017】
(項目3)
前記周回部が、略円柱状に形成されている、項目1又は2に記載の振動センサ。
【0018】
(項目4)
前記周回部の軸心近傍が中空とされている、項目3に記載の振動センサ。
【0019】
(項目5)
項目1〜4のいずれか1項に記載の振動センサを用いて振動を検出する、振動検出方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、広い帯域での振動計測が可能な振動センサを提供することが可能となる。
【0021】
また、ホーリーファイバを用いているので、振動センサを小さくすることが可能であり、さらには、光損失値の小さい振動センサを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る振動センサの一実施形態を説明する。
【0023】
(実施形態に係る振動センサの構成)
本実施形態の振動センサは、光ファイバ1と、検出部2とを備えている(図1参照)。この基本的な構成は、前記した特許文献1に記載の技術と同様である。
【0024】
光ファイバ1は、入力端11と、周回部12と、出力端13とを備えている。入力端11には、検出部2から、コヒーレントな光が入力される構成となっている。ここでコヒーレントな光とは、振動計測に必要な程度に位相が揃っている光をいう。コヒーレントな光は、例えばレーザー光源から放出することができる。
【0025】
周回部12は、入力端11と出力端13との間に配置されている(図1参照)。また、周回部12は、光ファイバ1を、周回部12の厚さ方向(図3において上下方向)に積層して周回することで構成されている(図2〜図4参照)。ここで、周回部12の厚さ方向とは、周回部12の軸方向という意味である。周回部12を形成することにより、光ファイバ1に、湾曲した部分(湾曲部)が形成される。周回部12は、入力端11から入力された光が通過するようになっている。また、周回部12の周囲には、周回状態を保持できるように、接着剤(例えばエポキシ系の接着剤)が塗布されている。
【0026】
また、本実施形態の周回部12は、略円柱状に形成されている。さらに、周回部12の軸心近傍は、中空とされている。光ファイバ1における中空部分の内径は、好ましくは約10mmである。これ以下の内径であると、光ファイバ1の機械的強度(曲げに対する強度)に鑑みて、光伝送が難しくなる可能性がある。また、周回部12を小さくするためには、中空部分の内径を小さくすることが望まれる。したがって、中空部分の内径は、光伝送に支障の無い範囲で、できるだけ小さくすることが好ましいと考えられる。
【0027】
光ファイバ1の出力端13からは、周回部12を通過した光が出力される構成となっている。
【0028】
検出部2は、光ファイバ1の入力端11に入力された光と、出力端13から出力された光との間における、光としての周波数変化を検出する。検出部2は、これにより、周回部12に加えられた振動を検出する構成となっている。この検出の原理は、前記した特許文献1に記載された技術と同様である。
【0029】
また、本実施形態に係る光ファイバ1としては、ホーリーファイバが用いられている(図5参照)。これにより、本実施形態では、周回部12がホーリーファイバにより構成されている。
【0030】
ホーリーファイバは、いわゆる空孔アシスト構造を有している。本実施形態の光ファイバ1は、コア15と、クラッド16と、コア15の周囲に形成された複数の空孔17と、クラッドの外側に設けられた被覆層18とを備えている。コア15は、クラッド16よりも高い屈折率を有している。また、空孔17は、の部分の屈折率はほぼ1となっている。
【0031】
一般的な光ファイバでは、コア部分の屈折率と、クラッド部分の屈折率差によって光伝送特性が得られる。一方、ホーリーファイバの場合、空孔17の存在によって、コア15の周囲におけるクラッド16の実効屈折率が、クラッド16の材料自体の屈折率よりも小さくなる。このため、コア/クラッドの比屈折率差が大きくなり、ファイバの曲げによっても光損失が増加しない構造を得ることができる。
【0032】
また、ホーリーファイバにおけるコア/クラッドの構造寸法は、一般的な光ファイバのコア/クラッド構造と同等の寸法とすることができる。このため、この実施形態によれば、光ファイバどうしを接続しても、その接続損失値を小さくすることができる。
【0033】
被覆層18の材質としては、この実施形態では、紫外線硬化アクリル樹脂が用いられている。
【0034】
なお、前記の例では、光ファイバ1の全体をホーリーファイバで構成したが、周回部12のみをホーリーファイバで構成し、他の部分を通常の光ファイバで構成することも可能である。光ファイバどうしを接続する手段は既によく知られているので、説明を省略する。
【0035】
(振動センサの動作)
本実施形態の振動センサの使用に際しては、周回部12を、振動計測すべき箇所に配置する。このとき、振動計測部位から周回部12に振動が伝達するように、両者を適宜な固定手段(例えば接着剤,接着テープ,グリース等)で固定することが好ましい。この状態で、光ファイバ1の入力端11から光を入力すると、この光は、周回部12を、光ファイバ1の周回に従って周回しながら通過する。その後、この光は、光ファイバ1の出力端13から出力される。
【0036】
周回部12に振動が伝達されると、周回部12を通過する光の周波数(あるいは波長)は、振動に対応して変化する。この周波数の変化を検出部2で検出することにより、周回部12に加えられた振動を計測することができる。
【0037】
この計測においては、光の周波数変動を用いているので、光ファイバを通過する光の強度変化を用いた振動センサに比べて、微少な振動を精度良く計測することができるという利点がある。また、ピエゾ素子を用いた振動センサに比較すると、本実施形態の振動センサには、広帯域での高精度の振動計測が可能になるという利点がある。
【0038】
また、本実施形態では、周回部12を構成する光ファイバ1としてホーリーファイバを用いたので、計測可能な振動の周波数帯域(特に低周波側の帯域)を広げることができるという利点がある。具体的な実施例は後述する。
【0039】
(振動センサ用の保護ケースの構成例)
つぎに、本実施形態の振動センサにおける周回部12を収納する保護ケース3について説明する。この保護ケースは、本体31と、蓋32と、保護管33とを備えている(図6及び図7参照)。
【0040】
本体31には、周回部12を内部に収納する凹部311が形成されている。また、本体31の側面には、周回部12から入力端11及び出力端13への光ファイバ1を通過させる穴312が形成されている。
【0041】
蓋32は、凹部311の開口面をふさぐように構成されている。蓋32と本体31とは、例えばボルトなどの適宜な固定手段で固定されるようになっている。蓋32と本体31との間は、Oリングなどのシール部材でシールされることが好ましい。
【0042】
保護管33は、本体31の穴312に接続されており、穴312から外部に延びる光ファイバ1を内部に収納するようになっている。
【0043】
凹部311の内面に周回部12を取り付けるには、両者を接着剤などの固定手段で固定することが好ましい。保護ケース3を用いた場合には、保護ケース3によって周回部12に伝達された振動を計測することができる。
【0044】
(実験例)
次に、本実施形態に係る振動センサを用いた実験例を説明する。
【0045】
まず、実験装置を図8に基づいて説明する。ここでは、試験片4として、鉄製のブロック(大きさ:80cm×80cm×40cm)を用いている。試験片4には、前記実施形態で説明した周回部12を取り付ける。取付状態としては、周回部12の端面が試験片4の表面と平行になるように取り付ける。取付の方法としては、接着剤による接着が好ましいが、特に限定されない。検出部2で検出された振動は、デジタルオシログラフ5で表示できるようになっている。
【0046】
試験片4には、発振器6により、予め設定した振動が加えられるようになっている。発振器6から加えた振動もデジタルオシログラフ5で表示できる。
【0047】
また、この実験例では、検証のため、ピエゾ素子(PZT)7を試験片4に取り付けて振動計測を行った。ピエゾ素子7の出力は、アンプ8を介してデジタルオシログラフ5に送られる。このピエゾ素子7は、ほぼ30kHzに共振点を持つものである。
【0048】
さらに、比較例として、従来の光ファイバを用いた振動センサを用いて振動計測を行った。比較例の詳細は後述する。
【0049】
結果を図9に示す。このグラフの横軸は振動の周波数(kHz)、縦軸は受波電圧感度(dB)を表している。このグラフにおける線の意味は以下の通りである。
・実線に■の印:ピエゾ素子(PZT)を用いたAEセンサで取得した、振動の発振強度、
・破線:比較例の振動センサによる感度(dB)、
・実線:本実施形態を用いた実験例の振動センサによる感度(dB)。
【0050】
ここで、比較例及び実験例の構成は以下の通りである。
【0051】
(比較例の構成)
光ファイバ:ホーリーファイバではない通常のファイバを使用、
ファイバ用の被覆:ポリイミド樹脂、
ファイバ長:65m、
被覆部の外径150μm、
周回部の形状:内径8mm、外径19.2mm、厚さ6mm、
比較例における他の構成は実験例と同様とした。
【0052】
(実験例の構成)
光ファイバ:ホーリーファイバを使用、
ファイバ用の被覆:紫外線硬化アクリル樹脂、
ファイバ長:80m、
被覆部の外径210μm、
周回部の形状:内径10mm、外径28.9mm、厚さ6mm。
【0053】
図9に示す結果から判るように、実験例の振動センサ(図中において実線)を用いた場合には、比較例に比べて、特に30kHz〜80kHzの帯域において、感度が大幅に向上している。
【0054】
また、本実施形態の振動センサでは、ホーリーファイバを用いているので、周回部12における曲げ損失が少ないという利点もある。
【0055】
さらに、本実施形態の振動センサでは、ホーリーファイバを用いているので、広い帯域で低損失の光伝送が可能になるという利点もある。
【0056】
なお、本発明に係る振動センサは、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0057】
例えば、前記実施形態では、周回部12を保護ケース3に収納するものとしたが、これに限るものではなく、用途によっては、保護ケース3を省略することができる。例えば、周回部12を計測部位に直接取り付けてもよい。
【0058】
また、前記実施形態では、地中の振動を計測する例を説明したが、機械部品や橋梁の振動を計測するなど、地中以外の振動を計測することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態における振動センサの全体的な構成を示す説明図である。
【図2】図1に示す周回部の拡大平面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】図2に示す周回部の斜視図である。
【図5】図1に示す光ファイバの拡大横断面図である。
【図6】保護ケースの一例を示す概略的な要部断面図であって、蓋を開いた状態の図である。
【図7】図6の概略的な平面図であって、蓋を省略した状態の図である。
【図8】実験例で用いた実験装置を説明するためのブロック図である。
【図9】実験例で得られた結果を示すグラフであって、横軸は振動の周波数(kHz)、縦軸は受波電圧感度(dB)を示している。
【符号の説明】
【0060】
1 光ファイバ
11 入力端
12 周回部
13 出力端
15 コア
16 クラッド
17 空孔
18 被覆層
2 検出部
3 保護ケース
31 本体
311 凹部
312 穴
32 蓋
33 保護管
4 試験片
5 デジタルオシログラフ
6 発振器
7 ピエゾ素子
8 アンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、検出部とを備えており、
前記光ファイバは、入力端と、周回部と、出力端とを備えており、
前記入力端には、光が入力される構成となっており、
前記周回部は、前記入力端と前記出力端との間に配置されており、
かつ、前記周回部は、前記光ファイバを積層して周回することで構成されており、
さらに、前記周回部には、前記入力端から入力された光が通過するように構成されており、
前記出力端からは、前記周回部を通過した前記光が出力される構成となっており、
前記検出部は、前記入力端に入力された光と、前記出力端から出力された光との間における、光としての周波数変化を検出することにより、前記周回部に加えられた振動を検出する構成となっており、
前記周回部を構成する光ファイバとして、ホーリーファイバが用いられている
ことを特徴とする振動センサ。
【請求項2】
前記光ファイバにおける前記入力端に入力される光は、コヒーレント光である、請求項1に記載の振動センサ。
【請求項3】
前記周回部が、略円柱状に形成されている、請求項1又は2に記載の振動センサ。
【請求項4】
前記周回部の軸心近傍が中空とされている、請求項3に記載の振動センサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動センサを用いて振動を検出する、振動検出方法。
【請求項1】
光ファイバと、検出部とを備えており、
前記光ファイバは、入力端と、周回部と、出力端とを備えており、
前記入力端には、光が入力される構成となっており、
前記周回部は、前記入力端と前記出力端との間に配置されており、
かつ、前記周回部は、前記光ファイバを積層して周回することで構成されており、
さらに、前記周回部には、前記入力端から入力された光が通過するように構成されており、
前記出力端からは、前記周回部を通過した前記光が出力される構成となっており、
前記検出部は、前記入力端に入力された光と、前記出力端から出力された光との間における、光としての周波数変化を検出することにより、前記周回部に加えられた振動を検出する構成となっており、
前記周回部を構成する光ファイバとして、ホーリーファイバが用いられている
ことを特徴とする振動センサ。
【請求項2】
前記光ファイバにおける前記入力端に入力される光は、コヒーレント光である、請求項1に記載の振動センサ。
【請求項3】
前記周回部が、略円柱状に形成されている、請求項1又は2に記載の振動センサ。
【請求項4】
前記周回部の軸心近傍が中空とされている、請求項3に記載の振動センサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動センサを用いて振動を検出する、振動検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2009−300221(P2009−300221A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154171(P2008−154171)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(504066081)株式会社レーザック (11)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(504066081)株式会社レーザック (11)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【Fターム(参考)】
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