説明

光ファイバカプラによる測定方法及び光ファイバカプラセンサ

【課題】 融着延伸領域にかかる応力が変化すると透過スペクトルが変化する光ファイバカプラの特性を有効に利用した、新規な測定方法、センサを提供する。
【解決手段】 光ファイバカプラ10が架設されたケース11に、ねじ機構12で外側から歪を与え、光ファイバカプラの融着延伸領域10aにかかる応力を間接的に変化させる。光ファイバカプラ10が破損、破断する虞れなく、光ファイバカプラの透過スペクトルを任意に調整することが可能になる為、センシングに適した波長を光ファイバカプラ毎に選択する必要がなくなり、固定した波長で精度良く測定を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバカプラを用いた測定方法と、光ファイバカプラセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムにおいて光を分岐・合流するデバイスとして、光ファイバカプラが従来から知られている。光ファイバカプラは、通常、2本の光ファイバを接触させ加熱溶融・延伸して、これら2本の光ファイバ間に結合を生じさせることにより作製される。
【0003】
光ファイバカプラの融着延伸領域では、伝播光の一部がエバネッセント光としてファイバ外部にしみ出すため、外部屈折率により出力特性が変化することが知られており、センサへの応用が検討されている。
【0004】
例えば、非特許文献1(Sensor and Materials, Vol.14, No6(2002)339-345)には、延伸する長さが変わると特定波長での透過強度が変化する(透過スペクトルがシフトする)ことが開示されている。
【0005】
非特許文献2(J.Bures, S.Lacroix, C.Veilleux, and J.Lapierre,“Some particular properties of monomode fused fiber couplers,”Appl. Opt., Vol.23, Issue 7, pp.968-969, 1984.)には、光ファイバカプラの出力特性が外部屈折率に依存することが示されており、これにより、光ファイバカプラ単体で屈折率センサとして適用できることが考えられる。
【0006】
特許文献1(D.W.Gerdt and J.C.Herr,“Fiber optic evanescent wave sensor for immunoassay,”US Patent 5,494,798, 1996.)には、カプラ融着部表面に生体分子を吸着することにより、イムノアッセイを検出できることが開示されている。
【0007】
【非特許文献1】Sensor and Materials, Vol.14, No6(2002)339-345
【非特許文献2】J.Bures, S.Lacroix, C.Veilleux, and J.Lapierre,“Some particular properties of monomode fused fiber couplers,”Appl. Opt., Vol.23, Issue 7, pp.968-969, 1984.
【特許文献1】米国特許5,494,798公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、光ファイバカプラは、融着延伸領域を作製する際に、透過スペクトルの波長依存性にばらつきが発生する為、固定波長の光で測定を行うと感度にばらつきが生じる虞れがある。よって、センサに応用する場合、センシングに適した波長を光ファイバカプラ毎に選択しなければならないという問題がある。
【0009】
一方、光ファイバカプラは、融着延伸領域にかかる応力が変化すると透過スペクトルが変化する。これを利用して、融着延伸領域に圧力、張力をかけるなどして透過スペクトルを調整することも考えられるが、光ファイバカプラは脆弱なものであるから、融着延伸領域に直接圧力、張力等が加えられると破損、破断する虞れがある。
【0010】
本発明はこのような従来事情に鑑みて成されたもので、その目的とする処は、融着延伸領域にかかる応力が変化すると透過スペクトルが変化するという光ファイバカプラの特性を有効に利用した、新規な測定方法およびセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の目的を達成するために、本発明に係る測定方法は、内部に光ファイバカプラが架設されたケースに外力により歪を与え、前記光ファイバカプラの融着延伸領域にかかる応力を間接的に変化させて、前記光ファイバカプラによる透過スペクトルを調整することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る光ファイバカプラセンサは、ケースと、前記ケース内に架設された光ファイバカプラと、前記ケースに外側から歪を与える調整手段と、を備え、
前記調整手段により前記ケースに歪を与えて前記光ファイバカプラの融着延伸領域にかかる応力を調整可能に形成したことを特徴とする。
【0013】
前記ケースに外側から歪を与える調整手段として、例えば、ねじ機構や圧電素子などをあげることができる。
【0014】
前記光ファイバカプラの融着延伸領域にかかる応力を効率的に変化させることを考慮すれば、前記ケースに外側から歪を与える調整手段が前記光ファイバカプラの融着延伸領域の中心近傍に配設されていることが良く、また、前記光ファイバカプラの融着延伸領域が前記ケースの中心部に配設されていることが好ましい。
【0015】
また、前記調整手段により前記ケースに歪を与えて前記光ファイバカプラの融着延伸領域にかかる応力をより確実、簡便に調整できるようにする為に、前記ケースへの歪付与を補助する支点を備えると良い。
【0016】
本発明が対象とする被測定物として、例えば、前記ケース内に充填される流体物や、前記ケース内を流動する流体物をあげることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明は、光ファイバカプラが固定されたケースに歪を与え、光ファイバカプラの融着延伸領域にかかる応力を間接的に変化させるので、光ファイバカプラが破損、破断するような虞れなく、光ファイバカプラによる透過スペクトルを任意に調整することが可能になる。よって、センシングに適した波長を光ファイバカプラ毎に選択する必要がなくなり、固定した波長で精度良く測定を行うことができるなど、多くの効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態例を図面に基づいて説明する。
図1は光ファイバカプラセンサを用いた測定装置の概略図で、図中、1は光ファイバカプラセンサ、2はレーザ光源(LD)、3は受光器(PD)、4は受光器3からの出力信号を増幅して検出する検出器を表す。
【0019】
図2は光ファイバカプラセンサ1の概略断面図で、光ファイバカプラセンサ1は、光ファイバカプラ10の融着延伸領域10aにかかる応力を間接的に変化させて、光ファイバカプラ10による透過スペクトルを調整可能に構成されている。
【0020】
具体的には、内ケース11と、この内ケース11内に架設された光ファイバカプラ10と、内ケース11に外側から歪を与える調整手段12と、この調整手段12が設置された外ケース13と、を備え、調整手段12により内ケース11に歪を与えて、光ファイバカプラ10の融着延伸領域10aにかかる応力を調整し得るようになっている。
【0021】
本例の光ファイバカプラ10は、ガラスファイバ部の外径125μmの2本のシングルモード光ファイバ15,16からなり、これら光ファイバ15,16における所定長さ領域は保護被覆を除去されガラスファイバ部15a,16aが露出している。そして、この露出したガラスファイバ部15a,16aの中央部分が互いに平行に密接した状態で加熱溶融・延伸され、融着延伸領域10aが形成されている。
融着延伸領域10aの長さは、本例では15mm程度である。また、断面形状は円形ではないが、そのガラス径は平均直径で0.15mm程度である。
なお、融着延伸領域10aにおけるガラスファイバ部15a,16a同士の結合度は、加熱溶融・延伸の際の延伸量により変わるので、光パワーメータ等を用いて結合度をモニタしながら延伸を行う。
【0022】
このように作製された光ファイバカプラ10は、図3に示すように、モニタしながら作製しても透過スペクトルにばらつきが発生する。本発明においては、光ファイバカプラ10を用いて屈折率や免疫反応等を測定する際に、光源となる半導体レーザー2の中心波長を固定して、屈折率変化に伴う波長シフトを光ファイバカプラ10の透過光量変化として検出する。そのため、光ファイバカプラ10の透過スペクトルにばらつきがあると感度にばらつきが生じる。従って、光ファイバカプラ10に透過スペクトルを調整する必要がある。
【0023】
光ファイバカプラ10は、機械的保護を兼ねて内ケース11に収納され、その長さ方向両端を、内ケース11の相対向する面部に接着剤17により接着固定され、内ケース11の長さ方向または幅方向に沿って架設され、融着延伸領域10aが内ケース11の中心部に配設されている。
【0024】
内ケース11は、所定部分を開口するケースで、その開口は蓋(不図示)を接着して閉鎖されている。内ケース11および蓋は、種々の材料で形成することができるが、石英ガラス、セラミック、シリコン、各種樹脂材料などで形成すると良い。
内ケース11の具体例としては、シリコン製で、光ファイバカプラ10の収納凹部となる溝を有し、その溝断面が幅0.7×高さ0.7mmで、ケース全長が60mmである細長の方形ケースとすることができる。蓋は同じくシリコン製とし、厚さ0.8mm、幅2mm、長さ40mmの板状のものを用いることができる。
【0025】
内ケース11は、剛性のある外ケース13に収容され、台座14で固定される。
外ケース13には、内ケース11に外力により歪を与える調整手段としてのねじ機構12が設置されている。
【0026】
ねじ機構12は、外ケース13の底面中央部に螺動進退可能に装着された微調整用のねじからなり、光ファイバカプラ10の融着延伸領域10aの中心近傍に位置していて、その螺動進退により内ケース11に外側から歪を与え、融着延伸領域10aにかかる応力を間接的に変化させる。
【0027】
なお、内ケース11に外力により歪を与える調整手段として、圧電素子、マイクロメータなどを用いることもできる。
被測定物としては、内ケース11内に充填される流体物や、内ケース11内を流動する流体物をあげることができる。これら被測定物は、内ケース11に設けた不図示の供給口から内ケース11内に充填される。また、流動する流体物を被測定物とする場合は、内ケース11に設けた不図示の供給口と排出口により内ケース11内を流動可能とすることができる。
【0028】
以上の構成になる本例の光ファイバカプラセンサによれば、内ケース11内に被測定物を充填または流動させると共に、ねじ機構12の操作で内ケース11に歪を与え、光ファイバカプラの融着延伸領域10aにかかる応力を間接的に変化させて、光ファイバカプラ10による透過スペクトルを、光源2からの波長に合わせて適宜調整することで、精度よく測定を行うことができる。
【0029】
次に、前述した光ファイバカプラセンサ1の変形例を、図4及び図5に基づき説明する。
この例の光ファイバカプラセンサ1は、流動する流体物を被測定物とするもので、内ケース11に設けた供給口20と排出口21により内ケース11内を流動可能としてある。
また、光ファイバカプラ10の長さ方向両端は、内ケース11における相対向する面部の内側の底部に対し、光ファイバ15,16の保護被覆部分を接着剤17により接着固定され、内ケース11の長さ方向または幅方向に沿って架設され、融着延伸領域10aが内ケース11の中心部に配設されている。
【0030】
また、内ケース11と外ケース13の間には、調整手段(ねじ機構)12の操作による内ケース11への歪付与をより確実、簡便に行えるよう、支点22,23が複数個所に配設されている。支点22,23はゴムや合成樹脂等の弾性材からなり、内ケース11を外ケース13内にて弾性的に支持している。
【0031】
それ以外の構成要素および作用効果については、前述した実施形態例と同様のため、図中に同一の符号を付すなどして重複する説明を一部省略する。
なお、前述した各実施形態例においては、ケース内に架設する光ファイバカプラ10の向きを、2本のシングルモード光ファイバ15,16が上下に位置する場合について示したが、光ファイバ10の設置方向はこれに限定されず、例えば、2本のシングルモード光ファイバ15,16が左右に位置する向きに光ファイバ10を配設するなど、任意に設定することができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態例を図面に基づいて説明したが、本発明は図示例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態例を示す概略図。
【図2】図1における光ファイバカプラセンサを簡略して示す拡大断面図。
【図3】光ファイバカプラの透過スペクトルのばらつきを表すグラフ。
【図4】光ファイバカプラセンサの他例を簡略して示す拡大断面図。
【図5】図4における光ファイバカプラの調整状態を示す拡大断面図。
【符号の説明】
【0034】
1:光ファイバカプラセンサ
2:光源
3:受光器
4:検出器
10:光ファイバカプラ
10a:融着延伸領域
11:内ケース(ケース)
12:ねじ機構(調整手段)
13:外ケース
15,16:保護被覆付きの光ファイバ
15a,16a:ガラスファイバ部
17:接着剤
22,23:支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に光ファイバカプラが架設されたケースに外力により歪を与え、前記光ファイバカプラの融着延伸領域にかかる応力を間接的に変化させて、前記光ファイバカプラによる透過スペクトルを調整することを特徴とする光ファイバカプラによる測定方法。
【請求項2】
ケースと、前記ケース内に架設された光ファイバカプラと、前記ケースに外側から歪を与える調整手段と、を備え、
前記調整手段により前記ケースに歪を与えて前記光ファイバカプラの融着延伸領域にかかる応力を調整可能に形成したことを特徴とする光ファイバカプラセンサ。
【請求項3】
前記ケースに外側から歪を与える調整手段としてねじ機構を備えたことを特徴とする請求項2記載の光ファイバカプラセンサ。
【請求項4】
前記ケースに外側から歪を与える調整手段として圧電素子を備えたことを特徴とする請求項2記載の光ファイバカプラセンサ。
【請求項5】
前記ケースに外側から歪を与える調整手段が、前記光ファイバカプラの融着延伸領域の中心近傍に配設されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか記載の光ファイバカプラセンサ。
【請求項6】
前記ケースへの歪付与を補助する支点を備えたことを特徴とする請求項2〜5のいずれか記載の光ファイバカプラセンサ。
【請求項7】
被測定物が前記ケース内に充填される流体物、または、前記ケース内を流動する流体物であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか記載の光ファイバカプラセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−36659(P2009−36659A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201845(P2007−201845)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】