説明

光ファイバテープ心線の分割工具

【課題】分割作業時に発生する光ファイバの伝送損失が小さく、かつ作業性が良好な分割工具を得る。
【解決手段】対象とする光ファイバテープ心線3は、横一列に配列した複数の光ファイバ素線1をテープ化材となる硬化型接着樹脂2で連結してテープ状に一体化したものであり、隣接する2つの光ファイバ素線同士を連結している連結接着樹脂2が、互いに隣接する2つの光ファイバ素線1の対向外周面間に形成される略V溝状隙間7に充填されたものであり、かつ、前記2つの光ファイバ素線1の外周面に接する共通接線L(L’)より外側に飛び出る突出高さhを有している構造である。テープ厚み方向両側に配置した2つの例えば板状部材5、6により光ファイバテープ心線3の所望の箇所の連結接着樹脂2部分にテープ厚み方向から圧力を加えて、前記連結接着樹脂2を素線外周面から剥離させ例えば単心線に分割する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光ファイバテープ心線を単心光ファイバに、あるいは必要とする適宜心数の光ファイバに分割するための光ファイバテープ心線の分割工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば光加入者網において、幹線等の光ケーブルから光ファイバテープ心線を取り出して加入者側に引き落とす場合、通常光ファイバテープ心線を1心あるいは少心数の光ファイバ心線に分割する作業が必要となる。その作業においては、光ファイバテープ心線を構成する複数の光ファイバを傷付けることなく分割することが重要である。
また、活線の光ファイバテープ心線を活線状態のまま分割する必要が生じた場合には、単に光ファイバを傷付けないというだけでなく、光ファイバに作用した曲げや側圧によって一時的にでも伝送損失が生じて信号が乱れることもないことが求められる。
【0003】
光ファイバテープ心線は一般に、横1列に並べた複数の光ファイバ素線の全周にテープ化材となるUV樹脂を塗布して構成している。このような構成の光ファイバテープ心線を単心分割(単心線に分割)するには、光ファイバ素線の全周を覆っているUV樹脂被覆を除去する必要がある。
光ファイバテープ心線を分割する工具として、特許文献1〜3などの分割工具がある。
特許文献1の分割工具は、多数の短い可撓性線材をブラシ状に植え込んだ可撓性線材付き分割工具であり、光ファイバテープ心線を擦ることで外被のUV樹脂被覆を剥ぎ取って分割する。
【0004】
特許文献2の光ファイバテープ心線の分割工具は、高分子樹脂製の略円形の複数の突起を持つ分割工具であり、この分割工具の前記複数の突起をテープ心線の上下面に当接させてテープ心線を長手方向にしごくことで、外被のテープ化樹脂を剥ぎ取って、複数の単心光ファイバに分割(単心分割と呼ぶ)するというものである。
【0005】
特許文献3の光ファイバテープ心線の分割工具は、相対的にスライド可能に相接している移動分割部材と固定分割部材とで光ファイバテープ心線を保持し、移動分割部材をスライドさせることで、光ファイバテープ心線における移動分割部材と固定分割部材との境界位置にせん断力を与えて、光ファイバ素線間の境界面で分割するものである。
そして、その状態で分割工具を光ファイバテープ心線の長手方向にスライドさせることにより、所要の長さの分割が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−148270
【特許文献2】特開2007−183515
【特許文献3】特開平8−327829
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の可撓性線材付き分割工具、あるいは特許文献2の多数の樹脂製突起付き分割工具では、テープ心線を擦ってあるはしごいて外被のテープ化樹脂を剥ぎ取る際に、光ファイバに曲がりが加わり易く、分割作業時に光ファイバに一時的にでも大きな伝送損失が生じる恐れがある。
また、テープ化材を剥ぎ取るまで、何度もテープ心線を擦ったりしごいたりしなければならず、単心分割に時間がかかり、作業性が良好でないという問題もある。
【0008】
特許文献3の分割工具は、テープ心線にせん断力を与えて分割する際、テープ心線の幅方向位置が少しでもずれると、分割しようとする光ファイバ素線境界面の位置からずれた位置にせん断力が作用して、光ファイバ素線に傷を与える恐れがある。
また、1回の分割作業でのせん断個所は一箇所のみであり、テープ心線を2分割することしかできないので、テープ心線を単心分割したい場合には2段階あるいはそれ以上の複数段階の分割作業をしなければならず、単心分割には不向きである。
また、分割作業後にテープ化樹脂が光ファイバ心線の周囲に残ってしまうので、それを除去する必要がある場合に、その処理に手間がかかる場合もある。
【0009】
本発明は上記従来の欠点を解消するためになされたもので、分割作業により光ファイバを傷付ける恐れがないだけでなく、分割作業時に発生する光ファイバの伝送損失が小さく、また1段階の分割作業で単心分割させることが可能であり、また分割作業を短時間で行うことができて作業性が良好な光ファイバテープ心線の分割工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1の発明は、横一列に密接して配列した複数の光ファイバ素線をテープ化材となる硬化型接着樹脂で連結してテープ状に一体化した光ファイバテープ心線における隣接する2つの光ファイバ素線同士を連結している連結接着樹脂が、互いに隣接する2つの光ファイバ素線の対向外周面間に形成される略V溝状隙間に充填されたものであり、かつ、前記2つの光ファイバ素線の外周面に接する共通接線より外側に飛び出る突出高さhを有している光ファイバテープ心線について、この光ファイバテープ心線を複数単位に分割するための光ファイバテープ心線分割工具であって、
分割しようとする光ファイバテープ心線における所望の箇所の連結接着樹脂部分にテープ厚み方向から圧力を加えてその連結接着樹脂を光ファイバ素線外周面から剥離させることが可能なテープ厚み方向両側の一対の部材を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2は、請求項1の光ファイバテープ心線の分割工具において、前記一対の部材が、光ファイバテープ心線を互いに平行な状態で挟持可能な一対の板状部材であり、前記一対の板状部材を互いに接近可能に支持する支持部材を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項3は、請求項2の光ファイバテープ心線の分割工具において、前記支持部材が、基端部で一体結合して弾性的に互いに接近離間可能な、少なくとも先端側では概ね互いに平行な一対の板バネであり、この板バネの先端部に前記板状部材を固定したことを特徴とする。
【0013】
請求項4は、請求項2又は3の光ファイバテープ心線の分割工具において、前記2つの板状部材の間の接近限度を光ファイバ素線外径と同程度に規制するストッパを設けたことを特徴とする。
【0014】
請求項5は、請求項2〜4の光ファイバテープ心線の分割工具において、前記2つの板状部材に、当該分割工具により光ファイバ素線から剥離させようとする連結接着樹脂の位置に合わせた突起部を形成したことを特徴とする。
【0015】
請求項6は、請求項1の光ファイバテープ心線の分割工具において、前記一対の部材が、それぞれの回転軸が互いに平行でかつ相対的に互いに接近離間可能に対向する一対のローラであり、両ローラ間に配した光ファイバテープ心線を適宜の圧力で挟持できるようにローラに接近方向の荷重を印加する荷重印加手段を備え、両ローラで光ファイバテープ心線を挟持した状態で光ファイバテープ心線を引き抜くことが可能にされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光ファイバテープ心線の分割工具において、隣接する2つの光ファイバ素線を連結している連結接着樹脂の部分にテープ厚み方向両側の部材で挟持してテープ厚み方向から圧力を加えると、連結接着樹脂が光ファイバ素線の外周面から剥離し、当該連結接着樹脂を介して連結している光ファイバ素線同士の連結が解除され、その箇所で光ファイバテープ心線が分割される。
この場合、光ファイバ素線同士を連結している連結接着樹脂が両光ファイバ素線の共通接線より外側に飛び出る突出高さhを有するので、連結接着樹脂に圧力が作用する。そして、連結接着樹脂が、隣接する2つの光ファイバ素線の対向外周面間に形成される略V溝状隙間に充填されたものであり先端形状が略V字形で鋭角をなすので、圧力を受けて押し込まれた連結接着樹脂は、その両側の光ファイバ素線を左右に押し広げるように作用し、光ファイバ素線の外周面から容易に剥離する。
特に、請求項6の分割工具では、剥離させようとする連結接着樹脂の位置に合わせた突起部で連結接着樹脂に圧力を加えるので、圧力が集中し易く、連結接着樹脂を効果的に剥離させることができる。
【0017】
また、連結接着樹脂に圧力を加えて光ファイバ素線の外周面から剥離させることで分割するのものであるから、光ファイバ素線に側圧が作用することは少ない。
したがって、光ファイバ素線が分割作業により単に傷付かないというだけでなく、活線状態の光ファイバテープ心線を分割する場合でも、分割作業時に発生する伝送損失は極めて少なく済む。分割作業時に発生する伝送損失の平均値も少ないし、最大伝送損失も少ない。
また、テープ厚み方向両側の2つの部材で光ファイバテープ心線を挟持するという操作を1回するだけで、分割を行うことができるので、何度もテープ心線を擦ったりしごいたりする必要のある従来工具と比べて、作業性が良好であり、分割作業時間を大幅に短縮できる。
光ファイバテープ心線を複数単位に分割する場合でも、1回の分割作業で所望の分割単位に分割をすることができるので、テープ心線にせん断力を与えて分割する作業を複数回行う必要のあるせん断力負荷式の従来工具と比較して、はるかに作業性が良好であり、特に単心分割に好適である。
また、連結接着樹脂が光ファイバ素線から剥離するので、分割作業後にテープ化樹脂が光ファイバ心線の周囲に残ってしまうせん断力負荷式の従来工具と異なり、それを除去する必要がある場合にその処理に手間がかかるといいう問題もない。
【0018】
請求項2の分割工具によれば、光ファイバテープ心線を互いに平行な状態で挟持可能な一対の板状部材とこの一対の板状部材を互いに接近可能に支持する支持部材とからなる極めて簡単な構成で、テープ心線の分割が可能となる。
請求項6の分割工具によれば、テープ心線を両ローラで挟持して引き抜く操作だけで所望長さ部分の分割が可能であり、手で広げて引き裂く操作が不要なので、テープ心線分割の作業性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の光ファイバテープ心線の分割工具の一実施例を説明する図であり、(a)は4心の光ファイバテープ心線を単心分割するために分割工具にセットした状態、(b)は単心分割した状態を示す。
【図2】光ファイバテープ心線を分割する光ファイバテープ心線の分割工具のさらに具体的な一実施例を示すもので、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【図3】図2の分割工具において上下の板状部材間に両者の間隔を規制するストッパを設けた実施例を示す側面図である。
【図4】光ファイバテープ心線を分割する光ファイバテープ心線の分割工具の他の実施例を示す斜視図である。
【図5】図4の分割工具におけるローラ部分を拡大した側面図である。
【図6】本発明の光ファイバテープ心線の分割工具の他の実施例を説明する図であり、(a)は4心の光ファイバテープ心線を2つの2心光ファイバに分割するために分割工具にセットした状態、(b)は2心光ファイバに分割した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施した光ファイバテープ心線の分割工具について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の光ファイバテープ心線の分割工具の一実施例を説明する図である。
対象とする光ファイバテープ心線は、図1(a)に示すように、横一列に密接して配列した複数本(図示例では4本)の光ファイバ素線1をテープ化材となる硬化型接着樹脂2で連結してテープ状に一体化した長尺の光ファイバテープ心線3である。
隣接する2つの光ファイバ素線1同士を連結している連結接着樹脂2は、互いに隣接する2つの光ファイバ素線1のテープ上下面それぞれの側における(すなわち図1では上下における)対向外周面間に形成される略V溝状隙間7に充填されたものであり、かつ、テープ上下面それぞれの側で前記2つの光ファイバ素線1の外周面に接する共通接線L(L’)より外側に飛び出る突出高さhを有している。なお、各連結接着樹脂2は、互いに隣接する2つの光ファイバ素線1だけに接触しており、3つの光ファイバ素線2に跨ってはいない。また、テープ心線の上面のみ、または下面のみ、上下面交互に連結用樹脂があるだけでも良い。
この構造の光ファイバテープ心線を、場合により分割型テープ心線と呼ぶ。
また、光ファイバテープ心線一般を、場合によりテープ心線と略して呼ぶ。
テープ化材となる硬化型接着樹脂としては、UV樹脂(紫外線硬化樹脂)が好適であるが、放射線、電子線等による他のエネルギ線硬化樹脂、あるいは、熱により硬化する熱硬化樹脂を用いることができる。要するに、硬化した後は圧力で変形することが少なく、受けた圧力を光ファイバ素線との接着面に伝達して剥離を生じ得る硬さを持つ接着剤であればよい。
実施例の光ファイバ素線1は、直径125μmの裸ファイバにUV樹脂被覆を施した直径250μmのいわゆるUV素線である。但し、光ファイバ素線1の外径及び被覆材質はこれに限定されない。
【0022】
図示例では、前記4心の光ファイバテープ心線(分割型テープ心線)3を単心分割、すなわち4本の光ファイバ素線1に分割するものであり、分割操作としては、テープ厚み方向両側に配置した2つの板状部材5,6で光ファイバテープ心線3を適宜の力で挟んで、光ファイバテープ心線3にテープ厚み方向から圧力を加える。ここでは2つの板状部材5、6が分割工具10を構成する。
2つの光ファイバ素線1を連結している連結接着樹脂2は、両光ファイバ素線1の共通接線L(L’)より外側に飛び出しているので、上下の板状部材5、6で光ファイバテープ心線3を挟持し圧力を加えたとき、板状部材5,6の圧力は各連結接着樹脂2に作用する。
そして、連結接着樹脂2が、隣接する2つの光ファイバ素線1の対向外周面間の略V溝状隙間7に充填されたものであり先端形状が略V字形で鋭角をなすので、圧力を受けた連結接着樹脂2は、その両側の光ファイバ素線1の対向外周面間に押し込まれて両光ファイバ素線1を左右に押し広げるように作用し、その結果、図1(b)のように、左右の光ファイバ素線1の外周面から剥離する。これにより、連結接着樹脂2を介して連結している光ファイバ素線1同士の連結が解除され、それらの各箇所で光ファイバテープ心線3が光ファイバ素線1毎に分割(単心分割)される。
【0023】
この分割工具によれば、連結接着樹脂2に圧力を加えて光ファイバ素線1の外周面から剥離させることで分割するのものであるから、光ファイバ素線1に側圧が作用することは少ない。
したがって、光ファイバ素線1が分割作業により単に傷付かないというだけでなく、活線状態の光ファイバテープ心線を分割する場合でも、分割作業時に発生する伝送損失は極めて少なく済む。
また、テープ厚み方向両側の2つの部材で光ファイバテープ心線を挟持するという操作を1回するだけで、分割を行うことができるので、何度もテープ心線を擦ったりしごいたりする必要のある従来工具と比べて、作業性が良好であり、分割作業の時間を大幅に短縮できる。
また、上記の通り、光ファイバテープ心線3を複数単位に分割(実施例では4つの光ファイバ素線1に分割)する場合でも、1回の分割作業で所望の分割単位に分割をすることができるので、テープ心線にせん断力を与えて分割する作業を複数回行う必要のあるせん断力負荷式の従来工具と比較して、はるかに作業性が良好であり、実施例のような単心分割に好適である。
また、連結接着樹脂2が光ファイバ素線1から剥離するので、分割作業後にテープ化樹脂が光ファイバ心線の周囲に残ってしまうせん断力負荷式の従来工具と異なり、それを除去する必要がある場合にその処理に手間がかかるという問題もない。
【実施例2】
【0024】
上述の光ファイバテープ心線の分割工具のさらに具体的な実施例を図2に示す。図2(a)は斜視図、図2(b)は側面図である。
この分割工具11は、基端部12cで一体結合して弾性的に互いに接近離間可能な一対の板バネ片12a、12bからなる板バネ12と、各板バネ片12a、12bの先端側(図2で左側)の内側面に固定された板状部材5、6とからなる。
板バネ12は2つの板状部材5、6を支持する支持部材を構成する。
板状部材5、6の材質は一定の硬さを持つものであれば、プラスチックでも金属でもよい。
【0025】
上記の分割工具11を手で持ち、上下の板状部材5、6間に光ファイバテープ心線3を配置し、上下の板バネ片12a、12bを適宜の力で挟み付けて、光ファイバテープ心線3にテープ厚み方向から圧力を加える。
これにより光ファイバテープ心線3が単心分割されることは、図1について前述した通りである。
この場合、光ファイバテープ心線3が板状部材5、6の幅Wであるテープ心線長手方向の範囲で単心分割されるのみであるが、一定の長さ部分で単心分割されておれば、その分割部から裂き広げて、さらに長い範囲に亘る単心分割をすることができる。
なお、図示例の板バネ12は基端部12cで繋がっている一体物の板バネであるが、別部材の連結部材にそれぞれの板バネ片の基端部を固定した構造としてもよい。
【実施例3】
【0026】
図3に示した分割工具11Aは、図2の分割工具11における下側の板状部材6に、2つの板状部材5、6の間の接近限度を光ファイバ素線外径と同程度に規制するストッパ8を設けたものである。図示例のストッパ8は、下側の板状部材6の内側面に設けた、光ファイバ素線1の直径250μm程度の微小高さの突起であり、250μm程度のギャップgが形成される
この分割工具12Aによれば、上下の板状部材5、6間の最小ギャップgが規定されるので、光ファイバ素線1に過剰な側圧が加わることは防止される。
【0027】
上記図3の分割工具11Aで4心の分割型テープ心線(図1の光ファイバテープ心線3)を単心分割した際に発生する伝送損失(分割時伝送損失)を測定した測定結果について説明する。
板状部材5、6の幅Wは10mmである。上下の板状部材5、6の最小ギャップgは、ストッパ8の高さ約250μm(光ファイバ素線1の直径)程度である。
上述のように、分割型テープ心線3の長手方向の1箇所をこの分割工具11Aで挟んで、単心分割した。単心分割された分割部の長さは板状部材5、6の幅Wの約10mm程度となる。この分割部を手で広げて引き裂きさらに長い範囲を単心分割した。
比較例に用いた光ファイバテープ心線は、分割型テープ心線と同じ4本の光ファイバ素線に、薄い一括被覆を被せてテープ化した4心の従来型の光ファイバテープ心線である。このテープ心線について、光ファイバ素線同士を連結するテープ化材(薄い一括被覆)を、多数の可撓性性線材をブラシ状に植設した可撓性線材付き分割工具で剥ぎ取って単心分割する時の分割時伝送損失を測定した。
【表1】

【0028】
本発明の分割工具11Aで行った結果は、分割工具11Aでテープ心線に圧力を加えて分割した時すなわち側圧印加時の伝送損失は、最大値でも約0.04dB程度であり、平均値では殆んどゼロであった。
また、分割部を裂き広げた時の分割時伝送損失は、最大値でも約0.19dB程度、平均値では0.03dB程度であった。
これに対して、可撓性線材を用いた分割工具で行った結果は、テープ化材剥ぎ取り時の伝送損失は、最大値で約0.8dB、平均値では約0.4dBであった。このように大きな伝送損失が生じたのは、分割工具の可撓性線材でテープ心線を擦る際、光ファイバ素線に曲げが加わってしまったことによると思われる。
このように、本発明の分割工具11Aによる分割作業の際に生じる分割時伝送損失は、従来工具による場合と比較し非常に小さいことがわかる。このように伝送損失が小さいのは、2枚の板状部材5、6で挟持するだけであるので、テープ心線に曲げが加わることがないことが大きく寄与している。
また、2枚の板状部材5、6間にストッパ8を設けて、光ファイバ素線1の直径と同程度のギャップgを設けているので、光ファイバ素線1を過剰に挟み過ぎることがなく、光ファイバ素線1にかかる側圧が規制されていることも寄与している。
【0029】
また、分割作業に要した時間を測定した。
表2に示すように、上記図3のギャップ付き分割工具11Aで4心の分割型テープ心線(図1の光ファイバテープ心線3)を単心分割した場合と、比較例として前記撓性線材付き分割工具で従来型テープ心線を単心分割した場合とである。
従来型テープ心線を可撓性線材付き分割工具で単心分割した場合、分割工具で数回〜十数回テープ心線を擦らなければならないので、30〜60秒程度の時間がかかった。
これに対して、分割工具11Aで側圧分割型テープ3を単心分割した場合、15秒未満で単心分割することができた。この場合は、分割工具11Aでテープ心線3の一箇所に圧力を加えて連結接着樹脂2を光ファイバ素線1から剥離させ後、手でその剥離部から裂き広げるだけであり、短時間で分割処理を行える。
【表2】

【実施例4】
【0030】
図4に本発明の分割工具の他の実施例を示す。
この実施例の分割工具21はローラタイプである。すなわち、それぞれの中心軸22a、23aが互いに平行でかつ相対的に互いに接近離間可能に対向する一対のローラ22、23と、両ローラ22、23間に配した光ファイバテープ心線(分割型テープ心線)3に両ローラ22、23で挟持して適宜の圧力を印加するための荷重印加手段24とを備えている。
図示例では、一方のローラ22はその中心軸22aを共通ベース25に直接固定した位置固定の固定ローラであり、中心軸22aを中心として遊転する。
他方のローラ23は、共通ベース25に前記一方のローラ22側に向かってガイド26に沿ってスライド可能に設けたスライドベース27にその中心軸23aを固定した可動ローラであり、中心軸23aを中心として遊転する。
図示例では荷重印加手段24として、前記可動ローラ23を設けたスライドベース26を固定ローラ22側に向けて付勢する圧縮コイルバネ24を設けている(図示の構造は模式的な構造である)。
また、可動ローラ23には、図5に拡大して示すように、固定ローラ22との間に光ファイバ素線1の直径250μm程度のギャップgを残すための微小高さの鍔部23bを設けている。この鍔部23bは、両ローラ22,23の接近限度を光ファイバ素線外径と同程度に規制するストッパとして機能する。
【0031】
上記の分割工具21で光ファイバテープ心線(分割型テープ心線)3を単心分割する場合、スライドベース27を固定ローラ22から離して図示略の係止手段で係止し、その状態でテープ心線3を図示のようにローラ22、23間に配した後、係止手段を解除すると、テープ心線3は圧縮コイルバネ24aの付勢力で挟持され、連結接着樹脂2に圧力が印加される。
この時、テープ心線3の両ローラ22、23で挟持された部分における、略V形をなしている連結接着樹脂2が、その両側の光ファイバ素線1の対向外周面間に押し込まれて両光ファイバ素線1を左右に押し広げるように作用し、その結果、左右の光ファイバ素線1の外周面から剥離する。これにより、当該連結接着樹脂2を介して連結している光ファイバ素線1同士の連結が解除され、その箇所でテープ心線3が分割される。
次いで、テープ心線3を矢印のように引き抜くと、これに追随して両ローラ22、23がテープ心線3に圧力を印加した状態のまま回転し、連結接着樹脂2を連続的に光ファイバ素線1の外周面から剥離させ、テープ心線3を単心分割する。
この分割工具21によれば、テープ心線3を両ローラ22、23で挟持して引き抜く操作だけで所望長さ部分の単心分割が可能であり、手で広げて引き裂く操作が不要なので、単心分割に要する時間は図3の分割工具11Aと比べても一層短く済む。
【0032】
上記の分割工具21について図1の光ファイバテープ心線(分割型テープ心線)3の単心分割を分割時の押し荷重を変化させて行った実験結果を説明する。
両ローラ22、23の直径Dは20mmφである。
前述のように、テープ心線3を両ローラ22、23で挟持し、押し荷重を変えてテープ心線3を引き抜いた。両ローラ22、23間には鍔部23bにより、光ファイバ素線1の直径と同程度のギャップgが残されるようになっている。
実験結果は表3の通りであり、1.0kgf以下の弱い押し荷重では、光ファイバ素線1を連結している連結接着樹脂2を押す力が弱いため、分割することが困難であった。押し荷重が1.5kgf以上では、容易に分割することができた。分割後の各光ファイバ素線1には、扁平化などの変形(UV被覆部分の変形)は見られなかった。
【表3】

【実施例5】
【0033】
上記のローラタイプの分割工具21では、一対のローラ22、23を設けたが、一対のローラを間隔をあけて設けた2段式ローラの構成とすることもできる。
この場合、図4における共通ベース25及びスライドベース27の幅(テープ心線長手方向の幅)を長くして、二対のローラを設けた構成でもよいし、2つの固定ローラを設けた共通ベースに可動ローラ付きの2つのスライドベースを並べて設けた構成としてもよい。
【実施例6】
【0034】
図6はすべての連結部で分割する単心分割でなく、目的とする箇所の連結部のみを分割する分割工具を説明する図である。
この分割工具31は、図1について説明したものと同様にテープ厚み方向両側に配置した2つの板状部材35,36を用いているが、上下の板状部材35,36にそれぞれ、分割しようとする箇所の連結接着樹脂2の位置に合わせた突起部37、38を形成している。下側の板状部材36は分割型テープ心線(光ファイバテープ心線3)を収容する矩形溝36aを形成している。
図示例は、4心の分割型テープ心線3を2本の2心テープ心線に2分割するものであり、中央部で隣接する2つの光ファイバ素線1を連結している上下の連結接着樹脂2の位置に合わせて突起部37、38を形成している。
分割型テープ心線3を上下の板状部材35、36で挟んで、テープ心線3にテープ厚み方向から圧力を加えると、テープ幅方向中央の上下各1箇所の連結接着樹脂2に集中的に圧力が加わるので、この上下の連結接着樹脂2が、図6(b)のようにその両側の光ファイバ素線1からそれぞれ剥離し、これにより、4心の分割型テープ心線3が2本の2心テープ心線33に2分割される。
なお、目的とする箇所の連結接着樹脂2が剥離した後に、目的としない箇所の連結接着樹脂が剥離することを防ぐ必要があるが、例えば図示例のように、矩形溝36aの深さmを光ファイバ素線1の直径に連結接着樹脂2の突出高さhの2倍を加えた寸法nと概ね同程度として、目的としない箇所の連結接着樹脂2にそれ以上の荷重が加わらないようにすることができる。
なお、図示例の4心の場合に限らず、さらに多心の分割型テープ心線の場合でも、突起部を形成する位置を変えることで、あるいは所望の複数箇所に設けることで、1回の分割操作だけで種々の分割形態とすることができる。
例えば、8心の分割型テープ心線を2心テープ心線と6心テープ心線とに2分割したり、2つの2心テープ心線と1つの4心テープ心線とに3分割したりできる。
【符号の説明】
【0035】
1 光ファイバ素線
2 連結接着剤
3 光ファイバテープ心線(分割型テープ心線)
L、L’(2つの光ファイバ素線の外周面に接する)共通接線
5、6、35、36 板状部材(テープ厚み方向両側に配置した部材)
7 2つの光ファイバ素線の対向外周面間に形成される略V溝状隙間
8 ストッパ
10、11、11A、21、31、31’ 分割工具
12 板バネ
12a、12b 板バネ片
12c 基端部
22 固定ローラ
23 可動ローラ
22a、23a 中心軸
23b 鍔部
24 荷重印加手段
25 共通ベース
26 ガイド
27 スライドベース
35、36 板状部材(テープ厚み方向両側に配置した部材)
36a 矩形溝
37 突起部
38 突出部
g ギャップ
D ローラの直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横一列に密接して配列した複数の光ファイバ素線をテープ化材となる硬化型接着樹脂で連結してテープ状に一体化した光ファイバテープ心線における隣接する2つの光ファイバ素線同士を連結している連結接着樹脂が、互いに隣接する2つの光ファイバ素線の対向外周面間に形成される略V溝状隙間に充填されたものであり、かつ、前記2つの光ファイバ素線の外周面に接する共通接線より外側に飛び出る突出高さhを有している光ファイバテープ心線について、この光ファイバテープ心線を複数単位に分割するための光ファイバテープ心線分割工具であって、
分割しようとする光ファイバテープ心線における所望の箇所の連結接着樹脂部分にテープ厚み方向から圧力を加えてその連結接着樹脂を光ファイバ素線外周面から剥離させることが可能なテープ厚み方向両側の一対の部材を備えたことを特徴とする光ファイバテープ心線の分割工具。
【請求項2】
前記一対の部材が、光ファイバテープ心線を互いに平行な状態で挟持可能な一対の板状部材であり、前記一対の板状部材を互いに接近可能に支持する支持部材を備えたことを特徴とする請求項1記載の光ファイバテープ心線の分割工具。
【請求項3】
前記支持部材が、基端部で一体結合して弾性的に互いに接近離間可能な、少なくとも先端側では概ね互いに平行な一対の板バネであり、この板バネの先端部に前記板状部材を固定したことを特徴とする請求項2記載の光ファイバテープ心線の分割工具。
【請求項4】
前記2つの板状部材の間の接近限度を光ファイバ素線外径と同程度に規制するストッパを設けたことを特徴とする請求項2又は3記載の光ファイバテープ心線の分割工具。
【請求項5】
前記2つの板状部材に、当該分割工具により光ファイバ素線から剥離させようとする連結接着樹脂の位置に合わせた突起部を形成したことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の光ファイバテープ心線の分割工具。
【請求項6】
前記一対の部材が、それぞれの回転軸が互いに平行でかつ相対的に互いに接近離間可能に対向する一対のローラであり、両ローラ間に配した光ファイバテープ心線を適宜の圧力で挟持できるようにローラに接近方向の荷重を印加する荷重印加手段を備え、両ローラで光ファイバテープ心線を挟持した状態で光ファイバテープ心線を引き抜くことが可能にされていることを特徴とする請求項1記載の光ファイバテープ心線の分割工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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