説明

光ファイバーの水熱分解装置および方法

【課題】光ファイバーを微粉砕、スラリー化する工程が不要で、しかも、超臨界水分解反応または亜臨界分解反応における反応生成物を連続的に排出することにより、光ファイバー心線テープを高分解率で分解可能で、しかも、光ファイバーを構成する心線を効率的に分別回収することが可能な光ファイバーの水熱分解装置および方法を提供すること。
【解決手段】 光ファイバー心線テープに超臨界水または亜臨界水と反応を生じさせる反応器5内に、光ファイバー心線テープを供給し、供給ライン4から水または水と酸化剤を反応器5に連続的に導入して、前記光ファイバー心線テープと反応させる。反応器5内の反応生成物は連続的に取り出され、反応生成物取り出しライン6中の反応生成物は熱交換器7で冷却された後、気液分離装置8において気体と液体に分離される。これにより、反応器5内には心線が分別されて残る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバーの水熱分解装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーは通信での利用拡大のため使用量が急増しており、今後の廃光ファイバーの量も増大すると予測されているが、そのリサイクル技術は確立されていない。光ファイバーケーブルは石英ガラスからなる光ファイバー心線(clad)の他、プラスチック被覆材および金属材から構成されており、各構成材料は強固に固定されているため、構成材料を簡単に分離回収することは難しいという問題がある。また、光ファイバー心線は直径が約125μmと細く、これを束ねた光ファイバーテープの長径も1mm程度であるため、簡便な方法で光ファイバー心線のみを効率よく分別することが極めて難しいという問題もある。
【0003】
図2は光ファイバーケーブルの主流となるスロット型ケーブルの断面図の一例である。ケーブル100はその中心に単鋼線や鋼撚線等からなるテンションメンバ20を備えた熱可塑性樹脂から構成されたスロット本体30の外周面に、光ファイバー収納溝40が5条設けられ、この5条の収納溝40内に光ファイバーテープ50が収納され、この光ファイバーテープ50が収納されたスロット本体30の外周に押え巻き不織布60が巻かれ、更にその外周がポリエチレン樹脂等から構成されたシース70で被覆されている。
【0004】
図3は収納溝40に収容された光ファイバーテープ50の断面図である。透明な光硬化性樹脂(テープ層)53により、石英ガラス51とそのコーティング層52から構成された光ファイバー着色素線を複数本束ねた構造を有している。光ファイバーテープの表面には水走防止用としてケーブル内に充填されたジェリー54が付着しているものも存在する。
【0005】
図2および図3は、光ファイバーケーブルの一例を示すものであって、実際には光ファイバー収納溝や収納テープ数が異なる多品種の光ファイバーケーブルが存在し、光ファイバーケーブルによってはジェリーが充填されていないものもある。
【0006】
特許文献1には、廃光ファイバーケーブルを粉砕処理し、超臨界水分解反応または超臨界水酸化反応を行うことにより、光ファイバーケーブルを構成する外被等のプラスチックを分解し、モノマーや油状分解物を回収して再利用することが提案されている。
【特許文献1】特開2000−70899号公報(請求項1〜8、第2頁〜第4頁等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1に記載された方法においては、光ファイバー粉砕後、スラリー化したものを超臨界水分解反応等に供給するため、光ファイバーは0.5mm以下に粉砕される必要がある。しかしながら、軟質PEやPVCを細かく粉砕するには湿式粉砕或いは低温粉砕が必要であるが、これらの操作は容易ではない。また、超臨界水分解反応等に供給される原料は、比重分離または風力選別等の手段によって心線を除去したものが使用されるため、この方法では心線を連続的に排出することはできない。さらに、この方法は、超臨界状態(好ましい反応温度および圧力は、600〜650℃前後、22〜25MPa)での分解処理に関するものであり、亜臨界状態での分解処理については全く言及されていない。
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、光ファイバーを微粉砕してスラリー化する工程が不要で、しかも、超臨界水分解反応または亜臨界水分解反応における反応生成物を連続的に排出することにより、光ファイバー心線テープを高分解率で分解可能で、しかも、光ファイバー心線テープから心線を効率的に分別回収することが可能な、光ファイバーの水熱分解装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、光ファイバー心線テープを超臨界水または亜臨界水を用いて水熱分解することにより、光ファイバー心線テープに含まれるコーティング樹脂等の有機成分が分解除去されて排出されるので、反応器内には超臨界水または亜臨界水に対して安定な心線が高収率で分別回収できるとの知見に基づいてなされたのである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1)光ファイバー心線テープに超臨界状態または亜臨界状態で水または水と酸化剤を接触させ反応を生じさせる反応器と、
前記反応器に水または水と酸化剤を供給する供給ラインと、
前記反応器において生成した反応生成物を反応器から取り出す反応生成物取り出しラインと、
前記反応生成物取り出しラインに接続され、該ライン中の反応生成物を気体と液体に分離する気液分離装置と
を備えたことを特徴とする光ファイバーの水熱分解装置、
2)前記供給ラインの水または水と酸化剤の流量は、前記反応器内の光ファイバー心線テープ供給量に対して約3〜13倍の質量であることを特徴とする前記1)に記載の光ファイバーの水熱分解装置、
3)前記供給ラインは加熱手段を備え、前記取り出しラインは冷却手段を備えていることを特徴とする前記1)または2)に記載の光ファイバーの水熱分解装置、
4)前記反応器内における反応温度が390℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから30MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする前記1)に記載の光ファイバーの水熱分解装置、
5)前記反応器内における反応温度が390℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから18MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする前記1)に記載の光ファイバーの水熱分解装置、
6)前記反応器内における反応温度が480℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから18MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする前記1)に記載の光ファイバーの水熱分解装置、
7)超臨界水または亜臨界水と反応を生じさせる反応器に光ファイバー心線テープ、水または水と酸化剤を供給し、
反応器内で前記光ファイバー心線テープの有機成分が分解されるように反応を生じさせ、
前記反応器から取り出された反応生成物を反応器内の反応温度以下に冷却して気液分離装置に導入することを特徴とする光ファイバーの水熱分解方法、
8)前記供給ラインの水または水と酸化剤の流量は、前記反応器内の光ファイバー心線テープ供給量に対して約3〜13倍の質量であることを特徴とする前記7)に記載の光ファイバーの水熱分解方法、
9)前記供給ラインに供給される水または水と酸化剤の温度が反応温度+0〜20℃の範囲内に加熱され、前記取り出しラインから取り出される反応生成物が30℃以下に冷却されることを特徴とする前記7)または8)に記載の光ファイバーの水熱分解方法、
10)前記反応器内における反応温度が390℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから30MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする前記7)に記載の光ファイバーの水熱分解方法、
11)前記反応器内における反応温度が390℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから18MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする前記7)に記載の光ファイバーの水熱分解方法、
12)前記反応器内における反応温度が480℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから18MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする前記7)に記載の光ファイバーの水熱分解方法、
13)前記反応器に供給される酸化剤濃度が、酸化剤と水の合計量に対する質量比で5〜30%であることを特徴とする前記7)〜12)のいずれかに記載の光ファイバーの水熱分解方法、および、
14)前記水熱分解後の反応器内より取り出された心線を、超音波を加振しながら洗浄し、該心線に付着している付着物を除去することを特徴とする前記7)〜13)のいずれかに記載の光ファイバーの水熱分解方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超臨界水または亜臨界水を用いた反応システムにおいて、原料として光ファイバー心線テープを供給し、水の流量、温度、圧力を精密に制御し、反応生成物を連続的に排出することができるように構成したので、面倒なスラリー化工程が不要になるとともに、光ファイバー心線を90%以上の高収率で分別回収することができる。
【0012】
また、高温・低圧の亜臨界水を用いた反応では、有機物を高分解率で分解することができるとともに、98%以上の高収率で光ファイバー心線を分別回収することができ、心線内の夾雑物の割合も減少する。本発明に係る方法は、アルカリ不存在下での分解反応であるため、アルカリを用いた加熱・加圧処理のように心線(シリカ)が反応中に溶解することがない。
【0013】
さらに、分別回収した心線を超音波洗浄することにより、心線に付着している夾雑物の割合を10分の1に減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に好適な水熱分解処理原料としての光ファイバー心線テープは、廃光ファイバーケーブルから分離したものを全て使用することができる。テープ層およびコーティング層を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えばウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどの紫外線硬化性樹脂等が挙げられる。また、本発明の光ファイバー心線テープには、特開平9−57686号公報に開示されているような、光ファイバーケーブルのスロットから分離されたスロットの外周凹部など、光ファイバー心線(clad)とコーティング樹脂とから構成されているものも含まれる。
【0015】
本発明方法の反応に用いられる反応器としては、オートクレーブなどの耐高温および耐高圧用の一般的な反応容器が挙げられ、超臨界反応装置(株式会社AKICO製)等は好適に用いることができる。
【0016】
反応条件は、反応温度は390〜640℃が好ましく、より好ましくは480〜640℃であり、最も好ましくは580〜640℃である。また、反応圧力は0.1〜30MPaが好ましく、より好ましくは0.1〜25MPa、さらに好ましくは0.1〜18MPa、最も好ましくは0.1〜10MPaである。反応温度が低すぎるとコーティング樹脂の分解率や心線の回収率が低くなり、一方、反応温度が高くなると分解反応速度は増大するが、投入エネルギーも増大し無駄になる。反応圧力が高すぎると装置的に限界があり、心線の回収率が低下する。
【0017】
超臨界状態での反応と、それ以外の反応を比べた場合、超臨界状態での反応は分解率は高いが心線の回収率が低下するため、以下の反応温度および圧力条件下で実施するのがよい。
亜臨界状態での反応は、反応温度が低い場合は、分解率を高めるために反応圧力を所定の圧力以上に維持する必要があるが、反応温度を390℃(より好ましくは480℃)以上に維持することによって、0.1MPa程度の低圧条件下でもコーティング樹脂を分解することができる。一方、反応温度の上限としては、640℃以下が好ましい。反応温度が640℃以下であれば、装置的にも対応可能である。反応圧力は、0.1〜18MPaが好ましく、より好ましくは0.1〜10MPa、さらに好ましくは0.1〜1.0MPaである。このような亜臨界状態で水熱分解反応を実施することにより、上記の超臨界状態で反応させた場合と比較してコーティング樹脂の分解率は同等で、心線の回収率が高くなる利点がある。
【0018】
反応時間は、通常30分〜120分、好ましくは50分〜70分である。反応時間が短すぎると有機物の分解が不十分となり、一方、反応時間が長すぎても反応が平衡状態に達するので無意味となり、システムの運転効率が低下する。
【0019】
反応器内に光ファイバー心線テープと溶媒としての水を供給し、温度および圧力を、所望の温度および圧力範囲内に保たれるように加熱する。あるいは、光ファイバー心線テープを反応器に入れた後、超臨界状態もしくは亜臨界状態とされた水を反応器に圧入し、反応器内の温度および圧力が、所望の温度および圧力範囲内に保たれるように加熱する。
【0020】
反応器内の光ファイバー心線テープは、上記の温度および圧力下で溶媒である水と接触し、表面の樹脂層(有機物)が分解され、CH、H、CO、CO等のガスが生成する。この際、共存する可能性のあるポリエチレンなどの有機物も分解され、同様にガスが生成する。有機物の分解反応に伴って、心線がコーティング樹脂層から分離される。
【0021】
溶媒として水を使用するのは、取扱時の安全性が高く、環境負荷を低減できるからである。また、分解反応を促進するため、必要に応じて、溶媒に、過酸化水素、酸素などの酸化剤を添加してもよく、酸化剤濃度は酸化剤と水の合計量に対する質量比で、5〜30%が好ましい。酸化剤濃度が低すぎると有機物の分解率が低下し、高すぎると反応器内の温度が上がりすぎる。
【0022】
反応器に供給する溶媒の使用量は、前記反応器内の光ファイバー心線テープ供給量に対して、質量比で約3倍以上が好ましく、より好ましくは約3倍〜13倍の質量であり、最も好ましくは約3倍〜11倍の質量である。反応器に供給する溶媒の量を多くすると、反応温度の制御は容易になるが、システム全体の流量がポンプ、配管、熱交換器等の装置を大型化せざるを得なくなって、コスト的に不利となり、好ましくない。一方、少な過ぎると反応が不安定になり反応率が低下したり、適正な反応温度を維持することができなくなる。また、反応器が閉塞したりする原因となり、好ましくない。
【0023】
また、溶媒の供給方法として水は、反応器内の光ファイバー心線テープ近傍に供給する必要があるが、光ファイバー心線テープの供給は反応開始前に一定量を反応器に仕込んでおいてもよい。
【0024】
溶媒は連続的、あるいは間欠的に反応器に供給することができるが、一定量を連続して供給することが好ましい。一定量を連続的に供給することにより、反応系が安定化して分解率や回収率のばらつきが抑えられる。溶媒の供給量は、好ましくは0.1〜5.0mL/min、より好ましくは0.5〜1.0mL/minである。
【0025】
好ましい態様では、反応器に供給する溶媒は、予熱器を介して加熱した後に反応器に供給する。供給ラインの温度は、好ましくは、反応温度+0〜20℃、より好ましくは反応温度+0〜10℃である。反応器に供給する溶媒の温度を高くすると、反応温度の制御は容易になるが、加熱手段に用いる装置を大型化せざるを得なくなって、コスト的に不利となる。また、温度を低くしすぎると、分解能力が低下して適正な分解率や回収率を維持することができなくなる。
【0026】
反応器内は酸素雰囲気が好ましい。反応器内を酸素雰囲気にすることにより反応が安定化して分解効率を高く維持することができる。水熱処理は、理論燃焼酸素量に対する酸素量の割合(酸素比)が、0.2〜1.0の範囲で行うことが好ましく、より好ましくは0.25〜0.5の範囲である。酸素比が低すぎると有機物の分解率が低下し、高すぎると反応器内の温度が上がりすぎる。
【0027】
また、前記反応器は、反応生成物取り出しラインに接続され、該取り出しラインは冷却手段を備えている。冷却能力が小さすぎると気液分離効率が低下することとなる。この場合、冷却手段は、熱交換器、冷却コイルなどを使用する。安定的に分解反応を進行させるには、冷却手段通過後の取り出しライン内を30℃以下、望ましくは15℃から30℃に維持するのが好ましい。反応生成物取り出しライン内の温度を低くすると、気液分離は容易になるが、熱交換器を大型化せざるを得なくなって、コスト的に不利となる。また、温度を高くしすぎると、気液分離能力が低下して分離した気体をリサイクルすることができなくなる。
【0028】
気液分離装置は、開放型のガラス管やガラス窓を有する鋼管などを使用する。気液分離装置により、有機成分の分解ガスは気体排出ラインを介して、水等の液体は液体排出ラインを介して、それぞれ連続的に排出される。
【0029】
(作用)
本発明によれば、光ファイバー心線テープに超臨界または亜臨界状態で水または水と酸化剤を接触させることにより、水熱分解反応が生じて有機物が分解するものと推察される。
【0030】
本発明によれば、反応器に供給した光ファイバー心線テープの分解反応で生成した反応生成物を、連続的に反応系外に排出させるように構成している。この場合、反応生成物は気体排出ラインと液体排出ラインからそれぞれ排出させるように構成しているので、気体排出ラインから排出させたガスは、燃料ガスとして利用できるようになっており、液体排出ラインから排出させた液体は、燃料油として利用できるようになっている。したがって、反応器には分解残渣として、石英ガラスからなる心線が分別されるようになっている。
【0031】
このように、反応生成物を連続的に排出させることによって、反応速度を適正に維持することができ、コーティング樹脂の分解効率を高めることができる。これによって、未分解コーティング樹脂の残存による心線内の夾雑物量の増加あるいは、反応の停止などといった問題を解消することができる。
【0032】
水熱分解後は、反応器内より心線を取り出す。取り出した心線は、そのままリサイクル材として使用しても良いし、必要に応じて後処理を施し、心線に付着している未分解コーティング樹脂などを除去した後リサイクル材として使用しても良い。後処理方法としては例えば、水等の溶媒を用いた洗浄処理を挙げることができるが、洗浄時には超音波を加振しながら洗浄するのが好ましい。これにより、心線に付着している付着物を、後処理前の10分の1程度まで減少することができる。
【0033】
本発明にかかる水熱分解反応によって得られた心線は、石英ガラス製品等の原材料として用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について図を参照しつつ説明する。
【0035】
図1を参照すると、本発明を実施することができる光ファイバーの水熱分解システム1のブロックチャートが示されている。図示のシステムは、被水熱処理材として光ファイバー心線テープを主原料とし、水熱処理の溶媒2として水または酸化剤を添加した水を使用する。
【0036】
溶媒2は、予熱器3で予熱された後、供給ライン4を介して、反応器5に連続的に導入されるようになっている。反応器5は、耐高温・高圧の反応器であって、下部に分散板を設け、供給した光ファイバー心線テープと連続的に導入される溶媒が均一に接触するようになっている。なお、供給ライン4には、溶媒を搬送するためのポンプ11が設けられている。
【0037】
反応器5には溶媒2が連続的に供給されて光ファイバー心線テープと混合される。この場合、溶媒に配合されている酸化剤は、被覆樹脂の酸化剤として作用して分解反応を促進し、反応が全体にわたって一様な速度で生じるように機能する。
【0038】
反応器5において生成した反応生成物は、生成物取り出しライン6により反応器5から排出され、気液分離装置8に導入されるようになっている。取り出しライン6には、反応生成物に含まれる液体成分(主に水)を凝縮するための熱交換器7が設けられている。
【0039】
気液分離装置8は、上記反応器5によって生じた反応生成物を気体成分と液体成分に分離させるために設けられるものであって、連続的に供給される反応生成物を連続的に処理するようになっている。気体成分は排出ライン9を介して、液体成分は排出ライン10を介してそれぞれ回収されるようになっている。
【0040】
なお、生成物取り出しライン6には、反応器5内の圧力を調整するための圧力調整弁12が設けられている。
【0041】
反応器5には、石英ガラスからなる心線とポリマーからなるコーティング樹脂とから構成される光ファイバー心線テープが供給されているので、コーティング樹脂が水熱分解することにより、反応器5には心線と未分解コーティング樹脂が残るようになる。
【0042】
(実施例1)
内容量100mLのオートクレーブに光ファイバー心線テープ10gを入れ、溶媒として、予熱器により約500℃に加熱した水を0.5mL/minの速度でオートクレーブに連続的に供給した(供給水量100g)。この供給ラインの流量の調整は、ポンプにより行った。オートクレーブ内の圧力を24.8MPa、温度を480℃に調整して60分間維持した。オートクレーブ内の圧力調整は圧力調整弁により行った。この間、オートクレーブから反応生成物が連続的に排出され、気液分離装置により気体成分と液体成分に分離された。反応生成物取り出しラインには、0.02mの単管式熱交換器を設置して15℃の冷却水を循環させた。反応終了後、反応器内より心線を取り出し、以下に示す方法によりコーティング樹脂の分解率、心線の回収率および夾雑物の割合を評価した。
【0043】
(実施例2〜3)
反応温度、圧力を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0044】
(実施例4)
内容量100mLのオートクレーブに光ファイバー心線テープ10gを入れ、溶媒として過酸化水素濃度30%の水を用い、これを予熱器により約600℃に加熱したものを0.5mL/minの速度でオートクレーブに連続的に供給し、オートクレーブ内の圧力を24.9MPa、温度を581℃に調整して60分間維持した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0045】
(実施例5)
内容量100mLのオートクレーブに光ファイバー心線テープ10gを入れ、溶媒として、予熱器により約520℃に加熱した水を0.5mL/minの速度でオートクレーブに連続的に供給し、オートクレーブ内の圧力を10.2MPa、温度を499℃に調整して60分間維持した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0046】
(実施例6〜7)
反応温度、圧力を表1に示す条件に変更した以外は、実施例5と同様に実施した。
【0047】
(実施例8)
内容量100mLのオートクレーブに光ファイバー心線テープ10gを入れ、溶媒として過酸化水素濃度30%の水を用い、これを予熱器により約630℃に加熱したものを0.5mL/minの速度でオートクレーブに連続的に供給し、オートクレーブ内の圧力を10.3MPa、温度を614℃に調整して60分間維持した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0048】
(比較例1)
内容量100mLのオートクレーブに光ファイバー心線テープ10gを入れ、溶媒として、予熱器により約390℃に加熱した水を0.5mL/minの速度でオートクレーブに連続的に供給し、オートクレーブ内の圧力を4.5MPa、温度を366℃に調整して60分間維持した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0049】
(実施例9)
内容量100mLのオートクレーブに光ファイバー心線テープ10gを入れ、溶媒として、予熱器により約640℃に加熱した水を0.5mL/minの速度でオートクレーブに連続的に供給し、オートクレーブ内の圧力を0.2MPa、温度を633℃に調整して60分間維持した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0050】
(実施例10)
内容量100mLのオートクレーブに光ファイバー心線テープ10gを入れ、溶媒として過酸化水素濃度30%の水を用い、これを予熱器により約640℃に加熱したものを0.5mL/minの速度でオートクレーブに連続的に供給し、オートクレーブ内の圧力を0.4MPa、温度を634℃に調整して60分間維持した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0051】
表1に以上の実験結果をまとめて示す。
【0052】
(評価方法)
表中のコーティングの分解率、心線の回収率および夾雑物量は、下記式により求めた。なお、コーティング量は、最初にコーティング剤付き心線の質量を計測し、トルエンでコーティング剤を剥離させた後に心線の質量を計測して差分により求めた。
分解率(%)=[1−(試験後のコーティング量/初期コーティング量)]×100
回収率(%)=(試験後の心線量/試験前の心線量)×100
夾雑物(%)=[試験後のコーティング量/(試験後の心線量+試験後のコーティング量)]×100
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、高圧条件下(10〜30MPa)では、反応温度は390℃から620℃が好ましく、反応圧力は25MPa程度が好ましく、超臨界水の方が亜臨界水よりも夾雑物が少なく、また、過酸化水素水を用いた方が分解率、回収率が高くて夾雑物が少なく、良好な結果が得られることがわかる。さらに、低圧条件下(1.0MPa以下)で水熱分解することにより、高圧条件下で実施した時よりも心線回収率が向上し、心線内の夾雑物の割合も減少することがわかる。
【0055】
(実施例11)
実施例10で水熱分解した後、反応器より取り出した心線8.773gに、水500mlを添加し、(株)国際電気エルテック製の超音波発振装置UA200(出力36kHz)を用いて1時間超音波洗浄処理を行った。洗浄後心線を分離し、その質量を計測したところ8.669gであった。その結果、心線に付着していた夾雑物の割合は超音波洗浄処理前は1.2%であったが、超音波洗浄処理後は0.11%に減少していた。
【0056】
(実施例12)
実施例1と同様にして水熱処理を行った。内容量100mLのオートクレーブに光ファイバー心線テープ50gを入れ、溶媒として、予熱器により約500℃に加熱した水、または過酸化水素濃度30%の水を、0.5mL/minの速度でオートクレーブに連続的に供給した(供給水量120g)。オートクレーブ内の圧力、温度を表2に示す条件に調整して60分間維持した。この間、オートクレーブから反応生成物が連続的に排出され、気液分離装置により気体成分と液体成分に分離された。反応生成物取り出しラインには、0.02m の単管式熱交換器を設置して15℃の冷却水を循環させた。反応終了後、反応器内により心線を取り出し、上記した方法によりコーティング樹脂の分解率および心線の回収率を求めた。
【0057】
表2に実験結果をまとめて示す。
【0058】
【表2】

【0059】
図4に反応温度と分解率との関係を示したように、反応温度390℃未満では分解率が低下することがわかる。また、図5に反応圧力と分解率との関係を、図6に反応圧力と回収率との関係を、それぞれ示したように、圧力が分解率に与える影響は小さいが、圧力が18MPaを超えると回収率が低下する傾向のあることがわかる。
【0060】
(比較例2)
溶媒として1.5質量%のNaOH水溶液を用い、オートクレーブ内の圧力を25.3MPa、温度を403℃に維持した以外は、実施例1と同様に実施した。その結果、コーティングの分解率87.5%、心線の回収率0%であった。この実験より、アルカリ水溶液を用いて水熱処理した場合は、心線素材のシリカが全量溶解したことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】光ファイバーの水熱分解システムの概略ブロック図である。
【図2】光ファーバーケーブルの断面図の一例である。
【図3】光ファーバーテープの断面図の一例である。
【図4】反応温度と分解率との関係を示す図である。
【図5】反応圧力と分解率との関係を示す図である。
【図6】反応圧力と回収率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 水熱分解システム
2 溶媒
3 予熱器
4 供給ライン
5 反応器
6 反応生成物取り出しライン
7 熱交換器
8 気液分離装置
9 気体排出ライン
10 液体排出ライン
11 ポンプ
12 圧力調整弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバー心線テープに超臨界状態または亜臨界状態で水または水と酸化剤を接触させ反応を生じさせる反応器と、
前記反応器に水または水と酸化剤を供給する供給ラインと、
前記反応器において生成した反応生成物を反応器から取り出す反応生成物取り出しラインと、
前記反応生成物取り出しラインに接続され、該ライン中の反応生成物を気体と液体に分離する気液分離装置と
を備えたことを特徴とする光ファイバーの水熱分解装置。
【請求項2】
前記供給ラインの水または水と酸化剤の流量は、前記反応器内の光ファイバー心線テープ供給量に対して約3〜13倍の質量であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバーの水熱分解装置。
【請求項3】
前記供給ラインは加熱手段を備え、前記取り出しラインは冷却手段を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバーの水熱分解装置。
【請求項4】
前記反応器内における反応温度が390℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから30MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバーの水熱分解装置。
【請求項5】
前記反応器内における反応温度が390℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから18MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバーの水熱分解装置。
【請求項6】
前記反応器内における反応温度が480℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから18MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバーの水熱分解装置。
【請求項7】
超臨界水または亜臨界水と反応を生じさせる反応器に光ファイバー心線テープ、水または水と酸化剤を供給し、
反応器内で前記光ファイバー心線テープの有機成分が分解されるように反応を生じさせ、
前記反応器から取り出された反応生成物を反応器内の反応温度以下に冷却して気液分離装置に導入することを特徴とする光ファイバーの水熱分解方法。
【請求項8】
前記供給ラインの水または水と酸化剤の流量は、前記反応器内の光ファイバー心線テープ供給量に対して約3〜13倍の質量であることを特徴とする請求項7に記載の光ファイバーの水熱分解方法。
【請求項9】
前記供給ラインに供給される水または水と酸化剤の温度が反応温度+0〜20℃の範囲内に加熱され、前記取り出しラインから取り出される反応生成物が30℃以下に冷却されることを特徴とする請求項7または8に記載の光ファイバーの水熱分解方法。
【請求項10】
前記反応器内における反応温度が390℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから30MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする請求項7に記載の光ファイバーの水熱分解方法。
【請求項11】
前記反応器内における反応温度が390℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから18MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする請求項7に記載の光ファイバーの水熱分解方法。
【請求項12】
前記反応器内における反応温度が480℃から640℃の範囲内に維持され、かつ、反応圧力が0.1MPaから18MPaの範囲内に維持されていることを特徴とする請求項7に記載の光ファイバーの水熱分解方法。
【請求項13】
前記反応器に供給される酸化剤濃度が、酸化剤と水の合計量に対する質量比で5〜30%であることを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の光ファイバーの水熱分解方法。
【請求項14】
前記水熱分解後の反応器内より取り出された心線を、超音波を加振しながら洗浄し、該心線に付着している付着物を除去することを特徴とする請求項7〜13のいずれか1項に記載の光ファイバーの水熱分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−289339(P2006−289339A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−299259(P2005−299259)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】