説明

光ファイバ伝送路の特性および光信号の品質をモニタするモニタ回路

【課題】光ファイバ伝送路の特性および光信号の品質をモニタするためのモニタ回路の小型化および/または低コスト化を図る。
【解決手段】光受信回路10は、光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号をコヒーレント受信して光電界データを生成する。FIRフィルタ21は、光信号を等化するように光電界データをフィルタリングする。品質モニタリング部24は、等化された光電界データに基づいて、光信号の振幅の平均値および標準偏差値を算出し、さらにそれらに基づいて光信号対雑音比を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ伝送路の特性および光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号の品質をモニタするモニタ方法、モニタ回路、及びそのようなモニタ回路を備える光受信器に係わる。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ伝送路を利用した光通信システムは、一般に、高速データ伝送を提供し、膨大な量の情報が送受信される。このため、データ伝送が停止すると、大きな被害が発生し得る。したがって、従来より、光伝送路の特性あるいは光信号の品質をモニタする方法が提案されている。また、光通信システムを効率的に運用するためにも、光伝送路および光信号をモニタすることは有効である。
【0003】
特許文献1には、光信号の品質を評価する方法が記載されている。特許文献1に記載の方法は、以下のステップを備える。光信号を電気強度変調信号に変換する。電気強度変調信号をサンプリングすることによって光信号の強度分布を測定する。光信号の強度分布から振幅ヒストグラムを求める。振幅ヒストグラムから2つの極大値を求め、これら2つの極大値を利用して「レベル1」に相当する分布関数g1、および「レベル0」に相当する分布関数g0を推定する。分布関数g1およびg0から「レベル1」および「レベル0」の平均値強度および標準偏差値を求める。そして、これらの平均値強度および標準偏差値に基づいて信号対雑音比を評価する。すなわち、文献1に記載の方法においては、光信号の強度情報を利用してその品質がモニタされる。
【0004】
また、光ファイバ伝送路を介して受信した光信号を電気信号に変換し、その電気信号から抽出するクロック周波数成分およびDC成分に基づいて光信号の波形歪をモニタする技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−194267
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術においては、モニタすべき特性ごとに、それぞれ専用の装置を設ける必要があった。例えば、信号対雑音比および光波形歪をモニタするためには、それぞれ独立した装置が設けられていた。したがって、複数種類の特性をモニタするためには、複数のモニタ装置を導入する必要があり、光受信器の小型化または低コスト化において問題があった。
【0007】
本発明の課題は、光ファイバ伝送路の特性および光信号の品質をモニタするためのモニタ回路の小型化および/または低コスト化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のモニタ回路は、光信号をコヒーレント受信する光受信回路と共に使用され、コヒーレント受信により得られる前記光信号についての電界データに対して、前記光信号を等化するためのフィルタ演算を行うことにより、等化電界データを生成するデジタル等化フィルタと、前記等化電界データに基づいて前記光信号の品質を算出する品質算出手段、を備える。
【0009】
この構成においては、コヒーレント受信により得られる電界データは、光信号の振幅情報および位相情報を含んでいる。そして、デジタル等化フィルタにより得られる等化電界データは、等化された光信号の振幅情報および位相情報を含んでいる。よって、品質算出手段は、等化電界データに基づいて、光ファイバ伝送路の特性および光信号の品質をモニタできる。
【0010】
本発明の他の態様のモニタ回路は、光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号をコヒーレント受信する光受信回路と共に使用され、コヒーレント受信により得られる前記光信号についての電界データに対して、前記光ファイバ伝送路の特性を補償するためのフィルタ演算を行うデジタル等化フィルタと、前記特性を補償するために前記デジタル等化フィルタに設定されるパラメータを用いて、前記光ファイバ伝送路の特性を検出する特性検出手段、を備える。
【0011】
上記構成のモニタ回路において、デジタル等化フィルタが特性を補償するための演算を行うときには、デジタル等化フィルタに設定される係数は、光ファイバ伝送路の特性に依存している。したがって、デジタル等化フィルタに設定される係数から、光ファイバ伝送路の特性を求めることができる。
【発明の効果】
【0012】
開示の構成によれば、光ファイバ伝送路の特性および光信号の品質をモニタするためのモニタ回路の小型化および/または低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態のモニタ装置が使用される光通信システムの構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。
【図3】FIRフィルタの実施例である。
【図4】第1の実施形態において光信号の品質を算出する手順を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施形態の品質指標を模式的に示す図である。
【図6】第1の実施形態の品質指標とOSNRとの関係を示す図である。
【図7】第2の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。
【図8】LPFの特性を示す図である。
【図9】第2の実施形態において光信号の品質を算出する手順を示すフローチャートである。
【図10】第2の実施形態の品質指標とOSNRとの関係を示す図である。
【図11】第3の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。
【図12】第3の実施形態において光信号の品質を算出する手順を示すフローチャートである。
【図13】第3の実施形態の品質指標を模式的に示す図である。
【図14】第4の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。
【図15】タップ係数テーブルの構成を示す図である。
【図16】第4の実施形態において光ファイバ伝送路の特性を算出する手順を示すフローチャートである。
【図17】第4の実施形態の他の手順を示すフローチャートである。
【図18】第5の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。
【図19】第5の実施形態で算出される非線型量を模式的に示す図である。
【図20】第6の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。
【図21】非線型補償演算を模式的に示す図である。
【図22】16QAM信号の品質をモニタする方法を示す図である。
【図23】データ再生機能を備えないモニタ回路の構成を示す図(その1)である。
【図24】データ再生機能を備えないモニタ回路の構成を示す図(その2)である。
【図25】実施形態のモニタ回路を備える偏波ダイバーシティ受信器の構成を示す図(その1)である。
【図26】実施形態のモニタ回路を備える偏波ダイバーシティ受信器の構成を示す図(その2)である。
【図27】偏波ダイバーシティ受信において使用するFIRフィルタの実施例である。
【図28】偏波ダイバーシティ受信においてデータ再生機能を備えないモニタ回路の構成を示す図(その1)である。
【図29】偏波ダイバーシティ受信においてデータ再生機能を備えないモニタ回路の構成を示す図(その2)である。
【図30】セルフコヒーレント受信を行う光受信器の構成を示す図である。
【図31】遅延干渉計回路の実施例である。
【図32】偏波ダイバーシティセルフコヒーレント受信を行う光受信器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態のモニタ装置が使用される光通信システムの構成を示す図である。図1に示す光通信システムは、光送信器1、光受信器2、およびそれらの間を接続する光ファイバ伝送路3を含んで構成される。伝送路上には、1又は複数の光中継局(光増幅器)4を設けるようにしてもよい。
【0015】
光送信器1から送信される光信号は、特に限定されるものではないが、例えば、光PSK(Phase Shift Keying)変調信号、光QAM(Quadrature Amplitude Modulation)信号、あるいは光FM(Frequency Modulation)信号である。なお、PSK変調は、DPSK(Differential PSK)変調を含むものとする。また、PSK変調信号は、mPSK変調信号であり、「m」は、2n(n=1、2、3、...)である。
【0016】
光受信器2は、モニタ回路5を備える。モニタ回路5は、光ファイバ伝送路3の状態をモニタすると共に、光ファイバ伝送路3を介して伝送される光信号の品質をモニタする。なお、モニタ回路5は、図1(a)に示すように、光受信器2のみに設けるようにしてもよいし、図1(b)に示すように、任意のまたはすべての光中継局4にも設けるようにしてもよい。
【0017】
モニタ回路5によるモニタ結果は、特に限定されるものではないが、例えば、ネットワーク管理システム(NMS)6に通知される。ネットワーク管理システム6は、光ファイバ伝送路3の状態が劣化したとき、或いは光信号の品質が劣化したときには、アラームを出力し、また、必要に応じてシステム構成を変更するための指示を出力する。例えば、光ファイバ伝送路3が冗長的に構成されている場合は、ネットワーク管理システム6は、モニタ回路5からの通知に応じて、アクティブ系とスタンバイ系とを切り替えるようにしてもよい。
【0018】
<第1の実施形態>
図2は、第1の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。この光受信器は、光信号をコヒーレント受信する光受信回路10、および光受信回路10の後段に設けられるデジタル信号処理部(DSP)20を含んで構成される。モニタ回路は、後で詳しく説明するが、デジタル信号処理部20により実現される。なお、ここでは、入力光信号は、光mPSK変調信号であるものとする。
【0019】
光受信回路10は、局発光源11、偏波制御部12、光ハイブリッド部13、受光部14、クロック再生部15、A/D変換部16を備える。局発光源11は、入力光の周波数とほぼ同じ周波数を持った局発光を生成する。局発光は、例えば、連続光である。偏波制御部12は、入力光および局発光の偏波が互いに一致するように、入力光の偏波を制御する。光ハイブリッド部13は、局発光から互いに直交する1組の局発sin光および局発cos光を生成する。そして、光ハイブリッド部13は、入力光と局発sin光とを合波すると共に、入力光と局発cos光とを合波する。これにより、I成分光信号およびQ成分光信号が得られる。
【0020】
受光部14は、例えばフォトダイオードを含んで構成され、I成分光信号およびQ成分光信号をそれぞれ電気信号に変換する。クロック再生部15は、入力信号から、信号光により伝送される信号のシンボルレートに同期したクロックを再生する。A/D変換部16は、再生されたクロックを利用して、受光部14により得られる1組の電気信号をデジタルデータに変換する。これにより、I成分データおよびQ成分データが得られる。ここで、1組のI成分データおよびQ成分データは、1つの複素数を表す。すなわち、I成分データはある複素数の実部の値を表し、Q成分データはその複素数の虚部の値を表す。また、I成分データおよびQ成分データにより、入力光信号の光電界(光振幅および光位相)が表される。すなわち、光受信回路10は、コヒーレント受信により、入力光の光電界を表す光電界データを生成する。
【0021】
なお「コヒーレント受信」は、図2に示すような局発光を利用する方式に限定されるものではなく、局発光を利用しないセルフコヒーレント受信も含むものとする。すなわち、「コヒーレント受信」は、光振幅情報および光位相情報が得られる受信方式を言うものとする。
【0022】
デジタル信号処理部20は、FIRフィルタ21、位相同期部22、信号識別部23、品質モニタリング部24、CDモニタリング部25を備える。なお、デジタル信号処理部20は、汎用的なプロセッサに置き換えることも可能である。
【0023】
FIRフィルタ21は、光受信回路10から光電界データ(I成分データおよびQ成分データ)が入力され、その光電界データに対して、光信号を等化するためのフィルタ演算を行う。この実施例では、FIRフィルタ21によるフィルタ演算において、光ファイバ伝送路3の分散(特に、波長分散)が補償される。すなわち、光電界データに対して、分散の逆特性が与えられる。
【0024】
図3は、FIRフィルタ21の実施例である。FIRフィルタ21は、この実施例においては、遅延要素31−1〜31−n、乗算部32−0〜32−n、加算部33、ロックステータスチェック部34、係数管理部35を備える。
【0025】
遅延要素31−1〜31−nは、直列的に接続されており、それぞれ、入力信号を時間τだけ遅延させる。従って、遅延要素31−1〜31−nにより、τ〜n×τだけ遅延された信号が得られる。乗算部32−0は、入力信号に係数C0を掛け合わせる。乗算部32−1は、遅延要素31−1の出力信号に係数C1を掛け合わせる。同様に、乗算部32−2〜32−nは、それぞれ、遅延要素31−2〜31−nの出力信号に係数C2〜Cnを掛け合わる。
【0026】
係数C0〜Cnは、入力信号の波形歪(例えば、光ファイバ伝送路3の累積波長分散による影響)を補償するための重み付け係数である。なお、係数C0〜Cnは、測定またはシミュレーション等に基づいて予め決定され、係数管理部35により管理されているものとする。
【0027】
加算部33は、乗算部32−0〜32−nによる乗算結果を足し合わせる。ロックステータスチェック部34は、加算部33により得られる加算結果に基づいて、再生クロックがロックしているか否かを判定する。例えば、再生クロックの状態が所定の時間内に所定の範囲内に収まれば、ロックしたと判定される。
【0028】
係数管理部35は、複数セットの係数C0〜Cnを保持している。係数管理部35は、動作開始時には、第1番目のセットの係数C0〜Cnを出力し、ロックステータスチェック部34による判定結果を参照する。このとき、「ロック」していなければ、係数管理部35は、係数C0〜Cnを変更する。係数管理部35は、ロックステータスチェック部34において「ロック」が検出されるまで、順次、係数C0〜Cnを変更してゆく。なお、FIRフィルタの構成および動作は、公知の技術であるので詳しい説明は省略する。
【0029】
図2に戻る。位相同期部22は、FIRフィルタ21により等化された光電界データに対して、光信号の周波数オフセットを補償するための演算および位相同期のための演算を行う。周波数オフセットは、入力光と局発光の周波数の差分を意味する。また、位相同期処理においては、まず、光電界データの位相誤差を算出する。一例としては、光電界データをm乗することによって位相誤差が得られる。なお、「m」は、mPSK変調の「m」である。そして、光電界データからその位相誤差を差し引くことにより、位相同期された光電界データが得られる。信号識別部23は、位相同期部22により得られる1組のデータをそれぞれ閾値と比較することにより、シンボルごとにデータを識別する。
【0030】
位相同期部22および信号識別部23の構成および動作は、特に限定されるものではなく、公知の技術により実現可能である。一例としては、『Satoshi Tsukamoto, Yuta Ishikawa, and Kazuo Kiuchi、「Optical Homodyne Receiver Comprising Phase and Polarization Diversities with Digital Signal Processing」、European Conference On Optical Communication 2006』に記載されている。
【0031】
品質モニタリング部24は、FIRフィルタ21により等化された光電界データに基づいて、光信号の光信号対雑音比(OSNR:Optical Signal-to-Noise Ratio)を算出する。算出した光信号対雑音比は、例えば、図1に示すネットワーク管理システム6に通知される。CDモニタリング部25は、第1の実施形態では使用しないが、FIRフィルタ21のタップ係数を用いて、光ファイバ伝送路3の波長分散を算出する。算出した波長分散値は、例えば、図1に示すネットワーク管理システム6に通知される。なお、ステップS1により得られる光電界データは、光信号のI成分およびQ成分を表す複素デジタルデータである。
【0032】
このように、第1の実施形態のモニタ回路は、FIRフィルタ21および品質モニタリング部24により実現される。なお、FIRフィルタ21は、受信信号からデータを再生するため、および光信号の品質をモニタするための双方において使用される。
【0033】
図4は、第1の実施形態において光信号の品質を算出する手順を示すフローチャートである。ステップS1では、FIRフィルタ21を用いて、光信号を等化する。すなわち、光ファイバ伝送路3の波長分散が補償される。なお、ステップS1は、A/D変換部16が光電界データをサンプリングして出力する毎に実行される。すなわち、A/D変換部16のサンプリングタイミング毎に、光信号の光電界データが次々と生成される。
【0034】
ステップS2では、光電界データのI成分およびQ成分から光信号の振幅(すなわち、強度)を計算する。A/D変換部16のサンプリング周期に対して十分に長い所定期間に渡って図4に示すフローチャートの処理を実行するものとすると、複数の振幅値が得られる。そして、これらの複数の振幅値を利用して、光信号の振幅の平均値および標準偏差値を算出する。ここで、FIRフィルタ21によって等化された光信号sを下式で表すものとする。
k =Ik +jQk (k=1,2,3,...,N Nは任意の整数)
そうすると、光信号の平均振幅μは、下記(1)式で表される。また、光信号の振幅の標準偏差値σは、下記(2)式で表される。
【0035】
【数1】

【0036】
さらに、平均振幅μおよび標準偏差値σを用いて、下記に示す品質指標FOSNR1を算出する。
OSNR1=μ/σ
図5は、品質指標FOSNR1を模式的に示す図である。なお、図5に示すコンステレーションは、所定期間内に得られる光電界データをダウンサンプリングしたときの分布を示している。第1の実施形態では、品質モニタリング部24に与えられるデータは位相同期が行われていないので、コンステレーション上に表される信号点は、概ね一定の振幅で、全位相にほぼ均等に分布している。
【0037】
ステップS3では、品質指標FOSNR1から光信号対雑音比を求める。ここで、品質指標FOSNR1と光信号対雑音比との関係は、測定またはシミュレーション等により予め求められている。光信号対雑音比は、図6に示すように、品質指標FOSNR1から一意に求められるものとする。そして、ステップS4において、算出した光信号対雑音比が出力される。このように、第1の実施形態のモニタ回路においては、コヒーレント受信により得られる光電界情報から光信号の振幅が算出され、さらにその振幅の平均値および標準偏差から光信号対雑音比が算出される。
【0038】
<第2の実施形態>
図7は、第2の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。第2の実施形態のモニタ回路の基本構成は、図2に示す第1の実施形態と同じである。ただし、第2の実施形態のモニタ回路が備える品質モニタリング部41の構成および動作は、第1の実施形態の品質モニタリング部24と異なっている。
【0039】
品質モニタリング部41は、フィルタ42および電力演算部43を備える。フィルタ42は、LPF(Low Pass Filter)又はBPF(Band Pass Filter)であり、例えば、FIRフィルタで実現される。フィルタ42をLPFで実現する場合には、カットオフ周波数は、例えば、「0.6×fsig」程度とする。「fsig」は、光信号により伝送されるデータのシンボルレートである。また、BPFは「fsig」の低域側において所定の帯域幅を通過させるように設計される。
【0040】
図8は、フィルタ42として使用するLPFの特性を示す図である。「fsig」は、上述したように、光信号により伝送されるデータのシンボルレートである。「fPD」は、受光部14の帯域である。LPFによりフィルタリングされると、カットオフ周波数よりも低域側の成分のみが残る。したがって、LPFの出力は、ASE成分に相当する。
【0041】
電力演算部43は、FIRフィルタ21から出力される光電界データ、及びフィルタ42によりフィルタリングされた光電界データを利用して、品質指標FOSNR2を算出する。ここで、FIRフィルタ21から出力される光電界データは、受信光信号の電界を表している。一方、フィルタ42によりフィルタリングされた光電界データは、ASE成分(すなわち、雑音成分)を表している。
【0042】
図9は、第2の実施形態において光信号の品質を算出する手順を示すフローチャートである。ステップS11では、第1の実施形態のステップS1と同様に、FIRフィルタ21を用いて光信号を等化する。ステップS12では、フィルタ42によるフィルタ演算によって、ASE成分を抽出する。
【0043】
ステップS13では、FIRフィルタ21から出力される光電界データ、及びフィルタ42によりフィルタリングされた光電界データから、品質指標FOSNR2を算出する。ここで、等化された光信号s(すなわち、FIRフィルタ21の出力)を下式で表すものとする。
k =Ik +jQk (k=1,2,3,...,N Nは任意の整数)
また、フィルタ42によりフィルタリングされた信号Sfilteredを下式で表すものとする。
k_filtered =Ik_filtered +jQk_filtered
そうすると、データ信号を含む光信号の平均パワーPaveは、「sk 」から算出され、ASE成分のパワーAASEは、「sk_filtered 」から算出される。そして、品質指標FOSNR2は、下記(3)式により求められる。
【0044】
【数2】

【0045】
ステップS14では、品質指標FOSNR2から光信号対雑音比を求める。ここで、品質指標FOSNR2と光信号対雑音比との関係は、測定またはシミュレーション等により予め求められている。光信号対雑音比は、図9に示すように、品質指標FOSNR2から一意に求められるものとする。なお、品質指標FOSNR2と光信号対雑音比との関係は、基本的に、第1の実施形態の品質指標FOSNR1と光信号対雑音比との関係とは異なっている。そして、ステップS15において、算出した光信号対雑音比が出力される。このように、第2の実施形態のモニタ回路においては、コヒーレント受信により得られる光電界情報からASE成分が抽出され、さらに光信号とASE成分の電力比から光信号対雑音比が算出される。
【0046】
<第3の実施形態>
図11は、第3の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。第3の実施形態のモニタ回路の基本構成は、図2に示す第1の実施形態と同じである。ただし、第3の実施形態のモニタ回路が備える品質モニタリング部51の構成および動作は、第1の実施形態の品質モニタリング部24と異なっている。
【0047】
品質モニタリング部51は、位相同期部22によって周波数オフセットが補償され、さらに位相誤差が除去された位相同期後の光信号の電界データを受け取る。そして、品質モニタリング部51は、位相同期後の光電界データに基づいて、品質指標Fqualityを算出する。
【0048】
図12は、第3の実施形態において光信号の品質を算出する手順を示すフローチャートである。ステップS21では、第1の実施形態のステップS1と同様に、FIRフィルタ21を用いて光信号を等化する。なお、第3の実施形態においては、ステップS21は必須の手順ではない。
【0049】
ステップS22では、位相同期部22において、光信号の周波数オフセットを補償し、さらに位相誤差を除去する。すなわち、位相同期を確立する。したがって、品質モニタリング部51に与えられる光電界データは、図13に示すように、変調方式に対応する振幅および位相を持った信号点の近傍に分布する。なお、図13は、光QPSK信号が使用された場合を示している。この場合、光電界データは、4つの位相(π/4、3π/4、5π/4、7π/4)の近傍に分布する。
【0050】
ステップS23では、位相同期後の光電界データのI成分およびQ成分から光信号の振幅(すなわち、強度)を計算する。A/D変換部16のサンプリング周期に対して十分に長い所定期間に渡って図4に示すフローチャートの処理を実行するものとすると、複数の振幅値が得られる。そして、これらの複数の振幅値を利用して、光信号の振幅の平均値を算出する。さらに、各信号点の標準偏差値を算出する。ここで、位相同期後の光信号sを下式で表すものとする。
k =Ik +jQk (k=1,2,3,...,N Nは任意の整数)
そうすると、光信号の平均振幅μは、下記(4)式で表される。また、光信号の信号点の標準偏差値σは、下記(5)式で表される。
【0051】
【数3】

【0052】
ステップS24では、上記計算式で得られる平均振幅μおよび標準偏差値σを用いて、下記の品質指標Fqualityを算出する。
quality=μ/σ
なお、ステップS24では、各信号点(例えば、QPSKでは4点)で求められる品質指標Fqualityの平均値を算出すれば、短時間で精度の高い評価値が得られる。また、平均振幅μの代わりに、第2の実施形態で使用する平均パワーを用いるようにしてもよい。このように、第3の実施形態のモニタ回路においては、位相同期後の光電界情報を利用して光信号の品質が算出される。
【0053】
<第4の実施形態>
図14は、第4の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。第4の実施形態のモニタ回路の基本構成は、図2に示す第1の実施形態と同じである。ただし、第4の実施形態のモニタ回路においては、FIRフィルタ21のパラメータを利用して、光ファイバ伝送路の特性を検出する。なお、図14に示す光受信器は、単一偏波コヒーレント受信器である。以下では、光ファイバ伝送路の特性の1つとして波長分散を検出する実施例を説明する。
【0054】
図15は、FIRフィルタ21が備えるタップ係数パラメータテーブルの構成を示す図である。タップ係数テーブルには、複数の波長分散値に対して、それぞれその波長分散を補償するためのタップ係数が格納されている。図15に示す例では、−1000ps/nm〜1000ps/nmの範囲の波長分散を補償するためのタップ係数C0〜Cnが格納されている。具体的には、例えば、光ファイバ伝送路の波長分散が「−1000ps/nm」であった場合には、FIRフィルタ21に対して「C0=C0_m10」〜「Cn=Cn_m10」が設定されると、FIRフィルタ演算によってその波長分散が補償される。
【0055】
ここで、波長分散β2[s2/m]を持つ光ファイバの長さをL[m]とすると、その光ファイバの伝達関数Hは、(6)式で表される。
H(ω)=exp (−jω2β2L/2) ・・・(6)
そうすると、波長分散を補償するための伝達関数は、(7)式で表される。
-1(ω)=exp (jω2β2L/2) ・・・(7)
そして、このような補償を行うためのタップ係数は、(8)式で与えられる。「Ts」はサンプリング周波数の逆数である。
【0056】
【数4】

【0057】
例えば、光ファイバ伝送路の波長分散が「−1000ps/nm」である場合は、(8)式において「β2」として「−1000ps/nm」を代入すると共に、「k」として順番に「0,1,2,・・・,n」を与えることにより、「C0_m10」〜「Cn_m10」が得られる。なお、タップ係数C0〜Cnは、このようにして計算の求めてもよいし、測定またはシミュレーションで求めるようにしてもよい。
【0058】
図16は、第4の実施形態において光ファイバ伝送路の特性を算出する手順を示すフローチャートである。ステップS31では、波長分散値として予め決められた初期値を設定する。ここでは、図15に示すタップ係数テーブルに登録されている波長分散値の中の1つ選択される。
【0059】
ステップS32では、設定された波長分散値に対応するタップ係数C0〜Cnをタップ係数テーブルから抽出し、FIRフィルタ21に与える。そうすると、FIRフィルタ21は、与えられたタップ係数を用いて入力信号に対してフィルタ演算を実行する。このとき、例えば、「−1000ps/nm」に対応するタップ係数が与えられているものとすると、FIRフィルタ21は、「−1000ps/nm」を補償するための演算を行う。
【0060】
ステップS33では、FIRフィルタ21の出力データを利用して、光信号対雑音比をモニタする。光信号対雑音比のモニタは、特に限定されるものではないが、例えば、第1〜第3の実施形態に従う。すなわち、品質指標FOSNR(FOSNR1、FOSNR2、Fqualityの中の任意の1つまたは複数)を算出する。ステップS34では、算出した品質指標FOSNRをメモリに保存する。
【0061】
ステップS35は、補償すべき波長分散値をスイープしながら、ステップS32〜S34の処理を繰り返し実行する。即ち、この実施例では、−1000ps/nm〜1000ps/nmの範囲で各波長分散に対応するタップ係数を、順次、FIRフィルタ21に設定し、品質指標FOSNRを求める。
【0062】
そして、ステップS35において、品質指標FOSNRが最良となる波長分散値を出力する。例えば、「−900ps/nm」に対応するタップ係数がFIRフィルタ21に与えられたときに品質指標FOSNRが最も良好になったものとすると、光ファイバ伝送路の実際の波長分散が「−900ps/nm」であるものと推定される。
【0063】
具体的には、例えば、以下の手順で光ファイバ伝送路の波長分散値を求める。まず、タップ係数テーブルから、例えば、初期値として「−1000ps/nm」を選択し、対応するタップ係数「C0_m10」〜「Cn_m10」を抽出する。このタップ係数をFIRフィルタ21に設定し、フィルタ演算を行う。そして、光信号対雑音比を算出して「F(-1000)」としてメモリに格納する。
【0064】
続いて、「−900ps/nm」を選択し、対応するタップ係数「C0_m09」〜「Cn_m09」を抽出する。そして、このタップ係数をFIRフィルタ21に設定して光信号対雑音比を算出し、「F(-900)」としてメモリに格納する。
【0065】
以下同様に、「−800ps/nm」〜「1000ps/nm」に対応するタップ係数を、FIRフィルタ21に設定し、それぞれ光信号対雑音比を算出して「F(-800)」〜「F(1000)」としてメモリに格納する。そして、メモリの格納されている「F(-1000)」〜「F(1000)」の中で、光信号の品質が最も高くなる値を出力する。なお、この手順では、タップ係数テーブルに登録されているすべての波長分散値について光信号対雑音比を算出する必要はない。
【0066】
このように、第4の実施形態のモニタ回路においては、光信号を等化するためのFIRフィルタのタップ係数を変えながら、光信号の品質が最も高くなるタップ係数がサーチされる。そして、光ファイバ伝送路の特性として、サーチされたタップ係数に対応する波長分散値が得られる。
【0067】
図17は、第4の実施形態における他の手順を示すフローチャートである。この手順では、ステップS41において、適応波形等化を行う。すなわち、FIRフィルタ21において、係数管理部35がタップ係数のセットを切り替えながら、光信号の波形を適切に等化する状態がサーチされる。そして、光信号の波形が適切に等化される状態が検出されると、ステップS42では、そのときのタップ係数C0〜Cnがタップ係数テーブルから読み出される。
【0068】
ステップS43では、読み出されたタップ係数C0〜Cnから波長分散値が算出される。すなわち、上述した(8)式の逆関数を解くことによって、タップ係数C0〜Cnから波長分散β2が算出される。そして、ステップS44において、算出した波長分散値が出力される。この手順によれば、タップ係数テーブルに登録されている波長分散範囲全体をスイープする必要がないので、演算量が少なくなる。
【0069】
<第5の実施形態>
図18は、第5の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。第5の実施形態のモニタ回路の基本構成は、図11に示す第3の実施形態と同じである。ただし、第5の実施形態のモニタ回路においては、非線型量モニタリング部61を用いて、光信号の振幅方向の偏差と位相方向の偏差の比に基づいて、非線型量をモニタする。
【0070】
図19は、第5の実施形態で算出される非線型量を模式的に示す図である。ここでは、光QPSK変調信号の位相同期後の光電界データの分布が示されている。第5の実施形態において、非線型量FNLは、振幅方向の標準偏差σrと、位相方向の標準偏差σθとの比により定義される。
【0071】
非線型量FNLは、位相同期部22から出力される位相同期後の光電界データに基づいて、非線型量モニタリング部61により算出される。ここで、位相同期後の光信号sを下式で表すものとする。
k =Ik +jQk (k=1,2,3,...,N Nは任意の整数)
そうすると、平均振幅は、(9)式で表される。また、平均位相は、(10)式で表される。
【0072】
【数5】

【0073】
この場合、光信号の振幅方向の標準偏差σrは(11)式で表される。また、光信号の位相方向の標準偏差σθは(12)式で表される。
【0074】
【数6】

【0075】
そして、非線型量モニタリング部61は、下式により非線型量FNLを算出する。
NL=σθ/σr
このように、第5の実施形態のモニタ回路においては、コヒーレント受信により得られる光電界情報から非線型量が算出される。
【0076】
<第6の実施形態>
図20は、第6の実施形態のモニタ回路を備える光受信器の構成を示す図である。第6の実施形態のモニタ回路の基本構成は、図18に示す第5の実施形態と同じである。ただし、第6の実施形態のモニタ回路は、非線型歪を補償するための非線型補償部62を備える。なお、非線型補償部62は、FIRフィルタ21と位相同期部22との間、または位相同期部22の後段に設けられる。
【0077】
非線型補償部62は、FIRフィルタ21から出力される光電界データに対して、非線型補償アルゴリズム演算を行うことにより、非線型性を補償する。非線型補償アルゴリズムは、例えば、(12)式に示す関数θcで表される。
θc (r)=c22+c1r+c0 ・・・(12)
図21は、非線型補償部62による非線型補償演算を模式的に示す図である。図21では正確に描かれてないが、光振幅が大きくなるほど、光位相に対する非線型効果が大きくなる。ここで、関数θcは、非線型補償部62に与えられる光電界データの振幅に応じて、その光電界データの位相を回転させる。そして、非線型補償部62は、例えば、位相雑音の分散を最小化するように、関数θcの係数c2〜c0を決定する。なお、(12)式を利用して非線型補償を行う技術は、公知の技術であり、例えば下記の文献に詳しく記載されている。
“Signal Design and Detection in Presence of Nonlinear Phase Noise”, Alan Pak Tao Lau and Joseph Kahn, Journal of Lightwave Technology Vol. 25, No.10, October 2007 p3008-3016
非線型量モニタリング部63は、非線型補償部62により決定される係数c2〜c0を取得する。そして、非線型量モニタリング部63は、取得した係数c2〜c0から非線型量を算出する。すなわち、取得した係数c2〜c0を(12)式に与えることにより、光振幅rと光位相θの関係を求める。これにより、非線型量が得られる。
【0078】
なお、上述の第1〜第6の実施形態は、光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号がmPSK変調信号(特に、QPSK)であるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、実施形態のモニタ回路は、mPSK変調信号の他にも、例えば、QAM信号等にも適用可能である。また、実施形態のモニタ回路は、RZ、NRZ、CSRZ(Carrier Suppressed RZ)、デュオバイナリ(PSBT:Phase Shaped Binary Transmission)にも適用可能である。
【0079】
図22は、16QAM信号の品質をモニタする方法を示す図である。ここでは、光信号の平均振幅μおよび標準偏差σに基づいて、光信号対雑音比を算出する例を示している。この場合、標準偏差σは、各信号点について算出する。標準偏差σは、例えば、上述の(5)式で算出される。また、平均振幅μは、原点から最も遠い信号点について算出する。平均振幅μは、例えば、上述の(4)式で算出される。そして、「μ/σ」に基づいて、16QAM信号の光信号対雑音比を求める。なお、平均振幅μの代わりに、平均パワーを用いて品質指標を算出するようにしてもよい。
【0080】
また、デジタル信号処理部20は、第1〜第6の実施形態のモニタ回路の中の任意の2個以上を備えるようにしてもよい。すなわち、デジタル信号処理部20は、光信号対雑音比、光ファイバ伝送路の波長分散、非線型量をすべてモニタするようにしてもよい。この場合、各モニタ演算は、並列に実行してもよいし、時間分割で順番に実行してもよい。このように、実施形態のモニタ回路は、コヒーレント受信により得られる光電界情報を利用して、様々な指標(光信号の品質、光ファイバ伝送路の特性)を算出することができる。したがって、モニタすべき特性ごとに、それぞれ専用の装置を設ける必要はない。この結果、複数種類の特性をモニタするためのモニタ装置の小型化および/または低コスト化が実現される。
【0081】
さらに、上述の実施例では、光信号を受信する光受信器の中にモニタ回路が設けられる構成を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、モニタ回路は、図1を参照しながら説明したように、光中継器に設けられてもよいし、光ファイバ伝送路の途中から分岐された光信号をモニタするようにしてもよい。
【0082】
図23および図24は、データ再生機能を備えないモニタ回路の構成を示す図である。これらのモニタ回路は、例えば、図1に示す光中継局4に設けられる。また、図23に示す構成は、例えば、第1の実施形態および第2の実施形態に相当し、波形等化された信号(位相同期前の信号)に基づいてモニタを行う。この場合、図2等に示す位相同期部22および信号識別部23は不要である。一方、図24に示す構成は、例えば、第3の実施形態に相当し、位相同期後の信号に基づいてモニタを行う。この場合、位相同期部22は必要であるが、信号識別部23は不要である。
【0083】
<偏波ダイバーシティ受信>
上述した第1〜第6の実施形態のモニタ回路は、偏波ダイバーシティ受信器にも適用可能である。以下、偏波ダイバーシティコヒーレント受信におけるモニタリングについて説明する。
【0084】
図25および図26は、実施形態のモニタ回路を備える偏波ダイバーシティ受信器の構成を示す図である。図25に示す構成は、位相同期前の信号に基づいてモニタを行い、図26示す構成は、位相同期後の信号に基づいてモニタを行う。
【0085】
図25または図26において、偏光ビームスプリッタ(PBS)71は、入力信号光をX偏光およびY偏光に分岐する。X偏光およびY偏光は、それぞれ、光ハイブリッド部13x、13yに導かれる。偏光ビームスプリッタ72は、局発光源11により生成される局発光から互いに直交する1組の偏光を生成し、光ハイブリッド部13x、13yに導く。
【0086】
光ハイブリッド部13xは、光信号のX偏光についてのI成分光信号およびQ成分光信号を生成する。同様に、光ハイブリッド部13yは、光信号のY偏光についてのI成分光信号およびQ成分光信号を生成する。受光部14、クロック再生部15、A/D変換部16の動作は、図2を参照しながら説明した通りである。
【0087】
デジタル信号処理部20には、X偏光についての光電界データおよびY偏光についての光電界データが入力される。そして、デジタル信号処理部20により実現される実施形態のモニタ回路は、上述の品質および特性に加えて、例えば、偏波モード分散(PMD:Polarization Mode Dispersion)、偏光状態(SOP:State of Polarization)、偏光依存損失(PDL:Polarization Dependent Loss)などをモニタすることができる。
【0088】
FIRフィルタ73は、図27に示すように、4つのフィルタ要素を備えるバタフライ型FIRフィルタである。各フィルタ要素の構成および動作は、基本的には、図3を参照しながら説明したFIRフィルタと同じである。そして、X偏光についての光電界データは、フィルタ要素FIRxx、FIRxyに導かれる。また、Y偏光についての光電界データは、フィルタ要素FIRyx、FIRyyに導かれる。そして、フィルタ要素FIRxx、FIRyxは、Y偏光成分を遮断するためのフィルタ演算を行う。同様に、フィルタ要素FIRxy、FIRyyは、X偏光成分を遮断するためのフィルタ演算を行う。なお、各フィルタ要素のフィルタ動作は、上述したように、適切なタップ係数を与えることにより実現される。
【0089】
加算器74は、フィルタ要素FIRxx、FIRyxの演算結果を互いに加算することにより、光電界データX’を生成する。同様に、加算器75は、フィルタ要素FIRxy、FIRyyの演算結果を互いに加算することにより、光電界データY’を生成する。
【0090】
デジタル信号処理部20の他の要素の動作は、基本的に、図2〜図21を参照しながら説明した単一偏波コヒーレント受信と同じである。ただし、偏波ダイバーシティコヒーレント受信においては、単一偏波コヒーレント受信と同等の演算が2セット実行される。
【0091】
モニタ回路は、FIRフィルタ73の各フィルタ要素に対して与えられているタップ係数を収集する。すなわち、4セットのタップ係数を収集する。そして、PMD、SOP、PDLは、収集した4セットのタップ係数に基づいて算出することが可能である。
【0092】
一例として、FIRタップ係数を用いてSOPをモニタリングする方法を説明する。ここでは、入射偏光Hは、下記の行列で表されるものとする。
【0093】
【数7】

【0094】
そうすると、偏波多重された信号を分離するためには、入射偏光の逆行列を生成する必要がある。入射偏光の逆行列は、下記のように表される。
【0095】
【数8】

【0096】
この行列H-1は、FIRフィルタ73により実現される。すなわち、図27に示すFIRフィルタ73による演算は、下式で表される。
【0097】
【数9】

【0098】
この場合、「ν1*」は「FIRxx」に相当し、「−ν2」は「FIRyx」に相当する。また、「ν2*」は「FIRxy」に相当し、「ν1」は「FIRyy」に相当する。そして、この行列H-1は、公知の適応等化アルゴリズムを利用して求めることが可能である。したがって、FIRフィルタ73から4セットのタップ係数を収集すれば、光信号の入射偏波状態を知ることができる。
【0099】
なお、偏波ダイバーシティ受信をする場合においても、データ再生機能を備えないモニタ回路を提供することができる。波形等化された信号(すなわち、位相同期前の信号)に基づいてモニタを行う構成を図28に示す。また、位相同期後の信号に基づいてモニタを行う構成を図29に示す。
【0100】
<セルフコヒーレント受信>
上述の実施例では、局発光源11が生成する局発光を利用してコヒーレント受信を行う構成を示した。これに対して、以下では、局発光を利用することなく光信号の振幅情報および位相情報を検出するセルフコヒーレント受信について説明する。
【0101】
図30は、セルフコヒーレント受信を行う光受信器の構成を示す図である。図30において、入力信号光は、遅延干渉計回路81および受光部84に導かれる。遅延干渉計回路81は、例えば、図31に示すように、並列に接続される2個の遅延干渉計を含んで構成される。一方の遅延干渉計は、第1アームに1サンプル時間遅延要素を備え、第2アームにπ/4移相要素を備えている。また、他方の遅延干渉計は、第1アームに1サンプル時間遅延要素を備え、第2アームに−π/4移相要素を備えている。この構成により、I成分情報およびQ成分情報を得ることができる。すなわち、入力信号光から差動位相情報が検出される。遅延干渉計回路81の後段には、1組の受光部82および1組のA/D変換部83が設けられており、差動位相を表すデジタルデータが得られる。一方、入力信号光は、受光部84により電気信号に変換され、A/D変換部85によりデジタルデータに変換される。これにより、入力光信号の振幅情報が得られる。
【0102】
電場再構築部86は、A/D変換部83、85から与えられるデジタルデータから複素電場を再構築する。ここで、受信複素信号を「r(t)」とすると、A/D変換後の信号は下式で表される。
u(t) =uI(t) +juQ(t) =r(t)r(t−τ)*
また、差動位相は、下式で表される。
【0103】
【数10】

【0104】
そうすると、再構築される複素電場は、下式で表される。
【0105】
【数11】

【0106】
再構築された複素電場データは、FIRフィルタ21によりフィルタリングされた後にMSPE(Multi-Symbol Phase Estimation)部87に渡される。ここで、FIRフィルタ21から出力されるデータを「r_filtered(t)」とすると、MSPE部87の出力データxは、下式で表される。ただし、N(=1,2,3,...)は展開シンボル数である。また、「w」は忘却定数である。
【0107】
【数12】

【0108】
品質モニタリング部24およびCDモニタリング部25の動作は、基本的に、先に説明した通りである。また、品質モニタリング部24の代わりに、品質モニタリング部41、51等を用いることも可能である。すなわち、局発光を使用するコヒーレント受信器に設けられるモニタ回路は、実質的に、セルフコヒーレント受信を行う光受信器においても利用することができる。
【0109】
また、偏波ダイバーシティ受信器にセルフコヒーレント受信構成を導入することも可能である。偏波ダイバーシティ受信器にセルフコヒーレント受信構成を導入した構成を図32に示す。この構成においては、例えば、光信号対雑音比だけでなく、偏波モード分散、偏光状態、偏光依存損失もモニタすることができる。
【0110】
なお、上述の各実施例の説明では、デジタル等化フィルタの一種としてFIRフィルタを用いる場合について説明したが、IIRフィルタや非線形フィルタ等であってもよい。また、上述の実施例においてタップ係数として説明したものは、一般的には、フィルタの伝達関数を規定するフィルタの動作パラメータとして理解すべきものとなる。
【0111】
上述の各実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
光信号をコヒーレント受信する光受信回路と共に使用されるモニタ回路であって、
コヒーレント受信により得られる前記光信号についての電界データに対して、前記光信号を等化するためのフィルタ演算を行うことにより、等化電界データを生成するデジタル等化フィルタと、
前記等化電界データに基づいて前記光信号の品質を算出する品質算出手段、
を備えることを特徴とするモニタ回路。
(付記2)
付記1に記載のモニタ回路であって、
前記品質算出手段は、前記等化電界データから得られる前記光信号の振幅の平均値および標準偏差値に基づいて、前記光信号の信号対雑音比を算出する
ことを特徴とするモニタ回路。
(付記3)
付記1に記載のモニタ回路であって、
前記等化電界データに対して、前記光信号の雑音成分を抽出するためのフィルタ演算を行うことにより、雑音データを生成するデジタル帯域フィルタ、をさらに備え、
前記品質算出手段は、前記等化電界データから得られる前記光信号の電力および前記雑音データから得られる雑音電力に基づいて、前記光信号の信号対雑音比を算出する
ことを特徴とするモニタ回路。
(付記4)
付記1に記載のモニタ回路であって、
前記等化電界データに対して、前記光信号の周波数オフセットを補償するための演算および位相同期のための演算を行う補正手段、をさらに備え、
前記品質算出手段は、前記補正手段により補正された電界データから得られる前記光信号の振幅の平均値および標準偏差値に基づいて、前記光信号の品質を算出する
ことを特徴とするモニタ回路。
(付記5)
付記1に記載のモニタ回路であって、
前記等化電界データに対して、前記光信号の周波数オフセットを補償するための演算および位相同期のための演算を行う補正手段、をさらに備え、
前記品質算出手段は、前記補正手段により補正された電界データから得られる前記光信号の振幅の標準偏差値および位相の標準偏差値に基づいて、前記光信号の非線形性を算出する
ことを特徴とするモニタ回路。
(付記6)
付記1に記載のモニタ回路であって、
前記等化電界データに対して、前記光信号の非線形性を補償するための演算を行う非線形補償手段、をさらに備え、
前記品質算出手段は、前記非線形補償手段による演算で使用する係数に基づいて、前記光信号の非線形性を算出する
ことを特徴とするモニタ回路。
(付記7)
光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号をコヒーレント受信する光受信回路と共に使用されるモニタ回路であって、
コヒーレント受信により得られる前記光信号についての電界データに対して、前記光ファイバ伝送路の特性を補償するためのフィルタ演算を行うデジタル等化フィルタと、
前記特性を補償するために前記デジタル等化フィルタの伝達関数を決定する少なくとも1つのパラメータを用いて、前記光ファイバ伝送路の特性を検出する特性検出手段、
を備えることを特徴とするモニタ回路。
(付記8)
付記7に記載のモニタ回路であって、
前記電界データに基づいて前記光信号の品質を算出する品質算出手段と、
前記光ファイバ伝送路の特性値に対応づけて複数セットのパラメータを格納する格納手段と、
前記格納手段に格納されているパラメータを前記デジタル等化フィルタに設定する制御手段、をさらに備え、
前記特性検出手段は、前記光信号の品質が最も高くなるパラメータに対応する特性値を出力する
ことを特徴とするモニタ回路。
(付記9)
光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号を偏波ダイバーシティコヒーレント受信する光受信回路と共に使用されるモニタ回路であって、
偏波ダイバーシティコヒーレント受信により得られる前記光信号についての1組の電界データに対して、前記光ファイバ伝送路上で前記光信号が受けた状態変化を補償するためのフィルタ演算を行う複数のデジタル等化フィルタと、
前記複数のデジタル等化フィルタにおいて状態変化を補償するために設定されるパラメータを用いて、前記光ファイバ伝送路の特性を検出する特性検出手段、
を備えることを特徴とするモニタ回路。
(付記10)
光信号をコヒーレント受信する光受信回路と、
コヒーレント受信により得られる前記光信号についての電界データに対して、前記光信号を等化するためのフィルタ演算を行うことにより、等化電界データを生成するデジタル等化フィルタと、
前記等化電界データに基づいて前記光信号の品質を算出する品質算出手段、
を備えることを特徴とする光受信器。
(付記11)
付記10に記載の光受信器であって、
前記光受信回路は、局発光を利用して入力光信号をコヒーレント受信する
ことを特徴とする光受信器。
(付記12)
付記10に記載の光受信器であって、
前記光受信回路は、遅延位相干渉計を備えるセルフコヒーレント受信回路である
ことを特徴とする光受信器。
(付記13)
光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号をコヒーレント受信する光受信回路と、
コヒーレント受信により得られる前記光信号についての電界データに対して、前記光ファイバ伝送路の波長分散を補償するためのフィルタ演算を行うデジタル等化フィルタと、
前記波長分散を補償するために前記デジタル等化フィルタに設定されるパラメータを用いて、前記光ファイバ伝送路の特性を検出する特性検出手段、
を備えることを特徴とする光受信器。
【符号の説明】
【0112】
1 光送信器
2 光受信器
3 光ファイバ伝送路
5 モニタ回路
6 ネットワーク管理システム
10 光受信回路
11 局発光源
12 偏波制御部
13 光ハイブリッド部
14 受光部
15 クロック再生部
16 A/D変換部
20 デジタル信号処理部
21 FIRフィルタ
22 位相同期部
23 信号識別部
24、41、51 品質モニタリング部
25 CDモニタリング部
42 フィルタ
43 電力演算部
61、63 非線型量モニタリング部
62 非線型補償部
71 偏光ビームスプリッタ
81 遅延干渉計回路
86 電場再構築部
87 MSPE部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号をコヒーレント受信する光受信回路と共に使用されるモニタ回路であって、
コヒーレント受信により得られる前記光信号についての複素電界データに対して、前記光ファイバ伝送路の逆特性を与えるフィルタ演算を行うデジタル等化フィルタと、
前記デジタル等化フィルタの伝達関数を決定する少なくとも1つのパラメータを用いて、前記光ファイバ伝送路の特性を検出する特性検出手段、
を備えることを特徴とするモニタ回路。
【請求項2】
請求項1に記載のモニタ回路であって、
複素電界データに基づいて前記光信号の品質を算出する品質算出手段と、
前記光ファイバ伝送路の特性値に対応づけて複数セットのパラメータを格納する格納手段と、
前記格納手段に格納されているパラメータを前記デジタル等化フィルタに設定する制御手段、をさらに備え、
前記特性検出手段は、前記光信号の品質が最も高くなるパラメータに対応する特性値を出力する
ことを特徴とするモニタ回路。
【請求項3】
光ファイバ伝送路を介して伝送される光信号を偏波ダイバーシティコヒーレント受信する光受信回路と共に使用されるモニタ回路であって、
偏波ダイバーシティコヒーレント受信により得られる前記光信号についての1組の複素電界データに対して、前記光ファイバ伝送路上で前記光信号が受けた状態変化を補償するため前記光ファイバ伝送路の逆特性を与えるフィルタ演算を行う複数のデジタル等化フィルタと、
前記複数のデジタル等化フィルタにおいて状態変化を補償するために設定されるパラメータを用いて、前記光ファイバ伝送路の特性を検出する特性検出手段、
を備えることを特徴とするモニタ回路。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2013−38815(P2013−38815A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−219758(P2012−219758)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【分割の表示】特願2008−41237(P2008−41237)の分割
【原出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】