説明

光ファイバ切断工具

【課題】被覆付き光ファイバを切断したときに、切断端面において、ガラスを確実に露出させて、良好な接続特性で被覆付き光ファイバを接続することを実現するための切断工具を提供すること。
【解決手段】本願発明に係る装置は、被覆付き光ファイバを設置するために前記装置の主面に設けられた溝121と、溝121に設置した被覆付き光ファイバを固定するための被覆付き光ファイバ固定治具114−1及び114−2と、被覆円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃を備えた第1の被覆付き光ファイバ切断治具113−1と、被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃112−2を備えた第2の被覆付き光ファイバ切断治具113−2とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスを被覆で覆った状態である被覆付き光ファイバの切断工具であり、具体的には、切断後の被覆付き光ファイバ端面において、ガラスが被覆に覆われることがない切断工具に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの素線は石英ガラスが主成分であるため、このガラスの保護を目的に、樹脂を材料とした被覆材でガラスを覆っている。この被覆材で覆った状態の光ファイバを被覆付き光ファイバと呼ぶ。図1は、被覆付き光ファイバを示す図である。被覆付き光ファイバの断面図を図1(a)に、側面図を図1(b)に示す。被覆101の直径は0.25mmであり、ガラス102の直径は0.125mmである。
【0003】
光ファイバを接続するためには、被覆を除去してガラスを露出した状態とする工程が必要である。従来の接続では、被覆を除去した後のガラスは高精度に作製されているため、高精度に作製されたガラス径を利用して、光ファイバ同士を高精度に整列させている。
【0004】
従来の光ファイバの接続装置は、光ファイバ融着装置、メカニカルスプライスが挙げられる。専用の被覆除去工具により光ファイバの被覆を除去した後に、専用の切断工具を用いて、被覆が除去され露出したガラスを切断し、ガラス同士を接続していた。
【0005】
被覆を除去した光ファイバは、直径0.125mmのガラスが露出した状態となる。光ファイバの接続作業では、この被覆が除去されガラスが露出した光ファイバを取り扱うため、接続作業中に光ファイバのガラスが折損する可能性がある。そこで、被覆を除去することなく、被覆が付いた状態のまま接続することで、接続作業中の光ファイバのガラス破損を防ぐことができる。さらには、従来必要であった被覆除去の工程を省略することが可能になり、接続作業の効率化が可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「FTTH施工技術」、株式会社オプトロニクス社、平成16年7月発行、p. 69―72、74―76、85―86、122―123
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術により、被覆付き光ファイバ103を切断する方法を図2に示す。図2(a)は、従来の切断装置を用いた場合の、被覆付き光ファイバ103を被覆付き光ファイバ固定部111で固定し、刃112を被覆内部のガラス部と接触させ、ガラス表面に加傷した状態を示す。図2(b)は、ガラス表面を加傷した後に、枕部118を被覆付き光ファイバ103へ落とし、被覆付き光ファイバ103を切断する態様を示す。切断後の被覆付き光ファイバ103は、必ずしも、被覆とガラスの切断面が揃うことはない(図2(c)を参照)。図3に示すように、ガラス102の一部を被覆101が覆うように切断されることもある。
【0008】
被覆がガラスより出た光ファイバ同士を突き合わせたときに、ガラスの接続面に被覆が介在し、接続特性を著しく劣化させる課題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を鑑みて、被覆付き光ファイバを切断したときに、切断端面において、ガラスを確実に露出させて、良好な接続特性で被覆付き光ファイバを接続することを実現するための切断工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、被覆によってガラスが覆われた被覆付き光ファイバを切断する光ファイバ切断工具であって、被覆付き光ファイバを設置するための溝と、溝に設置された被覆付き光ファイバを固定するための被覆付き光ファイバ固定治具と、被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃を備えた第1の被覆付き光ファイバ切断治具と、被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃を備えた第2の被覆付き光ファイバ切断治具とから構成されることを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施形態において、被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃の位置と、被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃の位置とは、被覆付き光ファイバの伸長する方向に対して異なることを特徴とする。
【0012】
本発明の一実施形態において、被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃は、U字型の2つの刃が切断工具の主面鉛直方向に沿って設置されたものであり、被覆付き光ファイバをU字型の2つの刃で挟み込むことで被覆付き光ファイバのうちの被覆のみを被覆付き光ファイバの円周方向に沿って加傷し、被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃は、先端が丸みを帯びた形状であり、ガラス表面に加傷されるように高さが調整されており、被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃を、被覆付き光ファイバの伸長方向に垂直な方向且つ光ファイバ切断工具の主面に平行な方向にスライドさせることで、被覆付き光ファイバのうちの被覆の一部とガラス表面とを加傷することを特徴とする。
【0013】
本発明の一実施形態において、加傷された被覆付き光ファイバは、被覆付き光ファイバの伸長する方向に引っ張られることで切断されることを特徴とする。
【0014】
本発明の一実施形態において、第1の被覆付き光ファイバ切断治具又は第2の被覆付き光ファイバ切断治具は、被覆付き光ファイバの伸長する方向にスライドすることにより被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃と被覆の一部及びガラス表面を加傷する刃との距離を調節することができる機構を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の一実施形態において、被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃によって加傷された後、被覆は、完全には除去されずガラス表面を覆っており、これにより、被覆下のガラス表面に傷が生じないことを特徴とする。
【0016】
本発明の一実施形態は、被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃のU字径を調整することで、加傷する被覆の量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、被覆付き光ファイバを切断したときに、切断端面において、ガラスを確実に露出させて、良好な接続特性で被覆付き光ファイバを接続することを実現するための切断工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】被覆付き光ファイバを示す図であり、(a)は断面図を示し、(b)は側面図を示す。
【図2】従来の切断装置を用いて被覆付き光ファイバを切断する方法を示す。
【図3】従来の切断装置を用いて切断した被覆付き光ファイバの切断部を示す。
【図4】本発明に係る被覆付き光ファイバの切断装置の斜視図である。
【図5】被覆付き光ファイバの被覆のみを加傷する方法の説明図であり、(a)は図4の断面線a−a’における加傷前の断面図を示し、(b)は図4の断面線a−a’における加傷後の断面図を示す。
【図6】円周方向に加傷する前後の被覆付き光ファイバの断面図であり、(a)は加傷前の断面図を示し、(b)は加傷後の断面図を示す。
【図7】被覆付き光ファイバが設置された状態での図4の断面線b−b’における本装置の断面図である。
【図8】被覆付き光ファイバのうちの被覆の一部とガラス表面とを加傷する方法の説明図であり、(a)は加傷前の断面図を示し、(b)は加傷中の断面図を示し、(c)は加傷後の断面図を示す。
【図9】加傷後の被覆付き光ファイバの側面図である。
【図10】加傷後の被覆付き光ファイバを切断する方法の説明図であり、(a)は切断前の側面図を示し、(b)は切断中の側面図を示し、(c)は切断後の側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る被覆付き光ファイバを切断するための工具を詳細に説明する。
【0020】
図4に、本発明に係る被覆付き光ファイバの切断装置の斜視図を示す。本装置は、被覆付き光ファイバを設置するために本装置の主面に設けられた溝121と、溝121に設置した被覆付き光ファイバを固定するための被覆付き光ファイバ固定治具114−1及び114−2と、被覆円周方向に沿って被覆のみを加傷する刃(図示せず)を備えた第1の被覆付き光ファイバ切断治具113−1と、被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃112−2を備えた第2の被覆付き光ファイバ切断治具113−2とから構成される。
【0021】
以下、本装置を使用して被覆付き光ファイバを切断する方法を説明する。まず、溝121に被覆付き光ファイバを設置し、被覆付き光ファイバ固定治具114−1及び114−2により光ファイバを固定する。その後、第1の被覆付き光ファイバ切断治具113−1が備える刃を用いて、被覆付き光ファイバの被覆のみに対し、被覆付き光ファイバ円周方向に沿った加傷を行う。
【0022】
図5は、被覆付き光ファイバの被覆のみに加傷する方法を説明するための図である。図5(a)は、図4の断面線a−a’における、光ファイバを加傷する前の本装置及び光ファイバの断面図を示す。第1の被覆付き光ファイバ切断治具113−1は、U字型に加工した2つの刃112−1を内部に備えている。図5(b)は、図4の断面線a−a’における、刃112−1のU字溝に設置された被覆付き光ファイバに加傷をするため、押圧方向131に押圧し上部から刃を押し当てた状態を示す断面図である。第1の被覆付き光ファイバ切断治具113−1は、位置決め用のピン115を備えるため、上面から刃を押し付けるときに刃の位置がずれることはない。上面から刃を押し付けると被覆付き光ファイバは上下の二つの刃に挟まれるが、上下の切断刃は夫々U字型の形状をしているため、被覆付き光ファイバは、U字型の刃の中央部に配置される。さらに刃を押し込むことで、円周方向に均等に被覆を加傷することができる。刃のU字径を調整することで、被覆の加傷量を制御することができる。
【0023】
図6に、円周方向に加傷される前後の被覆付き光ファイバの断面図を示す。図6(a)は、切断前の断面図である。図6(b)は、切断後の断面図であり、上下からU字型の刃112によって挟み込まれたため、被覆が除去されたことを示す。図6(b)の領域104は、被覆が加傷され、除去された領域を示す。
【0024】
被覆付き光ファイバから完全に被覆を除去してしまうと、被覆除去の過程においてU字型の刃が、ガラス表面に接触するため傷が生じる。被覆付き光ファイバを引っ張るときに、その傷を起点として破断する可能性がある。これによって、被覆の切断位置及びガラスの切断位置が同じになる可能性が生じてしまう。このような場合、目的の構造である被覆からガラスが突き出た構造が得られない。よって、本発明では、被覆をガラス表面にわずかに残すことで、ガラス表面への傷の発生を防いでいる。
【0025】
被覆付き光ファイバの被覆のみを光ファイバ円周方向に沿って加傷するのと同時に或いは加傷した後、被覆の一部とガラスの表面とを加傷するため、刃112−2をスライドさせる。図7は、被覆付き光ファイバが設置された状態での図4の断面線b−b’における本装置の断面図である。溝121に被覆付き光ファイバが設置されている。
【0026】
図8の各図は、図7の断面図の一部を示し、刃112−2を動かしたときの様子を時系列順で(即ち、(a)、(b)、(c)の順で)示している。
【0027】
図8(a)は、被覆付き光ファイバを加傷する前の状態を示す図である。刃112−2の位置は、ガラス表面に刃112−2が接触するように調整される。図8(b)は、被覆付き光ファイバ加傷中の状態を示す図である。刃112−2は、被覆付き光ファイバの伸長方向に対して垂直方向にスライドして、被覆付き光ファイバを加傷する。刃112−2が被覆付き光ファイバに接触すると、まず被覆101に当たるため、被覆101が除去される。その後、刃112−2はさらにスライドするため、刃112−2はガラス表面に接触し、ガラス表面に傷を加える。この傷が後にガラス破断をするための起点となる。図8(c)は、さらに刃をスライドさせ、残りの被覆を除去した状態を示し、一連の刃のスライドにより加傷作業が終了した態様を示す。
【0028】
図9は、刃112−1、112−2により加傷された後の被覆付き光ファイバの側面図である。被覆付き光ファイバの加傷部は、被覆を被覆付き光ファイバの円周方向に沿って加傷した部位及び被覆の一部とガラス表面とを加傷した部位である。
【0029】
図10は、加傷後の被覆付き光ファイバを切断する方法を説明するための図である。図10(a)は、加傷後の被覆付き光ファイバの側面図である。加傷後の被覆付き光ファイバは、被覆付き光ファイバ固定治具114−1、114−2で把持されている。次に、図10(b)に示すように、被覆付き光ファイバ固定治具114−1を取り外す。その後、被覆付き光ファイバ伸張方向132に被覆付き光ファイバを引っ張る。その結果、ガラス102の破断は刃が接触した加傷点141で生じ、被覆101の破断は、被覆101が円周方向に加傷された箇所より生じる。これは、この箇所では被覆の多くが除去されていることより、被覆の強度が著しく低下しているためである。よって、ガラスの破断位置と被覆の破断位置が異なる。図10(c)は破断後の光ファイバの側面図である。被覆とガラスの破断位置が異なることを利用した結果、被覆からガラスが突き出す構造を得ることができた。
【0030】
本発明の一実施形態は、被覆付き光ファイバ切断治具が、被覆付き光ファイバの伸長方向と同じ方向にスライドするための機構を備える。これにより、被覆付き光ファイバに対する刃の位置を調節することができ、2つの加傷部の位置を調節することができるようになる。よって、被覆からガラスが突き出る量を制御することができる。
【符号の説明】
【0031】
101 被覆
102 ガラス
103 被覆付き光ファイバ
104 被覆が除去された領域
111 被覆付き光ファイバ固定部
112−1、112−2 刃
113−1、113−2 被覆付き光ファイバ切断治具
114−1、114−2 被覆付き光ファイバ固定治具
115 位置合わせのピン
118 枕部
121、 溝
131 押圧方向
132 引張方向
141 ガラス表面の加傷点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆によってガラスが覆われた被覆付き光ファイバを切断する光ファイバ切断工具であって、
前記被覆付き光ファイバを設置するための溝と、
前記溝に設置された被覆付き光ファイバを固定するための被覆付き光ファイバ固定治具と、
前記被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃を備えた第1の被覆付き光ファイバ切断治具と、
被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃を備えた第2の被覆付き光ファイバ切断治具と
から構成されることを特徴とする光ファイバ切断工具。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバ切断工具において、前記被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃の位置と、前記被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃の位置とは、前記被覆付き光ファイバの伸長する方向に対して異なることを特徴とする光ファイバ切断工具。
【請求項3】
請求項2に記載の光ファイバ切断工具において、
前記被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃は、U字型の2つの刃が前記切断工具の主面鉛直方向に沿って設置されたものであり、前記被覆付き光ファイバを該U字型の2つの刃で挟み込むことで前記被覆付き光ファイバのうちの被覆のみを前記被覆付き光ファイバの円周方向に沿って加傷し、
前記被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃は、先端が丸みを帯びた形状であり、ガラス表面に加傷されるように高さが調整されており、前記被覆の一部とガラス表面とを加傷する刃を、前記被覆付き光ファイバの伸長方向に垂直な方向且つ前記光ファイバ切断工具の主面に平行な方向にスライドさせることで、前記被覆付き光ファイバのうちの被覆の一部とガラス表面とを加傷することを特徴とする光ファイバ切断工具。
【請求項4】
請求項3に記載の光ファイバ切断工具において、加傷された前記被覆付き光ファイバは、前記被覆付き光ファイバの伸長する方向に引っ張られることで切断されることを特徴とする光ファイバ切断工具。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバ切断工具において、前記第1の被覆付き光ファイバ切断治具又は前記第2の被覆付き光ファイバ切断治具は、前記被覆付き光ファイバの伸長する方向にスライドすることにより前記被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃と前記被覆の一部及びガラス表面を加傷する刃との距離を調節することができる機構を備えることを特徴とする光ファイバ切断工具。
【請求項6】
請求項4に記載の光ファイバ切断工具において、前記被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃によって加傷された後、被覆は、完全には除去されずガラス表面を覆っており、これにより、被覆下のガラス表面に傷が生じないことを特徴とする光ファイバ切断工具。
【請求項7】
請求項6に記載の光ファイバ切断工具において、前記被覆付き光ファイバの円周方向に沿って被覆のみに加傷する刃のU字径を調整することで、加傷する被覆の量を制御することを特徴とする光ファイバ切断工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−152845(P2012−152845A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13200(P2011−13200)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】