説明

光ファイバ心線分離工具

【課題】分離刃の加工精度を上げる必要がなく、光ファイバテープ心線の分離性能を大幅に向上させる。
【解決手段】 光ファイバ心線分離工具は、光ファイバテープ心線10をその厚さ方向に溝24を介して挟み込み、その溝24に沿って光ファイバテープ心線10をその長手方向に移動可能に保持する一対のベース部材21、22と、溝24を挟んで一対のベース部材21、22に対向配置される一対の分離刃25、26とを備える。両分離刃25、26は、両ベース部材21、22の溝24を臨む位置で光ファイバテープ心線10の長手方向に互いに位置をずらして配置され、溝24内で光ファイバテープ心線10の厚さ方向に互いにオーバーラップ可能な長さを有する。両分離刃25、26は、その刃先形状が槍状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ心線分離工具に係り、特に光ファイバテープ心線を任意の心線数に分離する工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の光ファイバ心線を平面的に配列して一体に被覆した多心線からなる光ファイバテープ心線を対象とし、その光ファイバテープ心線を分離したい心線数の間にその両面から分離刃を入れて分離させる光ファイバ心線分離工具が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
図5は、特許文献1、2で提案されている従来例の光ファイバ心線分離工具の全体斜視図、図6は、その分離刃の配置を示す要部断面図をそれぞれ示す。図5及び図6の例では、便宜上、光ファイバテープ心線10の幅方向、長手方向、及び厚さ方向を、それぞれX方向、Y方向、Z方向と呼ぶ。
【0004】
図5及び図6に示す光ファイバ心線分離工具20は、光ファイバテープ心線10をそのZ方向に溝24を介して挟み込み且つそのY方向に移動可能な一対(上下一対)の柱状ベース部材21、22と、両ベース部材21、22の他端側を回転可能に支持する支点を成す軸23と、両ベース部材21、22の溝24を挟んで対向する位置にそれぞれ配設される一対(上下一対)の分離刃25、26とを有する。この構成によれば、光ファイバテープ心線10を溝24内に挟み込んだ状態でそのY方向に相対的に移動させることにより、一対の分離刃25、26を介して所定心線数の光ファイバ心線へ分離可能となる。
【特許文献1】特開2003−262769号公報
【特許文献2】特開2003−262737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来例の光ファイバテープ心線分離工具20は、一対の分離刃25、26がX方向及びY方向ともに同じ位置に配置されるため、部品の加工精度等を考慮すると、一対の分離刃25、26にZ方向の隙間(図6中のa1参照)を持たせる必要があり、そのためテープ化材の材質によっては分離させづらいものもあった。また、分離性能向上目的で、一対の分離刃25、26の隙間a1を小さくするためには、加工精度を上げる必要があり、加工精度を上げると、コストがかかるといった不都合があった。
【0006】
本発明は、このような従来の事情を考慮してなされたもので、分離刃の加工精度を上げる必要がなく、光ファイバテープ心線の分離性能を大幅に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明に係る光ファイバ心線分離工具は、光ファイバテープ心線をその厚さ方向に溝を介して挟み込み且つその溝に沿って当該光ファイバテープ心線をその長手方向に移動可能に保持する一対のベース部材と、前記溝を挟んで前記一対のベース部材に対向配置される一対の分離刃とを備えた光ファイバ心線分離工具において、前記一対の分離刃は、前記一対のベース部材の前記溝を臨む位置で前記光ファイバテープ心線の長手方向に互いに位置をずらして配置され、前記溝内で前記光ファイバテープ心線の厚さ方向に互いにオーバーラップ可能な長さを有し、その刃先形状が槍状に形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の光ファイバ心線分離工具において、前記光ファイバテープ心線は、活線状態の光ファイバテープ心線であることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明では、請求項1記載の光ファイバ心線分離工具において、前記一対の分離刃は、前記光ファイバテープ心線の分離させたい心線数に応じて1組又は複数組配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、一対の分離刃を一対のベース部材の溝を臨む位置で光ファイバテープ心線の長手方向に互いに位置をずらして配置したため、一対の分離刃を光ファイバテープ心線の厚さ方向に互いにオーバーラップさせることができ、分離性能を大幅に向上させることができ、分離刃が光ファイバテープ心線に入ったときに発生する曲げを小さくすることができる。また、溝内で光ファイバテープ心線の厚さ方向に互いにオーバーラップ可能な長さを有するため、光ファイバテープ心線の長手方向に互いにずらして分離刃を配置することにより、分離性能向上目的で上下の分離刃の隙間を深くするための高精度な加工が必要なくなるので、コストを抑えることができる。また、その刃先形状が槍状に形成したため、一対の分離刃を光ファイバテープ心線の厚さ方向に互いにオーバーラップさせることができ、分離性能を大幅に向上させることができ、分離刃が光ファイバテープ心線に入ったときに発生する曲げを小さくすることができる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、上下の分離刃の刃先の形状を槍型にしたため、分離刃が光ファイバテープ心線に入ったときに発生する曲げを小さくすることができる。これにより、活線状態の光ファイバテープを対象とし、その光ファイバテープ心線を分離する際の曲げによるロス(光損失、曲げ損失)の発生を、分離刃を光ファイバテープ心線に深く入れても低くすることができる。なぜなら、一対の分離刃のオーバーラップ量を大きくさせるほど、光ファイバテープ心線に分離刃を深く入れると、曲げが大きく分離時のロスが大きくなってしまうことがあるためである。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、一対の分離刃を光ファイバテープ心線の分離させたい心線数に応じて1組又は複数組配置したため、上記効果に加え、いずれの心線数の光ファイバテープ心線でも適用でき、より汎用性の高い光ファイバ心線分離工具を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る光ファイバ心線分離工具を実施するための最良の形態を添付図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本実施例に係る光ファイバ心線分離工具の要部構成を示す概略断面図である。なお、図1に示す光ファイバ心線分離工具20は、前述した従来例の図5に示す光ファイバ心線分離工具を適用したものであるため、これと同様の構成要素については、同一符号を付してその説明を簡略又は省略する。以下の説明でも、前述と同様に、光ファイバテープ心線10の幅方向、長手方向、及び厚さ方向を、それぞれX方向、Y方向、Z方向と呼ぶ。
【0015】
図1に示す光ファイバ心線分離工具20は、例えば2心線、4心線、8心線、16心線、32心線等の多心線の光ファイバテープ心線10をそのZ方向に溝24を介して挟み込み且つそのY方向に移動可能な一対の柱状ベース部材21、22と、両ベース部材21、22を回転可能に支持する支点を成す軸と、両ベース部材21、22の溝24を挟んで対向する位置にそれぞれ配設される一対の分離刃25、26とを有する。
【0016】
この構成によれば、光ファイバテープ心線10を溝24内に挟み込んだ状態でそのY方向に相対的に移動させることにより、一対の分離刃25、26を介して所定心線数の光ファイバ心線へ分離可能となる。
【0017】
本実施例における一対の分離刃25、26は、図1に示すように、その刃先の中心位置がY方向の異なる位置に所定距離分(図1中のb参照)互いにずらして配置される。これにより、従来例のように溝24内において一対の分離刃25、26にZ方向の隙間を持たせる必要がなくなり、一対の分離刃25、26の長さ(突き出し長)をZ方向に所定長さ分(図1中のa2参照)互いにオーバーラップさせることができる。
【0018】
従って、本実施例によれば、溝24内でその長さを互いにオーバーラップさせた一対の分離刃25、26により、光ファイバテープ心線10をそのZ方向に隙間なく分離させることができるため、テープ化材の材質に関係なく分離させることができ、その結果、光ファイバテープ心線10の分離性能を大幅に向上させることができる。また、分離性能向上目的で、一対の分離刃25、26の隙間を狭くするための高精度な加工が必要なくなるので、コストを大幅に抑えることができる。
【0019】
なお、上記実施例では、一対の分離刃を1組配置した場合を例示しているが、本発明はこれに限らず、分離したい心線数に応じてX方向に所定間隔で複数組配置してもよい。この場合、一対の分離刃の互いのY方向位置を上記と同様に異なる位置にずらして配置すると共に、一対の分離刃の各組の互いのY方向位置も異なる位置にずらして配置してもよい。
【実施例2】
【0020】
上記実施例の光ファイバ心線分離工具を使用し、活線状態の光ファイバテープを対象としてその光ファイバテープ心線を分離する場合、一対の分離刃の互いのオーバーラップ量を大きくさせるほど、分離刃を光ファイバテープ心線に深く入れると、光ファイバテープ心線の曲げが大きくなり、その曲げによる分離時のロス(光損失、曲げ損失)が大きくなってしまうことがある。本実施例は、このような場合に好適に実施されるもので、上記実施例と比べ、分離刃の刃先形状が相違し、その他は同様である。
【0021】
図2〜図4は、本実施例の光ファイバ心線分離工具で用いる分離刃の刃先形状を従来刃形状と比べて説明するものである。なお、上記実施例と同様の構成要素については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0022】
図2(a)は、従来刃形状の分離刃25、26を、また図2(b)は、本実施例の光ファイバ心線分離工具20で用いる槍型刃形状の分離刃25、26をそれぞれ示す。従来刃形状の分離刃25、26は、図2(a)に示すように、刃先形状が円錐又は略円錐状に形成されている。これに対し、槍型刃形状の分離刃25、26は、図2(b)に示すように、刃先形状が槍状に形成されている。ここでいう「槍状又は槍型」とは、例えば分離刃25、26の軸方向に直交する断面形状でみた場合、一方向のみに延び且つその両端部がそれぞれテーパ状に尖っているような形状を指す。
【0023】
図3(a)及び(b)は、図2(a)に示す従来刃形状の分離刃25、26を用いた場合を説明するもので、図3(a)はX方向の概略断面図、図3(b)はZ方向から溝内の光ファイバテープ心線10を見た概略平面図(図中では下側の分離刃26のみ図示)である。この場合、図3(b)に示すように、分離刃26によって光ファイバテープ心線10のX方向の両端部に外側に突き出るように湾曲する曲げC1が生じるが、その曲げC1が、分離刃26の円錐状刃先が挿入された部分の断面円形状の曲率に沿って、X方向の外側に大きく湾曲するように形成されている。
【0024】
これに対し、図4(a)及び(b)は、図2(b)に示す本実施例の光ファイバ心線分離工具20で用いる槍型形状の分離刃25、26を用いた場合を説明するもので、図4(a)はX方向の概略断面図、図4(b)はZ方向から溝内の光ファイバテープ心線10を見た概略平面図(図中では下側の分離刃26のみ図示)である。この場合、図4(b)に示すように、分離刃26によって光ファイバテープ心線10のX方向の両端部に外側に突き出るように湾曲する曲げC2が生じるが、その曲げC2が、分離刃26の槍状刃先が挿入された部分の一方向に延びた断面形状に沿って、X方向の外側に緩やかに形成されるため、図3(b)の曲げC1よりも小さくなっている。
【0025】
従って、本実施例によれば、図2(b)に示すように、一対の分離刃25、26の刃先の形状を槍型に形成したため、図4(a)及び(b)に示すように、一対の分離刃25、26が光ファイバテープ心線10に入ったときに発生する曲げを従来刃形状よりも小さくできる。これにより、活線状態の光ファイバテープ心線10を分離する場合、一対の分離刃25、26の互いのオーバーラップ量を大きくさせて、分離刃25、26を光ファイバテープ心線10にZ方向に深く入れても、光ファイバテープ心線10の曲げが従来刃形状の場合よりも小さいため、その曲げによる分離時のロスの発生を低くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明は、光ファイバテープ心線を任意の心線数に分離する光ファイバ心線分離工具に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施例に係る光ファイバ心線分離工具を示す概略断面図である。
【図2】本発明の第2実施例に係る光ファイバ心線分離工具を説明するもので、(a)は従来刃形状の分離刃の斜視図、(b)は槍型刃形状の分離刃の斜視図である。
【図3】本発明の第2実施例に係る光ファイバ心線分離工具を説明するもので、(a)は従来刃形状の分離刃を用いた場合のX方向の概略断面図、(b)はその場合のZ方向から見た光ファイバテープ心線の概略平面図である。
【図4】本発明の第2実施例に係る光ファイバ心線分離工具を説明するもので、(a)は槍型刃形状の分離刃を用いた場合のX方向の概略断面図、(b)はその場合のZ方向から見た光ファイバテープ心線の概略平面図である。
【図5】従来例の光ファイバ心線分離工具を示す概略斜視図である。
【図6】従来例の光ファイバ心線分離工具における分離刃の配置を説明する概略断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 光ファイバテープ心線
20 光ファイバ心線分離工具
21、22 一対のベース部材
23 軸
24 溝
25、26 一対の分離刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバテープ心線をその厚さ方向に溝を介して挟み込み且つその溝に沿って当該光ファイバテープ心線をその長手方向に移動可能に保持する一対のベース部材と、
前記溝を挟んで前記一対のベース部材に対向配置される一対の分離刃とを備えた光ファイバ心線分離工具において、
前記一対の分離刃は、前記一対のベース部材の前記溝を臨む位置で前記光ファイバテープ心線の長手方向に互いに位置をずらして配置され、前記溝内で前記光ファイバテープ心線の厚さ方向に互いにオーバーラップ可能な長さを有し、その刃先形状が槍状に形成されていることを特徴とする光ファイバ心線分離工具。
【請求項2】
前記光ファイバテープ心線は、活線状態の光ファイバテープ心線であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ心線分離工具。
【請求項3】
前記一対の分離刃は、前記光ファイバテープ心線の分離させたい心線数に応じて1組又は複数組配置されることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ心線分離工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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