説明

光ファイバ心線及びその製造方法

【課題】従来のものと比較してより優れた突き出し特性を有する光ファイバ心線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の光ファイバ心線は、ガラス光ファイバの外周に一次被覆層及び二次被覆層を設けてなる光ファイバ素線の外周に、さらに熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする三次被覆層を設けてなり、一次被覆層の外径が180〜200μm、二次被覆層の外径が350〜450μmであり、光ファイバ素線の二次被覆層の厚さと光ファイバ素線からのガラス光ファイバの引き抜き力との積が720N/mm・μm以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ心線に関するものであり、特に突き出し特性が向上した光ファイバ心線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ心線の製造にあたっては、直径が約125μmのガラス光ファイバの外周に少なくとも2層のシリコーン系熱硬化型樹脂又は紫外線硬化型樹脂からなる被覆層を施して、光ファイバ素線を作製し、さらに、この外周にポリ塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステルエラストマー樹脂などを被覆して光ファイバ心線としている。光ファイバ素線の外径は、使用用途によっても異なるが、約250μmのものと約400μmのものが最も多く用いられている。
【0003】
光ファイバ心線において重要な特性のひとつに、突き出し特性がある。突き出しとは、光ファイバ心線内部のガラス光ファイバが被覆端面から突出する現象を意味し、突き出し特性が悪い、すなわち、ガラス光ファイバが被覆端面から突出する量が多い場合は、コネクタ内でガラス光ファイバの折れが発生するなど、接続において問題が生じる。特にレーザーモジュール等に使用される光ファイバ心線には、ガラス突出し量が極めて少ないことが要求される。
【0004】
突き出し特性を改善した光ファイバ心線としては、二次被覆のヤング率が250MPa以下であり、光ファイバ素線の一次被覆除去力が100g/10mm〜700g/10mmであることを特徴とするもの(特許文献1参照)や、一次被覆層が低ヤング率の緩衝層と高ヤング率の保護層の2層構造からなり、一次被覆層の緩衝層のヤング率が0.8MPa以下、破断強度が3.0MPa以上、ガラス引抜き力が0.4〜1.5N/mmであることを特徴とするもの(特許文献2参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開2004−252388号公報
【特許文献2】特開2005−189390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示される技術を用いた場合には、樹脂の組成を改良することなしにガラスファイバの突き出し特性を充分に抑制すること(例えば、突き出し量を0.5mm以下に抑えること)は困難であり、製造に要する費用及び時間の面で問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来のものと比較してより優れた突き出し特性を有する光ファイバ心線を提供することにある。また、本発明の目的は、突き出し特性が優れた光ファイバ心線を容易に得ることができる光ファイバ心線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光ファイバ心線は、ガラス光ファイバの外周に一次被覆層及び二次被覆層を設けてなる光ファイバ素線の外周に、さらに熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする三次被覆層を設けてなり、一次被覆層の外径が180〜200μm、二次被覆層の外径が350〜450μmであり、光ファイバ素線の二次被覆層の厚さと光ファイバ素線からのガラス光ファイバの引き抜き力との積が720N/mm・μm以上であることを特徴とする。さらに、二次被覆層の厚さを85μm以上となるように構成してもよい。
【0008】
また、本発明の光ファイバ心線の製造方法は、ガラス光ファイバの外周に一次被覆層及び二次被覆層を設けてなる光ファイバ素線の外周に、さらに熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする三次被覆層を設けるものであり、一次被覆層の外径が180〜200μm、二次被覆層の外径が350〜450μmであり、二次被覆層の厚さと光ファイバ素線からのガラス光ファイバの引き抜き力との積が720N/mm・μm以上となるように二次被覆層の厚さを決定することを特徴とする。さらに、二次被覆層の厚さが85μm以上となるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂の特性に応じて二次被覆層厚を設計することにより、良好な突き出し特性を有する光ファイバ心線が容易に得られる。したがって、突き出し特性を改善するために樹脂の組成を改良することによって製造されていた従来の光ファイバ心線と比較して、製造に要する費用及び時間の面で有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る光ファイバ心線10の断面を示したものである。図1中、11はガラス光ファイバ、12はその外周に施された一次被覆層、13は一次被覆層12の外周に施された二次被覆層である。ここで、ガラス光ファイバ11に一次被覆層12及び二次被覆層13を施したものを、光ファイバ素線という。また、光ファイバ素線の外周には、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする3次被覆層14を設けており、3次被覆層を施したものを光ファイバ心線という。
【0011】
この光ファイバ心線10においては、一次被覆層12および二次被覆層13は、いずれも紫外線硬化型樹脂などを用い、実際には、線引きされたガラス光ファイバ11の外周に順次塗布して形成される。紫外線硬化型樹脂を用いる場合、特にウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂の使用が望ましい。その理由は、当該樹脂は、柔軟性に富み、裸のガラス面に対して良好な緩衝機能が期待できるからである。
【0012】
しかし、柔軟性に富むことは、強度的に弱いことを意味するため、本発明では、ガラス面と直接接する一次被覆層12を柔らかい低ヤング率とする一方、この外側の二次被覆層13を硬めの高ヤング率としてある。これにより、光ファイバ素線の機械的強度を確保している。この両層の各ヤング率の調整は、添加剤や充填剤などの混合・添加により行われる。
【0013】
一方、三次被覆層14は、一般的には、その直径が約0.9mmとなるように熱可塑性樹脂を用いて形成される。この熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、引張り弾性率が300〜700MPaの熱可塑性ポリエステルエラストマーを使用するとよい。この大きな引張り弾性率により、光ファイバ心線に必要とされる十分な機械的強度が得られる。
【0014】
また、光ファイバとしての光学特性を満足させるためには、一次被覆層の外径は、180μm以上が好ましく、二次被覆層の厚さは85μm以上が好ましい。
【実施例】
【0015】
(実施例1)
上述のような構成において、良好な突き出し特性を実現する上でより好ましい要件を求めるべく、パラメータの異なる光ファイバ心線を作製し、ヤング率、ガラス光ファイバの引き抜き力、突き出し特性を調べた。
【0016】
サンプルの光ファイバ心線の製造にあたって、まず、外径(直径)約φ125μmのガラス光ファイバの外周に一次被覆層を形成し、さらにその外周に二次被覆層を形成して、光ファイバ素線を製造した。一次被覆層の外径は190〜200μm、二次被覆層の外径は350〜450μmとした。
【0017】
一次被覆層、二次被覆層の樹脂材料としては、ともにウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂を用い、一次被覆層、二次被覆層の各々のヤング率、ガラス光ファイバを引き抜くガラス引抜き力については、モノマー、オリゴマー、シランカップリング剤などの添加剤や充填剤の配合により調整した。
【0018】
さらに得られた光ファイバ素線の外周に三次被覆層を形成し、光ファイバ心線とした。三次被覆層の樹脂材料としては、引張り弾性率が300MPaの熱可塑性ポリエステルエラストマーを用い、外径(直径)を0.9mmとした。
得られた結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
ここで、各特性の測定は、以下のように行った。
(ヤング率)
一次被覆層のヤング率はISM(In Situ Modulus)試験法により求めた。具体的には、図2に示すように、片端10mmのみ被覆を残し、それ以外の部分は被覆を除去してガラス光ファイバを露出させたサンプルを用意し、サンプルの被覆を有する部分を接着剤等で固定する。23℃の温度下で、ガラス光ファイバを固定されていない端方向に引き抜くように徐々に力をかけ、ガラス光ファイバの変位を測定する。ガラス光ファイバの固定されていない端に加えられる力をF、ガラス光ファイバの変位をu、ガラス光ファイバの外径(半径)をR、一次被覆層の外径(半径)をR、被覆が残された部分の長さ(この場合は10mm)をLembすると、一次被覆層の剪断弾性率Gは以下の式(1)を用いて計算される。
【数1】

ポアソン比をν、ヤング率をEとすれば、E=2(1+ν)×Gの関係にある。ここで、一次被覆層は延ばされたことによる体積変化は生じないと仮定し、ポアソン比を0.5とした。従って、一次被覆層のヤング率は3Gpとなる。
【0021】
二次被覆層のヤング率は、以下のようにして求めた。図3に示すように光ファイバ素線21からスライス線22(光ファイバ裸線23と一次被覆層24との界面に沿った線)に沿って、被覆層部分を図3(b)に示すスライス片26として得た。25は二次被覆層である。このスライス片26を温度23℃、引張り速度1mm/min、標線間距離25mmの条件で引張り試験を行い、標線間距離が2.5%歪んだ時の引張り強さからヤング率を算出した。尚、スライス片26の断面積としてはマイクロスコープを用いた実測値を用いた。
【0022】
(ガラス光ファイバの引き抜き力)
ガラス光ファイバの引き抜き力は、光ファイバ素線の状態で図4の方法により求めた。サンプルの光ファイバ素線31の先端に、サンドペーパー32を接着し、これをストッパとして、ガラス引抜き力器具33の吊りフレーム34の下方水平ベース部35に設けた穴36部分に上側から通す。サンドペーパー32の底面側の光ファイバ素線31の外周に切り込み31aを入れ、この状態で、下方から5.0mm/minの引っ張り速度で引っ張る。そして、任意の長さだけ引き抜き、そのときの最大応力を、吊りフレーム34の上方水平ベース部37に設けたセンサ(ロードセル)38により測定した。
【0023】
(突き出し特性)
突き出し特性は、光ファイバ心線を熱衝撃環境下に暴露し、内部のガラス光ファイバの突出量により求めた。具体的には、1.0mのサンプルの光ファイバ心線を、−40℃で30分保持した後に、85℃で30分保持する、を1サイクルとし、500サイクル後の突出量を測定した。
【0024】
一般に、接続の問題や、光ファイバと発光部の距離の問題等から許容できる突き出し量は0.5mm以内とされていることから、表1より、二次被覆層厚×ガラス光ファイバの引き抜き力を720N/mm・μm以上とすることで、良好な突き出し特性が得られることがわかる。
【0025】
(実施例2)
光ファイバ心線を以下のように作製し、突き出し特性を調べた。
実施例2の光ファイバ心線の製造にあたっては、まず、外径(直径)約φ125μmのガラス光ファイバの外周に一次被覆層を形成し、さらにその外周に二次被覆層を形成した後、さらにその外周に二次被覆層と同様の樹脂材料をオーバーコートし、光ファイバ素線を製造した。一次被覆層の外径は190〜200μm、二次被覆層の外径は約250μm、オーバーコート後の外径は350〜450μmとした。
【0026】
一次被覆層、二次被覆層、オーバーコートの樹脂材料はともにウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂を用い、一次被覆層、二次被覆層のヤング率、ガラス光ファイバを引き抜くガラス引抜き力については、モノマー、オリゴマー、シランカップリング剤などの添加剤や充填剤の配合により調整した。
【0027】
さらに、得られた光ファイバ素線の外周に三次被覆層を形成し、光ファイバ心線とした。三次被覆層の樹脂材料としては、引張り弾性率が300MPaの熱可塑性ポリエステルエラストマーを用い、外径(直径)を0.9mmとした。
【0028】
実施例1と同様に、ヤング率、ガラス光ファイバの引き抜き力、突き出し特性を測定した。結果を表2に示す。尚、ガラス光ファイバの引き抜き力は、オーバーコート後の光ファイバ素線にて測定した。また、表2において、二次被覆層厚はオーバーコートを含めた厚さである。
【0029】
【表2】

【0030】
許容できる突き出し量は一般に0.5mm以内とされていることから、表1及び表2の結果より、二次被覆層厚×ガラス光ファイバの引き抜き力を720N/mm・μm以上とすることで、良好な突き出し特性が得られることがわかる。
【0031】
図5は実施例1および実施例2で得られた、二次被覆層厚×ガラス光ファイバの引き抜き力と突き出し量の関係をグラフにしたものである。●は実施例1のデータ、×は実施例2のデータである。
【0032】
図5の結果より、二次被覆層の外周にオーバーコートを施した実施例2の光ファイバ心線においても、突き出し量に関して、オーバーコートのない実施例1の光ファイバ心線と同様の特性を有することがわかる。また、両者にはY=11.087e−0.0043X (ただし、Xは二次被覆層厚×ガラス光ファイバの引き抜き力、Yは突き出し量)の関係があることがわかる。
【0033】
従来の光ファイバ心線においては、突き出しを改善するために樹脂の組成を改良しており、費用と時間を要していたが、本発明を用いて、樹脂の特性に応じて二次被覆層厚を変化させることにより、良好な突き出し特性を有する光ファイバ心線の製造が容易に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る光ファイバ心線の一実施形態の横断面図である。
【図2】一次被覆層のヤング率測定のためのISM試験法を示す図である。
【図3】二次被覆層のヤング率測定のための引張り試験に用いる光ファイバ素線のスライス片を得る過程を示す図である。
【図4】ガラス引抜き力の測定方法を説明した概略説明図である。
【図5】二次被覆層厚×引き抜き力と突き出し量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス光ファイバの外周に一次被覆層及び二次被覆層を設けてなる光ファイバ素線の外周に、さらに熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする三次被覆層を設けてなる光ファイバ心線であって、
前記一次被覆層の外径が180〜200μm、前記二次被覆層の外径が350〜450μmであり、前記光ファイバ素線の二次被覆層の厚さと前記光ファイバ素線からの前記ガラス光ファイバの引き抜き力との積が720N/mm・μm以上であることを特徴とする光ファイバ心線。
【請求項2】
前記二次被覆層の厚さが、85μm以上であることを特徴とする請求項1の光ファイバ心線。
【請求項3】
ガラス光ファイバの外周に一次被覆層及び二次被覆層を設けてなる光ファイバ素線の外周に、さらに熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする三次被覆層を設けてなる光ファイバ心線の製造方法であって、
前記一次被覆層の外径が180〜200μm、前記二次被覆層の外径が350〜450μmであり、前記二次被覆層の厚さと前記光ファイバ素線からの前記ガラス光ファイバの引き抜き力との積が720N/mm・μm以上となるように前記二次被覆層の厚さを決定することを特徴とする光ファイバ心線の製造方法。
【請求項4】
前記二次被覆層の厚さが、85μm以上であることを特徴とする請求項3の光ファイバ心線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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