説明

光ファイバ素線切断方法

【課題】被覆に覆われたままの光ファイバ素線を、簡単な設備を用いて、短時間で切断することができる光ファイバ素線切断方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ素線切断方法は、光ファイバの外側が被覆により覆われた光ファイバ素線の任意の切断位置に対して、光ファイバ素線の長手方向に張力を付与し、強制回転させた刃を光ファイバ素線の被覆外周面側の一方向から切断位置に押し当て、被覆を切断すると共に少なくとも光ファイバに切り込みを入れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの外側が被覆により覆われた光ファイバ素線を切断する光ファイバ素線切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバの性能を確認する際、光ファイバの一方の端部には半導体レーザーなどの光を入力するための光入力装置が接続され、他方の端部には出力された光を測定するパワーメータが接続される。このような試験構成により、光入力装置によって光ファイバに入力された光は、光ファイバ内を通って出力され、パワーメータによって光出力値が測定されるようになっている。
【0003】
ところで、上記のような試験において、光ファイバの外側が被覆により覆われた光ファイバ素線をパワーメータに接続するためには、光ファイバ素線の一部を切断して、被覆された光ファイバを露出する必要がある。そこで、従来では、先ず光ファイバ素線の被覆を除去して光ファイバを露出し、クリーニングをした後に、刃やレーザーなどで光ファイバを所定の長さに切断していた。このように、従来方法では、被覆を除去する工程と光ファイバを切断する工程が別工程であったため、時間が掛かっていた。
【0004】
そこで、特許文献1には、ガラスファイバ(光ファイバ)の外側が被覆に覆われたままの光ファイバ(光ファイバ素線)を切断することにより、工数を削減することのできる光ファイバ(光ファイバ素線)の切断方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4466202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された光ファイバ(光ファイバ素線)の切断方法は、先ず刃の限界位置をガラスファイバ(光ファイバ)の外周面に切り込みを入れる程度に設定し、次に光ファイバ(光ファイバ素線)の中心軸回りに刃を旋回させながら光ファイバ(光ファイバ素線)の全周にわたって被覆を切断すると共にガラスファイバ(光ファイバ)に少なくとも切り込みを入れることによって、光ファイバ(光ファイバ素線)を切断していた。そのため、刃の限界位置を設定する時間や光ファイバ(光ファイバ素線)の全周にわたって被覆を切断する時間を要し、短時間で光ファイバ(光ファイバ素線)を切断するには限界があった。また、刃の限界位置を設定するための機構や光ファイバ(光ファイバ素線)の中心軸回りに刃を旋回させるための機構が必要になり、その分設備が複雑になり、刃を旋回させるためのスペースも必要であった。
【0007】
本発明は、上記の問題を鑑みてされたものであり、光ファイバの外側が被覆に覆われたままの光ファイバ素線を、簡単な設備を用いて、短時間で切断することができる光ファイバ素線切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光ファイバ素線切断方法は、光ファイバの外側が被覆により覆われた光ファイバ素線を切断する方法であって、前記光ファイバ素線の任意の切断位置に対して、当該光ファイバ素線の長手方向に張力を付与する張力付与工程と、強制回転させた刃を前記光ファイバ素線の被覆外周面側の一方向から前記切断位置に押し当て、前記被覆を切断すると共に少なくとも前記光ファイバに切り込みを入れる切断工程と、を有する。
【0009】
上記の方法によれば、強制回転させた刃によって、被覆に覆われたままの光ファイバ素線を切断することができる。これにより、従来のように光ファイバ素線の被覆を先に剥がして光ファイバを外部に露出させる必要が無いため、被覆を剥がす分の時間を削減することができる。また、強制回転させた刃によって、光ファイバ素線の被覆外周面側の一方向から被覆を切断すると共に少なくとも光ファイバに切り込みを入れるだけで光ファイバ素線を切断することができる。そのため、従来のように刃の限界位置を設定して、光ファイバ素線の中心軸回りに刃を旋回させながら光ファイバ素線の全周にわたって被覆を切断し、その後に光ファイバに切り込みを入れるような刃の動作をする必要がない。従って、刃の限界位置を設定する時間や光ファイバ素線の全周にわたって被覆を切断する必要がなく、その分の時間を削減することができる。さらに、刃の限界位置を設定するための機構や光ファイバ素線の中心軸回りに刃を旋回させるための機構を特別に準備する必要がなく、刃を旋回させるためのスペースも必要としない。このように、簡単な設備を用いて、短時間で光ファイバ素線を切断することができる。
【0010】
また、光ファイバを融着接続するためには、光ファイバの端面をほぼ垂直で平坦にさせる必要があったため、従来方法のように、先ず光ファイバ素線の被覆を除去して光ファイバを露出し、クリーニングをした後に、刃やレーザーなどで光ファイバを所定の長さに切断していた。しかしながら、光ファイバの切断面からの光出力の安定性だけを考慮すると、切断面の平坦さの精度はさほど要求されないことが分かった。従って、上述した知見に基づき、本発明に係る光ファイバ素線切断方法を発明するに至った。この本発明に係る光ファイバ素線切断方法を用いると、簡単な設備を用いて短時間で光ファイバ素線を切断することができるため、従来技術よりも効率がよい。
【0011】
また、本発明の光ファイバ素線切断方法において、強制回転された前記刃の回転数は2000rpm〜20000rpmであり、前記切断位置に当該刃を押し当てる速度は0.28mm/s〜1.11mm/sである。
【0012】
上記の方法によれば、強制回転させた刃の回転数、および切断位置に刃を押し当てる速度が適切なものになるため、強制回転させた刃を用いて光ファイバ素線の被覆外周面側の一方向から切断しても、従来と同程度の光出力の安定性が得られる。
【0013】
また、本発明の光ファイバ素線切断方法において、前記刃は、直径が8mm〜22mmであり、厚みが0.13mm〜0.18mmである。
【0014】
上記の方法によれば、刃の形状(直径、厚み)が適切なものになるため、強制回転させた刃を用いて光ファイバ素線の被覆外周面側の一方向から切断しても、従来と同程度の光出力の安定性が得られる。
【0015】
また、本発明の光ファイバ素線切断装置は、光ファイバの外側が被覆により覆われた光ファイバ素線を切断する装置であって、前記光ファイバ素線の任意の切断位置に対して、当該光ファイバ素線の長手方向に張力を付与する張力付与機構と、回転可能な刃と、当該刃を強制回転させるモータと、を備えると共に、当該モータにより強制回転させた当該刃を前記光ファイバ素線の被覆外周面側の一方向から前記切断位置に押し当て、前記被覆を切断すると共に少なくとも前記光ファイバに切り込みを入れる切断機構と、を有する。
【0016】
上記の構成によれば、強制回転させた刃によって、被覆に覆われたままの光ファイバ素線を切断することができる。これにより、従来のように光ファイバ素線の被覆を先に剥がして光ファイバを外部に露出させる必要が無いため、被覆を剥がす分の時間を削減することができる。また、強制回転させた刃によって、光ファイバ素線の被覆外周面側の一方向から被覆を切断すると共に少なくとも光ファイバに切り込みを入れるだけで光ファイバ素線を切断することができる。そのため、従来のように刃の限界位置を設定して、光ファイバ素線の中心軸回りに刃を旋回させながら光ファイバ素線の全周にわたって被覆を切断し、その後に光ファイバに切り込みを入れるような刃の動作をする必要がない。従って、刃の限界位置を設定する時間や光ファイバ素線の全周にわたって被覆を切断する必要がなく、その分の時間を削減することができる。さらに、刃の限界位置を設定するための機構や光ファイバ素線の中心軸回りに刃を旋回させるための機構を特別に準備する必要がなく、刃を旋回させるためのスペースも必要としない。このように、簡単な設備を用いて、短時間で光ファイバ素線を切断することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光ファイバ素線切断方法によると、従来のように光ファイバ素線の被覆を先に剥がして光ファイバを外部に露出させる必要が無いため、被覆を剥がす分の時間を削減することができる。また、刃の限界位置を設定する時間や光ファイバ素線の全周にわたって被覆を切断する必要がなく、その分の時間を削減することができる。さらに、刃の限界位置を設定するための機構や光ファイバ素線の中心軸回りに刃を旋回させるための機構を特別に準備する必要がなく、刃を旋回させるためのスペースも必要としない。このように、簡単な設備を用いて、短時間で光ファイバ素線を切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法を示す説明図である。
【図2】本実施形態に係る光ファイバ素線切断装置の平面図である。
【図3】(a)本実施形態に係る光ファイバ素線切断装置の側面図である。(b)本実施形態に係る光ファイバ素線切断装置の背面図である。
【図4】光ファイバの光出力安定性試験の試験構成図である。
【図5】実施例を用いた光ファイバの光出力安定性試験の試験結果を示す図である。
【図6】光ファイバのビームパターン・ビーム角度試験の試験構成図である。
【図7】実施例を用いた光ファイバのビーム角度試験の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(光ファイバ素線切断方法)
図1を用いて、本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法を説明する。本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法は、光ファイバ52の外側が被覆51により覆われた光ファイバ素線50を切断する方法であって、光ファイバ素線50の任意の切断位置に対して、光ファイバ素線50の長手方向に張力Fを付与する張力付与工程と、強制回転させた刃30を光ファイバ素線50の被覆外周面側の一方向Sから切断位置に押し当て、被覆51を切断すると共に少なくとも光ファイバ52に切り込みを入れる切断工程と、を有する。
【0021】
張力付与工程においては、光ファイバ52の外側が被覆51により覆われたままの光ファイバ素線50を準備し、光ファイバ素線50に任意の切断位置を決定して、光ファイバ素線50の両端を支持して互いに引っ張る。これにより、切断位置に対して、光ファイバ素線50の長手方向に張力Fが掛かるようになる。この時、長手方向に掛かる張力Fは、0.98N〜2.45Nの範囲である。なお、光ファイバ素線50に張力Fを付与する際、必ずしも光ファイバ素線50の両端を支持する必要はなく、光ファイバ素線50の切断位置を挟んだ任意の2点以上を支持すればよい。
【0022】
切断工程においては、張力付与工程で張力Fが掛かった光ファイバ素線50の切断位置に対して、強制回転させた刃30を被覆外周面側の一方向Sから押し当てる。この時、強制回転された刃30の回転数は、2000rpm〜20000rpmであり、切断位置に刃30を押し当てる速度は0.28mm/s〜1.11mm/sである。なお、光ファイバ素線50の切断位置に刃30を押し当てる際、刃30が設置されたステージを手動で移動させて刃30を切断位置に押し当ててもよいが、ステージを自動制御によって移動させた方が、刃30を押し当てる速度や位置がより正確となる。そして、光ファイバ素線50の切断位置に押し当てた刃30により、被覆51を切断すると共に少なくとも光ファイバ52に切り込みを入れる。例えば、光ファイバ素線50の被覆51の厚みが62.5μmであれば、少なくとも62.5μm以上の深さを刃30で切断して、光ファイバ52に切り込みを入れる。これにより、切断位置に対して掛かった張力Fが作用して、光ファイバ52に入れられた切り込みから光ファイバ素線50が破断するようになる。なお、刃30の回転数は、小さいほど切断後の光ファイバ素線50の出射ビームパターンが良好となるため、2000rpmとする方が好ましい。また、切断位置に刃30を押し当てる速度は、遅いほど切断後の光ファイバ素線50の出射ビームパターンが良好となるため、0.28mm/sとする方が好ましい。
【0023】
このように、光ファイバ52の外側が被覆51により覆われたままの光ファイバ素線50を切断する際、刃30の回転数や刃30を切断位置に押し当てる速度などを適切に調整することによって、光ファイバ素線50の被覆外周面側の一方向Sから強制回転させた刃30によって切り込みを入れるだけで、光出力測定に適した切断面を得ることができる。
【0024】
(光ファイバ素線切断装置)
次に、図2および図3を用いて、本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法に用いられる光ファイバ素線切断装置10について説明する。光ファイバ素線切断装置10は、光ファイバ素線50の任意の切断位置に対して、光ファイバ素線50の長手方向に張力Fを付与する張力付与機構と、回転可能な刃30と、刃30を強制回転させるモータと、を備えると共に、モータにより強制回転させた刃30を光ファイバ素線50の被覆外周面側の一方向Sから切断位置に押し当て、被覆51を切断すると共に少なくとも光ファイバ52に切り込みを入れる切断機構20と、を有し、基台11上に設置されている。
【0025】
本実施形態の場合、張力付与機構は、少なくとも光ファイバ素線50の一方の端部を固定するクランプ機構22と、光ファイバ素線50の他方に吊るされたおもり35からなる。
【0026】
クランプ機構22は、上クランプ部13と下クランプ部12とを有している。上クランプ部13と下クランプ部12の中央部には、開口部が形成されており、上クランプ部13側から下クランプ部12側へと雄ねじ21が開口部に螺合することによって、上クランプ部13と下クランプ部12が締め付けられるようになっている。そのため、上クランプ部13と下クランプ部12の間に光ファイバ素線50の一方の端部を挟みこんだ状態で、上クランプ部13と下クランプ部12を雄ねじ21で締めることにより、光ファイバ素線50の一方の端部を上クランプ部13と下クランプ部12との間で挟持できるようになっている。なお、本実施形態の場合、クランプ機構22を雄ねじ21によってねじ止めすることによって、光ファイバ素線50の一方の端部を支持しているが、これに限定される必要はない。例えば、光ファイバ素線50の一方の端部を吸着、接着、粘着、および磁石による磁力などを利用して支持してもよい。
【0027】
切断機構20は、図示しないモータで作動する回転軸25を有しており、回転軸25の先端には、刃30が設けられている。刃30は、円盤状のものであり、直径は8mm〜22mmで、厚みは0.13mm〜0.18mmである。また、刃30の素材は、ステンレスなどからなる台金に、ニッケルメッキによりダイヤモンド砥粒を単一層で固定したものからなる。
【0028】
また、切断機構20を支持する支持機構23は、固定設置された土台部19と、土台部19上に設けられたL字型の支持板18と、を有している。支持板18の側面には、2箇所の開口部が形成されており、2つの雄ねじ17が開口部に螺合することによって、後述する固定機構24の下固定部16を固定できるようになっている
【0029】
また、切断機構20を固定する固定機構24は、上固定部14と下固定部16とを有している。下固定部16は、V字型の形状を有し、その側面には、支持板18に固定するための雄ねじ17が螺合する開口部が形成されている。また、下固定部16における上面の端部には、雄ねじ15と螺合する開口部が2箇所形成されている。上固定部14は、凹型の形状を有し、端部には雄ねじ15と螺合する2箇所の開口部が形成されている。このような構成を有する上固定部14と下固定部16を、図3(b)に示すように、へこんだ箇所同士を向かい合わせにして雄ねじ15によって固定し、その隙間には、切断機構20が挟持できるようになっている。また、下固定部16は、雄ねじ17によって、支持板18に固定されるようになっている。このように、支持機構23および固定機構24によって、切断機構20が固定支持されるようになっている。
【0030】
上記の構成を有する光ファイバ素線切断装置10において、被覆51に覆われたままの光ファイバ素線50の一方の端部をクランプ機構22により固定する。また、光ファイバ素線50の他方の端部には、図3(a)に示すように、おもり35を吊るす。これにより、光ファイバ素線50の切断面に対して、光ファイバ素線50の長手方向に張力Fが付与されるようになっている。そして、切断機構20のモータで回転軸25を作動させることにより、強制的に刃30が回転し、張力Fが掛かった光ファイバ素線50の切断位置に対して、光ファイバ素線50の被覆外周面側の一方向から刃30を押し当てることにより、被覆51を切断すると共に少なくとも光ファイバ52に切り込みを入れることができる。なお、光ファイバ素線50の被覆外周面側の一方向から刃30を押し当てる際、刃30を光ファイバ素線50に直角に押し当てる位置から20°傾けている。以上により、光ファイバ素線50の切断位置に掛かった張力Fが作用して、切り込みを入れられた箇所から光ファイバ素線50が切断されるようになっている。
【0031】
このように、光ファイバ素線50の任意の切断位置に対して、光ファイバ素線50の長手方向に張力Fを付与する張力付与機構と、回転可能な刃30と、刃30を強制回転させるモータと、を備えると共に、モータにより強制回転させた刃30を光ファイバ素線50の被覆外周面側の一方向Sから切断位置に押し当て、被覆51を切断すると共に少なくとも光ファイバ52に切り込みを入れる切断機構20と、を少なくとも備えた単純な構成の光ファイバ素線切断装置10を用いるだけで、光ファイバ52の外側が被覆51により覆われたままの光ファイバ素線50を容易に切断することができる。
【0032】
(光出力安定性試験)
次に、本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法によって切断した光ファイバ素線50を用いて行った光出力安定性試験について説明する。
【0033】
光出力安定性試験では、図4に示す試験構成図を用いた。具体的に、光ファイバ素線50の一方の端部には光入力装置40をコネクタ42を用いて接続し、他方の端部にはアダプタ55を用いてパワーメータ45を接続する。ここで、光入力装置40は、半導体レーザーなどの光を光ファイバ素線50内に入力するための装置であり、本試験の場合、波長が635nmの光を光ファイバ素線50内に入力している。また、光ファイバ素線50は、635nmの光がシングルモード伝送するものを使用した。具体的には、Nufern社製の630−HP(型番)を使用した。また、アダプタ55は、ベアファイバアダプタと呼称されるもので、光ファイバ素線50をパワーメータ45に接続させるためのものである。また、パワーメータ45は、光ファイバ素線50から出力された光を測定する装置である。なお、パワーメータ45によって光ファイバ素線50から出力された光を測定するために、光入力装置40とコネクタ42の接続を維持した状態で、本実施形態の光ファイバ素線切断方法を用いて光ファイバ素線50を切断し、アダプタ55を取り付けてパワーメータ45に接続した。このような試験構成を用いて、光入力装置40から光ファイバ素線50へ635nmの光を入力し、光ファイバ素線50内を通って出力された光をパワーメータ45によって測定した。この試験を光ファイバ素線50に対して36回繰り返し行った結果を図5に示す。
【0034】
図5には、光ファイバ素線50における36回の光出力値の平均値(−8.53dBm)からのばらつきを示す。これによると、試験された光ファイバ素線50の大部分が±3%以内に収まっており、平均値からのばらつきが非常に小さいことが分かる。
【0035】
ここで、従来のように、先に光ファイバ素線50の被覆51を除去して光ファイバ52を露出し、クリーニングをした後に、刃やレーザーなどで光ファイバ52を所定の長さに切断した光ファイバ素線50に対しても、図4に示す試験構成図を用いて光出力安定性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1によると、3回の試験品における光出力値の平均値は、−8.47dBmとなり、図5に示した本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法によって切断した光ファイバ素線50を用いた光出力安定性試験における結果と遜色ないレベルであった。
【0038】
以上より、本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法を用いて光ファイバ素線50を切断しても、光出力安定性試験の結果は安定しており、また、従来の光ファイバ素線切断方法を用いた光ファイバ素線50による光出力安定性試験の結果とも遜色ないことが分かった。
【0039】
(ビームパターン・ビーム角度試験)
次に、本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法によって切断した光ファイバ素線50を用いて行ったビームパターン・ビーム角度試験について説明する。
【0040】
ビームパターン・ビーム角度試験では、図6に示す試験構成図を用いた。具体的に、光ファイバ素線50の一方の端部には光入力装置40をコネクタ42を用いて接続し、他方の端部には2mmの距離Lを隔ててビームプロファイラ47を接続する。ここで、光入力装置40は、半導体レーザーなどの光を光ファイバ素線50内に入力するための装置であり、本試験の場合、波長が560nmの光を光ファイバ素線50内に入力している。また、光ファイバ素線50は、560nmの光がシングルモード伝送するものを使用した。具体的には、Nufern社製の460−HP(型番)を使用した。また、ビームプロファイラ47は、光ファイバ素線50から出力された光の空間強度分布を測定する装置であり、本試験の場合、ソーラボ社製のBP104−UV(型番)を用いている。このビームプロファイラ47により、光ファイバ素線50から出力された光のビーム角度やパターンを測定することができる。ここで、ビーム角度とは、光ファイバ素線50の断面方向の光の強度が一番強い位置と光ファイバ素線50の長手方向の角度との差であり、値が小さい方がよい。このような試験構成を用いて、光入力装置40から光ファイバ素線50へ560nmの光を入力し、光ファイバ素線50内を通って出力された光のビーム角度やパターンを測定した。この試験を光ファイバ素線50に対して188回行った結果を図7に示す。
【0041】
図7には、光ファイバ素線50における188回のビーム角度分布の結果を示している。これによると、188回の光ファイバ素線50の大部分のビーム角度が2°以内に収まっており、非常に安定していることが分かる。
【0042】
また、光ファイバ素線50における188回のビームパターンを目視によって判定した結果を表2に示す。なお、表2において、ビームパターンが円形状であるものを良品として『○』、ビームパターンが楕円形状であるものをほぼ良品として『△』、ビームパターンが円形状と認められないものを不良品として『×』の判定をした。
【0043】
【表2】

【0044】
表2によると、188回の試験品におけるビームパターンは、大部分の183回が良品となり『○』の判定を付けることができた。
【0045】
以上より、本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法を用いて光ファイバ素線50を切断しても、ビームパターン・ビーム角度試験の結果は安定していることが分かった。
【0046】
このように、本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法を用いれば、強制回転させた刃30によって、被覆51に覆われたままの光ファイバ素線50を切断することができる。これにより、従来のように光ファイバ素線50の被覆51を先に剥がして光ファイバ52を外部に露出させる必要が無いため、被覆51を剥がす分の時間を削減することができる。また、強制回転させた刃30によって、光ファイバ素線50の被覆外周面側の一方向Sから被覆51を切断すると共に少なくとも光ファイバ52に切り込みを入れるだけで光ファイバ素線50を切断することができる。そのため、従来のように刃30の限界位置を設定して、光ファイバ素線50の中心軸回りに刃30を旋回させながら光ファイバ素線50の全周にわたって被覆51を切断し、その後に光ファイバ52に切り込みを入れるような刃30の動作をする必要がない。従って、刃30の限界位置を設定する時間や光ファイバ素線50の全周にわたって被覆51を切断する必要がなく、その分の時間を削減することができる。さらに、刃30の限界位置を設定するための機構や光ファイバ素線50の中心軸回りに刃30を旋回させるための機構を特別に準備する必要がなく、刃30を旋回させるためのスペースも必要としない。このように、簡単な設備を用いて、短時間で光ファイバ素線50を切断することができる。
【0047】
また、光ファイバを融着接続するためには、光ファイバの端面をほぼ垂直で平坦にさせる必要があったため、従来方法のように、先ず光ファイバ素線の被覆を除去して光ファイバを露出し、クリーニングをした後に、刃やレーザーなどで光ファイバを所定の長さに切断していた。しかしながら、光ファイバの切断面からの光出力の安定性だけを考慮すると、切断面の平坦さの精度はさほど要求されないため、本実施形態のように、簡単な設備を用いて、短時間で光ファイバ素線を切断する光ファイバ素線切断方法を用いる方が効率がよい。
【0048】
また、強制回転させた刃30の回転数、および切断位置に刃30を押し当てる速度が適切なものであるため、強制回転させた刃30を用いて光ファイバ素線50の被覆外周面側の一方向Sから切断しても、従来と同程度の光出力の安定性が得られる。
【0049】
さらに、刃30の形状(直径、厚み)が適切なものであるため、強制回転させた刃30を用いて光ファイバ素線50の被覆外周面側の一方向Sから切断しても、より従来と同程度の光出力の安定性が得られる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を説明した。なお、本発明は上記の実施形態に限定される必要はない。
【0051】
例えば、本実施形態では、光ファイバ素線切断方法を用いて、1本の光ファイバ素線50を切断しているが、これに限定される必要はない。例えば、複数本の光ファイバ素線50を並べて夫々の両端を支持して引っ張り、強制回転された刃30によって、一度に複数本の光ファイバ素線50を切断してもよい。また、光ファイバ素線50を一括成型している光ファイバテープ心線に対しても、本実施形態に係る光ファイバ素線切断方法を用いて切断してもよい。
【0052】
以上、本発明の実施例を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施形態に記載された、作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用および効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、光ファイバの外側が被覆により覆われた光ファイバ素線を切断する光ファイバ素線切断方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
30 刃
50 光ファイバ素線
51 被覆
52 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの外側が被覆により覆われた光ファイバ素線を切断する光ファイバ素線切断方法であって、
前記光ファイバ素線の任意の切断位置に対して、当該光ファイバ素線の長手方向に張力を付与する張力付与工程と、
強制回転させた刃を前記光ファイバ素線の被覆外周面側の一方向から前記切断位置に押し当て、前記被覆を切断すると共に少なくとも前記光ファイバに切り込みを入れる切断工程と、
を有することを特徴とする光ファイバ素線切断方法。
【請求項2】
強制回転された前記刃の回転数は2000rpm〜20000rpmであり、前記切断位置に当該刃を押し当てる速度は0.28mm/s〜1.11mm/sであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ素線切断方法。
【請求項3】
前記刃は、直径が8mm〜22mmであり、厚みが0.13mm〜0.18mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ素線切断方法。
【請求項4】
光ファイバの外側が被覆により覆われた光ファイバ素線を切断する光ファイバ素線切断装置であって、
前記光ファイバ素線の任意の切断位置に対して、当該光ファイバ素線の長手方向に張力を付与する張力付与機構と、
回転可能な刃と、当該刃を強制回転させるモータと、を備えると共に、当該モータにより強制回転させた当該刃を前記光ファイバ素線の被覆外周面側の一方向から前記切断位置に押し当て、前記被覆を切断すると共に少なくとも前記光ファイバに切り込みを入れる切断機構と、
を有することを特徴とする光ファイバ素線切断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−168215(P2012−168215A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26725(P2011−26725)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000108742)タツタ電線株式会社 (76)
【Fターム(参考)】