説明

光レセプタクル用キット

【課題】良好なウイグル特性を低コストで実現することができるとともに、量産性を向上させることができる光レセプタクル用キットを提供する。
【解決手段】スリーブ3が、光レセプタクル本体2よりも弾性率が高い材料によって形成されているとともに、スリーブ保持部5内に圧入によって保持されており、光レセプタクル本体2の第1および第2の試料についてのスリーブ内寸変化量と、このスリーブ内寸変化量の許容最大値とに基づいて得られたスリーブ圧入寸法の最適範囲Rの中から、適切なスリーブ圧入寸法が選択されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光レセプタクル用キットに係り、特に、光ファイバを用いた光通信を行うのに好適な光レセプタクル用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光ファイバを用いた光通信には、光レセプタクルと称される光モジュール部品が用いられており、この光レセプタクルは、筒状のフェルール内に保持された光ファイバの端部がフェルールとともに挿入されて固定され、かつ、半導体レーザ等の光素子が取り付けられるようになっている。そして、このようにして光素子および光ファイバが組み付けられた光レセプタクルは、光素子と光ファイバとを光結合するようになっていた。
【0003】
このような光レセプタクルの一例としては、光ファイバと光素子との間の光路上に、レンズやファイバスタブを有し、光素子から出射された光を、レンズまたはファイバスタブを通して光ファイバの端面に結合させるものが採用されていた。
【0004】
そして、この種の光レセプタクルを備えた光モジュールには、ウイグル特性が良好であることが要求されていた。
【0005】
ここで、ウイグル特性とは、光レセプタクル内に光ファイバの端部とともにフェルールを挿入し、かつ、光レセプタクルに光素子を取り付けた状態において、フェルールに対して光ファイバの端部の光軸に直交する方向に荷重を作用させた場合に、光素子と光ファイバとの光結合効率が荷重に応じてどのように変化するかを示す光結合効率の荷重特性とされている。
【0006】
また、ウイグル特性が良好であるということは、荷重の増加にかかわらず、光結合効率の減衰が少ないことを意味している。
【0007】
そして、このように、光モジュールに対して良好なウイグル特性を有することが要求されるのにともなって、光レセプタクル自体についても、良好なウィグル特性を満足させるために最適な構成が求められていた。
【0008】
ここで、ウイグル特性は、光レセプタクルの剛性が高いほど良好であることが知られており、従来から採用されていた剛性に優れた金属製の光レセプタクルは、良好なウィグル特性を得るという観点から見れば好適な構成であった。
【0009】
しかしながら、金属製の光レセプタクルは、材料費が高価なため、量産には不向きであるといった欠点を有している。
【0010】
そこで、従来から、良好なウイグル特性を実現することができる光レセプタクルを安価に得ることが求められるようになっており、このような要求に応えるべく、これまでにも種々の提案がなされていた。
【0011】
例えば、光レセプタクルを安価な樹脂材料によって形成し、この光レセプタクルにおけるフェルールが挿入される部分に、剛性に優れた材料(例えば、ジルコニア等)からなる別体のスリーブを挿入して接着固定することによって、光レセプタクルの剛性を部分的に向上させることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−184338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来は、スリーブを接着によって光レセプタクルに固定していたため、接着の工程によってやはりコストがかかってしまい、また、製造効率が悪いといった問題が生じていた。
【0014】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑みなされたものであり、良好なウイグル特性を低コストで実現することができるとともに、製造効率を向上させることができる光レセプタクル用キットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するため、本発明の請求項1に係る光レセプタクル用キットの特徴は、光ファイバの端部を保持するフェルールが挿入される筒状のスリーブと、このスリーブをその外周面を介して保持する筒状のスリーブ保持部が形成された光レセプタクル本体とを備えた光レセプタクル用キットであって、前記光レセプタクル本体は、樹脂材料によって形成され、前記スリーブは、前記光レセプタクル本体よりも弾性率が高い材料によって形成され、かつ、前記スリーブ保持部内に圧入によって保持されるものであり、かつ、前記スリーブ保持部内に圧入されたスリーブ圧入状態における前記スリーブの内周面から前記スリーブの外周面までの径方向の寸法である圧入時スリーブ肉厚と、前記スリーブ圧入状態における前記スリーブ保持部の内周面から前記スリーブ保持部の外周面までの径方向の寸法である圧入時保持部肉厚との和が、所定の規格寸法を満足するように形成され、前記スリーブおよび前記光レセプタクル本体は、前記スリーブが前記スリーブ保持部内に圧入されていないスリーブ非圧入状態における前記スリーブの中心から前記スリーブの外周面までの径方向の寸法と、前記スリーブ非圧入状態における前記スリーブ保持部の中心から前記スリーブ保持部の内周面までの径方向の寸法との差として定義されるスリーブ圧入寸法が、前記光レセプタクル本体の第1の試料および第2の試料に基づいて算出された前記スリーブ圧入寸法の最適範囲の中から選択されたものであり、前記第1の試料は、その圧入時保持部肉厚が、前記規格寸法および前記スリーブの製造性ならびに強度の観点に基づいて設定された所定の許容最大値をとるものであり、前記第2の試料は、その圧入時保持部肉厚が、前記規格寸法および前記スリーブ保持部の製造性ならびに強度の観点に基づいて設定された所定の許容最小値をとるものであり、前記最適範囲は、前記第1の試料および前記第2の試料のそれぞれについての、前記スリーブ非圧入状態における前記スリーブの中心から前記スリーブの内周面までの径方向の寸法に対する前記スリーブ圧入状態における前記スリーブの中心から前記スリーブの内周面までの径方向の寸法の変化量であるスリーブ内寸変化量と、スリーブ圧入寸法との間の相関関係に基づく範囲であって、前記相関関係と前記スリーブ内寸変化量についての設定された所定の許容最大値との関係から、前記圧入時保持部肉厚が前記許容最小値以上かつ前記許容最大値以下となり、かつ、前記スリーブ内寸変化量が前記許容最大値以下となるような範囲である点にある。
【0016】
そして、この請求項1に係る発明によれば、スリーブをスリーブ保持部内に圧入によって保持させることによって、接着を要することなく剛性を向上させることができるので、良好なウイグル特性を低コストで実現することができるとともに、製造効率を向上させることができる。また、光レセプタクル本体を樹脂材料によって安価にかつ効率的に形成することができる。さらに、光レセプタクル本体の第1および第2の試料についてのスリーブ内寸変化量と、このスリーブ内寸変化量の許容最大値とに基づいて得られたスリーブ圧入寸法の最適範囲の中から、適切なスリーブ圧入寸法を選択することができるので、剛性を向上させることに加えて、さらに、定められた規格を満足しつつスリーブ保持部およびスリーブの製造性を確保することができ、スリーブをスリーブ保持部内に安定的に保持させることができる。
【0017】
また、請求項2に係る光レセプタクル用キットの特徴は、請求項1において、前記スリーブが、セラミック材料によって形成されている点にある。
【0018】
そして、この請求項2に係る発明によれば、剛性をスリーブによって確実に向上させることができる。
【0019】
さらに、請求項3に係る光レセプタクル用キットの特徴は、請求項1または2において、前記光レセプタクル本体が、前記光ファイバによって伝送される光の光路上にレンズを備えている点にある。
【0020】
そして、この請求項3に係る発明によれば、光素子と光ファイバとをレンズを介して安定的に光結合させることができる。
【0021】
さらにまた、請求項4に係る光レセプタクル用キットの特徴は、請求項3において、前記レンズの光学面と前記スリーブとの間に挟まれた空間内に配置されるべき反射防止用光学部材を備え、前記反射防止用光学部材の外径は、前記スリーブの内径よりも大きく形成されている点にある。
【0022】
そして、この請求項4に係る発明によれば、反射防止用光学部材を接着を要することなく配置することができるので、製造性を確保しつつ光学性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る光レセプタクル用キットによれば、良好なウイグル特性を低コストで実現することができるとともに、製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る光レセプタクル用キットによって組み上げられた光レセプタクルの実施形態を示す構成図
【図2】光レセプタクルの実施形態において、スリーブ保持部5への光ファイバの取り付け状態を示す構成図
【図3】光レセプタクルの製造方法の実施形態において、圧入時スリーブ肉厚および圧入時保持部肉厚を説明するための説明図
【図4】光レセプタクルの製造方法の実施形態において、スリーブ圧入寸法の設定方法を説明するための第1のグラフ
【図5】光レセプタクルの製造方法の実施形態において、スリーブ圧入寸法の設定方法を説明するための第2のグラフ
【図6】光レセプタクルの実施形態において、ウイグル特性試験の試験結果を示すグラフ
【図7】光レセプタクルの図1と異なる実施形態を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る光レセプタクル用キットの実施形態について、図1乃至図6を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る光レセプタクル用キット(部品一式)を組み立てて製造された光レセプタクル1の実施形態を示したものであり、この図1に示すように、本実施形態における光レセプタクル1は、大別して、キットを構成する光レセプタクル本体2と円筒形状のスリーブ3とからなる。
【0027】
光レセプタクル本体2は、例えば、樹脂材料(ポリエーテルイミド等)を用いた射出成形法等によって一体的に形成されており、この光レセプタクル本体2は、図1における右端部側に、円筒形状のスリーブ保持部5を有している。
【0028】
スリーブ保持部5における図1の左端部近傍には、その外半径がスリーブ保持部5よりも大きく形成された円環状のフランジ部6が周設されている。
【0029】
スリーブ保持部5における図1の左端部側の所定範囲の部位は、スリーブ保持部5における他の部位よりも内半径が小さく形成されており、この内半径が小さく形成された部位における右端面は、後述するフェルール11が当接する当接面5aが形成されている。
【0030】
スリーブ保持部5の左端には、その半径がスリーブ保持部5の外半径よりも大きくかつフランジ部6の外半径よりも小さく形成された厚肉円板状のレンズ部7が連設されている。このレンズ部7は、図1における右端面が平坦な光学面7bに形成されているとともに、図1における左端面が左方に凸の光学面7aに形成されている。
【0031】
レンズ部7の図1における左端部であって、光学面7aを包囲する外周縁部には、その内半径がレンズ部7の半径よりも大径とされた円筒形状の光素子取付部8が連設されている。この光素子取付部8の左端面側には、光素子が接着等の取り付け方法によって取り付け可能とされている。なお、光素子は、いわゆるCANパッケージ型のものであってもよいし、基板実装型(表面実装型)のものであってもよい。
【0032】
そして、このような光レセプタクル本体2に対して、スリーブ3は、光レセプタクル本体2よりも弾性率が高い材料によって形成されているとともに、スリーブ保持部5内に圧入によって保持されている。これにより、スリーブ保持部5は、スリーブ3をその外周面を介して保持するようになっている。
【0033】
さらに、本実施形態において、スリーブ3は、セラミックス材料(例えば、ジルコニア)等の光レセプタクル本体2よりも弾性率が高い材料によって形成されている。
【0034】
したがって、本実施形態においては、スリーブ3をスリーブ保持部5内に圧入によって保持させることによって、接着を要することなく光レセプタクル1の剛性を向上させることができるようになっている。
【0035】
このような光レセプタクル1は、図2に示すように、スリーブ3内に、光ファイバ10の端部を保持するフェルール11が挿入されるようになっており、このフェルール11は、スリーブ3内への挿入状態において、その図2における左端面が、当接面5aに当接されるようになっている。
【0036】
また、フェルール11における図2の右端部側の所定範囲の部位は、筒状の保持金具15によって外周を保持されており、この保持金具15は、LCコネクタ12内に保持されている。
【0037】
LCコネクタ12は、その図2における左端部側の所定範囲の部位が、スリーブ保持部5の遊嵌されているとともに、図示しない固定手段によって、光レセプタクル1に固定可能とされている。
【0038】
このように光ファイバ10の端部がフェルール11とともに光レセプタクル1に取り付けられた状態において、レンズ部7の光軸、スリーブ保持部5の中心軸、光素子取付部8の中心軸、および光ファイバ10の端部の光軸OAは、互いに平行(より好ましくは同軸上)に配置されるようになっている。
【0039】
上記構成に加えて、さらに、本実施形態における光レセプタクル1は、スリーブ圧入寸法が最適な値に設定されている。
【0040】
ここで、スリーブ圧入寸法とは、スリーブ3がスリーブ保持部5内に圧入されていない状態であるスリーブ非圧入状態におけるスリーブ3の中心からスリーブ3の外周面までの径方向の寸法と、スリーブ非圧入状態におけるスリーブ保持部5の中心からスリーブ保持部5の内周面までの径方向の寸法との差として定義する。
【0041】
ただし、径方向とは、光レセプタクル1に光ファイバ10の端部を取り付けた状態(図2参照)において、光ファイバ10の端部の光軸OAに直交する方向を意味するものとする(以下、同様)。
【0042】
また、本実施形態のような円筒形状のスリーブ3の場合には、スリーブ圧入寸法は、スリーブ非圧入状態におけるスリーブ3の外半径と、スリーブ非圧入状態におけるスリーブ保持部5の内半径との差ということができる。
【0043】
そして、本実施形態においては、このようなスリーブ圧入寸法を設計する際に、現状において光レセプタクル1に課されている寸法規格と、スリーブ3に許容されている公差とを十分考慮しながら最適なスリーブ圧入寸法を設計するように工夫がなされている。
【0044】
すなわち、光レセプタクル1は、スリーブ3がスリーブ保持部5内に圧入されたスリーブ圧入状態におけるスリーブ3の内周面からスリーブ3の外周面までの径方向の寸法である圧入時スリーブ肉厚と、スリーブ圧入状態におけるスリーブ保持部5の内周面からスリーブ保持部5の外周面までの径方向の寸法である圧入時保持部肉厚との和(以下、レセプタクル肉厚と称する)が、所定の規格寸法を満足するように制約が課されている。
【0045】
ただし、レセプタクル肉厚の規格寸法は、一定の範囲を持った寸法とされている。
【0046】
このような寸法規格によれば、圧入時スリーブ肉厚を厚く形成し過ぎると、これにともなって圧入時保持部肉厚を薄く形成し過ぎなければならないことになり、スリーブ保持部5の強度や製造性(製造容易性等)を確保することが困難となる。逆に、圧入時保持部肉厚を厚く形成し過ぎると、これにともなって圧入時スリーブ肉厚を薄く形成し過ぎなければならないことになり、スリーブ3の強度や製造性(製造容易性等)を確保することが困難となる。したがって、スリーブ圧入寸法を設定する際には、圧入時スリーブ肉厚と圧入時保持部肉厚とのバランスを十分に考慮する必要がある。
【0047】
また、スリーブ3には、光結合効率の確保等の観点から許容される内径公差が定められており、スリーブ圧入寸法を設定する際には、このような内径公差を逸脱しないような設計も重要となる。
【0048】
そこで、本実施形態においては、設計時においてスリーブ圧入寸法を設定する際に、まず、光レセプタクル本体2の試料として、第1の試料と第2の試料との2つの試料を想定する。
【0049】
ここで、第1の試料は、圧入時保持部肉厚が、レセプタクル肉厚の規格寸法およびスリーブ3の製造性の観点に基づいて設定された所定の許容最大値をとるような試料とされている。
【0050】
また、第2の試料は、圧入時保持部肉厚が、レセプタクル肉厚の規格寸法およびスリーブ保持部5の製造性の観点に基づいて設定された所定の許容最小値をとるような試料とされている。
【0051】
なお、この圧入時保持部肉厚の許容最大値および許容最小値については、例えば、圧入時保持部肉厚とスリーブ3の強度との関係を調べるシミレーションや圧入時スリーブ肉厚とスリーブ保持部5の強度との関係を調べるシミュレーション等の評価試験を行うことによって、適宜好ましい値を設定すればよい。
【0052】
次いで、本実施形態においては、このように想定された第1および第2の試料のそれぞれについて、スリーブ内寸変化量とスリーブ圧入寸法との相関関係の解析を行う。
【0053】
ただし、スリーブ内寸変化量とは、スリーブ非圧入状態におけるスリーブ3の中心からスリーブ3の内周面までの径方向の寸法に対するスリーブ圧入状態におけるスリーブ3の中心からスリーブ3の内周面までの径方向の寸法の変化量(差分)をいうものとする(以下、同様)。
【0054】
なお、本実施形態にような円筒形状のスリーブ3の場合には、スリーブ内寸変化量は、
スリーブ非圧入状態におけるスリーブ3の内半径とスリーブ圧入状態におけるスリーブ3の内半径との差ということができる。
【0055】
次いで、本実施形態においては、これら第1および第2の試料についての解析の結果と、スリーブ内寸変化量についての設定された所定の許容最大値とに基づいて、圧入時保持部肉厚が許容最小値以上かつ許容最大値以下となり、かつ、スリーブ内寸変化量が許容最大値以下となるようなスリーブ圧入寸法の最適範囲を算出する。
【0056】
ただし、スリーブ内寸変化量の許容最大値は、スリーブ3に許容されている内径公差に基づいて設定されたものであり、内径公差を反映した値とされている。
【0057】
そして、本実施形態においては、算出されたスリーブ圧入寸法の最適範囲の中から、コンセプトに応じて所望の値のスリーブ圧入寸法を選択し、選択された値のスリーブ圧入寸法を、光レセプタクル1の製造に用いるスリーブ圧入寸法として設定する。
【0058】
したがって、本実施形態によれば、さらに、光レセプタクル1に定められた規格を満足しつつスリーブ保持部5およびスリーブ3の製造性を確保することができ、スリーブ3をスリーブ保持部5内に安定的に保持させることができる。
【実施例】
【0059】
(スリーブ圧入寸法の具体的な設定方法)
次に、本発明の実施例として、スリーブ圧入寸法の具体的な設定方法について説明する。
【0060】
本実施例においては、前述したスリーブ内寸変化量とスリーブ圧入寸法との相関関係の解析に用いる第1および第2の試料(解析モデル)として、図3においてtで示される圧入時保持部肉厚が許容最大値である0.60〔mm〕とされた第1の試料と、圧入時保持部肉厚tが許容最小値である0.36〔mm〕とされた第2の試料とを想定する。
【0061】
ここで、本実施例においては、圧入時保持部肉厚tと、図3においてtで示される圧入時スリーブ肉厚との和であるレセプタクル肉厚t+tの規格寸法が、少なくとも0.836〔mm〕以上0.849〔mm〕以下の範囲内であることが前提とされている。また、本実施例においては、圧入時保持部肉厚tが0.60〔mm〕よりも大きくなると、スリーブ3の製造が困難でスリーブ3の強度が保証できない旨の解析結果が出されていることが前提とされている。さらに、本実施例においては、圧入時保持部肉厚tが0.36〔mm〕よりも小さくなると、スリーブ保持部5の製造が困難でスリーブ保持部5の強度が保証できない旨の解析結果が出されていることが前提とされている。
【0062】
本実施例においては、このような前提の下で、前述のように、第1および第2の試料が想定されている。
【0063】
そして、本実施例においては、第1の試料に対して、スリーブ圧入寸法の値に対応したスリーブ内寸変化量の値を算出してプロットすることによって、図4において実線のグラフで示されるような相関関係の解析結果を取得する。
【0064】
また、本実施例においては、第2の試料に対して、スリーブ圧入寸法の値に対応したスリーブ内寸変化量の値を算出してプロットすることによって、図4において破線のグラフで示されるような相関関係の解析結果を取得する。
【0065】
さらに、本実施例においては、スリーブ3の内径公差に基づいて設定されているスリーブ内寸変化量の許容最大値を、図4において一点鎖線のグラフで示されるように、相関関係の解析結果に合成する。なお、図4におけるスリーブ内寸変化量の許容最大値は0.1〔μm〕となっているが、これは、スリーブ3の内径公差が±0.5〔μm〕であることに基づいて設定されたものである。
【0066】
そして、本実施例においては、このようにして得られた図4のグラフに基づいて、圧入時保持部肉厚tが許容最小値(0.36〔mm〕)以上かつ許容最大値(0.60〔mm〕)以下となり、かつ、スリーブ内寸変化量が許容最大値(0.1〔μm〕)以下となるようなスリーブ圧入寸法の最適範囲を算出する。
【0067】
図4においては、前述した実線、破線および一点鎖線のグラフで囲まれる範囲、すなわち、図4においてハッチングが施された範囲Rが、スリーブ圧入寸法の最適範囲とされている。
【0068】
そして、このようにして算出された最適範囲Rの中から、所望のスリーブ圧入寸法を選択し、選択されたスリーブ圧入寸法を、光レセプタクル1の製造に用いるスリーブ圧入寸法として設定する。
【0069】
ここで、例えば、圧入時保持部肉厚tを0.5〔mm〕として設計したい場合には、
図5において二点鎖線のグラフで示されるように、図4のグラフ上に、圧入時保持部肉厚tを0.5〔mm〕とした場合におけるスリーブ圧入寸法とスリーブ内寸変化量との相関関係の解析結果を表示すればよい。そして、この表示された解析結果のグラフにおける最適範囲R内の一点に対応するスリーブ圧入寸法を選択し、選択されたスリーブ圧入寸法を光レセプタクル1の製造に用いるスリーブ圧入寸法として設定するようにすればよい。
【0070】
(ウイグル特性評価)
次に、このようにしてスリーブ圧入寸法が設定されて製造された本実施例の光レセプタクル1に対するウイグル特性試験の試験結果について説明する。
【0071】
なお、本ウイグル特性試験においては、光素子取付部8に光素子としての半導体レーザを取り付けるとともに、スリーブ保持部5内に圧入保持されたスリーブ3に、光ファイバ10の端部が保持されたフェルール11を挿入した状態の光レセプタクル1を用意した。
【0072】
ただし、光レセプタクル1は、フェルール11の長手方向すなわち光ファイバ10の端部の光軸方向が水平となるように横向きに配置した。
【0073】
そして、このようにして用意された実験系において、フェルール11に対して鉛直下方に荷重〔N〕を作用させ、半導体レーザと光ファイバ10との光結合効率の荷重に対する特性を調べた。
【0074】
なお、本実施例の光レセプタクル1に対する比較例として、スリーブを有しない光レセプタクル(従来品)についても、本実施例の光レセプタクル1と同様に、光結合効率の荷重に対する特性を調べた。
【0075】
この結果、図6に示すような試験結果が得られた。
【0076】
図6に示すように、本実施例における光レセプタクル1の方が、従来品に比べて荷重の増加に対する光結合効率〔dB〕の変化量が少ないことが分かる。これは、スリーブ3によって光レセプタクル1の剛性が高められていることによるものと推測される。
【0077】
(スリーブ抜去力評価)
次に、本実施例の光レセプタクル1に対する抜去力試験の試験結果について説明する。
【0078】
本抜去力試験においては、スリーブ圧入寸法が3〔μm〕とされた光レセプタクル1について、スリーブ保持部5からスリーブ3を抜き去るのに要する抜去力を調べた。
【0079】
この結果、本実施例の光レセプタクル1については、スリーブ3の抜去力が16.0〔N〕であることが確認された。
【0080】
ここで、スリーブ3が安定的に保持されているといえる場合における抜去力は、3.0〔N〕以上とされている。このことを考慮すれば、本実施例においては、スリーブ3が十分安定的にスリーブ保持部5に保持されているということができる。
【0081】
以上述べたように、本発明によれば、スリーブ3をスリーブ保持部5内に圧入によって保持させることによって、接着を要することなく光レセプタクル1の剛性を向上させることができるので、良好なウイグル特性を低コストで実現することができるとともに、量産性を向上させることができる。
【0082】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【0083】
例えば、本発明は、スリーブ3を光レセプタクル本体2よりも弾性率が高い材料によって形成するのであれば、スリーブ3を前述したセラミック材料以外の材料によって形成、光レセプタクル本体2を前述した樹脂材料以外の材料によって形成するようにしてもよい。
【0084】
また、前述した実施形態における光レセプタクル本体2は、レンズ部7を有するものであったが、本発明は、レンズ以外の光学系(例えば、ファイバスタブ)を搭載した光レセプタクルにも適用可能なものである。
【0085】
さらに、図7に示すように、レンズ部7の光学面7bとスリーブ3との間に挟まれた空間内に、ガラス(BK7等)や屈折率整合フィルム等の反射防止用光学部材17を配置するようにしてもよい。なお、屈折率整合フィルムとしては、例えば、FitWell(株式会社巴川製紙所製)を用いることができる。
【0086】
また、図7においては、光学面7bとスリーブ3との間に配置された反射防止用光学部材17の外径が、スリーブ3の内径よりも大きく形成されているので、反射防止用光学部材17を接着を要することなく配置することができる。
【0087】
なお、このような図7に示す光レセプタクル1においては、スリーブ3内への光ファイバ10の端部およびフェルール11の挿入状態において、フェルール11の端面が、反射防止用光学部材17の表面に当接するようになっている。
【0088】
次に、このような反射防止用光学部材17の一例として、屈折率1.50のBK7(ガ
ラス)が配置された光レセプタクル1に対する使用波長を1550〔nm〕とした光結合効率のシミュレーション結果を以下の表1に示す。また、表1に対する比較例として、反射防止用光学部材17が配置されていない光レセプタクル1に対する使用波長を1550〔nm〕とした光結合効率のシミュレーション結果を以下の表2に示す。
【0089】
さらに、反射防止用光学部材17の他の一例として、屈折率1.46のFitWell(屈折率整合フィルム)が配置された光レセプタクル1に対する使用波長を1310〔nm〕とした光結合効率のシミュレーション結果を以下の表3に示す。また、表3に対する比較例として、反射防止用光学部材17が配置されていない光レセプタクル1に対する使用波長を1310〔nm〕とした光結合効率のシミュレーション結果を以下の表4に示す。
【0090】
なお、これらのシミュレーション結果は、フレネル反射を基に計算した。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
表1〜表4の結果から分かるように、光結合効率を向上させたい場合には、図7に示したように反射防止用光学部材17(特に、屈折率整合フィルム)を配置することが望ましい。
【符号の説明】
【0096】
1 光レセプタクル
2 光レセプタクル本体
3 スリーブ
5 スリーブ保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの端部を保持するフェルールが挿入される筒状のスリーブと、
このスリーブをその外周面を介して保持する筒状のスリーブ保持部が形成された光レセプタクル本体と
を備えた光レセプタクル用キットであって、
前記光レセプタクル本体は、樹脂材料によって形成され、
前記スリーブは、
前記光レセプタクル本体よりも弾性率が高い材料によって形成され、
かつ、前記スリーブ保持部内に圧入によって保持されるものであり、
かつ、前記スリーブ保持部内に圧入されたスリーブ圧入状態における前記スリーブの内周面から前記スリーブの外周面までの径方向の寸法である圧入時スリーブ肉厚と、前記スリーブ圧入状態における前記スリーブ保持部の内周面から前記スリーブ保持部の外周面までの径方向の寸法である圧入時保持部肉厚との和が、所定の規格寸法を満足するように形成され、
前記スリーブおよび前記光レセプタクル本体は、
前記スリーブが前記スリーブ保持部内に圧入されていないスリーブ非圧入状態における前記スリーブの中心から前記スリーブの外周面までの径方向の寸法と、前記スリーブ非圧入状態における前記スリーブ保持部の中心から前記スリーブ保持部の内周面までの径方向の寸法との差として定義されるスリーブ圧入寸法が、前記光レセプタクル本体の第1の試料および第2の試料に基づいて算出された前記スリーブ圧入寸法の最適範囲の中から選択されたものであり、
前記第1の試料は、
その圧入時保持部肉厚が、前記規格寸法および前記スリーブの製造性ならびに強度の観点に基づいて設定された所定の許容最大値をとるものであり、
前記第2の試料は、
その圧入時保持部肉厚が、前記規格寸法および前記スリーブ保持部の製造性ならびに強度の観点に基づいて設定された所定の許容最小値をとるものであり、
前記最適範囲は、
前記第1の試料および前記第2の試料のそれぞれについての、前記スリーブ非圧入状態における前記スリーブの中心から前記スリーブの内周面までの径方向の寸法に対する前記スリーブ圧入状態における前記スリーブの中心から前記スリーブの内周面までの径方向の寸法の変化量であるスリーブ内寸変化量と、スリーブ圧入寸法との間の相関関係に基づく範囲であって、
前記相関関係と前記スリーブ内寸変化量についての設定された所定の許容最大値との関係から、前記圧入時保持部肉厚が前記許容最小値以上かつ前記許容最大値以下となり、かつ、前記スリーブ内寸変化量が前記許容最大値以下となるような範囲であること
を特徴とする光レセプタクル用キット。
【請求項2】
前記スリーブが、セラミック材料によって形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の光レセプタクル用キット。
【請求項3】
前記光レセプタクル本体が、前記光ファイバによって伝送される光の光路上にレンズを備えていること
を特徴とする請求項1または2に記載の光レセプタクル用キット。
【請求項4】
前記レンズの光学面と前記スリーブとの間に挟まれた空間内に配置されるべき反射防止用光学部材を備え、
前記反射防止用光学部材の外径は、前記スリーブの内径よりも大きく形成されていること
を特徴とする請求項3に記載の光レセプタクル用キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−194583(P2012−194583A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153600(P2012−153600)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2008−196081(P2008−196081)の分割
【原出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)
【Fターム(参考)】