光伝送システム及びそれを備えた電子機器
【課題】符号化されていないデータ信号に対し、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現。
【解決手段】本発明の光伝送システムは、データ信号を光信号として伝送する光伝送路4を有し、光伝送路4を伝送してきた光信号を電気信号に変換して出力する光伝送モジュール1と、クロック信号を出力する電気伝送路5と、データ信号及び上記クロック信号をそれぞれ受信し、2値信号として出力する受信処理部35とを備えており、2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる遅延手段6を備え、遅延手段6によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっているので、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現することができる。
【解決手段】本発明の光伝送システムは、データ信号を光信号として伝送する光伝送路4を有し、光伝送路4を伝送してきた光信号を電気信号に変換して出力する光伝送モジュール1と、クロック信号を出力する電気伝送路5と、データ信号及び上記クロック信号をそれぞれ受信し、2値信号として出力する受信処理部35とを備えており、2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる遅延手段6を備え、遅延手段6によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっているので、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送システム及びそれを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のLCD(Liquid Crystal Display)の高精細化にともない、LCDとアプリケーションプロセッサとの間のデータの伝送速度の高速化が要求されている。また、携帯電話の薄型化が進むにつれ、データ伝送のための配線の数の削減が要求されている。このような背景のもと、LCDとアプリケーションプロセッサとの間のデータの伝送方式として、従来のパラレル伝送に代わり、シリアル伝送が広く普及され始めている。現在、最も広く普及しているシリアル伝送では、データ信号及びクロック信号がともに差動伝送方式で伝送されている。このようなシリアル伝送では、不要輻射(EMI;Electromagnetic interference)が、近年ますます深刻になる。それゆえ、EMIを低減するために、クロック信号は低速で伝送される。このような伝送方式においても、高速のデータ信号からのEMIが深刻な問題になっている。
【0003】
そこで、このような問題を解決するため、LCDとアプリケーションプロセッサとを光導波路などの光伝送路で接続し、データ信号を光信号として伝送する方法が試みられている。
【0004】
光導波路は、コアと呼ばれる芯とそれを覆うクラッドと呼ばれる鞘の二重構造になっており、クラッドよりもコアの屈折率が高くなっている。これにより、コアに入射した光信号は、コア内部で全反射を繰り返すことによって伝搬される。
【0005】
光伝送モジュールを用いることによって、例えば携帯電話機内に搭載される主制御基板からアプリケーション回路基板への高速かつ大容量のデータ信号の伝送が可能になる。このように、光伝送モジュールは、データ伝送モジュールとして非常に優れたものである。
【0006】
その一方で、データ信号を光信号として伝送し、クロック信号を電気信号として伝送する場合、光受信部3にて両方の信号間で大きな遅延が生じる。それゆえ、データ信号及びクロック信号の両方を電気伝送するモジュールよりも、データ信号とクロック信号との間のスキュー(Skew:時間的なずれ)調整が大きな課題となる。
【0007】
上記の課題に対し、例えば特許文献1では、送信装置側で、クロック信号の遅延量をメモリに蓄積し、該メモリに蓄積された遅延量だけ遅延してクロック信号を送信することで上記遅延を調整している。図22は、特許文献1に記載された送受信装置の構成を示すブロック図である。
【0008】
同図に示されるように、送信装置200は、送信部214と、駆動部216と、レーザーダイオード218と、遅延部222と、遅延情報保持部224とを有する。送信部214は、データ信号及びクロック信号を、光ファイバ232及びクロック伝送ライン234の各伝送路へ送信するものである。駆動部216は、レーザーダイオード218に駆動電流を供給する。遅延部222は、受信装置から送信される位相差信号に応じた時間だけクロック信号を遅延する。遅延情報保持部224は、遅延部222により遅延される遅延時間を示すデータを保持するものである。特許文献1の送受信装置では、遅延情報保持部224のメモリ240に蓄積された、配線長から算出される遅延時間を示すデータに基づき、遅延部222がクロック信号を遅延させることにより、データ信号とクロック信号との遅延を調整するようになっている。
【特許文献1】特開2007−124130号公報(平成19(2007)年 5月17日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
通常、光伝送モジュールを伝送する光信号(データ信号)は、ビット連続を回避するため、8B10B等などにより、符号化されている。特許文献1の送受信装置では、このような符号化されたデータ信号に対し、クロック信号とのタイミングを一致させることが可能である。
【0010】
しかしながら、例えば携帯電話機等の電子機器内のデータ伝送においては、データ信号が符号化されていないことが多く、ビット連続によるデータ依存性ジッタ(DDJ)が発生する。それゆえ、特許文献1の送受信装置を、携帯電話機等の電子機器内のデータ伝送に適用した場合、このDDJの影響で、データ信号とクロック信号とのタイミングを一致させることが困難であるという問題がある。
【0011】
図23は、ビット連続によるデータ依存ジッタ(DDJ)の発生を模式的に示した模式図である。同図に示されるように、光伝送モジュールの光配線を伝送するデータ信号では、同一の値(例えば「0」)が連続することにより、信号の立ち上がりのタイミングに揺らぎが生じる。データ依存性ジッタ(DDJ)とは、この信号立ち上がりのタイミングの揺らぎのことをいう。同図に示されるように、このデータ依存性ジッタは、データ信号における同一の値のビット連続長が長くなればなるほど、大きくなる。
【0012】
図24(a)は、データ依存性ジッタが発生していないデータ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートであり、図24(b)は、データ依存性ジッタが発生しているデータ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【0013】
図24(a)に示されるように、データ信号にデータ依存性ジッタが発生していない場合、特許文献1の技術のように、データ信号とクロック信号とのタイミングを一致させるような調整を行えば、信号のばらつきは、遅延部222(遅延回路)のプロセスばらつき、動作条件ばらつき等といった対称な分布になり、問題がない。
【0014】
一方、図24(b)に示されるように、データ信号にデータ依存性ジッタが発生している場合、データ信号立ち上がりのタイミングは、ビット連続の増加とともに、時間軸tにおける遅れる方向(方向(a))に揺らぐ。このようにタイミングが非対称に揺らぐデータ信号に対し、特許文献1の技術を用いてクロック信号の遅延量を調整する場合、その調整は、図24(b)に示されるような、片方側に大きなばらつきが発生してしまう。それゆえ、データ依存性ジッタが発生しているデータ信号に対しては、特許文献1の技術を用いて、クロック信号とタイミングを正確に一致させることが困難である。
【0015】
また、このような場合、特許文献1のように、電気配線長から算出される遅延時間等に基づいて、データ信号とクロック信号とのタイミングを一致させると、このDDJの影響により、通信の品質が劣化してしまう。
【0016】
また、このようにデータ依存性ジッタの影響により、データ信号立ち上がりのタイミング時間が大きく狂っている場合、IC回路による遅延時間の調整では限界がある。
【0017】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、符号化されていないデータ信号に対し、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現できる光伝送システム及びそれを備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の光伝送システムは、上記の課題を解決するために、データ信号を光信号として伝送する光伝送路を有し、光伝送路を伝送してきた光信号を電気信号に変換し、2値信号として出力する光伝送モジュールと、クロック信号を2値信号として出力する電気伝送路と、上記データ信号及び上記クロック信号それぞれについて、受信処理を行う受信処理手段とを備えた光伝送システムであって、上記2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第1の遅延手段を備え、該第1の遅延手段によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっていることを特徴としている。ここでいう「立ち上がり開始時間」とは、受信処理手段から出力される2値信号が立ち上がるタイミングのことをいう。
【0019】
上記の構成によれば、上記2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第1の遅延手段を備え、該第1の遅延手段によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっている。すなわち、予めクロック信号をデータ信号に対し遅延させ、その遅延量を、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下に調整している。このようにデータ信号に対しクロック信号が一定の時間だけ遅延するように設定されているので、クロック信号の立ち上がり開始時間に対する、データ依存性ジッタによるデータ信号の立ち上がり開始時間の分布を対称な分布とすることが可能になる。その結果、符号化されていないデータ信号であっても、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現できる。
【0020】
本発明の光伝送システムでは、上記データ信号の立ち上がり時間のゆらぎを確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)とランダム成分のジッタ(Random jitter)との和としたとき、上記確定的な成分のジッタは、データ信号のビット連続数N毎に定められたδ関数のピークに応じて分布する離散的な関数であり、上記遅延量は、ビット連続数2におけるδ関数のピーク時間と、ビット連続数N−1におけるδ関数のピーク時間との間に設定されることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、離散的な関数としての確定的な成分のジッタと、ランダム成分のジッタとの和が、データ信号の立ち上がり時間のゆらぎを示す分布になる。このような分布に対し、従来のように、ビット連続数1におけるδ関数のピーク時間にクロック信号のタイミングを合わせると、遅くなる方向の一定なビットエラーレートが大きくなり、良好な伝送特性を実現することが困難である。
【0022】
上記の構成によれば、クロック信号の遅延量は、ビット連続数2におけるδ関数のピーク時間と、ビット連続数N−1におけるδ関数のピーク時間との間に設定されるので、データ信号のビット連続数が増加した場合でも、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができる。
【0023】
本発明の光伝送システムでは、上記光伝送モジュールは、上記変換がなされた電気信号を増幅する増幅部と、入力された信号のレベルと第1のしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、データ信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第1の2値信号生成部とを備え、上記増幅部に入力される電気信号の電圧振幅の1/2をVinとし、上記第1のしきい値をVthとし、上記増幅部の利得の最大値をGmaxとし、増幅部における伝送周波数に対する利得の増加率をαとし、データ信号の基本周波数をfTとし、光伝送モジュールの伝送可能レートfminとし、データ信号の立ち上がり時間をtrとし、データ信号における連続ビット数の最大値をNとしたとき、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値DDJ(max)は、下記式(I)
【0024】
【数1】
【0025】
で表わされることが好ましい。
【0026】
上記式(I)のように、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値DDJ(max)が表わされることにより、ビット連続の最大値Nに依存したDDJ(max)を把握しやすくなるので、信号のばらつきをより確実に対称な分布にすることができる。
【0027】
本発明の光伝送システムでは、上記光伝送モジュールは、データ信号を上記光信号に変換して送信する光送信部と、光伝送路を伝送してきた光信号を受信し、電気信号に変換する光受信部とを有し、上記第1の遅延手段は、電気伝送路であり、その配線長L2は、光送信部及び光受信部のクロック信号に対する信号遅延時間をそれぞれ、t(ic1)及びt(ic2)とし、上記光伝送路の配線長をL1とし、光伝送路の配線長をL2とし、光伝送路の屈折率をnとし、光速をcとし、電気伝送路の比誘電率をεrとし、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値をDDJ(max)とし、上記遅延量をDDJ(max)/Aとしたとき、下記式(1)
【0028】
【数2】
【0029】
を満たすことが好ましい。
【0030】
上記式(1)に基づけば、クロック信号の出力をデータ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間だけ遅延させるために必要なパラメータは、電気伝送路の配線長L2、及び電気伝送路を構成する材料の比誘電率εrのみである。それゆえ、従来の遅延素子やICを用いてクロック信号の遅延量を調整する場合と比較して、信号のばらつきが小さい調整が可能になる。
【0031】
本発明の光伝送システムでは、上記電気伝送路は、上記光伝送路の信号伝送方向と平行に配されており、かつ、上記電気伝送路の配線長は、上記光伝送路よりも長くなっており、上記電気伝送路を集積する集積基板を備え、該集積基板の信号伝送方向の長さが、上記光伝送路の配線長と等しくなっていることが好ましい。
【0032】
上記の構成によれば、電気伝送路は、集積基板に集積されている。そして、この集積基板における伝送方向の配線長は、光伝送路の配線長と同一になっている。このように集積基板の伝送方向の寸法を光伝送路と同じにすることにより、電気伝送路の外形、幅に影響を与えず、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。それゆえ、電気伝送路の省スペース化を実現することができる。
【0033】
本発明の光伝送システムでは、上記電気伝送路は、集積基板の信号伝送方向の一端で、少なくとも1回往復するように配されていることが好ましい。
【0034】
上記の構成によれば、電気伝送路は、集積基板の信号伝送方向の一端で、少なくとも1回往復するように配されている。これにより、上記往復の回数でクロック信号の遅延量を調整することできる。また、例えば各往復の長さが異なるようにパターン化することにより、精度よくクロック信号の遅延量を調整することができる。
【0035】
本発明の光伝送システムでは、上記集積基板は、上記光伝送路よりも上記信号伝送方向に突出し、かつ、上記光伝送モジュールが搭載されている突出部を有し、上記突出部は、電気配線がパターン形成された電気配線層を有し、該電気配線層の電気配線と上記電気伝送路とが接続していることが好ましい。
【0036】
上記の構成によれば、集積基板は、光伝送路よりも信号伝送方向に突出し、かつ、光伝送モジュールが搭載されている突出部を有している。そして、この突出部は、電気配線がパターン形成された電気配線層を有している。そして、電気配線層の電気配線と上記電気伝送路とが接続している。このようにこのように、集積基板に別途突出部が設けられた構成とし、この突出部内に電気配線層を形成することで、集積基板の外形を変えずに、電気伝送路の配線長を実質的に長くすることができる。
【0037】
本発明の光伝送システムでは、コネクタ端子を有するコネクタを備え、上記集積基板には、同軸状に複数の電気伝送路が配され、各電気伝送路は、上記コネクタ端子と接続しており、上記コネクタは、コネクタ端子間を短絡させるコネクタ短絡部を有し、該コネクタ短絡部は、電気伝送路における入力側と出力側とで、クロック信号が往復して伝送するように、配置されていることが好ましい。
【0038】
上記の構成によれば、コネクタには、コネクタ端子間を短絡させるコネクタ短絡部が設けられている。そして、コネクタ短絡部は、電気伝送路における入力側と出力側とで、クロック信号が往復して伝送するように配されている。このような構成とすることにより、集積基板の外形を変えずに、電気伝送路の配線長を実質的に長くすることができる。また、コネクタ端子間にコネクタ短絡部が設けられているので、電気伝送路のインピーダンスが安定している。それゆえ、クロック信号の波形制御が容易になる。
【0039】
本発明の光伝送システムでは、上記遅延量は、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/4〜3/4になっていることが好ましい。
【0040】
上記の構成のように、クロック信号の遅延量が設定されることにより、特に8b10B符号化されたデータ信号に対し、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができる。
【0041】
本発明の光伝送システムでは、上記遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/2になっていることが好ましい。
【0042】
これにより、クロック信号の立ち上がり開始時間が、クロック信号の立ち上がり開始時間よりも、遅いか、または早いかの何れかの時間になり、信号のばらつきを確実に対称な分布にすることができる。
【0043】
本発明の光伝送システムでは、上記第1の遅延手段は、入力された信号のレベルと第2のしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、クロック信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第2の2値信号生成部を備え、上記第2の2値信号生成部では、クロック信号に対する第2のしきい値のレベルが、データ信号に対する第1のしきい値のレベルよりも高く設定されていることが好ましい。
【0044】
上記の構成によれば、上記第2の2値信号生成部では、クロック信号に対する第2のしきい値のレベルが、データ信号に対する第1のしきい値のレベルよりも高く設定されているので、第2の2値信号生成部から出力したクロック信号は、データ信号に対し遅延することになる。
【0045】
このクロック信号の遅延量がデータ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になるように、第1のしきい値及び第2のしきい値が設定されることで、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。
【0046】
本発明の光伝送システムでは、データ信号の立ち上がり時間tr、及び振幅は、クロック信号の立ち上がり時間と等しくなっており、データ信号及びクロック信号の振幅の1/2をVodとし、上記第1のしきい値と上記第2のしきい値との差をΔVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、上記遅延量tdは、下記式(2)
【0047】
【数3】
【0048】
を満たすことが好ましい。
【0049】
本発明の光伝送システムでは、上記第1の遅延手段は、入力された信号のレベルとしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、クロック信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第2の2値信号生成部を備え、上記第2の2値信号生成部に入力する信号に対し、クロック信号の立ち上がり時間をデータ信号の立ち上がり時間よりも長くする処理を行うことが好ましい。
【0050】
上記の構成によれば、クロック信号の立ち上がり時間がデータ信号の立ち上がり時間よりも長くなっている。つまり、クロック信号と比較して、データ信号が早く立ち上がっている。それゆえ、第2の2値信号生成部に入力するクロック信号は、データ信号と比較して、波形がなまった状態になる。そして、第2の2値信号生成部から出力したクロック信号は、データ信号に対し遅延することになる。
【0051】
上記遅延手段は、このクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になるように、データ信号及びクロック信号の立ち上がり時間を調整する処理を行う。それゆえ、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。さらには、データ依存性ジッタの低減と遅延の補償とを同時に実現することができる。また、上記のように、クロック信号と比較して、データ信号を早く立ち上がっていると、その分スルーレートが大きくなり、ジッタが小さくなるという効果を奏する。
【0052】
本発明の光伝送システムでは、データ信号及びクロック信号は、振幅が互いに等しくなっており、この振幅の1/2をVodとし、データ信号の立ち上がり時間とクロック信号の立ち上がり時間との差をΔtrとし、上記しきい値をVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、上記遅延量tdは、下記式(3)
【0053】
【数4】
【0054】
を満たすことが好ましい。
【0055】
本発明の光伝送システムでは、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第2の遅延手段を備え、第2の遅延手段によるクロック信号の遅延量は、光伝送モジュールの温度特性において、使用温度範囲における下限温度でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量と、常温でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量との差であることが好ましい。
【0056】
上記の構成によれば、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第2の遅延手段を備え、第2の遅延手段によるクロック信号の遅延量は、光伝送モジュールの温度特性において、使用温度範囲における下限温度でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量と、常温におけるクロック信号に対するデータ信号の遅延量との差であるので、広範な温度範囲に渡って良好な信号伝送品質を維持できる光伝送システムを実現できる。
【0057】
本発明の電子機器は、上記の課題を解決するために、上述の光伝送システムを備えたことを特徴としている。
【0058】
これにより、符号化されていないデータ信号に対し、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質の電子機器を実現できる。
【発明の効果】
【0059】
本発明の光伝送システムは、以上のように、上記2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第1の遅延手段を備え、該第1の遅延手段によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっている構成である。
【0060】
本発明の電子機器は、以上のように、上記光伝送システムを備えた構成である。
【0061】
それゆえ、符号化されていないデータ信号に対し、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
本発明の一実施形態について図1ないし図21に基づいて説明すると以下の通りである。
【0063】
すなわち、本実施形態では、操作キーを備える本体部と、表示画面を備える蓋部と、上記本体部に上記蓋部を回転可能に接続するヒンジ部とからなる折り畳み式携帯電話機において、上記本体部及び上記蓋部の間での情報(データ)伝送を上記ヒンジ部内に設けられた光伝送モジュールを介して行う構成を例に挙げて説明する。
【0064】
図1は、本実施形態の折り畳み式携帯電話機40内に設けられた光伝送システム100の概略構成を示すブロック図である。図2(a)は本実施形態の光伝送モジュール1を内蔵した折り畳み式携帯電話機40の外観を示す斜視図である。図2(b)は、図2(a)におけるヒンジ部41(破線で囲んだ部分)の透視平面図である。
【0065】
図1(a)及び図2(a)・(b)に示すように、本実施の形態に係る折り畳み式携帯電話機40(以下、単に携帯電話機40と示す)は、本体部42と、本体部42の一端に設けられたヒンジ部41と、ヒンジ部41を軸として回転可能に設けられた蓋部43とから構成されている。
【0066】
本体部42は、携帯電話機40を操作するための操作キー44を備えるとともに、その内部に主制御基板20を備えている。蓋部43は、外部に表示画面45及びカメラ(図示せず)を備えるとともに、内部にアプリケーション回路基板30を備えている。ドライバ39などが搭載されている。
【0067】
上述のような構成を有する携帯電話機40において、主制御基板20とアプリケーション回路基板との間のデータ信号の伝送は、光伝送モジュール1を介して行われる。一方、クロック信号の伝送は、電気伝送路5を介して行われる。
【0068】
図1(a)に示されるように、本体部42側の主制御基板20は、自基板20に搭載される各素子(図示せず)を統括制御するCPU(信号発生部)29、及び送信処理部25を備えている。このCPU29は、光伝送モジュール1の光送信部2へデータ信号を出力する一方、電気伝送路5へクロック信号を伝送する。送信処理部25は、CPU29から出力される信号の送信処理を行うものであり、例えば、CPU29から出力される信号をパラレル/シリアル変換するシリアライザーを備える。
【0069】
アプリケーション回路基板30は、受信処理部(受信処理手段)35、CPU29から転送される画像データ(2値信号)に基づいて画像を表示するLCD(Liquid Crystal Display)(図示せず)、LCDを駆動制御する駆動部としてのLCDドライバ(制御部)39とを備えている。受信処理部35は、光伝送モジュール1及び電気伝送路5から出力される、データ信号及びクロック信号を受信し、LCDドライバ39へ出力する。受信処理部35は、データ信号及びクロック信号それぞれを受信するIF回路、及びデシリアライザーを備え、IF回路から出力した2値信号を、デシリアライザーにより、シリアル/パラレル変換し、受信処理を行う。LCDドライバ39は、光伝送モジュール1を伝送するデータ信号(2値信号)に対し、電気伝送路5を伝送するクロック信号(2値信号)に基づいて、出力制御を行う。
【0070】
なお、図1の構成は、受信処理部35からLCDドライバ39へパラレル信号を伝送する構成であるが、光伝送システム100はこの構成に限定されるものではない。例えば、光伝送システム100は、LCDドライバ39内に受信処理部35、及びRGBIF回路を備え、受信処理部35からRGBIF回路へパラレル信号を伝送する構成であってもよい。また、図1の構成は、CPU29から送信処理部25へパラレル信号を伝送する構成であったが、光伝送システム100はこの構成に限定されるものではない。例えば、光伝送システム100は、CPU29内に送信処理部25、及びLCDIF回路を備え、LCDIF回路から送信処理部25へパラレル信号を伝送する構成であってもよい。
【0071】
(光伝送モジュールの構成)
次に図1(b)を参照して上記光伝送モジュール1の構成について説明する。図1(b)は、本実施の形態に係る携帯電話機40における、光伝送モジュール1の概略構成を示すブロック図である。
【0072】
同図に示すように、光伝送モジュール1は、CPU29を搭載する主制御基板20に接続される光送信部2と、LCDドライバ39などのアプリケーション回路を搭載するアプリケーション回路基板30に接続される光受信部3と、光送信部2及び光受信部3同士を接続する光配線となる光伝送路4とを備えてなる構成である。
【0073】
上記光伝送路4は、発光部23から出射されるデータ信号としての光信号を受光部31まで伝送する媒体である。光伝送路4の詳細については後述する。
【0074】
図1(b)に示すように光送信部2は、インターフェイス回路(以下、I/F回路と記す)21、発光駆動部(光変換器)22、及び発光部23を備えてなる構成である。
【0075】
上記I/F回路21は、外部から周波数レベルの異なる信号を受信するための回路である。このI/F回路21は、外部から光伝送モジュール1内に入力される電気信号の電気配線と発光駆動部22との間に設けられている。
【0076】
上記発光駆動部22は、I/F回路21を介して外部から光伝送モジュール1内に入力された電気信号に基づいて発光部23の発光を駆動するものである。この発光駆動部22は、例えば発光駆動用のIC(Integrated Circuit)によって構成することができる。
【0077】
発光部23は、発光駆動部22による駆動制御に基づいて発光するものである。この発光部23は、例えばVCSEL(Vertical Cavity-Surface Emitting Laser)などの発光素子によって構成することができる。この発光部23から発せられた光は、光信号として光伝送路4の光入射側端部に照射される。
【0078】
このように、光送信部2は、該光送信部2に入力される電気信号を、該電気信号に応じた光信号に変換して、光伝送路4に出力する。
【0079】
次に、光受信部3は、受光部31、検出回路32、増幅部(アンプ)33、及びI/F回路34を備えてなる構成である。
【0080】
上記受光部31は、光伝送路4の光出射側端部から出射された光信号としての光を受光し、光電変換によって電気信号を出力するものである。この受光部31は、データ信号を出力するものであり、例えばPD(Photo-Diode)などの受光素子によって構成することができる。また、検出回路32は、受光部31が光信号を受信したか否かを判断する。
【0081】
増幅部33は、受光部31・検出回路32から出力された電気信号を所望の値に増幅して外部に出力するものである。この増幅部33は、例えば増幅用のICによって構成することができる。
【0082】
I/F回路34は、増幅部33により増幅された電気信号を光伝送モジュール1の外部へ出力するための回路である。I/F回路34は、外部へ電気信号を伝送する電気配線と接続しており、増幅部33とこの電気配線との間に設けられる。
【0083】
このように、光受信部3は、光伝送路4を通じて光送信部2から出力される光信号を受信して、該光信号に応じた電気信号に変換した後、所望の信号値に増幅して外部に出力することができる。
【0084】
(光伝送路の構成)
次に、光伝送路4の詳細について図3(a)及び図3(b)を用いて説明する。図3(a)は、光伝送路4の側面図を示している。同図に示すように、光伝送路4は、光伝送方向を軸とする柱状形状のコア部4αと、コア部4αの周囲を囲むように設けられたクラッド部4βとを備えた構成となっている。コア部4α及びクラッド部4βは透光性を有する材料によって構成されているとともに、コア部4αの屈折率は、クラッド部4βの屈折率よりも高くなっている。これにより、コア部4αに入射した光信号は、コア部4α内部で全反射を繰り返すことによって光伝送方向に伝送される。
【0085】
コア部4α及びクラッド部4βを構成する材料としては、ガラスやプラスチックなどを用いることが可能であるが、十分な可撓性を有する光伝送路4を構成するためには、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、及びシリコーン系等の樹脂材料を使用することが好ましい。また、クラッド部4βを空気などの気体で構成してもよい。さらに、クラッド部4βをコア部4αよりも屈折率の小さい液体の雰囲気下において使用しても同様の効果が得られる。
【0086】
次に、光伝送路4による光伝送の仕組みについて図3(b)を用いて説明する。図3(b)は、光伝送路4における光伝送の状態を模式的に示している。同図に示すように、光伝送路4は可撓性を有する柱状形状の部材によって構成される。また、光伝送路4の光入射側端部には光入射面4Aが設けられているとともに、光出射側端部には光出射面4Bが設けられている。
【0087】
発光部23から出射された光は、光伝送路4の光伝送方向に対して直角または略直角となる方向から、光伝送路4の光入射側端部に入射される。入射された光は、光入射面4Aにおいて反射されることによって光伝送路4内に導入されコア部4α内を進行する。光伝送路4内を進行して光出射側端部に到達した光は、光出射面4Bにおいて反射されることによって、光伝送路4の光伝送方向に対して直角または略直角となる方向へ出射される。出射された光は、受光部31に照射され、受光部31において光電変換が行われる。
【0088】
このような構成によれば、光伝送路4における光伝送方向に対して直角または略直角となる方向に、光源としての発光部23を配置する構成とすることが可能となる。よって、例えば基板面に平行に光伝送路4を配置することが必要とされる場合に、光伝送路4と基板面との間に、該基板面の法線方向に光を出射するように発光部23を設置すればよいことになる。このような構成は、例えば発光部23を基板面に平行に光を出射するように設置する構成よりも、実装が容易であり、また、構成としてもよりコンパクトにすることができる。これは、発光部23の一般的な構成が、光を出射する方向のサイズよりも、光を出射する方向に直角な方向のサイズの方が大きくなっていることによるものである。さらに同一面内に電極と発光部23がある平面実装向け発光素子を使用する構成にも適用が可能である。
【0089】
なお、同図に示す光伝送路4は、上述のように、光入射面4A及び光出射面4Bが傾斜している構成であるが、本実施形態における光伝送路4は、両端面が光伝送方向に対して直交する構成であってもよい。すなわち、光伝送路4の外形が、直方体状に形成されていてもよい。
【0090】
(電気伝送路の構成)
次に、上記電気伝送路5の詳細について説明する。電気伝送路5は、光伝送路4に並行して設けられ、CPU29とLCDドライバ39とを接続し、CPU29から出力されるクロック信号をLCDドライバ39に伝送するものである。
【0091】
この電気伝送路5は、具体的には、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)、同軸ケーブル等により構成される。図4は、電気伝送路5がFPCで構成されている場合の光伝送モジュール1の概略構成を示す斜視図である。このように、光伝送路4および電気伝送路5をフレキシブルな配線により構成することで、光伝送モジュール1を携帯機器等の小型の電子機器に適用することができる。
【0092】
(光伝送モジュール1におけるデータ信号に対するクロック信号のタイミング制御について)
光伝送システム100において、光伝送モジュール1から出力されるデータ信号、及び電気伝送路5から出力されるクロック信号は、ともに、受信処理部(受信処理手段)35に入力される(図1(a)参照)。光伝送システム100は、受信処理部35に入力されるデータ信号に対するクロック信号の出力タイミング制御に特徴がある。
【0093】
すなわち、図5(a)に示されるように、光伝送システム100は、クロック信号の出力のタイミングを制御し、クロック信号の立ち上がり開始時間(立ち上がりエッジ時間ともいう)を、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、データ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間だけ遅延させる遅延手段(第1の遅延手段)6を備えている。
【0094】
なお、「データ依存性ジッタ(DDJ)」は、以下のように定義することができる。すなわち、DDJ=ISI+DCDとして、定義され得る。DCDは、データ依存性であるが、ISIと異なる要因(DCバランス(「1」の値の信号の数と「0」の値の信号の数との比)の崩れ)で発生する。
【0095】
具体的には、ISIは、本来「0」の値である時間に、信号波形のなまりや立ち上がり(エッジ)時間の遅れにより、「1」の値の信号が入り込むことにより発生するジッタである。これに対し、DCDは、信号波形のデューティ比(「1」の値の信号または「0」の値の信号の時間軸上の幅)が揺らぐジッタを指す。ここで、遅延手段6による遅延の対象は、ISIであり、DCDは対象外である。
【0096】
図5(b)は、遅延手段6を備えた光伝送システム100における、データ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。同図に示されるように、クロック信号の遅延量tdは、データ信号のデータ依存性ジッタ(DDJ)以下になっている。このように、クロック信号の遅延量tdを調整することにより、データ信号が符号化されていない場合に発生するデータ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。その結果、通信品質が良好な光伝送システムを実現することができる。
【0097】
以下、この効果について、図6(a)及び図6(b)に基づいて、さらに詳述する。図6(a)は、光伝送モジュールを伝送するデータ信号を模式的に示した模式図であり、図6(b)は、データ信号におけるデータ依存性ジッタ(DDJ)と、クロック信号の遅延量tdとの関係を示した図である。図6(b)では、データ信号の「0」の値が連続した場合について、説明している。なお、データ信号の「1」の値が連続している場合においても同様であるので、ここでは省略している。
【0098】
図6(b)に示されるように、受信処理部35におけるデータ信号の立ち上がり開始時間は、「0」の値の連続回数が1からNへ増加するほど、遅くなる傾向にある。例えば、受信処理部35が、「0」の値が3回連続したデータ信号を出力する場合、3回目の「0」の値の出力電圧の立ち上がり開始時間は、1回目の「0」の値の出力電圧の立ち上がり開始時間よりも遅くなる。そして、このような立ち上がり開始時間の遅延は、データ信号における「0」の値の連続回数が大きければ大きいほど、顕著になる。データ依存性ジッタ(DDJ)は、「0」の値が最大N回連続したデータ信号において、1回目の「0」の値の出力電圧の立ち上がり開始時間に対するN回目の「0」の値の出力電圧の立ち上がり開始時間の遅延量と表現ずることができる。
【0099】
光伝送システム100においては、データ信号は符号化によるDCバランスが成されておらず、上記のようなデータ依存性ジッタ(DDJ)が顕著になる。このデータ依存性ジッタは、光伝送モジュール1における光送信部2及び光受信部3の光送受信IC帯域の劣化によるものである。それゆえ、データ依存性ジッタは、時間が遅れる方向(+t方向)にしか発生せず、データ信号の立ち上がり開始時間の分布は、非対称な分布になる。このように非対称な分布になったデータ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間が一致するように、クロック信号の遅延量を調整する場合、特許文献1のような「遅延回路」を用いた技術では調整が困難である。
【0100】
遅延回路を用いた場合、信号のばらつきは、遅延回路のプロセスばらつきや動作条件ばらつき等といった対称な分布になる。それゆえ、データ信号が符号化され、「0」の値の連続が比較的少なく、DCバランスが成されている場合には、データ信号とクロック信号とのタイミングを一致させることで信号のばらつきを小さくすることができた。
【0101】
しかしながら、上記のように、データ信号の立ち上がり開始時間の分布が、非対称な分布になっている場合、信号のばらつきは、非対称になり、特許文献1のような遅延回路を用いた調整では対応できない。
【0102】
光伝送システム100によれば、予めクロック信号をデータ信号に対し遅延させ、その遅延量tdを、データ信号における「0」の値のN回連続の立ち上がり開始時間の遅延量(DDJ)以下に調整している。このようにデータ信号に対しクロック信号が一定の時間だけ遅延するように設定しているので、クロック信号の立ち上がり開始時間に対する、データ依存性ジッタによるデータ信号の立ち上がり開始時間の分布を対称な分布とすることが可能になる。(データ依存性ジッタにより「0」の値を示す電圧の立ち上がり開始時間が遅延しても、その遅延時間が、クロック信号の立ち上がり開始時間よりも、遅いか、または早いかの何れかの場合があり、調整のばらつきが対称な分布になる。)その結果、符号化されていないデータ信号に対し、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現できる。
【0103】
また、光伝送システム100においては、遅延手段6によるクロック信号の遅延量tdは、データ信号のデータ依存性ジッタの最大値以下の時間であればよい。好ましくは、遅延量tdは、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/4〜3/4である。最も好ましくは、遅延量tdは、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/2である。
【0104】
以下、遅延手段6によるクロック信号の遅延量tdと、データ依存性ジッタ(DDJ)との関係について説明する。まず、実際のデータ依存性ジッタの影響によるデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎを説明する前に、一般的なデータ信号の立ち上がり開始時間のタイミングの揺らぎについて説明する。図7(a)は、データ信号のタイミング揺らぎを構成するジッタを示した模式図であり、図7(b)は、図7(a)に示されたジッタの和としてのデータ信号のタイミング揺らぎの分布を示した模式図である。
【0105】
図7(a)に示されるように、データ信号のタイミング揺らぎは、確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)とランダム成分のジッタ(Random jitter)とにより構成されたジッタが要因になっている。そして、データ信号の立ち上がり揺らぎは、確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)とランダム成分のジッタ(Random jitter)との和として表わされ、図7(b)に示される「totalのタイミング揺らぎ」のような分布になる。ここで、タイミングマージンをM〔ps〕としたとき、タイミングマージンMの範囲で「totalのタイミング揺らぎ」の分布を積分した値が、光伝送システムにおいて正確にデータ伝送することができるビットの割合になる。
【0106】
ここで、図8を参照して、データ依存性ジッタの影響によるデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎを説明する。図8(a)は、データ依存性ジッタの影響によるデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示した図である。
【0107】
図7(b)においては、確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)を一様な分布として想定している。しかしながら、実際には、データ依存性ジッタの影響により、この確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)は、一様ではない。この確定的な成分のジッタは、図8(a)に示されるように、ビット連続数に応じた離散的な関数になる。また、同図に示されるように、このビット連続数(1〜n)毎に、δ関数が設定される。
【0108】
このような離散的な関数としての確定的な成分のジッタと、ガウス関数としてのランダム成分のジッタとの和が、「totalのタイミング揺らぎ」となる。この確定的な成分のジッタは、データに依存して、確定的に発生する分布である。そして、この確定的な成分のジッタに、各ビット連続数のδ関数をピークとするランダム成分のジッタが加わる。それゆえ、「totalのタイミング揺らぎ」における、t<0、及びt>DDJの最大値の範囲は、ガウシアン分布になっており、発生確率が、互いに等しく、対称になっている。このような分布に対し、良好な伝送特性を実現する場合、確定的な成分のジッタのt=0の時点にクロック信号のタイミングを合わせる一般的な方法では、遅くなる方向(+t方向)の一定なビットエラーレート(BER:totalビット数に対するエラービットの割合)が大きくなる。それゆえ、上記の一般的な方法では、良好な伝送特性を実現することが困難である。
【0109】
したがって、光伝送システム100の遅延手段6によるクロック信号の遅延量は、ビット連続数2におけるδ関数のピーク時間と、ビット連続数N−1におけるδ関数のピーク時間との間に設定されることが好ましい。これにより、データ信号のビット連続数が増加した場合でも、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができる。
【0110】
例えば、8b10B符号化システムにおいてもビット連続が発生し、そのビット連続数の最大値N=5である。このシステムに対しても、上記と同様に考え、遅延手段6によるクロック信号の遅延量を設定することができる。図8(b)は、8b10B符号化されたデータ信号における、データ依存性ジッタの影響による信号立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示した図である。
【0111】
同図に示されるように、各ビット連続数毎のδ関数のピーク間の間隔は、等間隔であると近似的に考えることができる。それゆえ、ビット連続数2のときのデータ信号の立ち上がり時間(δ関数のピーク時間)は、1/4DJJ(DJJの最大値の1/4)となる。また、ビット連続数4のときのデータ信号の立ち上がり時間(δ関数のピーク時間)は、3/4DJJ(DJJの最大値の3/4)となる。上記と同様に考えると、遅延手段6によるクロック信号の遅延量は、1/4DJJと3/4DJJとの間に設定されることが好ましい。これにより、データ信号のビット連続数が増加した場合でも、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができる。
【0112】
また、特に、遅延手段6によるクロック信号の遅延量は、データ依存性ジッタ(DDJ)の1/2である場合、クロック信号の立ち上がり開始時間が、クロック信号の立ち上がり開始時間よりも、遅いか、または早いかの何れかの時間になり、信号のばらつきを確実に対称な分布にすることができる。
【0113】
光伝送システム100において、データ依存性ジッタは、光伝送モジュール1の光受信部3におけるデータ信号の信号振幅の損失に起因して発生する。それゆえ、データ依存性ジッタの最大値(DDJ(max))は、光受信部3の周波数特性に依存して決定される値である。以下、データ依存性ジッタ(DDJ)について、更に詳述する。
【0114】
図9(a)は、光受信部3におけるデータ信号の信号振幅の損失とデータ依存性ジッタとの関係を説明するための説明図であり、図9(b)は、光受信部3に備えられたAMP回路(増幅部33)の周波数特性を示し、周波数と利得との関係を示したグラフである。
【0115】
図9(a)に示されるように、受光素子(PD)、TIA回路、AMP回路、及びインバータ(Inverter)回路(第1の2値信号生成部)が、光受信部3内に備えられている。同図に示された光受信部3の構成において、受光素子(PD)は、受光部31に相当する。そして、TIA回路は、検出回路32に備えられている。また、AMP回路は、増幅部33に備えられている。
【0116】
同図に示される受光素子(PD)は、光伝送路4より伝送された光信号を受光し電流に変換する。TIA回路(トランスインピーダンスアンプ回路)は、受光素子(PD)にて変換された電流を電圧に変換し増幅し、電圧信号として出力する。TIA回路から出力した電圧信号は、AMP回路により増幅され、インバータ回路にてデジタル化される。
【0117】
光受信部3は、通常、fmin以上の周波数で動作する。この伝送可能な周波数の下限値fminを「伝送可能レートfmin」とする。また、光受信ICに入力される信号の基本周波数をfTとする。このとき、AMP回路に同一の値が最大Nビット連続する信号が入力されるシステムにおいては、伝送信号に含まれるパルスの最小周波数は、fT/Nになる。一般的に、AMP回路の周波数特性は、図9(b)に示されるようなグラフになり、周波数が低い入力信号に対して、増幅されないようになっている。このような周波数特性により、光受信IC内のインバータ回路(CMOSスイッチ)に入力される信号の振幅に差が生じる。その結果、インバータ回路がオンになる時間に遅延が生じ、この遅延がデータ依存性ジッタ(DDJ)となる。
【0118】
具体的には、図9(b)に示されるAMP回路の周波数特性から、動作する周波数が伝送可能レートfmin以上であるとき、利得が最大値Gmaxになる。基本周波数fTは伝送可能レートfminよりも大きくなるように設定されており、最大の利得Gmaxが得られるようになっている。ここで、AMP回路に同一の値が最大Nビット連続する信号(以下、Nビット連続信号とする)が入力される場合の利得について、説明する。
【0119】
図9(b)に示されるように、AMP回路にNビット連続信号が入力される場合、その信号伝送レートは、伝送可能レートfminよりも低く、fT/Nになる。このため、利得G2は、Gmaxよりも低い値になり、下記式(a)で表わされる。
【0120】
【数5】
【0121】
上記式(a)において、αは、AMP回路の周波数に対する利得の増加率を表わす。
【0122】
ここで、AMP回路に入力される電圧信号の振幅の1/2をVinとし、AMP回路が、1) 「1010」の信号を出力する場合、及び2) Nビット連続信号を出力する場合における信号遅延時間について、説明する。
【0123】
まず、1) 「1010」の信号を出力する場合、AMP回路から出力される信号振幅V1は、下記式(b)で表わされる。
【0124】
【数6】
【0125】
そして、AMP回路から出力される信号がインバータ回路にてデジタル化するときのしきい値電圧をVthとすると、「1010」の信号の信号遅延時間Δt1は、以下の式(c)で表わされる。
【0126】
【数7】
【0127】
上記式(c)において、trは、信号が、信号振幅の20%から80%までの立ち上がりに要する立ち上がり時間を表わす。
【0128】
また、2) Nビット連続信号を出力する場合、AMP回路から出力する信号振幅V2は、下記式(d)で表わされる。
【0129】
【数8】
【0130】
また、Nビット連続信号の信号遅延時間Δt2は、以下の式(e)で表わされる。
【0131】
【数9】
【0132】
ここで、Nビット連続信号の入力によるデータ依存性ジッタDDJ(max)は、Δt2とΔt1との差、すなわち、Δt2−Δt1である。したがって、データ依存性ジッタDDJ(max)は、下記式(I)のように表わすことができる。
【0133】
【数10】
【0134】
上記式(I)における、α、tr、Gmax、Vth、Vin、fmin、fTといったパラメータは、光受信部3を構成する各種回路により適宜設定されうる。そして、データ依存性ジッタDDJ(max)は、上記式(I)に基づき、このように設定された各パラメータより算出することができる。
【0135】
また、データ信号のビット連続数の最大値Nは、適用すべき光伝送システムに応じて、適宜決定しうる。それゆえ、このようにビット連続数の最大値が決定されうるので、データ信号に発生するデータ依存性ジッタも決定される。
【0136】
図10(a)は、データ信号としてのRGB信号におけるビット連続数を説明するための説明図である。また、図10(b)は、データ信号としてのCPU信号におけるビット連続数を説明するための説明図である。
【0137】
図10(a)に示されるように、RGB信号は、R(赤)信号、G(緑)信号、B(青)信号、及び制御信号から構成されている。また、R(赤)信号、G(緑)信号、及びB(青)信号のビット数はそれぞれ、階調数Xに依存している。それゆえ、光伝送システム100がデータ信号としてRGB信号を伝送した場合、表示すべき色の階調数Xに応じて、ビット連続数の最大値Nが決定される。
【0138】
例えば、表示すべき色の階調数X=18である(18階調表示;18.26万色)場合、ビット連続数の最大値Nは、21ビット(=18ビット(RGB)+3ビット(制御))である。また、階調数X=24である(24階調表示;24.1677万色)場合、ビット連続数の最大値Nは、27ビット(=24ビット(RGB)+3ビット(制御))である。また、階調数X=16である(16階調表示;R:6,G:5,B:6.5万色)場合、ビット連続数の最大値Nは、19ビット(=24ビット(RGB)+3ビット(制御))である。
【0139】
また、光伝送システム100がデータ信号としてCPU信号を伝送した場合、データビット数X’に応じて、ビット連続数の最大値Nが決定される。図10(b)に示されるように、CPU信号は、制御信号及びCPUデータ信号から構成されている。そして、CPU信号のビット数は、CPUデータ信号のデータビット数X’に依存している。
【0140】
例えば、CPU信号が8ビットのCPUデータである場合、ビット連続数の最大値Nは、11ビット(=8ビット(CPUデータ)+3ビット(制御))である。また、CPU信号が16ビットのCPUデータである場合、ビット連続数の最大値Nは、19ビット(=16ビット(CPUデータ)+3ビット(制御))である。また、CPU信号が32ビットのCPUデータである場合、ビット連続数の最大値Nは、35ビット(=32ビット(CPUデータ)+3ビット(制御))である。
【0141】
(遅延手段6について)
上述したように、光伝送システム100においては、遅延手段6が、クロック信号の出力を、データ信号に対し、データ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間遅延させる遅延機能を有する。そして、このように、クロック信号の遅延量tdを調整することにより、データ信号が符号化されていない場合に発生するデータ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。以下、光伝送システム100の特徴である遅延手段6の一例について、説明する。
【0142】
遅延手段6としては、電気伝送路5の電気配線長を設定して上記遅延機能を持たせる手段、または、受信処理部35に入力されるクロック信号波形を調整して上記遅延機能を持たせる手段が挙げられる。
【0143】
(遅延手段6としての電気伝送路5)
データ信号に対するクロック信号の遅延量を、データ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間に調整する場合、数100ps(ピコ秒)オーダーでの調整が必要になる。従来の遅延素子(例えば補償素子)は、クロック信号の遅延量(遅延時間)が離散的になるため、光伝送システム100の遅延手段6として用いることができない。また、遅延素子としてICを用いた場合においても、プロセスばらつき、温度ばらつき、電源ばらつき等の影響により、遅延手段6によるクロック信号の遅延量の調整には不向きである。
【0144】
このように、従来光伝送システムに用いられた遅延素子を、遅延手段6に適用することができない背景には、以下の以下のことが挙げられる。すなわち、光配線を伝送する信号と電気配線を伝送する信号との間の信号遅延量は、そもそも非常に大きく、数ns(ナノ秒)である。そして、従来の遅延素子が対象とするクロック信号の遅延量の調整が、数ns(ナノ秒)での調整であることが背景となっている。また、このような遅延素子の搭載は、電子機器のサイズの増大、及び消費電力の増大を招いてしまい、折り畳み式携帯電話機といった電子機器内の配線の用途には現実的でないといった背景がある。
【0145】
遅延手段6のように、データ信号に対するクロック信号の遅延量を数100ps(ピコ秒)オーダーで調整する場合、電気伝送路5の電気配線長を設定することが効果的である。
【0146】
図11は、電気伝送路5を遅延手段6として用いた場合の、電気伝送路5の配線長と、光伝送路4の配線長との関係を説明するための説明図である。
【0147】
Nビット連続信号のデータ依存性ジッタをDDJ(max)とし、光送信部2における信号遅延時間をT(ic1)とし、光受信部3における信号遅延時間T(ic2)とし、光伝送路4の配線長をL1とし、電気伝送路5の配線長をL2とすると、以下の式(1)が成立する。
【0148】
【数11】
【0149】
ここで、nは光伝送路4のコア部の屈折率であり、cは光速であり、εrは電気伝送路5の比誘電率である。
【0150】
また、式(1)中のDDJ(max)/Aは、データ信号の立ち上がり開始時間に対するクロック信号の遅延量を示す。上述の説明を考慮すると、式(2)中のAは、1よりも大きい数値であれば設定可能であり、好ましくは、3/2以上であり、特に好ましくは2である。
【0151】
上記式(1)を満たすように、電気伝送路5の配線長L2を設定することにより、クロック信号の出力を、データ信号に対し、データ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間だけ遅延させることができる。
【0152】
また、上記式(1)に基づけば、クロック信号の出力をデータ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間だけ遅延させるために必要なパラメータは、電気伝送路5の配線長L2、及び電気伝送路5を構成する材料の比誘電率εrのみである。それゆえ、従来の遅延素子やICを用いてクロック信号の遅延量を調整する場合と比較して、信号のばらつきが小さい調整が可能になる。特に、クロック信号の遅延量をデータ依存性ジッタ(DDJ)の1/2に調整する場合、高い精度が要求されるので、上記の電気伝送路5の配線長・比誘電率による遅延量の調整は有効である。
【0153】
また、遅延手段6として電気伝送路5を用いる場合、電気伝送路5がFPC(フレキシブルプリント基板)に集積された構成を採用することが好ましい。このような構成とすることにより、信号のばらつきを抑えるとともに、電気伝送路5として、省スペースであり、かつフレキシブルな配線を実現することができる。
【0154】
以下、遅延手段6としての電気伝送路5の構成について説明する。
【0155】
(構成例1)
図12は、構成例1としての電気伝送路5の構成を示す断面図である。同図に示されるように、電気伝送路5は、集積基板5aに集積されている。そして、この集積基板5aにおける伝送方向の配線長L1は、光伝送路4の配線長と同一になっている。このように集積基板5aの伝送方向の寸法を光伝送路4と同じにすることにより、電気伝送路5の外形、幅に影響を与えず、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。それゆえ、電気伝送路5の省スペース化を実現することができる。
【0156】
また、同図に示されるように、集積基板5aは、フレキシブルプリント基板(FPC)であり、その上に電気伝送路5が配線パターンとして形成されている。このように集積基板5a上で電気伝送路5の配線パターンを形成することにより、容易に電気伝送路5の配線長を調整することができる。さらに、電気伝送路5は、集積基板5aの信号伝送方向の一端で、少なくとも1回往復するようにパターン形成されている。このように電気伝送路5をパターン形成することにより、往復回数でクロック信号の遅延量を調整することできる。また、例えば各往復の長さが異なるようにパターン化することにより、精度よくクロック信号の遅延量を調整することができる。
【0157】
集積基板5aに形成された配線パターン(電気伝送路5)は、L(μm)/S(μm)=50/50程度であり、配線の幅がトータル100μmであることが好ましい。また、配線の長さが100mmである場合、往復回数を2回〜4回となるように配線パターンを形成することにより、クロック信号の遅延量を500ps〜5000psにすることが可能になる。
【0158】
また、集積基板5aをフレキシブルプリント基板(FPC)とすることにより、電気伝送路5の配線パターンの微細化を実現できる。これにより、集積基板5aの幅の増大させることなく、クロック信号の遅延量を調整することができる。また、クロック信号の遅延量の調整のためのパラメータも少ないため、遅延手段6としては最適である。
【0159】
また、電気伝送路5が形成された集積基板5aと、光伝送路4とは、一体で形成されていてもよく、別体で形成されていてもよい。
【0160】
特に、集積基板5aと光伝送路4とが一体で形成された一体型モジュールとすることにより、モジュールとして閉じた系でクロック信号の遅延量を調整することができる。このため、アプリケーションにより配線(電気伝送路5)の長さが変更された場合でも、モジュール内の回路構成や遅延素子を変更せずに、クロック信号の遅延量を調整することができる。このような調整は、従来のように回路が外付けされた構成では困難である。
【0161】
また、構成例1によれば、光伝送モジュール1のサイズ・コストを増加させることなく、変形自由度を損なわずに、信号伝送品質を良好に保つことが可能になる。また、上記のように、配線パターンの配線長の微調整が可能であり、高精度な遅延量調整を実現できる。
【0162】
なお、集積基板5aは、フレキシブルプリント基板(FPC)が複数積層された多層FPCであってもよい。また、シールドが付与されたフレキシブルプリント基板(FPC)、または、両面フレキシブルプリント基板(FPC)であってもよい。
【0163】
また、電気伝送路5は、フレキシブルプリント基板(FPC)の幅やシールド構造により、電気伝送路の配線パラメータとしてのR(抵抗)やC(容量)が、クロック信号の遅延量調整のために、最適な値に調整されていてもよい。
【0164】
(構成例2)
図13(a)〜(c)は、構成例2としての電気伝送路5の構成を示し、図13(a)は断面図であり、図13(b)は、光伝送モジュール搭載面から見た上面図であり、図13(c)は、電気配線層の構成を示す上面図である。
【0165】
図13(a)〜(c)に示されるように、集積基板5aは、光伝送路4よりも信号伝送方向に突出し、かつ、光伝送モジュール1が搭載されている突出部5bを有している。この突出部5bは、電気配線5dがパターン形成された電気配線層5cを有している。また、突出部5bにおける光伝送モジュール1の搭載面5b’には、クロック信号を入力するためのスルーホール5eが形成されている。このスルーホール5eは、電気配線5dと接続している。(図13(a)及び(c)参照)さらに、電気配線層5cには、スルーホール5fが形成されている。このスルーホール5fは、電気伝送路5と接続している。
【0166】
このように、集積基板5aに別途突出部5bが設けられた構成とし、この突出部5b内に電気配線層5cを形成することで、クロック信号の遅延量を調整することが可能になる。また、電気配線5dのパターンを、電気配線層5cの面内で100μm程度の間隔で繰り返し折り返したパターンとすることで、集積基板5aの外形を変えずに、電気伝送路5の配線長を実質的に長くすることができる。
【0167】
さらに、この突出部5bを、外部と接続するためのコネクタの接続部分とすることで、コネクタ外形に影響なく、クロック信号の遅延量を調整することができ、省スペース化を実現することができる。
【0168】
(構成例3)
図14は、構成例3としての電気伝送路5の構成を示す上面図である。同図に示されるように、構成例3では、コネクタ部に形成されたコネクタ端子7と電気伝送路5とが接続した構成になっている。
【0169】
コネクタ端子7は、外部と光伝送モジュール1及び電気伝送路5と接続する端子である。そして、コネクタ端子7にはクロック信号が入力されている。また、電気伝送路5は、同軸状に複数並んでおり、それぞれの電気伝送路5がコネクタ端子7と接続している。
【0170】
また、コネクタ部には、コネクタ端子7間を短絡させるコネクタ短絡部7aが設けられている。コネクタ短絡部7aは、電気伝送路5における入力側と出力側とで、クロック信号が往復して伝送するように配されている。
【0171】
このような構成とすることにより、集積基板5aの外形を変えずに、電気伝送路5の配線長を実質的に長くすることができる。また、コネクタ端子7間にコネクタ短絡部7aが設けられているので、電気伝送路5のインピーダンスが安定している。それゆえ、クロック信号の波形制御が容易になる。
【0172】
(構成例4)
図15は、構成例4としての光伝送システム100の構成を示す図である。
【0173】
同図に示されるように、光伝送システム100は、遅延手段6として、入力された信号のレベルとしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、データ信号及びクロック信号それぞれについて、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する2値信号生成部36(第2の2値信号生成部)を有している。
【0174】
同図に示されるように、2値信号生成部36において、クロック信号に対するしきい値電圧(CLK)(第2のしきい値)のレベルが、データ信号に対するしきい値電圧(Data)(第1のしきい値)のレベルよりも高く設定されている。
【0175】
2値信号生成部36では、入力される信号について、しきい値電圧よりも高い電圧は「HIGH」と認識される。また、しきい値電圧よりも低い電圧は「LOW」と認識される。それゆえ、上記のように、クロック信号に対するしきい値電圧(CLK)のレベルが、データ信号に対するしきい値電圧(Data)のレベルよりも高くなっていると、2値信号生成部35aから出力したクロック信号は、データ信号に対し遅延することになる。
【0176】
このクロック信号の遅延量がデータ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になるように、しきい値電圧(CLK)及びしきい値電圧(Data)が設定されることで、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。
【0177】
具体的には、データ信号及びクロック信号における、立ち上がり時間、及び振幅をそれぞれ、tr、及びVodとし、しきい値電圧(CLK)としきい値電圧(Data)との差をΔVthとし、クロック信号の遅延量をtdとしたとき、
上記遅延量tdが、下記式(2)
【0178】
【数12】
【0179】
を満たし、かつ、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間とする。
【0180】
(構成例5)
また、遅延手段6は、2値信号生成部36に入力される信号の波形を調整するものであってもよい。図16は、構成例5における、2値信号生成部36に入力される信号を示す図である。同図に示されるように、遅延手段6は、2値信号生成部36に入力する信号に対し、クロック信号の立ち上がり時間をデータ信号の立ち上がり時間よりも長くする処理を行う。なお、「信号の立ち上がり時間」は、一般的に、信号電圧値aから信号電圧値bへ遷移するまでに要する時間を指す。そして、通常、「信号の立ち上がり時間」は、図17に示されるtrにより定義される。すなわち、信号の立ち上がり時間trは、信号振幅Vodの20%に達した時間と信号振幅Vodの80%に達した時間との差として定義される。
【0181】
上記の構成によれば、クロック信号の立ち上がり時間がデータ信号の立ち上がり時間よりも長くなっている。つまり、クロック信号と比較して、データ信号が早く立ち上がっている。それゆえ、2値信号生成部36に入力するクロック信号は、データ信号と比較して、波形がなまった状態になる。そして、2値信号生成部36から出力した信号について、クロック信号は、データ信号に対し遅延することになる。
【0182】
遅延手段6は、このクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になるように、データ信号及びクロック信号の立ち上がり時間を調整する処理を行う。それゆえ、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。さらには、データ依存性ジッタの低減と遅延の補償とを同時に実現することができる。また、上記のように、クロック信号と比較して、データ信号を早く立ち上がっていると、その分スルーレートが大きくなり、ジッタが小さくなるという効果を奏する。
【0183】
具体的には、遅延手段6は、データ信号の立ち上がり時間とクロック信号の立ち上がり時間との差をΔtrとし、データ信号及びクロック信号の振幅をVodとし、上記しきい値をVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、上記遅延量tdは、下記式(3)
【0184】
【数13】
【0185】
を満たし、かつ、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間とする処理を行う。このようにクロック信号の遅延量を調整することで、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。
【0186】
なお、上記の遅延手段6による立ち上がり時間の調整は、電気伝送路5のR(抵抗)やC(容量)を調整することで実現できる。また、遅延手段6は、光伝送モジュール1の光送信部2または光受信部3から出力される、データ信号及びクロック信号について、上記の立ち上がり時間の調整を行うことができる。さらには、遅延手段6は、送信処理部25としてのシリアライザーから出力される信号について、上記の立ち上がり時間の調整を行うことができる。
【0187】
また、遅延手段6が、クロック信号及びデータ信号の振幅について、クロック信号の方が小さくなるように調整することで、クロック信号のより大きな遅延量を得ることができる。
【0188】
また、遅延手段6は、上記構成例4と組み合わせて、クロック信号に対するしきい値電圧(CLK)のレベルを、データ信号に対するしきい値電圧(Data)のレベルよりも高くする処理を行うことで、さらにクロック信号の遅延量を大きくすることができる。この場合、遅延手段6として電気伝送路5を用いた構成と併用すると、この電気伝送路5の配線長を小さく設定することができる。このため、さらなる省スペース化を実現することができる。
【0189】
なお、構成例5における遅延手段6は、上述したとおり、2値信号生成部36に入力する信号について、データ信号の波形と比較して、クロック信号の波形がなまった状態にするという機能を有する。それゆえ、構成例5における遅延手段6は、2値信号生成部36に入力する信号の波形を調整する波形調整手段であると表現することができる。
【0190】
(構成例6)
一般的に、光伝送モジュール1の光送信部2または光受信部3に用いられるICは、電子の移動速度が低温で上昇する傾向になる。それゆえ、光伝送システム100を搭載した電子機器について、周囲の温度が低くなると、光送信部2または光受信部3での、クロック信号に対するデータ信号の遅延量が小さくなる。光伝送システム100は、クロック信号の遅延量を、このような光伝送モジュール1の信号遅延の温度特性に基づいて決定する第2の遅延手段を備えていてもよい。図18は、第2の遅延手段によるクロック信号の遅延を説明するための図であり、図18(a)は、光伝送モジュール1の信号遅延の温度特性を示すグラフであり、図18(b)は、構成例6の光伝送システム100における、データ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【0191】
図18(a)に示されるように、クロック信号に対するデータ信号の遅延量は、温度Tが上昇するに従い、大きくなっている。光伝送モジュール1の使用温度範囲における下限温度T1での遅延量と常温Trにおける遅延量との差をΔ2とすると、第2の遅延手段は、データ信号に対し、クロック信号を遅延量Δ2遅延する処理を行っている。これにより、広範な温度範囲に渡って良好な信号伝送品質を維持できる光伝送システム100を実現できる。
【0192】
また、光伝送システム100は、第1の遅延手段としての遅延手段6と、上述した第2の遅延手段との両方を備えた構成であってもよい。この場合、図18(b)に示されるように、受信処理部35から出力されたクロック信号は、データ信号に対し、第1の遅延手段による遅延量tdに加え、第2の遅延手段による遅延量Δ2遅延することになる。これにより、最もスキュー仕様が厳しい温度でも、クロック信号の立ち上がり開始時間に対する、データ依存性ジッタによるデータ信号の立ち上がり開始時間の分布を対称な分布とすることが可能になる。それゆえ、データ信号のビット連続数が増加した場合でも、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができるととにもに、広範な温度範囲に渡って良好な信号伝送品質を維持できる。
【0193】
(応用例)
なお、本実施形態の光伝送システム100は、例えば以下のような応用例に適用することが可能である。上述した実施形態では、応用例として携帯電話機40に適用した例を用いて説明したが、これに限定されるものではなく、折り畳み式PHS(Personal Handy phone System)、折り畳み式PDA(Personal Digital Assistant)、折り畳み式ノートパソコン等の折り畳み式の電子機器のヒンジ部等にも適用することができる。
【0194】
光伝送システム100を、これらの折り畳み式電子機器に適用することにより、限られた空間で高速、大容量の通信を実現できる。したがって、例えば、折り畳み式液晶表示装置などの、高速、大容量のデータ通信が必要であって、小型化が求められる機器に特に好適である。このような信号伝送においては、電気伝送路5を伝送するクロック信号は、低速であることが好ましい。
【0195】
また、近年折り畳み式携帯電話機においては、各種通信方式への対応のため、図19(a)及び図19(b)に示されように、ヒンジ部41にアンテナ24が搭載されることが多い。また、アンテナ24は、5本以上搭載されることが多い。このような場合、主制御基板20とアプリケーション回路基板30との間を通常の電気配線で接続すると、電気配線からの発生するEMIにより、アンテナ24の受信感度が劣化してしまう。
【0196】
一方、光伝送システム100を搭載した折り畳み式携帯電話機では、光伝送路4から発生するEMIは0であり、低速のクロック信号を伝送する電気伝送路5から発生するEMIも非常に小さい。それゆえ、アンテナ24の受信感度を劣化させることなく、高速データ伝送を実現することができる。また、より高速にデータ伝送するために、光伝送システム100は、図19(b)に示されるように、2本以上のデータレーンに対応させて、2本以上の光伝送路4が搭載された構成であってもよい。
【0197】
さらなる応用例として、光伝送システム100は、印刷装置(電子機器)におけるプリンタヘッドやハードディスク記録再生装置における読み取り部など、駆動部を有する装置にも適用できる。
【0198】
図20(a)〜図20(c)は、光伝送システム100を印刷装置50に適用した例を示している。図20(a)は、印刷装置50の外観を示す斜視図である。この図に示すように、印刷装置50は、用紙54の幅方向に移動しながら用紙54に対して印刷を行うプリンタヘッド51を備えており、このプリンタヘッド51に光伝送モジュール1の一端が接続されている。
【0199】
図20(b)は、印刷装置50における、光伝送システム100が適用されている部分のブロック図である。この図に示すように、光伝送システム100の一端部はプリンタヘッド51に接続されており、他端部は印刷装置50における本体側基板に接続されている。なお、この本体側基板には、印刷装置50の各部の動作を制御する制御手段などが備えられる。
【0200】
図20(c)及び図20(d)は、印刷装置50においてプリンタヘッド51が移動(駆動)した場合の、光伝送路4の湾曲状態を示す斜視図である。この図に示すように、光伝送路4をプリンタヘッド51のような駆動部に適用する場合、プリンタヘッド51の駆動によって光伝送路4の湾曲状態が変化するとともに、光伝送路4の各位置が繰り返し湾曲される。
【0201】
したがって、本実施形態にかかる光伝送システム100は、これらの駆動部に好適である。また、光伝送システム100をこれらの駆動部に適用することにより、駆動部を用いた高速、大容量通信を実現できる。
【0202】
図21は、光伝送システム100をハードディスク記録再生装置60に適用した例を示している。
【0203】
この図に示すように、ハードディスク記録再生装置60は、ディスク(ハードディスク)61、ヘッド(読み取り、書き込み用ヘッド)62、基板導入部63、駆動部(駆動モータ)64、光伝送モジュール1を備えている。
【0204】
駆動部64は、ヘッド62をディスク61の半径方向に沿って駆動させるものである。ヘッド62は、ディスク61上に記録された情報を読み取り、また、ディスク61上に情報を書き込むものである。なお、ヘッド62は、光伝送モジュール1を介して基板導入部63に接続されており、ディスク61から読み取った情報を光信号として基板導入部63に伝搬させ、また、基板導入部63から伝搬された、ディスク61に書き込む情報の光信号を受け取る。
【0205】
このように、光伝送モジュール1をハードディスク記録再生装置60におけるヘッド62のような駆動部に適用することにより、高速、大容量通信を実現できる。
【0206】
本実施形態の光伝送システム100は、上記の応用例に加え、ビデオカメラ、ノートパソコン等の情報端末や基板間の信号伝送にも利用可能である。
【0207】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明は、各種機器間の光通信路にも適用可能であるとともに、小型、薄型の民生機器内に搭載される機器内配線としてのフレキシブルな光配線にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0209】
【図1】(a)は、本実施形態の折り畳み式携帯電話機内に設けられた光伝送システムの概略構成を示すブロック図であり、本実施の形態に係る携帯電話機における、光伝送モジュールの概略構成を示すブロック図である。
【図2】(a)は本実施形態の光伝送モジュールを内蔵した折り畳み式携帯電話機の外観を示す斜視図である。(b)は、(a)におけるヒンジ部(破線で囲んだ部分)の透視平面図である。
【図3】(a)は、光伝送路の側面図であり、(b)は、光伝送路における光伝送の状態を模式的に示している図である。
【図4】電気伝送路がFPCで構成されている場合の光伝送モジュールの概略構成を示す斜視図である。
【図5】(a)は、第1の遅延手段を備えた光伝送システムの概略構成を示すブロック図であり、(b)は、(a)の光伝送システムにおける、データ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【図6】(a)は、光伝送モジュールを伝送するデータ信号を模式的に示した模式図であり、(b)は、データ信号におけるデータ依存性ジッタ(DDJ)と、クロック信号の遅延量との関係を示した図である。
【図7】(a)は、データ信号のタイミング揺らぎを構成するジッタを示した模式図であり、(b)は、(a)に示されたジッタの和としてのデータ信号のタイミング揺らぎの分布を示した模式図である。
【図8】データ依存性ジッタの影響によるデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示し、(a)は、ビット連続数が1〜nの一般的なデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示す図であり、(b)は、8b10B符号化されたデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示す図である。
【図9】(a)は、光受信部におけるデータ信号の信号振幅の損失とデータ依存性ジッタとの関係を説明するための説明図であり、(b)は、光受信部に備えられたAMP回路(増幅部)の周波数特性を示し、周波数と利得との関係を示したグラフである。
【図10】(a)は、データ信号としてのRGB信号におけるビット連続数を説明するための説明図であり、(b)は、データ信号としてのCPU信号におけるビット連続数を説明するための説明図である。
【図11】電気伝送路を遅延手段として用いた場合の、電気伝送路の配線長と、光伝送路の配線長との関係を説明するための説明図である。
【図12】構成例1としての電気伝送路の構成を示す断面図である。
【図13】構成例2としての電気伝送路の構成を示し、(a)は断面図であり、(b)は、光伝送モジュール搭載面から見た上面図であり、(c)は、電気配線層の構成を示す上面図である。
【図14】構成例3としての電気伝送路の構成を示す上面図である。
【図15】図15は、構成例4としての光伝送システムの構成を示す図である。
【図16】構成例5における、2値信号生成部に入力される信号を示す図である。
【図17】「信号の立ち上がり時間」を説明するためのグラフである。
【図18】第2の遅延手段によるクロック信号の遅延を説明するための図であり、(a)は、光伝送モジュールの信号遅延の温度特性を示すグラフであり、(b)は、構成例6の光伝送システムにおける、データ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【図19】(a)及び(b)は、ヒンジ部にアンテナが搭載された携帯電話機の構成を示すブロック図である。
【図20】(a)は、本実施形態の光伝送システムを備えた印刷装置の外観を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示した印刷装置の主要部を示すブロック図であり、(c)および(d)は、印刷装置においてプリンタヘッドが移動(駆動)した場合の、光伝送路の湾曲状態を示す斜視図である。
【図21】本実施形態の光伝送システムを備えたハードディスク記録再生装置の外観を示す斜視図である。
【図22】特許文献1に記載された送受信装置の構成を示すブロック図である。
【図23】ビット連続によるデータ依存ジッタ(DDJ)の発生を模式的に示した模式図である。
【図24】(a)は、データ依存性ジッタが発生していないデータ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートであり、(b)は、データ依存性ジッタが発生しているデータ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0210】
1 光伝送モジュール
2 光送信部
21 I/F回路
22 発光駆動部
23 発光部
29 CPU
3 光受信部
31 受光部
32 検出回路
33 増幅部
34 I/F回路
4 光伝送路
5 電気伝送路
5a 集積基板
5b 突出部
5c 電気配線層
6 遅延手段(第1の遅延手段)
7 コネクタ端子
7a コネクタ短絡部
25 送信処理部
35 受信処理部(受信処理手段)
36 2値信号生成部(第2の2値信号生成部)
100 光伝送システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送システム及びそれを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のLCD(Liquid Crystal Display)の高精細化にともない、LCDとアプリケーションプロセッサとの間のデータの伝送速度の高速化が要求されている。また、携帯電話の薄型化が進むにつれ、データ伝送のための配線の数の削減が要求されている。このような背景のもと、LCDとアプリケーションプロセッサとの間のデータの伝送方式として、従来のパラレル伝送に代わり、シリアル伝送が広く普及され始めている。現在、最も広く普及しているシリアル伝送では、データ信号及びクロック信号がともに差動伝送方式で伝送されている。このようなシリアル伝送では、不要輻射(EMI;Electromagnetic interference)が、近年ますます深刻になる。それゆえ、EMIを低減するために、クロック信号は低速で伝送される。このような伝送方式においても、高速のデータ信号からのEMIが深刻な問題になっている。
【0003】
そこで、このような問題を解決するため、LCDとアプリケーションプロセッサとを光導波路などの光伝送路で接続し、データ信号を光信号として伝送する方法が試みられている。
【0004】
光導波路は、コアと呼ばれる芯とそれを覆うクラッドと呼ばれる鞘の二重構造になっており、クラッドよりもコアの屈折率が高くなっている。これにより、コアに入射した光信号は、コア内部で全反射を繰り返すことによって伝搬される。
【0005】
光伝送モジュールを用いることによって、例えば携帯電話機内に搭載される主制御基板からアプリケーション回路基板への高速かつ大容量のデータ信号の伝送が可能になる。このように、光伝送モジュールは、データ伝送モジュールとして非常に優れたものである。
【0006】
その一方で、データ信号を光信号として伝送し、クロック信号を電気信号として伝送する場合、光受信部3にて両方の信号間で大きな遅延が生じる。それゆえ、データ信号及びクロック信号の両方を電気伝送するモジュールよりも、データ信号とクロック信号との間のスキュー(Skew:時間的なずれ)調整が大きな課題となる。
【0007】
上記の課題に対し、例えば特許文献1では、送信装置側で、クロック信号の遅延量をメモリに蓄積し、該メモリに蓄積された遅延量だけ遅延してクロック信号を送信することで上記遅延を調整している。図22は、特許文献1に記載された送受信装置の構成を示すブロック図である。
【0008】
同図に示されるように、送信装置200は、送信部214と、駆動部216と、レーザーダイオード218と、遅延部222と、遅延情報保持部224とを有する。送信部214は、データ信号及びクロック信号を、光ファイバ232及びクロック伝送ライン234の各伝送路へ送信するものである。駆動部216は、レーザーダイオード218に駆動電流を供給する。遅延部222は、受信装置から送信される位相差信号に応じた時間だけクロック信号を遅延する。遅延情報保持部224は、遅延部222により遅延される遅延時間を示すデータを保持するものである。特許文献1の送受信装置では、遅延情報保持部224のメモリ240に蓄積された、配線長から算出される遅延時間を示すデータに基づき、遅延部222がクロック信号を遅延させることにより、データ信号とクロック信号との遅延を調整するようになっている。
【特許文献1】特開2007−124130号公報(平成19(2007)年 5月17日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
通常、光伝送モジュールを伝送する光信号(データ信号)は、ビット連続を回避するため、8B10B等などにより、符号化されている。特許文献1の送受信装置では、このような符号化されたデータ信号に対し、クロック信号とのタイミングを一致させることが可能である。
【0010】
しかしながら、例えば携帯電話機等の電子機器内のデータ伝送においては、データ信号が符号化されていないことが多く、ビット連続によるデータ依存性ジッタ(DDJ)が発生する。それゆえ、特許文献1の送受信装置を、携帯電話機等の電子機器内のデータ伝送に適用した場合、このDDJの影響で、データ信号とクロック信号とのタイミングを一致させることが困難であるという問題がある。
【0011】
図23は、ビット連続によるデータ依存ジッタ(DDJ)の発生を模式的に示した模式図である。同図に示されるように、光伝送モジュールの光配線を伝送するデータ信号では、同一の値(例えば「0」)が連続することにより、信号の立ち上がりのタイミングに揺らぎが生じる。データ依存性ジッタ(DDJ)とは、この信号立ち上がりのタイミングの揺らぎのことをいう。同図に示されるように、このデータ依存性ジッタは、データ信号における同一の値のビット連続長が長くなればなるほど、大きくなる。
【0012】
図24(a)は、データ依存性ジッタが発生していないデータ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートであり、図24(b)は、データ依存性ジッタが発生しているデータ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【0013】
図24(a)に示されるように、データ信号にデータ依存性ジッタが発生していない場合、特許文献1の技術のように、データ信号とクロック信号とのタイミングを一致させるような調整を行えば、信号のばらつきは、遅延部222(遅延回路)のプロセスばらつき、動作条件ばらつき等といった対称な分布になり、問題がない。
【0014】
一方、図24(b)に示されるように、データ信号にデータ依存性ジッタが発生している場合、データ信号立ち上がりのタイミングは、ビット連続の増加とともに、時間軸tにおける遅れる方向(方向(a))に揺らぐ。このようにタイミングが非対称に揺らぐデータ信号に対し、特許文献1の技術を用いてクロック信号の遅延量を調整する場合、その調整は、図24(b)に示されるような、片方側に大きなばらつきが発生してしまう。それゆえ、データ依存性ジッタが発生しているデータ信号に対しては、特許文献1の技術を用いて、クロック信号とタイミングを正確に一致させることが困難である。
【0015】
また、このような場合、特許文献1のように、電気配線長から算出される遅延時間等に基づいて、データ信号とクロック信号とのタイミングを一致させると、このDDJの影響により、通信の品質が劣化してしまう。
【0016】
また、このようにデータ依存性ジッタの影響により、データ信号立ち上がりのタイミング時間が大きく狂っている場合、IC回路による遅延時間の調整では限界がある。
【0017】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、符号化されていないデータ信号に対し、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現できる光伝送システム及びそれを備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の光伝送システムは、上記の課題を解決するために、データ信号を光信号として伝送する光伝送路を有し、光伝送路を伝送してきた光信号を電気信号に変換し、2値信号として出力する光伝送モジュールと、クロック信号を2値信号として出力する電気伝送路と、上記データ信号及び上記クロック信号それぞれについて、受信処理を行う受信処理手段とを備えた光伝送システムであって、上記2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第1の遅延手段を備え、該第1の遅延手段によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっていることを特徴としている。ここでいう「立ち上がり開始時間」とは、受信処理手段から出力される2値信号が立ち上がるタイミングのことをいう。
【0019】
上記の構成によれば、上記2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第1の遅延手段を備え、該第1の遅延手段によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっている。すなわち、予めクロック信号をデータ信号に対し遅延させ、その遅延量を、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下に調整している。このようにデータ信号に対しクロック信号が一定の時間だけ遅延するように設定されているので、クロック信号の立ち上がり開始時間に対する、データ依存性ジッタによるデータ信号の立ち上がり開始時間の分布を対称な分布とすることが可能になる。その結果、符号化されていないデータ信号であっても、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現できる。
【0020】
本発明の光伝送システムでは、上記データ信号の立ち上がり時間のゆらぎを確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)とランダム成分のジッタ(Random jitter)との和としたとき、上記確定的な成分のジッタは、データ信号のビット連続数N毎に定められたδ関数のピークに応じて分布する離散的な関数であり、上記遅延量は、ビット連続数2におけるδ関数のピーク時間と、ビット連続数N−1におけるδ関数のピーク時間との間に設定されることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、離散的な関数としての確定的な成分のジッタと、ランダム成分のジッタとの和が、データ信号の立ち上がり時間のゆらぎを示す分布になる。このような分布に対し、従来のように、ビット連続数1におけるδ関数のピーク時間にクロック信号のタイミングを合わせると、遅くなる方向の一定なビットエラーレートが大きくなり、良好な伝送特性を実現することが困難である。
【0022】
上記の構成によれば、クロック信号の遅延量は、ビット連続数2におけるδ関数のピーク時間と、ビット連続数N−1におけるδ関数のピーク時間との間に設定されるので、データ信号のビット連続数が増加した場合でも、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができる。
【0023】
本発明の光伝送システムでは、上記光伝送モジュールは、上記変換がなされた電気信号を増幅する増幅部と、入力された信号のレベルと第1のしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、データ信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第1の2値信号生成部とを備え、上記増幅部に入力される電気信号の電圧振幅の1/2をVinとし、上記第1のしきい値をVthとし、上記増幅部の利得の最大値をGmaxとし、増幅部における伝送周波数に対する利得の増加率をαとし、データ信号の基本周波数をfTとし、光伝送モジュールの伝送可能レートfminとし、データ信号の立ち上がり時間をtrとし、データ信号における連続ビット数の最大値をNとしたとき、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値DDJ(max)は、下記式(I)
【0024】
【数1】
【0025】
で表わされることが好ましい。
【0026】
上記式(I)のように、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値DDJ(max)が表わされることにより、ビット連続の最大値Nに依存したDDJ(max)を把握しやすくなるので、信号のばらつきをより確実に対称な分布にすることができる。
【0027】
本発明の光伝送システムでは、上記光伝送モジュールは、データ信号を上記光信号に変換して送信する光送信部と、光伝送路を伝送してきた光信号を受信し、電気信号に変換する光受信部とを有し、上記第1の遅延手段は、電気伝送路であり、その配線長L2は、光送信部及び光受信部のクロック信号に対する信号遅延時間をそれぞれ、t(ic1)及びt(ic2)とし、上記光伝送路の配線長をL1とし、光伝送路の配線長をL2とし、光伝送路の屈折率をnとし、光速をcとし、電気伝送路の比誘電率をεrとし、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値をDDJ(max)とし、上記遅延量をDDJ(max)/Aとしたとき、下記式(1)
【0028】
【数2】
【0029】
を満たすことが好ましい。
【0030】
上記式(1)に基づけば、クロック信号の出力をデータ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間だけ遅延させるために必要なパラメータは、電気伝送路の配線長L2、及び電気伝送路を構成する材料の比誘電率εrのみである。それゆえ、従来の遅延素子やICを用いてクロック信号の遅延量を調整する場合と比較して、信号のばらつきが小さい調整が可能になる。
【0031】
本発明の光伝送システムでは、上記電気伝送路は、上記光伝送路の信号伝送方向と平行に配されており、かつ、上記電気伝送路の配線長は、上記光伝送路よりも長くなっており、上記電気伝送路を集積する集積基板を備え、該集積基板の信号伝送方向の長さが、上記光伝送路の配線長と等しくなっていることが好ましい。
【0032】
上記の構成によれば、電気伝送路は、集積基板に集積されている。そして、この集積基板における伝送方向の配線長は、光伝送路の配線長と同一になっている。このように集積基板の伝送方向の寸法を光伝送路と同じにすることにより、電気伝送路の外形、幅に影響を与えず、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。それゆえ、電気伝送路の省スペース化を実現することができる。
【0033】
本発明の光伝送システムでは、上記電気伝送路は、集積基板の信号伝送方向の一端で、少なくとも1回往復するように配されていることが好ましい。
【0034】
上記の構成によれば、電気伝送路は、集積基板の信号伝送方向の一端で、少なくとも1回往復するように配されている。これにより、上記往復の回数でクロック信号の遅延量を調整することできる。また、例えば各往復の長さが異なるようにパターン化することにより、精度よくクロック信号の遅延量を調整することができる。
【0035】
本発明の光伝送システムでは、上記集積基板は、上記光伝送路よりも上記信号伝送方向に突出し、かつ、上記光伝送モジュールが搭載されている突出部を有し、上記突出部は、電気配線がパターン形成された電気配線層を有し、該電気配線層の電気配線と上記電気伝送路とが接続していることが好ましい。
【0036】
上記の構成によれば、集積基板は、光伝送路よりも信号伝送方向に突出し、かつ、光伝送モジュールが搭載されている突出部を有している。そして、この突出部は、電気配線がパターン形成された電気配線層を有している。そして、電気配線層の電気配線と上記電気伝送路とが接続している。このようにこのように、集積基板に別途突出部が設けられた構成とし、この突出部内に電気配線層を形成することで、集積基板の外形を変えずに、電気伝送路の配線長を実質的に長くすることができる。
【0037】
本発明の光伝送システムでは、コネクタ端子を有するコネクタを備え、上記集積基板には、同軸状に複数の電気伝送路が配され、各電気伝送路は、上記コネクタ端子と接続しており、上記コネクタは、コネクタ端子間を短絡させるコネクタ短絡部を有し、該コネクタ短絡部は、電気伝送路における入力側と出力側とで、クロック信号が往復して伝送するように、配置されていることが好ましい。
【0038】
上記の構成によれば、コネクタには、コネクタ端子間を短絡させるコネクタ短絡部が設けられている。そして、コネクタ短絡部は、電気伝送路における入力側と出力側とで、クロック信号が往復して伝送するように配されている。このような構成とすることにより、集積基板の外形を変えずに、電気伝送路の配線長を実質的に長くすることができる。また、コネクタ端子間にコネクタ短絡部が設けられているので、電気伝送路のインピーダンスが安定している。それゆえ、クロック信号の波形制御が容易になる。
【0039】
本発明の光伝送システムでは、上記遅延量は、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/4〜3/4になっていることが好ましい。
【0040】
上記の構成のように、クロック信号の遅延量が設定されることにより、特に8b10B符号化されたデータ信号に対し、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができる。
【0041】
本発明の光伝送システムでは、上記遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/2になっていることが好ましい。
【0042】
これにより、クロック信号の立ち上がり開始時間が、クロック信号の立ち上がり開始時間よりも、遅いか、または早いかの何れかの時間になり、信号のばらつきを確実に対称な分布にすることができる。
【0043】
本発明の光伝送システムでは、上記第1の遅延手段は、入力された信号のレベルと第2のしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、クロック信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第2の2値信号生成部を備え、上記第2の2値信号生成部では、クロック信号に対する第2のしきい値のレベルが、データ信号に対する第1のしきい値のレベルよりも高く設定されていることが好ましい。
【0044】
上記の構成によれば、上記第2の2値信号生成部では、クロック信号に対する第2のしきい値のレベルが、データ信号に対する第1のしきい値のレベルよりも高く設定されているので、第2の2値信号生成部から出力したクロック信号は、データ信号に対し遅延することになる。
【0045】
このクロック信号の遅延量がデータ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になるように、第1のしきい値及び第2のしきい値が設定されることで、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。
【0046】
本発明の光伝送システムでは、データ信号の立ち上がり時間tr、及び振幅は、クロック信号の立ち上がり時間と等しくなっており、データ信号及びクロック信号の振幅の1/2をVodとし、上記第1のしきい値と上記第2のしきい値との差をΔVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、上記遅延量tdは、下記式(2)
【0047】
【数3】
【0048】
を満たすことが好ましい。
【0049】
本発明の光伝送システムでは、上記第1の遅延手段は、入力された信号のレベルとしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、クロック信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第2の2値信号生成部を備え、上記第2の2値信号生成部に入力する信号に対し、クロック信号の立ち上がり時間をデータ信号の立ち上がり時間よりも長くする処理を行うことが好ましい。
【0050】
上記の構成によれば、クロック信号の立ち上がり時間がデータ信号の立ち上がり時間よりも長くなっている。つまり、クロック信号と比較して、データ信号が早く立ち上がっている。それゆえ、第2の2値信号生成部に入力するクロック信号は、データ信号と比較して、波形がなまった状態になる。そして、第2の2値信号生成部から出力したクロック信号は、データ信号に対し遅延することになる。
【0051】
上記遅延手段は、このクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になるように、データ信号及びクロック信号の立ち上がり時間を調整する処理を行う。それゆえ、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。さらには、データ依存性ジッタの低減と遅延の補償とを同時に実現することができる。また、上記のように、クロック信号と比較して、データ信号を早く立ち上がっていると、その分スルーレートが大きくなり、ジッタが小さくなるという効果を奏する。
【0052】
本発明の光伝送システムでは、データ信号及びクロック信号は、振幅が互いに等しくなっており、この振幅の1/2をVodとし、データ信号の立ち上がり時間とクロック信号の立ち上がり時間との差をΔtrとし、上記しきい値をVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、上記遅延量tdは、下記式(3)
【0053】
【数4】
【0054】
を満たすことが好ましい。
【0055】
本発明の光伝送システムでは、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第2の遅延手段を備え、第2の遅延手段によるクロック信号の遅延量は、光伝送モジュールの温度特性において、使用温度範囲における下限温度でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量と、常温でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量との差であることが好ましい。
【0056】
上記の構成によれば、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第2の遅延手段を備え、第2の遅延手段によるクロック信号の遅延量は、光伝送モジュールの温度特性において、使用温度範囲における下限温度でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量と、常温におけるクロック信号に対するデータ信号の遅延量との差であるので、広範な温度範囲に渡って良好な信号伝送品質を維持できる光伝送システムを実現できる。
【0057】
本発明の電子機器は、上記の課題を解決するために、上述の光伝送システムを備えたことを特徴としている。
【0058】
これにより、符号化されていないデータ信号に対し、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質の電子機器を実現できる。
【発明の効果】
【0059】
本発明の光伝送システムは、以上のように、上記2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第1の遅延手段を備え、該第1の遅延手段によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっている構成である。
【0060】
本発明の電子機器は、以上のように、上記光伝送システムを備えた構成である。
【0061】
それゆえ、符号化されていないデータ信号に対し、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
本発明の一実施形態について図1ないし図21に基づいて説明すると以下の通りである。
【0063】
すなわち、本実施形態では、操作キーを備える本体部と、表示画面を備える蓋部と、上記本体部に上記蓋部を回転可能に接続するヒンジ部とからなる折り畳み式携帯電話機において、上記本体部及び上記蓋部の間での情報(データ)伝送を上記ヒンジ部内に設けられた光伝送モジュールを介して行う構成を例に挙げて説明する。
【0064】
図1は、本実施形態の折り畳み式携帯電話機40内に設けられた光伝送システム100の概略構成を示すブロック図である。図2(a)は本実施形態の光伝送モジュール1を内蔵した折り畳み式携帯電話機40の外観を示す斜視図である。図2(b)は、図2(a)におけるヒンジ部41(破線で囲んだ部分)の透視平面図である。
【0065】
図1(a)及び図2(a)・(b)に示すように、本実施の形態に係る折り畳み式携帯電話機40(以下、単に携帯電話機40と示す)は、本体部42と、本体部42の一端に設けられたヒンジ部41と、ヒンジ部41を軸として回転可能に設けられた蓋部43とから構成されている。
【0066】
本体部42は、携帯電話機40を操作するための操作キー44を備えるとともに、その内部に主制御基板20を備えている。蓋部43は、外部に表示画面45及びカメラ(図示せず)を備えるとともに、内部にアプリケーション回路基板30を備えている。ドライバ39などが搭載されている。
【0067】
上述のような構成を有する携帯電話機40において、主制御基板20とアプリケーション回路基板との間のデータ信号の伝送は、光伝送モジュール1を介して行われる。一方、クロック信号の伝送は、電気伝送路5を介して行われる。
【0068】
図1(a)に示されるように、本体部42側の主制御基板20は、自基板20に搭載される各素子(図示せず)を統括制御するCPU(信号発生部)29、及び送信処理部25を備えている。このCPU29は、光伝送モジュール1の光送信部2へデータ信号を出力する一方、電気伝送路5へクロック信号を伝送する。送信処理部25は、CPU29から出力される信号の送信処理を行うものであり、例えば、CPU29から出力される信号をパラレル/シリアル変換するシリアライザーを備える。
【0069】
アプリケーション回路基板30は、受信処理部(受信処理手段)35、CPU29から転送される画像データ(2値信号)に基づいて画像を表示するLCD(Liquid Crystal Display)(図示せず)、LCDを駆動制御する駆動部としてのLCDドライバ(制御部)39とを備えている。受信処理部35は、光伝送モジュール1及び電気伝送路5から出力される、データ信号及びクロック信号を受信し、LCDドライバ39へ出力する。受信処理部35は、データ信号及びクロック信号それぞれを受信するIF回路、及びデシリアライザーを備え、IF回路から出力した2値信号を、デシリアライザーにより、シリアル/パラレル変換し、受信処理を行う。LCDドライバ39は、光伝送モジュール1を伝送するデータ信号(2値信号)に対し、電気伝送路5を伝送するクロック信号(2値信号)に基づいて、出力制御を行う。
【0070】
なお、図1の構成は、受信処理部35からLCDドライバ39へパラレル信号を伝送する構成であるが、光伝送システム100はこの構成に限定されるものではない。例えば、光伝送システム100は、LCDドライバ39内に受信処理部35、及びRGBIF回路を備え、受信処理部35からRGBIF回路へパラレル信号を伝送する構成であってもよい。また、図1の構成は、CPU29から送信処理部25へパラレル信号を伝送する構成であったが、光伝送システム100はこの構成に限定されるものではない。例えば、光伝送システム100は、CPU29内に送信処理部25、及びLCDIF回路を備え、LCDIF回路から送信処理部25へパラレル信号を伝送する構成であってもよい。
【0071】
(光伝送モジュールの構成)
次に図1(b)を参照して上記光伝送モジュール1の構成について説明する。図1(b)は、本実施の形態に係る携帯電話機40における、光伝送モジュール1の概略構成を示すブロック図である。
【0072】
同図に示すように、光伝送モジュール1は、CPU29を搭載する主制御基板20に接続される光送信部2と、LCDドライバ39などのアプリケーション回路を搭載するアプリケーション回路基板30に接続される光受信部3と、光送信部2及び光受信部3同士を接続する光配線となる光伝送路4とを備えてなる構成である。
【0073】
上記光伝送路4は、発光部23から出射されるデータ信号としての光信号を受光部31まで伝送する媒体である。光伝送路4の詳細については後述する。
【0074】
図1(b)に示すように光送信部2は、インターフェイス回路(以下、I/F回路と記す)21、発光駆動部(光変換器)22、及び発光部23を備えてなる構成である。
【0075】
上記I/F回路21は、外部から周波数レベルの異なる信号を受信するための回路である。このI/F回路21は、外部から光伝送モジュール1内に入力される電気信号の電気配線と発光駆動部22との間に設けられている。
【0076】
上記発光駆動部22は、I/F回路21を介して外部から光伝送モジュール1内に入力された電気信号に基づいて発光部23の発光を駆動するものである。この発光駆動部22は、例えば発光駆動用のIC(Integrated Circuit)によって構成することができる。
【0077】
発光部23は、発光駆動部22による駆動制御に基づいて発光するものである。この発光部23は、例えばVCSEL(Vertical Cavity-Surface Emitting Laser)などの発光素子によって構成することができる。この発光部23から発せられた光は、光信号として光伝送路4の光入射側端部に照射される。
【0078】
このように、光送信部2は、該光送信部2に入力される電気信号を、該電気信号に応じた光信号に変換して、光伝送路4に出力する。
【0079】
次に、光受信部3は、受光部31、検出回路32、増幅部(アンプ)33、及びI/F回路34を備えてなる構成である。
【0080】
上記受光部31は、光伝送路4の光出射側端部から出射された光信号としての光を受光し、光電変換によって電気信号を出力するものである。この受光部31は、データ信号を出力するものであり、例えばPD(Photo-Diode)などの受光素子によって構成することができる。また、検出回路32は、受光部31が光信号を受信したか否かを判断する。
【0081】
増幅部33は、受光部31・検出回路32から出力された電気信号を所望の値に増幅して外部に出力するものである。この増幅部33は、例えば増幅用のICによって構成することができる。
【0082】
I/F回路34は、増幅部33により増幅された電気信号を光伝送モジュール1の外部へ出力するための回路である。I/F回路34は、外部へ電気信号を伝送する電気配線と接続しており、増幅部33とこの電気配線との間に設けられる。
【0083】
このように、光受信部3は、光伝送路4を通じて光送信部2から出力される光信号を受信して、該光信号に応じた電気信号に変換した後、所望の信号値に増幅して外部に出力することができる。
【0084】
(光伝送路の構成)
次に、光伝送路4の詳細について図3(a)及び図3(b)を用いて説明する。図3(a)は、光伝送路4の側面図を示している。同図に示すように、光伝送路4は、光伝送方向を軸とする柱状形状のコア部4αと、コア部4αの周囲を囲むように設けられたクラッド部4βとを備えた構成となっている。コア部4α及びクラッド部4βは透光性を有する材料によって構成されているとともに、コア部4αの屈折率は、クラッド部4βの屈折率よりも高くなっている。これにより、コア部4αに入射した光信号は、コア部4α内部で全反射を繰り返すことによって光伝送方向に伝送される。
【0085】
コア部4α及びクラッド部4βを構成する材料としては、ガラスやプラスチックなどを用いることが可能であるが、十分な可撓性を有する光伝送路4を構成するためには、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、及びシリコーン系等の樹脂材料を使用することが好ましい。また、クラッド部4βを空気などの気体で構成してもよい。さらに、クラッド部4βをコア部4αよりも屈折率の小さい液体の雰囲気下において使用しても同様の効果が得られる。
【0086】
次に、光伝送路4による光伝送の仕組みについて図3(b)を用いて説明する。図3(b)は、光伝送路4における光伝送の状態を模式的に示している。同図に示すように、光伝送路4は可撓性を有する柱状形状の部材によって構成される。また、光伝送路4の光入射側端部には光入射面4Aが設けられているとともに、光出射側端部には光出射面4Bが設けられている。
【0087】
発光部23から出射された光は、光伝送路4の光伝送方向に対して直角または略直角となる方向から、光伝送路4の光入射側端部に入射される。入射された光は、光入射面4Aにおいて反射されることによって光伝送路4内に導入されコア部4α内を進行する。光伝送路4内を進行して光出射側端部に到達した光は、光出射面4Bにおいて反射されることによって、光伝送路4の光伝送方向に対して直角または略直角となる方向へ出射される。出射された光は、受光部31に照射され、受光部31において光電変換が行われる。
【0088】
このような構成によれば、光伝送路4における光伝送方向に対して直角または略直角となる方向に、光源としての発光部23を配置する構成とすることが可能となる。よって、例えば基板面に平行に光伝送路4を配置することが必要とされる場合に、光伝送路4と基板面との間に、該基板面の法線方向に光を出射するように発光部23を設置すればよいことになる。このような構成は、例えば発光部23を基板面に平行に光を出射するように設置する構成よりも、実装が容易であり、また、構成としてもよりコンパクトにすることができる。これは、発光部23の一般的な構成が、光を出射する方向のサイズよりも、光を出射する方向に直角な方向のサイズの方が大きくなっていることによるものである。さらに同一面内に電極と発光部23がある平面実装向け発光素子を使用する構成にも適用が可能である。
【0089】
なお、同図に示す光伝送路4は、上述のように、光入射面4A及び光出射面4Bが傾斜している構成であるが、本実施形態における光伝送路4は、両端面が光伝送方向に対して直交する構成であってもよい。すなわち、光伝送路4の外形が、直方体状に形成されていてもよい。
【0090】
(電気伝送路の構成)
次に、上記電気伝送路5の詳細について説明する。電気伝送路5は、光伝送路4に並行して設けられ、CPU29とLCDドライバ39とを接続し、CPU29から出力されるクロック信号をLCDドライバ39に伝送するものである。
【0091】
この電気伝送路5は、具体的には、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)、同軸ケーブル等により構成される。図4は、電気伝送路5がFPCで構成されている場合の光伝送モジュール1の概略構成を示す斜視図である。このように、光伝送路4および電気伝送路5をフレキシブルな配線により構成することで、光伝送モジュール1を携帯機器等の小型の電子機器に適用することができる。
【0092】
(光伝送モジュール1におけるデータ信号に対するクロック信号のタイミング制御について)
光伝送システム100において、光伝送モジュール1から出力されるデータ信号、及び電気伝送路5から出力されるクロック信号は、ともに、受信処理部(受信処理手段)35に入力される(図1(a)参照)。光伝送システム100は、受信処理部35に入力されるデータ信号に対するクロック信号の出力タイミング制御に特徴がある。
【0093】
すなわち、図5(a)に示されるように、光伝送システム100は、クロック信号の出力のタイミングを制御し、クロック信号の立ち上がり開始時間(立ち上がりエッジ時間ともいう)を、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、データ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間だけ遅延させる遅延手段(第1の遅延手段)6を備えている。
【0094】
なお、「データ依存性ジッタ(DDJ)」は、以下のように定義することができる。すなわち、DDJ=ISI+DCDとして、定義され得る。DCDは、データ依存性であるが、ISIと異なる要因(DCバランス(「1」の値の信号の数と「0」の値の信号の数との比)の崩れ)で発生する。
【0095】
具体的には、ISIは、本来「0」の値である時間に、信号波形のなまりや立ち上がり(エッジ)時間の遅れにより、「1」の値の信号が入り込むことにより発生するジッタである。これに対し、DCDは、信号波形のデューティ比(「1」の値の信号または「0」の値の信号の時間軸上の幅)が揺らぐジッタを指す。ここで、遅延手段6による遅延の対象は、ISIであり、DCDは対象外である。
【0096】
図5(b)は、遅延手段6を備えた光伝送システム100における、データ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。同図に示されるように、クロック信号の遅延量tdは、データ信号のデータ依存性ジッタ(DDJ)以下になっている。このように、クロック信号の遅延量tdを調整することにより、データ信号が符号化されていない場合に発生するデータ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。その結果、通信品質が良好な光伝送システムを実現することができる。
【0097】
以下、この効果について、図6(a)及び図6(b)に基づいて、さらに詳述する。図6(a)は、光伝送モジュールを伝送するデータ信号を模式的に示した模式図であり、図6(b)は、データ信号におけるデータ依存性ジッタ(DDJ)と、クロック信号の遅延量tdとの関係を示した図である。図6(b)では、データ信号の「0」の値が連続した場合について、説明している。なお、データ信号の「1」の値が連続している場合においても同様であるので、ここでは省略している。
【0098】
図6(b)に示されるように、受信処理部35におけるデータ信号の立ち上がり開始時間は、「0」の値の連続回数が1からNへ増加するほど、遅くなる傾向にある。例えば、受信処理部35が、「0」の値が3回連続したデータ信号を出力する場合、3回目の「0」の値の出力電圧の立ち上がり開始時間は、1回目の「0」の値の出力電圧の立ち上がり開始時間よりも遅くなる。そして、このような立ち上がり開始時間の遅延は、データ信号における「0」の値の連続回数が大きければ大きいほど、顕著になる。データ依存性ジッタ(DDJ)は、「0」の値が最大N回連続したデータ信号において、1回目の「0」の値の出力電圧の立ち上がり開始時間に対するN回目の「0」の値の出力電圧の立ち上がり開始時間の遅延量と表現ずることができる。
【0099】
光伝送システム100においては、データ信号は符号化によるDCバランスが成されておらず、上記のようなデータ依存性ジッタ(DDJ)が顕著になる。このデータ依存性ジッタは、光伝送モジュール1における光送信部2及び光受信部3の光送受信IC帯域の劣化によるものである。それゆえ、データ依存性ジッタは、時間が遅れる方向(+t方向)にしか発生せず、データ信号の立ち上がり開始時間の分布は、非対称な分布になる。このように非対称な分布になったデータ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間が一致するように、クロック信号の遅延量を調整する場合、特許文献1のような「遅延回路」を用いた技術では調整が困難である。
【0100】
遅延回路を用いた場合、信号のばらつきは、遅延回路のプロセスばらつきや動作条件ばらつき等といった対称な分布になる。それゆえ、データ信号が符号化され、「0」の値の連続が比較的少なく、DCバランスが成されている場合には、データ信号とクロック信号とのタイミングを一致させることで信号のばらつきを小さくすることができた。
【0101】
しかしながら、上記のように、データ信号の立ち上がり開始時間の分布が、非対称な分布になっている場合、信号のばらつきは、非対称になり、特許文献1のような遅延回路を用いた調整では対応できない。
【0102】
光伝送システム100によれば、予めクロック信号をデータ信号に対し遅延させ、その遅延量tdを、データ信号における「0」の値のN回連続の立ち上がり開始時間の遅延量(DDJ)以下に調整している。このようにデータ信号に対しクロック信号が一定の時間だけ遅延するように設定しているので、クロック信号の立ち上がり開始時間に対する、データ依存性ジッタによるデータ信号の立ち上がり開始時間の分布を対称な分布とすることが可能になる。(データ依存性ジッタにより「0」の値を示す電圧の立ち上がり開始時間が遅延しても、その遅延時間が、クロック信号の立ち上がり開始時間よりも、遅いか、または早いかの何れかの場合があり、調整のばらつきが対称な分布になる。)その結果、符号化されていないデータ信号に対し、データ依存性ジッタによるタイミングの揺らぎの影響を抑え、良好なデータ伝送品質を実現できる。
【0103】
また、光伝送システム100においては、遅延手段6によるクロック信号の遅延量tdは、データ信号のデータ依存性ジッタの最大値以下の時間であればよい。好ましくは、遅延量tdは、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/4〜3/4である。最も好ましくは、遅延量tdは、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/2である。
【0104】
以下、遅延手段6によるクロック信号の遅延量tdと、データ依存性ジッタ(DDJ)との関係について説明する。まず、実際のデータ依存性ジッタの影響によるデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎを説明する前に、一般的なデータ信号の立ち上がり開始時間のタイミングの揺らぎについて説明する。図7(a)は、データ信号のタイミング揺らぎを構成するジッタを示した模式図であり、図7(b)は、図7(a)に示されたジッタの和としてのデータ信号のタイミング揺らぎの分布を示した模式図である。
【0105】
図7(a)に示されるように、データ信号のタイミング揺らぎは、確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)とランダム成分のジッタ(Random jitter)とにより構成されたジッタが要因になっている。そして、データ信号の立ち上がり揺らぎは、確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)とランダム成分のジッタ(Random jitter)との和として表わされ、図7(b)に示される「totalのタイミング揺らぎ」のような分布になる。ここで、タイミングマージンをM〔ps〕としたとき、タイミングマージンMの範囲で「totalのタイミング揺らぎ」の分布を積分した値が、光伝送システムにおいて正確にデータ伝送することができるビットの割合になる。
【0106】
ここで、図8を参照して、データ依存性ジッタの影響によるデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎを説明する。図8(a)は、データ依存性ジッタの影響によるデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示した図である。
【0107】
図7(b)においては、確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)を一様な分布として想定している。しかしながら、実際には、データ依存性ジッタの影響により、この確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)は、一様ではない。この確定的な成分のジッタは、図8(a)に示されるように、ビット連続数に応じた離散的な関数になる。また、同図に示されるように、このビット連続数(1〜n)毎に、δ関数が設定される。
【0108】
このような離散的な関数としての確定的な成分のジッタと、ガウス関数としてのランダム成分のジッタとの和が、「totalのタイミング揺らぎ」となる。この確定的な成分のジッタは、データに依存して、確定的に発生する分布である。そして、この確定的な成分のジッタに、各ビット連続数のδ関数をピークとするランダム成分のジッタが加わる。それゆえ、「totalのタイミング揺らぎ」における、t<0、及びt>DDJの最大値の範囲は、ガウシアン分布になっており、発生確率が、互いに等しく、対称になっている。このような分布に対し、良好な伝送特性を実現する場合、確定的な成分のジッタのt=0の時点にクロック信号のタイミングを合わせる一般的な方法では、遅くなる方向(+t方向)の一定なビットエラーレート(BER:totalビット数に対するエラービットの割合)が大きくなる。それゆえ、上記の一般的な方法では、良好な伝送特性を実現することが困難である。
【0109】
したがって、光伝送システム100の遅延手段6によるクロック信号の遅延量は、ビット連続数2におけるδ関数のピーク時間と、ビット連続数N−1におけるδ関数のピーク時間との間に設定されることが好ましい。これにより、データ信号のビット連続数が増加した場合でも、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができる。
【0110】
例えば、8b10B符号化システムにおいてもビット連続が発生し、そのビット連続数の最大値N=5である。このシステムに対しても、上記と同様に考え、遅延手段6によるクロック信号の遅延量を設定することができる。図8(b)は、8b10B符号化されたデータ信号における、データ依存性ジッタの影響による信号立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示した図である。
【0111】
同図に示されるように、各ビット連続数毎のδ関数のピーク間の間隔は、等間隔であると近似的に考えることができる。それゆえ、ビット連続数2のときのデータ信号の立ち上がり時間(δ関数のピーク時間)は、1/4DJJ(DJJの最大値の1/4)となる。また、ビット連続数4のときのデータ信号の立ち上がり時間(δ関数のピーク時間)は、3/4DJJ(DJJの最大値の3/4)となる。上記と同様に考えると、遅延手段6によるクロック信号の遅延量は、1/4DJJと3/4DJJとの間に設定されることが好ましい。これにより、データ信号のビット連続数が増加した場合でも、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができる。
【0112】
また、特に、遅延手段6によるクロック信号の遅延量は、データ依存性ジッタ(DDJ)の1/2である場合、クロック信号の立ち上がり開始時間が、クロック信号の立ち上がり開始時間よりも、遅いか、または早いかの何れかの時間になり、信号のばらつきを確実に対称な分布にすることができる。
【0113】
光伝送システム100において、データ依存性ジッタは、光伝送モジュール1の光受信部3におけるデータ信号の信号振幅の損失に起因して発生する。それゆえ、データ依存性ジッタの最大値(DDJ(max))は、光受信部3の周波数特性に依存して決定される値である。以下、データ依存性ジッタ(DDJ)について、更に詳述する。
【0114】
図9(a)は、光受信部3におけるデータ信号の信号振幅の損失とデータ依存性ジッタとの関係を説明するための説明図であり、図9(b)は、光受信部3に備えられたAMP回路(増幅部33)の周波数特性を示し、周波数と利得との関係を示したグラフである。
【0115】
図9(a)に示されるように、受光素子(PD)、TIA回路、AMP回路、及びインバータ(Inverter)回路(第1の2値信号生成部)が、光受信部3内に備えられている。同図に示された光受信部3の構成において、受光素子(PD)は、受光部31に相当する。そして、TIA回路は、検出回路32に備えられている。また、AMP回路は、増幅部33に備えられている。
【0116】
同図に示される受光素子(PD)は、光伝送路4より伝送された光信号を受光し電流に変換する。TIA回路(トランスインピーダンスアンプ回路)は、受光素子(PD)にて変換された電流を電圧に変換し増幅し、電圧信号として出力する。TIA回路から出力した電圧信号は、AMP回路により増幅され、インバータ回路にてデジタル化される。
【0117】
光受信部3は、通常、fmin以上の周波数で動作する。この伝送可能な周波数の下限値fminを「伝送可能レートfmin」とする。また、光受信ICに入力される信号の基本周波数をfTとする。このとき、AMP回路に同一の値が最大Nビット連続する信号が入力されるシステムにおいては、伝送信号に含まれるパルスの最小周波数は、fT/Nになる。一般的に、AMP回路の周波数特性は、図9(b)に示されるようなグラフになり、周波数が低い入力信号に対して、増幅されないようになっている。このような周波数特性により、光受信IC内のインバータ回路(CMOSスイッチ)に入力される信号の振幅に差が生じる。その結果、インバータ回路がオンになる時間に遅延が生じ、この遅延がデータ依存性ジッタ(DDJ)となる。
【0118】
具体的には、図9(b)に示されるAMP回路の周波数特性から、動作する周波数が伝送可能レートfmin以上であるとき、利得が最大値Gmaxになる。基本周波数fTは伝送可能レートfminよりも大きくなるように設定されており、最大の利得Gmaxが得られるようになっている。ここで、AMP回路に同一の値が最大Nビット連続する信号(以下、Nビット連続信号とする)が入力される場合の利得について、説明する。
【0119】
図9(b)に示されるように、AMP回路にNビット連続信号が入力される場合、その信号伝送レートは、伝送可能レートfminよりも低く、fT/Nになる。このため、利得G2は、Gmaxよりも低い値になり、下記式(a)で表わされる。
【0120】
【数5】
【0121】
上記式(a)において、αは、AMP回路の周波数に対する利得の増加率を表わす。
【0122】
ここで、AMP回路に入力される電圧信号の振幅の1/2をVinとし、AMP回路が、1) 「1010」の信号を出力する場合、及び2) Nビット連続信号を出力する場合における信号遅延時間について、説明する。
【0123】
まず、1) 「1010」の信号を出力する場合、AMP回路から出力される信号振幅V1は、下記式(b)で表わされる。
【0124】
【数6】
【0125】
そして、AMP回路から出力される信号がインバータ回路にてデジタル化するときのしきい値電圧をVthとすると、「1010」の信号の信号遅延時間Δt1は、以下の式(c)で表わされる。
【0126】
【数7】
【0127】
上記式(c)において、trは、信号が、信号振幅の20%から80%までの立ち上がりに要する立ち上がり時間を表わす。
【0128】
また、2) Nビット連続信号を出力する場合、AMP回路から出力する信号振幅V2は、下記式(d)で表わされる。
【0129】
【数8】
【0130】
また、Nビット連続信号の信号遅延時間Δt2は、以下の式(e)で表わされる。
【0131】
【数9】
【0132】
ここで、Nビット連続信号の入力によるデータ依存性ジッタDDJ(max)は、Δt2とΔt1との差、すなわち、Δt2−Δt1である。したがって、データ依存性ジッタDDJ(max)は、下記式(I)のように表わすことができる。
【0133】
【数10】
【0134】
上記式(I)における、α、tr、Gmax、Vth、Vin、fmin、fTといったパラメータは、光受信部3を構成する各種回路により適宜設定されうる。そして、データ依存性ジッタDDJ(max)は、上記式(I)に基づき、このように設定された各パラメータより算出することができる。
【0135】
また、データ信号のビット連続数の最大値Nは、適用すべき光伝送システムに応じて、適宜決定しうる。それゆえ、このようにビット連続数の最大値が決定されうるので、データ信号に発生するデータ依存性ジッタも決定される。
【0136】
図10(a)は、データ信号としてのRGB信号におけるビット連続数を説明するための説明図である。また、図10(b)は、データ信号としてのCPU信号におけるビット連続数を説明するための説明図である。
【0137】
図10(a)に示されるように、RGB信号は、R(赤)信号、G(緑)信号、B(青)信号、及び制御信号から構成されている。また、R(赤)信号、G(緑)信号、及びB(青)信号のビット数はそれぞれ、階調数Xに依存している。それゆえ、光伝送システム100がデータ信号としてRGB信号を伝送した場合、表示すべき色の階調数Xに応じて、ビット連続数の最大値Nが決定される。
【0138】
例えば、表示すべき色の階調数X=18である(18階調表示;18.26万色)場合、ビット連続数の最大値Nは、21ビット(=18ビット(RGB)+3ビット(制御))である。また、階調数X=24である(24階調表示;24.1677万色)場合、ビット連続数の最大値Nは、27ビット(=24ビット(RGB)+3ビット(制御))である。また、階調数X=16である(16階調表示;R:6,G:5,B:6.5万色)場合、ビット連続数の最大値Nは、19ビット(=24ビット(RGB)+3ビット(制御))である。
【0139】
また、光伝送システム100がデータ信号としてCPU信号を伝送した場合、データビット数X’に応じて、ビット連続数の最大値Nが決定される。図10(b)に示されるように、CPU信号は、制御信号及びCPUデータ信号から構成されている。そして、CPU信号のビット数は、CPUデータ信号のデータビット数X’に依存している。
【0140】
例えば、CPU信号が8ビットのCPUデータである場合、ビット連続数の最大値Nは、11ビット(=8ビット(CPUデータ)+3ビット(制御))である。また、CPU信号が16ビットのCPUデータである場合、ビット連続数の最大値Nは、19ビット(=16ビット(CPUデータ)+3ビット(制御))である。また、CPU信号が32ビットのCPUデータである場合、ビット連続数の最大値Nは、35ビット(=32ビット(CPUデータ)+3ビット(制御))である。
【0141】
(遅延手段6について)
上述したように、光伝送システム100においては、遅延手段6が、クロック信号の出力を、データ信号に対し、データ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間遅延させる遅延機能を有する。そして、このように、クロック信号の遅延量tdを調整することにより、データ信号が符号化されていない場合に発生するデータ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。以下、光伝送システム100の特徴である遅延手段6の一例について、説明する。
【0142】
遅延手段6としては、電気伝送路5の電気配線長を設定して上記遅延機能を持たせる手段、または、受信処理部35に入力されるクロック信号波形を調整して上記遅延機能を持たせる手段が挙げられる。
【0143】
(遅延手段6としての電気伝送路5)
データ信号に対するクロック信号の遅延量を、データ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間に調整する場合、数100ps(ピコ秒)オーダーでの調整が必要になる。従来の遅延素子(例えば補償素子)は、クロック信号の遅延量(遅延時間)が離散的になるため、光伝送システム100の遅延手段6として用いることができない。また、遅延素子としてICを用いた場合においても、プロセスばらつき、温度ばらつき、電源ばらつき等の影響により、遅延手段6によるクロック信号の遅延量の調整には不向きである。
【0144】
このように、従来光伝送システムに用いられた遅延素子を、遅延手段6に適用することができない背景には、以下の以下のことが挙げられる。すなわち、光配線を伝送する信号と電気配線を伝送する信号との間の信号遅延量は、そもそも非常に大きく、数ns(ナノ秒)である。そして、従来の遅延素子が対象とするクロック信号の遅延量の調整が、数ns(ナノ秒)での調整であることが背景となっている。また、このような遅延素子の搭載は、電子機器のサイズの増大、及び消費電力の増大を招いてしまい、折り畳み式携帯電話機といった電子機器内の配線の用途には現実的でないといった背景がある。
【0145】
遅延手段6のように、データ信号に対するクロック信号の遅延量を数100ps(ピコ秒)オーダーで調整する場合、電気伝送路5の電気配線長を設定することが効果的である。
【0146】
図11は、電気伝送路5を遅延手段6として用いた場合の、電気伝送路5の配線長と、光伝送路4の配線長との関係を説明するための説明図である。
【0147】
Nビット連続信号のデータ依存性ジッタをDDJ(max)とし、光送信部2における信号遅延時間をT(ic1)とし、光受信部3における信号遅延時間T(ic2)とし、光伝送路4の配線長をL1とし、電気伝送路5の配線長をL2とすると、以下の式(1)が成立する。
【0148】
【数11】
【0149】
ここで、nは光伝送路4のコア部の屈折率であり、cは光速であり、εrは電気伝送路5の比誘電率である。
【0150】
また、式(1)中のDDJ(max)/Aは、データ信号の立ち上がり開始時間に対するクロック信号の遅延量を示す。上述の説明を考慮すると、式(2)中のAは、1よりも大きい数値であれば設定可能であり、好ましくは、3/2以上であり、特に好ましくは2である。
【0151】
上記式(1)を満たすように、電気伝送路5の配線長L2を設定することにより、クロック信号の出力を、データ信号に対し、データ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間だけ遅延させることができる。
【0152】
また、上記式(1)に基づけば、クロック信号の出力をデータ依存性ジッタ(DDJ)以下の時間だけ遅延させるために必要なパラメータは、電気伝送路5の配線長L2、及び電気伝送路5を構成する材料の比誘電率εrのみである。それゆえ、従来の遅延素子やICを用いてクロック信号の遅延量を調整する場合と比較して、信号のばらつきが小さい調整が可能になる。特に、クロック信号の遅延量をデータ依存性ジッタ(DDJ)の1/2に調整する場合、高い精度が要求されるので、上記の電気伝送路5の配線長・比誘電率による遅延量の調整は有効である。
【0153】
また、遅延手段6として電気伝送路5を用いる場合、電気伝送路5がFPC(フレキシブルプリント基板)に集積された構成を採用することが好ましい。このような構成とすることにより、信号のばらつきを抑えるとともに、電気伝送路5として、省スペースであり、かつフレキシブルな配線を実現することができる。
【0154】
以下、遅延手段6としての電気伝送路5の構成について説明する。
【0155】
(構成例1)
図12は、構成例1としての電気伝送路5の構成を示す断面図である。同図に示されるように、電気伝送路5は、集積基板5aに集積されている。そして、この集積基板5aにおける伝送方向の配線長L1は、光伝送路4の配線長と同一になっている。このように集積基板5aの伝送方向の寸法を光伝送路4と同じにすることにより、電気伝送路5の外形、幅に影響を与えず、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。それゆえ、電気伝送路5の省スペース化を実現することができる。
【0156】
また、同図に示されるように、集積基板5aは、フレキシブルプリント基板(FPC)であり、その上に電気伝送路5が配線パターンとして形成されている。このように集積基板5a上で電気伝送路5の配線パターンを形成することにより、容易に電気伝送路5の配線長を調整することができる。さらに、電気伝送路5は、集積基板5aの信号伝送方向の一端で、少なくとも1回往復するようにパターン形成されている。このように電気伝送路5をパターン形成することにより、往復回数でクロック信号の遅延量を調整することできる。また、例えば各往復の長さが異なるようにパターン化することにより、精度よくクロック信号の遅延量を調整することができる。
【0157】
集積基板5aに形成された配線パターン(電気伝送路5)は、L(μm)/S(μm)=50/50程度であり、配線の幅がトータル100μmであることが好ましい。また、配線の長さが100mmである場合、往復回数を2回〜4回となるように配線パターンを形成することにより、クロック信号の遅延量を500ps〜5000psにすることが可能になる。
【0158】
また、集積基板5aをフレキシブルプリント基板(FPC)とすることにより、電気伝送路5の配線パターンの微細化を実現できる。これにより、集積基板5aの幅の増大させることなく、クロック信号の遅延量を調整することができる。また、クロック信号の遅延量の調整のためのパラメータも少ないため、遅延手段6としては最適である。
【0159】
また、電気伝送路5が形成された集積基板5aと、光伝送路4とは、一体で形成されていてもよく、別体で形成されていてもよい。
【0160】
特に、集積基板5aと光伝送路4とが一体で形成された一体型モジュールとすることにより、モジュールとして閉じた系でクロック信号の遅延量を調整することができる。このため、アプリケーションにより配線(電気伝送路5)の長さが変更された場合でも、モジュール内の回路構成や遅延素子を変更せずに、クロック信号の遅延量を調整することができる。このような調整は、従来のように回路が外付けされた構成では困難である。
【0161】
また、構成例1によれば、光伝送モジュール1のサイズ・コストを増加させることなく、変形自由度を損なわずに、信号伝送品質を良好に保つことが可能になる。また、上記のように、配線パターンの配線長の微調整が可能であり、高精度な遅延量調整を実現できる。
【0162】
なお、集積基板5aは、フレキシブルプリント基板(FPC)が複数積層された多層FPCであってもよい。また、シールドが付与されたフレキシブルプリント基板(FPC)、または、両面フレキシブルプリント基板(FPC)であってもよい。
【0163】
また、電気伝送路5は、フレキシブルプリント基板(FPC)の幅やシールド構造により、電気伝送路の配線パラメータとしてのR(抵抗)やC(容量)が、クロック信号の遅延量調整のために、最適な値に調整されていてもよい。
【0164】
(構成例2)
図13(a)〜(c)は、構成例2としての電気伝送路5の構成を示し、図13(a)は断面図であり、図13(b)は、光伝送モジュール搭載面から見た上面図であり、図13(c)は、電気配線層の構成を示す上面図である。
【0165】
図13(a)〜(c)に示されるように、集積基板5aは、光伝送路4よりも信号伝送方向に突出し、かつ、光伝送モジュール1が搭載されている突出部5bを有している。この突出部5bは、電気配線5dがパターン形成された電気配線層5cを有している。また、突出部5bにおける光伝送モジュール1の搭載面5b’には、クロック信号を入力するためのスルーホール5eが形成されている。このスルーホール5eは、電気配線5dと接続している。(図13(a)及び(c)参照)さらに、電気配線層5cには、スルーホール5fが形成されている。このスルーホール5fは、電気伝送路5と接続している。
【0166】
このように、集積基板5aに別途突出部5bが設けられた構成とし、この突出部5b内に電気配線層5cを形成することで、クロック信号の遅延量を調整することが可能になる。また、電気配線5dのパターンを、電気配線層5cの面内で100μm程度の間隔で繰り返し折り返したパターンとすることで、集積基板5aの外形を変えずに、電気伝送路5の配線長を実質的に長くすることができる。
【0167】
さらに、この突出部5bを、外部と接続するためのコネクタの接続部分とすることで、コネクタ外形に影響なく、クロック信号の遅延量を調整することができ、省スペース化を実現することができる。
【0168】
(構成例3)
図14は、構成例3としての電気伝送路5の構成を示す上面図である。同図に示されるように、構成例3では、コネクタ部に形成されたコネクタ端子7と電気伝送路5とが接続した構成になっている。
【0169】
コネクタ端子7は、外部と光伝送モジュール1及び電気伝送路5と接続する端子である。そして、コネクタ端子7にはクロック信号が入力されている。また、電気伝送路5は、同軸状に複数並んでおり、それぞれの電気伝送路5がコネクタ端子7と接続している。
【0170】
また、コネクタ部には、コネクタ端子7間を短絡させるコネクタ短絡部7aが設けられている。コネクタ短絡部7aは、電気伝送路5における入力側と出力側とで、クロック信号が往復して伝送するように配されている。
【0171】
このような構成とすることにより、集積基板5aの外形を変えずに、電気伝送路5の配線長を実質的に長くすることができる。また、コネクタ端子7間にコネクタ短絡部7aが設けられているので、電気伝送路5のインピーダンスが安定している。それゆえ、クロック信号の波形制御が容易になる。
【0172】
(構成例4)
図15は、構成例4としての光伝送システム100の構成を示す図である。
【0173】
同図に示されるように、光伝送システム100は、遅延手段6として、入力された信号のレベルとしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、データ信号及びクロック信号それぞれについて、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する2値信号生成部36(第2の2値信号生成部)を有している。
【0174】
同図に示されるように、2値信号生成部36において、クロック信号に対するしきい値電圧(CLK)(第2のしきい値)のレベルが、データ信号に対するしきい値電圧(Data)(第1のしきい値)のレベルよりも高く設定されている。
【0175】
2値信号生成部36では、入力される信号について、しきい値電圧よりも高い電圧は「HIGH」と認識される。また、しきい値電圧よりも低い電圧は「LOW」と認識される。それゆえ、上記のように、クロック信号に対するしきい値電圧(CLK)のレベルが、データ信号に対するしきい値電圧(Data)のレベルよりも高くなっていると、2値信号生成部35aから出力したクロック信号は、データ信号に対し遅延することになる。
【0176】
このクロック信号の遅延量がデータ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になるように、しきい値電圧(CLK)及びしきい値電圧(Data)が設定されることで、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。
【0177】
具体的には、データ信号及びクロック信号における、立ち上がり時間、及び振幅をそれぞれ、tr、及びVodとし、しきい値電圧(CLK)としきい値電圧(Data)との差をΔVthとし、クロック信号の遅延量をtdとしたとき、
上記遅延量tdが、下記式(2)
【0178】
【数12】
【0179】
を満たし、かつ、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間とする。
【0180】
(構成例5)
また、遅延手段6は、2値信号生成部36に入力される信号の波形を調整するものであってもよい。図16は、構成例5における、2値信号生成部36に入力される信号を示す図である。同図に示されるように、遅延手段6は、2値信号生成部36に入力する信号に対し、クロック信号の立ち上がり時間をデータ信号の立ち上がり時間よりも長くする処理を行う。なお、「信号の立ち上がり時間」は、一般的に、信号電圧値aから信号電圧値bへ遷移するまでに要する時間を指す。そして、通常、「信号の立ち上がり時間」は、図17に示されるtrにより定義される。すなわち、信号の立ち上がり時間trは、信号振幅Vodの20%に達した時間と信号振幅Vodの80%に達した時間との差として定義される。
【0181】
上記の構成によれば、クロック信号の立ち上がり時間がデータ信号の立ち上がり時間よりも長くなっている。つまり、クロック信号と比較して、データ信号が早く立ち上がっている。それゆえ、2値信号生成部36に入力するクロック信号は、データ信号と比較して、波形がなまった状態になる。そして、2値信号生成部36から出力した信号について、クロック信号は、データ信号に対し遅延することになる。
【0182】
遅延手段6は、このクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になるように、データ信号及びクロック信号の立ち上がり時間を調整する処理を行う。それゆえ、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。さらには、データ依存性ジッタの低減と遅延の補償とを同時に実現することができる。また、上記のように、クロック信号と比較して、データ信号を早く立ち上がっていると、その分スルーレートが大きくなり、ジッタが小さくなるという効果を奏する。
【0183】
具体的には、遅延手段6は、データ信号の立ち上がり時間とクロック信号の立ち上がり時間との差をΔtrとし、データ信号及びクロック信号の振幅をVodとし、上記しきい値をVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、上記遅延量tdは、下記式(3)
【0184】
【数13】
【0185】
を満たし、かつ、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間とする処理を行う。このようにクロック信号の遅延量を調整することで、データ依存性ジッタによるクロック信号出力のタイミングのゆらぎの影響を抑えることができる。
【0186】
なお、上記の遅延手段6による立ち上がり時間の調整は、電気伝送路5のR(抵抗)やC(容量)を調整することで実現できる。また、遅延手段6は、光伝送モジュール1の光送信部2または光受信部3から出力される、データ信号及びクロック信号について、上記の立ち上がり時間の調整を行うことができる。さらには、遅延手段6は、送信処理部25としてのシリアライザーから出力される信号について、上記の立ち上がり時間の調整を行うことができる。
【0187】
また、遅延手段6が、クロック信号及びデータ信号の振幅について、クロック信号の方が小さくなるように調整することで、クロック信号のより大きな遅延量を得ることができる。
【0188】
また、遅延手段6は、上記構成例4と組み合わせて、クロック信号に対するしきい値電圧(CLK)のレベルを、データ信号に対するしきい値電圧(Data)のレベルよりも高くする処理を行うことで、さらにクロック信号の遅延量を大きくすることができる。この場合、遅延手段6として電気伝送路5を用いた構成と併用すると、この電気伝送路5の配線長を小さく設定することができる。このため、さらなる省スペース化を実現することができる。
【0189】
なお、構成例5における遅延手段6は、上述したとおり、2値信号生成部36に入力する信号について、データ信号の波形と比較して、クロック信号の波形がなまった状態にするという機能を有する。それゆえ、構成例5における遅延手段6は、2値信号生成部36に入力する信号の波形を調整する波形調整手段であると表現することができる。
【0190】
(構成例6)
一般的に、光伝送モジュール1の光送信部2または光受信部3に用いられるICは、電子の移動速度が低温で上昇する傾向になる。それゆえ、光伝送システム100を搭載した電子機器について、周囲の温度が低くなると、光送信部2または光受信部3での、クロック信号に対するデータ信号の遅延量が小さくなる。光伝送システム100は、クロック信号の遅延量を、このような光伝送モジュール1の信号遅延の温度特性に基づいて決定する第2の遅延手段を備えていてもよい。図18は、第2の遅延手段によるクロック信号の遅延を説明するための図であり、図18(a)は、光伝送モジュール1の信号遅延の温度特性を示すグラフであり、図18(b)は、構成例6の光伝送システム100における、データ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【0191】
図18(a)に示されるように、クロック信号に対するデータ信号の遅延量は、温度Tが上昇するに従い、大きくなっている。光伝送モジュール1の使用温度範囲における下限温度T1での遅延量と常温Trにおける遅延量との差をΔ2とすると、第2の遅延手段は、データ信号に対し、クロック信号を遅延量Δ2遅延する処理を行っている。これにより、広範な温度範囲に渡って良好な信号伝送品質を維持できる光伝送システム100を実現できる。
【0192】
また、光伝送システム100は、第1の遅延手段としての遅延手段6と、上述した第2の遅延手段との両方を備えた構成であってもよい。この場合、図18(b)に示されるように、受信処理部35から出力されたクロック信号は、データ信号に対し、第1の遅延手段による遅延量tdに加え、第2の遅延手段による遅延量Δ2遅延することになる。これにより、最もスキュー仕様が厳しい温度でも、クロック信号の立ち上がり開始時間に対する、データ依存性ジッタによるデータ信号の立ち上がり開始時間の分布を対称な分布とすることが可能になる。それゆえ、データ信号のビット連続数が増加した場合でも、データ依存性ジッタ(DDJ)による影響を抑えることができるととにもに、広範な温度範囲に渡って良好な信号伝送品質を維持できる。
【0193】
(応用例)
なお、本実施形態の光伝送システム100は、例えば以下のような応用例に適用することが可能である。上述した実施形態では、応用例として携帯電話機40に適用した例を用いて説明したが、これに限定されるものではなく、折り畳み式PHS(Personal Handy phone System)、折り畳み式PDA(Personal Digital Assistant)、折り畳み式ノートパソコン等の折り畳み式の電子機器のヒンジ部等にも適用することができる。
【0194】
光伝送システム100を、これらの折り畳み式電子機器に適用することにより、限られた空間で高速、大容量の通信を実現できる。したがって、例えば、折り畳み式液晶表示装置などの、高速、大容量のデータ通信が必要であって、小型化が求められる機器に特に好適である。このような信号伝送においては、電気伝送路5を伝送するクロック信号は、低速であることが好ましい。
【0195】
また、近年折り畳み式携帯電話機においては、各種通信方式への対応のため、図19(a)及び図19(b)に示されように、ヒンジ部41にアンテナ24が搭載されることが多い。また、アンテナ24は、5本以上搭載されることが多い。このような場合、主制御基板20とアプリケーション回路基板30との間を通常の電気配線で接続すると、電気配線からの発生するEMIにより、アンテナ24の受信感度が劣化してしまう。
【0196】
一方、光伝送システム100を搭載した折り畳み式携帯電話機では、光伝送路4から発生するEMIは0であり、低速のクロック信号を伝送する電気伝送路5から発生するEMIも非常に小さい。それゆえ、アンテナ24の受信感度を劣化させることなく、高速データ伝送を実現することができる。また、より高速にデータ伝送するために、光伝送システム100は、図19(b)に示されるように、2本以上のデータレーンに対応させて、2本以上の光伝送路4が搭載された構成であってもよい。
【0197】
さらなる応用例として、光伝送システム100は、印刷装置(電子機器)におけるプリンタヘッドやハードディスク記録再生装置における読み取り部など、駆動部を有する装置にも適用できる。
【0198】
図20(a)〜図20(c)は、光伝送システム100を印刷装置50に適用した例を示している。図20(a)は、印刷装置50の外観を示す斜視図である。この図に示すように、印刷装置50は、用紙54の幅方向に移動しながら用紙54に対して印刷を行うプリンタヘッド51を備えており、このプリンタヘッド51に光伝送モジュール1の一端が接続されている。
【0199】
図20(b)は、印刷装置50における、光伝送システム100が適用されている部分のブロック図である。この図に示すように、光伝送システム100の一端部はプリンタヘッド51に接続されており、他端部は印刷装置50における本体側基板に接続されている。なお、この本体側基板には、印刷装置50の各部の動作を制御する制御手段などが備えられる。
【0200】
図20(c)及び図20(d)は、印刷装置50においてプリンタヘッド51が移動(駆動)した場合の、光伝送路4の湾曲状態を示す斜視図である。この図に示すように、光伝送路4をプリンタヘッド51のような駆動部に適用する場合、プリンタヘッド51の駆動によって光伝送路4の湾曲状態が変化するとともに、光伝送路4の各位置が繰り返し湾曲される。
【0201】
したがって、本実施形態にかかる光伝送システム100は、これらの駆動部に好適である。また、光伝送システム100をこれらの駆動部に適用することにより、駆動部を用いた高速、大容量通信を実現できる。
【0202】
図21は、光伝送システム100をハードディスク記録再生装置60に適用した例を示している。
【0203】
この図に示すように、ハードディスク記録再生装置60は、ディスク(ハードディスク)61、ヘッド(読み取り、書き込み用ヘッド)62、基板導入部63、駆動部(駆動モータ)64、光伝送モジュール1を備えている。
【0204】
駆動部64は、ヘッド62をディスク61の半径方向に沿って駆動させるものである。ヘッド62は、ディスク61上に記録された情報を読み取り、また、ディスク61上に情報を書き込むものである。なお、ヘッド62は、光伝送モジュール1を介して基板導入部63に接続されており、ディスク61から読み取った情報を光信号として基板導入部63に伝搬させ、また、基板導入部63から伝搬された、ディスク61に書き込む情報の光信号を受け取る。
【0205】
このように、光伝送モジュール1をハードディスク記録再生装置60におけるヘッド62のような駆動部に適用することにより、高速、大容量通信を実現できる。
【0206】
本実施形態の光伝送システム100は、上記の応用例に加え、ビデオカメラ、ノートパソコン等の情報端末や基板間の信号伝送にも利用可能である。
【0207】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明は、各種機器間の光通信路にも適用可能であるとともに、小型、薄型の民生機器内に搭載される機器内配線としてのフレキシブルな光配線にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0209】
【図1】(a)は、本実施形態の折り畳み式携帯電話機内に設けられた光伝送システムの概略構成を示すブロック図であり、本実施の形態に係る携帯電話機における、光伝送モジュールの概略構成を示すブロック図である。
【図2】(a)は本実施形態の光伝送モジュールを内蔵した折り畳み式携帯電話機の外観を示す斜視図である。(b)は、(a)におけるヒンジ部(破線で囲んだ部分)の透視平面図である。
【図3】(a)は、光伝送路の側面図であり、(b)は、光伝送路における光伝送の状態を模式的に示している図である。
【図4】電気伝送路がFPCで構成されている場合の光伝送モジュールの概略構成を示す斜視図である。
【図5】(a)は、第1の遅延手段を備えた光伝送システムの概略構成を示すブロック図であり、(b)は、(a)の光伝送システムにおける、データ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【図6】(a)は、光伝送モジュールを伝送するデータ信号を模式的に示した模式図であり、(b)は、データ信号におけるデータ依存性ジッタ(DDJ)と、クロック信号の遅延量との関係を示した図である。
【図7】(a)は、データ信号のタイミング揺らぎを構成するジッタを示した模式図であり、(b)は、(a)に示されたジッタの和としてのデータ信号のタイミング揺らぎの分布を示した模式図である。
【図8】データ依存性ジッタの影響によるデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示し、(a)は、ビット連続数が1〜nの一般的なデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示す図であり、(b)は、8b10B符号化されたデータ信号の立ち上がりのタイミングの揺らぎの分布を示す図である。
【図9】(a)は、光受信部におけるデータ信号の信号振幅の損失とデータ依存性ジッタとの関係を説明するための説明図であり、(b)は、光受信部に備えられたAMP回路(増幅部)の周波数特性を示し、周波数と利得との関係を示したグラフである。
【図10】(a)は、データ信号としてのRGB信号におけるビット連続数を説明するための説明図であり、(b)は、データ信号としてのCPU信号におけるビット連続数を説明するための説明図である。
【図11】電気伝送路を遅延手段として用いた場合の、電気伝送路の配線長と、光伝送路の配線長との関係を説明するための説明図である。
【図12】構成例1としての電気伝送路の構成を示す断面図である。
【図13】構成例2としての電気伝送路の構成を示し、(a)は断面図であり、(b)は、光伝送モジュール搭載面から見た上面図であり、(c)は、電気配線層の構成を示す上面図である。
【図14】構成例3としての電気伝送路の構成を示す上面図である。
【図15】図15は、構成例4としての光伝送システムの構成を示す図である。
【図16】構成例5における、2値信号生成部に入力される信号を示す図である。
【図17】「信号の立ち上がり時間」を説明するためのグラフである。
【図18】第2の遅延手段によるクロック信号の遅延を説明するための図であり、(a)は、光伝送モジュールの信号遅延の温度特性を示すグラフであり、(b)は、構成例6の光伝送システムにおける、データ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【図19】(a)及び(b)は、ヒンジ部にアンテナが搭載された携帯電話機の構成を示すブロック図である。
【図20】(a)は、本実施形態の光伝送システムを備えた印刷装置の外観を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示した印刷装置の主要部を示すブロック図であり、(c)および(d)は、印刷装置においてプリンタヘッドが移動(駆動)した場合の、光伝送路の湾曲状態を示す斜視図である。
【図21】本実施形態の光伝送システムを備えたハードディスク記録再生装置の外観を示す斜視図である。
【図22】特許文献1に記載された送受信装置の構成を示すブロック図である。
【図23】ビット連続によるデータ依存ジッタ(DDJ)の発生を模式的に示した模式図である。
【図24】(a)は、データ依存性ジッタが発生していないデータ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートであり、(b)は、データ依存性ジッタが発生しているデータ信号とクロック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0210】
1 光伝送モジュール
2 光送信部
21 I/F回路
22 発光駆動部
23 発光部
29 CPU
3 光受信部
31 受光部
32 検出回路
33 増幅部
34 I/F回路
4 光伝送路
5 電気伝送路
5a 集積基板
5b 突出部
5c 電気配線層
6 遅延手段(第1の遅延手段)
7 コネクタ端子
7a コネクタ短絡部
25 送信処理部
35 受信処理部(受信処理手段)
36 2値信号生成部(第2の2値信号生成部)
100 光伝送システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ信号を光信号として伝送する光伝送路を有し、光伝送路を伝送してきた光信号を電気信号に変換し、2値信号として出力する光伝送モジュールと、
クロック信号を2値信号として出力する電気伝送路と、
上記データ信号及び上記クロック信号それぞれについて、受信処理を行う受信処理手段とを備えた光伝送システムであって、
上記2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第1の遅延手段を備え、該第1の遅延手段によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっていることを特徴とする光伝送システム。
【請求項2】
上記データ信号の立ち上がり時間のゆらぎを確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)とランダム成分のジッタ(Random jitter)との和としたとき、
上記確定的な成分のジッタは、データ信号のビット連続数N毎に定められたδ関数のピークに応じて分布する離散的な関数であり、
上記遅延量は、ビット連続数2におけるδ関数のピーク時間と、ビット連続数N−1におけるδ関数のピーク時間との間に設定されることを特徴とする請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項3】
上記光伝送モジュールは、上記変換がなされた電気信号を増幅する増幅部と、
入力された信号のレベルと第1のしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、データ信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第1の2値信号生成部とを備え、
上記増幅部に入力される電気信号の電圧振幅の1/2をVinとし、上記第1のしきい値をVthとし、上記増幅部の利得の最大値をGmaxとし、増幅部における伝送周波数に対する利得の増加率をαとし、データ信号の基本周波数をfTとし、光伝送モジュールの伝送可能レートfminとし、データ信号の立ち上がり時間をtrとし、データ信号における連続ビット数の最大値をNとしたとき、
データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値DDJ(max)は、下記式(I)
【数1】
で表わされることを特徴とする請求項2に記載の光伝送システム。
【請求項4】
上記光伝送モジュールは、
データ信号を上記光信号に変換して送信する光送信部と、
光伝送路を伝送してきた光信号を受信し、電気信号に変換する光受信部とを有し、
上記第1の遅延手段は、電気伝送路であり、その配線長L2は、
光送信部及び光受信部のクロック信号に対する信号遅延時間をそれぞれ、t(ic1)及びt(ic2)とし、上記光伝送路の配線長をL1とし、光伝送路の配線長をL2とし、光伝送路の屈折率をnとし、光速をcとし、電気伝送路の比誘電率をεrとし、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値をDDJ(max)とし、上記遅延量をDDJ(max)/Aとしたとき、下記式(1)
【数2】
を満たすことを特徴とする請求項3に記載の光伝送システム。
【請求項5】
上記電気伝送路は、上記光伝送路の信号伝送方向と平行に配されており、かつ、
上記電気伝送路の配線長は、上記光伝送路よりも長くなっており、
上記電気伝送路を集積する集積基板を備え、該集積基板の信号伝送方向の長さが、上記光伝送路の配線長と等しくなっていることを特徴とする請求項4に記載の光伝送システム。
【請求項6】
上記電気伝送路は、集積基板の信号伝送方向の一端で、少なくとも1回往復するように配されていることを特徴とする請求項5に記載の光伝送システム。
【請求項7】
上記集積基板は、上記光伝送路よりも上記信号伝送方向に突出し、かつ、上記光伝送モジュールが搭載されている突出部を有し、
上記突出部は、電気配線がパターン形成された電気配線層を有し、該電気配線層の電気配線と上記電気伝送路とが接続していることを特徴とする請求項5に記載の光伝送システム。
【請求項8】
コネクタ端子を有するコネクタを備え、
上記集積基板には、同軸状に複数の電気伝送路が配され、各電気伝送路は、上記コネクタ端子と接続しており、
上記コネクタは、コネクタ端子間を短絡させるコネクタ短絡部を有し、該コネクタ短絡部は、電気伝送路における入力側と出力側とで、クロック信号が往復して伝送するように、配置されていることを特徴とする請求項5に記載の光伝送システム。
【請求項9】
上記遅延量は、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/4〜3/4になっていることを特徴とする請求項2に記載の光伝送システム。
【請求項10】
上記遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/2になっていることを特徴とする請求項9に記載の光伝送システム。
【請求項11】
上記第1の遅延手段は、入力された信号のレベルと第2のしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、クロック信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第2の2値信号生成部を備え、
上記第2の2値信号生成部では、クロック信号に対する第2のしきい値のレベルが、データ信号に対する第1のしきい値のレベルよりも高く設定されていることを特徴とする請求項3に記載の光伝送システム。
【請求項12】
データ信号の立ち上がり時間tr、及び振幅は、クロック信号の立ち上がり時間と等しくなっており、データ信号及びクロック信号の振幅の1/2をVodとし、上記第1のしきい値と上記第2のしきい値との差をΔVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、
上記遅延量tdは、下記式(2)
【数3】
を満たすことを特徴とする請求項11に記載の光伝送システム。
【請求項13】
上記第1の遅延手段は、入力された信号のレベルとしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、クロック信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第2の2値信号生成部を備え、上記第2の2値信号生成部に入力する信号に対し、クロック信号の立ち上がり時間をデータ信号の立ち上がり時間よりも長くする処理を行うことを特徴とする請求項3に記載の光伝送システム。
【請求項14】
データ信号及びクロック信号は、振幅が互いに等しくなっており、この振幅の1/2をVodとし、
データ信号の立ち上がり時間とクロック信号の立ち上がり時間との差をΔtrとし、上記第1のしきい値をVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、
上記遅延量tdは、下記式(3)
【数4】
を満たすことを特徴とする請求項13に記載の光伝送システム。
【請求項15】
クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第2の遅延手段を備え、
第2の遅延手段によるクロック信号の遅延量は、光伝送モジュールの温度特性において、使用温度範囲における下限温度でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量と、常温でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量との差であることを特徴とする請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項16】
請求項1に記載の光伝送システムを備えた電子機器。
【請求項1】
データ信号を光信号として伝送する光伝送路を有し、光伝送路を伝送してきた光信号を電気信号に変換し、2値信号として出力する光伝送モジュールと、
クロック信号を2値信号として出力する電気伝送路と、
上記データ信号及び上記クロック信号それぞれについて、受信処理を行う受信処理手段とを備えた光伝送システムであって、
上記2値信号について、データ信号の立ち上がり開始時間に対し、クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第1の遅延手段を備え、該第1の遅延手段によるクロック信号の遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値以下の時間になっていることを特徴とする光伝送システム。
【請求項2】
上記データ信号の立ち上がり時間のゆらぎを確定的な成分のジッタ(Deterministic jitter)とランダム成分のジッタ(Random jitter)との和としたとき、
上記確定的な成分のジッタは、データ信号のビット連続数N毎に定められたδ関数のピークに応じて分布する離散的な関数であり、
上記遅延量は、ビット連続数2におけるδ関数のピーク時間と、ビット連続数N−1におけるδ関数のピーク時間との間に設定されることを特徴とする請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項3】
上記光伝送モジュールは、上記変換がなされた電気信号を増幅する増幅部と、
入力された信号のレベルと第1のしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、データ信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第1の2値信号生成部とを備え、
上記増幅部に入力される電気信号の電圧振幅の1/2をVinとし、上記第1のしきい値をVthとし、上記増幅部の利得の最大値をGmaxとし、増幅部における伝送周波数に対する利得の増加率をαとし、データ信号の基本周波数をfTとし、光伝送モジュールの伝送可能レートfminとし、データ信号の立ち上がり時間をtrとし、データ信号における連続ビット数の最大値をNとしたとき、
データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値DDJ(max)は、下記式(I)
【数1】
で表わされることを特徴とする請求項2に記載の光伝送システム。
【請求項4】
上記光伝送モジュールは、
データ信号を上記光信号に変換して送信する光送信部と、
光伝送路を伝送してきた光信号を受信し、電気信号に変換する光受信部とを有し、
上記第1の遅延手段は、電気伝送路であり、その配線長L2は、
光送信部及び光受信部のクロック信号に対する信号遅延時間をそれぞれ、t(ic1)及びt(ic2)とし、上記光伝送路の配線長をL1とし、光伝送路の配線長をL2とし、光伝送路の屈折率をnとし、光速をcとし、電気伝送路の比誘電率をεrとし、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値をDDJ(max)とし、上記遅延量をDDJ(max)/Aとしたとき、下記式(1)
【数2】
を満たすことを特徴とする請求項3に記載の光伝送システム。
【請求項5】
上記電気伝送路は、上記光伝送路の信号伝送方向と平行に配されており、かつ、
上記電気伝送路の配線長は、上記光伝送路よりも長くなっており、
上記電気伝送路を集積する集積基板を備え、該集積基板の信号伝送方向の長さが、上記光伝送路の配線長と等しくなっていることを特徴とする請求項4に記載の光伝送システム。
【請求項6】
上記電気伝送路は、集積基板の信号伝送方向の一端で、少なくとも1回往復するように配されていることを特徴とする請求項5に記載の光伝送システム。
【請求項7】
上記集積基板は、上記光伝送路よりも上記信号伝送方向に突出し、かつ、上記光伝送モジュールが搭載されている突出部を有し、
上記突出部は、電気配線がパターン形成された電気配線層を有し、該電気配線層の電気配線と上記電気伝送路とが接続していることを特徴とする請求項5に記載の光伝送システム。
【請求項8】
コネクタ端子を有するコネクタを備え、
上記集積基板には、同軸状に複数の電気伝送路が配され、各電気伝送路は、上記コネクタ端子と接続しており、
上記コネクタは、コネクタ端子間を短絡させるコネクタ短絡部を有し、該コネクタ短絡部は、電気伝送路における入力側と出力側とで、クロック信号が往復して伝送するように、配置されていることを特徴とする請求項5に記載の光伝送システム。
【請求項9】
上記遅延量は、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/4〜3/4になっていることを特徴とする請求項2に記載の光伝送システム。
【請求項10】
上記遅延量が、データ依存性ジッタ(DDJ)の最大値の1/2になっていることを特徴とする請求項9に記載の光伝送システム。
【請求項11】
上記第1の遅延手段は、入力された信号のレベルと第2のしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、クロック信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第2の2値信号生成部を備え、
上記第2の2値信号生成部では、クロック信号に対する第2のしきい値のレベルが、データ信号に対する第1のしきい値のレベルよりも高く設定されていることを特徴とする請求項3に記載の光伝送システム。
【請求項12】
データ信号の立ち上がり時間tr、及び振幅は、クロック信号の立ち上がり時間と等しくなっており、データ信号及びクロック信号の振幅の1/2をVodとし、上記第1のしきい値と上記第2のしきい値との差をΔVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、
上記遅延量tdは、下記式(2)
【数3】
を満たすことを特徴とする請求項11に記載の光伝送システム。
【請求項13】
上記第1の遅延手段は、入力された信号のレベルとしきい値のレベルとを比較し、比較結果に基づいて、クロック信号について、高レベルの信号と低レベルの信号とを有する2値信号を生成する第2の2値信号生成部を備え、上記第2の2値信号生成部に入力する信号に対し、クロック信号の立ち上がり時間をデータ信号の立ち上がり時間よりも長くする処理を行うことを特徴とする請求項3に記載の光伝送システム。
【請求項14】
データ信号及びクロック信号は、振幅が互いに等しくなっており、この振幅の1/2をVodとし、
データ信号の立ち上がり時間とクロック信号の立ち上がり時間との差をΔtrとし、上記第1のしきい値をVthとし、上記遅延量をtdとしたとき、
上記遅延量tdは、下記式(3)
【数4】
を満たすことを特徴とする請求項13に記載の光伝送システム。
【請求項15】
クロック信号の立ち上がり開始時間を遅延させる第2の遅延手段を備え、
第2の遅延手段によるクロック信号の遅延量は、光伝送モジュールの温度特性において、使用温度範囲における下限温度でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量と、常温でのクロック信号に対するデータ信号の遅延量との差であることを特徴とする請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項16】
請求項1に記載の光伝送システムを備えた電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−124437(P2010−124437A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298644(P2008−298644)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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