説明

光伝送装置、光伝送方法および光送受信器

【課題】波長分散値の設定時間を大幅に短縮できるとともに、通信障害を発生させることのない最適な波長分散値(すなわち、光信号の分散特性の中央に位置する値)を設定することを課題とする。
【解決手段】分散値の決定時よりも粗く設定された設定値ごとの符号誤り率(BER)をモニタリングし、モニタリングされた光信号の符号誤り率(BER)から、分散制御に用いられる分散値を決定するための比較閾値を予め決定する粗調整を実行する。粗調整後、粗調整により決定された比較閾値に基づき分散値を決定する微調整を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光伝送装置、光伝送方法および光送受信器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、増大する通信トラフィックに対応することを目的として、40Gbpsの通信速度を実現する光ネットワークシステムの導入が活発化している。そして、光ネットワークシステム内で光信号の送受信を行う光伝送装置では、通信速度の高速化に伴って光信号パルスに生じる波形の歪み(分散)を是正するために、VDC(Variable Dispersion Compensator:可変分散補償器)による分散補償が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1または特許文献2に開示の発明では、伝送される光信号の分散特性を示す放物線の中で、BER(Bit Error Rate:符号誤り率)の最低となる位置(例えば、図12、図13の(イ)参照)や、BER規定値以下である所定の位置(例えば、図12、図13の(ロ)参照)でVDCの波長分散値を固定する。
【0004】
さらに、特許文献1に開示の発明では、BERの最低点が判明しない場合に、伝送される光信号の分散特性を示す放物線と、予め設定されたBERの閾値とが交差する2点(例えば、図12、図13の(ハ)、(ニ)参照)におけるVDCの各波長分散値(Dispersion)の中央の位置(例えば、図12、図13の(ホ)参照)で、最適な波長分散値を設定する。
【0005】
そして、特許文献1に開示の発明では、外気温の変化などを原因とする光信号の分散特性の変化に応じて最適な波長分散値を再設定するために、再設定動作のトリガとなる再設定動作閾値を持たせるようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−208892号公報
【特許文献2】特開2003−224523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記した特許文献1または2に開示の技術では、通信障害を引き起こす恐れがある、波長分散値の設定に時間を要する、という問題点があった。
【0008】
すなわち、図14に示すように、伝送される光信号が底の広い分散特性を有する場合には、分散特性の特性を示す放物線の中央ではなく、かつBERが最低となる位置(例えば、図14の(イ)参照)でVDCの波長分散値が設定される場合がある。同様に、同図に示すように、分散特性の特性を示す放物線の中央ではなく、かつBER規定値を下回る所定の位置(例えば、図14の(ロ))でVDCの波長分散値が設定される場合がある。そして、例えば、図14の(イ)または(ロ)の位置で波長分散値を固定し、光信号のBERが再設定動作閾値を越えてから波長分散値を再設定するような制御を行う場合には、以下のような問題がある。すなわち、伝送される光信号の分散特性を示す放物線が、外気温の変化などにより図のAからBに急変することによって、突然の通信障害を引き起こす恐れがある。特に、40Gbpsの通信速度で光伝送を行う光ネットワークシステムでは、分散トレランスが狭い場合が多く、最適な位置に波長分散値を設定しなければ、通信障害を引き起こす可能性が高い。
【0009】
また、上述したように、BERの最低点が判明しない場合に、光信号の分散特性を示す放物線と、予め設定されたBERの閾値とが交差する2点におけるVDCの各波長分散値の中央で波長分散値として設定する場合には、以下のような問題がある。
【0010】
すなわち、図15に示すように、光信号の分散特性を示す放物線が比較的なだらかな場合には、光信号の分散特性を示す複数の放物線と、予め設定されたBERの閾値とが交差する2点(例えば、図の(ハ)、(ニ)参照)を特定できるように、BER閾値の設定に広範囲な調整を行う必要があり、最終的な波長分散値の設定に時間を要する。
【0011】
そこで、この発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、通信障害を発生させることのない最適な波長分散値を設定することが可能であるとともに、波長分散値の設定時間を短縮することが可能な光伝送装置、光伝送方法および光送受信器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、開示の装置は、分散補償器に設定される波長分散値の決定時よりも、分散補償制御範囲で粗く設定された分散補償器の各設定値ごとに光信号の符号誤り率をモニタする。そして、モニタされた符号誤り率に基づいて、分散補償器の波長分散値設定に用いる比較閾値を決定するための粗調整を実行する粗調整実行部を有する。さらに、前記粗調整実行部により取得された符号誤り率の最小値をスタート地点として、前記粗調整実行部の各設定値よりも細かく設定した分散補償器の各設定値ごとに符号誤り率をモニタする。次に、モニタされた符号誤り率と前記粗調整実行部により決定された比較閾値とを比較して、前記比較閾値を初めて超える2つの符号誤り率を取得する。そして、取得された2つの符号誤り率の中心に対応する波長分散値を前記分散補償器の波長分散値として決定するための微調整を実行する微調整実行部を有する。
【発明の効果】
【0013】
開示の装置によれば、通信障害を発生させることのない最適な波長分散値を設定することが可能であるとともに、波長分散値の設定時間を短縮することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、光伝送装置、光伝送方法および光送受信器の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1に係る光伝送装置は、光ネットワークシステム内で伝送される光信号を分散補償器により分散補償制御することを概要とする。そして、分散補償制御のために分散補償器に設定される分散値の決定時よりも粗い調整により、分散値の決定に用いられる比較閾値を決定し、決定された比較閾値に基づいて最適な波長分散値を決定する。
【0016】
このようなことから、波長分散値の設定時間を大幅に短縮できるとともに、通信障害を発生させることない最適な波長分散値(すなわち、光信号の分散特性の中央に位置する値)を設定できる。
【0017】
[光伝送装置の構成(実施例1)]
図1は、実施例1に係る光伝送装置の全体構成を示す図である。同図に示すように、実施例1に係る光伝送装置100は、光送受信器200と、光スイッチ300と、光減衰器400と、光受信器500と、光合波器600と、光増幅器700と、光分波器800とを有する。そして、光伝送装置100は、通信回線で接続された同一の構成(光送受信器200’〜光分波器800’)を有する光伝送装置100’とともに、光ネットワークシステムを構成する。
【0018】
光送受信器200は、電気信号を光信号に変換して発光し、光信号を電気信号に変換する。光スイッチ300は、光送受信器200から入力する信号の光路を切り替えて光減衰器400に出力し、光分波器800から入力する信号の光路を切り替えて光送受信器200に出力する。光減衰器400は、光スイッチ300から入力する光の光レベルを減衰させる。光受信器500は、光減衰器400から受光面に入射された光を検出し、検出した光の光量に比例した電圧を光合波器600に出力する。光合波器600は、光受信器500から入力する波長の異なる複数の光を多重化して光増幅器700に出力する。
【0019】
光増幅器700は、光信号と電気信号との相互変換を実行することなく、光合波器600から入力する多重信号を増幅して他の光伝送装置(例えば、光伝送装置100’)に送出する。光分波器800は、他の光伝送装置(例えば、光伝送装置100’)から受け付けた多重信号を波長ごとの複数の信号に分離して光スイッチ700に出力する。なお、光受信器500と光分波器800との間では、OSC(Optical Supervisory Channel:光監視信号)がやり取りされる。
【0020】
特に、光送受信器200は、図2に示すように、光断検出部210、可変分散補償器211、光受信器212、BER検出部213、制御部214、BERモニタ部215と、BER情報メモリ部216および比較BER閾値決定部217を有する。さらに、BER閾値比較部218、比較閾値メモリ部219、分散最適点算出部220および最適点メモリ部221を有する。なお、図2は、実施例1に係る光送受信器の構成を示す図である。
【0021】
光断検出部210は、光信号断を検出する。可変分散補償器211は、後述する制御部214の制御下で、入力光の分散補償を可変にて実行する。光受信器212は、可変分散補償器211から入力する光を電気信号に変換する。BER検出部213は、光受信器212から入力する電気信号を解析して、光送受信器200に入力された光信号のBER(Bit Error Rate:符号誤り率)を検出する。
【0022】
そして、以下に説明するように、制御部214から最適点メモリ部221により、波長分散値の決定に用いる比較閾値を粗調整により決定し、決定された比較閾値を用いた微調整により波長分散値を決定する。そして、決定された波長分散値を可変分散補償器211に設定することで、可変分散補償器211における分散補償を制御する。
【0023】
[粗調整動作]
まず、光送受信器200における粗調整による比較閾値決定までの動作を説明する。制御部214は、光伝送装置100に電源が投入されると、可変分散補償器211に対する設定値を、分散補償制御の許容設定範囲内で任意の設定始点(例えば、原点など)から一定方向に荒く変化させる。例えば、±1000ps/nmの設定範囲内で50ps/nmずつ変化させる。
【0024】
BERモニタ部215は、可変分散補償器211に対する各設定値ごとに、BER検出部213で検出されるBER(例えば、図3の(A)、(B)、(C))をモニタして、モニタした各BERに関するBER情報をBER情報メモリ部216にそれぞれ格納する。なお、図3は、実施例1に係る光伝送装置の粗調整を説明するための図である。
【0025】
比較BER閾値決定部217は、可変分散補償器211に対する各設定値ごとのBER情報をBER情報メモリ部216から読込んで、符号誤り率が最小である最も良い値(例えば、図3の(B))を取得する。
【0026】
そして、比較BER閾値決定部217は、符号誤り率が最小である最も良い値が、予め設定しておいた比較閾値(例えば、図3のBER閾値1〜4)の中で、どの閾値の下側にあるかを判断する。例えば、図3に示す場合では、符号誤り率が最小である最も良い値(B)は、BER閾値2の下側にあると判断できるので、BER閾値2を比較閾値として決定して比較閾値メモリ部219に格納する。
【0027】
上記では、符号誤り率が最小である最も良い値と比較するために、複数の比較閾値(例えば、図3のBER閾値1〜4)を予め設定しておいて、波長分散値の決定に用いる比較閾値を決定する場合を説明した。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、BER情報メモリ部216から読込んだBER情報の中で、符号誤り率が最小である最も良い値を整数倍(例えば、10倍)した値を比較閾値として決定してもよい。
【0028】
また、可変分散補償器211に対する各設定値は、光受信器212の分散トレランスよりも狭く設定する。
【0029】
また、可変分散補償器211に対する各設定値の設定方法としては、−側の設定値から+側の設定値へ、あるいは+側の設定値から−側の設定値へ変化させたり、原点から左右のどちらか一方に変化させた後、残りの一方へ変化させたりする方法が考えられる。
【0030】
また、可変分散補償器211に対する各設定値を一通り変化させた後、比較閾値を決定する上での有効点(例えば、図3の(B))が見つからない場合には、分散補償制御の許容設定範囲内で設定始点を変えて、可変分散補償器211に対する各設定値を再度変化させる。例えば、最初の設定で−1000、−950、−900、…ps/nmと設定値を変化させていた場合には、次の設定で、−975、−925、−875、…ps/nmと変化させるようにして、最初の設定値と同じにならないようにする。
【0031】
[微調整動作]
次に、光送受信器200における微調整による波長分散値を決定するまでの動作を説明する。制御部214は、BER情報メモリ部216に格納されている符号誤り率が最小である最も良い値をスタート地点として、可変分散補償器211に対する設定値を、上述した比較閾値の決定時よりも細かく変化させる。例えば、符号誤り率が最小である最も良い値(例えば、図3の(B))をスタート地点として、5ps/nmずつ変化させる。
【0032】
BERモニタ部215は、可変分散補償器211に対する各設定値ごとに、BER検出部213で検出されるBER(例えば、図4参照)をモニタして、モニタした各BERに関するBER情報をBER情報メモリ部216にそれぞれ格納する。
【0033】
BER閾値比較部218は、比較閾値メモリ部219から比較閾値を読込むとともに、符号誤り率が最小である最も良い値をスタート地点とした各BER情報をBER情報メモリ部216から読込んで、各BER情報と比較閾値との比較を行う。
【0034】
そして、BER閾値比較部218は、可変分散補償器211に対する各設定値の中から、比較閾値を超える各BER情報のそれぞれ対応した2箇所の設定値(分散特性を示す放物線が比較閾値を跨いで、再び比較閾値と交差する位置に対応した設定値)を取得する。例えば、図5に示す場合では、可変分散補償器211に対する各設定値の中から、比較閾値(BER閾値2)を超える各BER情報のそれぞれ対応した各設定値として、点(D)および点(E)に対応する設定値を取得する。
【0035】
分散最適点算出部220は、BER閾値比較部218により取得された各設定値の中心に位置する値を算出して、算出された値を最適な波長分散値として決定し、最適点メモリ部221に格納する。制御部214は、最適点メモリ部221から最適な波長分散値を読込んで、可変分散補償器211に設定する。
【0036】
なお、上述してきた微調整の実行中に、光信号の分散特性が変化した場合には、以下のようにして対応できる。例えば、比較閾値を超える各BER情報のそれぞれ対応した各設定値(分散特性を示す放物線が比較閾値を跨いで、再び比較閾値と交差する位置)を複数回取得して決定する。このとき、比較閾値を跨ぐ前後の値のみに着目することにより効率的に処理が可能である。
【0037】
例えば、BERモニタ部215により1度目にモニタされたBER情報(図6の(G)、(H))と、2度目にモニタされたBER情報(図6の(I)、(J)あるいは(K))とが異なっている場合には微調整をやり直す。また、左側および右側の双方の分散特性が異なっている場合には微調整をやり直し、左側または右側のどちらかの分散特性が異なっている場合には、異なっている側の微調整のみをやり直す。なお、図4〜図6は、実施例1に係る光伝送装置の微調整を説明するための図である。
【0038】
[再調整動作]
光伝送装置100の運用開始後の波長分散値の定期的な再調整動作について説明する。例えば、図7に示すように、予め設定された複数のBER閾値の中から、最大のBER閾値(BER閾値4)と、次の大きさのBER閾値(BER閾値3)との間に、波長分散値の再調整動作を開始するための再調整閾値を設定する。
【0039】
そして、比較BER閾値決定部217は、BER情報メモリ部216に格納されるBER情報に基づいて、運用中の光信号の分散特性を取得し、取得された分散特性の底が再調整閾値を下回っているか否かを判断する。
【0040】
判断の結果、分散特性の底が再調整閾値を下回っている場合には、比較BER閾値決定部217は、さらに、再調整閾値の次の大きさのBER閾値(図7のBER閾値3)を下回っているか否かを判断する。
【0041】
判断の結果、比較BER閾値決定部217により、分散特性の底が再調整閾値の次の大きさのBER閾値(図7のBER閾値3)を下回っていると判断された場合(例えば、図7の(E))には、光伝送装置100は、上述した微調整と同様な方法で、波長分散値の再調整を実行する。
【0042】
一方、判断の結果、比較BER閾値決定部217により、分散特性の底が再調整閾値の次の大きさのBER閾値(図7のBER閾値3)を上回っていると判断された場合(例えば、図7の(F))には、光伝送装置100は、再調整閾値を比較閾値として、上述した微調整と同様な方法で、波長分散値の再調整を実行する。図7は、実施例1に係る光伝送装置の再調整を説明するための図である。
【0043】
なお、比較BER閾値決定部217により、運用中である光信号の分散特性の底が再調整閾値を下回っていないと判断された場合には、光伝送装置100は再調整を行わない。同様に、運用中である光信号の分散特性の底が、既に再調整閾値を上回っている場合には、光伝送装置100は再調整を行わない。
【0044】
[通信障害発生時の動作]
通信障害発生時の光伝送装置100による動作を説明する。光断検出部210は、光断が検出されると、光の検出を待機する。光断検出部210により光が検出されると、光伝送装置100は、最適点メモリ部221に格納されている波長分散値を最初の設定値として、比較閾値メモリ部219に格納されている比較閾値を用いて、波長分散値の再調整を実行する。そして、光伝送装置100は、再調整された波長分散値を可変分散補償器211に設定した後、通信障害が復旧したか否かを確認する。通信障害の復旧が確認されると、光伝送装置100は、上述した微調整を再度実行して処理を終了する。
【0045】
一方、通信障害の復旧が確認されなかった場合には、光伝送装置100は、上述した粗調整を実行するとともに、上述した微調整を実行する。そして、光伝送装置100は、微調整により得られる波長分散値を可変分散補償器211に設定した後、通信障害が復旧したか否かを確認する。通信障害の復旧が確認された場合には、光伝送装置100は、処理を終了する。
【0046】
[光伝送装置による処理(実施例1)]
図8は、実施例1に係る光伝送装置による粗調整処理の流れを示す図である。同図に示すように、制御部214は、光伝送装置100に電源が投入されると(ステップS1肯定)、可変分散補償器211に対する設定値を、分散補償制御の許容設定範囲内で任意の設定始点(例えば、原点など)から一定方向に荒く変化させる。
【0047】
BERモニタ部215は、可変分散補償器211に対する各設定値ごとに、BER検出部213で検出されるBER(例えば、図3の(A)、(B)、(C))をモニタして、モニタした各BERに関するBER情報をBER情報メモリ部216にそれぞれ格納する(ステップS2)。
【0048】
比較BER閾値決定部217は、BER情報メモリ部216から、可変分散補償器211に対する各設定値ごとのBER情報を読込んで、符号誤り率が最小である最も良い値(BER)を取得し、取得した最も良い値(BER)が、予め設定しておいた比較閾値(例えば、図3のBER閾値1〜4)の中で、どの閾値の下側にあるかを特定する(ステップS3)。そして、比較BER閾値決定部217は、特定されたBER閾値(例えば、図3のBER閾値2)を比較閾値として決定し(ステップS4)、比較閾値メモリ部219に格納して処理を終了する。
【0049】
図9は、実施例1に係る光伝送装置による微調整処理の流れを示す図である。同図に示すように、制御部214は、BER情報メモリ部216に格納されている符号誤り率の中から、符号誤り率が最小である最も良い値(BER)を取得する(ステップS1)。
【0050】
そして、制御部214は、取得した符号誤り率が最小である最も良い値(BER)をスタート地点として、可変分散補償器211に対する設定値を、上述した比較閾値の決定時よりも細かく変化させる。BERモニタ部215は、可変分散補償器211に対する各設定値ごとに、BER検出部213で検出されるBER(例えば、図6参照)をモニタして(ステップS2)、モニタした各BERに関するBER情報をBER情報メモリ部216にそれぞれ格納する(ステップS3)。
【0051】
BER閾値比較部218は、比較閾値メモリ部219から比較閾値(例えば、図3のBER閾値2)を読込むとともに、符号誤り率が最小である最も良い値をスタート地点とした各BER情報をBER情報メモリ部216から読込んで、各BER情報と比較閾値との比較を行う(ステップS4)。
【0052】
そして、BER閾値比較部218は、可変分散補償器211に対する各設定値の中から、比較閾値を超える各BER情報のそれぞれ対応した2箇所の設定値(分散特性を示す放物線が比較閾値を跨いで、再び比較閾値と交差する位置に対応した設定値)を取得する(ステップS5)。例えば、図5に示す場合では、可変分散補償器211に対する各設定値の中から、比較閾値(BER閾値2)を超える各BER情報のそれぞれ対応した各設定値として、点(D)および点(E)に対応する設定値を取得する。
【0053】
分散最適点算出部220は、BER閾値比較部218により取得された各設定値の中心に位置する値を算出して、算出された値を最適な波長分散値として決定し(ステップS6)、最適点メモリ部221に格納する(ステップS7)。制御部214は、最適点メモリ部221から最適な波長分散値を読込んで、可変分散補償器211に設定して(ステップS8)、処理を終了する。
【0054】
図10は、実施例1に係る光伝送装置による再調整処理の流れを示す図である。同図に示すように、比較BER閾値決定部217は、BER情報メモリ部216に格納されるBER情報に基づいて、運用中の光信号の分散特性を取得し、取得された分散特性の底が再調整閾値を下回っているか否かを判断する(ステップS1)。判断の結果、分散特性の底が再調整閾値を下回っている場合には(ステップS1肯定)、比較BER閾値決定部217は、さらに、再調整閾値の次の大きさのBER閾値(図7のBER閾値3)を下回っているか否かを判断する(ステップS2)。
【0055】
判断の結果、比較BER閾値決定部217により、分散特性の底が再調整閾値の次の大きさのBER閾値(図7のBER閾値3)を下回っていると判断された場合(例えば、図7の(E))には(ステップS2肯定)、光伝送装置100は、上述した微調整と同様な方法(図9参照)で、波長分散値の再調整を実行して(ステップS3)、処理を終了する。
【0056】
一方、判断の結果、比較BER閾値決定部217により、分散特性の底が再調整閾値の次の大きさのBER閾値(図7のBER閾値3)を下回っていない(上回っている)と判断された場合(例えば、図7の(F))には(ステップS2否定)、光伝送装置100は、再調整閾値を比較閾値として、上述した微調整と同様な方法(図9参照)で、波長分散値の再調整を実行して(ステップS4)、処理を終了する。
【0057】
なお、比較BER閾値決定部217により、分散特性の底が再調整閾値を下回っていないと判断された場合には(ステップS1否定)、再調整処理を行わずにそのまま処理を終了する。
【0058】
図11は、実施例1に係る光伝送装置による通信障害発生時の処理の流れを示す図である。同図に示すように、光断検出部210は、光信号断が検出されると(ステップS1肯定)、光の検出を待機する(ステップS2)。光断検出部210により光が検出されると(ステップS2肯定)、光伝送装置100は、最適点メモリ部221に格納されている波長分散値を最初の設定値として、比較閾値メモリ部219に格納されている比較閾値を用いて、波長分散値の再調整を実行する(ステップS3)。
【0059】
そして、光伝送装置100は、再調整された波長分散値を可変分散補償器211に設定した後、通信障害が復旧したか否かを確認する(ステップS4)。通信障害の復旧が確認されると(ステップS4肯定)、光伝送装置100は、上述した再微調整(図9参照)を実行して(ステップS5)、処理を終了する。
【0060】
一方、通信障害の復旧が確認されなかった場合には(ステップS4否定)、光伝送装置100は、上述した粗調整(図8参照)を実行するとともに(ステップS6)、上述した再微調整(図9参照)を実行する(ステップS7)。そして、光伝送装置100は、微調整により得られる波長分散値を可変分散補償器211に設定した後、通信障害が復旧したか否かを確認する(ステップS8)。通信障害の復旧が確認された場合には(ステップS8肯定)、光伝送装置100は処理を終了する。一方、通信障害の復旧が確認されなかった場合には(ステップS8否定)、光伝送装置100は、通信障害の復旧が確認されるまで、上述したステップS6およびステップS7の処理を繰り返し実行する。
【0061】
[実施例1による効果]
上述してきたように、実施例1によれば、分散値の決定時よりも粗く設定された設定値ごとの符号誤り率(BER)をモニタリングし、モニタリングされた光信号の符号誤り率(BER)から、分散制御に用いられる分散値を決定するための比較閾値を予め決定する粗調整を実行する。粗調整後、粗調整により決定された比較閾値に基づき分散値を決定する微調整を実行するので、波長分散値の設定時間を大幅に短縮できるとともに、通信障害を発生させることのない最適な波長分散値(すなわち、光信号の分散特性の中央に位置する値)を設定できる。
【0062】
また、実施例1によれば、波長分散値の設定時間を大幅に短縮するので、光伝送装置100全体としての起動時間を早くすることができる。
【0063】
また、実施例1によれば、波長分散値の設定時間を大幅に短縮するので、可変分散補償器211の寿命を延ばすことができる。
【実施例2】
【0064】
光伝送装置100の他の実施形態について説明する。
【0065】
(1)装置構成等
図2に示した光伝送装置100内の光送受信器200の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、光送受信器200の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、例えば、BER閾値比較部218と、分散最適点算出部220とを統合するようにしてもよい。このように、光送受信器200の全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、光送受信器200にて行なわれる各処理機能(例えば、図8〜図11参照)は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0066】
(2)光伝送方法
上記の実施例1で説明した光伝送装置100の光送受信器200により、以下のような光伝送方法が実現される。
【0067】
すなわち、可変分散補償器211に設定される波長分散値の決定時よりも、分散補償制御範囲で粗く設定された分散補償器の各設定値ごとに光信号の符号誤り率をモニタする。そして、モニタされた符号誤り率に基づいて比較閾値を決定するための粗調整を実行する粗調整実行ステップを(図8参照)含む。さらに、粗調整実行ステップにより取得された符号誤り率の最小値をスタート地点として、粗調整実行ステップの各設定値よりも細かく設定した可変分散補償器211の各設定値ごとに符号誤り率をモニタする。モニタされた符号誤り率と粗調整実行ステップにより決定された比較閾値とを比較して、比較閾値を初めて超える2つの符号誤り率を取得する。取得された2つの符号誤り率の中心に対応する波長分散値を可変分散補償器211の波長分散値として決定するための微調整を実行する微調整実行ステップ(図9参照)を含んだ光伝送方法が実現される。
【0068】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0069】
(付記1)分散補償器に設定される波長分散値の決定時よりも、分散補償制御範囲で粗く設定された分散補償器の各設定値ごとに光信号の符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率に基づいて、分散補償器の波長分散値設定に用いる比較閾値を決定するための粗調整を実行する粗調整実行部と、
前記粗調整実行部により取得された符号誤り率の最小値をスタート地点として、前記粗調整実行部の各設定値よりも細かく設定した分散補償器の各設定値ごとに符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率と前記粗調整実行部により決定された比較閾値とを比較して、前記比較閾値を初めて超える2つの符号誤り率を取得し、取得された2つの符号誤り率の中心に対応する波長分散値を前記分散補償器の波長分散値として決定するための微調整を実行する微調整実行部と、
を有する光伝送装置。
【0070】
(付記2)前記粗調整実行部は、予め設定された複数の候補閾値の中で、前記各設定値ごとにモニタされた符号誤り率の最小値よりも大きな値に設定された直近の候補閾値を比較閾値として決定することを特徴とする付記1に記載の光伝送装置。
【0071】
(付記3)前記粗調整実行部は、前記各設定値ごとにモニタされた符号誤り率の最小値を所定の整数倍した値を比較閾値として決定することを特徴とする付記1に記載の光伝送装置。
【0072】
(付記4)運用中の光信号の符号誤り率の最小値が、複数の符号誤り率閾値間に設定された再調整閾値を下回っている場合に、当該再調整閾値よりも低い値に設定された直近の符号誤り率閾値を下回っているか否かを判定する閾値判定部をさらに有し、
前記運用中の光信号の符号誤り率の最小値が、前記再調整閾値よりも低い値に設定された直近の符号誤り率閾値を下回っていると前記閾値判定部により判定された場合には、前記微調整実行部は前記微調整による再調整を実行し、
前記運用中の光信号の符号誤り率の最小値が、前記再調整閾値よりも低い値に設定された直近の符号誤り率閾値を上回っていると前記閾値判定部により判定された場合には、前記微調整実行部は、前記再調整閾値を前記比較閾値として、前記微調整による再調整を実行することを特徴とする付記1〜3のいずれか一つに記載の光伝送装置。
【0073】
(付記5)運用中の光信号の信号断を検出する信号断検出部と、
前記信号断検出部により前記信号断が検出された後に、前記光信号を再検出する光検出部と、
前記光検出部により前記光信号が検出された場合には、前記信号断検出部により前記信号断が検出される前に、前記光伝送装置内にて用いられていた前記比較閾値および前記波長分散値により前記光信号の送受信の復旧処理を実行する送受信復旧処理部と、
をさらに有し、
前記送受信復旧処理部により前記光信号の送受信が復旧した場合には、前記微調整実行部は前記微調整を改めて実行し、
前記送受信復旧処理部により前記光信号の送受信が復旧しなかった場合には、前記粗調整実行部は前記粗調整を実行して前記比較閾値を改めて決定し、前記微調整実行部は、前記粗調整実行部により改めて決定された前記比較閾値を用いて、前記微調整を改めて実行して前記波長分散値を決定することを特徴とする付記1〜4のいずれか一つに記載の光伝送装置。
【0074】
(付記6)分散補償器に設定される波長分散値の決定時よりも、分散補償制御範囲で粗く設定された分散補償器の各設定値ごとに光信号の符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率に基づいて比較閾値を決定するための粗調整を実行する粗調整実行ステップと、
前記粗調整実行ステップにより取得された符号誤り率の最小値をスタート地点として、前記粗調整実行ステップの各設定値よりも細かく設定した分散補償器の各設定値ごとに符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率と前記粗調整実行ステップにより決定された比較閾値とを比較して、前記比較閾値を初めて超える2つの符号誤り率を取得し、取得された2つの符号誤り率の中心に対応する波長分散値を前記分散補償器の波長分散値として決定するための微調整を実行する微調整実行ステップと、
を含む光伝送方法。
【0075】
(付記7)分散補償器に設定される波長分散値の決定時よりも、分散補償制御範囲で粗く設定された分散補償器の各設定値ごとに光信号の符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率に基づいて比較閾値を決定するための粗調整を実行する粗調整実行部と、
前記粗調整実行部により取得された符号誤り率の最小値をスタート地点として、前記粗調整実行部の各設定値よりも細かく設定した分散補償器の各設定値ごとに符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率と前記粗調整実行部により決定された比較閾値とを比較して、前記比較閾値を初めて超える2つの符号誤り率を取得し、取得された2つの符号誤り率の中心に対応する波長分散値を前記分散補償器の波長分散値として決定するための微調整を実行する微調整実行部と、
を有する光送受信器。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1に係る光伝送装置の全体構成を示す図である。
【図2】実施例1に係る光送受信器の構成を示す図である。
【図3】実施例1に係る光伝送装置の粗調整を説明するための図である。
【図4】実施例1に係る光伝送装置の微調整を説明するための図である。
【図5】実施例1に係る光伝送装置の微調整を説明するための図である。
【図6】実施例1に係る光伝送装置の微調整を説明するための図である。
【図7】実施例1に係る光伝送装置の再調整を説明するための図である。
【図8】実施例1に係る光伝送装置による粗調整処理の流れを示す図である。
【図9】実施例1に係る光伝送装置による微調整処理の流れを示す図である。
【図10】実施例1に係る光伝送装置による再調整処理の流れを示す図である。
【図11】実施例1に係る光伝送装置による通信障害発生時の処理の流れを示す図である。
【図12】従来技術を説明するための図である。
【図13】従来技術を説明するための図である。
【図14】従来技術の問題点を説明するための図である。
【図15】従来技術の問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0077】
100、100’ 光伝送装置
200、200’ 光送受信器
210 光断検出部
211 可変分散補償器
212 光受信器
213 BER検出部
214 制御部
215 BERモニタ部
216 BER情報メモリ部
217 比較BER閾値決定部
218 BER閾値比較部
219 比較閾値メモリ部
220 分散最適点算出部
221 最適点メモリ部
300、300’ 光スイッチ
400、400’ 光減衰器
500、500’ 光受信器
600、600’ 光合波器
700、700’ 光増幅器
800、800’ 光分波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散補償器に設定される波長分散値の決定時よりも、分散補償制御範囲で粗く設定された分散補償器の各設定値ごとに光信号の符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率に基づいて比較閾値を決定するための粗調整を実行する粗調整実行部と、
前記粗調整実行部により取得された符号誤り率の最小値をスタート地点として、前記粗調整実行部の各設定値よりも細かく設定した分散補償器の各設定値ごとに符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率と前記粗調整実行部により決定された比較閾値とを比較して、前記比較閾値を初めて超える2つの符号誤り率を取得し、取得された2つの符号誤り率の中心に対応する波長分散値を前記分散補償器の波長分散値として決定するための微調整を実行する微調整実行部と、
を有する光伝送装置。
【請求項2】
前記粗調整実行部は、予め設定された複数の候補閾値の中で、前記各設定値ごとにモニタされた符号誤り率の最小値よりも大きな値に設定された直近の候補閾値を比較閾値として決定することを特徴とする請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項3】
前記粗調整実行部は、前記各設定値ごとにモニタされた符号誤り率の最小値を所定の整数倍した値を比較閾値として決定することを特徴とする請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項4】
分散補償器に設定される波長分散値の決定時よりも、分散補償制御範囲で粗く設定された分散補償器の各設定値ごとに光信号の符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率に基づいて比較閾値を決定するための粗調整を実行する粗調整実行ステップと、
前記粗調整実行ステップにより取得された符号誤り率の最小値をスタート地点として、前記粗調整実行ステップの各設定値よりも細かく設定した分散補償器の各設定値ごとに符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率と前記粗調整実行ステップにより決定された比較閾値とを比較して、前記比較閾値を初めて超える2つの符号誤り率を取得し、取得された2つの符号誤り率の中心に対応する波長分散値を前記分散補償器の波長分散値として決定するための微調整を実行する微調整実行ステップと、
を含む光伝送方法。
【請求項5】
分散補償器に設定される波長分散値の決定時よりも、分散補償制御範囲で粗く設定された分散補償器の各設定値ごとに光信号の符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率に基づいて比較閾値を決定するための粗調整を実行する粗調整実行部と、
前記粗調整実行部により取得された符号誤り率の最小値をスタート地点として、前記粗調整実行部の各設定値よりも細かく設定した分散補償器の各設定値ごとに符号誤り率をモニタし、モニタされた符号誤り率と前記粗調整実行部により決定された比較閾値とを比較して、前記比較閾値を初めて超える2つの符号誤り率を取得し、取得された2つの符号誤り率の中心に対応する波長分散値を前記分散補償器の波長分散値として決定するための微調整を実行する微調整実行部と、
を有する光送受信器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−74521(P2010−74521A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239495(P2008−239495)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】