光伝送装置
【課題】波長分離多重手段を有する光伝送装置において、波長多重された信号光に対するクロストークを抑制する。
【解決手段】第1の入力ポートから入力される信号光から特定の波長の信号光を抽出する信号抽出手段と、第2の入力ポートから入力される信号光から前記特定の波長の信号光をブロックした信号光を抽出する信号ブロック手段と、前記信号抽出手段により抽出された信号光と、前記信号ブロック手段により抽出された信号光とを波長多重して出力ポートから出力する手段とを有する波長分離多重手段を備える光伝送装置において、消光比(εtotal)が、所望のOSNRペナルティpから算出される所定の値より小さくなるように、前記信号抽出手段及び前記信号ブロック手段における透過率を設定する。
【解決手段】第1の入力ポートから入力される信号光から特定の波長の信号光を抽出する信号抽出手段と、第2の入力ポートから入力される信号光から前記特定の波長の信号光をブロックした信号光を抽出する信号ブロック手段と、前記信号抽出手段により抽出された信号光と、前記信号ブロック手段により抽出された信号光とを波長多重して出力ポートから出力する手段とを有する波長分離多重手段を備える光伝送装置において、消光比(εtotal)が、所望のOSNRペナルティpから算出される所定の値より小さくなるように、前記信号抽出手段及び前記信号ブロック手段における透過率を設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送ネットワークにおいて信号光を波長分離、及び波長多重することにより発生する残留サイドバンドクロストークを削減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
データ通信需要の増大に伴い、大容量のトラフィックを伝送できる波長分割多重技術を用いた光伝送ネットワークが普及しつつある。そのような光伝送ネットワークでは、光伝送装置として、パス(特定の波長の信号光)の方路を切り替える光クロスコネクト装置(OXC : Optical cross Connect )や、リングネットワークからパスを分岐したり、パスを挿入したりする光信号挿入分岐装置(OADM : Optical Add Drop Multiplexer)等が用いられる。
【0003】
図1に光信号挿入分岐装置の構成の一例(ROADM : Reconfigurable Optical Add Drop Multiplexer)を示す。図1に示すように、この光信号挿入分岐装置は、光カプラー1、波長選択スイッチ(WSS: Wavelength Selectable Switch)2、及び波長選択スイッチ3を備えている。波長選択スイッチ2は、入力ポートから波長多重信号光を入力し、複数の出力ポートのうちの任意の出力ポートに任意の波長の信号光を出力する機能を備え、波長選択スイッチ3は、複数の入力ポートから入力されたそれぞれの信号光から任意の波長を選択し、波長多重して出力する機能を備えている。なお、「任意の」とは、遠隔操作等で適宜設定できるという意味である。
【0004】
図1に示す例では、λ1、λ2、λ3の信号光が多重された波長多重信号光が光カプラー1で分岐され、一方は波長選択スイッチ2に入力され、波長選択スイッチ2においてλ2の信号光が分岐される。光カプラー1で分岐された他方の信号光は波長選択スイッチ3に入力される。波長選択スイッチ3において、入力信号光におけるλ2の信号光がブロックされるとともに、λ2の別の信号光が挿入され、これらが多重されたλ1、λ2、λ3を有する信号光が出力される。
【0005】
図2に、分岐側に備えられた波長選択スイッチ2の基本的な構成を示す。図2に示すように、波長選択スイッチ2は、波長分離部21、波長選択部22、及び波長合成部23を有する。この波長選択スイッチ2において、波長分離部21が、波長多重信号光を各波長の信号光に分離し、波長選択部22が分離された信号光における所望の信号光を選択し、その信号光を所望のポートに向けて出力し、あるポートに向けられた信号光は波長合成部23において多重されて当該ポートから出力される。
【0006】
図3に、挿入側に備えられた波長選択スイッチ3の基本的な構成を示す。この構成は、波長選択スイッチ2の入力と出力を逆にしたものに相当し、波長分離部31は複数の入力ポートを備え、各ポートから入力された信号光をそれぞれ波長分離し、波長選択部32が、所望の入力ポートの所望の波長の信号光を選択して出力ポートに向けて出力し、波長合成部33が波長多重を行って信号光を出力する。
なお、波長選択スイッチは空間光学系を用いて実現されており、例えば、波長分離部21、31、及び波長合成部23、33は、AWG、回折格子等を用いて実現でき、波長選択部22、32は、例えば、MEMSミラー、液晶等を用いて実現できる。また、波長分離部と波長選択部とをあわせて波長分離選択部と呼ぶこともできる。また、波長選択スイッチは、波長分離、波長多重を行う波長分離多重手段の1つである。
【特許文献1】特開2008−109248号公報
【非特許文献1】E. L. Goldstein, et.al., "Performance Implications of Component Crosstalk in Transparent Lightwave Networks", IEEE Photonics Technology Letters, Vol.6, No.5, May 1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、光伝送ネットワークにおいて伝送される波長多重信号光は、各キャリア周波数に対応する信号光が多重されたものであり、各信号光は、単一波長の搬送波にディジタル信号で変調をかけたものである。この変調によりスペクトルが広がり、サイドバンドが生じる。このことにより生じる問題を以下に説明する。なお、本明細書、図面において、信号光に対応する"波長"(λ1、λ2、・・・等)を"チャネル"と同義で使用する場合がある。
【0008】
図4は、図1の構成に、信号光のスペクトルイメージ(周波数に対する強度)を重ねた図である。図4に示すように、各信号光は、ある帯域幅を持った信号光になっている。
【0009】
ある波長の信号光を抽出し、他の波長をブロックする波長選択スイッチをフィルタとして見た場合、一般に使用されている波長選択スイッチにおけるフィルタの透過特性は図5に示すようなものであり、隣接チャネルのサイドバンド成分を多く取り込む特性になっている。従って、図4に示したように、波長選択スイッチ3において選択されたλ1の信号光とλ3の信号光には、隣接チャネルであるλ2のサイドバンド成分が残留している。
【0010】
このことにより、波長合成部33において、λ1とλ3の信号光、及び挿入されたλ2の信号光が合成された場合、波長選択スイッチ3内でブロックされたλ2の信号光の残留サイドバンドが、挿入されたλ2の信号光に重畳されてしまい、それがλ2の信号光にとってのクロストークとなり、信号品質劣化の要因となる。
【0011】
また、光伝送ネットワークで使用される光伝送装置において、インタリーバを用いる場合がある(例えば特許文献1)。インタリーバを用いる場合にも上記と同様の問題が生じる。
【0012】
インタリーバの基本的な構成は図2、図3に示したものと同様である。ただし、インタリーバにおいては、波長選択部22、32において、どの入力ポートのどの波長をどの出力ポートに送信するかが固定されている。つまり、図2に示す例をインタリーバとして見た場合、当該インタリーバは1つの入力ポートと2つの出力ポートを有し、入力ポートから入力された波長多重信号光は分離され、波長選択部22により奇数番号チャネルの信号光は一方の出力ポートに出力され、偶数番号チャネルの信号光は他方の出力ポートに出力される。また、合波側のインタリーバ(図3の構成)は、2つの入力ポートと1つの出力ポートを有し、2つの入力ポートから奇数番号チャネルの信号光と、偶数番号チャネルの信号光を入力し、これらを合波して出力する。なお、インタリーバも波長分離多重手段の1つである。
【0013】
図6は、分波側のインタリーバ5と、合波側のインタリーバ6を含む構成を示す図である。図6に示すように、インタリーバ5のフィルタ特性により、前段のインタリーバから出力される信号光において、奇数系のλ1、λ3の信号光のそれぞれには偶数系のλ2の信号光のサイドバンド成分が残留する。また、後段のインタリーバ6で合波が行われる際には、やはりそのフィルタ特性により上記の残留サイドバンド成分が除去されることなく、λ2の信号光にクロストークが残る。図7は、λ2の信号光の信号スペクトルと、図6に示すインタリーバ6において、その内部で、λ1、λ3を分離する際のフィルタとしての透過率を示したグラフである。このグラフに示すように、当該フィルタにおいて、λ2のサイドバンド成分が十分に抑圧されていない。この抑圧されていない部分が、インタリーバ6における合波後にλ2の信号光にクロストークをもたらす。なお、本明細書及び特許請求の範囲においては、クロストークをもたらすとは、単に残留サイドバンドが混入するこことではなく、信号品質を実質的に劣化させる程度の残留サイドバンドが混入することをいうものとする。
【0014】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、波長多重信号光を複数の波長の信号光に分離した後に、これらの信号光を波長多重する手段を有する光伝送装置において、波長多重された信号光に対するクロストークを抑制するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1の入力ポートから入力される信号光から特定の波長の信号光を抽出する信号抽出手段と、第2の入力ポートから入力される信号光から前記特定の波長の信号光をブロックした信号光を抽出する信号ブロック手段と、前記信号抽出手段により抽出された信号光と、前記信号ブロック手段により抽出された信号光とを波長多重して出力ポートから出力する手段とを有する波長分離多重手段を備える光伝送装置であって、Nを前記光伝送装置を含む光伝送ネットワークにおいて信号光が通る光伝送装置の数、αをduty比、βを位相変調では1、強度変調では2とし、γを位相変調では1、強度変調では0.5とし、S(f)を前記特定の波長の信号光の信号スペクトル、Fblockを前記信号抽出手段における透過率、Fthroughを前記信号ブロック手段における透過率、fcを信号のキャリア周波数、fbを信号のボーレートに相当する周波数であるとし、
更に、
【0016】
【数3】
とした場合において、
所望のOSNRペナルティpに対して、
【0017】
【数4】
を満たすように透過率を設定した前記信号抽出手段及び前記信号ブロック手段を有する前記波長分離多重手段を備えたことを特徴とする光伝送装置として構成することもできる。
【0018】
前述した各光伝送装置は、波長選択スイッチであることとしてもよく、また、前記波長分離多重手段は波長選択スイッチであり、前記光伝送装置は、光信号分岐挿入装置又は光クロスコネクト装置であることとしてもよい。
【0019】
また、前記波長分離多重手段は、前記第2の入力ポートから入力される信号光における前記特定の波長の信号光をブロックする波長ブロック手段を更に備えたこととしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、波長多重信号光を複数の波長の信号光に分離した後に、これらの信号光を波長多重する手段を有する光伝送装置において、波長多重された信号光に対するクロストークを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
<基本構成>
本発明の第1の実施の形態では、波長選択スイッチ(例えば、図1の構成での波長選択スイッチ3等)におけるフィルタ特性を、各チャネルにおける隣接チャネルのサイドバンドを除去するように急峻なフィルタ特性とする。
【0023】
本実施の形態における光伝送装置の動作及び信号光の状態を図8を用いて説明する。図8に示す光伝送装置は、図1等と同様に、波長選択スイッチ7と、波長選択スイッチ8とを用いたROADMである。この構成において、波長選択スイッチ8が急峻なフィルタ特性を有しているものとする。また、波長選択スイッチ8の全体構成は図3に示したものと同様である。
【0024】
λ1、λ2、λ3の信号光が波長多重された信号光が光カプラー1で分岐され、一方は波長選択スイッチ7に入力され、そこからλ2の信号光が分岐される。また、光カプラー1で分岐された他方の信号光は波長選択スイッチ8に入力されるとともに、当該信号光のλ2成分がブロックされる(例えばMEMSミラーで出力ポート向けに反射されない)とともに、別のλ2の信号光が挿入され、λ1、λ2、λ3の信号光が多重された信号光が出力される。本実施の形態の波長選択スイッチ8の光透過特性(主に波長分離部31と波長選択部32による特性)は、図8のA、B、Cに示すように急峻であり、隣接チャネルのサイドバンド成分を通さないので、これらの信号光を波長合成部33で合成しても、着目するλ2の信号光に残留サイドバンドによるクロストークは発生しない。
【0025】
ここで、波長選択スイッチ8におけるある波長の信号光に着目した好ましい透過特性の例(ある条件下における例)は下記のとおりである。
【0026】
透過率 > -0.5dB (f_c - f_baud< f < f_c + f_baud) (式1)
透過率 < -40dB (f_c - f_ch - f_baud < f < f_c - f_ch + f_baud,
f_c + f_ch -f_baud < f < f_c + f_ch + f_baud ) (式2)
上記の各式においてf_cは注目するチャネルのキャリア周波数(搬送波の周波数)であり、f_baudは baudrateであり、f_chはチャネル間隔である。
【0027】
上記の式は、図9に示すように、f_cのチャネルに注目する場合において、周波数fがf_c - f_baud< f < f_c + f_baudの場合に損失率を0.5dBより小さくし、周波数fがf_c - f_ch - f_baud < f < f_c - f_ch + f_baudもしくはf_c + f_ch -f_baud < f < f_c + f_ch + f_baudである場合において、損失率を40dBより大きくすることを意味している。つまり、損失を0.5dBより小さくする帯域幅を2×baudrateとし、隣接チャネルにおける、当該隣接チャネルのキャリア周波数からbaudrateの範囲の損失を40dBより大きくするものである。
【0028】
このような範囲において上記のような透過率(損失率)を設定することが好ましい理由を図10と図11に示すシミュレーション結果により説明する。
【0029】
図10は、上記の第1式に関連するシミュレーション結果を示すグラフである。このシミュレーションでは、1つの信号光(44Gbps RZ-DQPSK)を12個のノード(1つのノードでは1つの波長選択スイッチを通る)に通した場合において、12個のノードの各波長選択スイッチにおけるフィルタ特性の0.5dB損失透過帯域幅(0.5dBの損失を許容する帯域幅)を変えながらOSNRペナルティ(dB)を算出したものである。ここで、上記フィルタのフィルタ形状は4次ガウシアンフィルタとしている。
【0030】
また、BER=10-3を実現するOSNRを基準にペナルティを算出している。この点は他のシミュレーション結果でも同様である。
【0031】
ここで、システム設計においてフィルタリングに割り当てることができるペナルティ値をおよそ0.5dB程度であるとすると、図10に示すように、これを満足するためには、0.5dB損失帯域幅は、約41.5GHとなる。つまり、baudrateは22GHzであるので、およそ2×baudrate GHz程度の0.5dB損失透過帯域幅が必要となる。従って、このような条件下で、フィルタリングによるペナルティの発生を十分に抑えるためには、透過率>-0.5dB (f_c-f_baud<f<f_c+f_baud)が好ましい。
【0032】
図11は、上記の第2式に関連するシミュレーション結果である。このシミュレーションでは、キャリア周波数に対する信号光(44Gbps RZ-DQPSK)と、そのキャリア周波数からある周波数分だけ差分のある周波数のCW光とを、その差分を変えながら波長多重し、出力された信号光のOSNRペナルティ(dB)を算出している。
【0033】
図11に示すように、周波数差がbaudrate(22GHz)以上では、OSNRペナルティが0.3dB以下であり、信号劣化が小さいことがわかる。つまり、周波数差がbaudrate(22GHz)以上では、CW光は信号光の信号劣化に大きく寄与しない。従って、±baudrate以内の漏れこみ光を十分に抑えることができれば、サイドバンドクロストークによるペナルティは小さく抑えることができる。
【0034】
つまり、図9に示す例において、キャリア周波数がf_c + f_chである信号光に注目した場合、この信号光に隣接するチャネル(周波数f_c)を抽出する場合のフィルタリングにおいて、フィルタ特性が十分に急峻でなく、キャリア周波数がf_c + f_chである信号光のbaudrate以内の範囲の成分まで含めて抽出してしまう場合、この抽出した信号光と、キャリア周波数がf_c + f_chである信号光とを合成すると、サイドバンドクロストークにより信号劣化が大きくなる。一方、上記f_cの信号光の抽出において、キャリア周波数がf_c + f_chである信号光の(中心から)baudrate以内の範囲の成分を十分に抑圧すれば、抽出した信号光において、キャリア周波数がf_c + f_chの信号光のサイドバンドが残っていたとしても、合波した場合の信号劣化は小さく抑えることができる。
【0035】
ここで、システム設計においてサイドバンドクロストークに割り当てることができるペナルティ値は、およそ0.2dB程度であるとすると、これを満足するためには、非特許文献1に記載されているように、40dB以上の消光比が必要となる。従って、この条件下で、サイドバンドクロストークによるペナルティの発生を十分に抑えるためには、透過率<-40dB (f_c+f_ch-f_baud<f<f_c+f_ch+f_baud)が好ましい。
【0036】
上記は、ある条件下で好ましいと考えられるフィルタ特性の例であるが、より一般的なフィルタ特性の、OSNRペナルティp(dB)に関する条件について以下に説明する。この条件は以下の式に基づくものである。
【0037】
【数5】
式3における各記号の意味は以下のとおりである。
【0038】
N:システムのノード数
α:duty比(ex. RZ符号では、0.5)
β:位相変調では1、強度変調では2
γ:位相変調では1、強度変調では0.5
S(f):信号スペクトル
Fblock:合波フィルタのブロックポートにおける透過率
Fthrough:合波フィルタのスルーポートにおける透過率
fc:信号のキャリア周波数
fb:信号のbaud rateに相当する周波数
また、式3におけるεtotalは以下の式により算出される。
【0039】
【数6】
上記の条件における合波フィルタとは、図12に示すような装置である。当該合波フィルタは、スルーポートから波長多重信号光を入力し、波長分離し、ある特定の波長を抽出するとともに、ブロックポートから波長多重信号光を入力し、波長分離し、上記特定の波長をブロックした信号光を抽出し、上記特定の波長の信号光と、特定の波長をブロックした信号光とを合成して出力ポートから出力する装置である。つまり、当該装置は、第1の入力ポートから入力される信号光から特定の波長の信号光を抽出する信号抽出手段と、第2の入力ポートから入力される信号光から前記特定の波長の信号光をブロックした信号光を抽出する信号ブロック手段とを備え、前記信号抽出手段により抽出された信号光と、前記信号ブロック手段により抽出された信号光とを波長多重して出力ポートから出力する装置である。
【0040】
そして、S(f)は、上記の特定の波長の信号光のスペクトルであり、Fblockは、ブロックポートから入力される信号光においてブロックする部分におけるフィルタの透過率であり、Fthroughは、上記特定の波長の信号光を抽出する際のフィルタの透過率である。
【0041】
図12に示すような装置の動作は、波長選択スイッチやインタリーバにおいて、ある波長の信号光に着目した際の動作に対応するものであり、図12に示す装置は、波長選択スイッチやインタリーバそのものと考えることができる。
【0042】
式3は、特定の波長の信号光をとおす装置(図12に示す装置)数(ノード数)及び装置のフィルタ特性(εtotal)等に応じて、装置から出力される信号光の劣化度合い(OSNRペナルティ)を算出する式である。また、式4は、フィルタ特性として、fc-fbからfc+fbまでの範囲の消光比(スルーされる信号光に対するブロックされる信号光の割合)を算出する式であり、この値が大きいということは、残留サイドバンドによるクロストークによる影響が大きいと考えることができる。式3、式4から明らかなように、εtotalは、信号スペクトルとフィルタの透過率により、一意に決定し、εtotalが決まれば、ノードで発生するクロストークによるOSNRペナルティが決まる。逆に、所望のOSNRペナルティを与えれば、そのOSNRペナルティを満足するεtotalを決定することができる。
【0043】
図13は、Nが24、18、6の場合における式3に基づくグラフと、図12に示した装置と同様の装置を用いて信号光のOSNRペナルティを実測した結果を示す図である。図13に示すように、実測値と理論値は概ね整合している。
【0044】
図14は、図12の装置における透過スペクトルの例を示す図である。図14の実線がスルーポートに入力される信号光に対して作用するフィルタの透過率を示し、点線は、ブロックポートに入力される信号光に対して作用するフィルタの透過率を示す。また、点のプロットは、信号光(44Gbps RZ-DQPSK)のスペクトルを示す。
【0045】
この式3に基づき、ノード数と所望のOSNRペナルティを指定することにより、εtotalを決定でき、εtotalから式4を用いてフィルタ特性を決定できる。つまり、所望のOSNRペナルティpに対して、
【0046】
【数7】
を満たすεtotalを決定し、式4に基づき、決定したεtotalを満足するフィルタ特性になるように合波フィルタを構成すればよい。
【0047】
<光伝送装置の他の例>
上記の説明では光伝送装置の例として、ROADMの例を示したが、本実施の形態におけるフィルタ特性を持った波長選択スイッチを用いることにより光クロスコネクト装置(OXC)を構成することもできる。図15にそのような光クロスコネクト装置の構成例を示す。図15に示すように、この光クロスコネクト装置は、光波長選択スイッチ15、16、17、18を備え、これらが図示するように接続されている。この構成により、任意のパス(波長)を任意の経路に接続できる。
【0048】
図15に示すように、経路1のλ1の信号を経路4にクロスコネクトし、経路2のλ1の信号光を経路3にクロスコネクトする場合において、波長選択スイッチ15では、λ1をブロックして、λ2を抽出し、波長選択スイッチ2側に送り、波長選択スイッチ16では、λ2の信号光と、経路2からきたλ1の信号光が合波される。ここで、波長選択スイッチ11から出力される経路1からのλ2の信号光に、経路1のλ1の信号光のサイドバンドが残留していたとすると、波長選択スイッチ16においてλ1の信号光にクロストークが発生する。そこで、本実施の形態で説明したフィルタ特性を持つ波長選択スイッチ16を用いることにより、λ2の信号光における残留サイドバンドはカットされ、残留サイドバンドによるクロストークの発生を防止できる。もちろん、前段、もしくは両方の段の波長選択スイッチを、本実施の形態で説明したフィルタ特性を持つものとしてもよい。
【0049】
<波長選択スイッチの構成例>
次に、上述したような好ましいフィルタ特性を得るための波長選択スイッチの構成例を説明する。
【0050】
波長選択スイッチは、図2、図3に示したように、波長分離部(回折格子等)により波長毎に分離された信号光を所望の出力ポートに出力するための波長選択部を有する。この波長選択部は、例えば波長(チャネル)毎に可動式のミラー(MEMSミラーと呼ぶ)を備えたMEMSミラーアレイにより実現される。また、波長選択部は、波長毎に反射方向や屈折方向を変更できる液晶部により実現することもできる。この波長毎の各部分を総称して個別波長選択部と呼ぶことにする。以下の例では、個別波長選択部はMEMSミラーであるものとして説明する。また、波長分離部は回折格子であるものとする。
【0051】
好ましいフィルタ特性を得るための第1の構成例は、波長選択スイッチを、波長分離部から波長選択部に到達するビームのビームスポットサイズを小さくするように構成することである。
【0052】
図16を用いてビームスポットを小さくすることによる効果を説明する。図16(a)は、ビームスポットを小さくする前の様子を示す図である。回折格子によりグレーティングされ、MEMSミラーに到達する信号光は、MEMSミラーの表面の水平方向位置毎に周波数が異なっている。そのことから、図16(a)等においてMEMSミラーの水平方向の軸を周波数の軸として表現している。さて、グレーティング後に、MEMSミラーの点Aに到達するある周波数(信号光に含まれるある周波数)のガウシアンビームの強度分布が図16(a)に示すものである場合、この光の一部は、該当するMEMSミラーの外部に出てしまい、この周波数の光の一部が損失を受けることになる。従って、図16(b)に示すように、このMEMSミラーに対応する波長の信号光の、波長選択スイッチにおける透過率は、チャネル周波数を中心とする帯域における周辺周波数の光の一部が損失を受け、周辺部分の透過率が低くなる形になる。
【0053】
一方、図16(c)に示すように、ビームスポットを小さくすることにより、MEMSミラーの周辺に近い部分の周波数の光でも損失を小さくでき、図16(d)に示すように、図16(b)の場合よりも広い範囲の帯域で透過率を高く保つことができる。
【0054】
また、ビームスポットを小さくすることにより、隣接チャネルからの漏れ光を削減できる効果がある。これを図17を用いて説明する。
【0055】
図17(a)において、MEMSミラー1に対応する波長の信号光に着目する場合、MEMSミラー1に隣接する隣接チャネル用のMEMSミラー2において、図17(a)に示したように、ビームスポットの大きな光が到達した場合、その光の一部が着目するMEMSミラー1に到達する。従って、図17(b)に示すように、隣接するチャネルの周波数成分を含む透過率になる。一方、図17(c)に示すように、MEMSミラー2に到達する光のビームスポットが小さければ、隣接チャネルの成分が着目するチャネルに漏れる量が少なくなり、図17(d)に示すような透過率になる。
【0056】
従って、ビームサイズを小さくすることにより、好ましいフィルタ特性を得ることができ、その結果、残留サイドバンドによるクロストークを削減できる。
【0057】
これをシミュレーションで示したのが図18である。図18は、ビームスポットサイズを縮小することによる0.5dB損失帯域幅の増大と、サイドバンドクロストークの削減効果を示す図である。図18では、44Gbps RZ-DQPSK信号の信号光を、3dB損失帯域幅=50GHzのガウシアンフィルタの特性を持つ波長選択スイッチに、ビームスポットサイズを変えながらとおすシミュレーションを行っている。ビームスポットサイズを縮小することにより、0.5dB損失帯域幅は増大するとともに、サイドバンドクロストークによるOSNRペナルティが改善されることがわかる。
【0058】
波長選択スイッチにおいて、ビームスポットサイズを小さくするには、例えば、波長分離部と波長選択部との距離を大きくする等の方法がある。つまり、例えば、透過率の特性が式1、式2を満たすように、波長分離部と波長選択部との距離を決定する。また、例えば、あるノード数、及びあるOSNRペナルティのシステムを構築する場合に、式3の関係を満たすフィルタ特性(εtotal)を求め、そのフィルタ特性を満足するビームスポットサイズになるように、波長分離部と波長選択部との距離を決定する。なお、好ましいフィルタ特性を得るための第1の構成例は、波長選択部として液晶を用いる方式の波長選択スイッチにも適用できるものである。
【0059】
好ましいフィルタ特性を得るための第2の構成例は、波長選択スイッチにおけるMEMSミラーの間隔を大きくすることである。これは、既存の波長選択スイッチにおけるMEMSミラーのサイズを小さくすることで実現できる。
【0060】
MEMSミラーのサイズを小さくしない場合は、図17(a)、(b)に示したとおり、隣接チャネルからの漏れ込み光が発生する。一方、図19(a)に示すように、MEMSミラーのサイズを小さくすることにより、着目するチャネルに対応するMEMSミラーにおいて、隣接チャネルの成分の漏れ込み量を削減できる。その結果、図19(b)に示すように、着目するチャネルの透過率は、隣接するチャネルの成分を含まない形になる。
【0061】
上記第1、第2の構成例では、波長選択スイッチにおける波長選択部が、特定の波長に隣接する波長の信号光のサイドバンド成分を、当該隣接する波長と同じ波長の信号光に対するクロストークを生じさせないように除去して、上記特定の波長の信号光を抽出している。
【0062】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、波長選択スイッチ内部におけるフィルタ特性を改善することによりクロストークを削減する方法について説明したが、本実施の形態ではクロストークを削減するための別の方法について説明する。
【0063】
図20に、第2の実施の形態における光伝送装置であるROADMの構成例を示す。図20に示すように、本例では、信号分岐側の波長選択スイッチ11と、信号挿入側の波長選択スイッチ12とを有するROADMの構成において、後段の波長選択スイッチ12の前に、前段の波長選択スイッチ11において分岐された波長(チャネル)をブロックする波長ブロック部13を備えるものである。なお、信号挿入側の波長選択スイッチ12と、波長ブロック部13とで、フィルタ特性を急峻にできることから、これらを合わせて急峻化波長選択スイッチ14と呼んでいる。
【0064】
この波長ブロック部13は、当該波長をブロックするフラットトップの波長ブロッカにより構成される。また、図21に示すように、この波長ブロック部13を、波長ブロッカを多段に接続した構成としてもよい。このような構成を採用することにより、波長多重信号光において、後段の波長選択スイッチ12においてブロックすべき波長の信号光のサイドバンドが十分に抑圧されるため、波長選択スイッチ12において当該波長の信号光を挿入し、上記ブロック後の信号光に合成した場合でも、残留サイドバンドによるクロストークは生じない。なお、急峻化波長選択スイッチ14は、光クロスコネクト装置にも適用できる。
【0065】
図22は、合波(挿入)を行う側の波長選択スイッチ12の前段に、当該波長選択スイッチと同様の透過特性を持つ波長ブロック部13を設置することによるサイドバンドクロストーク削減効果を示すシミュレーション結果である。図22では、波長ブロック部(WB)を設置した場合と、設置しない場合のそれぞれの結果が示されている。
【0066】
図22に示すシミュレーションでは、44Gbps RZ-DQPSK信号を用い、波長選択スイッチ12及び波長ブロック部13のフィルタ特性はそれぞれ3dB損失帯域幅=50GHzのガウシアンフィルタとしている。図22において、横軸はガウシアンフィルタの次数を表しており、次数が大きいほど急峻なフィルタとなる。図22に示すように、低次のフィルタ(緩やかなフィルタ)ほど、波長ブロック部13によるサイドバンドクロストーク削減効果が大きいことがわかる。また、波長選択スイッチ12と波長ブロック部13がそれぞれ3次のガウシアンフィルタである場合、サイドバンドクロストークによるOSNRペナルティは1.8dB改善されることが示されている。
【0067】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々変更・応用が可能である。特に変調方式としてRZ-DQPSK以外のNRZ-DQPSKや、より多値のDMPSK方式などにも適用できる。また、変調信号は44GHzに限定されるものではなく、10GHz以上の高速変調信号全般に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】光信号挿入分岐装置の構成の一例を示す図である。
【図2】波長選択スイッチ2の基本的な構成を示す図である。
【図3】波長選択スイッチ3の基本的な構成を示す図である。
【図4】従来技術の問題点を説明するための図である。
【図5】波長選択スイッチのフィルタ透過特性を示す図である。
【図6】従来技術の問題点を説明するための図である。
【図7】従来技術の問題点を説明するための図である。
【図8】第1の実施の形態における光伝送装置の動作を説明するための図である。
【図9】好ましい透過特性を説明するための図である。
【図10】第1式に関連するシミュレーション結果を示す図である。
【図11】第2式に関連するシミュレーション結果を示す
【図12】合波フィルタに相当する装置を示す図である。
【図13】式3に基づく理論値と実測値を示す図である。
【図14】合波フィルタにおける透過スペクトルを示す図である。
【図15】光クロスコネクト装置の構成例を示す図である。
【図16】ビームスポットを小さくすることによる効果を説明するための図である。
【図17】ビームスポットを小さくすることによる効果を説明するための図である。
【図18】ビームサイズを小さくすることによる残留サイドバンドクロストーク削減効果を示す図である。
【図19】MEMSミラーのサイズを小さくすることによる効果を説明するための図である。
【図20】第2の実施の形態における光伝送装置であるROADMの構成を示す図である。
【図21】波長ブロック部の構成例を示す図である。
【図22】波長ブロック部を設置することによるサイドバンドクロストーク削減効果を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 光カプラー
2、3、7、8、11、12、15〜18 波長選択スイッチ
5、6 インタリーバ
13 波長ブロック部
14 急峻化波長選択スイッチ
21、31 波長分離部
22、32 波長選択部
23、33 波長合成部
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送ネットワークにおいて信号光を波長分離、及び波長多重することにより発生する残留サイドバンドクロストークを削減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
データ通信需要の増大に伴い、大容量のトラフィックを伝送できる波長分割多重技術を用いた光伝送ネットワークが普及しつつある。そのような光伝送ネットワークでは、光伝送装置として、パス(特定の波長の信号光)の方路を切り替える光クロスコネクト装置(OXC : Optical cross Connect )や、リングネットワークからパスを分岐したり、パスを挿入したりする光信号挿入分岐装置(OADM : Optical Add Drop Multiplexer)等が用いられる。
【0003】
図1に光信号挿入分岐装置の構成の一例(ROADM : Reconfigurable Optical Add Drop Multiplexer)を示す。図1に示すように、この光信号挿入分岐装置は、光カプラー1、波長選択スイッチ(WSS: Wavelength Selectable Switch)2、及び波長選択スイッチ3を備えている。波長選択スイッチ2は、入力ポートから波長多重信号光を入力し、複数の出力ポートのうちの任意の出力ポートに任意の波長の信号光を出力する機能を備え、波長選択スイッチ3は、複数の入力ポートから入力されたそれぞれの信号光から任意の波長を選択し、波長多重して出力する機能を備えている。なお、「任意の」とは、遠隔操作等で適宜設定できるという意味である。
【0004】
図1に示す例では、λ1、λ2、λ3の信号光が多重された波長多重信号光が光カプラー1で分岐され、一方は波長選択スイッチ2に入力され、波長選択スイッチ2においてλ2の信号光が分岐される。光カプラー1で分岐された他方の信号光は波長選択スイッチ3に入力される。波長選択スイッチ3において、入力信号光におけるλ2の信号光がブロックされるとともに、λ2の別の信号光が挿入され、これらが多重されたλ1、λ2、λ3を有する信号光が出力される。
【0005】
図2に、分岐側に備えられた波長選択スイッチ2の基本的な構成を示す。図2に示すように、波長選択スイッチ2は、波長分離部21、波長選択部22、及び波長合成部23を有する。この波長選択スイッチ2において、波長分離部21が、波長多重信号光を各波長の信号光に分離し、波長選択部22が分離された信号光における所望の信号光を選択し、その信号光を所望のポートに向けて出力し、あるポートに向けられた信号光は波長合成部23において多重されて当該ポートから出力される。
【0006】
図3に、挿入側に備えられた波長選択スイッチ3の基本的な構成を示す。この構成は、波長選択スイッチ2の入力と出力を逆にしたものに相当し、波長分離部31は複数の入力ポートを備え、各ポートから入力された信号光をそれぞれ波長分離し、波長選択部32が、所望の入力ポートの所望の波長の信号光を選択して出力ポートに向けて出力し、波長合成部33が波長多重を行って信号光を出力する。
なお、波長選択スイッチは空間光学系を用いて実現されており、例えば、波長分離部21、31、及び波長合成部23、33は、AWG、回折格子等を用いて実現でき、波長選択部22、32は、例えば、MEMSミラー、液晶等を用いて実現できる。また、波長分離部と波長選択部とをあわせて波長分離選択部と呼ぶこともできる。また、波長選択スイッチは、波長分離、波長多重を行う波長分離多重手段の1つである。
【特許文献1】特開2008−109248号公報
【非特許文献1】E. L. Goldstein, et.al., "Performance Implications of Component Crosstalk in Transparent Lightwave Networks", IEEE Photonics Technology Letters, Vol.6, No.5, May 1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、光伝送ネットワークにおいて伝送される波長多重信号光は、各キャリア周波数に対応する信号光が多重されたものであり、各信号光は、単一波長の搬送波にディジタル信号で変調をかけたものである。この変調によりスペクトルが広がり、サイドバンドが生じる。このことにより生じる問題を以下に説明する。なお、本明細書、図面において、信号光に対応する"波長"(λ1、λ2、・・・等)を"チャネル"と同義で使用する場合がある。
【0008】
図4は、図1の構成に、信号光のスペクトルイメージ(周波数に対する強度)を重ねた図である。図4に示すように、各信号光は、ある帯域幅を持った信号光になっている。
【0009】
ある波長の信号光を抽出し、他の波長をブロックする波長選択スイッチをフィルタとして見た場合、一般に使用されている波長選択スイッチにおけるフィルタの透過特性は図5に示すようなものであり、隣接チャネルのサイドバンド成分を多く取り込む特性になっている。従って、図4に示したように、波長選択スイッチ3において選択されたλ1の信号光とλ3の信号光には、隣接チャネルであるλ2のサイドバンド成分が残留している。
【0010】
このことにより、波長合成部33において、λ1とλ3の信号光、及び挿入されたλ2の信号光が合成された場合、波長選択スイッチ3内でブロックされたλ2の信号光の残留サイドバンドが、挿入されたλ2の信号光に重畳されてしまい、それがλ2の信号光にとってのクロストークとなり、信号品質劣化の要因となる。
【0011】
また、光伝送ネットワークで使用される光伝送装置において、インタリーバを用いる場合がある(例えば特許文献1)。インタリーバを用いる場合にも上記と同様の問題が生じる。
【0012】
インタリーバの基本的な構成は図2、図3に示したものと同様である。ただし、インタリーバにおいては、波長選択部22、32において、どの入力ポートのどの波長をどの出力ポートに送信するかが固定されている。つまり、図2に示す例をインタリーバとして見た場合、当該インタリーバは1つの入力ポートと2つの出力ポートを有し、入力ポートから入力された波長多重信号光は分離され、波長選択部22により奇数番号チャネルの信号光は一方の出力ポートに出力され、偶数番号チャネルの信号光は他方の出力ポートに出力される。また、合波側のインタリーバ(図3の構成)は、2つの入力ポートと1つの出力ポートを有し、2つの入力ポートから奇数番号チャネルの信号光と、偶数番号チャネルの信号光を入力し、これらを合波して出力する。なお、インタリーバも波長分離多重手段の1つである。
【0013】
図6は、分波側のインタリーバ5と、合波側のインタリーバ6を含む構成を示す図である。図6に示すように、インタリーバ5のフィルタ特性により、前段のインタリーバから出力される信号光において、奇数系のλ1、λ3の信号光のそれぞれには偶数系のλ2の信号光のサイドバンド成分が残留する。また、後段のインタリーバ6で合波が行われる際には、やはりそのフィルタ特性により上記の残留サイドバンド成分が除去されることなく、λ2の信号光にクロストークが残る。図7は、λ2の信号光の信号スペクトルと、図6に示すインタリーバ6において、その内部で、λ1、λ3を分離する際のフィルタとしての透過率を示したグラフである。このグラフに示すように、当該フィルタにおいて、λ2のサイドバンド成分が十分に抑圧されていない。この抑圧されていない部分が、インタリーバ6における合波後にλ2の信号光にクロストークをもたらす。なお、本明細書及び特許請求の範囲においては、クロストークをもたらすとは、単に残留サイドバンドが混入するこことではなく、信号品質を実質的に劣化させる程度の残留サイドバンドが混入することをいうものとする。
【0014】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、波長多重信号光を複数の波長の信号光に分離した後に、これらの信号光を波長多重する手段を有する光伝送装置において、波長多重された信号光に対するクロストークを抑制するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1の入力ポートから入力される信号光から特定の波長の信号光を抽出する信号抽出手段と、第2の入力ポートから入力される信号光から前記特定の波長の信号光をブロックした信号光を抽出する信号ブロック手段と、前記信号抽出手段により抽出された信号光と、前記信号ブロック手段により抽出された信号光とを波長多重して出力ポートから出力する手段とを有する波長分離多重手段を備える光伝送装置であって、Nを前記光伝送装置を含む光伝送ネットワークにおいて信号光が通る光伝送装置の数、αをduty比、βを位相変調では1、強度変調では2とし、γを位相変調では1、強度変調では0.5とし、S(f)を前記特定の波長の信号光の信号スペクトル、Fblockを前記信号抽出手段における透過率、Fthroughを前記信号ブロック手段における透過率、fcを信号のキャリア周波数、fbを信号のボーレートに相当する周波数であるとし、
更に、
【0016】
【数3】
とした場合において、
所望のOSNRペナルティpに対して、
【0017】
【数4】
を満たすように透過率を設定した前記信号抽出手段及び前記信号ブロック手段を有する前記波長分離多重手段を備えたことを特徴とする光伝送装置として構成することもできる。
【0018】
前述した各光伝送装置は、波長選択スイッチであることとしてもよく、また、前記波長分離多重手段は波長選択スイッチであり、前記光伝送装置は、光信号分岐挿入装置又は光クロスコネクト装置であることとしてもよい。
【0019】
また、前記波長分離多重手段は、前記第2の入力ポートから入力される信号光における前記特定の波長の信号光をブロックする波長ブロック手段を更に備えたこととしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、波長多重信号光を複数の波長の信号光に分離した後に、これらの信号光を波長多重する手段を有する光伝送装置において、波長多重された信号光に対するクロストークを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
<基本構成>
本発明の第1の実施の形態では、波長選択スイッチ(例えば、図1の構成での波長選択スイッチ3等)におけるフィルタ特性を、各チャネルにおける隣接チャネルのサイドバンドを除去するように急峻なフィルタ特性とする。
【0023】
本実施の形態における光伝送装置の動作及び信号光の状態を図8を用いて説明する。図8に示す光伝送装置は、図1等と同様に、波長選択スイッチ7と、波長選択スイッチ8とを用いたROADMである。この構成において、波長選択スイッチ8が急峻なフィルタ特性を有しているものとする。また、波長選択スイッチ8の全体構成は図3に示したものと同様である。
【0024】
λ1、λ2、λ3の信号光が波長多重された信号光が光カプラー1で分岐され、一方は波長選択スイッチ7に入力され、そこからλ2の信号光が分岐される。また、光カプラー1で分岐された他方の信号光は波長選択スイッチ8に入力されるとともに、当該信号光のλ2成分がブロックされる(例えばMEMSミラーで出力ポート向けに反射されない)とともに、別のλ2の信号光が挿入され、λ1、λ2、λ3の信号光が多重された信号光が出力される。本実施の形態の波長選択スイッチ8の光透過特性(主に波長分離部31と波長選択部32による特性)は、図8のA、B、Cに示すように急峻であり、隣接チャネルのサイドバンド成分を通さないので、これらの信号光を波長合成部33で合成しても、着目するλ2の信号光に残留サイドバンドによるクロストークは発生しない。
【0025】
ここで、波長選択スイッチ8におけるある波長の信号光に着目した好ましい透過特性の例(ある条件下における例)は下記のとおりである。
【0026】
透過率 > -0.5dB (f_c - f_baud< f < f_c + f_baud) (式1)
透過率 < -40dB (f_c - f_ch - f_baud < f < f_c - f_ch + f_baud,
f_c + f_ch -f_baud < f < f_c + f_ch + f_baud ) (式2)
上記の各式においてf_cは注目するチャネルのキャリア周波数(搬送波の周波数)であり、f_baudは baudrateであり、f_chはチャネル間隔である。
【0027】
上記の式は、図9に示すように、f_cのチャネルに注目する場合において、周波数fがf_c - f_baud< f < f_c + f_baudの場合に損失率を0.5dBより小さくし、周波数fがf_c - f_ch - f_baud < f < f_c - f_ch + f_baudもしくはf_c + f_ch -f_baud < f < f_c + f_ch + f_baudである場合において、損失率を40dBより大きくすることを意味している。つまり、損失を0.5dBより小さくする帯域幅を2×baudrateとし、隣接チャネルにおける、当該隣接チャネルのキャリア周波数からbaudrateの範囲の損失を40dBより大きくするものである。
【0028】
このような範囲において上記のような透過率(損失率)を設定することが好ましい理由を図10と図11に示すシミュレーション結果により説明する。
【0029】
図10は、上記の第1式に関連するシミュレーション結果を示すグラフである。このシミュレーションでは、1つの信号光(44Gbps RZ-DQPSK)を12個のノード(1つのノードでは1つの波長選択スイッチを通る)に通した場合において、12個のノードの各波長選択スイッチにおけるフィルタ特性の0.5dB損失透過帯域幅(0.5dBの損失を許容する帯域幅)を変えながらOSNRペナルティ(dB)を算出したものである。ここで、上記フィルタのフィルタ形状は4次ガウシアンフィルタとしている。
【0030】
また、BER=10-3を実現するOSNRを基準にペナルティを算出している。この点は他のシミュレーション結果でも同様である。
【0031】
ここで、システム設計においてフィルタリングに割り当てることができるペナルティ値をおよそ0.5dB程度であるとすると、図10に示すように、これを満足するためには、0.5dB損失帯域幅は、約41.5GHとなる。つまり、baudrateは22GHzであるので、およそ2×baudrate GHz程度の0.5dB損失透過帯域幅が必要となる。従って、このような条件下で、フィルタリングによるペナルティの発生を十分に抑えるためには、透過率>-0.5dB (f_c-f_baud<f<f_c+f_baud)が好ましい。
【0032】
図11は、上記の第2式に関連するシミュレーション結果である。このシミュレーションでは、キャリア周波数に対する信号光(44Gbps RZ-DQPSK)と、そのキャリア周波数からある周波数分だけ差分のある周波数のCW光とを、その差分を変えながら波長多重し、出力された信号光のOSNRペナルティ(dB)を算出している。
【0033】
図11に示すように、周波数差がbaudrate(22GHz)以上では、OSNRペナルティが0.3dB以下であり、信号劣化が小さいことがわかる。つまり、周波数差がbaudrate(22GHz)以上では、CW光は信号光の信号劣化に大きく寄与しない。従って、±baudrate以内の漏れこみ光を十分に抑えることができれば、サイドバンドクロストークによるペナルティは小さく抑えることができる。
【0034】
つまり、図9に示す例において、キャリア周波数がf_c + f_chである信号光に注目した場合、この信号光に隣接するチャネル(周波数f_c)を抽出する場合のフィルタリングにおいて、フィルタ特性が十分に急峻でなく、キャリア周波数がf_c + f_chである信号光のbaudrate以内の範囲の成分まで含めて抽出してしまう場合、この抽出した信号光と、キャリア周波数がf_c + f_chである信号光とを合成すると、サイドバンドクロストークにより信号劣化が大きくなる。一方、上記f_cの信号光の抽出において、キャリア周波数がf_c + f_chである信号光の(中心から)baudrate以内の範囲の成分を十分に抑圧すれば、抽出した信号光において、キャリア周波数がf_c + f_chの信号光のサイドバンドが残っていたとしても、合波した場合の信号劣化は小さく抑えることができる。
【0035】
ここで、システム設計においてサイドバンドクロストークに割り当てることができるペナルティ値は、およそ0.2dB程度であるとすると、これを満足するためには、非特許文献1に記載されているように、40dB以上の消光比が必要となる。従って、この条件下で、サイドバンドクロストークによるペナルティの発生を十分に抑えるためには、透過率<-40dB (f_c+f_ch-f_baud<f<f_c+f_ch+f_baud)が好ましい。
【0036】
上記は、ある条件下で好ましいと考えられるフィルタ特性の例であるが、より一般的なフィルタ特性の、OSNRペナルティp(dB)に関する条件について以下に説明する。この条件は以下の式に基づくものである。
【0037】
【数5】
式3における各記号の意味は以下のとおりである。
【0038】
N:システムのノード数
α:duty比(ex. RZ符号では、0.5)
β:位相変調では1、強度変調では2
γ:位相変調では1、強度変調では0.5
S(f):信号スペクトル
Fblock:合波フィルタのブロックポートにおける透過率
Fthrough:合波フィルタのスルーポートにおける透過率
fc:信号のキャリア周波数
fb:信号のbaud rateに相当する周波数
また、式3におけるεtotalは以下の式により算出される。
【0039】
【数6】
上記の条件における合波フィルタとは、図12に示すような装置である。当該合波フィルタは、スルーポートから波長多重信号光を入力し、波長分離し、ある特定の波長を抽出するとともに、ブロックポートから波長多重信号光を入力し、波長分離し、上記特定の波長をブロックした信号光を抽出し、上記特定の波長の信号光と、特定の波長をブロックした信号光とを合成して出力ポートから出力する装置である。つまり、当該装置は、第1の入力ポートから入力される信号光から特定の波長の信号光を抽出する信号抽出手段と、第2の入力ポートから入力される信号光から前記特定の波長の信号光をブロックした信号光を抽出する信号ブロック手段とを備え、前記信号抽出手段により抽出された信号光と、前記信号ブロック手段により抽出された信号光とを波長多重して出力ポートから出力する装置である。
【0040】
そして、S(f)は、上記の特定の波長の信号光のスペクトルであり、Fblockは、ブロックポートから入力される信号光においてブロックする部分におけるフィルタの透過率であり、Fthroughは、上記特定の波長の信号光を抽出する際のフィルタの透過率である。
【0041】
図12に示すような装置の動作は、波長選択スイッチやインタリーバにおいて、ある波長の信号光に着目した際の動作に対応するものであり、図12に示す装置は、波長選択スイッチやインタリーバそのものと考えることができる。
【0042】
式3は、特定の波長の信号光をとおす装置(図12に示す装置)数(ノード数)及び装置のフィルタ特性(εtotal)等に応じて、装置から出力される信号光の劣化度合い(OSNRペナルティ)を算出する式である。また、式4は、フィルタ特性として、fc-fbからfc+fbまでの範囲の消光比(スルーされる信号光に対するブロックされる信号光の割合)を算出する式であり、この値が大きいということは、残留サイドバンドによるクロストークによる影響が大きいと考えることができる。式3、式4から明らかなように、εtotalは、信号スペクトルとフィルタの透過率により、一意に決定し、εtotalが決まれば、ノードで発生するクロストークによるOSNRペナルティが決まる。逆に、所望のOSNRペナルティを与えれば、そのOSNRペナルティを満足するεtotalを決定することができる。
【0043】
図13は、Nが24、18、6の場合における式3に基づくグラフと、図12に示した装置と同様の装置を用いて信号光のOSNRペナルティを実測した結果を示す図である。図13に示すように、実測値と理論値は概ね整合している。
【0044】
図14は、図12の装置における透過スペクトルの例を示す図である。図14の実線がスルーポートに入力される信号光に対して作用するフィルタの透過率を示し、点線は、ブロックポートに入力される信号光に対して作用するフィルタの透過率を示す。また、点のプロットは、信号光(44Gbps RZ-DQPSK)のスペクトルを示す。
【0045】
この式3に基づき、ノード数と所望のOSNRペナルティを指定することにより、εtotalを決定でき、εtotalから式4を用いてフィルタ特性を決定できる。つまり、所望のOSNRペナルティpに対して、
【0046】
【数7】
を満たすεtotalを決定し、式4に基づき、決定したεtotalを満足するフィルタ特性になるように合波フィルタを構成すればよい。
【0047】
<光伝送装置の他の例>
上記の説明では光伝送装置の例として、ROADMの例を示したが、本実施の形態におけるフィルタ特性を持った波長選択スイッチを用いることにより光クロスコネクト装置(OXC)を構成することもできる。図15にそのような光クロスコネクト装置の構成例を示す。図15に示すように、この光クロスコネクト装置は、光波長選択スイッチ15、16、17、18を備え、これらが図示するように接続されている。この構成により、任意のパス(波長)を任意の経路に接続できる。
【0048】
図15に示すように、経路1のλ1の信号を経路4にクロスコネクトし、経路2のλ1の信号光を経路3にクロスコネクトする場合において、波長選択スイッチ15では、λ1をブロックして、λ2を抽出し、波長選択スイッチ2側に送り、波長選択スイッチ16では、λ2の信号光と、経路2からきたλ1の信号光が合波される。ここで、波長選択スイッチ11から出力される経路1からのλ2の信号光に、経路1のλ1の信号光のサイドバンドが残留していたとすると、波長選択スイッチ16においてλ1の信号光にクロストークが発生する。そこで、本実施の形態で説明したフィルタ特性を持つ波長選択スイッチ16を用いることにより、λ2の信号光における残留サイドバンドはカットされ、残留サイドバンドによるクロストークの発生を防止できる。もちろん、前段、もしくは両方の段の波長選択スイッチを、本実施の形態で説明したフィルタ特性を持つものとしてもよい。
【0049】
<波長選択スイッチの構成例>
次に、上述したような好ましいフィルタ特性を得るための波長選択スイッチの構成例を説明する。
【0050】
波長選択スイッチは、図2、図3に示したように、波長分離部(回折格子等)により波長毎に分離された信号光を所望の出力ポートに出力するための波長選択部を有する。この波長選択部は、例えば波長(チャネル)毎に可動式のミラー(MEMSミラーと呼ぶ)を備えたMEMSミラーアレイにより実現される。また、波長選択部は、波長毎に反射方向や屈折方向を変更できる液晶部により実現することもできる。この波長毎の各部分を総称して個別波長選択部と呼ぶことにする。以下の例では、個別波長選択部はMEMSミラーであるものとして説明する。また、波長分離部は回折格子であるものとする。
【0051】
好ましいフィルタ特性を得るための第1の構成例は、波長選択スイッチを、波長分離部から波長選択部に到達するビームのビームスポットサイズを小さくするように構成することである。
【0052】
図16を用いてビームスポットを小さくすることによる効果を説明する。図16(a)は、ビームスポットを小さくする前の様子を示す図である。回折格子によりグレーティングされ、MEMSミラーに到達する信号光は、MEMSミラーの表面の水平方向位置毎に周波数が異なっている。そのことから、図16(a)等においてMEMSミラーの水平方向の軸を周波数の軸として表現している。さて、グレーティング後に、MEMSミラーの点Aに到達するある周波数(信号光に含まれるある周波数)のガウシアンビームの強度分布が図16(a)に示すものである場合、この光の一部は、該当するMEMSミラーの外部に出てしまい、この周波数の光の一部が損失を受けることになる。従って、図16(b)に示すように、このMEMSミラーに対応する波長の信号光の、波長選択スイッチにおける透過率は、チャネル周波数を中心とする帯域における周辺周波数の光の一部が損失を受け、周辺部分の透過率が低くなる形になる。
【0053】
一方、図16(c)に示すように、ビームスポットを小さくすることにより、MEMSミラーの周辺に近い部分の周波数の光でも損失を小さくでき、図16(d)に示すように、図16(b)の場合よりも広い範囲の帯域で透過率を高く保つことができる。
【0054】
また、ビームスポットを小さくすることにより、隣接チャネルからの漏れ光を削減できる効果がある。これを図17を用いて説明する。
【0055】
図17(a)において、MEMSミラー1に対応する波長の信号光に着目する場合、MEMSミラー1に隣接する隣接チャネル用のMEMSミラー2において、図17(a)に示したように、ビームスポットの大きな光が到達した場合、その光の一部が着目するMEMSミラー1に到達する。従って、図17(b)に示すように、隣接するチャネルの周波数成分を含む透過率になる。一方、図17(c)に示すように、MEMSミラー2に到達する光のビームスポットが小さければ、隣接チャネルの成分が着目するチャネルに漏れる量が少なくなり、図17(d)に示すような透過率になる。
【0056】
従って、ビームサイズを小さくすることにより、好ましいフィルタ特性を得ることができ、その結果、残留サイドバンドによるクロストークを削減できる。
【0057】
これをシミュレーションで示したのが図18である。図18は、ビームスポットサイズを縮小することによる0.5dB損失帯域幅の増大と、サイドバンドクロストークの削減効果を示す図である。図18では、44Gbps RZ-DQPSK信号の信号光を、3dB損失帯域幅=50GHzのガウシアンフィルタの特性を持つ波長選択スイッチに、ビームスポットサイズを変えながらとおすシミュレーションを行っている。ビームスポットサイズを縮小することにより、0.5dB損失帯域幅は増大するとともに、サイドバンドクロストークによるOSNRペナルティが改善されることがわかる。
【0058】
波長選択スイッチにおいて、ビームスポットサイズを小さくするには、例えば、波長分離部と波長選択部との距離を大きくする等の方法がある。つまり、例えば、透過率の特性が式1、式2を満たすように、波長分離部と波長選択部との距離を決定する。また、例えば、あるノード数、及びあるOSNRペナルティのシステムを構築する場合に、式3の関係を満たすフィルタ特性(εtotal)を求め、そのフィルタ特性を満足するビームスポットサイズになるように、波長分離部と波長選択部との距離を決定する。なお、好ましいフィルタ特性を得るための第1の構成例は、波長選択部として液晶を用いる方式の波長選択スイッチにも適用できるものである。
【0059】
好ましいフィルタ特性を得るための第2の構成例は、波長選択スイッチにおけるMEMSミラーの間隔を大きくすることである。これは、既存の波長選択スイッチにおけるMEMSミラーのサイズを小さくすることで実現できる。
【0060】
MEMSミラーのサイズを小さくしない場合は、図17(a)、(b)に示したとおり、隣接チャネルからの漏れ込み光が発生する。一方、図19(a)に示すように、MEMSミラーのサイズを小さくすることにより、着目するチャネルに対応するMEMSミラーにおいて、隣接チャネルの成分の漏れ込み量を削減できる。その結果、図19(b)に示すように、着目するチャネルの透過率は、隣接するチャネルの成分を含まない形になる。
【0061】
上記第1、第2の構成例では、波長選択スイッチにおける波長選択部が、特定の波長に隣接する波長の信号光のサイドバンド成分を、当該隣接する波長と同じ波長の信号光に対するクロストークを生じさせないように除去して、上記特定の波長の信号光を抽出している。
【0062】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、波長選択スイッチ内部におけるフィルタ特性を改善することによりクロストークを削減する方法について説明したが、本実施の形態ではクロストークを削減するための別の方法について説明する。
【0063】
図20に、第2の実施の形態における光伝送装置であるROADMの構成例を示す。図20に示すように、本例では、信号分岐側の波長選択スイッチ11と、信号挿入側の波長選択スイッチ12とを有するROADMの構成において、後段の波長選択スイッチ12の前に、前段の波長選択スイッチ11において分岐された波長(チャネル)をブロックする波長ブロック部13を備えるものである。なお、信号挿入側の波長選択スイッチ12と、波長ブロック部13とで、フィルタ特性を急峻にできることから、これらを合わせて急峻化波長選択スイッチ14と呼んでいる。
【0064】
この波長ブロック部13は、当該波長をブロックするフラットトップの波長ブロッカにより構成される。また、図21に示すように、この波長ブロック部13を、波長ブロッカを多段に接続した構成としてもよい。このような構成を採用することにより、波長多重信号光において、後段の波長選択スイッチ12においてブロックすべき波長の信号光のサイドバンドが十分に抑圧されるため、波長選択スイッチ12において当該波長の信号光を挿入し、上記ブロック後の信号光に合成した場合でも、残留サイドバンドによるクロストークは生じない。なお、急峻化波長選択スイッチ14は、光クロスコネクト装置にも適用できる。
【0065】
図22は、合波(挿入)を行う側の波長選択スイッチ12の前段に、当該波長選択スイッチと同様の透過特性を持つ波長ブロック部13を設置することによるサイドバンドクロストーク削減効果を示すシミュレーション結果である。図22では、波長ブロック部(WB)を設置した場合と、設置しない場合のそれぞれの結果が示されている。
【0066】
図22に示すシミュレーションでは、44Gbps RZ-DQPSK信号を用い、波長選択スイッチ12及び波長ブロック部13のフィルタ特性はそれぞれ3dB損失帯域幅=50GHzのガウシアンフィルタとしている。図22において、横軸はガウシアンフィルタの次数を表しており、次数が大きいほど急峻なフィルタとなる。図22に示すように、低次のフィルタ(緩やかなフィルタ)ほど、波長ブロック部13によるサイドバンドクロストーク削減効果が大きいことがわかる。また、波長選択スイッチ12と波長ブロック部13がそれぞれ3次のガウシアンフィルタである場合、サイドバンドクロストークによるOSNRペナルティは1.8dB改善されることが示されている。
【0067】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々変更・応用が可能である。特に変調方式としてRZ-DQPSK以外のNRZ-DQPSKや、より多値のDMPSK方式などにも適用できる。また、変調信号は44GHzに限定されるものではなく、10GHz以上の高速変調信号全般に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】光信号挿入分岐装置の構成の一例を示す図である。
【図2】波長選択スイッチ2の基本的な構成を示す図である。
【図3】波長選択スイッチ3の基本的な構成を示す図である。
【図4】従来技術の問題点を説明するための図である。
【図5】波長選択スイッチのフィルタ透過特性を示す図である。
【図6】従来技術の問題点を説明するための図である。
【図7】従来技術の問題点を説明するための図である。
【図8】第1の実施の形態における光伝送装置の動作を説明するための図である。
【図9】好ましい透過特性を説明するための図である。
【図10】第1式に関連するシミュレーション結果を示す図である。
【図11】第2式に関連するシミュレーション結果を示す
【図12】合波フィルタに相当する装置を示す図である。
【図13】式3に基づく理論値と実測値を示す図である。
【図14】合波フィルタにおける透過スペクトルを示す図である。
【図15】光クロスコネクト装置の構成例を示す図である。
【図16】ビームスポットを小さくすることによる効果を説明するための図である。
【図17】ビームスポットを小さくすることによる効果を説明するための図である。
【図18】ビームサイズを小さくすることによる残留サイドバンドクロストーク削減効果を示す図である。
【図19】MEMSミラーのサイズを小さくすることによる効果を説明するための図である。
【図20】第2の実施の形態における光伝送装置であるROADMの構成を示す図である。
【図21】波長ブロック部の構成例を示す図である。
【図22】波長ブロック部を設置することによるサイドバンドクロストーク削減効果を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 光カプラー
2、3、7、8、11、12、15〜18 波長選択スイッチ
5、6 インタリーバ
13 波長ブロック部
14 急峻化波長選択スイッチ
21、31 波長分離部
22、32 波長選択部
23、33 波長合成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の入力ポートから入力される信号光から特定の波長の信号光を抽出する信号抽出手段と、第2の入力ポートから入力される信号光から前記特定の波長の信号光をブロックした信号光を抽出する信号ブロック手段と、前記信号抽出手段により抽出された信号光と、前記信号ブロック手段により抽出された信号光とを波長多重して出力ポートから出力する手段とを有する波長分離多重手段を備える光伝送装置であって、
Nを前記光伝送装置を含む光伝送ネットワークにおいて信号光が通る光伝送装置の数、αをduty比、βを位相変調では1、強度変調では2とし、γを位相変調では1、強度変調では0.5とし、S(f)を前記特定の波長の信号光の信号スペクトル、Fblockを前記信号抽出手段における透過率、Fthroughを前記信号ブロック手段における透過率、fcを信号のキャリア周波数、fbを信号のボーレートに相当する周波数であるとし、
更に、
【数1】
とした場合において、
所望のOSNRペナルティpに対して、
【数2】
を満たすように透過率を設定した前記信号抽出手段及び前記信号ブロック手段を有する前記波長分離多重手段を備えたことを特徴とする光伝送装置。
【請求項2】
前記光伝送装置は、波長選択スイッチであることを特徴とする請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項3】
前記波長分離多重手段は波長選択スイッチであり、前記光伝送装置は、光信号分岐挿入装置であることを特徴とする請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項4】
前記波長分離多重手段は波長選択スイッチであり、前記光伝送装置は、光クロスコネクト装置であることを特徴とする請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項5】
前記波長分離多重手段は、前記第2の入力ポートから入力される信号光における前記特定の波長の信号光をブロックする波長ブロック手段を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載の光伝送装置。
【請求項1】
第1の入力ポートから入力される信号光から特定の波長の信号光を抽出する信号抽出手段と、第2の入力ポートから入力される信号光から前記特定の波長の信号光をブロックした信号光を抽出する信号ブロック手段と、前記信号抽出手段により抽出された信号光と、前記信号ブロック手段により抽出された信号光とを波長多重して出力ポートから出力する手段とを有する波長分離多重手段を備える光伝送装置であって、
Nを前記光伝送装置を含む光伝送ネットワークにおいて信号光が通る光伝送装置の数、αをduty比、βを位相変調では1、強度変調では2とし、γを位相変調では1、強度変調では0.5とし、S(f)を前記特定の波長の信号光の信号スペクトル、Fblockを前記信号抽出手段における透過率、Fthroughを前記信号ブロック手段における透過率、fcを信号のキャリア周波数、fbを信号のボーレートに相当する周波数であるとし、
更に、
【数1】
とした場合において、
所望のOSNRペナルティpに対して、
【数2】
を満たすように透過率を設定した前記信号抽出手段及び前記信号ブロック手段を有する前記波長分離多重手段を備えたことを特徴とする光伝送装置。
【請求項2】
前記光伝送装置は、波長選択スイッチであることを特徴とする請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項3】
前記波長分離多重手段は波長選択スイッチであり、前記光伝送装置は、光信号分岐挿入装置であることを特徴とする請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項4】
前記波長分離多重手段は波長選択スイッチであり、前記光伝送装置は、光クロスコネクト装置であることを特徴とする請求項1に記載の光伝送装置。
【請求項5】
前記波長分離多重手段は、前記第2の入力ポートから入力される信号光における前記特定の波長の信号光をブロックする波長ブロック手段を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載の光伝送装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−50649(P2010−50649A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212227(P2008−212227)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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