説明

光反射膜の製造方法、光反射膜、及び光学部材

【課題】高い拡散反射率を有する白色フィラーを含む薄膜の光反射膜を効率よく生産する。
【解決手段】水溶性有機溶剤と、水溶性有機溶剤に可溶で、水に難溶性または不溶性のバインダ樹脂と、白色フィラーとを含有する塗布液を調製し、前記塗布液を基材上に塗布して湿潤状態の被覆塗膜を形成し、前記湿潤状態の被覆塗膜を水系溶剤に浸漬し、乾燥することにより多孔質の光反射膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反射膜の製造方法、その製造方法によって製造される光反射膜、及び光反射膜を有する光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
光反射膜は様々な分野で用いられてきており、例えば、ワードプロセッサー、パーソナルコンピュータ、テレビジョンなどの液晶表示装置における光反射板の光学要素として使用されている。液晶表示装置は、薄型で省電力が図り得るものであることが要望される。また、上記のような液晶表示装置には大面積化、表示品位の向上が望まれており、このため大容量の光量を液晶部分に供給することが必要とされる。液晶表示装置の省電力化を可能とし、小型化、薄型化を図り、バックライトユニットから供給される光量を多くするためには、光反射膜の反射効率が高くなければならず、高輝度が得られる光反射膜が要求されている。
【0003】
従来の光反射板などの光反射膜を有する光学部材としては、例えばアルミニウムなどの金属板上に酸化チタンからなる白色フィラーを含有する樹脂溶液を塗布することによって形成した光反射膜を有する光反射板が提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、この種の光反射膜は白色フィラーでのみ光が拡散反射されるため、反射効率が低い。このため、上記のような光反射膜以外に、ポリエチレンテレフタレートに微粒子炭酸カルシウムからなる白色フィラーを含有させたポリマチップを溶融押出し、二軸延伸することにより、フィルム中に白色フィラーとボイドとを有する白色ポリエチレンテレフタレートフィルムも提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−172735号公報
【特許文献2】特開昭63−161029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような白色フィラーとボイドとを有する光反射膜は、白色フィラーを含有するポリマチップの延伸により作製されているため、厚みが数100μmとなり、高い剛性を有している。このため、このような白色ポリエチレンテレフタレートフィルムは平坦な箇所にしか配置することができないという問題がある。特に、最近では液晶表示装置の省電力化、小型化により、光反射膜が利用される光学部材も不規則な形状となってきているため、上記のような厚みの大きな高剛性の光反射膜を利用することができない。特許文献2のような二軸延伸によって作製される白色ポリエチレンテレフタレートフィルムは延伸倍率を大きくすることにより薄層化することもできるが、それによって透過率が増加し、拡散反射率が低下する。さらに、光源のランプホルダや導光板に光反射膜を配置する場合、これらの光学部材に光反射膜を直接設けることができれば、光量のロスを低減することができ、高い拡散反射率を得ることができる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高い拡散反射率を有する白色フィラーを含む薄膜の光反射膜を効率よく生産することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水溶性有機溶剤と、前記水溶性有機溶剤に可溶で、水に難溶性または不溶性のバインダ樹脂と、白色フィラーとを含有する塗布液を調製し、
前記塗布液を基材上に塗布して湿潤状態の被覆塗膜を形成し、
前記湿潤状態の被覆塗膜を水系溶剤に浸漬し、乾燥することにより多孔質の光反射膜を形成する、光反射膜の製造方法である。
上記製造方法によれば、水溶性有機溶剤と、水溶性有機溶剤に可溶で、水に難溶性または不溶性のバインダ樹脂と、白色フィラーとを含有する塗布液を基材上に塗布することにより、薄膜の被覆塗膜を形成することができる。そして、形成される被覆塗膜が湿潤状態にあるうちに水系溶剤に浸漬することにより、バインダ樹脂が被覆塗膜から流出することなく、被覆塗膜中の水溶性有機溶剤が水系溶剤に置換される。すなわち、被覆塗膜中に含有されているバインダ樹脂は水に難溶性または不溶性であるため、水系溶剤への浸漬によってバインダ樹脂は被覆塗膜から流出しないが、被覆塗膜中の水溶性有機溶剤は水との混和性を有するため、被覆塗膜を水系溶剤に接触させることにより該水系溶剤が被覆塗膜中に浸入し、水溶性有機溶剤が水系溶剤に置換される。この置換された水系溶剤に対してバインダ樹脂は難溶性または不溶性であるため、乾燥時に白色フィラーとバインダ樹脂とによって形成された構造が大きく崩れることなく水系溶剤が被覆塗膜中から蒸発する。このため、空孔を有する多孔質の光反射膜を形成することができる。
【0007】
前記塗布液は、水溶性有機溶剤として、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、ノルマルプロパノール、エタノール、及びメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。上記水溶性有機溶剤は水系溶剤との混和性に優れるため、被覆塗膜中の水溶性有機溶剤が水系溶剤に十分に置換される。
【0008】
また、前記被覆塗膜と接触させる水系溶剤は、90℃以下の温度を有することが好ましい。上記製造方法によれば、水系溶剤の被覆塗膜中への浸入が速くなり、水溶性有機溶剤と水系溶剤との置換を円滑に行うことができるとともに、基材や被覆塗膜の損傷が抑えられる。
【0009】
そして、本発明は上記製造方法によって製造される光反射膜である。上記製造方法によれば、白色フィラーを含有する塗布液を用いて光反射膜が形成されるため、薄膜の光反射膜を形成することができる。
【0010】
また、本発明は、上記光反射膜を有する光学部材である。上記製造方法によれば、白色フィラーを含有する塗布液を用いて光反射膜が形成されるため、不規則な形状を有する光学部材を基材として用いても、該光学部材に光反射膜を直接形成することができる。
【0011】
上記光学部材は、基材としてプラスチックフィルムまたは金属板が用いられてもよい。光反射板などの光学部材の基材としてプラスチックフィルムを用いれば、柔軟性に優れた光学部材を作製することができる。また、金属板からなる基材は反射率が高いため、さらに拡散反射率を向上することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、拡散反射率に優れた白色フィラーを含有する薄膜の光反射膜を効率よく生産することができる。また、本発明によれば、塗布によって光反射膜を形成することができるため、光学部材へ光反射膜を直接形成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施の形態の光反射膜の製造においては、まず水溶性有機溶剤と、水溶性有機溶剤に可溶で、水に難溶性または不溶性のバインダ樹脂と、白色フィラーとを含有する塗布液が調製される。
【0014】
白色フィラーとしては、従来公知の有機フィラー、無機フィラーを制限なく用いることができる。有機フィラーとしては、具体的には、例えば、密実型・中空型・貫通孔型の形状を有するポリスチレン系樹脂、スチレン−アクリル共重合体系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂などからなるフィラーが挙げられる。また、無機フィラーとしては、具体的には、例えば、クレー、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。これらの中でも、隠蔽性が高く、高い拡散反射率が得られる酸化チタンが好ましい。酸化チタンはその製造法、表面処理の有無、種類などに制限はないが、隠蔽性が高く、白色度が高いものが好ましい。中でも塩素法で作られたルチル型酸化チタンをアルミナ、シリカ、チタニアなどで表面処理したものが好ましい。粒子径は拡散反射率、隠蔽性などの特性や製造工程中の沈降などを考慮に入れると0.1〜1μm程度が好ましい。市場で入手可能な塩素法酸化チタンとしては、例えば、デュポン社製のタイキュアーR931、同R906、同R960;石原産業社製のタイペークCR−50、同CR−50−2、同CR−57、同CR−SUPER70、同CR−80、同CR−90、同CR−90−2、同CR−93、同CR−95、同CR−953、同CR−97、同CR−60、同CR−60−2、同CR−63、同CR−67、同CR−58、同CR−58−2、同CR−85;テイカ社製のJR−301、同403、同405、同600A、同600E、同603、同605、同701、同800、同805、同806などが挙げられる。
【0015】
白色フィラーの量は、バインダ樹脂100質量部に対して150〜500質量部が好ましい。上記範囲であれば、白色フィラーの分散性に優れた塗布液を調製することができ、高い拡散反射率が得られる。
【0016】
バインダ樹脂は、使用される水溶性有機溶剤への溶解性が高く、水に難溶性または不溶性の樹脂であれば特に制限されることなく用いることができる。このようなバインダ樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロースなどのホモポリマーまたはコポリマーが挙げられる。これらは単独または複数混合して用いることができる。アクリル系樹脂としては、具体的には、ジョンソンポリマー社製のジョンクリル、積水化学社製のエスレックPなどが挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、具体的には、ユニチカ社製のエリーテル、東洋紡社製のバイロンなどが挙げられる。ポリウレタン系樹脂としては、具体的には、東洋紡社製のバイロンUR、大日精化社製のNT−ハイラミック、大日本インキ化学工業社製のクリスボン、日本ポリウレタン社製のニッポランなどが挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、日信化学工業社製のSOLBIN、積水化学社製のセキスイPVC−TG、セキスイPVC−HA、ダウ・ケミカル社製のUCARシリーズ、日本ゼオン社製のMRシリーズなどが挙げられる。ニトロセルロースとしては、具体的には、旭化成社製のHIG、LIG、SL、VX、ダイセル化学社製の工業用ニトロセルロースRS、同SSなどが挙げられる。
【0017】
バインダ樹脂の分子量は、特に限定されるものではないが、重量平均分子量で、2,000〜100,000が好ましく、5,000〜80,000がより好ましく、10,000〜50,000が最も好ましい。2,000以上の重量平均分子量を有するバインダ樹脂であれば、塗布液の粘度を向上することができ、基材に対する白色フィラーの定着性を高めることができるため、光反射膜の強度を向上することができる。一方、100,000以下の重量平均分子量を有するバインダ樹脂であれば、塗布液の流動性を向上することができ、薄膜の光反射膜を均一に形成することができる。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算分子量として求められる値である。
【0018】
水溶性有機溶剤としては、上記バインダ樹脂の溶解性に優れ、水と混和性を有する有機溶剤であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、ノルマルプロパノール、エタノール、メタノールなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。これらの中でも、ジメチルホルムアミドはバインダ樹脂の溶解性及び水との混和性に優れるため好ましい。
【0019】
本実施の形態において、好適なバインダ樹脂と水溶性有機溶剤との組み合わせとしては、塩化ビニル系樹脂とジメチルホルムアミドとの組み合わせ、ポリエステル系樹脂とジメチルホルムアミドまたはテトラヒドロフランとの組み合わせが挙げられる。
【0020】
本実施の形態においては、本発明の目的を妨げない範囲で、蛍光顔料、架橋剤、顔料分散剤、酸化防止剤、光安定化剤などの他の添加剤を使用してもよい。蛍光顔料としては、具体的には、例えば、チバ社製のUVITEX OB、ハッコーケミカル社製のシゲノックスUなどが挙げられる。蛍光顔料の量は、バインダ樹脂100質量部に対して、12質量部以下が好ましい。架橋剤としては、カルボキシル基や水酸基を有するバインダ樹脂に対しこれらの官能基と反応しうる多官能性化合物であるジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物、ポリエポキシ化合物、各種金属塩、キレート化合物などが挙げられる。架橋剤の量は、バインダ樹脂100質量部に対して、20質量部以下が好ましい。顔料分散剤としては、具体的には、例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE、ビックケミー社製のDISPERBYK、エフカアディティブズ社製のEFKA、楠本化成社製のDISPARLON、共栄社化学社製のフローレンG、TGシリーズ、DOPA、AFなどが挙げられる。顔料分散剤の量は、白色フィラー100質量部に対して、30質量部以下が好ましい。酸化防止剤及び光安定化剤としては、具体的には、例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、t−ブチルカテコール、ピロガロール、チバ社製のTINUVIN111 FDL、TINUVIN123、同144、同292、同XP40、同XP60などが挙げられる。酸化防止剤及び光安定化剤の量は、バインダ樹脂100質量部に対して、5質量部以下が好ましい。
【0021】
本実施の形態において、塗布液の調製方法としては、特に限定されるものはないが、上記の白色フィラー、バインダ樹脂と、必要に応じて、蛍光顔料、架橋剤、顔料分散剤、酸化防止剤、光安定化剤などの添加剤とを水溶性有機溶剤に添加し、混合・撹拌装置を用いて分散させる方法が挙げられる。このような混合・撹拌装置としては、ディスパなどの混合機;ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミルなどの容器駆動媒体ミル;サンドミルなどの高速回転ミル;撹拌槽型ミルなどの媒体撹拌ミルなどを用いることができる。塗布液の粘度は、特に限定されるものではないが、E型粘度計で測定したときに、20〜2,000mPa・s(25℃)程度が好ましい。上記範囲であれば、塗布液が粘性を有するため、湿潤状態の被覆塗膜を水系溶剤に浸漬させたときに被覆塗膜の流出が抑えられる。塗布液の粘度は、白色フィラー及びバインダ樹脂が上記範囲にある塗布液で水溶性有機溶剤の量を増減することにより調整することができる。
【0022】
次に、上記のようにして調製された塗布液を基材上に塗布することにより湿潤状態の被覆塗膜を形成する。本実施の形態によれば、塗布液が用いられるため、ランプホルダや導光板などの光学部材を基材として用い、該光学部材上に光反射膜を直接形成することもできる。このように光反射膜を光学部材上に直接形成することができるため、不規則な形状を有する光学部材であっても、光反射膜と光学部材との間に隙間が発生せず、光学部材の形状に沿った形態を有する光反射膜を配置することができる。そして、光反射膜と光学部材との間に隙間が発生しないため、光量のロスを抑えることもできる。また、光反射板などに光反射膜を形成する場合、基材としては、プラスチックフィルムまたは金属板を用いることができる。プラスチックフィルムを用いれば、柔軟性に優れる光学部材を作製することができる。また、金属板を用いれば、さらに拡散反射率を高めることができる。プラスチックフィルムとしては、具体的には、例えば、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリスチレン系、ポリカーボネート系、アクリロニトリル系、ポリアクリル酸エステル系、ポリ塩化ビニル系、セルロース系などのフィルムが挙げられる。さらに、従来公知の白色フィラーを含有するポリエチレンテレフタレートを用いてもよい。金属板としては、具体的には、例えば、アルミニウム板などが挙げられる。
【0023】
塗布液を塗布する方法としては、従来公知の方法を使用することができる。このような塗布方法としては、具体的には、例えば、バーコート法、スロットダイコート法、グラビアコート法、リバースロールコート法、マイクログラビアコート法、ディップコート法、カーテンコート法などが挙げられる。
【0024】
被覆塗膜の厚さとしては、特に限定されるものではないが、5〜50μmが好ましい。上記範囲であれば、薄膜の光反射膜を形成することができるとともに、光反射膜中に空孔を多く形成することができ、高い拡散反射率を得ることができる。
【0025】
次に、上記のようにして形成した被覆塗膜が湿潤状態にあるうちに水系溶剤に浸漬し、乾燥する。被覆塗膜が湿潤状態にあるうちに水系溶剤に浸漬させることにより、被覆塗膜中のバインダ樹脂を流出させることなく、水溶性有機溶剤を水系溶剤に置換することができる。すなわち、被覆塗膜中に含有されているバインダ樹脂は水に難溶性または不溶性であるため、水系溶剤への浸漬によってバインダ樹脂は被覆塗膜から流出しないが、被覆塗膜中の水溶性有機溶剤は水との混和性を有するため、被覆塗膜が水系溶剤と接触すると該水系溶剤が被覆塗膜中に浸入し、水溶性有機溶剤が水系溶剤と混和することにより、水溶性有機溶剤の一部または全部が水系溶剤に置換される。この被覆塗膜中に水系溶剤が含有された状態で乾燥することにより、空孔を有する多孔質の光反射膜を形成することができる。この空孔が形成される現象は、溶剤の種類により乾燥時に被覆塗膜から溶剤が蒸発していくときの状態が相違するためと考えられる。バインダ樹脂を溶解可能な溶剤である水溶性有機溶剤が被覆塗膜中に存在する場合、乾燥時に白色フィラー間に存在する水溶性有機溶剤にバインダ樹脂が溶解されつつ高濃度になりながら該溶剤が減少していく。このため、水溶性有機溶剤が蒸発すると水溶性有機溶剤が存在していた部分にはバインダ樹脂が充填されるため、空孔が形成され難い。これに対し、被覆塗膜中に浸入した水系溶剤に対してバインダ樹脂は難溶性または不溶性であるため、乾燥時に水系溶剤が減少していってもバインダ樹脂が水系溶剤に溶解してこず、白色フィラーとバインダ樹脂とによって形成された構造が大きく崩れることなく水系溶剤が被覆塗膜中から蒸発する。このため、水系溶剤が存在していた部分が空孔となり、多孔質の光反射膜が形成されると推測される。
【0026】
水系溶剤としては、水または水を主体とする溶剤が挙げられる。水以外の溶剤としては、上記の水溶性有機溶剤が挙げられる。水と水溶性有機溶剤とを含有する混合溶剤を用いた場合、被覆塗膜中に混合溶剤が浸入するため、大きさ、数などの空孔の形成状態が水単独の場合と異なる多孔質の光反射膜を形成することができる。従って、拡散反射率の異なる光反射膜を形成することも可能である。ただし、水系溶剤中の水溶性有機溶剤の量が多いと空孔が減少するため、水系溶剤中の水の含有量は50体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましく、水単独が最も好ましい。また、水系溶剤の温度は、90℃以下が好ましく、15〜90℃がより好ましく、70〜90℃が最も好ましい。高温の水系溶剤を使用することにより、水系溶剤の被覆塗膜中への浸入が速くなり、水溶性有機溶剤と水系溶剤との置換を円滑に行うことができる。また水系溶剤の温度が90℃以下であれば、熱による基材や被覆塗膜の損傷が抑えられる。被覆塗膜の水系溶剤への浸漬時間は、特に限定されるものではないが、5秒〜1分程度が好ましく、高温の水系溶剤を使用する場合には、5〜10秒程度が好ましい。上記範囲内であれば、水系溶剤を被覆塗膜中に十分浸入させることができるとともに、被覆塗膜の基材からの剥離を防止することができる。
乾燥温度は、特に限定されるものではないが、25〜70℃が好ましい。上記範囲であれば、被覆塗膜を短時間で乾燥することができる。
【0027】
図1は、後述する実施例1の光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX−600)により観察した写真であり、図2は、被覆塗膜を水系溶剤に浸漬することなく形成された比較例1の光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープにより観察した写真である。図1に示すように、本実施の形態の光反射膜は、光反射膜中に多数の空孔が形成されており、多孔質の光反射膜であることが分かる。これに対して、図2に示すように、水系溶剤に浸漬することなく形成された光反射膜は、光反射膜中に空孔が形成されていないことが分かる。このため、本実施の形態の光反射膜は、白色フィラーだけでなく、多数の空孔による反射も得られ、高い拡散反射率を達成することができる。
【0028】
また、上記の製造方法によれば、塗布によって光反射膜を形成することができるため、薄い膜厚の光反射膜とすることができる。例えば、100μm以下の光反射膜も容易かつ均一に形成することができる。光反射膜の膜厚の下限は、特に限定されるものではないが、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下で、「部」とあるのは、「質量部」を意味する。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
下記表1の塗料成分を分散機で分散させて、塗布液(粘度:890mPa・s[25℃])を調製した。
【0030】
【表1】

【0031】
上記塗布液を、易接層付きポリエチレンテレフタレートフィルム上にバーコータを用いて約20μmの厚さを有する被覆塗膜を形成した。この被覆塗膜が湿潤状態にあるうちに、90℃の水に10秒間浸漬し、25℃で風乾して、厚み10μm(ニコン社製,DIGIMICRO MFC−101により測定)の光反射膜を形成した。得られた光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープで観察したところ、多孔質の光反射膜であることが確認された。
【0032】
(実施例2)
下記表2の塗料成分を分散機で分散させて、塗布液(粘度:680mPa・s[25℃])を調製した。
【0033】
【表2】

【0034】
上記塗布液を用いた以外は、実施例1と同様にして、光反射膜を作製した。得られた光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープで観察したところ、多孔質の光反射膜であることが確認された。
【0035】
(実施例3)
下記表3の塗料成分を分散機で分散させて、塗布液(粘度:590mPa・s[25℃])を調製した。
【0036】
【表3】

【0037】
上記塗布液を用いた以外は、実施例1と同様にして、光反射膜を作製した。得られた光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープで観察したところ、多孔質の光反射膜であることが確認された。
【0038】
(比較例1)
被覆塗膜を形成した後、水に浸漬することなく、乾燥を行って光反射膜を形成した以外は、実施例1と同様にして光反射膜を作製した。得られた光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープで観察したところ、空孔が形成されていないことが確認された。
【0039】
(比較例2)
被覆塗膜を形成した後、水に浸漬することなく、乾燥を行って光反射膜を形成した以外は、実施例2と同様にして光反射膜を作製した。得られた光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープで観察したところ、空孔が形成されていないことが確認された。
【0040】
(比較例3)
被覆塗膜を形成した後、水に浸漬することなく、乾燥を行って光反射膜を形成した以外は、実施例3と同様にして光反射膜を作製した。得られた光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープで観察したところ、空孔が形成されていないことが確認された。
以上のようにして作製した実施例及び比較例の各光反射膜について、以下の拡散反射率を評価した。表4は、この結果を示す。
【0041】
<拡散反射率>
拡散反射率は、日本分光社製の紫外可視分光光度計V−570(積分球使用)を用い、波長550nmでの反射光量を測定し、標準白色板(Labsphere社製,スペクトラロン)の反射光量を100としたときの百分率で評価した。
【0042】
【表4】

【0043】
上記表4に示すように、実施例1〜3の光反射膜は、水系溶剤への浸漬により多孔質の光反射膜が形成されているため、薄膜であっても、比較例1〜3の光反射膜に比べて、高い拡散反射率を有することが分かる。従って、上記実施例によれば、拡散反射率に優れた薄膜の光反射膜を簡易な方法により効率よく作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例1の光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープにより観察した写真である。
【図2】本発明の比較例1の光反射膜の表面をデジタルマイクロスコープにより観察した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射膜の製造方法であって、
水溶性有機溶剤と、前記水溶性有機溶剤に可溶で、水に難溶性または不溶性のバインダ樹脂と、白色フィラーとを含有する塗布液を調製し、
前記塗布液を基材上に塗布して湿潤状態の被覆塗膜を形成し、
前記湿潤状態の被覆塗膜を水系溶剤に浸漬し、乾燥することにより多孔質の光反射膜を形成する、製造方法。
【請求項2】
前記塗布液は、前記水溶性有機溶剤として、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、ノルマルプロパノール、エタノール、及びメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記被覆塗膜と接触させる水系溶剤は、90℃以下の温度を有する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の製造方法によって製造される光反射膜。
【請求項5】
請求項4に記載の光反射膜を有する光学部材。
【請求項6】
前記基材が、プラスチックフィルムまたは金属板からなる請求項5に記載の光学部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−98245(P2009−98245A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267519(P2007−267519)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】