説明

光反応性基含有シロキサン化合物、その製造方法及び熱硬化性樹脂組成物、その硬化皮膜を有する物品

【課題】支持基体に対して、耐擦傷性、耐クラック性、汚染物質に対する防汚効果やマジックインキの拭き取り性を付与できる光反応性基含有シロキサン化合物、その製造方法及び熱硬化性樹脂組成物、その硬化皮膜を有する物品を提供する。
【解決手段】(a)式(1)〜(5)の光反応性基含有アルコキシシランから選ばれる1種又は2種以上であって、1種の場合はトリアルコキシシラン、2種以上の場合は70mol%以上がトリアルコキシシランである光反応性基含有アルコキシシラン、
及び(b)式(6)で示される両末端加水分解性基含有ジメチルシロキサン
を含有する系を塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合することで得られる光反応性基含有シロキサン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な光反応性基含有シロキサン化合物、その製造方法、並びに塗料、コーティング等に用いられる光硬化性樹脂組成物、及びその硬化皮膜を有する物品に関するもので、更に詳しくは、高硬度、耐クラック性という相反する特徴を併せもつとともに、耐汚染性に優れた光硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、トリアセチルセルロース樹脂等の合成樹脂は、軽量・透明性・易加工性等の利点を有する。そこで、そのような合成樹脂は、近年、CD、DVD等の光ディスク、液晶、ELパネル等の表示窓、各種機能性フィルム等、種々の分野で利用されている。
【0003】
それらの表面には、その使用に際して各種汚染物質による汚染や指紋の付着が起こる。これら汚染や指紋の付着は好ましいことではなく、光情報媒体の表面に、防汚性の改善、指紋付着性の減少、又は指紋除去性の向上のために適切な表面処理が施されることもある。例えば、光情報媒体表面に種々の撥水・撥油処理を施すことが検討されている。
【0004】
また、それらの表面の耐擦傷性を向上させるために、透明で且つ耐擦傷性を有するハードコートを媒体の記録及び/又は再生ビーム入射側表面に形成することが一般的に行われている。ハードコートの形成は、分子中に(メタ)アクリロイル基等の光反応性基を2個以上有する化合物や、(メタ)アクリロイル基等の光反応性基を有するアルコキシシランを塩基性触媒存在下で加水分解縮合した籠型構造のシロキサン化合物(特開2002−363414号、特開2004−143449号公報:特許文献1,2)や、光反応性基を有するアルコキシシランとコロイダルシリカの反応物等を含有する組成物を媒体表面に塗布し、これを紫外線等の活性エネルギー線の照射により硬化させることにより行われる。しかしながら、このようなハードコートは耐擦傷性の向上のみを目的とするため、耐クラック性に劣るうえ、指紋汚れ等の汚染物質に対する防汚効果やマジックインキの拭き取り性を期待することはできない。
【0005】
そこで、重合性官能基を有するアルコキシシランとパーフルオロアルキル基を有するアルコキシシランを塩基性触媒存在下で加水分解縮合した籠型構造のシロキサン化合物が提案されている(特許第3603133号、特許第3572989号公報:特許文献3,4)。この化合物を含有する組成物を硬化させた被膜は、オレイン酸の接触角等が高くなり、防汚性の向上は期待されるが、マジックインキの拭き取り性は不十分であるうえに、耐磨耗性等が著しく低下してしまう。
【0006】
【特許文献1】特開2002−363414号公報
【特許文献2】特開2004−143449号公報
【特許文献3】特許第3603133号公報
【特許文献4】特許第3572989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、支持基体に対して、耐擦傷性、耐クラック性、指紋汚れ等の汚染物質に対する防汚効果やマジックインキの拭き取り性を付与させることができる光反応性基含有シロキサン化合物、その製造方法及び熱硬化性樹脂組成物、その硬化皮膜を有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(a)下記一般式(1)〜(5)で表される光反応性基含有アルコキシシランから選ばれる1種又は2種以上であって、1種の場合はトリアルコキシシラン、2種以上の場合は70mol%以上がトリアルコキシシランである光反応性基含有アルコキシシラン、(b)下記一般式(6)で示される両末端加水分解性基含有ジメチルシロキサン及び(d)アルコール、好ましくは更に(c)他のアルコキシシランとして、下記一般式(7)で表されるアルコキシシランを含有する系を、塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合し、中性にした後、アルコールを留去することにより得られる光反応性基含有シロキサン化合物が、支持基体に対して、耐擦傷性、耐クラック性、指紋汚れ等の汚染物質に対する防汚効果やマジックインキの拭き取り性を付与させることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記に示す光反応性基含有シロキサン化合物、その製造方法及び熱硬化性樹脂組成物、その硬化皮膜を有する物品を提供する。
〔1〕 (a)下記一般式(1)〜(5)
【化1】

(式中、R1〜R5は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a、b、c、d、eはそれぞれ1〜3の整数である。)
で表される光反応性基含有アルコキシシランから選ばれる1種又は2種以上であって、1種の場合はトリアルコキシシラン、2種以上の場合は70mol%以上がトリアルコキシシランである光反応性基含有アルコキシシラン、
及び
(b)下記一般式(6)
【化2】

(式中、R6は水素原子、メチル基又はエチル基であり、Aは酸素原子又はエチレン基であり、nは5〜100の整数、xは1〜3の整数である。)
で示される両末端加水分解性基含有ジメチルシロキサン
を含有する系を塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合することで得られる光反応性基含有シロキサン化合物。
〔2〕 (a)、(b)成分を含有する系に、更に(c)他のアルコキシシランとして、下記一般式(7)
7fSi(OR84-f (7)
(式中、R7は炭素数1〜10のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を含有する有機基、又はヘキサフルオロプロペンオキサイドを含有する有機基であり、R8は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、fは0〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシランを含有し、この系を塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合することで得られる〔1〕記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
〔3〕 (a)成分が、CH2=CHCOOC36Si(OCH33である〔1〕又は〔2〕記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
〔4〕 (a)成分が、下記式
【化3】

で示されるシランである〔1〕又は〔2〕記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
〔5〕 (b)成分が、下記一般式
【化4】

(式中、nは5〜100の整数である。)
で示される両末端トリメトキシ基封鎖ジメチルシロキサンである〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
〔6〕 塩基性触媒が、テトラアルキルアンモニウムヒドロキサイドである〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
〔7〕 重量平均分子量が5,000以下である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
〔8〕 シラノール含有量が2質量%以下である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
〔9〕 (a)下記一般式(1)〜(5)
【化5】

(式中、R1〜R5は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a、b、c、d、eはそれぞれ1〜3の整数である。)
で表される光反応性基含有アルコキシシランから選ばれる1種又は2種以上であって、1種の場合はトリアルコキシシラン、2種以上の場合は70mol%以上がトリアルコキシシランである光反応性基含有アルコキシシラン、
(b)下記一般式(6)
【化6】

(式中、R6は水素原子、メチル基又はエチル基であり、Aは酸素原子又はエチレン基であり、nは5〜100の整数、xは1〜3の整数である。)
で示される両末端加水分解性基含有ジメチルシロキサン、
及び
(d)アルコール
を含有する系を、塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合し、中性にした後、アルコールを留去することを特徴とする光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
〔10〕 上記(a)、(b)、(d)成分、及び
(c)他のアルコキシシランとして、下記一般式(7)
7fSi(OR84-f (7)
(式中、R7は炭素数1〜10のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を含有する有機基、又はヘキサフルオロプロペンオキサイドを含有する有機基であり、R8は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、fは0〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシランを含有する系を、塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合し、中性にした後、アルコールを留去することを特徴とする〔9〕記載の光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
〔11〕 (a)成分が、CH2=CHCOOC36Si(OCH33である〔9〕又は〔10〕記載の光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
〔12〕 (a)成分が、下記式
【化7】

で示されるシランである〔9〕又は〔10〕記載の光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
〔13〕 塩基性触媒が、テトラアルキルアンモニウムヒドロキサイドである〔9〕〜〔12〕のいずれかに記載の光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
〔14〕 〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の光反応性基含有シロキサン化合物、及び硬化触媒を含有する光硬化性樹脂組成物。
〔15〕 〔14〕記載の光硬化性樹脂組成物の硬化皮膜が形成されてなる物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光反応性基含有シロキサン化合物は、ジメチルシロキサン成分を構造中に導入することによって、得られる被膜の耐クラック性、防汚性が向上するとともに、両末端の加水分解性基によって、ジメチルシロキサン成分が構造中にしっかりと固定されるので、十分な耐磨耗性も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の光反応性基含有シロキサン化合物は、
(a)一般式(1)〜(5)で表される光反応性基含有アルコキシシランから選ばれる1種又は2種以上であって、1種の場合はトリアルコキシシラン、2種以上の場合は70mol%以上がトリアルコキシシランである光反応性基含有アルコキシシラン、
(b)一般式(6)で示される両末端加水分解性基含有ジメチルシロキサン、
好ましくは更に、
(c)他のアルコキシシランとして、一般式(7)で表されるアルコキシシラン
を含有する系を、塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合し、中性にした後、アルコール等を留去することにより得ることができる。
【0012】
(a)光反応性基含有アルコキシシラン
本発明の光反応性基含有アルコキシシランは、下記一般式(1)〜(5)で表されるアルコキシシランから選ばれる1種又は2種以上のアルコキシシランである。
【化8】

(式中、R1〜R5は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a、b、c、d、eはそれぞれ1〜3の整数である。)
【0013】
上記式中、R1〜R5は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、アセチル基であり、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0014】
本発明において、上記光反応性基含有アルコキシシランの1種のみを用いる場合は、トリアルコキシシランを用い、上記光反応性基含有アルコキシシランの2種以上を用いる場合は、70mol%以上、好ましくは75mol%以上がトリアルコキシシランである必要がある。1種のみの場合、トリアルコキシシランとする理由は、全てをモノアルコキシシラン又はジアルコキシシランとした場合、硬化性が悪く、耐摩耗性に優れた皮膜が得られないためである。また全てをテトラアルコキシシランとした場合、合成時にゲル化してしまうためである。また2種以上を混合して用いる場合、その70モル%以上をトリアルコキシシランとする理由は、それ以上にモノアルコキシシラン又はジアルコキシシランを使用すると耐摩耗性に優れた皮膜が得られないためであり、またテトラアルコキシシランを使用するとクラックが発生しやすくなるためである。更に、それらを併用した場合でも性能のバランスをとることは困難となるためである。
【0015】
(a)成分のアルコキシシランとして、具体的には、
CH2=C(CH3)COOC36Si(OCH33
CH2=C(CH3)COOC36Si(OC253
CH2=C(CH3)COOC36SiCH3(OCH32
CH2=C(CH3)COOC36SiCH3(OC252
CH2=C(CH3)COOC36Si(CH32OCH3
CH2=C(CH3)COOC36Si(CH32OC25
CH2=CHCOOC36Si(OCH33
CH2=CHCOOC36Si(OC253
CH2=CHCOOC36SiCH3(OCH32
CH2=CHCOOC36SiCH3(OC252
CH2=CHCOOC36Si(CH32OCH3
CH2=CHCOOC36Si(CH32OC25
【化9】

等が挙げられる。
【0016】
これらの中でも、
CH2=C(CH3)COOC36Si(OCH33
CH2=CHCOOC36Si(OCH33
【化10】

が好ましい。
【0017】
(b)両末端加水分解性基含有ジメチルシロキサン
本発明の両末端加水分解性基含有ジメチルシロキサンは、下記一般式(6)で表されるものである。
【化11】

(式中、R6はH、CH3又はC25であり、AはO又はC24であり、nは5〜100の整数、xは1〜3の整数である。)
【0018】
上記式中、nは5〜100であり、好ましくは5〜50であり、より好ましくは5〜20である。5より小さいと、耐クラック性、防汚性を得ることができず、100より大きいと耐摩耗性が低下してしまう。
【0019】
(b)成分の好ましい化合物としては、下記のものが挙げられる。
【化12】

(式中、nは上記と同じ。)
【0020】
(b)成分の使用割合は、(a)成分100質量部に対して0.01〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5質量部である。0.01質量部より少ないと防汚性が得られなくなる場合があり、10質量部より多いと耐摩耗性が低下してしまう場合がある。
【0021】
(c)他のアルコキシシラン
本発明においては、(a)成分、(b)成分以外にも、特性を損なわない範囲で他のアルコキシシランを用いることができ、具体的には、下記一般式(7)で表されるアルコキシシランを添加することができる。
7fSi(OR84-f (7)
(式中、R7は炭素数1〜10のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を含有する有機基、又はヘキサフルオロプロペンオキサイドを含有する有機基であり、R8は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、fは0〜3の整数である。)
【0022】
上記式中、R7の炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を含有する有機基としては、CF324−、C4924−、C81724−、C81736−等が挙げられ、ヘキサフルオロプロペンオキサイドを含有する有機基としては、C37OC(CF3)FCF2OC(CF3)FCH2OC36−、C37OC(CF3)FCF2OC(CF3)FC(=O)NHC36−、F(C(CF3)FCF2O)6C(CF3)FC(=O)NHC36−、C37O(C36O)m24CH2CH2−(m=2〜100)、(CH33SiOSi(CH3236OCH2CF2(OC24p(OCF2qOCF2CH2OC36−(p,q=2〜100)等が挙げられる。
また、R8は、R1〜R5と同様のものを例示することができる。
【0023】
このようなアルコキシシランとして、具体的には、耐摩耗性を向上させる目的から、
Si(OCH34、Si(OC254
CH3Si(OCH33、CH3Si(OC253
耐クラック性を向上させる目的から、
(CH32Si(OCH32、(CH32Si(OC252
65Si(OCH33、C65Si(OC253
612Si(OCH33、C612Si(OC253
(CH33SiOCH3、(CH33SiOC25
防汚性を向上させる目的から、
37Si(OCH33、C37Si(OC253
613Si(OCH33、C613Si(OC253
1021Si(OCH33、C1021Si(OC253
CF324Si(OCH33、CF324Si(OC253
81724Si(OCH33、C81724Si(OC253
81736Si(OCH33、C81736Si(OC253
37OC(CF3)FCF2OC(CF3)FCH2OC36Si(OCH33
37OC(CF3)FCF2OC(CF3)FCH2OC36Si(OC253
37OC(CF3)FCF2OC(CF3)FC(=O)NHC36Si(OCH33
37OC(CF3)FCF2OC(CF3)FC(=O)NHC36Si(OC253
F(C(CF3)FCF2O)6C(CF3)FC(=O)NHC36Si(OCH33
F(C(CF3)FCF2O)6C(CF3)FC(=O)NHC36Si(OC253
37O(C36O)2324CH2CH2Si(OCH33
37O(C36O)2324CH2CH2Si(OC253
(CH33SiOSi(CH3236OCH2CF2(OC2421(OCF223OCF2CH2OC36Si(OCH33
(CH33SiOSi(CH3236OCH2CF2(OC2421(OCF223OCF2CH2OC36Si(OC253
等が例示できる。
【0024】
(c)成分の使用量は、(a)成分100質量部に対して0〜30質量部であることが好ましく、より好ましくは0〜20質量部である。30質量部より多くなると防汚性が得られなくなるおそれがある。なお、配合する場合は1質量部以上配合することが好ましい。
【0025】
上述したアルコキシ基を含有するシラン化合物及びシロキサン化合物〔(a),(b)成分及び必要により(c)成分〕を、塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合することで光反応性基含有シロキサン化合物を得ることができる。
【0026】
ここで、塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、テトラアルキルアンモニウムヒドロキサイド等が挙げられる。これらの中でも、テトラアルキルアンモニウムヒドロキサイドが好ましい。
塩基性触媒の添加量は、配合したシラン化合物、シロキサン化合物の0.1〜20質量%、特に1〜10質量%であることが好ましい。
【0027】
加水分解縮合に使用する水の量は、配合したシラン化合物、シロキサン化合物のアルコキシ基を全て加水分解縮合するために必要な量より多くするものであり、配合組成中のアルコキシ基1molに対して、水0.55〜10mol、好ましくは0.6〜5molである。0.55molより少ないと、アルコキシ基の加水分解が進まず、10molより多いと縮合が進まず、いずれの場合も未反応のジメチルシロキサンが残ってしまい、被膜表面にハジキ等が発生する。
【0028】
加水分解縮合反応時は、アルコール中で行う必要があり、使用するアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等が挙げられる。
【0029】
上述したシラン化合物、シロキサン化合物、アルコール、塩基性触媒を配合し、水を添加して加水分解縮合を進める。この時の反応温度は0℃〜200℃であり、好ましくは0℃〜50℃である。
【0030】
加水分解縮合後、酸で中和もしくは水洗することで中性とした後、アルコール等を留去することで実質的に溶剤等を含まなくても安定性に優れた光反応性基含有シロキサン化合物を得ることができる。
【0031】
このようにして得られた光反応性基含有シロキサン化合物の重量平均分子量は、5,000以下であることが好ましく、より好ましくは1,500〜4,000である。1,500より小さいと、縮合が不足しており、保存安定性が悪く、未反応のジメチルシロキサンが残ってしまい、被膜表面にハジキ等が発生する場合がある。5,000より大きいと、粘度が高くなり、ハンドリングが困難になるおそれがある。
【0032】
また、得られた光反応性基含有シロキサン化合物中のシラノール含有量は、2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。2質量%より多いと保存安定性等の問題が発生するおそれがある。
【0033】
上記で得られた光反応性基含有シロキサン化合物と硬化触媒とを混合することにより、光硬化性樹脂組成物を得ることができ、これは光により硬化するものである。
【0034】
ここで、硬化触媒としては、ラジカル開始剤又はカチオン触媒を用いることができる。
ラジカル開始剤としては、アセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の通常のものから選択することができる。例えば、ダロキュアー1173、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア907(いずれもチバスペシャルティケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0035】
カチオン触媒としては、オニウム塩系光開始剤が好ましく、下記一般式で表されるジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、モノアリールジアルキルスルホニウム塩、トリアリールセレノニウム塩、テトラアリールホスホニウム塩、アリールジアゾニウム塩等が挙げられる。
【0036】
92+-
93+-
9210+-
9102+-
93Se+-
94+-
92+-
(式中、R9は炭素数6〜30のアリール基、R10は炭素数1〜30のアルキル基であり、X-はSbF6-、AsF6-、PF6-、BF4-、B(C654-、HSO4-、ClO4-、Cl-又はCF3SO3-等の陰イオンである。)
【0037】
特に、相溶性の観点から、下記一般式で示されるものが好ましい。
112+-
(R11は−C64−R12であり、R12は炭素数6以上、好ましくは6〜24、特に6〜18のアルキル基である。)
【0038】
ここで、R12の炭素数6以上のアルキル基としては、C613、C715、C817、C919、C1021、C1123、C1225、C1327、C1429、C1531、C1633、C1735、C1837等が挙げられ、特にC1225が好ましい。
【0039】
硬化触媒の配合量は、光反応性基含有シロキサン化合物100質量部に対して0.1〜15質量部配合することができる。好ましい配合量は0.5〜10質量部であり、0.1質量部より少ないと硬化性が悪化する場合があり、15質量部より多いと表面の硬度が低下するおそれがある。
【0040】
本発明の光硬化性樹脂組成物には、更に必要に応じて、多官能(メタ)アクリレート、金属酸化物微粒子、シランカップリング剤、非重合性の希釈溶剤、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤などを含んでいても差し支えない。
【0041】
多官能(メタ)アクリレートとしては、硬化性成分の主成分であり、硬化後に得られる被膜のマトリックスを形成するものである。多官能(メタ)アクリレートは、分子内に2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物であり、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、エステルアクリレート等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
金属酸化物微粒子としては、例えば、Si、Ti、Al、Zn、Zr、In、Sn、Sb等の酸化物微粒子、あるいはこれらの複合酸化物粒子等が挙げられる。また表面をシリカ、アルミナ等で被覆したものを使用してもよい。金属酸化物微粒子として具体的には、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の微粒子が挙げられ、シリカ微粒子が好ましい。このような金属酸化物微粒子を添加することにより、耐摩耗性等の特性をより高めることができる。
【0043】
また、シリカ微粒子は、低屈折率等の効果が期待される中空、多孔質のものを使用してもよい。
前記シリカ微粒子の中でも、活性エネルギー線反応性基を有する加水分解性シラン化合物によって表面修飾されたものが好ましく用いられる。このような反応性シリカ微粒子は、ハードコートを硬化させる際の活性エネルギー線照射によって、架橋反応を起こし、ポリマーマトリックス中に固定される。
【0044】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、表面に防汚層の付与が必要とされる物品、特に再生専用光ディスク、光記録ディスク、光磁気記録ディスク等の光情報媒体の表面、より詳しくは、記録あるいは再生ビーム入射側表面や、光学レンズ、光学フィルター、反射防止膜、及び液晶ディスプレー、CRTディスプレー、プラズマディスプレー、ELディスプレー等の各種表示素子等の表面に塗布し、硬化被膜とすることにより、これらの表面の耐擦傷性、耐クラック性、指紋汚れ等の汚染物質に対する防汚効果やマジックインキの拭き取り性を付与することができ、この硬化被膜を有する物品は、防汚性及び潤滑性に優れると共に耐擦傷性及び耐摩耗性にも優れるものとなり得る。
【0045】
上記光硬化性樹脂組成物の被膜を形成する方法としては、スピンコート法等により被膜を作製することができる。
形成された被膜の膜厚は、0.1〜50μm、特に0.5〜30μmの範囲にあることが好ましい。膜厚が薄すぎると耐摩耗性が低下する場合があり、また厚すぎると耐クラック性が低下する場合がある。
【0046】
光硬化性樹脂組成物を硬化させるための光源としては、通常、200〜450nmの範囲の波長の光を含む光源、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯等を使用することができる。照射量は特に制限されないが、10〜5,000mJ/cm2、特に20〜1,000mJ/cm2であることが好ましい。硬化時間は通常0.5秒〜2分、好ましくは1秒〜1分である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、揮発分はJIS C 2133に、屈折率はJIS K 0062に、OH量はJIS K 0070に準じてそれぞれ測定した値であり、粘度はB型粘度計により測定した25℃における値を示し、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、HLC−8220東ソ社製)を用いてTHF(テトラヒドロフラン)を溶媒として測定した値である。
耐マジックインキ性は、硬化被膜に市販の油性マジックインキで線を描き、ウエスで拭き取ったときの拭き取り性を目視で観察した。
防汚性は、水接触角とオレイン酸接触角を接触角計(CA−X150型、協和界面科学製)を用いて測定した(接触角が大きいものほど防汚性に優れる)。
耐擦傷性、耐磨耗性は、ASTMD 1044に準拠し、テーバー磨耗試験機(磨耗輪CS−10F使用)を用いて硬化被膜の磨耗試験を行い、磨耗試験前後の硬化被膜の濁度を濁度計(NDH2000、日本電色工業製)を用いて測定し、磨耗試験後の濁度−磨耗試験前の濁度をΔHazeとした(ΔHazeは15以下の場合に耐擦傷性、耐磨耗性は良好である)。
【0048】
[実施例1]
CH2=CHCOOC36Si(OCH33を234.0質量部(1.00mol)、下記式
【化13】

で示される両末端トリメトキシ基封鎖ジメチルシロキサンを5.5質量部(0.0054mol)、イソプロピルアルコールを681.6質量部反応器中に配合し、均一になったところで10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドメタノール溶液31.2質量部、アルコキシ基に対して2倍molの水108.8質量部(水6.04mol)を添加し、25℃で12時間撹拌した。トルエンを投入して水洗し、中性化した後、メタノール、トルエン等を留去した。
得られた反応物は、揮発分0.6%、粘度89,000mPa・s、屈折率1.4790、OH量0.3質量%、重量平均分子量3,000であった。この反応物は、赤外吸収光分析、核磁気共鳴分析の結果から加水分解縮合が理想どおり進行し、アクリル基を含有するシロキサン化合物であることを確認した。
【0049】
得られた化合物100質量部をダロキュアー1173(ラジカル開始剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名)5質量部と混合し、これをポリカーボネートに厚さ5μmとなるように塗布し、80W高圧水銀灯で光を2秒間照射し(積算照射量200mJ/cm2)、硬化させた。
得られた被膜の耐マジックインキ性は合格であり、水接触角95°、オレイン酸接触角44°と防汚性が得られた。更にテーバー磨耗性試験(500g荷重100回転)ではΔHazeは8と耐磨耗性も高かった。
【0050】
[実施例2]
下記式
【化14】

で示されるアルコキシシラン320.0質量部(1.00mol)、下記式
【化15】

で示される両末端トリメトキシ基封鎖ジメチルシロキサン5.5質量部(0.0054mol)、イソプロピルアルコール869.8質量部を反応器中に配合し、均一になったところで10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドメタノール溶液39.2質量部、アルコキシ基に対して2倍molの水108.8質量部(水6.04mol)を添加し、25℃で12時間撹拌した。トルエンを投入して水洗し、中性化した後、メタノール、トルエン等を留去した。
得られた反応物は、揮発分0.5%、粘度78,000mPa・s、屈折率1.4810、OH量0.3質量%、重量平均分子量3,200であった。この反応物は、赤外吸収光分析、核磁気共鳴分析の結果から加水分解縮合が理想どおり進行し、アクリル基を含有するシロキサン化合物であることを確認した。
【0051】
得られた化合物100質量部をC1225−C64−I+−C64−C1225 SbF6- 1質量部と混合し、これを実施例1と同様に塗布して硬化させた。
得られた被膜の耐マジックインキ性は合格であり、水接触角91°、オレイン酸接触角42°と防汚性が得られた。更にテーバー磨耗性試験(500g荷重100回転)ではΔHazeは10と耐磨耗性も高かった。
【0052】
[実施例3]
CH2=CHCOOC36Si(OCH33を227.0質量部(0.97mol)、C81724Si(OCH33を17.0質量部(0.03mol)、下記式
【化16】

で示される両末端トリメトキシ基封鎖ジメチルシロキサンを1.1質量部(0.0011mol)、イソプロピルアルコールを715.8質量部反応器中に配合し、均一になったところで10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドメタノール溶液32.3質量部、アルコキシ基に対して2倍molの水108.2質量部(水6.01mol)を添加し、25℃で12時間撹拌した。トルエンを投入して水洗し、中性化した後、メタノール、トルエン等を留去した。
得られた反応物は、揮発分0.6%、粘度72,000mPa・s、屈折率1.4690、OH量0.4質量%、重量平均分子量3,400であった。この反応物は、赤外吸収光分析、核磁気共鳴分析の結果から加水分解縮合が理想どおり進行し、アクリル基を含有するシロキサン化合物であることを確認した。
【0053】
得られた化合物100質量部をダロキュアー1173(ラジカル開始剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名)5質量部と混合し、これを実施例1と同様に塗布して硬化させた。
得られた被膜の耐マジックインキ性は合格であり、水接触角105°、オレイン酸接触角66°と防汚性が得られた。更にテーバー磨耗性試験(500g荷重100回転)ではΔHazeは11と耐磨耗性も高かった。
【0054】
[実施例4]
CH2=CHCOOC36Si(OCH33を227.0質量部(0.97mol)、F(C(CF3)FCF2O)6C(CF3)FC(=O)NHC36Si(OCH33を40.0質量部(0.03mol)、下記式
【化17】

で示される両末端トリメトキシ基封鎖ジメチルシロキサンを0.9質量部(0.0008mol)、イソプロピルアルコールを828.8質量部反応器中に配合し、均一になったところで10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドメタノール溶液36.5質量部、アルコキシ基に対して2倍molの水108.2質量部(水6.01mol)を添加し、25℃で12時間撹拌した。トルエンを投入して水洗し、中性化した後、メタノール、トルエン等を留去した。
得られた反応物は、揮発分0.9%、粘度88,000mPa・s、屈折率1.4631、OH量0.5質量%、重量平均分子量3,100であった。この反応物は、赤外吸収光分析、核磁気共鳴分析の結果から加水分解縮合が理想どおり進行し、アクリル基を含有するシロキサン化合物であることを確認した。
【0055】
得られた化合物100質量部をダロキュアー1173(ラジカル開始剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名)5質量部と混合し、これを実施例1と同様に塗布して硬化させた。
得られた被膜の耐マジックインキ性は合格であり、水接触角109°、オレイン酸接触角71°と防汚性が得られた。更にテーバー磨耗性試験(500g荷重100回転)ではΔHazeは12と耐磨耗性も高かった。
【0056】
[実施例5]
CH2=CHCOOC36Si(OCH33を227.0質量部(0.97mol)、C81724Si(OCH33を8.6質量部(0.015mol)、F(C(CF3)FCF2O)6C(CF3)FC(=O)NHC36Si(OCH33を20.0質量部(0.015mol)、下記式
【化18】

で示される両末端トリメトキシ基封鎖ジメチルシロキサンを0.9質量部(0.0008mol)、イソプロピルアルコールを771.0質量部反応器中に配合し、均一になったところで10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドメタノール溶液34.0質量部、アルコキシ基に対して2倍molの水108.2質量部(水6.01mol)を添加し、25℃で12時間撹拌した。トルエンを投入して水洗し、中性化した後、メタノール、トルエン等を留去した。
得られた反応物は、揮発分0.8%、粘度81,000mPa・s、屈折率1.4661、OH量0.5質量%、重量平均分子量3,500であった。この反応物は、赤外吸収光分析、核磁気共鳴分析の結果から加水分解縮合が理想どおり進行し、アクリル基を含有するシロキサン化合物であることを確認した。
【0057】
得られた化合物100質量部をダロキュアー1173(ラジカル開始剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名)5質量部と混合し、これを実施例1と同様に塗布して硬化させた。
得られた被膜の耐マジックインキ性は合格であり、水接触角107°、オレイン酸接触角69°と防汚性が得られた。更にテーバー磨耗性試験(500g荷重100回転)ではΔHazeは14と耐磨耗性も高かった。
【0058】
[比較例1]
CH2=CHCOOC36Si(OCH33を234.0質量部(1.00mol)、イソプロピルアルコールを658.9質量部反応器中に配合し、均一になったところで10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドメタノール溶液30.3質量部、アルコキシ基に対して2倍molの水108.0質量部(水6.00mol)を添加し、25℃で12時間撹拌した。トルエンを投入して水洗し、中性化した後、メタノール、トルエン等を留去した。
得られた反応物は、揮発分0.7%、粘度71,000mPa・s、屈折率1.4815、OH量0.3質量%、重量平均分子量3,300であった。この反応物は、赤外吸収光分析、核磁気共鳴分析の結果から加水分解縮合が理想どおり進行し、アクリル基を含有するシロキサン化合物であることを確認した。
【0059】
得られた化合物100質量部をダロキュアー1173(ラジカル開始剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名)5質量部と混合し、これを実施例1と同様に塗布して硬化させた。
得られた被膜のテーバー磨耗性試験(500g荷重100回転)では、ΔHazeは10と耐磨耗性は高かったが、耐マジックインキ性は不合格であり、水接触角81°、オレイン酸接触角は測定不能と防汚性が得られなかった。
【0060】
[比較例2]
CH2=CHCOOC36Si(OCH33を227.0質量部(0.97mol)、C81724Si(OCH33を17.0質量部(0.03mol)、イソプロピルアルコールを711.3質量部反応器中に配合し、均一になったところで10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドメタノール溶液32.1質量部、アルコキシ基に対して2倍molの水108.0質量部(水6.00mol)を添加し、25℃で12時間撹拌した。トルエンを投入して水洗し、中性化した後、メタノール、トルエン等を留去した。
得られた反応物は、揮発分0.7%、粘度10,700mPa・s、屈折率1.4700、OH量0.5質量%、重量平均分子量2,800であった。この反応物は、赤外吸収光分析、核磁気共鳴分析の結果から加水分解縮合が理想どおり進行し、アクリル基を含有するシロキサン化合物であることを確認した。
【0061】
得られた化合物100質量部をダロキュアー1173(ラジカル開始剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名)5質量部と混合し、これを実施例1と同様に塗布して硬化させた。
得られた被膜は、水接触角101°、オレイン酸接触角62°と高い値を示したが、耐マジックインキ性は不合格と防汚性が不十分であった。更にテーバー磨耗性試験(500g荷重100回転)ではΔHazeは19とやや耐磨耗性も低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(1)〜(5)
【化1】

(式中、R1〜R5は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a、b、c、d、eはそれぞれ1〜3の整数である。)
で表される光反応性基含有アルコキシシランから選ばれる1種又は2種以上であって、1種の場合はトリアルコキシシラン、2種以上の場合は70mol%以上がトリアルコキシシランである光反応性基含有アルコキシシラン、
及び
(b)下記一般式(6)
【化2】

(式中、R6は水素原子、メチル基又はエチル基であり、Aは酸素原子又はエチレン基であり、nは5〜100の整数、xは1〜3の整数である。)
で示される両末端加水分解性基含有ジメチルシロキサン
を含有する系を塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合することで得られる光反応性基含有シロキサン化合物。
【請求項2】
(a)、(b)成分を含有する系に、更に(c)他のアルコキシシランとして、下記一般式(7)
7fSi(OR84-f (7)
(式中、R7は炭素数1〜10のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を含有する有機基、又はヘキサフルオロプロペンオキサイドを含有する有機基であり、R8は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、fは0〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシランを含有し、この系を塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合することで得られる請求項1記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
【請求項3】
(a)成分が、CH2=CHCOOC36Si(OCH33である請求項1又は2記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
【請求項4】
(a)成分が、下記式
【化3】

で示されるシランである請求項1又は2記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
【請求項5】
(b)成分が、下記一般式
【化4】

(式中、nは5〜100の整数である。)
で示される両末端トリメトキシ基封鎖ジメチルシロキサンである請求項1〜4のいずれか1項記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
【請求項6】
塩基性触媒が、テトラアルキルアンモニウムヒドロキサイドである請求項1〜5のいずれか1項に記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
【請求項7】
重量平均分子量が5,000以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
【請求項8】
シラノール含有量が2質量%以下である請求項1〜7のいずれか1項記載の光反応性基含有シロキサン化合物。
【請求項9】
(a)下記一般式(1)〜(5)
【化5】

(式中、R1〜R5は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、a、b、c、d、eはそれぞれ1〜3の整数である。)
で表される光反応性基含有アルコキシシランから選ばれる1種又は2種以上であって、1種の場合はトリアルコキシシラン、2種以上の場合は70mol%以上がトリアルコキシシランである光反応性基含有アルコキシシラン、
(b)下記一般式(6)
【化6】

(式中、R6は水素原子、メチル基又はエチル基であり、Aは酸素原子又はエチレン基であり、nは5〜100の整数、xは1〜3の整数である。)
で示される両末端加水分解性基含有ジメチルシロキサン、
及び
(d)アルコール
を含有する系を、塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合し、中性にした後、アルコールを留去することを特徴とする光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
【請求項10】
上記(a)、(b)、(d)成分、及び
(c)他のアルコキシシランとして、下記一般式(7)
7fSi(OR84-f (7)
(式中、R7は炭素数1〜10のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を含有する有機基、又はヘキサフルオロプロペンオキサイドを含有する有機基であり、R8は炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、fは0〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシランを含有する系を、塩基性触媒存在下で、アルコキシ基を全て加水分解縮合する量より多くの水で加水分解縮合し、中性にした後、アルコールを留去することを特徴とする請求項9記載の光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
【請求項11】
(a)成分が、CH2=CHCOOC36Si(OCH33である請求項9又は10記載の光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
【請求項12】
(a)成分が、下記式
【化7】

で示されるシランである請求項9又は10記載の光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
【請求項13】
塩基性触媒が、テトラアルキルアンモニウムヒドロキサイドである請求項9〜12のいずれか1項に記載の光反応性基含有シロキサン化合物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光反応性基含有シロキサン化合物、及び硬化触媒を含有する光硬化性樹脂組成物。
【請求項15】
請求項14記載の光硬化性樹脂組成物の硬化皮膜が形成されてなる物品。

【公開番号】特開2007−308674(P2007−308674A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192436(P2006−192436)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】