説明

光取り出し構造、その製造方法、及び有機EL素子

【課題】 滑らかな表面を備える光散乱膜を有する光取り出し構造を提供する。
【解決手段】 支持部材と、支持部材上に形成された、粗さRaが10nm未満の多孔質構造を備える光散乱膜とを有する光取り出し構造を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光取り出し構造、その製造方法、及び有機EL(electroluminescence)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
物質に電界を印加したときに発光を生じる現象を利用したEL素子は、自発光型の電子ディスプレイとして注目されている。現在、発光材料として有機化合物と無機化合物の両方が検討されており、それぞれ実用化が進められている。なかでも有機化合物を用いた有機EL素子は、発光のための印加電圧をより低くできるという特徴があり、高輝度、高品質のデバイス開発が活発に行われている。
【0003】
図6は、有機EL素子の構造を示す概略的な断面図である。透明なガラス基板21上に、たとえばITO(indium tin oxide)で形成される陽極である透明電極22、発光が行われる有機発光層23、たとえばアルミで形成される陰極である背面金属電極24がこの順に積層される。有機発光層23は、透明電極22から注入された正孔と背面金属電極24から注入された電子が再結合し、発光中心である蛍光色素等を励起することによって発光する。有機発光層23で発光した光は、ガラス基板21側を光取り出し面25として外部に放射される。
【0004】
一般に有機EL素子は、屈折率の異なる材料が組み合わされて構成されている。たとえば有機発光層23が蛍光色素を含む有機蛍光体層である場合、その屈折率は1.6〜1.8、ITO等の透明導電材で形成された透明電極22の屈折率は1.8〜2.2、ガラス基板21の屈折率は約1.5である。なお、空気の屈折率は1.0である。
【0005】
有機発光層23から発せられた光が、有機EL素子内部を伝播する際、屈折率の異なる界面で反射や屈折を生じることで、有機発光層で発光した光のうち大気中に取り出せる光は、2割程度と計算されている。(たとえば、非特許文献1または2参照。)
このように有機EL素子の発光効率は低いものであった。
【非特許文献1】MRS Bull.,22,39−45(1997)
【非特許文献2】2000 MRS Fall Meeting,JJ5,27(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、滑らかな表面を備える光散乱膜を有する光取り出し構造を提供することである。
また、本発明の他の目的は、滑らかな表面を備える光散乱膜を有する光取り出し構造の製造方法を提供することである。
【0007】
さらに、本発明の他の目的は、高品質の有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、支持部材と、前記支持部材上に形成された、粗さRaが10nm未満の多孔質構造を備える光散乱膜とを有する光取り出し構造が提供される。
また、支持部材と、前記支持部材上に形成された光散乱層であって、多孔質構造の内部領域と、粗さRaが10nm未満の平滑な表面領域とを備える光散乱層とを有する光取り出し構造が提供される。
【0009】
これらの光取り出し構造は、光散乱膜が平滑な表面を有するので、高品質の発光デバイスの作製に適している。
また、本発明の他の観点によれば、仮基板上に、カバー膜を形成する工程と、支持基板上に、硬化性材料を含む材料で、光散乱構造を形成する工程と、前記支持基板と前記仮基板とを、前記光散乱構造と前記カバー膜とが密着するように重ねて加圧する工程と、前記光散乱構造を硬化させる工程と、前記仮基板を前記カバー膜から分離する工程とを有する光取り出し構造の製造方法が提供される。
この光取り出し構造の製造方法によれば、高い表面平滑性と、高い光散乱性とがともに実現された光取り出し構造を製造することができる。
さらに、本発明の他の観点によれば、透光性の基板と、前記基板上に形成された光散乱層であって、該光散乱層に入射する光を複数の方向に散乱する構造を有する、粗さRaが10nm未満の光散乱層と、前記光散乱層上に形成された透光性の第1の電極と、前記第1の電極上に形成され、光を発することのできる有機発光層と、前記有機発光層上に形成された第2の電極とを有し、前記有機発光層で発せられた光は前記基板側から取り出される有機EL素子が提供される。
【0010】
この有機EL素子は、欠陥の発生や性能の低下が防止された、高品質の有機EL素子である。
【発明の効果】
【0011】
滑らかな表面を備える光散乱膜を有する光取り出し構造を提供することができる。
また、滑らかな表面を備える光散乱膜を有する光取り出し構造の製造方法を提供することができる。
さらに、高品質の有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明者らは、先の提案(特願2003−208025号)において、内部に光散乱層を設けた有機EL素子を提案した。(特願2003−208025号 [特許請求の範囲]及び[発明の実施の形態][0020]〜[0085]参照。)この提案によれば、外部への光取り出し効率の向上した有機EL素子を提供することができる。
【0013】
図1は、「透光性の基板と、前記基板上に形成された光散乱層であって、該光散乱層に入射する光を複数の方向に散乱する構造を有する光散乱層と、前記光散乱層上に形成された透光性の第1の電極と、前記第1の電極上に形成され、光を発することのできる有機発光層と、前記有機発光層上に形成された第2の電極とを有し、前記有機発光層で発せられた光は前記基板と平行な面から取り出される有機EL素子」(特願2003−208025号 [特許請求の範囲][請求項1])の一実施例を示す概略的な断面図である。
【0014】
図6に示した有機EL素子の構造と比較した場合、ガラス基板21と透明電極22との間に、光散乱層26が形成されている。図1に示す構造によれば、ガラス基板21と透明電極22との界面で反射されて透明電極22より内側を伝播する光成分と、ガラス基板21と空気との界面で反射されてガラス基板21内部を多重反射して伝播する光成分の両方を、光散乱層26を設けることによって散乱させることができる。これによって、有機発光層23で発生した光が素子内部に閉じ込められることを防ぎ、これまで外部に取り出せなかった光を大量に外部に取り出すことが可能となった。このため、有機EL素子の発光輝度を向上させることができた。
【0015】
ところで、有機EL素子の透明電極22(たとえばITOなどで形成される。)の表面は、平滑であることが望ましい。これは、透明電極22の表面凹凸が大きいと、有機EL素子には、ショート(短絡)や輝度むら、ダークスポットと呼ばれる発光しない欠陥領域の発生などの不良や性能低下を引き起こす場合があるためである。
たとえば透明電極22に隣接して形成される有機層(発光層、電荷輸送層など)の膜厚は薄いため、透明電極22表面の平滑性の欠如が、陽陰両極間の電気的ショートにつながりやすい。また、通電した際に、凸部分に電流の集中が生じる結果、面内で均一な発光が得られない場合がある。さらに、大きな電流集中が生じた場合、有機層が焼けたり熱劣化したりして電気的接触が不安定となり、ダークスポットが生じやすくなる。
【0016】
ここで、光散乱性を有する層(膜)を、微粒子状散乱体を含むバインダを、支持体である基板またはフィルム表面に印刷、スプレーなどして形成した場合には、層(膜)表面が荒れることがある。
また、特願2003−208025号の[発明の実施の形態]に記載のある、膜内部の空孔によって光散乱性を実現する膜の場合でも、製造方法によっては、表面に空孔や気道が露出するために、表面が荒れる場合がある。
【0017】
光散乱層の表面に凹凸が多い場合、その上に形成された透明電極は、下地の光散乱層の凹凸を反映するため、導通が不安定となったり、高抵抗化して、素子の点灯不良や輝度低下、寿命劣化の原因となることがある。
【0018】
この解決を意図して、本願発明者らは、光散乱層の平滑化のために、光散乱層の表面にトップコーティングを施す試みを行った。
図2(A)〜(D)は、光散乱層のトップコーティングの試みについて説明するための図である。
【0019】
図2(A)を参照する。透明、平板なガラス基板21上に溶媒を加えた紫外線硬化樹脂30を適量展開する。
図2(B)を参照する。紫外線硬化樹脂30に高圧水銀ランプの紫外線を照射して硬化させ、室温乾燥で溶媒を蒸発させて、多孔質の光散乱層26を形成する。光散乱層26の表面には凹凸が多数存在する。
【0020】
図2(C)を参照する。平滑化を意図して、光散乱層26の表面に紫外線硬化性のトップコート液31を塗布する。
図2(D)を参照する。塗布されたトップコート液31が、光散乱層26内部に浸透または拡散し、光散乱層26内部の空孔がトップコート液31で満たされる。光散乱層26に高圧水銀ランプの紫外線を照射して硬化させる。
【0021】
このように作製された光取り出し構造を本願発明者らが確認したところ、光散乱層26表面の平滑化は不十分であった。また、内部の空孔の一部が埋まることにより、光散乱特性が劣化することも確認された。
【0022】
本願発明者らは、図2を用いて説明したトップコーティングの試み以外にも、スプレーや蒸着、スピンコートなどの処理方法を用い、内部に空孔が存在し、表面にその気道や空孔が露出する樹脂組成物による光散乱層に実用的なトップコート層を形成する試みを様々に行った。
【0023】
しかし、これらのコーティングの方法は、下地の凹凸に影響を受けやすく、コーティングによる平滑化の効果が得られにくい、また、コーティング成分が光散乱層の内部に浸透または拡散しやすく、そのため散乱膜の内部形状(構造)が変化し、散乱特性に好ましくない影響を与えることがある、等の理由により、有効なトップコート層の形成は困難な場合が多かった。なお、下地である光散乱層が樹脂材料で形成されている場合は、蒸着などの熱的なダメージを与えやすい手法は好ましく用いることはできない。
【0024】
本願発明者らは、研究を続けた結果、たとえば以下に示す方法で平滑な表面を有する光散乱層(光散乱構造)を形成することに成功した。
図3(A)〜(F)は、実施例による光散乱構造の製造方法を示す概略的な断面図である。
【0025】
図3(A)を参照する。たとえばガラス板である平滑な支持基板35上に、トップコート液31、たとえば紫外線硬化樹脂(紫外線硬化性材料を含む材料)を塗布する。なお、支持基板35は、シリコン、マイカ、金属、セラミック、樹脂などを用いて形成してもよい。
【0026】
図3(B)を参照する。トップコート液31を薄膜化し、その後乾燥させて、支持基板35上に半硬化状のカバー膜36を形成する。ここで「半硬化状」とは、流動性がほとんどなく、溶媒と接触しても膜形態が一定時間保持される状態をさす。自然放置、加熱、真空引きなどによる溶媒の蒸発乾燥処理により、半硬化状態を実現することができる。上記蒸発乾燥処理と紫外線照射処理を併用して、半硬化状態を実現してもよい。
【0027】
また、カバー膜36を形成する材料は、光散乱層26の光散乱構造部を形成する材料と同じ組成をもつ材料、または硬化後の屈折率がほぼ等しくなる材料を用いることが望ましい。紫外線硬化樹脂の他に、たとえば放射線、熱、反応開始薬剤の添加により架橋する樹脂組成物を用いることができる。
【0028】
支持基板35上にトップコート液31をコーティングする際には、光散乱層26の表面が最も平滑になるための最適な膜厚となるように、コーティング条件を変えたり、トップコート液31の粘度を調整したりすることが望ましい。溶媒や添加物を加えてもよい。
【0029】
図3(C)を参照する。透明、平板なガラス基板21上に溶媒を加えた紫外線硬化樹脂(紫外線硬化性材料を含む材料)30を適量展開する。
図3(D)を参照する。紫外線硬化樹脂30を展開したガラス基板21と、カバー膜36の形成された支持基板35とを、紫外線硬化樹脂30とカバー膜36とが向き合うように対向配置する。
【0030】
図3(E)を参照する。ガラス基板21と支持基板35とを、紫外線硬化樹脂30とカバー膜36とが密着するように重ねて加圧処理を行う。
加圧条件を変えることによって、所望の厚さの光散乱層26を形成することができる。光散乱層26は、厚いほど高い光散乱度を有する。均一な加圧を行うことで、膜厚を一定に制御でき、面内で均一な散乱度を備える光散乱層26を形成することができる。
【0031】
加圧処理後、紫外線を照射し、両基板に挟まれた紫外線硬化樹脂30を溶媒を含んだまま架橋(硬化)させる。
図3(F)を参照する。支持基板35を除き、内部に含まれる溶媒を蒸発させ、光散乱層26を得る。このようにして形成される光散乱層26は、カバー膜36によって高い表面平滑性をもちながら、微細な内部多孔質構造を備え、高い光散乱性を有している。
【0032】
なお、図示するように、内部多孔質領域と表面平滑領域とは、境界の明瞭な2層構造とはならない場合が多い。ただし、材料の選択や、膜厚の設定などにより、2層構造とすることが可能である。
【0033】
ここでは、微細な内部多孔質構造部の表面に平滑部が形成されるとして説明したが、多孔質構造に限らず光散乱構造を備える部分の表面に平滑部を形成することにより、高い表面平滑性と、高い光散乱性とをともに実現することができる。
【0034】
以下、本願発明者らが、実際に行った実施態様を記す。
【実施例1】
【0035】
紫外線アクリレートモノマ16重量部、紫外線アクリレートオリゴマ11重量部、アクリル樹脂10重量部、アミノ樹脂3重量部、トルエン27重量部、酢酸ブチル18重量部、メチルイソブチルケトン8重量部、メタノール5重量部、重合開始剤2重量部を含む紫外線硬化組成物を調製した。トルエンで3倍に希釈し、洗浄したガラス基板に溶液を展開し、1500rpm、20秒間スピンコーティングした。大気中、室温下で3分間乾燥させた後、高圧水銀ランプを用いて3.5J/cm(at 365nm)の紫外線を1分間露光し、カバー膜を得た。カバー膜の膜厚は、約600nmであった。
【0036】
次に、透明なPMMA(polymethyl methacrylate;ポリメチルメタクリレート)基板に、調製した紫外線硬化組成物を希釈せずに展開し、先に得たカバー膜を圧着させるように均一に加圧した。さらに、高圧水銀ランプを用いて3.5J/cm(at 365nm)の紫外線を1分間露光した。
【0037】
最後に、カバー膜の支持体であるガラス基板をはずし、硬化膜中に含まれる溶媒を揮発させることによって、表面が平滑な多孔質光散乱膜を得た。
【実施例2】
【0038】
第1の実施形態と同じ組成の紫外線硬化組成物を調製した。トルエンで3倍に希釈し、洗浄したガラス基板に溶液を展開し、2500rpm、20秒間スピンコーティングした。大気中、120℃に加熱したホットプレート上にて1分間加熱し乾燥させた後、高圧水銀ランプを用いて3.5J/cm(at 365nm)の紫外線を1分間露光し、カバー膜を得た。カバー膜の膜厚は、約400nmであった。
【0039】
次に、透明なPMMA基板に、調製した紫外線硬化組成物を希釈せずに展開し、先に得たカバー膜を圧着させるように均一に加圧した。さらに、高圧水銀ランプを用いて3.5J/cm(at 365nm)の紫外線を1分間露光した。
【0040】
最後に、カバー膜の支持体であるガラス基板をはずし、硬化膜中に含まれる溶媒を揮発させることによって、表面が平滑な多孔質光散乱膜を得た。
【実施例3】
【0041】
第1及び第2の実施形態と同じ組成の紫外線硬化組成物を調製した。トルエンで3倍に希釈し、洗浄したガラス基板に溶液を展開し、1500rpm、20秒間スピンコーティングした。大気中、120℃に加熱したホットプレート上にて1分間加熱し乾燥させて、カバー膜を得た。
【0042】
次に、別に用意した洗浄したガラス基板に、調製した紫外線硬化組成物を希釈せずに展開し、先に得たカバー膜を圧着させるように均一に加圧した。さらに、高圧水銀ランプを用いて3.5J/cm(at 365nm)の紫外線を1分間露光した。
【0043】
最後に、カバー膜の支持体であるガラス基板をはずし、硬化膜中に含まれる溶媒を揮発させることによって、表面が平滑な多孔質光散乱膜を得た。
【実施例4】
【0044】
第1乃至第3の実施形態と同じ組成の紫外線硬化組成物を調製した。トルエンで3倍に希釈し、洗浄したガラス基板に溶液を展開し、1500rpm、20秒間スピンコーティングした。大気中、120℃に加熱したホットプレート上にて1分間加熱し乾燥させて、カバー膜を得た。
【0045】
次に、架橋PMMA粒子を含む紫外線硬化組成物を調製した。この組成物中には溶媒は含まれないが、架橋PMMA粒子と紫外線硬化組成物との屈折率差によって光散乱性を有する。これを透明PMMA基板に展開し、先に得たカバー膜を圧着させるように均一に加圧した。さらに、高圧水銀ランプを用いて3.5J/cm(at 365nm)の紫外線を1分間露光した。
【0046】
最後に、カバー膜の支持体であるガラス基板をはずし、表面が平滑な光散乱膜を得た。
図4(A)及び(B)は、それぞれ比較例による多孔質光散乱膜の表面SEM(scanning electron microscope;走査電子顕微鏡)像、及び実施例による多孔質光散乱膜の表面SEM像を示す。
【0047】
ここで、「比較例による多孔質光散乱膜」とは、図3(A)〜(F)を参照して説明した、実施例による光散乱構造の製造方法において、支持基板35上にカバー膜36を形成せず(すなわち図3(A)及び(B)に示す工程を省略し)、図3(D)及び(E)に示した工程において、カバー膜36の形成されない支持基板35と、紫外線硬化樹脂30を展開したガラス基板21とを重ねて加圧処理を行い、作製した多孔質光散乱膜を意味する。
【0048】
図4(A)を参照する。比較例による多孔質光散乱膜の表面には空孔や気道が露出し、多くの穴構造が観察される。
図4(B)を参照する。実施例による多孔質光散乱膜には目立った穴構造は観察されず、平滑な表面を備えているのが確認される。
【0049】
図5は、比較例による多孔質光散乱膜と実施例による多孔質光散乱膜とについて、それぞれRa、Rms、Rzの値を示す表である。Ra、Rms、Rzともに、単位「nm」で示した。
【0050】
「Ra」は、「JIS B0601」で規定される中心線平均粗さを表す指標である。比較例による多孔質光散乱膜については、Ra=10(nm)であるが、実施例による多孔質光散乱膜については、Ra=5(nm)であった。このように図3(A)〜(F)を参照して説明した方法によれば、Raが10nm未満、たとえば5nm以下の光散乱膜を作製することができる。
【0051】
「Rms」は、二乗平均粗さを表す指標である。二乗平均粗さとは、基準面から指定面までの偏差の二乗を平均した値の平方根と定義する。比較例による多孔質光散乱膜については、Rms=15(nm)であるが、実施例による多孔質光散乱膜については、Rms=6(nm)であった。
【0052】
「Rz」は、「JIS B0601」で規定される10点平均粗さを表す指標である。比較例による多孔質光散乱膜については、Rz=144(nm)であるが、実施例による多孔質光散乱膜については、Rz=37(nm)であった。
【0053】
これらの指標からも、実施例による多孔質光散乱膜が平滑な表面を備えていることがわかる。
本願発明者らは、実施例による多孔質光散乱膜(光散乱層)を用いて、有機EL素子を作製した。その概略的な構造は図1に示すものと同様である。
【0054】
点灯試験の結果、ショート(短絡)、輝度むら、ダークスポットが低減し、素子の品質、輝度、寿命特性が向上することが確かめられた。
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0055】
有機LED(light emitting diode;発光ダイオード)、LCD(liquid crystal display;液晶ディスプレイ)、PDP(plasma display panel;プラズマディスプレイ)、FED(field emission display;電界放出ディスプレイ)、バックライト、LED及び封止樹脂、EL、導光板、輝度向上あるいは配光制御用光学フィルム、TV(television;テレビ)、情報表示素子、面光源、太陽電池、受光素子などに好適に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】先の提案の一実施例を示す概略的な断面図である。
【図2】(A)〜(D)は、光散乱層のトップコーティングの試みについて説明するための図である。
【図3】(A)〜(F)は、実施例による光散乱構造の製造方法を示す概略的な断面図である。
【図4】(A)及び(B)は、それぞれ比較例による多孔質光散乱膜の表面SEM(scanning electron microscope;走査電子顕微鏡)像、及び実施例による多孔質光散乱膜の表面SEM像を示す。
【図5】比較例による多孔質光散乱膜と実施例による多孔質光散乱膜とについて、それぞれRa、Rms、Rzの値を示す表である。
【図6】有機EL素子の構造を示す概略的な断面図である。
【符号の説明】
【0057】
21 ガラス基板
22 透明電極
23 有機発光層
24 背面金属電極
25 光取り出し面
26 光散乱層
30 紫外線硬化樹脂
31 トップコート液
35 支持基板
36 カバー膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材と、
前記支持部材上に形成された光散乱層であって、多孔質構造の内部領域と、粗さRaが10nm未満の平滑な表面領域とを備える光散乱層と
を有する光取り出し構造。
【請求項2】
前記表面領域の粗さRaが、5nm以下である請求項1に記載の光取り出し構造。
【請求項3】
前記内部領域と前記表面領域とが、同じ組成をもつ材料で形成された請求項1または2に記載の光取り出し構造。
【請求項4】
前記内部領域が、紫外線硬化性材料を含む材料で形成された請求項1〜3のいずれか1項に記載の光取り出し構造。
【請求項5】
前記内部領域と前記表面領域の屈折率がほぼ等しい請求項1〜4のいずれか1項に記載の光取り出し構造。
【請求項6】
前記支持部材が透明部材である請求項1〜5のいずれか1項に記載の光取り出し構造。
【請求項7】
支持部材と、
前記支持部材上に形成された、粗さRaが10nm未満の多孔質構造を備える光散乱膜と
を有する光取り出し構造。
【請求項8】
前記光散乱膜の粗さRaが、5nm以下である請求項7に記載の光取り出し構造。
【請求項9】
前記光散乱膜が、前記支持部材上に形成された多孔質の光散乱構造と、前記光散乱構造上に形成されたカバー膜とを含む請求項7または8に記載の光取り出し構造。
【請求項10】
前記光散乱構造と前記カバー膜とが、同じ組成をもつ材料で形成された請求項9に記載の光取り出し構造。
【請求項11】
前記光散乱構造が、紫外線硬化性材料を含む材料で形成された請求項9または10に記載の光取り出し構造。
【請求項12】
前記光散乱構造と前記カバー膜の屈折率がほぼ等しい請求項9〜11のいずれか1項に記載の光取り出し構造。
【請求項13】
前記支持部材が透明部材である請求項7〜12のいずれか1項に記載の光取り出し構造。
【請求項14】
仮基板上に、カバー膜を形成する工程と、
支持基板上に、硬化性材料を含む材料で、光散乱構造を形成する工程と、
前記支持基板と前記仮基板とを、前記光散乱構造と前記カバー膜とが密着するように重ねて加圧する工程と、
前記光散乱構造を硬化させる工程と、
前記仮基板を前記カバー膜から分離する工程と
を有する光取り出し構造の製造方法。
【請求項15】
前記カバー膜を半硬化状に形成する請求項14に記載の光取り出し構造の製造方法。
【請求項16】
前記光散乱構造と前記カバー膜とを、同じ組成をもつ材料で形成する請求項14または15に記載の光取り出し構造の製造方法。
【請求項17】
前記光散乱構造と前記カバー膜とを、屈折率がほぼ等しい材料で形成する請求項14〜16のいずれか1項に記載の光取り出し構造の製造方法。
【請求項18】
前記硬化性材料が紫外線硬化性材料であり、前記光散乱構造を硬化させる工程が、前記光散乱構造に紫外線を照射する工程を含む請求項14または15に記載の光取り出し構造の製造方法。
【請求項19】
前記支持基板が透明基板である請求項14〜18のいずれか1項に記載の光取り出し構造の製造方法。
【請求項20】
透光性の基板と、
前記基板上に形成された光散乱層であって、該光散乱層に入射する光を複数の方向に散乱する構造を有する、粗さRaが10nm未満の光散乱層と、
前記光散乱層上に形成された透光性の第1の電極と、
前記第1の電極上に形成され、光を発することのできる有機発光層と、
前記有機発光層上に形成された第2の電極と
を有し、
前記有機発光層で発せられた光は前記基板側から取り出される有機EL素子。
【請求項21】
前記光散乱層の粗さRaが、5nm以下である請求項20に記載の有機EL素子。
【請求項22】
前記光散乱層が、光散乱構造を備える内部領域と、前記内部領域上に形成された平滑な表面領域を含む請求項20または21に記載の有機EL素子。
【請求項23】
前記内部領域と前記表面領域とが、同じ組成をもつ材料で形成された請求項22に記載の有機EL素子。
【請求項24】
前記内部領域が、紫外線硬化性材料を含む材料で形成された請求項22または23に記載の有機EL素子。
【請求項25】
前記内部領域と前記表面の屈折率がほぼ等しい請求項22〜24のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項26】
前記内部領域が、多孔質構造で実現された請求項22〜25のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項27】
前記光散乱層が、前記基板上に形成された光散乱構造と、前記光散乱構造上に形成されたカバー膜とを含む請求項20または21に記載の有機EL素子。
【請求項28】
前記光散乱構造と前記カバー膜とが、同じ組成をもつ材料で形成された請求項27に記載の有機EL素子。
【請求項29】
前記光散乱構造が、紫外線硬化性材料を含む材料で形成された請求項27または28に記載の有機EL素子。
【請求項30】
前記光散乱構造と前記カバー膜の屈折率がほぼ等しい請求項27〜29のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項31】
前記光散乱構造が、多孔質構造で実現された請求項27〜30のいずれか1項に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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