説明

光合成抑制遺伝子およびその用途

【課題】 植物の光合成を調節すること
【解決手段】 本発明は、光合成を抑制する遺伝子、その遺伝子の発現を低減させた形質転換植物、その遺伝子の発現を増強させた形質転換植物などに関する。本発明によれば、植物の光合成能を調節できるので、環境の浄化に有用な植物や、作物の生産性を向上させた植物などを作出することが可能となる。例えば、光合成能を増強させた植物は、光合成能力が高いため、光エネルギーを効率よく、作物の生産に利用することができる。また、植物が光合成を盛んに行うと、大気中の二酸化炭素を効率よく分解して、より多くの酸素を大気中に放出させることができるので、環境の浄化に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成を抑制する遺伝子、その遺伝子の発現を低減させた形質転換植物、その遺伝子の発現を増強させた形質転換植物などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界中で地球温暖化、酸性雨、砂漠化の進行、土壌流出、オゾン層の破壊、熱帯雨林の減少、大気・環境汚染、エネルギー危機、貧困、人口の爆発的な増加などの問題が取り上げられている。その中でも特に、環境問題と食糧が関連する農業生産問題が挙げられる。これらの問題を解決するには、地球生態系の生産者である植物の保全とその生産能力の拡大が重要な位置を占めると考えられている。
なぜならば、植物は光エネルギーを直接利用し、我々の食糧を作り出すと共に、環境を浄化することが可能だからである。言い換えると、植物は光エネルギーにより水を分解し、ATP、NADPHおよび酸素を放出し(光合成明反応)、同時に、空気中の二酸化炭素を固定することによって我々の食糧となるデンプンを主体とする有機物を無機物から作り出す(光合成暗反応)という光合成反応を行うためである。
このような植物の機能を解明し、さまざまな環境に適応できるような植物を作り出すことは、農業生産問題において重要である(シリーズ分子生物学5 、植物分子生物学:5.1. 光合成、第1版、山田康之、朝倉書店、東京、1997, pp.99-113)。
【0003】
ところで、遺伝子の発現は正の制御と負の制御の両方で成り立っている。つまり、正の制御では、正の因子によって遺伝子は発現し、負の制御では、負の因子によって遺伝子の発現は抑制されている。それは、光合成の遺伝子においても同様である。光と植物ホルモンの複雑なシグナル伝達によって正の因子と負の因子が働き、光合成遺伝子を発現させていると考えられる。正に制御する因子の研究は、転写因子を介したシグナル伝達経路など比較的進んでいる。しかし、負に制御する因子の報告は光合成遺伝子のプロモーター解析から明らかになったものやdet1変異体の解析によって見いだされたものがわずかに報告されているにすぎない(非特許文献1:Plant Physiol 97, 1260-1264 (1991); 非特許舟kン2:Plant Cell 5, 109-121 (1993); 非特許文献3:Curr Biol 12, 1462-1472 (2002);及び非特許文献4:Plant Cell Physiol. 2009 Feb;50(2):290-303)。また、シグナル伝達系の上位にある因子については報告は無く、この遺伝子群探索に関して全ゲノムスクリーニング(whole-genome screening)は行われていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Plant Physiol 97, 1260-1264 (1991)
【非特許文献2】Plant Cell 5, 109-121 (1993)
【非特許文献3】Curr Biol 12, 1462-1472 (2002)
【非特許文献4】Plant Cell Physiol.;50(2):290-303 (2009 Feb)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような状況において、植物において、光合成に関与する遺伝子、例えば、光合成を抑制する遺伝子を同定することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ね、アクティベーションタギングを用いて光合成を抑制する遺伝子発現を活性化することにより、光合成抑制遺伝子群の探索を行った結果、次に示す、光合成抑制遺伝子、その遺伝子の発現を低減させた形質転換植物、その遺伝子の発現を増強させた形質転換植物などを提供する。
【0007】
〔1〕以下の(a)〜(d)からなる群から選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1、3、5又は7の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列において、1〜50個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(d) 配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔1a〕配列番号:1、3、5又は7の塩基配列からなるポリヌクレオチドを除く上記〔1〕のポリヌクレオチド。
【0008】
〔2〕以下の(g)及び(h)からなる群から選択される上記〔1〕に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(h) 配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0009】
〔3〕配列番号:1、3、5又は7の塩基配列を含有する上記〔1〕に記載のポリヌクレオチド。
〔4〕配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする上記〔1〕に記載のポリヌクレオチド。
〔5〕DNAである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0010】
〔6〕以下の(j)〜(m)からなる群から選択されるポリヌクレオチド:
(j) 上記〔5〕に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(k)上記〔5〕に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(l) 上記〔5〕に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;及び
(m)上記〔5〕に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド。
【0011】
〔7〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
〔8〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
〔9〕上記〔6に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
〔10〕上記〔8〕又は〔9〕に記載のベクターが導入された形質転換体。
〔11〕上記〔9〕に記載のベクターを導入することによって、または、上記〔5〕に記載のポリヌクレオチド(DNA)に係る遺伝子を破壊することによって、上記〔5〕に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現が抑制された形質転換体。
〔11a〕上記〔5〕に記載のポリヌクレオチド(DNA)に係る遺伝子を欠損させた形質転換植物。
〔12〕上記〔7〕に記載のタンパク質の発現量を低下させることによって光合成能を向上させた形質転換体。
〔13〕上記〔7〕に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって光合成能を低下させた形質転換体。
〔14〕形質転換体が植物である上記〔12〕または〔13〕の形質転換体。
〔15〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のポリヌクレオチドを欠損させる工程を含む、光合成能を増強させた形質転換植物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、植物の光合成能を調節できるので、環境の浄化に有用な植物や、作物の生産性を向上させた植物などを作出することが可能となる。例えば、光合成能を増強させた植物は、光合成能力が高いため、光エネルギーを効率よく、作物の生産に利用することができる。また、植物が光合成を盛んに行うと、大気中の二酸化炭素を効率よく分解して、より多くの酸素を大気中に放出させることができるので、環境の浄化に有効である。また、光合成能を低減させた植物は、成長が遅くなるので、作物の生産時期を調整することが可能となる。また、光合成能を低減させた植物は、果実などの成長も遅くなるので、ことなった形態あるいは食感の果実などを作出することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、4種類のsug(supressed greening of calli, activation-tagged)変異系統および野生株を緑化カルス誘導培地上で生育させたプレートの写真を示す。
【図2】図2は、sug 101 変異カルスにおけるT-DNA近傍遺伝子の発現量を示す。(A): T-DNA近傍遺伝子の挿入部位を示す。挿入部近傍10kbpに含まれる遺伝子を囲み、これに対して発現解析を行った。(B): T-DNA近傍遺伝子の発現量をCol-0緑化カルスを1として比較した。
【図3】図3は、sug 102 変異カルスにおけるT-DNA近傍遺伝子の発現量を示す。(A): T-DNA近傍遺伝子の挿入部位を示す。挿入部近傍10kbpに含まれる遺伝子を囲み,これに対して発現解析を行った。(B): T-DNA近傍遺伝子の発現量をCol-0緑化カルスを1として比較した。
【図4】図4は、sug 103 変異カルスにおけるT-DNA近傍遺伝子の発現量を示す。 (A): T-DNA近傍遺伝子の挿入部位を示す。挿入部近傍10kbpに含まれる遺伝子を囲み,これに対して発現解析を行った。(B): T-DNA近傍遺伝子の発現量をCol-0緑化カルスを1として比較した。
【図5】図5は、sug 104 変異カルスにおけるT-DNA近傍遺伝子の発現量を示す。 (A): T-DNA近傍遺伝子の挿入部位を示す。挿入部近傍10kbpに含まれる遺伝子を囲み,これに対して発現解析を行った。 (B): T-DNA近傍遺伝子の発現量をCol-0緑化カルスを1として比較した。
【図6】図6は、SUG候補遺伝子-pSMAB704形質転換体植物でのSUG候補遺伝子の発現量比較を示す。リアルタイムRT-PCRによってSUG候補遺伝子の発現量を測定し、内部標準ACT2遺伝子によって補正を行い、Col-0との相対値で表した。
【図7】図7は、SUG候補遺伝子-pSMAB704形質転換体でのCABおよびRBCS遺伝子の発現量比較を示す。リアルタイムRT-PCRによってCABおよびRBCS遺伝子の発現量を測定した。内部標準ACT2遺伝子によって補正を行い、Col-0との相対値で表した。
【図8】図8は、SUG101候補遺伝子破壊 (KO: knockout) 植物におけるCABおよびRBCS遺伝子の発現量比較を示す。リアルタイムRT-PCRによってCABおよびRBCSの発現量を測定し、内部標準ACT2遺伝子によって補正を行い、Col-0との相対値で表した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.本発明のポリヌクレオチド
本発明者らは、アクティベーションタギングを用いて光合成抑制遺伝子の探索を行った結果、4種類の新規な光合成抑制遺伝子(SUG101[配列番号:1],SUG102[配列番号:3],SUG103[配列番号:5],SUG104[配列番号:7])を同定することに成功した。
まず、本発明は、(a)配列番号:1、3、5又は7の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;及び(b)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。
【0015】
本発明で対象とするポリヌクレオチドは、上記の光合成抑制遺伝子をコードするポリヌクレオチドに限定されるものではなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のポリヌクレオチドを含む。機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質としては、配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列において、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的には小さい程好ましい。また、このようなタンパク質としては、(d)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列と約80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
【0016】
本発明において、「光合成抑制活性」は、光合成を抑制する能力のことをいい、例えば、本発明に係るDNAを導入した植物において、それを導入しない植物と比較して、5%以上、好ましくは10%以上、好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上光合成能を低減させる活性のことをいう。光合成抑制活性は、例えば、後述の実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0017】
また、本発明は、(e)配列番号:1、3、5又は7の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び(f)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドも包含する。
【0018】
ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、配列番号:1、3、5又は7の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの全部または一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法またはサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチド(例えば、DNA)をいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えばMolecular Cloning 3rd Ed.、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などに記載されている方法を利用することができる。
【0019】
本明細書でいう「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するポリヌクレオチド(例えば、DNA)が効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0020】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたポリヌクレオチド(例えば、DNA)を検出することができる。
【0021】
これ以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するポリヌクレオチドをあげることができる。
【0022】
なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 2264-2268, 1990; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J. Mol. Biol. 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0023】
さらに、本発明のポリヌクレオチドは、(j) 上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド; (k)上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド; (l) 上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;及び(m)上記(5)に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチドを含む。これらのポリヌクレオチドは、ベクターに組込まれ、さらにそのベクターが導入された形質転換細胞において上記(a)〜(i)のポリヌクレオチド(DNA)の発現を抑制することができる。したがって、上記ポリヌクレオチド(例えば、DNA)の発現を抑制することが好ましい場合に好適に利用することができる。
【0024】
本明細書中、「DNAの転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド」とは、いわゆるアンチセンスDNAのことをいう。アンチセンス技術は、特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法として公知であり、種々の文献に記載されている(例えば、平島および井上: 新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現 (日本生化学会編, 東京化学同人) pp.319-347, 1993などを参照)。アンチセンスDNAの配列は、内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンスDNAの長さは少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。
【0025】
本明細書中、「DNAの発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド」とは、RNA interference(RNAi)によって内在性遺伝子の発現を抑制するためのポリヌクレオチドのことをいう。「RNAi」とは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことを指す。ここで用いられるRNAとしては、例えば、21〜25塩基長のRNA干渉を生ずる二重鎖RNA、例えば、dsRNA (double strand RNA)、siRNA(small interfering RNA)又はshRNA(short hairpin RNA)が挙げられる。このようなRNAは、リポソームなどの送達システムにより所望の部位に局所送達させることも可能であり、また上記二重鎖RNAが生成されるようなベクターを用いてこれを局所発現させることができる。このような二重鎖RNA(dsRNA、siRNA又はshRNA)の調製方法、使用方法などは、多くの文献から公知である(特表2002-516062号公報; 米国公開許第2002/086356A号; Nature Genetics, 24(2), 180-183, 2000 Feb.; Genesis, 26(4), 240-244, 2000 April; Nature, 407:6802, 319-20, 2002 Sep. 21; Genes & Dev., Vol.16, (8), 948-958, 2002 Apr.15; Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99(8), 5515-5520, 2002 Apr. 16; Science, 296(5567), 550-553, 2002 Apr. 19; Proc Natl. Acad. Sci. USA, 99:9, 6047-6052, 2002 Apr. 30; Nature Biotechnology, Vol.20 (5), 497-500, 2002 May; Nature Biotechnology, Vol. 20(5), 500-505, 2002 May; Nucleic Acids Res., 30:10, e46,2002 May 15等参照)。
【0026】
本明細書中、「DNAの転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド」とは、一般に、リボザイムのことをいう。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいい、ターゲットとするDNAの転写産物を切断することにより、その遺伝子の機能を阻害する。リボザイムの設計についても種々の公知文献を参照することができる(例えば、FEBS Lett. 228: 228, 1988; FEBS Lett. 239: 285, 1988; Nucl. Acids. Res. 17: 7059, 1989; Nature 323: 349, 1986; Nucl. Acids. Res. 19: 6751, 1991; Protein Eng 3: 733, 1990; Nucl. Acids Res. 19: 3875, 1991; Nucl. Acids Res. 19: 5125, 1991; Biochem Biophys Res Commun 186: 1271, 1992など参照)。また、「DNAの発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド」とは、「共抑制」によって、ターゲットとなるDNAの機能を阻害するヌクレオチドをいう。
【0027】
本明細書中、「共抑制」とは、細胞中に、標的内在性遺伝子と同一もしくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入することにより、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことをいう。共抑制効果を有するポリヌクレオチドの設計についても種々の公知文献を参照することができる(例えば、Smyth DR: Curr. Biol. 7: R793, 1997、Martienssen R: Curr. Biol. 6: 810, 1996など参照)。
【0028】
2.本発明のタンパク質
本発明は、上記ポリヌクレオチド(a)〜(i)のいずれかにコードされるタンパク質も提供する。本発明の好ましいタンパク質は、配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質(光合成抑制因子)である。
【0029】
このようなタンパク質としては、配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列において、上記したような数のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質が挙げられる。また、このようなタンパク質としては、配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列と上記したような相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0030】
このようなタンパク質は、「モレキュラークローニング第3版」、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)"、"Gene, 34, 315 (1985)"、"Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)"等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
【0031】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたとは、同一配列中の任意かつ1もしくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1または複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。
【0032】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン; B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸; C群:アスパラギン、グルタミン; D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸; E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン; F群:セリン、スレオニン、ホモセリン; G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0033】
また、本発明のタンパク質は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製、島津製作所社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0034】
3.本発明のベクター
次に、本発明は、上記したポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。本発明のベクターは、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(例えば、DNA)又は上記(j)〜(m)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有する。また、本発明のベクターは、通常、(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター;(y)該プロモーターにセンス方向またはアンチセンス方向で結合した、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA);及び(z)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関し、目的とする細胞などで機能するシグナルを構成要素として含む発現カセットを含むように構成される。
本発明においては、上記本発明のタンパク質を高発現させる場合は、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を促進するようにこれらのポリヌクレオチドを該プロモーターに対してセンス方向に導入する。また、上記本発明のタンパク質の発現を抑制させる場合は、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を抑制するようにこれらのポリヌクレオチドを該プロモーターに対してアンチセンス方向に導入する。また、上記本発明のタンパク質の発現を抑制させる場合は、上記(j)〜(m)のいずれかに記載のポリヌクレオチドが発現可能なようにベクターに導入することもできる。
【0035】
本発明の組換えベクターは、本発明の上記DNAを適当なベクターに挿入することによって作成することができる。ベクターとしては、pBluescript系のベクター、pBI系のベクター、pUC系のベクターなどが使用できる。 pBluescript系のベクター、pBI系のベクターなどのバイナリーベクターは、アグロバクテリウムを介して植物に目的のDNAを導入できるという点で好ましい。pBluescript系のベクターとしては、例えば、pBluescript SK(+)、pBluescript SK(-)、pBluescript II KS(+)、pBluescript II KS(-)、pBluescript II SK(+)、pBluescript II SK(-)などがあげられる。pBI系のベクターとしては、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3、pBI221などがあげられる。 pUC系のベクターは、植物にDNAを直接導入することができるという点で好ましい。
ベクターは、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター)を有するベクターや、外的な刺激(例えば、乾燥、紫外線の照射、塩ストレス)により誘導的に活性化されるプロモーターを有していてもよい。このようなプロモーターとしては、例えば、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナのrab16遺伝子のプロモーター(Nundy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 1406 (1990))、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefert et al., EMBO J. 8, 651 (1989))、塩ストレスによって誘導されるプロモーター(Shinozaki, K. and Yamaguchi-Shinozaki, K., Curr. Opin. Plant Biol. 3, 217-223 (2000))などがあげられる。
【0036】
さらに、本発明のベクターには、必要に応じて、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、ポリA付加シグナルなどを連結してもよい。
プロモーターとしては、植物細胞において機能することができれば植物由来のものでなくてもよい。具体的には、CaMV35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来のユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来のPRタンパク質プロモーターなどがあげられる。さらに、前述の外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターもあげられる。
エンハンサーとしては、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域があげられる。
ターミネーターとしては、前述のプロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であればよく、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、CaMVポリAターミネーターなどがあげられる。
【0037】
本発明のDNAをベクターに挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入する方法などが用いられる。
【0038】
4.本発明の形質転換体(形質転換植物細胞、形質転換植物体など)
本発明の形質転換植物細胞は、本発明の組換えベクターを植物細胞に導入することによって得ることができる。組換えベクターの植物細胞への導入は、従来公知の方法、例えば、植物に感染するウイルスや細菌を介して導入する方法(I. Potrylkus, Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 42, 205 (1991))、外来DNAを直接導入する方法などがあげられる。具体的には、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法、エレクトロポレーション法などを用いることができる。これらの方法は、例えば、形質転換する宿主植物の種類などに応じて適宜決定できる。
植物に感染するウイルスとしては、カリフラワーモザイクウイルス、ジェミニウイルス、タバコモザイクウイルス、プロムモザイクウイルスなどが使用できる。細菌としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、アグロバクテリウム・リゾジェネスなどが使用できる。
アグロバクテリウムへのベクターの移行は、エレクトロポレーション法によって行うことができる。
【0039】
植物細胞に外来DNAを直接導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、融合法、高速バリスティックペネトレーション法等の従来公知の方法があげられる(I. Potrykus, Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 42, 205 (1991)参照)。エレクトロポレーション法は、例えば、プロトプラストの培養が安定かつ容易であり、再生が容易な植物細胞に適用することが好ましい。また、パーティクルガン法は、宿主の限定を受けないため、例えば、アグロバクテリウムに感染し難い植物細胞や、プロトプラストの調製が困難な植物細胞に適用することが好ましい。なお、このようにエレクトロポレーション法を行う場合、前記組換えベクターを構成するベクターとしては、例えば、pUC18、pUC19、pBR322、pBR325、pBluescript 等が好ましい。単子葉植物の多くやアグロバクテリウムの感染しにくい双子葉植物に対しては、DNA導入法として汎用されているアグロバクテリウムを用いた間接導入法が使用できないため、これらの直接導入法が有効である。
【0040】
次に、本発明のベククーを導入したアグロバクテリウム等から植物へT−DNAを導入して、植物の形質転換を行う。例えば、上述のようにしてベクターを導入したアグロバクテリウム株を植物細胞のカルスまたは組織片と数分間程度共存させた後、2N6−ASまたはN6COなどの培地中で、25〜28℃で3日間程度共存培養する。ここで共存培養する植物としては、共存培養の難易度に差があるものの種子植物が用いられる。特に、これまで形質転換の困難であった単子葉作物、すなわち、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、シバなど、さらに樹木(ポプラやユーカリなど)なども対象となり得る。
【0041】
上記のアグロバクテリウムとの共存培養の後、カルスまたは組織片は、適当な抗生物質を含む培地で選択培養を行う。例えば、ベクターに選択マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子を導入した場合には、ハイグロマイシン(10〜100μg/mL)とアグロバクテリウム除去のためのセフォタキシム(25μg/mL)またはカルベニシリン(500μg/mL)とを含む2N6−CHまたはN6Se培地を用いて、1〜3週間選択培養を行うことにより、形質転換したカルス体を選択的に得ることができる。選択的に得たカルス体を、N6S3−CH、MSreなどの適当な再分化培地を用いて再分化を誘導し、再分化個体を得る。以上のようにして、本発明のベクターを用いてDNA断片を植物に導入し形質転換することができる。
【0042】
組換え個体の選抜は、マーカー遺伝子で抗生物質耐性遺伝子(例えば、ハイグロマイシン遺伝子)の発現を調べることによって行うことができる。また、得られた形質転換植物細胞および形質転換植物体の染色体DNAをそれぞれ調製し、例えば、目的DNA配列に特異的なプライマーやプローブを用いたPCRやサザンブロッティング法等により、前記目的DNAの発現が確認されれば、所望の形質転換植物細胞および形質転換植物体が得られたこととなる。
【0043】
なお、本発明においては、ターゲットとする上記遺伝子(DNA)を破壊することによって、上記ポリヌクレオチド(例えば、DNA)の発現または上記タンパク質の発現を抑制することができる。遺伝子の破壊は、ターゲットとする遺伝子における遺伝子産物の発現に関与する領域、例えば、コード領域やプロモーター領域の内部へ単一あるいは複数の塩基を付加あるいは欠失させたり、これらの領域全体を欠失させることにより行うことができる。このような遺伝子破壊の手法は、公知の文献を参照することができる(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76, 4951(1979) 、Methods in Enzymology, 101, 202(1983)、特開平6-253826号公報など参照)。
【0044】
形質転換植物体が得られれば、その植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることができ、公知の方法によりクローンを得ることもできる。また、その植物体、その子孫もしくはクローンから、さらに子孫もしくはクローンを得ることもできる。
【0045】
本発明のベクターまたはポリヌクレオチドが導入されることで形質転換される植物としては、特に制限はなく、下等植物から高等植物まで全て含む。本発明で形質転換される植物としては、例えば、種子植物、シダ植物、コケ植物、地衣植物、多細胞の植物、作物植物、蔬菜植物、花卉植物、木本植物、観賞用植物、樹木植物(例えば、針葉樹、落葉樹など)などを挙げることができる。本発明の形質転換された植物は、単子葉または双子葉植物であってよい。農作物としては、例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ライムギ、ダイズ、(インゲン)マメ、エンドウ、チコリー、トマト、ミカン、イチゴ、ワタ、タバコ、コーヒーノキ、チャ、ナタネ、ジャガイモ、テンサイ、サトウキビ、ヒマワリ、ゴムノキ、カンショ、レタス、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、カブ、ダイコン、ホウレンソウ、アスパラガス、タマネギ、ニンニク、ペッパー、セルリー、カボチャ、ペポカボチャ、アサ、ズッキーニ、リンゴ、ナシ、マルメロ、メロン、スモモ、サクランボ、モモ、ネクタリン、アンズ、ブドウ、ラズベリー、ブラックベリー、パイナップル、アボガド、パパイヤ、マンゴー、バナナ、ソルガム、クローバー、ニンジン、アルファルファ、ナス、キュウリ、アラビドプシスなどが挙げられる。観賞用植物としては、例えば、キク、カーネーション、バラ、キンギョソウ、ラン、トルコギキョウ、フリージア、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、シクラメン、カトレア、ペチュニア、トレニア、チューリップ、ガーベラ、アヤメ、ヤシ、スゲなどが挙げられる。樹木植物としては、例えば、例えば、マツ、トウヒ、モミ、ツガ、イチイ、イチョウが挙げられる。コケ植物としては、例えば、ヒメツリガネゴケが挙げられる。
【0046】
なお、本発明において、詳細な実験操作は、特に述べる場合を除き、モレキュラー・クローニング第3版、Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987-1997)、Glover D. M. and Hames B. D., DNA Cloning 1: Core Techniques, A practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995)等の実験書に記載されている方法などの公知の方法により、または市販のキットの取扱い説明書に記載の方法により行うことができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明の詳細を述べるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実験の概要)
本実験ではまず、光合成を行うようになった緑化カルスを誘導するための培地の条件検討を行った。次に、アクティベーションタギングによって緑化誘導されなくなったカルス、つまり緑化に関与する遺伝子の発現を負に制御する遺伝子が活性化した変異体の選抜を行った。その結果、T-DNAの導入によりスルホニルウレア耐性となり、さらに緑化条件(GCIMプレート上)にもかかわらず緑化しない形質転換カルスを目視で選抜した。そして、選抜した形質転換カルスをスルホニルウレア(Dr.Ehrenstorfer)(最終濃度100 ng/ml)、バンコマイシン(メルク・ホエイ)(最終濃度100 μg/ml)、クラフォラン(最終濃度100 μg/ml)の薬剤を含むGCIM選抜プレートで培養し、盛んに増殖を繰り返すものを候補カルスとした(図1)。
【0049】
また、アクティベーションタギング法によって得られた候補カルスは、エンハンサーを含むT-DNAがランダムに導入され、T-DNA上のエンハンサーの近傍遺伝子を活性化することによって緑化しないカルスが得られたと考えられる。そこで、候補カルスのT-DNAの導入場所、原因遺伝子の特定を行った。
本発明者らは、種々の探索を行った結果、4種類の新規な光合成抑制遺伝子(SUG101[配列番号:1],SUG102[配列番号:3],SUG103[配列番号:5],SUG104[配列番号:7])を同定することに成功した。
【0050】
(材料および方法)
1:生育条件
人工気象機 (Biotron NC220, Nksystem) を用い,22℃,湿度40-60%,照度3,000〜5,000 luxの連続白色光条件下で,3週間生育させた
【0051】
培地
(1)MS培地 1 L
ムラシゲ スクーグ培地用混合塩類(SIGMA)4.6 g、スクロース(Wako)20 g、1,000×ビタミンストック(チアミン塩酸塩300 mg、ニコチン酸500 mg、ピリドキシン酸500 mgをDDWに加え100 mlにした)1 mlに、DDWを加えメスアップし、2N KOHでpHを5.8に調製後、ゲランガム(Wako)4 gを加え、121℃、20分でオートクレーブ後シャーレに分注した。
【0052】
(2)CIM (カルス誘導培地) 1 L
MS培地の組成に、2.4-D*1(最終濃度500 ng/ml)カイネチン*2(最終濃度50 ng/ml)を加え、ゲランガムを3 g加え、121℃、20分でオートクレーブ後シャーレに分注した。
*1 保存溶液(10 mg/ml)は、2.4-D(Wako)0.2 gをDMSO 20 mlに溶かして調整した。
*2 保存溶液(1 mg/ml)は、カイネチン(Wako)0.02 gをDMSO 20 mlに溶かして調整した。
【0053】
(3)GCIM (緑化カルス誘導培地) 1 L
MS培地の組成に、2,4-D(最終濃度50 ng/ml)、カイネチン(最終濃度4 μg/ml)を加え、ゲランガムを4 g加え、121℃、20分でオートクレーブ後シャーレに分注した。
【0054】
(4)SIM (カルス誘導培地) 1 L
MS培地の組成に、IAA(最終濃度150 ng/ml)カイネチン(最終濃度5 μg/ml)、ゲランガム3 gを加え、121℃、20分でオートクレーブした。その後50℃に冷やし、60℃、30分間のインキュベート済のココナッツミルク(SIGMA)を20 ml加え、シャーレに分注した。保存溶液(1 mg/ml)は、3-インドール酢酸(IAA)(Wako)10 mgを少量の1N NaOHで溶かした後、10 mlの脱イオン水に溶かして調製した。
【0055】
(5)RIM (カルス誘導培地) 1 L
MS培地の組成に、IAA(最終濃度500 ng/ml)、ゲランガム3 gを加え、121℃、20分でオートクレーブ後シャーレに分注した。
【0056】
2:植物ホルモン濃度による緑化カルスの作製
シロイヌナズナ野生系統Colの根をMS固形培地で1週間生育し、MS液体培地でさらに2週間振とう培養した。この培養したColの根を、植物ホルモン2,4-D(オーキシン)の濃度50、100、500 (ng/ml)の3点各々についてカイネチン(サイトカイニン)の濃度500、2000、4000、6000 (ng/ml)の4点、計12種類のプレート(A〜L)と、対照として2,4-Dの濃度500 ng/ml、カイネチンの濃度50 ng/mlのプレートMとに移植し、5週間培養した。
【0057】
3:シロイヌナズナ野生系統への形質転換
バイナリーベクターを導入したアグロバクテリウム (GV3101) を、スペクチノマイシン100 μg/mL、ゲンタマイシン25 μg/mL、リファンピシン50 μg/mL を含むLB 液体培地1.5 mLに植菌し、28℃ 約170 rpmで、約22時間培養を行った。遠心して集菌した菌を、infiltration medium約80 mLに懸濁させた。
【0058】
MS培地にて約2週間育成させたシロイヌナズナ野生系統Colをロックウールに移し、さらに約2週間育成させ、開花直前の蕾が出てきた頃の株を用いた。その株を直接上記の懸濁液に浸して3分置いて感染させ、形質転換を行った。

infiltration medium
Murashige Skoog 培地用混合塩類
1000×vitamin stock 2 mL
sucrose 100 g
1 mg/mL benzylamino purine 20 μL
silicon L-774.3 g 400 mL
(超純水で全量2 L。)
【0059】
4:TAIL-PCR(Thermal Asymmetric Interlaced PCR)によるT-DNA導入部位の確認
TAIL-PCRは、既知の配列に特異的プライマーと非特異的(任意)プライマーを組み合わせて使用することによって、既知配列(T-DNA)に隣接する未知DNA配列を特異的に増幅する方法である。
【0060】
(1)Clean PCRによるDNA抽出
4つの候補カルス(約5 mm弱)を1.5 mlチューブに入れ、DNA抽出液200 μlを加えてすり潰して撹拌した後、100%エタノール400 μlを加えて撹拌し、15,000 rpm、4℃、10分間遠心した。上清を取り除き、ペレットにTE buffer 200 μlを加えて再び遠心し、上澄液をDNA溶液とした。
【0061】
DNA抽出液
200 mM Tris-HCl (pH 7.5)
250 mM NaCl
25 mM EDTA
0.5% SDS

TE buffer
10 mM Tris-HCl (pH 8.0)
1 mM EDTA
【0062】
(2)TAIL-PCR
DNA溶液を用いて、T-DNA上のライトボーダー側に特異的なプライマーRB1、RB2、RB3(それぞれ配列番号:9、10、11)、レフトボーダー側に特異的なプライマーLB1、LB2、LB3(それぞれ配列番号:12、13、14)、非特異的なランダムプライマー12種類(配列番号15〜26)を用いTAIL-PCR用プログラムにてPCRを行った。プライマーの名称、配列および配列番号は、下記表1に示す。
【0063】
5:TAIL-PCRによって増幅されたDNAのシークエンス
TAIL-PCRによって増幅されたDNAのシークエンスを行なった。増幅されたDNAを鋳型にしてBig Dye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)のプレミックス、RB3およびLB3プライマーを用いて、シークエンス用標準PCRプログラムにてPCR反応を行なった。反応液を真空乾燥させ、残渣をTemplate Suppression Reagent (Applied Biosystems)に溶解させ、ABI PRISM(登録商標) 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems)を用いてシークエンスを行った。
【0064】
6:マイクロアレイによるT-DNA近傍遺伝子の発現量の確認
(1)RNA抽出
QIAGEN RNeasy(登録商標) Plant Mini Kit(50)を用いた。2-1-6のカルス、2-1-6の緑化カルスと4つの候補カルスをそれぞれ200 mg用意した。これらのサンプルを、液体窒素で凍らせ、すり潰した後、450 μlのBuffer RLT(RLT 1 mlに対してメルカプトエタノール10 μl)を加えた。それをカラムに入れ、12,000 rpm、2分間遠心分離した。沈殿を吸わないように上清のみ1.5 mlチューブに入れた。その上清の半量の100%エタノールを加えピペッティングし、カラムに入れ、10,000 rpm、15秒間遠心分離した。下の液は捨て、700 μlのRW1を加え、10,000 rpm、15秒間遠心分離し、新しいコレクションチューブに変えた。500 μlのBuffer RPEを加え、10,000 rpm、15秒間遠心分離した。この操作を3回繰り返した。そして、新しいコレクションチューブに変え、乾燥させるためふたを開けたまま、10,000 rpm、1分間遠心分離した。30 μlのRNase-free waterを加え、1分間放置した後、10,000 rpm、1分間遠心分離した。
【0065】
(2)マイクロアレイ
回収したRNAを用いて、AFFYMETRIX社製のマイクロアレイArabidopsis Genome ATH1 Arrayで解析を行った。
【0066】
7:リアルタイムRT-PCRによるT-DNA近傍遺伝子の発現量の確認
(1)RNA抽出
RNA抽出後、DNase処理を行った。反応液は、RNA溶液を10 μl等量、10×DNase Buffer 10 μl、DNase 3 μlおよびRNase free waterにて総量100 μlとし、これを37℃、30分間反応させた。100 μlのクロロホルムを加え5分間ボルテックスし、室温で15,000 rpm、10分間遠心し、上層を回収した。回収した上層に1/10倍量の3 M酢酸ナトリウム、2.5倍量の100%エタノールを加え、1分間ボルテックスし、-80℃で1時間放置した。その後、4℃、15,000 rpm、10分間遠心し上清を除いた。70%エタノールを加え、4℃、15,000 rpm、10分間遠心し上清を除いた。得られたペレットを風乾させ、10 μlの蒸留水(DW)に溶かした。
【0067】
(2)cDNA合成
Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit for RT-PCR(AMV) (Roche)を用いた。DNase処理をおこなったRNA溶液1 μl当量、Anchored oligo(dt)18 Primer 1 μlおよび水で総量13 μlとし、65℃、10分間インキュベートした。これに、Transcriptor RT Reaction Buffer 4 μl、Protector RNase Inhibitor 0.5 μl、Deoxynucleotide Mix 2 μl、Transcriptor Reverse Transcriptase 0.5 μlを加え、55℃、30分間インキュベートした。さらに、酵素を失活させるために、85℃、5分間インキュベートした。
【0068】
(3)リアルタイムRT-PCR反応
試薬はSYBR(登録商標)Premix EX TaqTM(TaKaRa)を用い、合成したcDNAを鋳型とし、標準プロトコールに従ってLight-Cycler(Roche)を使用してリアルタイムRT-PCRを行った。プライマー(下記表1:配列番号45〜96)は測定する遺伝子に対して特異性が高く、かつゲノムDNAの混入を確認するために、イントロンを挟むように22〜25 merの長さで、産物が150〜250 bp程度のサイズになるように設計した。内部標準としてはアクチンを使用した(プライマーの配列番号:43及び44)。
【0069】
8:形質転換のための遺伝子の作製
各候補遺伝子を強制発現べクターに連結するために開始コドンからストップコドンまでをKOD-plus(TOYOBO)を用いてPCRにより増幅した。このとき用いたFdプライマーの3'側にはSmaIサイト、Rvプライマーの5'側にSacIサイトを付加した(下記の表2のインサート増幅用プライマー、配列番号:35〜42)。PCR産物をゲル回収し、EcoRV処理したpBlueScript KS+(STRATAGENE)とライゲーションさせ、ヒートショックでE.Coli DH5(TOYOBO)に形質転換した。形質転換されたDH5よりプラスミドを回収し、シーケンスを確認後、SmaI処理およびSacI処理を行った。処理されたSUG候補遺伝子断片をゲルで分離して回収し、これをインサートとして用いた。このインサートを組み込むためのベクターとしては、pSMAB704をSmaI処理およびSacI処理してゲルで分離して回収したものを用いた。これらのインサートおよびベクターを混合し、ライゲーションして、SUG候補遺伝子-pSMAB704を得た。エレクトロポレーション法でアグロバクテリウム (GV3101) の形質転換を行った。pSMAB704に含まれる薬剤マーカーを利用して、スペクチノマイシン100 mg/mL を含むLB固形培地で生育してきたコロニーを形質転換候補株として回収した。そのクローンよりプラスミドを回収した。回収したプラスミドを、制限酵素処理、DNAシークエンスにより所望の配列を有することを確認した。
【0070】
9:SUG101〜SUG104候補遺伝子破壊系統の入手
SUG候補遺伝子が遺伝子破壊された植物体の表現型を調べるために、遺伝子破壊系統の検討を行った。遺伝子破壊種子のストック・センターであるSALKで検索し、SALK_108673C(SUG101候補遺伝子破壊)、SALK_008299(SUG102候補遺伝子破壊)、 SALK_090207・SALK_080893(SUG103候補遺伝子破壊)、SALK_061454(SUG104候補遺伝子破壊)を入手した。
【0071】
実施例1
(1):緑化カルス作製方法の検討およびスクリーニング
最初に緑化カルス作製条件を検討するために、ホルモン濃度の検討を行った。MS培地で生育させたColの根を植物ホルモン2,4-Dおよびカイネチンの各濃度のCIMに移し5週間培養した結果、2,4-Dの濃度が50 ng/ml、カイネチンの濃度が4 μg/mlの条件でカルスが最も緑化していた。この方法では、カルスは約1ヶ月で緑化した。
この条件下で、T-DNAを導入した候補カルスの選抜を行い、T-DNAの挿入によりスルホニルウレア耐性になった形質転換カルスを4,000個得た。その中から緑化しないカルスを60個得た。これを新しい緑化培地に継代し、その中から増幅し続けた候補カルスを6個得た。その後2ヶ月ごとに新しい培地に継代をい、最終的の4つの候補カルスを得た(図1)。これら変異系統をsug(suppressed greening of calli)変異体とし,それぞれ候補カルスsug101, sug102, sug103, sug104と命名した。
【0072】
(2):ゲノム上におけるT-DNA導入部位の確認
上記のようにして獲得した各変異体に対してTAIL-PCRを行った。使用したプライマーの名称及び配列を以下に示す。
【表1A】

【表1B】

【0073】
候補カルスsug101に対してTAIL-PCRを行い、得られた増幅断片の塩基配列を決定したところ、ライトボーダー側からのシークエンスより、chromosome1 BAC F16N3上にT-DNAの導入が確認できた。一方、レフトボーダー側からはT-DNAの導入部位に関する情報は得られなかった。ライトボーダー側では、chromosome1 BAC F16N3 127508 bpからの配列と一致したので、その上流と下流にプライマーを設計し(それぞれ配列番号:27及び28)、そのプライマーとRB1またはLB1プライマー(それぞれ配列番号:9及び12)を用いてPCRを行ったところ、ライトボーダー側、レフトボーダー側共に増幅産物が確認できた。さらに、その増幅産物に対してシークエンスを行ったところ、ライトボーダー側では127514 bpから、レフトボーダー側では127543 bpからゲノムDNA配列が確認できた。このことから、候補カルスsug101は、chromosome1 BAC F16N3上の127514 bpから127543 bpの間の39 bpが欠損し、そこにレフトボーダー側がゲノムDNAの下流に向かうようにT-DNAが挿入されていることが示唆された(図2.A)。
【0074】
候補カルスsug102に対してTAIL-PCRを行い、得られた増幅断片の塩基配列を決定したところ、ライトボーダー側からのシークエンスより、chromosome1 BAC T13M11上にT-DNAの導入が確認できた。一方、レフトボーダー側からはT-DNAの導入部位に関する情報は得られなかった。ライトボーダー側では、chromosome1 BAC T13M11 64600 bpからの配列と一致したので、その上流と下流にプライマーを設計し(それぞれ配列番号:29及び30)、そのプライマーとRB1またはLB1プライマー(それぞれ配列番号:9及び12)を用いてPCRを行ったところ、ライトボーダー側、レフトボーダー側共に増幅産物が確認できた。さらに、その増幅産物に対してシークエンスを行ったところ、ライトボーダー側では64606 bpから、レフトボーダー側では64617 bpからゲノムDNA配列が確認できた。このことから、候補カルスsug102は、chromosome1 BAC F16N3上の64606 bpから64617 bpの間の10 bpが欠損し、そこにレフトボーダー側がゲノムDNAの下流に向かうようにT-DNAが挿入されていることが示唆された(図3.A)。
【0075】
候補カルスsug103に対してTAIL-PCRを行い、得られた増幅断片の塩基配列を決定したところ、ライトボーダー側からのシークエンスより、chromosome3 TAC clone K7L4上にT-DNAの導入が確認できた。一方、レフトボーダー側からはT-DNAの導入部位に関する情報は得られなかった。ライトボーダー側では、chromosome3 TAC clone K7L4 12074 bpからの配列と一致したので、その上流と下流にプライマーを設計し(それぞれ配列番号:31及び32)、そのプライマーとRB1またはLB1プライマー(それぞれ配列番号:9及び12)を用いてPCRを行ったところ、ライトボーダー側、レフトボーダー側共に増幅産物が確認できた。さらに、その増幅産物に対してシークエンスを行ったところ、ライトボーダー側では12073 bpから、レフトボーダー側では11967 bpからゲノムDNA配列が確認できた。このことから、候補カルスsug103は、chromosome3 TAC clone K7L4上の11967 bpから12073 bpの間の106 bpが欠損し、そこにレフトボーダー側がゲノムDNAの上流に向かうようにT-DNAが挿入されていることが示唆された(図4.A)。
【0076】
候補カルスsug104に対してTAIL-PCRを行い、得られた増幅断片の塩基配列を決定したところ、ライトボーダー側からのシークエンスより、chromosome2 clone T8I13上にT-DNAの導入が確認できた。一方、レフトボーダー側からはT-DNAの導入部位に関する情報は得られなかった。ライトボーダー側では、chromosome2 clone T8I13 18083 bpからの配列と一致したので、その上流と下流にプライマーを設計し(それぞれ配列番号:33及び34)、そのプライマーとRB1またはLB1プライマー(それぞれ配列番号:9及び12)を用いてPCRを行ったところ、ライトボーダー側、レフトボーダー側共に増幅産物が確認できた。さらに、その増幅産物に対してシークエンスを行ったところ、ライトボーダー側では18082 bpから、レフトボーダー側では18026 bpからゲノムDNA配列が確認できた。このことから、候補カルスsug104は、chromosome2 clone T8I13上の18026 bpから18082 bpの間の56 bpが欠損し、そこにレフトボーダー側がゲノムDNAの上流に向かうようにT-DNAが挿入されていることが示唆された(図5.A)。
【0077】
(3)T-DNA近傍遺伝子の発現量の確認
親系統2-1-6の緑化カルスと4つの候補カルスからRNAを抽出し、マイクロアレイを行った。それぞれの候補カルスについて、T-DNA挿入付近の遺伝子の発現量を緑化カルスと比較した。また、マイクロアレイで確認できなかったT-DNA挿入付近の遺伝子をリアルタイムRT-PCRを行い、その発現量を緑化カルスと比較した。
【0078】
マイクロアレイとリアルタイムRT-PCRの結果から、T-DNAが挿入された近傍遺伝子の発現量を確認した。特に、ライトボーダー、レフトボーダーに最も近い遺伝子から確認し、T-DNAから20 kbpの範囲の遺伝子に注目した。
【0079】
候補カルスsug101では、ライトボーダーに最も近い遺伝子At1g47520の発現量は2.64倍であった。レフトボーダーに最も近い遺伝子At1g47510の発現量は6.07倍であった。その隣に位置する遺伝子At1g47500の発現量は3.48倍であった。At1g47495はマイクロアレイで情報が得られなかったので、リアルタイムRT-PCRを行ったが、発現が確認出来なかった(図2.B)。よって候補カルスsug101の原因遺伝子はAt1g47510 (配列番号:1及びこの配列がコードするアミノ酸の配列番号:2)とした。
【0080】
候補カルスsug102では、ライトボーダーに最も近い遺伝子At1g61770の発現量は1.52倍であった。レフトボーダーに最も近い遺伝子At1g61780の発現量は2.14倍であった。T-DNAから20 kbpの範囲で見てみると、14 kbp離れた遺伝子At1g61740の発現量は3.48倍であった(図3.B)。よって候補カルスsug102の原因遺伝子はAt1g61740およびAt1g61780 (配列番号:3及びこの配列がコードするアミノ酸の配列番号:4)とした。
【0081】
候補カルスsug103では、ライトボーダーに最も近い遺伝子At3g15240の発現量は84.4倍と52.0倍であった。At3g15240の遺伝子はマイクロアレイにおいてプローブIDが2つあった。したがって、2つのプローブIDがAt3g15240の遺伝子に対応している。レフトボーダーに最も近い遺伝子At3g15220の発現量は1.74倍であった(図4.B)。よって候補カルスsug103の原因遺伝子はAt3g15240 (配列番号:5及びこの配列がコードするアミノ酸の配列番号:6)とした。
【0082】
候補カルスsug104では、ライトボーダーにもっとも近い遺伝子At2g47220の発現量は2.83倍であった。レフトボーダーに最も近い遺伝子At2g47210の発現量は1.21倍であった。その隣に位置する遺伝子At2g47200の発現量は17.1倍であった(図5.B)。よって候補カルスsug104の原因遺伝子はAt2g47200 (配列番号:7及びこの配列がコードするアミノ酸の配列番号:8)とした。
それぞれの候補カルスより得られた各原因遺伝子のヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を以下に記載する。
【0083】
配列番号:1
SUG101候補遺伝子 (At1g47510)
1 ATGCCGACAA TGGGGAATAA GAATTCGATG TGTGGGTTAA AAAGGTTTCC
51 GAACTACAAG AAGTCTCCGA TCGGTTCATT TGCGAAAAAC TCATCATCTC
101 ACGACGGTAT TAAAACAATC GAAGCTGTTA ACAGTTGCAG TTTTTCTAGA
151 AAAGCAGATC TTTGCATCCG TATCATCACA TGGAACATGA ATGGAAATGT
201 TTCGTATGAG GATTTAGTTG AGCTTGTTGG CAAAGAAAGG AAGTTCGATT
251 TGCTTGTCGT TGGCTTGCAA GAAGCTCCCA AAGCAAACGT TGATCAACTT
301 TTGCAGACAG CTTCATCTCC AACTCACGAG CTTCTTGGGA AGGCGAAATT
351 GCAATCGGTC CAGTTATATT TGTTTGGGCC AAAGAATTCA CATACATTAG
401 TAAAAGAATT AAAGGCAGAG AGATATTCGG TAGGAGGATG TGGAGGTTTA
451 ATAGGAAGAA AAAAAGGAGC CGTGGCTATT CGTATTAACT ACGATGACAT
501 CAAAATGGTT TTTATCTCTT GCCATCTCTC TGCTCATGCA AAAAAAGTGG
551 ATCAAAGAAA TACGGAGTTA AGACACATAG CAAATTCACT ATTACCAAGA
601 GACAAAAGGA AACGTGACCT TACTGTTTGG CTAGGAGATC TAAATTACAG
651 GATCCAAGAT GTCTCTAACC ATCCTGTTCG ATCTCTTATC CAAAACCATC
701 TTCAATCTGT TCTTGTGAGT AAAGATCAAC TCTTGCAAGA AGCGGAGAGA
751 GGCGAAATAT TCAAAGGTTA CTCTGAAGGA ACTTTAGGGT TTAAACCAAC
801 CTACAAGTAC AATGTAGGAA GCAGCGACTA TGATACAAGC CATAAGATCA
851 GGGTTCCAGC TTGGACAGAT AGGATCTTAT TCAAGATCCA AGATACTGAT
901 AATATTCAAG CAACTCTTCA CTCTTATGAT TCCATAGACC AAGTATATGG
951 TTCTGATCAT AAGCCTGTCA AAGCGGATCT TTGCTTGAAG TGGGTCAACA
1001 GTTAA
【0084】
配列番号:2(アミノ酸1文字表記)
SUG101候補遺伝子がコードするタンパク質
1 MPTMGNKNSM CGLKRFPNYK KSPIGSFAKN SSSHDGIKTI EAVNSCSFSR
51 KADLCIRIIT WNMNGNVSYE DLVELVGKER KFDLLVVGLQ EAPKANVDQL
101 LQTASSPTHE LLGKAKLQSV QLYLFGPKNS HTLVKELKAE RYSVGGCGGL
151 IGRKKGAVAI RINYDDIKMV FISCHLSAHA KKVDQRNTEL RHIANSLLPR
201 DKRKRDLTVW LGDLNYRIQD VSNHPVRSLI QNHLQSVLVS KDQLLQEAER
251 GEIFKGYSEG TLGFKPTYKY NVGSSDYDTS HKIRVPAWTD RILFKIQDTD
301 NIQATLHSYD SIDQVYGSDH KPVKADLCLK WVNS
【0085】
配列番号:3
SUG102候補遺伝子 (AT1g61780)
1 ATGGTTTGCG ATAAGTGTGA GAAGAAGTTA TCGAAAGTGA TAGTTCCTGA
51 TAAGTGGAAG GATGGTGCTC GTAATGTAAC TGAAGGTGGT GGTCGTAAAA
101 TCAATGAGAA TAAGCTTCTC TCCAAGAAGA ATAGATGGTC ACCTTACAGT
151 ACCTGTACCA CAAAATGTAT GATCTGCAAG CAGCAAGTGC ATCAAGATGG
201 TAAATACTGT CACACATGTG CCTATAGCAA AGGAGTGTGC GCAATGTGCG
251 GGAAGCAAGT GTTGGACACC AAGATGTACA AGCAAAGCAA TGTATAA
【0086】
配列番号:4(アミノ酸1文字表記)
SUG102候補遺伝子がコードするタンパク質
1 MVCDKCEKKL SKVIVPDKWK DGARNVTEGG GRKINENKLL SKKNRWSPYS
51 TCTTKCMICK QQVHQDGKYC HTCAYSKGVC AMCGKQVLDT KMYKQSNV
【0087】
配列番号:5
SUG103候補遺伝子 (At3g15240)
1 ATGGTGGGCT CGGAACATCA TCACCATCAT CAACAACATC ATCATCAAAA
51 CCATCAGCAG CAGCAACAAA GGAGCAAAGA AGCTTTAGGG ATGGTGGCTC
101 TCCACGACGC CCTGAGAACT GTTTGTCTCA ACACCGACTG GACTTACTCT
151 GTCTTCTGGT CCATCCGTCC CCGTCCGAGA GTTCGAGGCG GTGGCAACGG
201 CTGCAAAGTT GGCGACGACA ATGGAAGCTT GATGTTGATG TGGGAAGATG
251 GATACTGCAG AGGAAGAGGA GGAACAGAAG GTTGCTATGG AGACATGGAA
301 GGAGAAGATC CTGTTCGTAA ATCTTTCAGC AAGATGTCTA TTCAGTTATA
351 TAATTATGGC GAAGGGTTAA TGGGGAAGGT TGCTTCTGAC AAATGCCATA
401 AATGGGTTTT CAAGGAACAA ACTGAATCTG AATCTAATGC CTCTAGTTAC
451 TGGCAAAGCT CATTCGATGC TATTCCTTCA GAGTGGAATG ATCAGTTCGA
501 ATCTGGGATT CGGACCATAG CTGTTATTCA AGCCGGACAT GGCCTTTTAC
551 AACTTGGTTC TTGCAAGATT ATACCTGAAG ATCTGCACTT TGTTCTTCGG
601 ATGAGGCACA CGTTTGAATC ACTTGGCTAC CAATCCGGAT TTTACCTCTC
651 TCAGCTCTTC TCCTCAAACC GAACCACTTC GTCTTCAAAC ACACCGCTCA
701 TGGCCTCGAA CCACCCTCTA CTACCTACAC AGACTCAGCC ATTGCAACCC
751 ACTCTTCCCC ACTACAACTG GAGTGGTACG AGCCAACGAC CAATGATGCC
801 TCAAACCTCT TTGCCTACCT ACCAGCCTCA CATGACTATG CCTTTCCCAG
851 TAATGCCACA CTCAAACAAA GAACAAGACC CTGACGTGAA ATGGCCCACG
901 GGCCTATCTT TCTTCAATGC GTTGACTAAC AATGTCAACG CTAAGCTTCT
951 GTTTGATTCA GAGGGGTTAG GTGACAAAAC AGACCACCAG AACCAGAGCC
1001 AGGAACAGAG CAACTCTGAG AGTCAAGCGA ATCCGAGCGA GTTCTTGAGC
1051 CTTGATAGTC ACCACCGAAA CATGAGTTTC TTAGAGTGA
【0088】
配列番号:6(アミノ酸1文字表記)
SUG103候補遺伝子がコードするタンパク質
1 MVGSEHHHHH QQHHHQNHQQ QQQRSKEALG MVALHDALRT VCLNTDWTYS
51 VFWSIRPRPR VRGGGNGCKV GDDNGSLMLM WEDGYCRGRG GTEGCYGDME
101 GEDPVRKSFS KMSIQLYNYG EGLMGKVASD KCHKWVFKEQ TESESNASSY
151 WQSSFDAIPS EWNDQFESGI RTIAVIQAGH GLLQLGSCKI IPEDLHFVLR
201 MRHTFESLGY QSGFYLSQLF SSNRTTSSSN TPLMASNHPL LPTQTQPLQP
251 TLPHYNWSGT SQRPMMPQTS LPTYQPHMTM PFPVMPHSNK EQDPDVKWPT
301 GLSFFNALTN NVNAKLLFDS EGLGDKTDHQ NQSQEQSNSE SQANPSEFLS
351 LDSHHRNMSF LE
【0089】
配列番号:7
SUG104候補遺伝子 (At2g47200)
1 ATGGCGTCGA TAGTGATGCT CCTTAGAGCA CTGATGAGTT GCCGTCTTAC
51 GCCTAAAGAC GAGCCGGAGA CATCGGATTC TTCTTCGTCT GCTGCGAAAC
101 TTTACAGAAA TATCGTCGGA GACGAAAACG TGACAAGGAA GAGAATTTCA
151 GTGGTTGATA CATCGCATCT TGGCGATAAT CACGAGTTTA TTATCGAAAC
201 TACGTGTGGA AGCAACGATA TGGATGAAGG GTTTTACTGG ATCATCGTCA
251 GGAATCACTT GATGTGA
【0090】
配列番号:8(アミノ酸1文字表記)
SUG104候補遺伝子がコードするタンパク質
1 MASIVMLLRA LMSCRLTPKD EPETSDSSSS AAKLYRNIVG DENVTRKRIS
51 VVDTSHLGDN HEFIIETTCG SNDMDEGFYW IIVRNHLM
【0091】
実施例2:SUG101〜104候補遺伝子の強制発現による光合成遺伝子発現への影響
上記の4種の候補遺伝子(SUG101〜104候補遺伝子)を強制発現させたシロイヌナズナをそれぞれ作製した。SUG101〜104候補遺伝子のクローニングのために使用したプライマーを、以下の表2に示す。
【表2】

SUG101〜104候補遺伝子の形質転換体それぞれ100mgからmRNAを調製後、cDNAを合成しリアルタイムRT-PCRを行った。このリアルタイムRT-PCRにおいて、SUG候補遺伝子プライマー(表3、配列番号:45〜92)を用いた。これらのプライマー(表3:配列番号45〜96)は測定する遺伝子に対して特異性が高く、かつゲノムDNAの混入を確認するために、イントロンを挟むように22〜25 merの長さで、産物が150〜250 bp程度のサイズになるように設計した。内部標準としてはアクチンを使用した(プライマーの配列番号:43及び44)。
【表3】

各遺伝子の発現量を、内部標準として配列番号:43及び44を用いたアクチン遺伝子(ACT2遺伝子)の増幅産物によって補正を行った後、野生型Col-0との相対値で表した(図6)。その結果、At1g47510の形質転換体のAt1g47510発現量は、Col-0と比べ316倍増加していた。At1g61780の形質転換体のAt1g61780発現量は、Col-0と比べ106倍増加していた。At3g15240の形質転換体のAt1g47510発現量は、Col-0と比べ2,148倍増加していた。At2g47200の形質転換体のAt1g47510発現量は、Col-0と比べ6,326倍増加していた。
【0092】
光合成遺伝子として、クロロフィルa/b-結合タンパク質遺伝子 (CAB) およびリブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼSサブユニット遺伝子 (RBCS) の発現量を測定するため、表3に示すプライマー(配列番号:93〜96)を用いて、リアルタイムRT-PCRを行った。各遺伝子の発現量を上記のように内部標準ACT2遺伝子によって補正を行った後、Col-0との相対値で表した(図7)。
【0093】
これらの結果、SUG101候補遺伝子-pSMAB704形質転換体のCAB遺伝子発現物量は、Col-0の0.37倍、RBCS遺伝子発現量は0.25倍であった。
SUG102候補遺伝子-pSMAB704形質転換体のCAB遺伝子発現量は、Col-0の0.55倍、RBCS遺伝子発現量は0.33倍であった。
SUG103候補遺伝子-pSMAB704形質転換体のCAB遺伝子発現量は、Col-0の0.51倍、RBCS遺伝子発現量は0.37倍であった。
SUG104候補遺伝子-pSMAB704形質転換体のCAB遺伝子発現量は、Col-0の0.49倍、RBCS遺伝子発現量は0.33倍であった。これらの結果は、それぞれの形質転換体において光合成は大きく低下していたことを示唆する。
【0094】
実施例3:SUG101候補遺伝子破壊系統における光合成遺伝子発現への影響
遺伝子破壊種子のストック・センターであるSALKで検索し、SALK_108673C(SUG101候補遺伝子破壊)、SALK_008299(SUG102候補遺伝子破壊)、 SALK_090207・SALK_080893(SUG103候補遺伝子破壊)、SALK_061454(SUG104候補遺伝子破壊)を入手した。これらのうち、SALK_108673Cのみホモ接合種子であったため、今回実験に使用した。SUG101候補遺伝子破壊のホモ接合種子をMS培地に播種し、2週間経過した葉と、MS培地で2週間育成させたCol-0の葉をそれぞれ100 mg用いて、それぞれのCAB遺伝子発現量及びRBCS遺伝子発現量についてリアルタイムRT-PCRを行った。使用したプライマーは表3(配列番号:93〜96)に示す。発現量を内部標準ACT2遺伝子によって補正を行い、Col-0との相対値で表した。その結果、CAB遺伝子発現量はCol-0と比べ1.36倍、RBCS遺伝子発現量は4.3倍増加していた(図8)。これらの結果は、このSUG101候補遺伝子破壊のホモ接合体において、光合成が向上していたことを示唆する。
【0095】
実施例4:遺伝子破壊系統のマイクロアレイ
GCIM で生育した野生株由来緑カルスに対して、GCIM で生育したsug変異白カルスで発現が共通に8倍以上上昇した遺伝子は93個であった。これらをMap.Man.binsにより分類したところ転写RNA調節、ストレス、輸送、タンパク質分解に関する遺伝子を多く認めた(表4)。
【表4】

【0096】
(考 察)
緑化カルス作製方法の検討
緑化カルスを作製するために植物ホルモンの濃度検討を行った結果、2,4-Dの濃度が50 ng/ml、カイネチンの濃度が4 μg/mlで培養することによって、カルスを緑化することができた。2,4-Dの濃度を50、100、500(ng/ml)の3点、カイネチンの濃度を500、1000、2000、4000(ng/ml)の4点、計12種類で培養した場合でも同様の結果だった。したがって、2,4-Dの濃度が50 ng/ml、カイネチンの濃度が4 μg/mlのGCIM培地で培養すると緑化カルスを作製することができることを確認した。
【0097】
SUG遺伝子群の機能
SUG101,SUG102,SUG103,SUG104を強制発現させたいずれの形質転換系統もCABおよびRBCSの遺伝子発現が低下しており、これらのSUG遺伝子群が光合成抑制因子として機能していることが示唆された。また、SUG101遺伝子破壊系統においてCABおよびRBCSの遺伝子発現が増加しており、これはSUG101による光合成抑制機能が解除されたことに起因すると考えられる。
【0098】
SUG101はAt1g47510(配列番号:1)によってコードされており、ホスファチジルイノシトール(PtdIns)の5位リン酸基を脱リン酸化する酵素At5PTase11である (配列番号:2)。At5PTase11はホスファチジルイノシトール2リン酸および3リン酸に特異的で、特にPtdIns(3,5)P2、PtdIns(4,5)P2、PtdIns(3,4,5)P3に積極的に働く。At5PTase11をノックダウンさせると、PtdIns(3)PやPtdIns(4)Pの発現量が減少する一方でイノシトール(Ins)(1,4,5)P3やInsP2が増加し、胚軸成長を抑制させるという報告 [6] があるが、本明細書中ではAt5PTase11が光合成にも関与している可能性のあることを開示している。したがって、このSUG101は非常に興味深い遺伝子である。
【0099】
SUG102候補遺伝子はAt1g61780である。At1g61780のアミノ酸配列(配列番号:4)は、動物の神経系に関与するcriptと非常に類似している。動物の神経系では、criptは受容体PSD95のPDZIIIドメインに特異的に結合し、シナプス間のシグナル伝達を行う [7]。神経系組織に存在するcriptの類似体が植物内にも存在することは非常に興味深いが、受容体であるPDZIIIドメインと類似するタンパク質は発見されていない。この遺伝子がコードするタンパク質やシグナル伝達経路等の解析は、At1g61780と光合成との関係性を明らかにするだけではなく、植物にも動物の神経系と似た回路が存在するという可能性があるため非常に興味深いものであると考えられる。
【0100】
SUG103候補遺伝子はAt3g15240(配列番号:5)である。At3g15240から翻訳されるタンパク質(配列番号:6)の機能についてはまだ知られていない。
【0101】
SUG104候補遺伝子はAt2g47200(配列番号:7)である。At2g47200から合成されるタンパク質(配列番号:8)の機能もまだ知られていない。
【0102】
光合成遺伝子発現における抑制因子群GCIM で生育した野生株由来緑カルスとCIMで生育した野生株由来白カルスを用いたマイクロアレイ実験において、白カルスにおいて8倍以上発現が上昇した遺伝子を93個見出した。これらの遺伝子は、光合成を行っていないカルスにおいて光合成を抑制している可能性がある。
【0103】
(参考文献)
[1] 小林裕和、池内昌彦、シリーズ分子生物学5 、植物分子生物学":5.1. 光合成、第1版、山田康之、朝倉書店、東京、1997, pp.99-113.
[2] Yun C. Chang and Linda L. Walling.: Abscisic Acid Negatively Regulates Expression ofChlorophyll a/b Binding Protein Genes during Soybean Embryogeny. Plant Physiol 97, 1260-1264 (1991)
[3] Sun L.. Doxsee R.A. Harel E. and Tobin E.M.: CA-1, a Nove1 Phosphoprotein, lnteracts with the Promoter of the cabl40 Gene in Arabidopsis and 1s Undetectable in detl Mutant Seedlings. Plant Cell 5, 109-121 (1993).
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[5] Ito S, Kawamura H, Niwa Y, Nakamichi N, Yamashino T, Mizuno T. A genetic study of the Arabidopsis circadian clock with reference to the TIMING OF CAB EXPRESSION 1 (TOC1) gene. Plant Cell Physiol. 2009 Feb;50(2):290-303.
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[7] Maria Passafaro. Carlo Sala. Martin Niethammer. Morgan Sheng. : Microtubule binding by CRIPT and its potential role in the synaptic clustering of PSD-95. Nature Neuroscience 2 , 1063-1069 (1999).
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、植物の光合成能を調節できるので、環境の浄化に有用な植物や、作物の生産性を向上させた植物などを作出することが可能となる。例えば、光合成能を増強させた植物は、光合成能力が高いため、光エネルギーを効率よく、作物の生産に利用することができる。また、植物が光合成を盛んに行うと、大気中の二酸化炭素を効率よく分解して、より多くの酸素を大気中に放出させることができるので、環境の浄化に有効である。
【配列表フリーテキスト】
【0105】
配列番号:1 SUG101 (At1g47510)
配列番号:2 SUG101
配列番号:3 SUG102 (AT1g61780)
配列番号:4 SUG102
配列番号:5 SUG103 (At3g15240)
配列番号:6 SUG103
配列番号:7 SUG104 (At2g47200)
配列番号:8 SUG104
配列番号:9〜96 合成プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)からなる群から選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1、3、5又は7の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列において、1〜50個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(d) 配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下の(g)及び(h)からなる群から選択される請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(h) 配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ光合成抑制活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号:1、3、5又は7の塩基配列を含有する請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号:2、4、6又は8のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
DNAである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
以下の(j)〜(m)からなる群から選択されるポリヌクレオチド:
(j) 請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物に対して相補的な塩基配列を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(k)請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド;
(l) 請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の転写産物を特異的に切断する活性を有するRNAをコードするポリヌクレオチド;及び
(m)請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項9】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のベクターが導入された形質転換体。
【請求項11】
請求項9に記載のベクターを導入することによって、または、請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)に係る遺伝子を破壊することによって、請求項5に記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現が抑制された形質転換体。
【請求項12】
請求項7に記載のタンパク質の発現量を低下させることによって光合成能を向上させた形質転換体。
【請求項13】
請求項7に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって光合成能を低減させた形質転換体。
【請求項14】
形質転換体が植物である請求項12または13の形質転換体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−233567(P2010−233567A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56447(P2010−56447)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【Fターム(参考)】