説明

光増幅材料およびその製造方法

【課題】レーザ、光スイッチ等を含む光デバイスに活用可能な光増幅材料と、本材料を製造するための方法を提供する。
【解決手段】本発明は、水溶性色素、DNA及び両親媒性脂質を含む複合体である光増幅材料に関する。また本発明は、下記の工程1)及び2)を含む光増幅材料の製造方法も提供する:
1)水溶性色素とDNAとから水溶性複合体を調製する工程
2)前記水溶性複合体に両親媒性脂質を加えて、水溶性色素、DNA及び両親媒性脂質とからなる光増幅材料を調製する工程。
本発明のDNA−水溶性色素−両親媒性脂質を含む光増幅性能を有する材料は、従来の有機性色素を含む材料、あるいはカチオン性脂質を含む複合体に比べて光増幅効果に優れており、この材料を適当な形状に加工することによって、コンパクトかつ高性能の光デバイス、特に光増幅装置やレーザとして利用することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光デバイスに活用可能な光増幅材料とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光性有機材料は広い波長で大きな増幅利得を有することから、これまで光デバイスへの応用が試みられてきた。しかしながら、光増幅性能を得るためには、透明高分子中に薄い濃度で有機分子(有機色素)を混合させる必要があり、その結果として構成要素となるべき媒体のサイズが大きく、使用中の劣化速度が速いなどの問題点があった。
【0003】
この問題を解決する手段として、生体高分子であるデオキシリボ核酸(DNA)中にヘミシアニン色素を導入することにより、より高濃度で有機分子を混合する手段が考案されている(非特許文献1、特許文献1)。
【0004】
その他にも、DNAとカチオン性脂質とを静電的に相互作用させて得られるDNA・脂質複合体のフィルムを色素の水溶液に浸漬して、色素を該複合体を構成するDNAの塩基対間にインターカレートさせる工程を含む、自己支持性透明DNA・脂質複合体フィルムとその製造法が報告されている(特許文献2)。
【非特許文献1】Y. Kawabe, L. Wang, T. Nakamura, and N. Ogata “Thin-film lasers based on dye-deoxyribonucleic acid-lipid complexes” Appl. Phys. Lett. 2002年、第81巻、1372-1374頁
【特許文献2】特開平11−119270号
【特許文献3】特開2002−69097
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1あるいは特許文献1に記載された方法で光増幅材料を製造する場合は、工程上の制限から有機色素をDNA二重らせん中に有効に挿入するには十分ではなく、結果として光増幅性能も光デバイスとして活用するには限界があった。
【0006】
また、DNA、色素及び脂質複合体を含む複合体を製造するに当たり、まずDNAの水溶液と脂質の水溶液を混合し、沈殿したDNA−脂質の複合体を新たに有機溶媒に溶解させ、この時点で有機色素と混合するという手法を採用している。従って、使用される色素は有機溶媒に可溶でなければならず、選択されうる材料におのずと制限が加わることや、製法からも推察され一部実証されているようにDNA二重らせん中への色素挿入効果が十分ではなく、結果として光増幅材料としての性能も十分ではなくなっている。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法で製造される、DNAとカチオン性脂質とを静電的に相互作用させて得られるDNA・脂質複合体のフィルムを色素の水溶液に浸漬させてなる該複合体は、光増幅性能については十分ではなかった。
【0008】
本発明者は、上記の状況に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、水溶性色素とDNAとの複合体に両親媒性脂質を加えることで、光増幅性能に優れた材料を簡便に製造できることを見出し、下記の各発明(1)〜(7)を完成した。
【0009】
(1)水溶性色素、DNA及び両親媒性脂質を含む複合体である光増幅材料。
【0010】
(2)水溶性色素がシアニン系色素である、(1)に記載の光増幅材料。
【0011】
(3)水溶性色素とDNAとからなる混合物に両親媒性脂質を加えて得られる複合体である、(1)または(2)に記載の光増幅材料。
【0012】
(4)下記の工程1)及び2)を含む光増幅材料の製造方法:
1)水溶性色素とDNAとから水溶性複合体を調製する工程
2)前記水溶性複合体に両親媒性脂質を加えて、水溶性色素、DNA及び両親媒性脂質とからなる光増幅材料を調製する工程。
【0013】
(5)水溶性色素がシアニン系色素である、(4)に記載の光増幅材料の製造方法。
【0014】
(6)(1)〜(3)3のいずれかに記載の光増幅材料を増幅媒質とする光増幅装置。
【0015】
(7)(6)に記載の光増幅装置を含むレーザ装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のDNA−水溶性色素−両親媒性脂質を含む光増幅性能を有する材料は、従来の有機性色素を含む材料、あるいはカチオン性脂質を含む複合体に比べて光増幅効果に優れており、この材料を適当な形状に加工することによって、コンパクトかつ高性能の光デバイス、特に光増幅装置やレーザとして利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で利用可能なDNAは、人工的に合成されたもの、天然由来のもの、いずれのものであっても利用可能であるが、入手の容易性ならびにコストの面から、天然由来のDNAを利用することが好ましい。天然由来のDNAとしては、酵母やバクテリアなどの微生物、魚卵や白子(精巣)あるいは貝類の生殖巣などから公知の方法によって抽出、精製したものを利用することができる。また、DNAの核酸配列あるいは分子量には制限はなく、任意の配列ならびに分子量を有するDNAを利用することができる。またDNAは好ましくは二重らせん構造を有する2本鎖DNAを利用する。
【0018】
上記DNAと複合体を形成する水溶性色素は、二重らせん構造を有するDNA分子の中において発光性を示すものであれば、利用可能である。また、一般に色素分子はDNA中で発光性能が増強されることから、溶液中または固体中における水溶性色素の発光性能等の高低によって、利用可能な分子が限定されるものではない。
【0019】
本発明で利用可能な水溶性分子でとりわけ良好な性能を示すものは、シアニン色素である。ここで定義するシアニン色素とは、窒素を含む芳香環あるいは縮合芳香環を少なくとも2個有し、両者が(CH)nを主とする分子鎖(nは奇数)で結ばれているものを主たる構成要素とし、カチオン性を有する色素分子を意味する。
【0020】
好適な例としては、1’−1−ジエチル−2−2’−キノトリカルボシアニンイオディド、3−3’−ジエチル−9−メチルチアカルボシアニンイオディド、3−3’−ジプロピルオキサカルボシアニンイオディド、3−3’−ジエチルチアジカルボシアニンイオディド、3−3’−ジエチルチアシアニンイオディド、3−3’−ジエチルオキサジカルボシアニンイオディド、3−3’−ジエチルチアカルボシアニンイオディド、1−1’−ジエチル−2−2’−ジカルボシアニンイオディド、1−1’−ジエチル−2−2’−カルボシアニンイオディド、1−1’−ジエチル−2−2’−シアニンイオディド、3−3’−ジヘキシルオキサカルボシアニンイオディド、3−3’−ジエチルオキサカルボシアニンイオディド、3−3’−ジエチルチアトリカルボシアニンイオディド、1、1’−ジエチル−2,2’−カルボシアニンイオディド、3−3’−ジエチルセレナカルボシアニンイオディド、1,1’−ジエチル−4,4’−カルボシアニンイオディド、またはこれらのブロミド誘導体、クロリド誘導体もしくは窒素に結合するエチル基を他のアルキル基に置換した誘導体などを挙げることができるが、特にこれらに限定する理由はない。
【0021】
本発明で利用可能な両親媒性脂質としては、アンモニウム系脂質やピリジニウム系脂質等を挙げることができる。好適な例としては、セチルトリメチルアンモニウム(CTMA)、ベンジルジメチルセチルアンモニウム(BDMA)、ジステアリルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクタデシルジメチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、セチルピリジニウム(CP)などを挙げることができる。
【0022】
本発明の光増幅材料は、上記のDNA、水溶性色素及び両親媒性脂質を含む複合体であるが、DNAと水溶性色素との混合物に両親媒性脂質を加えて形成される光増幅材料であることが好ましい。この様にして得られる光増幅材料は、特許文献2に記載されるDNAとカチオン性脂質とを静電的に相互作用させて得られるDNA・脂質複合体に水溶性高分子を添加して得られる材料よりも、またDNAと両親媒性脂質との混合物に脂溶性脂質を加えることで得られる材料よりも、より高い光増幅効果を示す点において有利である。本発明は、この様なより好適な光増幅材料の製造方法も提供する。
【0023】
本発明の製造方法において、DNAと水溶性色素との混合は、DNAを水に溶解した透明な溶液と、別途色素を溶解した水溶液とを攪拌混合することが好ましい。DNAの濃度は、概ね1mg/ml〜10mg/mlの範囲で適宜調節すればよい。また水溶性色素は、DNA1重量部に対して色素0.0001重量部〜0.5重量部、好ましくは0.01重量部〜0.1重量部が混合されるように、水溶性色素の水溶液を調製し、攪拌しながら混合すればよい。水溶性色素の添加速度や混合時の温度には特に制限はなく、例えば室温でも添加ならびに混合は可能である。
【0024】
次に、DNA−水溶性色素の混合物に別途用意した両親媒性脂質の水溶液を添加、混合することで、DNA、水溶性色素及び両親媒性脂質を含む複合体を形成させる。形成される複合体は沈殿物として回収することができる。両親媒性脂質の添加量は、出発原料としてのDNA1重量部に対して、概ね0.5〜2重量部の範囲で調節すればよい。
【0025】
両親媒性脂質を添加混合して得られる複合体は、これを含む溶液を平板等にキャストし乾燥させることで、簡便にフィルム状の薄膜である光増幅材料を形成させることができる。膜状に成型するための方法としては、一旦溶媒に溶解してから溶媒を蒸発させることによって作製するキャスト法やスピンキャスト法、溶融プレス法などで行うことができる。膜の厚さは特に制限はないが、1μm〜1mm程度が好適である。
【0026】
この様にして得られる光増幅材料、特に薄膜は、これに対して励起光源から照射されたレーザ光を増幅する特性を備えている。従って、かかる光増幅材料を利用することによって、光増幅装置あるいは自発放出光増幅(Amplified Spontaneous Emission)装置を構成することもできる。本発明は、かかる光増幅材料を有する光増幅装置あるいは自発放出光増幅も提供する。
【0027】
また上記の薄膜は、そのままでも光増幅装置に適用することが可能であるが、より性能を高度化するために、当該装置に光導波路を形成したり、光共振器を装着することによって、レーザとして作用させることも可能である。光導波路は、本発明の光増幅材料を直径1ミリメートル以下の線状に加工することや、膜上に適当な手段でパターンを形成することによって、設けることが可能である。また共振器は、外部にフィードバック用の鏡を装着したり、導波路に周期構造を形成することによって設けることが可能である。
【0028】
当該装置において、励起光源としては紫外および可視領域のパルスレーザが好適であるが、赤外レーザを用いることも可能である。
【0029】
図1に、光増幅効果を発現させるための本発明の装置の概略を示す。図中の符号1はレーザ、2は減衰フィルタ、3は円筒レンズ、4は光増幅材料、5はステージ、6は集光用レンズ、7は光ファイバ、8は分光器、9は制御用コンピュータである。ここで、レーザ1より出射された532nmの光を、減衰フィルタ2によって適当な強度に設定し、円筒レンズ3によって楕円形のパターンに成型した後、ステージ5の上に装着した光増幅材料4に照射する。本発明の装置は、光増幅材料4より発生した光を集光レンズ6によって、光ファイバ7を通して分光器8に導入し、スペクトルと強度が測定され、そのデータは9制御用コンピュータに転送されるという機構を備えている。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例として記す。ただし、本発明は実施例の記載内容に限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>
鮭の白子より抽出したDNA 82.5mgを水20ccに混合して24時間室温で放置し、透明なDNA溶液を用意した。また色素3−3’−ジエチルチアカルボシアニンイオディド6.15mgを12.5ccの水に溶解して、色素溶液を用意した。さらに両親媒性脂質CTMA 83.0mgを水20ccに溶解して、脂質溶液を用意した。
【0032】
上記DNA溶液と色素溶液を混合して得られた混合液を、約2cc/分の添加速度で、脂質溶液に対して攪拌しながら滴下した。得られた赤紫色の沈殿物を濾過後、40℃で24時間放置し乾燥させた後、クロロホロム:エタノール=4:1の混合溶媒10mlに溶解し、さらに該混合溶媒を蒸発させて、DNA、水溶性色素及び両親媒性脂質を含む複合体である、本発明の薄膜が得られた。
【0033】
得られた薄膜を、図1に示す装置を用いてNd:YAGレーザの第二高調波(532nm)で励起した。そのときのエネルギーは0.27マイクロジュールから15マイクロジュールである。1.3マイクロジュールで励起したときの発光スペクトルと11マイクロジュールで励起したときの発光スペクトルを測定したところ、図2に示すように発光スペクトルの狭帯域化が観測され、光増幅が起こっていることが確認された。さらに励起強度に対するスペクトルの幅と発光強度の相関を測定したところ、図3に示すように、発振閾値は4マイクロジュールであることが示された。
【0034】
<実施例2>
色素として3−3’−ジエチル−9−メチルチアカルボシアニンイオディド6.33mgを用いる他は実施例1と同様にして、本発明である薄膜を得た。
【0035】
得られた薄膜について、実施例1と同様にして図1に示す装置を用いてNd:YAGレーザの第二高調波(532nm)で励起して0.27マイクロジュールで励起したさいの発光スペクトルと15マイクロジュールで励起したさいの発光スペクトルを測定したところ、同様に狭帯域化が観測され、光増幅が起こっていることが確認された。さらに励起強度に対するスペクトルの幅と発光強度の相関を測定したところ、発振閾値は5マイクロジュールであることが示された。
【0036】
<比較例>
実施例1のDNA溶液と脂質溶液を用い、約2cc/分の添加速度でDNA溶液に脂質溶液を攪拌しながら滴下した。得られた白色沈殿物を濾過した後、40℃で24時間乾燥させた後、クロロホロム:エタノール=4:1の混合溶媒に溶解した。この溶液と、3−3’−ジエチルチアカルボシアニンイオディド6.15mgを12.5ccのメタノールに溶解した色素アルコール溶液5ccとを混合し、24時間室温で放置して、DNA、水溶性色素及び両親媒性脂質を含む比較例である複合体の薄膜を得た。
【0037】
得られた薄膜を図1に示す装置を用いてNd:YAGレーザの第二高調波(532nm)で励起して発光スペクトルを測定したところ、光強度の増大は励起光強度に比例するのみかそれ以下であり、スペクトルの狭帯域化も起こらなかった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の光増幅材料により光増幅効果を実現するための装置の構成図である。
【図2】本発明の光増幅材料の発光スペクトルの狭帯域化に関する結果を示す図である。
【図3】本発明の光増幅材料の光増幅の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 レーザ
2 減衰フィルタ
3 円筒レンズ
4 光増幅材料
5 ステージ
6 集光用レンズ
7 光ファイバ
8 分光器
9 制御用PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性色素、DNA及び両親媒性脂質を含む複合体である光増幅材料。
【請求項2】
水溶性色素がシアニン系色素である、請求項1に記載の光増幅材料。
【請求項3】
水溶性色素とDNAとからなる混合物に両親媒性脂質を加えて得られる複合体である、請求項1または2に記載の光増幅材料。
【請求項4】
下記の工程1)及び2)を含む光増幅材料の製造方法:
1)水溶性色素とDNAとから水溶性複合体を調製する工程
2)前記水溶性複合体に両親媒性脂質を加えて、水溶性色素、DNA及び両親媒性脂質とからなる光増幅材料を調製する工程。
【請求項5】
水溶性色素がシアニン系色素である、請求項4に記載の光増幅材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の光増幅材料を増幅媒質とする光増幅装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光増幅装置を含むレーザ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−220982(P2007−220982A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41207(P2006−41207)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(506056871)学校法人千歳科学技術大学 (2)
【Fターム(参考)】