説明

光変調器

【課題】既存品の光ファイバと接続する際に、コネクタや光ファイバの端面との接合処理が不要な光変調器を提供する。
【解決手段】光変調器1は、挿入路4が内部に形成された基板部2と、基板部2に取り付けられて変調電圧Viが印加される電極対3a,3bとを備え、挿入路4には、変調電圧Viが印加されない際に光ファイバ中を伝播する光が漏れ出さない曲率で当該光ファイバを湾曲させる湾曲部5が形成され、電極対3a,3bは、挿入路4の湾曲部5の近傍に取り付けられ、変調電圧Viが印加される際に当該電極対3a,3b間に形成される電界が湾曲部5に位置し得る光ファイバに及ぶように構成されている。既存品の光ファイバと接続する際には、電気光学効果を有する材料によってコア11が形成されている光ファイバ10を挿入路4に挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光変調器に係り、特に光強度変調を行う光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の分野では、光ファイバ等の光導波路中を伝播する光の強度や位相を変調信号に基づいて変調する光変調器が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電気光学効果(外部電界が加わると屈折率が変化する効果)を有する基板上に湾曲部を有する導波路を形成し、この湾曲部の近傍に変調電圧を印加するための電極対を設けた光変調器が記載されている。この光変調器では、電極対に変調電圧を印加すると電極対間に形成される電界によって導波路の屈折率が変化し、それに伴って導波路の外部に漏れ出す光の量が変化する。その結果、導波路の他端から出力される光の強度が変化し、出力光の強度を変調電圧に基づいて変調する光強度変調が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−264938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている光変調器は独立した個別部品であるため、既存品の光ファイバと接続して光回路を構成する際には、専用のコネクタを使用するか、或いは光ファイバの端面との接合処理を行わなければならず、工作の手間を要すると共に光回路全体が大型化してしまう。例えば、特許文献1の図3に記載されている光変調器に既存品の光ファイバを接続する場合には、光変調器の導波路51の両端に専用のコネクタを設けるか、或いは導波路51の両端と光ファイバの端面との接合処理を行う必要がある。
【0006】
この発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、既存品の光ファイバと接続する際に、コネクタや光ファイバの端面との接合処理が不要な光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明に係る光変調器は、電気光学効果を有する材料によってコアが形成された光ファイバ中を伝播する光の強度を変調電圧に基づいて変調する光変調器であって、光ファイバを挿入するための挿入路が内部に形成された基板部と、基板部に取り付けられて変調電圧が印加される電極対とを備え、挿入路には、変調電圧が印加されない際に光ファイバ中を伝播する光が漏れ出さない曲率で当該光ファイバを湾曲させる湾曲部が形成され、電極対は、挿入路の湾曲部の近傍に取り付けられ、変調電圧が印加される際に当該電極対間に形成される電界が湾曲部に位置し得る光ファイバに及ぶように構成される。
これにより、既存品の光ファイバと接続する際に、コネクタや光ファイバの端面との接合処理が不要な光変調器とすることができる。
【0008】
好適には、基板部に取り付けられる電極対は、挿入路の湾曲部が形成される平面と平行に当該湾曲部を挟み込むように位置する。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る光変調器によれば、既存品の光ファイバと接続する際に、コネクタや光ファイバの端面との接合処理が不要な光変調器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態に係る光変調器の外観を示す図である。
【図2】(a)は、図1の上面図であり、(b)は、図1の矢印A方向から見た側面図である。
【図3】(a)は、図2(b)のI−I断面の模式図であり、(b)は、図2(a)のII−II断面の模式図である。
【図4】(a)は、変調電圧が0Vである場合の光変調器の動作を表す図であり、(b)は、変調電圧が0Vよりも大きい場合の光変調器の動作を表す図である。
【図5】この発明の実施の形態に係る光変調器に挿入される光ファイバのコアにおける電界強度と屈折率との関係を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態に係る光変調器における変調電圧と出力光強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について、添付図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の実施の形態に係る光変調器1の外観を表す図である。また、図2(a)は、図1の上面図であり、図2(b)は、図1の矢印A方向から見た側面図である。尚、説明の便宜上、直交座標系のx軸、y軸、z軸をそれぞれ図中に示されるように定義する。
【0012】
図1,図2に示されるように、光変調器1は、ガラスエポキシ樹脂によって形成された基板部2と、基板部2の上面2aおよび下面2bにそれぞれ取り付けられて変調電圧Viが印加される電極対3a,3bとから構成されており、基板部2の内部には、既存品の光ファイバ10を挿入するための挿入路4が形成されている。
【0013】
既存品の光ファイバ10は、屈折率nのコア11と、屈折率n(<n)のクラッド12とから構成されるステップインデックス型の光ファイバである。コア11は、ポリメタクリル酸メチル系、ポリカーボネート、ポリスチレン、含重水素化ポリマー等の外部電界が加わると屈折率が変化する電気光学効果を有する材料によって形成されており、クラッド12は、フッ素系ポリマー等の材料によって形成されている。
【0014】
次に、この光変調器1の内部構造について説明する。図3(a)は、図2(b)のI−I断面の模式図であり、図3(b)は、図2(a)のII−II断面の模式図である。
図3(b)に最もよく示されるように、基板部2の内部に形成された挿入路4の途中には、無電界状態のときに光ファイバ10のコア11中を伝播する光がクラッド12側に漏れ出さない曲率(コア11とクラッド12との境界13に入射する光の入射角がsin−1(n/n)によって定義される臨界角θを上回る曲率)で湾曲した湾曲部5が形成されている。そして、図2(b),図3(a)に示されるように、基板部2に取り付けられている電極対3a,3bは、この湾曲部5の近傍の上面2aおよび下面2bにそれぞれ位置しており、変調電圧Viが印加された際に電極対3a,3b間に形成される電界の影響が湾曲部5に位置する光ファイバ10に及ぶように構成されている。より詳細には、電極対3a,3bは、湾曲部5が形成される平面(x−y平面)と平行に、湾曲部5を上下から挟み込むように取り付けられており、電極対3a,3bの間には−z方向の電界が形成される(図3(a)参照)。
【0015】
次に、この実施の形態に係る光変調器1の動作について説明する。
この光変調器1を動作させる際には、光ファイバ10の入力端10aから一定強度Iiの光を入力すると共に、電極対3a,3bに変調電圧Viを印加する。まず、図4(a)に模式的に示されるように、変調電圧Viが0Vである場合には、前述したように光ファイバ10のコア11の屈折率nはクラッド12の屈折率nよりも大きく、また光ファイバ10内の各箇所においてコア11とクラッド12との境界13に入射する光の入射角は臨界角θ=sin−1(n/n)を上回る。そのため、図中に実線矢印で示されるように、入力端10aから入力されてコア11中を伝播する光はコア11とクラッド12との境界13において全反射され、僅かな減衰分を無視すれば、出力光の強度Ioは入力光の強度Iiとほぼ等しくなる。
【0016】
一方、図4(b)に模式的に示されるように、変調電圧Viが0Vよりも大きい場合には、電極対3a,3bの間に変調電圧Viに比例する電界が形成され、この電界の影響が挿入路4の湾曲部5に位置する光ファイバ10にも及ぶ。その際、前述したように光ファイバ10のコア11は、電気光学効果を有する材料によって形成されているため、電界が印加されるとその屈折率nが電界強度に依存して変化する。この実施の形態の例では、−z方向に電界が印加されると、その電界強度Ezに比例して屈折率nが減少する(図5参照)。その結果、臨界角θ=sin−1(n/n)が増加し、湾曲部5においてコア11とクラッド12との境界13に入射する光の入射角が臨界角θを下回るようになる。そのため、入力端10aから入力されてコア11中を伝播する光の一部がコア11とクラッド12との境界13において全反射されず、図中に点線矢印で示されるようにクラッド12側に漏れ出し、出力光の強度Ioが減少する。
【0017】
すなわち、変調電圧Viが変化すると、それに比例して電極対3a,3bの間に形成される電界強度Ezが変化して光ファイバ10のコア11の屈折率nが変化する。コア11の屈折率nが変化すると、コア11からクラッド12側に漏れ出す光の量が変化し、出力光の強度Ioが変化する。その結果、図6に示されるように、光ファイバ10の出力光の強度Ioを変調電圧Viに基づいて変調する光強度変調が実現される。
【0018】
以上説明したように、この実施の形態に係る光変調器1は、光ファイバ10を挿入するための挿入路4が内部に形成された基板部2と、変調電圧Viが印加される電極対3a,3bとから構成される単純な構造である。そして、特許文献1に記載の光変調器に既存品の光ファイバを接続する際には、専用のコネクタ、或いは光ファイバの端面との接合処理が必要であったのに対して、この実施の形態に係る光変調器1に既存品の光ファイバを接続する際には、電気光学効果を有する材料によってコア11が形成されている光ファイバ10を挿入路4に挿入するだけでよい。これにより、既存品の光ファイバと接続する際に、コネクタや光ファイバの端面との接合処理が不要な光変調器とすることができる。
【符号の説明】
【0019】
1 光変調器、2 基板部、3a,3b 電極対、4 挿入路、5 湾曲部、10 光ファイバ、11 コア、12 クラッド、Vi 変調電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する材料によってコアが形成された光ファイバ中を伝播する光の強度を変調電圧に基づいて変調する光変調器であって、
前記光ファイバを挿入するための挿入路が内部に形成された基板部と、
前記基板部に取り付けられて前記変調電圧が印加される電極対と
を備え、
前記挿入路には、前記変調電圧が印加されない際に前記光ファイバ中を伝播する光が漏れ出さない曲率で該光ファイバを湾曲させる湾曲部が形成され、
前記電極対は、前記挿入路の前記湾曲部の近傍に取り付けられ、前記変調電圧が印加される際に該電極対間に形成される電界が前記湾曲部に位置し得る前記光ファイバに及ぶように構成される、光変調器。
【請求項2】
前記基板部に取り付けられる前記電極対は、前記挿入路の前記湾曲部が形成される平面と平行に該湾曲部を挟み込むように位置する、請求項1に記載の光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−252210(P2012−252210A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125424(P2011−125424)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】