説明

光子数決定システム及び方法

概ね1の検出効率を有する光子数決定検出器が、プローブ光子状態が量子ゲート内で受容する位相シフト又は減衰のような変化を測定することにより、n個の光子を含むターゲット状態とn+1個の光子を含むターゲット状態とを区別する。その検出はターゲット状態からの光子を破壊しないので、検出後に光子を利用することができる。1つ又は複数の単一光子格納系とともに非破壊的検出器を利用する系は、判定された数の光子を格納し、判定された数の光子を含む光子状態を生成するように要求されるときに、1つ又は複数の格納された光子を放出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子数を決定するシステム及び決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[背景]
量子システムの開発に成功していること、及びその技術の予想される潜在能力に起因して、ここ数年の間に量子情報処理への関心が劇的に高まっている。詳細には、実用的な量子暗号システムが開発されており、もし大型(多キュービット)の量子コンピュータを構築することができるなら、量子コンピュータは、古典的なコンピュータよりも、はるかに効率的に数多くの処理タスクを実行することができるであろう。たとえば数十又は数百キュービットを有する量子プロセッサがあれば、いかなる古典的な機械でも達成することができない量子シミュレーションを実行することができる。また、そのような量子プロセッサは、量子通信の実用的な距離及び適用性を広げる可能性もある。
【0003】
量子コンピュータ用のハードウエアのための数多くの候補技術が現在研究されている。最終的にどの技術が最も実用的であるかがわかるにしても、個別の量子コンピュータをリンクするために、量子コヒーレント通信が必要になる可能性が高い。光ファイバ又は自由空間のいずれかを通って進行する光は、長い距離にわたって量子情報を搬送することができ、コヒーレント電磁場(たとえば光子キュービット)は量子コンピュータ間の通信のために、さらには一般的な量子通信のために理想的であると考えられる。さらに量子コンピューティングの中には、非線形量子光学処理又は線形量子光学処理を利用して、光子キュービットにおいて直接的に実行できるものもある。
【0004】
光子状態を利用する提案されている量子情報システムは多くの場合に、1個又は数個の光子の存否を効率的に検出することができる検出器を必要とする。たとえば、E. Knill、R. Laflamme及びG. Milburnによって提案された光量子計算アーキテクチャ(Nature 409, 46 (2001))は、0、1又は2個の光子を含む量子状態を区別する際の効率が99.99%よりも高い高効率の光子検出器を必要とする。光子数の数え違いあるいは光子の存在を検出し損なうと、光子状態の測定が不正確になり、量子情報に誤りが生じる。そのような誤りは、許容可能であるときには、実施するのに高いコストがかかることのある誤り訂正方式を必要とする。
【0005】
現在市販されている単一光子検出器は一般的に、光電効果の程度が大きいか、小さいかによる。光電効果が生じる場合、金属、半導体又は別の物質の表面上に入射する光子が、その物質の原子からの電子と自由に結合する。励起された電子は、周囲の空間又は伝導帯に入り、そこで、それらの電子は、増幅し、測定することができる電流として収集される。
【0006】
単一の光子からの光電流は小さく、検出するのが難しい。市販されているなかで、最も優れた可視光用の光子検出器は現在、単一の光子を検出する際の効率が約90%であり、今のところ、1.3〜1.5μmの範囲の波長を有する光子のための検出器は、その効率がわずかに約30%である。これらの効率は、多くの量子情報システムにとって、あまりにも低い。さらに、可視スペクトル光子検出器の場合に最も優れた効率を達成するには、約6Kの低温まで検出器を冷却する必要があり、そのような検出器でも、「ダークカウント」の割合が依然として比較的高い(たとえば、光子が入射しないときに背景雑音が高い)。
【0007】
大部分の光子検出器の別の欠点は、検出器が、測定又は検出される光子を吸収することである。したがって、光子検出器は、測定された光子がもはや必要とされないか、あるいは結果として生成された測定値がそのシステムの状態を制御するといった、ある過程の最後においてのみ利用することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、量子情報システムにおいて、光子を検出する際の効率が高く、量子信号内の光子の数を正確に区別することができる光子検出器が必要とされている。それらの検出器は、光子の存在又は数を推定した後、光子状態を利用することができるように、非破壊的であることが理想的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[概要]
本発明の一態様によれば、光子検出器は、測定されるターゲット光子状態のための第1の入力と、プローブ光子状態のための第2の入力とを有する光子ゲートを備えている。光子ゲートはプローブ光子状態の変化を引き起こし、その変化はターゲット光子状態の光子の数に依存する。その後、プローブ状態への影響が測定され、1つ又は複数の光子を含む、ターゲット光子状態の光子の数が判定される。
【0010】
種々の図面において、同じ参照符号を使用して、類似又は同一の事項を指示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[詳細な説明]
高効率で、非破壊的な量子光子検出器が、ターゲット状態及びプローブ状態がコヒーレントに相互作用する位相ゲートのような光子ゲートを利用して、ターゲット状態の光子の数を効率的に決定する。その相互作用は、ターゲット状態を破壊することなく、プローブ状態を変更する。その際、光子ゲートがプローブ状態に導入する変化のホモダイン測定又はヘテロダイン測定が、ターゲット状態の光子の存在及び/又は数を指示する。こうして、ターゲット状態の光子を破壊又は吸収する測定を必要とすることなく、ターゲット状態の光子の数を検出することができる。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態による光子検出器100を示す。光子検出器100は、光子ゲート110と、測定系120を含む。測定を行う場合に、ターゲット光子状態|TIN>及びプローブ光子状態|PIN>が光子ゲート110に入力され、光子ゲート110では、展開された状態|TOUT>及び|POUT>として出力される前に、それらの光子状態が相互作用する。光子ゲート110は、光子ゲート120の光子状態|TIN>及び|PIN>の相互作用によって、プローブ状態|PIN>に位相シフトが生じ、導入された位相シフトが状態|TIN>の光子の数に依存するようにすることが好ましい。しかしながら、代替的には、出力プローブ状態|POUT>は、入力プローブ状態|PIN>とは強度又はいくつかの他の測定可能な特性が異なる場合もある。1つの代替的な実施形態では、光子ゲート110によって、プローブ状態の一部に散乱が生じ、その散乱はターゲット状態|TIN>の光子の数に依存する。
【0013】
測定系120は、ホモダイン測定技法又はヘテロダイン測定技法を利用して、出力プローブ光子状態|POUT>を測定し、光子ゲート110において生じた変化を判定することができる。その際、ターゲット状態|TOUT>の光子の数がプローブ状態|POUT>の測定から推定される。したがって、ターゲット状態|TOUT>は、光子ゲート120からの出力であり、フォック状態、すなわち判定された光子数を有する量子状態にある。入力ターゲット状態|TIN>はもともとフォック状態をとることができ、その場合には、入力ターゲット状態及び出力ターゲット状態が同じであるか、又は入力ターゲット状態|TIN>はフォック状態の重ね合わせである状態をとることができ、その場合には、その測定によって、入力ターゲット状態|TIN>の出力ターゲット状態|TOUT>への崩壊が生じる。
【0014】
図1に示す光子ゲート110の具体的な実施形態は、電磁誘導透過(EIT)を与えるのに適した物質系112及び制御場発生源114を利用する。EITはよく知られている現象であり、ある特定の周波数の光子を標準的に吸収する原子、分子又は他の凝縮物性系が、他の周波数を有する1つ又は複数の電磁場を適用することにより、その特定の周波数の光子に対して透過性となる現象である。EITは一般的に、光子と相互作用するために利用可能である少なくとも3つの量子エネルギー準位を有する物質系を必要とする。
【0015】
例示的な一実施形態では、物質系112は、4つ又はそれ以上の量子エネルギー準位を有する少なくとも1つの原子、分子あるいは他の構造を含み、ターゲット状態|TIN>、制御場116及びプローブ状態|PIN>のそれぞれの角周波数ωa、ωb及びωcは、光子を物質系112の量子エネルギー準位間の対応する遷移に結び付けるような角周波数である。図2Aは、角周波数ωa、ωb及びωcを有する光子のエネルギーに対する4準位物質系のエネルギー状態|1>、|2>、|3>及び|4>からなるエネルギー準位を示す。図2Aの物質系によれば、角周波数ωaの光子は原子エネルギー状態|1>をエネルギー状態|2>に結合する。角周波数ωb及びωcの光子は準安定エネルギー状態|3>を、それぞれエネルギー状態|2>及び|4>に結合する。
【0016】
図2Aに示すエネルギー準位の相対的な順序は一例にすぎず、より一般的には、エネルギー準位を並べ替えても、依然としてEITが可能となる。詳細には、図2Aは、第4のエネルギー状態|4>が第2のエネルギー状態|2>よりもエネルギーが高く、第2のエネルギー状態|2>が第3のエネルギー状態|3>よりもエネルギーが高く、第3のエネルギー状態|3>が第1のエネルギー状態|1>よりもエネルギーが高いものとして示すが、これらのエネルギー準位の任意の順序を与える物質系で、EITを引き起こすことができる。
【0017】
第3のエネルギー状態|3>は、単一光子自然放出が許されないという点で準安定である。たとえば、エネルギー状態|3>のスピン/角運動量及び利用可能な低いエネルギー状態によって、保存則によりエネルギー状態|3>からより低いエネルギー状態への物質系の遷移中の単一光子の放出が禁止されるようになる場合には、結果として、そのような準安定となる場合がある。第4のエネルギー状態から(たとえば第1の状態又は第2の状態へ)の自然放出も、第4のエネルギー状態が準安定である物質系を選択することによって、あるいは第4のエネルギー状態|4>からの遷移に対応する角周波数を有する光子が伝搬できないようにする光子バンドギャップ結晶で4準位物質系を少なくとも部分的に包囲することによって、同様に抑制される。
【0018】
離調パラメータνa、νb及びνcは、式1に示すように、物質系のエネルギー準位遷移の共鳴からの角周波数ωa、ωb及びωcそれぞれの離調の量を示す。式1では、状態|1>と|2>との間、|3>と|2>との間、及び|3>と|4>との間のエネルギー差はそれぞれ
【0019】
【数1】

【0020】
図2Bは、積状態|X,A,B,C>に対応するεマニホールドを示す。ただしXは物質系のエネルギー準位1〜4を示し、A、B及びCはそれぞれ角周波数ωa、ωb及びωcの光子の数na、nb及びncを示す。例示するマニホールドは、角周波数ωaのna個の光子、角周波数ωbのnb個の光子及び角周波数ωcのnc個の光子の場合に、状態|1>の物質系に対する最も近いエネルギー状態を示す。周囲環境への光子の自然放出は、その系を、図2Bに示すマニホールドに類似であるが、環境に対して失われる形式の光子がより少ないマニホールド内のエネルギー準位に動かすであろう。
【0021】
「Applications of Coherent Population Transfer to Classical and Quantum Information Processing」と題するR. Beausoleil、A. Kent、W. Munro及びT. Spillerによる論文(http://xxx.lanl.gov/abs/quant-ph/0302109)並びに「Quantum Information Processing Using Electromagnetically Induced Transparency」と題する共同所有の米国特許出願第10/364,987号はさらに、キュービットゲートの実施において、図2A及び図2Bに示すようなエネルギー準位を有する4準位物質系を使用することを記載している。これらの参照文献は特に、図1の検出器100において光子ゲート110として使用するのに適した2キュービット位相ゲートの構造を記載する。
【0022】
角周波数ωa及びωcの光子と相互作用する図2Aの4準位物質系は、式2Aによって与えられる形の実効的な交差カー非線形性を有するハミルトニアンを生成する。式2Aでは、生成演算子a及び消滅演算子aがそれぞれ、角周波数ωaの光子を生成し及び消滅させ、生成演算子c及び消滅演算子cがそれぞれ、角周波数ωcの光子を生成し及び消滅させる。定数χは相互作用の強さを示し、一般的に離調パラメータνa、νb及びνc、遷移に関連するラビ周波数Ωa、Ωa及びΩa、並びに物質系の具体的な特性に依存する。
式2A:H=χaacc
【0023】
より一般的に、凝縮物性系は、検出器において利用するのに適した他の非線形光子相互作用を引き起こすことができる。たとえば、式2Bは、角周波数ωa及びωcの光子間の非線形相互作用を与えるハミルトニアンの項のさらに一般的な表現を示す。式2Bでは、f(a,a)は生成演算子a及び消滅演算子aの関数であり、g(c,c)は生成演算子c及び消滅演算子cの関数である。f(a,a)は、光子数演算子aaのべき、たとえばある定数λの場合に(aa)λであり、角周波数ωの光子の状態への相互作用の影響が、角周波数ωaの光子の数に直接的に依存するようにすることが好ましい。
式2B:H=χf(a,a)・g(c,c)
【0024】
2つの異なるモード(たとえば、空間的に分離されたモード又は、異なる角周波数のモードωa及びωc)の光子状態間で概ね非線形の相互作用を与える光学系を、EIT系を利用して、又は利用することなく、一連の光ゲートから構築することができる。量子コンピューティングとの関連では、Seth Lloyd及びSamuel L. Baunstein「Quantum Computations over Continuous Variables」(Phys. Rev. Lett. 82, 1784 (1999))が、単一光子モードの場合の任意の多項式ハミルトニアン(たとえばf(a,a)又はg(c,c)を生成する一連のゲートを構成することを記載している。単一モードの場合の配列内の基本的なゲートは、(1)ビームスプリッタ及び移相器のような線形デバイス、(2)スクイーザのような2次デバイス、(3)カー効果ファイバ、光共振器内の原子及び測定を通して生成される非線形性のような3次又はそれ以上の非線形デバイスを含む。2つの個別のモードを得るためのそのような系は、1つ又は複数のビームスプリッタを介して結合され、交差モード相互作用をもたらし、モード間に所望の非線形相互作用f(a,a)・g(c,c)を生成することができる。
【0025】
本明細書に記載する検出器100の例示的な一実施形態では、物質系112は、図2Aに示すような光子エネルギーに関連付けられている量子エネルギー準位を有し、式2Aにおいて与えられる形の交差カー非線形性を与える4準位系を含む。しかしながら、式2Bの相互作用のような他の非線形な相互作用を与える他の物質系も同じように、ターゲット状態の光子の数を決定するために容易に区別できるようにプローブ光子状態を変更することができる。それゆえ、そのような物質系は、本発明の代替的な実施形態による検出器に適している。
【0026】
検出器100の例示的な実施形態は、ターゲット状態|TIN>が、角周波数ωaの光子を含まないか、あるいは角周波数ωaの1つの光子を含む状態であるフォック状態|0>a又は|1>aにある場合に、状態|0>aを状態|1>aから区別することができる。より一般的には、ターゲット状態|TIN>はN個(ただしNは任意の数)までの光子を含むことができ、検出器100は光子の数Nを効率的に判定することができる。ターゲット状態|TIN>の角周波数ωaの光子の数を判定するために、レーザ又は他の制御場発生源114が、4準位原子の第2のエネルギー準位と第3のエネルギー準位との間の遷移に対応する角周波数ωbにおいて制御場116を駆動する。プローブ状態|PIN>には、4準位原子の第3のエネルギー準位と第4のエネルギー準位との間の遷移に対応する角周波数ωcの多数の光子(たとえば102〜105又はそれ以上)を含むフォック状態、あるいは大振幅のコヒーレント又はスクイーズド状態を利用することができる。代替的には、式2Aのハミルトニアン項が対称であることにより、角周波数ωa及びωcの役割を入れ替えることができる。
【0027】
プローブ状態|PIN>は、高い強度又は多数の光子を与える状態であることが好ましい。後に説明する1つの例示的な実施形態では、プローブ状態|PIN>はコヒーレント状態|ξ>cである。コヒーレント状態はレーザからの出力によって容易に生成する(又は近似する)ことができるので、コヒーレント状態|ξ>cが一例として利用される。しかしながら、スクイーズド状態又はフォック状態のような他の形式の光子状態も同じくプローブ状態|PIN>として使用することができる。
【0028】
式3はコヒーレント状態|ξ>cを数学的に表す。式3では、ξは状態振幅を表し、下付き文字cは角周波数ωcの光子を含む状態を示し、|n>cはn個の光子を含むフォック状態であり、nVはコヒーレント状態|ξ>cの光子の数の期待値である。
【0029】
【数2】

【0030】
プローブ状態|PIN>がコヒーレント状態|ξ>cであり、ターゲット状態がn個の光子を含むフォック状態である場合には、検出器100の初期状態|TIN>|PIN>は|n>a|ξ>cである。ただし下付き文字a及びcはそれぞれ、角周波数ωa及びωcの光子を表す。(先に示したように、4準位物質系112は古典的には角周波数ωの光子でポンピングされる)。ここで、式2Aの交差カー非線形性の影響によって、光子状態は式4にしたがって時とともに展開する。
式4:|TOUT>|POUT>=exp{iχtaacc}|n>a|ξ>c=|n>a|ξeinχt>c
【0031】
式4は、角周波数ωaの光子がターゲット状態|TIN>の中に存在しない(n=0)場合には、位相シフトが生じない(einχt=1)ことを明らかに示している。しかしながら、角周波数ωaの1つ(又は複数)の光子がターゲット状態|TIN>の中に存在する場合には、コヒーレント状態|ξ>cは|ξeinχt>cに展開する。位相シフトeinχtの大きさは、ターゲット状態|TIN>の光子の数n、及び光子とその物質系との結合χ及び相互作用時間tに直接的に依存する。結合χ及び相互作用時間tは、ある特定の系の場合に定数とすることができ、位相シフトの測定値はターゲット状態|TIN>の光子の数を示す。
【0032】
コヒーレント状態の場合の値ξが初期に実数である場合には、図3Aの測定系300Aは、ホモダイン測定技法を利用して、プローブ状態|POUT>のための直交成分<X>及び<Y>の位置X=c+c及び運動量Y=(c-c)/iを測定することができる。系300Aのホモダイン測定は、発振器又はレーザ310を利用して、調整可能な位相角θだけプローブ状態|POUT>と位相がずれている基準ビームRを生成する。2つのビームが交差する場所にある50/50ビームスプリッタ323によって、フォトダイオード326への経路に沿って、プローブ状態|POUT>から基準ビームRが減算され、フォトダイオード328への経路に沿って、基準ビームRがプローブ状態|POUT>に加算される。フォトダイオード236及び238において結果として生成される電流の差Idは、位相角θが0であるときに位置直交成分<X>に比例し、位相角θがπ/2であるときに運動量直交成分<Y>に比例する。
【0033】
式4に基づいて、式5及び式6にそれぞれ示すように、測定された直交成分<X>及び<Y>がターゲット状態|TIN>の光子の数nに(そして定数ξ、χ及びtに)関連付けられる。
式5:<X>=2ξcos(nχt)
式6:<Y>=2ξsin(nχt)
【0034】
角周波数ωaの光子が存在しない場合には(n=0)、測定される直交成分<X>は値ξの2倍に等しく、測定される直交成分<Y>は0である。角周波数ωaの1つの光子が存在する場合には(n=1)、相互作用時間tを、直交成分<X>が0であり、直交成分<Y>が2ξであるように制御することができる。(相互作用時間tは、たとえば物質系112の4準位原子もしくは分子の数によって、及び/又は離調パラメータνa、νb、νcを調整することによって制御することができる)。こうして、適切に制御された反応時間tの場合に、測定される直交成分<X>及び<Y>は、光子の存否を指示し、一定、かつ容易に区別される痕跡を与える。
【0035】
相互作用時間tは、sin(nχt)が1であるようになされる必要はない。積χtが、式6に小さな角度の近似値が適用されるほど十分に小さい場合には、ターゲット状態|TIN>の角運動量ωの単一の光子の場合に、運動量直交成分<Y>は概ね2ξχtである。ξが十分に大きい場合には、直交成分<Y>の測定値は、約2ξχtであり、信号雑音よりもはるかに大きくなり、1光子のターゲット状態が、光子を含まないターゲット状態から効率的に区別される。
【0036】
上記の測定過程は、ホモダイン測定を利用しており、非常に効率的であるが、一般的に強い局部発振器を使用する必要がある。図3Bは、50/50ビームスプリッタ321及び323と、反射板322及び324と、フォトダイオード326及び328とを含むマッハ−ツェンダー干渉計を利用して、コヒーレントプローブ光子状態|ξ>の位相シフトを測定する測定系300Bを示す。測定系300Bでは、50/50ビームスプリッタ321がコヒーレント状態|ξ>を2モードの分離可能な状態|ξ/√2>X|ξ/√2>Yに分割する。ただし下付き文字X及びYは空間的に分離された経路を示す。一方のモード|ξ/√2>Xは光子ゲート110への入力であり、そのモード|ξ/√2>Xは、ターゲット状態|TIN>の角周波数ωaの光子の数nに依存する位相シフトeinχtを獲得する。光子ゲート110からの位相シフトされた状態|ξeinχt/√2>Xは、ミラー324から50/50ビームスプリッタ323上に反射され、そこで位相シフトされた状態|ξeinχt/√2>Xが、ミラー322を経由した、ビームスプリッタ321からの第2のモード|ξ/√2>Yと結合される。ビームスプリッタ323後の出力プローブ状態は、式7に示すように2モード状態である。ただし下付き文字X及びYはそれぞれの検出器326及び328への空間的に分離された経路を示す。
式7:|POUT>X|POUT>Y=|(1+einχt)ξ/2>X|(1-einχt)ξ/2>Y
【0037】
χtが小さい場合には、出力プローブ状態を|ξ(1+inχt/2)>X|inξχt/2>Yで表すことができ、フォトダイオード328を利用して第2のモード|inξχt/2>を直接的に測定することにより、光子強度(nξχt)2に比例する測定電流が与えられる。フォトダイオード328を、0又は2つの光子から単一の光子を区別することができない従来のデバイスとすることができるが、フォトダイオード328は0と多数の光子とを区別することができる。積ξχtが比較的大きいと仮定すると、フォトダイオード328は、出力モード|POUT>Yが0を有するか、概ね(ξχt)2個の光子を有するかを区別することができる。こうして、単一の光子を検出する測定系300Bの効率が1に近いので、測定系300Bは、現時点で使用されている検出器よりも非常に大きな利点を有する。
【0038】
ターゲット状態|TIN>がフォック状態の重ね合わせであり、形c0|0>a+c1|1>からなる場合には、ビームスプリッタ及びEIT相互作用後の全系の状態|Ψ>は、式8において与えられる形を有することがわかっている。フォトダイオード328が0ではない電流を測定する場合には、式8は、ターゲット状態|TOUT>が角周波数ωaの光子を含むことを示す。
式8:|Ψ>=c0|0>a|ξ>bX|0>bY+c1|1>a|(1+eiχt)ξ/2>X|(1-eiχt)ξ/2>Y
【0039】
ターゲット状態|TIN>がフォック状態の重ね合わせであり、形c0|0>a+c1|1>a+c2|2>aからなる場合には、成分フォック状態|1>a及び|2>aはいずれも角周波数ωaの光子を含み、それゆえ位相シフトを引き起こす。しかしながら、フォトダイオード328において結果として生成される電流の大きさが、成分状態|1>aに起因する位相シフトを、成分状態|2>aに起因する位相シフトから容易に区別する。先に言及したように、χtが小さいとき、フォトダイオード328において測定される電流は概ね(nξχt)2に比例する。したがって、成分状態|2>aの場合にフォトダイオード328が測定する電流は、成分状態|1>aの場合に測定される電流の約4倍である。
【0040】
本発明の別の態様によれば、測定系300Bを、ターゲット状態|TIN>のためのパリティ検出器として動作するように調整することができる。先に言及したように、フォトダイオード328はプローブ状態|(1-einχt)ξ/2>Yを測定する。光子ゲート110によって、量χtがπに等しくされる場合には、偶数の光子数が2πの倍数である位相シフトを生成し、それは実効的には位相シフトを生じない。ターゲット状態|TIN>の奇数の光子数n個の光子のみが位相シフトを引き起こし、フォトダイオード328はそれを0ではない電流として検出する。
【0041】
測定系300Bの利点は、フォトダイオード328が、雑音を無視すると、光子がターゲット状態にない限り0の強度を有する「ダークポート」を通して光を測定することである。したがってターゲット状態の光子の存在が示差的な信号をもたらす。しかしながら、光子ゲート110の例示的な実施形態において利用されるようなEIT系は常に、デコヒーレンス及び位相ずれから生じるある程度の量の雑音を有する可能性が高い。位相ずれはプローブ状態において小さな位相シフトを引き起こす可能性があり、それにより、ターゲット光子(たとえば角周波数ωaの光子)が存在しない場合でさえも、マッハ−ツェンダー干渉計のダークポートを通して、ある量の光の流れが生じる。しかしながら、フォトダイオード328は、ダークポートにおける(光の存在だけでなく)光の量を測定することができ、光子ゲート110において引き起こされる位相シフトを適切に調整することによって、単一のターゲット光子が存在するときのダークポートからの光の量と比べて雑音をかなり低いレベルにすることができる。その際、フォトダイオード328が多数の光子から数個の光子を区別し、それは従来のフォトダイオードを利用して達成することができる。光子ゲート110が、光子損失機構を使用して、プローブ光子状態を減衰させる場合には、その減衰も同様に、雑音からダークポート信号を区別するために最大とすることができる。
【0042】
上記のように、測定系300A及び300Bは、光子を直接的に測定して破壊することなく、ターゲット状態の光子の存否を推定することができる。したがって、測定後に、ターゲット状態からの光子を利用することができる。
【0043】
本発明の別の態様によれば、非破壊的な測定系300A又は300Bは、単一の光子を散発的に放出するか、あるいは不確実に放出する従来の非確定的な光子源を、要求に応じて単一の光子を放出する確定的な光子源に変更することができる。確定的な単一光子源は、従来の光子源と、系300A又は300Bのような非破壊的な光子検出器と、光子格納系とを含む。非破壊的な光子検出器は、従来の光子源から出力されるある状態のための光子数を測定する。測定された出力状態が単一光子でない場合には、従来の光子源からの別の出力光子状態が測定される。測定された光子状態が単一の光子を含む場合には、測定された光子状態が光子格納系に格納され、そこから、要求に応じて、単一光子状態を放出することができる。光子検出器がEIT系を含む光子ゲートを備えている場合には、EIT系は、位相シフトをプローブ状態に導入し、後に放出するために、そのターゲット光子を格納することができる。この形式のN個のそのような信頼できる単一光子源のアレイが、N個の光子を格納し、要求に応じて、ユーザが選択した数(たとえば0〜N個)の光子を放出することができる。
【0044】
図4は、本発明の特定の実施形態による確定的な単一光子源400を示す。光子源400は、光子ゲート110と、マッハ−ツェンダー干渉計320と、非確定的光子源430と、光子格納系440とを含む。
【0045】
非確定的光子源430は、角周波数ωaの単一の光子を放出することもあるが、多くの場合には真空のみを放出する。そのような光子源を、たとえば、電気的に起動される量子ドット又は大きく減衰したレーザとすることができる。光子源430の出力を測定して、光子源430が光子を放出したか否かが判定される。
【0046】
測定する場合、光子源430の出力状態が、測定のために光子ゲート110に入力されるターゲット状態|TIN>になる。レーザ又は他のプローブ源410が、角周波数ωcの光子を含むコヒーレントプローブ状態|ξ>を同時に生成し、マッハ−ツェンダー干渉計320がコヒーレントプローブ状態|ξ>を分割して、それにより1つの空間成分がターゲット状態|TIN>で光子ゲート110に入力される。その後、フォトダイオード328が雑音レベルよりも高いが、2光子ターゲット状態に対するレベルよりも低い信号を測定するか否かを検出することによって、フォトダイオード328が、ターゲット状態|TIN>が単一の光子状態を含むか否かを判定する。
【0047】
最初に、状態|TIN>の光子が存在しない場合には、光子源430は、単一の光子が検出されるまで動作し続ける。フォトダイオード328から測定された電流が、ターゲット状態|TIN>が単一の光子を含むことを裏付ける場合には、その光子は光子格納系440に格納され、ゲート435が、光子源430からのそれ以上の出力を遮断する。光子格納系440を、格納された光子に一致する量子コヒーレント光子状態を放出することができるファイバループ又はEIT系のようなデバイスとすることができる。格納された光子が光子格納系440から放出され、要求に応じて、単一光子状態を確定的にもたらすことができる。
【0048】
本発明の別の態様によれば、光子ゲート110において利用されるEITを基にする構成も、プローブ状態において所望の位相シフトを引き起こし、ターゲット状態の単一光子を格納することもできる。詳細には、プローブ状態の持続時間が、出力光子が必要とされるまで、物質系112を通してのターゲット光子の伝搬を実効的に遅くするか、又は停止するように延長され得る。したがって、物質系112がターゲット光子を格納するための役割を果たす場合には、個別の光子格納デバイス440を排除することができる。
【0049】
図4に示すような複数の確定的光子源を合わせて利用して、ユーザが選択した数の光子を含む光子状態を生成することができる。図5は、N個の単一光子源400-1〜400-Nを含むN個光子源500の一例を示す。単一光子源400-1〜400-Nはそれぞれ、図4の光子源400と同じように動作して、単一光子を検出して格納する。光子源400-1〜400-Nが全て単一光子を格納するとき、光子源400-1〜400-Nのうちの任意のもの、又は全てに対して、格納された光子を放出し、ユーザが選択した数の光子を有する光子状態を生成するように要求することができる。
【0050】
特定の実施形態を参照しながら本発明を説明してきたが、その説明は本発明の応用形態の一例にすぎず、限定するものとして受け取られるべきではない。開示する実施形態の特徴の種々の改変及び組み合わせが、添付の特許請求の範囲によって画定されるような本発明の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による光子数決定検出器のブロック図である。
【図2A】図1の光子検出器において使用するのに適した物質系のための準古典的エネルギー準位を示す図である。
【図2B】図1の光子検出器において使用するのに適した物質系のための量子エネルギーマニホールドを示す図である。
【図3A】ホモダイン測定技法を利用してプローブ光子状態の位相シフトを測定する本発明の一実施形態による光子数決定検出器のブロック図である。
【図3B】マッハ−ツェンダー干渉計構成を利用してプローブ光子状態の位相シフトを測定する本発明の一実施形態による光子数決定検出器のブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態による単一光子源のブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態によるN個の光子源のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット光子状態及びプローブ光子状態を受容可能なゲート(110)であって、前記プローブ光子状態において、前記ターゲット光子状態にある光子の数に依存する変化を引き起こすゲート(110)と、
前記プローブ光子状態の前記変化を測定し、前記ターゲット光子状態が1つ又は複数の光子を含むか否かを検出するように構成されている測定系(120)とからなるデバイス。
【請求項2】
前記ゲート(110)が複数のエネルギー準位を有する物質系(112)を含み、前記ターゲット光子状態において利用される光子が、前記物質系(112)のエネルギー準位間の第1の遷移に対応するエネルギーを有し、前記プローブ光子状態の光子が前記物質系(112)のエネルギー準位間の第2の遷移に対応するエネルギーを有し、前記物質系が、前記ターゲット光子状態及び前記プローブ光子状態の光子が存在するときに、電磁誘導透過をもたらす請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記測定系(120)が、
前記プローブ光子状態を第1の空間成分及び第2の空間成分に分割するように配置されている第1のビームスプリッタ(321)であって、前記第1の空間成分が前記ゲート(110)に向けられ、前記第2の空間成分が前記ゲート(110)を迂回するように向けられる第1のビームスプリッタ(321)と、
前記第1の空間成分が前記ゲート(110)を出た後に、前記第1の空間成分及び前記第2の空間成分を再結合するように配置されている第2のビームスプリッタ(323)と、
該第2のビームスプリッタ(323)からの光路に沿うフォトダイオード(328)とからなる請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記測定系(120)が、前記プローブ光子状態の前記変化を測定することによって、前記ターゲット光子状態の光子の数を測定する請求項1〜3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記変化が前記プローブ光子状態の位相シフトを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記プローブ光子状態の前記位相シフトが、前記ターゲット光子状態の光子の数のπ倍に等しく、前記デバイスが前記ターゲット光子状態のパリティを測定する請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記ターゲット光子状態が0又は1つの光子を含む機会を有するように、前記ターゲット光子状態を生成する光子源(430)と、
前記測定系が、前記ターゲット光子状態が1つの光子を含むことを検出するのに応答して、前記ターゲット光子状態の前記光子を格納する光子格納系(112、440)とをさらに含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
ターゲット状態の光子の数を検出するための方法であって、
前記ターゲット状態及びプローブ状態を、当該ターゲット状態と当該プローブ状態との間に非線形の相互作用を引き起こすゲート(110)に向け、
前記非線形の相互作用から引き起こされる前記プローブ状態の変化を測定し、
前記プローブ状態の前記変化から、前記ターゲット状態の光子の数を推定することからなる方法。
【請求項9】
前記プローブ状態の前記変化を測定することが、前記プローブ状態を基準ビームと干渉させることを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記プローブ状態の前記変化を測定することが、
前記プローブ状態の第1の空間成分が前記ターゲット状態と相互作用するように前記プローブ状態を分割し、
前記プローブ状態の前記第1の空間成分を前記プローブ状態の第2の空間成分と結合し、干渉を生じさせ、
前記干渉を測定して前記プローブ状態の前記変化を検出することを含む請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−524815(P2007−524815A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509869(P2006−509869)
【出願日】平成16年4月9日(2004.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/011001
【国際公開番号】WO2004/093003
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】