説明

光学ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子それぞれの製造方法、ならびに光学ガラスの着色抑制方法

【課題】着色が低減された光学ガラスを製造する方法を提供すること。
【解決手段】Feを含み、かつ酸化物換算のガラス組成において、外割りでSnO2を0.01〜3質量%およびSb23を0〜0.1質量%含むとともに、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量に対するTiO2含有量が0〜1質量%でありWO3含有量が0〜4質量%である熔融ガラスを調製し、調製した熔融ガラスを成形することを含む光学ガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種光学素子用の材料として好適な光学ガラスの製造方法、ならびに、上記光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子それぞれの製造方法に関するものである。
更に本発明は、光学ガラスの着色抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズ、プリズム等の光学素子用の材料として使用される光学ガラスには、高い透明性を有すること、即ち着色が少ないことが求められる。
【0003】
ガラスの着色低減に関し、例えば特許文献1には、TiO2を含むホウ酸塩系の光学ガラスにおける着色を低減するために、Sb23および/またはAs23を添加することが提案されている。
また、特許文献2には、高屈折率成分を含むリン酸系光学ガラスにSb23を添加することにより、着色を低減することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−112697号公報
【特許文献2】特開2005−75665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、TiO2を含有するガラスにおける着色低減に関する技術が開示されている。これに対し、本発明者の検討により、ホウ酸ランタン系ガラスでは、TiO2含有量を低減したガラスやTiO2を含まないガラスであっても着色が発生することがあること、そしてこの着色は特許文献1に開示された技術では十分抑制できないことが判明した。更に、本発明者の検討により、特許文献2に開示されているようなリン酸塩系ガラスでも、Sb23の添加では十分に着色を抑制できないことがあることも判明した。
【0006】
そこで本発明の目的は、着色が低減された光学ガラスを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
特許文献1では、ガラスの着色機構について、ネットワーク形成成分が少なくTiO2を多量に含むホウ酸塩系ガラスでは、Tiイオンによる発色機能が高められることがガラスの着色の原因であると記載されている。また、特許文献2には、高屈折率のリン酸塩系ガラスでは、高屈折率成分の還元が着色の原因であると記載されている。
しかし本発明者の検討により、Feを含有する光学ガラスでは、特許文献1および2に記載されているような着色機構とは別に、Feに起因する波長360nm〜370nm近辺での光吸収が強まることによる着色機構が存在することが明らかとなった。
そこで本発明者は上記知見に基づき更に検討を重ねた結果、上記波長域の着色は所定量のSnO2を添加することにより低減できることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]Feを含み、かつ酸化物換算のガラス組成において、外割りでSnO2を0.01〜3質量%およびSb23を0〜0.1質量%含むとともに、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量に対するTiO2含有量が0〜1質量%でありWO3含有量が0〜4質量%である熔融ガラスを調製し、調製した熔融ガラスを成形することを含む光学ガラスの製造方法。
[2]前記熔融ガラスを、必須添加剤としてSn化合物を添加し、任意添加剤としてSb化合物を添加したガラス原料を加熱熔融することにより調製する[1]に記載の光学ガラスの製造方法。
[3]前記熔融ガラスを、必須添加剤としてSn化合物を添加し、任意添加剤としてSb化合物を添加したガラス原料を加熱熔解し、次いで冷却することによりカレット原料を作製し、作製したカレット原料を加熱熔融することにより調製する[1]に記載の光学ガラスの製造方法。
[4]前記熔融ガラスは、Fe23に換算して0ppm超20ppm以下のFeを含む[1]〜[3]のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
[5]前記熔融ガラスは、Fe23に換算して0.05ppm以上20ppm以下のFeを含む[4]に記載の光学ガラスの製造方法。
[6]前記光学ガラスは、波長200〜700nmの範囲において、厚さ10nmにおける外部透過率が70%となる波長λ70が400nm以下である[1]〜[5]のいずれかに記載の光学ガラスの製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の方法により光学ガラスを作製し、作製した光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形するプレス成形用ガラス素材の製造方法。
[8][7]に記載の方法によりプレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する光学素子ブランクの製造方法。
[9][8]に記載の方法により光学素子ブランクを作製し、作製した光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する光学素子の製造方法。
[10][7]に記載の方法によりプレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いて精密プレス成形することにより光学素子を作製する光学素子の製造方法。
[11]酸化物換算のガラス組成において、外割りでSnO2を0.01〜3質量%およびSb23を0〜0.1質量%を含有させることにより、Feを含む光学ガラスであって、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量に対するTiO2含有量が0〜1質量%でありWO3含有量が0〜4質量%である光学ガラスの着色を抑制する方法。
[12]前記着色の抑制は、波長200〜700nmの範囲において、前記光学ガラスの厚さ10nmにおける外部透過率が70%となる波長λ70および/または上記外部透過率が80%となる波長λ80を短波長化することを含む[11]に記載の方法。
[13]前記光学ガラスは、Fe23に換算して0ppm超20ppm以下のFeを含む[11]または[12]に記載の方法。
[14]前記光学ガラスは、Fe23に換算して0.05ppm以上20ppm以下のFeを含む[13]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Feによる着色が低減された光学ガラス、前記光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランクおよび光学素子それぞれの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[光学ガラスの製造方法]
本発明の光学ガラスの製造方法は、Feを含み、かつ酸化物換算のガラス組成において、外割りでSnO2を0.01〜3質量%およびSb23を0〜0.1質量%含むとともに、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量に対するTiO2含有量が0〜1質量%でありWO3含有量が0〜4質量%である熔融ガラスを調製し、調製した熔融ガラスを成形することを含むものである。
【0011】
本発明において「酸化物換算のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されて熔融ガラス中または光学ガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。また、本発明において「外割」とは、酸化物換算のガラス組成において、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量を100%とした場合の相対質量%をいうものとする。また、後述するFe23に換算したFeの含有量は、Fe23、SnO2およびSb23を含むガラス全質量に対する含有量をppm単位で表示する。
【0012】
本発明者の検討によれば、Feを含む光学ガラスでは、Feに起因する波長360nm〜370nm近辺での光吸収が強まることによって着色が発生する。一方、特許文献1および2に記載の技術は、Tiに起因する着色および高屈折率成分の還元による着色を抑制するものであるため、特許文献1および2に記載の技術によって上記Feに起因する着色を低減することは困難である。
【0013】
これに対し本発明の光学ガラスの製造方法では、熔融ガラス中にSn化合物を必須成分として含有させることにより、上記着色を抑制することができる。その外割含有量は、SnO2換算で0.01〜3質量%の範囲である。上記含有量が0.01質量%未満では、十分な着色抑制効果を得ることが困難となり、3質量%を超えると溶け残りが生じて均質なガラスを得ることができなくなる。上記含有量は、ガラスの均質化と着色低減を両立する観点から、好ましくは0.01〜2質量%、より好ましくは0.01〜1質量%の範囲である。
【0014】
更に本発明の光学ガラスの製造方法では、熔融ガラス中に任意成分としてSb化合物を含有させる。その外割含有量は、Sb23換算で0〜0.1質量%の範囲である。上記含有量が0.1質量%を超えると、Sn化合物の添加による着色抑制効果を十分に得ることができない。また、熔融容器や熔融ガラスを流すパイプを構成する白金などの耐熱性金属あるいは耐熱性合金が侵蝕され、金属イオンとしてガラスに溶け込むことによりガラスの着色が強まったり、侵蝕物がガラス中に異物として混入して光の散乱源になるなどの問題を引き起こす。上記含有量は、好ましくは0〜0.05質量%、より好ましくは0.02質量%未満、さらに好ましくは0〜0.01質量%、一層好ましくは0〜0.005質量%、より一層好ましくは0〜0.001質量%であり、Sb化合物を添加しないことがさらに好ましい。
【0015】
本発明の光学ガラスの製造方法では、熔融ガラスとしてFeを含む熔融ガラスを使用し、光学ガラスを作製する。Feを含有する熔融ガラス中に、上記量のSn化合物および任意にSb化合物を共存させることにより、Feによる着色が抑制された光学ガラスを得ることができる。
【0016】
前記熔融ガラス中のFeの含有量は、Fe23に換算して0ppm超20ppm以下であることが好ましい。なお、熔融ガラスを成形することにより得られる光学ガラスのガラス組成は、熔融ガラスのガラス組成と同一とみなすことができる。上記Fe量が20ppm以下であれば、Sn化合物の添加による着色抑制効果を良好に得ることができる。上記Fe量は、好ましくは15ppm以下、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは7ppm以下である。なお、ガラス原料の不純物としてガラスに導入されるFeの量、および高純度原料を使用したとしても光学ガラスを大量生産する場合、不可避的に混入するFeの量は上記Fe量として、通常0.05ppm以上である。原料コストのアップを許容し、超高純度原料または高純度原料を使用してFeのガラスへの混入を抑制すると、上記Fe量は、通常0.05ppm以上かつ2ppm未満となる。また、原料コストを抑えるため、汎用の光学ガラス原料を用いると、上記Fe量は、通常2ppm以上20ppm以下となり、この範囲でさらにFeの混入量を抑制すると、上記Fe量は、通常2ppm以上7ppm以下となる。本発明では、Sn化合物を所定量添加することにより、Fe不純物を実質的に含まない高純度ガラス原料のようにグレードがさほど高くない原料を使用しても着色が抑制されたガラスを得ることができる。このように本発明によれば原料の制限を受けにくいため、高品質な光学ガラスを安定して供給することができるとともに、原料コストを抑制することもできる。
また、ステンレスのように鉄を含む材料で作られた装置を用いてガラス原料を調合したり、原料を熔融装置に供給する場合、上記材料の摩耗によってFeが原料に混入することがある。本発明によれば、こうした場合でもガラスの着色を抑制し、均質な光学ガラスを提供することができる。また、ガラス製造装置にステンレスのような鉄を含む耐久性の高い材料を使用してもガラスの品質に悪影響を及ぼすおそれがなくなるため、装置の耐久性向上による生産性向上を図ることもできる。
更に本発明によれば、Sn化合物および任意に添加されるSb化合物の清澄作用により、残留泡のない均質な光学ガラスを得ることができる。特に、Sn化合物はSb化合物と比べてルツボの侵蝕性が少ないことから、Sn化合物を必須成分として着色を抑制しつつ十分な清澄効果が得られる量を添加してもルツボの侵蝕が促進されることもない。
【0017】
ただしSn化合物および任意にSb化合物を添加したとしても、TiO2、WO3を多量に含むガラスでは、着色を抑制することは困難であることが判明した。これはTiO2を多量に含むガラスでは、Tiに起因する着色の影響が大きくFeによる着色を抑制したとしても、ガラスの着色が依然として発生するからであると推察され、WO3を多量に含むガラスでは、Wによる短波長域の吸収によりSn、Sbによる効果が打ち消されてしまうからであると推察される。
したがって、本発明においてSn化合物および任意にSb化合物が添加されるガラスは、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量に対するTiO2含有量が0〜1質量%でありWO3含有量が0〜4質量%であるものとする。Sn化合物の添加による着色改善効果は、TiO2の含有量、WO3の含有量が比較的少ないガラスのほうが顕著に現れる。こうした理由からTiO2の含有量の好ましい範囲は0〜0.5%、さらに好ましい範囲は0〜0.1%であり、TiO2を含有しないガラスがなお一層好ましい。WO3については、WO3の含有量は0〜3%とすることが好ましく、0〜2%とすることがより好ましく、0〜1%とすることが更に好ましく、0〜0.5%とすることがより一層好ましく、0〜0.1%とすることが更に一層好ましく、WO3を含有しないガラスがなお一層好ましい。
【0018】
本発明の光学ガラスの製造方法の好ましい態様としては、下記方法1、2のいずれかにより熔融ガラスを調製する態様を挙げることができる。
【0019】
(方法1)
必須添加剤としてSn化合物を添加し、任意添加剤としてSb化合物を添加したガラス原料を加熱熔融することにより熔融ガラスを調製する。
(方法2)
必須添加剤としてSn化合物を添加し、任意添加剤としてSb化合物を添加したガラス原料を加熱熔解し、次いで冷却することによりカレット原料を作製し、作製したカレット原料を加熱熔融することにより熔融ガラスを調製する。
【0020】
方法1および2において、ガラス原料、Sn化合物およびSb化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等を適宜用いることが可能である。方法1では、これらの原料および添加剤を所定の割合に秤取し、混合して調合原料として熔融容器内で加熱熔融し、次いで、カレット化することなく清澄、攪拌し、均質化することにより、泡や未熔解物を含まず均質な熔融ガラスを得ることができる。
【0021】
方法1は、所謂、バッチ原料を調合し、熔融して光学ガラスを生産する方法、バッチダイレクトメルト法である。一方、方法2は、原料を一旦、熔融、冷却することによりガラス化してカレット原料とし、カレット原料を調合、熔融することにより熔融ガラスを得る方法である。より詳しくは、方法2は、粗熔解用ガラス原料とSn化合物(および任意にSb化合物)を熔融容器内で一緒に加熱、粗熔解し、得られた熔解物を急冷してカレット原料を作製し、このカレット原料を用いてガラスを熔融、清澄および均質化し、得られた熔融ガラスを成形することで、光学ガラスを製造する方法である。方法1、方法2のいずれにおいても、Snの量がSnO2に換算して外割で0.01〜3質量%、Sbの量がSb23に換算して外割で0〜0.1質量%となるように、Sn化合物およびSb化合物の添加量を調整することにより、Feが混入した光学ガラスにおける着色を低減することができる。
【0022】
本発明の光学ガラスの製造方法では、熔融ガラスとしてFeを含む熔融ガラスを使用する。熔融ガラスへのFe混入の態様としては、以下の態様を挙げることができる。本発明によれば、いずれの態様によりFeが混入したガラスであっても着色を抑制することができる。
(1)ガラス原料にFe化合物を意図的に混合する。
(2)Feが混入したガラス原料を使用する。
(3)光学ガラス製造工程における装置からFeが混入する。
【0023】
以下、上記(3)についてより詳細に説明する。
例えば、ガラス成分に対応する粉体状の複数種の化合物と添加剤としてSn化合物(例えばSnO2)を秤量し、ステンレス製容器に入れて、ステンレス製の攪拌具を用いて十分混合することにより、調合原料を得ることができる。この調合原料を用いて熔融ガラスを調製し、流出する熔融ガラスを鋳型に流し込んで成形し、得られたガラス成形品をアニールすることにより光学ガラスを得ることができる。熔融ガラスの調製は、例えば以下のように行うことができる。
まず調合原料を原料供給装置にセットし、次いで原料を適量ずつガラス熔融容器に投入し、加熱、熔融、清澄、均質化、流出する。原料の投入はガラス熔融容器内のガラスが概ね一定量に保たれるよう、連続的にもしくは間欠的に行うことができる。
上記工程では、例えば原料調合時に用いられるステンレス製容器、攪拌具の原料に接触する面は、僅かながら原料との摩擦によって削られ、ステンレスの微粉末が原料に混入することがある。ステンレス中には鉄が含まれており、こうして原料にFeが混入する。また、原料供給装置でも鉄またはステンレスなどの鉄を含む合金で作られた部分が削れ、原料に鉄が混入することがある。予めガラス原料または添加剤に不純物として含まれる鉄の量から算出されるガラス中の鉄不純物量より、実測したガラス中の鉄不純物量が多くなる場合があるが、その差はガラス製造中に上記理由によって原料に混入した鉄に起因すると考えられる。超高純度原料を使用しても上記のように原料に鉄が混入することがあるが、こうした場合でも、本発明によれば所定量のSn化合物を原料に加えることによりガラスの着色を低減、抑制することができる。
上記の例では粉体状化合物を用いて原料を調合したが、粉体状化合物を用いる代わりに、方法2においてカレットを調合し、ガラスを熔融する場合も、Sn化合物の添加により同様の効果を得ることができる。
【0024】
方法1、方法2のいずれにおいても、熔融ガラスを成形、徐冷することにより、本発明の光学ガラスを得ることができる。成形方法としては、鋳込み成形、棒材成形、プレス成形などの公知の技術が使用できる。成形されたガラスは、通常、予めガラスの転移点付近に加熱されたアニール炉に移し、室温まで徐冷される。得られたガラスは適宜、切断、研削、研磨が施される。必要に応じて、ガラスを切断し加熱プレスを行うこともできるし、精密なゴブを作製し、加熱し非球面レンズなどに精密プレス成形をすることもできる。本発明の製造方法により得られた光学ガラスの用途については後述する。
【0025】
以下、本発明の製造方法により得られる光学ガラスのガラス組成および物性について説明する。
【0026】
本発明の光学ガラスの製造方法によれば、前述のようにFeによる波長360nm〜370nm近辺での光吸収に起因する着色が抑制された光学ガラスを得ることができる。このように着色が抑制されたガラスであることは、波長200〜700nmの範囲において、厚さ10nmにおける外部透過率が70%となる波長λ70または80%となる波長λ80を指標として評価することができる。本発明の製造方法により得られる光学ガラスは、例えば400nm以下のλ70を示すことができ、更には395nm以下、380nm以下のλ70を示すこともできる。λ70の下限は特に限定されるものではないが、例えば300nm程度である。また、λ80は460nm以下であることが好ましい。λ80の下限は特に限定されるものではないが、例えば330nm程度である。
【0027】
本発明におけるλ70およびλ80は、後述の実施例に示す方法によって測定される値とする。なお、後述の実施例に示す方法によって測定されるλ5は、上記外部透過率が5%となる波長であり、光の透過量が少ない波長における数値であるため着色に与える影響は少ないが、着色をよりいっそう抑制する観点からはλ5は360nm以下であることが好ましい。λ5の下限は特に限定されるものではないが、例えば230nm程度である。
【0028】
前記光学ガラスは、Feを含み、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量に対するTiO2含有量が0〜1質量%でありWO3含有量が0〜4質量%であるものであれば、そのガラス組成は特に限定されるものではない。ただし、Sbよりも酸化力が強い、すなわち、白金などの耐熱性金属の侵蝕性の高いAsを含むガラスは、多量のSbを含むガラスと同様の理由により好ましくない。さらに、Asは毒性が強く環境への負荷が大きいため、前記光学ガラスとしては、Asを添加しないこと、すなわち、Asフリーガラスであることが好ましい。
また、環境負荷の問題から、Pb不含有ガラス(Pbフリーガラス)、Cd不含有ガラス(Cdフリーガラス)、Th不含有ガラス(Thフリーガラス)、U不含有ガラス(Uフリーガラス)、Cr不含有ガラス(Crフリーガラス)とすることが望ましい。
【0029】
次に、前記光学ガラスの好ましいガラス組成を例示する。
【0030】
第1の例は、ホウ酸塩ガラスである。中でも、ランタン含有のホウ酸塩ガラスは、高屈折率低分散性を有しながら、Feなどの不純物に起因する着色を除けば、ガラス本来の着色が非常に少ないため、本発明の適用が効果的である。低着色、高屈折率低分散性を活かし、上記光学ガラスは、高機能、コンパクトな光学系を構成するための光学素子材料として有効である。安定性、耐失透性等に優れた高屈折率低分散ガラスを得る観点から、上記ガラス中のランタンの含有量は、La23換算で10〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より一層好ましくは25質量%以上である。また、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50%質量以下、更に好ましくは45%質量以下である。同様の理由から、上記ガラスは、好ましくは2〜50質量%、より好ましい範囲は10〜45質量%のB23を含むことが適当である。
【0031】
第2の例は、リン酸塩ガラスである。リン酸塩ガラスは熔解性に優れ、熔解温度を比較的低く設定することができる。そのため、熔融容器を構成する白金などの耐熱性金属の侵蝕を抑制することができ、ガラスにイオンとして溶け込む白金などの金属量を少なくすることができ、着色も少なくすることができる。リン酸塩ガラスは、高屈折率高分散ガラスとしても、低分散ガラスとしても有用なガラスである。高屈折率高分散ガラスでは、屈折率、分散を高めるため、Nb25、TiO2、WO3、Bi23などの高屈折率高分散付与成分を比較的多く導入する。これら成分の導入は、通常、酸化物原料を用いて行うが、酸化物原料の精製は炭酸塩原料、硝酸塩原料、硫酸塩原料などの精製よりも手間がかかり、コストもかさむ。そのため、原料のグレードを下げてコスト低減を図ると、Fe不純物を含む酸化物原料を使用せざるを得ず、得られる光学ガラスではFeによる着色が顕著に発生する。このFeによる着色を低減するには、Fe不純物を極度に排除した高純度原料を使用せざるを得ず、コストアップになってしまう。これに対し、本発明によれば、Fe不純物を含む酸化物原料からFeを完全に排除することなく、着色の少ないリン酸塩ガラスを得ることができる。特に、Nb25、TiO2、WO3およびBi23を合計で30質量%以上含むリン酸塩ガラスにおいて、着色抑制による効果が大きいため、酸化物換算のガラス組成において、Nb25、TiO2、WO3およびBi23を合計で30質量%以上、特に40〜70質量%の範囲で含むリン酸塩ガラスに本発明を適用することが好ましい。
【0032】
この他、フツリン酸塩ガラス、フツホウ酸塩ガラス、ケイ酸塩ガラスにも本発明を適用
することができる。
【0033】
[プレス成形用ガラス素材の製造方法]
本発明のプレス成形用ガラス素材の製造方法は、上記本発明の光学ガラスの製造方法により光学ガラスを作製し、作製した光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形するものである。上記ガラス素材は、着色が抑制され、均質性が高いガラスからなるため、高品質な光学素子をプレス成形によって作製する際、非常に有用なものである。
【0034】
本発明のプレス成形用ガラス素材の製造方法の第一の態様としては、光学ガラスを加工する下記態様を挙げることができる。
例えば、清澄、均質化した熔融ガラスを鋳型に流し込んで急冷、成形して得たガラス成形体をアニールし、その成形体を切断または割断してガラス片に分割し、ガラス片を研削、研磨してプレス成形用ガラス素材とする。研磨によって表面を滑らかに仕上げたガラス素材は精密プレス成形用プリフォームとすることもできる。ガラス片をバレル研磨することにより、プレス成形後に成形品の表面を研削、研磨して光学素子とするための研磨用プレス成形品を作るためのガラス素材にすることもできる。
【0035】
第二の態様としては、前記ガラス素材1個分の熔融ガラス塊を調製し、前記熔融ガラス塊に風圧を加え、浮上状態でプレス成形用ガラス素材に成形する態様を挙げることができる。第二の態様によれば、熔融ガラス塊を浮上状態で成形するため、自由表面からなる滑らかでシワのない表面を備えたガラス素材を作製することができる。こうしたプレス成形用ガラス素材は精密プレス成形用プリフォームに好適である。
精密プレス成形用プリフォームの場合、表面に炭素含有膜など精密プレス成形時に成形型成形面に沿ってガラスの延びをよくするコートを形成してもよい。
【0036】
[光学素子ブランクの製造方法]
本発明の光学素子ブランクの製造方法は、本発明のプレス成形用ガラス素材の製造方法によりプレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態でプレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製するものである。
光学素子ブランクとは、目的とする光学素子の形状に近似し、前記光学素子の形状に研削、研磨しろを加えたガラス物品であり、表面を研削、研磨することにより光学素子に仕上げられる光学素子母材である。なお、本発明の光学ガラスの製造方法において、熔融ガラスをプレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクとして光学ガラスを得ることもできる。この場合、プレス成形型の成形面には窒化硼素などの粉末状離型剤を均一に塗布しておき、そこに熔融ガラスを供給してプレス成形することが、ガラスと成形型の融着を確実に防止できるほか、プレス成形型の成形面に沿ってガラスをスムーズに延ばすことができるため好ましい。
【0037】
本発明の光学素子ブランクの製造方法では、ガラス素材の加熱、プレス成形はともに大気中で行うことができる。ガラス素材の表面に、窒化硼素などの粉末状離型剤を均一に塗布し、加熱、プレス成形すると、ガラスと成形型の融着を確実に防止できるほか、プレス成形型の成形面に沿ってガラスをスムーズに延ばすことができる。プレス成形して得られた光学素子ブランクを成形型から取り出し、アニールして内部の歪を低減するとともに、屈折率などの光学特性が所望の値になるように微調整することが好ましい。本発明において、所要量のSn化合物(および任意にSb化合物)の添加によって、ガラス加熱時の耐失透性が悪化することはないため、本発明により得られる光学ガラスは、上記光学素子ブランクの製造に好適である。
【0038】
本発明の光学素子ブランクの製造方法によれば、着色が低減され、残留泡を含まない光学的に均質な内部品質を有する光学素子ブランクを提供することができ、この光学素子ブランクを研削、研磨することにより、高品質な光学素子を得ることができる。
【0039】
[光学素子の製造方法]
本発明の光学素子の製造方法は、
(1)本発明の光学素子ブランクの製造方法により光学素子ブランクを作製し、作製した光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する光学素子の製造方法;
(2)本発明のプレス成形用ガラス素材の製造方法によりプレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いて精密プレス成形することにより光学素子を作製する光学素子の製造方法、
の2つの態様を含む。
【0040】
態様(1)および(2)により得られる光学素子は、着色が低減され、残留泡を含まない均質なガラスからなるため、撮像用光学素子や投影用光学素子、光通信用光学素子、光記録媒体へのデータ書き込みや光記録媒体からにデータ読み出しに使用する光ピックアップレンズ、その他の光学素子として好適である。
撮像用光学素子、投影用光学素子としては、球面凸メニスカスレンズ、球面凹メニスカスレンズ、球面両凹レンズ、球面両凸メニスカスレンズ、球面平凸レンズ、球面平凹レンズ、非球面凸メニスカスレンズ、非球面凹メニスカスレンズ、非球面両凹レンズ、非球面両凸メニスカスレンズ、非球面平凸レンズ、非球面平凹レンズ、プリズムなどを例示することができる。これらの光学素子は、一眼レフカメラの交換レンズ、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話搭載の撮像レンズ、パソコン搭載の撮像レンズ、監視カメラの撮像レンズ、車載カメラの撮像レンズ、液晶プロジェクタ搭載の投影レンズやプリズムなどに好適である。
光通信用光学素子としては光ファイバー同士、あるいは光ファイバーと光部品のカップリングレンズなどを例示することができる。
その他光学素子としては、回折格子、フレネルレンズ、光フィルターなどを例示することができる。
これら光学素子の表面には、必要に応じて反射防止膜や部分反射膜、高反射膜、波長依存性を有する反射膜などをコートすることもできる。
【0041】
態様(1)において、研削、研磨は公知の方法を適用すればよく、加工後に光学素子表面を十分洗浄、乾燥させるなどすることにより、内部品質および表面品質の高い光学素子を得ることができる。態様(1)は、各種球面レンズ、プリズムなどの光学素子を製造する方法として好適である。
【0042】
態様(2)における精密プレス成形とは、周知のようにモールドオプティクス成形とも呼ばれ、光学素子の光学機能面をプレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。なお、光学機能面とは光学素子において、制御対象の光を屈折したり、反射したり、回折したり、入出射させる面を意味し、レンズにおけるレンズ面などがこの光学機能面に相当する。精密プレス成形には、公知の方法を用いればよく、プレス成形用ガラス素材として予めプリフォームを用意し、このプリフォームを加熱して精密プレス成形する。態様(2)では、ガラスを再度、加熱するため、ガラス素材を構成するガラスには優れた耐失透性が求められる。本発明によれば、所要量のSn化合物およびSb化合物の添加によってガラスの耐失透性が損なわれることはないので、本態様によって、失透のない光学素子を高生産性のもとに量産することができる。態様(2)は、各種非球面レンズ、光ピックアップレンズ、光通信用のカップリングレンズの製造に好適である。
【0043】
[光学ガラスの着色抑制方法]
更に本発明は、Feを含む光学ガラスの着色を抑制する方法に関する。
本発明の着色抑制方法では、酸化物換算のガラス組成において、外割りでSnO2を0.01〜3質量%およびSb23を0〜0.1質量%を含有させる。これにより、Feを含む光学ガラスにおける着色を抑制することができる。ここで、着色抑制対象とされるガラスは、前述の通り、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量に対するTiO2含有量が0〜1質量%でありWO3含有量が0〜4質量%であるものとする。また、上記「着色の抑制」とは、上記量のSnO2およびSb23を含まない点以外は同じガラス組成を有する光学ガラスに対し、着色が低減されていることをいう。抑制される着色は、好ましくはFeに起因する波長360nm〜370nm付近の着色である。Feに起因する着色が抑制されたことは、前述の波長λ70および/またはλ80が、上記量のSnO2およびSb23を含まない点以外は同じガラス組成を有する光学ガラスと比べて短波長化することによって確認することができる。
本発明の着色抑制方法におけるSnO2使用量、Sb23使用量、適用が好適な光学ガラス等の詳細は、前述の通りである。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
1.光学ガラス成形体製造の実施例・比較例
【0046】
ホウ酸、酸化物、炭酸塩などの化合物を用い、表1に記載されている実施例1〜21の組成を有する光学ガラスおよび比較例1〜22の組成を有する光学ガラスが得られるように前記化合物を秤量、混合し、ガラス原料を調合した。
なお、実施例11および比較例6を除く実施例、比較例の光学ガラスを得るためのガラス原料は汎用の光学ガラス原料用化合物を用いて調合した。実施例5〜7、9、10および比較例2〜4では、ガラス原料に表1記載の量のFe23を添加した。実施例11および比較例6の光学ガラス原料は高純度の化合物を用いて調合した。すなわち、実施例11および比較例6の光学ガラス原料は高純度原料とした。
次いで、これらガラス原料をガラス熔融槽に導入しながら加熱、熔融し、得られた熔融ガラスを熔融槽と連結パイプで連結した清澄槽に流し、清澄を行った後、清澄槽に連結パイプで連結した作業槽に流し、攪拌して均質化した後、作業槽の底部に取り付けた流出パイプから流出させて鋳型に鋳込み、成形した。上記熔融槽、清澄槽、作業槽、各連結パイプ、流出パイプは白金合金製とした。
また、ガラス原料の混合装置、ガラス原料の熔融槽への投入装置は、耐久性に優れるステンレス製装置を用い、ガラス原料による摩耗を抑制するようにしたため、装置からのFe混入はないとみなすことができる。したがって、実施例5〜7および比較例2〜4以外の実施例および比較例については、ガラス原料中のFe量を測定し、測定値から算出した熔融ガラス中のFe量(Fe23換算)を表1に示す。実施例5〜7、9、10および比較例2〜4については、添加したFe23量および上記と同様にガラス原料中のFe量から算出したFe量(Fe23換算)を表1に示す。なお、得られる光学ガラス中のFe量は、表1に示す熔融ガラス中のFe量と同一とみなすことができる。
また、上記ガラスの作製において、熔融槽内のガラスの熔融温度を1100〜1400℃、熔融時間を1〜5時間、清澄槽内のガラスの温度(清澄温度)を1200〜1500℃、清澄時間を1〜6時間、作業槽内におけるガラスの温度を1000〜1300℃、ガラスの流出温度を900〜1300℃とした。なお、上記ガラス製造装置は、熔融槽から清澄槽へ、清澄槽から作業槽へ熔融ガラスが連続的に流れるようになっている。そのため、上記熔融時間、清澄時間は、それぞれ熔融槽、清澄槽にガラスが滞在する平均時間である。
成形して得られた光学ガラスをガラス転移温度付近で保持した後、−30℃/時の冷却スピードで徐冷した後、着色度λ80、λ70、λ5、屈折率nd、アッベ数νd、ガラス転移温度Tg、屈伏点Tsを測定するための試料を採取し、前記各特性を測定した。測定結果を表1に示す。
なお、得られた光学ガラスには、結晶や残留泡は認められなかった。
【0047】
以下に、上記各特性の測定方法を示す。
(1)着色度λ80、λ70、λ5
厚さ10±0.1mmで光学研磨された互いに平行な平面を有するガラス試料を作製し、このガラス試料に、上記平面に対して垂直な方向から強度Iinの光線を入射し、透過光線の強度Ioutを測定し、強度比Iout/Iinをガラスの外部透過率と呼ぶ。波長200〜700nmの範囲において、外部透過率が80%となる波長をλ80、外部透過率が70%となる波長をλ70、外部透過率が5%となる波長をλ5とした。波長200〜700nmの範囲において、λ80以上の波長域で80%以上の外部透過率が得られ、λ70以上の波長域で70%以上の外部透過率が得られ、λ5以上の波長域で5%以上の外部透過率が得られる。なお、屈折率が高い光学ガラスでは、ガラス試料の表面における光線の反射率が高くなり、外部透過率が80%に達しない場合がある。こうした場合、λ80は測定できない、あるいは精度よく測定できないため、表1には示していない。
(2)屈折率nd、アッベ数νd
日本光学硝子工業会規格JOGIS「光学ガラスの屈折率の測定方法」に従い測定した。
(3)ガラス転移温度Tg、屈伏点Ts
熱機械分析装置を用いて、昇温速度4℃/分の条件下で測定した。
【0048】
【表1】





【0049】
実施例1〜11、比較例1〜6の光学ガラスの組成は、Sn添加量、Sb添加量、Fe混入量を除き、同じ組成である。表1より明らかなように、Fe23に換算したFeの量が一定の実施例と比較例の光学ガラスを比較すると、Snを添加した実施例の光学ガラスのほうが、Snを添加しない比較例の光学ガラスより、λ80およびλ70が小さな値となっている。ただしSb添加の有無以外同じ組成である実施例2と実施例4とを対比すると、Sbの添加によりSn添加による着色抑制効果が低下する傾向が見られる。この傾向はSb添加量が多くなるほど高まりSb23換算のSb添加量が0.1質量%を超えると、Sn添加による着色抑制効果を得ることが困難となるため、本発明では、Sbを添加する場合には、その添加量をSb23換算で0.1質量%以下とする。
同様に、表1中のSn添加量、Fe混入量を除き、同じ組成であるその他の実施例と比較例との対比においても、Snを添加した実施例の光学ガラスのほうが、Snを添加しない比較例の光学ガラスより、λ80および/またはλ70が小さな値となり着色が抑制されていることが確認できる。
一方、比較例14〜16はTiO2含有量が1質量%超かつWO3含有量が4質量%超であり、Sn添加量、Sb添加量を除き同じ組成の光学ガラス、比較例17〜19はTiO2含有量が1質量%超でありSn添加量、Sb添加量を除き同じ組成の光学ガラス、比較例20〜22はWO3含有量が4質量%超でありSn添加量、Sb添加量を除き同じ組成の光学ガラスである。これら比較例では、Sn化合物の添加によるλ80ないしλ70の低下は確認されなかった。
以上の結果から、TiO2含有量が1質量%以下かつWO3含有量が4質量%以下であるFeを含む光学ガラスにおいて、Snを添加することにより着色抑制効果が得られることがわかる。
【0050】
以上は、化合物を調合して得たガラス原料を熔融、成形し、直接、光学ガラスを作製する例であるが、化合物を調合して粗熔解用ガラス原料を用意し、SnO2、Sb23を適宜添加したものを熔融容器内で加熱、粗熔解し、得られた熔融物を急冷してカレット原料を作製して複数種のカレット原料を作製し、目的とする光学特性を有する光学ガラスが得られるようにこれらカレット原料を調合し、調合したカレット原料を白金合金製のルツボ内に導入して、加熱、熔融、清澄および均質化、成形して表1に示す組成、特性を有する光学ガラスを得ることもできる。
【0051】
2.プレス成形用ガラス素材製造の実施例
下記方法1−1または方法1−2により、上記各実施例の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子を作製した。
【0052】
(方法1−1)
表1に示す組成を有する光学ガラスを熔融し、鋳型に流し込んで急冷、成形して得たガラス成形体をアニールし、その成形体を切断または割断してガラス片に分割し、ガラス片を研削、研磨してプレス成形用ガラス素材を作製した。
【0053】
(方法1−2)
表1に示す組成を有する光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材1個分の熔融ガラス塊を調製し、熔融ガラス塊に風圧を加え、浮上状態でプレス成形用ガラス素材に成形した。
【0054】
3.光学素子ブランク製造の実施例
下記方法2−1または方法2−2により、上記各実施例の光学ガラスからなる光学素子ブランクを作製した。
【0055】
(方法2−1)
上記方法1−1または1−2により得られた各プレス成形用ガラス素材を加熱し、プレス成形型を用いてプレス成形し、光学素子ブランクを作製した。ガラス素材の加熱、プレス成形はともに大気中で行った。ガラス素材の表面には、窒化硼素などの粉末状離型剤を均一に塗布し、加熱、プレス成形した。プレス成形して得られた光学素子ブランクを成形型から取り出し、アニールして内部の歪を低減するとともに、屈折率などの光学特性が所望の値になるように微調整した。
【0056】
(方法2−2)
表1に示す組成を有する光学ガラスからなる均質化した熔融ガラスを、プレス成形型を用いてプレス成形し、光学素子ブランクを作製した。プレス成形型の成形面には窒化硼素などの粉末状離型剤を均一に塗布しておき、そこに熔融ガラスを供給してプレス成形した。
【0057】
4.光学素子の実施例
下記方法3−1〜方法3−3により、上記各実施例の光学ガラスからなる光学素子を作製した。
【0058】
(方法3−1)
上記方法2−1または2−2により得られた各光学素子ブランクを研削、研磨して各種球面レンズやプリズムを作製した。
【0059】
(方法3−2)
表1に示す組成を有する光学ガラスを熔融し、鋳型に流し込んで急冷、成形して得たガラス成形体を切断、研削、研磨して作製した表面が滑らかな精密プレス成形用プリフォーム、または表1に示す組成を有する光学ガラスからなる熔融ガラス塊を調製し、浮上させながら成形した精密プレス成形用プリフォームを加熱して、プレス成形型を用いて精密プレス成形し、非球面レンズやマイクロレンズなどの各種光学素子を作製した。
【0060】
(方法3−3)
表1に示す組成を有する光学ガラスを熔融し、鋳型に流し込んで急冷、成形して得たガラス成形体を切断、研削、研磨して各種球面レンズやプリズムを作製した。
【0061】
上記いずれの光学素子ともFe不純物を含むにもかかわらず、着色が低減され、しかも残留泡や失透の認められない高品質な光学ガラス製光学素子であることを確認した。
なお、各光学素子の表面には必要に応じて反射防止膜などの光学多層膜を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により得られる光学ガラスは、各種光学素子の作製に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを含み、かつ酸化物換算のガラス組成において、外割りでSnO2を0.01〜3質量%およびSb23を0〜0.1質量%含むとともに、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量に対するTiO2含有量が0〜1質量%でありWO3含有量が0〜4質量%である熔融ガラスを調製し、調製した熔融ガラスを成形することを含む光学ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記熔融ガラスを、必須添加剤としてSn化合物を添加し、任意添加剤としてSb化合物を添加したガラス原料を加熱熔融することにより調製する請求項1に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記熔融ガラスを、必須添加剤としてSn化合物を添加し、任意添加剤としてSb化合物を添加したガラス原料を加熱熔解し、次いで冷却することによりカレット原料を作製し、
作製したカレット原料を加熱熔融することにより調製する請求項1に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記熔融ガラスは、Fe23に換算して0ppm超20ppm以下のFeを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記熔融ガラスは、Fe23に換算して0.05ppm以上20ppm以下のFeを含む請求項4に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記光学ガラスは、波長200〜700nmの範囲において、厚さ10nmにおける外部透過率が70%となる波長λ70が400nm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により光学ガラスを作製し、作製した光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形するプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法によりプレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する光学素子ブランクの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により光学素子ブランクを作製し、作製した光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する光学素子の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法によりプレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いて精密プレス成形することにより光学素子を作製する光学素子の製造方法。
【請求項11】
酸化物換算のガラス組成において、外割りでSnO2を0.01〜3質量%およびSb23を0〜0.1質量%を含有させることにより、Feを含む光学ガラスであって、Fe23、SnO2およびSb23を除くガラス質量に対するTiO2含有量が0〜1質量%でありWO3含有量が0〜4質量%である光学ガラスの着色を抑制する方法。
【請求項12】
前記着色の抑制は、波長200〜700nmの範囲において、前記光学ガラスの厚さ10nmにおける外部透過率が70%となる波長λ70および/または上記外部透過率が80%となる波長λ80を短波長化することを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記光学ガラスは、Fe23に換算して0ppm超20ppm以下のFeを含む請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記光学ガラスは、Fe23に換算して0.05ppm以上20ppm以下のFeを含む請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2010−265164(P2010−265164A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48515(P2010−48515)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】