説明

光学デバイス、および撮像ユニット

【課題】環境温度に拘わらず良好かつ安定した光学特性の実現が可能な可変焦点レンズを用いた光学デバイス、および該光学デバイスを搭載した撮像ユニットを提供する。
【解決手段】光学デバイスは、レンズ部とアクチュエータ部とを備える。そして、レンズ部は、透明な弾性体を用いて構成されるとともに、対向する2つの表面を有する。また、アクチュエータ部は、加熱に応じた変形によってレンズ部を押圧することにより、該レンズ部の2つの表面のうちの少なくとも一方の表面を変形させることで、該レンズ部の屈折力を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイス、および該光学デバイスを搭載する撮像ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機等の小型の電子機器には、小型のカメラユニット(MCU)が頻繁に搭載される。該MCUについては、離隔距離が異なる被写体に対して合焦させるオートフォーカス(AF)機能を有するものが実現されている。そして、該AF機能については、撮像センサを基準としてレンズ群を相対的に移動させる方式が一般的に採用される。
【0003】
ところで、焦点距離が一定であるレンズ(固定焦点レンズ)と、屈折力の変更によって焦点距離が可変であるレンズ(可変焦点レンズ)とを組み合わせ、可変焦点レンズの屈折力の変更によってAF機能を実現する方式が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
該可変焦点レンズを用いる方式では、レンズ群を移動させる方式と比較して、レンズ群の姿勢を保持する平行ばね等の弾性部材が不要であるため、耐衝撃性に優れる。また、固定焦点レンズの設計の自由度も低下させずに汎用的な設計も可能となる。
【0005】
該可変焦点レンズとしては、水や油等の液体を用いたタイプ(例えば、非特許文献2)や、ゲル状またはゴム状の透明の弾性体(透明弾性体)を用いたタイプ(例えば、非特許文献1,3)等が提案されている。
【0006】
但し、該可変焦点レンズについては、MCUの姿勢の変化に対する形状の安定性、製造の容易性、リフロー方式のはんだ付けへの対応等といった種々の観点から、透明弾性体を用いたタイプが採用されることが好ましい。
【0007】
なお、透明弾性体を用いた可変焦点レンズでは、中央部に貫通孔を有する駆動部によって透明弾性体が押圧され、光学面を形成する表面が上記貫通孔から突出するように透明弾性体の表面の曲率が変更されることで、屈折力が変更される。そして、可変焦点レンズにおいて所望の光学性能を得るためには、駆動部の押圧によって貫通孔から突出される透明弾性体の表面(突出面)の形状が球面状となることが好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】”ゲル可変レンズ ”、[online]、イーメックス株式会社ホームページ、[平成21年10月28日検索]、インターネット〈URL:http://www.eamex.co.jp/product.html#gl〉
【非特許文献2】”technology-overview ”、[online]、Varioptic社ホームページ、[平成21年10月28日検索]、インターネット〈URL:http://www.varioptic.com/en/tech/technology-overview.php〉
【非特許文献3】”Products”、[online]、poLight社ホームページ、[平成21年10月28日検索]、インターネット〈URL:http://www.polight.no/?docid=2〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、可変焦点レンズを構成する透明弾性体は、ゲル状やゴム状のものであり、該透明弾性体の弾性率は、周囲の温度(環境温度)によって左右され易い。つまり、突出面の形状を決定するパラメータとして、弾性率が大きなウエイトを占める。
【0010】
従って、環境温度の変化に応じて弾性率が変化すると、可変焦点レンズでは、光軸からの距離に応じて突出面の曲率が変化し、該突出面の形状の崩れによって光学性能が低下する。
【0011】
なお、透明弾性体については、環境温度の低下に応じて弾性率が上昇し、特にガラス転移点近傍の低温では弾性率が顕著に増加する。このため、環境温度の低下に応じて、透明弾性体の変形に要するエネルギー消費量の増大も招く。
【0012】
また、環境温度の変化に伴う弾性率の変化は、透明弾性体だけに限られず、該透明弾性体を変形させる駆動部にも生じ得る。例えば、上記非特許文献1の技術では、環境温度に応じて駆動部としての高分子アクチュエータの硬さが変化する。また、上記非特許文献3の技術では、駆動部としての圧電フィルムが有機材料で構成されていれば、環境温度に応じて該圧電フィルムの硬さが変化する。このため、駆動部が生じる駆動力が環境温度に応じて変化し、可変焦点レンズの光学性能の変動を招く。なお、環境温度の低下に応じて、駆動部の変形に要するエネルギー消費量の増大も招く。
【0013】
上記問題は、AF機能を実現するための可変焦点レンズに限られず、ズーム機能その他の用途に用いられる可変焦点レンズ一般に共通する。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、環境温度に拘わらず良好かつ安定した光学特性の実現が可能な可変焦点レンズを用いた光学デバイス、および該光学デバイスを搭載した撮像ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、第1の態様に係る光学デバイスは、透明な弾性体を用いて構成され、且つ対向する2つの表面を有するレンズ部と、加熱に応じた変形によって前記レンズ部を押圧することにより、前記2つの表面のうちの少なくとも一方の表面を変形させることで、前記レンズ部の屈折力を変化させるアクチュエータ部と、を備える。
【0016】
第2の態様に係る光学デバイスは、第1の態様に係る光学デバイスであって、前記アクチュエータ部が、バイメタルおよび形状記憶合金のうちの少なくとも一方を用いて構成される。
【0017】
第3の態様に係る光学デバイスは、第1または第2の態様に係る光学デバイスであって、前記アクチュエータ部が、前記レンズ部に対して密着する。
【0018】
第4の態様に係る光学デバイスは、第1から第3の何れか1つの態様に係る光学デバイスであって、前記アクチュエータ部が、前記レンズ部を押圧する環状の押圧部を有する。
【0019】
第5の態様に係る光学デバイスは、第1から第4の何れか1つの態様に係る光学デバイスであって、前記透明な弾性体が、加熱に応じて弾性率が低下する特性を有する。
【0020】
第6の態様に係る光学デバイスは、第1から第5の何れか1つの態様に係る光学デバイスであって、前記アクチュエータ部および前記レンズ部が、加熱によって、略一定温度に保持された基準状態に設定される。
【0021】
第7の態様に係る撮像ユニットは、第1から第6の何れか1つの態様に係る光学デバイスと、前記レンズ部を通過した被写体からの光を受光する撮像素子と、を備える。
【発明の効果】
【0022】
第1から第6の何れの態様に係る光学デバイスによっても、環境温度に拘わらず良好かつ安定した光学特性の実現が可能な可変焦点レンズを用いた光学デバイスが提供される。
【0023】
第3の態様に係る光学デバイスによれば、アクチュエータ部からレンズ部に対して伝熱され易いため、可変焦点レンズにおける迅速かつ良好な光学特性の実現が可能となる。
【0024】
第4の態様に係る光学デバイスによれば、アクチュエータ部からレンズ部に対して、より均一に熱および力が付与されるため、可変焦点レンズの光学特性が更に向上する。
【0025】
第5の態様に係る光学デバイスによれば、レンズ部の屈折力が変化すべきでない場面では、弾性体の弾性率が高く維持され、レンズ部の屈折力が変化すべき場面では、アクチュエータ部からの伝熱によって弾性体の弾性率が低下するため、レンズ部の変形による屈折力の変化が容易に可能となる。その結果、アクチュエータ部によってレンズ部を押圧するために要するエネルギーの消費量が低減される。
【0026】
第6の態様に係る光学デバイスによれば、レンズ部の屈折力が変化すべきでない場面において、レンズ部の屈折力を略一定に保持および安定化させることが可能となる。
【0027】
第7の態様に係る撮像ユニットによれば、環境温度に拘わらず良好かつ安定した光学特性の実現が可能な可変焦点レンズを含む光学デバイスを搭載した撮像ユニットが提供される。このため、例えば、合焦制御の高精度化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一実施形態に係る携帯電話機の概略構成を示す模式図である。
【図2】一実施形態に係る第1の筐体に着目した断面模式図である。
【図3】一実施形態に係るカメラモジュールの断面模式図である。
【図4】一実施形態に係る可変焦点レンズ部の外観を示す下面模式図である。
【図5】一実施形態に係る可変焦点レンズ部の断面模式図である。
【図6】一実施形態に係るアクチュエータ部の下面模式図である。
【図7】一実施形態に係るアクチュエータ部の断面構造を示す模式図である。
【図8】一実施形態に係る可変焦点レンズ部の表面形状の変形態様を示す図である。
【図9】透明弾性体の弾性率の違いによる突出面の形状の解析結果を示す図である。
【図10】透明弾性体の弾性率の違いによる突出面の形状の解析結果を示す図である。
【図11】第1変形例に係るアクチュエータ部の下面模式図である。
【図12】第1変形例に係るアクチュエータ部の断面模式図である。
【図13】第2変形例に係るアクチュエータ部の上面模式図である。
【図14】第2変形例に係るアクチュエータ部の下面模式図である。
【図15】第3変形例に係るアクチュエータ部の上面模式図である。
【図16】第3変形例に係るアクチュエータ部の下面模式図である。
【図17】第4変形例に係るアクチュエータ部の下面模式図である。
【図18】第5変形例に係るアクチュエータ部の断面構造を示す模式図である。
【図19】第5変形例に係る可変焦点レンズ部の表面形状の変形態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
<(1)携帯電話機の概略構成>
図1は、一実施形態に係るカメラモジュール5を搭載した携帯電話機1の概略構成を示す模式図である。なお、図1および図1以降の他の図では方位関係を明確化するために、XYZの相互に直交する3軸が適宜付される。
【0031】
図1で示されるように、携帯電話機1は、折り畳み式の携帯電話機として構成され、ヒンジ部4によって、第1の筐体2と第2の筐体3とが回動可能に接続される。第1の筐体2は、カメラモジュール5および表示ディスプレイを有し、第2の筐体3は、携帯電話機1を電気的に制御する制御部と各種ボタン等を含む操作部材とを有する。
【0032】
また、第1の筐体2には、電気抵抗検出部7とコントラスト検出部8とが搭載される。電気抵抗検出部7は、アクチュエータ部14(図3)に係る電気抵抗を検出する。コントラスト検出部8は、撮像素子32i(図3)で得られる画像信号についてコントラストを検出する。
【0033】
また、第2の筐体3には、合焦制御部9が搭載される。合焦制御部9は、電気抵抗検出部7およびコントラスト検出部8からの信号の入力に応じて、アクチュエータ部14への電流の供給を制御する。該制御によって、カメラモジュール5の合焦状態を調整するオートフォーカス(AF)機能が実現される。ここでは、アクチュエータ部14における変形と電気抵抗とが一義的に決まることが利用されて、コントラストのピーク値に合わせた状態にアクチュエータ部14が設定される所謂コントラスト方式のAF制御が行われる。
【0034】
図2は、第1の筐体2に着目した断面模式図である。図1および図2で示されるように、カメラモジュール5は、XY断面のサイズが約5mm四方であり、厚さ(Z方向の奥行き)が約3mm程度である小型の撮像ユニット、すなわちマイクロカメラユニット(MCU)となっている。
【0035】
<(2)カメラモジュール>
<(2-1)カメラモジュールの基本構成>
図3は、一実施形態に係るカメラモジュール5の基本構成を示す断面模式図である。
【0036】
図3で示されるように、カメラモジュール5は、可変焦点レンズ部10と、固定焦点レンズ部20と、撮像センサ部30とが、−Z方向にこの順番で結合されて構成される。そして、可変焦点レンズ部10と固定焦点レンズ部20とは光軸Axが共通であり、被写体からの光が、光学デバイスとしての可変焦点レンズ部10と固定焦点レンズ部20とを順に透過して、撮像センサ部30に照射される。
【0037】
可変焦点レンズ部10は、ガラス板11、フレーム部12、透明弾性体13、アクチュエータ部14、および規制板15を備える。透明弾性体13は、アクチュエータ部14の駆動に応じて変形し、該透明弾性体13のうちの固定焦点レンズ部20側の表面の形状(具体的には、曲率)が変化することで、該透明弾性体13の屈折力が変化する。そして、カメラモジュール5と被写体との距離に応じて透明弾性体13の屈折力を変化させる動作により、該可変焦点レンズ部10の焦点の調整、ひいてはAF制御が可能となる。
【0038】
なお、可変焦点レンズ部10は、固定焦点レンズ部20に対して、光軸Axが共通となるように位置および傾きが調整された上で樹脂等を用いて接着される。
【0039】
固定焦点レンズ部20は、中空部分を有するフレーム部23と、該フレーム部23の内側に対して固定される第1および第2光学レンズ21,22とを有する。該第1および第2光学レンズ21,22は、フレーム部23の中空部分において−Z方向にこの順番で配置される。該固定焦点レンズ部20は、いわゆる平行光が入射した場合に、撮像センサ部30の撮像素子32iの撮像面上に集光(結像)させる固定の焦点距離を有する。
【0040】
撮像センサ部30は、カバーガラス31、撮像部32、およびセンサ基板33を備える。カバーガラス31は、平板状のガラスによって構成される。撮像部32は、可変焦点レンズ部10と固定焦点レンズ部20とカバーガラス31とを順に通過した被写体からの光を受光して、被写体に係る光学像を電気信号に変換する撮像素子32iを有する。
【0041】
センサ基板33は、撮像素子32iと外部回路等との間における電気信号の送受信を行う各種配線および端子部等を有する。また、該センサ基板33は、アクチュエータ部14の動作を制御する駆動回路(ドライバIC)を有し、フレキシブルケーブル(FPC)40によってアクチュエータ部14に対して電気的に接続される。なお、該ドライバICには、アクチュエータ部14に対する電流の供給を制御するドライバ等が含まれる。
【0042】
<(2-2)可変焦点レンズ部の基本構成>
図4は、可変焦点レンズ部10に着目して、該可変焦点レンズ部10を下方(ここでは−Z側)から見た模式図である。図4では、アクチュエータ部14の外縁が破線で示される。図5は、可変焦点レンズ部10の切断面V−V(図4)にて矢印方向に見た可変焦点レンズ部10の断面模式図である。なお、以下では、可変焦点レンズ部10を構成する各部については、−Z側の面を一主面と称し、+Z側の面を他主面と称する。
【0043】
図4および図5で示されるように、可変焦点レンズ部10は、筒状のフレーム部12の中空部分に、ガラス板11、透明弾性体13、アクチュエータ部14、および規制板15が、−Z方向にこの順番で配置されて構成される。
【0044】
ガラス板11は、透明かつ平板状のガラス板である。
【0045】
フレーム部12は、外縁が略正方形の筒状の部材であり、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリエーテルサルフォン(PES)等の耐熱性を有する樹脂によって構成される。該フレーム部12の中空部分のうちの被写体側の部分を塞ぐように、ガラス板11が配置されるとともに該フレーム部12に対して接着等によって固定される。
【0046】
透明弾性体13は、透明であり且つ弾性を有する素材を用いて主要部が構成されるとともに、固定焦点レンズ部20側の表面(つまり一主面)13sに、主要部を構成する素材よりも硬い素材からなる透明膜が形成されて構成される。該透明弾性体13を主に構成する素材としては、例えば、シリコーン等からなる透明であり且つ弾性を有するゴム状またはゲル状の素材等が挙げられ、加熱に応じて弾性率が低下する特性を有する。
【0047】
表面13sに設けられる透明膜は、アクチュエータ部14による押圧によって表面13sが変形する際に、該表面13sが球面状に近い形状を形成する目的で設けられる。但し、該透明膜は、表面13sの変形を阻害しない程度の厚さ(例えば、10μm程度の厚さ)を有し、ガラスや二酸化珪素等の素材によって構成される。
【0048】
なお、ガラスの透明膜は、例えば、スプレー装置を利用した塗布等によって形成可能である。また、二酸化珪素の透明膜は、例えば、スパッタリングまたはテトラエトキシシラン(TEOS)等を用いた化学気相蒸着(CVD)等によって形成可能である。
【0049】
透明弾性体13のうちの透明膜を除く部分(主要部)は、例えば、フレーム部12とガラス板11とが結合されて形成される一方向が開放される器に液体状の素材が注入されて、熱や紫外線等で硬化させることで形成可能である。また、透明弾性体13に相当するシートが一旦形成され、該シートに対する打ち抜き加工によって透明弾性体13が形成されて、フレーム部12とガラス板11とが結合されて形成される器に嵌め込まれても良い。
【0050】
ここでは、ガラス板11と透明弾性体13とが、1つの光学レンズを形成する。レンズ部としての該光学レンズでは、ガラス板11の上面(つまり他主面)と透明弾性体13の下面(表面13s)とが対向し、それぞれ被写体からの光が入射する面(入射面)と出射する面(出射面)の役割を果たす。
【0051】
なお、ここでは、透明弾性体13が、主要部の表面に透明膜が形成されて構成されたが、これに限られない。例えば、透明であり且つ弾性を有する2層が積層されて構成されても良い。具体的には、相対的に軟質なシリコーンの層の下面(固定焦点レンズ部20側の面)に相対的に硬質なシリコーンの層が積層されて構成されても良い。このとき、相対的に硬質なシリコーンの層が、固定焦点レンズ部20側の表面を形成する。
【0052】
アクチュエータ部14は、外縁および内縁が略円形で且つ略平板状の形状を有する。別の観点から言えば、アクチュエータ部14は、中央部に貫通孔14h(図6)を有する円盤状の形状を有する。アクチュエータ部14は、フレーム部12の中空部分に嵌合されることで、該フレーム部12に対して固定される。また、該アクチュエータ部14の他主面(+Z側の面)が、透明弾性体13の一主面に対して密着するように配置される。
【0053】
図6は、アクチュエータ部14に着目して、該アクチュエータ部14を下方(ここでは−Z側)から見た下面模式図である。更に、図7は、アクチュエータ部14の切断面VII−VII(図6)にて矢印方向に見たアクチュエータ部14の断面模式図である。
【0054】
アクチュエータ部14は、ヒータ部141、絶縁層142、高熱膨張層143、低熱膨張層144、および電極部P1,P2を備える。
【0055】
高熱膨張層143は、低熱膨張層144を構成する素材よりも大きな熱膨張率を持つ素材によって構成される。該高熱膨張層143を構成する素材としては、例えば、熱膨張率が20×10-6/℃である鉄・ニッケル・マンガン合金等が挙げられる。
【0056】
低熱膨張層144は、高熱膨張層143を構成する素材よりも小さな熱膨張率を持つ素材によって構成される。該低熱膨張層144を構成する素材としては、例えば、熱膨張率が1.1×10-6/℃である鉄・ニッケル合金等が挙げられる。
【0057】
そして、高熱膨張層143と低熱膨張層144とがZ方向にこの順番で積層されることで、異なる熱膨張率の素材が積層されて構成される所謂バイメタルの構造が形成される。該バイメタルは、温度の変化に応じて、高熱膨張層143と低熱膨張層144との間における熱膨張率(線膨張係数)の差によって一方向に曲がる変形を生じる。
【0058】
絶縁層142は、高熱膨張層143の一主面上に形成され、シリカ(二酸化珪素)等の絶縁体によって構成される薄膜である。
【0059】
ヒータ部141は、バイメタルの温度を上昇させることで該バイメタルを変形させるために設けられる。該ヒータ部141は、絶縁層142の一主面上にパターンニングされ、導電材料(例えば、金等の金属)によって構成される。該ヒータ部141は、幅が狭く、比較的高い電気抵抗を有し、通電に応じて自身のジュール熱によって発熱する。
【0060】
なお、ヒータ部141は、バイメタルをより均一に加熱するために、図6で示されるように、例えば、多重の同心円状に配設される一本の配線によって形成されることが好ましい。このように、ヒータ部141が、絶縁層142の一主面の広範囲に配設されることで、該ヒータ部141で発生する熱がバイメタルに対して均一且つ効率良く伝えられる。また、ヒータ部141は、所定の電圧で所定のジュール熱が発生するように、長さ、線幅、厚さ、および素材の比抵抗等によって、電気抵抗が調整される。
【0061】
電極部P1,P2は、FPC40がはんだや導電性を有する接着剤等によって電気的に接続されるパッドである。そして、電極部P1が、ヒータ部141の一端部に対して電気的に接続されるとともに、電極部P2が、ヒータ部141の他端部に対して電気的に接続される。このため、FPC40および電極部P1,P2を介して、ヒータ部141の両端に対して電圧が印加されることで、ヒータ部141に対して電流が流される。
【0062】
上記構成を有するアクチュエータ部14は、例えば、次の工程(I)〜(VI)が順次に行われることで作製される。
【0063】
(I)圧接または圧延によって高熱膨張層と低熱膨張層とが積層された2層構造のバイメタルの薄板材が製作される。(II)バイメタルの円盤状の平板の一主面に対してCVD等の方法によって絶縁層が成膜される。(III)絶縁層の一主面に対してフォトリソグラフィ技術によってレジストパターンが形成される。(IV)レジストパターンが形成された絶縁層上に、蒸着またはスパッタリング等によって導電材料の膜が形成される。(V)リフトオフ法によるレジストパターンの除去によって、ヒータ部141と電極部P1,P2とに相当する部分が同時に形成される。なお、スクリーン印刷等によって、ヒータ部141と電極部P1,P2とに相当する部分がパターンニングされても良い。(VI)エッチングまたはプレスによって貫通孔14hが形成されるとともに、所定サイズの円盤状に切り出される。
【0064】
規制板15は、アクチュエータ部14と比較して剛性の高いステンレス等の金属によって構成される板状の部材である。該規制板15は、フレーム部12に対して接着等によって固定されるとともに、アクチュエータ部14の外周部および外周部近傍の一主面に対して当接する。また、規制板15は、アクチュエータ部14のうちの外周部および外周部近傍を除く部分の一主面を−Z方向に露出させるような貫通孔を有する。
【0065】
規制板15の存在によって、アクチュエータ部14の外周部および外周部近傍は、厚さ方向の位置が規制される。このため、アクチュエータ部14が変形して駆動力を発生させる際には、規制板15は、その駆動力の反力を受けて、該アクチュエータ部14の外周部近傍の姿勢を略同一に維持する一方で、該アクチュエータ部14の内縁側の部分を相対的に変形可能とする。
【0066】
<(2-3)可変焦点レンズ部の基本動作>
図8は、可変焦点レンズ部10の基本動作を説明するための図である。図8では、図5で示された断面に対応する可変焦点レンズ部10の断面模式図が示されている。
【0067】
図5で示されるように、アクチュエータ部14は、常温(例えば、25℃付近の室温)で平板状となるように製造される。つまり、アクチュエータ部14は、ヒータ部141が通電されていない状態(無通電状態)では、透明弾性体13を押圧によって押し込まない。従って、アクチュエータ部14が無通電状態にある場合には、図5で示されるように、透明弾性体13の表面13sは、略平面状の形状を有する。このとき、可変焦点レンズ部10は、被写体からの光の進行方向を殆ど変化させず、固定焦点レンズ部20の固定の焦点距離に応じて、カメラモジュール5が無限遠に存在する被写体に対して合焦する。
【0068】
一方、ヒータ部141の両端に電圧が印加される状態(通電状態)となると、該ヒータ部141が電流の流れに応じて発熱し、アクチュエータ部14の温度が上昇する。ここで、アクチュエータ部14は、規制板15によって外縁近傍の部分の姿勢が規制されるため、図8で示されるように、内縁側の部分が環状の押圧部として透明弾性体13を押圧しつつ該透明弾性体13を押し込むように変形する。このとき、透明弾性体13は、アクチュエータ部14の貫通孔14hから突出するように変形し、該透明弾性体13の表面13sが略球面状の部分(突出面)を形成する。すなわち、ガラス板11と透明弾性体13とが形成する光学レンズの屈折力が変化する。
【0069】
また、ヒータ部141における通電が停止されて、無通電状態となると、アクチュエータ部14では、主に規制板15および空気等に対する放熱によって温度が低下する。このとき、該アクチュエータ部14では、温度の低下とともに変形量が減少し、常温まで冷却されると、図5で示されるように、該アクチュエータ部14は、略平板状に戻る。
【0070】
ここで、アクチュエータ部14の変形量は、温度に略比例する。このため、ヒータ部141を流れる電流量によって該変形量が調整されることで、表面13sの突出面に係る曲率が制御される。つまり、ガラス板11と透明弾性体13とが形成する光学レンズの屈折力は、自由自在に制御可能である。
【0071】
なお、突出面に係る曲率半径が大きければ大きい程、カメラモジュール5から遠距離に位置する被写体に対して合焦し、該曲率半径が小さければ小さい程、カメラモジュール5から近距離に位置する被写体に対して合焦する。
【0072】
また、ヒータ部141の抵抗値は、温度変化によるヒータ部141の変形に比例して変化するため、アクチュエータ部14の変形量とヒータ部141の電気抵抗とが略比例関係を有する。従って、電気抵抗検出部7によってヒータ部141の電気抵抗が検出され、該電気抵抗の調整に応じて、アクチュエータ部14の変形量、ひいては表面13sの突出面に係る曲率が制御される。
【0073】
例えば、ヒータ部141の電気抵抗のモニタリングに応じた該ヒータ部141への通電の有無の切り替えによって、表面13sの突出面に係る曲率、すなわちガラス板11と透明弾性体13とが形成する光学レンズの屈折力が、目標値となるように制御される。
【0074】
<(2-4)可変焦点レンズ部のバイメタルに係る工夫>
カメラモジュール5は、例えば、−20〜70℃程度の温度範囲(使用環境温度範囲)の環境で使用されることが想定される。そして、該使用環境温度範囲では、バイメタルが変形する虞もある。しかしながら、使用環境温度範囲における意図しない表面13sの変形は、カメラモジュール5の光学性能にとって好ましくない。
【0075】
そこで、本実施形態に係るアクチュエータ部14を構成するバイメタルについては、使用環境温度範囲では殆ど変形しないように設計されることが好ましい。例えば、使用環境温度範囲の最も高温(例えば、70℃)よりも十分高い温度の範囲(例えば、150〜250℃)で、該バイメタルが大きな曲げ変形を生じるように設計されることが好ましい。該設計は、例えば、厚み等を含むサイズおよび素材等の組合せによって実現される。
【0076】
なお、バイメタルは、常温よりも低温の環境では、加熱時とは反対方向に曲げ変形を生じるが、このとき、他の部品等と干渉しないように設計されることが好ましい。
【0077】
<(2-5)可変焦点レンズ部の透明弾性体に係る工夫>
表面13sの変形の態様は、透明弾性体13の弾性率、厚さ、貫通孔14hの径、および透明膜の硬さと厚さ等の各種パラメータに応じて変化する。
【0078】
但し、貫通孔14hの径については、光学系の有効径によって制約を受けるため、変更可能な自由度は小さい。また、透明弾性体13の厚さについては、カメラモジュール5では、可変焦点レンズ部10が固定焦点レンズ部20の前面に配置されるため、透明弾性体13の厚さは極力薄い方が好ましい。しかし、表面13sの突出面が球面状に近い形状となるためには、透明弾性体13の厚みがある程度厚い方が有利であり、カメラモジュール5の薄型化の要請に反する。
【0079】
上記種々の制約が存在する中で、表面13sの突出面を球面状に近づけるためには、透明弾性体13を厚くする代わりに、透明弾性体13の弾性率が低減されることが好ましい。
【0080】
図9および図10は、透明弾性体13の弾性率の違いに応じた突出面の形状を有限要素法を用いた解析によって求めた結果を示す図である。ここでは、アクチュエータ部14の貫通孔14hの内径が3mmであるものとし、透明弾性体13が、弾性率が相互に異なる上層シリコーン層と下層シリコーン層とがこの順番で+Z側から順に積層された構造を有するものと仮定して解析を行った。
【0081】
具体的には、図9で示される解析結果については、上層および下層シリコーン層の厚みがそれぞれ0.25mmであるとともに、上層シリコーン層の弾性率が0.77MPaであり且つ下層シリコーン層の弾性率が7.7MPaである透明弾性体(実験例1)について求められた。また、図10で示される解析結果については、上層および下層シリコーン層の厚みが上記具体例1のものと同様であるが、上層および下層シリコーン層の弾性率が上記実験例1の2倍とされた透明弾性体(実験例2)について求められた。
【0082】
図9および図10では、横軸が突出面の曲率半径xを示し、縦軸が光軸Axからの距離Rを示す。そして、透明弾性体がアクチュエータ部によって所定の力で押圧される場合についての解析結果が、黒塗りの菱形の点で示されている。
【0083】
図9で示されるように、実験例1については、光軸Axからの距離に拘わらず突出面の曲率半径xが略一定であり、ほぼ理想的な球面形状が得られる。
【0084】
これに対して、図10で示されるように、実験例2については、光軸Axから離れるに従って突出面の曲率半径xが小さくなり、該突出面が台形状に近い形状を示す。このような突出面の形状は、光学レンズの光学特性の低下を招き、ひいてはカメラモジュール5で得られる画像の歪みと解像度の低下等を招く。
【0085】
上記解析結果より、透明弾性体13の弾性率の低減が、表面13sの突出面を球面状に近づけることに対して有効であることが分かる。
【0086】
但し、仮に透明弾性体13の弾性率が常温において低ければ、カメラモジュール5の姿勢によって、突出面の形状の崩れによって光学レンズにおける光学性能の低下を招く。また、リフロー方式のはんだ付けにおける加熱によって透明弾性体13の特性が劣化する可能性もある。
【0087】
そこで、透明弾性体13の主要部には、耐熱性を有するとともに、温度上昇に応じて弾性率が低下する素材が適用されることが好ましい。ここで言う耐熱性には、リフロー方式のはんだ付けにおける加熱温度、および透明弾性体13の変形時におけるアクチュエータ部14の加熱温度に拘わらず、弾性等を含む各種特性が劣化しない性能が含まれる。
【0088】
このような構成が採用されれば、加熱に応じてアクチュエータ部14が変形する際に、透明弾性体13のうちのアクチュエータ部14と接触する部分およびその付近が加熱されて弾性率が低下する。これにより、表面13sの形状を変更したい場面で弾性率を低下させることで、突出面の形状が球面状に近づくとともに、押圧力の低減によるエネルギー効率の向上も図られる。
【0089】
また、ヒータ部141が無通電状態にある場合には、透明弾性体13の弾性率が比較的高くなる。このため、カメラモジュール5の姿勢によって、表面13sの形状の崩れによって光学レンズの光学性能が低下する不具合も抑制される。
【0090】
但し、環境温度の変化に応じて透明弾性体13の弾性率は変化し得る。このため、環境温度の変化に応じて、表面13sの形状の微小変化により、光学レンズにおける光学性能が若干低下し得る。
【0091】
したがって、使用環境温度範囲では透明弾性体13の弾性率が殆ど変化しないように設定されることが好ましい。そして、バイメタルについては、上述したように、使用環境温度範囲では殆ど変形せず、使用環境温度範囲よりも十分高温において大きく変形するように設定されることが好ましい。例えば、透明弾性体13を変形させる温度域を、使用環境温度よりも極力高く且つ広く設定すれば良い。
【0092】
このような構成では、バイメタルの変形に応じて突出面を変形させる際には、透明弾性体13がバイメタルからの伝熱によって使用環境温度範囲よりも十分高い温度範囲まで加熱され、該透明弾性体13の弾性率が低減される。つまり、使用環境温度範囲では、透明弾性体13の高い弾性率が確保され、突出面の形状変化に対する環境温度の影響が非常に小さくなる。このため、環境温度に応じた光学レンズの光学性能の劣化が抑制される。
【0093】
そして、バイメタルの温度と変形量とが比例し、バイメタルが或る温度に設定されれば、伝熱に応じて透明弾性体13の温度と弾性率とがほぼ一義的に決まる。詳細には、突出面の変形させる際には、バイメタルは使用環境温度範囲よりも十分高い温度範囲まで加熱される。このとき、バイメタルは、アクチュエータ部14から透明弾性体13への伝熱も含めた温度分布を有する。従って、バイメタルを変形させるためにアクチュエータ部14が所定温度まで加熱される際には、環境温度に拘わらず、透明弾性体13も所定温度まで加熱される。更に、透明弾性体13の弾性率の温度特性に拘わらず、透明弾性体13の弾性率が所定温度に応じたものに維持される。その結果、バイメタルの温度を或る温度に設定すれば、一義的に突出面の形状が或る形状となり、光学レンズの光学特性の安定性が確保される。
【0094】
また、透明弾性体13の温度が使用環境温度範囲内にある場合に、光学レンズの光学性能を更に安定させるためには、透明弾性体13の温度が略一定に保持されることが好ましい。該温度制御は、例えば、カメラモジュール5が起動されると、ヒータ部141への通電が開始されて、環境温度に拘わらず、使用環境温度範囲の最も高温側の所定温度(例えば、70℃)にヒータ部141が保持されることで実現される。なお、使用環境温度範囲を若干超え且つバイメタルが殆ど変形しない所定温度(例えば、80℃)に保持されても良い。
【0095】
換言すれば、カメラモジュール5を無限遠に存在する被写体に対して合焦させる際には、透明弾性体13およびアクチュエータ部14が、加熱によって略一定温度に保持される基準の状態(基準状態)に設定されることが好ましい。該設定により、本実施形態に係る可変焦点レンズ部10では、常に良好な光学特性が得られる。
【0096】
<(3)一実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態に係る可変焦点レンズ部10によれば、バイメタルを変形させるためにアクチュエータ部14が所定温度まで加熱される際には、環境温度に拘わらず、透明弾性体13も所定温度まで加熱される。そして、透明弾性体13の弾性率の温度特性に拘わらず、透明弾性体13の弾性率が所定温度に応じたものに維持される。その結果、バイメタルの温度を或る温度に設定すれば、一義的に突出面の形状が或る形状となり、光学レンズの光学特性の安定性が確保される。
【0097】
したがって、環境温度に拘わらず良好かつ安定した光学特性の実現が可能な可変焦点レンズを用いた光学デバイスが実現される。そして、該光学デバイスが搭載されたカメラモジュール5では、例えば、合焦精度の高精度化が図られる。
【0098】
また、アクチュエータ部14と透明弾性体13とが密着している構成により、アクチュエータ部14から透明弾性体13に対する伝熱が容易となる。その結果、可変焦点レンズにおける迅速かつ良好な光学特性の実現が可能となる。
【0099】
また、アクチュエータ部14のうちの透明弾性体13を押圧する部分が、突出面を囲むように環状に設けられる構成により、アクチュエータ部14から透明弾性体13に対して均一に熱および力が付与される。その結果、可変焦点レンズの光学特性が更に向上する。
【0100】
また、透明弾性体13が加熱に応じて弾性率が低下する素材を用いて構成されることで、アクチュエータ部14を変形させる際の熱によって透明弾性体13の弾性率も低下する。その結果、アクチュエータ部14の駆動に対する負荷も低減されるため、アクチュエータ部14によって透明弾性体13を押圧するために要するエネルギーの消費量が低減される。また、透明弾性体13を薄くしても該透明弾性体13の突出面が理想的な曲面からなる略球面状に設定され易くなる。
【0101】
また、光学レンズの屈折力が変化すべきでない場面では、透明弾性体13およびアクチュエータ部14が、加熱によって使用環境温度範囲の最も高温側の所定温度付近等における略一定温度に保持された基準状態に設定されれば、光学レンズの屈折力を略一定に保持および安定化させることが可能となる。
【0102】
<(4)変形例>
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【0103】
◎例えば、上記一実施形態では、加熱に応じて変形する構成としてバイメタルが採用されたが、これに限られない。例えば、形状記憶合金(SMA)が採用されても良い。すなわち、アクチュエータ部が、バイメタルおよびSMAのうちの少なくとも一方を用いて構成されても良い。
【0104】
ここで、SMAが採用されたアクチュエータ部の具体例(具体的には、第1変形例〜第3変形例)を挙げて説明する。
【0105】
<(4-1)第1変形例>
図11は、第1変形例に係るアクチュエータ部14Aの下面模式図である。図12は、アクチュエータ部14Aの切断面XII−XII(図11)にて矢印方向に見たアクチュエータ部14Aの断面模式図である。
【0106】
図11および図12で示されるように、第1変形例に係るアクチュエータ部14Aは、上記一実施形態に係るアクチュエータ部14と比較して、絶縁層142と高熱膨張層143と低熱膨張層144とからなる3層の構造が、ベース層145とSMA層146とからなる2層の構造に置換されたものである。
【0107】
なお、第1変形例では、アクチュエータ部14のアクチュエータ部14Aへの置換に伴って、一実施形態に係る可変焦点レンズ部10、カメラモジュール5、第1の筐体2、および携帯電話機1が、それぞれ可変焦点レンズ部10A、カメラモジュール5A、第1の筐体2A、および携帯電話機1Aに変更される。
【0108】
ベース層145は、例えば、シリコン(Si)製のウエハによって構成され、中央部に貫通孔14hを形成する円盤状の形状を有する。
【0109】
SMA層146は、例えば、Ti−Ni合金等のSMAによって構成され、中央部に貫通孔14hを形成する円盤状の形状を有し、所定温度に加熱されると内縁側が上方に変位するような形状(記憶形状)を記憶している。
【0110】
該アクチュエータ部14Aは、例えば、次の工程(IA)〜(VIIIA)が順次に行われることで作製される。
【0111】
(IA)シリコン製の平板(シリコン平板)の一方の主面に対して、スパッタリング等によってSMA膜が成膜される。(IIA) 所定温度(例えば700℃)まで加熱されることでSMA膜に係る形状が記憶される熱処理(記憶熱処理)が施される。(IIIA)冷却されることで、SMAの線膨張係数がシリコンの線膨張係数よりも大きなことから、SMA層146に対応するSMA膜が常温のマルテンサイトの状態でベース層145に対応するシリコン平板の弾性力によって引き伸ばされた状態となる。(IVA)SMA膜の一主面に対してフォトリソグラフィ技術によってレジストパターンが形成される。(VA)レジストパターンが形成されたSMA膜上に蒸着またはスパッタリング等によって導電材料の膜が形成される。(VIA)リフトオフ法によるレジストパターンの除去によってヒータ部141と電極部P1,P2とに相当する部分が同時に形成される。(VIIA)フォトリソグラフィ技術によるレジストパターンの形成とエッチングとによって、SMA膜が所定形状に加工されることで、SMA層146が形成される。(VIIIA)フォトリソグラフィ技術によるレジストパターンの形成とエッチングとによって、シリコン平板が貫通孔14hおよび外縁形状を有する所定形状に加工されることで、ベース層145が形成される。
【0112】
そして、アクチュエータ部14Aは、ヒータ部141に対する通電に応じて加熱され、SMA層146が変態温度を超えてオーストナイトに変態することで、SMA層146が収縮する。このとき、図8で示されたアクチュエータ部14と同様に、ベース層145がSMA層146とともに貫通孔14h側が上方に変位するように変形することで、透明弾性体13が押圧されて、表面13sが突出面を形成する。なお、ヒータ部141に対する通電が停止されて、SMA層146の温度が変態温度を下回ると、ベース層145およびSMA層146は、元の平坦な形状に戻る。
【0113】
このような第1変形例に係る可変焦点レンズ部10Aでは、アクチュエータ部14Aが透明弾性体13と密着しているため、該アクチュエータ部14Aの熱が透明弾性体13に対して効率良く伝達される。そして、SMA層146の変態温度が使用環境温度範囲よりも高くなるようにSMAの組成等が調整されることで、上記一実施形態に係る可変焦点レンズ部10と同様に、使用環境温度範囲における透明弾性体13の変形が抑制される。
【0114】
また、アクチュエータ部14Aおよび透明弾性体13の温度が、使用環境温度範囲の最も高温側の略一定の所定温度に保持されるか、または使用環境温度範囲を若干超え且つ変態温度以下の略一定の所定温度に保持されることで、光学レンズの光学性能が更に安定化される効果も得られる。
【0115】
なお、SMAについては、組成の調整によって、変態温度を容易に使用環境温度範囲よりも高温に設定可能である。このため、環境温度に拘わらず光学レンズの光学特性を安定化させる設計が容易であると言える。但し、バイメタルを用いた上記一実施形態に係るアクチュエータ部14については、過加熱によって記憶形状が失われる不具合を考慮しなくとも良いといった面で設計の自由度が高い。
【0116】
<(4-2)第2変形例>
上記第1変形例に係るアクチュエータ部14Aでは、ヒータ部141への通電によって加熱を行ったが、第2変形例に係るアクチュエータ部14Bでは、ヒータ部141が設けられず、SMAに対して直接電流が流されることで加熱が行われる。
【0117】
図13は、第2変形例に係るアクチュエータ部14Bの上面模式図であり、図14は、第2変形例に係るアクチュエータ部14Bの下面模式図である。
【0118】
なお、第2変形例では、第1変形例と比較して、アクチュエータ部14Aのアクチュエータ部14Bへの置換に伴って、第1変形例に係る可変焦点レンズ部10A、カメラモジュール5A、第1の筐体2A、および携帯電話機1Aが、それぞれ可変焦点レンズ部10B、カメラモジュール5B、第1の筐体2B、および携帯電話機1Bに変更される。
【0119】
図13および図14で示されるように、アクチュエータ部14Bは、ベース層145BとSMA層146Bとが積層されて構成される。
【0120】
ベース層145Bは、上記第1変形例に係るベース層145と比較して、貫通電極E1B,E2Bが設けられる比較的小さな2つの貫通孔を更に有する。
【0121】
SMA層146Bは、上記第1変形例に係るSMA層146と比較して、貫通電極E1Bが設けられる部分と貫通電極E2Bが設けられる部分との間に隙間を有する。具体的には、SMA層146Bは、Cの字型に設けられている。
【0122】
そして、FPC40が、電極部P1B,P2Bに対してそれぞれ電気的に接続される。また、電極部P1Bが、貫通電極E1Bを介してSMA層146Bの一端に対して電気的に接続されるとともに、電極部P2Bが、貫通電極E2Bを介してSMA層146Bの他端に対して電気的に接続される。このため、電極部P1Bと電極部P2Bとの間に電圧が印加されることで、SMA層146Bに電流が流れ、該SMA層146Bは、自身のジュール熱の発生によって加熱される。
【0123】
ここで、貫通電極E1B,E2Bが設けられる貫通孔は、例えば、エッチングまたはプレスによって形成される。また、SMA層146Bは、例えば、フォトリソグラフィ技術によるレジストパターンの形成、SMAのスパッタリング、およびリフトオフ法によるレジストパターンの除去からなる工程等によって形成される。貫通電極E1B,E2Bについては、例えば、フォトリソグラフィ技術によるレジストパターンの形成、導電材料の塗布、およびレジストパターンの除去からなる工程等によって形成される。
【0124】
第2変形例に係る可変焦点レンズ部10Bでは、SMA層146Bに対する通電に応じて該SMA層146Bが加熱され、SMA層146Bが変態温度を超えてオーストナイトに変態することで、SMA層146Bが収縮する。このとき、ベース層145BがSMA層146Bとともに貫通孔14h側が上方に変位するように変形することで、透明弾性体13が押圧されて、表面13sが突出面を形成する。なお、SMA層146Bに対する通電が停止されて、SMA層146Bの温度が変態温度を下回ると、ベース層145BおよびSMA層146Bは、元の平坦な形状に戻る。
【0125】
上記構成を有する可変焦点レンズ部10Bによっても、上記第1変形例に係る可変焦点レンズ部10Aと同様な効果が得られる。
【0126】
<(4-3)第3変形例>
第3変形例に係るアクチュエータ部14Cは、上記第2変形例に係るアクチュエータ部14Bと比較して、SMA層146Bが、配設パターンの異なるSMA層146Cに置換され、ベース層145Bが、貫通電極が形成される貫通孔の配置が異なるベース層145Cに置換され、貫通電極E1B,E2Bが、配置の異なる貫通電極E1C,E2Cに置換されるとともに、電極部P1B,P2Bが、形状の異なる電極部P1C,P2Cに置換されたものである。
【0127】
図15は、第3変形例に係るアクチュエータ部14Cの上面模式図であり、図16は、第3変形例に係るアクチュエータ部14Cの下面模式図である。
【0128】
なお、第3変形例では、第2変形例と比較して、アクチュエータ部14Bのアクチュエータ部14Cへの置換に伴って、第2変形例に係る可変焦点レンズ部10B、カメラモジュール5B、第1の筐体2B、および携帯電話機1Bが、それぞれ可変焦点レンズ部10C、カメラモジュール5C、第1の筐体2C、および携帯電話機1Cに変更される。
【0129】
図15および図16で示されるように、SMA層146Cは、抵抗値を所定値に調整し易くするために、同心円状に一筆書きのパターンによって形成される。なお、FPC40が、電極部P1C,P2Cに対して電気的に接続され、電極部P1Cが、貫通電極E1Cを介して、SMA層146Cの一端部に対して電気的に接続されるとともに、電極部P2Cが、貫通電極E2Cを介して、SMA層146Cの他端部に対して電気的に接続される。
【0130】
第3変形例に係る可変焦点レンズ部10Cでは、上記第2変形例に係る可変焦点レンズ部10Bと同様な動作の実行が可能である。そして、該構成を有する可変焦点レンズ部10Cによっても、上記第1および第2変形例に係る可変焦点レンズ部10A,10Bと同様な効果が得られる。
【0131】
<(4-4)第4変形例>
図17は、第4変形例に係るアクチュエータ部14Dの下面模式図である。
【0132】
図17で示されるように、第4変形例に係るアクチュエータ部14Dは、上記一実施形態に係るアクチュエータ部14と比較して、絶縁層142、高熱膨張層143、および低熱膨張層144からなる3層の平板状の構造に、複数の貫通孔14dhが設けられたものとなっている。図17では、複数の貫通孔14dhの追加に伴って、上記一実施形態に係る絶縁層142が、絶縁層142Dに置換されて示されている。
【0133】
なお、第4変形例では、上記一実施形態と比較して、アクチュエータ部14のアクチュエータ部14Dへの置換に伴って、一実施形態に係る可変焦点レンズ部10、カメラモジュール5、第1の筐体2、および携帯電話機1が、それぞれ可変焦点レンズ部10D、カメラモジュール5D、第1の筐体2D、および携帯電話機1Dに変更される。
【0134】
上記構成が採用されることで、第4変形例に係るアクチュエータ部14Dの熱容量が、上記一実施形態に係るアクチュエータ部14の熱容量よりも低減される。これにより、アクチュエータ部14Dを動作させる際の消費電力が低減される。
【0135】
<(4-5)第5変形例>
上記一実施形態に係る可変焦点レンズ部10では、アクチュエータ部14の駆動に応じて、透明弾性体13の一方の主面である表面13sが変形可能であったが、これに限られない。例えば、透明弾性部の対向する2つの主面(すなわち、被写体からの光の入射面と出射面)の双方が変形可能であっても良い。
【0136】
図18は、第5変形例に係る可変焦点レンズ部10Eの断面模式図である。なお、図18では、図5で示された断面に対応する可変焦点レンズ部10Eの断面模式図が示されている。
【0137】
図18で示されるように、第5変形例に係る可変焦点レンズ部10Eは、上記一実施形態に係る可変焦点レンズ部10(図5)と比較して、ガラス板11が取り除かれ、フレーム部12が、透明弾性体13Eの上面の外周部近傍を上方からも覆うフレーム部12Eに置換されるとともに、透明弾性体13が、対向する2つの主面が、それぞれ表面13sと同様な透明膜によって覆われた透明弾性体13Eに置換されたものである。
【0138】
なお、透明弾性体13Eのうちの透明膜を除く部分(主要部)は、例えば、フレーム部12Eと、該フレーム部12Eの中空部分の一端を仮に塞ぐ治具とによって形成される一方向が開放される器に液体状の素材が注入されて、熱や紫外線等で硬化させることで形成可能である。
【0139】
また、第5変形例では、上記一実施形態と比較して、可変焦点レンズ部10の可変焦点レンズ部10Eへの置換に伴って、一実施形態に係るカメラモジュール5、第1の筐体2、および携帯電話機1が、それぞれカメラモジュール5E、第1の筐体2E、および携帯電話機1Eに変更される。
【0140】
第5変形例に係る可変焦点レンズ部10Eでは、図19で示されるように、アクチュエータ部14の変形によって透明弾性体13Eが押圧されると、該透明弾性体13Eの対向する2つの主面、すなわち被写体からの光の入射面13usと出射面13bsとがそれぞれ突出するように変形する。
【0141】
そして、該構成を有する可変焦点レンズ部10Eによっても、上記一実施形態に係る可変焦点レンズ部10と同様な効果が得られる。したがって、加熱に応じたアクチュエータ部による光学レンズの押圧によって、該光学レンズの対向する2つの表面のうちの少なくとも一方の表面が変形されれば良い。
【0142】
<(4-6)その他の変形例>
◎上記一実施形態では、アクチュエータ部14のうちの透明弾性体13を押圧する押圧部が環状であったが、これに限られない。例えば、複数個のいわゆる片持ち梁が放射状に設けられるとともに、該複数個の片持ち梁がその周囲から支持されるようなアクチュエータ部が採用されても良い。但し、アクチュエータ部から透明弾性体13に対して、より均一に力と熱とを伝えるためには、透明弾性体13を押圧する押圧部が、上記一実施形態のように環状であることが好ましい。
【0143】
◎また、上記一実施形態では、アクチュエータ部14が透明弾性体13に対して密着していたが、これに限られない。例えば、アクチュエータ部14から透明弾性体13に対して力と熱とが伝えられる程度に、アクチュエータ部14と透明弾性体13とが接触していれば良い。但し、熱効率および駆動力の伝達効率等の観点から言えば、アクチュエータ部14と透明弾性体13とが、上記一実施形態のように、密着していることが好ましい。
【0144】
◎また、上記一実施形態では、可変焦点レンズ部10によってAF機能が実現されたが、これに限られない。例えば、可変焦点レンズ部10が、ズーム機能等といったその他の機能を実現するために適用されても良い。すなわち、本発明の技術的思想は、種々の用途に用いられる可変焦点レンズ一般に適用可能である。
【0145】
◎なお、上記一実施形態および各種変形例をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0146】
5,5A〜5E カメラモジュール
10,10A〜10E 可変焦点レンズ部
13,13E 透明弾性体
13bs 出射面
13s 表面
13us 入射面
14,14A〜14D アクチュエータ部
14h 貫通孔
32i 撮像素子
141 ヒータ部
142 絶縁層
143 高熱膨張層
144 低熱膨張層
145,145B,145C ベース層
146,146B,146C SMA層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な弾性体を用いて構成され、且つ対向する2つの表面を有するレンズ部と、
加熱に応じた変形によって前記レンズ部を押圧することにより、前記2つの表面のうちの少なくとも一方の表面を変形させることで、前記レンズ部の屈折力を変化させるアクチュエータ部と、
を備えることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光学デバイスであって、
前記アクチュエータ部が、
バイメタルおよび形状記憶合金のうちの少なくとも一方を用いて構成されることを特徴とする光学デバイス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学デバイスであって、
前記アクチュエータ部が、
前記レンズ部に対して密着することを特徴とする光学デバイス。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1つの請求項に記載の光学デバイスであって、
前記アクチュエータ部が、
前記レンズ部を押圧する環状の押圧部を有することを特徴とする光学デバイス。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1つの請求項に記載の光学デバイスであって、
前記透明な弾性体が、
加熱に応じて弾性率が低下する特性を有することを特徴とする光学デバイス。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1つの請求項に記載の光学デバイスであって、
前記アクチュエータ部および前記レンズ部が、
加熱によって、略一定温度に保持された基準状態に設定されることを特徴とする光学デバイス。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1つの請求項に記載の光学デバイスと、
前記レンズ部を通過した被写体からの光を受光する撮像素子と、
を備えることを特徴とする撮像ユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2011−112757(P2011−112757A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267259(P2009−267259)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】