光学フィルタ及びその製造方法
【課題】波長に対し、ほぼ均一な透過特性を備える光学フィルタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】可視光域の光を減衰する光学フィルタ10は、平板状且つ羽根状で所定の硬度を備える平板11と、平板11の一部に一点破線で示すように設けられた減光領域10aを備える。平板11中には、カーボンナノチューブ(CNT)と少なくとも一部がCNTの一端に担持されたニッケル粒子とが分散されている。本発明では、CNTを合成する際の触媒としてニッケル粒子を用いた上で、樹脂中に分散させ、光学フィルタ10を形成する。
【解決手段】可視光域の光を減衰する光学フィルタ10は、平板状且つ羽根状で所定の硬度を備える平板11と、平板11の一部に一点破線で示すように設けられた減光領域10aを備える。平板11中には、カーボンナノチューブ(CNT)と少なくとも一部がCNTの一端に担持されたニッケル粒子とが分散されている。本発明では、CNTを合成する際の触媒としてニッケル粒子を用いた上で、樹脂中に分散させ、光学フィルタ10を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを利用した光学フィルタとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラ、ビデオカメラ等の撮像装置で光の強い場所で撮影する場合や、写真や映像の風合いを変化させる場合に撮像装置に入る光の強度だけを特定の比率で減らす光学フィルタ(NDフィルタ;Neutral Density filter)が用いられている。この光学フィルタとして、樹脂材料に吸収剤を分散させたフィルタ、表面に無機膜を蒸着させたフィルタ、カーボンナノチューブを分散させたインクをフィルム等の透明基材に塗布したフィルタ(特許文献1)が用いられている。
【特許文献1】特開2004−145054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に開示されたフィルタは、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube;以下、CNT)を分散させたインクを塗布することによって形成される。カーボンナノチューブは、電気伝導性があるため摺動動作を行う光学フィルタに用いると静電気の影響を抑えることができ好ましい。しかし、カーボンナノチューブは、光の波長が長くなるにつれ光透過率が上昇する傾向を示す。従って、光の波長によらずほぼ均一な透過特性が求められるNDフィルタとして用いるのが難しいという問題がある。
【0004】
また、CNTを大量に合成する場合には例えば気相成長法を用いるが、この場合触媒として用いるニッケル粒子上にCNTを成長させるため、合成されたCNTの一端にニッケル粒子が担持された状態でCNTが形成されてしまう。
【0005】
ところで成長が完了したCNTにとってニッケル粒子は不純物であって、CNTを使用する場合に悪影響を及ぼす場合がある。例えばCNTは電気伝導性を有するが、ニッケル粒子が存在することで安定した電気伝導性を得られない場合がある。
【0006】
従って一般的にはニッケル粒子は成長が完了した後に取り除くことが望ましいが、このニッケル粒子を取り除くための精製工程はCNTの作成工程とは別に行う必要があるため、ニッケル粒子を排除したCNTを得るための工程が複雑なものとなり、CNTを作成するためのコストが上昇してしまう。そのため、そうして作成されたCNTを用いて作成される光学フィルタの価格も高額になってしまうという問題がある。
また、現実問題としてニッケル粒子を選択的に排除することは非常に困難であって、いまだにその工法が確立していないという現状もある。
【0007】
そこで、波長に対してほぼ均一な透過特性を備え、良好な光学特性を備える光学フィルタをより簡易、かつ安価な方法で製造することが求められている。
【0008】
なお、このような課題を解決する光学フィルタ及び製造方法を特願2006−7583号で示している。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、安価でありながら良好な光学特性を備える光学フィルタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる光学フィルタは、
カーボンナノチューブと金属粒子とが混合された樹脂から形成され、
前記金属粒子の少なくとも一部は、前記カーボンナノチューブの一端に担持されることを特徴とする。
【0011】
前記金属粒子はニッケルからなってもよい。
【0012】
前記カーボンナノチューブの外径は300nm以下であってもよい。
【0013】
前記カーボンナノチューブは、0.01〜20重量%の割合で混合されてもよい。
【0014】
前記金属粒子の粒径は300nm以下であってもよい。
【0015】
前記金属粒子は、0.01〜20重量%の割合で混合されてもよい。
【0016】
上述した目的を達成するため、本発明の第2の観点にかかる光学フィルタの製造方法は、
光学フィルタを製造する方法であって、
金属粒子を触媒として、カーボンナノチューブを形成する、カーボンナノチューブ形成工程と、
溶融させた透光性を備える樹脂に、前記カーボンナノチューブと触媒として用いた金属粒子とを分散させ、フィルタ材を形成するフィルタ材形成工程と、
光学フィルタの形状に対応したキャビティを有する金型に、前記フィルタ材を注入し、前記キャビティ内に前記フィルタ材を充填させる充填工程と、
前記キャビティ内に充填された前記フィルタ材を硬化させる硬化工程と、
前記金型から光学フィルタを取り出す取出工程と、
から構成されてもよい。
【0017】
前記金属粒子は、ニッケルからなってもよい。
【0018】
前記フィルタ材形成工程では、触媒として用いた金属粒子に加えて、更に金属粒子を分散させてもよい。
【0019】
前記カーボンナノチューブの外径は300nm以下であってもよい。
【0020】
前記カーボンナノチューブは、0.01〜20重量%の割合で混合されてもよい。
【0021】
前記金属粒子の粒径は300nm以下であってもよい。
【0022】
前記金属粒子は、0.01〜20重量%の割合で混合されてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、カーボンナノチューブとカーボンナノチューブを合成する際の触媒として用いたニッケルとを用いることによって良好な光学特性を備える光学フィルタ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態に係る光学フィルタ及びその製造方法について図を用いて説明する。
【0025】
本発明の実施の形態に係る光学フィルタ10を図1に示す。図1(a)は、光学フィルタ10の構成例を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のI−I線断面図である。また、図2は光学フィルタ10を用いた撮像装置20を模式的に示した図である。
【0026】
光学フィルタ10は、図1(a)に示すように、平板状且つ羽根状で所定の硬度を備える平板11と、平板11の一端部に形成された回動ピン12と、平板11の一端部に形成され、且つ回動ピン12と反対の面に突き出して形成された作動ピン13と、を備える。入射した光は図1(a)に一点破線で示す平板11の一部の領域(減光領域10a)を通過して、その強度を所定程度減衰される。
【0027】
また、光学フィルタ10は、図2に示す撮像装置20内に設置される。回動ピン12は、図2に示すようにフィルタ支持基板23上の穴に嵌合されており、光学フィルタ10の回転中心として機能する。作動ピン13は、回動ピン12とは反対の面に突き出て形成されており図示しないアクチュエータによって作動させられ、回動ピン12を中心として光学フィルタ10が回動する。なお、平板11と、回動ピン12と、作動ピン13と、は後述するように一体に成型される。
【0028】
減光領域10aは、光学フィルタ10が図2に示すようにフィルタ支持基板23の開口部23aを遮るように配置された際、開口部23aを覆い、絞り22の開口部22aから入る光を所定程度減衰させる。従って減光領域10aはフィルタ支持基板23の開口部23a及び絞り22の開口部22aと同じか、これらより大きい面積を備える。また、撮像装置20に入る光は減光領域10aのみを通過するため、少なくとも減光領域10aにおいて光を減衰する割合が波長に対しほぼ一定となっていればよい。本実施の形態では、主に平板11中に分散されたCNTとニッケル粒子とによって光は減衰されるため、CNTとニッケルとは、少なくとも減光領域10aでほぼ一定に分布されていればよい。また、平板11中にCNTが分散されることによって、平板11の表面は凹凸状に形成される。従って、平板11の表面で生ずる反射は良好に抑制される。
【0029】
撮像装置20は、図2に示すようにレンズ21a〜21cと、絞り22と、光学フィルタ10と、フィルタ支持基板23と、撮像素子24と、基板25とを備える。光学フィルタ10は、この撮像装置20内でフィルタ支持基板23上に設置される。光学フィルタ10の回動ピン12は、フィルタ支持基板23に設けられた穴に嵌合される。また、作動ピン13は図示しないアクチュエータに係合される。アクチュエータによって作動ピン13が駆動することで回動ピン12を中心として光学フィルタ10は回動し、減光領域10aがフィルタ支持基板23の開口部23aを遮る、又は開放する。このようにして、減光領域10aはレンズ21aと絞り22から入る光を減衰させる。光が減衰される割合は可視光域でほぼ一定であるため、基板25上に設置されたCCD(Charge Coupled Devices)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子24に届く光の色そのものはほとんど影響を受けない。
【0030】
平板11は、透明樹脂にカーボンナノチューブ、ニッケル粉体を混入したものから形成される。平板11は、回動動作が可能な程度に軽く形成される必要があり、例えば30μm〜200μmの厚みを備える。
【0031】
平板11を構成する透明樹脂は、光学的に透明であれば良く、例えばPC(Polycarbonate)、PMMA(Polymethylmethacrylate)、PS(Polystyrene)、PET(PolyEthyleneTerephthalate)、PES(PolyEtherSulfone)、脂環式オレフィン樹脂、脂環式アクリル樹脂、ノルボルネン系耐熱透明樹脂、環状オレフィンコポリマー等を用いることができる。
【0032】
平板11中に分散されたカーボンナノチューブは炭素から構成され、それぞれ中空の円筒形状である。CNTの径が太すぎると可視光に対して散乱が生じ曇りとなるため、例えばカーボンナノチューブの外径が10〜300nm、長さが0.1〜30μmのカーボンナノチューブを用いるのがよい。また、光学フィルタ10は、可視光域で光を減衰する割合が一定であることが必要とされる。光学フィルタ10が光を減衰する割合はカーボンナノチューブの添加量が多いほど高く、少ないほど低い。これを利用し、光学フィルタ10に要求される減衰の割合に応じてカーボンナノチューブの添加率を調整する。ただし樹脂に対するカーボンナノチューブの添加率を増加させていくにつれてフィルタ材の粘度が上昇していくため、印刷、成形等に支障がでる可能性がある。すなわちカーボンナノチューブの添加量は要求される光の減衰率と印刷、成形性を勘案する必要がある。本実施形態では、0.01〜20重量%程度で混入するとよい。
【0033】
また、平板11中に分散されたカーボンナノチューブは、図3に示すような光学特性を備える。図3は、透明樹脂に混入させたCNT層を表面に形成した透明フィルム(PETフィルム)の光の透過率を示すものである。透明フィルム(厚さ75μm)上に、CNTの添加率0重量%の透明樹脂を10μm、CNT添加率0.33重量%で厚み10μm、CNT添加率0.66重量%で厚み20μmと変化させ、波長を連続的に変化させながら照射して透過率を測定した。図3から明らかなように、CNTを添加しない、つまり透明樹脂のみが形成された透明フィルムは、波長に対してほぼ一定の透過率を示す。しかし、CNTを0.33重量%添加した場合と、CNTを0.66重量%添加した場合とは、いずれも波長が長くなるにつれ、透過率が高くなる傾向を示す。上述したようにCNT添加率が0%の場合、波長による透過率の変化がみられないため、波長による透過率の変化はCNTに由来するといえる。
【0034】
平板11中に分散されるニッケル粒子は、可視光域の波長が散乱しない(透明である)ため可視光域の波長の10分の1程度以下の粒径であるのが好ましく、具体的にニッケル粉の粒径は300nm以下のものを用いるのがよい。また、ニッケル粒子は、分散させる量が少ないと十分な減光性を得られず、また均一に分散させることが難しいという問題があり、多すぎると粘度が上昇し印刷等が困難になるという問題がある。そこでニッケル粒子は、透明樹脂に対して0.01重量%〜20重量%程度混入されるのが好ましい。
【0035】
なお、本実施の形態でニッケル粒子は、CNTを合成する際の触媒として利用したものを利用する。つまり、詳細に後述するようにCNTは、ニッケル粒子からCNTが成長するため、管状のCNTの一端にニッケル粒子が担持(固定)される。従って、ニッケル粒子の少なくとも一部は、CNTの一端に付着した状態で分散されている。
【0036】
また、平板11に分散されるニッケル粒子は、図4に示すような光学特性を備える。図4は、透明フィルム(PETフィルム)上にスパッタにより厚みを15nm、50nm、100nmに変化させてニッケル層を形成し、波長を連続的に変化させながら光を照射して透過率を測定した。なお、透明フィルムの厚みは100μmである。本実施形態では樹脂中にニッケル粒子が分散する構成であるが、粒子径が小さいため、スパッタによってニッケル層を形成した実験結果とほぼ同じ特性が得られる。図4から明らかなように、100nmの厚みを備えるニッケル層は、いずれの波長の光もほとんど透過しない。50nmの厚みでも、2%前後の光のみ透過し、波長に対して透過率は大きく変化しない。一方、ニッケル層を15nmの厚みに形成すると、20〜30%の光を透過するものの、波長が長くなるにつれ顕著に透過率が低下する。このように、2%より大きい透過率を備えるようニッケル層を形成した場合、ニッケル層は波長が長くなるにつれ透過率が低下する特性を示すといえる。
【0037】
次に、透明フィルム上にニッケル層及びCNT層を形成した透明フィルムの、光の透過率特性を図5に示す。本実施形態では、平板11は透明樹脂中に100μmの厚みの透明フィルム(PETフィルム)上にニッケル層を15nmの厚みに形成し、ニッケル層の厚みは変えずCNT層の厚みとCNTの添加率とを変化させ測定を行った。具体的にはCNT添加率0.33%で11μmの厚みのCNT層と、CNT添加率0.66重量%で22μmの厚みのCNT層とで透過率を測定した。図3及び図4と、図5とを比較して明らかなように、ニッケル層とCNT層とを重ねて形成することにより、それぞれの波長に対する傾斜した透過率特性が、補われ、波長に対してほぼ均一な透過率特性を示すことが分かる。
【0038】
このように本実施の形態に係る光学フィルタ10は、透明樹脂中にCNTとニッケルとを分散させた透明樹脂から形成された平板11から構成されることによって、CNTの透過率特性と、ニッケル粒子の透過率特性とが補われ、波長に対してほぼ均一な透過率特性を備える。このように光学フィルタ10は良好な光学特性を備える。
【0039】
また、本実施の形態の光学フィルタ10の上面はカーボンナノチューブが分散されていることから、光学フィルタ10の表面は凹凸な面に形成される。従って、光学フィルタ10の表面で起きる反射を良好に抑えることができる。更にカーボンナノチューブは導電性を備えるため、図2に示す撮像装置20内で回動した場合であっても、良好に静電気の発生を抑制することができる。
【0040】
本実施の形態では、光学フィルタ10は、詳細に後述するように射出成形によって形成されるため、回動ピン12と作動ピン13とは平板11と一体に形成される。このため、回動ピン12及び作動ピン13と、平板11との接合面の強度が増し、回動ピン12及び作動ピン13は、光学フィルタ10の回動動作に対して良好な強度を備える。
【0041】
次に、本実施の形態に係る光学フィルタ10の製造方法について図を用いて説明する。
【0042】
まず、CNTを合成する。CNTは、一般に用いられている気相成長法によって合成する。例えば、基板上に触媒として機能するニッケル等の金属微粒子を担持させ、この基板をチャンバ内に設置し、炭素を含むガスを供給し、高温状態で化学反応をさせ、基板上の金属微粒子上にCNTを成長させる。CNTは、気相流動法によって形成してもよい。
【0043】
このように形成されたCNTは、形成させる条件によって複数または単一のCNTが金属微粒子を核にして、金属微粒子上に成長する。従って、合成されたCNTの一端には、金属微粒子が担持される。
【0044】
次に、CNTを、触媒が付着した状態でバインダに混入し、撹拌させ樹脂中にほぼ均一に分散させ、フィルタ材を形成する。なお、製造する光学フィルタに要求される割合となるよう、合成によって生成されるCNTと触媒として用いるニッケル粒子との量を予め調節しておく。ただし、ニッケル粒子の量は必ずしも、光学フィルタに要求される量を全て触媒として用いる必要はなく、一部を触媒として用いて、残りはフィルタ材を形成する際に追加することも可能である。
【0045】
また、フィルタ材は、例えばPC(Polycarbonate)、PMMA(Polymethylmethacrylate)、PS(Polystyrene)、PET(PolyEthyleneTerephthalate)、PES(PolyEtherSulfone)、脂環式オレフィン樹脂、脂環式アクリル樹脂、ノルボルネン系耐熱透明樹脂、環状オレフィンコポリマー等から構成される。フィルタ材は、溶融された樹脂にカーボンナノチューブを好ましくは0.01重量%〜20重量%程度添加し、ニッケル粉も好ましくは0.01重量%〜20重量%程度混入させ形成される。
【0046】
また、CNTは、径が太すぎると可視光に対して散乱が生じ曇りとなるため、例えば径は300nm以下、長さは例えば0.1〜30μmのものを用いると良い。また、樹脂に対するカーボンナノチューブの添加率が少なすぎると十分な減光性を得られない、均一に分散させるのが困難であるという問題があり、多すぎると粘度が上昇し印刷、成形等が困難となる。このため、CNTは、バインダに対して0.01〜20重量%程度で混入するのが好ましい。
【0047】
ニッケル粉も、可視光域の波長が散乱しない(透明である)ため可視光域の波長の10分の1程度以下の粒径であるのが好ましく、具体的にニッケル粉の粒径は300nm以下のものを用いるのがよい。また、ニッケル粉は、分散させる量が少ないと十分な減光性を得られず、また均一に分散させることが難しいという問題があり、多すぎると粘度が上昇し印刷、成形等が困難になるという問題がある。そこでニッケル粉は、バインダに対して0.01重量%〜20重量%程度混入するのが好ましい。
【0048】
このフィルタ材を図示しない射出用シリンダで、図示しないスプル、ランナー95及びゲート94を通じてキャビティ93内に所定の温度と圧力で注入する。キャビティ93の面方向に沿ったゲート94を通じてフィルタ材は注入されることから、フィルタ材中のカーボンナノチューブは光学フィルタ10の面方向に配向しやすくなる。また、同様にキャビティ93a、b内でカーボンナノチューブは、光学フィルタ10の面方向に対し垂直に配向しやすくなる。このようにカーボンナノチューブが特定方向に配向しやすくなることから回動ピン12、作動ピン13の強度が増す。
【0049】
本実施の形態で光学フィルタ10は射出成形によって形成される。この射出成形で用いられる金型を模式的に図6に示す。固定金型91及び可動金型92は、図6に示すように光学フィルタ10に対応するキャビティ93、回動ピン12に対応するキャビティ93a、作動ピン13に対応するキャビティ93b、ゲート94、ランナー95を備えるように形成される。固定金型91には、キャビティ93bが形成されており、可動金型92には、キャビティ93aが形成されている。なお、キャビティ93は、予めバインダにCNTとニッケル粉が分散されたフィルタ材が硬化した際の収縮を考慮して形成されており、更に同時に複数の光学フィルタ10を形成することができるよう固定金型91及び可動金型92とには複数のキャビティが形成されている。
【0050】
キャビティ93、キャビティ93a、b内にフィルタ材が充填された後、フィルタ材を硬化させる。
【0051】
フィルタ材が硬化した後、可動金型92を動かして図示しない突出しピンにより光学フィルタ10を取り出す。これによって、光学フィルタ10が完成する。
【0052】
このように、本実施の形態の製造方法では、バインダにCNTとニッケル粉とを分散させ減光層を形成することにより、波長が長くなるにつれ透過率が低下するニッケル層の特性と、波長が長くなるにつれ透過率が上昇するCNT層の特性とが補われ、波長に対してほぼ均一な透過率特性を備える光学フィルタ10を製造することができる。
【0053】
本実施の形態では、CNTを合成する際の触媒として用いたニッケル粒子がCNTに固定された状態で樹脂中に混入させる。従って、CNTを精製する工程を省略することが可能である。
【0054】
すなわち、本発明によれば未精製のCNTを使用して光学フィルタを作成することが可能となる。従ってCNTを用いた光学フィルタを安価に製作することが可能となる。
【0055】
更に、本実施の形態ではニッケル粒子がCNTの一端に担持された状態で樹脂中に分散させるため、CNTとニッケル粒子とを樹脂中にほぼ均一に分散させることができる。
【0056】
また、本実施形態では触媒として用いたニッケル粒子を利用するため、従来のように、フィルム上に金属酸化膜、ニッケル膜等を真空蒸着等によって形成する方法と異なり、作成工程を簡略化することができ、更に従来形状、大きさの自由度を増すことができる。また、真空蒸着等を利用する場合にはフィルタが所定の厚みを備えなければならない等、厚みに関する制約もあったが、本実施形態では、射出成型によって形成するため、厚みに関する自由度も増し、フィルタの厚みのコントロールも容易である。
【0057】
更に、本実施の形態の光学フィルタの製造方法では、射出成形によって光学フィルタ10を形成する。従って、光学フィルタ10を必要な大きさに成形することによって抜き加工等の工程を省略することができ、発生するゴミも削減することができる。また、回動ピン12及び作動ピン13を同時に形成することができるため、回動ピン12等をフィルタに形成する工程も省略することが可能である。
【0058】
また、上述したように光学フィルタ10の表面にCNTが分散されるため、光学フィルタ10の表面が凹凸状に形成され、フィルタ表面での反射を防ぐため従来必要であった粗面処理の工程を省略することができる。
【0059】
上述したように本実施の形態の光学フィルタの製造方法では従来必要であった複数の工程を省略することができ、製造コストを削減することができる。
【0060】
本発明は上述した各実施の形態に限られず、様々な変形及び応用が可能である。例えば、上述した実施の形態では、金属粒子としてニッケル粒子を用いる構成を例に挙げて説明したが、CNTを合成する際の触媒として用いることができ、長波長域よりも短波長域に高い吸収特性を備える光学特性を備える材料であれば、ニッケル以外を用いることも可能である。
【0061】
回動ピン12を回動中心として、作動ピン13をアクチュエータによって作動させることによって、光学フィルタ10を回動させる構成を採って説明したが、これに限られない。例えば、作動ピンのみを備え、作動ピンをアクチュエータ等で回転させることで、光学フィルタ10を回動させる等、光学フィルタ10を駆動する構成によって適宜変更することが可能である。また、回動ピン12と作動ピン13は同一面上にあってもよい。また、光学フィルタ10は更にガイドを備えることも可能である。
【0062】
また、上述した実施の形態では、固定金型91及び可動金型92の横方向からフィルタ材を注入する構成を例に挙げて説明したが、これに限られず、減光領域10a以外の箇所であれば、垂直な方向からフィルタ材を注入する構成を採ることも可能である。また、固定金型91に作動ピン13に対応したキャビティ93bが形成され、可動金型92に回動ピン12に対応したキャビティ93aが形成される場合を例に挙げて説明したがこれに限られず、固定金型91に回動ピン12に対応したキャビティが形成されていても良い。固定金型91及び可動金型92は、光学フィルタ10の形状に合わせて適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態に係る光学フィルタの構成例を示す図である。図1(b)は、図1(a)に示すI−I線断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の光学フィルタが搭載された撮像装置を示す図である。
【図3】透明フィルム上に形成されたCNT層の光の透過率を示す図である。
【図4】透明フィルム上に形成されたニッケル層の光の透過率を示す図である。
【図5】透明フィルム上にニッケル層とCNT層を形成した場合の、光の透過率を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る光学フィルタの製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 光学フィルタ
10a 減光領域
11 平板
12 回動ピン
13 作動ピン
20 撮像装置
21a〜21c レンズ
22 絞り
22a 開口部
23 フィルタ支持基板
23a 開口部
24 撮像素子
25 基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを利用した光学フィルタとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラ、ビデオカメラ等の撮像装置で光の強い場所で撮影する場合や、写真や映像の風合いを変化させる場合に撮像装置に入る光の強度だけを特定の比率で減らす光学フィルタ(NDフィルタ;Neutral Density filter)が用いられている。この光学フィルタとして、樹脂材料に吸収剤を分散させたフィルタ、表面に無機膜を蒸着させたフィルタ、カーボンナノチューブを分散させたインクをフィルム等の透明基材に塗布したフィルタ(特許文献1)が用いられている。
【特許文献1】特開2004−145054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に開示されたフィルタは、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube;以下、CNT)を分散させたインクを塗布することによって形成される。カーボンナノチューブは、電気伝導性があるため摺動動作を行う光学フィルタに用いると静電気の影響を抑えることができ好ましい。しかし、カーボンナノチューブは、光の波長が長くなるにつれ光透過率が上昇する傾向を示す。従って、光の波長によらずほぼ均一な透過特性が求められるNDフィルタとして用いるのが難しいという問題がある。
【0004】
また、CNTを大量に合成する場合には例えば気相成長法を用いるが、この場合触媒として用いるニッケル粒子上にCNTを成長させるため、合成されたCNTの一端にニッケル粒子が担持された状態でCNTが形成されてしまう。
【0005】
ところで成長が完了したCNTにとってニッケル粒子は不純物であって、CNTを使用する場合に悪影響を及ぼす場合がある。例えばCNTは電気伝導性を有するが、ニッケル粒子が存在することで安定した電気伝導性を得られない場合がある。
【0006】
従って一般的にはニッケル粒子は成長が完了した後に取り除くことが望ましいが、このニッケル粒子を取り除くための精製工程はCNTの作成工程とは別に行う必要があるため、ニッケル粒子を排除したCNTを得るための工程が複雑なものとなり、CNTを作成するためのコストが上昇してしまう。そのため、そうして作成されたCNTを用いて作成される光学フィルタの価格も高額になってしまうという問題がある。
また、現実問題としてニッケル粒子を選択的に排除することは非常に困難であって、いまだにその工法が確立していないという現状もある。
【0007】
そこで、波長に対してほぼ均一な透過特性を備え、良好な光学特性を備える光学フィルタをより簡易、かつ安価な方法で製造することが求められている。
【0008】
なお、このような課題を解決する光学フィルタ及び製造方法を特願2006−7583号で示している。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、安価でありながら良好な光学特性を備える光学フィルタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる光学フィルタは、
カーボンナノチューブと金属粒子とが混合された樹脂から形成され、
前記金属粒子の少なくとも一部は、前記カーボンナノチューブの一端に担持されることを特徴とする。
【0011】
前記金属粒子はニッケルからなってもよい。
【0012】
前記カーボンナノチューブの外径は300nm以下であってもよい。
【0013】
前記カーボンナノチューブは、0.01〜20重量%の割合で混合されてもよい。
【0014】
前記金属粒子の粒径は300nm以下であってもよい。
【0015】
前記金属粒子は、0.01〜20重量%の割合で混合されてもよい。
【0016】
上述した目的を達成するため、本発明の第2の観点にかかる光学フィルタの製造方法は、
光学フィルタを製造する方法であって、
金属粒子を触媒として、カーボンナノチューブを形成する、カーボンナノチューブ形成工程と、
溶融させた透光性を備える樹脂に、前記カーボンナノチューブと触媒として用いた金属粒子とを分散させ、フィルタ材を形成するフィルタ材形成工程と、
光学フィルタの形状に対応したキャビティを有する金型に、前記フィルタ材を注入し、前記キャビティ内に前記フィルタ材を充填させる充填工程と、
前記キャビティ内に充填された前記フィルタ材を硬化させる硬化工程と、
前記金型から光学フィルタを取り出す取出工程と、
から構成されてもよい。
【0017】
前記金属粒子は、ニッケルからなってもよい。
【0018】
前記フィルタ材形成工程では、触媒として用いた金属粒子に加えて、更に金属粒子を分散させてもよい。
【0019】
前記カーボンナノチューブの外径は300nm以下であってもよい。
【0020】
前記カーボンナノチューブは、0.01〜20重量%の割合で混合されてもよい。
【0021】
前記金属粒子の粒径は300nm以下であってもよい。
【0022】
前記金属粒子は、0.01〜20重量%の割合で混合されてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、カーボンナノチューブとカーボンナノチューブを合成する際の触媒として用いたニッケルとを用いることによって良好な光学特性を備える光学フィルタ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態に係る光学フィルタ及びその製造方法について図を用いて説明する。
【0025】
本発明の実施の形態に係る光学フィルタ10を図1に示す。図1(a)は、光学フィルタ10の構成例を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のI−I線断面図である。また、図2は光学フィルタ10を用いた撮像装置20を模式的に示した図である。
【0026】
光学フィルタ10は、図1(a)に示すように、平板状且つ羽根状で所定の硬度を備える平板11と、平板11の一端部に形成された回動ピン12と、平板11の一端部に形成され、且つ回動ピン12と反対の面に突き出して形成された作動ピン13と、を備える。入射した光は図1(a)に一点破線で示す平板11の一部の領域(減光領域10a)を通過して、その強度を所定程度減衰される。
【0027】
また、光学フィルタ10は、図2に示す撮像装置20内に設置される。回動ピン12は、図2に示すようにフィルタ支持基板23上の穴に嵌合されており、光学フィルタ10の回転中心として機能する。作動ピン13は、回動ピン12とは反対の面に突き出て形成されており図示しないアクチュエータによって作動させられ、回動ピン12を中心として光学フィルタ10が回動する。なお、平板11と、回動ピン12と、作動ピン13と、は後述するように一体に成型される。
【0028】
減光領域10aは、光学フィルタ10が図2に示すようにフィルタ支持基板23の開口部23aを遮るように配置された際、開口部23aを覆い、絞り22の開口部22aから入る光を所定程度減衰させる。従って減光領域10aはフィルタ支持基板23の開口部23a及び絞り22の開口部22aと同じか、これらより大きい面積を備える。また、撮像装置20に入る光は減光領域10aのみを通過するため、少なくとも減光領域10aにおいて光を減衰する割合が波長に対しほぼ一定となっていればよい。本実施の形態では、主に平板11中に分散されたCNTとニッケル粒子とによって光は減衰されるため、CNTとニッケルとは、少なくとも減光領域10aでほぼ一定に分布されていればよい。また、平板11中にCNTが分散されることによって、平板11の表面は凹凸状に形成される。従って、平板11の表面で生ずる反射は良好に抑制される。
【0029】
撮像装置20は、図2に示すようにレンズ21a〜21cと、絞り22と、光学フィルタ10と、フィルタ支持基板23と、撮像素子24と、基板25とを備える。光学フィルタ10は、この撮像装置20内でフィルタ支持基板23上に設置される。光学フィルタ10の回動ピン12は、フィルタ支持基板23に設けられた穴に嵌合される。また、作動ピン13は図示しないアクチュエータに係合される。アクチュエータによって作動ピン13が駆動することで回動ピン12を中心として光学フィルタ10は回動し、減光領域10aがフィルタ支持基板23の開口部23aを遮る、又は開放する。このようにして、減光領域10aはレンズ21aと絞り22から入る光を減衰させる。光が減衰される割合は可視光域でほぼ一定であるため、基板25上に設置されたCCD(Charge Coupled Devices)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子24に届く光の色そのものはほとんど影響を受けない。
【0030】
平板11は、透明樹脂にカーボンナノチューブ、ニッケル粉体を混入したものから形成される。平板11は、回動動作が可能な程度に軽く形成される必要があり、例えば30μm〜200μmの厚みを備える。
【0031】
平板11を構成する透明樹脂は、光学的に透明であれば良く、例えばPC(Polycarbonate)、PMMA(Polymethylmethacrylate)、PS(Polystyrene)、PET(PolyEthyleneTerephthalate)、PES(PolyEtherSulfone)、脂環式オレフィン樹脂、脂環式アクリル樹脂、ノルボルネン系耐熱透明樹脂、環状オレフィンコポリマー等を用いることができる。
【0032】
平板11中に分散されたカーボンナノチューブは炭素から構成され、それぞれ中空の円筒形状である。CNTの径が太すぎると可視光に対して散乱が生じ曇りとなるため、例えばカーボンナノチューブの外径が10〜300nm、長さが0.1〜30μmのカーボンナノチューブを用いるのがよい。また、光学フィルタ10は、可視光域で光を減衰する割合が一定であることが必要とされる。光学フィルタ10が光を減衰する割合はカーボンナノチューブの添加量が多いほど高く、少ないほど低い。これを利用し、光学フィルタ10に要求される減衰の割合に応じてカーボンナノチューブの添加率を調整する。ただし樹脂に対するカーボンナノチューブの添加率を増加させていくにつれてフィルタ材の粘度が上昇していくため、印刷、成形等に支障がでる可能性がある。すなわちカーボンナノチューブの添加量は要求される光の減衰率と印刷、成形性を勘案する必要がある。本実施形態では、0.01〜20重量%程度で混入するとよい。
【0033】
また、平板11中に分散されたカーボンナノチューブは、図3に示すような光学特性を備える。図3は、透明樹脂に混入させたCNT層を表面に形成した透明フィルム(PETフィルム)の光の透過率を示すものである。透明フィルム(厚さ75μm)上に、CNTの添加率0重量%の透明樹脂を10μm、CNT添加率0.33重量%で厚み10μm、CNT添加率0.66重量%で厚み20μmと変化させ、波長を連続的に変化させながら照射して透過率を測定した。図3から明らかなように、CNTを添加しない、つまり透明樹脂のみが形成された透明フィルムは、波長に対してほぼ一定の透過率を示す。しかし、CNTを0.33重量%添加した場合と、CNTを0.66重量%添加した場合とは、いずれも波長が長くなるにつれ、透過率が高くなる傾向を示す。上述したようにCNT添加率が0%の場合、波長による透過率の変化がみられないため、波長による透過率の変化はCNTに由来するといえる。
【0034】
平板11中に分散されるニッケル粒子は、可視光域の波長が散乱しない(透明である)ため可視光域の波長の10分の1程度以下の粒径であるのが好ましく、具体的にニッケル粉の粒径は300nm以下のものを用いるのがよい。また、ニッケル粒子は、分散させる量が少ないと十分な減光性を得られず、また均一に分散させることが難しいという問題があり、多すぎると粘度が上昇し印刷等が困難になるという問題がある。そこでニッケル粒子は、透明樹脂に対して0.01重量%〜20重量%程度混入されるのが好ましい。
【0035】
なお、本実施の形態でニッケル粒子は、CNTを合成する際の触媒として利用したものを利用する。つまり、詳細に後述するようにCNTは、ニッケル粒子からCNTが成長するため、管状のCNTの一端にニッケル粒子が担持(固定)される。従って、ニッケル粒子の少なくとも一部は、CNTの一端に付着した状態で分散されている。
【0036】
また、平板11に分散されるニッケル粒子は、図4に示すような光学特性を備える。図4は、透明フィルム(PETフィルム)上にスパッタにより厚みを15nm、50nm、100nmに変化させてニッケル層を形成し、波長を連続的に変化させながら光を照射して透過率を測定した。なお、透明フィルムの厚みは100μmである。本実施形態では樹脂中にニッケル粒子が分散する構成であるが、粒子径が小さいため、スパッタによってニッケル層を形成した実験結果とほぼ同じ特性が得られる。図4から明らかなように、100nmの厚みを備えるニッケル層は、いずれの波長の光もほとんど透過しない。50nmの厚みでも、2%前後の光のみ透過し、波長に対して透過率は大きく変化しない。一方、ニッケル層を15nmの厚みに形成すると、20〜30%の光を透過するものの、波長が長くなるにつれ顕著に透過率が低下する。このように、2%より大きい透過率を備えるようニッケル層を形成した場合、ニッケル層は波長が長くなるにつれ透過率が低下する特性を示すといえる。
【0037】
次に、透明フィルム上にニッケル層及びCNT層を形成した透明フィルムの、光の透過率特性を図5に示す。本実施形態では、平板11は透明樹脂中に100μmの厚みの透明フィルム(PETフィルム)上にニッケル層を15nmの厚みに形成し、ニッケル層の厚みは変えずCNT層の厚みとCNTの添加率とを変化させ測定を行った。具体的にはCNT添加率0.33%で11μmの厚みのCNT層と、CNT添加率0.66重量%で22μmの厚みのCNT層とで透過率を測定した。図3及び図4と、図5とを比較して明らかなように、ニッケル層とCNT層とを重ねて形成することにより、それぞれの波長に対する傾斜した透過率特性が、補われ、波長に対してほぼ均一な透過率特性を示すことが分かる。
【0038】
このように本実施の形態に係る光学フィルタ10は、透明樹脂中にCNTとニッケルとを分散させた透明樹脂から形成された平板11から構成されることによって、CNTの透過率特性と、ニッケル粒子の透過率特性とが補われ、波長に対してほぼ均一な透過率特性を備える。このように光学フィルタ10は良好な光学特性を備える。
【0039】
また、本実施の形態の光学フィルタ10の上面はカーボンナノチューブが分散されていることから、光学フィルタ10の表面は凹凸な面に形成される。従って、光学フィルタ10の表面で起きる反射を良好に抑えることができる。更にカーボンナノチューブは導電性を備えるため、図2に示す撮像装置20内で回動した場合であっても、良好に静電気の発生を抑制することができる。
【0040】
本実施の形態では、光学フィルタ10は、詳細に後述するように射出成形によって形成されるため、回動ピン12と作動ピン13とは平板11と一体に形成される。このため、回動ピン12及び作動ピン13と、平板11との接合面の強度が増し、回動ピン12及び作動ピン13は、光学フィルタ10の回動動作に対して良好な強度を備える。
【0041】
次に、本実施の形態に係る光学フィルタ10の製造方法について図を用いて説明する。
【0042】
まず、CNTを合成する。CNTは、一般に用いられている気相成長法によって合成する。例えば、基板上に触媒として機能するニッケル等の金属微粒子を担持させ、この基板をチャンバ内に設置し、炭素を含むガスを供給し、高温状態で化学反応をさせ、基板上の金属微粒子上にCNTを成長させる。CNTは、気相流動法によって形成してもよい。
【0043】
このように形成されたCNTは、形成させる条件によって複数または単一のCNTが金属微粒子を核にして、金属微粒子上に成長する。従って、合成されたCNTの一端には、金属微粒子が担持される。
【0044】
次に、CNTを、触媒が付着した状態でバインダに混入し、撹拌させ樹脂中にほぼ均一に分散させ、フィルタ材を形成する。なお、製造する光学フィルタに要求される割合となるよう、合成によって生成されるCNTと触媒として用いるニッケル粒子との量を予め調節しておく。ただし、ニッケル粒子の量は必ずしも、光学フィルタに要求される量を全て触媒として用いる必要はなく、一部を触媒として用いて、残りはフィルタ材を形成する際に追加することも可能である。
【0045】
また、フィルタ材は、例えばPC(Polycarbonate)、PMMA(Polymethylmethacrylate)、PS(Polystyrene)、PET(PolyEthyleneTerephthalate)、PES(PolyEtherSulfone)、脂環式オレフィン樹脂、脂環式アクリル樹脂、ノルボルネン系耐熱透明樹脂、環状オレフィンコポリマー等から構成される。フィルタ材は、溶融された樹脂にカーボンナノチューブを好ましくは0.01重量%〜20重量%程度添加し、ニッケル粉も好ましくは0.01重量%〜20重量%程度混入させ形成される。
【0046】
また、CNTは、径が太すぎると可視光に対して散乱が生じ曇りとなるため、例えば径は300nm以下、長さは例えば0.1〜30μmのものを用いると良い。また、樹脂に対するカーボンナノチューブの添加率が少なすぎると十分な減光性を得られない、均一に分散させるのが困難であるという問題があり、多すぎると粘度が上昇し印刷、成形等が困難となる。このため、CNTは、バインダに対して0.01〜20重量%程度で混入するのが好ましい。
【0047】
ニッケル粉も、可視光域の波長が散乱しない(透明である)ため可視光域の波長の10分の1程度以下の粒径であるのが好ましく、具体的にニッケル粉の粒径は300nm以下のものを用いるのがよい。また、ニッケル粉は、分散させる量が少ないと十分な減光性を得られず、また均一に分散させることが難しいという問題があり、多すぎると粘度が上昇し印刷、成形等が困難になるという問題がある。そこでニッケル粉は、バインダに対して0.01重量%〜20重量%程度混入するのが好ましい。
【0048】
このフィルタ材を図示しない射出用シリンダで、図示しないスプル、ランナー95及びゲート94を通じてキャビティ93内に所定の温度と圧力で注入する。キャビティ93の面方向に沿ったゲート94を通じてフィルタ材は注入されることから、フィルタ材中のカーボンナノチューブは光学フィルタ10の面方向に配向しやすくなる。また、同様にキャビティ93a、b内でカーボンナノチューブは、光学フィルタ10の面方向に対し垂直に配向しやすくなる。このようにカーボンナノチューブが特定方向に配向しやすくなることから回動ピン12、作動ピン13の強度が増す。
【0049】
本実施の形態で光学フィルタ10は射出成形によって形成される。この射出成形で用いられる金型を模式的に図6に示す。固定金型91及び可動金型92は、図6に示すように光学フィルタ10に対応するキャビティ93、回動ピン12に対応するキャビティ93a、作動ピン13に対応するキャビティ93b、ゲート94、ランナー95を備えるように形成される。固定金型91には、キャビティ93bが形成されており、可動金型92には、キャビティ93aが形成されている。なお、キャビティ93は、予めバインダにCNTとニッケル粉が分散されたフィルタ材が硬化した際の収縮を考慮して形成されており、更に同時に複数の光学フィルタ10を形成することができるよう固定金型91及び可動金型92とには複数のキャビティが形成されている。
【0050】
キャビティ93、キャビティ93a、b内にフィルタ材が充填された後、フィルタ材を硬化させる。
【0051】
フィルタ材が硬化した後、可動金型92を動かして図示しない突出しピンにより光学フィルタ10を取り出す。これによって、光学フィルタ10が完成する。
【0052】
このように、本実施の形態の製造方法では、バインダにCNTとニッケル粉とを分散させ減光層を形成することにより、波長が長くなるにつれ透過率が低下するニッケル層の特性と、波長が長くなるにつれ透過率が上昇するCNT層の特性とが補われ、波長に対してほぼ均一な透過率特性を備える光学フィルタ10を製造することができる。
【0053】
本実施の形態では、CNTを合成する際の触媒として用いたニッケル粒子がCNTに固定された状態で樹脂中に混入させる。従って、CNTを精製する工程を省略することが可能である。
【0054】
すなわち、本発明によれば未精製のCNTを使用して光学フィルタを作成することが可能となる。従ってCNTを用いた光学フィルタを安価に製作することが可能となる。
【0055】
更に、本実施の形態ではニッケル粒子がCNTの一端に担持された状態で樹脂中に分散させるため、CNTとニッケル粒子とを樹脂中にほぼ均一に分散させることができる。
【0056】
また、本実施形態では触媒として用いたニッケル粒子を利用するため、従来のように、フィルム上に金属酸化膜、ニッケル膜等を真空蒸着等によって形成する方法と異なり、作成工程を簡略化することができ、更に従来形状、大きさの自由度を増すことができる。また、真空蒸着等を利用する場合にはフィルタが所定の厚みを備えなければならない等、厚みに関する制約もあったが、本実施形態では、射出成型によって形成するため、厚みに関する自由度も増し、フィルタの厚みのコントロールも容易である。
【0057】
更に、本実施の形態の光学フィルタの製造方法では、射出成形によって光学フィルタ10を形成する。従って、光学フィルタ10を必要な大きさに成形することによって抜き加工等の工程を省略することができ、発生するゴミも削減することができる。また、回動ピン12及び作動ピン13を同時に形成することができるため、回動ピン12等をフィルタに形成する工程も省略することが可能である。
【0058】
また、上述したように光学フィルタ10の表面にCNTが分散されるため、光学フィルタ10の表面が凹凸状に形成され、フィルタ表面での反射を防ぐため従来必要であった粗面処理の工程を省略することができる。
【0059】
上述したように本実施の形態の光学フィルタの製造方法では従来必要であった複数の工程を省略することができ、製造コストを削減することができる。
【0060】
本発明は上述した各実施の形態に限られず、様々な変形及び応用が可能である。例えば、上述した実施の形態では、金属粒子としてニッケル粒子を用いる構成を例に挙げて説明したが、CNTを合成する際の触媒として用いることができ、長波長域よりも短波長域に高い吸収特性を備える光学特性を備える材料であれば、ニッケル以外を用いることも可能である。
【0061】
回動ピン12を回動中心として、作動ピン13をアクチュエータによって作動させることによって、光学フィルタ10を回動させる構成を採って説明したが、これに限られない。例えば、作動ピンのみを備え、作動ピンをアクチュエータ等で回転させることで、光学フィルタ10を回動させる等、光学フィルタ10を駆動する構成によって適宜変更することが可能である。また、回動ピン12と作動ピン13は同一面上にあってもよい。また、光学フィルタ10は更にガイドを備えることも可能である。
【0062】
また、上述した実施の形態では、固定金型91及び可動金型92の横方向からフィルタ材を注入する構成を例に挙げて説明したが、これに限られず、減光領域10a以外の箇所であれば、垂直な方向からフィルタ材を注入する構成を採ることも可能である。また、固定金型91に作動ピン13に対応したキャビティ93bが形成され、可動金型92に回動ピン12に対応したキャビティ93aが形成される場合を例に挙げて説明したがこれに限られず、固定金型91に回動ピン12に対応したキャビティが形成されていても良い。固定金型91及び可動金型92は、光学フィルタ10の形状に合わせて適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態に係る光学フィルタの構成例を示す図である。図1(b)は、図1(a)に示すI−I線断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の光学フィルタが搭載された撮像装置を示す図である。
【図3】透明フィルム上に形成されたCNT層の光の透過率を示す図である。
【図4】透明フィルム上に形成されたニッケル層の光の透過率を示す図である。
【図5】透明フィルム上にニッケル層とCNT層を形成した場合の、光の透過率を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る光学フィルタの製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 光学フィルタ
10a 減光領域
11 平板
12 回動ピン
13 作動ピン
20 撮像装置
21a〜21c レンズ
22 絞り
22a 開口部
23 フィルタ支持基板
23a 開口部
24 撮像素子
25 基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと金属粒子とが混合された樹脂から形成され、
前記金属粒子の少なくとも一部は、前記カーボンナノチューブの一端に担持されることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記金属粒子はニッケルからなることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの外径は300nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、0.01〜20重量%の割合で混合されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記金属粒子の粒径は300nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記金属粒子は、0.01〜20重量%の割合で混合されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
光学フィルタを製造する方法であって、
金属粒子を触媒として、カーボンナノチューブを形成する、カーボンナノチューブ形成工程と、
溶融させた透光性を備える樹脂に、前記カーボンナノチューブと触媒として用いた金属粒子とを分散させ、フィルタ材を形成するフィルタ材形成工程と、
光学フィルタの形状に対応したキャビティを有する金型に、前記フィルタ材を注入し、前記キャビティ内に前記フィルタ材を充填させる充填工程と、
前記キャビティ内に充填された前記フィルタ材を硬化させる硬化工程と、
前記金型から光学フィルタを取り出す取出工程と、
から構成されることを特徴とする光学フィルタの製造方法。
【請求項8】
前記金属粒子は、ニッケルからなることを特徴とする請求項7に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項9】
前記フィルタ材形成工程では、触媒として用いた金属粒子に加えて、更に金属粒子を分散させることを特徴とする請求項7又は8に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブの外径は300nm以下であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブは、0.01〜20重量%の割合で混合されることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項12】
前記金属粒子の粒径は300nm以下であることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項13】
前記金属粒子は、0.01〜20重量%の割合で混合されることを特徴とする請求項7乃至12のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項1】
カーボンナノチューブと金属粒子とが混合された樹脂から形成され、
前記金属粒子の少なくとも一部は、前記カーボンナノチューブの一端に担持されることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記金属粒子はニッケルからなることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの外径は300nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、0.01〜20重量%の割合で混合されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記金属粒子の粒径は300nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記金属粒子は、0.01〜20重量%の割合で混合されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
光学フィルタを製造する方法であって、
金属粒子を触媒として、カーボンナノチューブを形成する、カーボンナノチューブ形成工程と、
溶融させた透光性を備える樹脂に、前記カーボンナノチューブと触媒として用いた金属粒子とを分散させ、フィルタ材を形成するフィルタ材形成工程と、
光学フィルタの形状に対応したキャビティを有する金型に、前記フィルタ材を注入し、前記キャビティ内に前記フィルタ材を充填させる充填工程と、
前記キャビティ内に充填された前記フィルタ材を硬化させる硬化工程と、
前記金型から光学フィルタを取り出す取出工程と、
から構成されることを特徴とする光学フィルタの製造方法。
【請求項8】
前記金属粒子は、ニッケルからなることを特徴とする請求項7に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項9】
前記フィルタ材形成工程では、触媒として用いた金属粒子に加えて、更に金属粒子を分散させることを特徴とする請求項7又は8に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブの外径は300nm以下であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブは、0.01〜20重量%の割合で混合されることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項12】
前記金属粒子の粒径は300nm以下であることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項13】
前記金属粒子は、0.01〜20重量%の割合で混合されることを特徴とする請求項7乃至12のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2008−83505(P2008−83505A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264560(P2006−264560)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]