説明

光学フィルタ

【課題】ゴースト光の発生を低減し、薄型化、低コスト化を実現する。
【解決手段】透明基板2の一方の面に、所定波長の光を吸収する色素が分散された樹脂層により形成された光吸収構造体3と複数の無機薄膜を積層し所定波長の光を反射するように形成した近赤外光反射構造体4aとを成膜し、反対の面に同様の近赤外光反射構造体4bを成膜し、任意の波長領域の光線の透過を制限し、反射構造体4a、4bより形成される透過波長領域から不透過波長領域に遷移する近赤外光の遷移波長領域内に、光吸収構造体3の吸収波長領域の少なくとも一部が重なるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の波長領域の光の透過を制限する光学フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ等の撮像装置に使用される固体撮像素子は、人眼の感度特性に対応させるために、分光透過率等の光学特性を調節するフィルタと組み合わせて使用されることがある。具体的には、近赤外線カットフィルタや紫外線カットフィルタ、又はこれらを1枚のフィルタで実現した紫外赤外線カットフィルタ等がある。
【0003】
これらの光学フィルタは所望の波長領域の光の透過を制限するために、光学フィルタの基材内に特定の波長の光を吸収する材料を練り込んだり、基材上に塗布したりすることにより特定の波長の光を吸収している。このような吸収タイプの光学フィルタとしては、特許文献1〜4に示すように、金属イオンや色素等を基材に練り込んだり、樹脂バインダ中に特定波長の光を吸収する特性を有する色素等を分散させた有機薄膜を基材上に塗布する方法が提案されている。
【0004】
また特許文献5には、基材上に屈折率の異なる2種類以上の薄膜を積層し、薄膜の干渉を利用し特定の波長の光を反射させるものが開示されている。この反射タイプの赤外線カットフィルタは、透過波長領域における透過率を高く、かつ平坦に作製可能なため色再現性が良く、また吸収タイプの赤外線カットフィルタと比較すると、薄く作製できると云う利点を有している。
【0005】
反射タイプの光学フィルタは、真空蒸着法やIAD法、イオンプレーティング法、スパッタ法等により透明基板上に多層膜を積層することにより作製され、近年では軽量化や任意形状への加工等の要望に伴い、合成樹脂透明基板も用いられてきている。
【0006】
特許文献6、7では、光学フィルタの薄型化のために、複数の薄膜の積層体である近赤外光反射構造体と、赤外波長領域に吸収帯を有する色素をバインダに分散させた有機薄膜による光吸収構造体とを組合わせたハイブリッドタイプが提案されている。この構成により、反射構造体の赤外波長領域の反射率を小さく設計することができるため、反射構造体の積層数が少なくなり、薄型化を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−133623号公報
【特許文献2】特開2005−99820号公報
【特許文献3】特開2000−7870号公報
【特許文献4】特開2002−303720号公報
【特許文献5】特開2003−161831号公報
【特許文献6】特開2006−301489号公報
【特許文献7】特開2008−51985号公報
【特許文献8】特開2005−62430号公報
【特許文献9】特開2005−148283号公報
【特許文献10】特開平5−134113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献5に示すような反射タイプの光学フィルタは構成上、光を透過させる透過波長領域と、透過を妨げる不透過波長領域と、透過波長領域から不透過波長領域へと遷移する遷移波長領域とを備えており、透過率と反射率が共に約50%となる波長を有している。このうち、遷移波長領域の帯域は波長領域で0nm、つまり存在しないことが望ましいが、実際に実現は困難であるため、例えば50nm程度の波長領域の間で、透過率を理想的には100→0%、又は0→100%へと変化させている。
【0009】
上述の反射タイプのフィルタをビデオカメラ等の撮像光学系において使用すると、入射した入射光のうち、遷移波長領域に該当する波長の一部がフィルタを透過した後に撮像素子等で反射し、その一部が再度撮像素子側から光学フィルタ面に入射してしまう。反射タイプの光学フィルタにおいては、この再入射光の一部が再度光学フィルタで反射され、その反射光が撮像素子に再び到達することにより、ゴースト光が発生し、画像を劣化させてしまうことがある。
【0010】
ゴースト光が問題となる場合には、吸収材料を使用した吸収タイプの光学フィルタを使用することが好ましい。銅イオンや赤外吸収機能を有する色素を用いた赤外線カットフィルタは反射率が小さく、反射タイプのようにゴースト光が問題となることは殆どない。しかし、色素のみで赤外波長領域光を遮蔽する吸収タイプの光学フィルタによって、カメラやビデオカメラ等の撮像光学系に利用できるような分光を得るものは、現在のところ開発されていない。
【0011】
前述したように特許文献1〜4の吸収タイプの光学フィルタにおいては、吸収成分のみで700〜1100nm又は1200nm程度まで近赤外光領域に渡る不透過波長領域の透過率を制限している。しかし、理想的な0%に近付けると、透過波長領域である可視波長領域の透過率まで低下したり、透過波長領域に大きなリップルが発生する問題がある。更に、吸収層に相応の厚みを必要とし、特に基板内に吸収剤を分散させたような場合には、概ね0.3〜0.5mm以上の厚みの基板が必要となり、近年の光学フィルタの薄型化・小型化への要望を達成することが困難となる。
【0012】
特許文献6、7のようなハイブリッドタイプの光学フィルタであっても、可視波長領域の透過率を高くすると、概ね可視波長領域の一部と重なる遷移波長領域、特に無機薄膜で形成された近赤外側の半値波長において、大きな吸収を得ることができない。そのため、この波長領域の反射を大きく低減することはできず、上述の赤外線によるゴースト光の強度を低減することが困難となる。
【0013】
更に、特許文献6、7で用いられるような赤外線吸収用の色素は、一般に紫外線の影響で分光特性が変化し易いという問題を有する場合がある。色素の紫外線に対する対策としては、特許文献8で基板に紫外線吸収剤を含有させ、色素を含む赤外線吸収層に紫外線が入射することを防止する赤外線カットフィルタが開示されている。しかし、この特許文献8のような構成においては、赤外線吸収層の片方の面のみしか紫外光吸収効果がないため、赤外線カットフィルタの配置方向に限定が生ずる。
【0014】
特許文献9には、上記問題がある場合にこれを解決するため、色素を含む赤外線吸収層の両面に紫外線吸収層を設けた赤外線カットフィルタが開示されている。しかし、この特許文献9の赤外線カットフィルタの分光特性は色素にのみよって決定されており、上述のようにカメラやビデオカメラの撮像光学系に求められるような赤外線カットフィルタを色素のみで作製することは困難である。具体的には、赤外線を十分に遮蔽しようとすると、透過波長領域の透過率が低下してしまうことになる。
【0015】
また同様に、特許文献10に開示されているように、紫外線吸収層にカーボンナノチューブを利用した場合には、カーボンナノチューブの吸収特性を考慮すると、可視波長領域にまで吸収が発生し、可視波長領域の透過率まで低減してしまい、コスト的にも問題がある。
【0016】
本発明の第1の目的は、上述の問題点を解消し、薄型化を妨げることなく、ゴースト光の発生を低減し赤外線遮蔽機能を有する光学フィルタを提供することにある。
【0017】
本発明の第2の目的は、第1の目的に加えて、紫外線遮蔽機能を有する光学フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための本発明に係る光学フィルタは、透明基板上に、樹脂層により形成し所定の吸収波長領域を有する光吸収構造体と、複数の無機薄膜を積層し少なくとも近赤外波長領域の一部を反射する少なくとも1つの近赤外光反射構造体とを有し、前記少なくとも1つの近赤外光反射構造体は光の透過波長領域から不透過波長領域に遷移する遷移波長領域を有し、前記光吸収構造体の前記吸収波長領域の少なくとも一部は前記遷移波長領域と重なることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る光学フィルタは、透明基板上に、樹脂層により形成し所定の吸収波長領域を有する光吸収構造体と、複数の無機薄膜を積層し少なくとも近赤外波長領域の一部を反射する少なくとも1つの近赤外光反射構造体と、紫外光反射構造体又は紫外光吸収構造体とを有し、前記近赤外光反射構造体は、近赤外光の透過波長領域から不透過波長領域に遷移する遷移波長領域を有し、前記光吸収構造体の前記吸収波長領域の少なくとも一部は前記遷移波長領域と重なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る光学フィルタによれば、近赤外線反射機能に加えて、近赤外線遮蔽機能を近赤外吸収色素を含有した樹脂層による光の吸収により実現するため、薄型化が可能で、ゴースト光を低減することができる。また、所望の吸収特性を得るために、複数の吸収材料を組合わせる必要が少ないために、透過波長領域でリップルを発生させる虞れが低く、コストを低減することができる。
【0021】
また、本発明に係る光学フィルタによれば、上述の効果に加えて、紫外線遮蔽機能を有し、紫外光による赤外線吸収層の光学特性の変化を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の光学フィルタの構成図である。
【図2】近赤外光反射構造体による分光透過率のグラフ図である。
【図3】光吸収構造体の分光吸収率のグラフ図である。
【図4】赤外線カットフィルタの分光特性のグラフ図である。
【図5】従来例の有機薄膜層によるフィルタの分光透過率のグラフ図である。
【図6】他の近赤外光反射構造体の分光透過率のグラフ図である。
【図7】他の光吸収構造体に使用する色素の分光透過率のグラフ図である。
【図8】実施例2の光学フィルタの構成図である。
【図9】実施例3の光学フィルタの構成図である。
【図10】実施例4の光学フィルタの構成図である。
【図11】変形例1の光学フィルタの構成図である。
【図12】変形例2の光学フィルタの構成図である。
【図13】実施例5の撮像装置の光学的構成図である。
【図14】実施例6の光量絞り装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は少なくとも近赤外光領域の光の透過を制限する赤外線カットフィルタとして機能する実施例1の光学フィルタ1の構成図を示している。この光学フィルタ1においては、透明基板2上に、所望の波長領域に吸収を有する色素を樹脂バインダ中に分散させて構成した有機薄膜から成る光吸収構造体3が成膜されている。また、この光吸収構造体3上には、複数の蒸着膜を積層することにより構成した無機薄膜から成る近赤外光反射構造体4aが成膜されている。更に、透明基板2の反対の面には、同様に無機薄膜から成る近赤外光反射構造体4bが設けられている。
【0025】
透明基板2は合成樹脂材から成る例えば板厚0.1mmのノルボルネン系材料であるArton(JSR製、製品名)フィルムが使用されている。Artonフィルムはガラス転移温度(Tg)が100℃以上あり、曲げ弾性率が約3000MPa程度と比較的高く、透明基板2の割れやうねりを低減できる。実施例1においてはArtonフィルムを使用したが、この他にポリイミド系の樹脂フィルム等も好適な材料の1つである。更には、可視波長領域において透明性を有するものであれば、例えばPET、PEN、ポリエステル系、アクリル系、アラミド系、PC(ポリカーボネート)、アセテート、ポリ塩化ビニル、PVA(ポリビニルアルコール)等の使用が可能である。
【0026】
光吸収構造体3は色素を分散させた樹脂層を、例えばスピンコート法により塗工することにより形成されている。光吸収構造体3を構成する樹脂バインダにはアクリル系樹脂を用いているが、このアクリル系樹脂は透明基板2と樹脂層との密着の観点から、一部にスチレンを含有しているアクリル−スチレン共重合樹脂を選択している。
【0027】
なお、アクリル系樹脂以外にも可視波長領域において透光性が高ければ、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素樹脂、、PC系樹脂、ポリイミド系樹脂、、ポリオレフィン系樹脂等が考えられる。これらの樹脂は単体又は2種類以上を混合して用いてもよく、また共重合体として用いることもできる。つまり、可視波長領域における吸収が小さい材料であればよく、透明基板2となる材料や、前後のプロセス、フィルタに要求される特性、色素との相性等の様々な要素を考慮し、最適な樹脂バインダを選択すればよい。
【0028】
樹脂バインダは透明基板2との屈折率差が小さいものがより好ましい。透明基板2と光吸収構造体3とが隣接する場合に、屈折率差を小さくすることで、透明基板2と樹脂の界面での反射を小さくし、膜厚を薄くしても干渉効果による影響をより小さくすることが可能である。また同様の理由から、透明基板2と光吸収構造体3との間に接着層や応力緩和層等の機能膜層を挿入する場合であっても、透明基板2、機能膜層、光吸収構造体3の三者の屈折率が近いものがより好ましい。
【0029】
光吸収構造体3の塗工はスピンコート法に限らず、ディップコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、バーコータ法等であっても、同様の膜を形成することができる。つまり、所望の分光を満足する膜厚や、形状、生産性等を考慮して、最適な成膜方法を選択すればよい。
【0030】
光吸収構造体3の樹脂層が乾燥することで発生する硬化収縮に起因する応力に関しては、光吸収構造体3の膜厚を薄くすることで低減することが可能である。この際に、所望の吸収特性を維持するために、色素の濃度調整や、例えばスピンコート法であれば回転速度等の塗工プロセスの調整が必要となる。
【0031】
有機薄膜により構成された光吸収構造体3の場合に、色素成分は水分に弱いため、樹脂バインダ中に分散させても、特に温度や湿度等の周囲環境から、樹脂が少なからず吸水してしまい、色素成分がその影響を受けて光学特性が変化してしまうことがある。このため、光吸収構造体3よりも表層側に近赤外光反射構造体4aを配置している。
【0032】
近赤外光反射構造体4a、4bはそれぞれ少なくとも2種類以上の無機薄膜を積層して成膜され、反射構造体4a、4bは1つの薄膜積層構造体として機能し、或る波長領域の透過を制限している。
【0033】
透明基板2に合成樹脂材を使用した場合には、近赤外光反射構造体4a、4bの成膜プロセスに起因する熱の問題が発生する。ガラス透明基板と比較して、ガラス転移温度が極端に低い樹脂透明基板の場合には、透明基板2と膜との線膨張係数の差に起因する透明基板2の反りや、この反りに伴う膜面のクラックの発生等が考えられる。そこで、成膜中に発生する熱への施策が必要である。具体的には、透明基板2としてガラス転移温度の高い材料を選択したり、成膜中での低温プロセスを採用することが考えられる。
【0034】
近赤外光反射構造体4a、4bの成膜においては成膜装置に吸熱機構を設け、放射冷却効果により成膜中に透明基板2に発生する熱を除去する手法を選択した。その際に、成膜プロセスで到達する透明基板2上の最高温度を予め測定し、その温度に耐え得る材料を選択する必要がある。実施例1では、成膜プロセスの安定性を考慮し、先に実験した到達最高温度に或る程度の許容値を加味し、ガラス転移温度を適性判断のパラメータとし、約70℃以上のガラス転移温度を有する透明基板2を選択している。
【0035】
また、近赤外光反射構造体4a、4bの成膜中の温度を通常の成膜温度の場合よりも、何らかのアシストを付加したり、スパッタ等の比較的に高エネルギで成膜し、膜密度が高くなるプロセスを選択することがより好ましい。具体的には、スパッタ法、IAD法、イオンプレーティング法、IBS法、クラスタ蒸着法等の膜厚を比較的正確に制御でき、再現性の高い膜を得ることができる成膜法であればよい。蒸着以外の物理的又は化学的成膜方法で形成してもよいし、ゾルゲル法などのウェットプロセスで成膜してもよく、必要とされる膜の性質や、透明基板2を含めた各材料の制約条件等から最適な方法を選択すればよい。
【0036】
図2は板厚0.1mmのArtonフィルムから成る透明基板2に、近赤外光反射構造体4a、4bのみを成膜した場合の反射タイプのフィルタの分光透過率特性のグラフ図である。このフィルタは可視波長領域で透過率が高く、紫外波長領域から可視波長領域にかけての領域の波長の透過を防止する第1阻止波長領域W1、可視波長領域から近赤外波長領域にかけての波長領域に第2阻止波長領域W2を有している。更に、第2阻止波長領域W2から近赤外波長にかけての波長領域に第3阻止波長領域W3を有し、3つの阻止波長領域W1〜W3により構成されている。
【0037】
ここで、1つの阻止波長領域を構成する薄膜積層構造を1つのブロックとして考えると、第1〜第3阻止波長領域W1〜W3を形成する3つのブロックにより形成される。それぞれを第1〜3スタックとすると、3つのスタックはそれぞれ異なる中心波長を有する。この中心波長をλとした場合に、高屈折率材料と低屈折率材料とを、それぞれ交互にλ/4ずつ積層した構成を基本とし、所望の光学特性を得るために、各層の膜厚に概ね0.7〜1.3倍程度の微調を加えて積層する。
【0038】
近赤外光反射構造体4a、4bの薄膜積層構造は、IAD法により複数層の無機質から成る誘電体膜を順次に積層することにより形成している。一般に、このような多層膜においては膜応力が非常に大きくなり、光学系の薄型化の観点から透明基板2の板厚を薄くした場合には、透明基板2に反りが生ずる虞れがある。この対策として、図1に示すように透明基板2の両面に反射構造体4a、4bをそれぞれ成膜すると、理想的には透明基板2の両面に同じ材料、膜厚、膜質で積層することになり、膜応力を低減できることになる。
【0039】
しかし、その場合には膜の構成設計が困難となり、透明基板2の片面に設計した場合と同じ積層数となるように膜設計を行うと、光学特性が大きく犠牲となる虞れがある。また、光学特性と膜応力の緩和を同時に満足させるためには、積層数が増加し、フィルタ製作の工数アップの要因となる。膜応力による透明基板2の反りが問題となる場合には、図1に示すように薄膜積層構造体を透明基板2の両面に分割して配置することが好適な手法となる。
【0040】
以上の説明は透明基板2に近赤外光反射構造体4a、4bのみを配置した場合であるが、加えて実施例1では、光吸収構造体3と近赤外光反射構造体4a、4bとの応力バランスを加味することも必要となる。それぞれの応力を予め測定しておき、透明基板2の両面への配置を最適化することにより、透明基板2の両面の応力バランスを取ることが好ましい。
【0041】
従って、実施例1では透明基板2上に先ず光吸収構造体3を形成し、その上層に近赤外光反射構造体4aによる29層の薄膜を成膜し、その後に透明基板2の反対の面に近赤外光反射構造体4bによる21層の薄膜を成膜している。このような反射構造体4a、4bから成る誘電体膜の材料には、高屈折率材料にはTiO2、低屈折率材料にはSiO2を使用し、TiO2とSiO2を交互に積層した。
【0042】
この他に、成膜手法によっても異なるが、一般的に高屈折率材料にはNb25、ZrO2、Ta25等が使用され、低屈折率材用にはMgF2を使用する場合もある。設計上や成膜上の理由から、中間屈折率材料であるAl23等を一部の層で使用する場合もあるが、適宜に最適な材料の組合わせを選択すればよい。
【0043】
ただし、透明基板2や空気との界面の層と、中心波長λが異なる各スタック同士が隣接している層等においては、微調の範囲を超えることがあり、例えば0.5倍のλ/4程度の膜厚になることがある。更に、全層の中で上述した界面層とは別に数層、例えば全層が40層であれば1〜3層程度、微調の範囲を超える層がある場合もある。また、設計によっては中間屈折率材料を加えた3種類以上の材料により構成されることもある。
【0044】
このように、無機薄膜だけで形成された近赤外光反射構造体4a、4bによる赤外線カットフィルタは、遷移波長領域の赤外光半値波長でゴースト光の強度が最大となるので、光吸収構造体3を用いて赤外光半値波長の光を吸収させることが好ましい。
【0045】
一般に、近赤外光反射構造体のみで赤外線カットフィルタを構成した場合に、図2に示すようにこの赤外光半値波長は、可視波長領域の一部であり遷移波長領域の600〜750nmの範囲内に形成されることが多い。また、前述のような光吸収構造体3を含んで赤外線カットフィルタを構成する場合は、光吸収構造体3の光吸収特性も考慮して、図4に示すように近赤外光反射構造体の遷移波長領域を赤外側にシフトさせてもよい。つまり、赤外光半値波長を650〜750nm範囲の遷移波長領域内に形成するようにしてもよい。
【0046】
このように、赤外光半値波長が形成される遷移波長領域が600〜750nmの間において、光吸収構造体3は吸収波長領域を有することが好ましい。更には、可視波長領域から近赤外波長領域である400〜1200nm程度までの波長領域において、上述の半値波長を含む650〜800nm程度の波長領域中に、最大の吸収特性を有することがより好ましい。これは650nmよりも短い波長に吸収のピークを有する特性であると、本来必要とする透過波長領域の光も大きく吸収してしまうためである。また、800nmよりも長い波長において吸収ピークを有する特性であると、遷移波長領域で十分な吸収を得ることができない虞れがある。
【0047】
また、実施例1の光学フィルタ1のように、ハイブリッドタイプのフィルタの場合には、有機薄膜による吸収と無機薄膜による反射を考慮し、所望の波長が赤外光半値波長となるように、予め調整することが必要となる場合がある。
【0048】
図3は光吸収構造体3のシアニン系の色素をアクリル系の樹脂バインダ中に分散させた場合の所定の吸収波長領域を有する分光特性を示し、所望の吸収を得られるように色素の濃度及び膜厚を調整し、膜状に塗工して形成している。このように分散された色素は、近赤外光反射構造体4a、4bにより形成された近赤外光を透過する透過波長領域から不透過波長領域に遷移する遷移波長領域の分光透過率の赤外光半値波長を含む波長近傍に吸収帯を有している。
【0049】
光吸収構造体3には赤外光吸収色素としてシアニン系の色素を用いたが、これに限定されることはない。例えば、アゾ系やフタロシアニン系、ナフタロシアニン系、ジイモニウム系、ポリメチン系、アンスラキノン系、ナフトキノン系、トリフェニルメタン系、アミニウム系、ピリリウム系、スクワリリウム系等の色素を単体又は混合して用いることができる。ただし、赤外線カットフィルタの色再現性を考慮し、透過波長領域における吸収が小さく、透過波長領域における透過率が平坦又は連続的に変化する色素が好ましい。
【0050】
この際に、メチルエチルケトン(MEK)やトルエン、メチルイソブチルケトン(MIBK)等の溶剤を添加し、塗工後に乾燥工程を経て揮発させることが一般的であるが、色素や樹脂バインダ、塗工法等の関係から最適な溶剤を適宜に選択すればよい。例えば、溶媒はケトン系に限らず、シクロヘキサン、トルエン等の炭化水素系、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系、メタノール、エタノール等のアルコール系、ジメチルホルムアミド等のアミン系の溶媒や水を、色素・樹脂バインダの溶解性や揮発性等を考慮し、単体又は2種類以上の混合物として最適な組合わせになるように選択すればよい。
【0051】
また、光吸収構造体3に酸化防止剤を添加することで、色素の劣化を低減することができる場合もある。酸化防止剤としては、フェノール系、ビンダードフェノール系、アミン系、ビンダードアミン系、硫黄系、リン酸系、亜リン酸系等が挙げられる。
【0052】
図4は上述の方法により製作された光学フィルタ1の分光透過率特性のグラフ図を示し、図2に示す近赤外光反射構造体4a、4b、図3に示す光吸収構造体3の分光特性を合成したものとなる。赤外線カットフィルタによるゴースト光の強度は、簡易的には(赤外線カットフィルタの分光透過率)・(赤外線カットフィルタの分光反射率)で計算された値が目安となる。光学フィルタを無機薄膜のみで構成した場合に、ゴースト光の強度は赤外光半値波長で最大となり、透過率50%、反射率50%と仮定すると、その値は概ね25%程度となる。
【0053】
実用的には、ゴースト光の強度は少なくとも15〜16%程度までは低減する必要がある。従って、例えば強度を16%以下にまで低減するには、光吸収構造体3を組合わせた場合に、少なくとも透過率40%、反射率40%となるように光吸収構造体3の、前記した赤外光半値波長での吸収率は20%程度以上が必要となる。
【0054】
簡易的な計算では、近赤外光反射構造体4a、4bのみでのゴースト光の最大強度が上述の25%程度であるのに対し、実施例1で作製した光学フィルタ1の遷移波長領域でのゴースト光の最大強度は8%以下となる。ゴースト光に関しては、撮像素子の感度特性、遷移波長領域から不透過波長領域において発生する不要光の合計値などによってもその影響は異なる。しかし、実施例1で作製された光学フィルタ1は遷移波長領域での最大強度を3割以上低減しており、多くの光学系でゴースト光の発生を低減することができる。
【0055】
透明基板2の全面に上述した光吸収構造体3、近赤外光反射構造体4a、4bを成膜した後に、所望の形状に打ち抜くことで10mmの正方形状に加工する。なお、成膜時に透明基板2上にマスクを施すことで、所望の範囲を部分的に成膜し、成膜後にそれぞれを切り抜く方法でも、同様のフィルタを作製することができる。
【0056】
図5は比較のために、特許文献7を基に作製した比較例の光学フィルタの分光透過率のグラフ図である。図5(a)は有機薄膜層によるグラフ図、図5(b)は基板の両面に分割し配置した2つの無機薄膜層によるグラフ図、図5(c)はこれらの有機薄膜層と無機薄膜層とにより作製されたグラフ図を示している。
【0057】
図5(b)から無機薄膜層で形成される赤外光半値波長は、650nm付近の波長であることが分かる。また、図5(c)から有機薄膜層と無機薄膜層を構成した場合であっても、赤外光半値波長は650nm付近であり、図5(b)とほぼ同様の波長となっていることが分かる。また、図5(a)に示された有機薄膜層の特性から、特許文献7で提示されている有機薄膜層の遷移波長領域での吸収率、特に赤外光半値波長における吸収率は、最大でも10%程度と極めて小さい値となっていることが予測される。
【0058】
透過波長領域、不透過波長領域においては、透過率又は反射率の何れかが0に近付くため、上述のように簡易的にはゴースト光の強度は遷移波長領域での透過率と反射率とを乗じた値が支配的となる。従って、この遷移波長領域に十分な吸収を得ることができない場合には、透過率が低いと反射率が高くなり、反射率が低いと透過率が高くなるため、ゴースト光の強度を低減することは極めて困難である。
【0059】
撮像素子の感度特性やフィルタの配置位置等、光学系全体での構成によってもゴースト光の影響は微妙に異なるが、特許文献7で得られる図5(a)のような光学特性では、ゴースト光を十分に低減することは困難である。
【0060】
実施例1では光吸収構造体3の成膜後の硬化方法として熱硬化法を用いているが、他の活性エネルギ線、例えば可視光線、電子線、プラズマ、赤外線、紫外線等を用いてもよい。活性エネルギ線の照射量は樹脂組成物の硬化が進行するエネルギ量であればよく、必要に応じて光重合開始剤や酸化防止剤を添加すればよい。
【0061】
光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ベンジル、4,4−ジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクヘキシルフェニルケトン、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ヒドラゾン、α−アシロキシムエステル等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、単独又は複数で用いてもよい。
【0062】
電子線硬化開始剤としては、ベンゾフェノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、イソプロピルチオキサントン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−フェニルホスフィンオキサイド、メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、単独又は複数で用いてもよい。
【0063】
熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4−アゾビス(4−シアノバレリック酸)等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、単独又は複数で用いてもよい。
【0064】
図6は他の近赤外光反射構造体4a、4bの分光特性を示し、近赤外光反射構造体4a、4bは共に紫外線における第1阻止波長領域W4を有し、近赤外光反射構造体4aは少なくとも第2阻止波長領域W5を遮蔽し、他方の近赤外光反射構造体4bは少なくとも第3阻止波長領域W6を遮蔽するように設計されている。
【0065】
光吸収構造体3は図7に示すような分光透過率を有するシアニン系の色素と、アクリル−スチレン共重合樹脂から成る樹脂バインダと、メチルエチルケトン(MEK)とメチルイソブチルケトン(MIBK)を1:9(重量比)の割合で混合した溶媒とから成る塗布溶液を使用する。この塗布溶液をスピンコート法により、所望の分光を得られる厚さに成膜し、乾燥炉で乾燥・硬化させる。
【0066】
この光吸収構造体3上に、第1阻止波長領域W4と第2阻止波長領域W5とを遮蔽する近赤外光反射構造体4aが真空蒸着法により成膜されている。次に、透明基板2の反対面に、第1阻止波長領域W4と第3阻止波長領域W6とを遮蔽する近赤外光反射構造体4bを真空蒸着法で成膜している。
【0067】
実施例1の光学フィルタ1はゴースト光を低減すると共に、透明基板2の両面に配置した紫外線遮蔽機能を有する近赤外光反射構造体4a、4bにより、光吸収構造体3に紫外線が何れの面からも入射することを防止している。
【実施例2】
【0068】
図8は紫外赤外線カットフィルタ又は赤外線カットフィルタとして機能する実施例2の光学フィルタ11の構成図を示している。透明基板12の片面に光吸収構造体13と近赤外光反射構造体14が積層され、その反対の面には例えば裏面からの反射を防止し、可視波長領域における透過率を高くするための複数の無機薄膜を積層した反射防止構造体15が成膜されている。なお、この反射防止構造体15には、光吸収構造体13と近赤外光反射構造体14を配置した反対面との応力を平衡させる機能を持たせている。
【0069】
なお、樹脂層である光吸収構造体13が表層に露出すると、表層での反射率が問題となる場合があるので、光吸収構造体13を表層に配置するような場合にはこのような反射防止構造体15を光吸収構造体13上に成膜することで改善することができる。
【0070】
近赤外光反射構造体14は実施例1のように透過波長領域から不透過波長領域に遷移する遷移波長領域を有し、光吸収構造体13が吸収する波長の一部と遷移波長領域が重なることが必要である。
【0071】
そして、近赤外光反射構造体14が紫外線に対する遮蔽機能を有していれば、実施例2の光学フィルタ11は近赤外光反射構造体14側から入射する紫外光に対し、光吸収構造体13に入射する紫外線を低減する紫外線遮蔽機能をすることになる。
【実施例3】
【0072】
図9は紫外赤外線カットフィルタとして機能する実施例3の光学フィルタ21の構成図を示し、紫外光反射構造体が使用されている。透明基板22には例えば板厚0.1mmのArtonフィルムを使用している。
【0073】
図9(a)の光学フィルタ21aは透明基板22の片面側に、透明基板22側から光吸収構造体23、近赤外光反射構造体24が形成され、透明基板22の反対の面に紫外光反射構造体25が成膜されている。光吸収構造体23、反射構造体24は実施例1の光吸収構造体3、近赤外光反射構造体4a、4bと同様にして形成され、近赤外光反射構造体24は紫外線遮蔽機能を有している。
【0074】
透明基板22の波長589nmでの屈折率は1.52程度であり、光吸収構造体23のアクリル−スチレン共重合樹脂の屈折率は1.49程度であり、比較的屈折率差が小さい材料を組み合わせる構成としている。
【0075】
この光学フィルタ21aは実施例1で説明した図4に示すような分光透過率特性を有するように設計がされ、更に紫外光反射構造体25が設けられている側の面からの紫外線の入射を制限し、両面からの紫外線の入射を阻止している。
【0076】
このように、光吸収構造体23を表層に配置する場合に、図9(b)の光学フィルタ21bに示すように、更にその表層側に紫外光反射構造体26を配置することもできる。
【0077】
図9(c)、(d)の光学フィルタ21c、21dにおいては、透明基板22の片面に光吸収構造体23、近赤外光反射構造体24が形成され、反対の面に紫外線遮蔽機能を有しない近赤外光反射構造体27、紫外光反射構造体25が形成されている。なお、光学フィルタ21cにおいては紫外光反射構造体25が最表層に、光学フィルタ21dにおいては近赤外光反射構造体27が最表層に配置されている。
【0078】
図9(e)、(f)の光学フィルタ21e、21fにおいては、透明基板22の片面には近赤外光反射構造体24が形成され、反対の面には光吸収構造体23、近赤外光反射構造体27、紫外光反射構造体25が形成されている。光学フィルタ21eと21fでは近赤外光反射構造体27と紫外光反射構造体25が入れ換わっている。
【0079】
このようにして、何れの光学フィルタ21a〜21fにおいても、ゴースト光を低減し、両面から光吸収構造体23への紫外線の入射を防止している。
【実施例4】
【0080】
図10は紫外赤外線カットフィルタとして機能する実施例4の光学フィルタ31の構成図を示し、紫外光吸収構造体が使用されている。透明基板32の一方の面に、透明基板32側から光吸収構造体33と紫外線遮蔽機能を有する近赤外光反射構造体34が形成されている。透明基板32の反対の面に、透明基板32側から紫外光吸収構造体35と紫外線遮蔽機能を有しない近赤外光反射構造体36とが形成されている。
【0081】
紫外光吸収構造体35はスチレン樹脂と、スチレン樹脂に対して1.0wt%のベンゾフェノン系の紫外線吸収剤である2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンとスチレン樹脂から成る樹脂バインダとMIBKとから成る塗布溶液を、スピンコート法により成膜して、乾燥炉で乾燥・硬化させる。
【0082】
次に、光吸収構造体33上に、低屈折率材料であるSiO2と高屈折率材料であるTiO2とから成り、図6の第1阻止波長領域W4と第2阻止波長領域W5とを遮蔽する近赤外光反射構造体34を真空蒸着法で成膜する。また、紫外光吸収構造体35上に第3阻止波長領域W6を遮蔽する近赤外光反射構造体36を同様に成膜する。
【0083】
紫外線吸収剤として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンを用いたが、これ以外にも、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系や、2−(2'−ヒドロキシ−5'−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)−エンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3',5'−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系や、2,4−ジ−t−ブチルフェニル3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシベンゾエート、4−t−ブチルフェニル−2−ヒドロキシベンゾエート、フェニル−2−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系等を利用できるが、これらに限定されたものではない。また、これらの紫外線吸収剤は単独又は複数を混合して用いてもよい。
【0084】
近赤外光反射構造体34、36を双方共に紫外線を遮蔽するように膜設計すると、所望の分光次第では両面で膜応力を均衡させることが難しく、光学フィルタ31の反りを低減できない場合がある。
【0085】
実施例4では、近赤外光反射構造体36は紫外線遮蔽機能を有しないが、反射構造体36と透明基板32の間に紫外光吸収構造体35が配置されており、光学フィルタ31の両面において、光吸収構造体33に紫外線が入射することを防止できる。
【0086】
光吸収構造体33、近赤外光反射構造体34、36、紫外光吸収構造体35の硬化や成膜時に熱が発生し、膜応力・熱応力による変形、水分による分光の変化等が生じ易い。このことから、透明基板32は耐熱性つまりガラス転移点Tgが高く、曲げ弾性率が大きく、吸水率が小さいことが好ましい。
【0087】
図11は実施例4の変形例1の光学フィルタ31’を示している。このように、透明基板32の片面に光吸収構造体33、紫外光吸収構造体35、近赤外光反射構造体36を順次に成膜し、反対の面に近赤外光反射構造体34を設けた構成としてもよい。
【0088】
また、図12は変形例2の光学フィルタ31”を示している。透明基板32の片面に紫外光吸収構造体35、光吸収構造体33、近赤外光反射構造体34を順次に設け、その反対の面に近赤外光反射構造体36を配置した構成とすることもできる。
【0089】
このようにして、ゴースト光を低減すると共に、光学フィルタ31の配置方向に関係なく、光吸収構造体33に紫外線が入射せず、光吸収構造体33の分光変化が少ない光学フィルタ31、31’、31”が得られる。
【実施例5】
【0090】
図13は実施例1〜4による光学フィルタを用いた実施例5のビデオカメラ等の撮像装置の光学的構成図を示している。光路に沿って対物レンズ41、絞り羽根42を有する光量絞り装置43、レンズ44〜46、光学フィルタ部47、固体撮像素子48が配列されている。対物レンズ41、光量絞り装置43、レンズ44〜46から成る撮像光学系49を透過した被写界による光線を、光学フィルタ部47でCCDやCMOSセンサから成る固体撮像素子48の特性に合わせて制限し、適正な画像を得るようになっている。
【0091】
例えば、実施例1で作製された光学フィルタ1を光学フィルタ部47に配置し、撮像装置に組み込んで使用することにより、紫外線、赤外線を遮蔽すると共にゴースト光の発生が低減され、画像の高精度化を実現できる。また、光学フィルタ部47を配置する際に、光学フィルタ1の反射によるゴースト光をより低減できるように、近赤外光反射構造体4aに対し光吸収構造体3の位置を固体撮像素子48に近い位置になるようにする。
【0092】
具体的には、撮像光学系49を透過して固体撮像素子48に結像した光量を判断して、駆動部材により光学フィルタ部47を駆動する。被写界の光量が通常の撮影に十分な量であるときは、固体撮像素子48を覆うように光学フィルタ部47を移動させ、光量が不十分なときは固体撮像素子48にかからないように光学フィルタ部47を光路外に退避させる。
【0093】
光学フィルタ部47の光学フィルタ1の有無により、結像する光線に光路差が発生し、画像が劣化してしまうことがあるが、このような場合には光学フィルタ1の透明基板2と同じ材質の透明基板2をダミーとして挿入することにより、画像劣化を低減できる。
【0094】
また、従来においてはゴースト光を低減するために、光路に対して光学フィルタを傾けて配置することがあったが、本発明では光学フィルタ1によりゴースト光が低減するので、傾けた配置が不要となり、撮影光学系の小型化に対応することが可能である。
【0095】
また、実施例2、3、4で作製された光学フィルタ11、21、31を光学フィルタ部47として配置し、組み込んで使用することにより、同様に紫外線、赤外線による光学特性の変化を著しく低減した撮像装置を得ることが可能である。また、光学フィルタの何れの面から光が入射しても、紫外線が吸収構造体3に至るまでに遮蔽されるような構成となっていれば、光学フィルタを撮像光学系に配置する際に、何れの面を入射光側に向けてもよく、作業性が向上する。
【実施例6】
【0096】
図14は実施例5のビデオカメラ、デジタルスチルカメラ等の撮像装置の撮影光学系に使用するのに適した光量絞り装置の斜視図を示している。光量絞り装置51は図13に示す固体撮像素子48への入射光量を制御するために設けられており、被写界の光量が大きくなるに従って、絞り羽根42が小さく絞り込まれてゆく構造とされている。
【0097】
このとき、絞り羽根42の小絞り状態時に発生する干渉等による像性能の劣化対策として、絞り羽根42の近傍にND(Neutral Density)フィルタ52が配置されている。これにより被写界の明るさが大きくても、絞り羽根42の開口が極端に小さくなることを防止している。
【0098】
被写界からの入射光はこの光量絞り装置51を通過し、撮像光学系49を経て固体撮像素子48に到達することにより、電気信号に変換され画像が生成される。
【0099】
この光量絞り装置51内に、実施例1〜4で作製された光学フィルタ1、11、21、31の何れかが配置されている。また、NDフィルタ52の位置に、NDフィルタ52の代りに光学フィルタ1、11、21、31を配置することも可能であるし、絞り羽根42を支持する絞り羽根支持板53に固定するように配置することもできる。
【0100】
この場合に、光学フィルタの位置や光量絞り装置51の機械的な機構にも依存するが、光学フィルタは最適な形状に切断すればよく、この光学フィルタを撮像光学系49に配置することにより、画像のより高精度化を寄与することができる。このように作製された光量絞り装置51は、ゴースト光の発生を著しく低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0101】
1、11、21a〜21f、31、31’、31” 光学フィルタ
2、12、22、32 透明基板
3、13、23、33 光吸収構造体
4a、4b、14、24、27、34、36 近赤外光反射構造体
15 反射防止構造体
25 紫外光反射構造体
35 紫外光吸収構造体
42 絞り羽根
43、51 光量絞り装置
47 光学フィルタ部
48 固体撮像素子
49 撮像光学系
52 NDフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、樹脂層により形成し所定の吸収波長領域を有する光吸収構造体と、複数の無機薄膜を積層し少なくとも近赤外波長領域の一部を反射する少なくとも1つの近赤外光反射構造体とを有し、前記少なくとも1つの近赤外光反射構造体は光の透過波長領域から不透過波長領域に遷移する遷移波長領域を有し、前記光吸収構造体の前記吸収波長領域の少なくとも一部は前記遷移波長領域と重なることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
可視波長領域から近赤外波長領域の間の波長領域において前記光吸収構造体が吸収する波長のピークは、前記遷移波長領域内にあることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記光吸収構造体が吸収する波長のピークは650〜800nmの波長領域内にあることを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記近赤外光反射構造体の少なくとも1つは、波長600〜750nmの間に透過率が50%となる赤外光半値波長を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記近赤外光反射構造体の透過率が前記遷移波長領域内で50%となる波長において、前記光吸収構造体の吸収率は20%以上であることを特徴とする請求項4に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記光吸収構造体は近赤外波長領域の波長の一部に前記吸収波長領域を有する色素を分散した樹脂層により形成したことを特徴とする請求項1〜5の何れか1つの請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記透明基板の両面に前記近赤外光反射構造体を積層したことを特徴とする請求項1〜6の何れか1つの請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
透明基板上に、樹脂層により形成し所定の吸収波長領域を有する光吸収構造体と、複数の無機薄膜を積層し少なくとも近赤外波長領域の一部を反射する少なくとも1つの近赤外光反射構造体と、紫外光反射構造体又は紫外光吸収構造体とを有し、前記近赤外光反射構造体は、光の透過波長領域から不透過波長領域に遷移する遷移波長領域を有し、前記光吸収構造体の前記吸収波長領域の少なくとも一部は前記遷移波長領域と重なることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項9】
前記紫外光反射構造体は前記近赤外光反射構造体との間に前記光吸収構造体を挟んで配置したことを特徴とする請求項8に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記近赤外光反射構造体の少なくとも1つは紫外線遮蔽機能を有することを特徴とする請求項1〜9の何れか1つの請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
前記紫外光反射構造体は複数の無機薄膜を積層したことを特徴とする請求項8又は9に記載の光学フィルタ。
【請求項12】
前記紫外光吸収構造体は紫外線を吸収する紫外線吸収剤を分散した樹脂層により形成したことを特徴とする請求項8に記載の光学フィルタ。
【請求項13】
前記透明基板に対し何れの面からも前記光吸収構造体に入射する紫外線を遮蔽するようにしたことを特徴とする請求項1〜12の何れか1つの請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項14】
撮像光学系と、請求項1〜13に記載の光学フィルタと、前記撮像光学系に入射して前記光学フィルタを透過した光を電気信号に変換する撮像素子とから成ることを特徴とする撮像装置。
【請求項15】
前記光学フィルタの前記光吸収構造体は前記遷移波長領域を有する前記近赤外光反射構造体よりも前記撮像素子側に配置したことを特徴とする請求項14に記載の撮像装置。
【請求項16】
前記撮像光学系中に、前記光学フィルタを駆動する駆動部材を備えた請求項14又は15に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−137646(P2012−137646A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290427(P2010−290427)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】