説明

光学フィルムおよび位相差フィルム並びに光学フィルムの製造方法

【課題】溶融押出成形時における架橋ゲルの発生を抑制し、光学特性に優れ、外観欠点が少なく、液晶表示装置などに組み込んだ場合に優れた表示品質を発現することが可能な光学フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の光学フィルムは、ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体を溶融押出することによって製膜され、光沢度が140%以上であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性に優れた光学フィルムおよび位相差フィルム並びに光学フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコン、ワードプロセッサ、携帯電話、携帯情報端末などの小型化、薄型化、軽量化に伴い、これらの電子機器に、軽量かつコンパクトという特長を有する液晶表示装置が多く用いられるようになってきている。液晶表示装置には、その表示品位を保つために偏光フィルムなどの各種フィルムが用いられている。また、携帯情報端末や携帯電話向けに液晶表示装置をさらに軽量化するため、ガラス基板の代わりにプラスチック基板を用いた液晶表示装置も実用化されている。
【0003】
液晶表示装置のように偏光を取り扱う装置に用いるプラスチックフィルムには、光学的に透明である他に光学的な均質性が求められる。さらに、ガラス基板に代えて液晶表示装置に用いられるプラスチック基板は、外部応力などによって複屈折と厚みの積で表される位相差の変化が起こりにくいことが要求される。特に、プラスチックフィルムを偏光子保護フィルムとして用いる場合は、広視野角化、大画面化のため、このような特性が強く求められる。また、各種液晶表示装置用光学フィルムへの応用の際にも、加工あるいは使用時の応力による位相差の変化が小さいことが求められる。
【0004】
液晶表示装置に用いられるプラスチックフィルムとしては、通常、非晶性の熱可塑性樹脂が用いられており、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂などのエンジニアリングプラスチックスや、塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂などからなるフィルムが知られている。
【0005】
これらのなかでは、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂が、ガラス転移温度が比較的高く、光弾性係数が非常に小さいため、環境変化に対する位相差の安定性が優れていることから、位相差フィルムのベースポリマーとしてより好適に用いられる。
【0006】
位相差フィルムは、通常、これらの熱可塑性樹脂を、流延(溶液キャスト)製膜法、カレンダー製膜法、溶融押出製膜法などにより製膜することにより、光学フィルムを作製した後、縦方向および/または横方向に延伸することで製造される。
【0007】
光学フィルムの製膜方法としては、高速生産性を考慮すると、溶融押出法が最も効率的であるが、溶融押出法では、押出機に投入された粉体または粒体の樹脂が、押出機内で発生する剪断応力によって架橋ゲルとなり、成膜されたフィルムの外観を著しく低下させるという問題があった。
【0008】
このような問題に対し、近年では、押出機内で架橋ゲルが発生するのは、剪断応力により生成したポリマーラジカルが再結合するためであるとして、滑剤を添加したり、低圧縮比スクリューを使用したりすることにより、架橋ゲルの発生を抑制する方法が試みられている。
【0009】
しかしながら、このような方法で得られる光学フィルムについても、液晶表示装置などに用いられるようなフィルムとしては、満足いくものではなく、さらなるフィルムクリーン化、表面光沢、透明性、外観品質の向上が要求されている。
【0010】
なお、溶融押出によって環状オレフィン系樹脂製フィルムを製膜する際に、単軸スクリューの計量部での剪断速度を10sec-1以上に設定し、ゲルを破断し、微細なゲルに分割して、フィルムの外観を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−311813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述した環状オレフィン系樹脂の製膜方法は、微細なゲルに分割して成形品の外観を向上させるものであって、架橋ゲルの発生を根本から抑制するものではないことから、破断した微細なゲルがフィルム表面の光沢、透明性を低下させる結果、光学用途としては十分満足のいくものではなかった。
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、溶融押出成形時における架橋ゲルの発生を抑制し、光学特性に優れ、外観欠点が少なく、液晶表示装置などに組み込んだ場合に優れた表示品質を発現することが可能な光学フィルムおよび位相差フィルム並びに光学フィルムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光学フィルムは、ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体を溶融押出することによって製膜された光学フィルムであって、光沢度が140%以上であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明において、ノルボルネン系モノマーとは、その構造内にノルボルネンやテトラシクロドデセンなどに代表されるノルボルネン環構造を有する不飽和化合物を表し、オレフィン系モノマーとは直鎖状オレフィン、環状オレフィンに代表されるノルボルネン環を有さない炭素と水素からなる不飽和炭化水素化合物を表す。
【0015】
上記ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体の市販品の具体例としては、例えば、「APEL」(三井化学社製)、「TOPAS」(チコナ社製)などが挙げられる。
【0016】
上記ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環を有するものであれば特に限定されず、例えば、特開平5−39403号公報、特開平5−212828号公報、特許第3038825号公報、特許第3019741号公報、特許第3030953号公報などに記載されている公知のノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0017】
具体的には、ノルボルネン、メタノオクタヒドロナフタレン、ジメタノオクタヒドロナフタレン、ジメタノドデカヒドロアントラセン、ジメタノデカヒドロアントラセン、トリメタノドデカヒドロアントラセンなどやこれらの置換体;ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロシクロペンタジエン、メタノオクタヒドロベンゾインデン、ジメタノデカヒドロベンゾインデン、メタノオクタヒドロフルオレン、ジメタノヒドロオクタフルオレンなどやこれらの置換体などが挙げられる。
【0018】
なお、これらのノルボルネン系モノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記置換体における置換基としては、公知の炭化水素基または極性基であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、アルキル基、アルキリデン基、アリール基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン基、水酸基、カルボン酸基、無水酸基、エステル基、アミノ基、ピリジル基、シアノ基、シリル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。これらの置換基は、単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0020】
上記置換基により置換されたノルボルネン系モノマーとしては特に限定されず、例えば、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−2−ノルボルネン、6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチル−1,4:5,8−エチリデン−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−クロロ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−シアノ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−ピリジル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−メトキシカルボニル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4−ジメタノ−1,4,4a,4b,5,8,8a,9a−オクタヒドロフルオレン、5,8−メタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロ−2,3−シクロペンタジエノナフタレン、4,9:5,8−ジメタノ−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9−トリメタノ−3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタアントラセンなどが挙げられる。
【0021】
上記オレフィン系モノマーとしては特に限定されず、例えば、エチレンやα−オレフィンなどの直鎖状オレフィン系モノマーや、シクロペンテン、シクロオクテンなどの環状オレフィン系モノマーなどが挙げられる。
【0022】
上記ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体の数平均分子量の好ましい下限は5000、好ましい上限は15万である。数平均分子量が5000未満であると、得られる光学フィルムの機械的強度が低下することがあり、15万を超えると、溶融粘度が上昇することに伴い、成形性が低下することがある。より好ましい下限は1万、より好ましい上限は10万である。
【0023】
なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法によって測定された標準ポリスチレン換算値のことをいう。
【0024】
本発明において、光学フィルムの品質を阻害しない範囲内において、耐熱性、耐紫外線性、平滑性および成形性などを向上させるために、酸化防止剤、フェノール系、リン系などの老化防止剤、フェノール系などの熱劣化防止剤、アミン系などの帯電防止剤、脂肪族アルコールのエステル、多価アルコールの部分エステルや高級脂肪酸およびこれらのアミドなどの滑剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤などの添加剤を含有してもよい。上記添加剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6,ジメチルフェノール、2,2−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、トリス(ジ−ノニルフェニルホスファイト)などが挙げられる。
【0026】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−(2’−ジヒドロキシ−4’−m−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0027】
また、上記滑剤としては、例えば、パラフィンフェノス、硬化油などが挙げられ、上記帯電防止剤としては、例えば、ステアロアジトプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチルアンモニウムトレートなどが挙げられる。
【0028】
なお、上記滑剤として粉状のものを添加した場合は、装置や工程が複雑化するため注意する必要がある。
【0029】
本発明において、光学フィルムの厚みとしては、10〜500μmであることが好ましく、より好ましくは、30〜200μmである。
【0030】
本発明において、光沢度は、表面光沢度自動式測色色差計(AUD−CH−2型−45,60、スガ試験機株式会社製)を使用し、シートに光を入射角60度で照射し、同じく60度で反射光を受光したときの反射光束ψsを測定し、屈折率1.567のガラス表面からの反射光束ψ0 sとの比により、下式により求めた。
【0031】
表面光沢度(Gs)=(ψs/ψ0 s)×100
本発明によれば、液晶表示装置などに組み込んだ場合に優れた表示品質を得ることができる。すなわち、光沢度が140%以上であるため、散乱することなく像を正しく映すので、液晶表示装置の広視野角化、大画面化にも対応して優れた表示品質を発現することができる。
【0032】
本発明の光学フィルムは、霞度が2%以下であることが好ましい。霞度が2%以下であると、拡散光が少なく、透過率が高いので、液晶表示装置などに組み込んだ場合に優れた表示品質を発現することが可能である。
【0033】
本発明において、霞度は、霞度ヘイズ測定機(NDH-300A、日本電色工業株式会社製)を使用し、フィルムに光を照射して透過した光線の全量を表す全光線透過率(Tt )と、フィルムにより拡散されて透過した拡散光線透過率(Td )との比から下記式により内部ヘイズおよび外部ヘイズを求める。
【0034】
ここで、全光線透過率(Tt )は、入射光と同軸のまま透過した平行光線透過率(Tp )と拡散光線透過率(Td )との和である。
【0035】
ヘイズ(%)=Td /Tt ×100
なお、内部ヘイズの測定は、フィルムの両面にシリコーンオイルを塗布した後、ガラス板でこのフィルムの両面を挟み、フィルム外側の影響を消去することにより行った。霞度は、上式により得られた内部ヘイズおよび外部ヘイズから下式により求めた。
【0036】
霞度(%)=内部ヘイズ(%)+外部ヘイズ(%)
本発明の光学フィルムは、100μm以上の外観欠点が10個/m2 以下であることが好ましい。100μm以上の外観欠点が10個/m2 を超えると、光学フィルムとして液晶表示装置などに用いられる際に、表示品質を低下させることとなる。
【0037】
なお、現在要求されている液晶表示装置の表示品質を満たすためには、好ましい上限は3個/m2 であり、より好ましい上限は1個/m2 である。
【0038】
上記外観欠点の数は、例えば、マイクロスコープを用いた透過法で、架橋ゲルに起因する長径が100μm以上の外観欠点をカウントし、単位面積当たりに換算して算出する方法などによって求めることができる。
【0039】
本発明の位相差フィルムは、請求項1記載の光学フィルムを延伸して形成されたことを特徴とする。
【0040】
なお、延伸処理の具体的方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0041】
本発明の光学フィルムの製造方法は、請求項1に記載の共重合体を溶融押出する際、溶融押出するためのスクリューのフィード部の剪断速度を15sec-1以下とすることを特徴とするものである。スクリューのフィード部の剪断速度が15sec-1以下であると、押出機内で発生する剪断応力を最小限に抑制することができ、架橋ゲルの発生を光学フィルムの外観品質上問題のない程度まで少なくすることができる。すなわち、未溶融樹脂への負荷剪断を抑え、剪断により生成される架橋ゲルを少なくすることができる。
【0042】
フィード部の剪断速度が15sec-1よりも大きいと、未溶融樹脂への負荷剪断が大きくなり、架橋ゲルが多く生成され、得られる光学フィルムの光学特性、外観に影響を及ぼす。したがって、スクリューのフィード部では、剪断をかけずに樹脂を溶融させることが好ましく、フィード部の剪断速度は10sec-1以下がより好ましい。
【0043】
本発明の光学フィルムの製造に用いられるスクリューの一例を図1に示す。
【0044】
なお、本発明に用いられるスクリューは、フィード部の剪断速度が15sec-1以下になるようなスクリューまたは条件を設定すればよく、このような具体例に限定されるものではない。
【0045】
図1に示すように、スクリュー1は、フィードゾーン(供給部)2、コンプレッションゾーン(圧縮部)3およびメタリングゾーン(計量部)4からなる単軸のスクリューであり、押出機のシリンダー内に回転可能な状態で設置することによって使用される。
【0046】
ここで、コンプレッションゾーン3は、スクリューの先端部に行くに従ってスクリュー谷径が大きくなっており、フィードゾーン2およびメタリングゾーン4は、スクリュー谷径が均一となっている。
【0047】
なお、図1には、コンプレッションゾーン3において、スクリュー谷径がスクリュー先端へ向かって徐々に大きくなるスクリューを図示しているが、コンプレッションゾーン3において、スクリューピッチがスクリュー先端へ向かって徐々に小さくなるスクリューを用いてもよい。
【0048】
このように、コンプレッションゾーン3とは、スクリュー1のうち、スクリュー谷径がスクリュー先端へ向かって徐々に大きくなるか、または、スクリューピッチがスクリュー先端へ向かって徐々に小さくなる部位をいい、フィードゾーン2とは、スクリューの根元からコンプレッションゾーン3までの部位をいい、メタリングゾーン4とは、コンプレッションゾーン3からスクリューの先端までの部位をいう。そして、フィードゾーン2から供給された樹脂は、スクリュー1の回転によって図に示す方向に移送され、圧縮、溶融混練される。
【0049】
上記スクリューの圧縮比は、2.5未満であることが好ましい。圧縮比が2.5以上であると、発生する剪断応力によって、架橋ゲルが生成することがある。ここで、圧縮比とは、フィードゾーンとメタリングゾーンの溝の深さの比のことをいう。
【0050】
上記樹脂投入部でのスクリュー谷径、上記フィードゾーンでのピッチ拡大率以外のスクリュー形状については特に限定されないが、充満率の低下などの不都合が生じる場合には、光学フィルムの品質を損なわない範囲で溝の深さやフライト幅などを調整してもよい。
【0051】
上記スクリューの種類としては、フルフライトスクリューが好ましい。
【0052】
上記スクリューの材質としては特に限定されないが、焼け焦げ付着防止の観点から、表面にメッキまたはセラミックコーティング処理が施されていることが好ましい。上記メッキまたはコーティングとしては、クロムメッキ、チタンカーバイドコーティング、タングステンカーバイドコーティングなどが挙げられる。
【0053】
上記スクリューを使用することが可能な成形機としては、特に限定されないが、例えば、Tダイ押出成形機(単層および多層)、射出成形機、ダイレクトブロー成形機、射出ブロー成形機、インフレーション成形機、カレンダー成形機、テンター法二軸延伸成形機、チューブラー法二軸延伸成形機、一軸延伸成形機、異形押出成形機、パイプ成形機、マンドレル成形機、押出紡糸成形機などを用いることができる。
【0054】
上記成形機を用いる場合の原料樹脂の供給方法としては、振動ホッパー、強制フィーダー付ホッパー、窒素置換ホッパーなどの装置が本発明の目的を損なわない範囲で使用可能であり、飢餓フィードも架橋ゲル発生の抑制に効果的である。なお、上記飢餓フィードとは、ホッパーに樹脂を充満させて溶融押出を行った場合の吐出量より少ない量の樹脂をフィーダーで供給することにより溶融押出する方法であるが、追加設備としてフィーダーが必要である。
【0055】
上記成形機を用いて押出成形する際の加熱温度は、使用する樹脂、得られる光学フィルムに付与したい性能などによって適宜調整されるが、好ましい下限は原料樹脂のガラス転移温度(Tg)+50℃である。Tg+50℃以上で加熱することにより、樹脂の粘度が適度に低下し、剪断速度を高くしても、剪断応力はあまり高くならず、架橋ゲルの発生を防止することができる。Tg以上、Tg+50℃未満であると、樹脂の粘度が非常に高くなり、押出機内では、大きな剪断応力が発生するので、架橋ゲルが生成されやすい状態になる。一方、Tg未満とすると、押出機内の樹脂は粉体や粒体の固体として存在するので、スクリューによる剪断を加えても、滑りや割れにより大きな剪断応力が発生することはなく、架橋ゲルがあまり増加しなくなる。
【0056】
ここで、ガラス転移温度とは、原料樹脂をフィルム状に成形し、該フィルムに0.01%の変形を10Hzで与え、25〜250℃まで昇温する動的粘弾性測定装置(RSA)で得られた引っ張り損失弾性率E”のピークトップ温度を意味する。
【0057】
なお、樹脂のTgは、示差走査熱量計(DSC)で測定される変位温度を示すことが一般的であるが、溶融押出法を用いてフィルムを作製する場合においては、DSCのような静的な環境における変位温度ではなく、樹脂に対して応力のかかった動的な環境下での変位温度が重要となる。そこで、本発明の樹脂組成物のTgは、フィルムにおいて、上記条件でRSAにより測定されるE”のピークトップを示す温度を意味することとする。
【0058】
また、押出成形を行う際のシリンダーの設定温度は、黄変や焼け焦げが発生しない程度に高めにすることが好ましく、好ましい下限がTg+120℃、好ましい上限がTg+150℃である。上記シリンダーの設定温度をこのような範囲とすることで、剪断応力が非常に小さくなり、架橋ゲルの生成を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、溶融押出成形時における架橋ゲルの発生を抑制し、光学特性に優れ、外観欠点が少なく、液晶表示装置などに組み込んだ場合に優れた表示品質を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体として、テトラシクロドデセンとエチレンの共重合体(APEL6015T、三井化学社製、Tg=145℃)を用い、この樹脂を、樹脂投入部の谷径が25mmであるフルフライトスクリュー(L/D=28)を有するφ30mm押出機に供給して溶融、混練し、Tダイから溶融押出を行って、平均厚みが100μmの光学フィルムを得た。
【0061】
なお、原料の投入は、押出機に設けたホッパーに原料を充満させた後、自重によって投入させる自然投入とした。また、樹脂投入口からホッパーに窒素を送り込んで酸素を排出した。さらに、スクリュー回転数Ns=30rpm、設定温度条件は、以下の通りとした。
【0062】
C1/C2/C3/C4/AD1/PF/AD2/D
=200/230/250/250/250/250/250/250℃
ここで、C1〜4は押出機のシリンダー設定温度、AD1、2は、各装置接続部アダプタ設定温度、DはT型金型設定温度を表し、PFは、押出ライン中に設置したステンレス繊維からなる焼結フィルタ部分の設定温度を表す。
(実施例2)
ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体として、ノルボルネンとエチレンの共重合体(Topas6013、Ticona社製、Tg=140℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。
(比較例1〜2)
押出機のスクリューのフィード部の剪断速度を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。
(評価)
(1)外観欠点の個数評価
得られた光学フィルムを200mm×250mmに切り取ったサンプルを10枚ずつ作製し、このようなサンプルについて、マイクロスコープを用いて透過法によって、架橋ゲルに起因する長径が100μm以上の外観欠点をカウントし、単位面積1m2 当たりに換算した。なお、得られた結果をもとに以下の基準で評価を行った。
○:外観欠点個数が10個/m2 以下であった。
×:外観欠点個数が10個/m2 を超えていた。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
優れた表示品質を有する光学フィルムを得ることができることから、液晶表示装置などの表示品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の光学フィルムを製膜するための押出成形機のスクリューの一例を示す正面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの共重合体を溶融押出することによって製膜された光学フィルムであって、光沢度が140%以上であることを特徴とする光学フィルム。
【請求項2】
霞度が2%以下であることを特徴とする請求項1記載の光学フィルム。
【請求項3】
100μm以上の外観欠点が10個/m2 以下であることを特徴とする請求項1または2記載の光学フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光学フィルムを延伸して形成されたことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項5】
請求項1に記載の共重合体を溶融押出する際、溶融押出するためのスクリューのフィード部の剪断速度を15sec-1以下とすることを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−160720(P2007−160720A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360071(P2005−360071)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】