説明

光学フィルムの製造方法、光学フィルム、液晶表示装置、および画像表示装置

【課題】接合された複数のフィルムを連続して搬送方向に延伸しても、接合部において延伸による破断のおそれが少ない光学フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】
フィルム36aを送り出して延伸槽10内で搬送方向に延伸し、フィルム36aの供給が終了するとフィルム36aの後端とフィルム40aの先端とを接合する。このとき接合部が、延伸方向と直交する方向となす接合角度が10°以上60°以下となるよう形成される。次いでフィルム40aを送り出して、延伸槽10内で搬送方向に延伸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルムの製造方法、光学フィルム、液晶表示装置、および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置等において光学フィルムが使用される。特に、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置には偏光子が用いられる。偏光子の製造方法として、帯状のポリビニルアルコール系原反フィルムをロール状に巻回して形成された原反ロールフィルムから原反フィルムの先端部を延伸装置に送り入れ、所定の処理をしつつ延伸させることにより製造する方法が知られている(特許文献1,2)。
【0003】
一般に、光学フィルムの処理工程は複数の処理槽から構成される。処理槽中のガイドロールに長尺フィルムを通す作業は、浴中に直接手を入れて長時間手作業で行なったり、導き紐を用いたりして行なわれていた。そのため、作業性及び生産効率が劣るという問題があった。
【0004】
この問題を解決するため、先行の原反フィルムの後端と後続の原反フィルムの先端をヒートシールにより接合し、接合部を円弧状に切断することにより、延伸工程でのフィルム幅の不均一性や接合部の破断を防止することが提案されている(特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−122988号公報
【特許文献2】特開2008−250326号公報
【特許文献3】特開2009−040034号公報
【特許文献4】特開2009−051202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、先行の原反フィルムの後端と後続の原反フィルムの先端をヒートシールにより接合し、接合部を円弧状に切断する方法では、延伸工程でのフィルム幅の不均一性、接合部の破断を抑制することは十分でなかった。特に偏光子の性能の観点から高い延伸倍率(初期状態の5〜7倍)が必要とされる場合、接合部の破断が生じ易いという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、接合された複数のフィルムを連続して搬送方向に延伸しても、接合部において延伸による破断のおそれが少ない光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様によれば、光学フィルムの製造方法は、第一のポリビニルアルコール系フィルムの後端と第二のポリビニルアルコール系フィルムの先端とを接合して、延伸方向と直交する方向となす接合角度が20°以上60°以下となるよう接合部を形成する工程と、前記第一のポリビニルアルコール系フィルムに続けて前記第二のポリビニルアルコール系フィルムを送り出す工程と、接合された前記第一のポリビニルアルコール系フィルムと前記第二のポリビニルアルコール系フィルムを連続して搬送方向に3〜8倍延伸する工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
発明者らは、ポリビニルアルコール系フィルムの延伸工程での接合部とその近傍でのフィルム幅方向における変形(フィルム幅の不均一性)、特に、不均一性による接合部の破断特性を鋭意検討した。ポリビニルアルコール系フィルムが搬送方向に3〜8倍延伸されるとき、帯状フィルムは幅方向に収縮する。しかしながら、ポリビニルアルコール系フィルムが搬送方向に延伸されるときでも、接合部は幅方向にほとんど収縮しない。そのため、接合部が延伸方向と直交する方向に沿うように形成されたとき、帯状フィルム上において、接合部が形成された領域と他の領域では、フィルムの幅が大きく異なることになる。これが、フィルム幅の不均一性や破断を引き起こすことを見出した。
【0010】
本発明によれば、第一のポリビニルアルコール系フィルムの後端と第二のポリビニルアルコール系フィルムの先端とを接合する接合部が、延伸方向と直交する方向に対し接合角度が20°以上60°以下となるよう斜めに形成される。これにより、接合部のフィルム幅方向成分(ベクトル)が接合角度の増加に伴って小さくなる。接合された第一のポリビニルアルコール系フィルムと第二のポリビニルアルコール系フィルムを連続して搬送方向に延伸した場合でも、接合部が形成された領域と他の領域との収縮差が減少する。その結果、フィルム幅の不均一性、やフィルムの破断を抑制することができる。
【0011】
接合部の接合角度は大きいほど、フィルム幅の不均一性、及びフィルムの破断を抑制する効果が大きくなる。つまり、理論的には90°未満であればよい。一方、接合角度が大きすぎると、接合部を形成するための設備等が大きくなりすぎる。したがって、接合角度の上限は、60°以下が好ましい。接合角度は20°以上60°以下が好ましく、さらに30°以上60°以下が好ましい。
【0012】
本発明の光学フィルムの製造方法において、好ましくは、前記延伸工程の前に、前記接合部の両端を円弧状に切断する工程を有する。接合部の両端を円弧状に切断することにより、延伸時における破断耐性を向上することができる。
【0013】
本発明の光学フィルムの製造方法において、好ましくは、前記接合部の両端を円弧状に切断する工程において、以下の式を満たす。
【0014】
0.01≦(1−(L/W0))×100≦29(W0:切断前のフィルム幅方向長さ、L:切断後の接合部のフィルム幅方向成分の長さ)
本発明の光学フィルムの製造方法において、好ましくは、前記接合部が熱融着により形成される。
【0015】
接合方法としては、前記熱融着による接合のほか、両面粘着テープによる粘着接合もある。しかしながら、偏光子製造工程のように溶槽中延伸処理を行う場合には粘着層の剥がれが起き易く、粘着接合は好ましくない。ここで、熱融着とはヒートシーラー、超音波により加熱と加圧を行って、樹脂を軟化して、他の物質に付着することをいう。
【0016】
本発明の光学フィルムの製造方法において、好ましくは、前記接合部を形成する前に、前記第一のポリビニルアルコール系フィルムの後端と前記第二のポリビニルアルコール系フィルムの先端とを略同等の接合角度に裁断する工程をさらに含む。
【0017】
第一のポリビニルアルコール系フィルムの後端と第二のポリビニルアルコール系フィルムの先端における不要な部分を切除することにより、ポリビニルアルコール系フィルムの搬送をスムーズに行なうことができる。
【0018】
本発明の光学フィルムは、前記記載の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0019】
本発明の液晶表示装置は、前記光学フィルムを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の画像表示装置は、前記光学フィルムを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法によれば、接合されたポリビニルアルコール系フィルムを連続して搬送方向に延伸しても、接合部での破断を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】光学フィルムの製造ラインを示す構成図。
【図2】フィルムと接合装置の配置を示す平面図。
【図3】フィルムの接合動作を示す説明図。
【図4】フィルムと接合部の位置関係を示す平面図。
【図5】接合部の両端を切断した状態を示す平面図。
【図6】接合角度、フィルムの幅、接合部の幅の関係を示す平面図。
【図7】条件、及び評価結果をまとめた表図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0024】
以下、添付図面を参考に、本発明に係る光学フィルムの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。光学フィルムとして偏光フィルムを例に説明する。図1は、光学フィルムを製造するための製造ラインの概略構成図である。製造ライン1は、フィルム供給部2、フィルム処理部3、フィルム乾燥部14、ラミネート部16、フィルム巻取部18を有する。ここで、フィルム供給部2は、複数のフィルムロールを保持するターレット装置24、先行するフィルムと後続のフィルムを接合する接合装置26、アキューム機構28を含む。
【0025】
ターレット装置24は、ターレットアーム30を有している。ターレットアーム30は、支柱32に軸34を支点として回転可能に設けられている。ターレットアーム30の一方端には、フィルム36aをロール状にした第一のフィルムロール36bが軸38に回転可能に支持される。図に示すように、第一のフィルムロール36bはフィルム供給位置にセットされる。ターレットアーム30の他方端にはフィルム40aをロール状にした第二のフィルムロール40bが軸42に回転可能に支持される。第一のフィルムロール36bからフィルム36aが供給される。第一のフィルムロール36bでのフィルム36aの供給が終了すると、ターレットアーム30が回転する。これにより、第二のフィルムロール40bが移動し、フィルム供給位置にセットされる。第二のフィルムロール40bからフィルム40aが供給される。フィルム40aが供給される間に、第一のフィルムロール36bがターレットアーム30の一方端に取り付けられる。上述の操作が繰り返し実行され、フィルム36a、40aが連続的に供給される。
【0026】
接合装置26は、受け台44とシールヘッド46を有する。シールヘッド46はヒータを備える。ヒータによりシールヘッド46の先端で受け台44と対向する部分が加熱される。先行するフィルム36aの先端と後続のフィルム40aの後端とが、加熱されたシールヘッド46と受け台44により加圧される。これにより、フィルム36aとフィルム40aとが熱融着される。本発明において、図2に示すように、矢印の搬送方向(延伸方向)と直交する方向となす角(θ)が20°以上60°以下となるよう、接合装置26がフィルム36a,40aに対し斜めに配置される。
【0027】
図1に示すように、アキューム機構28は、固定ローラ50と可動ローラ52を備える。可動ローラ52を上下に移動させることにより、フィルムの接合に必要な時間等を調整することができる。
【0028】
フィルム処理部3は、膨潤槽4、染色槽6、硬膜槽8、延伸槽10、洗浄槽12を含む。所謂ロール延伸方式によりフィルム36a、40aを逐次延伸させるように構成されている。送り入れられたフィルム36a、40aをロール間で挟持し、搬送方向に送り出すように配された1対のニップローラ39aよりなる複数のニップ部が設置される。搬送方向の下流側のニップローラ39aを上流側のニップローラ39aよりも高速にすることにより、フィルム36a、40aが延伸される。フィルム処理部3は、ニップローラ39aに加えて、各槽にフィルムフィルム36a、40aを通すため、フィルムの移動経路を規制する複数のガイドローラ39bを備える。
【0029】
次に、本実施形態の接合の手順を図1〜図3を参照して説明する。第1にフィルム供給部2からフィルム36aが膨潤槽4に供給される。フィルム36aは膨潤槽4、染色槽6、硬膜槽8、延伸槽10、洗浄槽12へ搬送される。フィルム36aは、各槽を通過する間にフィルム処理部3のニップローラ39aにより、搬送方向に3〜8倍延伸される。フィルム36aは乾燥装置14により、水分量が10質量%程度となるまで乾燥される。乾燥されたフィルム36aは、ラミネート部16により両面に保護フィルム64aが貼り合わされる。フィルム36aは、フィルム巻取部18によりロール状に巻き取られる。
【0030】
次に、第一のフィルムロール36bからのフィルム36aの供給が終了すると、フィルム36aの後端が接合装置26にセットされる。なお、膨潤槽4にはアキューム機構28に収納されていたフィルム36aが搬送される。したがって、各槽へのフィルムの搬送を停止させることなく、フィルム36aの後端を接合装置26にセットすることができる。
【0031】
第一のフィルムロール36bの供給終了に合わせて、ターレットアーム30を回転して、第二のフィルムロール40bがフィルム供給位置にセットされる。第二のフィルムロール40bからフィルム40aが供給される。フィルム40aが接合装置26に搬送される。フィルム40aの先端が接合装置26にセットされる。
【0032】
フィルム36aの後端とフィルム40aの先端が接合装置26に位置決めされると、受け台44と加熱されたシールヘッド46とによりフィルム36aの後端とフィルム40aの先端が加圧される。これにより、フィルム36aとフィルム40aとが熱融着される。本実施の形態において接合装置26が、図2に示すように、フィルム36a,40aの搬送方向(つまり、フィルムの延伸方向)と直交する方向に対して20°以上60°以下に斜めに設置される。
【0033】
その結果、図4に示すように、フィルム36aの後端とフィルム40aの先端に形成される接合部80が、接合角度θ1が20°以上60°以下となるよう形成される。熱融着する際の条件として温度200℃前後が好ましい。150℃では、融着が十分でなく、250℃では、フィルムの融解が過度に進み接合部の強度を十分に保てないからである。加熱後の冷却時間を含めて、所要時間は2秒〜10秒が好ましい。0.2〜0.8MPaで加圧する。
【0034】
さらに、本実施の形態において、フィルム供給部2には、接合装置26の前にフィルムカッター(不図示)を配置するのが好ましい。フィルムカッターにより、フィルム36aの後端とフィルム40aの先端を接合角度θ1に沿って切除することができる。その後フィルム36aの後端とフィルム40aの先端とが接合装置20により接合される。予めフィルム36aの後端とフィルム40aの先端を接合角度θ1に沿って切除するので、接合後においてフィルム36a,40aに余剰部分が生じない。
【0035】
ここで余剰部分とは、図4に示すように、先行するフィルム36aについては接合部80とフィルム36aの後端までの領域、後続のフィルム40aについては接合部80とフィルム40aの先端までの領域を意味する。こられの余剰部分は、固定されていないので、フィルムの搬送中にばたつく場合がある。それがフィルムのスムーズな搬送を阻害するおそれがある。したがって、フィルムの余剰部分を予め切除することが好ましい。
【0036】
本実施の形態の光学フィルムの製造方法は、フィルム36aの後端とフィルム40aの先端を延伸方向と直交する方向となす接合角度が20°以上60°以下の接合部により接合し、順次連続してフィルム処理部3に送り入れ、所定の処理を施しつつ延伸させて光学フィルムとするものである。
【0037】
図5は、先行するフィルムの後端と後続のフィルムの先端を接合した状態と、接合部の両端を円弧状に切断した状態を示す。フィルム36aの後端とフィルム40aの先端を接合するための接合部80は、接合角度θ1が20°以上60°以下となるよう形成される。本実施の形態では、フィルムカッターにより、フィルム36aの後端とフィルム40aの先端が接合角度θ1に沿って切除される。接合部80は、その両端で円弧状に切断される。円弧状に切断することにより、延伸に起因する破断耐性が向上する。その理由を説明する。仮にフィルム36aの後端とフィルム40aの先端がフィルム幅方向でずれている場合(図5(A))、その部分に応力が集中してしまう。接合部の両端を円弧状に切断することにより(図5(B))、フィルム36aの後端とフィルム40aの先端のフィルム幅方向でのずれが解消される。これにより接合部の両端部に応力が集中するのを防止することができる。したがって、接合部の両端を円弧状切断する場合、先行するフィルムと後続のフィルムの接合による段差(ずれ)を無くす事ができる程度の曲率であればよい。接合部80の切断後、フィルム幅W0と切断後の接合部のフィルム幅方向成分の長さLは、以下の式を満たすことが好ましい。
【0038】
0.01(%)≦(1−(L/W0))×100≦29(%)
29%より大きくなると、延伸時にフィルムが破断するおそれがあり、0.01%より小さくなると、実質的に円弧状切断の効果が発揮できないからである。
【0039】
以下、一般的な偏光子に必要な材料、及び製造工程を説明する。本実施の形態において、光学フィルムとしては、偏光フィルムを挙げることができる。帯状のフィルムとしては、偏光フィルムに用いられるポリビニルアルコール系フィルムを挙げることができる。ポリビニルアルコール系フィルムとしては、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、部分鹸化ポリビニルアルコールフィルム又はポリビニルアルコールの脱水処理フィルム等を挙げることができる。通常、これらのフィルムは、ロール状に巻回されたフィルムロールの状態で用いるものである。
【0040】
ポリビニルアルコール系フィルムの材料であるポリマーの重合度は、一般に500〜10,000であり、1000〜6000の範囲であることが好ましく、1400〜4000の範囲にあることがより好ましい。さらに、部分鹸化ポリビニルアルコールフィルムの場合、その鹸化度は、例えば、水への溶解性の点から、75モル%以上が好ましく、より好ましくは98モル%以上であり、98.3〜99.8モル%の範囲にあることがより好ましい。
【0041】
ポリビニルアルコール系フィルムの製法としては、水または有機溶媒に溶解した原液を流延成膜する流延法、キャスト法、押出法等任意の方法で成膜されたものを適宜使用することができる。フィルムの位相差値は、5nm〜100nmのものが好ましく用いられる。また、面内均一な偏光フィルムを得るために、ポリビニルアルコール系フィルム面内の位相差バラツキはできるだけ小さい方が好ましく、フィルムとしてのポリビニルアルコール系フィルムの面内位相差バラツキは、測定波長1000nmにおいて10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
【0042】
本実施の形態においては、フィルム36aが送り出され、フィルム処理部3において、
複数の槽に通す浸漬工程の処理等が実施される。同時に、ニップローラ39aにより延伸
処理が施され、フィルム36aの移動経路が複数のガイドローラ39bで規制される。
【0043】
浸漬工程の処理として、図1で示されるように、膨潤槽4に通すことでフィルムを膨潤する膨潤工程、染色槽6に通すことでフィルムを染色する染色工程、硬膜槽8に通す等によってフィルム構成高分子を架橋させる硬膜工程、延伸槽10に通すことで延伸し易くする延伸槽浸漬工程、洗浄槽12に通すことによりフィルムを洗浄する洗浄工程の処理を実施する。尚、洗浄槽12による洗浄工程後は、通常、乾燥装置14による乾燥工程が実施される。
【0044】
膨潤工程としては、例えば、水で満たされた膨潤槽4に浸漬する。これによりフィルムが水洗され、フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができる。さらに、フィルムを膨潤させることで染色ムラ等の不均一性を防止できる。
【0045】
膨潤槽4中には、グリセリンやヨウ化カリウム等を適宜添加してもよい。添加する場合、その濃度は、グリセリンは5重量%以下、ヨウ化カリウムは10重量%以下であることが好ましい。膨潤槽4の温度は、20〜50℃の範囲とすることが好ましく、25〜45℃とすることがより好ましい。膨潤槽4への浸漬時間は、2〜180秒間が好ましく、10〜150秒間がより好ましく、60〜120秒間が特に好ましい。膨潤槽4中でポリマーフィルムを延伸してもよい。延伸倍率は膨潤による伸展も含めて1.1〜3.5倍程度が好ましい。
【0046】
染色工程としては、例えば、膨潤工程を経たフィルムをヨウ素等の二色性物質を含む染色槽6に浸漬することによって、上記二色性物質をフィルムに吸着させる。
【0047】
二色性物質としては、従来公知の物質が使用でき、例えば、ヨウ素や有機染料等が挙げられる。有機染料としては、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、エロー3G、エローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラック等が使用できる。
【0048】
これらの二色性物質は、一種類のみ使用しても良いし、二種類以上を併用しても良い。
【0049】
前記有機染料を用いる場合は、例えば、可視光領域のニュートラル化を図る点から、二種類以上を組み合わせることが好ましい。具体例としては、コンゴーレッドとスプラブルーG、スプラオレンジGLとダイレクトスカイブルーの組み合わせ、又は、ダイレクトスカイブルーとファーストブラックとの組み合わせが挙げられる。
【0050】
染色槽6の溶液としては、前記二色性物質を溶媒に溶解した溶液を使用できる。前記溶媒としては、水を一般的に使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒をさらに添加して用いても良い。二色性物質の濃度としては、0.010〜10重量%の範囲とすることが好ましく、0.020〜7重量%の範囲とすることがより好ましく、0.025〜5重量%の範囲とすることが特に好ましい。
【0051】
また、前記二色性物質としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、さらにヨウ化物を添加することが好ましい。このヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらヨウ化物の添加割合は、前記染色浴において、0.010〜10重量%とすることが好ましく、0.10〜5重量%とすることがより好ましい。これらのなかでも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合(重量比)は、1:5〜1:100の範囲とすることが好ましく、1:6〜1:80の範囲とすることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲とすることが特に好ましい。
【0052】
染色槽6へのフィルムの浸漬時間は、特に限定されるものではないが、1〜5分が好ましく、2〜4分がより好ましい。また、染色浴の温度は、5〜42℃の範囲とすることが好ましく、10〜35℃の範囲とすることがより好ましい。また、この染色浴中でフィルムを延伸してもよく、このときの累積した総延伸倍率は、1.1〜4.0倍程度とすることが好ましい。
【0053】
尚、染色工程としては、前述のような染色槽6に浸漬する方法以外に、例えば、二色性物質を含む水溶液を前記ポリマーフィルムに塗布または噴霧する方法を採用してもよい。また、本発明において、染色工程を行わずに、フィルムとして、予め二色性物質が混ぜられたポリマー原料で製膜されたフィルムを採用してもよい。
【0054】
硬膜工程としては、例えば、架橋剤を含む硬膜槽8中にフィルムを浸漬して架橋する。架橋剤としては、従来公知の物質を使用できる。例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を使用できる。これらは一種類のみ用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。二種類以上を併用する場合には、例えば、ホウ酸とホウ砂の組み合わせが好ましく、また、その添加割合(モル比)は、4:6〜9:1の範囲とすることが好ましく、5.5:4.5〜7:3の範囲とすることがより好ましく、6:4とすることが最も好ましい。
【0055】
硬膜槽8の溶液としては、前記架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用できる。前記溶媒としては、例えば水を使用できるが、さらに、水と相溶性のある有機溶媒を併用しても良い。架橋剤の濃度は、特に限定されるものではないが、1〜10重量%の範囲とすることが好ましく、2〜6重量%とすることがより好ましい。
【0056】
硬膜槽8には、偏光フィルムの面内の均一な特性が得られる点から、ヨウ化物を添加してもよい。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンが挙げられ、添加した場合に於けるヨウ化物の含有量は0.05〜15重量%が好ましく、0.5〜8重量%がより好ましい。架橋剤とヨウ化物の組み合わせとしては、ホウ酸とヨウ化カリウムの組み合わせが好ましく、ホウ酸とヨウ化カリウムの割合(重量比)は、1:0.1〜1:3.5の範囲とすることが好ましく、1:0.5〜1:2.5の範囲とすることがより好ましい。
【0057】
硬膜槽8の温度は、通常20〜70℃の範囲とすることが好ましく、ポリマーフィルムの浸漬時間は通常1秒〜5分とし、好ましくは5秒〜4分とする。硬膜架橋工程に於いては、硬膜槽8中でポリマーフィルムを延伸してもよく、このときの累積した総延伸倍率は、1.1〜5.0倍程度とすることが好ましい。硬膜工程としては、染色工程と同様に、硬膜槽8に通す処理に代えて、架橋剤含有溶液を塗布または噴霧する方法を用いても良い。
【0058】
延伸浴浸漬工程では、延伸槽10中に浸漬した状態で、累積した総延伸倍率が例えば2〜7倍程度となるように延伸する。延伸槽10の溶液としては、特に限定されるわけではないが、例えば、各種金属塩、ヨウ素、ホウ素または亜鉛の化合物の添加された溶液を用いることができる。この溶液の溶媒としては、水、エタノールあるいは各種有機溶媒を適宜用いることができる。特に、ホウ酸および/またはヨウ化カリウムをそれぞれ2〜18重量%程度添加した溶液を用いることが好ましい。このホウ酸とヨウ化カリウムを同時に用いる場合には、その含有割合(重量比)は、1:0.1〜1:4程度、より好ましくは、1:0.5〜1:3程度の割合で用いることが好ましい。延伸槽10の温度としては、例えば、40〜67℃の範囲とすることが好ましく、50〜62℃とすることがより好ましい。
【0059】
洗浄工程は、例えば、水の貯留された洗浄槽12にフィルムを通すことにより、これより前の処理で付着したホウ酸等の不要残存物を洗い流す工程である。水には、ヨウ化物を添加することが好ましく、例えば、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウムを添加することが好ましい。洗浄槽12の水にヨウ化カリウムを添加した場合、その濃度は通常0.1〜10重量%、好ましくは3〜8重量%とする。さらに、洗浄槽12の温度は、10〜60℃とすることが好ましく、15〜40℃とすることがより好ましい。また、洗浄処理の回数は、特に限定されることなく複数としてもよい。複数の洗浄槽12に添加物の種類や濃度異なる水を貯留しておき、これらにフィルムを通すことにより洗浄工程を実施してもよい。
【0060】
なお、フィルムを各工程における槽から引き上げる際には、液だれの発生を防止するために、従来公知であるピンチロール等の液切れロールを用いたり、エアーナイフによって液を削ぎ落としたりする等の方法により、余分な水分を取り除いても良い。
【0061】
乾燥工程としては、自然乾燥、風乾、加熱乾燥等、適宜な方法を採用することができるが、通常、加熱乾燥が好ましい。加熱乾燥の条件は、加熱温度を20〜80℃程度、乾燥時間を1〜10分間程度とすることが好ましい。
【0062】
ラミネート部16が乾燥装置14の下流に配置される。ラミネート部16は、保護フィルム64aをロール状にしたフィルムロールを供給する送出し機(不図示)と、一対のラミネートローラ(不図示)を有する。ラミネート部16により、フィルムF1,F2の両面、又は片面に保護フィルム64aが貼り付けられる。保護フィルムとしてTAC(トリアセチルセルロース)を使用することができる。
【0063】
フィルム巻取部18がラミネート部16の下流に配置される。フィルム巻取部18によりフィルム36a,40aがロール状に巻き取られる。
【0064】
[実施例]
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0065】
厚さ75μm、幅480mmの2枚のPVAフィルムを接合装置26により熱融着し、接合部80を形成した。接合角度を0°〜60°の範囲で変化させた。さらに、接合部の両端を円弧状に切断した。切断する円弧の大きさを変え、いわゆる、くり抜き率を変化させた。フィルム破断延伸倍率と到達延伸倍率(破断しないで延伸できた倍率)を確認して総合判定を行なった。破断延伸倍率が6倍より小さいものを×(不良)、破断延伸倍率が6倍程度のものを△(可)、破断延伸倍率が6倍より大きく以上7.5倍以下のものを○(良)、破断延伸倍率が7.5倍をこえるものを◎(最良)とした。図6に示すようにフィルムの幅をW0、接合部の幅をW1、フィルム幅方向における接合部の幅をW2とした。また、図5に示すように、切断後の接合部80のフィルム幅方向成分の長さをLとした。図7は、条件、及び評価結果をまとめた表図である。
【0066】
比較例1では接合角度を0°、比較例2では15°、比較例3では70°とした。表1から明らかなように、比較例1−3において、破断が生じない延伸倍率は4.5倍であった。また、延伸倍率が5.2倍を超えると破断した。
【0067】
一方、実施例1〜5では、接合角度を20°以上としたので、破断が生じない延伸倍率は5.6以上であり、比較例1−3より大きかった。また、延伸倍率が6.2倍を超えるまで破断しなかった。特に、実施例3−5では、接合角度を30°以上とすることで、破断が生じない延伸倍率は7.2であり、破断が生じる延伸倍率は7.5であった。つまり、延伸に対する耐性が向上したことが理解できる。また、破断が生じない延伸倍率(7.2)と、破断が生じる延伸倍率(7.5)とでは、その差は殆どなかった。このことから、限界近くまで延伸できたことが理解できる。
【0068】
比較例4−6では、接合角度を0°とし、接合部の両端を円弧状に切断した。切断部の大きさを変え、くり抜き率を変化させた。比較例4−6では、接合部が斜めに形成されていない。そのため、破断延伸倍率、延伸倍率は比較例1−3と同じであった。
【0069】
実施例6−10では、接合角度を30°とし、接合部の両端を円弧状に切断した。断部の大きさを変え、くり抜き率を変化させた。
【0070】
くり抜き率を0.01(%)〜29(%)の範囲とした実施例6−9は、実施例3と比較して、破断延伸倍率、延伸倍率が向上した。このことから、接合部を所定角度で斜めに形成すると共に、接合部の両端を所定の大きさに円弧状に切断することにより、破断延伸倍率、延伸倍率が向上することが理解できる。
【符号の説明】
【0071】
1…製造ライン、2…フィルム供給部、4…膨潤槽、6…染色槽、8…硬膜槽、10…延伸槽、12…補正槽、14…乾燥装置、16…ラミネート装置、18…フィルム巻取装置、24…ターレット装置、26…接合装置、28…アキューム機構、36a…フィルム、36b…第一のフィルムロール、40a…フィルム、40b…第二のフィルムロール、80…接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のポリビニルアルコール系フィルムの後端と第二のポリビニルアルコール系フィルムの先端とを接合して、延伸方向と直交する方向となす接合角度が20°以上60°以下となるよう接合部を形成する工程と、
前記第一のポリビニルアルコール系フィルムに続けて前記第二のポリビニルアルコール系フィルムを送り出す工程と、
接合された前記第一のポリビニルアルコール系フィルムと前記第二のポリビニルアルコール系フィルムを連続して搬送方向に3〜8倍に延伸する工程と、
を含む光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記接合角度が30°以上60°以下である請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記延伸工程の前に、前記接合部の両端を円弧状に切断する工程を有する請求項1又は2記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記接合部の両端を円弧状に切断する工程において、以下の式を満たす請求項3記載の光学フィルムの製造方法。
0.01≦(1−(L/W0))×100≦29
(W0:切断前のフィルム幅方向長さ、L:切断後の接合部のフィルム幅方向成分の長さ)
【請求項5】
前記接合部が熱融着により形成される請求項1〜4の何れかに記載の光学フィルムの製造方法
【請求項6】
前記接合部を形成する前に、前記第一のポリビニルアルコール系フィルムの後端と前記第二のポリビニルアルコール系フィルムの先端とを略同等の接合角度に裁断する工程をさらに含む請求項1〜5の何れかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の製造方法により製造された光学フィルム。
【請求項8】
請求項7記載の光学フィルムを含む液晶表示装置。
【請求項9】
請求項7記載の光学フィルムを含む画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−100110(P2011−100110A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203998(P2010−203998)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】