説明

光学フィルムの製造方法、及びその製造方法で製造された光学フィルム、並びにそれを有する偏光板、及び画像表示装置

【課題】本発明は前記課題を解決し、簡易かつ低コストで、筋状の故障がなく、優れた光拡散性を有する光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリマーと溶媒とを少なくとも含む2種以上のドープを同時に基材上に流延する工程、及び前記溶媒を除去する工程を含む光学フィルムの製造方法であって、
少なくとも1種のドープは、流延時に既に分散相を含有しているか、または流延後に前記溶媒を除去する工程で相分離した分散相を形成するドープ(Db)であり、
前記ドープ(Db)の分散相を構成する溶媒の主成分が、前記ポリマーが実質不溶な溶媒であり、前記ドープ(Db)は、ドープ流延時に、光学フィルムの前記基材から最も離れた側の層の隣接下層または該隣接下層より基材に近い層を形成するものとして流延され、
また前記ドープ(Db)とは別の少なくとも1種のドープは、流延時または流延後の溶媒を除去する工程で相分離した分散相を実質的に含まないドープ(Do)であって、
該分散相を実質的に含まないドープ(Do)は、ドープ流延時に、光学フィルムの基材から最も離れた側の層を形成するものとして流延される、
光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法、及びその製造方法で製造された光学フィルム、並びにそれを有する偏光板、及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、拡散シートは、種々の画像表示装置に用いられている。例えば、液晶表示装置(LCD)では、拡散シートは、一般的に、バックライト光源とバックライト側偏光板との間に配置される。拡散シートを配置することで、表示特性の均一化が達成されるとともに、入射光が液晶セル中の画素と干渉して、モアレ等の干渉縞を生じるのを抑制することができる。近年、製造コストを軽減することを目的として、液晶表示装置の部材数を削減すること、又は低消費電力化のため光源に利用される蛍光灯数を減少することが試みられている。またLCDの薄型化のため、バックライト光源と拡散シートとの距離が近くなり、そのため、従来の拡散フィルムでは、均一な光拡散を達成することが困難になってきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多孔質不定形粒子と球状粒子とを分散含有する、所定の特性の光拡散層を有する光拡散偏光板が提案され、これによって光拡散シートを省略できることが開示されている。特許文献2には、微粒子を含有するドープを基材上に流延することを含む光拡散フィルムの製造方法が提案され、この方法によれば、光学的等方性等に優れる光拡散フィルムが作製できることが開示されている。さらに、特許文献3にはフィルムの内部に気泡を発生させた光学フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−75134号公報
【特許文献2】特開2001−172403号公報
【特許文献3】特開2008−296421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1〜3に記載の光拡散フィルムは、表面の形状が制御されておらず、内部に用いている散乱粒子や散乱のための空隙に起因して、後方散乱性が高くなっているため、全光透過率が低くなり、画像表示装置に用いると、正面白輝度の低下の一因になる場合があった。
また、特許文献1に記載の光拡散フィルムは、薄層化が進むLCD用バックライトに用いた場合には、表面の凸形状に起因してプリズムシートの破損などの問題が発生してきている。更には、一度形成した支持体に更に微粒子を含有する硬化樹脂層を塗布する必要があるため、生産性の点で更なる改良が求められていた。
また、特許文献2に記載の光拡散フィルムでは、支持体自身が光拡散粒子を含有するものであるが、十分な拡散性を確保するために多量の粒子を含有させる必要があるため、フィルムの脆性が悪化してしまったり、ドープの経時に伴い微粒子が凝集してフィルムの品質が変化してしまったりする場合があった。
【0006】
また、光散乱のための粒子等を含有せずに、支持体自身の内部に空孔を形成させることにより光散乱性を付与した樹脂フィルムが特許文献3に記載されている。この樹脂フィルムは、全光透過率が低いという課題は残しているものの、プリズムシートへの傷付きや光散乱粒子の多量使用による脆性悪化などの課題に対しては一定の改良が認められる。しかしながら、この樹脂フィルムの製造方法は、フィルム作製時のドープにフィルム形成ポリマーの良溶媒と貧溶媒を併用し、製膜過程で良溶媒が蒸発する間に貧溶媒を相分離させ、ポリマーが溶解していない貧溶媒の相分離相を製膜後の空隙とするものである。ドープに貧溶媒を相当量使用しているため、連続的に製膜した場合には流延するドープから良溶媒の揮発が起こり、ドープを押し出すギーサーに不溶解物が付着し、筋状の故障を引き起こすという課題を有していることが分かった。
このように、従来の技術では、簡易かつ低コストで優れた光拡散性を有する光学フィルムの製造方法は実現されておらず、更なる改良が求められていた。
【0007】
本発明は前記課題を解決し、簡易かつ低コストで、筋状の故障がなく、優れた光拡散性を有する光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。またそのような光学フィルム、該光学フィルムを有する偏光板、及び画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の構成により上記課題は達成された。
1.
ポリマーと溶媒とを少なくとも含む2種以上のドープを同時に基材上に流延する工程、及び前記溶媒を除去する工程を含む光学フィルムの製造方法であって、
少なくとも1種のドープは、流延時に既に分散相を含有しているか、又は流延後に前記溶媒を除去する工程で相分離した分散相を形成するドープ(Db)であり、
前記ドープ(Db)の分散相を構成する溶媒の主成分が、前記ポリマーが実質不溶な溶媒であり、
前記ドープ(Db)は、ドープ流延時に、光学フィルムの前記基材から最も離れた側の層の隣接下層又は該隣接下層より基材に近い層を形成するものとして流延され、
また前記ドープ(Db)とは別の少なくとも1種のドープは、流延時又は流延後の溶媒を除去する工程で相分離した分散相を実質的に含まないドープ(Do)であって、
該分散相を実質的に含まないドープ(Do)は、ドープ流延時に、光学フィルムの基材から最も離れた側の層を形成するものとして流延される、
光学フィルムの製造方法。
2.
前記分散相を実質的に含まないドープ(Do)が、ドープ流延時に、光学フィルムの基材に最も近い層を形成するものとして流延される、上記1に記載の光学フィルムの製造方法。
3.
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれる溶媒が、2種以上の溶媒を含む混合溶媒であり、そのうちの少なくとも1種の溶媒の誘電率が35以上であって、該混合溶媒のうち少なくとも2種類の溶媒は、互いに完全相溶しない溶媒である、上記1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
4.
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれる混合溶媒が、誘電率が35以上の溶媒を0.3〜30質量%含む混合溶媒である、上記3に記載の光学フィルムの製造方法。
5.
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれる混合溶媒が、誘電率が2〜10未満の溶媒、及び誘電率が10〜35未満の溶媒を含む、上記3又は4に記載の光学フィルムの製造方法。
6.
前記誘電率が35以上の溶媒が水である、上記3〜5のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
7.
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれる溶媒が、2種以上の溶媒を含む混合溶媒であり、そのうちの少なくとも1種の溶媒の誘電率が2〜10未満であり、少なくとも別の1種の溶媒の誘電率が10〜35未満である、上記1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
8.
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれるポリマーがセルロースアシレートである、上記1〜7のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
9.
上記1〜8のいずれかに記載の製造方法によって製造された光学フィルム。
10.
光学フィルムのヘイズが3%以上95%以下である上記9に記載の光学フィルム。
11.
偏光膜と、該偏光膜の両側に2枚の保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムのうち少なくとも1枚が上記9又は10に記載の光学フィルムである偏光板。
12.
上記9若しくは10に記載の光学フィルム、又は上記11に記載の偏光板を少なくとも1枚有する画像表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易かつ低コストで、筋状の故障がなく、優れた光拡散性を有する光学フィルムの製造方法を提供することができる。また、本発明の光学フィルム又は該光学フィルムを有する偏光板を用いた画像表示装置は、モアレなどの干渉縞抑制が可能である。本発明の光学フィルムは、液晶表示装置等の画像表示装置の表示性能向上及び薄型化に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。
【0011】
〔光学フィルム〕
本発明の製造方法により製造された、本発明の光学フィルムは、前記ポリマーを含む光学フィルムであり、フィルム表面にくぼみ(凹部)を有しその表面形状に起因する光散乱性を有するものである。
本発明の光学フィルムは、製膜時に前記ドープ(Db)の分散相がフィルム内に固定化され、最終的に該分散相を形成する溶媒が揮発することによりフィルムにポリマーの存在しない空隙を形成でき、これにより特徴的な光散乱挙動を示す。
本発明の光学フィルムの製造方法は、光学フィルムを作製する際に、連続相への溶解度の低い分散相が流延のギーサに不溶解物として付着し、筋状の故障を引き起こすという課題を解決するもので、2種以上のドープを用いて共流延する際に、分散相を含有又は溶媒の蒸発過程で分散相を形成するドープ(Db)を流延基材から最も離れた層の隣接下層又はそれより基材に近い層に用い、かつ該分散相を有さないドープ(Do)を流延基材から最も離れた層に用いる製造方法である。
【0012】
ドープ中のポリマーが実質的に溶解していない分散相とは、ドープの連続相内に可視光領域の光を散乱する程度の大きさの不連続な分散された相をいう。この分散相は液体であり、気体や固体であることはない。分散相はポリマーの溶解度の低い溶媒から形成され、場合によりドープ中の低分子の添加剤を含有することもある。分散相自身を直接検出してその中のポリマーの含率を求めることは容易ではないが、分散相を形成する主溶媒へのポリマーの溶解度は溶媒100g当り1g以下であるのが好ましく、更に好ましくは0.1g以下であり、不溶解であってもよい。ここで分散相を形成する主溶媒とは分散相内で最も含有比率の高い溶媒をいう。
分散相の形成は、ドープ溶液のヘイズを用いて評価することができる。分散相が形成されている場合、ドープ溶液のヘイズは光路長1cmの石英セルを用いて測定した場合、0.2〜50%程度であることが好ましく、0.2〜30%がより好ましい。流延に供するドープのヘイズが上記範囲であれば、ドープの経時安定性や製膜時の異物故障を低減することができる。製膜時のドープからの溶媒蒸発で分散相が形成されるかどうかは、完全に溶解して実質ヘイズのないドープから低沸点溶媒を除去するか、意図的に低沸点溶媒を減らして調製したドープを用いて、ヘイズの有意な上昇の有無により判断することができる。
【0013】
本発明の光学フィルムにおいては、空隙はフィルム内部に閉じた状態で存在しても、フィルム表面で開いた空隙(くぼみ)で存在しても、また両者が並存してもよい。閉じた空隙を内部に含む光学フィルムは、空隙の屈折率が低い(空気は1.0)ため、フィルム自身との屈折率差が大きく、後方散乱性の高い全光透過率の低い光学フィルムとなる。また、開いた空隙(くぼみ)を表面に含む光学フィルムは、平坦部とくぼみ部からなる表面の形状に基づく光散乱性を示し、高ヘイズでありながら全光透過率の高い光学フィルムとなる。本発明においては、ヘイズは3〜95%が好ましく、より好ましくは15〜95%であり、更に好ましくは30〜90%であり、最も好ましくは50〜90%である。全光透過率は、開いた空隙を有するフィルムでは、75〜95%が好ましく、更に好ましくは80〜93%である。
【0014】
〔光学フィルムの製造方法〕
本発明の光学フィルムの製造方法は、
ポリマーと溶媒とを少なくとも含む2種以上のドープを同時に基材上に流延する工程、及び前記溶媒を除去する工程を含む光学フィルムの製造方法であって、
少なくとも1種のドープは、流延時に既に分散相を含有しているか、又は流延後に前記溶媒を除去する工程で相分離した分散相を形成するドープ(Db)であり、
前記ドープ(Db)の分散相を構成する溶媒の主成分が、前記ポリマーが実質不溶な溶媒であり、前記ドープ(Db)は、ドープ流延時に、光学フィルムの前記基材から最も離れた側の層の隣接下層又は該隣接下層より基材に近い層を形成するものとして流延され、
また前記ドープ(Db)とは別の少なくとも1種のドープは、流延時又は流延後の溶媒を除去する工程で相分離した分散相を実質的に含まないドープ(Do)であって、
該分散相を実質的に含まないドープ(Do)は、ドープ流延時に、光学フィルムの基材から最も離れた側の層を形成するものとして流延される、
光学フィルムの製造方法である。
【0015】
〔ドープ〕
本発明の光学フィルムの製造方法は、ポリマーと溶媒とを少なくとも含む2種以上のドープを同時に基材上に流延する工程を含む。
ドープのうち、少なくとも1種は、流延時に既に分散相を含有しているか、又は流延後に前記溶媒を除去する工程で相分離した分散相を形成するドープ(Db)であり、別の少なくとも1種のドープは、流延時又は流延後の溶媒を除去する工程で相分離した分散相を実質的に含まないドープ(Do)である。
本発明におけるドープは、いずれもポリマーが溶媒に溶解していて全体としては均一であることが、ドープの経時安定性、ドープから形成された光学フィルムの面状安定性の観点で好ましい。ドープ(Db)においては、分散相にはポリマーは溶解しないが、分散相以外の溶媒にはポリマーが均一に溶解していることが好ましい。
【0016】
〔ドープ(Db)〕
ドープ(Db)は、流延時に既に分散相を含有しているか、又は流延後に前記溶媒を除去する工程で相分離した分散相を形成するドープである。また、ドープ(Db)の分散相を構成する溶媒の主成分が、前記ポリマーが実質不溶な溶媒である。ここで、分散相を構成する溶媒の主成分とは、分散相を形成する溶媒のうち最も質量比の高い成分をいう。また、ポリマーが実質不溶であるとは、20℃において、溶媒100gに溶解するポリマーの質量が1g未満であることをいう。
このようなドープ(Db)を調製するためには、ドープ(Db)に含まれる溶媒として、2種以上の溶媒を含む混合溶媒を用い、そのうちの少なくとも1種の溶媒の誘電率が35以上であって、該混合溶媒のうち少なくとも2種類の溶媒は、互いに完全相溶しないものを用いることが好ましい。ここで完全相溶しないとは、20℃において2種の溶媒が任意の割合で混合しないことを表す。例えば、水とジクロロメタンは完全相溶しないが、水とメタノール、ジクロロメタンとメタノールは完全相溶する。
【0017】
ドープ(Db)を用いることにより、表面形状が適切に制御されたフィルムを製造することができる。従来は互いに相溶する溶媒でポリマー溶液(ドープ)を作製するため、表面にくぼみがないフィルムであることが多く、また、溶媒組成の調整により表面にくぼみを形成させたとしても、同時にフィルム内部に空隙のあるフィルムとなってしまう。そして、このようなフィルムでは、フィルムを形成する材料と空隙の空気(屈折率は1.0)との間の屈折率差が大きいため、空隙部で広角の散乱が大きくなり後方散乱が起こりやすい。このような内部に空隙を有するフィルムでは、ヘイズ上昇に伴って後方散乱が大きくなり全光透過率も低下してしまうため、ヘイズ値と全光透過率とを好ましい範囲に両立させることができない。本発明ではドープ(Db)を用いることで微細なくぼみを表面に有するフィルムを得ることができる。なお、本発明の光学フィルムは、フィルムの内部空隙率が低いという特徴も有しており、具体的には、フィルムの内部空隙率が10%以下(体積比)であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることが特に好ましい。
【0018】
〔誘電率が35以上の溶媒〕
ドープ(Db)には、誘電率が35以上の溶媒(以下、「高誘電率溶媒」という)を0.3質量%以上含む溶媒を用いることが好ましく、フィルムの表面形状をより適切に制御することができる。高誘電率溶媒を1.0質量%以上含む溶媒を用いるのがより好ましく、高誘電率溶媒を1.5質量%以上含む溶媒を用いるのが更に好ましい。一方、高誘電率溶媒の割合が高すぎると、ポリマーが溶解し難くなり、ポリマー溶液の調製が困難になったり、ポリマー溶液を調製できてもヘイズが高いドープとなってしまい、ドープの経時安定性が悪化したり、フィルム中の異物が増加することがある。この観点では、高誘電率溶媒は、30質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましい。高誘電率溶媒を所定の範囲で含有する溶媒を用いて調製されたポリマー溶液を製膜することで、製膜時に又は製膜後に溶媒が蒸発する際に、溶液中でポリマーと高誘電率溶媒との相分離が起こると考えられる。その結果、本発明の光学フィルムが有するような、表面に微細なくぼみがより得やすくなる。さらに、効果的に表面の微細なくぼみを形成させる観点から、高誘電率溶媒の沸点は、後述の低沸点溶媒の沸点よりも高いことが好ましく、5℃以上高いことがより好ましく、10℃以上高いことが更に好ましく、また、両者が共沸しないことが好ましい。
【0019】
ここで、溶媒の誘電率について記載する。誘電率は電束密度Dと電場Eとの関係D=εEを与えるεをいい、溶剤分子の分極のし易さと相関を有するパラメータである。溶媒の誘電率の値は、例えば、日本化学会編「化学便覧基礎編I(改訂5版)」I−770頁に「比誘電率」として掲載されている。
【0020】
高誘電率溶媒の例には、水(誘電率78)、グリセリン(誘電率43)、エチレングリコール(誘電率37)、ジメチルホルムアミド(誘電率37)、アセトニトリル(誘電率38)、ジメチルスルホキシド(誘電率49)、ギ酸(誘電率58)、ホルムアミド(誘電率110)が含まれる。中でも、製膜過程での乾燥性や安全性といった取り扱い性の観点から水が好ましい。高誘電率溶媒の沸点は、製膜時の表面形状制御の観点から70〜300℃が好ましく、更に好ましくは80〜250℃、最も好ましくは90〜210℃である。
【0021】
〔主溶媒〕
高誘電率溶媒とともに、少なくとも1種のポリマーの良溶媒である有機溶媒を主溶媒として用いるのが好ましい。主溶媒とは、溶媒のうち最も含有比率の高い溶媒をいう。主溶媒の種類については特に制限はないが、前記高誘電率溶媒と互いに相溶しないことが好ましく、前記高誘電率溶媒と前記ポリマーの主溶媒以外の溶媒を用いない場合は前記ポリマーの主溶媒は前記高誘電率溶媒と互いに相溶しない溶媒である必要がある。前記主溶媒は、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点からより好ましい。前記主溶媒の沸点は、10〜80℃であることが更に好ましく、20〜60℃であることが特に好ましい。また、場合により沸点が30〜45℃である有機溶媒も前記主溶媒として好適に用いることができる。このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を特に好ましく挙げることができ、場合により、エステル、ケトン、エーテル、アルコール及び炭化水素などが挙げることもでき、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記主溶媒は、エステル、ケトン、エーテル及びアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテル及びアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、本発明の製造方法に用いるポリマー溶液の主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを意味し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も質量分率の高い溶媒のことを意味する。
【0022】
また、これら主溶媒と併用される有機溶媒としては、前記高誘電率溶媒の他に、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコール及び炭化水素などを挙げることもでき、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記有機溶媒としては、エステル、ケトン、エーテル及びアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテル及びアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、前記ポリマーの主溶媒が前記高誘電率溶媒と互いに相溶する溶媒である場合は、本発明では主溶媒と併用される有機溶媒が前記高誘電率溶媒と互いに相溶しない溶媒である必要がある。
【0023】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタン及びクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンが更に好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。
前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0024】
主成分としてのポリマーがセルロースアシレートである場合、上記の溶媒の中でも、前記高誘電率溶媒とともに、誘電率が10〜35未満の溶媒(本明細書中で「中誘電率溶媒」ということがある)と、誘電率が2〜10未満の低誘電率の溶媒(本明細書中で「低誘電率溶媒」ということがある)とを混合した溶媒を利用すると、高透明性のポリマー溶液を安定的に調製できるので好ましい。すなわち、表面形状制御の観点からは、前記高誘電率溶媒を用いることが好ましく、ポリマーの溶解性向上の観点からは、低誘電率溶媒を用いることが好ましいが、これらの溶媒は相溶性が悪く、ドープの安定性が劣るため、中誘電率溶媒を併用することにより、相溶性を向上させることができ、フィルムの表面形状制御とドープ安定性との両立範囲を拡張し、製造適性を向上させることができるのである。前記中誘電率溶媒は、混合溶媒中に0.3〜30質量%含有されることが好ましく、1〜15質量%がより好ましく、2〜10質量%が更に好ましい。前記低誘電率溶媒は、混合溶媒中に40〜99.5質量%含有されることが好ましく、60〜99質量%がより好ましく、70〜98質量%であることが特に好ましい。
【0025】
前記中誘電率溶媒の例には、上記アルコール類、ケトン類、エーテル類が含まれ、具体的には、アセトン(誘電率21)、メチルエチルケトン(誘電率19)、ジエチルケトン(誘電率14)、ジイソブチルケトン(誘電率15)、シクロペンタノン(誘電率19)、シクロヘキサノン(誘電率18)、メチルシクロヘキサノン(誘電率18)、2−エトキシ酢酸エチル(誘電率11)、2−メトキシエタノール(誘電率30)、1,2−ジアセトキシアセトン(誘電率16)、アセチルアセトン(誘電率17)、アセト酢酸エチル(誘電率16)、メタノール(誘電率33)、エタノール(誘電率24)、1−プロパノール(誘電率22)、2−プロパノール(誘電率22)、1−ブタノール(誘電率17)、2−ブタノール(誘電率16)、tert−ブタノール(誘電率11)、1−ペンタノール(誘電率14)、2−メチル−2−ブタノール(誘電率13)、シクロヘキサノール(誘電率15)等が含まれる。
【0026】
前記低誘電率溶媒の例には、上記ハロゲン化炭化水素類、エステル類が含まれ、具体的には、ジクロロメタン(誘電率9)、ジメトキシエタン(誘電率6)、1,4−ジオキサン(誘電率2)、1,3−ジオキソラン(誘電率3)、1,3,5−トリオキサン(誘電率3)、テトラヒドロフラン(誘電率8)、アニソール(誘電率4)及びフェネトール(誘電率4)、蟻酸エチル(誘電率9)、蟻酸n−プロピル(誘電率6)、蟻酸n−ペンチル(誘電率6)、酢酸メチル(誘電率7)、酢酸エチル(誘電率6)、酢酸n−ペンチル(誘電率5)、2−ブトキシエタノール(誘電率9)等が含まれる。
【0027】
これらの溶媒の中でも、水と、アルコール類の少なくとも一種と、ハロゲン化炭化水素類の少なくとも一種との混合溶媒が好ましく、水を0.3〜30質量%、アルコール類の少なくとも一種を1〜30質量%、及びハロゲン化炭化水素類の少なくとも一種を60〜99質量%含有する混合溶媒がより好ましい。中でも、水(誘電率78)と、メタノール(誘電率33)と、ジクロロメタン(誘電率9)との混合溶媒が好ましい。水の含有量はフィルムのヘイズ上昇の観点から多い方が好ましいが、ポリマーの溶解性やポリマー溶液の粘弾性特性といった製膜性を考慮すると、0.5〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%が更に好ましい。また、アルコール類の含有量はフィルムのヘイズ上昇の観点から少ないほうが好ましいが、ポリマーの溶解性や、ロングランに伴ってフィルムに発生するスジ状故障低減を始めとする製膜性を考慮すると、3〜20質量%がより好ましく、5〜10質量%が更に好ましい。そして、主溶媒以外の溶媒の合計比率の好ましい範囲は、これらの組み合わせとして、0.8〜40質量%であることが好ましく、2〜35質量%であることがより好ましい。
【0028】
本発明の光学フィルムにおいて、光学フィルムの表面だけでなく、光学フィルム内部に空隙を付与するためには、分散相を形成するドープ(Db)として、高誘電率溶媒を含まず、誘電率が10〜35未満の中誘電率溶媒と誘電率が2〜10未満の低誘電率の低誘電率溶媒とを併用することも可能である。全溶剤に対する中誘電率溶剤の割合は、凹部の形成しやすさ及びドープの搬送工程での析出等を考慮し、20〜90質量%が好ましく、更に好ましくは20〜50質量%である。全溶剤に対する低誘電率溶剤の割合は、10〜80質量%が好ましく、更に好ましくは50〜80質量%である。
光学フィルム内部に空隙を有することで、表面形状に伴う光散乱に加えて、フィルム内部の散乱を付与することができる。フィルム表面の形状によってのみ光散乱性が付与されている場合には、更に別の機能層や粘着剤層を設けたときに、これらの層の影響で表面形状が変化し光散乱性の変化が起こりやすい。光学フィルム内部にも光散乱性を有することで、これらの影響を低減することが可能である。
一方、内部空隙は空隙とフィルムを形成するポリマーとの屈折率差が大きいことから、後方散乱性が大きくなり、全光透過率の低下を引き起こしやすい。そのため、コントラストを重視した画像表示装置などに用いる場合は、内部空隙は必要以上に用いないことが好ましい。
【0029】
〔ポリマー〕
次にドープに含まれるポリマーについて説明する。ポリマーは本発明の光学フィルムを構成する主成分(光学フィルムの固形分の51質量%以上100質量%以下の材料)であることが好ましく、熱可塑性樹脂であることが好ましく、具体例には、セルロースアシレート(例えばトリアセチルセルロース(セルローストリアセテート)、ジアセチルセルロース、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルブチリルセルロース(セルロースアセテートブチレート)、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリスチレン(例えばシンジオタクチックポリスチレン)、ポリオレフィン(例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリシクロアルカン)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ノルボルネン系樹脂(アートン:商品名、JSR社製)、非晶質ポリオレフィン(ゼオネックス:商品名、日本ゼオン社製)、(メタ)アクリル系樹脂(アクリペットVRL20A:商品名、三菱レイヨン社製、特開2004−70296号公報や特開2006−171464号公報記載の環構造含有アクリル系樹脂)等が含まれる。これらのなかでもトリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセチルブチリルセルロース、プロピオニルセルロース、ポリカーボネート、変成ポリメチルメタクリレートが好ましく、トリアセチルセルロース、アセチルブチリルセルロール、ポリカーボネートが特に好ましい。
【0030】
本発明における光学フィルムを偏光板の保護フィルムに用いる場合には、フィルムの疎水性/親水性のバランス、偏光膜のビニルアルコール系膜との貼合性やフィルム面内全体の光学特性の均一性が重要であり、特に、セルロースの脂肪酸エステル(セルロースアシレート)が好ましく、更にはトリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセチルブチリルセルロース、プロピオニルセルロースであるのが好ましい。
【0031】
使用可能なセルロースアシレートについて更に説明する。
セルロースアシレートフィルムの原料のセルロースとしては、綿花リンター、ケナフ、木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)等があり、何れの原料セルロースから得られるセルロースエステルでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。
【0032】
セルロースアシレートは、セルロースとカルボン酸とのエステルである。前記セルロースアシレートは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位及び6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部又は一部が、アシル基で置換されている。アシル基の炭素原子数は2〜22のであることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。前記アシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、及び、シンナモイル基が挙げられる。前記アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が最も好ましい。
セルロースアシレートは、セルロースと複数のカルボン酸とのエステルであってもよい。すなわち、セルロースアシレートは、複数のアシル基で置換されていてもよい。
【0033】
セルロースアシレートのセルロースの水酸基に置換されているアセチル基(炭素数2)の置換度をSAとし、セルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度をSBとしたとき、SA及びSBを調整することにより、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのヘイズを調整することができる。
本発明の光学フィルムである、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムに求めるヘイズにより、適宜、SA+SBを調整することとなるが、好ましくは2.70<SA+SB≦3.00、より好ましくは2.80≦SA+SB≦3.00であり、更に好ましくは2.85≦SA+SB≦2.98である。SA+SBを大きくすることによりヘイズを高くしやすい傾向がある。
また、SBを調整することによっても、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのヘイズを調整することができる。SBを大きくすることにより、ヘイズを高くしやすい傾向があると同時に、フィルムの弾性率や融点が下がる。フィルムのヘイズとその他の物性とのバランスを考慮すると、SBの範囲は、好ましくは0≦SB≦2.9、より好ましくは0.5≦SB≦2.5であり、更に好ましくは1≦SB≦2.0である。なお、セルロースの水酸基がすべて置換されているとき、上記の置換度は3となる。
【0034】
セルロースアシレートの合成方法は、発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行発明協会)p.7〜12に詳細に記載されているので、参照することができる。
【0035】
ドープ中のポリマーの濃度は、ドープ中の全成分に対して、5〜40質量%であるのが好ましく、10〜25質量%であるのがより好ましく、10〜20質量%であることが更に好ましい。濃度が好ましい範囲であると、製膜性向上の観点や、ロングランに伴ってフィルムに発生するスジ状故障低減の観点から好ましい。
【0036】
[可塑剤]
本発明においては、光学フィルムに柔軟性を与え、寸法安定性を向上させ、耐湿性を向上させるために可塑剤を用いてもよい。
【0037】
光学フィルム用の可塑剤としては、オクタノール/水分配係数(logP値)が0ないし10である可塑剤が特に好ましく用いられる。化合物のlogP値が10以下であれば、ポリマーとの相溶性が良好で、フィルムの白濁や粉吹きなどの不具合を生じることがなく、またlogP値が0以上であれば、親水性が高くなりすぎることがないのでポリマーの耐水性を悪化させるなどの弊害が生じにくいので、上記範囲内のものを用いることが好ましい。logP値として、更に好ましい範囲は1ないし8であり、特に好ましい範囲は2ないし7である。
【0038】
オクタノール/水分配係数(logP値)の測定は、日本工業規格(JIS)Z7260−107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、オクタノール/水分配係数(logP値)は実測に代わって、計算化学的手法あるいは経験的方法により見積もることも可能である。計算方法としては、Crippen’s fragmentation法[J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27巻21頁(1987)]、Viswanadhan’s fragmentation法[J.Chem.Inf.Comput.Sci.,29巻163頁(1989)]、Broto’s fragmentation法[Eur.J.Med.Chem.−Chim.Theor.,19巻71頁(1984)]などが好ましく用いられるが、中でもCrippen’s fragmentation法がより好ましい。ある化合物のlogPの値が、測定方法又は計算方法により異なる場合に、該化合物が本発明の範囲内であるかどうかは、Crippen’s fragmentation法により判断することが好ましい。
【0039】
好ましく添加される可塑剤としては、上記の物性の範囲内にある分子量190〜5000程度の低分子〜オリゴマー化合物が挙げられ、例えばリン酸エステル、カルボン酸エステル、ポリオールエステル等が用いられる。
【0040】
リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が含まれる。好ましくは、トリフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェートである。
【0041】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート等が挙げられる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル、O−アセチルクエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
これらの好ましい可塑剤は、25℃においてTPP(融点約50℃)以外は液体であり、沸点も250℃以上である。
【0042】
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、メチルフタリルメチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートなどがある。
【0043】
また、特開平5−194788号、特開昭60−250053号、特開平4−227941号、特開平6−16869号、特開平5−271471号、特開平7−286068号、特開平5−5047号、特開平11−80381号、特開平7−20317号、特開平8−57879号、特開平10−152568号、特開平10−120824号の各公報などに記載されている可塑剤も好ましく用いられる。これらの公報によると可塑剤の例示だけでなくその利用方法あるいはその特性についての好ましい記載が多数あり、本発明においても好ましく用いられるものである。
【0044】
その他の可塑剤としては、特開平11−124445号記載の(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、特開平11−246704号記載のグリセロールエステル類、特開2000−63560号記載のジグリセロールエステル類、特開平11−92574号記載のクエン酸エステル類、特開平11−90946号記載の置換フェニルリン酸エステル類、特開2003−165868号等記載の芳香環とシクロヘキサン環を含有するエステル化合物などが好ましく用いられる。
【0045】
また、分子量1000〜10万の樹脂成分を有する高分子可塑剤も好ましく用いられる。例えば、特開2002−22956号公報に記載のポリエステル及び又はポリエーテル、特開平5−197073号公報に記載のポリエステルエーテル、ポリエステルウレタン又はポリエステル、特開平2−292342号公報に記載のコポリエステルエーテル、特開2002−146044号公報等記載のエポキシ樹脂又はノボラック樹脂等が挙げられる。
【0046】
これらの可塑剤は単独若しくは2種類以上を混合して用いてもよい。可塑剤の添加量はポリマー100質量部に対して2〜30質量部、特に5〜20質量部が好ましい。また、分散相を形成するドープと分散相を形成しないドープを隣接して共流延する際には、両層のドープに共通の構造の可塑剤を含有していることが、流延時のドープの界面での乱れの発生が少なく、更には光学フィルムのフィルム内密着に優れるため好ましい。
【0047】
[紫外線吸収剤]
本発明の光学フィルムには、フィルム自身の耐光性向上、或いは偏光板、液晶表示装置の液晶化合物等の画像表示部材の劣化防止のために、更に紫外線吸収剤(紫外線防止剤)を添加することが好ましい。
【0048】
紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な画像表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものを用いることが好ましい。特に、波長370nmでの透過率が、20%以下であることが望ましく、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。このような紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、前記のような紫外線吸収性基を含有する高分子紫外線吸収化合物等があげられるが、これらに限定されない。紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。
【0049】
本発明において紫外線吸収剤の使用量は、光学フィルムに用いられるポリマー100質量部に対し0.1〜5.0質量部、好ましくは0.5〜4.0質量部、より好ましくは0.8〜2.5質量部である。また、分散相を形成するドープと分散相を形成しないドープを隣接して共流延する際には、両層のドープに共通の構造の紫外線吸収剤を含有していることが、流延時のドープの界面での乱れの発生が少なく、更には光学フィルムのフィルム内密着に優れるため好ましい。
【0050】
本発明の光学フィルムは、主原料となる1種又は2種以上のポリマーとともに、添加剤を含有していてもよい。添加剤の例には、可塑剤(好ましい添加量はポリマーに対して0.01〜30質量%、以下同様)、紫外線吸収剤(0.001〜1質量%)、フッ素系界面活性剤(0.001〜1質量%)、剥離剤(0.0001〜1質量%)、劣化防止剤(0.0001〜1質量%)、光学異方性制御剤(0.01〜10質量%)、赤外線吸収剤(0.001〜1質量%)等が含まれる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、微量の有機材料、無機材料及びそれらの混合物からなる粒子を分散含有していてもよい。これらの粒子は、製膜時におけるフィルムの搬送性向上を目的として添加される場合には、粒子の粒径は5〜3000nmであるのが好ましく、添加量は1質量%以下であるのが好ましい。補助的にフィルム内部に光散乱性を付与するための粒子を添加する場合には、粒子の粒径は1〜20μmであるのが好ましく、添加量は2〜30質量%好ましい。これら粒子屈折率は本発明のポリマーフィルムの屈折率との差が0〜0.5であるのが好ましく、例えば、無機材料の粒子の例には、酸化珪素、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粒子が含まれる。有機材料の粒子の例には、アクリル系樹脂、ジビニルベンゼン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、スチレン系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が含まれる。粒子により光透過性に内部光拡散性を付与する際には、内部ヘイズの値に制限はないが、後方散乱性が高くなり全光透過率の低下が大きくなり過ぎない範囲に設定することが好ましい。具体的には、散乱粒子による内部ヘイズは1〜60%が好ましく、更に好ましくは3〜50%である。
【0051】
〔ドープ(Do)〕
前記ドープ(Db)とは別の少なくとも1種のドープは、流延時又は流延後の溶媒を除去する工程で相分離した分散相を実質的に含まないドープ(Do)であって、該ドープ(Do)は、ドープ流延時に、光学フィルムの基材から最も離れた側の層を形成するものとして流延される。
ドープ(Do)は、流延時又は流延後の溶媒を除去する工程で相分離した分散相を実質的に含まない点以外は前記ドープ(Db)と同様であり、ポリマー、溶媒、及びその他の添加剤などもドープ(Db)と同様のものを用いることができる。ドープ(Do)は分散相を実質的に含まないため、誘電率が35以上である溶媒は含まないほうが好ましい。また、ドープ(Do)に含まれる混合溶媒は互いに完全相溶することが好ましい。具体的には、前記低誘電率溶媒と中誘電率溶媒を混合して用いることが好ましく、両者の質量比は99/1〜81/19が好ましく、更に好ましくは98/2〜85/15である。
【0052】
〔ドープの調製〕
ドープ溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法及び装置を用いて実施することができる。一例として、一旦、低温にて、溶媒中でポリマー及び所望により添加される添加剤を膨潤させつつ、溶解を進行させる工程(膨潤工程)と、その後、加熱及び加圧下で、ポリマー等を溶解させる工程(溶解工程)とを含む方法である。
膨潤工程では、溶媒の温度を−10〜39℃程度の低温に維持する。膨潤工程時には、攪拌を実施し、ポリマー等の一部又は全部について、溶媒中への溶解を進行させるのが好ましい。膨潤工程は、一般的には、0.1〜6時間程度行うことが好ましい。
次に、溶解工程では、溶媒の温度を40〜240℃程度の温度まで加熱するとともに、0.2〜30MPa程度まで加圧するのが好ましい。但し、この範囲に限定されるものではなく、溶質及び溶媒の種類に応じて決定される。溶解工程は、0.1〜6時間程度行うことが好ましい。
【0053】
次に、得られたドープ溶液を製膜する。製膜は、一般的なソルベントキャスト法に従って行うことができる。具体的には、調製したポリマー溶液を、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させて製膜する。前記ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。本発明の製造方法に基づくドープは、複数層で共流延して行う。共流延する場合には、例えば、層数の調整が容易なフィードブロック法や、各層の厚み精度に優れるマルチマニホールド法を用いることができ、本発明においては、フィードブロック法をより好ましく用いることができる。
連続製造時のギーサの汚れに起因する筋状故障の低減の観点からは、分散相を形成するドープ(Db)は、流延基材側から最も離れた層の隣接下層又はそれより基材に近い層に用いられることが必要である。流延時に流延基材から最も離れた層に生じた異物は、光学フィルムの表面形状に与える影響が非常に大きい。
2層で共流延する場合には、流延基材側から空気側の順に、Db/Doの構成を採る。3層以上の場合はDb及びDoは各々独立に2層以上に使用してもよく、それぞれのDb及びDoの組成は同一でも異なっていてもよい。3層で共流延する場合には、流延基材側から空気側の順に、Do/Db/Do、Db/Db/Do、Db/Do/Doの構成を採ることができる。
また、前記ドラム又はバンド表面からの剥離性の観点からは、本発明の製造方法に基づくドープDbは、流延基材と直接接触しない層に用いられることが好ましい。一般に流延の基材とドープの間の空気巻き込みを防止するために、ビードと基材の間を減圧すること行われている。減圧下ではドープから溶媒蒸発が起こりやすく、筋状故障の要因となる不溶解物が付着しやすい、そのためドープDbは流延基材と直接接触しない層に用いられることが好ましい。また、ドープからの溶媒蒸発に伴う分散相の発生や不溶解物などの形成が起こりにくいという観点から、ドープ(Do)のうち1つは、ドープ流延時に、光学フィルムの基材に最も近い層を形成するものとして流延されることが好ましい。
これらの条件を共に満たす好ましい構成としては、3層構成の場合には、Do/Db/Doであり、4層構成の場合には、Do/Do/Db/Doの構成が好ましい。上記表記中、Do又はDbを複数層に用いる場合には、Do又はDbは同じ組成のドープであっても、異なる組成のドープであってもよい。
また、ドープの粘度は、1000〜50000cPが好ましく、5000〜20000cPがより好ましい。
【0054】
本発明の光学フィルムの作製時に分散相を形成するドープ(Db)を用いる場合において、特に、光学フィルム表面に開いた空隙を形成するためには、該ドープ(Db)の上層の分散相を形成しないドープ層(Do)の厚みは、10μm以下0.1μm以上であることが好ましく、更に好ましくは5μm以下0.2μm以上であり、最も好ましくは3μm以下かつ0.5μm以上である。この厚みにすることで、ギーサへの不溶解物の付着が抑制できるとともに、相分離により形成される分散相が製膜時に光学フィルム表面に開いた空隙を形成することが可能となる。
流延基材に最も近い層にドープDoを使用する場合には、該ドープ層の厚みは0.5〜30μmが好ましく、更に好ましくは1〜20μmである。ここで、ドープの厚みとは、流延ギーサからのドープの突出量と製膜後の面積を用いて、溶媒揮発後にドープから均一な膜厚の層が形成されたと仮定したときの膜厚を示す。
本発明の光学フィルムの厚みについては、特に制限はないが、一般的には、20〜200μm程度であり、薄型化の観点では、20〜100μm程度が好ましく、更に好ましくは20〜80μmである。
【0055】
基材に最も近い層又は基材から最も離れた層に用いるドープの固形分濃度は、分散相を形成するドープ(Db)の固形分濃度より、0.1〜8.0質量%低いのが好ましく、1.0〜5.0質量%低いのがより好ましい。この濃度範囲に設定することで、筋状故障の低減と必要な表面形状の両立が容易である。
【0056】
〔その他の工程〕
ソルベントキャスト法における流延及び乾燥方法については、例えば、特開昭58−127737号公報、同61−106628号公報、特開平2−276830号公報、同4−259511号公報、同5−163301号公報、同9−95544号公報、同10−45950号公報、同10−95854号公報、同11−71463号公報、同11−302388号公報、同11−322946号公報、同11−322947号公報、同11−323017号公報、特開2000−53784号公報、同2000−273184号公報、同2000−273239号公報、米国特許第2336310号明細書、米国特許第2367603号明細書、米国特許第2492078号明細書、米国特許第2492977号明細書、米国特許第2492978号明細書、米国特許第2607704号明細書、米国特許第2739069号明細書、米国特許第2739070号明細書、英国特許第640731号明細書、英国特許第736892号明細書、特公昭45−4554号公報、特公昭49−5614号公報、特開昭60−176834号公報、特開昭60−203430号公報、特開昭62−115035号公報に記載のものを採用できる。
前記ドープは、表面温度が10℃以下の、ドラム及びバンド等の基材上に流延することが好ましい。
【0057】
本発明の方法では、上記ドープを基材上で製膜し、その後、剥ぎ取った後に、更に乾燥することが好ましい。この乾燥工程で、膜中の残留溶剤が蒸発される。乾燥は、乾燥風を送風することで行うことができる。乾燥風の温度を段階的に上昇させて、多段階的に乾燥を行ってもよい。溶液流延製膜方法の流延工程、乾燥工程の詳細については、特開2005−104148号公報の120〜146頁にも記載があり、適宜本発明にも適用することができる。
【0058】
製膜されたポリマーフィルムは、そのまま光学フィルムとして利用することができる。また、所望により延伸処理を実施して、更にヘイズを調整してもよい。延伸条件については特に制限はない。通常行われる条件、例えば、延伸温度が(Tg−20)〜(Tg+50)℃程度、及び延伸倍率が20〜40%程度で実施することができる。
延伸は、ロール延伸機を利用して実施することができる。縦又は横一軸延伸処理を行っても、二軸延伸処理を行ってもよい。一般的には、長尺状のフィルムを長手方向に延伸する、縦一軸延伸処理が行われるであろう。
【0059】
また、流延初期にレベリングしないように基材の温度は20℃以下にすることが好ましく、更に流延後に冷却ゲル化するように基材の温度を0℃以下にすることも好ましい。
【0060】
(凹部)
本発明の光学フィルムの有する凹部について説明する。本明細書中、凹部とは、平均長径長(Lb)が0.5〜100μmであるものを言う。
本発明の光学フィルムの凹部の平均長径長(Lb)は0.5〜100μmであり、1〜50μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましい。なお、本明細書中、凹部の長径とは、光学フィルム表面に形成されている凹部の開口部(くぼみの端部)を結ぶ径の内、最も長い径のことを言う。
本発明の光学フィルムの凹部の深さは5μm以下であり、高拡散性能の観点では、1〜3μmであるのがより好ましい。凹部の深さとは、特定の大きさのサンプルフィルム表面における、平均長径長が0.5〜100μmである全凹部の深さの平均値のことを言う。 また、前記凹部の2つの凹部間の平均間隔は拡散性能の調整の観点から1〜100μmであるのが好ましく、1〜50μmであるのがより好ましい。なお、本明細書中、2つの凹部の平均間隔とは、すべての凹部について、それに最も近い凹部との中心間の距離を測定し、その合計を凹部の数で割った値のことを言う。
【0061】
なお、本明細書では、の凹部の深さ、平均長径長及び平均間隔は、表面形状測定装置によって測定される表面形状から算出される値を意味するものとする。表面形状測定装置としては、光干渉方式の計測装置を用いることもでき、触針式の計測装置を用いることもできる。光干渉方式の装置としては、三次元非接触表面形状計測システム(マイクロマップMM5000シリーズ;(株)菱化システム製)等を用いることができ、触針式の装置としては、触針式表面形状測定器(Dektak 6M;アルバック イーエス(株)製)等を用いることができる。なお、このような表面形状測定装置によって各凹部におけるフィルム平坦部表面からくぼみの最深部までの距離を自動的に測定及び算出することができ、全凹部についてこのような測定を行うことで凹部の深さ(すなわち、全凹部の深さの平均値)を算出することができる。
【0062】
本発明の光学フィルムは、フィルム表面における前記凹部の個数が25〜1000000個/mmであることが好ましい。光学フィルムにおける前記凹部の個数は100〜100000個/mmであることが、高拡散性能、かつ、高全光透過率の観点からより好ましく、500〜7000個/mmであることが特に好ましい。
【0063】
(その他の光学特性)
本発明の光学フィルムのヘイズは、3%以上であるのが好ましく、30%以上であるのがより好ましく、50%以上であるのが特に好ましく、60%以上であるのが更に好ましい。ヘイズが高いほど、光拡散性能は高くなるが、一方、全光透過率の低下により、画像表示装置に利用すると、正面白輝度の低下の一因になる。その観点では、本発明の光学フィルムのヘイズは、15〜95%であるのが好ましく、30〜90%であるのがより好ましく、最も好ましくは50〜90%である。
なお、ヘイズは、ヘイズメーター(NDH2000;日本電色工業(株)製)により測定することができる。
【0064】
本発明の光学フィルムの全光透過率は70%以上であることが好ましく、75〜95%であることがより好ましく、80〜93%であることが特に好ましい。さらに、本発明の光学フィルムの平行透過率は、5〜55%であることが好ましく、8〜40%であることがより好ましく、10〜40%であることが特に好ましい。なお、本明細書中、全光透過率とは直線光と拡散光を含む光線の透過率を表し、平行透過率とは直線光のみを含む光線の透過率を表す。
【0065】
本発明の光学フィルムを、偏光板の保護フィルムとして使用し、偏光膜と接着させる場合には、偏光膜との接着性の観点から、酸処理、アルカリ処理、プラズマ処理、コロナ処理等の表面を親水的にする処理を実施することが特に好ましい。
【0066】
<偏光板>
[偏光板の構成]
本発明の光学フィルムは、偏光膜とその少なくとも一方の側に配置された保護フィルムとを有する偏光板において、その保護フィルムとして使用することができる。本発明の光学フィルムを用いて偏光板を作製するときは、表面にくぼみを有する面を偏光板の表面側に使用することで、本願の目的である光学特性を得ることができる。本発明の光学フィルムが保護フィルムを兼ねることで、偏光板の製造コストを低減できる。また、本発明の光学フィルムをバックライト側の表面に使用することにより、正面コントラストとモアレや輝度ムラ軽減を両立することができる。
【0067】
また偏光板の構成として、偏光膜の両面に保護フィルムを配置する形態においては、一方の保護フィルムとして本発明の光学フィルムを用い、他方の保護フィルムには、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよいし、他方の保護フィルムには、位相差フィルムを用いることもできる。
更には、本発明の偏光板において、片面が本発明の光学フィルムであるのに対して、他方の保護フィルムが液晶性化合物からなる光学異方性層を有する光学補償フィルムであることも好ましい態様である。
【0068】
[偏光膜]
偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜及び染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造することができる。
【0069】
[光学補償フィルム]
偏光膜の2枚の保護フィルムのうち、本発明の光学フィルム以外のフィルムが、光学異方層を含んでなる光学補償層を有する光学補償フィルムであることも好ましい態様である。光学補償フィルム(位相差フィルム)は、液晶表示画面の視野角特性を改良することができる。
【0070】
光学補償フィルムとしては、公知のものを用いることができるが、視野角を広げるという点では、特開2001−100042号公報に記載されている光学補償フィルムが好ましい。
【0071】
<本発明の使用形態>
[画像表示装置]
本発明の光学フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)のような画像表示装置に好適に用いられる。
【0072】
[液晶表示装置]
本発明の光学フィルム、及び偏光板は、液晶表示装置等の画像表示装置に有利に用いることができ、透過型/半透過型液晶表示装置において、液晶セルのバックライト側の最表層に用いることが特に好ましい。
【0073】
一般的に、液晶表示装置は、液晶セル及びその両側に配置された2枚の偏光板を有し、液晶セルは、2枚の電極基板の間に液晶を担持している。さらに、光学異方性層が、液晶セルと一方の偏光板との間に一枚配置されるか、又は液晶セルと双方の偏光板との間に2枚配置されることもある。
【0074】
液晶セルは、TNモード、VAモード、OCBモード、IPSモード又はECBモードであることが好ましい。
【実施例】
【0075】
[光学フィルム用ドープの作製]
表1に示した組成(質量部)でドープを作製した。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
使用した材料を以下に示す。
・セルローストリアセテートA:アセチル置換度2.94、粘度平均重合度300、6位のアセチル置換度は0.94
・セルローストリアセテートB:アセチル置換度2.86、粘度平均重合度310、6位のアセチル置換度は0.89
・可塑剤A:エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1000)
・可塑剤B:トリフェニルフォスフェート
・微粒子:一次粒子径16nm、AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製
・溶媒:ジクロロメタン(誘電率9)、メタノール(誘電率33)、1−ブタノール(誘電率17)、及び水(誘電率78)
表中、ドープ(Db−03)はポリマーが溶解せず、均一なドープが得られなかった。ドープ(Db−01)は、流延前の状態ではヘイズがなく分散相は認められなかった。その他の(Db−02)、(Db―04)〜(Db−08)は、誘電率が35以上の溶媒である水を増量することで分散相が形成され、ドープのヘイズは5〜30%であった。また、分散相の溶媒は水とアルコールからなっており、これら溶媒にはポリマー(セルローストリアセテート)は実質溶解しない。また、ドープ(Db−01)をガラス板に流延し溶媒の蒸発とともに面状を目視で確認したところ、ドープが流動性を示し溶媒が残っている状態でもヘイズの上昇が認められ、沸点の低いジクロロメタンの蒸発とともに分散相が形成されることが観察された。
なお、ドープ101〜106は分散相を形成しないドープである。
【0079】
このようにして得られたドープを30℃に加温し、流延ギーサー(特開平11−314233号公報に記載)を通して15℃に設定したバンド長60mの鏡面ステンレス基材上に流延した。流延スピードは50m/分、塗布幅は50cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたフィルムをバンドから剥ぎ取り、45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、更に140℃で10分乾燥して、フィルムを得た。表1のドープを表2に示した構成になるように組み合わせて流延し、光学フィルム(F−1)〜(F−23)を作製した。複数のドープを用いる場合には、フィードブロック法に準じて共流延を行った。表中の膜厚は、突出量から均一厚みの膜が形成されたと仮定したときの換算膜厚である。
【0080】
〔光学フィルムの評価〕
このように作製した光学フィルムを用いて以下の評価を行った。
(1)製造時性能安定性
[フィルム筋状ムラ]
連続して5000m製膜したときの、最後の10mを用いて、光学フィルムの流延基材と反対側の表面を目視で観察した。幅方向で一定の場所から流延方向に発生する筋状のムラを以下の4段階で評価した。
◎ :筋状のムラの発生は目視では分からない。
○ :筋状のムラが僅かに認められるが、実用上問題ない。
× :筋状のムラの発生が認められる。
××:筋状のムラが発生し、その頻度が多い。
【0081】
[ドラム汚染]
製膜を開始して、5000mの時点と、連続して10000mの製膜が終わった後の、流延ドラムの表面を目視で観察し、異物の付着を以下の4段階で評価した。なお、異物とは、ポリマーのくずが付着したものであった。
◎ :流延ドラムに異物の付着は全く認められない。
○ :流延ドラムに異物の付着は認められないが、鏡面の反射が若干低下している。
× :流延ドラムに目視で観察できる異物の付着が認められる。
××:流延ドラムに目視で観察できる異物の付着が認められ、その頻度が多い。
【0082】
(2)光学フィルムの特性
光学フィルムの凹部の表面物性は、三次元非接触表面形状計測システム(マイクロマップMM5000シリーズ;(株)菱化システム製)を用いて、深さ、凹部の開口部長径、開口部短径、凹部の中心間隔、凹部の個数を測定した。
光学フィルムの光学特性は、ヘイズメーター(NDH2000;日本電色工業(株)製)により、ヘイズ、全光透過率、平行透過率を測定した。
評価結果を表2に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表2によれば、本発明の製造方法で作製した光学フィルムは、製造時の安定性に優れ、ヘイズ及び全光透過率が高い前方散乱性の高い良好な光散乱性を有していることが分かる。
特に、ポリマーを実質溶解していない分散相を形成するドープ(Db)の上に、該分散相を含まないドープ(Do)を共流延して製膜するのにも係らず、溶媒の揮発の後には該分散相が光学フィルムの最表面にまで移動し開いた空隙を形成するのは全く予想できるものではなかった。
【0085】
なお、得られた光学フィルム(F−1〜F−20)は、フィルム面に垂直な方向から観察した際の凹状のくぼみ開口部の形状は、円形状に近く、その円相当径(投影面積円相当径)は、約5〜16μmの範囲であった。同様に、凹状のくぼみのフィルム面に垂直な方向から観察した際のくぼみ底部の形状は、円形状に近く、その円相当径(投影面積円相当径)は、約3〜10μmの範囲であった。また、これら光学フィルムにおける表2に記載した以外のフィルム厚み方向断面の詳細は、くぼみ底部はくぼみ全体の横幅を100%とすると60〜70%の幅で形成されており、フィルム表面に対する前記くぼみ底部の面の傾きは±2.5°以内であり、くぼみ底部からくぼみ端部に向かって、徐々に曲率半径が小さくなる形状であった。また、これらフィルムの内部空隙率は、いずれも1%(体積比)以下であった。
【0086】
[液晶表示装置を用いた評価]
LG Display社製ノートPC(R700−XP50K、WXGA+、画素数1440×900、17インチ)を分解し、バックライト側の偏光板に隣接している光拡散シートを取り外し、更に液晶セルに貼られたバックライト側の偏光板の保護フィルムを剥がして、その代わりに上記光学フィルムを表3に示すように貼り付けた。
【0087】
このように作成した液晶表示装置を用いて以下の評価を行った。
(1)正面白輝度
作製した液晶表示装置にビデオ信号ジェネレーター(VG−848;アストロデザイン(株)製)より信号を入力し、全面ベタ表示で256/256階調の白色表示とし、暗室下において液晶表示装置平面の法線(正面)方向から輝度計(BM5−A;(株)トプコン製)にて輝度を測定した。画面の中央の点から3cmの間隔で上下各1点、左右各1点の合計5点を測定し、平均値を算出した。バックライト側偏光板の表面に光散乱性を有さない光学フィルム(F−23)を使用した場合を基準として、以下の3段階で評価した。
◎:ほとんど低下していない(基準値の98%以上100%以下)
○:やや低下している(基準値の95%以上98%未満)
△:低下している(基準値の95%未満)
【0088】
(2)モアレ
作製した液晶表示装置にビデオ信号ジェネレーター(VG−848;アストロデザイン(株)製)より信号を入力し、全面ベタ表示で128/256階調の灰色表示とし、暗室下で様々な方向から画面を目視観察し、モアレ発生の有無を評価した。
◎:モアレが観察されない。
○:モアレが僅かに観察されるがほとんど気にならない。
△:モアレが観察され、やや気になる。
×:モアレが明瞭に観察される。
モアレのレベルとしては、実用的には○以上が必要である。
【0089】
評価結果を下記表3に示す。
【0090】
【表4】

【0091】
表3によれば、本発明の光学フィルムは、液晶表示装置のバックライト側に用いた場合には、正面輝度が高く、モアレの発生が抑制されており、バックライト側の偏光板に隣接する光拡散シートを除去することが可能であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを少なくとも含む2種以上のドープを同時に基材上に流延する工程、及び前記溶媒を除去する工程を含む光学フィルムの製造方法であって、
少なくとも1種のドープは、流延時に既に分散相を含有しているか、または流延後に前記溶媒を除去する工程で相分離した分散相を形成するドープ(Db)であり、
前記ドープ(Db)の分散相を構成する溶媒の主成分が、前記ポリマーが実質不溶な溶媒であり、
前記ドープ(Db)は、ドープ流延時に、光学フィルムの前記基材から最も離れた側の層の隣接下層または該隣接下層より前記基材に近い層を形成するものとして流延され、
また前記ドープ(Db)とは別の少なくとも1種のドープは、流延時または流延後の溶媒を除去する工程で相分離した分散相を実質的に含まないドープ(Do)であって、
該分散相を実質的に含まないドープ(Do)は、ドープ流延時に、光学フィルムの前記基材から最も離れた側の層を形成するものとして流延される、
光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
さらに、分散相を実質的に含まないドープ(Do)が、ドープ流延時に、光学フィルムの前記基材に最も近い層を形成するものとして流延される、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれる溶媒が、2種以上の溶媒を含む混合溶媒であり、そのうちの少なくとも1種の溶媒の誘電率が35以上であって、該混合溶媒のうち少なくとも2種類の溶媒は、互いに完全相溶しない溶媒である、請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれる混合溶媒が、誘電率が35以上の溶媒を0.3〜30質量%含む混合溶媒である、請求項3に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれる混合溶媒が、誘電率が2〜10未満の溶媒、及び誘電率が10〜35未満の溶媒を含む、請求項3又は4に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記誘電率が35以上の溶媒が水である、請求項3〜5のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれる溶媒が、2種以上の溶媒を含む混合溶媒であり、そのうちの少なくとも1種の溶媒の誘電率が2〜10未満であり、少なくとも別の1種の溶媒の誘電率が10〜35未満である、請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ドープ(Db)のうち少なくとも1種に含まれるポリマーがセルロースアシレートである、請求項1〜7のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法によって製造された光学フィルム。
【請求項10】
光学フィルムのヘイズが3%以上95%以下である請求項9に記載の光学フィルム。
【請求項11】
偏光膜と、該偏光膜の両側に2枚の保護フィルムを有する偏光板であって、該保護フィルムのうち少なくとも1枚が請求項9又は10に記載の光学フィルムである偏光板。
【請求項12】
請求項9若しくは10に記載の光学フィルム、又は請求項11に記載の偏光板を少なくとも1枚有する画像表示装置。

【公開番号】特開2011−75941(P2011−75941A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229025(P2009−229025)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】