説明

光学フィルムの製造方法

【課題】本発明は、点状欠陥が少なく、光学特性に優れた光学用フィルムの製造方法を提供する事にある。
【解決手段】非晶性の熱可塑性樹脂を、樹脂供給部スクリューと、樹脂計量部スクリューでそれぞれ温度制御可能な機構を有する単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する光学フィルムの製造方法に於いて、下記(1)及び(2)を満たすことで上記課題を解決できる。
(1)該単軸押出機内の樹脂供給部スクリュー温度がガラス転移温度−70℃以上、ガラス転移温度+10℃以下
(2)樹脂計量部スクリュー温度がガラス転移温度−30℃以上、ガラス転移温度+50℃以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性等の光学特性に優れ、且つ、外観欠陥の少ない光学用フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます小型化し、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるように、軽量・コンパクトという特徴を生かした液晶表示装置が多く用いられるようになってきている。これら液晶表示装置は、偏光フィルムに始まり、その表示品位を保つ為に各種フィルムが用いられている。又、携帯情報端末や携帯電話向けに液晶表示装置を更に軽量化する目的で、ガラス基板の代わりに樹脂フィルムを用いたプラスチック液晶表示装置も実用化されている。
【0003】
液晶表示装置のように、偏光を取り扱う場合、用いる樹脂フィルムは光学的に透明である事の他に、光学的に均質である事、着色や変色が少ない事、点状或いはスジ状等の外観欠陥が少ない事が求められる。
【0004】
フィルムの製膜方法としては、溶液流延製膜法、溶融押出法が挙げられるが、設備費、生産性、溶剤を用いる事による環境上の問題等から、近年、溶融押出法が注目されている。
【0005】
しかし、溶融押出法でフィルムを製膜する場合、押出機内に投入された樹脂が、押出機内のせん断応力によって、樹脂が発熱して劣化し、フィルムが着色や変色する、或いは、樹脂が架橋し、点状欠陥が発生するといった問題がある。
【0006】
更に、押出量が不安定であると押出機内で樹脂が劣化し、フィルムが着色や変色する、或いは、押出機内の混錬不良に起因する未溶融物や、焼け樹脂に起因する褐色或いは黒い点状の欠陥が発生するといった問題がある。
【0007】
一般的には異物除去の目的で各種フィルターが使用されるが、上記未溶融物及び褐色の焼け樹脂等点状欠陥の原因、或いは非常に小さな異物はフィルターで完全に除去する事は難しいという問題がある。
【0008】
これに対して、特許文献1には、押出機内での樹脂の架橋抑制の為に、全長に於けるスクリュー温度を一度に制御する光学フィルムの製造方法が開示されている。このような方法では、スクリュー各部に於ける温度制御が困難であり、上記押出機内のせん断応力による樹脂発熱抑制と、押出安定性を両立する事が出来なかった。
【特許文献1】特開2006−327110
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決する為になされたものであり、点状欠陥が少なく、光学特性に優れた光学用フィルムの製造方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する為、本発明者等は鋭意検討を行った。その結果、非晶性の熱可塑性樹脂を、単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する光学フィルムの製造方法に於いて、該単軸押出機内の樹脂供給部スクリュー温度、及び樹脂計量部スクリュー温度をある範囲内に制御する事によって、上記課題を解決する事を見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下の光学フィルムの製造方法が提供される。
【0012】
(i)非晶性の熱可塑性樹脂を、樹脂供給部スクリューと、樹脂計量部スクリューでそれぞれ温度制御可能な機構を有する単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する光学フィルムの製造方法に於いて、下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
(1)該単軸押出機内の樹脂供給部スクリュー温度がガラス転移温度−70℃以上、ガラス転移温度+10℃以下
(2)樹脂計量部スクリュー温度がガラス転移温度−30℃以上、ガラス転移温度+50℃以下。
【0013】
(ii)非晶性の熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂である事を特徴とする(i)記載の光学フィルムの製造方法。
【0014】
(iii)アクリル系樹脂が下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位及び/又は下記一般式(3)で表される単位とを有するイミド樹脂である事を特徴とする(i)または(ii)に記載の光学フィルムの製造方法。
【0015】
【化1】

(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0016】
【化2】

(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0017】
【化3】

(但し、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非晶性の熱可塑性樹脂を、単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する光学フィルムの製造方法に於いて、該単軸押出機内の樹脂供給部スクリュー温度、及び樹脂計量部スクリュー温度をある範囲内に制御する事により、点状欠陥が少なく、光学特性に優れた光学用フィルムの製造方法を提供出来る。又、この方法により形成した光学フィルムは、液晶表示装置等に用いられる光学用フィルムに要求される点状欠陥の少なさを満足出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る光学フィルムの製造方法は、非晶性の熱可塑性樹脂を、樹脂供給部スクリューと、樹脂計量部スクリューでそれぞれ温度制御可能な機構を有する単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する光学フィルムの製造方法に於いて、下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする。
(1)該単軸押出機内の樹脂供給部スクリュー温度がガラス転移温度−70℃以上、ガラス転移温度+10℃以下
(2)樹脂計量部スクリュー温度がガラス転移温度−30℃以上、ガラス転移温度+50℃以下
【0020】
本発明に係る光学フィルムの製造方法に於いて用いられる単軸押出機のスクリューの一例を図1に示す。ここで、本発明で用いられるスクリューは、このような具体例に限定されるものではない。図1に示すスクリュー1は、供給部A、圧縮部B、及び計量部Cから構成される。詳しくは、供給部Aによって安定的に原料樹脂を圧縮部Bに供給し、圧縮部B、及び計量部Cによって均一溶融混練される。
【0021】
更に詳しくは、原料樹脂は、押出機シリンダー2a表面とスクリュー供給部A表面に於ける樹脂の摩擦差によって推進し、圧縮部Bに供給される。これにより、スクリュー供給部に於ける押出機シリンダー温度、及びスクリュー供給部温度は、押出量安定性に大きな影響を及ぼし、上記押出機シリンダー温度、及びスクリュー供給部温度条件によっては押出量変動が大きくなり、未溶融物が生成されて、結果、点状欠陥が発生し、好ましくない場合がある。
【0022】
又、安定供給された原料樹脂は、圧縮部B、及び計量部Cによって均一混練が施される。ここで、特に、スクリュー計量部Cの過剰なせん断応力によって樹脂が架橋して点状欠陥が発生し、好ましくない場合がある。
【0023】
これに対して、本発明は、スクリュー各部に於ける温度をそれぞれ制御する事を特徴とする。
【0024】
詳しくは、樹脂供給部スクリュー温度がガラス転移温度−70℃未満の場合、押出機シリンダー温度制御に大きな影響を及ぼし、押出機内温度にバラツキが生じて押出量変動が大きくなる為、好ましくない。従って、単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する際の該単軸押出機内の樹脂供給部スクリュー温度は、ガラス転移温度−70℃以上である事が好ましく、更に好ましくはガラス転移温度−60℃以上、特に好ましくはガラス転移温度−50℃以上である。
【0025】
又、樹脂供給部スクリュー温度がガラス転移温度+10℃より高い場合、スクリュー樹脂供給部に溶融した樹脂が巻き付き、押出量変動が大きくなる為、好ましくない。従って、単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する際の該単軸押出機内の樹脂供給部スクリュー温度は、ガラス転移温度+10℃以下である事が好ましく、更に好ましくはガラス転移温度以下、特に好ましくはガラス転移温度−10℃以下である。
【0026】
樹脂計量部スクリュー温度がガラス転移温度−30℃未満の場合、過剰な樹脂冷却により、樹脂の均一混練性を阻害して押出機内で樹脂の粘度バラツキが生じ、押出量変動が大きくなる為、好ましくない。従って、単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する際の該単軸押出機内の樹脂計量部スクリュー温度は、ガラス転移温度−30℃以上が好ましく、更に好ましくはガラス転移温度−20℃以上、特に好ましくはガラス転移温度−10℃以上である。
【0027】
又、樹脂計量部スクリュー温度がガラス転移温度+50℃より高い場合、押出機内でのせん断応力による樹脂発熱に対する除熱効果が小さく、樹脂が架橋して、点状欠陥が発生する為、好ましくない。従って、単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する際の該単軸押出機内の樹脂計量部スクリュー温度は、ガラス転移温度+50℃以下が好ましく、更に好ましくはガラス転移温度+40℃以下、特に好ましくはガラス転移温度+30℃以下である。
【0028】
本発明に係る光学フィルムの製造方法に於いて、押出機各部に於けるシリンダー温度は、上記押出量安定性を確保し、且つ、樹脂の架橋が生じない範囲内で適宜調整される。詳しくは、スクリュー供給部に相当するシリンダーの好ましい温度はガラス転移温度+70℃で、更に好ましくはガラス転移温度+60℃である。又、スクリュー計量部に相当するシリンダーの好ましい温度はガラス転移温度+150℃で、更に好ましくはガラス転移温度+140℃である。
【0029】
本発明に係る光学フィルムの製造方法に於けるスクリュー温度を調整する方法としては特に限定されず、前記のようにシリンダー温度を調整する方法と、例えば、加熱油、又は水をスクリュー内部で循環させて温度制御する方法や、スクリュー内部に電気ヒーターを設置して温度制御する方法等を組み合わせる方法が挙げられるが、シリンダー温度を調整する方法と加熱油、又は水をスクリュー内部で循環させて温度制御する方法を組み合わせることが好ましい。
【0030】
本発明に係わる光学フィルムの製造方法に於けるスクリューは、樹脂供給部スクリューと、樹脂計量部スクリューでそれぞれ異なる温度制御可能な機構を有する。スクリューに於いて、樹脂供給部、樹脂圧縮部、樹脂計量部を同時に温度制御すると、押出量変動が生じる為、好ましくない。
【0031】
本発明の光学フィルムの製造方法に於けるスクリューは、図1に示すフルフライトスクリューの他に、ベント付き押出機用スクリュー、ミキシング機構付きスクリュー、及びダムフライトスクリュー等にも適用出来る。この中でも、樹脂の均一混練性の観点から、上記スクリューとしては、ミキシング機構付きスクリューが好ましい。
【0032】
又、スクリュー表面に於ける材質としては、特に限定されないが、スクリュー表面に対する樹脂の固着滞留に起因した樹脂の架橋の観点から、メッキ、又はセラミックコーティング処理等が施されている事が好ましい。この中でも、上記スクリューとしては、メッキ処理が施されている事が好ましく、クロムメッキ処理が施されている事が好ましい。
【0033】
本発明に係る光学フィルムの製造方法に於ける成形方法としては、溶融押出法による成形が可能であれば特に限定されないが、Tダイ押出法、及びインフレーション押出法等が挙げられる。
【0034】
本発明に係る光学フィルムに用いられる非晶性の熱可塑性樹脂とは、結晶構造をとりえない無定形状態を保つ高分子であり、そのガラス転移温度は、樹脂によって異なる為、特に限定されるものではないが、総じて100℃以上のものである。上記非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル系樹脂やポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、マレイミド・オレフィン系樹脂、ラクトン系樹脂、グルタルイミド系樹脂等の単独樹脂又はこれらを混合してなる樹脂組成物が挙げられる。この中でも、本発明に於いては、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ラクトン系樹脂、及びイミド系樹脂等のアクリル系樹脂が好ましく、イミド系樹脂が特に好ましい。以下イミド系樹脂について説明する。(本発明においてアクリル系樹脂とは、アクリル系モノマーを主原料とする重合体、及び、それらを変性及び/又は反応させて得られる樹脂をいう。)
【0035】
イミド系樹脂としては、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位及び/又は下記一般式(3)で表される単位とを有するイミド樹脂が好ましい。
【0036】
【化4】

(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0037】
【化5】

(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0038】
【化6】

(但し、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0039】
前記イミド樹脂を構成する、第一の構成単位は、一般式(1)で表されるものであり、一般的にグルタルイミド単位と呼ばれる事が多い(以下、一般式(1)をグルタルイミド単位と省略して示す事がある。)。
【0040】
好ましいグルタルイミド単位としては、R1、R2が水素又はメチル基であり、R3が水素、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基である。R1がメチル基であり、R2が水素であり、R3がメチル基である場合が、特に好ましい。
【0041】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R1、R2、R3が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0042】
尚、グルタルイミド単位は、以下に説明する第二の構成単位をイミド化する事により形成することが可能である。また、無水マレイン酸等の酸無水物、又はそれらと炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等もイミド化可能であり、グルタルイミド単位の形成に用いる事が出来る。
【0043】
前記イミド樹脂を構成する、第二の構成単位は、一般式(2)で表されるものであり、一般的には(メタ)アクリル酸エステル単位と呼ばれる事が多い(ここで、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを示す。以下、一般式(2)を(メタ)アクリル酸エステル単位と省略して示す事がある。)。
【0044】
前記イミド樹脂を製造する際に、先ず(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、または(メタ)アクリル酸エステル重合体を重合し、これを後イミド化して形成する場合、具体的に(メタ)アクリル酸エステル単位を残基として与える原料としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中で、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0045】
これら第二の構成単位は、単一の種類でもよく、R4、R5、R6が異なる複数の種類を含んでいても構わない。同様に、前記(メタ)アクリル酸エステル単位を残基として与える原料も複数の種類を混合して用いても構わない。
【0046】
本発明のイミド樹脂に必要に応じて含有させる第三の構成単位は、一般式(3)で表されるものであり、一般的には芳香族ビニル単位と呼ばれる事が多い(以下、一般式(3)を芳香族ビニル単位と省略して示す事がある。)
【0047】
好ましい芳香族ビニル構成単位としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
【0048】
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R7、R8が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0049】
前記イミド樹脂中の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、例えばR3の構造にも依存するが、イミド樹脂の20重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の、好ましい含有量は、20重量%から95重量%であり、より好ましくは40〜90重量%、更に好ましくは、50〜80重量%である。グルタルイミド単位の割合がこの範囲より小さい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足し、又、透明性が損なわれる事がある。又、この範囲を超えると不必要に耐熱性、溶融粘度が上がり、成形加工性が悪くなる他、得られるフィルムの機械的強度は極端に脆くなり、又、透明性が損なわれる事がある。
【0050】
前記イミド樹脂中の、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、イミド樹脂の総繰り返し単位を基準として、1重量%以上が好ましい。芳香族ビニル単位の、好ましい含有量は、1重量%から40重量%であり、より好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは、1〜25重量%である。芳香族ビニル単位がこの範囲より大きい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足する。この範囲より小さい場合、得られるフィルムの機械的強度が低下することがある。
【0051】
一般式(1)、(2)、(3)の割合を調整することで、各種要求される物性に調整する事が可能である。例えば、前記イミド樹脂を、先ずメチルメタクリレート−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を重合した後に後イミド化して形成する場合、例えば(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルの重合割合を調整することで一般式(3)の割合を決め(一般式(3)の割合を0とする事も可)、更に後イミド化時の一級アミンの添加割合を調整する事で、更に一般式(1)、(2)の割合を調整する事ができる。
【0052】
本発明のイミド樹脂には、必要に応じ、更に、第四の構成単位が共重合されていてもかまわない。第四の構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を用いる事ができる。これらは熱可塑性樹脂中に、直接共重合してあっても良く、グラフト共重合してあっても構わない。
【0053】
本発明のイミド樹脂を製造する際に、先ずメチルメタクリレート−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、又はメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体を重合し、これをイミド樹脂化する場合、本発明で用いる事ができる(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル重合体は、イミド化反応が可能であれば、リニアー(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、又はこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても構わない。コアシェルポリマーはただ一層のコア及びただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても構わない。
【0054】
又、イミド樹脂は、1×104ないし5×105の重量平均分子量を有する事が好ましい。重量平均分子量が1×104を下回る場合には、フィルムにした場合の機械的強度が不足し、5×105を上回る場合には、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する事がある。
【0055】
前記イミド樹脂は、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、又はメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体にイミド化剤を処理する方法であれば各種方法で製造する事ができ、押出機等を用いてもよく、バッチ式反応槽(圧力容器)等を用いてもよい。
【0056】
前記イミド樹脂の製造方法を押出機にて行う場合には、各種押出機が使用可能であるが、例えば単軸押出機、二軸押出機或いは多軸押出機等が使用可能である。特に、原料ポリマーに対するイミド化剤或いは閉環促進剤の混合を促進できる押出機として二軸押出機が好ましい。二軸押出機には非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式等があるが、二軸押出機の中では噛合い型同方向回転式が高速回転可能であり、原料ポリマーに対するイミド化剤或いは必要によって使用する閉環促進剤の混合を促進できるので好ましい。これらの押出機は単独で用いても、直列につないでも構わない。
【0057】
又、押出機には未反応のイミド化剤或いはメタノール等の副生物やモノマー類を除去する為に、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着する事が好ましい。
【0058】
イミド樹脂の製造を押出機の代わりに、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に使用できる。
【0059】
前記イミド樹脂の製造方法をバッチ式反応槽(圧力容器)で行う際には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、攪拌でき、イミド化剤或いは閉環促進剤を添加できる構造であれば特に制限ないが、反応の進行によりポリマー粘度が上昇する事もあり、攪拌効率が良好なものがよい。例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンド等を例示する事ができる。
【0060】
非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度は110℃以上である事が好ましく、120℃以上である事がより好ましい。ガラス転移温度が上記の値を下回ると、耐熱性が要求される用途においては適用範囲が制限される。
【0061】
本発明に係る非晶性の熱可塑性樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲内に於いて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を含有してもよい。尚、上記添加剤は、単独でもよく、2種以上を併用しても構わない。
【0062】
本発明に係る光学フィルムの製造方法に於ける原料樹脂の形状としては、粉状、フレーク形状、ペレット形状等が挙げられる。好ましくは、ペレット形状である。
【0063】
本発明の光学フィルムの製造方法を用いて製造される光学フィルム表面の点状欠陥は50個/m2以下である。点状欠陥が50個/m2を超えると、光学フィルムとして液晶表示装置等に用いられる際に、表示品質を低下させる。
【0064】
ここで、本明細書に於ける点状欠陥とは、樹脂の架橋、及び未溶融物等樹脂由来欠陥の事を言う。詳しくは、マイクロスコープに於いて観察された最大長さ20μm以上の大きさで、且つ、フィルム正常部分と同じ屈折率を有する欠陥である。
【0065】
本発明の光学フィルムの製造方法を用いて製造される光学フィルムの好ましい厚みは20μm以上、350μm以下である。更に好ましくは50μm以上、300μm以下で、特に好ましくは80μm以上、200μm以下である。
【実施例】
【0066】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。実施例の具体的な内容を説明する前に、まず、各実験結果として示される物性及び評価値の測定方法を以下に示す。
【0067】
(1)ガラス転移温度
樹脂10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、(株)島津製作所製DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
(2)押出量変動
樹脂吐出口に於いて、1分毎に30分間、押出量を測定して平均押出量に対するバラツキを算出した。
(3)樹脂温度
樹脂吐出口に於いて、接触型樹脂温度計を用いて測定した。
(4)点状欠陥数
暗室で1m2のフィルムを目視で観察し、株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(VH−Z75)で、最大長さ20μm以上で、且つ、フィルム正常部分と同じ屈折率を有する欠陥の数をカウントした。
【0068】
(実施例1)
樹脂は、市販のメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(新日鐵化学(株)製MS−800)を、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いてイミド化したイミド樹脂を使用した。具体的には、直径40mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が60の同方向噛合型二軸押出機を用いて、押出機各バレル温度を250℃、スクリュー回転数は150rpm、原料樹脂供給量は20kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して20部の条件で作製された樹脂である。このイミド樹脂のガラス転移温度は130℃である。
【0069】
次いで、上記イミド樹脂を100℃で5時間乾燥後、40mm単軸押出機と400mm幅のTダイを用いてシート状に押出し、金属製の冷却ロールで該シートを冷却して、幅350mm、厚み150μmのフィルムを得た。ここで、上記単軸押出機に用いたスクリューは、供給部、圧縮部、計量部、及び計量部後にミキシング機構(ダルメージ)から構成されるダルメージスクリューを用いた。更に、上記スクリューは、スクリュー供給部、及び計量部以降がそれぞれ温度制御可能な構造となっており、加熱油をスクリュー内部で循環させて、スクリュー温度制御を行った。詳しくは、スクリュー供給部温度を90℃、計量部以降温度を150℃とした。又、上記単軸押出機のヒーターは、スクリュー供給部に相当するC1、圧縮部に相当するC2、計量部に相当するC3、及びミキシング機構に相当するC4の4ゾーンから構成されており、C1を200℃、C2を240℃、C3を270℃、C4を270℃とした。
【0070】
この際の押出量変動は15.0±0.1kg/時間、樹脂温度は270℃であり、フィルム表面の点状欠陥は5個/m2であった。
【0071】
(実施例2)
スクリュー供給部温度が60℃である事以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0072】
この際の押出量変動は16.0±0.1kg/時間、樹脂温度は270℃であり、フィルム表面の点状欠陥は5個/m2であった。
【0073】
(実施例3)
スクリュー供給部温度が140℃である事以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0074】
この際の押出量変動は14.0±0.1kg/時間、樹脂温度は271℃であり、フィルム表面の点状欠陥は5個/m2であった。
【0075】
(実施例4)
スクリュー計量部以降温度が100℃である事以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0076】
この際の押出量変動は15.0±0.1kg/時間、樹脂温度は265℃であり、フィルム表面の点状欠陥は3個/m2であった。
【0077】
(実施例5)
スクリュー計量部以降温度が180℃である事以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0078】
この際の押出量変動は15.0±0.1kg/時間、樹脂温度は280℃であり、フィルム表面の点状欠陥は10個/m2であった。
【0079】
(比較例1)
スクリュー供給部温度が50℃である事以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0080】
この際の押出量変動は20.0±2.0kg/時間、樹脂温度は265℃であり、フィルム表面の点状欠陥は60個/m2であった。
【0081】
(比較例2)
スクリュー供給部温度が150℃である事以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0082】
この際の押出量変動は10.0±5.0kg/時間、樹脂温度は270℃であり、フィルム表面の点状欠陥は70個/m2であった。
【0083】
(比較例3)
スクリュー計量部以降温度が90℃である事以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0084】
この際の押出量変動は15.0±3.0kg/時間、樹脂温度は260℃であり、フィルム表面の点状欠陥は65個/m2であった。
【0085】
(比較例4)
スクリュー計量部以降温度が190℃である事以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0086】
この際の押出量変動は15.0±0.1kg/時間、樹脂温度は290℃であり、フィルム表面の点状欠陥は100個/m2であった。
【0087】
(比較例5)
スクリュー供給部、及び計量部以降の温度制御を行わなかった事以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
【0088】
この際の押出量変動は15.0±5.0kg/時間、樹脂温度は285℃であり、フィルム表面の点状欠陥は100個/m2であった。
【0089】
以下の表に、上記各実験結果を整理して示す。
【0090】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明で用いられるスクリューの一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0092】
1 スクリュー
2 押出機シリンダー
A スクリュー供給部
B スクリュー圧縮部
C スクリュー計量部
2a スクリュー供給部に相当する押出機シリンダー
2b スクリュー圧縮部に相当する押出機シリンダー
2c スクリュー計量部に相当する押出機シリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性の熱可塑性樹脂を、樹脂供給部スクリューと、樹脂計量部スクリューでそれぞれ温度制御可能な機構を有する単軸押出機を用いた溶融押出法により製膜する光学フィルムの製造方法に於いて、下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
(1)該単軸押出機内の樹脂供給部スクリュー温度がガラス転移温度−70℃以上、ガラス転移温度+10℃以下
(2)樹脂計量部スクリュー温度がガラス転移温度−30℃以上、ガラス転移温度+50℃以下
【請求項2】
非晶性の熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂である事を特徴とする請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
アクリル系樹脂が下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位及び/又は下記一般式(3)で表される単位とを有するイミド樹脂である事を特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【化1】

(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化2】

(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化3】

(但し、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)

【図1】
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【公開番号】特開2010−69676(P2010−69676A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238127(P2008−238127)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】