説明

光学フィルム

【課題】主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含むフィルムであって、光学特性に優れ、フィルム強度および可とう性を兼ね備えた光学フィルムを提供する。
【解決手段】主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含むフィルムを二軸延伸することで、面内位相差Reと厚さ方向位相差が10nm以下、フィルムインパクト強度が0.2J以上、耐折度試験回数が200回以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性と機械的強度に優れた光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表される熱可塑性アクリル樹脂は、高い光線透過率を有するなど、光学特性に優れるとともに、機械的強度、成形加工性および表面硬度のバランスに優れていることから、自動車部品や家電製品をはじめとする各種工業部品などにおける透明材料や光学関連用途に幅広く使用されている。また、熱可塑性アクリル樹脂を用いたフィルムは、近年、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置等の画像表示装置の光学部材としての使用が増大している。
【0003】
熱可塑性アクリル樹脂の1種に、主鎖に環構造を有するものがある。主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、主鎖に環構造を有さないアクリル樹脂に比べてガラス転移温度(Tg)が高い。このため、このようなアクリル樹脂を主成分とするフィルムは耐熱性が高く、例えば、画像表示装置において光源などの発熱部に近接した配置が容易となるなど、実用上の様々な利点を有する。一例として、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂が特開2000−230016号公報(特許文献1)に、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂を主成分とする樹脂フィルムが特開2006−96960号公報(特許文献2)に開示されている。
【0004】
画像表示装置において樹脂フィルムは、各種光学フィルムとして使用されている。画像表示装置の大画面化に伴ってこれらのフィルムの薄膜化、大面積化が強く求められているが、そのためには、樹脂フィルムの強度、可とう性などの機械的特性の向上が望まれている。また、画質向上のために低位相差であるフィルムも望まれている。
【0005】
しかし、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を主成分とする場合、環構造によりフィルムの耐熱性が向上する一方で、フィルムが硬くなり、この傾向は、樹脂フィルムにおける環構造の含有率が増すほど強くなる。このためアクリル樹脂フィルムにおいて、主成分たるアクリル樹脂に環構造を導入することでフィルムの耐熱性を向上させながら、さらにその機械的特性も併せて向上させることは難しく、例えば、折り曲げによって破損が生じたり、フィルムの取扱時に裂けてしまうといった問題が生じやすかった。このため、樹脂フィルムを延伸することで可とう性を向上させることが試みられているが、強度が不十分であり、低位相差で可とう性と強度が向上された光学フィルムは開示されていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−230016号公報
【特許文献2】特開2006−96960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含むフィルムにおいて、延伸により、可とう性を向上することはできていたが、厚さが薄くなることでフィルムの絶対的な強度は低下してしまっていた。本発明では、低位相差で、可とう性と強度を併せ持つ機械的強度に優れた光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含むフィルムであって、面内位相差Reが10nm以下、厚み方向位相差Rthが10nm以下、フィルムインパクト強度が0.2J以上、MIT耐折度試験回数が200回以上である。
【0009】
本発明の光学フィルムは2軸延伸されてなる光学フィルムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により優れた光学特性を有し、強度と可とう性を兼ね備えた光学フィルムが得られる。また、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含むことにより、耐熱性にも優れたフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下の説明において、特に記載がない限り、「%」は「質量%」、「部」は「質量部」をそれぞれ意味し、範囲を表す「A〜B」は「A以上B以下」を意味する。
【0012】
[アクリル樹脂(A)]
アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を有するアクリル樹脂である限り特に限定されない。
【0013】
アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸単位を構成単位として有する樹脂のことであり、(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリル酸の誘導体に由来する構成単位を有していてもよい。アクリル樹脂が有する全構成単位における、(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位および上記誘導体に由来する構成単位の割合に合計は、通常50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの単量体に由来する構成単位である。
【0015】
(メタ)アクリル酸単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの単量体に由来する構成単位である。
【0016】
アクリル樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位としてこれらの構成単位を2種類以上有していてもよい。アクリル樹脂(A)はメタクリル酸メチル単位を有することが好ましく、この場合、アクリル樹脂(A)ならびにアクリル樹脂(A)を含む組成物を成形して得られたフィルムの熱安定性が向上する。
【0017】
アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を有していることから、アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が高くなり、アクリル樹脂(A)を含むフィルムの耐熱性が向上する。このように主鎖に環構造を有するアクリル樹脂(A)を含むフィルムは画像表示装置における光源などの発熱部近傍への配置が容易になるなど光学部材としての用途に好適である。
【0018】
アクリル樹脂(A)のTgは、得られるフィルムの耐熱性が向上することから、115℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。
【0019】
環構造の種類は特に限定されないが、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。
【0020】
以下の一般式(1)に無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造を示す。
【0021】
【化1】

【0022】

上記一般式(1)におけるR、Rは互いに独立して水素原子、またはメチル基であり、Xは酸素原子または窒素原子である。Xが酸素原子であるとき、Rは存在せず、Xが窒素原子のとき、Rは、水素原子、炭素数1から6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0023】
が酸素原子のとき一般式(1)により示される環構造は無水グルタル酸構造となる。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0024】
が窒素原子のとき、一般式(1)により示される環構造はグルタルイミド構造となる。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0025】
以下の一般式(2)に、無水マレイン酸構造およびN−置換マレイミド構造を示す。
【0026】
【化2】

【0027】

上記一般式(2)におけるR、Rは互いに独立して水素原子、またはメチル基であり、Xは酸素原子または窒素原子である。Xが酸素原子であるとき、Rは存在せず、Xが窒素原子のとき、Rは、水素原子、炭素数1から6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0028】
が酸素原子のとき一般式(2)により示される環構造は無水マレイン酸構造となる。無水マレイン酸構造は、例えば、無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸エステルとを共重合体して形成できる。
【0029】
が窒素原子のとき、一般式(2)により示される環構造はN−置換マレイミド構造となる。N−置換マレイミド構造は、例えば、フェニルマレイミドなどのN−置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとを重合体して形成できる。
【0030】
なお、一般式(1)、(2)の説明において例示した環構造を形成する各方法では、各々の環構造を形成に用いる重合体が全て(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単として有するため、当該方法により得た樹脂はアクリル樹脂となる。
【0031】
アクリル樹脂(A)が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応により、高いラクトン環含有率を有するアクリル樹脂(A)が得られること、メタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から以下の一般式(3)に示される構造が好ましい。
【0032】
【化3】

【0033】

上記一般式(3)において、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1から20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0034】
一般式(3)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1から20の範囲のアルキル基、エテニル基、プロペニル基などの炭素数1から20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基、フェニル基、ナフチル基などの炭素数1から20の範囲の芳香族炭化水素基であり、上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基、上記芳香族炭化水素基は、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基、およびエステル基から選ばれる少なくとも1種類の基により置換されていてもよい。
【0035】
アクリル樹脂(A)におけるラクトン環構造を除く上記環構造の含有率は特に限定されないが、例えば5〜90%であり、好ましくは10〜70%であり、よりこの好ましくは10〜60%であり、さらに好ましくは10〜50%である。
【0036】
アクリル樹脂(A)が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該樹脂におけるラクトン環構造の含有率は特に限定はされないが、例えば5〜90%であり、好ましくは10〜80%であり、より好ましくは10〜70%であり、さらに好ましくは20〜60%である。
【0037】
アクリル樹脂(A)における環構造の含有率が過渡に小さくなると、フィルムの耐熱性の低下や、耐溶剤性および表面硬度が不十分となることがある。一方、上記含有率が過渡に大きくなると、フィルムの成形性や機械的特性が低下する。
【0038】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂(A)は公知の方法により製造できる。環構造が無水グルタル酸構造あるいはグルタルイミド構造であるアクリル樹脂は、例えば、WO2007/26659号公報あるいはWO2005/108438号公報に記載の方法により製造できる。環構造が無水マレイン酸構造あるいはN−置換マレイミド構造であるアクリル樹脂は、例えば、特開昭57−153008号公報、特開2007−31537号公報に記載の方法により製造できる。環構造がラクトン環構造であるアクリル樹脂は、例えば、特開2006−96960号公報、特開2006−171464号公報あるいは特開2007−63541号公報に記載の方法により製造できる。
【0039】
アクリル樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位以外の構成単位を有していてもよく、このような構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールなどの単量体に由来する構成単位である。アクリル樹脂(A)は、これらの構成単位を2種以上有していてもよい。
【0040】
アクリル樹脂(A)は、当該樹脂に対して負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位を有していてもよい。この場合、アクリル樹脂(A)からなるフィルムにおける複屈折性の制御の自由度が向上し、本発明における光学フィルムの使用用途が拡大する。
【0041】
なお、固有複屈折とは、樹脂の分子鎖が一軸配向した層(例えば、シートあるいはフィルム)における、分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な方向の光の屈折率n1から、配向軸に垂直な方向の光の屈折率n2を引いた値(即ち、“n1−n2”)をいう。アクリル樹脂(A)自体の固有複屈折の正負は、固有複屈折に関して当該構成単位が与える作用と、アクリル樹脂(A)が有するその他の構成単位が与える作用との兼ね合いにより決定される。
【0042】
アクリル樹脂(A)に対して負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位の一例は、スチレン単位である。
【0043】
アクリル樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば1000〜300000の範囲であり、好ましくは5000〜250000の範囲であり、より好ましくは10000〜200000の範囲であり、さらに好ましくは50000〜200000の範囲である。
【0044】
アクリル樹脂(A)は耐熱性、物性、光学特性と損なわない範囲で紫外線吸収能を有してもよい。具体的には、アクリル樹脂(A)を製造する時の単量体成分として紫外線吸収性単量体および/または紫外線安定性単量体を用いる方法や、紫外線吸収剤および/または紫外線安定剤を上記アクリル樹脂(A)に配合する方法がある。またこれらは、アクリル樹脂(A)を含む光学フィルムに支障がない限り、これらの方法を併用してもかまわない。また、上記紫外線吸収機能を持続させるためには、紫外線吸収性単量体と紫外線安定性単量体を併用することや、紫外線吸収剤と紫外線安定剤を併用する事が好ましい。また、紫外線吸収性単量体および/または紫外線安定性単量体と合わせて、紫外線吸収剤および/または紫外線安定剤を併用することも好ましい。
【0045】
上記、紫外線吸収性単量体の種類としては、ベンゾトリアゾール系化合物あるいはベンゾフェノン系化合物あるいはトリアジン系化合物と重合性不飽和基を有するアクリル系単量体が挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3’−tert−ブチルフェニル〕−5−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メタクリルアミノメチル−5’−(1”,1”,3”,3”−テトラメチル)ブチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾールなどを用いることができる。また、ベンゾフェノン系化合物としは、例えば、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゾフェノンなどを用いることができる。また、トリアジン系化合物としては、例えば,4−ジフェニル−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)]−s−トリアジン、2,4−ビス(2−メチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)]−s−トリアジン、2,4−ビス(2−メトキシフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)]−s−トリアジンなどを用いることができる。このような紫外線吸収性単量体を用いる場合には、全単量体の0.1〜25質量%共重合されることが好ましく、さらに好ましくは1〜15質量%共重合されることが好ましい。含有量が少ないと耐候性向上の寄与が低く、含有量が多すぎると耐熱水性、耐溶剤性が低下したり、黄変を引き起こす場合がある。
【0046】
上記紫外線安定性単量体としては、ヒンダードアミン系化合物に重合性不飽和基が結合されたものを用いることができ、具体例としては、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどが挙げられる。このような紫外線安定性単量体を用いる場合には、全単量体の0.1〜25質量%共重合されることが好ましく、さらに好ましくは1〜15質量%共重合されることが好ましい。含有量が少ないと耐候性向上の寄与が低く、含有量が多すぎると耐熱水性、耐溶剤性が低下したり、黄変を引き起こす場合がある。
【0047】
上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、サリシケート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物等が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、2,4−ジーヒドロキシベンゾフェノン、4−n−オクチルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノン)−ブタン等が挙げられる。サリシケート系化合物としては、p−t−ブチルフェニルサリシケート等が挙げられる。ベンゾエート系化合物としては、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。また、トリアゾール系化合物としては、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−C7−9側鎖及び直鎖アルキルエステルが挙げられる。さらに、トリアジン系化合物としては、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジン等が挙げられる。その中でも、アクリル樹脂と相溶性が高く吸収特性が優れている点から、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン骨格(アルキルオキシ;オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基)を有する紫外線吸収剤がより好ましく、下記化学式(4)で表される構造を有する紫外線吸収剤を主成分として含む紫外線吸収剤が特に好ましい。市販品としては、例えば、チヌビン477(チバスペシャリティケミカルズ製)などが挙げられる。
【0048】
【化4】

【0049】

これらは単独で、または2種類以上の組み合わせて使用することができる。上記紫外線吸収剤の配合量は特に限定されないが、アクリル樹脂(A)を含むフィルム中に0.01〜25質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜10質量%である。添加量が少なすぎると耐候性向上の寄与が低く、また多すぎると機械的強度の低下や黄変を引き起こす場合がある。
【0050】
アクリル樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂を含んでいてもよい。その他の樹脂の含有割合は、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜25質量%、さらに好ましくは0〜10質量%である。
【0051】
その他の樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどの生分解性ポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール:ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド:ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン:ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;などが挙げられる。相溶性の観点からは、スチレン−アクリロニトリル共重合体が好ましい。また、ゴム質重合体は、表面にアクリル樹脂(A)と相溶し得る組成のグラフト部を有するのが好ましく、ゴム質重合体の平均粒子径は、フィルムとした際の透明性向上の観点から、100nm以下である事が好ましく、70nm以下である事が更に好ましい。
【0052】
アクリル樹脂(A)は、その他の添加剤を含んでいてもよい。アクリル樹脂(A)中のその他の添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%である。その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤などが挙げられる。
【0053】
上記酸化防止剤は、公知の酸化防止剤が使用できる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)アセテート、n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオドデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−1−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタントリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオールビス−[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトールテトラキス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカン、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート及び2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートが挙げられる。
【0054】
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートが挙げられる。
【0055】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイトが挙げられる。
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂(A)を含むため、耐熱性に優れる。当該フィルムのTgは、例えば110℃以上であり、アクリル樹脂(A)の組成および光学フィルムにおけるアクリル樹脂(A)の含有率によっては、115℃以上、120℃以上、さらには130℃以上となる。このような高いTgを有する光学フィルムは、画像表示装置における光源などの発熱部近傍への配置が容易となるなど、光学用途に好適である。
【0056】
本発明の光学フィルムは、面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rthは10nm以下であり、好ましくは5nm以下であり、さらに好ましくは3nm以下である。面内位相差および厚さ方向位相差は複屈折の指標であり、本発明の光学フィルムは複屈折が小さい。面内位相差および厚さ方向位相差が10nmを超えると、屈折率の異方性が上昇し、低複屈折を要求される用途に使用できないことがある。
【0057】
本発明の光学フィルムは、ASTM D3420−95に準拠して測定されたフィルムインパクト強度が0.2J以上であり、好ましくは0.3J以上である。フィルムインパクト強度が0.2J未満の場合、フィルムとしての機械的強度が不十分となることがある。
【0058】
本発明の光学フィルムはJIS P8115に準拠して測定した荷重200gにおけるMIT耐折度試験回数が200回以上であり、好ましくは300回以上であり、より好ましくは400回以上である。耐折度試験回数が200回未満の場合、フィルムとしての可とう性が不十分となることがある。
【0059】
本発明の光学フィルムは、二軸延伸してなることが好ましく、逐次二軸延伸、同時二軸延伸いずれの手法でもかまわない。延伸温度は特に限定されず、アクリル樹脂(A)を含む樹脂組成物のTg近傍の温度が好ましく、例えば、(Tg−20)〜(Tg+50)の範囲であり、より好ましくは(Tg−10)〜(Tg+30)の範囲である。(Tg−20)度以下であると延伸の際にフィルムが延伸に追随できずに破断しやすく、(Tg+50)度以上では延伸による効果が不十分となることがある。延伸速度は特に限定されず、例えば10〜20000%/分の範囲であり、より好ましくは100〜10000%/分の範囲内である。延伸速度が10%/分よりも遅いと、延伸を行うまでに時間がかかるため製造コストが高くなる。延伸速度が20000%/分よりも速いと、フィルムの破断等が起こるおそれがある。
【0060】
本発明の光学フィルムの延伸倍率は、面積比で4.1倍以上に延伸してなることが好ましい。倍率が4.1倍以下であるとフィルムのインパクト強度と可とう性の両立が難しい。
【0061】
本発明の光学フィルムの厚さは、1〜250μmであり、好ましくは10〜100μmであり、より好ましくは20〜60μmである。
【0062】
本発明の光学フィルムを形成する方法は特に限定されず、例えば、キャスト成形、溶融押出成形、プレス成形などの公知の手法を用いればよい。
【0063】
本発明の光学フィルムを形成する方法として、押出成形法がある。具体的な例としては、アクリル樹脂(A)を構成する各成分をオムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練機から押出混練してもよい。押出混練に用いる混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機、あるいは加圧ニーダーなどの公知の混練機を用いることができる。
【0064】
また、別途形成したアクリル樹脂(A)を溶融押出成形してもよい。溶融押出法には、例えば、Tダイ法、インフレーション法などがあり、その際の成形温度は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは255℃〜300℃、特に好ましくは260℃〜300℃である。
【0065】
Tダイ法を用いる場合、押出機の先端部にTダイを取り付け、このTダイから押し出したフィルムを巻き取ることで、ロール状に巻回させた樹脂フィルムを得ることができる。このとき、巻き取りの温度および速度を制御して、フィルムの押し出し方向に延伸(一軸延伸)を加えることも可能である。
【0066】
押出成形に押出機を用いる場合、その種類は特に限定されず、単軸であっても二軸であっても多軸であってもよいが、そのL/D値は(Lは押出機のシリンダーの長さ、Dはシリンダー内径)、アクリル樹脂を十分に可塑化して良好な混練状態を得るために、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは15以上80以下であり、さらに好ましくは20以上60以下である。L/D値が10未満の場合、アクリル樹脂を十分に可塑化できず、良好な混練状態が得られないことがある。一方、L/D値が100を超えると、アクリル樹脂に対して過度に剪断発熱が加わることで、組成物中の樹脂が熱分解する可能性がある。
【0067】
またこの場合、シリンダーの設定温度は、好ましくは200℃以上300℃以下であり、より好ましくは250℃以上300℃以下である。設定温度が200℃未満では、アクリル樹脂の溶融粘度が過度に高くなって、樹脂フィルムの生産性が低下する。一方、設定温度が300℃を超えると、アクリル樹脂が熱分解する可能性がある。
【0068】
押出成形に押出機を用いる場合、その形状は特に限定されないが、押出機が1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。このような押出機を用いることによって、開放ベント部から分解ガスを吸引することができ、得られた樹脂フィルムに残存する揮発成分の量を低減できる。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にすればよく、その減圧度は、開放ベント部の圧力にして、931〜1.3hPaの範囲が好ましく、798〜13.3hPaの範囲がより好ましい。開放ベント部の圧力が931hPaより高い場合、揮発成分、あるいは樹脂の分解により発生する単量体成分などが、樹脂中に残存しやすい。一方、開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは工業的に困難である。
【0069】
本発明の光学フィルムは、ポリマーフィルターで濾過したアクリル樹脂を成形してフィルムとすることが好ましい。ポリマーフィルターにより、アクリル樹脂中に存在する異物を除去できるため、得られたフィルムの外観上の欠点を低減できる。なお、ポリマーフィルターによる濾過時には、アクリル樹脂は高温の溶融状態となる。このため、ポリマーフィルターを通過する際にアクリル樹脂が劣化し、劣化により形成されたガス成分や着色劣化物が組成物中に流れだして、得られたフィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジなどの欠点が観察されることがある。この欠点は、特に樹脂フィルムの連続成形時に観察されやすい。このため、ポリマーフィルターで濾過したアクリル樹脂を成形する際には、その成形温度は、樹脂の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間を短くするために、例えば255〜300℃であり、260〜320℃が好ましい。
【0070】
ポリマーフィルターの構成は特に限定されないが、ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターを好適に用いることができる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、あるいはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれでもよいが、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
【0071】
ポリマーフィルターによる濾過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下になると、樹脂の滞留時間が長くなることで当該組成物の熱劣化が大きくなる他、樹脂フィルムの生産性が低下する。一方、濾過精度が15μmを超えると、アクリル樹脂中の異物を除去することが難しくなる。
【0072】
ポリマーフィルターの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルタの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;などがある。特に、樹脂の滞留箇所の少ない外流型を用いることが好ましい。
【0073】
ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間に特に制限はないが、好ましくは20分以下であり、より好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは5分以下である。また、濾過時におけるフィルター入口圧およびフィルター出口圧は、例えば、それぞれ、3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルターの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaの範囲が好ましい。圧力損失が1MPa以下になると、樹脂がフィルターを通過する流路に偏りが生じやすく、得られた樹脂フィルムの品質が低下する傾向がある。一方、圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルターの破損が起こり易くなる。
【0074】
ポリマーフィルターに導入される樹脂の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、好ましくは255〜300℃であり、さらに好ましくは260〜300℃である。
【0075】
ポリマーフィルターを用いた濾過処理により、異物、着色物の少ない光学フィルムを得る具体的な工程は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下でアクリル樹脂の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下でアクリル樹脂の成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有するアクリル樹脂を、クリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下でアクリル樹脂の成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有するアクリル樹脂を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、などが挙げられる。それぞれの工程毎に、複数回、ポリマーフィルターによるアクリル樹脂の濾過処理を行ってもよい。
【0076】
ポリマーフィルターによってアクリル樹脂を濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置して、フィルター内の樹脂の圧力を安定化することが好ましい。
【0077】
光学フィルムの光学特性および機械的特性を安定させるために、延伸後、必要に応じて熱処理(アニーリング)を実施してもよい。
【0078】
<測定方法>
本発明における物性の測定は以下の方法で行う。実施例及び比較例においても、同様の方法で行った。
【0079】
<ガラス転移温度>
各サンプルのガラス転移温度(Tg)はJIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温速度20℃/分で昇温して得られたDSC曲線から始点法により算出した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0080】
<重量平均分子量>
アクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により以下の条件で求めた。
システム:東ソー社製GPCシステム HLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)、流量:0.6ml/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ−L)、分離カラム(東ソー社製、TSKgel SuperHZM−M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー社製、TSKgel SuperH−RC)
<フィルムの厚さ>
デジマチックマイクロメーター((株)ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0081】
<ヘイズ>
全光線透過率およびヘイズは、濁度計(日本電色工業社製、NDH 5000)を用いて測定した。
【0082】
<屈折率異方性>
屈折率異方性(リタデーション:面内位相差Re)は、王子計測器社製KOBRA−WRを用いて測定した。厚さ方向位相差Rthは測定波長を589nm、遅相軸を傾斜軸として、40°傾斜させて測定した。
【0083】
<フィルムインパクト>
フィルムインパクト強度は、フィルムインパクトテスター(テスター産業製)を用いて、23℃、50%RHの条件でASTM D3420に準拠して測定した。
【0084】
<耐折回数>
フィルムの耐折回数は、MIT耐折度試験機(テスター産業製、BE−201型)を用いて、23℃、50%RHの状態に1時間以上静置させた、幅15mm、長さ90mmの試験フィルムを使用し、荷重200gの条件で、JIS P8115に準拠して測定した。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。以下の説明では、便宜上、「質量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。
【0086】
(製造例1)アクリル樹脂(A−1)の製造
攪拌装置、温度計、冷却器、窒素導入管を備えた1000L反応釜に、メタクリル酸メチル40部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル10部、トルエン50部、アデカスタブ2112(ADEKA製)0.025部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させ、還流したところで、開始剤とt−アミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルパゾール570)を0.05部添加すると同時に、0.10部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0087】
上記重合体溶液に、リン酸ステアリル(堺化学工業製、商品名:Phoslex A−18)を0.05部加え、還流下(約90〜110℃)において2時間環化縮合反応を進行させた。
【0088】
次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、240℃に加熱した多管式熱交換器を通して環化縮合反応を完結させた後、バレル温度240℃、回転数120rpm、減圧度13.3〜400hPa、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)第3ベントと第4ベントの間にサイドフィーダーを有するのベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=44mm、L/D=52.5)に、樹脂量換算で20kg/時間の処理速度で導入し、脱揮を行った。そのとき、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を、第2ベントの後から高圧ポンプを用いて0.3kg/時間の投入速度で注入した。また、第1ベントの後およびサイドフィーダーの後から高圧ポンプを用いてイオン交換水をそれぞれ0.33kg/時間の投入速度で注入した。
【0089】
また、サイドフィーダーからAS樹脂(旭化成ケミカルズ製、商品名:スタイラックAS783L)を2.12kg/時間の供給速度で添加した。
【0090】
さらに、溶融混練した樹脂をリーフディスク型のポリマーフィルター(長瀬産業製、濾過精度5μm)でろ過した。
【0091】
酸化防止剤・失活剤混合溶液はアデカスタブAO−60(ADEKA製)50部、オクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛3.6%)40部をトルエン210部に溶解して調製した。
【0092】
上記脱揮操作により、熱可塑性アクリル樹脂組成物(A−1)のペレットを得た。樹脂部の重量平均分子量は132000、ガラス転移温度は125℃であった。
【0093】
(実施例1)光学フィルム(C−1)の製造
製造例1で得られたA−1ペレットを単軸押出機(φ=20mm、L/D=25)を用いて、280℃でコートハンガータイプTダイ(幅150mm)から溶融押出を行い、温度110℃の冷却ロール上に吐出して、厚さ198μmの未延伸フィルム(B−1)を作製した。
【0094】
得られたB−1フィルムを96mm×96mmに切り出した後、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所製、X−6S)を用いて、150℃、800mm/分の速度で縦・横方向(MD・TD方向)の順にそれぞれ2.2倍になるように逐次二軸延伸を行った。延伸後、速やかに試験装置からフィルムを取り出して冷却し、厚さ36μmの光学フィルム(C−1)を得た。得られた光学フィルムC−1の面内位相差Reは1nm、厚さ方向位相差Rthは2nm、全光線透過率は93%、ヘイズは0.2%であった。
【0095】
(実施例2)光学フィルム(C−2)の製造
実施例1と同様にして厚さ312μmの未延伸フィルム(B−2)を作製した。
【0096】
得られたB−2フィルムを実施例1同様にして縦・横方向(MD・TD方向)の順にそれぞれ2.7倍になるように逐次二軸延伸を行った。延伸後、速やかに試験装置からフィルムを取り出して冷却し、厚さ38μmの光学フィルム(C−2)を得た。得られた光学フィルムC−2の面内位相差Reは1nm、厚さ方向位相差Rthは3nm、全光線透過率は93%、ヘイズは0.2%であった。
【0097】
(実施例3)光学フィルム(C−3)の製造
実施例1と同様にして厚さ406μmの未延伸フィルム(B−3)を作製した。
【0098】
得られたB−3フィルムを実施例1と同様にして縦・横方向(MD・TD方向)の順にそれぞれ3.1倍になるように逐次二軸延伸を行った。延伸後、速やかに試験装置からフィルムを取り出して冷却し、厚さ41μmの光学フィルム(C−3)を得た。得られた光学フィルムC−3の面内位相差Reは1nm、厚さ方向位相差Rthは4nm、全光線透過率は93%、ヘイズは0.3%であった。
【0099】
(実施例4)光学フィルム(C−4)の製造
延伸温度を142℃に設定した以外は実施例1と同様にして厚さ37μmの光学フィルム(C−4)を得た。得られた光学フィルムC−4の面内位相差Reは2nm、厚さ方向位相差Rthは4nm、全光線透過率は92%、ヘイズは0.3%であった
(実施例5)光学フィルム(C−5)の製造
延伸温度を142℃に設定した以外は実施例2と同様にして厚さ38μmの光学フィルム(C−5)を得た。得られた光学フィルムC−5の面内位相差Reは3nm、厚さ方向位相差Rthは5nm、全光線透過率は92%、ヘイズは0.4%であった
(実施例6)光学フィルム(C−6)の製造
延伸温度を142℃に設定した以外は実施例3と同様にして厚さ40μmの光学フィルム(C−6)を得た。得られた光学フィルムC−6の面内位相差Reは3nm、厚さ方向位相差Rthは6nm、全光線透過率は92%、ヘイズは0.4%であった
(比較例1)光学フィルム(D−1)の製造
実施例1と同様にして厚さ152μmの未延伸フィルム(B−4)を作製した。
【0100】
得られたB−4フィルムを実施例1と同様にして縦・横方向(MD・TD方向)の順にそれぞれ1.8倍になるように逐次二軸延伸を行った。延伸後、速やかに試験装置からフィルムを取り出して冷却し、厚さ41μmの光学フィルム(D−1)を得た。得られた光学フィルムD−1の面内位相差Reは1nm、厚さ方向位相差Rthは2nm、全光線透過率は93%、ヘイズは0.3%であった。
【0101】
(比較例2)光学フィルム(D−2)の製造
実施例1で得られた未延伸フィルムB−1を用いて、実施例1と同様にして縦・横方向(MD・TD方向)の順にそれぞれ1.8倍になるように逐次二軸延伸を行った。延伸後、速やかに試験装置からフィルムを取り出して冷却し、厚さ58μmの光学フィルム(D−2)を得た。得られた光学フィルムD−2の面内位相差Reは2nm、厚さ方向位相差Rthは3nm、全光線透過率は91%、ヘイズは0.5%であった。
【0102】
(比較例3)光学フィルム(D−3)の製造
比較例1で得られた未延伸フィルムB−4を実施例1と同様にして縦・横方向(MD・TD方向)の順にそれぞれ2.2倍になるように逐次二軸延伸を行った。延伸後、速やかに試験装置からフィルムを取り出して冷却し、厚さ29μmの光学フィルム(D−3)を得た。得られた光学フィルムD−3の面内位相差Reは1nm、厚さ方向位相差Rthは3nm、全光線透過率は93%、ヘイズは0.2%であった。
【0103】
実施例1〜6、比較例1〜3の各種試験結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含むことにより、耐熱性に優れ、優れた光学特性とフィルム強度および可とう性を兼ね備えた光学フィルムを提供できる。また、本発明の光学フィルムは、各種画像表示装置(液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等)に好適に用いることができる。具体的には、フラットパネル表示装置に用いられる、保護フィルム、反射防止フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム等の各種光学フィルム用途に用いることができる。特に、偏光子保護フィルムに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂からなるフィルムであって、面内位相差Reが10nm以下、厚み方向位相差Rthが10nm以下、フィルムインパクト強度が0.2J以上、MIT耐折度試験回数が200回以上である光学フィルム。
【請求項2】
2軸延伸フィルムである請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
延伸倍率が面積比で4.1倍以上である請求項1または請求項2に記載の光学フィルム。

【公開番号】特開2010−72135(P2010−72135A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237424(P2008−237424)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】