説明

光学器材用液剤

【課題】 眼鏡用レンズ、カメラ用レンズ、CRT用フィルター、光記録用基体などの光学系器材の表面に、耐久性を損なうことなく光透過性に優れた薄層を形成できる光学器材用液剤、該液剤を使用した光学器材、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化ジルコニウムを含有する光学器材用液剤であって、前記酸化ジルコニウムの動的光散乱法による平均粒径が1〜20nmである光学器材用液剤である。本液剤を光学系器材の表面に塗布することにより、該表面に、耐久性を損なうことなく光透過性に優れた薄層を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用レンズ、カメラ用レンズ、CRT用フィルター、光記録用基体などの光学器材のコーティング剤として好適な光学器材用液剤、該液剤を使用する光学器材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体は、構造材料、機械部品、光通信部品、電子材料、電池部材などの各種用途に広く用いられており、また、優れた反射防止効果や耐久性を与えるコーティング剤として、ジルコニアゾルや他の金属酸化物との複合コロイドとして光学器材用途にも使用されている。
従来、光学器材用に用いられていた酸化ジルコニウムとしては、硬度、耐熱性の観点から、水媒体中に分散する酸化ジルコニウム粒子の粒径が大きいジルコニアゾル(例えば、特許文献1)や、より高度な耐久性を確保するため、特定の他の金属酸化物と複合コロイドを形成したもの(例えば、特許文献2)が選択されていた。
【0003】
【特許文献1】特開平5−78508号公報
【特許文献2】特開2000−281973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光学器材の表面に、耐久性を損なうことなく光透過性に優れた薄層を形成できる光学器材用液剤、該液剤を使用した光学器材、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、酸化ジルコニウムを含有する光学器材用液剤であって、前記酸化ジルコニウムの動的光散乱法による平均粒径が1〜20nmである光学器材用液剤、該液剤を塗布する工程を有する光学器材の製造方法、及び上記製造方法により製造された光学器材に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光学器材用液剤により、光学系器材の表面に、耐久性を損なうことなく光透過性に優れた薄層を形成でき、また、耐久性及び光透過性に優れた薄層を有する光学器材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においては、媒体中に微小な粒径を有する酸化ジルコニウムを分散させることで、光透過率が向上した薄層を形成することができ、また、光学器材表面にそのような薄層を形成させること、特に多層の膜を形成させることで、薄層の耐久性を損なうことなく光透過性を向上することができる。
【0008】
本発明に係る酸化ジルコニウムの平均粒径は、動的光散乱法により測定され、1〜20nmの範囲にあり、光透過性をより向上する観点から、好ましくは2〜10nmの範囲である。
【0009】
上記動的光散乱法による平均粒径は、以下の条件で測定する。
(1)測定機
HORIBA LB-500,Dynamic Light Scattering Particle Size Analyzer(堀場製作所社製)を使用する。
(2)酸化ジルコニウム懸濁液の調製
イオン交換水中に酸化ジルコニウムが分散した懸濁液であって、酸化ジルコニウムの濃度が、前記測定機で測定されるサンプル濃度相当の表示値が0.01〜16Vである酸化ジルコニウム懸濁液を超音波により分散させたものを調整液とする。
【0010】
(3)測定条件
屈折率:酸化ジルコニウムの屈折率を2.40、水の屈折率を1.333、エタノールの屈折率を1.361として入力した。
データ取り込み回数:64回
粒子径基準:体積中位粒径(D50)
【0011】
本発明の光学器材用液剤には、上記酸化ジルコニウム以外に酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化鉄、酸化珪素、酸化チタン等の無機微粒子を1種または2種以上含有してもよい。また、分散剤としてポリエチレングリコールなどの非イオン界面活性剤等を1種または2種以上含有してもよい。
【0012】
光学器材用液剤中の固形分に占める酸化ジルコニウムの割合については特に制限はないが、酸化ジルコニウム由来の高屈折率や耐久性を得る観点から好ましくは95重量%以上、更に好ましくは98重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。
【0013】
上記光学器材用液剤中の固形分の含有量については特に制限はないが、含有量が低すぎる場合は作業効率および経済性が低く、高すぎる場合は保存安定性が悪化したり粘度上昇により作業性が悪化することなどから、上記固形分含有量としては、液剤中、好ましくは1〜50重量、更に好ましくは2〜40重量%、特に好ましくは5〜30重量%である。
【0014】
本発明の光学器材用液剤の分散媒としては、水及び/又は有機溶剤の1種または2種以上を用いることができる。本発明においては、水、又はこれと水混和性の有機溶剤1種または2種以上とからなる水系媒体を用いることが好ましく、特に、イオン交換水等の水を用いることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、モノエチレングリコールなどが用いられる。上記分散媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
本発明に係る酸化ジルコニウムの湿式製造方法としては、中和共沈法、加水分解法、アルコキシド法、水熱法などの各種方法が知られている。これらの方法の中で、工業的には、コストが低く生産効率が高いなどの観点から、中和共沈法と加水分解法が広く用いられている。
【0016】
中和共沈法は、安定化剤となるY3+ 、Ca2+ 、Mg2+ 、Ce4+ などの金属塩とジルコニウム塩を含む水溶液にアルカリを添加して、それぞれの水酸化物として生成した沈殿物を分散させる方法である。
また、加水分解法は、安定化剤となるY3+ 、Ca2+ 、Mg2+ 、Ce4+ などの金属塩とジルコニウム塩を含む水溶液を高温で加水分解させて酸化ジルコニウム微粒子を形成し分散させる方法である。
本発明においては、嵩密度が高く、焼結体としたときに密度が安定で、焼結体の機械的強度及び表面精度を確保する観点から、加水分解法が好ましく用いられる。
【0017】
加水分解法において、原料とするジルコニウム塩としては、水溶性のジルコニア塩であれば 特に限定なく使用することができ、例えば、酸塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム等を用いることができる。更に、原料中には水酸化ジルコニウムが含まれていてもよい。
水溶液中におけるジルコニウム塩の含有量は、特に限定されないが、生産性、反応時間等を考慮すると、水溶液中に含まれるジルコニウム原子の総量として、0 .5〜1mol/l程度とすることが好ましい。
【0018】
上記ジルコニウム塩を含む水溶液を加熱し、ジルコニウム塩を加水分解させて、水和ジルコニア微粒子の懸濁液とするが、加熱温度は、通常、90〜100℃程度でよいが、96〜100℃程度とすることが好ましい。加熱時間については、特に限定はなく、加熱温度に応じて、ジルコニウム塩を充分に加水分解できる時間とすればよく、通常、50〜200時間程度とすればよい。
【0019】
上記加水分解反応を行う前に、ジルコニウム塩を含む水溶液中に、非イオン性界面活性剤を添加することができる。このような非イオン性界面活性剤の存在下に加水分解反応を行うことによって、加水分解によって生成する酸化ジルコニウム粒子の表面に非イオン性界面活性剤の親水基が吸着し、同じ分子内にある疎水性の親油基によって酸化ジルコニウム粒子表面に対する水の吸着を阻害すると考えられる。この結果、その後乾燥させた際に、凝集が少なく、水酸基や水分子の吸着量が少ない酸化ジルコニウム微粒子を得ることができる。
【0020】
上記非イオン性界面活性剤は、加水分解反応前に添加することが必要である。加水分解反応開始後に添加すると、形成された酸化ジルコニウム表面に水分子が直ちに吸着し、非イオン性界面活性剤はその外側に吸着し、水分子の吸着を阻害することができないと考えられる。
【0021】
上記非イオン性界面活性剤の添加量は、水溶液中に含まれるジルコニウム原子量をジルコニア量に換算した量100重量部に対し、0 .1 重量部以上程度とすることが好ましい。このような添加量範囲内であれば非イオン性界面活性剤の添加効果を十分に得ることができる。
非イオン性界面活性剤の添加量の上限値については、特に限定されないが、過剰に添加しても酸化ジルコニウム粒子の表面吸着量が飽和するために効果がより向上することがないので、通常、水溶液中に含まれるジルコニウム原子量をジルコニア量に換算した量100重量部に対し、2重量部以下程度とすることが好ましい。
【0022】
このような非イオン性界面活性剤としては、上記したものであれば特に限定なく使用できるが、ジルコニア粉末に金属不純物を残留させないために、金属成分を含まない界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体等を挙げることができる。
【0023】
加水分解によって得られる酸化ジルコニウム粒子の懸濁液は、表面に非イオン性界面活性剤が吸着した酸化ジルコニウム粒子の他に、未反応のジルコニウムイオン、オキシジルコニウムイオン等と、塩素イオンなどの原料に付随した陰イオン、水和ジルコニア微粒子に吸着していない過剰の非イオン性界面活性剤等を含むものとなる。これらのうちで、特に未反応のジルコニウムイオンおよびオキシジルコニウムイオンは、電気透析等による精製、遠心分離器で固液分離して固形分を純水に再度分散させる方法等により除去することが好ましい。この工程は、原料中に含まれる金属不純物イオンを除去する効果も有している。
【0024】
水性ゾルからオルガノゾルへの変換は、水和ジルコニア微粒子の分散媒を、常法に従い、水から有機溶媒に置換することで行われ、その場合の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、モノエチレングリコールなどが使用できる。
【0025】
加水分解によって得られる酸化ジルコニウム粒子の懸濁液には、更に、安定化剤を含有させることができる。安定化剤は、上記した加水分解反応を行う前又は後のいずれの時点でも添加することができる。但し、未反応のジルコニウムイオン、オキシジルコニウムイオン等を除去する場合には、安定化剤イオンも同時に除去されるので、これらの除去処理を行った後、安定化剤を添加することが好ましい。
【0026】
安定化剤としては、Y3+ 、Ca2+ 、Mg2+ 、Ce4+ などの金属塩を用いることができる。安定化剤は、通常、水溶液として添加するが、金属塩を直接添加して溶解させてもよい。
安定化剤として用いる金属塩の種類、添加量などについては、従来の部分安定化ジルコニア粉末や安定化ジルコニア粉末の製造方法と同様とすればよい。例えば、安定化剤としてY3+ の金属塩を用いる場合には、部分安定化ジルコニアを製造するためには、得られるジルコニア粉末中のY23 濃度として、2〜4mol%程度となるように添加すればよく、安定化ジルコニアを製造するためには、得られるジルコニア粉末中のY23 濃度として、4〜10mol%程度となるように添加すればよい。
【0027】
本発明の光学器材用液剤には、必要に応じ、硬化剤を、種々の基材、例えばレンズとの屈折率をあわせるために微粒子金属酸化物を、また塗布時における濡れ性を向上させ、硬化膜の平滑性を向上させる目的で各種の有機溶剤や界面活性剤を含有させることもできる。さらに、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等も含有させることができる。
【0028】
上記硬化剤としては、例えば、アリルアミン、エチルアミンなどのアミン類、ルイス酸やルイス塩基を含む各種酸や塩基、例えば有機カルボン酸、クロム酸、次亜塩素酸、ホウ酸、過塩素酸、臭素酸、亜セレン酸、チオ硫酸、オルトケイ酸、チオシアン酸、亜硝酸、アルミン酸、炭酸などを有する塩または金属塩、さらにアルミニウム、ジルコニウム、チタニウムを有する金属アルコキシドまたはこれらの金属キレート化合物などが挙げられる。また、微粒子状金属酸化物としては、従来公知のもの、例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化セリウム、酸化鉄などの微粒子がいずれも用いられる。
【0029】
本発明の光学器材用液剤の硬化は、通常熱風乾燥または活性エネルギー線照射によって行われ、硬化条件としては、70〜200℃の熱風中にて行うのが好ましく、特に90〜150℃で行うことが好ましい。なお活性エネルギー線としては遠赤外線などが好ましく用いられ、熱による損傷を低く抑えることができる。
【0030】
光学器材の基材上に薄層を形成する方法としては、上述した本発明の光学器材用液剤を基材に塗布する方法が挙げられる。塗布手段としてはディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法など通常行われる方法がいずれも適用できるが、面精度の面からディッピング法、又はスピンコーティング法が特に望ましい。
【0031】
上記塗布膜は、一層であっても多層からなるものであってもよいが、本発明においては、薄層の耐久性の観点から多層であることが好ましい。得られる薄層は、光透過性や耐久性の観点から、全体で2〜10層からなることが好ましい。
【0032】
さらに上述した光学器材用液剤からなるコーティング組成物を基材に塗布する前に、基材に酸、アルカリ、各種有機溶剤による化学的処理、プラズマ、紫外線などによる物理的処理、各種洗剤を用いる洗剤処理、サンドブラスト処理、更には各種樹脂を用いたプライマー処理を施すことができ、これにより、基材と硬化膜との密着性などを向上させることができる。
【0033】
得られる薄層は、その透明度がヘイズ値で0〜5%の膜であることが好ましく、透明性の観点からヘイズ値は0〜2%がより好ましく、0〜1%が更に好ましく、0〜0.5%が特に好ましい。
本発明の光学器材用液剤を用いてなる硬化被膜を有する光学部材は、眼鏡レンズの他、カメラ用レンズ、自動車の窓ガラス、ワードプロセッサーのディスプレイに付設する光学フィルタなどに使用することができる。
【実施例】
【0034】
製造例1
オキシ塩化ジルコニウムの1mol/l水溶液2リットルに、水酸化ジルコニウム3molと数平均分子量7500のポリエチレングリコール6gを100mlの純水に溶解した溶液を添加し、更に、純水を加えて全量を5リットルとした。この場合、水溶液中に含まれるジルコニウム原子をジルコニア粉末に換算した量100重量部に対し、ポリエチレングリコールの添加量は0.7重量部である。
【0035】
この水溶液を100℃に加熱して72時間加水分解を行い、水和ジルコニア懸濁液を得た。得られた懸濁液について、純水を添加しながら電気透析(旭化成製G3)から排出される電解質が検出されなくなるまで(電気電導度は0.1mS/cm以下)濾過洗浄を行った。動的光散乱法による平均粒径は7nmであった。
【0036】
実施例1
製造例1で得た平均粒径7nmの酸化ジルコニウム分散液(15重量%)をコーティング液として用い、表面の汚れを2−プロパノールで充分洗浄したマイクロスライドガラス(MATSUNAMI社製、タテ×ヨコ×厚さ=76mm×52mm×1.3mm)をディップコーターに装着し、コーティング液にスライドガラスを40cm/min.で全面を浸漬し、10秒間静置したのち、40cm/min.で引き上げた。次いで、200℃で2時間乾燥した後、下記の方法で鉛筆硬度、耐擦傷性、密着性、透明性をそれぞれ評価した。
その結果、鉛筆硬度:6H、耐擦傷性:A、密着性:良好、透明度:1%(ヘイズ値)の膜が得られた。
【0037】
(1)鉛筆硬度試験法
JIS K−5400に従い、傷の付かない最高の鉛筆硬度で示した。
(2)耐擦傷性試験法(スチールウール)
#0000のスチールウールにより表面を擦り、以下の基準で判定した。
A:ほとんど傷が付かない
B:少しの傷が付く
C:多くの傷が付く
【0038】
(3)密着性(クロスカット法/碁盤目試験)
塗布面に1mmの基材に達する碁盤目を塗膜の上から新品のカッターナイフで100個入れ、セロハン粘着テープ(ニチバン製)を強く貼り付けた後、急速に剥がし、残った碁盤目の数で評価した。塗膜に剥離が起こらなければ良好として、剥離の発生するものは不良とした。
(4)透明性
膜の透明性は、ヘイズメーター(村上色材研究所製、反射透過計HR−100)を用いてヘイズ値(%)により評価した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、眼鏡用レンズ、カメラ用レンズ、CRT用フィルター、光記録用基体などの光学器材に好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウムを含有する光学器材用液剤であって、前記酸化ジルコニウムの動的光散乱法による平均粒径が1〜20nmである光学器材用液剤。
【請求項2】
請求項1記載の光学器材用液剤を塗布する工程を有する光学器材の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法により製造された光学器材であって、光学器材用液剤の塗布により形成される膜のヘイズ値が0〜5%である光学器材。


【公開番号】特開2006−290962(P2006−290962A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111096(P2005−111096)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】