説明

光学材料、それを用いた光学素子およびその作製方法

【課題】偏光方向に依存せずに物質界面での反射率をゼロとし、光を100%透過させる。【解決手段】光波の波長よりも小さな電気共振器と磁気共振器との少なくともいずれか一方を所定の平面内においてのみ複数配置したメタマテリアルよりなり、s偏光に対して上記配置された電気共振器と磁気共振器との少なくともいずれか一方が作用して、上記作用に応じて誘電率と透磁率との少なくともいずれか一方を制御して、s偏光においてブリュースター現象を誘起するようにした光学材料よりなる光学素子であって、光波の入射面がp偏光に対してブリュースター角に設定されるとともに、上記光学材料のs偏光に対する誘電率と透磁率との少なくともいずれか一方を制御して、p偏光とs偏光との双方において同時かつ独立にブリュースター条件を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料、それを用いた光学素子およびその作製方法に関し、さらに詳細には、メタマテリアルを用いた光学材料、それを用いた光学素子およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学現象として、光波が屈折率の異なる物質の境界面に入射すると、その境界面において光の反射が起こることが知られている。
【0003】
この光学現象に関しては様々な解釈の仕方があるが、そうした解釈のうちの一つは、物質の屈折率の違いが光波にとってはポテンシャルバリアーとして働くために光波の一部が反射されるという解釈である。また別の解釈は、電気回路中にインピーダンスのミスマッチがあるとその箇所で電気信号に反射が生じるのと同様に、屈折率の差というものが光にとってのインピーダンスミスマッチと等価であると考える解釈である。
【0004】
一般的には、こうした屈折率の異なる物質の境界面に光波が入射することにより当該境界面において生じる光の反射は、例えば、誘電体多層膜コーティングなどの特殊な表面処理をした場合には、特定の偏光を持つ光に対しては排除することができるので、上記した誘電体多層膜コーティングなどの特殊な表面処理を行うことにより反射率をゼロにすることも可能ではあるが、さらに、ある特殊な条件下でもこの光の反射をゼロにすることが可能であることが知られている。
【0005】

ここで、その特殊な条件とは、光学においてブリュースターという名で知られている光の反射がゼロになる現象(以下、本明細書においては「ブリュースター現象」と称する。)を誘起するための条件であり、このブリュースターを誘起するための条件は「ブリュースター条件」と称されており、以下の(a)および(b)に示す2つの条件をともに満足する必要がある。
【0006】
即ち、(a)および(b)の2つの条件とは、
(a)物質の境界面に対して光波がp偏光で入射していること
(b)境界面を挟む2つの物質の屈折率によって決定される特定の入射角(この入射角を「ブリュースター角」と称している。)で光波が入射していること
である。
【0007】
ところで、ブリュースター現象を誘起するには上記(a)および(b)の2つの条件を満足する必要があるが、上記(a)の条件による制限を受けるため、ブリュースター現象により境界面での反射率をゼロとすることができるのはp偏光の光波に関してのみであり、s偏光の光波についてはブリュースター現象を誘起することはできず、誘電体多層膜コーティングなどの特殊な表面処理を行ったり、あるいは、物質の屈折率差をゼロとする以外には境界面での反射を無くすことができないという問題点があった。
【0008】

一方、例えば、レーザー共振器や光通信システムの光学系などにおいては、できるだけレンズやミラーもしくは窓材などの表面における反射ロスを無くしたいという強い要求がある。特に、レーザーなどの共振器内部では僅かな反射ロスが大きな特性低下を引き起こすことが多いため、反射ロスを限りなくゼロに近づけることが要求されている。
【0009】
このため、レーザー共振器や光通信システムの光学系などでは、光学素子の端面をブリュースタ一角にカットすることにより上記(b)の条件を満足させて、反射損失を低減するといった手法がよく用いられている。
【0010】
しかしながら、上記において説明したように、ブリュースター現象はp偏光の光に対してのみ発生する現象であるため、上記(b)の条件を満足させることにより反射ロスがゼロになるのはp偏光成分の光波に対してのみであり、s偏光成分に関しては反射ロスが依然生じることになるという問題点が残されていた。
【0011】
その結果、光学素子の端面をブリュースタ一角にカットしたレーザー共振器や光通信システムの光学系などにおいては、p偏光成分とs偏光成分との間で光の利用効率に差が生じることになり、例えば、レーザー共振器に関して言えば、光学素子の端面をブリュースタ一角にカットしたレーザー共振器の発振光は、最終的にはp偏光成分のみを持つ直線偏光レーザー光となるものであった。また、光通信システムなどにブリュースター角にカットした光学素子が用いられた場合では、極めて高い偏光依存性を持った光学系となり、入射光の偏波方向が光学系の設計時の偏波面方位と異なると、その効率が極端に低くなるものであった。
【0012】
なお、このようにブリュースター現象は強い偏波依存性を持つが、上記した誘電体多層膜コーティングによる反射防止技術においても、はやり光波の偏光方向と反射率をゼロとすることができる誘電体多層膜の構造との間には依存性があるため、偏光方向に依存せずに反射率をゼロとすることができるようなコーティングを実現することは不可能なものであった。
【0013】

以上において説明したとおり、屈折率の異なる2つの物質界面では必ず光波の反射が起こるものであり、この反射をゼロとする1つの手法がブリュースター現象を利用するというものであった。
【0014】
しかしながら、従来においては、ブリュースター現象を用いたとしてもp偏光のみでしか当該ブリュースター現象を誘起することができないため、ブリュースター現象を用いた光学素子や当該光学素子を含む系は強い偏光依存性を持つようになるという問題点があり、このため、偏光方向に依存せずに物質界面での反射率をゼロとすることができるような光学材料や光学素子の開発が、現在強く要望されているものであった。
【0015】

なお、本願出願人が特許出願のときに知っている先行技術は、文献公知発明に係る発明ではないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点や要望に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、偏光方向に依存せずに物質界面での反射率をゼロとし、光を100%透過させることができるようにした光学材料、それを用いた光学素子およびその作製方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、光学分野において従来よりp偏光の光波のみにおいて発生するものとして知られているブリュースター現象をs偏光の光波においても発生させることのできる新しい光学材料を提案するとともに、その光学材料を用いて物質界面での光の反射をゼロとすることのできる光学素子およびその作製方法をその形状ならびに物質パラメータの設計手法とともに提案するものである。
【0018】
即ち、本願発明者は、光学材料の屈折率nを決める基本物理量である誘電率εと透磁率μとの少なくともいずれか一方を人工的に制御することで、s偏光についてもブリュースター現象を発生させることができることを見出し、p偏光とs偏光との両方について同時にブリュースター現象を誘起することのできるように設計した光学材料を開発したものである。
【0019】
また、本願発明者は、上記した光学材料をある特定の形状にカットした光学素子を作成し、これを屈折率の異なる2つの媒質間に挿入することによりこれら2媒質間を光波が伝播したときに境界面で生じるはずの反射をゼロにすることができる光学素子およびその作製方法を開発したものである。
【0020】
即ち、本発明は、誘電率と透磁率との少なくともいずれか一方を制御することによりp偏光とs偏光との両方について同時にブリュースター現象を誘起することのできる光学材料に関する技術と、それを用いた光学素子に関する技術を実現するものである。
【0021】

即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、光波の波長よりも小さな電気共振器と磁気共振器との少なくともいずれか一方を所定の平面内においてのみ複数配置したメタマテリアルよりなり、s偏光に対して上記配置された電気共振器と磁気共振器との少なくともいずれか一方が作用して、上記作用に応じて誘電率と透磁率との少なくともいずれか一方を制御して、s偏光においてブリュースター現象を誘起するようにしたものである。
【0022】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明の光学材料よりなる光学素子であって、光波の入射面がp偏光に対してブリュースター角に設定されるとともに、上記光学材料のs偏光に対する誘電率と透磁率との少なくともいずれか一方を制御して、p偏光とs偏光との双方において同時かつ独立にブリュースター条件を満たしたものである。
【0023】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、本発明のうち請求項2に記載の発明において、p波とs波との出射方向が光波の入射方向と一致するようにしたものである。
【0024】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明の光学材料よりなる光学素子の作製方法であって、光波の入射面をp偏光に対してブリュースター角に設定し、上記光学材料のs偏光に対する誘電率と透磁率との少なくともいずれか一方を制御して、p偏光とs偏光との双方において同時かつ独立にブリュースター条件を満たすようにしたものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、以上説明したように構成されているので、偏光方向に依存せずに物質界面での反射率をゼロとし、光を100%透過させることができる光学材料、それを用いた光学素子およびその作製方法を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による光学材料、それを用いた光学素子およびその作製方法の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0027】

まず、本発明による光学材料(以下、単に「本発明光学材料」と適宜に称する。)について説明するが、この本発明光学材料は、メタマテリアルにより構成されている。
【0028】
ここで、メタマテリアルとは、光波の波長よりも小さな微小共振器を材料中に3次元的に分散配置してなるものであり、入力される光波の波長よりも小さな微小共振器の共鳴状態を利用することによって、マクロスコピックな材料の誘電率や透磁率を制御しようとするものである。
【0029】
本発明は、こうしたメタマテリアルが可視光域でも有効であって、マイクロ波領域と同様な効果を実現可能であることを理論的に証明した本願発明者による研究成果に基づいてなされたものである。
【0030】

ここで、光の伝搬に直接関与する物質の物理量は、屈折率である。そして、この屈折率は、物質の誘電率(ε)と透磁率(μ)とが決まれば一意に決まるものである。つまり、光波の伝搬を決定する基本的な物理量は、誘電率と透磁率とである。
【0031】
このとき、光波の電気ベクトルには誘電率が対応するとともに磁気ベクトルには透磁率が対応するものであり、メタマテリアルでは、光波の波長よりも小さな微小共振器として構成された電気共振器によって物質の誘電率を独立に制御し、一方、光波の波長よりも小さな微小共振器として構成された磁気共振器によって透磁率を独立に制御している。
【0032】
例えば、図1には、従来より公知のメタマテリアルの一例の概念構成説明図が示されており、このメタマテリアル100は、エポキシ樹脂よりなる基板102上に、銅をストライプ形状に被覆して形成した電気共振器104と、銅をC字形状が二重に対向した形状に被覆して形成した磁気共振器106とを有して構成されている。
【0033】
また、これら電気共振器104と磁気共振器106とのそれぞれは、入力される光波の波長よりも全体のサイズが小さくなるように形成されている。換言すれば、電気共振器104と磁気共振器106とのそれぞれは、入力される光波の波長を直径とする円内に収まるように寸法設定されている。
【0034】
こうしたメタマテリアル100においては、電気共振器104により誘電率が独立して制御され、磁気共振器106により透磁率が独立して制御される。
【0035】
即ち、電気共振器104は、例えば、そのストライプ形状の長手方向と光波の電界ベクトルとが平行のときにのみ動作し、ストライプ形状の長手方向と電界ベクトルの方向とが垂直の場合には全く相互作用しない。同様に、磁気共振器106は、そのC字形状を含む平面を光波の磁界ベクトルが貫くときにのみ動作し、磁界ベクトルがそのC字形状を含む平面と平行な場合は全く作用しない。
【0036】
つまり、電気共振器104ならびに磁気共振器106には方向性があり、これを特定の平面内にのみ配置することで、特定の偏波方向の光波に対する誘電率、透磁率を制御することが可能となる。
【0037】

本発明光学材料は、以上において説明したメタマテリアルの性質を利用したものであり、通常は1.0の値を取る透磁率あるいは誘電率またはそれらの両者を変化させることにより、s偏光においてもブリュースター現象を誘起できるようにしたものである。
【0038】
図2には、本発明光学材料の実施の形態の一例の概念構成説明図が示されており、この本発明光学材料10は、ガラス基板12上に、銀をC字形状が対向した形状に被覆して形成した磁気共振器16を複数配設している。この磁気共振器16は、半月形状を備えた第1C字形状部16aと第2C字形状部16bとよりなり、入力される光波の波長よりも全体のサイズが小さくなるように形成されている。換言すれば、磁気共振器16は、入力される光波の波長を直径とする円内に収まるように寸法設定されている。
【0039】
上記した磁気共振器16を複数配置したガラス基板12は、所定の平面と平行するように層状に配置されており、当該所定の平面内において透磁率を制御するようになされている。
【0040】
ここで、本発明光学材料10においては、ガラス基板12は、図2に示すように、外部との境界面20を構成するガラス基板などにガラス基板12同士が所定の間隔を開けるようにして、あるいは、ガラス基板12同士が所定の間隔を開けることなく互いに密着して取り付けられるようにしてもよいし、あるいは、外部との境界面20を構成するガラス基板などを用いることなくガラス基板12同士を所定の間隔を開けることなく互いに密着したバルク状に形成してもよい。
【0041】
ここで、外部との境界面20を構成するガラス基板などを用いる場合には、本発明光学材料10の全周囲にわたって外部との境界面20を構成するガラス基板などを配設してもよい。また、外部との境界面20を構成するガラス基板などを用いることなくガラス基板12同士を所定の間隔を開けることなく互いに密着したバルク状に形成した場合には、当該バルクの外周面を研磨して境界面20を構成すればよい。
【0042】
なお、入射される光波のs偏光は入射面に垂直なので本発明光学材料10の境界面20には平行となり、入射される光波のp偏光は入射面と平行で本発明光学材料10の境界面20とは入射角の分だけ水平から傾いている。
【0043】
そして、本発明光学材料10において、磁気共振器16を形成したガラス基板12が配置される所定の平面は、当該平面を光波のs偏光の磁界ベクトルが貫くような位置関係となるようになされている。
【0044】

以上の構成において、本発明光学材料10においては、磁気共振器16によりその透磁率が1.0から変化するようになり、このように通常は1.0の値をとる透磁率を変化させることで、s偏光においてもブリュースター現象を誘起することができた。
【0045】
即ち、図3には、通常のガラスに対して光波を入射した際における入射角度と反射率との関係を示している。この通常のガラスは透磁率が1.0であり、p偏光では反射率がゼロとなるブリュースター現象が誘起されるが(そのときの入射角がブリュースター角である。)、s偏光では反射率がゼロとなることはない。
【0046】
一方、図4には、本発明光学材料10に対して光波を入射した際における入射角度と反射率との関係を示している。この本発明光学材料10は磁気共振器16によりその透磁率が1.0から6.9964に変化されているものであり、s偏光では反射率がゼロとなるブリュースター現象が誘起されるが(そのときの入射角がブリュースター角である。)、p偏光では反射率がゼロとなることはない。
【0047】
なお、上記においては、磁気共振器のみを設けて透磁率のみを変化させる場合について説明したが、磁気共振器に代えて電気共振器を設けるようにして、誘電率を変化させることにより、s偏光においてもブリュースター現象を誘起するようにしてもよい。また、磁気共振器と電気共振器とを設けて、透磁率および誘電率を変化させることにより、s偏光においてもブリュースター現象を誘起するようにしてもよい。
【0048】

ここで、本発明光学材料10において、透磁率を1.0から3.29473に変化する際における磁気共振器16の位置関係ならびに各寸法が図5(a)(b)に示されている。なお、理解を容易にするために、図5(a)(b)においては、ガラス基板12の図示は省略した。
【0049】
そして、図5(a)は図2におけるA矢印方向から観察した場合における隣接する磁気共振器16同士の寸法および位置関係を示し、図5(b)は図2におけるB矢印方向から観察した場合における隣接する磁気共振器16同士の寸法および位置関係を示しており、磁気共振器16のp偏光の誘電率とs偏光の誘電率とはともに1.5(ε=1.5)とした。
【0050】
具体的には、まず、図5(a)を参照しながら説明すると、図2におけるA矢印方向から観察した場合において、磁気共振器16は、中心Oからの内径が半径20nmであり、かつ、中心Oからの外径が半径40nmの半月形状を備えた第1C字形状部16aと第2C字形状部16bとよりなり、第1C字形状部16aと第2C字形状部16bとは、それぞれの両方の端部を4.5nmの間隔を開けて互いに対向して配置されている。そして、隣接する磁気共振器16同士の一方の中心Oと他方の中心Oとの間の距離は、90nmに設定されている。
【0051】
また、図5(b)を参照しながら説明すると、図2におけるB矢印方向から観察した場合において、第1C字形状部16aと第2C字形状部16bとは、20nmの厚さを備えており、隣接する磁気共振器16同士は、10nmの間隔を開けて配置されている。従って、隣接する磁気共振器16同士の第1C字形状部16aと第2C字形状部16bとのそれぞれの厚さ方向の中心位置との間の距離は、30nmに設定されることになる。
【0052】
なお、この図(a)(b)に示す設計は、図10に示す本発明光学材料を用いた光学素子(以下、単に「本発明光学素子」と適宜に称する。)を実現する場合の設計を示すものである。
【0053】

上記したような磁気共振器16は、例えば、半導体プロセスや本願出願人が特願2005−139329「金属錯イオンの光還元方法」として出願した手法を用いて作製することができる。
【0054】
ここで、本願出願人が特願2005−139329「金属錯イオンの光還元方法」として出願した手法は、液体、気体あるいは固体などの材料中に分散された金属錯イオン分散体にレーザー光を集光照射することにより金属錯イオンを光還元して金属構造体を作製する金属錯イオンの光還元方法であって、金属錯イオン分散体が分散された材料中に所定の色素を添加することによって、金属錯イオンの光還元を制御して金属構造体を作製する際の加工精度を向上させるようにしたものであり、例えば、3次元的なナノ〜ミクロンサイズの金属構造体を直接的に製造することを可能にするものである。
【0055】
即ち、この手法は、金属錯イオン分散体に特定の色素を添加することで非加工材料の吸収スペクトルならびに吸収断面積を一定に保ち、レーザー光の集光点以外の領域へレーザー光のエネルギーが伝搬して空間分解能を低下させることを防ぐとともに、レーザー光の集光点での光還元効率を向上させるようにしたものであり、材料中に分散された金属錯イオン分散体にレーザー光を集光照射することにより金属錯イオンを光還元して金属構造体を作製する金属錯イオンの光還元方法において、金属錯イオン分散体が分散された材料中に所定の色素を添加し、上記所定の色素が添加された材料にレーザー光を集光照射するようにしたものである。
【0056】
こうした手法を採用することにより、例えば、図6として提示する電子顕微鏡写真に示すように微細なC字形状の金属として金を析出することができ、これにより磁気共振器16の第1C字形状部16aと第2C字形状部16bとを形成することができる。
【0057】
なお、図2に示した本発明光学材料10は、誘電率を制御するための電気共振器を設けていないが、上記においても説明したように、誘電率を制御するための電気共振器を設けるようにしてもよいことは勿論である。
【0058】

次に、上記した本発明光学材料を用いた光学素子である本発明光学素子について説明する。
【0059】
この本発明光学素子は、本発明光学材料を用いて所定の誘電率、透磁率、形状を備えるようにして形成された物質であり、p波、s波の両方について同時かつ独立にブリュースター条件を実現可能な素子である。即ち、本発明光学素子は、例えば、図2を参照しながら説明した本発明光学材料と同様な構造を備え、かつ、誘電率や透磁率や形状がp波、s波の両方について同時かつ独立にブリュースター条件を実現可能に制御されたものである。
【0060】
なお、図2に示した本発明光学材料10は、誘電率を制御するための電気共振器を設けていないため、図2に示した本発明光学材料10を用いた本発明光学素子においては、透磁率や形状がp波、s波の両方について同時かつ独立にブリュースター条件を実現可能に制御されるようになされるものであり、誘電率を制御するための電気共振器を設けた場合には、透磁率や形状に加えて誘電率も含めてp波、s波の両方について同時かつ独立にブリュースター条件を実現可能に制御される。
【0061】
具体的には、本発明光学素子を構成する本発明光学材料の電気共振器と磁気共振器とを特定の平面内のみに配置し、ある1つの平面内において誘電率と透磁率を制御して、p偏光とs偏光との両方においてブリュースター現象を実現できるようなパラメータを決定するものである。
【0062】
ただし、そのような誘電率と透磁率の組合せは無数にあるので、その中から、光波の入射角つまりブリュースター角が同一角となる組合せを探し出し、その形状に合わせて素子を整形するものである。
【0063】

こうした本発明光学素子は、例えば、屈折率の異なる2つの媒質の間に配置されて、光透過性光学素子として用いられるものである。図7には、本発明光学素子を屈折率の異なる2つの媒質の間に配置して光透過性光学素子として用いた例が示されており、本発明光学素子Mは、媒質Mと媒質Mとの間に配置されて、光透過性光学素子として用いられている。
【0064】
なお、本発明光学素子Mを本発明光学材料10により構成した場合には、本発明光学素子Mを構成する本発明光学材料10の磁気共振器16を形成したガラス基板12が配置される所定の平面は、当該平面を光波のs偏光の磁界ベクトルが貫くような位置関係となるように設定されている。
【0065】

次に、本発明光学素子Mを作製する手法の一例について、図7に示す構成を例にして説明する。即ち、屈折率の異なる2つの媒質Mと媒質Mとがあり、媒質Mと媒質Mとの間に本発明光学素子M(以下、「媒質M」と適宜に称する。)を挿入した状態を検討するものであり、本発明光学素子たる媒質Mのブリュースター角ならびに光学パラメータの算出の手法について詳細に説明する。
【0066】
まずはじめに、入射角、屈折角などの以下の説明で用いる角度についての定義を行うこととする。
【0067】
即ち、原則として、入射角、屈折角は、光線と物質境界面の垂線とがなす角とする。そして、その符号は、光線から垂線へ向かって角度を測ったときに、その向きが時計回りの場合を正、反時計回りの場合を負とする。また、入射光線は水平入射とし、入射光線、射出光線の角度については、光線から水平線に向けて角度を測り、その向きが時計回りの場合を正、反時計回りの場合を負とする。従って、入射光線については、水平入射としたので角度はゼロである。
【0068】
次に、以下の説明にて共通に用いる式の定義を行う。即ち、誘電率ε、透磁率μの媒質と誘電率ε、透磁率μの媒質との境界面でのp偏光とs偏光とのブリュースター角は、
【数1】

【0069】
で与えられる。
【0070】
また、入射角と屈折角との関係は、スネルの法則
【数2】

【0071】
で与えられる。
【0072】
さらに、入射角、屈折角の表記については、入射角はθ、屈折角にはθ’と“’”を付けることで、入射角と屈折角とを区別する。さらに媒質Mから媒質Mへの透過の場合には、角度θに下付の12を付ける。また、p偏光、s偏光それぞれに対する角度を明記する必要がある場合には、上付きにてp、sを付ける(これはε、μについても同様である)。従って、例えば、物質1から2へp偏光の光が入射した場合の入射角は、θ12で表し、その時の屈折角は、θ’12と記述する。
【0073】
ここで、解析に用いるモデルは、上記したように図7に示した3層構造である。媒質M、媒質Mは等方性媒質とし、媒質Mの誘電率はεとし、媒質Mの透磁率μとし、媒質Mの誘電率はεとし、媒質Mの透磁率μとする。
【0074】
まず、媒質Mのp偏光に対する誘電率εと透磁率μとを適当な値に定める(p偏光では、透磁率μを操作しなくとも元々ブリュースター角が存在するため、例えば、μ=1.0で充分である。なお、μ=1.0でなくても勿論よい。なお、一般の物質では、透磁率は1.0である。)。すると、p偏光での媒質Mと媒質Mとの界面でのブリュースター角θ12Bと、p偏光での媒質Mと媒質Mとの界面でのブリュースター角θ23Bとを、式(1)を用いて計算することができる。
【0075】
また、それぞれに対する屈折角θ’12B、θ’23Bは、スネルの法則(式(3))を用いて求めることができる。
【0076】
次に、s偏光の誘電率ε、透磁率μであるが、媒質Mと媒質Mとの界面においては、そのブリュースター角θ12Bがp偏光のブリュースター角θ12Bと一致しなければならない。この条件を付加すると、εとμとは独立ではなく、どちらか一方を決めると他方が自動的に決定される。以下の式(4)は、εを決めることにより、μを決定する式である。
【数3】

【0077】
ここで、上記した式(4)中の±記号が示すように、μには2つの可能性がある。それぞれのμについて、ブリュースター角θ12B、θ23Bが、また、それぞれについて、スネルの法則(式(3))によりθ’12B、θ’23Bが求まる。
【0078】
次に、界面の設定方法について説明する。即ち、既にε、μ、ε、μを定めたため、媒質Mと媒質Mとの界面ならびに媒質Mと媒質Mとの界面におけるブリュースター角とその屈折角は一意に決まるので、媒質Mと媒質Mとの界面は入射光に対してブリュースター角になるように設定する。これは、θ12B=θ23Bとなるように誘電率、透磁率を定めたので、その角度は一意に決まる。
【0079】
次に、媒質Mと媒質Mとの界面を設定する。媒質Mと媒質Mとの界面の設定は、媒質Mと媒質Mとの界面を透過した光に対して、媒質Mと媒質Mとの界面の法線方向がθ23B、θ23Bとなるように設定すればよい。その際に、図8に示すように2通りの設定方法がある。つまり入射角をプラス側に持ってくる方法(図8(a))参照と、入射角をマイナス側に持ってくる方法(図8(b)参照)とである。これがp偏光、s偏光のそれぞれについて、2通りの設定の方法が考えられるため、4通りのパターンが考えられる。これとμの計算結果に2通りの可能性があることを考慮すると、全体では合計8パターンの可能性がある。
【0080】
以上において、p偏光、s偏光の両方に対して、媒質Mと媒質Mとの界面に対して同じ入射角でブリュースター条件を満足するような誘電率ε、ε、透磁率μ、μの組み合せと、媒質Mの形状が求まった。しかしながら、このままでは媒質Mと媒質Mとの界面を透過後のp波、s波の出射方向は一般には一致しない。そこで、以下のような制限条件を設けて解を制限すればよい。
【0081】
媒質Mと媒質Mとの界面での屈折後の光の進行方向は、角度θ12B、θ’12B、θ12B、θ’12Bで決まり、入射光方向(水平方向)との偏角Δθ12、Δθ12を用いて定義すると、これらは、
Δθ12=θ’12B−θ12B (5)
Δθ12=θ’12B−θ12B (6)
で与えられる。
【0082】
また、媒質Mと媒質Mとの界面前後での光方向の変化量は、同様に、
Δθ23=θ’23B−θ23B (7)
Δθ23=θ’23B−θ23B (8)
で与えられる。これら式(5)〜(8)を用いると、出射光の入射光に対する偏角が
Δθ= θ12+θ23 (9)
Δθ= θ12+θ23 (10)
で求まる。
【0083】
従って、
Δθ=Δθ (11)
を満足するようなε、εを求めればよい。しかし、この解法は、解析的には不可能なので数値計算によって求められ、図9のような結果が得られる。この図9に示した曲線を構成するε、εのペアが解である。これらの解を具体的な素子の形として図示したものが図10乃至図13である。
【0084】
ここで、図10に示すものは、上記した条件に加えてさらに出射光の方向が入射光のそれと等しいという条件、換言すると、
Δθ=Δθ=0 (12)
という条件を新たに加えて解いたものである。
【0085】
従って、図10に示すものにおいては、媒質Mへの入射光と媒質Mからの出射光とが平行となり、出射光が入射光と同じ角度方向に出て行くことになる。
【0086】
また、図11乃至図13には、図10とは異なる解を選択した例が示されているが、いずれも媒質Mからのp偏光とs偏光との出射光が平行となるものを示している。
【0087】
なお、図10乃至図13において、図中の符号および数字は、上記における説明とそれぞれ対応しており、それぞれの角度に隣接して記載された数値はそれぞれの角部のなす角度を示しており、また、「p偏光」ならびに「s偏光」の文字に隣接した数値は出射光の出射角度を示すものである。
【0088】

なお、以上において説明した上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(6)に説明するように変形してもよい。
【0089】
(1)上記した実施の形態においては、本発明光学材料10は、磁気共振器として半月形状を備えた第1C字形状部16aと第2C字形状部16bとより磁気共振器16を備えるように構成したが、これに限られるものではないことは勿論であり、図14に示すように、C字形状が多重に形成された磁気共振器56を備えた本発明光学材料50として構成してもよい。
【0090】
(2)上記した実施の形態においては、本発明光学材料10ならびに本発明光学素子M(媒質M)は、磁気共振器のみを備えるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、電気共振器を形成して誘電率も制御するようにしてもよい。
【0091】
(3)上記した実施の形態においては、本発明光学材料10ならびに本発明光学素子M(媒質M)は、全体の大きさが入射光の波長より大きいものとして構成してよく、例えば、入射光のスポット径よりも大きいものとして構成してもよい。
【0092】
(4)上記した実施の形態においては、本発明光学材料10ならびに本発明光学素子M(媒質M)は、ガラス基板12を積層して形成したが、これに限られるものではないことは勿論であり、バルクのガラス中の所定の位置に磁気共振器や電気共振器を形成するようにしてもよい。
【0093】
(5)上記した実施の形態においては、本発明光学材料10ならびに本発明光学素子M(媒質M)は、ガラス基板12に磁気共振器や電気共振器を形成するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、磁気共振器や電気共振器を形成する材料はガラス基板に限られない。
【0094】
(6)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(5)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、レーザー共振器や光通信システムの光学系などのような各種の光学機器に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、従来より公知のメタマテリアルの一例の概念構成説明図である。
【図2】図2は、本発明光学材料の実施の形態の一例の概念構成説明図である。
【図3】図3は、通常のガラスに対して光波を入射した際における入射角度と反射率との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明光学材料に対して光波を入射した際における入射角度と反射率との関係を示すグラフである。
【図5】図5(a)(b)は、本発明光学材料における磁気共振器の位置関係ならびに各寸法の一例を示す説明図であり、より詳細には、図5(a)は図2におけるA矢印方向から観察した場合における隣接する磁気共振器同士の寸法および位置関係を示す説明図であり、図5(b)は図2におけるB矢印方向から観察した場合における隣接する磁気共振器同士の寸法および位置関係を示す説明図である。
【図6】図6は、本願出願人が特願2005−139329「金属錯イオンの光還元方法」として出願した手法により作製したC字形状の金の電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、本発明光学素子を屈折率の異なる2つの媒質の間に配置して光透過性光学素子として用いた例を示す説明図である。
【図8】図8(a)(b)は、媒質Mと媒質Mとの界面の設定の方法を示す説明図であり、図8(a)は入射角をプラス側に持ってくる方法を示す説明図であり、図8(b)は入射角をマイナス側に持ってくる方法を示す説明図である。
【図9】図9は、p偏光、s偏光の両方に対して、媒質Mと媒質Mとの界面に対して同じ入射角でブリュースター条件を満足する、媒質Mのp偏光に対する誘電率εと媒質Mのs偏光に対する誘電率εとのペアを示すグラフである。
【図10】図10は、本発明光学素子の作製例を示す説明図である。
【図11】図11は、本発明光学素子の作製例を示す説明図である。
【図12】図12は、本発明光学素子の作製例を示す説明図である。
【図13】図13は、本発明光学素子の作製例を示す説明図である。
【図14】図14は、本発明光学材料の実施の形態の他の例を示す概念構成説明図である。
【符号の説明】
【0097】
10 本発明光学材料
12 ガラス基板
16 磁気共振器
16a 第1C字形状部
16b 第2C字形状部
20 境界面
50 本発明光学材料
56 磁気共振器
100 メタマテリアル
102 基板
104 電気共振器
106 磁気共振器
媒質
本発明光学素子(媒質)
媒質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光波の波長よりも小さな電気共振器と磁気共振器との少なくともいずれか一方を所定の平面内においてのみ複数配置したメタマテリアルよりなり、
s偏光に対して前記配置された電気共振器と磁気共振器との少なくともいずれか一方が作用して、前記作用に応じて誘電率と透磁率との少なくともいずれか一方を制御して、s偏光においてブリュースター現象を誘起する
ことを特徴とする光学材料。
【請求項2】
請求項1に記載の光学材料よりなる光学素子であって、
光波の入射面がp偏光に対してブリュースター角に設定されるとともに、
前記光学材料のs偏光に対する誘電率と透磁率との少なくともいずれか一方を制御して、p偏光とs偏光との双方において同時かつ独立にブリュースター条件を満たした
ことを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光学素子において、
p波とs波との出射方向が光波の入射方向と一致する
ことを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1に記載の光学材料よりなる光学素子の作製方法であって、
光波の入射面をp偏光に対してブリュースター角に設定し、
前記光学材料のs偏光に対する誘電率と透磁率との少なくともいずれか一方を制御して、p偏光とs偏光との双方において同時かつ独立にブリュースター条件を満たす
ことを特徴とする光学素子の作製方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図6】
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【図14】
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