説明

光学材料のレーザ安定性を特定する方法、この方法により選ばれた結晶及び選ばれた結晶の使用

【課題】レーザ安定な材料と、特にレーザ安定な材料の特定を可能にし、特にまた、レーザ安定な材料の試料と特にレーザ安定な材料の試料との、レーザ安定性に関する相互差別又は区別を可能にする、改良された評価方法を提供することにある。
【解決手段】特に高エネルギー放射線透過用の光学素子の製造のため、光学材料のレーザ安定性を特定又は評価する方法であって、光学材料が予備照射され、光学材料の誘導非固有蛍光が測定されるものにおいて、
a)光学材料を予備照射し、
b)上記予備照射した終了直後に、且つまた該終了後少なくとも10分間に、波長350nm〜700nmの光で光学材料に誘導蛍光を励起させ、
c)550nm〜810nmの1つ以上の波長における上記誘導蛍光の強度を測定し、
d)上記550nm〜810nmの1つ以上の波長における誘導蛍光の強度を定量評価して成る方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高エネルギー放射線用の光学素子の製造のために適した光学材料を評価する方法、及びこの方法により得られる光学材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子を構成する材料はこれ等素子を通る光又は放射線を多少吸収するので、その光及び/又は放射線は光学素子を通った後ではその前と比較して強度が一般に低くなることが知られている。また、この吸収の程度が光の波長に依存することも知られている。光学系、即ち光を透過する系における吸収は、少なくともそれ等夫々の動作波長において高い光透過性を有すべきであるので、できるだけ低く抑えられている。この吸収は材料特定成分(固有吸収)と、所謂非固有成分と呼ばれる含有物、不純物及び/又は結晶欠陥による成分とから成る。固有吸収は材料の品質には依存しないが、吸収のこの付加的非固有成分は光学材料の品質の低下をもたらす。
【0003】
加熱を引き起こすエネルギーは固有吸収によっても、非固有吸収によっても、光学材料により吸収される。光学材料のこの種の加熱は、屈折率等の光学的性質が変化し、これがビーム形成に用いられる光学部品の撮像挙動に変化をもたらすと云う不都合がある。屈折率は光の波長にのみならず、光学材料の温度にも依存するからである。更に、光学部品の加熱はレンズ形状大きさの変化を引き起こす。この現象はレンズの焦点の変化を生じ、加熱されたレンズで投影された画像にぶれが生ずる。このため、特にコンピュータチップや電子回路の製造に用いられる光リソグラフィーにおいて品質悪化が生じ、不良品の数が増大してしまう。
【0004】
更に、材料吸収は高エネルギー光の照射時間の長い場合、時間と共に増大することが分かった。放射線損傷と呼ばれるこの効果は、急速に発生する可逆性成分と、緩やかな非可逆成分とから成る。急速発生照射損傷では、吸収される放射線の一部が熱に変換されるだけでなく、蛍光として再び出力される。光学材料、特に光学結晶における蛍光の形成もまた知られている。例えば、水晶、特に高OH水晶中のレーザ誘導蛍光(LIF)の発生及び測定が W. Triebel, Bark-Zollmann, C. Muehlig, et al, “Evaluation of Fused Silica for DUV Laser Applications by Short Time Diagnostics”, Proceedings SPIE Vol. 4103, pp 1 ■ 11, 2000に記載されている。CaFの蛍光及び透過特性は C. Muehlig, W. Triebel, Toepfer, et al, Proceedings SPIE Vol. 4932, pp. 458 ■ 466に記載されている。フッ化カルシウム結晶における光吸収帯の形成に付いては、M. Mizuguchi, et al, in J. Sci. Technol. A., Vol. 16, pp. 2052 ■ 3057 (1998)に記載されている。フッ化カルシウム結晶におけるレーザ損傷の診断のための時間分解光ルミネッセンスは M. Mizuguchi, et al, in J. Opt. Soc. Am. B, Vol. 16, pp. 1153 ■ 1159, July 1999 に記載されている。そこには、193nmにおけるArFエキシマレーザでの励起による光ルミネッセンス形成色中心の形成が記載されている。だが、この種の測定においては、光リソグラフィーの高い要求条件に対しては不十分な、比較的高不純度の結晶が用いられている。更に、蛍光測定は時間間隔50nsecで、レーザパルスが試料を通り終えた後に行われている。そのようにして得られた蛍光値は品質制御のため、或いは不純物形成の決定のため、従って高品質の結晶中の色中心の形成のためには用い得ないことが分かった。
【0005】
光学素材から光学部品全体を製造するのは極めて高価であり、労働集約的であるので、後に生ずる放射線損傷の程度と特質を早い時点、即ち素材加工前に提示する必要がある。不適切な材料は廃棄されなければならない。この種の損傷の程度と特質をレーザ誘導蛍光により決定しようとする試みが既になされている。例えば、WO2004/027395には、光学材料内の非固有蛍光を特定する方法が記載されている。この方法では、光学材料内の蛍光が、予備照射を同一レーザで行って、即ち励起波長193nm又は157nmで光予備照射の直後に直接特定される。
【0006】
光学材料の適切性の定量的特定法がDE10335457A1に記載されている。この方法では、エネルギー密度依存透過率の、UVにおける種々の波長での測定は、種々のフルエンスでの透過率の平衡値の特定、この試料に対する曲線dT/dHの勾配の測定及び蛍光特性との比較によりなされる。
【0007】
レーザ安定材料は、上記の方法により、製造中の早期の時点で評価することができる。現在開発の段階にある光リソグラフィー照射装置は、その照射素子、それに用いられるレーザ又はそのレーザビーム誘導システムに、特にレーザ安定な材料を要求している。この要求はこの種の装置の生産性の諸要求から生じ、これ等諸要求はレーザパワーの増大、従ってエネルギー密度の本来的増大のために十分増大し得るものである。適切な光学原料の予備評価の上記短時間測定方法は従って、特に良好なレーザ安定性をもつ試料を他のレーザ安定試料から区別するためには、もはや十分では無い。
【0008】
後時使用における特性が極めて良好であるべき材料は予め長時間試験繰り返し試験されなければならない。この材料がこの長時間試験に耐えたなら、更に処理又は加工すれば良い。この種の長時間試験の典型的な試験条件は例えば、193nmのエキシマレーザの繰り返し率1000ヘルツ以上、パルス当たりエネルギー密度15mJ/cm、全パルス数10パルスでの照射である。これは測定時間11.5日を意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、レーザ安定な材料と、特にレーザ安定な材料の特定を可能にし、特にまた、レーザ安定な材料の試料と特にレーザ安定な材料の試料との、レーザ安定性に関する相互差別又は区別を可能にする、改良された評価方法を提供することにある。
本発明のもう1つの目的は、材料のレーザ安定性を特定し、レーザ安定な材料同士を相互に区別する方法であって、現在利用可能な又は従来技術による評価方法より短時間に実施することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これ等の目的及び以下の記載からより明確になる他の目的は、特に高エネルギー放射線透過用の光学素子の製造のための光学材料のレーザ安定性を特定又は評価する方法であって、光学材料を予備照射して放射線損傷を発生し、光学材料の誘導非固有蛍光を測定して成るものにより達せられる。
本発明によれば、この方法は
a)光学材料の試料に放射線を予備照射し、
b)波長350nm〜700nmの光で上記予備照射した終了直後に、且つまた該終了後少なくとも10分間したら、誘導蛍光を励起させ、
c)550nm〜810nmの1つ以上の波長における上記誘導蛍光の強度を測定し、
d)上記550nm〜810nmの1つ以上の波長における、工程c)で測定された強度を定量評価して成る。
【0011】
本発明によれば、波長範囲350nm〜700nmにおける励起蛍光は予備照射の終了後も変化することが分かった。本発明による方法では、従って、蛍光は現在通常なされているように予備照射直後にのみ測定されるのではなく、予備照射のために用いられている波長で励起されるのではない。本発明によれば、第1の測定は予備照射直後に行われ、第2の測定は所定の時間間隔の後、特に少なくとも5分後、好ましくは少なくとも10分後、特に少なくとも15〜20分後、特に少なくとも30分後に行われる。従って、予備照射の終了後の蛍光の増大が測定される。更に、蛍光は予備照射に用いられるのと同一のエネルギー光で発生するのではなく、波長範囲350〜700nmの光で発生する。本発明の範囲内で、高エネルギー放射線の照射後に材料に吸収されるエネルギーが、長い時間間隔では、照射されていない結晶に見出されていないナトリウム安定化F中心の形成をもたらすことが実験で示された。これ等のナトリウム安定化F中心は他の波長の放射線を更に照射することで励起され、これ等F中心の励起状態から基底状態に遷移することで蛍光を放出するようである。
【0012】
本発明によれば、ナトリウム安定化F中心形成の形成定数は非常に長い(k=1/τで、τ≧10分)ことが分かった。これにより、蛍光は予備照射の終了後少なくとも10分間、特に少なくとも20分間、好ましくは少なくとも30分間増大することになる。
【0013】
放射線損傷(急速損傷)は通常、高エネルギー放射線により生成される。この目的のために適した高エネルギー放射線源は例えば、X線源、中性子線源及び高エネルギーレーザ、例えばエネルギー密度が≧5mJ/cm、例えば5〜>100mJ/cmのエキシマレーザである。エキシマレーザの動作波長範囲は150〜240nmである。好適なレーザは例えば、波長193nmのArFエキシマレーザである。照射は好ましくは十分なナトリウム安定化F中心が形成されるまで行われ、これは遅くとも透過率が平衡値に達するとき達成される。この平衡への到達は通常、ArFレーザ(10mJ/cm)からの10000パルスの照射による。透過の平衡値への到達は、照射中に透過の変化が測定不能になることで分かる。平衡値はエネルギー密度>10mJ/cmの3000パルス未満、最大で200〜2000パルス、エネルギー密度≧10mJ/cm2の200パルス上、特に、2000〜3000パルス上で到達する。蛍光の第1の測定は予備照射の終了直後に行われる。この測定は一般に予備照射の終了後3〜5秒間に行われ、通常1秒間継続する。蛍光の第2の測定は第1の測定と同じ持続時間であるが、予備照射の終了後少なくとも10分間、好ましくは20分間は行われない。個々の場合に、少なくとも30分間待機するのが適切であり、場合によっては少なくとも50分間待機するのが必要なことが分かった。だが、蛍光の第2の測定は予備照射終了後15時間より遅く、特に10時間より遅く行うべきでないことが分かった。不正確な測定結果をもたらす緩和過程が目立つようになるからである。一般には、第2の測定は予備照射の終了後8時間より遅くは行うべきでない。
【0014】
本発明の目的、特徴及び利点を以下、その好適な実施態様に付き、添付図面を参照して詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、予備照射したレーザ安定な試料では波長範囲550nm〜810nmで蛍光は殆ど測定できないことと、193nmのみにおける蛍光測定(280〜360nmにおいて高いピークをもつ実線曲線)とを示す。だが、本発明によれば、532nmにおける励起で蛍光をなお評価する(530nm及び600〜800nmで低いピークをもつ点線曲線)。無次元カウント数が図1に示されている。これ等無次元カウント数の定性的挙動は同じままだが、それ等の絶対値は調整と較正のため試験設定ごとに異なるようにできる。また、従来技術の測定値(実線値)と本発明による測定値(点線値)の間の差は試験設定を問わず同一である。
【0016】
従来技術から、蛍光が短波長UV光の予備照射後に測定されるとき波長範囲550〜810nmにおける測定蛍光の感度はなお更に増大する場合のあることが知られている。だが、本発明によれば、蛍光測定の励起波長は予備照射のものであるべきでなく、波長範囲460nm〜700nm、特に500nm〜650nmにあるべきである。波長範囲530nm〜635nmでの蛍光測定が特に望ましい。波長532nm、632nm、635における蛍光の励起が特に好ましい。更に、蛍光帯は600nm未満の波長での励起で、630nmで良好に検出可能である。532nmでの特に好ましい励起で得られるスペクトルが図1に赤い曲線で示されている。
【0017】
633nmでのヘリウム・ネオンレーザ、635nmでのレーザダイオード(赤色レーザ放射線、即ちRLIF以外に)及び532nmでのダイオードポンプ固体レーザ(GPSSレーザ、緑色レーザ放射線、GLIF)による励起が特に適していることが分かった。633nmにおけるヘリウム・ネオンレーザ及び635nmにおけるレーザダイオードによる励起は、532nmにおける励起より感度が約4倍高い。原則として、蛍光信号は入力レーザパワーと共に略線形に変化する。
【0018】
図2Aは、波長がそれぞれ532nm及び633nmである光による励起での740nmにおける蛍光の蛍光励起スペクトルを示す。励起波長633nmでは、波長532nmでの励起の結果と較べて約4倍の感度の改善が得られる。
【0019】
図2Bでは、利用される好適な両ピーク(630nm、740nm)を励起により制御できることが示されている。
【0020】
本発明によれば、特にレーザ安定な材料は予備照射終了後に、蛍光が変化しないか、僅かに変化するに過ぎないことで特徴付けされる。それに較べて、レーザ安定性がより少ない試料は、予備照射の終了後、第2の測定までの10〜20分の又は30〜50分の待機時間後の630nm及び740nmでの蛍光帯のそれぞれの強度の増大が明瞭である。これは、予備照射直後に行われる第1の測定と違っている。
【0021】
両蛍光帯は、波長範囲550nm〜810nm内の蛍光測定波長として特に適している。CaF試料の蛍光測定の場合には、波長740nmが特に適していることが分かった。
【0022】
レーザ安定な試料と対比して、本発明の方法による特にレーザ安定な試料では、630nm及び740nmでの蛍光帯のそれぞれの強度が第1の測定で測定された強度と較べて僅かに増大していることを、同一条件下で検出することができる。
【0023】
レーザ安定な材料と特にレーザ安定な材料は、少なくとも5〜50分、特に少なくとも10〜30分の待機時間の後のこれ等蛍光の変化の測定により加工又は処理前に見出されるかも知れない。
【0024】
従って、本発明による方法では次の工程が行われる:
1)試料に、例えばArFエキシマレーザを予備照射する;
2)予備照射の直後に、範囲460nm〜700nmの波長の励起放射線により励起される580nm〜810nmの波長範囲λ1の蛍光放出の第1の測定を行う;そして
3)予備照射の終了後少なくとも5分、特に少なくとも10分、最大でも15時間の待機時間の後に、範囲460nm〜700nmの波長の励起放射線により励起される580nm〜810nmの波長範囲λ1の蛍光放出の第2の測定を行う。
【0025】
蛍光強度の測定値から増大Zが、蛍光強度の両測定値間の差を第2の測定で測定の強度値(I2,λ1,λ2)で正規化したものから、次の式に従って計算される:
Z=(I2,λ1,λ2−I1,λ1,λ2)/I2,λ1,λ2 (1)
【0026】
CaFの特にレーザ安定な試料に対する値Zは、蛍光に対して励起波長λaを532nm、λbを633nm又は635nm、測定波長λを740nmとすると、最大で0.3となる。
【0027】
非結晶生成物、例えばDE102004003829に記載されているフッ化カルシウムインゴットを、完成された大量の単結晶成長前に、後でのレーザ耐性に対して試験するのも可能である。従って、数ヶ月にも及ぶ高価な成長工程前に、特に適した材料を評価及び特定することができる。本発明によれば、上記3つの方法工程が採られ、Zの同一式(1)が用いられる。CaFの場合には、予備照射の終了後、少なくとも5分、特に少なくとも10分の待機時間の後、好ましくは少なくとも30分後に、第2の測定値が決定される。両測定の場合の蛍光強度に対して、波長λ1aが532nm、波長λ1bが633nm又は635nmで、測定波長λ2が740nmのとき、蛍光励起が発生する。Z値が0.3未満であれば、それぞれの試料は特にレーザ安定である。第1及び第2の蛍光測定で400カウント数未満の信号を示す試料は、測定誤差(±150カウント数、1500カウント数で−10%)を考慮しても、一般に特にレーザ安定である。
【0028】
測定系の較正後、第2の蛍光測定の絶対測定値を試料ごとに、又は試料から適宜の比較試料と比較することは、レーザ耐性又はレーザ強度分類に対して意味がある。
【0029】
各測定蛍光は比較試料の蛍光と、且つ本発明による方法の第2の実施態様においては予定の用途に対して適切なレーザ安定性と比較される。この実施態様では、両試料には同一条件、即ち同一波長及び同一入射エネルギー密度が用いられる。蛍光測定中の、従来技術による波長193nmにおける励起直後の、測定装置の信号ノイズにあるものと設定される蛍光帯を740nmに有する試料が通常、レーザ安定とする測定プローブの分類のための比較試料として用いられる。レーザ耐性は、使用の条件下で、例えば高エネルギー放射線に対する上記の露出時間として、この比較のために測定される。
【0030】
本発明による方法はまた、試料のレーザ耐性を測定するのに用いられる。即ち、193nmにおける予備照射直後の測定装置の信号ノイズの範囲にまだある740nmにおける蛍光帯の、又は740nmに蛍光帯が無い、従来技術による蛍光測定により得られる測定蛍光値に基づく場合には、レーザ安定及び特にレーザ安定へのレーザ安定性分類が不可能であった試料のレーザ耐性を測定するのに用いられるのである。この種のレーザ安定性分類は本発明による方法の使用を要する。ピーク≦15カウント数は、従来技術による方法を用いて見出されているが、これは測定誤差であるからである。
【0031】
本発明の方法による十分なレーザ安定性を有する光学材料は、DUVリソグラフィー用の光学部品の製造、光ラッカーで被覆されるウェーハの製造、従って電子装置の製造に特に適している。本発明は従って、本発明方法により選ばれる又は得られる材料及び/又は本発明によるレンズ、プリズム、光導通ロッド、光学窓及びDUVリソグラフィー用光学装置を製造するため、特にステッパ及びエキシマレーザを製造するため、従ってまた積分回路、コンピュータチップ、プロセッサや他の装置等の、チップ型積分回路を含む電子装置を製造するための結晶及びその使用に関係する。
【0032】
本発明方法を以下、実施例に付き更に詳細に説明するが、これ等実施例は請求の範囲を制限するものではない。
【0033】
実施例1
溶融フッ化カルシウム粉末から成る多結晶インゴットから、寸法3cmx3cmの試料を切り取った。ホルダーで保持したこの結晶試料に、ArFエキシマレーザからのエネルギー密度30mJ/cmの光の約10000パルスを照射した(60Hzで3分間)。次に、予備照射直後と、20分の待機時間後に、この試料に532nmの光(GLIF)を照射し、波長740nmの蛍光の強度をCCDカメラ(検出器としてCCDカメラ付きスペクトロメータ装置)で測定した。この測定は、上記WO2004/027395に記載のようにCCDカメラにより行われた。正規化値Zを上記式:
Z=(I2,λ1,λ2−I1,λ1,λ2)/I2,λ1,λ2 (1)
に従って計算した。740nmの蛍光での以下の測定蛍光強度が種々のCaF試料no.1〜5に対して、波長λ1a=532nm又はλ1b=635nmの励起で得られた。結果は下の表1に報告されている。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例2
予め得られたCaF結晶にArFレーザからの10000レーザパルスを繰り返し率60Hz、エネルギー密度10mJ/cmで照射した。続いて、この試料に波長532nmの緑色固体レーザを照射し、照射直後と、1分、5分、10分、20分、30分及び45分後に蛍光強度を測定した。蛍光の強度は波長630nm及び740nmで測定された。結果を図3A及び3Bに示す。
【0036】
以上、光学材料のレーザ安定性を特定する方法、この方法により選ばれた結晶及び選ばれた結晶の使用に具現されるものとして本発明を説明し、記載したが、本発明はその精神をいかようにも逸脱することなく種々の修正及び変更が可能であるから。図示の詳細に限定されるべきものではない。
更なる検討が無くとも、以上の記載は本発明の要旨を、他者が現在の知識を適用することにより、従来技術の観点から見て本発明の一般的又は特定の側面の本質的特徴と公正に云える特徴を省略することなく、種々の応用に直ちに適合できる程度まで十分に明らかにするものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】波長193nmのエキシマレーザで励起された材料と、波長532nmのDPSSレーザで励起された材料の、エキシマレーザの停止後45分のレーザ安定な夫々の試料蛍光スペクトルを示す。
【図2(A)】蛍光スペクトロメータで測定された740nmにおける蛍光のCaF蛍光励起スペクトルを示す。
【図2(B)】193nmのレーザの予備照射をそれぞれ行う、行わない490nmのランプ励起で測定された2つのスペクトルと、193nmのレーザの予備照射をそれぞれ行う、行わない550nmのランプ励起で測定された他の2つのスペクトルを含む4つの蛍光スペクトルを示す。
【図3(A)】高エネルギーレーザ放射線に対して極めて安定な試料6の、それぞれ740nm及び630nmにおけるGLIFの動特性を示すグラフである。
【図3(B)】高エネルギーレーザ放射線に対して安定であるが、図3Aに示す試料6程安定でない試料4の、それぞれ740nm及び630nmにおけるGLIFの動特性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に高エネルギー放射線透過用の光学素子の製造のための光学材料のレーザ安定性を特定又は評価する方法であって、光学材料が予備照射され、光学材料の誘導非固有蛍光が測定されるものにおいて、
a)光学材料を予備照射し、
b)上記予備照射した終了直後に、且つまた該終了後少なくとも10分したら、波長350nm〜700nmの光で光学材料に誘導蛍光を励起させ、
c)550nm〜810nmの1つ以上の波長における上記誘導蛍光の強度を測定し、
d)上記550nm〜810nmの1つ以上の波長における誘導蛍光の強度を定量評価して成る方法。
【請求項2】
前記光学材料に前記誘導蛍光を励起させる前記波長が350nmと430nmの間及び500nmと700nmの間にある請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光学材料の前記予備照射がレーザからの放射線で行われ、このレーザからの放射線が150〜240nmの波長範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザからの放射線の波長が193nmであり、このレーザがArFエキシマレーザである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記誘導蛍光の強度が測定される波長は580nmと810nmの間及び/又は680nmと810nmの間にある請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記蛍光強度は、前記予備照射の前記終了直後に第一回目が測定され、前記予備照射の上記終了後少なくとも10分間、高々15時間待機した後に第2回目が測定される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記光学材料がCaF結晶である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
フッ化カルシウム結晶群の中で特にレーザ安定な、CaF結晶を見出す方法であって、
a)複数の異なるCaF結晶の各々を予備照射し、
b)上記予備照射した終了直後に且つまた上記予備照射終了後少なくとも10分間待機した後に前記異なるCaF結晶の各々に波長350nm〜700nmの光で誘導蛍光を励起させ、該誘導蛍光を励起させ、
c)上記誘導蛍光の強度を、上記予備照射の上記終了直後の1回目の第1の測定で測定し、前記予備照射の上記終了後少なくとも10分間、最大で15時間待機した後の第2回目の第2の測定で測定し、
d)複数のCaF結晶に対して上記第1の測定及び第2の測定で測定された上記誘導蛍光の強度(I1,λ1,λ2;I2,λ1,λ2)の、次の式:
Z=(I2,λ1,λ2−I1,λ1,λ2)/I2,λ1,λ2 (1)
で計算される正規化差(Z)が0.3未満であるCaF結晶を、特にレーザ安定な、CaF結晶として特定して成る方法。
【請求項9】
特に高エネルギー放射線透過用の光学素子の製造のために、異なるCaF結晶のレーザ安定性を評価する方法に基づいて、光学材料が予備照射され、光学材料の誘導非固有蛍光が測定される方法により得られる、特にレーザ安定なCaF結晶において、前記方法が
a)複数の異なるCaF結晶の各々を予備照射し、
b)上記予備照射した終了直後に且つまた上記予備照射終了後少なくとも10分間待機した後に上記異なるCaF結晶の各々に誘導蛍光を励起させ、波長350nm〜700nmの光で該誘導蛍光を励起させ、
c)上記誘導蛍光の強度を、上記予備照射の上記終了直後の1回目の第1の測定で測定し、前記予備照射の上記終了後少なくとも10分間、最大で15時間待機した後の第2回目の第2の測定で測定し、
d)複数のCaF結晶に対して上記第1の測定及び第2の測定で測定された上記誘導蛍光の強度(I1,λ1,λ2;I2,λ1,λ2)の、次の式:
Z=(I2,λ1,λ2−I1,λ1,λ2)/I2,λ1,λ2 (1)
で計算される正規化差(Z)が0.3未満であるCaF結晶を、特にレーザ安定なCaF結晶として特定する方法であることを特徴とする結晶。
【請求項10】
請求項1に記載の方法で得られる光学材料で構成されるレンズ、プリズム、光導通ロッド、光学窓、DUVリソグラフィー用光学装置、UVリソグラフィー用ステッパ、UVリソグラフィー用エキシマレーザ、積分回路、コンピュータチップ、電子装置又はプロセッサ。
【請求項11】
請求項8に記載の方法により選ばれたCaF結晶で構成されるレンズ、プリズム、光導通ロッド、光学窓、DUVリソグラフィー用光学装置、UVリソグラフィー用ステッパ、UVリソグラフィー用エキシマレーザ、積分回路、コンピュータチップ、電子装置又はプロセッサ。

【図1】
image rotate

【図2(A)】
image rotate

【図2(B)】
image rotate

【図3(A)】
image rotate

【図3(B)】
image rotate


【公開番号】特開2008−46134(P2008−46134A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213349(P2007−213349)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】