説明

光学機器

【課題】照明ムラの発生を抑制する。
【解決手段】フライアイレンズ14は、コリメータレンズ13により平行な光束とされた照明光の光軸に直交する側面の少なくとも一方に配列された複数の凸曲面により複数の光源像を形成し、リレーレンズ16および18、並びにコンデンサレンズ20を含むリレー光学系により、フライアイレンズ14の複数の凸曲面それぞれを通過した照明光が伝達されて物体面21に重畳される。そして、モータ24により、照明光の光軸に対して相対的にフライアイレンズ14の複数の凸曲面が移動するように、凸曲面が配列されている側面に沿ってフライアイレンズ14が駆動される。本発明は、例えば、フライアイレンズを用いた光学系を有する顕微鏡に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器に関し、特に、照明ムラの発生を抑制することができるようにした光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、顕微鏡における観察対象の照明方法として、フライアイレンズを使用した照明光学系を用いて照明ムラを低減することができる照明方法が開示されている。フライアイレンズは、例えば、透明な光学基板(樹脂やガラスなど)に複数の凸曲面が形成された光学素子であり、それらの凸曲面がそれぞれ独立したレンズとして機能する。
【0003】
【特許文献1】特開2002−6255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フライアイレンズは、一般的に、金型を用いた射出成形により製造され、フライアイレンズの成形に用いられる成形型には、フライアイレンズが有する複数の凸曲面に対応する凹曲面が形成されている。そして、この凹曲面の加工時に、加工ツールの加工方向に応じた加工痕(所謂、ツールマーク)が形成され、フライアイレンズを製造する際に、加工痕が凸曲面に転写されることがある。
【0005】
ここで、凹曲面に形成される加工痕は、成形型の複数の凹曲面それぞれで共通している(各凹曲面で同一の位置、かつ同一の方向に形成される)ため、フライアイレンズが有する複数の凸曲面に共通する加工痕が転写されることになる。このように、複数の凸曲面に共通の加工痕が転写されると、そのフライアイレンズを使用した照明光学系では、それらの加工痕が物体面で重畳されてしまい、観察対象を一様に照明することができなくなる。即ち、観察像において微妙な照明ムラが発生してしまい、例えば、ツールマークが視認されることがある。
【0006】
また、一般的に、フライアイレンズを使用した照明光学系において、観察対象が合焦位置から外れたときにも照明ムラが発生し、例えば、観察像にぎらつきが生じることがある。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、照明ムラの発生を抑制することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学機器は、光源から射出される照明光を試料に照射する光学機器であって、前記光源の各所から射出される照明光を平行な光束に変換するコリメータレンズと、前記コリメータレンズにより平行な光束とされた前記照明光の光軸に略直交する側面の少なくとも一方に配列された複数の軸対称曲面により、複数の光源像を形成するフライアイレンズと、前記フライアイレンズの前記複数の軸対称曲面それぞれを通過した照明光を伝達し、前記試料の物体面上に重畳させる光学系と、前記コリメータレンズにより平行な光束とされた前記照明光の光軸に対して相対的に前記フライアイレンズの複数の前記軸対称曲面が移動するように、前記軸対称曲面が配列されている側面に沿って前記フライアイレンズを駆動する駆動機構とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の光学機器においては、光源の各所から射出される照明光が平行な光束に変換され、その照明光の光軸に略直交する側面の少なくとも一方に配列されたフライアイレンズの複数の軸対称曲面により、複数の光源像が形成される。そして、フライアイレンズの複数の軸対称曲面それぞれを通過した照明光が伝達されて、試料の物体面上に重畳させる。さらに、平行な光束とされた照明光の光軸に対して相対的にフライアイレンズの複数の軸対称曲面が移動するように、軸対称曲面が配列されている側面に沿ってフライアイレンズが駆動される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学機器によれば、照明ムラの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明を適用した光学機器の一実施の形態の構成例を示す図である。
【0013】
光学機器11は、例えば、試料を観察する顕微鏡装置に適用され、光源12から放射状に放射される照明光が、コリメータレンズ13により屈折され、ほぼ平行な光束となって、光軸L1に沿ってフライアイレンズ14に入射する。
【0014】
フライアイレンズ14は、透明な光学基板(樹脂やガラスなど)により構成され、その光学基板の光軸L1に直交する側面の両側または片側に、複数の凸曲面が形成されている。コリメータレンズ13を介してフライアイレンズ14に入射する照明光は、フライアイレンズ14に形成されている複数の凸曲面によりそれぞれ集光される。即ち、フライアイレンズ14に形成されている複数の凸曲面は、それぞれ独立したレンズとして機能し、フライアイレンズ14において1つのレンズとして機能する部分を、以下、適宜、単位レンズと称する。
【0015】
このように、フライアイレンズ14では、単位レンズごとに照明光が集光され、フライアイレンズ14の射出端面(照明光が射出される側の側面)には、照明光が通過する通過領域(後述する図2を参照)にある単位レンズの数に応じた複数の光源像が結像された疑似点光源が複数形成される。
【0016】
フライアイレンズ14を通過した照明光は、拡散板15により拡散された後、リレーレンズ16、ハーフミラー17、およびリレーレンズ18を介して、開口絞り19に伝搬される。開口絞り19は、フライアイレンズ14により形成される複数の疑似点光源と共役な位置に配置されており、複数の光源像が開口絞り19に結像される。そして、開口絞り19において結像された複数の各光源像から射出される光束は、コンデンサレンズ20により平行にされて物体面21に照射される。
【0017】
このとき、照明光学系としてみたときの、コンデンサレンズ20の物側の焦点距離fとなる位置に開口絞り19が配置されるとともに、コンデンサレンズ20の像側の焦点距離fとなる位置に物体面21が配置されている。これにより、コンデンサレンズ20は、開口絞り19において結像された複数の光源像からの光束のそれぞれが物体面21で重畳されるように照明光を集光する。即ち、コンデンサレンズ20は、フライアイレンズ14の複数の単位レンズそれぞれを通過した照明光が物体面21で重なり合うように照明光を集光する。
【0018】
また、フライアイレンズ14により形成される複数の疑似点光源が、リレーレンズ16の物側の焦点距離となるようにリレーレンズ16が配置されており、リレーレンズ16の像側の焦点距離となる位置に視野絞り面22が配置されている。これにより、視野絞り面22と物体面21とが共役となっている。
【0019】
即ち、図1に示すように、フライアイレンズ14により形成される複数の疑似点光源の位置から、リレーレンズ16の物側の主点までの距離aと、リレーレンズ16の像側の主点から、視野絞り面22までの距離bとが略一致するように、光学機器11は構成されている。従って、視野絞り面22では、物体面21と同様に、フライアイレンズ14の複数の単位レンズそれぞれを通過した照明光が重畳される。
【0020】
このように、フライアイレンズ14の各単位レンズを通過した照明光が物体面21上で重畳されるので、例えば、光源12に配光特性があったとしても、物体面21でムラのない均一な照明が可能になる。
【0021】
また、物体面21で反射または拡散した光(観察光)は、光軸L2に沿って、コンデンサレンズ20、リレーレンズ18、およびハーフミラー17を介して撮像素子23の受光面に結像され、撮像素子23により物体面21が撮像される。撮像光学系としてみたときのリレーレンズ18は、撮像素子23に物体面21の像を結像させる結像レンズとして機能する。また、図1に示すように、視野絞り面22からハーフミラー17上の光軸L1およびL2の交点までの距離cと、この交点から撮像素子23までの距離dとが略一致するように、光学機器11は構成されている。
【0022】
ここで、フライアイレンズ14には、モータ24が接続されており、モータ24は、光軸L1と平行な回転軸を中心としてフライアイレンズ14を回転駆動させる。
【0023】
制御装置27は、モータ駆動回路25を介して、モータ24によるフライアイレンズ14の回転速度を制御するとともに、撮像素子駆動回路26を介して、撮像素子23の露光時間を制御する。
【0024】
図2を参照して、フライアイレンズ14について説明する。
【0025】
図2Aには、フライアイレンズ14およびモータ24の斜視図が示されており、図2Bには、光軸L1に沿って見たフライアイレンズ14が示されている。
【0026】
図2Bに示すように、円盤状のフライアイレンズ14の側面には、図1の光軸L1の方向からみて六角形の複数の単位レンズ(凸曲面)がハニカム状に配列されている。また、図2において、図1のコリメータレンズ13により平行な光束とされた光源12からの照明光が通過する通過領域が破線で示されている。なお、この単位レンズは凸曲面でも凹曲面でもどちらでもよく、軸対称曲面を有し、光学的に複数の光源像が形成できる形状を持っていればよい。
【0027】
また、モータ24の回転軸は、円盤状のフライアイレンズ14の中心に接続されており、フライアイレンズ14の中心が、照明光の通過領域とは異なる位置に配置されており、フライアイレンズ14は、照明光の通過領域以外にある回転中心を中心として回転する。
【0028】
このように、光学機器11では、照明光の通過領域以外に回転中心を持つようにフライアイレンズ14を回転駆動させることにより、照明光の通過領域内において、複数の単位レンズがフライアイレンズ14の回転方向に沿って移動する。このように複数の単位レンズが移動することで、フライアイレンズ14に転写された加工痕による照明ムラが、ある所定の単位時間ごとに平均化され、物体面21を一様に照明することができる。
【0029】
これにより、例えば、図示しない接眼レンズを介して、使用者が目視による物体面21の観察を行うとき、照明ムラとして加工痕が視認されることが抑制される。このように、照明ムラの発生を抑制することで、観察に悪影響が与えられることを回避することができる。また、照明ムラの発生を抑制することで、観察対象が合焦位置から外れたとしても、その観察像にぎらつきが生じることを抑制することができる。
【0030】
ここで、フライアイレンズ14が回転駆動されることで、フライアイレンズ14における照明光の通過領域内において、フライアイレンズ14の回転速度に応じた周期で、単位レンズの配置(パターン)が同一のものとなる。例えば、フライアイレンズ14が1回転するたびに、照明光の通過領域内の単位レンズの配置は同一となる。また、図2Bに示されているフライアイレンズ14では、回転軸を中心として60度回転するごと、単位レンズの配列が同一となる。
【0031】
そこで、制御装置27は、撮像素子23の露光時間が、照明光の通過領域内における単位レンズの配置が同一のものとなる周期の整数倍となるように、撮像素子駆動回路26を介して撮像素子23の露光時間を制御する。例えば、制御装置27は、撮像素子23の露光時間が、フライアイレンズ14の1回転する時間の整数倍となるように制御を行う。また、例えば、図2Bに示すように、60度回転するごとに同一の配列となるフライアイレンズ14を使用する場合には、制御装置27は、撮像素子23の露光時間が、フライアイレンズ14が60度回転する時間の整数倍となるように制御を行う。
【0032】
これにより、撮像素子23が、照明光の通過領域内において単位レンズの配置が同一のものとなる周期の整数倍となる露光時間で物体面21を撮像することになり、撮像素子23が出力する画像に照明ムラによる影響が発生することを抑制することができる。また、円盤状のフライアイレンズ14を回転させて使用することで、撮像素子23の露光時間を、照明光の通過領域内で単位レンズの配置が同一のものとなる周期に容易に同期させることができる。
【0033】
なお、フライアイレンズ14の駆動方法としては、回転駆動に限られるものではなく、例えば、直線的に移動させるなど、照明系に対して相対的に単位レンズを移動させることができれば、照明ムラの発生を抑制することができる。
【0034】
例えば、ベルト状に形成されたフライアイレンズを利用し、所定の一方向に、照明系に対して相対的に単位レンズを移動させるようにしてもよい。
【0035】
また、板状に形成されたフライアイレンズを利用し、単位レンズが相対的に往復移動するように構成してもよい。このように、単位レンズを相対的に往復移動させる場合には、移動方向の両端でフライアイレンズが停止するので、例えば、撮像素子23が、単位レンズが移動する間に露光するように、即ち、単位レンズが停止している間を除いて露光するように、撮像素子23の露光時間を制御する必要がある。
【0036】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を適用した光学機器の一実施の形態の構成例を示す図である。
【図2】フライアイレンズ14について説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
11 光学機器, 12 光源, 13 コリメータレンズ, 14 フライアイレンズ, 15 拡散板, 16 リレーレンズ, 17 ハーフミラー, 18 リレーレンズ, 19 開口絞り, 20 コンデンサレンズ, 21 物体面, 22 視野絞り面, 23 撮像素子, 24 モータ, 25 モータ駆動回路, 26 撮像素子駆動回路, 27 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から射出される照明光を試料に照射する光学機器において、
前記光源の各所から射出される照明光を平行な光束に変換するコリメータレンズと、
前記コリメータレンズにより平行な光束とされた前記照明光の光軸に略直交する側面の少なくとも一方に配列された複数の軸対称曲面により、複数の光源像を形成するフライアイレンズと、
前記フライアイレンズの前記複数の軸対称曲面それぞれを通過した照明光を伝達し、前記試料の物体面上に重畳させる光学系と、
前記コリメータレンズにより平行な光束とされた前記照明光の光軸に対して相対的に前記フライアイレンズの複数の前記軸対称曲面が移動するように、前記軸対称曲面が配列されている側面に沿って前記フライアイレンズを駆動する駆動機構と
を備えることを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記フライアイレンズの前記照明光が通過する通過領域とは異なる位置に回転中心を設け、前記フライアイレンズを回転駆動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記試料を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段の露光時間が、前記フライアイレンズにおいて前記照明光が通過する通過領域内において複数の前記軸対称曲面の配置が同一のものとなる周期の整数倍となるように、前記駆動機構による前記フライアイレンズの駆動速度、および前記撮像手段の露光時間を制御する制御手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の光学機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−134234(P2010−134234A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310756(P2008−310756)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】