説明

光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体の製造方法

【課題】ラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体から光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を得る方法の提供。
【解決手段】下記式(I)


(式中、Rは、炭素数1〜5のアルキル基などの基である。)で示される光学活性オキサゾリン誘導体、銅塩、及び塩基の存在下、ラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体とカルボン酸ハライド化合物を反応させ、得られた反応物から下記式(IV)


(式中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基などの基で、Rは、置換基を有してもよいアリール基。)で示される光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を分離する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体の新規な製造方法である。詳しくは、ラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体において、一方の異性体のみの水酸基をカルボン酸ハライド化合物によって選択的に保護することにより、異性体を分割し、光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体は、生理化学物質の前駆体として極めて重要な化合物である。
【0003】
光学活性化合物を取得する手段としては、合成法、酵素法等多くの手段が知られているが、ラセミ体の一方の異性体のみを分割する方法も、光学活性化合物を取得する有力な手段の一つである。従来、ラセミ体であるβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体を光学分割して光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を得る方法としては、ジメチルアミノピリジン、ジシクロヘキシルカルボジイミド存在下、光学活性メトキシフェニル酢酸を用いて、ラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体の水酸基をアシル化し、生成するジアステレオマーを分割する方法が知られている(非特許文献1参照)。また、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン存在下、光学活性メトキシフェニル酢酸クロライドを用いて、ラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体の水酸基をアシル化し、生成するβ−アシルオキシリン酸エステル誘導体のジアステレオマーを分割する方法が知られている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】テトラヘドロン アシメトリー(Tetrahedron: Asymmetry)2003年、14巻、1775−1779頁
【非特許文献2】テトラヘドロン アシメトリー(Tetrahedron: Asymmetry)2007年、18巻、142−148頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の方法は、ラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体の水酸基を光学活性なメトキシフェニル酢酸、又はメトキシフェニル酢酸クロライドと反応させてジアステレオマーに変換した後、分離するため、その収率は高いものになる。
【0006】
しかしながら、上記方法においては、エステル化剤として用いる光学活性なメトキシフェニル酢酸、又はメトキシフェニル酢酸クロライドを基質に対して理論的には1当量使用しなければならず、実際には1.6当量使用して反応を行っている。本来、ラセミ体の一方の異性体のみを分割する方法では、エステル化剤は基質に対して0.5当量が理論量である。理論量のエステル化剤を用いて、ラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体を光学分割するためには、どちらか一方の異性体とエステル化剤を選択的に反応させる光学活性な触媒が必要であるが、光学活性な触媒を用いて、化学的手法によって、β−ヒドロキシリン酸エステル誘導体を分割して光学活性なβ−アシルオキシリン酸エステル誘導体を製造する方法は知られていない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、光学活性な触媒存在下、ラセミ体であるβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体の一方の異性体に対して、ほぼ理論量のエステル化剤を使用し、かつ化学的手法を用いて、光学活性なβ−アシルオキシリン酸エステル誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる実情に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、光学分割剤として光学活性オキサゾリン−銅錯体を用い、塩基の存在下、ラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体とカルボン酸ハライド化合物を反応させることによって光学分割できる方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、
は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、又はベンジル基である。)
で示される光学活性オキサゾリン誘導体、銅塩、及び塩基の存在下、下記式(II)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、
は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、ヘテロ原子を含む基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数8〜10のフェニルアルケニル基、炭素数3〜4のアルキニル基、炭素数9〜10のフェニルアルキニル基、炭素数6〜8のアリール基、炭素数6〜8のニトロアリール基、炭素数6〜8のハロゲノアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、アリル基、又は芳香族複素環基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、又はベンジル基である。)
で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体と、下記式(III)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、
は、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のハロゲノアリール基、炭素数6〜10のニトロアリール基、又は炭素数7〜10のアルコキシアリール基であり、
Xは、ハロゲン原子である。)
で示されるカルボン酸ハライド化合物を反応させ、得られた反応物から下記式(IV)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、
、及びRは、前記式(II)におけるものと同義であり、
は、前記式(III)におけるものと同義である。)
で示される光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を分離することを特徴とする、光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より重要度の高い光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体をほぼ理論量のエステル化剤を用い、化学的手法で容易に分割することができる。そのため、本発明の方法は、工業的利用価値が非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、前記式(I)で示される光学活性オキサゾリン誘導体、銅塩、及び塩基の存在下、前記式(II)で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体と前記式(III)で示されるカルボン酸ハライド化合物を反応させ、前記式(IV)で示されるβ−アシルオキシリン酸エステル誘導体を製造するものである。以下、順を追って説明する。
【0020】
(光学活性オキサゾリン誘導体)
本発明で使用する光学活性オキサゾリン誘導体は、下記式(I)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、
は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、又はベンジル基である。)で示される化合物である。
【0023】
本発明において、前記式(I)で示される光学活性オキサゾリン誘導体は、得られる光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体の構造を決定する上で非常に重要な物質である。下記に詳述するが、R体の光学活性オキサゾリン誘導体を使用することにより、(R)−β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を製造することができる。一方、S体の光学活性オキサゾリン誘導体を使用することにより、(S)−β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を製造することができる。
【0024】
前記式(I)中のRは、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、又はベンジル基である。
【0025】
ここで炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
【0026】
炭素数6〜8のアリール基としては、フェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基等が挙げられる。
【0027】
ベンジル基としては、ベンジル基等が挙げられる。
【0028】
これら基を有する前記式(I)で示される光学活性オキサゾリン誘導体は、試薬として入手できる光学活性オキサゾリン誘導体が何ら制限なく使用できる。この光学活性オキサゾリン誘導体を具体的に例示すると、2,2’−イソプロピリデンビス[(4R)−4−フェニル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4R)−4−メチル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4R)−4−イソプロピル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4R)−4−tert−ブチル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4S)−4−フェニル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4S)−4−メチル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4S)−4−イソプロピル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4S)−4−tert−ブチル−2−オキサゾリン]等を挙げることができる。
【0029】
これらの中でも特に、銅錯体とした際に高い選択性を発現する2,2’−イソプロピリデンビス[(4R)−4−フェニル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4R)−4−tert−ブチル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4S)−4−フェニル−2−オキサゾリン]、2,2’−イソプロピリデンビス[(4S)−4−tert−ブチル−2−オキサゾリン]等が特に好適である。
【0030】
本発明で使用される前記式(I)で示される光学活性オキサゾリン誘導体の使用量としては、触媒として使用するため、下記に詳述する前記式(II)で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体1モルに対して0.001〜0.5モル、好ましくは0.005〜0.1モルの範囲から選択すればよい。
【0031】
(銅塩)
本発明で使用する銅塩としては、前記式(I)で示される光学活性オキサゾリン誘導体と錯体を形成するものであり、二価の銅塩であれば試薬として入手できるものを特に制限なく使用できる。それらを具体的に例示すると、臭化銅、塩化銅、フッ化銅、水酸化銅、燐酸銅、酢酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅、銅メトキサイド、銅エトキシド、銅イソプロポキサイド、エチルアセト酢酸銅、2−エチルヘキサン酸銅、グルコン酸銅、ヘキサフルオロアセチルアセトナート銅、イソ酪酸銅、フタル酸銅、トリフオロアセチルアセトナート銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅等を挙げることができる。これらの銅塩の中でも特に、前記式(I)で示される光学活性オキサゾリンと、容易に錯体を形成し、高い光学分割を示す、臭化銅、塩化銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅等が好適に使用される。
【0032】
銅塩の使用量としては特に制限はないが、銅塩は前記式(I)で示される光学活性オキサゾリンと反応して錯体を形成するため、前記式(I)で示される光学活性オキサゾリンの使用量に対して等モル量使用することが好ましい。
【0033】
(塩基)
本発明に使用する塩基は、β−ヒドロキシリン酸エステル誘導体とカルボン酸ハライド化合物との反応で発生する塩化水素の捕捉剤として作用するばかりでなく、触媒としての作用も期待される。該塩基としては、通常試薬として入手可能な塩基類が何ら制限なく使用できる。これら塩基類を具体的に例示すると、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、 N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルプロパンジアミン等の脂肪族三級アミン化合物、ピリジン、N,N−ジメチルベンジルアミン、4−N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール、N−エチルイミダゾール等の芳香族三級アミン化合物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等の無機炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の水酸化物を挙げることができる。これらの中でも、高い選択性と収率を与えるという理由から、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等の無機炭酸塩を使用するのが特に好適である。
【0034】
本発明で使用する塩基の量は、特に制限されるものではないが、あまり量が多いと後処理工程が煩雑となる上に、生成物の分解反応に寄与する可能性が高くなり、あまり量が少ないと反応の転化率が低くなるため、通常、前記式(II)で示されるラセミ体のβ―ヒドロキシリン酸エステル誘導体1モルに対して0.5〜5モル、特に0.5〜4モルの範囲から選択するのが好適である。
【0035】
(ラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体)
本発明においては、上記式(I)で示される光学活性オキサゾリン誘導体、銅塩、及び塩基の存在下、下記式(II)
【0036】
【化6】

【0037】
(式中、
は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、ヘテロ原子を含む基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数8〜10のフェニルアルケニル基、炭素数3〜4のアルキニル基、炭素数9〜10のフェニルアルキニル基、炭素数6〜8のアリール基、炭素数6〜8のニトロアリール基、炭素数6〜8のハロゲノアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、アリル基、又は芳香族複素環基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、又はベンジル基である。)
で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体とカルボン酸ハライド化合物とを反応させる。次に、前記式(II)で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体について説明する。
【0038】
前記式(II)中のRは、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、ヘテロ原子を含む基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数8〜10のフェニルアルケニル基、炭素数3〜4のアルキニル基、炭素数9〜10のフェニルアルキニル基、炭素数6〜8のアリール基、炭素数6〜8のニトロアリール基、炭素数6〜8のハロゲノアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、アリル基、又は芳香族複素環基である。
【0039】
ここで炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等を挙げることができる。また、このアルキル基は、シクロアルキル基であってもよく、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0040】
炭素数1〜10のハロゲノアルキル基とは、炭素数1〜10のアルキル基の1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換された基を指す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。炭素数1〜10のハロゲノアルキル基を具体的に例示すると、クロロメチル基、2−クロロエチル基等が挙げられる。
【0041】
ヘテロ原子を含む基で置換された炭素数1〜10のアルキル基とは、アルキル基の1つ以上の水素原子が、酸素原子、または窒素原子のヘテロ原子を含む基で置換され、該ヘテロ原子とアルキル基の炭素原子が結合している基であり、炭素数(総炭素数)が1〜10の基を指す。ヘテロ原子を含む基は、酸素原子、または窒素原子を1種類以上含む基であればよく、カルバモイル基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基等が挙げられる。ヘテロ原子を含む基で置換された炭素数1〜10のアルキル基を具体的に例示すれば、2−tert−ブチルオキシカルボニルアミノエチル基、2−ベンジルオキシカルボニルアミノエチル基、フェニルオキシエチル基、ベンジルオキシエチル基、2−tert−ブチルオキシカルボニルアミノプロピル基、2−ベンジルオキシカルボニルアミノプロピル基、フェニルオキシプロピル基またはベンジルオキシプロピル基が挙げられる。
【0042】
炭素数2〜4のアルケニル基としては、エテニル基、1−E−プロペニル基、1−Z−プロペニル基、2−E−プロペニル基、2−Z−プロペニル基、2−E−ブテニル基、2−Z−ブテニル基を挙げることができる。また、アルケニル基の水素原子がフェニル基で置換された炭素数8〜10のフェニルアルケニル基であってもよく、具体的には、3−フェニル−2−E−プロペニル基、3−フェニル−2−Z−プロペニル基等を挙げることができる。
【0043】
炭素数3〜4のアルキニル基としては、2−プロピニル基、2−ブテニル基を挙げることができる。また、アルキニル基の水素原子がフェニル基で置換された炭素数9〜10のフェニルアルキニル基でもよく、具体的には、3−フェニル−2−プロピニル基等を挙げることができる。
【0044】
炭素数6〜8のアリール基としては、フェニル基、4−メチルフェニル基、または4−エチルフェニル基を挙げることができる。また、アリール基の1つ以上の水素原子がニトロ基で置換された炭素数6〜8のニトロアリール基であってもよい。さらには、アリール基の1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数6〜8のハロゲノアリール基であってもよい。具体的には、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、4−ニトロフェニル基等を挙げることができる。
【0045】
炭素数7〜10のアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等を挙げることができる。
【0046】
芳香族複素環基としては、フリル基、チオフェリル基、ピリジル基等を挙げることができる。
【0047】
また、前記式(II)中のRは、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、又はベンジル基である。ここで炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等を挙げることができる。炭素数6〜8のアリール基としては、フェニル基、または4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基を挙げることができる。ベンジル基としては、ベンジル基等が挙げられる。
【0048】
本発明で使用する前記式(II)で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体を具体的に例示すると、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシプロピルリン酸ジメチル、2−ヒドロキプロピルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシプロピルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシプロピルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシプロピルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシブチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシブチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシブチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシブチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシブチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−3−メチルブチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−3−メチルブチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−3−メチルブチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシペンチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシペンチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシペンチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシペンチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシペンチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシヘキシルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシヘキシルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシヘキシルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシヘキシルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシヘキシルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4−メチルペンチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4−メチルペンチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4−メチルペンチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4−メチルペンチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−4−メチルペンチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4,4−ジメチルペンチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4,4−ジメチルペンチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4,4−ジメチルペンチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4,4−ジメチルペンチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−4,4−ジメチルペンチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシへプチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシヘプチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシヘプチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシヘプチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシヘプチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシオクチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシオクチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシオクチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシオクチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシオクチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシノニルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシノニルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシノニルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシノニルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシノニルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシデシルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシデシルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシデシルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシデシルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシデシルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−3−E−プロペニルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−3−E−プロペニルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−3−E−プロペニルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−3−E−プロペニルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−3−E−プロペニルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−シクロペンチルエチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−シクロペンチルエチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−シクロペンチルエチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−シクロペンチルエチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−2−シクロペンチルエチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルエチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルエチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルエチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルエチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルエチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−(4−メチルフェニル)エチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−(4−メチルフェニル)エチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−(4−メチルフェニル)エチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−(4−メチルフェニル)エチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−2−(4−メチルフェニル)エチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−E−ブテニルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−E−ブテニルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−E−ブテニルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−E−ブテニルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−E−ブテニルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−ブチリルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−ブチリルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−ブチリルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−ブチリルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−ブチリルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシブチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシブチリルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシブチリルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシブチリルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシブチリルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−(2−フリル)エチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−(2−フリル)エチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−(2−フリル)エチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−(2−フリル)エチルリン酸ジフェニル、2−ヒドロキシ−2−(2−フリル)エチルリン酸ジベンジル等を挙げることができる。
【0049】
これらのβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体の中でも、特に好適に使用されるβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体を具体的に例示すると、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシプロピルリン酸ジメチル、2−ヒドロキプロピルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシプロピルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシプロピルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシブチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシブチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシブチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシブチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−3−メチルブチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−3−メチルブチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシペンチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシペンチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシペンチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシペンチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシヘキシルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシヘキシルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシヘキシルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシヘキシルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4−メチルペンチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4−メチルペンチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4−メチルペンチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4−メチルペンチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4,4−ジメチルペンチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4,4−ジメチルペンチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4,4−ジメチルペンチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4,4−ジメチルペンチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−3−E−プロペニルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−3−E−プロペニルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−3−E−プロペニルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−3−E−プロペニルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−シクロペンチルエチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−シクロペンチルエチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−シクロペンチルエチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−シクロペンチルエチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルエチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルエチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルエチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルエチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−(4−メチルフェニル)エチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−(4−メチルフェニル)エチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−(4−メチルフェニル)エチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−(4−メチルフェニル)エチルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−E−ブテニルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−E−ブテニルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−E−ブテニルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−E−ブテニルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−ブチリルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−ブチリルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−ブチリルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4−フェニル−3−ブチリルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシブチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシブチリルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシブチリルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシブチリルリン酸ジベンジル、2−ヒドロキシ−2−(2−フリル)エチルリン酸ジメチル、2−ヒドロキシ−2−(2−フリル)エチルリン酸ジエチル、2−ヒドロキシ−2−(2−フリル)エチルリン酸ジイソプロピル、2−ヒドロキシ−2−(2−フリル)エチルリン酸ジベンジル等のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体が、高選択に分割できるため有効である。
【0050】
これらβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体の幾つかは試薬あるいは工業原料として入手可能である。また、入手できない場合には、β−ヒドロキシリン酸エステル誘導体の前駆体である下記式(V)
【0051】
【化7】

【0052】
(但し、Rは、前記式(II)におけるものと同義である。)
で示されるアルデヒド化合物と下記式(VI)
【0053】
【化8】

【0054】
(式中、Rは、前記式(II)におけるものと同義である。)
で示されるリン酸エステル化合物をカップリングさせることで容易に製造することが可能である。
【0055】
アルデヒド化合物とリン酸エステル化合物のカップリング方法としては、種々の方法が知られているため、特に限定されるものではない。カップリング方法の一例を例示すると、テトラヒドロフランのような有機溶媒中、n−ブチルリチウムのような強塩基存在下、アルデヒド化合物とリン酸エステル化合物を反応させる方法を挙げることができる。このような方法によって製造されたラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体が、カルボン酸ハライド化合物との反応に供される。
【0056】
(カルボン酸ハライド化合物)
本発明において、前記式(II)で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体と反応させるカルボン酸ハライド化合物は、該β−ヒドロキシリン酸エステル誘導体の一方の異性体のみの水酸基を選択的に保護し、光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を生成させるものである。
【0057】
前記カルボン酸ハライド化合物は、下記式(III)
【0058】
【化9】

【0059】
(式中、
は、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のハロゲノアリール基、炭素数6〜10のニトロアリール基、又は炭素数7〜10のアルコキシアリール基であり、
Xは、ハロゲン原子である。)
で示される化合物である。
【0060】
炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、イソブチルフェニル基、tert−ブチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基を挙げることができる。
【0061】
また、アリール基の1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数6〜10のハロゲノアリール基であってもよく、また、アリール基の1つ以上の水素原子がニトロ基で置換された炭素数6〜10のニトロアリール基であってもよい。具体的には、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4−ニトロフェニル基、6−クロロ−2−ナフチル基、6−ニトロ−2−ナフチル基等が挙げられる。さらに、アリール基の1つ以上の水素原子がアルコキシ基で置換された炭素数7〜10のアルコキシアリール基であってもよく、具体的には、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−n−プロポキシフェニル基、4−n−ブトキシフェニル基等が挙げられる。
【0062】
Xは、ハロゲン原子であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。
【0063】
本発明で使用されるカルボン酸ハライド化合物としては、通常、試薬として入手可能なカルボン酸ハライド化合物が何等制限なく使用できる。これらカルボン酸ハライド化合物を具体的に例示すると、ベンゾイルクロライド、2−メチルベンゾイルクロライド、3−メチルベンゾイルクロライド、4−メチルベンゾイルクロライド、2,4,6−トリメチルベンゾイルクロライド、2−メトキシベンゾイルクロライド、4−メトキシベンゾイルクロライド、2,6−ジメトキシベンゾイルクロライド、3,4,5−トリメトキシベンゾイルクロライド、2−フルオロベンゾイルクロライド、3−フルオロベンゾルクロライド、4−フルオロベンゾイルクロライド、2,6−ジフルオロベンゾイルクロライド、ペンタフルオロベンゾイルクロライド、2−クロロベンゾイルクロライド、3−クロロベンゾイルクロライド、4−クロロベンゾイルクロライド、2−ブロモベンゾイルクロライド、3−ブロモベンゾイルクロライド、4−ブロモベンゾイルクロライド、3−ニトロベンゾイルクロライド、4−tert−ブチルベンゾイルクロライド、1−ナフトイルクロライド、2−ナフトイルクロライド等の芳香族カルボン酸ハライド化合物が挙げられる。これらのスルホン酸ハライドの中でも、ベンゾイルクロライド、2−メチルベンゾイルクロライド、2−メトキシベンゾイルクロライド、2−フルオロベンゾイルクロライド、2−クロロベンゾイルクロライド、2−ブロモベンゾイルクロライド、2−ナフトイルクロライド等の芳香族カルボン酸ハライド化合物が高選択的分割への寄与が大きいため特に有効である。
【0064】
上記カルボン酸ハライド化合物は、前記式(II)で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体の一方の異性体のみの水酸基を選択的に保護するために使用する。そのため、前記カルボン酸ハライド化合物の使用量は、該β−ヒドロキシリン酸エステル誘導体1モルに対して0.4モル〜0.6モルであることが好ましい。上記の通り、カルボン酸ハライド化合物の使用量は、該β―ヒドロキシリン酸エステル誘導体1モルに対して0.5モルが理論当量となるため、未反応物、反応効率、及びカルボン酸ハライド化合物の過剰使用を避けるという観点から、特に、この量(0.5モル)であることが好ましい。
【0065】
(カルボニル化の反応、精製)
本発明は、前記式(I)で示される光学活性オキサゾリン誘導体、銅塩、及び塩基の存在下、前記式(II)で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体と前記式(III)で示されるカルボン酸ハライド化合物を反応させるが、この反応(以下、この反応を単に、アシル化反応とする場合もある)は、有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0066】
本発明において、アシル化反応に使用する有機溶媒は、前記式(II)で示されるβ―ヒドロキシリン酸エステル誘導体、及びカルボン酸ハライド化合物等に対して不活性な溶媒であれば何等制限なく使用できる。これらの有機溶媒を具体的に例示すれば、テトラハイドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルカーボネート等のカーボネート類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、へキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類等を挙げることができる。
【0067】
これらの有機溶媒の中でも特に、高い収率と反応速度が期待できるという理由から、テトラハイドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、塩化メチレン、クロロホルムのハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等の芳香族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類等を使用するのが特に好適である。
【0068】
本発明で使用する有機溶媒の量は、特に制限されるものではないが、あまり量が多いとバッチあたりの収量が減少するため経済的ではなく、あまり量が少ないと攪拌等に支障をきたす。そのため、通常、反応溶媒中の前記式(II)で示されるβ―ヒドロキリン酸エステル誘導体の濃度が0.1〜70質量%、さらには1〜60質量%となるような量を使用するのが好ましい。
【0069】
本発明において、光学活性オキサゾリン誘導体、銅塩、塩基、β−ヒドロキシリン酸エステル、及びカルボン酸ハライド化合物の添加順序は、特に制限されるものではないが、銅錯体を形成させた後に、β−ヒドロキシリン酸エステルおよびカルボン酸ハライド化合物を添加するのが一般的である。例えば、反応器にβ―ヒドロキシリン酸エステル誘導体、光学活性オキサゾリン誘導体、銅塩、塩基及び有機溶媒を仕込み、攪拌しながらカルボン酸ハライド化合物を添加する方法を採用することができる。また、反応器に光学活性オキサゾリン誘導体、銅塩、及び有機溶媒を仕込み、撹拌しながら、塩基、β―ヒドロキシリン酸エステル誘導体、及びカルボン酸ハライド化合物を同時に添加する方法も採用することができる。
【0070】
このとき、反応温度としては、使用するβ―ヒドロキシリン酸エステル誘導体、塩基及びカルボン酸ハライド化合物等の種類によって異なるため、一義的に限定できないが、あまり温度が低いと反応速度が著しく遅くなり、あまり温度が高いと副反応を助長するため、通常、−50〜20℃、好ましくは、−30〜10℃の範囲であることが好ましい。また、反応時間としては特に制限はないが、0.1〜50時間もあれば十分である。
【0071】
本発明において、カルボニル化反応は、常圧、減圧、加圧のいずれの状態でも実施可能である。また、該反応は、空気中で実施してもよいし、或は窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体雰囲気下で実施してもよい。
【0072】
上記カルボニル化反応によって、下記式(IV)
【0073】
【化10】

【0074】
(式中、
、及びRは、前記式(II)におけるものと同義であり、Rは、前記式(III)におけるものと同義である。)
で示される光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を製造できる。本発明において、前記式(IV)で示される光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体の構造は、使用する光学活性オキサゾリン誘導体の構造によって決定される。即ち、光学活性オキサゾリン誘導体としてR体の化合物を用いた場合は、本発明で使用するβ―ヒドロキシリン酸エステル誘導体においてR体が選択的にアシル化され、(R)−β−アシルオキシリン酸エステル誘導体と(S)−β―ヒドロキシリン酸エステル誘導体を含む反応物が生成する。他方、光学活性オキサゾリン誘導体としてS体を用いた場合には、β―ヒドロキシリン酸エステル誘導体においてS体が選択的にアシル化され、(S)−β−アシルオキシリン酸エステル誘導体と(R)−β−ヒドロキシリン酸エステル誘導体を含む反応物が生成する。
【0075】
次に、本発明においては、このようにして得られた反応物から目的とする光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を分離する。つまり、上記の光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体とβ―ヒドロキシリン酸エステル誘導体の反応物(混合物)から、公知の単離精製方法によって、目的とする光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を分離する。具体的な単離精製方法を例示すれば以下の方法を挙げることができる。先ず、反応終了後の反応液を水に投入する。次いで、塩化メチレンで抽出し、得られた有機溶媒を硫酸マグネシウム等の乾燥剤で乾燥した後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーによって分離し、目的とする光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を分離精製することができる。
【0076】
なお、酢酸エチル等で抽出する方法により単離精製を行った場合、未反応のもう一方の異性体である光学活性β−ヒドロキシリン酸エステル誘導体も有機相に抽出されている。そのため、シリカゲルクロマトグラフィーによる分離操作をさらに続けることによって、光学活性β−ヒドロキシリン酸エステル誘導体も分離精製することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等制限されるものではない。
【0078】
実施例1
10mlの茄子型フラスコに、2,2’−イソプロピリデンビス[(4R)−4−フェニル−2−オキサゾリン]8.4mg(0.025mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銅9.0mg(0.025mmol)、ジクロロメタン3mlを加え、大気雰囲気下で10分攪拌した。その後、この反応液に、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジメチル115.0mg(0.5mmol)、2−フルオロベンゾイルクロライド29.8μl(0.25mmol)、炭酸カリウム69.0mg(0.5mmol)を加えた。0℃で20時間反応させた後、反応液を10mlの水に投入し、塩化メチレンで抽出(20ml×3)を行った。抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を留去、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開液 n−ヘキサン:酢酸エチル=1:4)を用いて分離精製したところ、2−(2−フルオロベンゾイル)オキシ−2−フェニルエチルリン酸ジメチルの白色固体を56.2mg(収率32%)を得た。
【0079】
また、高速液体クロマトグラフィーを用いて光学純度を測定したところ(カラム ダイセル化学工業製キラルセルOD−H、展開液 n−ヘキサン:イソプロピルアルコール=30:1 測定波長254nm)、光学純度は80%eeであり、絶対配置はRであった。
【0080】
実施例2〜3
実施例1で用いた、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジエチルの代わりに、表1のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
実施例4〜8
実施例1で用いた溶媒および塩基の組み合わせの代わりに、表2の溶媒と塩基を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
実施例9〜18
実施例1で用いた、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチルリン酸ジエチルの代わりに、表3のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
実施例19〜23
実施例1で用いた、2,2’−イソプロピリデンビス[(4R)−4−フェニル−2−オキサゾリン]の代わりに、2,2’−イソプロピリデンビス[(4S)−4−フェニル−2−オキサゾリン]を用い、表4に用いたβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表4に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
実施例24〜26
実施例1で用いた2−フルオロベンゾイルクロライドの代わりに、表5に用いたカルボン酸ハライドを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表5に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
比較例1
トリフルオロメタンスルホン酸銅を用いず実施例1と同様の操作を行った。その結果、生成物である2−(2−フルオロベンゾイル)オキシ−2−フェニルエチルリン酸ジエチルの収率は、わずかに10%にすぎず、生成物もラセミ体であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

(式中、
は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、又はベンジル基である。)
で示される光学活性オキサゾリン誘導体、銅塩、及び塩基の存在下、下記式(II)
【化2】

(式中、
は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲノアルキル基、ヘテロ原子を含む基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数8〜10のフェニルアルケニル基、炭素数3〜4のアルキニル基、炭素数9〜10のフェニルアルキニル基、炭素数6〜8のアリール基、炭素数6〜8のニトロアリール基、炭素数6〜8のハロゲノアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、アリル基、又は芳香族複素環基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、又はベンジル基である。)
で示されるラセミ体のβ−ヒドロキシリン酸エステル誘導体と、下記式(III)
【化3】

(式中、
は、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のハロゲノアリール基、炭素数6〜10のニトロアリール基、又は炭素数7〜10のアルコキシアリール基であり、
Xは、ハロゲン原子である。)
で示されるカルボン酸ハライド化合物を反応させ、得られた反応物から下記式(IV)
【化4】

(式中、
、及びRは、前記式(II)におけるものと同義であり、
は、前記式(III)におけるものと同義である。)
で示される光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体を分離することを特徴とする、光学活性β−アシルオキシリン酸エステル誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2011−111427(P2011−111427A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271049(P2009−271049)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】